燃料電池システム
【課題】簡易な構成で、長時間安定して高い発電効率と燃料利用効率にて運転可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システム1は、積層された複数のセルを有する発電部5と、複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視するセル電圧監視部8と、発電部5から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部7と、負荷調整部7により負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に上記出力電圧が最小値となった時点から最大値となるまでの時間を測定し、この時間の温度に対する依存性を表す情報に基づいてセルの温度を推算する制御部9とを備える。
【解決手段】燃料電池システム1は、積層された複数のセルを有する発電部5と、複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視するセル電圧監視部8と、発電部5から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部7と、負荷調整部7により負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に上記出力電圧が最小値となった時点から最大値となるまでの時間を測定し、この時間の温度に対する依存性を表す情報に基づいてセルの温度を推算する制御部9とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体を燃料とする固体高分子型燃料電池を制御する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、プロトン交換膜燃料電池とも称呼されることもあるプロトン伝導性を有する高分子膜を電解質として用いる燃料電池として知られている。固体高分子型燃料電池(PEFC)の中に、直接メタノール型燃料電池(DMFC)がある。このDMFCは、気化器或いは加湿器のような補機が不要である点、メタノールが水素のような気体燃料と比べて取扱いやすい点、低温での運転が可能である点、等から携帯用機器の小型電源として開発が進められている。
【0003】
DMFCの出力効率は電解質膜や触媒の組成、セルの流路構成など、さまざまな要因に影響される。同じ電解質膜や触媒の組成、セルの流路構成において、DMFCの出力効率は燃料の濃度および運転温度に大きく支配されることが知られている。
【0004】
そこで、燃料濃度の計測・制御方法に関しては、高価な外付け濃度センサを用いず、燃料濃度を計測・制御する手法が既に提案されている(特許文献1−5、非特許献1,2を参照。)。しかしながら、これらの測定方法はいずれも、運転温度が既知または一定の前提条件において、燃料濃度の測定が行われている測定方法であった。
【0005】
また、DMFCの運転温度を把握するために、従来では、熱電対を用いて、DMFCの複数枚積層された発電部の運転温度を計測する手法(特許文献6,7を参照。)、または、サーミスタを用いて、DMFCに供給または再循環される燃料の温度を計測する手法(特許文献4,6を参照。)が提案されている。その他にも、金属測温抵抗体(非特許文献3を参照。)、IC温度センサ、磁気温度センサ、サーモパイル、または焦点型温度センサなどを用いた測定方法(特許文献8を参照。)も提案されている。
【0006】
これらの温度測定方法はいずれも温度計測システムをDMFCシステムに組み込む必要があり、DMFCシステムの小型化および低価格化において大きな障害となっている。特に、発電部の内の温度分布を把握する場合、複数個の熱電対を発電部に分散・設置しなければならないため、付加装置が非常に大きくなる。ノートパソコンのような小型携帯機器にDMFCを組み込んで使用する場合、温度センサとして、熱電対の使用は好ましくない。また、サーミスタを用いる場合、発電部全体の温度情報しか得ることができず、発電部の各セルの温度分布情報を把握することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−165148号公報
【特許文献2】特開2005−285628号公報
【特許文献3】米国特許第6824899号
【特許文献4】米国特許第6698278 B2号
【特許文献5】特開2007−227336号公報
【特許文献6】特開2006−202611号公報
【特許文献7】特開2005−93282号公報
【特許文献8】特開2004−171813号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C. Y. Chen, et al., J. Power Sources, 167(2007)442-449.
【非特許文献2】T. J. Ha, et al., International Journal of Hydrogen Energy, 33(23), (2008)7163-7171.
【非特許文献3】C.Y. Lee, et al., Jnp. J. Appl. Phys. Vol. 46, No.10A (2007)6911-6914.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来手法では、DMFCの運転温度を計測するために、各種温度センサを付加する必要があったため、装置の小型化の障害となっていた。また、DMFCの運転温度と燃料濃度とが同時に変化する状態では、センサレスで運転温度と燃料濃度とを同時に計測することができなかった。このため、DMFCシステムの発電効率及び発電量を高めることが困難であった。
【0010】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、簡易な構成で、長時間安定して高い発電効率と燃料利用効率にて運転可能な燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様は、積層された複数のセルを有する発電部と、前記複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視する電圧監視部と、前記発電部から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部と、前記負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に前記出力電圧が最小値となった時点から最大値となるまでの時間を測定する測定部と、前記時間の温度に対する依存性を表す情報に基づいて前記セルの温度を推算する推算部とを具備する燃料電池システムを提供する。
【0012】
また、この発明の他の態様は、積層された複数のセルを有する発電部と、前記セルに燃料を供給する、燃料供給量が調整可能な燃料供給部と、前記複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視する電圧監視部と、前記発電部から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部と、前記負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に前記出力電圧が第1の出力応値となった時点から第2の出力応値となるまでの時間と、前記第1又は第2の出力応値に関する電圧値とを測定する測定部と、前記時間及び前記電圧値の燃料濃度及び温度に対する依存性を表す情報に基づいて、前記セルへ供給される燃料濃度及び前記セルの温度を推算する推算部とを具備する燃料電池システムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
したがってこの発明によれば、簡易な構成で、長時間安定して高い発電効率と燃料利用効率にて運転可能な燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る燃料電池システムの構成例を示す図。
【図2】図1の発電部の構成の詳細を示す図。
【図3】負荷変動によるセル電圧の応答特性を示す図。
【図4】時間評価値の温度依存性を表すグラフ。
【図5】温度制御手法を示す図。
【図6】温度制御処理の手順を示すフローチャート。
【図7】負荷制御処理の手順を示すフローチャート。
【図8】出力密度と負荷電流密度との関係を示すグラフ。
【図9】実施例1−1におけるセル電圧の応答特性の評価結果を示すグラフ。
【図10】図9のグラフから得られた時間評価値と温度とを示す図。
【図11】負荷電流の印加時間による電圧の時間的変化を示す図。
【図12】時間評価値と負荷電流の印加時間との関係を示す図。
【図13】負荷変動によるセル電圧の応答特性を示す図。
【図14】時間評価値及び電圧評価値の燃料濃度及び温度に対する依存性を示すグラフ。
【図15】図14のグラフを変換した図。
【図16】図14において時間評価値に第2の負荷の印加時間を加えた図。
【図17】図15において時間評価値に第2の負荷の印加時間を加えた図。
【図18】時間評価値及び電圧評価値の燃料濃度及び温度に対する依存性を三次元で示したグラフ。
【図19】電流電圧曲線の温度依存性を示す図。
【図20】第2の負荷を物質拡散律速領域に設定した場合のセル電圧の応答特性を示す図。
【図21】図20の場合の時間評価値及び電圧評価値(Emin)の燃料濃度及び温度に対する依存性を示すグラフ。
【図22】図20の場合の時間評価値及び電圧評価値(Emax)の燃料濃度及び温度に対する依存性を示すグラフ。
【図23】図20の場合の時間評価値及び電圧評価値(ΔE)の燃料濃度及び温度に対する依存性を示すグラフ。
【図24】実施例2−1の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図25】実施例2−1の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図26】実施例2−1の時間評価値と電圧評価値との交点から求められた燃料濃度と温度とを示すグラフ。
【図27】実施例2−2の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図28】実施例2−2の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図29】実施例2−2の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図30】実施例2−2の時間評価値と電圧評価値との交点から求められた燃料濃度と温度とを示すグラフ。
【図31】燃料濃度制御処理の手順を示すフローチャート。
【図32】温度制御処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態は、負荷変動によるセル電圧の応答特性から時間評価値を測定し、この時間評価値から発電セルの温度を求める手法である。
【0016】
図1は、第1の実施形態に係る燃料電池システム1の構成例を示している。燃料電池システム1は、図2に示すようなセル積層構造50を有する発電部5と、高濃度メタノール、あるいはメタノール燃料と少量の水の混合溶液(メタノール水溶液)等の液体燃料を貯蔵する燃料タンク3と、発電部5における発電をサポートする補器類2と、発電部5で発電した電力を負荷電力11に送るにあたり、外部電源(例えばリチウムイオンバッテリー)と発電部5から取り出す電力を制御する電力調整部10とを備える。
【0017】
補器類2は、燃料タンク3から液体燃料を発電部5に供給する燃料供給部4と、空気を発電部5に供給する空気供給部6と、発電部5から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部7と、セル積層構造50の各セルの出力電圧を監視するセル電圧監視部8と、冷却器及び加熱器の少なくとも一方を有し、冷却器または加熱器によりセル積層構造50の温度を調整する温度調整部13と、補器類2内の各部を制御するための制御部9とを備える。
【0018】
制御部9は、上記補器類2の各部の状態を検知する検知処理部9aと、検知された情報に応じて各部を制御する為の制御情報が予め格納されたデータベース9bとを備える。制御部9は、発電部5及び補器類2の各部から必要な情報を検知し、検知した情報の処理または演算を行う。さらに、制御部9はこの処理または演算の結果に応じて、燃料供給部4、発電部5、負荷調整部7、温度調整部13、及び空気供給部6に制御信号を与える。後に説明するように、データベース9bは、セルから測定される値に基づき、補器類2の各部をどのように制御するかについて予め記述した各種データベースを含んでいる。
【0019】
発電部5は、負荷調整部7および電力調整部10を介して負荷電力11に接続される。負荷電力11は、例えば、この燃料電池システム1で発生される電力で駆動される電子機器に相当する。電力調整部10は、発電部5で発生される電力を負荷電力11に供給している。電力の調整は、負荷調整部7により負荷電流の調整で行われる。電力調整部10は、負荷電力11で必要な電力に対し、発電部5で発電される電力が不足する場合、図には記載していないが、外部電源(例えば二次電池やコンデンサ)などから不足分の電力を補う。電力調整部10は、発電部5で発生される電力の負荷電力11への供給をオン或いはオフするスイッチング回路を含んでいる。電力調整部10は、オン状態で、負荷電力11に接続され閉回路状態となり、オフ状態で負荷電力11から切断されてその出力側が開回路状態となるように構成されている。
【0020】
発電部5と補器類2との間は、流体配管系で接続されている。この流体配管系においては、燃料タンク3と燃料供給部4とは、燃料供給ラインL1で接続される。燃料供給部4と発電部5とは、燃料供給ラインL2で接続されている。燃料タンク3内の燃料は、燃料供給部4での調整により発電部5のアノード極に供給される。また、空気供給部6と発電部5とは空気供給ラインL3で接続され、空気供給部6での調整により発電部5のカソード極に空気が送り込まれる。
【0021】
なお、上記図1に示すシステムでは、燃料タンク3内の燃料が発電部5に直接供給される方式となっているが、この方式に限らず、燃料タンク3内の燃料を、希釈した燃料を蓄える混合タンク内に供給し、発電部5での発電で残った燃料と混合させる方式にしても良い。また、空気供給部6に例えばファンを用いた場合、流体配管L3は空気導入経路とすることができる。また、ブリージング方式の場合、空気供給部6は不要となる。
【0022】
発電部5と補器類2との間は、信号及び電流配線系で接続されている。制御部9は、信号ラインE1を介して燃料供給部4に接続される。発電部5と制御部9とは、信号ラインE2で接続される。負荷調整部7と制御部9とは信号ラインE3で接続される。セル電圧監視部8と制御部9とは、信号ラインE4で接続されている。空気供給部6と制御部9とは、信号ラインE5で接続されている。
【0023】
燃料供給部4から発電部5に供給される液体燃料の流量が計測される。この計測された流量を表す燃料流量情報が信号ラインE1を介して制御部9に送られる。制御部9からは、供給流量を定める供給量制御信号が信号ラインE1を介して燃料供給部4に送られる。この供給量制御信号に従って燃料供給部4から燃料が発電部5に供給される。ここで、各セル51に供給される燃料は、各セル51に流入する燃料の流路に燃料流量調整バルブ(図示せず)が設けられ、セル51毎に調整されても良い。
