説明

燃料電池装置

【課題】燃料電池セルスタックの劣化前後にかかわらず、適切にスタック温度の制御を実行することができる燃料電池装置を提供する。
【解決手段】燃料電池セルスタック14と、燃料流量調整ユニット38と、発電用空気流量調整ユニット45と、スタック温度Tsを検出する発電室温度センサ142と、発電用空気供給量AFを制御する制御部110を備え、制御部110が、スタック温度Tsが適正温度範囲A内となるように供給量AFを制御する燃料電池装置1であって、制御部110は、燃料電池セルスタック14の劣化を判定するものであり、燃料電池セルスタック14が劣化していない状態においては、スタック温度Tsを適正温度範囲Aに戻すように供給量AFを増加させ、劣化が進行した状態においては、スタック温度Tsを適正温度範囲Aに戻すために必要な供給量まで供給量AFを増加させないように供給量AFを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池装置に係わり、特に、燃料電池セルスタックの温度を発電用空気で調整可能な燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池装置では、変動する電力負荷への負荷追従運転によって燃料電池セルスタックのスタック温度が一時的に上昇した場合、スタック温度を適正温度範囲に維持するため、酸素含有ガスである発電用空気の供給量を増大させる制御が行われている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1の装置では、発電用空気の供給量増大にもかかわらず、上昇したスタック温度が適正温度範囲に戻らなかった場合は、装置の運転が停止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−287633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スタック温度は、上述のように電力負荷増によって一時的に上昇するが、燃料電池セルの劣化によっても上昇する。例えば、例えば電極層の剥がれ等の燃料電池ユニットの劣化により、発電反応を実施可能な有効な電極面積が減少すると、本来は発電に供されるべき燃料ガスの一部が、発電に供されないまま排気ガスとして燃焼され、燃焼による発熱量が増加してしまう。これにより、スタック温度が上昇する。そして、この劣化による温度上昇は、一時的なものではなく、恒久的なものである。
【0005】
したがって、従来は、電力負荷追従による一時的なスタック温度の上昇と、劣化に起因するスタック温度の上昇とを区別することなく、単に、スタック温度を適正温度範囲に維持するように発電用空気の供給量を増大させる制御が行われていた。すなわち、電力負荷が大きくない場合には、スタック温度の上昇分は主に劣化に起因したものとなるが、従来では、この劣化に起因した上昇分によって適正温度範囲を超えた場合にも、発電用空気の供給量増大によって適正温度範囲が維持されていた。
【0006】
しかしながら、劣化によって上昇したスタック温度を適正温度範囲に戻すには、常時、発電用空気の供給量を増大させておく必要があるという問題があった。また、燃料電池スタックが劣化した場合、温度を高めに維持する方が電力出力性能を維持する点では有利であるが、発電用空気の供給量増大によりスタック温度を適正温度範囲に強制的に戻すと、劣化した電力出力性能しか発揮できなくなるし、その状態で無理に電力出力を通常通り行おうとすると、残りの有効部に発電負荷が余分にかかり、劣化をさらに促進してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、燃料電池セルスタックの劣化前後にかかわらず、適切にスタック温度の制御を実行することができる燃料電池装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、燃料ガスと酸素含有ガスとの反応により電力を発生させる燃料電池セルスタックと、燃料電池セルスタックに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、燃料電池セルスタックに酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給手段と、燃料電池セルスタックのスタック温度を検出する温度検出手段と、酸素含有ガス供給量を制御する制御装置と、を備え、制御装置が、スタック温度が適正温度範囲内となるように酸素含有ガス供給量を制御する燃料電池装置であって、制御装置は、燃料電池セルスタックの劣化を判定し、燃料電池セルスタックが劣化していない状態においては、スタック温度を適正温度範囲に戻すように酸素含有ガス供給量を増加させる制御を実行し、燃料電池セルスタックの劣化が進行した状態においては、スタック温度を適正温度範囲に戻すために必要な供給量まで酸素含有ガス供給量を増加させないように、酸素含有ガス供給量の制御を実行するように構成されていることを特徴としている。
【0009】
スタック温度の上昇が、電力負荷追従等による一時的なものである場合は、酸素含有ガスの供給量を増やすことによって、スタック温度を迅速に適正温度範囲に戻すことが望ましい。一方、スタック温度の上昇が、劣化によるものである場合は、スタック温度を適正温度範囲まで戻さずに、スタック温度をある程度高温に維持した方が、燃料電池の電力出力性能を維持することができるので望ましい。すなわち、スタック温度をある程度高温に維持することが、電力出力性能に対する劣化補正となる。
【0010】
