説明

燃料電池スタック

【課題】本発明は、燃料電池システムの燃料電池スタックに関する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る燃料電池スタックは、電解質膜、前記電解質膜の第1面上に位置するアノード電極、及び前記電解質膜の前記第1面の反対側の第2面に位置するカソード電極を含む複数の膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体の間に介在するセパレータとを含む。このとき、前記アノード電極及び前記カソード電極は、それぞれ互いに異なる面積密度を有する第1領域及び第2領域に区分されるガス拡散層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムの燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料(炭化水素系燃料、水素、又は水素リッチガス)と酸化剤(空気又は酸素)の電気化学的反応を利用して電気エネルギーを生成する燃料電池スタックと、燃料電池スタックに燃料を供給する燃料供給部と、燃料電池スタックに酸化剤を供給する酸化剤供給部とを含む。燃料電池スタックは、複数の膜−電極接合体と、膜−電極接合体の間に位置するセパレータ(「バイポーラプレート」ともいう)とを含む。
【0003】
膜−電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の一側に位置するアノード電極と、電解質膜の他側に位置するカソード電極とを含む。セパレータは、アノード電極に向かう一面に燃料チャネルを形成してアノード電極に燃料を供給し、カソード電極に向かう一面に酸化剤チャネルを形成してカソード電極に酸化剤を供給する。これにより、アノード電極の水素酸化反応とカソード電極の酸素還元反応によって電気エネルギーが発生し、熱と水分が付随的に発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池スタックの作用時に付随的に発生する水は、膜−電極接合体の全領域にわたって均一に発生せずに特定部位に集中的に発生し、電流密度が高いほどより多量の水が発生する。膜−電極接合体のうちで水が多く発生する領域では酸化剤の拡散が低下し、水が不足な領域では膜−電極接合体が劣化したり電気化学的反応が起こらなくなる。その結果、膜−電極接合体全体で均一な反応を誘導することができないため、燃料電池スタックの性能が低下する。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、膜−電極接合体内部に水分が均一に分布するようにして膜−電極接合体全体で均一な電気化学的反応を誘導し、その結果、電気エネルギーの生成効率を高めることが可能な、新規かつ改良された燃料電池スタックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、電解質膜、前記電解質膜の第1面上に位置するアノード電極、及び前記電解質膜の第1面の反対側の第2面に位置するカソード電極を含む複数の膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体の間に介在するセパレータとを含む、燃料電池スタックが提供される。また、前記アノード電極及び前記カソード電極は、それぞれ互いに異なる面積密度を有する第1領域及び第2領域に区分されるガス拡散層を含む。
【0007】
また、前記ガス拡散層は、支持層及び多孔層を含んでもよい。
【0008】
また、前記支持層は、多孔性薄板材料を含んでもよい。
【0009】
また、前記支持層は、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト(felt)、多孔性金属板、又は多孔性金属マットを含んでもよい。
【0010】
また、前記支持層は積層された少なくとも2つの多孔性薄板を含んでもよい。
【0011】
また、前記多孔層は、カーボン粉末、カーボンナノロッド、カーボンナノワイヤ、カーボンナノチューブ、伝導性金属、無機物、又はセラミック粉末を含んでもよい。
【0012】
また、前記第1領域における前記支持層は50g/m〜300g/mの面積密度を有してもよく、前記第2領域における前記支持層は10g/m〜50g/mの面積密度を有してもよい。
【0013】
また、前記第1領域における前記多孔層は30g/m〜100g/mの面積密度を有してもよく、前記第2領域における前記多孔層は70g/m以下の面積密度を有してもよい。
【0014】
また、前記ガス拡散層は疎水性物質又は親水性物質で表面処理されてもよい。
【0015】
また、前記ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)又はスルホン化テトラフルオロエチレン(sulfonated tetrafluoroethylene)で表面処理されてもよい。
