説明

燃料電池/バッテリ受動型ハイブリッド電源を動作させる方法

【課題】燃料電池ハイブリッド電源の出力電圧を、バッテリ並びに燃料電池システムに適した所望の制限電圧範囲に制限する方法を提供する。
【解決手段】接続負荷17がない条件又は接続負荷がない条件付近での動作方法であって、燃料電池のアノード、カソードに水素、酸素を供給し、蓄積用バッテリ18により供給される電流を監視し、燃料電池及びバッテリにより共有される出力電圧13を監視し、電流及び出力電圧に基づいて、バッテリの充電状態を評価し、燃料電池の水素圧力、酸素圧力を監視し、水素及び酸素の流れを制限し、水素及び酸素再循環ポンプ213,223を作動させ、水素圧力を酸素圧力の70%から130%までの間に維持しながら、水素圧力及び酸素圧力が0.7絶対バールを下回りこれを維持するようにし、出力電圧が0.90ボルト/電池より低い値に対応するレベルに維持され、バッテリの最大電圧限度を上回らないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を停止させる必要なしに、すなわち、燃料電池を蓄積用バッテリ(蓄電池)から切り離す必要なしに、無負荷条件又は無負荷条件付近で動作する燃料電池/バッテリ受動型ハイブリッド電源の出力電圧を、バッテリの電圧上限値を超えないように制限する方法に関する。本発明は、より具体的には、電源の燃料電池が、水素を燃料として用い、純粋酸素を酸化剤として用いるように設計された種類のものである場合における、このような方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の種類の電気化学燃料電池は、反応物、すなわち水素の流れ及び酸素の流れを、電力と水に変換する。プロトン交換膜型燃料電池(PEMFC)は、一般に、膜電極組立体(MEA)を形成するように2つの多孔性導電性電極層の間に配置された固体高分子電解質膜を含む。所望の電気化学反応を引き起こすために、アノード電極及びカソード電極の各々は、1つ又はそれ以上の触媒を含む。これらの触媒は、典型的には、膜/電極層の界面に配置される。
【0003】
アノードにおいては、水素が多孔性電極層を通って移動し、触媒により酸化されて、プロトン及び電子を生成する。プロトンは、固体高分子電解質を通り、カソードに向かって移動する。一方、酸素は、多孔性カソードを通って移動し、カソード電極触媒において、膜を通って入ってくるプロトンと反応する。電子は、アノードからカソードへ、外部回路を通って移動し、電流を生成する。
【0004】
図1は、従来技術のプロトン交換膜燃料電池のスタック10を分解図で示す。該スタック10は、一対のエンドプレート組立体15、20と、複数の燃料電池組立体25とを含む。この特定の例において、絶縁性タイロッド30が、エンドプレート組立体15、20の間に延び、締結ナット32によって、スタック組立体10を組み立てられた状態に保持し固定する。締結ナット32とエンドプレート20との間に介在するタイロッド30上にねじ込まれたばね34が、スタック10に対して、弾性圧縮力を軸方向にかける。反応物及び冷却液の流れは、エンドプレート15の入口及び出口ポート(図示せず)を介して、スタック10の内部マニホルド及び通路に供給され、そこから排出される。
【0005】
各々の燃料電池組立体25は、アノード流れ場プレート35と、カソード流れ場プレート40と、これらのプレート35と40との間に配置されたMEA45とを含む。アノード流れ場プレート35及びカソード流れ場プレート40は、導電性材料から作られ、集電装置として働く。1つの電池のアノード流れ場プレートは、隣接する電池のカソード流れ場プレートと背合わせに配置されるため、電流は、一方の電池から他方の電池へ、従って、スタック10全体を通って流れることができる。個々の電池が、別々に分離されたアノード及びカソードの流れ場プレートによってではなく、単一の双極流れ場プレートによって分離されるように構成された他の従来技術の燃料電池スタックが知られている。
【0006】
1つの電池のアノードに供給された反応物流体が別の電池のカソードに供給された反応物流体を汚染しないように、流れ場プレート35及び40により、隣接する燃料電池組立体間に流体バリアがさらに設けられる。MEA45とプレート35及び40の間の界面において、流体流れ場50が、反応流体を電極に向ける。流体流れ場50は、典型的には、MEA45に面するプレート35及び40の主面内に形成された複数の流体流路を含む。流体流れ場50の1つの目的は、それぞれの電極、すなわち水素側のアノード及び酸素側のカソードの表面全体に反応物流体を分散させることである。
