説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池のストイキ比が設定値よりも低下することを防止する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システム10の制御部80は、燃料電池12の実出力電力値PFCが要求電力値PREQとの電力差ΔPを検知したときに、電力差ΔPに基づいて補正電流値ΔIを算出する。さらに補正電流値ΔIに基づいてFCコンバータ66のデューティ比を補正するとともに、補正電流値ΔIに基づいてエアコンプレッサ46の酸化ガス流量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の出力電力を制御する制御部を備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の駆動源としてモータ等の電気機械が使用され、さらにこの駆動源に電力を供給する電源として燃料電池が使用されている。このような車両には燃料電池および燃料電池の発電に必要な周辺機器からなる燃料電池システムが搭載されている。
【0003】
燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池に燃料(水素ガス)を供給する水素供給系と、燃料電池に酸化ガス(空気)を供給する空気供給系を備えている。さらに燃料電池システムは、燃料電池から駆動源等に電力を送る電力系を備えている。加えて、燃料電池システムは、燃料供給系、空気供給系、電力系から種々の信号を受け取るとともに、各系に制御指令を送る制御部を備えている。
【0004】
燃料電池の発電量は制御部により制御される。車両に設けられたアクセルペダルの開度が制御部に送信されると、制御部はこのアクセル開度に基づいて要求トルクを求める。また、車速センサから車速が制御部に送信されると、制御部は駆動源の回転数を求める。さらに要求トルクと駆動源の回転数とから燃料電池が出力すべき電力である指令電力を算出する。
【0005】
また、制御部には燃料電池の出力電力と出力電流との関係が定められた電力−電流特性(以下、P−I特性と呼ぶ)が記憶されており、制御部はこのP−I特性から指令電力に対応する電流値(以下、指令電流値と呼ぶ)を求める。さらに制御部には燃料電池の出力電流と出力電圧との関係が定められた電流−電圧特性(以下、I−V特性と呼ぶ)が記憶されており、制御部はこのI−V特性から指令電流値に対応した電圧値(以下、指令電圧値と呼ぶ)を求める。
【0006】
指令電流値に基づいて、燃料電池に供給される空気の供給量(以下、指令空気量と呼ぶ)が定められる。制御部では、指令電流値の電流を燃料電池から出力させる際に燃料電池で消費される空気流量(理論空気量)を算出するとともに、理論空気量にストイキ比と呼ばれるパラメータを掛けた値を算出し、これを指令空気量としている。ストイキ比とは、理論空気量に対する、実際に燃料電池に供給される空気量の過剰率を示す値であり、燃料電池の出力変動を考慮して定められる値である。
【0007】
また、燃料電池の出力電流が指令電流値となるように制御し、出力電圧が指令電圧値となるように制御する電流・電圧制御手段としてDC−DCコンバータが使用される。DC−DCコンバータは燃料電池と駆動源との間に接続されており、内部に設けられたスイッチング素子のオン/オフ動作によって燃料電池から出力される電流の流れが断続される。このスイッチング動作において、スイッチング素子のオン/オフ比、すなわちデューティ比に応じて燃料電池の出力電流及び出力電圧が変化する。デューティ比は制御部により定められる。制御部は燃料電池の出力電流値および出力電圧値が指令電流値および指令電圧値となるようにDC−DCコンバータのデューティ比を定める。
【0008】
燃料電池の出力が上述したI−V特性に従うのであれば、デューティ比通りにDC−DCコンバータを作動させることによって出力電流値及び出力電圧値は指令電流値及び指令電圧値となる。しかし、燃料電池のI−V特性は燃料電池の経年劣化や温度変化等により変化することが知られており、制御部に記憶されたI−V特性が実際のI−V特性とは異なる場合がある。そうなると、デューティ比通りにDC−DCコンバータを作動させても、燃料電池の出力電流値および出力電圧値は指令電流値および指令電圧値とは異なってしまう。その結果、燃料電池の出力電力値は要求電力値よりも低くなる。