【0016】
また、前記第1領域と前記第2領域は、大きさが相違してもよい。
【0017】
また、前記セパレータには、酸化剤入口マニホールド及び酸化剤出口マニホールドが形成されてもよく、前記酸化剤入口マニホールドに隣接した前記第1領域の面積密度は、前記第2領域の面積密度よりも高くてもよい。
【0018】
また、前記セパレータには、燃料入口マニホールド及び燃料出口マニホールドが形成されてもよく、前記燃料入口マニホールドに隣接した前記第1領域の面積密度は、前記第2領域の面積密度よりも高くてもよい。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、電解質膜、前記電解質膜の第1面上に位置するアノード電極、及び前記電解質膜の前記第1面の反対側の第2面に位置するカソード電極を含む複数の膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体の間に介在するセパレータとを含む、燃料電池スタックが提供される。また、前記アノード電極及び前記カソード電極は、それぞれ面積密度が漸進的に変わるガス拡散層を含む。
【0020】
また、前記セパレータには、酸化剤入口マニホールド及び酸化剤出口マニホールドが形成されてもよく、前記カソード電極の前記ガス拡散層の面積密度は、前記酸化剤入口マニホールドから前記酸化剤出口マニホールドに向かう方向に沿って漸進的に低くなっていてもよい。
【0021】
また、前記セパレータには、燃料入口マニホールド及び燃料出口マニホールドが形成されてもよく、前記アノード電極の前記ガス拡散層の面積密度は、前記燃料入口マニホールドから前記燃料出口マニホールドに向かう方向に沿って漸進的に低くなっていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、ガス拡散層は、水分発生量が少ない領域で水分を閉じ込めて水分損失を最小化し、水分発生量が多い領域で水分放出量を高めることができる。従って、膜−電極接合体の全領域で水分分布を均一にすることができる。その結果、カソード電極の全領域で酸化剤を均一に拡散させることができ、水分不足による膜−電極接合体の劣化を防ぐことができ、膜−電極接合体全体で均一な電気化学的反応を誘導して燃料電池スタックの電気エネルギー生産効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池スタックの斜視図である。
【図2】図1に示す燃料電池スタックのうちの1つの膜−電極接合体と2つのセパレータを示す分解斜視図である。
【図3】図2に示す膜−電極接合体とセパレータの部分断面図である。
【図4】図3に示す燃料電池スタックのうちのカソード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【図5】図3に示す燃料電池スタックのうちのアノード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る燃料電池スタックのうちのカソード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る燃料電池スタックのうちのアノード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る燃料電池スタックのうちのカソード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る燃料電池スタックのうちのアノード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係る燃料電池スタックのうちのカソード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係る燃料電池スタックのうちのアノード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【図12】実施形態の膜−電極接合体と比較例の膜−電極接合体に対する電力密度実験の結果を示すグラフである。
【図13】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの全体的な構成を概略的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池スタックの斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタックのうちの1つの膜−電極接合体と2つのセパレータを示す分解斜視図である。
【0026】
