説明

燃料電池用高分子電解質膜とその製造方法、及び燃料電池

【課題】強酸に溶解度特性が減少して、機械的強度が向上しつつ、イオン伝導度特性及び耐久性に優れた高分子電解質膜及びそれを備えた燃料電池を提供する。
【解決手段】親水性高分子と下記式で表示される架橋剤との架橋反応結果物を含む電解質膜である。


式中、Rは、置換または非置換のC1−C20のアルキル基、置換または非置換のC6−C20のアリール基、または置換または非置換のC2−C20のヘテロアリール基であり、nは、1から5の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用高分子電解質膜とその製造方法、及び燃料電池に係り、さらに詳細には、イオン伝導性に優れ、かつ耐久性が改善された燃料電池用高分子電解質膜とその製造方法、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、使われる電解質の種類によって、高分子電解質型燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)、リン酸燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)、溶融炭酸塩燃料電池(MCFC:Molten Carbonate Fuel Cell)、固体酸化物燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)に区分されうる。使われる電解質によって、燃料電池の作動温度及び構成部品の材質が変わる。
【0003】
PEMFCは、小型かつ軽量でありながら高い出力密度を具現できる。さらに、PEMFCを使用すれば、発電システムの構成が簡単になる。
【0004】
PEMFCの基本構造は、一般的に、アノード(燃料電極)、カソード(酸化剤電極)、及びアノードとカソードとの間に配置された高分子電解質膜を含む。PEMFCのアノードには、燃料の酸化を促進させるための触媒層が備えられており、PEMFCのカソードには、酸化剤の還元を促進させるための触媒層が備えられている。
【0005】
PEMFCのアノードに供給される燃料としては、通常、水素、水素含有ガス、メタノールと水との混合蒸気、メタノール水溶液が使われる。PEMFCのカソードに供給される酸化剤は、通常的に酸素、酸素含有ガスまたは空気である。
【0006】
PEMFCのアノードでは、燃料が酸化されて水素イオン及び電子が生成される。水素イオンは、電解質膜を通じてカソードに伝えられ、電子は、導線(または集電体)を通じて外部回路(負荷)に伝えられる。PEMFCのカソードでは、電解質膜を通じて伝えられた水素イオン、導線(または集電体)を通じて外部回路から伝えられた電子、及び酸素が結合して水が生成される。このとき、アノード、外部回路及びカソードを経由する電子の移動が、いわゆる電力である。
【0007】
PEMFCにおいて、高分子電解質膜は、アノードからカソードへの水素イオンの移動のためのイオン伝導体の役割を行うだけでなく、アノード及びカソードの機械的接触を遮断する隔離膜の役割も行う。したがって、高分子電解質膜に対して要求される特性は、優秀なイオン伝導度、電気化学的安全性、高い機械的強度、作動温度での熱安定性、薄膜化の容易性である。
【0008】
高分子電解質膜の材料としては、一般的に、フッ素化アルキレンで構成された主鎖と末端にスルホン酸基を有するフッ素化ビニルエーテルで構成された側鎖とを有するスルホン酸高フッ化高分子(例:Nafion:Dupont社の商標)のような高分子電解質が使われている。このような高分子電解質膜は、適量の水を含湿することによって優秀なイオン伝導性を発揮する。
【0009】
しかし、このような電解質膜は、メタノール透過度が所望のレベルに到達できず、製造コストが高く、100℃以上の作動温度で蒸発による水分損失によってイオン伝導性が深刻に低下して電解質膜としての機能を喪失する。したがって、このような高分子電解質膜を使用するPEMFCを、常圧下で、そして常の温度で作動させることは、ほとんど不可能である。それにより、従来のPEMFCは、主に100℃以下の温度、非制限的な例を挙げれば、約80℃で作動されてきた。
【0010】
100℃以上の温度で作動される高温用燃料電池は、低温で作動される場合に比べてCOによる触媒の被毒作用を緩和させ、かつ触媒の活性度を高めてさらに高い出力特性が得られるという長所がある。一方、高温作動による電解質膜の耐久性の弱化及び水分の乾燥によるイオン伝導度の低下という問題が発生する。
【0011】
電解質膜としてナフィオン膜を使用して高温で作動される場合には、ナフィオン膜は、前述したように100℃以上の温度で水分含湿能力が低下するので、これを補完するためにヘテロポリ酸を添加するか、またはシリカのような無機物を使用してコンポジット化する方法が提案された。しかし、ヘテロポリ酸を付加すれば、燃料電池の使用温度を多少高めることは可能であるが、ヘテロポリ酸が水によって溶解されて使用が困難であり、コンポジット化する場合も130℃以上の温度では含湿特性が良くないため、イオン伝導度が低下するという短所がある。
【0012】
例えば、特許文献1では、リン酸、硫酸のような強酸をポリベンズイミダゾール(PBI)に含浸して使用して水の乾燥問題を解決する方法が開示された。この方法によれば、電解質膜に対するリン酸の含浸量が増加するほどイオン伝導度を向上させうるが、それと反比例するように電解質膜の機械的な強度が低下するという短所がある。
【0013】
リン酸、硫酸などの強酸を高分子に含浸させて使用する場合、前記高分子としては、ヒドロキシ基、アミノ基、酸グループを含有した親水性高分子を使用する。前記親水性高分子は、強酸と水素結合または錯体の形成を通じて強い結合を形成して、強酸の補液能を改善しうる。
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,525,436号明細書
【特許文献2】特開2004−263153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、このような親水性高分子は、強酸に対する溶解性が高いため使用に制約があり、スウェリング程度が高く機械的な強度が不十分であるため、強酸に対する溶解の問題及び機械的強度を改善させるためのさらに効果的で経済的な方法が切実に要求される。
【0016】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、前記問題点を解決するために、強酸に溶解度特性が減少して、機械的強度が向上しつつ、イオン伝導度特性及び耐久性に優れた燃料電池用高分子電解質膜及びその製造方法を提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の目的は、前記高分子電解質膜を採用して効率などの性能が向上した燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を達成するために、本発明のある観点によれば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルイミド、ポリベンズイミダゾール及びポリイミダゾールからなる群から選択された一つ以上の親水性高分子と下記化学式1で表示される架橋剤との架橋反応結果物を含み、前記架橋剤の含量は、前記親水性高分子の反復単位1モルを基準として0.01〜0.5モルである燃料電池用高分子電解質膜が提供される。
【0019】
【化1】