【0009】
そこで従来技術においては、燃料電池の出力電力と指令電力との差異を解消するためにフィードバック制御を行っている。すなわち、燃料電池の実際の出力電力を計測し、この出力電力と指令電力との偏差を求め、偏差がある場合にはPID関数等により指令電流値および指令電圧値を補正している。電流値及び電圧値補正後の燃料電池について再び出力電流と出力電圧を取得し、さらに出力電力を求め、当該出力電力と指令電力との差が解消されるまでフィードバック制御が継続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−243248号公報
【特許文献2】特開2004−39420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術においては、指令電流値の補正時に指令空気量の補正は行われていない。例えば、従来技術における空気供給量の制御技術を開示する文献として特許文献1および2が挙げられる。特許文献1においては指令空気量と実際の空気供給量との差異を解消する手段としてPID制御等のフィードバック制御が採用されている。また、特許文献2においては目標酸素濃度と実際の酸素濃度との偏差を解消するためにPID制御が採用されている。これらの文献では指令空気量や目標酸素濃度に一致するように空気流量や酸素濃度を変化させる制御を開示するに留まり、指令空気量または目標酸素濃度そのものの補正については開示されていない。このように、従来技術においては指令電流値の補正に伴う指令空気量の補正は行われていない。
【0012】
指令電流値が補正されたにも関わらず、指令空気量が維持されたままであると、上述したストイキ比の値は制御部に設定された値とは異なるものとなる。特に、指定電流値が補正により増加され、その一方で指令空気量が維持されたままであると、実際のストイキ比は制御部に設定された値よりも低くなる。その結果、燃料電池の電力出力が不安定になるおそれがあった。
【0013】
そこで、本願発明は、指令電流値の補正制御時におけるストイキ比の低下を防ぐ燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は燃料電池システムに関するものである。燃料電池システムは、燃料及び酸化ガスの供給を受けて発電する燃料電池と、燃料電池の出力電流と、燃料電池に供給する酸化ガスの供給量と、を変化させる制御部と、を備えている。制御部は、燃料電池に対する要求電力と、予め設定された燃料電池の電力電流特性とに基づいて、燃料電池に対する指令電流を求め、指令電流に基づいて、燃料電池に供給する酸化ガス流量を求める。また、燃料電池システムは、燃料電池の実出力電圧を測定する電圧センサと、実出力電流を測定する電流センサを備えている。制御部は、電圧センサから実出力電圧を取得し、電流センサから実出力電流を取得し、実出力電圧及び実出力電流から実出力電力を求める。制御部は、実出力電力と要求電力との差を検知したときに、差に基づいて補正電流を求め、補正電流に基づいて燃料電池の出力電流を変化させる。さらに制御部は、補正電流に基づいて補正流量を求め、補正流量に基づいて燃料電池に供給する酸化ガスの供給量を変化させる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明により、燃料電池の出力電流補正時におけるストイキ比の低下が防止され、燃料電池の出力が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る燃料電池システムを例示する図である。
【図2】制御部のシステム構成図である。
【図3】燃料電池の出力電流および出力電圧の補正制御を説明する図である。
【図4】燃料電池の出力電流および出力電圧の補正制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、本実施形態に係る燃料電池システムを示す。燃料電池システム10は、図示しない車両に搭載されている。燃料電池システム10は、燃料および酸化ガスの供給を受けて発電する燃料電池12と、燃料としての水素ガスを燃料電池12に供給する水素供給系20と、酸化ガスとしての空気中の酸素を燃料電池12に供給するための空気供給系40を備えている。さらに、燃料電池システム10は、電力の充放電を制御する電力系60と、システム全体を統括制御する制御部80とを備えている。