【0007】
PEMFCに関する1つの既知の問題は、時間の経過とともに性能が徐々に劣化することである。事実、固体高分子燃料電池の長期の動作は立証済みであるが、比較的理想的な条件下においてのみである。対照的に、特に自動車用途の場合のように、燃料電池が広範な条件で動作しなければならない場合、絶え間なく変化する条件(多くの場合、負荷サイクル及びスタート・ストップ・サイクルとしてモデル化される)により、耐久性及び寿命が劇的に低下することが分かっている。
【0008】
異なる種類の理想的でない条件が、文献において明らかにされている。これらの条件の第1のものは「高電池電圧」と呼ばれるもので、燃料電池を低電流条件又は無電流条件に曝すことにより、平均定電流における動作と比較して大きい劣化速度がもたらされることが知られている。第2の理想的でない条件は、「低電池電圧」であり、燃料電池からピーク電流を引き出すことによっても劣化速度が大きくなることが、さらに知られている。上記から分かることは、燃料電池の寿命を保全するために、「高電池電圧」及び「低電池電圧」の動作条件の両方を回避することが好ましいということである。一般的に知られている種類のPEMFCの場合は、高電池電圧を生じさせないことを保証するための妥当な安全上限値は、0.90ボルト以下に設定すべきであり、0.85ボルト以下であることが好ましく、低電池電圧を生じさせないことを保証する安全下限値は、0.65ボルト以上に設定すべきであり、0.70ボルト以上であることが好ましい。換言すれば、0.65ボルトから0.90ボルトまでの間、好ましくは0.70ボルトから0.85ボルトまでの間の限定された電圧範囲内でのみ、燃料電池を動作させるべきである。
【0009】
自動車用途は、特に負荷電力が急激に変化するという特徴がある。このため、自動車用途に設計された電源は、一般に、燃料電池システムと関連付けられた、電気化学バッテリ又はスーパーキャパシタのようなエネルギーの蓄積用バッテリ(蓄電池)を含む。この種の電源(以下、燃料電池/バッテリ・ハイブリッド電源と呼ぶ)において、バッテリは、バッファとして機能し、負荷にピークがあるときに電力を供給し、反対に、低負荷又は無負荷条件の場合は、余分な電力を貯蔵することができる。
【0010】
図2A及び図2Bは、それぞれ能動型及び受動型ハイブリッド電源を示す2つのブロック図である。図2Aに示すように、燃料電池/バッテリ能動型ハイブリッド電源においては、燃料電池システムは、DC/DC変換器を通して負荷回路に接続され、バッテリは、DC/DC変換器と負荷回路に並列に接続される。DC/DC変換器の利得を制御することにより、ハイブリッド電源内の電力配分を能動的に調整することが可能である。燃料電池/バッテリ受動型ハイブリッド電源は、より単純である。図2Bに示すように、燃料電池システム及びバッテリは、直接、並列に電気的に接続される。欠点は、電源の多数の動作変数が制御されないことである。特に、各デバイスの内部インピーダンスによって、燃料電池システムとバッテリとの間の電流分割が生じることである。さらに、バッテリと燃料電池システムが直接接続されるため、それらの電圧が常に同一となることである。
【0011】
原則として、燃料電池/バッテリ・ハイブリッド電源を用いることにより、所望の制限された電圧範囲内で燃料電池を動作させることが可能になる。しかしながら、バッテリが完全に充電された状態では、該バッテリは、燃料電池により供給された余分な電力を貯蔵できなくなるのは明らかである。この最後の問題に対する周知の解決法は、燃料電池スタックを電気的に切り離すこと(特に、受動型ハイブリッドの場合)、DC/DC変換器の利得を実質的にゼロに設定すること(能動型ハイブリッドの場合)、又はバッテリの充電レベルが下方閾値に達するまで燃料電池を停止することである。しかしながら、スタート・ストップ・サイクルもまた、燃料電池システムの性能の劣化の一因となり、燃料電池システムを停止させずに切り離すには、負荷抵抗を用いて、スタックにより生成されたエネルギーを放散させることが必要である。これは、大きなエネルギーの浪費になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、燃料電池システムを切り離し又は停止し、再始動させる必要なしに、無負荷条件又は無負荷条件付近で動作する燃料電池/バッテリ受動型ハイブリッド電源の出力電圧を、バッテリ並びに燃料電池システムに適した所望の制限電圧範囲に制限する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の方法は、添付の請求項1により定義される。