図1と図2を参照すれば、第1実施形態の燃料電池スタック100は、互いに距離をおいて位置する複数の膜−電極接合体10と、膜−電極接合体10の間で膜−電極接合体10に密着して配置する複数のセパレータ20とを含む。1つの膜−電極接合体10と、その両側に配置される2つのセパレータ20が電気エネルギーを生成する1つの電気生成ユニット(単位セル)を構成する。
【0027】
セパレータ20は、「バイポーラプレート」とも呼ばれ、燃料電池スタック100の最外郭に一対のエンドプレート30が位置する。燃料電池スタック100は、2つのエンドプレート30を貫通するボルト31のような締結手段によって堅固に組み立てられる。エンドプレート30には、燃料を供給する燃料注入口32と、酸化剤を供給する酸化剤注入口33と、未反応燃料を排出する燃料排出口34と、水分と未反応空気を排出する酸化剤排出口35とが形成されてもよい。
【0028】
図1では、1つのエンドプレート30に2つの注入口32、33と2つの排出口34、35がすべて形成された場合を示したが、いずれか1つのエンドプレート30に燃料注入口32と酸化剤注入口33が形成され、他の1つのエンドプレート30に燃料排出口34と酸化剤排出口35が形成される構成も可能である。
【0029】
図3は、図2に示す膜−電極接合体10とセパレータ20の部分断面図である。
【0030】
図3を参照すれば、膜−電極接合体10は、電解質膜11と、電解質膜11の一面に接するカソード電極12と、電解質膜11の他の一面に接するアノード電極13とを含む。
【0031】
カソード電極12は、酸化剤の供給を受ける部分であって、還元反応によって酸化剤中の酸素を電子と酸素イオンに変換させる触媒層14と、触媒層14の外面に接して電子と酸素イオンの移動を円滑にするガス拡散層15とを含む。アノード電極13は、燃料の供給を受ける部分であって、酸化反応によって燃料中の水素を電子と水素イオンに変換させる触媒層16と、触媒層16の外面に接して電子と水素イオンの移動を円滑にするガス拡散層17とを含む。
【0032】
電解質膜11は、約5μm〜約200μmの厚さを有する固体ポリマー電解質であってもよく、アノード電極13の触媒層16で生成された水素イオンをカソード電極12の触媒層14に移動させるイオン交換機能を有する。
【0033】
なお、図2において、参照符号18は、膜−電極接合体10を支持する支持シートを示す。
【0034】
セパレータ20は、一側に位置する膜−電極接合体10のカソード電極12と他側に位置する膜−電極接合体10のアノード電極13を直列に連結する伝導体として機能する。また、セパレータ20は、カソード電極12に向かう一面に酸化剤チャネル21を形成してカソード電極12に酸化剤を供給し、アノード電極13に向かう一面に燃料チャネル22を形成してアノード電極13に燃料を供給する。
【0035】
図2及び図3に示すように、セパレータ20のコーナー側の周縁には、酸化剤チャネル21と連結する酸化剤入口マニホールド23及び酸化剤出口マニホールド24が形成される。
【0036】
酸化剤チャネル21は、酸化剤入口マニホールド23と酸化剤出口マニホールド24を連結する凹んだ溝からなる。セパレータ20の他のコーナー側の周縁には、燃料チャネル22と連結する燃料入口マニホールド25及び燃料出口マニホールド26が形成される。
【0037】
燃料チャネル22は、燃料入口マニホールド25と燃料出口マニホールド26を連結する凹んだ溝からなる。燃料注入口32に供給された燃料は、燃料注入口32と繋がった燃料入口マニホールド25を介してセパレータ20の燃料チャネル22に分散され、膜−電極接合体10のアノード電極13に同時に供給される。
【0038】
酸化剤注入口33に供給された酸化剤は、酸化剤注入口33と繋がった酸化剤入口マニホールド23を介してセパレータ20の酸化剤チャネル21に分散され、膜−電極接合体10のカソード電極12に同時に供給される。従って、膜−電極接合体10で燃料と酸化剤の電気化学的反応によって電気エネルギーが生成する。
【0039】
また、膜−電極接合体10の電気化学的反応に用いられることができない未反応燃料は、燃料出口マニホールド26を経て燃料排出口34を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。膜−電極接合体10の電気化学的反応に用いられることができない未反応酸化剤及び電気化学的反応の副産物として発生した水分は、酸化剤出口マニホールド24を経て酸化剤排出口35を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0040】
上述した構成の燃料電池スタック100は、電気エネルギーを生成する過程において付随的に水と熱が発生する。しかしながら、水は膜−電極接合体10の全領域に渡って均一に発生せずに特定領域で発生するため、膜−電極接合体10の内部で水分分布が不均一になる。不均一な水分分布は燃料電池スタック100の劣化を誘発し、電気エネルギーの生成効率を低下させる。