【0018】
燃料電池12は、多数の燃料電池セルを電気的に直列接続した状態で積層された固体高分子電解質膜型セルスタックとして構成されている。燃料電池12では、燃料極(アノード)においてH→2H+2eで表わされる酸化反応が生じる。また、空気極(カソード)では、1/2O+2H+2e→HOで表わされる還元反応が生じる。したがって、燃料電池12全体としては、H+1/2O→HOで表わされる化学反応が生じることになる。
【0019】
水素供給系20は、高圧の水素タンク等からなる水素供給源22を備えている。さらに水素供給系20は、水素供給源22から燃料電池12の燃料極に供給する水素ガスが流れる水素供給通路24と、燃料電池12から排出される水素オフガスが流れる水素排出通路26と、水素排出通路26から分岐して水素供給通路24に接続される循環通路28と、の3つの通路を備えている。さらに水素供給系20は、燃料電池12から排出された水素オフガスを循環通路28を経由して水素供給通路24に循環供給するための循環ポンプ30を備えている。
【0020】
さらに水素供給通路24には、水素供給源22から燃料電池12に向かう方向に従って順に第1の遮断弁32、第1の調圧弁33、第2の遮断弁34、圧力センサ35が設けられている。遮断弁32は水素供給源22からの水素ガスの流出を遮断するために設けられている。また、第1の調圧弁33は水素供給源22からの水素ガス圧を減圧するために設けられている。また、第2の遮断弁34は燃料電池12への水素ガスの供給を遮断するために設けられている。また、圧力センサ35は燃料電池12に供給される水素ガスの圧力を検出している。
【0021】
また、水素排出通路26には、燃料電池12側から順に、燃料電池12から排出される水素オフガスを遮断する第3の遮断弁36と、水素オフガスを排出する際に開弁される第4の遮断弁37が設けられている。
【0022】
空気供給系40は、燃料電池12の空気極に空気を供給する空気供給通路42と、燃料電池12から排出された空気が流れる空気排出通路44とを備えている。空気供給通路42には、大気中から空気を取り込む酸化ガス供給器として機能するエアコンプレッサ46と、燃料電池12に供給される空気流量を検出する流量検出器として機能するフローメータ48と、燃料電池12への空気供給を遮断するための第5の遮断弁50が設けられている。
【0023】
また、空気排出通路44には、燃料電池12からの空気の排出を遮断するための第6の遮断弁52と、空気供給圧を調整するための第2の調圧弁54が設けられている。
【0024】
電力系60は、燃料電池12が実際に出力する電流(実出力電流)を検出する電流検出器として機能する電流センサ62と、燃料電池12が実際に出力する電圧(実出力電圧)を検出する電圧検出器として機能する電圧センサ64と、燃料電池12の実出力電流および実出力電圧を制御するFCコンバータ66とが設けられている。電流センサ62、電圧センサ64は、燃料電池12とFCコンバータ66との間に設けられている。
【0025】
FCコンバータ66はDC−DCコンバータから構成され、燃料電池12の出力電圧および出力電流を制御する昇降圧チョッパ回路を含んで構成される。FCコンバータ66にはスイッチング素子が設けられ、スイッチング素子のオン/オフ動作はデューティ比dによって定められる。このデューティ比dによって燃料電池12の出力電圧および出力電流が変化する。デューティ比dとはスイッチング素子のオン時間の割合を示すものであり、オン時間をtON、オフ時間をtOFF、スイッチング周期T(=tON+tOFF)とすると、デューティ比dはtON/Tで表わされる。FCコンバータ66はデューティ比dに応じて燃料電池12の出力電圧を昇圧する。具体的には昇圧率は1/(1−d)で表わされる。このデューティ比は制御部80にて定められ、制御部80からFCコンバータ66に送信される。
【0026】