【0014】
本発明によると、水素及び酸素の再循環ポンプを作動させながら、燃料電池に供給される水素及び酸素の流れを制限することにより、出力電圧を所定の最大限度値より下に保持することが可能になる。本発明によると、最大限度値は、バッテリの最大電圧限度値、又は、燃料電池システムの最大電圧限度値のいずれかの最低値である(0.90ボルト/電池(volts/cess))。
【0015】
本発明の方法の利点は、これにより、能動型ハイブリッド電源で用いられるもののような可変利得DC/DC変換器を必要とすることなく、受動型ハイブリッド電源内の電力配分の調整が可能になることである。特に、本発明の方法は、無負荷付近の条件においても低出力電圧を維持することを可能にする。より一般的には、本発明の方法は、より高価かつ複雑で、より重く大きい能動ハイブリッド電源のものと同じ全体効率で、燃料電池/バッテリ受動型ハイブリッド電源を動作させることを可能にする。
【0016】
さらに、本発明によれば、水素圧力を酸素圧力の70%から130%までの間に維持することにより、本発明の方法が、燃料電池の膜の両端に大きい圧力差が生じるのを回避するものとなり、かつ、水素圧力がより高い特定の場合には、アノードにおける燃料欠乏を回避するものとなることが理解されるであろう。
【0017】
本発明の方法は、燃料電池電圧を、0.70〜0.85ボルト/電池(volts/cell)までの間に対応する範囲に維持することが好ましい。
【0018】
本発明の方法の別の利点は、これにより、蓄積用バッテリが完全に充電された場合でも、正味無出力負荷条件において、ハイブリッド電源を動作させることが可能になることである。事実、反応物の少なくとも1つの圧力を0.7絶対バール 気圧(0.7×105絶対パスカル)より下に低下させることにより、ハイブリッド電源の出力電力を、補助装置に電力供給するのに必要な程度(寄生負荷)まで低下させることが可能になる。
【0019】
本発明の他の特徴及び利点は、単に非限定的な例として与えられ、添付図面を参照してなされた、以下の説明を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の燃料電池スタックの分解図である(従来技術)。
【図2A】概念レベルにおける能動ハイブリッド電源を示すブロック図である(従来技術)。
【図2B】概念レベルにおける受動ハイブリッド電源を示すブロック図である(従来技術)。
【図3】純粋水素及び酸素が供給される燃料電池スタックを含む燃料電池/バッテリ受動ハイブリッド電源の特定の実施形態を示す図である。
【図4】図3の受動ハイブリッド電源のより詳細な機能図である。
【図5A】異なる圧力における高分子電解質燃料電池についての電流/電圧曲線を示す図である。
【図5B】蓄積用バッテリの充電状態(SOC)の関数としての最大及び最小バッテリ電圧を示す図である。
【図6】燃料電池システムと蓄積用バッテリとの間で負荷をどのように共有できるか、及び、具体的には、受動ハイブリッド電源が、バッテリにエネルギー蓄積能力がない場合でも、接続負荷がない動作条件で、どのように燃料電池システムを停止させないで済ますことが可能であるかを一般的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図3に示す受動型ハイブリッド電源の燃料電池スタック1は、水素を燃料として用い、純粋酸素を酸化剤として用いるように設計された種類のものである。このスタック1は、エンドプレート130、140と、エンドプレート130内の水素入口ポート150と、エンドプレート140内の酸素入口ポート155とを含む。スタック1は、それぞれ水素の流れ及び酸素の流れを複数の個別の燃料電池に供給するための水素供給マニホルド160及び酸素供給マニホルド165をさらに含む。
【0022】
各燃料電池に関連する水素及び酸素の流れ場が矢印170及び175で示される。水素排出マニホルド180及び酸素排出マニホルド185は、減損反応物及び反応生成物を、水素出口ポート190及び酸素出口ポート195を通してスタックから除去する。
