説明

燃料電池モジュール

【課題】セルスタックを改質器と共に収納した燃料電池モジュールにおける酸化ガスの逆流を抑制し、各セルスタック流路へ均等にガスを供給する。
【解決手段】燃料電池モジュール100は、収納容器110に、電池セル200の複数を直列に配列したセルスタックと、発電に消費される水素ガスを生成する改質器120とを収容する。電池セル200は、鉛直方向に立設され、改質器120から供給を受けた水素ガスが通過する燃料ガス流路212をセル内部を貫通させて備えると共に、燃料ガス流路212の流路末端に浮き子式の弁体300を有する。弁体300は、弁体300に作用する重力と燃料ガス流路212を通過する排ガスが弁体300に及ぼす押し上げ力との関係により、燃料ガス流路212の通過ガス流量が少ないほど燃料ガス流路212の流路末端から収納容器110の内部に排出される排ガスの排出速度を高めるよう、排ガス流量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルスタックと改質器を筐体の内部に収納してなる燃料電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料電池モジュールは、セルスタックが備える複数の発電セルに、セルスタックと共に筐体に収容した改質器で生成した燃料ガスを供給する。こうして供給された燃料ガスは、発電セルにて消費され、未消費の燃料ガスは、排ガスとして発電セルから筐体の内部に排出される。燃料電池の一つである固体酸化物型燃料電池は、その作動温度が700〜1000℃と比較的高温であるため、その排熱を利用して、改質器による改質反応を促進させることができる。
【0003】
その一方、筐体内の発電セルには、別系統にて酸素含有の酸化ガス、具体的には空気が供給されるので、筐体内には、酸化ガスと未消費の燃料ガスである排ガスが混在することになる。このため、この排ガスを筐体内で燃焼させてその熱で改質器の昇温を図ることも提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
改質器からセルスタックへは、通常、要求負荷に対応したガス量の燃料ガスが供給される。セルスタックは、複数の発電セル数を備えることから、ガス供給量をセル数で均等割した供給量(以下、均等供給量)がそれぞれの発電セルに供給されることが望ましい。ところが、各発電セルは、セルスタックにおいてその配列位置が相違することから、各発電セルには、均等供給量からずれたガス量の燃料ガスが供給される。例えば、セルスタックにおける配列位置によりガスが最も行き渡りにくい発電セルでは、均等供給量より少ないガス量の燃料ガスが供給され、ガスが最も行き渡りやすい発電セルでは、均等供給量を超えるガス量の燃料ガスが供給されることになり、発電セルの配列位置に応じた供給バラツキが生じる。こうした供給バラツキを、発電セルへのガス流入側で抑制することも提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−225454号公報
【特許文献2】特開2007−317544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、セルスタックに含まれる発電セルは、均一な発電状況下で運転されることは希であり、高負荷、或いは低負荷での運転が続くことが多々ある。通常の負荷もしくは高負荷での運転下では、各発電セルへの燃料ガスの供給量自体が多いことから、セル配列位置によりガス供給量が最小となる発電セルであってもガス供給量が確保される。このため、セル配列位置による上記したガス供給バラツキの影響はさほど問題とならない。ところが、低負荷下での運転では、そもそもガス供給量自体が少ないので、その分、セル配列位置による上記したガス供給バラツキの影響が顕著となり、セル配列位置により均等供給量より少ないガス量の燃料ガスが供給される発電セルでは、セルにおける流路を通過する燃料ガスの流量や流速が大きく下がる。このため、筐体内の酸化ガス(空気)が電池セルにおける燃料ガスの流路に逆流することが起き得、こうした酸化ガス逆流は、セル配列位置に応じてガス供給量が少なくなる発電セルほど起き易くなる。上記した特許文献では、こうした低負荷運転時のガス供給挙動に対しての対処が十分とは言えないため、その改善が要望されるに到った。以下、この点につき、説明する。