【0020】
前記式のうち、Rは、置換または非置換のC1−C20のアルキル基、置換または非置換のC6−C20のアリール基、または置換または非置換のC2−C20のヘテロアリール基であり、nは、1から5の整数である。
【0021】
前記置換されたC6−C20のアリール基が、−N(R)(R’)(R及びR’は水素、C1−C10のアルキル基、またはグリシジル基である)、エポキシ基、ヒドロキシ基、リン酸基、スルホン酸基及びイミダゾール基が置換されたC6−C20のアリール基であり、前記置換されたC2−C20のヘテロアリール基が、−N(R)(R’)(R及びR’は水素、C1−C10のアルキル基、またはグリシジル基である)、エポキシ基、エポキシ基含有アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、リン酸基、スルホン酸基及びイミダゾール基が置換されたC2−C20のヘテロアリール基であることが望ましい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルイミド、ポリベンズイミダゾール及びポリイミダゾールからなる群から選択された一つ以上の親水性高分子と、前記親水性高分子の反復単位1モルを基準として0.01〜0.5モルの含量の下記化学式1で表示される架橋剤と、溶媒とを混合して高分子電解質膜形成用組成物を得る工程と、前記高分子電解質膜形成用組成物を支持体上に塗布する工程と、前記結果物を熱処理する工程と、を含む燃料電池用高分子電解質膜の製造方法が提供される。
【0023】
【化2】

