説明

燃料電池システム

【課題】セルスタックの劣化具合に応じた運転を行うことができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システム1では、燃料利用率の変動に対するセルスタック5からの電圧の変動を取得し、電圧の値と基準値との比較によってセルスタック5の劣化を検出する。そして、定格運転状態における燃料利用率の上限値を所定の割合で低下させ、セルスタック5の劣化具合に応じた運転を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素を含有する燃料を用いて水素含有ガスを発生させる水素発生部と、水素含有ガスを用いて発電を行うセルスタックとを備える燃料電池システムが知られている。このような燃料電池システムにおいてセルスタックの劣化が進行して定格出力の維持が困難になってくると、過電圧が大きくなってセルスタックの温度が上昇するという問題がある。
【0003】
このような問題に対し、例えば特許文献1に記載の燃料電池システムでは、電力が0から定格出力になるまでの昇温期間と、電力が定格出力から0になるまでの降温期間とにおける電流対燃料利用率データを用意している。そして、当該データに基づいて各運転期間における燃料ガス供給量を制御することによって、セルスタックの劣化防止などを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−59550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術のような手法では、セルスタックの温度が上昇下降を繰り返し、結果としてセルスタックの劣化が加速してしまう可能性がある。また、いずれにせよ燃料電池システムの運転と共にセルスタックの劣化が生じることに変わりはない。したがって、セルスタックの劣化を抑制する技術以外に、セルスタックが劣化した場合であっても、セルスタックの劣化具合に応じて燃料電池システムを支障なく運転させる技術が求められる。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、セルスタックの劣化具合に応じた運転を行うことができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のため、本発明に係る燃料電池システムは、水素を含有する燃料を用いて水素含有ガスを発生させる水素発生部と、水素含有ガスを用いて発電を行うセルスタックと、を備える燃料電池システムであって、セルスタックから出力される電圧を検出する電圧検出部と、燃料電池システムが定格運転状態であるか否かを判断する運転状態判断部と、運転判断部によって燃料電池システムが定格運転状態であると判断された場合に燃料電池システムの燃料利用率を変動させる燃料利用率変動部と、燃料利用率変動部によって変動する燃料利用率の各値に対する電圧の各値を電圧検出部から取得し、当該電圧の各値を基準値と比較する比較部と、比較部によって電圧の各値が基準値に対して閾値を超えて低下していると判断された場合に、定格運転状態における燃料利用率の上限値を所定の割合で低下させる燃料利用率制御部と、を備える。
【0008】
この燃料電池システムでは、燃料利用率の変動に対するセルスタックからの電圧の変動を取得し、電圧の値と基準値との比較によってセルスタックの劣化を検出する。そして、定格運転状態における燃料利用率の上限値を所定の割合で低下させ、セルスタックの劣化具合に応じた運転を実現する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セルスタックの劣化具合に応じた運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る燃料電池システムの一実施形態を示す図である。
【図2】制御部の機能的な構成要素を示す図である。
【図3】燃料利用率に対する電圧の変動の様子を示す図である。
【図4】制御部による診断処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】診断開始条件の判断の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る燃料電池システムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1に示されるように、燃料電池システム1は、脱硫部2と、水気化部3と、水素発生部4と、セルスタック5と、オフガス燃焼部6と、水素含有燃料供給部7と、水供給部8と、酸化剤供給部9と、パワーコンディショナー10と、制御部11と、を備えている。燃料電池システム1は、水素含有燃料及び酸化剤を用いて、セルスタック5にて発電を行う。燃料電池システム1におけるセルスタック5の種類は特に限定されず、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)、リン酸形燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC:Molten Carbonate Fuel Cell)、及び、その他の種類を採用することができる。なお、セルスタック5の種類、水素含有燃料の種類、及び改質方式等に応じて、図1に示す構成要素を適宜省略してもよい。
