説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池システムにおいて、燃料電池と蓄電装置の間の効果的な出力分配を行うことである。
【解決手段】燃料電池システム10は、蓄電装置14、燃料電池30、電源回路16、制御装置90、記憶装置94を含んで構成される。記憶装置94は、燃料電池30の水分布状態と蓄電装置14の充電状態の組合せが車両の要求出力に対し好適状態にある組合せ範囲である好適組合せ範囲96を記憶し、制御装置90は、燃料電池30の水分布状態を取得する水分布状態推定取得処理部100と、蓄電装置14の充電状態を取得する充電状態推定取得処理部102と、取得した水分布状態と取得した充電状態との組合せが好適組合せ範囲内か否かを判断する組合せ状態判断処理部104と、組合せが好適組合せ範囲にないとき、燃料電池30の水分布状態を向上させる組合せ状態向上処理部106を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに係り、特に、蓄電装置と共に用いられる燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池を搭載する車両では、燃料電池のほかに蓄電装置を備え、燃料電池の始動の際、あるいは、燃料電池の出力だけでは車両が要求する電力をまかなえないとき、この蓄電装置から必要な電力を供給することが行われる。
【0003】
ここで、燃料電池は、アノード側に水素等の燃料ガスを供給し、カソード側に酸素を含む酸化ガス、例えば空気を供給し、電解質膜を通しての反応によって必要な電力を取り出す。このとき、カソード側に反応生成物として水が生成される。生成された水は電解質膜を通してアノード側にも浸透してくるので、電解質膜のアノード側も適度な湿度となって、その湿度の下で水素のプロトンの移動が行われ、このプロトンと酸素との反応で発電が行われる。したがって、発電を効率よく行うには、電解質膜が適度な湿度となっていることが必要である。このように、燃料電池の出力は、電解質膜における水分布状態が関係してくるので、水分布状態を最適に維持するため、掃気処理や含水処理が行われる。
【0004】
また、蓄電装置は、充放電を繰り返すが、過充電あるいは過放電によってその出力特性が劣化する。また、温度によって、その出力が変動する。このように、蓄電装置の出力は、充電状態が関係してくるので、充電状態としてのSOC(State Of Charge)が蓄電装置温度と共に管理される。
【0005】
例えば、特許文献1には、燃料電池システムとして、インピーダンス測定値とSOC検出値とに基いて掃気処理を行うことが述べられている。また、通常運転モードのときはSOCを考慮せずに一定時間掃気を行い、低温運転モードのときは始動性向上のための低湿度ガスを用いる掃気を行うことが述べられている。
【0006】
また、特許文献2には、燃料電池システムとして、燃料電池スタック内の残留水量と、エアコンプレッサに電力を供給する2次電池の温度と、2次電池の充電量とに基き掃気状態を決定し、エアコンプレッサの供給量を制御することが述べられている。
【0007】
また、特許文献3には、燃料電池システムとして、燃料電池と2次電池から負荷と補機とが必要とする最大電力が供給できるときは通常の運転を行い、供給できないときは暖機処理を行うことが述べられている。ここで、暖機処理は、燃料電池は発電と停止を繰り返し、2次電池は充電と放電を繰り返すことで行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−282767号公報
【特許文献2】特開2007−324071号公報
【特許文献3】特開2004−281219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来技術においては、燃料電池における出力確保、蓄電装置における出力確保がそれぞれ行われ、燃料電池の運転時における水分布状態の目標範囲、蓄電装置の運転時におけるSOCの目標範囲が定められる。また、運転時において燃料電池の出力が不足するときは蓄電装置の出力を利用し、蓄電装置の出力が不足すれば燃料電池からの充電が行われる。このように、要求出力に対する出力分配も行われる。
【0010】
ところで、燃料電池の水分布状態が目標範囲から外れたとき、または蓄電装置の充電状態が目標範囲から外れた場合、これらを目標範囲にもってくるときの燃料電池と蓄電装置の間の効果的な出力分配については、上記従来技術は述べていない。
【0011】
本発明の目的は、燃料電池と蓄電装置の間の効果的な出力分配を可能とする燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池の水分布状態を推定して取得する手段と、蓄電装置の充電状態を取得する手段と、燃料電池の水分布状態と蓄電装置の充電状態の組合せが車両の要求出力に対し好適状態にある組合せ範囲である好適組合せ範囲を予め定めた基準に従って設定し、取得した水分布状態と取得した充電状態との組合せである実組合せが好適組合せ範囲内か否かを判断する判断手段と、実組合せが好適組合せ範囲にないとき、蓄電装置の出力を用いて燃料電池の水分布状態を向上させ、実組合せを好適組合せ範囲に移動させる組合せ状態向上手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、車両が始動時、または、蓄電装置の出力で走行するバッテリ走行のときであって、判断手段は、実組合せが、蓄電装置の充電状態が良好で、燃料電池の水分布状態が不十分であると判断するときに、組合せ状態向上手段は、蓄電装置の出力を用いて、燃料電池の水分布状態を向上させることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、車両が最大出力状態のとき、または、燃料電池が運転停止状態から運転再開状態に移行するときであって、判断手段は、実組合せが、蓄電装置の充電状態が不十分で、燃料電池の水分布状態も不十分であると判断するときに、組合せ状態向上手段は、蓄電装置の出力を用いて、燃料電池の水分布状態を向上させることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、組合せ向上手段は、燃料電池の水分布状態が過大であるときに、掃気用ガスを供給するエアコンプレッサを運転させる掃気手段であることが好ましい。