【0007】
酸化ガスの逆流が起きると、その逆流ガス量に相当する量だけ、発電セルへの燃料ガスの供給が減るので、セル配列位置によりガス供給量最小となる発電セルでは燃料ガスの供給量は更に低減する。そして、ガス供給量最小の発電セル以外の発電セル、具体的には、セル配列位置によりガス供給量が多くなりがちな発電セルでは、低負荷に対応した均等割供給量を超える燃料ガスが供給されてしまい、未消費のまま排出されてしまう燃料ガスが増える。よって、燃料ガスの利用率が低下する。なお、こうした問題は、セルスタックの発電セルが固体酸化物型の電池セルである燃料電池モジュールに限らず、改質器とセルスタックとを筐体に収納して、排ガスを筐体の内部に排出する燃料電池モジュールに共通する問題であった。
【0008】
本発明は、上記した課題を踏まえ、複数の発電セルを備えるセルスタックを改質器と共に筐体の内部に収納した燃料電池モジュールにおける酸化ガスの逆流を抑制して、燃料ガスの利用率の向上を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の適用例として実施することができる。
【0010】
[適用1:燃料電池モジュール]
発電単位となる発電セルの複数を配列して備えるセルスタックと、前記発電セルでの発電に消費される燃料ガスを生成する改質器とを筐体の内部に収容した燃料電池モジュールであって、
前記発電セルは、
前記改質器から供給を受けた前記燃料ガスが通過する燃料ガス流路をセル内部を貫通させて備えると共に、前記燃料ガス流路の流路末端に流量調整部を備え、
該流量調整部は、
前記燃料ガス流路を通過するガス流量が少ないほど前記流路末端から前記筐体の内部に排出される排ガスの排出速度を高める排ガス排出経路を形成して、前記排ガスの流量を調整する
ことを要旨とする。
【0011】
上記構成の燃料電池モジュールは、筐体にセルスタックと改質器とを収容し、セルスタックの各発電セルは、セル内部を貫通する燃料ガス流路を有する。改質器の生成した燃料ガスは、発電セルに供給されセルの燃料ガス流路を通過し、発電セルでの発電で消費され、未消費の燃料ガスは、排ガスとして、燃料ガス流路をその流路末端まで通過する。この排ガスは、燃料ガス流路を通過するガス流量が少なくても流路末端から筐体の内部に排出される排ガスの排出速度が低くならないよう流路末端の流量調整部が形成した排ガス排出経路を通って筐体の内部に排出される。このため、低負荷運転であるために燃料ガスの総供給量が少ない状況下においては、セル配列位置によりガス供給量がより少なくなる発電セル、例えば、ガス供給量が最小の発電セルであっても、排ガスは、高い排出速度で流路末端から筐体の内部に排出されるので、この供給量最小の発電セルの燃料ガス流路には、筐体内の酸化ガスが逆流しがたくなる。このガス供給量最小の発電セル以外の発電セルでは、ガス供給量最小の発電セルより多くの量の燃料ガスが燃料ガス流路を通過するので、排ガスの排出速度は供給量最小の発電セルより遅くなるものの、燃料ガス流路の通過ガス量が多いことから、やはり、筐体内の酸化ガスは逆流し難いことになる。この結果、上記構成の燃料電池モジュールによれば、このガス供給量最小の発電セルを含む各発電セルにおける酸化ガスの逆流を抑制できることから、発電セルの燃料ガス流路を通過する燃料ガスが発電のために消費される機会を確保でき、燃料ガスの利用率の向上を図ることができる。