【0024】
前記式のうち、Rは、置換または非置換のC1−C20のアルキル基、置換または非置換のC6−C20のアリール基、または置換または非置換のC2−C20のヘテロアリール基であり、nは、1から5の整数である。
【0025】
また、上記課題を解決するために、本発明のさらに他の観点によれば、前記高分子電解質膜を備えた燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の燃料電池用高分子電解質膜は、強酸に対する溶解度特性が減少するとともに、イオン伝導度特性が優秀であるだけでなく、機械的な強度を補強して耐久性に優れた高温用電解質膜である。このような高分子電解質膜を採用すれば、効率などの性能が向上した燃料電池を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
本発明の高分子電解質膜は、親水性高分子と下記化学式1の架橋剤との間の架橋反応結果物を必須構成成分として含み、酸を必要に応じて含有する。
【0029】
【化3】

【0030】
前記式のうち、Rは、置換または非置換のC1−C20のアルキル基、置換または非置換のC6−C20のアリール基または置換または非置換のC2−C20のヘテロアリール基であり、nは、1から5の整数である。
【0031】
前記置換されたC6−C20のアリール基が、−N(R)(R’)(R及びR’は水素、C1−C10のアルキル基、またはグリシジル基である)、エポキシ基、ヒドロキシ基、リン酸基、スルホン酸基及びイミダゾール基が置換されたC6−C20のアリール基であり、前記置換されたC2−C20のヘテロアリール基が、−N(R)(R’)(R及びR’は水素、C1−C10のアルキル基、またはグリシジル基である)、エポキシ基、エポキシ基含有アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、リン酸基、スルホン酸基及びイミダゾール基が置換されたC2−C20のヘテロアリール基であることが望ましい。
【0032】
前記化学式1で、nは、特に1から3であることが望ましく、nが1であることが最も望ましい。
【0033】
前記親水性高分子は、高温用PEMFCでリン酸のような酸含浸が容易であるように、このような酸を含湿する能力に優れた高分子であるが、本発明で使用する親水性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリベンズイミダゾール及びポリイミダゾールのような高分子またはスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルイミドのようなスルホン化高分子がある。これらの高分子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ポリビニルアルコール、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミンのような高分子は、水または酸含湿能力は優秀である一方、酸に容易に溶解される特性があるという短所を有している。そして、スルホン化高分子は、スルホン基の導入量が増加するにつれて酸含湿能力は向上するが、機械的な強度が低下するという問題点が発生する。
【0035】
このような問題点を解決するために、本発明では、親水性高分子を架橋して3次元網状構造を形成し、水または酸に溶解されずに機械的強度を改善させた。
【0036】
本発明で使われた架橋剤は、下記化学式1で表示されて酸や熱に強く、酸及び錯体を形成して強い相互作用を通じてリン酸補液能を改善しうる。
【0037】
【化4】

【0038】
前記式のうち、Rは、置換または非置換のC1−C20のアルキル基、置換または非置換のC6−C20のアリール基または置換または非置換のC2−C20のヘテロアリール基であり、nは、1から5の整数である。
【0039】
本発明で、C6−C20のアリール基は、一つ以上の環を含む炭素環芳香族系を意味し、前記環は、ペンダント方法で共に付着または融合されうる。アリールという用語は、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチルのような芳香族系を含む。また、前記アリール基のうち一つ以上の水素原子は、ハロゲン原子、C1−C30のアルキル基、C1−C30のアルコキシ基、C1−C8のアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン、ヒドラゾン、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などの置換基に置換されうる。
【0040】
本発明で、C2−C20のヘテロアリール基は、C2−C20のN、O、PまたはSのうちから選択された1、2または3個のヘテロ原子を含む環状化合物を称し、前記環は、ペンダント方法で共に付着または融合されうる。前記ヘテロアリール基の例としては、ピリジル基、チエニル基、フリル(fryl)基がある。
【0041】
前記化学式1で、前記置換されたC6−C20のアリール基または置換されたC2−C20のヘテロアリール基は、特に、−N(R)(R’)(R及びR’は、水素、C1−C10のアルキル基、またはグリシジル基である)、エポキシ基、ヒドロキシ基、リン酸基、スルホン酸基及びイミダゾール基に置換されることが望ましい。アミノ基及びエポキシ基が、ヒドロキシ基、リン酸基、スルホン酸基及びイミダゾール基のような置換基を導入すれば、リン酸補液能がさらに改善されるという利点がある。
【0042】
前記Rの具体例として、下記化学式で表示されるグループがある。
【0043】
【化5】