なお、水分布状態が過大とは、燃料電池の出力特性が不十分となるほどに含水量が大きいことを指し、逆に水分布状態が過小とは、燃料電池の出力特性が不十分となるほどに含水量が小さいことを指す。
【0016】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、組合せ向上手段は、燃料電池の水分布状態が過小であるときに、燃料電池の背圧調整弁の開度を調整し、燃料電池の背圧を上げて水分布状態を最適にすることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、組合せ向上手段は、燃料電池の水分布状態が過小であるときに、燃料電池用の冷媒循環ポンプの作動を調整し、燃料電池の温度を低下させて水分布状態を最適にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記構成により、燃料電池システムは、燃料電池の水分布状態と蓄電装置の充電状態の組合せが車両の要求出力に対し好適状態にある組合せ範囲である好適組合せ範囲を予め定めた基準に従って設定し、実際の水分布状態と充電状態との組合せである実組合せが好適組合せ範囲内か否かを判断し、実組合せが好適組合せ範囲にないとき、蓄電装置の出力を用いて燃料電池の水分布状態を向上させ、実組合せを好適組合せ範囲に移動させる。
【0019】
燃料電池システムは、蓄電装置を含んで構成されるが、通常の運転状態では、燃料電池が主たる電力供給源である。上記構成によれば、この主たる電力供給源である燃料電池の水分布状態を最適化し、あるいは最適化を維持するように蓄電装置を効果的に用いる。このような燃料電池と蓄電装置の間の出力分配によって、蓄電装置を含む燃料電池システムの全体としての出力を効果的なものとすることができる。
【0020】
また、燃料電池システムにおいて、車両が始動時、または、蓄電装置の出力で走行するバッテリ走行のときであって、蓄電装置の充電状態が良好で、燃料電池の水分布状態が不十分であると判断するときに、蓄電装置の出力を用いて、燃料電池の水分布状態を向上させる。これによって、主たる電力供給源である燃料電池の出力を早期に立ち上げることができる。
【0021】
また、燃料電池システムにおいて、車両が最大出力状態のとき、または、燃料電池が運転停止状態から運転再開状態に移行するときであって、蓄電装置の充電状態が不十分で、燃料電池の水分布状態も不十分であると判断するときには、蓄電装置の出力を用いて、燃料電池の水分布状態を向上させる。これによって、主たる電力供給源である燃料電池の出力を早期に立ち上げることができる。
【0022】
また、燃料電池システムにおいて、燃料電池の水分布状態が過大であるときに、掃気用ガスを供給するエアコンプレッサを運転させる。これによって、燃料電池の水分布状態を適正にして、主たる電力供給源である燃料電池の出力を早期に立ち上げることができる。
【0023】
また、燃料電池システムにおいて、燃料電池の水分布状態が過小であるときに、燃料電池の背圧調整弁の開度を調整し、燃料電池の背圧を上げて水分布状態を最適にする。また、燃料電池システムにおいて、燃料電池の水分布状態が過小であるときに、燃料電池用の冷媒循環ポンプの作動を調整し、燃料電池の温度を低下させて水分布状態を最適にする。これによって、燃料電池の水分布状態を適正にして、主たる電力供給源である燃料電池の出力を早期に立ち上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る実施の形態の燃料電池システムの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の燃料電池システムにおいて、燃料電池本体部の構成を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の燃料電池システムにおいて、燃料電池の水分布状態と蓄電装置の充電状態の組合せが車両の要求出力に対し好適状態にある組合せ範囲である好適組合せ範囲を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の燃料電池システムにおいて、燃料電池と蓄電装置の間の効果的な出力分配の手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る実施の形態の燃料電池システムにおいて、車両が最大出力状態のとき、または、燃料電池が運転停止状態から運転再開状態に移行するときの燃料電池と蓄電装置の間の効果的な出力分配の様子を説明する図である。
【図6】図5の場合における分配方法の1つの例を説明する図である。
【図7】図5の場合における分配方法の他の例を説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態の燃料電池システムにおいて、車両が始動時、または、蓄電装置の出力で走行するバッテリ走行のときの燃料電池と蓄電装置の間の効果的な出力分配の様子を説明する図である。