本発明によれば、劣化していない状態における一時的な温度上昇によりスタック温度が適正温度範囲を外れた場合は、酸素含有ガスの供給量を増加させて、速やかに適正温度範囲に戻す。しかしながら、本発明では、劣化による恒久的な温度上昇によりスタック温度が適正温度範囲を外れた場合は、スタック温度を適正温度範囲に無理には戻そうとせず、スタック温度を適正温度範囲に戻すために必要な供給量まで酸素含有ガス供給量を増加させないことにより、適正温度範囲よりもある程度高い、熱的にバランスした温度に落ち着かせることができる。これにより、本発明では、スタック温度の一時的な上昇に対しては迅速に適正温度範囲に戻す一方で、劣化による恒久的な温度上昇に対しては、適正温度範囲よりも高い温度に保持することにより、劣化したセルスタックの電力出力性能を補償し、定格出力性能を確保することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、制御装置は、スタック温度が適正温度範囲から外れた状態が所定期間継続した場合に、燃料電池が劣化したと判定し、燃料電池の劣化を判定したとき、酸素含有ガス供給量の増加を抑制する。
このように構成された本発明によれば、スタック温度の上昇が一時的なものか恒久的なものかを判断するための煩雑な判断処理工程を設けることなく、スタック温度が適正温度範囲から外れた継続期間の長さを計測することにより、簡単な制御により判断することができ、一時的及び恒久的な温度上昇のいずれの場合においても、それぞれに適切なスタック温度に維持することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、酸素含有ガス供給量には上限値が設定されており、制御装置は、酸素含有ガス供給量が上限値に到達した以降は増加させない。
このように構成された本発明によれば、酸素含有ガス供給量が上限値に達したら、それ以後は一定の供給量となるので、劣化時においてスタック温度を安定的に適正温度に維持することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、スタック温度の適正温度範囲からの偏差の大きさによらず、酸素含有ガス供給量の上限値は一定である。
このように構成された本発明によれば、セルスタックの劣化の程度が大きいほど、スタック温度は高い温度に落ち着くことになるため、スタック温度の高さが電力出力性能を維持するために有利に働く。したがって、劣化時の程度に応じて、電力出力性能を維持のための適切なスタック温度とすることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、スタック温度の適正温度範囲からの偏差が大きいほど、酸素含有ガス供給量の増加速度が大きく設定される。
このように構成された本発明によれば、スタック温度の一時的な温度上昇に対しては迅速に適正温度範囲に戻すことができ、一方、劣化による温度上昇に対しては、偏差が大きくて酸素含有ガス供給量の増加速度が大きく設定されても、酸素含有ガス供給量が上限値で制限されるため、酸素含有ガス供給量が過大となることを抑制することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、スタック温度が所定温度以上であり且つ適正温度範囲内である場合は、酸素含有ガス供給量を変化させない。
このように構成された本発明によれば、スタック温度が所定温度以上であり且つ適正温度範囲内である温度域が、酸素含有ガス供給量を変動させない不感帯領域となる。このように不感帯領域を設けることで、スタック温度の追従遅れを待つこととなるため、スタック温度が特定の値に落ち着かず変動し続けることが防止される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の燃料電池システムによれば、再起動時に生じ得る炭素析出や改質触媒劣化等の発生を防止し、長寿命運転を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による燃料電池システムの燃料電池モジュールを示す正面断面図である。
【図3】図2のIII-III線に沿う断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による燃料電池システムの燃料電池セル単体を示す部分断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による燃料電池システムの燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態による燃料電池システムを示すブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態による燃料電池システムの起動時の動作を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の一実施形態による燃料電池システムの運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
【図9】本発明の一実施形態による燃料電池システムのスタック温度と発電用空気供給量の時間変化を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施形態による燃料電池システムのスタック温度と発電用空気供給量の時間変化を示すグラフである。
【図11】本発明の一実施形態による燃料電池システムの発電用空気供給量の変更処理制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示す全体構成図である。この図1に示すように、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
【0019】
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱材(図示せず但し断熱材は必須の構成ではなく、なくても良いものである。)を介して密封空間8が形成されている。なお、断熱材は設けないようにしても良い。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
【0020】