【0044】
前記化学式1の架橋剤は、特に、下記化学式2または3で表示される化合物であることが望ましい。
【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
以下、本発明による高分子電解質膜の製造方法を説明する。
【0048】
まず、親水性高分子、化学式1の架橋剤及び溶媒を混合して高分子電解質膜形成用組成物を得る。このような高分子電解質膜形成用組成物には、必要に応じて酸をさらに付加することも可能である。このように酸をさらに付加すれば、高分子電解質膜の形成後に酸含浸工程を除去しうる。
【0049】
前記化学式1の架橋剤の含量は、親水性高分子の反復単位1モルを基準として0.01から0.5モルであることが必要である。もし、架橋剤の含量が0.01モル未満であれば、架橋程度が微小で機械的な強度が低く、高分子電解質膜が酸または水に対する溶解問題が発生し、0.5モルを超えれば、酸や水の補液能が不十分であって不適である。
【0050】
前記溶媒としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンなどを使用し、その含量は、親水性高分子100質量部を基準として100から2000質量部であることが望ましい。もし、溶媒の含量が100質量部未満であれば、溶液の粘度が過度に高いため取扱いが難しく、2000質量部を超えれば、粘度が低くて均一な形状のフィルムを得難いため望ましくない。
【0051】
前記酸としては、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選択された一つ以上を使用し、前記酸の含量は、前記親水性高分子100質量部を基準として100から500質量部であることが望ましい。もし、酸の含量が100質量部未満であれば、イオン伝導度が過度に低く、500質量部を超えれば、機械的強度が低くて高分子膜が容易に破損されるので、望ましくない。
【0052】
前記過程によって得た高分子電解質膜形成用組成物を支持体上に塗布した後、それを熱処理する。ここで、熱処理温度は、60から130℃であることが望ましい。ここで、支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート膜を利用することができる。
【0053】
前記熱処理は、2段階の熱処理過程を順次に経る方式で進められることも可能である。
【0054】
すなわち、1次熱処理は、乾燥工程であって、この過程中に架橋反応が十分に発生しうるが、架橋反応をさらに確実に進行させるために、第2次熱処理をさらに経てもよい。
【0055】
前記第1次熱処理温度は、60から100℃であり、前記第2次熱処理温度は、100から130℃で熱処理して架橋反応を実施することができる。もし、第1次熱処理温度が60℃未満及び第2次熱処理温度が100℃未満であれば、十分な乾燥及び架橋反応が起こらず、前記第1次熱処理温度が100℃超及び第2次熱処理温度が130℃超であれば、支持体が変形されるか、または支持体との剥離が十分になされないため、均一な膜を得難いので、望ましくない。
【0056】
前記架橋反応を通じて親水性高分子と化学式1の架橋剤との架橋された状態の一実施例を表せば、次の通りである。
【0057】
【化8】