また、電力系60は、バッテリ68と、バッテリ68の実出力電圧を測定する電圧センサ69と、バッテリ68の電圧を制御するバッテリコンバータ70とを備えている。さらに電力系60は、インバータ72、駆動源であるモータ74、補機類76を備えている。図1に示されているように、燃料電池システム10は、バッテリコンバータ70とインバータ72とが並列に燃料電池12に接続するパラレルハイブリッドシステムとして構成されている。
【0027】
バッテリコンバータ70は上述したFCコンバータ66と同様にDC−DCコンバータから構成され、バッテリ68の出力電圧および出力電流を制御する昇降圧チョッパ回路を含んで構成される。バッテリコンバータ70は制御部80からデューティ比を受信し、当該デューティ比に基づいてスイッチング素子を駆動させる。バッテリコンバータ70は、バッテリ68から供給される直流電圧を昇圧して燃料電池12の出力を補佐する機能と、燃料電池12が発電した直流電流、または回生制動によりモータ74が回収した回生電力を降圧してバッテリ68に充電する機能とを備えている。
【0028】
バッテリ68は、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギーの貯蔵源、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する。バッテリ68は、例えばリチウム二次電池等の二次電池が使用される。バッテリ68には、充電状態(SOC、State Of Charge)を検出するためのSOCセンサ(図示せず)が設けられており、SOCセンサによってバッテリ68の残容量を監視することができる。
【0029】
インバータ72は、例えばパルス幅変調(PWM)制御方式や矩形波制御方式で駆動されるインバータであり、制御部80からのスイッチング指令に従ってスイッチング素子がオン/オフ制御される。このオン/オフ制御によって燃料電池12およびバッテリ68から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換してモータ74の回転トルクを制御する。モータ74は例えば三相同期型の交流モータであり、車両の駆動源となる。
【0030】
補機類76は、燃料電池システム10に配置されている各モータ(ポンプやブロワなどの駆動源)や、これらのモータを駆動するためのインバータ類、更には各種の車載補機類(冷却水循環ポンプ、ラジエータ等)を総称するものである。
【0031】
制御部80は、水素供給系20、空気供給系40、電力系60から種々の信号を受信するとともに各系に対して制御指令を送る。また、アクセルポジションセンサ81から出力されるアクセル開度信号や、車速センサ82から出力される車速信号を受信し、システム全体の要求電力を求める。なお、システム全体の要求電力とは、車両走行電力と補機電力との合計値である。
【0032】
図2に制御部80のシステム構成図を示す。制御部80はECUとも呼ばれ、受信部84、送信部86、記憶部88、演算部90を含んで構成される。これら各部は互いに通信(アクセス)可能となっている。
【0033】
受信部84は入力インターフェースとして機能し、水素供給系20、空気供給系40、電力系60、アクセルポジションセンサ81、車速センサ82等から種々の信号を受信する。送信部86は出力インターフェースとして機能し、演算部90の演算結果を上述した各系およびセンサに送信する。
【0034】
記憶部88は、半導体メモリやハードディスク等の記憶手段を含んで構成され、燃料電池12の電力−電流特性(以下、P−I特性と呼ぶ)、電流−電圧特性(以下、I−V特性と呼ぶ)が記憶されている。さらに記憶部88には、燃料電池12の出力電力PFCを要求電力値PREQとするための制御プログラム等が記憶されている。
【0035】
演算部90は、いわゆるCPUを含んで構成されている。演算部90は、受信部84が受信した各種の値を取り込み、また、記憶部88に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行することにより、燃料電池12の出力電力値PFCが要求電力値PREQとなるための条件を算出する。
【0036】
以上、燃料電池システム10の構成について説明した。次に、燃料電池システム10の動作について説明する。
【0037】
