説明

燃料電池発電装置

【課題】酸化剤ガス浄化手段の寿命を延ばし、耐久性に優れた燃料電池発電装置を提供すること。
【解決手段】酸化剤ガスを浄化する酸化剤ガス浄化手段6と、酸化剤ガス浄化手段6を経由せずに燃料電池に酸化剤ガスを供給するバイパス経路8と、酸化剤ガス浄化手段6を経由する経路とバイパス経路8とを切り替える切り替え手段9と、燃料電池の発電電力を決定する発電電力指令手段7を備え、発電電力指令手段7が出力する発電電力指令値が所定の値よりも小さい場合、切り替え手段9をバイパス経路8に切り替え、発電電力の高い時は、酸化剤ガスを酸化剤ガス浄化手段6の経路に流通させて不純物を浄化し、発電電力の低い時は、酸化剤ガスをバイパス経路8に切り替えて流通させるので、大気中に不純物が存在しても安定して発電をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤ガス中に含まれる不純物による劣化の抑制または耐久性の向上を図った燃料電池発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な固体高分子電解質型燃料電池の構成および動作について図6を参照しながら説明する。図6において1は水素イオン伝導性を有するパーフルオロカーボンスルフォン酸からなる固体高分子電解質であり、電解質1の両面には一対の電極としてアノード21およびカソード22が形成されている。アノード21およびカソード22は、多孔質カーボンに白金などの貴金属を担持した触媒および水素イオン伝導性を有する高分子電解質との混合物からなる触媒層と、触媒層の上に積層した通気性および電子伝導性を有するガス拡散層を備えている。また、アノード21およびカソード22の周囲にはガスの混合やリークを防止する一対のガスケットが配置され、アノード21に少なくとも水素を含む燃料ガスを供給および排出し、カソード22に少なくとも酸素を含む酸化剤ガスを供給および排出するガス流路を有する一対の導電性のセパレータ板31および32で狭持されている。
【0003】
以上の構成からなる単セルを複数積層したものをスタックとし、単セルまたはスタックを総称して燃料電池とする。
【0004】
燃料電池のアノード21側にはメタンなどの原料ガスから水素を生成する燃料処理機4があり、燃料ガスを供給している。
【0005】
また、燃料電池のカソード22側には大気から酸素を取り込む酸化剤ガス供給手段5があり、酸化剤ガスを供給している。酸化剤ガスとは、少なくとも酸素を含む(あるいは酸素を供給することのできる)ガスの総称であり、大気(空気)はその一例である。
【0006】
アノード21およびカソード22にそれぞれ燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給して負荷を接続すると、アノード21に供給された燃料ガス中に含まれる水素はアノード21と電解質1の界面で電子を放って水素イオンとなる(化1)。
【0007】
【化1】

【0008】
水素イオンは電解質1を通ってカソード22へと移動し、カソード22と電解質1の界面で電子を受け取り、カソード22に供給された酸化剤ガス中に含まれる酸素と反応し、水を生成する(化2)。
【0009】
【化2】

【0010】
全反応を(化3)に示す。
【0011】
【化3】

【0012】
このとき負荷を流れる電子の流れを直流の電気エネルギーとして利用することができる。また、一連の反応は発熱反応であるため、反応熱を熱エネルギーとして利用することができる。
【0013】
次に、燃料処理部4を備えた一般的な燃料電池発電装置の構成および動作について説明する。まず、はじめにメタンなどの炭化水素を含む原料ガスが脱硫部に供給され、付臭剤などに含まれる硫黄化合物が吸着除去(脱硫)される。そして、燃料処理部4で改質され水素を含む燃料ガスとなり、燃料電池のアノード21に供給される。燃料処理部4は、メタンなどを改質する改質器と、改質反応で発生する一酸化炭素(CO)を変成するCO変成器と、さらにCOを酸化除去するCO除去器を備えている。