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。
また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、燃焼熱を受けて空気を加熱するための空気用熱交換器22が配置されている。
【0021】
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
【0022】
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。
また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。
さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
【0023】
次に、図2及び図3により、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールの内部構造を説明する。図2は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿って断面図である。
図2及び図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
【0024】
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bを形成され、改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気(純水)が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
【0025】
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
【0026】
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
【0027】
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、図3に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
【0028】
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。
空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
【0029】
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、図3に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、図1に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
【0030】
次に図4により燃料電池セルユニット16について説明する。図4は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
【0031】
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
【0032】
内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成される。
【0033】
電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成される。
【0034】
外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成される。
【0035】
次に図5により燃料電池セルスタック14について説明する。図5は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
図5に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の下支持板68及び上支持板100により支持されている。これらの下支持板68及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴68a及び100aがそれぞれ形成されている。
【0036】
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と電気的に接続される燃料極用接続部102aと、空気極である外側電極層92の外周面全体と電気的に接続される空気極用接続部102bとにより一体的に形成されている。空気極用接続部102bは、外側電極層92の表面を上下方向に延びる鉛直部102cと、この鉛直部102cから外側電極層92の表面に沿って水平方向に延びる多数の水平部102dとから形成されている。また、燃料極用接続部102aは、空気極用接続部102bの鉛直部102cから燃料電池セルユニット16の上下方向に位置する内側電極端子86に向って斜め上方又は斜め下方に向って直線的に延びている。
【0037】
さらに、燃料電池セルスタック14の端(図5では左端の奥側及び手前側)に位置する2個の燃料電池セルユニット16の上側端及び下側端の内側電極端子86には、それぞれ外部端子104が接続されている。これらの外部端子104は、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の外部端子104(図示せず)に接続され、上述したように、160本の燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されるようになっている。
【0038】