【0012】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、前記改質器については、これを前記筐体の天井側に位置させて収容し、前記筐体に収容された前記セルスタックについては、その有する発電セルを、前記燃料ガス流路の少なくとも前記流路末端を含む流路部位を前記筐体の内部において鉛直方向に延ばした上で、前記流路末端を前記改質器の側に位置させて配列する。そして、前記流量調整部については、これを、前記燃料ガス流路に入り込み該流路内において上下動可能な流路内駒と、該流路内駒と一体とされ前記燃料ガスの非供給時には前記流路末端を閉塞する閉塞体とを備えた浮き子式の弁体とする。この浮き子式の弁体は、前記燃料ガス流路を前記流路末端にて前記筐体の内部に繋ぐ隙間を、前記流路内駒の上下動に併せて閉塞体により形成し、弁体に作用する重力と前記燃料ガス流路を通過する前記排ガスが前記弁体に及ぼす押し上げ力との関係により前記隙間を調整して、前記排ガスの流量調整を図る。
【0013】
こうすれば、浮き子式の弁体を燃料ガス流路の流路末端に設けるという単純な構成で、発電セルの燃料ガス流路への酸化ガスの逆流抑制を図った上で、燃料ガスの利用率を高めることができる。
【0014】
この場合、前記弁体については、これを、前記燃料ガスの非供給時にあっても前記流路末端の一部部位を前記筐体の内部に繋ぐリーク経路を前記閉塞体に有するものとできる。こうすれば、より低負荷なためにガス供給量が一層と少なくなって、燃料ガス流路を通過する排ガスが弁体に及ぼす押し上げ力が重力より小さい場合でも、燃料ガス流路を通過する排ガスの一部をリーク経路を経て筐体の内部にリークできる。また、この際のガス通過経路は閉塞体に形成されたリーク経路であって、当然にその経路断面積も小さいことから、リークの際のガスの排出速度も確保できる。よって、より低負荷運転の際にあっても、発電セルの燃料ガス流路への酸化ガスの逆流抑制を図った上で、燃料ガスの利用率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例の燃料電池モジュール100を鉛直に断面視してその構成を概略的に示す概略断面図である。
【図2】電池セル200を概略的に示す斜視図である。
【図3】電池セル200をその中央にて縦断面視して示す説明図である。
【図4】弁体300を側面視して示す説明図である。
【図5】弁体300による排ガス排出の様子を説明する説明図である。
【図6】変形例の浮き子式の弁体300Aを側面視と底面視にて示す説明図である。
【図7】弁体300による流路末端の他の閉塞状況と排ガス排出の様子を説明する説明図である。
【図8】他の変形例の浮き子式の弁体300Bを側面視にて示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は実施例の燃料電池モジュール100を鉛直に断面視してその構成を概略的に示す概略断面図である。以下では、紙面に向かって左側、右側、上側、下側が、それぞれ、燃料電池モジュール100の左側、右側、上側、下側であるものとし、紙面手前側が燃料電池モジュール100の前側、紙面奥側が燃料電池モジュール100の後側として説明する。
【0017】
燃料電池モジュール100は、断熱性部材によって形成された略直方体状の収納容器110の内部に、セルスタック102と改質器120とを収容して備える。セルスタック102は、酸素イオンもしくは水素イオンの伝導性を有する固体酸化物を電解質(固体電解質)とする固体酸化物型燃料電池セル(以下、単に電池セル200と称する)を発電単位とし、この電池セル200を複数を直列に配列して備える。そして、燃料電池モジュール100は、収納容器110の容器側壁に、原料導入流路124と酸化ガス流入路160と燃焼オフガス排出路162とを備え、収納容器110の内部に、改質器120にて改質生成された燃料ガス(本実施例では、水素ガス)を電池セル200に供給するための供給流路122と、当該流路末端に位置してそれぞれの電池セル200に水素ガスを分配供給するマニホールド130とを有する。供給流路122とマニホールド130は、金属製の板材によって収納容器110内を区画することで形成されている。
【0018】