【0023】
図示のように、燃料電池システムは、水素供給弁110及びエゼクタポンプ113を装備した供給ラインにより、スタックの水素入口150に接続された加圧水素貯蔵容器60を含む。燃料電池スタック1に供給される水素の圧力を測定するために、水素圧力センサ111が、水素入口150近くの供給ライン上に配置される。第1の水素再循環ライン11Rが、スタックの出口ポート190を、供給弁110の下流にある水素供給ラインに接続する。エゼクタポンプ113は、残りの水素を再循環させ、かつ、これを新鮮な水素と混合させるためのものである。
【0024】
同様に、燃料電池システムは、酸素供給弁120及び真空エゼクタポンプ123を装備した酸素供給ラインにより、スタックの酸素入口155に接続された加圧酸素貯蔵容器65を含む。燃料電池スタック1に供給される酸素の圧力を測定するために、酸素圧力センサ121が、酸素入口155近くの供給ライン上に配置される。酸素再循環ライン12Rが、スタックの出口ポート195を、供給弁120の下流にある酸素供給ラインに接続する。エゼクタポンプ123(又はいずれかの適切な種類の真空ポンプ)は、使用済み酸素を再循環させ、かつ、これを新鮮な酸素と混合させるためのものである。
【0025】
図3に示す燃料電池システムのスタックは、第2の水素再循環ライン211Rにより互いに接続された補助水素入口200及び補助水素出口210をさらに含む。ライン211Rには、エゼクタポンプ113を補足するために設けられた補助水素ポンプ213が装備されている。スタック1はまた、第2の酸素再循環ライン212R上に配置された、補助酸素入口205、補助酸素出口215、及び補助酸素ポンプ223も含む。補助ポンプ223は、エゼクタポンプ123を補完するためのものである。
【0026】
図3に示す燃料電池システムは、水分管理手段(図示せず)をさらに含む。水素イオンと酸素イオンの結合により、燃料電池のカソード側に生産水が形成されると、燃料電池のカソード側から生産水を取り去る必要がある。具体的には、溢流を回避するために、水分管理手段は、通常、酸素再循環ライン12R上に配置された気液分離器を含む。水素再循環ライン11R上にも第2の気液分離器が配置されることが好ましい。同時に、電池のアノード側及びカソード側の両方に、膜が乾燥してしまうのを防ぐ量だけ水分を与える必要がある。
【0027】
さらに図3に見られるように、スタック1は、並列に接続されたバッテリ18と関連付けられ、燃料電池/バッテリ受動型ハイブリッド電源を形成して、電気エネルギーを負荷回路17に供給する。蓄積用バッテリ18は、リチウム・イオン・バッテリ・パックであることが好ましい。しかしながら、本発明の他の実施形態によると、いずれかの他の形態の蓄積用バッテリを用いることもできる。ここで図4を参照して、本例の受動型ハイブリッド電源の動作がより詳細に説明される。図3におけるように、参照符号1は燃料電池スタックを指し、符号18は蓄積用バッテリ(蓄電池)を指し、符号17は負荷回路を指す。
【0028】
既に説明したように、燃料電池スタックは、酸素回路52と、水素回路54と、冷却回路56とを含む燃料電池システムの一部である。また、燃料電池システムは、酸素回路、水素回路、及び冷却回路を管理する燃料電池制御装置58も含む。図3に関連して既に説明された圧力センサ(図4には示されていない)とは別に、燃料電池システムは、スタック電流センサ61と、スタック温度センサ62と、少なくとも1つの燃料電池電圧センサ64とを含む。燃料電池制御装置58は、全てのセンサにより与えられたデータを用いて燃料電池システムの動作を管理する。
【0029】
さらに図4を参照すると、符号66は、バッテリ18及び負荷回路17から燃料電池システム14を切り離すために用いられるスイッチを指し、符号67はバッテリ電流センサであり、符号71は負荷電流センサであり、符号13は、図3にも示されるバッテリ電圧センサである。本発明によると、スイッチ66は、燃料電池システムの起動及び停止の際にのみ用いられることが意図される。既述のように、蓄積用バッテリ18及び燃料電池システム14が接続されている限り、これらの電圧は同一である。従って、スイッチ66が閉じている限り、燃料電池電圧センサ64により測定されるスタック電圧及びバッテリ電圧センサ13により測定されるバッテリ電圧は、常に同一である。
【0030】