次に図6により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)に取り付けられたセンサ類等について説明する。図6は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示すブロック図である。
図6に示すように、固体電解質型燃料電池1は、制御部110を備え、この制御部110には、使用者が操作するための「ON」や「OFF」等の操作ボタンを備えた操作装置112、発電出力値(ワット数)等の種々のデータを表示するための表示装置114、及び、異常状態のとき等に警報(ワーニング)を発する報知装置116が接続されている。なお、この報知装置116は、遠隔地にある管理センタに接続され、この管理センタに異常状態を通知するようなものであっても良い。
【0039】
次に、制御部110には、以下に説明する種々のセンサからの信号が入力されるようになっている。
先ず、可燃ガス検出センサ120は、ガス漏れを検知するためのもので、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4に取り付けられている。
CO検出センサ122は、本来排気ガス通路80等を経て外部に排出される排気ガス中のCOが、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4を覆う外部ハウジング(図示せず)へ漏れたかどうかを検知するためのものである。
貯湯状態検出センサ124は、図示しない給湯器におけるお湯の温度や水量を検知するためのものである。
【0040】
電力状態検出センサ126は、インバータ54及び分電盤(図示せず)の電流及び電圧等を検知するためのものである。
発電用空気流量検出センサ128は、発電室10に供給される発電用空気の流量を検出するためのものである。
改質用空気流量センサ130は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものである。
燃料流量センサ132は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものである。
【0041】
水流量センサ134は、改質器20に供給される純水(水蒸気)の流量を検出するためのものである。
水位センサ136は、純水タンク26の水位を検出するためのものである。
圧力センサ138は、改質器20の外部の上流側の圧力を検出するためのものである。
排気温度センサ140は、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度を検出するためのものである。
【0042】
発電室温度センサ142は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられ、燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度を推定するためのものである。
燃焼室温度センサ144は、燃焼室18の温度を検出するためのものである。
排気ガス室温度センサ146は、排気ガス室78の排気ガスの温度を検出するためのものである。
改質器温度センサ148は、改質器20の温度を検出するためのものであり、改質器20の入口温度と出口温度から改質器20の温度を算出する。
外気温度センサ150は、固体電解質型燃料電池(SOFC)が屋外に配置された場合、外気の温度を検出するためのものである。また、外気の湿度等を測定するセンサを設けるようにしても良い。
【0043】
これらのセンサ類からの信号は、制御部110に送られ、制御部110は、これらの信号によるデータに基づき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38、改質用空気流量調整ユニット44、発電用空気流量調整ユニット45に、制御信号を送り、これらのユニットにおける各流量を制御するようになっている。
また、制御ユニット110は、インバータ54に、制御信号を送り、電力供給量を制御するようになっている。
【0044】
次に図7により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)による起動時の動作を説明する。図7は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の起動時の動作を示すタイムチャートである。
最初は、燃料電池モジュール2を温めるために、無負荷状態で、即ち、燃料電池モジュール2を含む回路を開いた状態で、運転を開始する。このとき、回路に電流が流れないので、燃料電池モジュール2は発電を行わない。
【0045】
先ず、改質用空気流量調整ユニット44から改質用空気を第1ヒータ46を経由して燃料電池モジュール2の改質器20へ供給する。また、同時に、発電用空気流量調整ユニット45から発電用空気を第2ヒータ48を経由して燃料電池モジュール2の空気用熱交換器22へ供給し、この発電用空気が、発電室10及び燃焼室18に到達する。
この直ぐ後、燃料流量調整ユニット38からも燃料ガスが供給され、改質用空気が混合された燃料ガスが、改質器20及び燃料電池セルスタック14、燃料電池セルユニット16を通過して、燃焼室18に到達する。
【0046】
次に、点火装置83により着火して、燃焼室18にある燃料ガスと空気(改質用空気及び発電用空気)とを燃焼させる。この燃料ガスと空気との燃焼により排気ガスが生じ、この排気ガスにより、発電室10が暖められ、また、排気ガスが燃料電池モジュール2の密封空間8内を上昇する際、改質器20内の改質用空気を含む燃料ガスを暖めると共に、空気熱交換器22内の発電用空気も暖める。
【0047】