【0013】
水素含有燃料として、例えば、炭化水素系燃料が用いられる。炭化水素系燃料として、分子中に炭素と水素とを含む化合物(酸素等、他の元素を含んでいてもよい)若しくはそれらの混合物が用いられる。炭化水素系燃料として、例えば、炭化水素類、アルコール類、エーテル類、バイオ燃料が挙げられ、これらの炭化水素系燃料は従来の石油・石炭等の化石燃料由来のもの、合成ガス等の合成系燃料由来のもの、バイオマス由来のものを適宜用いることができる。具体的には、炭化水素類として、メタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、LPG(液化石油ガス)、都市ガス、タウンガス、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油が挙げられる。アルコール類として、メタノール、エタノールが挙げられる。エーテル類として、ジメチルエーテルが挙げられる。バイオ燃料として、バイオガス、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオジェットが挙げられる。
【0014】
酸化剤として、例えば、空気、純酸素ガス(通常の除去手法で除去が困難な不純物を含んでもよい)、酸素富化空気が用いられる。
【0015】
脱硫部2は、水素発生部4に供給される水素含有燃料の脱硫を行う。脱硫部2は、水素含有燃料に含有される硫黄化合物を除去するための脱硫触媒を有している。脱硫部2の脱硫方式として、例えば、硫黄化合物を吸着して除去する吸着脱硫方式や、硫黄化合物を水素と反応させて除去する水素化脱硫方式が採用される。脱硫部2は、脱硫した水素含有燃料を水素発生部4へ供給する。
【0016】
水気化部3は、水を加熱し気化させることによって、水素発生部4に供給される水蒸気を生成する。水気化部3における水の加熱は、例えば、水素発生部4の熱、オフガス燃焼部6の熱、あるいは排ガスの熱を回収する等、燃料電池システム1内で発生した熱を用いてもよい。また、別途ヒータ、バーナ等の他熱源を用いて水を加熱してもよい。なお、図1では、一例としてオフガス燃焼部6から水素発生部4へ供給される熱のみ記載されているが、これに限定されない。水気化部3は、生成した水蒸気を水素発生部4へ供給する。
【0017】
水素発生部4は、脱硫部2からの水素含有燃料を用いて水素リッチガスを発生させる。水素発生部4は、水素含有燃料を改質触媒によって改質する改質器を有している。水素発生部4での改質方式は、特に限定されず、例えば、水蒸気改質、部分酸化改質、自己熱改質、その他の改質方式を採用できる。なお、水素発生部4は、セルスタック5に要求される水素リッチガスの性状によって、改質触媒により改質する改質器の他に性状を調整するための構成を有する場合もある。例えば、セルスタック5のタイプが固体高分子形燃料電池(PEFC)やリン酸形燃料電池(PAFC)であった場合、水素発生部4は、水素リッチガス中の一酸化炭素を除去するための構成(例えば、シフト反応部、選択酸化反応部)を有する。水素発生部4は、水素リッチガスをセルスタック5のアノード12へ供給する。
【0018】
セルスタック5は、水素発生部4からの水素リッチガス及び酸化剤供給部9からの酸化剤を用いて発電を行う。セルスタック5は、水素リッチガスが供給されるアノード12と、酸化剤が供給されるカソード13と、アノード12とカソード13との間に配置される電解質14と、を備えている。セルスタック5は、パワーコンディショナー10を介して、電力を外部へ供給する。セルスタック5は、発電に用いられなかった水素リッチガス及び酸化剤をオフガスとして、オフガス燃焼部6へ供給する。なお、水素発生部4が備えている燃焼部(例えば、改質器を加熱する燃焼器など)をオフガス燃焼部6と共用してもよい。
【0019】
オフガス燃焼部6は、セルスタック5から供給されるオフガスを燃焼させる。オフガス燃焼部6によって発生する熱は、水素発生部4へ供給され、水素発生部4での水素リッチガスの発生に用いられる。