【0041】
本実施形態の燃料電池スタック100において、ガス拡散層15、17は、少なくとも2つの領域に分離され、分離した少なくとも2つの領域で互いに異なる面積密度(aerial density、単位面積あたりの質量)を有する。ガス拡散層15、17は、膜−電極接合体10のうちで水分が不足した領域では水分損失を最小化し、水分が多い領域では水分排出を円滑にし、膜−電極接合体10の水分分布を均一にする機能を実現する。
【0042】
図4は、図3に示す燃料電池スタックのうちのカソード電極のガス拡散層を示す概略図である。また、図5は、図3に示す燃料電池スタックのうちのアノード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【0043】
図3〜図5に示すように、カソード電極12のガス拡散層15は、酸化剤入口マニホールド23と隣接する第1領域A10と、酸化剤出口マニホールド24と隣接する第2領域A20に分離される。また、第1領域A10で測定されるガス拡散層15の面積密度は、第2領域A20で測定されるガス拡散層15の面積密度よりも高い。
【0044】
アノード電極13のガス拡散層17は、燃料入口マニホールド25と隣接する第3領域A30と、燃料出口マニホールド26と隣接する第4領域A40に分離される。また、第3領域A30で測定されるガス拡散層17の面積密度は、第4領域A40で測定されるガス拡散層17の面積密度よりも高い。
【0045】
なお、酸化剤入口マニホールド23と酸化剤出口マニホールド24の位置は、図4に示す例に限定されるものではない。ガス拡散層15の第1領域A10は、酸化剤入口マニホールド23の位置に関係なく酸化剤入口マニホールド23と隣接する領域として定義される。
【0046】
また、燃料入口マニホールド25と燃料出口マニホールド26の位置も、図5に示す例に限定されるものではない。ガス拡散層17の第3領域A30は、燃料入口マニホールド25の位置に関係なく燃料入口マニホールド25と隣接する領域として定義される。
【0047】
上述した構成のガス拡散層15、17は、燃料電池スタック100の稼働時、膜−電極接合体10のうちで酸化剤出口マニホールド24の周辺領域と燃料出口マニホールド26の周辺領域で水分発生量が多く、酸化剤入口マニホールド23の周辺領域と燃料入口マニホールド25の周辺領域で相対的に水分発生量が少ない燃料電池スタック100に有効に適用されることができる。
【0048】
図3に示すように、ガス拡散層15、17は、支持層(backing layer)151、171と、支持層151、171の一面に接する多孔層(micro−porous layer)152、172の積層膜で形成される。
【0049】
支持層151、171は、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト、多孔性金属板、及び多孔性金属マットなどの多孔性薄板材料が単独又は2つ以上重なった形態からなる。多孔層152、172は、カーボン粉末、カーボンナノロッド、カーボンナノワイヤ、カーボンナノチューブ、伝導性金属、無機物、及びセラミック粉末のうちの少なくとも1つを含む。
【0050】
支持層151、171と多孔層152、172はポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)のような疎水性物質で表面処理されたり、スルホネート化テトラフルオロエチレン(sulfonated tetrafluoroethylene)重合体(例えば、ナフィオンアイオノマー(Nafion ionomer)など)のような親水性物質で表面処理されてもよい。
【0051】
疎水性表面処理の場合にはガス拡散層15、17に水が溜まるフラッディング(flooding)現象を防ぐことができ、親水性表面処理の場合には膜−電極接合体10内部の水分含有量を高めることができる。
【0052】
ガス拡散層15、17は、支持層151、171の面積密度を調節したり、多孔層152、172の面積密度を調節したり、支持層151、171と多孔層152、172の面積密度を共に調節する方法によって第1領域A10と第2領域A20、又は第3領域A30と第4領域A40に分離してもよい。支持層151、171と多孔層152、172はすべて所定の気孔を有し、面積密度によって支持層151、171と多孔層152、172の水透過度(water permeability)が変わる。
【0053】
ガス拡散層15、17は、水分発生量が少ない第1領域A10と第3領域A30で高い面積密度によって水透過度を低め、水分発生量が多い第2領域A20と第4領域A40で低い面積密度によって水透過度を高める。従って、ガス拡散層15、17は、第1領域A10と第3領域A30で水分を閉じ込めて水分損失を最小化し、第2領域A20と第4領域A40で水分放出量を高める。