【0014】
原料ガスにメタンを用いた場合、改質器では、水蒸気を伴って(化4)で示した反応が起こり、水素とともに約10%のCOが発生する。
【0015】
【化4】

【0016】
その後、発生したCOは(化5)で示すようにCO変成器で二酸化炭素に酸化され、約5000ppmまで減少する。後流のCO除去器ではCOだけでなく、燃料ガスの水素まで酸化してしまうので、CO変成器でできるだけCO濃度を低下させる必要がある。
【0017】
【化5】

【0018】
さらに残ったCOは(化6)で示すようにCO除去器で空気中に含まれる酸素と反応して酸化され、その濃度は約10ppm以下まで低下する。
【0019】
【化6】

【0020】
全反応式を(化7)に示す。
【0021】
【化7】

【0022】
燃料電池の動作温度域においてアノード21に含まれる白金は10ppmのわずかなCOでも被毒しその触媒活性が劣化するため、通常アノード21には、白金−ルテニウムな
どの耐CO性を有する触媒が用いられる。しかし、耐CO性の触媒においても燃料ガス中に含まれるCO濃度は少なくとも10ppm以下に抑えなければならない。
【0023】
また、燃料電池発電装置は、発電電力が増加すると分極が増大するため出力電圧が減少する特性を有する。酸化剤ガス中に不純物が存在すると、その不純物により、燃料電池の出力電圧が低下するため、発電電力が高いほどより出力電圧が低くなる。一方で、異常時は燃料電池発電装置を安全に停止させるために、出力電圧には下限閾値が設定されており、出力電圧が下限閾値に達した場合、発電を停止する構成となっている。
【0024】
酸化剤ガスとして大気を用いた場合、大気中には様々な不純物が含まれており、これら不純物による出力電圧の低下が懸念される。例えば、自動車の排ガスなどに含まれる窒素酸化物や未燃炭化水素などの有機化合物が不純物として混入すると、カソード22の白金上で発生する水素と酸素の主反応が阻害されるため、燃料電池5の出力電圧が低下する。
【0025】
また、自動車や工場などから排出される排ガス中に含まれる二酸化硫黄、温泉地などに多く含まれる硫化水素などの硫黄系化合物が不純物として混入すると、カソード22に含まれる白金が被毒し、触媒活性が劣化してしまう。また、悪臭であるアンモニアが混入すると、酸性の電解質1が中和されて、電解質1のイオン伝導性が低下してしまう。したがって、酸化剤ガス中に含まれる燃料電池5の特性に悪影響を与える不純物を除去する必要がある。
【0026】
従来は、例えば、酸化剤ガス中のアンモニアを除去する酸化剤ガス浄化手段を備え、酸化剤ガス中のアンモニアを酸化剤ガス浄化手段により除去していた(特許文献1参照)。これにより、酸化剤ガス中にアンモニアが含まれていても、それを除去するのでアンモニアにより出力電圧が低下することを抑制することができる。
【特許文献1】特開平6−84537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかしながら、前記従来の酸化剤ガス浄化手段は、活性炭やゼオライトなどの吸着剤を用いてガス中に含まれる不純物を吸着除去するので、吸着破過した酸化剤ガス浄化手段を頻繁に交換する必要があった。
【0028】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、酸化剤ガス浄化手段にバイパス経路を設けることにより、酸化剤ガス浄化手段の寿命を延ばし、耐久性に優れた燃料電池発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前記従来の課題を解決するために、本発明の燃料電池発電装置は、酸化剤ガスを浄化する酸化剤ガス浄化手段を経由する経路と酸化剤ガスを浄化しないバイパス経路とを切り替える切り替え手段を備え、発電電力指令値が所定の値よりも小さい場合、切り替え手段をバイパス経路に切り替えるものである。
【0030】