【0020】
水素含有燃料供給部7は、脱硫部2へ水素含有燃料を供給する。水供給部8は、水気化部3へ水を供給する。酸化剤供給部9は、セルスタック5のカソード13へ酸化剤を供給する。水素含有燃料供給部7、水供給部8、及び酸化剤供給部9は、例えばポンプによって構成されており、制御部11からの制御信号に基づいて駆動する。
【0021】
パワーコンディショナー10は、セルスタック5からの電力を、外部での電力使用状態に合わせて調整する。パワーコンディショナー10は、例えば、電圧を変換する処理や、直流電力を交流電力へ変換する処理を行う。
【0022】
制御部11は、燃料電池システム1全体の制御処理を行う。制御部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び入出力インターフェイスを含んで構成されたデバイスによって構成される。制御部11は、水素含有燃料供給部7、水供給部8、酸化剤供給部9、パワーコンディショナー10、その他、図示されないセンサや補機と電気的に接続されている。制御部11は、燃料電池システム1内で発生する各種信号を取得すると共に、燃料電池システム1内の各機器へ制御信号を出力する。
【0023】
続いて、制御部11が実行する制御について更に詳細に説明する。
【0024】
制御部11は、燃料電池システム1内の各機器へ制御信号を出力する部分であるが、これに加えて、セルスタック5の劣化を診断する診断処理を実行する。
【0025】
この診断処理に関し、制御部11は、図2に示すように、機能的な構成要素として、診断開始条件判断部101と、運転状態判断部102と、電圧検出部103と、燃料利用率変動部104と、比較部105と、燃料利用率制御部106とを備えている。
【0026】
診断開始条件判断部101は、診断処理の実行を開始するか否かを判断する部分である。診断開始条件は、種々の条件を適用し得るが、例えば燃料電池システム1が発電を開始してから所定時間が経過したか否か、或いは燃料電池システム1に接続される貯湯槽(不図示)の残量が少なく、温水需要が生じていること(燃料電池システム1が熱回収をしている状態にあること)などが挙げられる。発電を開始してからの所定時間は、例えば1000時間に設定される。
【0027】
運転状態判断部102は、燃料電池システム1が定格運転状態であるか否かを判断する部分である。定格運転状態とは、セルスタック5で発電される電力が仕様上最大の電力となるような運転状態であり、電圧・電流が安定した動作をする状態である。運転状態判断部102は、例えばセルスタック5から出力される電圧の移動平均値の変化が一定時間(例えば15分)にわたって閾値以下であった場合に、燃料電池システム1が定格運転状態であると判断する。
【0028】
電圧検出部103は、セルスタック5からパワーコンディショナー10に出力される電圧を検出する部分である。電圧検出部103は、燃料電池システム1が発電を行っている間、セルスタック5からパワーコンディショナー10に出力される電圧を常時検出する。
【0029】
燃料利用率変動部104は、燃料電池システム1の燃料利用率を変動させる部分である。燃料利用率とは、水素含有燃料供給部7から供給された燃料の流量に対してセルスタック5での発電反応に使用された燃料の流量の割合である。燃料利用率変動部104は、運転判断部102によって燃料電池システム1が定格運転状態であると判断された場合に水素含有燃料供給部7を制御し、燃料電池システム1の燃料利用率を変動させる。
【0030】
比較部105は、燃料利用率変動部104によって変動する燃料利用率の各値に対する電圧の各値を電圧検出部103から取得し、当該電圧の各値を基準値と比較する部分である。基準値は、予め設定された電圧値を比較部105に記憶させておいてもよく、過去の診断処理の実行の際に取得した電圧値であってもよい。
【0031】
図3に示す例では、燃料利用率が例えば50%〜70%の範囲で10%刻みで変動した場合の電圧値が示されている。比較部105は、燃料利用率の各値に対する電圧の各値の低下が閾値未満である場合(グラフA)には、セルスタック5の劣化が生じていないと判断する。一方、比較部105は、燃料利用率の各値に対する電圧の各値の低下が閾値を超えている場合(グラフB)には、セルスタック5の劣化が生じていると判断する。
【0032】
燃料利用率制御部106は、燃料電池システム1の定格運転状態における燃料利用率を制御する部分である。燃料利用率制御部106は、比較部105によって電圧の各値が基準値に対して閾値を超えて低下していると判断された場合に、定格運転状態における燃料利用率の上限値を所定の割合で低下させる。例えば燃料利用率の上限値が70%から65%に設定された場合、燃料利用率制御部106は、定格運転中の燃料利用率が65%を超えないように、水素含有燃料供給部7から供給される燃料の流量を設定変更前に比べて増加させる。