【0058】
前述した架橋反応時に触媒をさらに使用する場合には、架橋反応をさらに速かに進めることができる。このような触媒としては、トリブチルアミンのようなアミン系化合物、トリフェニルホスフィンのような有機リン化合物、2−メチルイミダゾールのようなイミダゾール系化合物がある。そして、触媒の含量は、親水性高分子の反復単位1モルを基準として0.001から0.01モルであることが望ましい。
【0059】
前記過程によって得られた電解質膜を支持体から剥離すれば、本発明の高分子電解質膜を製作しうる。このように製造された高分子電解質膜の厚さは、10から100μmであることが望ましい。
【0060】
前記熱処理で得られた高分子電解質膜を支持体から剥離すれば、本発明の高分子電解質膜が完成される。
【0061】
前記過程によって得た高分子電解質膜は、燃料電池の電解質膜として使用可能である。これ以外にも、表示素子、エレクトロクロミック素子、各種のセンサーの電解質としても利用されうる。
【0062】
本発明による燃料電池は、カソード、アノード及びこれらの間に介在された高分子電解質膜を備える。
【0063】
前記カソード及びアノードは、ガス拡散層及び触媒層で構成される。前記触媒層は、関連反応(水素の酸化及び酸素の還元)を触媒的に補助する金属触媒を含むものであって、白金、ルテニウム、オスミウム、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金または白金−M合金(Mは、Ga、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnのうちから選択された1種以上の遷移金属である)のうちから選択された1種以上の触媒を含むことが望ましい。そのうちでも白金、ルテニウム、オスミウム、白金−ルテニウム合金、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金、白金−コバルト合金及び白金−ニッケルのうちから選択された1種以上の触媒を含むことがさらに望ましい。
【0064】
また、一般的に、前記金属触媒としては、担体に支持されたものが使われる。前記担体としては、アセチレンブラック、黒鉛のような炭素を使用することもあり、アルミナ、シリカなどの無機物微粒子を使用することもある。担体に担持された貴金属を触媒として使用する場合には、商用化されたものを使用することもあり、また、担体に貴金属を担持させて製造して使用することもある。
【0065】
前記ガス拡散層としては、炭素紙や炭素布が使われうるが、これらに限定されるものではない。前記ガス拡散層は、燃料電池用電極を支持する役割を行うとともに、触媒層に反応ガスを拡散させて、触媒層に反応気体が容易に接近できる役割を行う。また、このガス拡散層は、炭素紙や炭素布をポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素系樹脂で撥水処理したものを使用することが燃料電池の駆動時に発生する水によってガス拡散効率が低下することを防止できるため望ましい。
【0066】
また、前記電極は、前記ガス拡散層と前記触媒層との間にガス拡散層のガス拡散効果をさらに増進させるために、微細多孔層をさらに含むこともある。前記微細多孔層は、炭素粉末、カーボンブラック、活性炭素、アセチレンブラックなどの導電性物質、ポリテトラフルオロエチレンのようなバインダー及び必要に応じてアイオノマーを含む組成物を塗布して形成される。
【0067】
以下、図1を参照して、前述した高分子電解質膜を利用した本発明の一製造例について説明すれば、次の通りである。
【0068】
本発明の燃料電池は、図1のような構造を有する。
【0069】
図1に示したように、燃料が供給されるアノード32、カソード30、及びアノード32とカソード30との間に位置する電解質膜41を含む。一般的に、アノード32は、アノード拡散層22及びアノード触媒層33からなり、カソード30は、カソード拡散層34及びカソード触媒層31からなる。
【0070】
アノードの拡散層22を通じてアノードの触媒層33に伝達された燃料は、電子、水素イオンに分解される。水素イオンは、電解質膜41を通じてカソード触媒層31に伝えられ、電子は、外部回路に伝えられ、カソード触媒層31では、電解質膜41を通じて伝えられた水素イオン、外部回路から供給された電子、そしてカソード拡散層34を通じて伝えられた空気中の酸素が反応して水を生成する。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を下記の具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明は、下記の実施例にのみ限定されるものではない。
【0072】
(実施例1:高分子電解質膜の製造)
ポリベンズイミダゾール(PBI)をジメチルアセトアミドに溶解して10質量%のPBI溶液を得た。PBI溶液100g当たりN,N−ジグリシジルアニリン0.5gをそれぞれ添加して常温で十分に攪拌させた。このように得られた混合溶液を支持体にコーティングした後、80℃で2時間、さらに130℃で2時間熱処理し、前記支持体から前記結果物を剥離して高分子電解質膜を得た。
【0073】
(実施例2:高分子電解質膜の製造)
N,N−ジグリシジルアニリンを1g使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施して高分子電解質膜を得た。
【0074】
(実施例3:高分子電解質膜の製造)
N,N−ジグリシジルアニリンを1.5g使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施して高分子電解質膜を得た。
【0075】
(実施例4:高分子電解質膜の製造)
N,N−ジグリシジルアニリンを2g使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施して高分子電解質膜を得た。
【0076】
(比較例1:高分子電解質膜の製造)