【0054】
具体的に、カソード電極12のガス拡散層15は、触媒層14で発生した水分を電解質膜11とセパレータ20の酸化剤チャネル21の両側に伝達する機能を行う。第1領域A10ではガス拡散層15の高い面積密度によって酸化剤チャネル21に向かう水分移動が減少し、主に電解質膜11に水分が移動する。第2領域A20ではガス拡散層15の低い面積密度によって酸化剤チャネル21に向かう水分移動が増加して水分放出量が高まり、フラッディング現象を抑制することができる。
【0055】
また、アノード電極13のガス拡散層17は、触媒層16で発生した水分をセパレータ20の燃料チャネル22側に伝達する機能を行う。第3領域A30ではガス拡散層17の高い面積密度によって燃料チャネル22に向かう水分移動が減少し、主に電解質膜11に水分が移動する。第4領域A40ではガス拡散層17の低い面積密度によって燃料チャネル22に向かう水分移動が増加して水分放出量が高まり、フラッディング現象を抑制することができる。
【0056】
従って、膜−電極接合体10は、上述したガス拡散層15、17の作用によって全領域で水分分布を実質的に均一になるようにできる。その結果、カソード電極12の全領域で酸化剤を実質的に均一に拡散させることができ、水分不足による膜−電極接合体10の劣化を防ぐことができ、膜−電極接合体10全体で均一な電気化学的反応を誘導して燃料電池スタック100の電気エネルギー生産効率を高めることができる。
【0057】
ガス拡散層15、17の支持層151、171は、第1領域A10と第3領域A30で約50g/m〜約300g/mの面積密度を有してもよく、第2領域A20と第4領域A40で約10g/m〜約50g/mの面積密度を有してもよい。ガス拡散層15、17の多孔層152、172は、第1領域A10と第3領域A30で約30g/m〜約100g/mの面積密度を有してもよく、第2領域A20と第4領域A40で約70g/m以下の面積密度を有してもよい。
【0058】
一方、上述ではカソード電極12のガス拡散層15とアノード電極13のガス拡散層17がすべて2つの領域に分離された場合を説明したが、カソード電極12のガス拡散層15とアノード電極13のガス拡散層17のうちのいずれか1つのみが2つの領域に分離される構成も可能である。
【0059】
また、図4と図5では、第2領域A20が第1領域A10よりも大きく、第4領域A40が第3領域A30よりも大きい場合を示したが、ガス拡散層15、17の領域設定は、これらの図に示す例に限定されるものではなく、多様に変形が可能である。すなわち、第1領域A10と第2領域A20は同じ大きさで形成されたり異なる大きさで形成されてもよく、第3領域A30と第4領域A40も同じ大きさで形成されたり異なる大きさで形成されてもよい。
【0060】
また、図4と図5では、ガス拡散層15、17が2つの領域に分離された場合を示したが、第1領域A10と第2領域A20の間、又は第3領域A30と第4領域A40の間に少なくとも1つの追加領域が位置してもよい。追加領域で測定されるガス拡散層15、17の面積密度は、第2領域A20及び第4領域A40で測定されるガス拡散層15、17の面積密度よりも高く、第1領域A10及び第3領域A30で測定されるガス拡散層15、17の面積密度よりも小さい。
【0061】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係る燃料電池スタックのうちのカソード電極のガス拡散層を示す概略図である。また、図7は、本発明の第2実施形態に係る燃料電池スタックのうちのアノード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【0062】
図6と図7に示すように、カソード電極12のガス拡散層115は、酸化剤入口マニホールド23から酸化剤出口マニホールド24に向かって少なくとも一方向に沿って漸進的に低くなる面積密度を有する(つまり、面積密度が漸減する。)。アノード電極13のガス拡散層117は、燃料入口マニホールド25から燃料出口マニホールド26を向かって少なくとも一方向に沿って漸進的に低くなる面積密度を有する(つまり、面積密度が漸減する。)。
【0063】
ガス拡散層115、117は、一対の長辺と一対の短辺を有する長方形であってもよく、ガス拡散層115、117の面積密度は、長辺と平行な方向、短辺と平行な方向、及び対角方向のうちの一方向に沿って漸進的に変わってもよい。図6と図7では、短辺と平行な方向に沿ってガス拡散層115、117の面積密度が変わる場合を示したが、面積密度が変わる方向は図に示す例に限定されるものではない。
【0064】