本発明の構成によれば、酸化剤ガス中に不純物が含まれ、出力電圧が設定した下限閾値に近づく発電電力の高い時は、酸化剤ガスを酸化剤ガス浄化手段の経路に流通させて、不純物を浄化し、出力電圧が下限閾値に対して余裕度がある発電電力の低い時は、不純物は浄化せず、酸化剤ガスをバイパス経路に切り替えて流通させるので、酸化剤ガス浄化手段の寿命が延び、耐久性に優れた燃料電池発電装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明の燃料電池発電装置によれば、酸化剤ガス中に不純物が含まれ、出力電圧が設定した下限閾値に近づく発電電力の高い時だけ不純物を浄化するので、酸化剤ガス浄化手段の寿命が延び、耐久性に優れた燃料電池発電装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
第1の発明は、電解質と、前記電解質を挟む一対の電極と、前記電極の一方に少なくとも水素を含む燃料ガスを供給排出し、他方に少なくとも酸素を含む酸化剤ガスを供給排出するガス流路を有する一対のセパレータ板とからなるセルを少なくとも一つ備えた燃料電池と、前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記酸化剤ガスを浄化する酸化剤ガス浄化手段と、前記酸化剤ガス浄化手段を経由せずに前記燃料電池に酸化剤ガスを供給するバイパス経路と、前記酸化剤ガス浄化手段を経由する経路と前記バイパス経路とを切り替える切り替え手段と、燃料電池の発電電力を決定する発電電力指令手段を備え、前記発電電力指令手段が出力する発電電力指令値が所定の値よりも小さい場合、前記切り替え手段を前記バイパス経路に切り替え、酸化剤ガス中に不純物が含まれ、出力電圧が設定した下限閾値に近づく発電電力の高い時は、酸化剤ガスを酸化剤ガス浄化手段の経路に流通させて、不純物を浄化し、出力電圧が下限閾値に対して余裕度がある発電電力の低い時は、不純物は浄化せず、酸化剤ガスをバイパス経路に切り替えて流通させるので、酸化剤ガス浄化手段の寿命が延び、交換頻度が減り、メンテナンス性、経済性、環境性が向上するだけでなく、大気中に不純物が存在しても安定して発電をすることのできる信頼性と耐久性に優れた燃料電池発電装置を得ることができる。
【0033】
第2の発明は、酸化剤ガス浄化手段の経路の圧力損失と、バイパス経路の圧力損失を同じにするので、酸化剤ガス供給手段の回転数などの能力値を変えることなく、風量を一定に保持したままバイパス経路から酸化剤ガス浄化手段の経路に切り替えることができる。
【0034】
第3の発明は、酸化剤ガス浄化手段の経路に酸化剤ガスを供給するときの酸化剤ガス供給手段の能力値を、バイパス経路に供給するときよりも大きくするので、バイパス経路の構造を圧力損失の高いものにする必要がなく、構造が簡単となり、経済的である。
【0035】
第4の発明は、発電電力指令手段が出力する所定の値以上の発電電力指令値を保持した時間の累積から前記酸化剤ガス浄化手段の交換時期を判定するので、設計した酸化剤ガス浄化手段の寿命から、酸化剤ガス浄化手段を使用した所定の発電電力を保持した時間の累積を減算して酸化剤ガス浄化手段の使用量を推定し、使用者に酸化剤ガス浄化手段の最適な交換時期を促すことができる。
【0036】
第5の発明は、発電電力指令手段が出力する所定の値以上の発電電力指令値を保持した時間の累積と、酸化剤ガス供給手段の能力値から前記酸化剤ガス浄化手段の交換時期を判定するので、所定の発電電力で酸化剤ガス供給手段が供給した風量を算出することができ、酸化剤ガス浄化手段を通過した風量から、実際に酸化剤ガス浄化手段が使用された体積を推定し、より高い精度で交換時期を決定するので、酸化剤ガス浄化手段のさらなる高寿命化を図ることができる。
【0037】
第6の発明は、酸化剤ガス浄化手段は、アルカリ性不純物を除去するアルカリ性不純物除去フィルターと、酸性不純物を除去する酸性不純物除去フィルターと、粉塵を除去する除塵フィルターを備え、大気中から取り込む空気中に存在する可能性のあるアンモニア、トリメチルアミンなどのアルカリ性不純物をアルカリ性不純物除去フィルターで除去し、硫化水素、二酸化硫黄、二酸化窒素、塩化水素、フッ化水素などの酸性不純物を酸性不純物除去フィルターで除去し、さらに大気中に含まれる粉塵などの粒子状不純物を除塵フィルターで除去するので、酸化剤ガス中にこれらの不純物が混入して起こる触媒の被毒やイ