N,N−ジグリシジルアニリンを使用しないことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施して高分子電解質膜を得た。
【0077】
前記実施例1−4及び比較例1の高分子電解質膜がリン酸に溶解されるか否かを調べるために、ホットリン酸抵抗(hot phosphoric acid resistance)を評価した。85wt%のリン酸20gに、前記高分子電解質膜0.015gを添加した後、150℃、対流式オーブンでリン酸に含まれた水が蒸発されるように容器を覆えずに保管しつつ、フィルムの溶解如何を肉眼で観察し、その結果を図2に示した。
【0078】
図2で、#1、#2、#3、#4、#5は、それぞれ比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4に対する実験結果を表したものである。これを参照すれば、架橋剤を添加していない比較例1の場合には、2時間30分で完全に溶解された一方、架橋剤を添加した実施例1−4の場合には、全ての組成で24時間以上溶解されなかった。
【0079】
(比較例2:高分子電解質膜の製造)
N,N−ジグリシジルアニリン0.5gの代わりに、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.56gを使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施して高分子電解質膜を得た。
【0080】
前記比較例2によって得た高分子電解質膜は、3時間後に膜の亀裂が酷く発生して粉々になることが確認できた。
【0081】
(実施例5:高分子電解質膜の製造)
ポリベンズイミダゾールをジメチルアセトアミドに溶解して10質量%のPBI溶液を得た。PBI溶液100g当たりN,N−ジグリシジルアニリン0.5gをそれぞれ添加して常温で十分に攪拌させた。このように得られた混合溶液を支持体にコーティングした後、80℃で2時間、さらに130℃で2時間熱処理し、前記支持体から前記結果物を剥離して高分子電解質膜を得た。この高分子電解質膜を80℃、85%のリン酸に含浸させた後、長さ6.35cm、幅3mmのドッグボーン状に試片を切断した。
【0082】
万能引張試験器を使用してストレス−ストレイン曲線を求め、このとき、テスト速度は20mm/minであった。
【0083】
(比較例3:高分子電解質膜の製造)
N,N−ジグリシジルアニリンを使用しないことを除いては、実施例5と同じ方法によって実施して高分子電解質膜を得た。
【0084】
前記実施例5及び比較例3によって得た高分子電解質膜において、ストレイン−ストレス特性を調べて、図3に表した。
【0085】
図3を参照して、実施例5の場合は、比較例3の場合に比べて機械的強度が優秀であるということが分かった。
【0086】
(実施例6:燃料電池の製造)
電極用スラリーは、7g Pt/C、NMP 7g、PBI/NMP(N−メチルピロリドン)(10wt%溶液)3.5g、PVdF/NMP(5wt%溶液)3.5gをモルタルに入れて10分間混合して製造した。この混合溶液を22.0cm×7.0cmサイズの拡散層にドクターブレイドを使用してコーティングした後、常温1時間、80℃で1時間、さらに120℃で30分間で乾燥した後、最終的に150℃の真空オーブンで10分間乾燥した。
【0087】
テスト用電極は、3.1cm×3.1cmに切断して使用した。このとき、電極のPtローディング量は、アノードは1.23mg/cm、カソードは1.34mg/cmであった。電極に85wt%のリン酸をドーピングした後、80℃で1時間乾燥させた。リン酸のドーピング量は、アノード及びカソードがそれぞれ1.2mg/cm、1.3mg/cmであった。
【0088】
ポリベンズイミダゾールをジメチルアセトアミドに溶解して10質量%のPBI溶液を得た。PBI溶液100g当たりN,N−ジグリシジルアニリン0.7gをそれぞれ添加して常温で十分に攪拌させた。このように得られた混合溶液を支持体にコーティングした後、80℃で2時間、さらに130℃で2時間熱処理し、前記支持体から前記結果物を剥離して高分子電解質膜を得た。この電解質膜を80℃で85%のリン酸に30分間含浸した後に使用した。含浸した後に膜を電極の間に入れて加圧してMEA(Membrane Electrode Assembly)の製造後に単一セルの特性を評価した。ここで、電池の作動温度は150℃であり、水素及び空気の流速は、それぞれ100ml/min、200ml/minであった。
【0089】
(比較例4:燃料電池の製作)
高分子電解質膜として比較例3によって得た高分子電解質膜を使用したことを除いては、実施例6と同じ方法によって実施して燃料電池を製作した。
【0090】
前記実施例6及び比較例4によって製作した燃料電池において、電流密度−セル電圧特性を調べて図4に表した。
【0091】
図4を参照して、実施例6の燃料電池は、比較例4の場合とセル性能面では差がほとんどなかった。
【0092】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、燃料電池関連の技術分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一実施例による燃料電池の構成を示す図面である。
【図2】本発明の実施例1−4及び比較例1の高分子電解質膜がリン酸に溶解されているか否かを調べるためにホットリン酸抵抗を評価した写真である。
【図3】本発明の実施例5及び比較例3によって得た高分子電解質膜において、ストレス−ストレイン特性を示す図面である。
【図4】本発明の実施例6及び比較例4によって製作した燃料電池において、電流密度−セル電圧特性を調べて示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルイミド、ポリベンズイミダゾール及びポリイミダゾールからなる群から選択された一つ以上の親水性高分子と下記化学式1で表示される架橋剤との架橋反応結果物を含み、
前記架橋剤の含量は、前記親水性高分子の反復単位1モルを基準として0.01〜0.5モルであることを特徴とする、燃料電池用高分子電解質膜。
【化1】