【図9】図8の場合における分配方法の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、燃料電池システムの出力が利用される外部負荷として、1台の回転電機を説明するが、勿論複数台の回転電機であっても構わない。また、外部負荷として、回転電機以外の電気機器を含むものとしてよい。
【0026】
以下で説明する水分布状態の最適範囲、好適範囲、SOCの最適範囲、好適範囲等は例示であって、具体的には、燃料電池システムの仕様、燃料電池本体部の特性、蓄電装置の特性に応じて変更が可能である。
【0027】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0028】
図1は、電気自動車に搭載される燃料電池システム10の構成を説明する図である。燃料電池システム10は、駆動源として燃料電池30と蓄電装置14とを含み、電気自動車の要求出力92に応じた運転を行い、負荷に必要な電力を供給するシステムである。ここでは、燃料電池システム10の構成要素ではないが、外部負荷としての回転電機12が図示されている。
【0029】
ここで、回転電機12は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(M/G)であって、電力が供給されるときはモータとして機能し、制動時には発電機として機能する3相同期型回転電機である。
【0030】
燃料電池システム10は、蓄電装置14と燃料電池30と、電源回路16と、制御装置90と、記憶装置94とを含んで構成される。
【0031】
蓄電装置14は、充放電可能な高電圧2次電池であって、例えば、燃料電池30の始動時、あるいは燃料電池30の出力が負荷の要求電力に不足するとき等に、負荷に電力を供給する機能を有する。なお、負荷とは、車両に搭載されて、電気エネルギで動作するものを指すので、外部負荷である回転電機12以外にも、インバータ28、燃料電池30に含まれる掃気処理や含水処理に用いられる各種補機等の内部負荷を含むものである。
【0032】
かかる蓄電装置14としては、例えば、約200Vから約300Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池、またはキャパシタ等を用いることができる。なお、蓄電装置14はいわゆる高電圧バッテリであり、単にバッテリとして述べる場合には、この蓄電装置14を指すことが多い。したがって、以下では、蓄電装置14を必要に応じてバッテリまたはBATと示すものとする。
【0033】
蓄電装置14の温度である蓄電装置温度と、充電状態を示すSOCのデータは、適当な信号線によって制御装置90に伝送される。SOCは、蓄電装置14に流れ込む充電電流と、蓄電装置14から流れ出す放電電流を監視して算出される値を用いることができる。
【0034】
電源回路16におけるBAT電圧変換器20は、蓄電装置14と負荷との間に設けられ、蓄電装置14の端子間電圧と負荷側の電圧との間の電圧変換を行うバッテリ電圧変換器である。ここで、BATとはバッテリを意味する。BAT電圧変換器20は、リアクトルとスイッチング素子を含んで構成される。
【0035】
FC電圧変換器24は、燃料電池30と負荷との間に設けられ、燃料電池30の端子間電圧と負荷側の電圧との間の電圧変換を行う燃料電池電圧変換器である。ここで、FCとは、燃料電池(Fuel Cell)を意味する。FC電圧変換器24は、リアクトルとスイッチング素子を含んで構成される。
【0036】
インバータ28は、高電圧直流電力を交流三相駆動電力に変換し、回転電機12に供給する機能と、逆に回転電機12からの交流三相回生電力を高電圧直流充電電力に変換する機能とを有する回路である。インバータ28は、スイッチング素子とダイオード等を含む回路で構成することができる。
【0037】
平滑コンデンサ18,22,26は、それぞれ、蓄電装置14側、燃料電池30側、インバータ28側の電圧、電流の変動を抑制して平滑化する容量素子である。
【0038】
燃料電池30は、FC本体部40と、掃気処理部32と、含水処理部34を含んで構成される。図2は燃料電池30の構成を説明する図である。FC本体部40は、燃料電池スタック42と、その運転に必要な各種補機を含んで構成される。
【0039】
燃料電池スタック42は、燃料電池セルを複数組み合わせて、約200Vから約300V程度の高電圧の発電電力を取り出せるように構成された一種の組電池である。各燃料電池セルは、アノード側に燃料ガスとして水素を供給し、カソード側に酸化ガスとして空気を供給し、固体高分子膜である電解質膜を通しての電池化学反応によって必要な電力を取り出す機能を有する。
【0040】
各種補機は、大別して、燃料ガス供給系44を構成する補機と、酸化ガス供給系46を構成する補機と、冷却系48を構成する補機に分けることができる。
【0041】
燃料ガス供給系44は、燃料電池スタック42に、その運転に必要な燃料ガスを適切な圧力と流量で供給する機能を有するガス供給部である。燃料ガス供給系44は、高圧水素ガスが充填された燃料ガスタンク50から、開閉弁52と、圧力と流量を粗調整する調整弁54と、適切な圧力と流量に調整する水素供給装置56を経由して、燃料電池スタック42の入力ポートに燃料ガスを供給する入口側流路部と、燃料電池スタック42の中を通って出力ポートから排出される使用済みガスを流す出口側流路部とを含む。
【0042】