このとき、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、改質用空気が混合された燃料ガスが改質器20に供給されているので、改質器20において、式(1)に示す部分酸化改質反応POXが進行する。この部分酸化改質反応POXは、発熱反応であるので、起動性が良好となる。また、この昇温した燃料ガスが燃料ガス供給管64により燃料電池セルスタック14の下方に供給され、これにより、燃料電池セルスタック14が下方から加熱され、また、燃焼室18も燃料ガスと空気が燃焼して昇温されているので、燃料電池セルスタック14は、上方からも加熱され、この結果、燃料電池セルスタック14は、上下方向において、ほぼ均等に昇温可能となっている。この部分酸化改質反応POXが進行しても、燃焼室18では継続して燃料ガスと空気との燃焼反応が持続される。
【0048】
mn+xO2 → aCO2+bCO+cH2 (1)
【0049】
部分酸化改質反応POXの開始後、改質器温度センサ148により改質器20が所定温度(例えば、600℃)になったことを検知したとき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、燃料ガスと改質用空気と水蒸気とを予め混合したガスを改質器20に供給する。このとき、改質器20においては、上述した部分酸化改質反応POXと後述する水蒸気改質反応SRとが併用されたオートサーマル改質反応ATRが進行する。このオートサーマル改質反応ATRは、熱的に内部バランスが取れるので、改質器20内では熱的に自立した状態で反応が進行する。即ち、酸素(空気)が多い場合には部分酸化改質反応POXによる発熱が支配的となり、水蒸気が多い場合には水蒸気改質反応SRによる吸熱反応が支配的となる。この段階では、既に起動の初期段階は過ぎており、発電室10内がある程度の温度まで昇温されているので、吸熱反応が支配的であっても大幅な温度低下を引き起こすことはない。また、オートサーマル改質反応ATRが進行中も、燃焼室18では燃焼反応が継続して行われている。
【0050】
式(2)に示すオートサーマル改質反応ATRの開始後、改質器温度センサ146により改質器20が所定温度(例えば、700℃)になったことを検知したとき、改質用空気流量調整ユニット44による改質用空気の供給を停止すると共に、水流量調整ユニット28による水蒸気の供給を増加させる。これにより、改質器20には、空気を含まず燃料ガスと水蒸気のみを含むガスが供給され、改質器20において、式(3)の水蒸気改質反応SRが進行する。
【0051】
mn+xO2+yH2O → aCO2+bCO+cH2 (2)
mn+xH2O → aCO2+bCO+cH2 (3)
【0052】
この水蒸気改質反応SRは吸熱反応であるので、燃焼室18からの燃焼熱と熱バランスをとりながら反応が進行する。この段階では、燃料電池モジュール2の起動の最終段階であるため、発電室10内が十分高温に昇温されているので、吸熱反応が進行しても、発電室10が大幅な温度低下を招くこともない。また、水蒸気改質反応SRが進行しても、燃焼室18では継続して燃焼反応が進行する。
【0053】
このようにして、燃料電池モジュール2は、点火装置83により点火した後、部分酸化改質反応POX、オートサーマル改質反応ATR、水蒸気改質反応SRが、順次進行することにより、発電室10内の温度が徐々に上昇する。次に、発電室10内及び燃料電池セル84の温度が燃料電池モジュール2を安定的に作動させる定格温度よりも低い所定の発電温度に達したら、燃料電池モジュール2を含む回路を閉じ、燃料電池モジュール2による発電を開始し、それにより、回路に電流が流れる。燃料電池モジュール2の発電により、燃料電池セル84自体も発熱し、燃料電池セル84の温度も上昇する。この結果、燃料電池モジュール2を作動させる定格定格温度、例えば、600℃〜800℃になる。
【0054】
この後、定格温度を維持するために、燃料電池セル84で消費される燃料ガス及び空気の量よりも多い燃料ガス及び空気を供給し、燃焼室18での燃焼を継続させる。なお、発電中は、改質効率の高い水蒸気改質反応SRで発電が進行する。
【0055】
次に、図8により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を説明する。図8は、本実施形態により固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
図8に示すように、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、先ず、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28を操作して、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させる。
【0056】
また、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、発電室の温度が所定温度、例えば、400℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、改質器20の水蒸気改質反応SRを終了する。この発電用空気の供給は、改質器20の温度が所定温度、例えば、200℃まで低下するまで、継続し、この所定温度となったとき、発電用空気流量調整ユニット45からの発電用空気の供給を停止する。
【0057】
このように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の運転停止を行うとき、改質器20による水蒸気改質反応SRと発電用空気による冷却とを併用しているので、比較的短時間に、燃料電池モジュールの運転を停止させることができる。
【0058】
次に、図9乃至図11を参照して、本実施形態による燃料電池装置1の二次空気(発電用空気)の制御を説明する。
本実施形態では、温度検出手段である発電室温度センサ142が、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の近傍の温度であるスタック温度Tsをにより測定する。制御部110が、測定されたスタック温度Tsを取得し、基本処理制御として、このスタック温度Tsを、運転時の適正温度範囲A(温度T1〜T2)に維持するように、酸素含有ガスとしての空気を供給する酸素含有ガス供給手段である発電用空気流量調整ユニット45の制御を行う。