前記式のうち、Rは、置換または非置換のC1−C20のアルキル基、置換または非置換のC6−C20のアリール基、または置換または非置換のC2−C20のヘテロアリール基であり、nは、1から5の整数である。
【請求項2】
前記置換されたC6−C20のアリール基が、−N(R)(R’)(R及びR’は水素、C1−C10のアルキル基、またはグリシジル基である)、エポキシ基、ヒドロキシ基、リン酸基、スルホン酸基及びイミダゾール基が置換されたC6−C20のアリール基であり、
前記置換されたC2−C20のヘテロアリール基が、−N(R)(R’)(R及びR’は水素、C1−C10のアルキル基、またはグリシジル基である)、エポキシ基、エポキシ基含有アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、リン酸基、スルホン酸基及びイミダゾール基が置換されたC2−C20のヘテロアリール基であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項3】
前記化学式1の架橋剤は、下記化学式2または3で表示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用高分子電解質膜。
【化2】

【化3】

【請求項4】
酸がさらに含まれることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項5】
前記酸は、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選択された一つ以上であり、
前記酸の含量は、前記親水性高分子100質量部を基準として100質量部から500質量部であることを特徴とする、請求項4に記載の燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項6】
ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルイミド、ポリベンズイミダゾール及びポリイミダゾールからなる群から選択された一つ以上の親水性高分子と、前記親水性高分子の反復単位1モルを基準として0.01〜0.5モルの含量の下記化学式1で表示される架橋剤と、溶媒とを混合して高分子電解質膜形成用組成物を得る工程と、
前記高分子電解質膜形成用の組成物を支持体上に塗布する工程と、
前記結果物を熱処理する工程と、
を含むことを特徴とする、燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【化4】

前記式のうち、Rは、置換または非置換のC6−C20のアルキル基またはアリール基、または置換または非置換のC2−C20のヘテロアリール基であり、nは1から5の整数である。
【請求項7】
前記高分子電解質膜形成用組成物に酸をさらに付加することを特徴とする、請求項6に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
前記酸の含量は、親水性高分子100質量部を基準として100質量部から500質量部であることを特徴とする、請求項7に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理温度は、60℃から130℃であることを特徴とする、請求項6に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理は、60℃から100℃で実施する1次熱処理工程と、100℃から130℃で実施する2次熱処理工程と、を含むことを特徴とする、請求項6に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項11】
前記架橋剤の含量は、前記親水性高分子の反復単位1モルを基準として0.01モルから0.5モルであることを特徴とする、請求項6に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒は、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択された一つ以上であり、
前記溶媒の含量は、親水性高分子100質量部を基準として100質量部から2000質量部であることを特徴とする、請求項6に記載の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1から5のうち何れか1項に記載の燃料電池用高分子電解質膜を備えた燃料電池。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−188888(P2007−188888A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6101(P2007−6101)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】