出口側流路には図示されていない気液分離器が設けられ、ここでは、使用済みガスである水蒸気を含むガスについて分離が行われる。出口側流路と入口側流路を結ぶ循環流路に設けられる水素ポンプ58は、気液分離器で分離された水素ガスを再び入口側流路に戻す循環ポンプである。気液分離器で分離された水分含みの不純物ガスは、適当なタイミングで開閉される開閉弁64を経由して希釈器66に送られ、そこで酸化ガス供給系46からの使用済みガスによって希釈されて外部に排出される。
【0043】
酸化ガス供給系46は、燃料電池スタック42に、その運転に必要な酸化ガスを適切な圧力と流量で供給する機能を有するガス供給部である。酸化ガス供給系46は、AIR68として示される外気を供給源とし、図示されていない適当なフィルタ、エアコンプレッサであるACP70、加湿装置74を経由して、燃料電池スタック42の入力ポートに酸化ガスを供給する入口側流路部と、燃料電池スタック42の中を通って出力ポートから排出される使用済みガスを流す出口側流路部とを含む。
【0044】
燃料電池スタック42には、このように燃料ガスである水素ガスと、酸化ガスである加圧大気がそれぞれ供給される。これらのガスは、電解質膜を介した電気化学反応によって発熱し、反応生成物として水を生成しながら、起電力を発生する。これによって発電が行われ、発電電力が燃料電池30の出力電力として、FC電圧変換器24の側に出力される。
【0045】
出口側流路に設けられる背圧調整弁72は、燃料電池スタック42の中の酸化ガスの圧力を規制して調整する調整弁である。背圧調整弁72を通ってきた反応生成物である水分混じりの使用済みガスは加湿装置74に加湿ガスとして入力され、先ほどの入口側流路部を流れてくる酸化ガスを加湿する。加湿を終えて加湿装置74から出てきた使用済みガスは希釈器66に送られる。
【0046】
冷却系48は、燃料電池スタック42を電気化学反応に適した運転温度に維持するために冷媒を循環させる機能を有する。冷却系48は、冷媒循環ポンプ80と、ラジエータ82と、ラジエータ82に向かう冷媒流量を調整するための三方弁84を含んで構成される。
【0047】
図2に示されるように、水素ガス入力圧力PH、水素ポンプ58で戻される水素ガス流量QH、酸化ガス流量QO、背圧調整弁72で調整された酸化ガス圧力PO、冷媒温度θWを検出するために、圧力計60,78、流量計62,76、温度計86が設けられる。
【0048】
掃気処理部32と含水処理部34は、燃料電池スタック42の水分布状態を適正にするために、これらの各種補機の動作を制御する機能を有する制御部である。上記のように、燃料電池30の発電には、燃料電池スタック42に含まれる電解質膜が適度な湿度となっていることが必要であるが、燃料電池スタック42の水分布状態とは、この電解質膜における湿度を示すものである。
【0049】
水分布状態の値は、燃料電池スタック42のインピーダンス測定によって求めることができる。例えば、燃料電池スタック42の出力端子に適当な交流信号を重畳させ、この交流信号によって燃料電池スタック42のインピーダンスを測定し、水分布状態を示す含水量に対応する値を求めることができる。求められた水分布状態を示す含水量のデータは、適当な信号線で制御装置90に伝送される。
【0050】
掃気処理部32は、燃料電池スタック42の水分布状態が過大、すなわち燃料電池スタック42の出力特性が十分でない程度に含水量が大きいときに、燃料電池スタック42から水分を掃き出すための補機の動作を制御する。例えば、ACP70の回転数等を上昇させ、酸化ガスの供給量を増加させる制御を行う。その際に、加湿装置74をバイパスする適当な流路を設け、そのバイパス流路を経由して燃料電池スタック42に乾燥した酸化ガスを大量に流すことが好ましい。このように、ACP70の動作を制御して、酸化ガスの供給流量と供給圧力を高めて掃気処理を行うことができる。
【0051】
含水処理部34は、燃料電池スタック42の水分布状態が過小、すなわち燃料電池スタック42の出力特性が十分でない程度に含水量が小さいときに、燃料電池スタック42の含水量を上げるための補機の動作を制御する。例えば、背圧調整弁72の開度を調整し、燃料電池スタック42の背圧を上げ、酸化ガスの流れを絞る制御を行う。このように、酸化ガスの流れを十分に絞ることで、加湿装置74を経由した加湿酸化ガスが燃料電池スタック42の中に十分に留まることができ、含水量を上げることができる。
【0052】
また、冷媒循環ポンプ80の回転数を上げて、燃料電池スタック42に送り込まれる冷媒流量を増加させる制御を行って含水量を上げることもできる。冷媒流量が増加すれば、燃料電池スタック42の温度が低下し、燃料電池スタック42の内部の湿度を上げることができる。
【0053】
また、水素ポンプ58の回転数を上げて、燃料ガス供給系44の出力ポートから入口側流路に戻す水素ガスの量を増やす制御を行う。これによって、アノード側の水素に含まれる水分をカソード側に戻すことができ、燃料電池スタック42の含水量を高めることができる。
【0054】
再び図1に戻り、制御装置90は、図示されていない車両制御装置から指示される要求出力92に従って、燃料電池システム10を構成する各要素の動作を全体として制御する機能を有する。ここで、要求出力92は、車両運行に際し、車両に搭載される全ての電気機器に必要な電力を燃料電池システム10の出力に換算した値である。具体的には、走行用の回転電機12に必要な電力の他、回転電機12に接続される電源回路16に必要な電力、燃料電池30を構成する各種補機に必要な電力、エアコンディショナ、オーディオ機器、小型モータ、制御回路等に必要な電力を含む。
【0055】