アクセルペダル91(図1)が運転者により踏み込まれた際に、そのアクセル開度がアクセルポジションセンサ81により検知される。アクセル開度はアクセルポジションセンサ81から制御部80に送信される。制御部80はアクセル開度に基づいてモータ74に対する要求トルクを算出する。
【0038】
さらに制御部80は車速センサ82から車両速度を取得し、車両速度からモータ74の回転数を求める。制御部80は要求トルクおよび回転数からモータ74に供給すべき電力値を求める。次に制御部80は、モータ74に供給すべき電力に基づき、補機類76に供給する電力値を算出する。このようにして燃料電池システム10全体に供給すべき電力値が算出される。この燃料電池システム10全体に供給すべき電力値はそのまま燃料電池12が出力すべき電力値となる。燃料電池12が出力すべき電力値を以下では要求電力値PREQと呼ぶ。
【0039】
また、記憶部88には、回転数、トルク、電圧の関係を示すモータ特性及び、後述する空気ストイキ比と水素ストイキ比が記憶されている。制御部80は、要求トルクおよび回転数から、モータ74に印加する電圧値を求める。以下ではこの電圧値をモータ電圧Vと呼ぶ。
【0040】
また、制御部80の記憶部88には、燃料電池12の電力−電流特性(以下、P−I特性と呼ぶ)および電流−電圧特性(I−V特性)が予め記憶されている。P−I特性は燃料電池12の出力電力PFCに対する出力電流IFCの関係を表わしたものである。一般的にP−I特性曲線は出力電力PFCのピーク値を有しており、ピーク値までは電流の増加に伴って電力値が増加し、ピーク値以降は電流の増加に伴って電力値が漸減する。また、I−V特性曲線は電流の増加に伴って電圧が下がる傾向を有しており、電流値が低い領域と高い領域において減少傾向が急峻となる。
【0041】
制御部80は、記憶部88に記憶されたP−I特性に基づいて要求電力値PREQに対応した電流値を求める。以下ではこの電流値を指令電流値IREQと呼ぶ。さらに制御部80は、記憶部88に記憶されたI−V特性に基づいて指令電流値IREQに対応する電圧値を求める。以下この電圧値を指令電圧値VREQと呼ぶ。
【0042】
さらに制御部80は、指令電流値IREQに対応する酸化ガス流量を求める。以下、この酸化ガス流量を指令空気流量QREQと呼ぶ。制御部80では、指令電流値IREQの電流を燃料電池12から出力させる際に燃料電池12で消費される空気流量(理論空気量)を算出するとともに、理論空気量に空気ストイキ比を掛けた値を算出し、これを指令空気流量QREQとしている。同様に、指令電流値IREQの電流を燃料電池12から出力させる際に燃料電池12で消費される水素ガス流量(理論水素量)を算出するとともに、理論水素量に水素ストイキ比を掛けた値を算出し、これを指令水素量としている。
【0043】
指令空気流量QREQはエアコンプレッサ46に送信され、エアコンプレッサ46はフローメータ48が検出する空気流量を参照しながら、燃料電池12に供給される空気量が指令空気流量QREQとなるように駆動する。また、指令水素量は第1の調圧弁33に送信され、圧力センサ35の値を参照しながら、燃料電池12に供給される水素流量が指令水素量となるように駆動する。
【0044】
さらに制御部80は、モータ電圧Vと指令電圧値VREQの差を求め、この差からFCコンバータ66に対する指令デューティ比dREQを求める。FCコンバータ66の昇圧率は1/(1−dREQ)で表わされることから、1/(1−dREQ)=V/VREQを解くことによりdREQを求めることができる。制御部80はこの演算を実行することにより指令デューティ比dREQを求め、当該指令デューティ比dREQをFCコンバータ66に送信する。
【0045】
また、制御部80は、バッテリ68に燃料電池12の出力を補佐させるため、バッテリ68の出力電圧をバッテリコンバータ70により昇圧させる。制御部80は、バッテリ68の実出力電圧を電圧センサ69により検知するとともに、モータ電圧Vとバッテリの出力電圧との差に基づいてバッテリコンバータ70のデューティ比dを算出する。算出されたデューティ比dはバッテリコンバータ70に送信される。これにより、バッテリ68の出力電圧はバッテリコンバータ70によりモータ電圧Vまで昇圧される。
【0046】