オン伝導性の低下を防ぐことができ、電池電圧の低下を抑制することができる。
【0038】
以下本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0039】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第一の実施の形態の燃料電池発電装置の構成図を示すものである。図1において、1は水素イオン伝導性を有するパーフルオロカーボンスルフォン酸ポリマからなる膜状の固体高分子電解質であり、電解質1の両面には一対の電極、アノード21およびカソード22が形成されている。電解質1は、水分を取り込むことにより、電解質1内のスルフォン酸基の水素イオンが解離して電荷担体となり、スルフォン酸基がいくつか凝集して形成される逆ミセル構造の中を通過することで水素イオン伝導性を示す。含水率が下がると電解質1の導電率が低下するため、ガスを加湿して供給し、電解質1膜の乾燥を防ぐ方法をとった。
【0040】
アノード21およびカソード22は、多孔質カーボンに白金などの貴金属を担持した触媒および水素イオン伝導性を有する高分子電解質との混合物からなる触媒層と、触媒層の上に積層した通気性および電子伝導性を有するガス拡散層からなる。アノード21には、耐CO性を有する白金−ルテニウムなどの合金触媒を用いた。また、ガス拡散層には撥水処理を施したカーボンペーパーあるいはカーボンクロスを用いた。
【0041】
そして、アノード21およびカソード22の周囲にガスの混合やリークを防止する一対のガスケットをそれぞれ配置し、さらに、アノード21およびカソード22にそれぞれ燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給および排出するガス流路を有する一対の導電性のセパレータ板31および32を用いて狭持した。以上のように構成される単セルが発生する電圧は約0.75Vであり、必要とする電圧分の複数の単セルを直列に積層(スタック)して所望出力の燃料電池を形成することができる。
【0042】
また、セパレータ板31および32の両端には集電板と、絶縁板および端板を配置し、締結ロッドで固定した。そして、集電板に負荷および電圧検出手段を接続し、一定電流を流したときの燃料電池の電圧を検出できる構成とした。
【0043】
また、酸化剤ガスは、大気からファンやポンプおよび空気ブロワなどの酸化剤ガス供給手段5より取り込み、流量制御手段により所定の流量で燃料電池のカソード22に供給した。酸化剤ガス供給手段5は供給経路の圧力損失に依存し、酸化剤ガス供給手段5の電圧、回転数、周波数のうち少なくともひとつの値である能力値を制御することにより、圧力損失が変動しても、一定の酸化剤ガスを供給することができる。
【0044】
また、酸化剤ガスをカソード22へ送る経路を複数設け、一つは、酸化剤ガス中に含まれる不純物を除去する酸化剤ガス浄化手段6を備えた経路、もう一つは酸化剤ガスを浄化せずそのままスルーさせるバイパス経路8とした。酸化剤ガス浄化手段6の経路とバイパス経路8は切り替え手段9により切り替えることができる。
【0045】
また、燃料電池の発電電力を決定する発電電力指令手段7は、使用者が希望する発電電力に応じて、必要な原料ガス、改質条件、酸化剤ガス供給手段5の能力値などを決定して指令するとともに、入力された発電電力に応じ、切り替え手段9を酸化剤ガス浄化手段6を経由する経路か、バイパス経路8のいずれかに経路を切り替えることを決定して指令する。
【0046】
また、燃料電池発電装置は、発電電力が増加すると分極が増大するため出力電圧が減少する特性を有する。酸化剤ガス中に不純物が存在すると、その不純物により、燃料電池の