制御装置90は、上記の総合的制御機能の他に、特にここでは、燃料電池30の水分布状態と、蓄電装置14の充電状態とを考慮して、燃料電池30と蓄電装置14の効果的な出力分配を制御する機能を有する。かかる制御装置90は、車両搭載に適したコンピュータで構成することができる。
【0056】
制御装置90は、燃料電池30の水分布状態を推定して取得する水分布状態推定取得処理部100と、蓄電装置14の充電状態を取得する充電状態推定取得処理部102と、燃料電池30の水分布状態と蓄電装置14の充電状態の組合せが車両の要求出力に対し好適状態にある組合せ範囲である好適組合せ範囲を予め定めた基準に従って設定し、取得した水分布状態と取得した充電状態との組合せである実組合せが好適組合せ範囲内か否かを判断する組合せ状態判断処理部104と、実組合せが好適組合せ範囲にないとき、蓄電装置14の出力を用いて燃料電池30の水分布状態を向上させ、実組合せを好適組合せ範囲に移動させる組合せ状態向上処理部106を含んで構成される。
【0057】
これらの機能はソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、燃料電池システム制御プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0058】
制御装置90に接続される記憶装置94は、燃料電池システム制御プログラムを記憶する他、ここでは、特に、燃料電池30の水分布状態と蓄電装置14の充電状態の組合せが車両の要求出力に対し好適状態にある組合せ範囲である好適組合せ範囲96を記憶する。かかる記憶装置94は、適当なメモリを用いることができる。
【0059】
図3は、好適組合せ範囲96の一例を示す図である。この例の好適組合せ範囲96は、横軸に蓄電装置14の充電状態の値であるSOC、縦軸に燃料電池30の水分布状態の値である含水量がとられ、好適範囲が斜線で示されている。なお、好適範囲の中でさらに好適な範囲を最適範囲として、斜線の密度を高くして示した。このように図3はマップであるが、記憶装置94には、マップ形式の他、含水量とSOCとを入力することで好適範囲であるか否かを示す1または0が出力される形式、好適範囲とそれ以外の領域との境界線を式で表す計算式の形式等で、記憶することができる。
【0060】
図3において、SOCの範囲は、A1,A2,A3,A4の値を境界として、5つに区分される。この中で、A2とA3の間の範囲が、従来から蓄電装置14の推奨動作範囲として示されるSOCの範囲である。そして、その外側のA1からA2の間、A3からA4の間の範囲は、蓄電装置14の推奨動作範囲ではないが、その範囲で動作させている限りでは、蓄電装置14の特性が劣化することはない動作可能範囲である。A1以下、A4以上は、蓄電装置14の特性劣化が生じ得る動作禁止範囲である。
【0061】
例えば、推奨動作範囲をSOCで40%から60%とすると、動作可能範囲は30%から70%と設定することができる。なお、この数字は説明のための例示である。
【0062】
また、含水量の範囲は、B1,B2,B3,B4の値を境界として、5つに区分される。この中で、B2とB3の間の範囲が、従来から燃料電池30の推奨動作範囲として示される含水量の範囲である。そして、その外側のB1からB2の間、B3からB4の間の範囲は、燃料電池30の推奨動作範囲ではないが、その範囲で動作させている限りでは、燃料電池30の特性が劣化することはない動作可能範囲である。B1以下、B4以上は、燃料電池30の特性劣化が生じ得る動作禁止範囲である。
【0063】
含水量の値は、定義あるいは測定方法によって異なるが、例えばある基準で定めた含水率を含水量とすることができる。そのように定めた含水量を用いるとして、例えば、推奨動作範囲を含水量で40%から60%とすると、動作可能範囲は30%から70%と設定することができる。なお、この数字は説明のための例示である。
【0064】
従来は、SOCがA2とA3の間の範囲で、かつ含水量がB2とB3の間の範囲が、燃料電池システムの推奨動作範囲110とされている。図3では、この推奨動作範囲110の外側に、低SOC側動作範囲112と、高SOC側動作範囲114を設定している。低SOC側動作範囲112は、SOCが低いが、含水量は推奨動作範囲にある領域である。ここでは、蓄電装置14の出力が不足する分、燃料電池30の出力で補うことで、要求出力を満たすことが可能である。また、高SOC側動作範囲114は、SOCが十分高いが、含水量が推奨動作範囲から外れる領域である。ここでは、燃料電池30の出力が不足する分、蓄電装置14の出力で補うことで、要求出力を満たすことが可能である。
【0065】
このようにして、燃料電池30の水分布状態と蓄電装置14の充電状態との好適組合せ範囲96は、従来からの推奨動作範囲110の外側に、低SOC側動作範囲112と、高SOC側動作範囲114を加えた範囲である。なお、好適範囲の中でさらに好適な範囲である最適範囲は、推奨動作範囲110である。この好適範囲の組合せであれば、燃料電池30の特性劣化も生じることなく、蓄電装置14の特性劣化も生じることなく、燃料電池30と蓄電装置14の出力分配を適切に行うことで、要求出力を満たすことが可能である。
【0066】
上記構成の作用、特に、制御装置90の各機能について、図4を用いて説明する。図4は、燃料電池30と蓄電装置14の間の効果的な出力分配の手順を示すフローチャートである。各手順は、燃料電池システム制御プログラムの各処理手順に対応する。
【0067】