【0024】
また、温度調整部13と制御部9とは信号ラインE7で接続される。制御部9からは、温度調整部13に対して、冷却器の冷却の風量および冷媒の流速や、加熱器(ヒーター)のON、OFFなどの指示を表す温度制御信号が信号ラインE7を介して送出される。この制御部9からの温度制御信号に従って発電部5の温度が調整される。なお、温度調整部13は、セル積層構造50の全体温度または局部の温度(各セルの温度)についても、冷却器や加熱器の全体または一部に指示を行うことにより制御することができる。
【0025】
また、発電部5内のセル積層構造50で発生され、出力されるスタック電圧(各セル全体の電圧)を表す情報は、電圧情報として信号ラインE2を介して制御部9に送られる。電力調整部10はラインE6を介して負荷調整部7に接続されている。負荷調整部7は、信号ラインE3を介して発電部5に負荷を与える。この負荷調整部7で検出された負荷電流の値は、負荷電流情報として信号ラインE3を介して制御部9に送られる。また、制御部9で設定された負荷制御信号は、信号ラインE3を介して制御部9から負荷調整部7に与えられる。負荷調整部7は、この負荷制御信号に従って、設定負荷に相当する負荷を発電部5に接続し、この設定負荷に流れる負荷電流が検出されて負荷電流情報として制御部9に送られる。
なお、負荷調整部7に電力調整部10の役割を持たせることで、電力調整部10を省略させることも可能である。この場合、負荷電力11は負荷調整部7に接続される。
【0026】
セル電圧監視部8は、予め定められた少なくとも1つのセルで発生される電圧を検出するセル電圧検出回路(図示せず)を含み、信号ラインE4を介して発電部5内のセル積層構造50の上記セルにそれぞれ接続される。各セルで発生される電圧がセル電圧検出回路で計測され、計測されたセル電圧値が電圧情報として制御部9に送られる。ここでは、予め定められたセルとは、セル積層構造50に含まれる各セル51の全てとするが、この他にも、セル積層構造50のうち複数枚のセル51だけを選択し、それらの合算電圧とすることもできる。また、特定のセル51だけを選択して予め定められたセルとすることもできる。例えば、セル積層構造50が多数のセル51を有する場合、セル電圧監視部8は全てのセル51のそれぞれの電圧を検出するのではなく、隣接する2〜3枚のセル51を選択し、これらの合算電圧を予め定められたセルにおける電圧とすることができる。
【0027】
発電部5は、図2(a)及び2(b)に示されるようなセル積層構造50を備えている。図2(a)に示すように、セル積層構造50は、アノード集電板12とカソード集電板14との間に積層された複数のセル51を備え、各セル51がアノード集電板12及びカソード集電板14に電気的に直列に接続されている。アノード集電板12とカソード集電板14との間に積層されたセル51は、一対の締め付け板18A、18B間に配置され、この締め付け板18A、18B間に固定具19A、19Bによって締め付け固定されている。アノード集電板12及びカソード集電板14は、それぞれ負荷調整部7に接続され、セル積層構造50で生成された電流がカソード集電板14で収集されて負荷調整部7に供給される。
【0028】
また、セル51は、図2(b)に示されるように膜電極接合体(MEAと称する。)20を備えている。この膜電極接合体20の一方の側にアノード流路板22が設けられ、他方の側にカソード流路板24が設けられている。MEA20は、アノード流路板22とカソード流路板24とに挟まれ、アノード流路板22とカソード流路板24とに接続されたガスケット26で密閉された構造に形成されている。アノード流路板22とカソード流路板24は、このガスケット26で絶縁され、しかも、このガスケット26によってMEA20から外部への燃料及び空気のリークが防止される。MEA20は、電解質膜の一方の側にアノード極が形成され、電解質膜の他方の側にカソード極が形成される。
【0029】
各セル51のアノード流路板22は、隣接するセル51のカソード流路板24に電気的且つ機械的に接続され、各セル51のカソード流路板24は、隣接するセル51のアノード流路板22に電気的且つ機械的に接続され、積層されたセル51は、互いに直列に接続されている。また、セル電圧監視部8に接続されるセル51には、当該セル51が発生する電圧を外部から監視する為にアノード流路板22及びカソード流路板24に出力端子22A,24Aが設けられている。この出力端子22A,24Aがセル電圧信号ラインE4を介してセル電圧監視部8の電圧検出回路に接続され、セル電圧監視部8により各セル51の電圧がモニター(監視)されている。セル電圧監視部8からは、予め定められたセルで発生される電圧に相当する電圧値を表す電圧情報が信号ラインE4を介して制御部9の検知処理部9aに供給される。
【0030】
アノード流路板22は、MEA20のアノード極側に面してメタノール、およびメタノール水溶液等の燃料が流通される流路が形成されている。この流路を介して燃料がMEA20に供給され、また、MEA20における反応で生成した気体がこのアノード流路板22の流路を介して排出される。カソード流路板24は、MEA20のカソード極側に面して空気が流通される流路が形成され、この流路を介してMEA20に空気が供給され、また、MEA20において反応で生成され、MEA20を透過した水がカソード流路板24の流路を介して排出される。
【0031】
膜電極接合体(MEA)20は、固体高分子膜の両面に触媒層を塗布して触媒層を形成し、その触媒層の外側に集電及び燃料供給と反応生成物の排出を円滑に行うためのガス拡散層を接合することで形成される。固体高分子膜としては、例えば、デュポン(DuPont)社のナフィオン(Nafion:商標)で作られたイオン交換膜を用いることができる。アノード触媒(アノード電極膜)としては市販のPt−Ru触媒、カソード触媒(カソード電極膜)としては市販Pt触媒等を用いることができる。ガス拡散層としては市販のカーボンペーパー、カーボン繊維、カーボン不織布を用いることができる。これら拡散層には、主としてカーボンと撥水性素材から成る緻密層(Micro Porous Layer)を設けても良い。
なお、アノード流路板22及びカソード流路板24は、それぞれMEA20のアノード極への燃料供給及び反応生成物の排出、カソード極への空気供給及び反応生成物の排出と、反応によって生成した電気の集電を行う為に設けられ、この目的を果たす限り、アノード流路板22及びカソード流路板24の形状は任意の形状をとることができる。例えば、アノード流路板22にサーペンタイン流路板を用いることができる。
【0032】
次に、図1に示される燃料電池システム1の動作について説明する。
発電を始めるにあたり、燃料供給部4は、制御部9による制御の下で、燃料タンク3から所定の濃度のメタノール水溶液(燃料)を流路L1、流路L2を介してアノード流路板22に供給する。また、空気供給部6は、制御部9による制御の下で、空気を流路L3を介してカソード流路板24に供給する。これにより、アノード流路板22のアノード側では、燃料が流通される流路からアノード極に燃料が浸透される。また、カソード流路板24のカソード側は、空気が流通される流路からカソード極に空気が浸透される。
【0033】
負荷調整部7によりセル積層構造50に接続される負荷が印加されると、アノード極、即ち、MEA20のアノード側では、下記の式(1)に示されるメタノール酸化反応が起こる。
【数1】
【0034】
カソード極、即ち、MEA20のカソード側では、式(2)に示される酸化還元反応が起こる。電子(e−)は負荷調整部7へ流れる。この場合、運転温度および燃料濃度、空気供給量などに応じて、電極表面への物質輸送が律速にならないように、負荷調整部7を操作して、複数枚積層された発電部5に負荷を印加することが望ましい。
【0035】
アノード触媒で生成されたプロトン(H+)は、アノード極から固体高分子膜を通してカソード極へと流れる。この時、プロトンと同時にメタノールが固体高分子膜を通してカソード極へと流れる。カソード極に流れたメタノールはカソード側で式(3)の反応が起こり、カソード極には水が生成される(メタノールクロスオーバー)。
【数2】
【0036】
また、燃料タンク3内の燃料に水を含む場合、プロトンと同時に水も固体高分子膜を通してカソード極へと流れ込む。
【0037】
(温度センサレスによるDFMCの温度の推算方法)
温度センサレスによるセル積層構造50の運転温度の推算方法について説明する。
図3は、負荷調整部7で負荷が切り換えられ、セル積層構造50から取出される負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際の各セル51から出力されるセル電圧の応答特性(CA1、CA2、CA3、CA4)を示している。これらCA1〜CA4は、セル積層構造50における4つのセル511〜514において測定されたセル電圧の特性を示している。セル511〜514の各々は、セル電圧監視部8に接続され、各セル511〜514の電圧が個別に監視され、セル電圧信号が検知処理部9aに供給される。
【0038】
図3において、上付のサフィックス(添え字)1〜4は、4枚のセル51のセル番号1〜4を示す。
【0039】
図3に示すグラフにおいて、負荷調整部7で第1の負荷I=I1および第2の負荷I=I2が一定時間に選択され、セル電圧監視部8でセル511〜514の電圧が測定される。検知処理部9aは、電圧の時間変化特性(CA1、CA2、CA3、CA4)から、第1の負荷から第2の負荷に変更させた後の最小電圧値となった時点から最大電圧値に達した時点までの時間を時間評価値(Δt1、Δt2、Δt3、Δt4)として測定する。
【0040】
図4は、時間評価値の温度依存性を表したグラフであり、横軸に温度、縦軸に時間評価値の対数を示したものである。このような時間評価値の温度依存性を表す情報は、予め実測結果をもとに作成され、検量線としてデータベース9bに格納される。検知処理部9aは、時間評価値の温度依存性を表す情報を用いて、上記測定された時間評価値から各セル51の温度(T1、T2、T3、T4)を推算することができる。このようにして、セル積層構造50の温度分布を把握することができる。
【0041】
同様にして、上記負荷変動の際のセル積層構造50から出力される全セル電圧の応答特性をセル電圧監視部8で収集することができる。この場合は、検知処理部9aは、セル積層構造50の平均時間評価値[Δt=(Δt1+Δt2+Δt3+Δt4)/4]を測定することができるため、図4に示すような時間評価値の温度依存性を表す情報を用いてセル積層構造50の平均温度を推算することができる。
【0042】
燃料流量や燃料濃度が一定の場合、同一の温度条件において、セル51またはセル積層構造50から得られる時間評価値logΔtは、ほぼ同じ値となる。
【0043】
(温度制御方法)
上述した温度推算方法を用いて、発電部の出力効率を向上させるための温度制御処理について説明する。図5及び図6は、温度制御処理の手法を示す図である。
【0044】
図6のフローチャートにおいて、検知処理部9aは、セル電圧監視部8によりセル電圧をモニターし、上述した方法を用いてセル積層構造50の時間評価値Δtに基づいてセル積層構造50の温度Tを推算する(ステップS1a)。検知処理部9aは、推算された温度Tに応じて冷却器からの冷却風量を調整するための温度度制御信号を温度調整部13に送る。なお、運転温度の制御方法は、冷却器の冷却風量の増減に限定されるものではなく、その他に、例えば、ジャケット式冷媒の循環速度制御法またはヒーターのON/OFF制御法を用いることもできる。
【0045】
図5は、推算された温度Tから冷却器からの冷却風量Qを換算するための関係を表したデータであり、データベース9bに予め記憶されている。図5では、センター温度Tcをセルの最適な運転温度として設定し、その周辺の温度範囲(〜Tmin,Tmin〜Tc−x,Tc−x〜Tc+x,Tc+x〜Tmax,Tmax〜)において、5つ冷却風量領域(Q1,Q2,Q3,Q4,Q5)に分けて、セル積層構造50の温度を制御する。なお、セル積層構造50の温度をより精密に制御するために、制御可能な冷却風量領域において、冷却風量領域をより細かく分割することができる。
【0046】
検知処理部9aは、図5のデータをもとに、上記ステップS1aで推算された温度TがTminより低いと判定すると(ステップS2a:YES)、冷却風量領域Q1に該当するため冷却風量をQ1とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS3a)。
【0047】
一方、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTmaxより高いと判定すると(ステップS4a:YES)、冷却風量領域Q5に該当するため冷却風量をQ5とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS5a)。
【0048】
また、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTc+x≦T≦Tmaxの範囲であると判定すると(ステップS6a:YES)、冷却風量領域Q4に該当するため冷却風量をQ4とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS7a)。
【0049】
また、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTmin≦T≦Tc−xの範囲であると判定すると(ステップS8a:YES)、冷却風量領域Q2に該当するため冷却風量をQ2とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS9a)。
【0050】
検知処理部9aは、上記推算された温度Tが適温範囲Tc−x≦T≦Tc+xの範囲であると判定すると(ステップS10a:YES)、冷却風量領域Q3に該当するため温度調整部13の冷却風量をQ3とする(ステップS11a)。
【0051】
(セルの出力制御方法)
さらに、温度のバラツキを有するセル51については、負荷調整部7を通して、セル51の温度条件に対応した負荷電流密度を設定することにより、各セル51から最適な出力を引き出すことができる。図7は、負荷制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0052】
制御部9の検知処理部9aは、上述した方法を用いてセル積層構造50の時間評価値Δtに基づいてセル51nの温度Tnを推算する(ステップS1b)。
【0053】
検知処理部9aは、上記ステップS1bで推算されたセル51の温度TnがTc−x≦Tn≦Tc+xの範囲であると判定すると(ステップS2b)、負荷調整部7の負荷電流密度を現状のままInとする(ステップS3b)。
【0054】
一方、検知処理部9aは、上記セル51の温度TnがTmin≦Tn≦Tc−xの範囲であると判定すると(ステップS4b)、負荷電流密度InをIn1に減少させる指示を表す負荷制御信号を負荷調整部7に出力する(ステップS5b)。また、検知処理部9aは、上記セル51の温度TnがTc+x≦Tn≦Tmaxの温度範囲であると判定すると(ステップS6b)、負荷電流密度InをIn2に増大させる指示を表す負荷制御信号を負荷調整部7に出力する(ステップS7b)。
【0055】