出力電圧が低下するため、発電電力が高いほどより出力電圧が低くなる。一方で、異常時は燃料電池発電装置を安全に停止させるために、出力電圧には下限閾値が設定されており、出力電圧が下限閾値に達した場合、発電を停止するようにした。
【0047】
上記構成により、酸化剤ガス中に不純物が含まれ、出力電圧が設定した下限閾値に近づく発電電力の高い時は、酸化剤ガスを酸化剤ガス浄化手段6の経路に流通させて、不純物を浄化し、出力電圧が下限閾値に対して余裕度がある発電電力の低い時は、不純物は浄化せず、酸化剤ガスをバイパス経路8に切り替えて流通させるので、酸化剤ガス浄化手段6の寿命が延び、交換頻度が減り、メンテナンス性、経済性、環境性が向上するだけでなく、大気中に不純物が存在しても安定して発電をすることのできる信頼性と耐久性に優れた燃料電池発電装置を得ることができる。
【0048】
また、酸化剤ガス浄化手段6を経由する経路と、バイパス経路8の圧力損失は同じになるように構成すると、酸化剤ガス供給手段5の回転数などの能力値を一定にしたまま、風量を変動させることなく酸化剤ガスの経路を切り替えることができる。
【0049】
圧力損失を同じにする手段としては、例えば、バイパス経路8の配管の口径及びバイパス経路8の長さを調整することによって、酸化剤ガス浄化手段6を経由する経路の圧力損失と同じとするように設計することにより実現されるものである。
【0050】
大気中には生ゴミ、トイレ、病院などから発生する悪臭に含まれるアンモニア、硫化水素、自動車などの排ガスに含まれる二酸化硫黄、二酸化窒素、工場などから排出される塩化水素、フッ化水素など様々な不純物が含まれている可能性がある。燃料電池発電装置は、一般家庭や、店舗、工場などに設置されるので、このような環境においても、十分耐えなければならない。
【0051】
酸化剤ガス浄化手段6は、大気中に含まれる粉塵などの粒子状物質や、酸化剤ガス供給手段5などから発生する粉塵などの粒子状物質を除去する粗フィルター61と、硫化水素、二酸化硫黄、二酸化窒素、塩化水素、フッ化水素などの酸性不純物を除去する酸性不純物除去フィルター62と、大気中に含まれている可能性のあるアンモニア、トリメチルアミンなどのアルカリ性不純物を除去するアルカリ性不純物除去フィルター63と、大気中に含まれる粉塵などの粒子状物質や、前段の酸性不純物除去フィルター62およびアルカリ性不純物除去フィルター63自身から発生する粉塵などの粒子状物質を除去する除塵フィルター64からなり、これらのフィルターは、筐体内に収納され、クリーンな大気をカソード22に導くように配管されている。
【0052】
また、酸性不純物除去フィルター62とアルカリ性不純物除去フィルター63が接触するとそれぞれのフィルターが劣化するので、接触を避けるためスペーサーを配置した。
【0053】
また、酸性不純物除去フィルター62と、アルカリ性不純物除去フィルター63および除塵フィルター64の周囲には緩衝材を設け、緩衝材を介して筐体に収納した。これにより、気密性が向上し、処理する酸化剤ガスがフィルター周囲から回りこむために起こる不純物のリークを防止することができ、各種フィルターの除去性能を向上させることができる。
【0054】
大気より取り込まれた酸化剤ガスは、最初に粗フィルター61を通過し、次いで酸性不純物除去フィルター62、スペーサーを介して、アルカリ性不純物除去フィルター63を通って、最後に除塵フィルター64を通って、各種不純物の濃度を低減させる。
【0055】
粗フィルター61は、ポリプロピレンなどからなる繊維を帯電させた後、不織布に織っ
たものを用いた。粗フィルター61は、静電気を帯びた繊維一本一本が酸化剤ガス中に含まれる粉塵だけでなく、前段に配置される酸化剤ガス供給手段5などから発生する粉塵や粒子状物質も除去する。また、酸性不純物除去フィルター62およびアルカリ性不純物除去フィルター63の除去性能を保持するだけでなく、除塵フィルター64の負荷を軽減するので除塵フィルター64の寿命を延ばすことができる。
【0056】