こうした流路構成を有する燃料電池モジュール100は、酸化ガス流入路160から、酸素を含有する酸化ガス(本例では、空気)を収納容器110の内部に導入する。導入された酸化ガスは、収納容器110の各部に行き渡り、電池セル200の後述のカソード230に供給される。また、燃料電池モジュール100は、原料導入流路124から、原燃料と改質用水とを改質器120に導入する。ここで、原燃料とは、改質器120における水蒸気改質に供される燃料であり、本実施例では、メタン(CH4)を含有するガスを用いる。原燃料としては、その他にも、プロパン、ブタン、灯油、ナフサ等の炭化水素系燃料や、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル等の燃料を用いることができる。改質用水とは、この原燃料の水蒸気改質に供される水分(水蒸気)である。改質器120は、供給を受けた原材料を改質して水素リッチな水素ガスを生成し、その生成した水素ガスを、既述した供給流路122とマニホールド130を経て、電池セル200に供給する。電池セル200に供給された水素ガスの内、未消費の水素ガスは、電池セル200から収納容器110の内部に排ガスとして排出され、この排ガスは、収納容器110内の酸化ガスと共に燃焼して燃焼オフガス排出路162から収納容器110の外部に排出される。
【0019】
改質器120は、原料導入流路124から供給流路122に掛けて収納容器110の天井側において容器左右方向に延びて配設され、そのケーシングは、例えば、ステンレス鋼のような金属材料によって形成されている。そして、この改質器120は、原料導入流路124の側を気化部とし、供給流路122の側を改質部とし、気化部の内部には、セラミックスボール(例えば、Al23やZrO2)を収容する。改質部の内部には、触媒が塗布されたセラミックスボールを収容する。これにより、改質器120は、原料導入流路124から供給された原燃料と改質用水とを気化部にて気化した後、改質部にて水素リッチな水素ガスを改質生成する。つまり、原料導入流路124から供給された原燃料と改質用水とが、後述する排ガスの燃焼熱と電池セル200の発電による発熱とを受けて加熱される。この加熱により、原料導入流路124の側の気化部では、原燃料が水蒸気改質反応に適した温度まで昇温されるとともに、改質用水が気化されて水蒸気が発生する。こうして加熱された水蒸気を含む原燃料のことを、以下では、原燃料ガスという。上述したように、気化部には、セラミックスボールが収容されており、これにより原燃料ガスの昇温が補助される。
【0020】
一方、気化部下流の改質部は、水蒸気改質反応を促進するための触媒が塗布された上記のセラミックスボールに気化部から供給を受けた原燃料ガスを接触させ、約600℃の温度でこの原燃料ガスを改質し、水素を含有する燃料ガス(水素ガス)を生成する。この改質反応は、吸熱反応であり、後述する排ガスの燃焼熱と電池セル200の発電による発熱とが利用される。上記の触媒としては、ルテニウム系触媒やニッケル系触媒を用いることができる。改質器120の改質部によって生成された燃料ガスは、供給流路122を経てマニホールド130に流入し、このマニホールド130からそれぞれの電池セル200に分配供給される。なお、改質器120は、図示するように容器左右方向に延びた上、紙面奥側のモジュール後側から紙面手前側のモジュール前側に掛けても延びている。
【0021】
セルスタック102は、改質器120の下方において、複数の電池セル200を容器左右方向に延びるよう直列に配列して備える。個々の電池セル200は、マニホールド130に固定部材132にて下端側で固定され、マニホールド130から改質器120に向けて鉛直に立設されている。固定部材132は、絶縁性を有する材料から形成さて、電池セル200のそれぞれを、セル下端にてマニホールド130に気密に固定する。こうして固定された個々の電池セル200は、図示するように容器左右方向に延びて並んだ上、紙面奥側のモジュール後側から紙面手前側のモジュール前側に掛けても延び、改質器120と後述する所定の間隙を隔てている。なお、既述した改質器120とその下方に位置するセルスタック102とは、モジュール前後方向に複数対、設けることもできる。
【0022】