負荷電流密度In1およびIn2の値は、データベース9bに予め格納されたセル51の出力密度(W)と負荷電流密度との関係を表すデータ(図8)に基づいて決定する。図8には、例として30℃から70℃まで、10℃ずつ、温度を変化させた場合の出力密度と負荷電流密度との関係を示す。なお、図8の温度間隔を狭めることにより、出力密度と負荷電流密度との関係をより正確に把握することができる。温度が求められたセル51は、該温度の出力密度と負荷電流密度の曲線から、負荷電流密度を決めることができる。この場合は、最大出力密度が得られたときの負荷電流密度より低い負荷電流密度を選択することが望ましい。上記のように、各セル51の温度条件に応じて、負荷調整部7を通して、負荷電流密度を選択することにより、各セル51から効率よく電力を引き出すことができる。
【0056】
上記の温度センサレスによるDMFC温度の推算方法は、セル積層構造50のカソードへ空気をファンなどで送気する送気型DMFC、またはブリージング型DMFCの両方とも適用することができる。
【0057】
(実施例1−1)
一例として、図9に本実施形態によるブリージング型DMFCの評価結果を示す。セル積層構造50から取り出される負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際のセル51から出力されるセル電圧の応答特性(CB1、CB2、CB3、CB4、CB5、CB6)を示している。これらのCB1〜CB6は、セル積層構造50における6つのセル511〜516において測定されたセル電圧の特性を示している。図9より、セル51(CB1〜CB6)の時間評価値(logΔt)を得ることができた。得られた時間評価値を、図10に示すように、データベース9bに予め格納された時間評価値の対数logΔtの温度依存性を表したグラフ(検量線)と照合することにより、各セル51(CB1〜CB6)の温度はそれぞれ45℃、50℃、55℃、60℃、65℃と推算できる。これらのセル51の温度条件及び図8に示すような出力密度と負荷電流密度との関係を示すグラフに基づいて、負荷調整部7を操作して、各セル51の負荷(Inx)を個別に調整することにより、各セル51から効率よく電力を引き出すことが可能となる。
【0058】
なお、負荷電流I1の印加時間変化による電圧の時間的変化を図11に示した。さらに、図11から得られた時間評価値Δtと負荷電流I1の印加時間t1との関係を図12に示す。図12から、時間評価値Δtは、負荷電流I1の印加時間t1の変化に対して、あまり変化しないことがわかる。したがって、セル電圧E1が非定常時の負荷電流I1の印加時間t1で測定を行うことで、測定時間を短縮することができる。
【0059】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、負荷変動によるセル電圧の応答特性から時間評価値と電圧評価値とを測定し、時間評価値と電圧評価値とから燃料濃度と温度とを同時に求める手法である。
【0060】
この第2の実施形態に係る燃料電池システムの構成は、上記図1に示した燃料電池システム1と同様であるため、上記図1を用いて説明を行う。ただし、第2の実施形態では、制御部9における検知処理部9aの動作及びデータベース9bに格納される内容が異なる。その他の部分については詳しい説明は省略する。
【0061】
(センサレスによるDFMCの燃料濃度及び温度の同時推算方法)
セル積層構造50へ供給される燃料の濃度と運転温度とを同時に推算する方法について説明する。
図13は、負荷調整部7で負荷が切り換えられ、セル積層構造50から取り出される負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際のセル51から出力されるセル電圧の応答特性(X1、X2、X3)を示している。これらX1、X2、X3は、セル積層構造50における3つのセル511〜513においてそれぞれ測定されたセル電圧の応答特性を示している。各々のセル511〜513は、セル電圧監視部8に接続され、各セル511〜513の電圧が個別に監視され、セル電圧信号が検知処理部9aに供給される。図13において、上付のサフィックス(添え字)1〜3は、3枚のセル51のセル番号1〜3を示す。
【0062】
図13に示すグラフにおいて、負荷調整部7で第1の負荷I=I1および第2の負荷I=I2(I1<I2)が一定時間に選択され、セル511〜513からセル電圧監視部8でセル511〜513の電圧が測定される。検知処理部9aは、電圧の応答特性(X1、X2、X3)から、第1の負荷から第2の負荷に変更させた後の最小電圧値となった時点から最大電圧値に達した時点までの時間を時間評価値(Δt1、Δt2、Δt3)として測定する。また、検知処理部9aは、第2の負荷の印加時間(t2)において得られた最大電圧値を電圧評価値(E1max、E2max、E3max)として測定する。
【0063】
図14は、横軸に時間評価値、縦軸に電圧評価値を示し、セル51の燃料濃度(C1、C2、C3、・・・、Cn)に対する時間評価値と電圧評価値の依存性を表すグラフと、温度(T1、T2、T3、T4、T5、・・・、Tn)に対する時間評価値と電圧評価値の依存性を表すグラフとを同一平面に重ねて表したものである。図14中のグラフの時間評価値Δtと電圧評価値Emaxの各交点から温度T及び燃料濃度Cの値が求められる。したがって、図14に示すような燃料濃度及び温度に対する時間評価値及び電圧評価値の依存性を表す情報を、予め実測結果をもとに作成してデータベース9bに格納しておけば、この情報に基づいて、上記図13のような測定により得られた二つのパラメーター(時間評価値及び電圧評価値)から、異なる二つのパラメーター(セル51へ供給される燃料の濃度と温度)を同時に推算することができる。図14には、一例として、三種類の燃料濃度(C1、C2、C3)および五種類の温度(T1、T2、T3、T4、T5)のグラフをそれぞれ示すが、本実施形態においてグラフの本数は、推算の感度と精度に応じて適宜増減することが出来る。また、図14のグラフを図15のように横軸を時間評価値、縦軸を温度としたグラフに変換することも可能である。
【0064】
同様に、上記負荷変動の際のセル積層構造50から出力される全セル電圧の応答特性をセル電圧監視部8で収集することができる。この場合は、セル積層構造50の平均時間評価値[Δt=(Δt1+Δt2+Δt3+・・・+Δtn)/n]と平均電圧評価値[Emax=(E1max+E2max+E3max+・・・+Enmax)/n]が測定されるため、平均時間評価値と平均電圧評価値とを用いて、図14又は図15の燃料濃度および温度に対する時間評価値及び電圧評価値の依存性を表したグラフからセル積層構造50へ供給される燃料濃度の平均値(C)および温度の平均値(T)を同時に推算することができる。
【0065】
その他にも、各セル51の燃料濃度値からセル積層構造50へ供給する燃料の平均濃度[C=(C1+C2+C3)/3]を推算することができる。同様に、各セルの運転温度からセル積層構造50の温度の平均値[T=(T1+T2+T3)/3]を推算することができる。
【0066】
また、図16、図17に示すように、上記時間評価値(Δt)の代わりに、第2の負荷の印加時間(t2)を加えた値(t21/2/(Δt1/2−t21/2))の絶対値の自然対数を時間評価値[ln|t21/2/(Δt1/2-t21/2)|]とすることができる。
【0067】
その他にも、第1の負荷I1から第2の負荷I2(I1>I2)に切り替えてセル51に負荷変動を与えた場合、セルの最大電圧値となった時点から最小電圧値となる時点までの時間を時間評価値とすることもできる。また、この場合の電圧評価値は、第2の負荷の印加時間(t2)を経過したときのセル51の最小電圧値とする。
【0068】
また、電圧評価値として、第1の負荷I1から第2の負荷I2に切り替え、第2の負荷の印加時間(t2)を経過したときのセル51の最大電圧値と最小電圧値との電圧差(ΔE)の絶対値を用いることもできる。図18に、セル51の最大電圧値と最小電圧値との電圧差(ΔE)の絶対値を電圧評価値とした場合の電圧評価値と時間評価値、燃料濃度、温度との依存性を示す三次元グラフを示す。この場合は電圧評価値と時間評価値、温度、燃料濃度との間の相関関係を表す相関関数を求めることができる。この方法により、迅速にセル51の燃料濃度と温度を求めることもできる。
【0069】
同一のセル積層構造50を有し、同じ運転時間および運転温度、燃料濃度などの運転条件において、セル51またはセル積層構造50から出力される時間評価値または電圧評価値はほぼ等しい値となる。しかし、同一のセル積層構造50を有する場合においても、異なる運転時間において、運転時間の長期化に伴った電解質膜の劣化やカソードのフラッディングなどの影響を受け、同じ運転温度と燃料濃度により、セル51またはセル構造50から同じ時間評価値と電圧評価値が得られなくなるおそれがある。この場合は、所定の運転時間において、各運転温度または各燃料濃度における時間評価値および電圧評価値を予め測定してデータベースを作成し、データベース9bに格納すればよい。データベースの作成は、例えば約500時間の運転間隔で行うことができるが、データベースの作成間隔が短ければ短いほど、より正確な評価結果が得られると考えられる。本実施形態においては、データベースの作成間隔は燃料電池システムの運転条件および電解質膜の劣化速度、カソードのフラッディングなどの状況から総合的に判断し、適切に選択することができる。
【0070】
上記燃料電池システムにおいて、負荷調整部7を用いて、第1の負荷(I1)または第2の負荷(I2)を調整することにより、いろいろな電圧信号の曲線を得ることができる。例えば、図13の(X1、X2)のような電圧信号の曲線を得るためには、第2の負荷は第1の負荷より大きく設定し、且つ図19に示された温度依存性を示すIV曲線(電流電圧曲線)において、電極反応律速および物質(燃料および空気)拡散(輸送)律速の領域を避けて設定することが望ましい。換言すれば、第2の負荷は主に抵抗分極(抵抗過電圧)が支配的な領域において選択され、セル積層構造50またはセル51に与えられることが望ましい。また、図19において、運転温度T5におけるIV曲線により得られたI52の領域が運転温度T1のI12と比べて広いが、測定条件を揃えるために、運転温度T1のI12を選択することができる。
【0071】
また、第2の負荷は一律に物質拡散律速の領域に設定することもできるが、電極の劣化およびカソードのフラッディングを防ぐために、第2の負荷の印加時間(t2)をなるべく短く設定すると良い。物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定する場合、図20のようなセル電圧の応答特性(J7、J8、J9)が得られる。この場合、セル電圧の応答特性(J7、J8、J9)の第1のピークの最小電圧値と、第2の出力応値と、その電圧差から電圧評価値(E7min、E7max、ΔE7、E8min、E8max、ΔE8、E9min、E9max、ΔE9)を求めることができる。具体的には次の通りである。
【0072】
セル電圧の応答特性(J7)の第1のピークの最小電圧値と、第2のピークの最大電圧値(出力応値)と、その電圧差から電圧評価値(E7min、E7max、ΔE7)を求めることができる。同様に、セル電圧の応答特性(J8)の第1のピークの最小電圧値と、第2のピークの最大電圧値(出力応値)と、その電圧差から電圧評価値(E8min、E8max、ΔE8)を求めることができる。また、セル電圧の応答特性(J9)の第1のピークの最小電圧値と、第2の電圧信号の変曲点の電圧値(出力応値)と、その電圧差(ΔE9)から電圧評価値(E9min、E9max、ΔE9)を求めることができる。ここで変曲点とは、第1のピークの後に最初に現れる、電圧値が略一定値となる期間の最初の点をいう。すなわち、この電圧値が略一定値となる部分を踊り場と称するならば、この踊り場の左端の点を言う。一方、時間評価値(Δt7、Δt8、Δt9)は、上記電圧差(ΔE7、ΔE8、ΔE9)が測定される2点の電圧信号間(EminとEmaxの間)の時間から求めることができる。なお、物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定して、測定を行なう場合、第2のピークの最大電圧値及び第2の電圧信号の変曲点の電圧値は、第2の負荷の印化時間(t2)において得られるセル電圧の応答曲線の中で、最大の電圧値でなくてもよい。
【0073】
物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定した場合に測定された電圧評価値(Emin、Emax、ΔE)と時間評価値(Δt)の、セル51の燃料濃度(C1、C2、C3、・・・、Cn)および温度(T1、T2、T3、・・・、Tn)に対する依存性を表すグラフを図21〜図23にそれぞれ示す。図21〜図23のグラフは、物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定した場合のデータベースとして予めデータベース9bに格納することができる。図21〜図23には、三種類の燃料濃度(C1、C2、C3)における時間評価値及び電圧評価値の依存性のグラフ、および三種類の温度(T1、T2、T3)における時間評価値及び電圧評価値の依存性のグラフをそれぞれ示すが、これらのグラフの本数は、推算の感度と精度に応じて適宜に増減することが出来る。本実施形態では、図21〜図23のようなグラフに基づいて、物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定したときに得られた電圧評価値と時間評価値とから、セル51の燃料濃度とセル51の温度とを同時に求めることができる。
【0074】
上記の説明から明らかなように、セル51またはセル積層構造50の電圧の応答特性は第1の負荷と第2の負荷の設定値に依存し、同一セル51またはセル積層構造50において、同じ第1の負荷と第2の負荷の設定値とこれらの設定値より得られたデータベースを使用することが望ましい。
【0075】
また、第1の負荷を第2の負荷より大きく設定した場合でも、得られた電圧信号の経時変化曲線から電圧評価値と時間評価値を測定・利用することもできる。この場合、電圧信号の最大値と最小値の出現する順番は異なるが、同様に電圧評価値として用いることができる。また、その電圧差の絶対値を電圧評価値とすることができる。
【0076】
なお、本実施形態はPassive型(ブリージング型)DMFCまたはActive型(送気型)DMFCの両方へ適用させることができる。
【0077】
次に、本発明のセンサレスによるDFMCに供給される燃料の濃度と温度の同時推算方法に係る実施例について説明する。
【0078】
(実施例2−1)
実施例2−1はActive型(送気型)DMFCの場合の実施結果を示す。
異なる運転温度および燃料濃度において、負荷調整部7で負荷が切り換えられ、セル51に印加した負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際のセル51から出力されるセル電圧の応答特性がそれぞれG1、G2、G3、G4、G5、G6、G7のような応答曲線として得られたものとする(図示省略)。上付のサフィックス(添え字)はそれぞれ、異なる温度または燃料濃度条件における同一セル51から得られた電圧の応答特性を示す。
【0079】
負荷調整部7で第1の負荷I=I1および第2の負荷I=I2がそれぞれ一定時間(t1、t2)に選択され、セル電圧監視部8でセル51の電圧が測定される。検知処理部9aは、電圧の時間的変化特性(G1〜G7)から、第1の負荷から第2の負荷に変更させた後の最小電圧値となった時点から最大電圧値に達した時点までの時間を時間評価値(Δt1、Δt2、Δt3、Δt4、Δt5、Δt6、Δt7)として測定する。また、検知処理部9aは、第2の負荷に変更させた後の所定時間(t2)において得られた最大電圧値を電圧評価値(E1max、E2max、E3max、E4max、E5max、E6max、E7max)として測定する。