燃料電池セルスタック14は、発電のための改質後の燃料ガス(本例では水素ガス)と発電用の酸素含有ガス(本例では空気)中の酸素との発電反応により電力を発生する。
【0059】
制御部110は、起動動作終了後の運転時において、常時は、燃料電池セルスタック14へ供給する発電用空気の供給量AFを規定の供給量AF0に設定し、供給量AF0で発電用空気を供給するように発電用空気流量調整ユニット45を制御している(図9参照)。これにより、高負荷の電力供給要求へ追従する状態ではなく、また、燃料電池セルスタック14が劣化した状態でない場合は、測定したスタック温度Tsは適正温度範囲A内に維持される。
【0060】
ところが、上述のように電力負荷追従運転や燃料電池セルスタック14の劣化等によって、測定したスタック温度Tsが上昇して適正温度範囲Aを超えると、制御部110は、発電用空気流量調整ユニット45を制御して、スタック温度Tsを適正温度範囲A内に戻すように発電用空気の供給量AFを調整する。
【0061】
図9は、電力負荷追従運転により、一時的にスタック温度Tsが適正温度範囲Aを超えて上昇した場合のスタック温度Ts及び発電用空気供給量AFの時間変化の例を示している。
図9では、時間t0までは供給量AFは所定の供給量AF0に保持されているが、時間t0にスタック温度Tsが適正温度範囲Aの上限温度T2を超えると、制御部110は、発電用空気流量調整ユニット45を制御して、供給量AFを増加させるように供給量AFを調整する。
【0062】
このとき、制御部110は、所定の増加速度又は増量速度で供給量AFを時間的に徐々に増加させていく。供給量AFが増量されていくと、燃料電池スタック14に対する冷却能力が増大され、スタック温度Tsは、電力負荷追従による温度上昇と冷却能力とが熱的にバランスのとれた時点以降に下がり始める。なお、増加速度又は増量速度は、単位時間当たりの供給量の増加割合を意味する。
【0063】
図9では、供給量AFの増量が継続され、時間t1に供給量AFが供給量AF1に達したときに、スタック温度Tsが適正温度範囲Aの上限温度T2まで低下している。スタック温度Tsが適正温度範囲Aの上限温度T2まで低下すると、制御部110は、供給量AFの増量を停止し、その時点における供給量であるAF1を維持する。即ち、スタック温度Tsが上限温度T2を下回った時点ですぐに供給量AFを下げるのではなく、上限温度T2から所定温度(低減開始温度)T3の温度域は供給量AFを変動させない不感帯領域Bとしている。このように不感帯領域Bを設けることで、スタック温度Tsの追従遅れを待つこととなるため、スタック温度Tsが特定の値に落ち着かず変動し続けることが防止される。その後、更にスタック温度Tsが低下し、下限温度T1と上限温度T2との間に設定された温度である低減開始温度T3を下回ると、制御部110は、供給量AF0に向けて供給量AFを所定の減少速度又は減量速度で減少させていく。これにより、制御部110は、スタック温度Tsの減少速度を低下させて、スタック温度Tsを適正温度範囲A内に収束させる。なお、減少速度又は減量速度は、単位時間当たりの供給量の減少割合を意味する。
なお、本実施形態では、供給量AFには、設定最大値である最大供給量AFmaxが設定されており、供給量AFは、最大供給量AFmaxを超えて増量されないように構成されている。本実施形態では、最大供給量AFmaxは、供給量AF0を10%増量した大きさに設定されている。
【0064】
時間t3に供給量AFが供給量AF0に戻ると、その後は、供給量AFは供給量AF0に維持される。すなわち、図9では、スタック温度Tsの上昇が電力負荷追従による一時的なものであるので、供給量AFが供給量AF0に戻された後は、スタック温度Tsは適正温度範囲A内に維持される。
なお、本実施形態では、供給量AFを経過時間に対して線形的に変化させているが、これに限らず、所定温度ステップで段階的に変化させるように構成してもよい。
【0065】
次に、図10は、燃料電池スタック14の劣化により、恒久的にスタック温度Tsが上昇した場合のスタック温度Ts及び発電用空気供給量AFの時間変化の例を示している。
図10では、時間t10までは供給量AFは所定の供給量AF0に保持されているが、時間t10にスタック温度Tsが適正温度範囲Aの上限温度T2を超えると、制御部110は、発電用空気流量調整ユニット45を制御して、供給量AFを増加させるように供給量AFを調整する。
【0066】
このとき、制御部110は、図9と同様に、所定の増量速度で供給量AFを時間的に徐々に増加させていく。供給量AFが増量されていくと、燃料電池スタック14に対する冷却能力が増大されるので、スタック温度Tsの増加速度が減少していく。
【0067】
また、制御部110は、供給量AFの増加を開始した時間t10からタイマーを作動させる。図10では、スタック温度Tsが適正温度範囲A内に戻ることなくタイマーの経過時間が劣化判定時間Cに達すると(時間t11)、制御部110は、燃料電池セルスタック14が劣化したものと判定する。この判定に基づき、制御部110は、供給量AFを時間t11における供給量AF2に固定する(実線)。
【0068】
このとき、供給量AFを供給量AF2から更に増量していけばスタック温度Tsを適正温度範囲A内に戻すことができるが、本実施形態では、制御部110は、スタック温度Tsを適正温度範囲Aを超えた温度(すなわち、供給量AF2による冷却能力によって、劣化による温度上昇が熱的にバランスする温度)に保持するように制御を行う。
【0069】
劣化判定後に、供給量AFが供給量AF2に固定されると、それ以後は、供給量AF2が規定の又は通常の供給量(すなわち、劣化前の供給量AF0に相当)に置き換えられる。