次に、電池セル200の構成について説明する。図2は電池セル200を概略的に示す斜視図、図3は電池セル200をその中央にて縦断面視して示す説明図である。図示するように、電池セル200は、多孔質基材210と、固体電解質220と、カソード230と、インターコネクタ240と、集電保持材250とを有する。多孔質基材210は、小判状の断面の平板状の部材であって耐食性を有する金属多孔体から形成され、鉛直方向に延びてセルを貫通する複数の燃料ガス流路212を一列に並べて備える。この場合、多孔質基材210の両端の燃料ガス流路212は、カソード230の端部側に位置して発電量が他の部位に比して低下するため、小径の流路とされている。多孔質基材210は、燃料ガス流路212をその下端にてマニホールド130と連通させているので、改質器120の生成した水素ガスは、マニホールド130から燃料ガス流路212に流路下端から入り込んで当該流路を通過し、未消費の水素ガス(排ガス)は、燃料ガス流路212の上端側の流路末端から収納容器110の内部に排出される。電池セル200は、図1に示すように、燃料ガス流路212の流路末端に浮き子式の後述の弁体300を有するので、排ガスは、この弁体300での流量調整を受けた上で、燃料ガス流路212の流路末端から収納容器110の内部に排出される。このガス排出の様子については、後述する。
【0023】
この多孔質基材210は、燃料ガス流路212の側の部位で気孔が粗くて気孔率が高く、インターコネクタ240の側の部位で気孔が密となるようにされており、燃料ガス流路212を通過する水素ガスを、固体電解質220に拡散供給する。本実施例では、多孔質基材210から固体電解質220に水素ガスを直接供給するので、この多孔質基材210は、固体電解質220に接合しカソード230に対向する領域をアノードとして機能させる。この場合、固体電解質220を挟んでカソード230に対向するアノードを多孔質基材210とは別部材から形成し、このアノードを多孔質基材210に組み込むこともできる。
【0024】
インターコネクタ240は、電池セル200ごとの集電体であって平板状をなし、多孔質基材210の一方の平面に装着される。このインターコネクタ240は、電池セルごとの集電体であって、隣り合うセル間に配設された導電性の集電保持材250と協働して、電池セル200のそれぞれを電気的に直流に接続する。集電保持材250は、熱による電池セル200の変形を吸収すべくバネ様の形状とされ、電池セル200を鉛直に立設した姿勢で保持する。
【0025】
固体電解質220は、インターコネクタ240を除く範囲において多孔質基材210をその外周にて取り囲むよう形成され、湾曲端部の側にて、インターコネクタ240と接合する。カソード230は、平板状をなし、多孔質基材210の他方の平面の側において、固体電解質220に接合する。
【0026】
上記構成の電池セル200は、固体電解質220の一方の電極面に多孔質基材210の燃料ガス流路212をその下端から通過する水素ガス(燃料ガス)の供給を受け、固体電解質220の他方の電極面には、収納容器110の内部に入り込んだ空気の供給をカソード230を介して受ける。これにより、電池セル200は、供給された水素ガスを消費して発電し、その発電電力は、セルスタック102の両端の電池セル200から収納容器110の外部に延びる配線172により、負荷170に通電される。この場合、配線172は、絶縁部材174にて気密に収納容器110に装着されて容器外部に延びている。そして、電池セル200の発電に供されなかった未消費の水素ガスは、既述したように排ガスとして、燃料ガス流路212の流路末端から収納容器110の内部に排出され、収納容器110の内部に存在する酸化ガスと混じり合う。
【0027】