通常は、燃料電池システム10は、推奨動作範囲110で動作する通常制御が実行される(S10)。そのように動作していても、燃料電池30の水分布状態と蓄電装置14の充電状態は時々刻々変化するので、適当な時間間隔で、水分布状態推定値の取得(S12)と、充電状態推定値の取得(S14)が行われる。これらの処理手順は、制御装置90の水分布状態推定取得処理部100と充電状態推定取得処理部102の機能によって実行される。具体的には、燃料電池30から伝送される水分布状態である含水量のデータと、蓄電装置14から伝送される充電状態であるSOCのデータを取得する。
【0068】
次に、取得した水分布状態を示す含水量と、取得した充電状態を示すSOCとの組合せである実組合せが好適組合せ範囲内か否かについて判断される(S16)。この処理手順は、制御装置90の組合せ状態判断処理部104の機能によって実行される。具体的には、記憶装置94の好適組合せ範囲96を読み出し、取得された実際の含水量とSOCの組合せが、図4で説明した推奨動作範囲110、低SOC側動作範囲112、高SOC側動作範囲114の範囲内であるか否かを決定する。これらの範囲内に、実際の含水量とSOCの組合せがあれば、好適組合せであるとして、S10に戻る。
【0069】
推奨動作範囲110、低SOC側動作範囲112、高SOC側動作範囲114の範囲内に、実際の含水量とSOCの組合せがない場合には、組合せ状態向上のための処理が行われる(S18)。この処理手順は、制御装置90の組合せ状態向上処理部106の機能によって実行される。具体的には、蓄電装置14の出力を用いて燃料電池30の水分布状態を向上させ、実組合せを好適組合せ範囲に移動させる処理が行われる。すでに好適範囲にあるが最適状態でないときは、さらに燃料電池30の水分布状態を向上させる処理が行われる。S18の処理が終了すると、再びS10に戻り、定められた時間間隔で、上記の手順が繰り返される。
【0070】
組合せ向上処理の例を図5から図9を用いて説明する。図5から図7は、実組合せが、蓄電装置14の充電状態が不十分で、燃料電池30の水分布状態も不十分である場合で、低SOC側動作範囲112近傍の状態のときである。図8と図9は、実組合せが、蓄電装置の充電状態が良好で、燃料電池の水分布状態が不十分である場合で、高SOC側動作範囲近傍のときである。
【0071】
図5は、上記のように、蓄電装置14の充電状態が不十分で、燃料電池30の水分布状態も不十分な組合せの場合である。図5には、好適組合せ96の低SOC側動作範囲112の部分の拡大図が示されており、動作点120が現在の状態である。動作点122と動作点124は、燃料電池30と蓄電装置14の出力分配を行った場合の動作点の移動を示すもので、動作点122が図4の手順によるもので、動作点124は、比較のために従来技術によるものが示されている。
【0072】
図5に示されるように、現在の動作点120は、低SOC側動作範囲112よりも外れている。つまり、単独で見ると、燃料電池30の含水量はB2とB3の範囲にあって十分な状態であるが、蓄電装置14の充電状態であるSOCが不足する。これを好適組合せ96と比較すると、動作点120は好適組合せ96の外にあり、ユーザとしては要求出力92を出しても思うようには出力が出ないことになる。このような場合の例として、車両が最大出力状態のとき、または、燃料電池30が運転停止状態から運転再開状態に移行するときがあげられる。
【0073】
車両が最大出力状態の例として、アクセルをいっぱいに踏み込まれるWOT(Wide Open Throttle)の場合には、その要求出力92に対して、燃料電池30の出力で不足する分は蓄電装置14の出力で補うことになる。そのときに蓄電装置14のSOCがA2以下であると、燃料電池30の含水量がB2とB3の間にあっても、燃料電池システム10の全体の出力としては、要求出力92を満たせないことが生じ得る。
【0074】
燃料電池30が運転停止状態から運転再開状態に移行するときの例として、燃料電池30の間欠運転明けといわれる場合には、燃料電池30の運転停止状態が続いていたので、その含水量がB2近傍またはB3近傍のことがあり得る。
【0075】
これらの場合には、燃料電池システム10の全体の出力状態から見ると、蓄電装置14の充電状態が不十分で、燃料電池30の水分布状態も不十分な組合せとなる。つまり、好適組合せ96と比較すると、含水量とSOCの組合せで示される動作点120が、低SOC側動作範囲112の外にあることになる。
【0076】
従来技術では、燃料電池30の含水量がB2からB3の間にあるので、そのまま燃料電池30の運転を続けることがあり得る。そのようなときには、燃料電池30の含水量がB2からB3の中間に次第に向かうが、蓄電装置14のSOCが補機等に費やされると、どんどん低下し、低SOC側動作範囲112になかなか到達しない。動作点124はそのような従来技術の状態を表している。
【0077】
図4の手順によると、S18において、組合せ状態向上のための処理が行われる。ここでは、上記のように、蓄電装置14の出力を用いて燃料電池30の水分布状態を向上させ、実組合せを示す動作点120を、好適組合せ範囲112の中の動作点122に移動させる処理が行われる。つまり、ここでは、蓄電装置14の出力を早めに集中的に使って、燃料電池30の掃気処理を行う。掃気処理は、掃気処理部32の機能によって実行され、上記のように、ACP70の回転数を上げる。動作点122になれば、ここでは好適組合せ06の範囲内であるので、要求出力92通りの出力を出すことが可能になり、ユーザにとって思い通りの出力が得られて、ドライバビリティが向上する。
【0078】
掃気処理を直接的に蓄電装置14の出力を用いて行ってもよいが、蓄電装置14で要求出力92を分担している間に掃気処理を行うものとしてもよい。図6と図7は、そのような処理の具体的な2つの例を示す図である。
【0079】