なお、燃料電池セルスタック14に劣化が生じた後、新たな規定の供給量AF2で発電用空気が供給されるようになった場合であっても、電力負荷が小さい場合には、スタック温度Tsが適正温度範囲A内に戻ることがある。
【0070】
このように、本実施形態では、所定の劣化判定時間Cの間、供給量AFを増量させ続けても、スタック温度Tsが適正温度範囲A内に戻ってこない場合は、スタック温度Tsの上昇が一時的なものではなく、燃料電池セルスタック14の劣化による恒久的なものと判定する。スタック温度Tsが劣化している場合は、スタック温度Tsを高めに維持することが、燃料電池としての電力出力性能を維持するための劣化補正となる。
【0071】
したがって、劣化と判断した場合、制御部110は、供給量AFを供給量AF2から更に増加させて強制的にスタック温度Tsを適正温度範囲A内に戻すのではなく、スタック温度Tsを適正温度範囲A内に戻すのに必要な量まで供給量AFを増加することを禁止して、供給量AFを供給量AF2に固定する。これにより、燃料電池セルスタック14の耐用限界温度以下の範囲で、スタック温度Tsを劣化と供給量AF2の関係に応じた温度に保持し、スタック温度Tsを高めに維持して電力出力性能を確保することができる。
【0072】
なお、供給量AFを供給量AF2に保持した場合に、スタック温度Tsが耐用限界温度に達するようであれば、制御部110が、供給量AFを最大供給量AFmax以下の範囲で更に増量するように構成してもよい。
また、本実施形態では、劣化判定時間Cによって劣化を判定していたが、これに限らず、所定増量速度で供給量AFを増量していき、スタック温度Tsが適正温度範囲A内に戻ることなく、供給量AFがある供給量(例えば、供給量AF2)に達した場合に、劣化と判定してもよい。したがって、所定時間の間及び/又は所定流量まで供給量を増加しても、スタック温度Tsが適正温度範囲A内に戻ってこない場合に劣化と判定できる。
【0073】
また、上記実施形態では、劣化と判断した場合に供給量AFを供給量AF2に固定していたが、これに限らず、劣化と判断した時点(t11)以降の供給量AFの増量速度を小さく抑制してもよい(図10の一点鎖線参照)。
この場合、供給量AFは、ある供給量(例えば、最大供給量AFmax)に達した時点(時間t12)で増加が停止し、その供給量(最大供給量AFmax)に供給量AFが維持される。
また、上記実施形態では、劣化の判断をスタック温度にて行っていたが、劣化の判断方法はこれに限らない。例えば、発電電流値が特定の値となった時点における発電効率が、所定値以下に下がったか否かにより劣化を判断してもよい。
【0074】
次に、図11を参照して、スタック温度Tsに応じて、供給量AFの増量速度を変更する処理フローを説明する。
制御部110は、図11の処理フローを所定時間毎に繰り返し実行する。
まず、制御部110は、スタック温度Tsが670℃(適正温度範囲A内の低減開始温度T3)より高いか否かを判定する(ステップS1)。
【0075】
スタック温度Tsが670℃以下の場合(ステップS1;No)、制御部110は、供給量AFを通常の供給量AF0に戻す処理に移行し(ステップS9)、処理を終了する。したがって、スタック温度Tsが670℃以下であれば、供給量AFは供給量AF0に維持される。なお、ステップS9の処理は、図9に示すように、供給量AFを所定の減量速度で徐々に戻すものであるが、これに限らず、段階的に又は瞬時に(ステップS9の処理に移行した瞬間に)戻すように構成してもよい。
【0076】
一方、スタック温度Tsが670℃より高い場合(ステップS1;Yes)、制御部110は、現在の供給量AFが、最大供給量AFmax未満であるか否かを判定する(ステップS2)。
現在の供給量AFが最大供給量AFmaxである場合(ステップS2;No)、供給量AFをこれ以上増量することができないので、制御部110は処理を終了する。したがって、供給量AFが最大供給量AFmaxになると、スタック温度Tsが670℃以下にならない限り、供給量AFは最大供給量AFmaxに維持される。
一方、現在の供給量AFが最大供給量AFmax未満である場合(ステップS2;Yes)、供給量AFを増量する余地があるので、制御部110は、スタック温度Tsが680℃(適正温度範囲Aの上限温度T2)より高いか否かを判定する(ステップS3)。
【0077】
スタック温度Tsが680℃より高くない場合(ステップS3;No)、制御部110は供給量AFの値をこの時点では未だ変更しない。即ち、制御部110が処理を終了することにより、現状の供給量が維持される。
一方、スタック温度Tsが680℃より高い場合(ステップS3;Yes)、制御部110は、スタック温度Tsが700℃より高いか否かを判定する(ステップS4)。
スタック温度Tsが700℃より高くない場合(ステップS4;No)、スタック温度Tsは、680℃より高いが700℃以下であり、適正温度範囲Aからの偏差(適正温度範囲Aからの温度の隔たり、この場合、上限温度T2との温度差)が小さいので、制御部110は、供給量AFの増量速度を最小値ΔAFminに設定し(ステップS8)、処理を終了する。これにより、供給量AFは、単位時間当たりの増加速度が最小値ΔAFminで増加され、燃料電池セルスタック14に対する冷却性能が増大されていく。
【0078】
しかしながら、この場合、温度偏差が小さいので、供給量AFの増加速度を大きくし過ぎると、スタック温度Tsの上昇速度に比べて改質用空気供給量が過大になって、スタック温度Tsが低くなり過ぎたり、スタック温度Tsの変動が不安定になったりする等のおそれがある。よって、本実施形態では、温度偏差が小さい場合は、供給量AFの増加速度を小さく抑え、上記の問題が生じないようにしている。
【0079】
一方、スタック温度Tsが700℃より高い場合(ステップS4;Yes)、制御部110は、スタック温度Tsが710℃より高いか否かを判定する(ステップS5)。