【0033】
次に、制御部11の動作について説明する。図4は、制御部による診断処理の一例を示すフローチャートである。
【0034】
まず、燃料電池システム1が発電を開始すると、セルスタック5から出力される電圧の検出が開始される(ステップS01)。次に、セルスタック5から出力される電圧の移動平均値の変化量に基づいて、燃料電池システム1が定格運転状態であるか否かが判断される(ステップS02)。ステップS02において、燃料電池システム1が定格運転状態であると判断された場合、診断開始条件の判断がなされる(ステップS03,ステップS04)。
【0035】
診断開始条件の判断では、例えば図5に示すように、まず、発電開始から所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS11)。次いで、温水需要が大きいか否かが判断され(ステップS12)、ステップS11,12をいずれも満たす場合には、診断開始条件を満たすと判断される(ステップS13)。また、ステップS11,S12のいずれかを満たさない場合には、診断開始条件を満たさないと判断される(ステップS14)。診断開始条件を満たさないと判断された場合、ステップS02〜ステップS04までの処理が繰り返し行われる。
【0036】
診断開始条件を満たすと判断された場合、図4に示すように、燃料利用率変動部104による燃料利用率の変動が実行される(ステップS05)。次に、燃料利用率の各値に対するセルスタック5の電圧の各値の取得がなされる(ステップS06)。電圧の各値の取得の後、基準値との比較が行われ(ステップS07)、電圧の各値が閾値を超えて低下したか否かが判断される(ステップS08)。
【0037】
ステップS08において、電圧の各値の低下が閾値未満である場合には、セルスタック5の劣化は生じていないものと判断され、診断処理が終了する。一方、電圧の各値の低下が閾値を超えている場合には、セルスタック5の劣化が生じているものと判断され、定格運転状態における燃料利用率の上限値が所定の割合で低下させられる。(ステップS09)。
【0038】
以上説明したように、燃料電池システム1では、燃料利用率の変動に対するセルスタック5からの電圧の変動を取得し、電圧の値と基準値との比較によってセルスタック5の劣化を検出する。そして、定格運転状態における燃料利用率の上限値を所定の割合で低下させ、セルスタック5の劣化具合に応じた運転を実現する。
【0039】
また、燃料電池システム1では、セルスタック5の状態を直接観測する代わりに、掃引電流が一定となる定格運転状態において、セルスタック5の電圧の変動に基づいてセルスタック5の劣化を判断している。これにより、セルスタック5の劣化を判断するために必要な構成を簡単化できる。
【符号の説明】
【0040】
1…燃料電池システム、4…水素発生部、5…セルスタック、6…オフガス燃焼部、102…運転状態判断部、103…電圧検出部、104…燃料利用率変動部、105…比較部、106…燃料利用率制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含有する燃料を用いて水素含有ガスを発生させる水素発生部と、
前記水素含有ガスを用いて発電を行うセルスタックと、を備える燃料電池システムであって、
前記セルスタックから出力される電圧を検出する電圧検出部と、
前記燃料電池システムが定格運転状態であるか否かを判断する運転状態判断部と、
前記運転判断部によって前記燃料電池システムが定格運転状態であると判断された場合に前記燃料電池システムの燃料利用率を変動させる燃料利用率変動部と、
前記燃料利用率変動部によって変動する前記燃料利用率の各値に対する前記電圧の各値を前記電圧検出部から取得し、当該電圧の各値を基準値と比較する比較部と、
前記比較部によって前記電圧の各値が前記基準値に対して閾値を超えて低下していると判断された場合に、前記定格運転状態における前記燃料利用率の上限値を所定の割合で低下させる燃料利用率制御部と、を備えた燃料電池システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−142125(P2012−142125A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292699(P2010−292699)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】