酸性不純物除去フィルター62は、酸性不純物を吸収するアルカリとして水酸化カルシウムを用い、活性炭と、硬化剤を混練して、造粒した後、ハニカム型に成型して得た。硬化剤には焼石膏を用いた。焼石膏は水と混合すると硫酸カルシウムとなり、凝結硬化する。水酸化カルシウムは、二酸化窒素や、二酸化硫黄などの酸性不純物とそれぞれ(化8)および(化9)で示すように反応してそれぞれ硝酸カルシウムおよび硫酸カルシウムを酸性不純物除去フィルター62上に固定して化学吸着させる。
【0057】
【化8】

【0058】
【化9】

【0059】
したがって、単に吸着するのではなく、不純物とアルカリを反応させてフィルター上に固定するので、濃度や温度により脱着するようなことがなくなり、脱着した高濃度の不純物が燃料電池に混入して電池性能を劣化させることを防ぐことができる。また、多孔質な活性炭を用いるので、トルエン、メチルエチルケトン、トリクロロエチレンなどの有機溶剤も吸着することができ、これらの不純物による電池性能の低下も抑制することができる。また、ハニカム型の構造体とすることにより、反応面積を大きくすることができる。また、導入する酸化剤ガスの酸性不純物除去フィルター62による圧力損失を下げることができ、目詰まりも抑制するので、酸化剤ガス供給手段5の負荷に影響を及ぼさず、発電効率を高い状態のまま保持することができる。
【0060】
アルカリ性不純物除去フィルター63は、繊維状の活性炭シートにアルカリ性不純物の吸収剤として一定濃度に調整したリン酸溶液を含浸させ、分離して、乾燥して、さらにシートをコルゲート型に加工した。リン酸は活性炭繊維の表面に固定され、アンモニアなどのアルカリ性不純物と(化10)で示すように反応して生成したリン酸アンモニウムを活性炭繊維の表面に固定して化学吸着させる。
【0061】
【化10】

【0062】
したがって、単に吸着するのではなく、不純物と添着物質を反応させてアルカリ性不純物除去フィルター63上に固定するので、濃度や温度により脱着するようなことがなくなり、脱着した不純物が燃料電池に混入して電池性能を劣化させることを防ぐことができる。また、多孔質な活性炭を用いるので、トルエン、メチルエチルケトン、トリクロロエチレンなどの有機溶剤も吸着することができ、これらの不純物による電池性能の低下も抑制することができる。また、繊維状の活性炭を用いることにより、軽量化を図ることができるだけでなく、形状やサイズの自由度が増し、かけや割れといった破損をなくすことができる。また、コルゲート型の構造体とすることにより、反応面積を大きくすることができる。また、導入する酸化剤ガスのアルカリ性不純物除去フィルター63による圧力損失を下げることができ、目詰まりも抑制するので、酸化剤ガス供給手段5の負荷に影響を及ぼさず、発電効率を高い状態のまま保持することができる。
【0063】
除塵フィルター64は、ポリプロピレンなどからなる繊維を帯電させた後、粗フィルター61より目付量を増やして織った不織布をプリーツ状にして、枠に固定して作製した。静電気を帯びた繊維一本一本がクーロン力や誘起力の作用で、空気中に浮遊するミクロの粉塵を引き付け吸着するので、大気中の粉塵などの粒子状物質および前段の酸性不純物除去フィルター62やアルカリ性不純物除去フィルター63自身から発生する粉塵などの粒子状物質を効率よく除去することができる。
【0064】
上記構成の燃料電池発電装置の発電電力と平均セル電圧の関係を図2に示す。図2に示したように、正常発電時、燃料電池の平均セル出力電圧は、発電電力の増加とともに、減少することが判る(□印、細実線)。一方、窒素酸化物などの不純物(コンタミ)が酸化剤ガス中に混入した場合、酸化剤ガス浄化手段6で浄化しないと、出力電圧が低下する(△印、細破線)。
【0065】
本発明の実施例では、図2の●印、太実線で示したように、酸化剤ガス中に不純物が混入しても出力電圧が下限閾値を越えないように、出力電圧の低い高発電電力時のみ、切り替え手段9を酸化剤ガス浄化手段6を経由する経路に切り替えるので、不純物による電圧の低下が解消され、ほぼ正常時の出力電圧を得ることができる。すなわち、図2におけるバイパス経路と酸化剤ガス浄化手段経路が切り替わる発電電力指令値(図2における縦方向の点線における発電電力値)において、切り替え手段9が動作する。