スタック温度Tsが710℃より高くない場合(ステップS5;No)、スタック温度Tsは、700℃より高いが710℃以下であり、適正温度範囲Aからの偏差が中程度であるので、制御部110は、供給量AFの増量速度を最小値ΔAFminよりも大きい中間値ΔAFmidに設定し(ステップS7)、処理を終了する。
【0080】
この場合、スタック温度Tsが700℃を超えると、温度偏差が中程度になるので、制御部110は、より供給量AFの増加速度を大きくすることにより、冷却性能の増大速度を増して、スタック温度Tsを適正温度範囲A内に素早く収束させるように構成されている。
【0081】
一方、スタック温度Tsが710℃より高い場合(ステップS5;Yes)、適正温度範囲Aからの偏差が大きいので、制御部110は、供給量AFの増量速度を中間値ΔAFmidよりも大きい最大値ΔAFmaxに設定し(ステップS6)、処理を終了する。
【0082】
この場合、スタック温度Tsが710℃を超えると、温度偏差が大きくなるので、制御部110は、更に供給量AFの増加速度を大きくすることにより、冷却性能の増大速度を迅速に増して、スタック温度Tsを適正温度範囲A内に素早く収束させるように構成されている。
【0083】
このように、本実施形態では、適正温度範囲Aに対するスタック温度Tsの温度偏差が大きいほど、供給量AFの増量速度を大きく設定することにより、スタック温度Tsの一時的な温度上昇に対しては迅速に適正温度範囲A内に戻すことができる。
ただし、温度偏差が大きくても、供給量AFは最大供給量AFmaxに制限されるので(ステップS2参照)、発電用空気供給量が過大になることを防止することができる。また、温度偏差が大きくても、供給量AFは最大供給量AFmaxに制限されるので、温度偏差が大きいほどスタック温度Tsは高い温度に保持されることになり、電力出力性能を維持するための劣化補正量を大きくすることができる。
尚、本実施例においては、供給量AFが最大供給量AFmaxに到達した状態で更に劣化が進行し、スタック温度Tsが上昇しすぎてしまうことも考えられる。しかし、スタック温度が820℃を超えると安全のためにシステムを停止させるため、供給量AFが最大供給量を超えて供給されないことによる安全上の問題は生じない。
【符号の説明】
【0084】
1 固体電解質形燃料電池(燃料電池装置)
2 燃料電池モジュール
4 補機ユニット
10 発電室
12 燃料電池セル集合体
14 燃料電池セルスタック
16 燃料電池セルユニット
18 燃焼室
20 改質器
22 空気用熱交換器
28 水流量調整ユニット
38 燃料流量調整ユニット(燃料ガス供給手段)
44 改質用空気流量調整ユニット
45 発電用空気流量調整ユニット(酸素含有ガス供給手段)
54 インバータ
83 点火装置
84 燃料電池セル
110 制御部(制御装置)
142 発電室温度センサ(温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸素含有ガスとの反応により電力を発生させる燃料電池セルスタックと、前記燃料電池セルスタックに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記燃料電池セルスタックに酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給手段と、前記燃料電池セルスタックのスタック温度を検出する温度検出手段と、酸素含有ガス供給量を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置が、前記スタック温度が適正温度範囲内となるように酸素含有ガス供給量を制御する燃料電池装置であって、
前記制御装置は、前記燃料電池セルスタックの劣化を判定し、前記燃料電池セルスタックが劣化していない状態においては、スタック温度を適正温度範囲に戻すように酸素含有ガス供給量を増加させる制御を実行し、前記燃料電池セルスタックの劣化が進行した状態においては、スタック温度を適正温度範囲に戻すために必要な供給量まで酸素含有ガス供給量を増加させないように、酸素含有ガス供給量の制御を実行するように構成されていることを特徴とする燃料電池装置。
【請求項2】
前記制御装置は、スタック温度が適正温度範囲から外れた状態が所定期間継続した場合に、前記燃料電池が劣化したと判定し、前記燃料電池の劣化を判定したとき、酸素含有ガス供給量の増加を抑制することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池装置。
【請求項3】
酸素含有ガス供給量には上限値が設定されており、前記制御装置は、酸素含有ガス供給量が前記上限値に到達した以降は増加させないことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池装置。
【請求項4】
スタック温度の前記適正温度範囲からの偏差の大きさによらず、酸素含有ガス供給量の前記上限値は一定であることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池装置。
【請求項5】
スタック温度の前記適正温度範囲からの偏差が大きいほど、酸素含有ガス供給量の増加速度が大きく設定されることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池装置。
【請求項6】
前記スタック温度が所定温度以上であり且つ前記適正温度範囲内である場合は、前記酸素含有ガス供給量を変化させないことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−79410(P2012−79410A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220433(P2010−220433)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】