ガス拡散層115、117の面積密度変化は、支持層151、171の面積密度を調節したり、多孔層152、172の面積密度を調節したり、支持層151、171と多孔層152、172の面積密度を共に調節する方法によって実現されてもよい。第2実施形態の燃料電池スタックでは、ガス拡散層115、117をより細分化して面積密度を調節することにより、膜−電極接合体10の全領域で水分分布を実質的に均一化する効果をより高めることができる。
【0065】
(第3実施形態)
図8は、本発明の第3実施形態に係る燃料電池スタックのうちのカソード電極のガス拡散層を示す概略図である。また、図9は、本発明の第3実施形態に係る燃料電池スタックのうちのアノード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【0066】
図8と図9に示すように、カソード電極12のガス拡散層215は、酸化剤入口マニホールド23と隣接する第5領域A50と、酸化剤出口マニホールド24と隣接する第6領域A60と、第5領域A50と第6領域A60の間に位置する第7領域A70とに分離される。また、第5領域A50及び第6領域A60で測定されるガス拡散層215の面積密度は、第7領域A70で測定されるガス拡散層215の面積密度よりも高い。第5領域A50と第6領域A60で測定されるガス拡散層215の面積密度は同じであってもよい。
【0067】
アノード電極13のガス拡散層217は、燃料入口マニホールド25と隣接する第8領域A80と、燃料出口マニホールド26と隣接する第9領域A90と、第8領域A80と第9領域A90の間に位置する第10領域A10とに分離される。また、第8領域A80及び第9領域A90で測定されるガス拡散層217の面積密度は、第10領域A100で測定されるガス拡散層A217の面積密度よりも高い。第8領域A80と第9領域A90で測定されるガス拡散層217の面積密度は同じであってもよい。
【0068】
上述した構成のガス拡散層215、217は、燃料電池スタックの稼働時、膜−電極接合体10の中間領域で水分発生量が多く、酸化剤入口マニホールド23、酸化剤出口マニホールド24、燃料入口マニホールド25、及び燃料出口マニホールド26の周辺領域で相対的に水分発生量が少ない燃料電池スタックに有効に適用されることができる。
【0069】
ガス拡散層215、217の面積密度変化は、支持層151、171の面積密度を調節したり、多孔層152、172の面積密度を調節したり、支持層151、171と多孔層152、172の面積密度を共に調節する方法によって実現されてもよい。
【0070】
ガス拡散層215、217は、相対的に乾燥した第5領域A50、第6領域A60、第8領域A80、及び第9領域A90で水分を閉じ込めて水分損失を最小化し、水分発生量が多い第7領域A70と第10領域A100で水分放出量を高める。従って、ガス拡散層215、217は、上述した作用によって膜−電極接合体10の全領域で水分分布を均一にすることができる。
【0071】
第5領域A50〜第10領域A100の大きさは、図8と図9に示す例に限定されるものではなく、多様に変形が可能である。また、第5領域A50と第7領域A70の間、第6領域A60と第7領域A70の間、第8領域A80と第10領域A100の間、及び第9領域A90と第10領域A100の間に少なくとも1つの追加領域が位置してもよい。追加領域で測定されるガス拡散層215、217の面積密度は、隣接する2つの領域で測定される2つの面積密度の中間値であってもよい。
【0072】
(第4実施形態)
図10は、本発明の第4実施形態に係る燃料電池スタックのうちのカソード電極のガス拡散層を示す概略図である。また、図11は本発明の第4実施形態に係る燃料電池スタックのうちのアノード電極のガス拡散層を示す概略図である。
【0073】
図10と図11に示すように、カソード電極12のガス拡散層315は、酸化剤入口マニホールド23から酸化剤出口マニホールド24に向かって少なくとも一方向に沿って漸進的に低くなった後、漸進的に再び高くなる面積密度を有する(つまり、面積密度が漸減した後で漸増する。)。アノード電極13のガス拡散層317は、燃料入口マニホールド25から燃料出口マニホールド26に向かって少なくとも一方向に沿って漸進的に低くなった後、漸進的に再び高くなる面積密度を有する(つまり、面積密度が漸減した後で漸増する。)。
【0074】
ガス拡散層315、317の面積密度は、長辺と平行な方向、短辺と平行な方向、及び対角方向のうちのいずれか一方向に沿って漸進的に変わってもよい。図10と図11では、短辺と平行な方向に沿ってガス拡散層315、317の面積密度が変わる場合を示したが、面積密度が変わる方向は図に示した例に限定されるものではない。
【0075】
ガス拡散層315、317の面積密度変化は、支持層151、171の面積密度を調節したり、多孔層152、172の面積密度を調節したり、支持層151、171と多孔層152、172の面積密度を共に調節する方法によって実現されてもよい。第4実施形態の燃料電池スタックでは、ガス拡散層315、317をより細分化して面積密度を調節することにより、膜−電極接合体10の全領域で水分分布を均一化する効果をさらに高めることができる。