【0080】
この時間評価値と電圧評価値を用いて、データベース9bに予め格納されているセル51の燃料濃度(C1、C2、C3、・・・、Cn)及び温度(T1、T2、T3、T4、T5、・・・、Tn)に対する時間評価値及び電圧評価値の依存性を表すグラフ(図14)に基づいて、セル51へ供給される燃料の濃度とセル51の温度とを同時に推算することができる。ここでは、C1<C2<C3<・・・<Cn、またはT1<T2<T3<T4<T5<・・・<Tnである。図24及び図25に燃料濃度と温度の推算結果を示した。図24に示すように、上記得られた時間評価値(Δt1〜Δt7)と電圧評価値(E1max〜E7max)とにより、それぞれの時間評価値と電圧評価値の交点(Z1、Z2、Z3、Z4、Z5、Z6、Z7)から、セル51へ供給される燃料の濃度(C1、C3)と温度(T1、T2、T3、T4、T5、T6、T7)を推算することができた。例えば、図24により、Δt1とE1maxの交点(Z1)から燃料濃度と温度はそれぞれC3とT1であると求められる。また、Δt6とE6maxの交点(Z6)から燃料濃度と温度はそれぞれC1とT3であると求められる。同様の方法で時間評価値と電圧評価値とのそれぞれの交点から求められた燃料濃度と温度の値を図26に示す。
【0081】
(実施例2−2)
実施例2−2は、Passive型(ブリージング型)DMFCの場合の実施結果を示す。
【0082】
異なる運転温度および燃料濃度において、負荷調整部7で負荷が切り換えられ、セル51に印加した負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際のセル51から出力されるセル電圧の応答特性がそれぞれJ1、J2、J3、J4、J5、J6、J7、J8、J9のような電圧の時間的変化特性として得られるものとする。物質拡散律速の領域において第2の負荷を設定する場合、得られたJ7、J8、J9の電圧応答特性を図20に示す。J1、J2、J3、J4、J5、J6の電圧応答特性は図示を省略する。Jの上付のサフィックス(添え字)はそれぞれ、異なる温度または燃料濃度条件における同一セル51から得られた電圧の応答特性を示す。
【0083】
負荷調整部7で第1の負荷I=I1および第2の負荷I=I2がそれぞれ一定時間(t1、t2)に選択され、セル51からセル電圧監視部8でセル51の電圧が測定される。検知処理部9aは、セル51の電圧の応答特性(J1〜J9)から、第1の負荷から第2の負荷に変更させた後の最小電圧値になった時点から最大電圧値(または第2のピークの最大電圧値、または第2の電圧信号の変曲点。出力応値)に達した時点までの時間を時間評価値(Δt1、Δt2、Δt3、Δt4、Δt5、Δt6、Δt7)として測定する。
【0084】
また、検知処理部9aは、第2の負荷に変更させた後の所定時間(t2)に得られた電圧信号の第1のピークの最小値を第1の電圧評価値(E1min、E2min、E3min、E4min、E5min、E6min、E7min、E8min、E9min)として求める。また、第2の負荷に変更させた後の所定時間(t2)に得られた電圧信号の最大電圧値、第2のピークの最大電圧値または変曲点の電圧値を第2の電圧評価値(E1max、E2max、E3max、E4max、E5max、E6max、E7max、E8max、E9max)として求める。また、上記最小値(Emin)と最大値(Emax)との電圧差を第3の電圧評価値(ΔE1、ΔE2、ΔE3、ΔE4、ΔE5、ΔE6、ΔE7、ΔE8、ΔE9)として求める。
【0085】
この時間評価値と第1〜第3の電圧評価値とを用いて、データベース9bに予め格納されているセル51の燃料濃度及び温度に対する時間評価値及び第1〜第3の電圧評価値の依存性を表したグラフ(図21〜図23)に基づいて、セル51へ供給される燃料の濃度とセル51の温度を推算することができる。ここでは、C1<C2<C3、またはT1<T2<T3である。図27〜図29に燃料濃度とセル51の温度の推算結果を示す。
【0086】
図27に示すように、上記得られた時間評価値(Δt1〜Δt9)と第1の電圧評価値(Emin1〜Emin9)により、それぞれの時間評価値と第1の電圧評価値との交点(K1、K2、K3、K4、K5、K6、K7、K8、K9)から、セル51へ供給される燃料の濃度とセル51の温度を同時に推算することができる。例えば、図27により、Δt4とEmin4の交点(K4)から燃料濃度とセル51の温度はそれぞれC1とT2であることが求められる。また、Δt6とEmin6の交点(J6)から燃料濃度とセル51の温度はそれぞれC3とT2であることがわかった。同様の方法を用いて、図30に示すように、時間評価値と第1〜第3の電圧評価値(Emin、Emax、ΔE)のそれぞれの交点(K、O、P)からそれぞれの燃料濃度とセル51の温度を同時に求めることができる。
【0087】
(燃料濃度制御方法)
燃料電池システム1において、安定なセル出力を維持するために、燃料供給部4から発電部5へ供給する燃料が所定の濃度範囲において保たれることが非常に重要である。
【0088】
そこで、上述した方法で各セル51または積層セル構造50へ供給される燃料の濃度を推算し、燃料供給部4(または燃料流量調整バルブ)を操作して、燃料濃度を調整する方法について説明する。図31は、制御部9の処理手順を示すフローチャートを示したものである。
【0089】
図31において、検知処理部9aは、セル電圧監視部8によりセル電圧をモニターし、上述した方法を用いてセル積層構造50の時間評価値と電圧評価値とに基づいて、燃料濃度Cと温度Tとを同時に推算する(ステップS1c)。検知処理部9aは、上記ステップS1aで推算された燃料濃度Cに応じて燃料タンク3からの燃料の供給流量を調整するための供給量制御信号を燃料供給部4に送る。
【0090】
例えば、図31では、燃料濃度をCとして、その濃度範囲(〜Cmin、Cmin〜Cc−x、Cc−x〜Cc+x、Cc+x〜Cmax、Cmax〜)において、それぞれ5つの燃料濃度制御モード(P1、P2、P3、P4、P5)に分けて、セル積層構造50へ供給する燃料の濃度を燃料制御する。セル積層構造50へ供給される燃料の濃度をより精密に制御するために、制御可能な燃料濃度範囲において、燃料濃度の制御モードをより細かく分割することができる。
【0091】
検知処理部9aは、上記ステップS1aで推算された燃料濃度CがCminより低いと判定すると(ステップS2c:YES)、燃料濃度上昇処理P1として燃料供給量を増大させる指示を表す供給量制御信号を燃料供給部4に出力する(ステップS3c)。
【0092】
一方、検知処理部9aは、上記推算された燃料濃度CがCmaxより高いと判定すると(ステップS4c:YES)、燃料濃度上昇処理P5として燃料供給量を減少させる指示を表す燃料濃度制御信号を燃料供給部4に出力する(ステップS5c)。
【0093】
また、検知処理部9aは、上記推算された燃料濃度CがCc+x≦C≦Cmaxの範囲であると判定すると(ステップS6c:YES)、燃料濃度上昇処理P4として燃料供給量を減少させる指示を表す燃料濃度制御信号を燃料供給部4に出力する(ステップS7c)。
【0094】
また、検知処理部9aは、上記推算された燃料濃度CがCmin≦C≦Cc−xの範囲であると判定すると(ステップS8c:YES)、燃料濃度上昇処理P2として燃料供給量を増大させる指示を表す燃料濃度制御信号を燃料供給部4に出力する(ステップS9c)。
【0095】
検知処理部9cは、上記推算された燃料濃度CがCc−x≦C≦Cc+xの範囲であると判定すると(ステップS10c:YES)、燃料濃度は適切な範囲P3に該当するため燃料供給部4の燃料供給量をそのまま維持する(ステップS11c)。
【0096】
(温度制御方法)
次に、上述した方法で推算された温度を用いて発電部の出力効率を向上させるための温度制御処理について説明する。図32は、制御部9の処理手順を示すフローチャートを示したものである。ここでは、制御部9は、上記図5のグラフを用いて温度調整部13により、セル積層構造50の温度を制御する。
【0097】
図32において、検知処理部9aは、セル電圧監視部8によりセル電圧をモニターし、上述した方法を用いてセル積層構造50の時間評価値と電圧評価値とに基づいて、燃料濃度Cと温度Tとを同時に推算する(ステップS1d)。検知処理部9aは、推算された温度Tに応じて冷却器からの冷却風量を調整するための温度度制御信号を温度調整部13に送る。なお、運転温度の制御方法は、冷却器の冷却風量の増減に限定されるものではなく、その他に、例えば、ジャケット式冷媒の循環速度制御法またはヒーターのON/OFF制御法を用いることもできる。
【0098】
検知処理部9aは、図5のグラフをもとに、上記ステップS1aで推算された温度TがTminより低いと判定すると(ステップS2a:YES)、冷却風量領域Q1に該当するため冷却風量をQ1とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS3a)。
【0099】
一方、検知処理部9dは、上記推算された温度TがTmaxより高いと判定すると(ステップS4d:YES)、冷却風量領域Q5に該当するため冷却風量をQ5とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS5d)。
【0100】
また、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTc+x≦T≦Tmaxの範囲であると判定すると(ステップS6d:YES)、冷却風量領域Q4に該当するため冷却風量をQ4とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS7d)。
【0101】
また、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTmin≦T≦Tc−xの範囲であると判定すると(ステップS8d:YES)、冷却風量領域Q2に該当するため冷却風量をQ2とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS9d)。
【0102】
検知処理部9aは、上記推算された温度Tが適温範囲Tc−x≦T≦Tc+xの範囲であると判定すると(ステップS10d:YES)、冷却風量領域Q3に該当するため温度調整部13の冷却風量をQ3とする(ステップS11d)。
【0103】
上記実施形態では、セル51へ供給される燃料の濃度と温度を別々に制御する方法について述べたが、両変数は推算結果に基づいて同時に(並列的に)調整・制御することもできる。
【0104】
なお、DMFCの最高出力を保つために、セル積層構造50の平均温度は、最低温度を有するセル51の温度より高く設定することが望ましい。しかしながら、温度が高くなるとメタノールのクロスオーバー量も増大し、その結果、DMFCの出力が低下する恐れも出てくる。本実施形態は、それらのバランスを考慮し、最大出力が得られるよう、温度調整部13を操作する。
【0105】
また、冷却風量の調整による温度調節を行う場合、セル積層構造50への送気量がカソードで行われている電極反応に対して、空気拡散律速にならない範囲において、冷却風量を調整すると良い。
【0106】
なお、この発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1…燃料電池システム、2…補器類、3…燃料タンク、4…燃料供給部、5…発電部、6…空気供給部、7…負荷調整部、8…セル電圧監視部、9…制御部、9a…検知処理部、9b…データベース、10…電力調整部、11…負荷電力、50…セル積層構造、51…セル、12…アノード集電板、13…温度調整部、14…カソード集電板、18A,18B…締め付け板、19A,19B…固定具、20…膜電極接合体(MEA)、22…アノード流路板、24…カソード流路板、22A,24A…出力端子、26…ガスケット、L1,L2,L3…供給ライン、E1,E2,E3,E4,E5,E6,E7…信号ライン。
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体を燃料とする固体高分子型燃料電池を制御する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、プロトン交換膜燃料電池とも称呼されることもあるプロトン伝導性を有する高分子膜を電解質として用いる燃料電池として知られている。固体高分子型燃料電池(PEFC)の中に、直接メタノール型燃料電池(DMFC)がある。このDMFCは、気化器或いは加湿器のような補機が不要である点、メタノールが水素のような気体燃料と比べて取扱いやすい点、低温での運転が可能である点、等から携帯用機器の小型電源として開発が進められている。
【0003】
DMFCの出力効率は電解質膜や触媒の組成、セルの流路構成など、さまざまな要因に影響される。同じ電解質膜や触媒の組成、セルの流路構成において、DMFCの出力効率は燃料の濃度および運転温度に大きく支配されることが知られている。
【0004】
そこで、燃料濃度の計測・制御方法に関しては、高価な外付け濃度センサを用いず、燃料濃度を計測・制御する手法が既に提案されている(特許文献1−5、非特許献1,2を参照。)。しかしながら、これらの測定方法はいずれも、運転温度が既知または一定の前提条件において、燃料濃度の測定が行われている測定方法であった。
【0005】
また、DMFCの運転温度を把握するために、従来では、熱電対を用いて、DMFCの複数枚積層された発電部の運転温度を計測する手法(特許文献6,7を参照。)、または、サーミスタを用いて、DMFCに供給または再循環される燃料の温度を計測する手法(特許文献4,6を参照。)が提案されている。その他にも、金属測温抵抗体(非特許文献3を参照。)、IC温度センサ、磁気温度センサ、サーモパイル、または焦点型温度センサなどを用いた測定方法(特許文献8を参照。)も提案されている。
【0006】
これらの温度測定方法はいずれも温度計測システムをDMFCシステムに組み込む必要があり、DMFCシステムの小型化および低価格化において大きな障害となっている。特に、発電部の内の温度分布を把握する場合、複数個の熱電対を発電部に分散・設置しなければならないため、付加装置が非常に大きくなる。ノートパソコンのような小型携帯機器にDMFCを組み込んで使用する場合、温度センサとして、熱電対の使用は好ましくない。また、サーミスタを用いる場合、発電部全体の温度情報しか得ることができず、発電部の各セルの温度分布情報を把握することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−165148号公報
【特許文献2】特開2005−285628号公報
【特許文献3】米国特許第6824899号
【特許文献4】米国特許第6698278 B2号
【特許文献5】特開2007−227336号公報
【特許文献6】特開2006−202611号公報
【特許文献7】特開2005−93282号公報
【特許文献8】特開2004−171813号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C. Y. Chen, et al., J. Power Sources, 167(2007)442-449.