燃料電池12が記憶部88に記憶された通りのI−V特性を有するのであれば、燃料電池12の実出力電圧VFCを指令電圧値VREQに制御することで、図3に示すように、燃料電池12の実出力電流値IFCは指令電流値IREQとなる。すなわち、燃料電池12の動作点は動作点1(IREQ,VREQ)となる。図3においては要求電力値PREQの等電力曲線が一点鎖線により示されている。記憶部88に記憶されたI−V特性と要求電力値PREQが動作点1で交わっていることから、燃料電池12の動作点が動作点1である場合には燃料電池12の実出力電力PFCとして要求電力値PREQが得られることが理解される。
【0047】
一方、燃料電池12の温度変化や経年劣化等により、燃料電池12の実際のI−V特性が制御部80の記憶部88に記憶されたI−V特性とは異なる場合、燃料電池12の実出力電圧VFCを指令電圧値VREQに制御すると、実出力電流値IFCは指令電流値IREQとは異なる値Iとなる。すなわち、図3において燃料電池12の動作点は動作点1とは異なる動作点2(I,VREQ)となる。この結果、燃料電池12の実出力電力値PFCは要求電力値PREQと異なる値となってしまう。このように実出力電力値PFCと要求電力値PREQとの電力差ΔPが発生したときには、制御部80は電力差ΔPを解消するためのフィードバック制御を実行する。
【0048】
燃料電池12の実際のI−V特性が分かっていれば、図3に示すように実際のI−V特性と要求電力値PREQとの交点を求めることにより新たな動作点3を即座に求めることが可能であるが、制御部80には実際のI−V特性が記憶されていない。そこで、制御部80は燃料電池12の出力電流および出力電圧を変化させることにより燃料電池12の動作点を動作点3に徐々に近づけるフィードバック制御を行っている。
【0049】
このフィードバック制御の制御フローを図4に示す。制御部80は電流センサ62から燃料電池12の実出力電流IFCを求める(S1)。さらに制御部80は電圧センサ64から燃料電池12の実出力電圧VFCを求める(S2)。続いて制御部80は実出力電流IFCと実出力電圧VFCとの積により実出力電力PFCを求める(S3)。
【0050】
さらに制御部80は要求電力値PREQと実出力電力値PFCとの電力差ΔPを求める(S4)。電力差ΔPが0であればフィードバック制御は実行されない。
【0051】
電力差ΔPが0でない場合、電力差ΔPを0にするフィードバック制御を行う。制御部80は、補正電流値ΔIを求めるために補正関数f(ΔP)に電力差ΔPを入力する(S6)。この補正関数f(ΔP)について説明する。制御部80の記憶部88には、電力差ΔPを入力変数とし、補正電流値ΔIを出力変数とする補正関数が記憶されている。補正関数は例えばPID関数から構成され、比例項、積分項、微分項が設けられている。制御部80はこの補正関数に電力差ΔPを入力しこれにより補正電流値ΔIを算出する。
【0052】
また、制御部80は、補正電流値ΔIを現在の指令電流値IREQに加算し、加算後の指令電流値IREQ+ΔIと実出力電流IFCとが一致するようにPID制御によって指令デューティ比dREQを補正する(S7)。FCコンバータ66は補正後の指令デューティ比dREQに基づいて作動する。
【0053】
なお、上述したように、指令デューティ比dREQは指令電圧値VREQをもとに算出していたが、デューティ比の補正を行う際には補正電流値ΔIを基準としている。上述したように、実際の燃料電池12のI−V特性が記憶部88が記憶しているI−V特性とは異なる場合に、制御部80は燃料電池12の実際のI−V特性を把握していない。したがって、燃料電池12の電圧低減量に応じた電流増加量を求めることができない。このような状況下で燃料電池12の出力電圧をパラメータとして扱い、出力電圧を所定量低減させるようにデューティ比を操作すると、電流量が過剰に増加してFCコンバータ66の許容電流を越える(過電流)おそれがある。したがって本実施形態においては過電流防止の観点から、デューティ比を補正するパラメータとして電流値を採用している。
【0054】
なお、フィードバック制御において指令電流値IREQが補正され、その一方で空気流量Qが維持されたままであると、上述したとおりストイキ比が低下するおそれがある。そこで制御部80はストイキ比の低下を防ぐために指令電流値IREQの補正に併せて指令空気流量QREQを補正している。