【0066】
また、出力電圧の高い低発電電力時は、酸化剤ガス中に不純物が混入しても下限閾値を越えることはないため、酸化剤ガスはバイパス経路8を介して供給することにより、酸化剤ガス浄化手段6を消耗することなく、酸化剤ガス浄化手段6の寿命を延ばすことができる。
【0067】
また、図3に本発明の酸化剤ガス浄化手段6の交換時期を使用者に促す際のフローチャートを示す。まず、現在発電している発電電力指令値を決定する(ステップ1)。そして、その時の発電電力が酸化剤ガス浄化手段6を経由する経路か、バイパス経路8のいずれかに切り替える所定の発電電力より大きいか小さいかを判断する(ステップ2)。発電電力が所定の発電電力より大きい場合、酸化剤ガス浄化手段6を使用したと判断し、その発電電力を保持した時間を積算する(ステップ3)。予め酸化剤ガス浄化手段6は、想定した不純物の濃度と使用期間から必要体積を決定して設計されており、所定の発電電力を保持した時間の積算時間が、設計した酸化剤ガス浄化手段6の寿命に対して大きいか小さいかを判断する(スタップ4)。所定の発電電力を保持した時間の積算時間が酸化剤ガス浄化手段6の寿命を上回った時は、不純物混入により出力電圧が低下し、出力電圧が下限閾値に達すれば、発電が停止する可能性があるので、使用者に酸化剤ガス浄化手段6を交換するよう促すことができる(ステップ5)。
【0068】
したがって、本発明の実施の形態の燃料電池発電装置によれば、大気中に不純物が含まれているような環境下においても、常に安定した出力電圧を得ることができるため、信頼性と耐久性に優れた燃料電池発電装置を提供することができる。
【0069】
(実施の形態2)
図4は、本発明の第二の実施の形態の燃料電池発電装置の概略構成図である。第一の実
施の形態と異なる点は、酸化剤ガス供給手段5の前段に酸化剤ガス浄化手段6およびバイパス経路8を配置した点である。それ以外は第一の実施の形態と同じであり、詳細な説明は省略する。
【0070】
図5において、酸化剤ガス浄化手段6およびバイパス経路8を酸化剤ガス供給手段5の吸い込み側に配置することにより、バイパス経路8の構成を簡単もしくは省略することが可能となり、装置の小型化、低コスト化ができる。
【0071】
また、酸化剤ガス浄化手段6を経由する経路を介して酸化剤ガスを供給するときの酸化剤ガス供給手段5の回転数などの能力値を、バイパス経路8を介するときよりも大きくするので、バイパス経路の構造を圧力損失の高いものにする必要がなく、構造が簡単となり、経済的である。
【0072】
また、図5に本発明の第二の実施例の酸化剤ガス浄化手段6の交換時期を使用者に促す際のフローチャートを示す。まず、現在発電している発電電力指令値を決定する(ステップ1)。そして、その時の発電電力が酸化剤ガス浄化手段6を経由する経路か、バイパス経路8のいずれかに切り替える所定の発電電力より大きいか小さいかを判断する(ステップ2)。発電電力が決まれば、酸化剤ガス供給手段5の能力値が決定するので、その能力値における風速を求め、所定の発電電力を保持した時間を乗じて風量を算出する。この風量の空気が酸化剤ガス浄化手段6を通過したと判断し、その通過風量を積算する(ステップ3)。予め酸化剤ガス浄化手段6は、想定した不純物の濃度と使用期間から必要体積を決定して設計されており、積算した風量から求めた実際の酸化剤ガス浄化手段6の使用時間が、設計した酸化剤ガス浄化手段6の寿命に対して大きいか小さいかを判断する(スタップ4)。実際の酸化剤ガス浄化手段6の使用時間が酸化剤ガス浄化手段6の寿命を上回った時は、不純物混入により出力電圧が低下し、出力電圧が下限閾値に達すれば、発電が停止する可能性があるので、使用者に酸化剤ガス浄化手段6を交換するよう促すことができる(ステップ5)。
【0073】