次に、電池セル200が有する弁体300について説明する。図4は弁体300を側面視して示す説明図、図5は弁体300による排ガス排出の様子を説明する説明図である。弁体300は、図1に示すように電池セル200における燃料ガス流路212の流路末端に装着される。弁体300は、円筒状の駒部302と上面板304との間に閉塞体305を備え、これらを一体化させている。弁体300は、後述するように排ガスの燃焼部位に位置することから、耐熱性を有するセラミックの一体焼成品(図4(A)参照)とできるほか、駒部302と上面板304と閉塞体305とを一体とした金属製の弁体300とした上で、上面板304の下面縁部の表面と閉塞体305の傾斜面および下面縁部の表面にセラミック製の薄膜306を焼結形成した形態とすることもできる(図4(B)参照)。このセラミック製の薄膜306は、金属製の弁体300が多孔質基材210に直接接しないようにできる膜厚で焼結形成すればよく、後述の排ガス燃焼に伴う焼き付けも防止できる。この場合、図4(B)において、薄膜306については、上記各面に加え、図中点線で示しように、薄膜306を駒部302の外周側面の全域に形成することが焼き付け防止効果の向上の上から望ましい。
【0028】
上記構成の弁体300は、浮き子式の弁体として機能する。つまり、駒部302は、鉛直方向にマニホールド130から延びる燃料ガス流路212に入り込み当該流路内において上下動する。この駒部302と一体の閉塞体305は、その下端面にて、水素ガスの非供給時(例えば、モジュール運転停止時)には燃料ガス流路212の流路末端を閉塞する。そして、弁体300は、燃料ガス流路212を流路末端にて収納容器110の内部に繋ぐ隙間Pを駒部302の上下動に併せて閉塞体305により形成する。この隙間Pは、既述した排ガスが燃料ガス流路212の流路末端から収納容器110の内部に排出される際の排出経路となり、弁体300に作用する重力と燃料ガス流路212を通過する排ガスが弁体300に及ぼす押し上げ力との関係により調整される。燃料電池モジュール100は、弁体300の近傍に、図示しないスパーク電極を備え、運転始動時、或いは運転開始後の所定時間の経過後に、このスパーク電極を火花放電するので、燃料ガス流路212の流路末端の弁体300にて形成された隙間Pから排出された排ガスは、着火燃焼し、その燃焼熱は、既述したように改質器120の加熱に用いられる。こうして排ガスが燃焼した後の燃焼オフガスは、収納容器110に設けた燃焼オフガス排出路162(図1参照)を経て燃料電池モジュール100の外部に排出される。
【0029】
電池セル200に装着済みの弁体300は、図1に示したように、改質器120の下方に位置するので、この改質器120にて、電池セル200の燃料ガス流路212から飛び出さないようにされている。この場合、弁体300の飛び出し防止を図るストッパーを多孔質基材210の上端に設けることもできる。
【0030】
既述した隙間Pの形成の様子は、図5に示されており、負荷170の要求負荷が低負荷であると、負荷に応じて改質器120からマニホールド130を経てそれぞれの電池セル200に供給され、それぞれの電池セル200における燃料ガス流路212を通過するガス流量は少なくなる。よって、弁体300を押し上げるよう作用する押し上げ力は小さくなるので、弁体300に作用する重力との関係から、燃料ガス流路212からの排ガスの排出経路たる隙間Pは、狭くなって、この隙間Pを通過する排ガスの排出速度は高まる。つまり、弁体300は、燃料ガス流路212を通過するガス流量が少ないほど、燃料ガス流路212の流路末端から収納容器110の内部に排出される排ガスの排出速度が高くなるよう隙間Pを形成して排ガス流量を調整する。このため、低負荷運転であるために燃料ガス(水素ガス)の総供給量が少ない状況下においては、セルスタック102における電池セル200の配列位置によりガス供給量がより少なくなる電池セル200、例えば、ガス供給量が最小の電池セル200であっても、排ガスは、高い排出速度で燃料ガス流路212の流路末端から収納容器110の内部に排出される。この結果、この供給量最小の電池セル200であってさえ、その燃料ガス流路212には、高い排出速度での排ガス排出により収納容器110の内部の酸化ガス(空気)が逆流しがたくなる。
【0031】