【非特許文献2】T. J. Ha, et al., International Journal of Hydrogen Energy, 33(23), (2008)7163-7171.
【非特許文献3】C.Y. Lee, et al., Jnp. J. Appl. Phys. Vol. 46, No.10A (2007)6911-6914.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来手法では、DMFCの運転温度を計測するために、各種温度センサを付加する必要があったため、装置の小型化の障害となっていた。また、DMFCの運転温度と燃料濃度とが同時に変化する状態では、センサレスで運転温度と燃料濃度とを同時に計測することができなかった。このため、DMFCシステムの発電効率及び発電量を高めることが困難であった。
【0010】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、簡易な構成で、長時間安定して高い発電効率と燃料利用効率にて運転可能な燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様は、積層された複数のセルを有する発電部と、前記複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視する電圧監視部と、前記発電部から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部と、前記負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に前記出力電圧が最小値となった時点から最大値となるまでの時間を測定する測定部と、前記時間の温度に対する依存性を表す情報に基づいて前記セルの温度を推算する推算部とを具備する燃料電池システムを提供する。
【0012】
また、この発明の他の態様は、積層された複数のセルを有する発電部と、前記セルに燃料を供給する、燃料供給量が調整可能な燃料供給部と、前記複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視する電圧監視部と、前記発電部から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部と、前記負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に前記出力電圧が第1の出力応値となった時点から第2の出力応値となるまでの時間と、前記第1又は第2の出力応値に関する電圧値とを測定する測定部と、前記時間及び前記電圧値の燃料濃度及び温度に対する依存性を表す情報に基づいて、前記セルへ供給される燃料濃度及び前記セルの温度を推算する推算部とを具備する燃料電池システムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
したがってこの発明によれば、簡易な構成で、長時間安定して高い発電効率と燃料利用効率にて運転可能な燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る燃料電池システムの構成例を示す図。
【図2】図1の発電部の構成の詳細を示す図。
【図3】負荷変動によるセル電圧の応答特性を示す図。
【図4】時間評価値の温度依存性を表すグラフ。
【図5】温度制御手法を示す図。
【図6】温度制御処理の手順を示すフローチャート。
【図7】負荷制御処理の手順を示すフローチャート。
【図8】出力密度と負荷電流密度との関係を示すグラフ。
【図9】実施例1−1におけるセル電圧の応答特性の評価結果を示すグラフ。
【図10】図9のグラフから得られた時間評価値と温度とを示す図。
【図11】負荷電流の印加時間による電圧の時間的変化を示す図。
【図12】時間評価値と負荷電流の印加時間との関係を示す図。
【図13】負荷変動によるセル電圧の応答特性を示す図。
【図14】時間評価値及び電圧評価値の燃料濃度及び温度に対する依存性を示すグラフ。
【図15】図14のグラフを変換した図。
【図16】図14において時間評価値に第2の負荷の印加時間を加えた図。
【図17】図15において時間評価値に第2の負荷の印加時間を加えた図。
【図18】時間評価値及び電圧評価値の燃料濃度及び温度に対する依存性を三次元で示したグラフ。
【図19】電流電圧曲線の温度依存性を示す図。
【図20】第2の負荷を物質拡散律速領域に設定した場合のセル電圧の応答特性を示す図。
【図21】図20の場合の時間評価値及び電圧評価値(Emin)の燃料濃度及び温度に対する依存性を示すグラフ。
【図22】図20の場合の時間評価値及び電圧評価値(Emax)の燃料濃度及び温度に対する依存性を示すグラフ。
【図23】図20の場合の時間評価値及び電圧評価値(ΔE)の燃料濃度及び温度に対する依存性を示すグラフ。
【図24】実施例2−1の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図25】実施例2−1の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図26】実施例2−1の時間評価値と電圧評価値との交点から求められた燃料濃度と温度とを示すグラフ。
【図27】実施例2−2の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図28】実施例2−2の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図29】実施例2−2の燃料濃度と温度の推算結果を示す図。
【図30】実施例2−2の時間評価値と電圧評価値との交点から求められた燃料濃度と温度とを示すグラフ。
【図31】燃料濃度制御処理の手順を示すフローチャート。
【図32】温度制御処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態は、負荷変動によるセル電圧の応答特性から時間評価値を測定し、この時間評価値から発電セルの温度を求める手法である。
【0016】
図1は、第1の実施形態に係る燃料電池システム1の構成例を示している。燃料電池システム1は、図2に示すようなセル積層構造50を有する発電部5と、高濃度メタノール、あるいはメタノール燃料と少量の水の混合溶液(メタノール水溶液)等の液体燃料を貯蔵する燃料タンク3と、発電部5における発電をサポートする補器類2と、発電部5で発電した電力を負荷電力11に送るにあたり、外部電源(例えばリチウムイオンバッテリー)と発電部5から取り出す電力を制御する電力調整部10とを備える。
【0017】
補器類2は、燃料タンク3から液体燃料を発電部5に供給する燃料供給部4と、空気を発電部5に供給する空気供給部6と、発電部5から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部7と、セル積層構造50の各セルの出力電圧を監視するセル電圧監視部8と、冷却器及び加熱器の少なくとも一方を有し、冷却器または加熱器によりセル積層構造50の温度を調整する温度調整部13と、補器類2内の各部を制御するための制御部9とを備える。
【0018】
制御部9は、上記補器類2の各部の状態を検知する検知処理部9aと、検知された情報に応じて各部を制御する為の制御情報が予め格納されたデータベース9bとを備える。制御部9は、発電部5及び補器類2の各部から必要な情報を検知し、検知した情報の処理または演算を行う。さらに、制御部9はこの処理または演算の結果に応じて、燃料供給部4、発電部5、負荷調整部7、温度調整部13、及び空気供給部6に制御信号を与える。後に説明するように、データベース9bは、セルから測定される値に基づき、補器類2の各部をどのように制御するかについて予め記述した各種データベースを含んでいる。
【0019】
発電部5は、負荷調整部7および電力調整部10を介して負荷電力11に接続される。負荷電力11は、例えば、この燃料電池システム1で発生される電力で駆動される電子機器に相当する。電力調整部10は、発電部5で発生される電力を負荷電力11に供給している。電力の調整は、負荷調整部7により負荷電流の調整で行われる。電力調整部10は、負荷電力11で必要な電力に対し、発電部5で発電される電力が不足する場合、図には記載していないが、外部電源(例えば二次電池やコンデンサ)などから不足分の電力を補う。電力調整部10は、発電部5で発生される電力の負荷電力11への供給をオン或いはオフするスイッチング回路を含んでいる。電力調整部10は、オン状態で、負荷電力11に接続され閉回路状態となり、オフ状態で負荷電力11から切断されてその出力側が開回路状態となるように構成されている。
【0020】
発電部5と補器類2との間は、流体配管系で接続されている。この流体配管系においては、燃料タンク3と燃料供給部4とは、燃料供給ラインL1で接続される。燃料供給部4と発電部5とは、燃料供給ラインL2で接続されている。燃料タンク3内の燃料は、燃料供給部4での調整により発電部5のアノード極に供給される。また、空気供給部6と発電部5とは空気供給ラインL3で接続され、空気供給部6での調整により発電部5のカソード極に空気が送り込まれる。
【0021】
なお、上記図1に示すシステムでは、燃料タンク3内の燃料が発電部5に直接供給される方式となっているが、この方式に限らず、燃料タンク3内の燃料を、希釈した燃料を蓄える混合タンク内に供給し、発電部5での発電で残った燃料と混合させる方式にしても良い。また、空気供給部6に例えばファンを用いた場合、流体配管L3は空気導入経路とすることができる。また、ブリージング方式の場合、空気供給部6は不要となる。
【0022】
発電部5と補器類2との間は、信号及び電流配線系で接続されている。制御部9は、信号ラインE1を介して燃料供給部4に接続される。発電部5と制御部9とは、信号ラインE2で接続される。負荷調整部7と制御部9とは信号ラインE3で接続される。セル電圧監視部8と制御部9とは、信号ラインE4で接続されている。空気供給部6と制御部9とは、信号ラインE5で接続されている。
【0023】
燃料供給部4から発電部5に供給される液体燃料の流量が計測される。この計測された流量を表す燃料流量情報が信号ラインE1を介して制御部9に送られる。制御部9からは、供給流量を定める供給量制御信号が信号ラインE1を介して燃料供給部4に送られる。この供給量制御信号に従って燃料供給部4から燃料が発電部5に供給される。ここで、各セル51に供給される燃料は、各セル51に流入する燃料の流路に燃料流量調整バルブ(図示せず)が設けられ、セル51毎に調整されても良い。
【0024】
また、温度調整部13と制御部9とは信号ラインE7で接続される。制御部9からは、温度調整部13に対して、冷却器の冷却の風量および冷媒の流速や、加熱器(ヒーター)のON、OFFなどの指示を表す温度制御信号が信号ラインE7を介して送出される。この制御部9からの温度制御信号に従って発電部5の温度が調整される。なお、温度調整部13は、セル積層構造50の全体温度または局部の温度(各セルの温度)についても、冷却器や加熱器の全体または一部に指示を行うことにより制御することができる。
【0025】
また、発電部5内のセル積層構造50で発生され、出力されるスタック電圧(各セル全体の電圧)を表す情報は、電圧情報として信号ラインE2を介して制御部9に送られる。電力調整部10はラインE6を介して負荷調整部7に接続されている。負荷調整部7は、信号ラインE3を介して発電部5に負荷を与える。この負荷調整部7で検出された負荷電流の値は、負荷電流情報として信号ラインE3を介して制御部9に送られる。また、制御部9で設定された負荷制御信号は、信号ラインE3を介して制御部9から負荷調整部7に与えられる。負荷調整部7は、この負荷制御信号に従って、設定負荷に相当する負荷を発電部5に接続し、この設定負荷に流れる負荷電流が検出されて負荷電流情報として制御部9に送られる。
なお、負荷調整部7に電力調整部10の役割を持たせることで、電力調整部10を省略させることも可能である。この場合、負荷電力11は負荷調整部7に接続される。
【0026】
セル電圧監視部8は、予め定められた少なくとも1つのセルで発生される電圧を検出するセル電圧検出回路(図示せず)を含み、信号ラインE4を介して発電部5内のセル積層構造50の上記セルにそれぞれ接続される。各セルで発生される電圧がセル電圧検出回路で計測され、計測されたセル電圧値が電圧情報として制御部9に送られる。ここでは、予め定められたセルとは、セル積層構造50に含まれる各セル51の全てとするが、この他にも、セル積層構造50のうち複数枚のセル51だけを選択し、それらの合算電圧とすることもできる。また、特定のセル51だけを選択して予め定められたセルとすることもできる。例えば、セル積層構造50が多数のセル51を有する場合、セル電圧監視部8は全てのセル51のそれぞれの電圧を検出するのではなく、隣接する2〜3枚のセル51を選択し、これらの合算電圧を予め定められたセルにおける電圧とすることができる。
【0027】
発電部5は、図2(a)及び2(b)に示されるようなセル積層構造50を備えている。図2(a)に示すように、セル積層構造50は、アノード集電板12とカソード集電板14との間に積層された複数のセル51を備え、各セル51がアノード集電板12及びカソード集電板14に電気的に直列に接続されている。アノード集電板12とカソード集電板14との間に積層されたセル51は、一対の締め付け板18A、18B間に配置され、この締め付け板18A、18B間に固定具19A、19Bによって締め付け固定されている。アノード集電板12及びカソード集電板14は、それぞれ負荷調整部7に接続され、セル積層構造50で生成された電流がカソード集電板14で収集されて負荷調整部7に供給される。
【0028】
また、セル51は、図2(b)に示されるように膜電極接合体(MEAと称する。)20を備えている。この膜電極接合体20の一方の側にアノード流路板22が設けられ、他方の側にカソード流路板24が設けられている。MEA20は、アノード流路板22とカソード流路板24とに挟まれ、アノード流路板22とカソード流路板24とに接続されたガスケット26で密閉された構造に形成されている。アノード流路板22とカソード流路板24は、このガスケット26で絶縁され、しかも、このガスケット26によってMEA20から外部への燃料及び空気のリークが防止される。MEA20は、電解質膜の一方の側にアノード極が形成され、電解質膜の他方の側にカソード極が形成される。
【0029】
各セル51のアノード流路板22は、隣接するセル51のカソード流路板24に電気的且つ機械的に接続され、各セル51のカソード流路板24は、隣接するセル51のアノード流路板22に電気的且つ機械的に接続され、積層されたセル51は、互いに直列に接続されている。また、セル電圧監視部8に接続されるセル51には、当該セル51が発生する電圧を外部から監視する為にアノード流路板22及びカソード流路板24に出力端子22A,24Aが設けられている。この出力端子22A,24Aがセル電圧信号ラインE4を介してセル電圧監視部8の電圧検出回路に接続され、セル電圧監視部8により各セル51の電圧がモニター(監視)されている。セル電圧監視部8からは、予め定められたセルで発生される電圧に相当する電圧値を表す電圧情報が信号ラインE4を介して制御部9の検知処理部9aに供給される。
【0030】