【0076】
(補足)
上述した第2実施形態〜第4実施形態において、カソード電極12のガス拡散層15とアノード電極13のガス拡散層17のうちのいずれか1つは、領域区分や漸進的な面積密度の変化なく一定の面積密度を有するように形成されてもよい。すなわち、上述した領域設定や漸進的な密度変化は、カソード電極12のガス拡散層15とアノード電極13のガス拡散層17のうちのいずれか1つにのみ適用されてもよい。
【0077】
図12は、上述した実施形態の膜−電極接合体10と比較例の膜−電極接合体に対する電力密度実験の結果を示すグラフである。
【0078】
上述した実施形態の膜−電極接合体10において、カソード電極12のガス拡散層15は第1領域A10と第2領域A20に区分されて(図4参照)、第1領域A10と第2領域A20でそれぞれ約174g/mの面積密度と約115g/mの面積密度を示す。比較例の燃料電池スタックにおいて、カソード電極のガス拡散層は約115g/mの単一面積密度を示す。ここで、面積密度は、支持層の面積密度と多孔層の面積密度を加えた値である。
【0079】
カソード電極のガス拡散層を除いては、上述した実施形態の膜−電極接合体10と比較例の膜−電極接合体は同じ構成からなる。電力密度実験は、カソード電極に乾燥した酸化剤を供給する条件で進められた。図12のグラフを参照すれば、上述した実施形態の膜−電極接合体10は比較例の膜−電極接合体に対比して約1.58倍高い電力密度を実現していることが確認される。
【0080】
(システム構成)
図13は、本発明の一実施形態に係る燃料電池システム200の全体的な構成を概略的に示す構成図である。本実施形態の燃料電池システム200は、上述した第1実施形態〜第4実施形態の燃料電池スタックのうちのいずれか1つの燃料電池スタック100を含む。
【0081】
図13を参照すれば、本実施形態の燃料電池システム200は、燃料電池スタック100と、燃料電池スタック100に燃料を供給する燃料供給部40と、燃料電池スタック100に酸化剤を供給する酸化剤供給部50とを含む。
【0082】
燃料は、メタノール、エタノール、液化天然ガス、液化石油ガス、ガソリン、及びブタンガスのように液体又は気体状態で存在する炭化水素系燃料であり、酸化剤は外部空気又は酸素ガスである。
【0083】
燃料供給部40は、液体又は気体状態の燃料を貯蔵する燃料タンク41と、燃料タンク41と燃料電池スタック100を連結する燃料供給管42と、燃料タンク41に連結設置される燃料ポンプ43とを含む。燃料ポンプ43は所定のポンピング力によって燃料タンク41に貯蔵された燃料を排出し、燃料供給管42を介して燃料電池スタック100に燃料を供給する。
【0084】
酸化剤供給部50は、燃料電池スタック100に連結する酸化剤供給管51と、酸化剤供給管51に設置される酸化剤ポンプ52とを含む。酸化剤ポンプ52は所定のポンピング力によって外部空気を吸入し、酸化剤供給管51を介して燃料電池スタック100に酸化剤を供給する。このとき、酸化剤供給管51には酸化剤の供給量を調節する制御バルブ(図示せず)が設置されてもよい。
【0085】
上述した燃料電池システム200は、燃料と酸化剤の直接的な電気化学的反応を利用して電気エネルギーを生成する直接酸化型(direct oxidation type)からなる。しかしながら、本発明は直接酸化型に限定されるものではなく、水素又は水素リッチガスと酸化剤の電気化学的反応を利用して電気エネルギーを生成する高分子電解質型(polyer electrode membrane type)でなされてもよい。
【0086】
高分子電解質形の場合、燃料電池システムの燃料供給部は、燃料を改質して水素又は水素リッチガスを発生させる改質器(reformer)をさらに含む。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0088】
100 燃料電池スタック
10 膜−電極接合体
11 電解質膜
12 カソード電極
13 アノード電極
14、16 触媒層
15、17 ガス拡散層
20 セパレータ
21 酸化剤チャネル
22 燃料チャネル
23 酸化剤入口マニホールド
24 酸化剤出口マニホールド
25 燃料入口マニホールド
26 燃料出口マニホールド
200 燃料電池システム
40 燃料供給部
50 酸化剤供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜、前記電解質膜の第1面上に位置するアノード電極、及び前記電解質膜の前記第1面の反対側の第2面に位置するカソード電極を含む複数の膜−電極接合体;及び
前記膜−電極接合体の間に介在するセパレータ;