このガス供給量最小の電池セル200以外の電池セル200では、ガス供給量最小の電池セル200より多くの量の燃料ガスが燃料ガス流路212を通過するので、上記した隙間Pは供給量最小の電池セル200より広くなって、排ガスの排出速度は供給量最小の電池セル200より遅くなる。ところが、ガス供給量最小の電池セル200以外の電池セル200では、燃料ガス流路212の通過ガス量が多いことから、やはり、収納容器110の内部の酸化ガス(空気)は逆流し難いことになる。負荷170の要求負荷が高負荷であれば、そもそも燃料ガス流路212の通過ガス量が多いことから、隙間Pが広くなって排出速度が遅くなっても、収納容器110の内部の酸化ガス(空気)は逆流し難いことになる。これらの結果、一方の側から水素ガスが供給流路122を経て供給されるマニホールド130に対して、セルスタック102が電池セル200を直列に配列したために、その配列位置により水素ガスの供給量に違いがあっても、ガス供給量最小の電池セル200を含む各電池セル200における酸化ガスの逆流を抑制できる。よって、本実施例の燃料電池モジュール100によれば、電池セル200の燃料ガス流路212を通過する水素ガス(燃料ガス)が発電のために消費される機会を確保でき、燃料ガスの利用率の向上を図ることができる。
【0032】
また、本実施例の燃料電池モジュール100によれば、電池セル200におけるアノードの側では、多孔質基材210の燃料ガス流路212において水素ガス(燃料ガス)と逆流した酸化ガスとの混在を抑制できる。このため、アノードの側となる多孔質基材210の劣化についても、これを抑制できる。
【0033】
しかも、本実施例の燃料電池モジュール100では、電池セル200が備えるそれぞれの燃料ガス流路212に弁体300を装着するという単純な構成で、燃料ガス流路212への酸化ガスの逆流抑制を図った上で、燃料ガスの利用率を高めることができる。
【0034】
次に、変形例について説明する。図6は変形例の浮き子式の弁体300Aを側面視と底面視にて示す説明図である。図示するように、この弁体300Aは、上面板304から閉塞体305に掛けてリーク部308を有する。このリーク部308は、上面板304と閉塞体305をその一部においてスリット状に切欠形成したガス流路であり、改質器120からの水素ガス(燃料ガス)の非供給時にあっても、燃料ガス流路212の一部部位をその流路末端において収納容器110の内部に繋ぐ。しかも、このリーク部308は、スリット状であるため、これを通過するガスの速度を高める。このため、この変形例の弁体300Aを有する燃料電池モジュール100では、負荷170の要求負荷がより低負荷なためにガス供給量が一層と少なくなって、燃料ガス流路212を通過する排ガスが弁体300Aに及ぼす押し上げ力が重力より小さい場合でも、燃料ガス流路212を通過する排ガスの一部を、大きな速度でリーク部308を経て収納容器110の内部にリークできる。よって、変形例の弁体300Aを有する燃料電池モジュール100によれば、より低負荷運転の際にあっても、電池セル200の燃料ガス流路212への酸化ガスの逆流抑制を図った上で、燃料ガスの利用率を高めることができる。
【0035】
図7は既述した弁体300による流路末端の他の閉塞状況と排ガス排出の様子を説明する説明図である。図示するように、この場合の弁体300は、燃料ガス流路212に入り込んで上下動する駒部302と一体の閉塞体305の傾斜面にて、燃料ガス流路212の流路末端の閉塞と開放を図る。つまり、流路末端にて燃料ガス流路212を収納容器110の内部に弁体300が繋ぐ隙間Pは、駒部302の上下動に併せて閉塞体305の傾斜面により形成される。このようにして閉塞体305の傾斜面で形成される隙間Pにあっても、その隙間Pは、負荷170の要求負荷が低負荷であれば狭くなって、この隙間Pを通過する排ガスの排出速度は高まるので、既述した効果を奏することができる。
【0036】
図8は他の変形例の浮き子式の弁体300Bを側面視にて示す説明図である。図示するように、この弁体300Bは、駒部302をその下端側ほど小径のテーパー状とした点に特徴がある。この弁体300Bによれば、燃料ガス流路212の流路末端への組み込み側である駒部302の下端側が先細りしていることから、212への組み付け性が向上すると共に、ガス燃焼による焼き付け回避の上からも好ましい。加えて、流路末端に向けて燃料ガス流路212を流れて弁体300Bを押し上げようとする排ガスの圧力損失も抑制でき、ガス通過の上から望ましい。