アノード流路板22は、MEA20のアノード極側に面してメタノール、およびメタノール水溶液等の燃料が流通される流路が形成されている。この流路を介して燃料がMEA20に供給され、また、MEA20における反応で生成した気体がこのアノード流路板22の流路を介して排出される。カソード流路板24は、MEA20のカソード極側に面して空気が流通される流路が形成され、この流路を介してMEA20に空気が供給され、また、MEA20において反応で生成され、MEA20を透過した水がカソード流路板24の流路を介して排出される。
【0031】
膜電極接合体(MEA)20は、固体高分子膜の両面に触媒層を塗布して触媒層を形成し、その触媒層の外側に集電及び燃料供給と反応生成物の排出を円滑に行うためのガス拡散層を接合することで形成される。固体高分子膜としては、例えば、デュポン(DuPont)社のナフィオン(Nafion:商標)で作られたイオン交換膜を用いることができる。アノード触媒(アノード電極膜)としては市販のPt−Ru触媒、カソード触媒(カソード電極膜)としては市販Pt触媒等を用いることができる。ガス拡散層としては市販のカーボンペーパー、カーボン繊維、カーボン不織布を用いることができる。これら拡散層には、主としてカーボンと撥水性素材から成る緻密層(Micro Porous Layer)を設けても良い。
なお、アノード流路板22及びカソード流路板24は、それぞれMEA20のアノード極への燃料供給及び反応生成物の排出、カソード極への空気供給及び反応生成物の排出と、反応によって生成した電気の集電を行う為に設けられ、この目的を果たす限り、アノード流路板22及びカソード流路板24の形状は任意の形状をとることができる。例えば、アノード流路板22にサーペンタイン流路板を用いることができる。
【0032】
次に、図1に示される燃料電池システム1の動作について説明する。
発電を始めるにあたり、燃料供給部4は、制御部9による制御の下で、燃料タンク3から所定の濃度のメタノール水溶液(燃料)を流路L1、流路L2を介してアノード流路板22に供給する。また、空気供給部6は、制御部9による制御の下で、空気を流路L3を介してカソード流路板24に供給する。これにより、アノード流路板22のアノード側では、燃料が流通される流路からアノード極に燃料が浸透される。また、カソード流路板24のカソード側は、空気が流通される流路からカソード極に空気が浸透される。
【0033】
負荷調整部7によりセル積層構造50に接続される負荷が印加されると、アノード極、即ち、MEA20のアノード側では、下記の式(1)に示されるメタノール酸化反応が起こる。
【数1】
【0034】
カソード極、即ち、MEA20のカソード側では、式(2)に示される酸化還元反応が起こる。電子(e−)は負荷調整部7へ流れる。この場合、運転温度および燃料濃度、空気供給量などに応じて、電極表面への物質輸送が律速にならないように、負荷調整部7を操作して、複数枚積層された発電部5に負荷を印加することが望ましい。
【0035】
アノード触媒で生成されたプロトン(H+)は、アノード極から固体高分子膜を通してカソード極へと流れる。この時、プロトンと同時にメタノールが固体高分子膜を通してカソード極へと流れる。カソード極に流れたメタノールはカソード側で式(3)の反応が起こり、カソード極には水が生成される(メタノールクロスオーバー)。
【数2】
【0036】
また、燃料タンク3内の燃料に水を含む場合、プロトンと同時に水も固体高分子膜を通してカソード極へと流れ込む。
【0037】
(温度センサレスによるDFMCの温度の推算方法)
温度センサレスによるセル積層構造50の運転温度の推算方法について説明する。
図3は、負荷調整部7で負荷が切り換えられ、セル積層構造50から取出される負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際の各セル51から出力されるセル電圧の応答特性(CA1、CA2、CA3、CA4)を示している。これらCA1〜CA4は、セル積層構造50における4つのセル511〜514において測定されたセル電圧の特性を示している。セル511〜514の各々は、セル電圧監視部8に接続され、各セル511〜514の電圧が個別に監視され、セル電圧信号が検知処理部9aに供給される。
【0038】
図3において、上付のサフィックス(添え字)1〜4は、4枚のセル51のセル番号1〜4を示す。
【0039】
図3に示すグラフにおいて、負荷調整部7で第1の負荷I=I1および第2の負荷I=I2が一定時間に選択され、セル電圧監視部8でセル511〜514の電圧が測定される。検知処理部9aは、電圧の時間変化特性(CA1、CA2、CA3、CA4)から、第1の負荷から第2の負荷に変更させた後の最小電圧値となった時点から最大電圧値に達した時点までの時間を時間評価値(Δt1、Δt2、Δt3、Δt4)として測定する。
【0040】
図4は、時間評価値の温度依存性を表したグラフであり、横軸に温度、縦軸に時間評価値の対数を示したものである。このような時間評価値の温度依存性を表す情報は、予め実測結果をもとに作成され、検量線としてデータベース9bに格納される。検知処理部9aは、時間評価値の温度依存性を表す情報を用いて、上記測定された時間評価値から各セル51の温度(T1、T2、T3、T4)を推算することができる。このようにして、セル積層構造50の温度分布を把握することができる。
【0041】
同様にして、上記負荷変動の際のセル積層構造50から出力される全セル電圧の応答特性をセル電圧監視部8で収集することができる。この場合は、検知処理部9aは、セル積層構造50の平均時間評価値[Δt=(Δt1+Δt2+Δt3+Δt4)/4]を測定することができるため、図4に示すような時間評価値の温度依存性を表す情報を用いてセル積層構造50の平均温度を推算することができる。
【0042】
燃料流量や燃料濃度が一定の場合、同一の温度条件において、セル51またはセル積層構造50から得られる時間評価値logΔtは、ほぼ同じ値となる。
【0043】
(温度制御方法)
上述した温度推算方法を用いて、発電部の出力効率を向上させるための温度制御処理について説明する。図5及び図6は、温度制御処理の手法を示す図である。
【0044】
図6のフローチャートにおいて、検知処理部9aは、セル電圧監視部8によりセル電圧をモニターし、上述した方法を用いてセル積層構造50の時間評価値Δtに基づいてセル積層構造50の温度Tを推算する(ステップS1a)。検知処理部9aは、推算された温度Tに応じて冷却器からの冷却風量を調整するための温度度制御信号を温度調整部13に送る。なお、運転温度の制御方法は、冷却器の冷却風量の増減に限定されるものではなく、その他に、例えば、ジャケット式冷媒の循環速度制御法またはヒーターのON/OFF制御法を用いることもできる。
【0045】
図5は、推算された温度Tから冷却器からの冷却風量Qを換算するための関係を表したデータであり、データベース9bに予め記憶されている。図5では、センター温度Tcをセルの最適な運転温度として設定し、その周辺の温度範囲(〜Tmin,Tmin〜Tc−x,Tc−x〜Tc+x,Tc+x〜Tmax,Tmax〜)において、5つ冷却風量領域(Q1,Q2,Q3,Q4,Q5)に分けて、セル積層構造50の温度を制御する。なお、セル積層構造50の温度をより精密に制御するために、制御可能な冷却風量領域において、冷却風量領域をより細かく分割することができる。
【0046】
検知処理部9aは、図5のデータをもとに、上記ステップS1aで推算された温度TがTminより低いと判定すると(ステップS2a:YES)、冷却風量領域Q1に該当するため冷却風量をQ1とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS3a)。
【0047】
一方、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTmaxより高いと判定すると(ステップS4a:YES)、冷却風量領域Q5に該当するため冷却風量をQ5とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS5a)。
【0048】
また、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTc+x≦T≦Tmaxの範囲であると判定すると(ステップS6a:YES)、冷却風量領域Q4に該当するため冷却風量をQ4とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS7a)。
【0049】
また、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTmin≦T≦Tc−xの範囲であると判定すると(ステップS8a:YES)、冷却風量領域Q2に該当するため冷却風量をQ2とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS9a)。
【0050】
検知処理部9aは、上記推算された温度Tが適温範囲Tc−x≦T≦Tc+xの範囲であると判定すると(ステップS10a:YES)、冷却風量領域Q3に該当するため温度調整部13の冷却風量をQ3とする(ステップS11a)。
【0051】
(セルの出力制御方法)
さらに、温度のバラツキを有するセル51については、負荷調整部7を通して、セル51の温度条件に対応した負荷電流密度を設定することにより、各セル51から最適な出力を引き出すことができる。図7は、負荷制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0052】
制御部9の検知処理部9aは、上述した方法を用いてセル積層構造50の時間評価値Δtに基づいてセル51nの温度Tnを推算する(ステップS1b)。
【0053】
検知処理部9aは、上記ステップS1bで推算されたセル51の温度TnがTc−x≦Tn≦Tc+xの範囲であると判定すると(ステップS2b)、負荷調整部7の負荷電流密度を現状のままInとする(ステップS3b)。
【0054】
一方、検知処理部9aは、上記セル51の温度TnがTmin≦Tn≦Tc−xの範囲であると判定すると(ステップS4b)、負荷電流密度InをIn1に減少させる指示を表す負荷制御信号を負荷調整部7に出力する(ステップS5b)。また、検知処理部9aは、上記セル51の温度TnがTc+x≦Tn≦Tmaxの温度範囲であると判定すると(ステップS6b)、負荷電流密度InをIn2に増大させる指示を表す負荷制御信号を負荷調整部7に出力する(ステップS7b)。
【0055】
負荷電流密度In1およびIn2の値は、データベース9bに予め格納されたセル51の出力密度(W)と負荷電流密度との関係を表すデータ(図8)に基づいて決定する。図8には、例として30℃から70℃まで、10℃ずつ、温度を変化させた場合の出力密度と負荷電流密度との関係を示す。なお、図8の温度間隔を狭めることにより、出力密度と負荷電流密度との関係をより正確に把握することができる。温度が求められたセル51は、該温度の出力密度と負荷電流密度の曲線から、負荷電流密度を決めることができる。この場合は、最大出力密度が得られたときの負荷電流密度より低い負荷電流密度を選択することが望ましい。上記のように、各セル51の温度条件に応じて、負荷調整部7を通して、負荷電流密度を選択することにより、各セル51から効率よく電力を引き出すことができる。
【0056】
上記の温度センサレスによるDMFC温度の推算方法は、セル積層構造50のカソードへ空気をファンなどで送気する送気型DMFC、またはブリージング型DMFCの両方とも適用することができる。
【0057】
(実施例1−1)
一例として、図9に本実施形態によるブリージング型DMFCの評価結果を示す。セル積層構造50から取り出される負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際のセル51から出力されるセル電圧の応答特性(CB1、CB2、CB3、CB4、CB5、CB6)を示している。これらのCB1〜CB6は、セル積層構造50における6つのセル511〜516において測定されたセル電圧の特性を示している。図9より、セル51(CB1〜CB6)の時間評価値(logΔt)を得ることができた。得られた時間評価値を、図10に示すように、データベース9bに予め格納された時間評価値の対数logΔtの温度依存性を表したグラフ(検量線)と照合することにより、各セル51(CB1〜CB6)の温度はそれぞれ45℃、50℃、55℃、60℃、65℃と推算できる。これらのセル51の温度条件及び図8に示すような出力密度と負荷電流密度との関係を示すグラフに基づいて、負荷調整部7を操作して、各セル51の負荷(Inx)を個別に調整することにより、各セル51から効率よく電力を引き出すことが可能となる。
【0058】
なお、負荷電流I1の印加時間変化による電圧の時間的変化を図11に示した。さらに、図11から得られた時間評価値Δtと負荷電流I1の印加時間t1との関係を図12に示す。図12から、時間評価値Δtは、負荷電流I1の印加時間t1の変化に対して、あまり変化しないことがわかる。したがって、セル電圧E1が非定常時の負荷電流I1の印加時間t1で測定を行うことで、測定時間を短縮することができる。
【0059】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、負荷変動によるセル電圧の応答特性から時間評価値と電圧評価値とを測定し、時間評価値と電圧評価値とから燃料濃度と温度とを同時に求める手法である。
【0060】
この第2の実施形態に係る燃料電池システムの構成は、上記図1に示した燃料電池システム1と同様であるため、上記図1を用いて説明を行う。ただし、第2の実施形態では、制御部9における検知処理部9aの動作及びデータベース9bに格納される内容が異なる。その他の部分については詳しい説明は省略する。
【0061】
(センサレスによるDFMCの燃料濃度及び温度の同時推算方法)
セル積層構造50へ供給される燃料の濃度と運転温度とを同時に推算する方法について説明する。
図13は、負荷調整部7で負荷が切り換えられ、セル積層構造50から取り出される負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際のセル51から出力されるセル電圧の応答特性(X1、X2、X3)を示している。これらX1、X2、X3は、セル積層構造50における3つのセル511〜513においてそれぞれ測定されたセル電圧の応答特性を示している。各々のセル511〜513は、セル電圧監視部8に接続され、各セル511〜513の電圧が個別に監視され、セル電圧信号が検知処理部9aに供給される。図13において、上付のサフィックス(添え字)1〜3は、3枚のセル51のセル番号1〜3を示す。
【0062】
図13に示すグラフにおいて、負荷調整部7で第1の負荷I=I1および第2の負荷I=I2(I1<I2)が一定時間に選択され、セル511〜513からセル電圧監視部8でセル511〜513の電圧が測定される。検知処理部9aは、電圧の応答特性(X1、X2、X3)から、第1の負荷から第2の負荷に変更させた後の最小電圧値となった時点から最大電圧値に達した時点までの時間を時間評価値(Δt1、Δt2、Δt3)として測定する。また、検知処理部9aは、第2の負荷の印加時間(t2)において得られた最大電圧値を電圧評価値(E1max、E2max、E3max)として測定する。
【0063】