図6は、燃料電池30の出力レベルを下げ、不足する分を蓄電装置14で補うものである。図6でFCとあるのが燃料電池30の出力で、BATとあるのが蓄電装置14の出力である。このようにして燃料電池30の出力レベルを下げて、電気化学反応による水の生成よりも排水の方が多くなるようにして、実質的に燃料電池30の掃気処理を行う。ここでは、蓄電装置14の出力を早めに集中的に、要求出力92の不足分に有効に使い、その間に、燃料電池30の掃気処理が行われ、動作点が好適組合せ96の中に移動させる事が行われる。
【0080】
図7は、燃料電池30が出力される前に、掃気処理を行い、その間は、蓄電装置14の出力のみで要求出力92をまかなうものである。ここでは、蓄電装置14の出力を早めに集中的に、要求出力92の全部をまかなうように有効に使い、その間に、燃料電池30の掃気処理が行われ、動作点が好適組合せ96の中に移動させる事が行われる。
【0081】
なお、図5では、低SOC側動作範囲112の含水量が大きい側の境界線111よりも含水量が大きい方に、動作点120がある場合を説明し、そのときには蓄電装置14の出力を早めに集中的に使って、燃料電池30の掃気処理を行うものとした。これとは逆に、低SOC側動作範囲112の含水量が小さい側の境界線よりも含水量が小さい方に、動作点120がある場合には、蓄電装置14の出力を早めに集中的に使って、燃料電池30の含水処理を行うものとできる。含水処理は、含水処理部34の機能によって実行され、例えば、背圧調整弁72の開度を調整し、あるいは冷媒循環ポンプの作動を調整する。
【0082】
次に、図8は、上記のように、蓄電装置14の充電状態が良好で、燃料電池30の水分布状態が不十分である場合である。図8には、好適組合せ96の高SOC側動作範囲114の部分の拡大図が示されており、動作点130が現在の状態である。動作点132,134と動作点140は、燃料電池30と蓄電装置14の出力分配を行った場合の動作点の移動を示すもので、動作点132,134が図4の手順によるもので、動作点140は、比較のために従来技術によるものが示されている。
【0083】
図8に示されるように、現在の動作点120は、高SOC側動作範囲114の中にあるが、単独で見ると、燃料電池30の含水量はB3を超えていて推奨動作範囲である最適範囲になく、蓄電装置14の充電状態であるSOCは十分あるが、これも推奨動作範囲である最適範囲にない。これを好適組合せ96と比較すると、動作点120は好適組合せ96の中にあるが、最適組合せである推奨動作範囲110を外れていて、燃料電池30の運転効率が必ずしも最良状態ではない。ユーザから見ると、要求出力92を出しても必ずしも思うようには出力が出ないことがあり得る。このような場合の例としては、車両が始動時、または、蓄電装置14の出力で走行するバッテリ走行のときがあげられる。
【0084】
車両が始動時には、それ以前に燃料電池30によって蓄電装置14が十分に充電され、SOCがA3を超えていることがある。そして、車両の始動時には車速が低速であるので、燃料電池30で駆動するよりも蓄電装置14の出力で駆動したほうが燃料電池システム10の全体として効率がよいことが知られている。したがって、燃料電池30は運転していないので、含水量がB2とB3の間である最適範囲を超えていることがある。このような場合には、車両を始動できるが、燃料電池30の含水量としてはさらに向上させる余地がある。
【0085】
始動時からのように蓄電装置14による走行であるバッテリ走行から、燃料電池30による走行であるFC走行に移る場合も同様で、蓄電装置14のSOCは十分であるが、燃料電池30の含水量としてはさらに向上させる余地がある。
【0086】
これらの場合には、燃料電池システム10の全体の出力状態から見ると、蓄電装置14の充電状態が十分で、燃料電池30の水分布状態が不十分な組合せとなる。つまり、好適組合せ96と比較すると、含水量とSOCの組合せで示される動作点120が好適範囲である高SOC側動作範囲114の中にあるが、燃料電池30の含水量は最適範囲の外にあることになる。
【0087】
従来技術では、燃料電池30を運転せずに、蓄電装置14の出力だけで走行を続けることがあり得る。そのようなときには、蓄電装置14のSOCはどんどん低下するが、燃料電池30の含水量はそのままであるので、図8の拡大図に示されるように、高SOC側動作範囲114の含水量が高い側の境界線113を超えて、好適組合せ範囲96である高SOC側動作範囲114を外れてしまうことが生じる。このようになると、ユーザが要求出力92を出しても、思うように出力が出ないことになる。
【0088】
図4の手順によると、S18において、組合せ状態向上のための処理が行われる。すなわち、動作点が好適組合せ範囲96である高SOC側動作範囲114の範囲を維持するように、燃料電池30の含水量を最適範囲に移すことが行われる。ここでは、上記のように、蓄電装置14の出力を用いて燃料電池30の水分布状態を向上させ、実組合せを示す動作点120を、好適組合せ範囲112の中に維持し、燃料電池30の含水量を最適範囲に移動させる処理が行われる。つまり、ここでは、蓄電装置14の出力を用いて、燃料電池30の掃気処理を行う。掃気処理は、掃気処理部32の機能によって実行され、上記のように、ACP70の回転数を上げる。
【0089】
図8では、最初に燃料電池30を動作させずに、蓄電装置14のみで出力をまかなう処理が行われる。したがって、燃料電池30の含水量はそのままとして、蓄電装置14のSOCが低下する。そして、組合せ状態が境界線113のごく手前、あるいは境界線113上の動作点132となると掃気処理を行い、燃料電池30の含水量を下げ、組合せ状態を境界線113に平行に移動させる。掃気処理は蓄電装置14の出力のみを用いて行ってもよく、燃料電池30の出力と蓄電装置14の出力を分配するものとしてもよい。動作点134は、そのような分配処理が行われた状態を示している。このような出力分配処理を行うことで、組合せ状態が好適組合せ範囲の中にあることを維持し、燃料電池30の含水量をより好適なものとして、最適範囲に近づけることができる。