【0055】
補正電流値ΔIが算出されると、制御部80は補正電流値ΔIを出力する際に燃料電池12において消費される空気量(理論空気量)を求め、さらに理論空気量に空気ストイキ比を掛けた値を求め、当該値を補正空気流量値ΔQとする(S8)。このとき、補正電流値ΔIが正の値を取れば補正空気流量値ΔQも正の値を取り、補正電流値ΔIが負の値を取れば補正空気流量値ΔQも負の値を取る。
【0056】
制御部80は指令空気流量QREQと、指令空気流量QREQと補正空気流量ΔQの和(QREQ+ΔQ)とを比較する(S9)。QREQ+ΔQがQREQより大きい場合、指令空気流量QREQに補正流量ΔQを加え、これをエアコンプレッサ46に対する指令値と定める(S10)。一方、補正空気流量ΔQが負の値を取る場合など、QREQ+ΔQがQREQより小さい場合、エアコンプレッサ46に対する指令値は指令空気流量QREQに維持される(S11)。ここで、指令空気流量QREQと、指令空気流量QREQと補正空気流量ΔQの和との比較に代えて、指令電流値IREQと、補正後の電流値IREQ+ΔIとを比較することにより、空気流量を定めても良い。
【0057】
REQ+ΔQがQREQより小さい場合、補正空気流量ΔQによってストイキ比は低下しないことから、制御部80は空気流量Qの補正を行わない。一方、補正空気流量ΔQが正の値であれば、ストイキ比が低下するおそれがあることから、制御部80は指定空気流量QREQに補正空気流量ΔQを加える補正を行う。
【0058】
このように本実施形態においては、燃料電池12の出力電流の増加に伴って燃料電池12に供給する空気量を増加させているため、空気ストイキ比は記憶部88に設定された値を保つ。したがって燃料電池12の出力が安定する。
【符号の説明】
【0059】
10 燃料電池システム、12 燃料電池、20 水素供給系、22 水素供給源、24 水素供給通路、26 水素排出通路、28 循環通路、30 循環ポンプ、32 第1の遮断弁、33 第1の調圧弁、34 第2の遮断弁、35 圧力センサ、36 第3の遮断弁、37 第4の遮断弁、40 空気供給系、42 空気供給通路、44 空気排出通路、46 エアコンプレッサ、48 フローメータ、50 第5の遮断弁、52 第6の遮断弁、54 第2の調圧弁、60 電力系、62 電流センサ、64 電圧センサ、66 FCコンバータ、68 バッテリ、69 電圧センサ、70 バッテリコンバータ、72 インバータ、74 モータ、76 補機類、80 制御部、81 アクセルポジションセンサ、82 車速センサ、84 受信部、86 送信部、88 記憶部、90 演算部、91 アクセルペダル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料及び酸化ガスの供給を受けて発電する燃料電池と、
前記燃料電池の出力電流と、前記燃料電池に供給する酸化ガスの供給量と、を変化させる制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記燃料電池に対する要求電力と、予め設定された前記燃料電池の電力電流特性とに基づいて、燃料電池に対する指令電流を求め、
前記指令電流に基づいて、前記燃料電池に供給する酸化ガス流量を求める、
燃料電池システムであって、
前記燃料電池システムは、前記燃料電池の実出力電圧を測定する電圧センサと、実出力電流を測定する電流センサを備え、
前記制御部は、
前記電圧センサから前記実出力電圧を取得し、前記電流センサから前記実出力電流を取得し、前記実出力電圧及び実出力電流から実出力電力を求め、
前記実出力電力と前記要求電力との差を検知したときに、前記差に基づいて補正電流を求め、前記補正電流に基づいて前記燃料電池の出力電流を変化させ、
前記補正電流に基づいて補正流量を求め、前記補正流量に基づいて前記燃料電池に供給する酸化ガスの供給量を変化させる、
ことを特徴とする、燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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