図14は、横軸に時間評価値、縦軸に電圧評価値を示し、セル51の燃料濃度(C1、C2、C3、・・・、Cn)に対する時間評価値と電圧評価値の依存性を表すグラフと、温度(T1、T2、T3、T4、T5、・・・、Tn)に対する時間評価値と電圧評価値の依存性を表すグラフとを同一平面に重ねて表したものである。図14中のグラフの時間評価値Δtと電圧評価値Emaxの各交点から温度T及び燃料濃度Cの値が求められる。したがって、図14に示すような燃料濃度及び温度に対する時間評価値及び電圧評価値の依存性を表す情報を、予め実測結果をもとに作成してデータベース9bに格納しておけば、この情報に基づいて、上記図13のような測定により得られた二つのパラメーター(時間評価値及び電圧評価値)から、異なる二つのパラメーター(セル51へ供給される燃料の濃度と温度)を同時に推算することができる。図14には、一例として、三種類の燃料濃度(C1、C2、C3)および五種類の温度(T1、T2、T3、T4、T5)のグラフをそれぞれ示すが、本実施形態においてグラフの本数は、推算の感度と精度に応じて適宜増減することが出来る。また、図14のグラフを図15のように横軸を時間評価値、縦軸を温度としたグラフに変換することも可能である。
【0064】
同様に、上記負荷変動の際のセル積層構造50から出力される全セル電圧の応答特性をセル電圧監視部8で収集することができる。この場合は、セル積層構造50の平均時間評価値[Δt=(Δt1+Δt2+Δt3+・・・+Δtn)/n]と平均電圧評価値[Emax=(E1max+E2max+E3max+・・・+Enmax)/n]が測定されるため、平均時間評価値と平均電圧評価値とを用いて、図14又は図15の燃料濃度および温度に対する時間評価値及び電圧評価値の依存性を表したグラフからセル積層構造50へ供給される燃料濃度の平均値(C)および温度の平均値(T)を同時に推算することができる。
【0065】
その他にも、各セル51の燃料濃度値からセル積層構造50へ供給する燃料の平均濃度[C=(C1+C2+C3)/3]を推算することができる。同様に、各セルの運転温度からセル積層構造50の温度の平均値[T=(T1+T2+T3)/3]を推算することができる。
【0066】
また、図16、図17に示すように、上記時間評価値(Δt)の代わりに、第2の負荷の印加時間(t2)を加えた値(t21/2/(Δt1/2−t21/2))の絶対値の自然対数を時間評価値[ln|t21/2/(Δt1/2-t21/2)|]とすることができる。
【0067】
その他にも、第1の負荷I1から第2の負荷I2(I1>I2)に切り替えてセル51に負荷変動を与えた場合、セルの最大電圧値となった時点から最小電圧値となる時点までの時間を時間評価値とすることもできる。また、この場合の電圧評価値は、第2の負荷の印加時間(t2)を経過したときのセル51の最小電圧値とする。
【0068】
また、電圧評価値として、第1の負荷I1から第2の負荷I2に切り替え、第2の負荷の印加時間(t2)を経過したときのセル51の最大電圧値と最小電圧値との電圧差(ΔE)の絶対値を用いることもできる。図18に、セル51の最大電圧値と最小電圧値との電圧差(ΔE)の絶対値を電圧評価値とした場合の電圧評価値と時間評価値、燃料濃度、温度との依存性を示す三次元グラフを示す。この場合は電圧評価値と時間評価値、温度、燃料濃度との間の相関関係を表す相関関数を求めることができる。この方法により、迅速にセル51の燃料濃度と温度を求めることもできる。
【0069】
同一のセル積層構造50を有し、同じ運転時間および運転温度、燃料濃度などの運転条件において、セル51またはセル積層構造50から出力される時間評価値または電圧評価値はほぼ等しい値となる。しかし、同一のセル積層構造50を有する場合においても、異なる運転時間において、運転時間の長期化に伴った電解質膜の劣化やカソードのフラッディングなどの影響を受け、同じ運転温度と燃料濃度により、セル51またはセル構造50から同じ時間評価値と電圧評価値が得られなくなるおそれがある。この場合は、所定の運転時間において、各運転温度または各燃料濃度における時間評価値および電圧評価値を予め測定してデータベースを作成し、データベース9bに格納すればよい。データベースの作成は、例えば約500時間の運転間隔で行うことができるが、データベースの作成間隔が短ければ短いほど、より正確な評価結果が得られると考えられる。本実施形態においては、データベースの作成間隔は燃料電池システムの運転条件および電解質膜の劣化速度、カソードのフラッディングなどの状況から総合的に判断し、適切に選択することができる。
【0070】
上記燃料電池システムにおいて、負荷調整部7を用いて、第1の負荷(I1)または第2の負荷(I2)を調整することにより、いろいろな電圧信号の曲線を得ることができる。例えば、図13の(X1、X2)のような電圧信号の曲線を得るためには、第2の負荷は第1の負荷より大きく設定し、且つ図19に示された温度依存性を示すIV曲線(電流電圧曲線)において、電極反応律速および物質(燃料および空気)拡散(輸送)律速の領域を避けて設定することが望ましい。換言すれば、第2の負荷は主に抵抗分極(抵抗過電圧)が支配的な領域において選択され、セル積層構造50またはセル51に与えられることが望ましい。また、図19において、運転温度T5におけるIV曲線により得られたI52の領域が運転温度T1のI12と比べて広いが、測定条件を揃えるために、運転温度T1のI12を選択することができる。
【0071】
また、第2の負荷は一律に物質拡散律速の領域に設定することもできるが、電極の劣化およびカソードのフラッディングを防ぐために、第2の負荷の印加時間(t2)をなるべく短く設定すると良い。物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定する場合、図20のようなセル電圧の応答特性(J7、J8、J9)が得られる。この場合、セル電圧の応答特性(J7、J8、J9)の第1のピークの最小電圧値と、第2の出力応値と、その電圧差から電圧評価値(E7min、E7max、ΔE7、E8min、E8max、ΔE8、E9min、E9max、ΔE9)を求めることができる。具体的には次の通りである。
【0072】
セル電圧の応答特性(J7)の第1のピークの最小電圧値と、第2のピークの最大電圧値(出力応値)と、その電圧差から電圧評価値(E7min、E7max、ΔE7)を求めることができる。同様に、セル電圧の応答特性(J8)の第1のピークの最小電圧値と、第2のピークの最大電圧値(出力応値)と、その電圧差から電圧評価値(E8min、E8max、ΔE8)を求めることができる。また、セル電圧の応答特性(J9)の第1のピークの最小電圧値と、第2の電圧信号の変曲点の電圧値(出力応値)と、その電圧差(ΔE9)から電圧評価値(E9min、E9max、ΔE9)を求めることができる。ここで変曲点とは、第1のピークの後に最初に現れる、電圧値が略一定値となる期間の最初の点をいう。すなわち、この電圧値が略一定値となる部分を踊り場と称するならば、この踊り場の左端の点を言う。一方、時間評価値(Δt7、Δt8、Δt9)は、上記電圧差(ΔE7、ΔE8、ΔE9)が測定される2点の電圧信号間(EminとEmaxの間)の時間から求めることができる。なお、物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定して、測定を行なう場合、第2のピークの最大電圧値及び第2の電圧信号の変曲点の電圧値は、第2の負荷の印化時間(t2)において得られるセル電圧の応答曲線の中で、最大の電圧値でなくてもよい。
【0073】
物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定した場合に測定された電圧評価値(Emin、Emax、ΔE)と時間評価値(Δt)の、セル51の燃料濃度(C1、C2、C3、・・・、Cn)および温度(T1、T2、T3、・・・、Tn)に対する依存性を表すグラフを図21〜図23にそれぞれ示す。図21〜図23のグラフは、物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定した場合のデータベースとして予めデータベース9bに格納することができる。図21〜図23には、三種類の燃料濃度(C1、C2、C3)における時間評価値及び電圧評価値の依存性のグラフ、および三種類の温度(T1、T2、T3)における時間評価値及び電圧評価値の依存性のグラフをそれぞれ示すが、これらのグラフの本数は、推算の感度と精度に応じて適宜に増減することが出来る。本実施形態では、図21〜図23のようなグラフに基づいて、物質拡散律速の領域において、第2の負荷を設定したときに得られた電圧評価値と時間評価値とから、セル51の燃料濃度とセル51の温度とを同時に求めることができる。
【0074】
上記の説明から明らかなように、セル51またはセル積層構造50の電圧の応答特性は第1の負荷と第2の負荷の設定値に依存し、同一セル51またはセル積層構造50において、同じ第1の負荷と第2の負荷の設定値とこれらの設定値より得られたデータベースを使用することが望ましい。
【0075】
また、第1の負荷を第2の負荷より大きく設定した場合でも、得られた電圧信号の経時変化曲線から電圧評価値と時間評価値を測定・利用することもできる。この場合、電圧信号の最大値と最小値の出現する順番は異なるが、同様に電圧評価値として用いることができる。また、その電圧差の絶対値を電圧評価値とすることができる。
【0076】
なお、本実施形態はPassive型(ブリージング型)DMFCまたはActive型(送気型)DMFCの両方へ適用させることができる。
【0077】
次に、本発明のセンサレスによるDFMCに供給される燃料の濃度と温度の同時推算方法に係る実施例について説明する。
【0078】
(実施例2−1)
実施例2−1はActive型(送気型)DMFCの場合の実施結果を示す。
異なる運転温度および燃料濃度において、負荷調整部7で負荷が切り換えられ、セル51に印加した負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際のセル51から出力されるセル電圧の応答特性がそれぞれG1、G2、G3、G4、G5、G6、G7のような応答曲線として得られたものとする(図示省略)。上付のサフィックス(添え字)はそれぞれ、異なる温度または燃料濃度条件における同一セル51から得られた電圧の応答特性を示す。
【0079】
負荷調整部7で第1の負荷I=I1および第2の負荷I=I2がそれぞれ一定時間(t1、t2)に選択され、セル電圧監視部8でセル51の電圧が測定される。検知処理部9aは、電圧の時間的変化特性(G1〜G7)から、第1の負荷から第2の負荷に変更させた後の最小電圧値となった時点から最大電圧値に達した時点までの時間を時間評価値(Δt1、Δt2、Δt3、Δt4、Δt5、Δt6、Δt7)として測定する。また、検知処理部9aは、第2の負荷に変更させた後の所定時間(t2)において得られた最大電圧値を電圧評価値(E1max、E2max、E3max、E4max、E5max、E6max、E7max)として測定する。
【0080】
この時間評価値と電圧評価値を用いて、データベース9bに予め格納されているセル51の燃料濃度(C1、C2、C3、・・・、Cn)及び温度(T1、T2、T3、T4、T5、・・・、Tn)に対する時間評価値及び電圧評価値の依存性を表すグラフ(図14)に基づいて、セル51へ供給される燃料の濃度とセル51の温度とを同時に推算することができる。ここでは、C1<C2<C3<・・・<Cn、またはT1<T2<T3<T4<T5<・・・<Tnである。図24及び図25に燃料濃度と温度の推算結果を示した。図24に示すように、上記得られた時間評価値(Δt1〜Δt7)と電圧評価値(E1max〜E7max)とにより、それぞれの時間評価値と電圧評価値の交点(Z1、Z2、Z3、Z4、Z5、Z6、Z7)から、セル51へ供給される燃料の濃度(C1、C3)と温度(T1、T2、T3、T4、T5、T6、T7)を推算することができた。例えば、図24により、Δt1とE1maxの交点(Z1)から燃料濃度と温度はそれぞれC3とT1であると求められる。また、Δt6とE6maxの交点(Z6)から燃料濃度と温度はそれぞれC1とT3であると求められる。同様の方法で時間評価値と電圧評価値とのそれぞれの交点から求められた燃料濃度と温度の値を図26に示す。
【0081】
(実施例2−2)
実施例2−2は、Passive型(ブリージング型)DMFCの場合の実施結果を示す。
【0082】
異なる運転温度および燃料濃度において、負荷調整部7で負荷が切り換えられ、セル51に印加した負荷電流Iがステップ状に負荷電流I1から負荷電流I2に変動した際のセル51から出力されるセル電圧の応答特性がそれぞれJ1、J2、J3、J4、J5、J6、J7、J8、J9のような電圧の時間的変化特性として得られるものとする。物質拡散律速の領域において第2の負荷を設定する場合、得られたJ7、J8、J9の電圧応答特性を図20に示す。J1、J2、J3、J4、J5、J6の電圧応答特性は図示を省略する。Jの上付のサフィックス(添え字)はそれぞれ、異なる温度または燃料濃度条件における同一セル51から得られた電圧の応答特性を示す。
【0083】
負荷調整部7で第1の負荷I=I1および第2の負荷I=I2がそれぞれ一定時間(t1、t2)に選択され、セル51からセル電圧監視部8でセル51の電圧が測定される。検知処理部9aは、セル51の電圧の応答特性(J1〜J9)から、第1の負荷から第2の負荷に変更させた後の最小電圧値になった時点から最大電圧値(または第2のピークの最大電圧値、または第2の電圧信号の変曲点。出力応値)に達した時点までの時間を時間評価値(Δt1、Δt2、Δt3、Δt4、Δt5、Δt6、Δt7)として測定する。
【0084】
また、検知処理部9aは、第2の負荷に変更させた後の所定時間(t2)に得られた電圧信号の第1のピークの最小値を第1の電圧評価値(E1min、E2min、E3min、E4min、E5min、E6min、E7min、E8min、E9min)として求める。また、第2の負荷に変更させた後の所定時間(t2)に得られた電圧信号の最大電圧値、第2のピークの最大電圧値または変曲点の電圧値を第2の電圧評価値(E1max、E2max、E3max、E4max、E5max、E6max、E7max、E8max、E9max)として求める。また、上記最小値(Emin)と最大値(Emax)との電圧差を第3の電圧評価値(ΔE1、ΔE2、ΔE3、ΔE4、ΔE5、ΔE6、ΔE7、ΔE8、ΔE9)として求める。
【0085】
この時間評価値と第1〜第3の電圧評価値とを用いて、データベース9bに予め格納されているセル51の燃料濃度及び温度に対する時間評価値及び第1〜第3の電圧評価値の依存性を表したグラフ(図21〜図23)に基づいて、セル51へ供給される燃料の濃度とセル51の温度を推算することができる。ここでは、C1<C2<C3、またはT1<T2<T3である。図27〜図29に燃料濃度とセル51の温度の推算結果を示す。
【0086】
図27に示すように、上記得られた時間評価値(Δt1〜Δt9)と第1の電圧評価値(Emin1〜Emin9)により、それぞれの時間評価値と第1の電圧評価値との交点(K1、K2、K3、K4、K5、K6、K7、K8、K9)から、セル51へ供給される燃料の濃度とセル51の温度を同時に推算することができる。例えば、図27により、Δt4とEmin4の交点(K4)から燃料濃度とセル51の温度はそれぞれC1とT2であることが求められる。また、Δt6とEmin6の交点(J6)から燃料濃度とセル51の温度はそれぞれC3とT2であることがわかった。同様の方法を用いて、図30に示すように、時間評価値と第1〜第3の電圧評価値(Emin、Emax、ΔE)のそれぞれの交点(K、O、P)からそれぞれの燃料濃度とセル51の温度を同時に求めることができる。
【0087】
(燃料濃度制御方法)