したがって、本発明の実施の形態の燃料電池発電装置によれば、より高い精度で交換時期を決定するので、酸化剤ガス浄化手段のさらなる高寿命化を図ることができ、大気中に不純物が含まれているような環境下においても、常に安定した出力電圧を得ることができるため、信頼性と耐久性に優れた燃料電池発電装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の燃料電池発電装置は、不純物による劣化の抑制または耐久性の向上という効果を有し、高分子型固体電解質膜を用いた燃料電池発電装置、燃料電池デバイスに有用である。また、悪臭、排気ガスなど不純物が存在する可能性のある屋外に設置される定置用燃料電池コジェネレーションシステムに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第一の実施の形態の燃料電池発電装置の概略構成図
【図2】同装置の電池電圧特性図
【図3】同装置の酸化剤ガス浄化手段の交換時期を決定する動作を示すフローチャート
【図4】本発明の第二の実施の形態の燃料電池発電装置の概略構成図
【図5】同装置の酸化剤ガス浄化手段の交換時期を決定する動作を示すフローチャート
【図6】従来の燃料電池発電装置の概略構成図
【符号の説明】
【0076】
1 電解質
21 電極(アノード)
22 電極(カソード)
31、32 セパレータ板
5 酸化剤ガス供給手段
6 酸化剤ガス浄化手段
61、64 除塵フィルター
62 酸性不純物除去フィルター
63 アルカリ性不純物除去フィルター
7 発電電力指令手段
8 バイパス経路
9 切り替え手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、前記電解質を挟む一対の電極と、前記電極の一方に少なくとも水素を含む燃料ガスを供給排出し、他方に少なくとも酸素を含む酸化剤ガスを供給排出するガス流路を有する一対のセパレータ板とからなるセルを少なくとも一つ備えた燃料電池と、前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、前記酸化剤ガスを浄化する酸化剤ガス浄化手段と、前記酸化剤ガス浄化手段を経由せずに前記燃料電池に酸化剤ガスを供給するバイパス経路と、前記酸化剤ガス浄化手段を経由する経路とバイパス経路とを切り替える切り替え手段と、燃料電池の発電電力を決定する発電電力指令手段を備え、前記発電電力指令手段が出力する発電電力指令値が所定の値よりも小さい場合、前記切り替え手段を前記バイパス経路に切り替える燃料電池発電装置。
【請求項2】
酸化剤ガス浄化手段を経由する経路の圧力損失と、バイパス経路の圧力損失は同じである請求項1に記載の燃料電池発電装置。
【請求項3】
酸化剤ガス浄化手段を経由する経路に酸化剤ガスを供給するときの酸化剤ガス供給手段の能力値を、バイパス経路に供給するときよりも大きくする請求項1に記載の燃料電池発電装置。
【請求項4】
発電電力指令手段が出力する所定の値以上の発電電力指令値を保持した時間の累積から前記酸化剤ガス浄化手段の交換時期を判定する請求項1に記載の燃料電池発電装置。
【請求項5】
発電電力指令手段が出力する所定の値以上の発電電力指令値を保持した時間の累積と、酸化剤ガス供給手段の能力値から前記酸化剤ガス浄化手段の交換時期を判定する請求項1に記載の燃料電池発電装置。
【請求項6】
酸化剤ガス浄化手段は、アルカリ性不純物を除去するアルカリ性不純物除去フィルターと、酸性不純物を除去する酸性不純物除去フィルターと、粉塵を除去する除塵フィルターを備えた請求項1に記載の燃料電池発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−21492(P2008−21492A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191399(P2006−191399)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】