【0090】
図9は別の出力分配の例を示す図で、ここでは、最初の動作点130から、組合せ状態が境界線113に平行に移動するように掃気処理を行う。掃気処理は蓄電装置14の出力のみを用いて行ってもよく、燃料電池30の出力と蓄電装置14の出力を分配するものとしてもよい。動作点136は、そのような分配処理が行われた状態を示している。このような出力分配処理を行うことで、組合せ状態が好適組合せ範囲の中にあることを維持し、燃料電池30の含水量をより好適なものとして、最適範囲に近づけることができる。
【0091】
なお、図8では、高SOC側動作範囲114の含水量が大きい側の境界線113の近傍に、動作点120がある場合を説明し、燃料電池30の掃気処理を行うものとした。これとは逆に、高SOC側動作範囲114の含水量が小さい側の境界線の近傍に動作点130がある場合には、燃料電池30の含水処理を行うものとできる。含水処理は、含水処理部34の機能によって実行され、例えば、背圧調整弁72の開度を調整し、あるいは冷媒循環ポンプの作動を調整する。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る燃料電池システムは、車両に搭載される燃料電池システムに利用できる。
【符号の説明】
【0093】
10 燃料電池システム、12 回転電機、14 蓄電装置、16 電源回路、18,22,26 平滑コンデンサ、20 BAT電圧変換器、24 FC電圧変換器、28 インバータ、30 燃料電池、32 掃気処理部、34 含水処理部、40 FC本体部、42 燃料電池スタック、44 燃料ガス供給系、46 酸化ガス供給系、48 冷却系、50 燃料ガスタンク、52,64 開閉弁、54 調整弁、56 水素供給装置、58 水素ポンプ、60,78 圧力計、62,76 流量計、66 希釈器、72 背圧調整弁、74 加湿装置、80 冷媒循環ポンプ、82 ラジエータ、84 三方弁、86 温度計、90 制御装置、92 要求出力、94 記憶装置、96 好適組合せ範囲、100 水分布状態推定取得処理部、102 充電状態推定取得処理部、104 状態判断処理部、106 状態向上処理部、110 推奨動作範囲、111,113 境界線、112 低SOC側動作範囲、114 高SOC側動作範囲、120,122,124,130,132,134,136,140 動作点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の水分布状態を推定して取得する手段と、
蓄電装置の充電状態を取得する手段と、
燃料電池の水分布状態と蓄電装置の充電状態の組合せが車両の要求出力に対し好適状態にある組合せ範囲である好適組合せ範囲を予め定めた基準に従って設定し、取得した水分布状態と取得した充電状態との組合せである実組合せが好適組合せ範囲内か否かを判断する判断手段と、
実組合せが好適組合せ範囲にないとき、蓄電装置の出力を用いて燃料電池の水分布状態を向上させ、実組合せを好適組合せ範囲に移動させる組合せ状態向上手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
車両が始動時、または、蓄電装置の出力で走行するバッテリ走行のときであって、
判断手段は、実組合せが、蓄電装置の充電状態が良好で、燃料電池の水分布状態が不十分であると判断するときに、
組合せ状態向上手段は、
蓄電装置の出力を用いて、燃料電池の水分布状態を向上させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
車両が最大出力状態のとき、または、燃料電池が運転停止状態から運転再開状態に移行するときであって、
判断手段は、実組合せが、蓄電装置の充電状態が不十分で、燃料電池の水分布状態も不十分であると判断するときに、
組合せ状態向上手段は、
蓄電装置の出力を用いて、燃料電池の水分布状態を向上させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
組合せ向上手段は、
燃料電池の水分布状態が過大であるときに、掃気用ガスを供給するエアコンプレッサを運転させる掃気手段であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用燃料電池システムにおいて、
組合せ向上手段は、
燃料電池の水分布状態が過小であるときに、燃料電池の背圧調整弁の開度を調整し、燃料電池の背圧を上げて水分布状態を最適にすることを特徴とする車両用燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用燃料電池システムにおいて、
組合せ向上手段は、
燃料電池の水分布状態が過小であるときに、燃料電池用の冷媒循環ポンプの作動を調整し、燃料電池の温度を低下させて水分布状態を最適にすることを特徴とする車両用燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−243477(P2011−243477A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116015(P2010−116015)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】