燃料電池システム1において、安定なセル出力を維持するために、燃料供給部4から発電部5へ供給する燃料が所定の濃度範囲において保たれることが非常に重要である。
【0088】
そこで、上述した方法で各セル51または積層セル構造50へ供給される燃料の濃度を推算し、燃料供給部4(または燃料流量調整バルブ)を操作して、燃料濃度を調整する方法について説明する。図31は、制御部9の処理手順を示すフローチャートを示したものである。
【0089】
図31において、検知処理部9aは、セル電圧監視部8によりセル電圧をモニターし、上述した方法を用いてセル積層構造50の時間評価値と電圧評価値とに基づいて、燃料濃度Cと温度Tとを同時に推算する(ステップS1c)。検知処理部9aは、上記ステップS1aで推算された燃料濃度Cに応じて燃料タンク3からの燃料の供給流量を調整するための供給量制御信号を燃料供給部4に送る。
【0090】
例えば、図31では、燃料濃度をCとして、その濃度範囲(〜Cmin、Cmin〜Cc−x、Cc−x〜Cc+x、Cc+x〜Cmax、Cmax〜)において、それぞれ5つの燃料濃度制御モード(P1、P2、P3、P4、P5)に分けて、セル積層構造50へ供給する燃料の濃度を燃料制御する。セル積層構造50へ供給される燃料の濃度をより精密に制御するために、制御可能な燃料濃度範囲において、燃料濃度の制御モードをより細かく分割することができる。
【0091】
検知処理部9aは、上記ステップS1aで推算された燃料濃度CがCminより低いと判定すると(ステップS2c:YES)、燃料濃度上昇処理P1として燃料供給量を増大させる指示を表す供給量制御信号を燃料供給部4に出力する(ステップS3c)。
【0092】
一方、検知処理部9aは、上記推算された燃料濃度CがCmaxより高いと判定すると(ステップS4c:YES)、燃料濃度上昇処理P5として燃料供給量を減少させる指示を表す燃料濃度制御信号を燃料供給部4に出力する(ステップS5c)。
【0093】
また、検知処理部9aは、上記推算された燃料濃度CがCc+x≦C≦Cmaxの範囲であると判定すると(ステップS6c:YES)、燃料濃度上昇処理P4として燃料供給量を減少させる指示を表す燃料濃度制御信号を燃料供給部4に出力する(ステップS7c)。
【0094】
また、検知処理部9aは、上記推算された燃料濃度CがCmin≦C≦Cc−xの範囲であると判定すると(ステップS8c:YES)、燃料濃度上昇処理P2として燃料供給量を増大させる指示を表す燃料濃度制御信号を燃料供給部4に出力する(ステップS9c)。
【0095】
検知処理部9cは、上記推算された燃料濃度CがCc−x≦C≦Cc+xの範囲であると判定すると(ステップS10c:YES)、燃料濃度は適切な範囲P3に該当するため燃料供給部4の燃料供給量をそのまま維持する(ステップS11c)。
【0096】
(温度制御方法)
次に、上述した方法で推算された温度を用いて発電部の出力効率を向上させるための温度制御処理について説明する。図32は、制御部9の処理手順を示すフローチャートを示したものである。ここでは、制御部9は、上記図5のグラフを用いて温度調整部13により、セル積層構造50の温度を制御する。
【0097】
図32において、検知処理部9aは、セル電圧監視部8によりセル電圧をモニターし、上述した方法を用いてセル積層構造50の時間評価値と電圧評価値とに基づいて、燃料濃度Cと温度Tとを同時に推算する(ステップS1d)。検知処理部9aは、推算された温度Tに応じて冷却器からの冷却風量を調整するための温度度制御信号を温度調整部13に送る。なお、運転温度の制御方法は、冷却器の冷却風量の増減に限定されるものではなく、その他に、例えば、ジャケット式冷媒の循環速度制御法またはヒーターのON/OFF制御法を用いることもできる。
【0098】
検知処理部9aは、図5のグラフをもとに、上記ステップS1aで推算された温度TがTminより低いと判定すると(ステップS2a:YES)、冷却風量領域Q1に該当するため冷却風量をQ1とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS3a)。
【0099】
一方、検知処理部9dは、上記推算された温度TがTmaxより高いと判定すると(ステップS4d:YES)、冷却風量領域Q5に該当するため冷却風量をQ5とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS5d)。
【0100】
また、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTc+x≦T≦Tmaxの範囲であると判定すると(ステップS6d:YES)、冷却風量領域Q4に該当するため冷却風量をQ4とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS7d)。
【0101】
また、検知処理部9aは、上記推算された温度TがTmin≦T≦Tc−xの範囲であると判定すると(ステップS8d:YES)、冷却風量領域Q2に該当するため冷却風量をQ2とする指示を表す温度制御信号を温度調整部13に出力する(ステップS9d)。
【0102】
検知処理部9aは、上記推算された温度Tが適温範囲Tc−x≦T≦Tc+xの範囲であると判定すると(ステップS10d:YES)、冷却風量領域Q3に該当するため温度調整部13の冷却風量をQ3とする(ステップS11d)。
【0103】
上記実施形態では、セル51へ供給される燃料の濃度と温度を別々に制御する方法について述べたが、両変数は推算結果に基づいて同時に(並列的に)調整・制御することもできる。
【0104】
なお、DMFCの最高出力を保つために、セル積層構造50の平均温度は、最低温度を有するセル51の温度より高く設定することが望ましい。しかしながら、温度が高くなるとメタノールのクロスオーバー量も増大し、その結果、DMFCの出力が低下する恐れも出てくる。本実施形態は、それらのバランスを考慮し、最大出力が得られるよう、温度調整部13を操作する。
【0105】
また、冷却風量の調整による温度調節を行う場合、セル積層構造50への送気量がカソードで行われている電極反応に対して、空気拡散律速にならない範囲において、冷却風量を調整すると良い。
【0106】
なお、この発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1…燃料電池システム、2…補器類、3…燃料タンク、4…燃料供給部、5…発電部、6…空気供給部、7…負荷調整部、8…セル電圧監視部、9…制御部、9a…検知処理部、9b…データベース、10…電力調整部、11…負荷電力、50…セル積層構造、51…セル、12…アノード集電板、13…温度調整部、14…カソード集電板、18A,18B…締め付け板、19A,19B…固定具、20…膜電極接合体(MEA)、22…アノード流路板、24…カソード流路板、22A,24A…出力端子、26…ガスケット、L1,L2,L3…供給ライン、E1,E2,E3,E4,E5,E6,E7…信号ライン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数のセルを有する発電部と、
前記複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視する電圧監視部と、
前記発電部から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部と、
前記負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に前記出力電圧が最小値となった時点から最大値となるまでの時間を測定する測定部と、
前記時間の温度に対する依存性を表す情報に基づいて前記セルの温度を推算する推算部と
を具備することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記発電部又は前記セルの温度を調整する温度調整部と、
前記推算された温度に応じて前記温度調整部を制御する制御部と
をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記温度調整部は、冷却器及び加熱器の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記推算された温度に応じて前記負荷電流を制御する負荷制御部をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
積層された複数のセルを有する発電部と、
前記セルに燃料を供給する、燃料供給量が調整可能な燃料供給部と、
前記複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視する電圧監視部と、
前記発電部から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部と、
前記負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に前記出力電圧が第1の出力応値となった時点から第2の出力応値となるまでの時間と、前記第1又は第2の出力応値に関する電圧値とを測定する測定部と、
前記時間及び前記電圧値の燃料濃度及び温度に対する依存性を表す情報に基づいて、前記セルへ供給される燃料濃度及び前記セルの温度を推算する推算部と
を具備することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
前記電圧値は、前記第1の出力応値、前記第2の出力応値、又は前記第1の出力応値と前記第2の出力応値との差であることを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記第1の出力応値は前記出力電圧の最小値であって且つ前記第2の出力応値は前記出力電圧の最大値であるとき、前記第2の値は前記第1の値より大きいことを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記第1の出力応値は前記出力電圧の最大値であって且つ前記第2の出力応値は前記出力電圧の最小値であるとき、前記第2の値は前記第1の値より小さいことを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記推算された燃料濃度に応じて前記燃料供給量を制御する制御部をさらに具備することを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記発電部又は前記セルの温度を調整する温度調整部と、
前記推算された温度に応じて前記温度調整部を制御する制御部と
をさらに具備することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記温度調整部は、冷却器及び加熱器の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項10に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記時間は、前記負荷電流が前記第2の値に調整されている時間を含むことを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項1】
積層された複数のセルを有する発電部と、
前記複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視する電圧監視部と、
前記発電部から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部と、
前記負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に前記出力電圧が最小値となった時点から最大値となるまでの時間を測定する測定部と、
前記時間の温度に対する依存性を表す情報に基づいて前記セルの温度を推算する推算部と
を具備することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記発電部又は前記セルの温度を調整する温度調整部と、
前記推算された温度に応じて前記温度調整部を制御する制御部と
をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記温度調整部は、冷却器及び加熱器の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記推算された温度に応じて前記負荷電流を制御する負荷制御部をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
積層された複数のセルを有する発電部と、
前記セルに燃料を供給する、燃料供給量が調整可能な燃料供給部と、
前記複数のセルのうち少なくとも一つのセルの出力電圧を監視する電圧監視部と、
前記発電部から取り出される負荷電流を調整する負荷調整部と、
前記負荷電流が第1の値から第2の値に調整された後に前記出力電圧が第1の出力応値となった時点から第2の出力応値となるまでの時間と、前記第1又は第2の出力応値に関する電圧値とを測定する測定部と、
前記時間及び前記電圧値の燃料濃度及び温度に対する依存性を表す情報に基づいて、前記セルへ供給される燃料濃度及び前記セルの温度を推算する推算部と
を具備することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
前記電圧値は、前記第1の出力応値、前記第2の出力応値、又は前記第1の出力応値と前記第2の出力応値との差であることを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記第1の出力応値は前記出力電圧の最小値であって且つ前記第2の出力応値は前記出力電圧の最大値であるとき、前記第2の値は前記第1の値より大きいことを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記第1の出力応値は前記出力電圧の最大値であって且つ前記第2の出力応値は前記出力電圧の最小値であるとき、前記第2の値は前記第1の値より小さいことを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記推算された燃料濃度に応じて前記燃料供給量を制御する制御部をさらに具備することを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記発電部又は前記セルの温度を調整する温度調整部と、
前記推算された温度に応じて前記温度調整部を制御する制御部と
をさらに具備することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記温度調整部は、冷却器及び加熱器の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項10に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記時間は、前記負荷電流が前記第2の値に調整されている時間を含むことを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2010−225460(P2010−225460A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72480(P2009−72480)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]