【0037】
以上、本発明の実施の形態を実施例にて説明したが、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、上記の実施例では、燃料ガス流路212をその全域において鉛直方向に延ばしたが、燃料ガス流路212を、その流路末端において鉛直方向に延びるようにできる。この場合、スプリングを併用して弁体300を燃料ガス流路212の流路末端に向けて付勢するようにすれば、燃料ガス流路212の流路末端が向く方向の自由度が高まるので、電池セル200の配置を鉛直方向以外の方向とすることもできる。
【0038】
加えて、図6に示したリーク部308については、駒部302と閉塞体305の繋ぎ箇所から上面板304の上面に掛けてテーパー状に延びるものとしたり、閉塞体305と上面板304を貫通する小径の貫通孔とすることもできる。
【符号の説明】
【0039】
100…燃料電池モジュール
102…セルスタック
110…収納容器
120…改質器
122…供給流路
124…原料導入流路
130…マニホールド
132…固定部材
160…酸化ガス流入路
162…燃焼オフガス排出路
170…負荷
172…配線
174…絶縁部材
200…電池セル
210…多孔質基材
212…燃料ガス流路
220…固体電解質
230…カソード
240…インターコネクタ
250…集電保持材
300…弁体
300A〜300B…弁体
302…駒部
304…上面板
305…閉塞体
306…薄膜
308…リーク部
P…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電単位となる発電セルの複数を配列して備えるセルスタックと、前記発電セルでの発電に消費される燃料ガスを生成する改質器とを筐体の内部に収容した燃料電池モジュールであって、
前記発電セルは、
前記改質器から供給を受けた前記燃料ガスが通過する燃料ガス流路をセル内部を貫通させて備えると共に、前記燃料ガス流路の流路末端に流量調整部を備え、
該流量調整部は、
前記燃料ガス流路を通過するガス流量が少ないほど前記流路末端から前記筐体の内部に排出される排ガスの排出速度を高める排ガス排出経路を形成して、前記排ガスの流量を調整する
燃料電池モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池モジュールであって、
前記改質器を前記筐体の天井側に位置させて収容し、
前記筐体に収容された前記セルスタックは、前記燃料ガス流路の少なくとも前記流路末端を含む流路部位を前記筐体の内部において鉛直方向に延ばした上で、前記流路末端を前記改質器の側に位置させて前記発電セルを配列して備え、
前記流量調整部は、前記燃料ガス流路に入り込み該流路内において上下動可能な流路内駒と、該流路内駒と一体とされ前記燃料ガスの非供給時には前記流路末端を閉塞し、前記燃料ガス流路を前記流路末端にて前記筐体の内部に繋ぐ隙間を前記流路内駒の上下動に併せて形成する閉塞体とを備えた浮き子式の弁体を有し、該弁体に作用する重力と前記燃料ガス流路を通過する前記排ガスが前記弁体に及ぼす押し上げ力との関係により前記隙間を調整して、前記排ガスの流量調整を図る
燃料電池モジュール。
【請求項3】
前記弁体は、前記燃料ガスの非供給時にあっても前記流路末端の一部部位を前記筐体の内部に繋ぐリーク経路を前記閉塞体に有する請求項2に記載の燃料電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−26132(P2013−26132A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162031(P2011−162031)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】