を含み、
前記アノード電極及び前記カソード電極は、それぞれ互いに異なる面積密度を有する第1領域及び第2領域に区分されるガス拡散層を含む、
燃料電池スタック。
【請求項2】
前記ガス拡散層は、支持層及び多孔層を含む、
請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記支持層は、多孔性薄板材料を含む、
請求項2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記支持層は、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト(felt)、多孔性金属板、又は多孔性金属マットを含む、
請求項2又は3に記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記支持層は、積層された少なくとも2つの多孔性薄板を含む、
請求項2〜4のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記多孔層は、カーボン粉末、カーボンナノロッド、カーボンナノワイヤ、カーボンナノチューブ、伝導性金属、無機物、又はセラミック粉末を含む、
請求項2〜5のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記第1領域における前記支持層は50g/m〜300g/mの面積密度を有し、前記第2領域における前記支持層は10g/m〜50g/mの面積密度を有する、
請求項2〜6のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項8】
前記第1領域における前記多孔層は30g/m〜100g/mの面積密度を有し、前記第2領域における前記多孔層は70g/m以下の面積密度を有する、
請求項2〜6のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項9】
前記ガス拡散層は、疎水性物質又は親水性物質で表面処理される、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項10】
前記ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)又はスルホネート化テトラフルオロエチレン(sulfonated tetrafluoroethylene)で表面処理される、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項11】
前記第1領域と前記第2領域は、大きさが相違する、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項12】
前記セパレータには、酸化剤入口マニホールド及び酸化剤出口マニホールドが形成され、前記酸化剤入口マニホールドに隣接した前記第1領域の面積密度は前記第2領域の面積密度よりも高い、
請求項1〜11のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項13】
前記セパレータには、燃料入口マニホールド及び燃料出口マニホールドが形成され、前記燃料入口マニホールドに隣接した前記第1領域の面積密度は前記第2領域の面積密度よりも高い、
請求項1〜12のいずれか1項に記載の燃料電池スタック。
【請求項14】
電解質膜、前記電解質膜の第1面上に位置するアノード電極、及び前記電解質膜の前記第1面の反対側の第2面に位置するカソード電極を含む複数の膜−電極接合体;及び
前記膜−電極接合体の間に介在するセパレータ;
を含み、
前記アノード電極及び前記カソード電極は、それぞれ面積密度が漸進的に変わるガス拡散層を含む、
燃料電池スタック。
【請求項15】
前記セパレータには、酸化剤入口マニホールド及び酸化剤出口マニホールドが形成され、前記カソード電極の前記ガス拡散層の面積密度は前記酸化剤入口マニホールドから前記酸化剤出口マニホールドに向かう方向に沿って漸進的に低くなる、
請求項14に記載の燃料電池スタック。
【請求項16】
前記セパレータには、燃料入口マニホールド及び燃料出口マニホールドが形成され、前記アノード電極の前記ガス拡散層の面積密度は前記燃料入口マニホールドから前記燃料出口マニホールドに向かう方向に沿って漸進的に低くなる、
請求項14又は15に記載の燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−198737(P2011−198737A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181311(P2010−181311)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】