さらに図4を参照すると、負荷回路17は、駆動段階中はモータとして機能し、回生制動段階中は発電機として機能するように意図される電気機械73で構成されることが分かる。さらに、符号75はモータ電流センサを指し、符号77はモータ電圧センサを指し、符号79はモータ制御装置を指し、符号81は電力変換器を指す。用いられる電気機械の種類に応じて、電力変換器81に用いられる変換器の種類は変わり得る。例えば、モータ73が、パルス幅変調により制御されるDCブラシレス・モータである場合には、電力変換器81は、定常出力電圧を供給するDC/DC変換器となる。対照的に、例えば、電気機械73が同期モータである場合には、電力変換器81は、DC/AC変換器となる。図4はまた、燃料電池制御装置58、モータ制御装置79、並びにスイッチ66を制御する電力管理制御装置85も示す。電力管理制御装置85は、車両のアクセルペダル(図示せず)の位置の関数として及び電気供給システムにおいて一般的な条件の関数として、電力の循環を調節する。
【0031】
燃料電池システム14は、燃料電池制御装置58により制御される。制御装置58は、水素圧力センサ111(図3)及び酸素圧力センサ121(図3)、並びに、燃料電池電圧センサ64から、情報を受け取る。図示した例によると、燃料電池電圧センサは、全体として燃料電池スタック1からの出力電圧を測定する。従って、測定された出力電圧は、スタックにおける全ての個々の燃料電池からの寄与分の合計になる。燃料電池は全て、実質的に同じ動作条件に曝されるため、これらは全てほぼ同じ出力電圧を生じさせる。従って、測定されたスタックの出力電圧を用いて、個々の燃料電池についての推定電圧を計算することができる。しかしながら、個々の電池の出力電圧を別個に測定すること、或いは、スタックの個々の電池を、各々が出力電圧を有する幾つかのグループに分けることも可能である。
【0032】
燃料電池制御装置58(図4)は、水素供給弁110及び酸素供給弁120を調整し、必要に応じて、補助再循環ポンプ213、223の動作を直接制御することにより、燃料電池スタックに供給される水素及び酸素の両方の圧力を制御する。燃料電池制御装置58が燃料電池における反応物の圧力を制御するのを可能にする方法を、ここで詳細に説明する。反応物は、スタック1により供給される電流量に応じた割合で、燃料電池において消費される。負荷の変化がない場合には、燃料電池制御装置が供給弁110、120の一方を開位置に向けて調整すると、供給される水素又は酸素の流れが増大し、燃料電池において消費される水素又は酸素の量を上回る。このことにより、燃料電池のアノード又はカソードにおける圧力もまた上昇する。対照的に、燃料電池制御装置58が供給弁110、120の一方を閉位置に向けて調整すると、供給される水素又は酸素の流れは減少し、燃料電池において消費される水素又は酸素の量を補償するのに十分なものではなくなる。このことにより、燃料電池のアノード又はカソードにおける圧力も低下する。既述のように、本発明によると、燃料電池スタックに供給される水素及び酸素は、それぞれ実質的に純粋な水素及び実質的に純粋な酸素である。この特徴により、燃料電池内に存在する水素及び酸素をほとんど全てを消費することが可能になる。従って、燃料電池のカソード及びアノードにおける圧力を、外部の大気圧よりはるかに低く、ほぼ水蒸気圧まで低下させることが可能である。従って、約60℃の温度で動作する燃料電池スタックの場合には、圧力は0.2絶対バール(0.2×105絶対パスカル)まで低下し得る。
【0033】
燃料電池において「燃料欠乏」として知られる状態を引き起こさないように、水素圧力は、酸素圧力の少なくとも70%、好ましくは、酸素圧力の少なくとも100%であるように注意が払われる。燃料欠乏は、一瞬にとどまらない場合には、燃料電池を劣化させることが知られている。しかしながら、水素圧力が酸素圧力の100%より低い他の動作条件、特に、膜の含水量を増大させることが望ましい場合にも、利点をもたらし得る。さらに、燃料電池のアノードとカソードとの間に大きい圧力差が生じるのを回避するために、酸素圧力に従うように、水素圧力を調整することが好ましい。いずれにしても、水素圧力は、酸素圧力の+/−30%の範囲内に制限される。
【0034】
図5Aは、約60℃の温度及び6つの異なる圧力(2.5絶対バール(2.5×105絶対パスカル)、1.5絶対バール(1.5×105絶対パスカル)、1絶対バール(1×105絶対パスカル)、0.62絶対バール(0.62×105絶対パスカル)、0.4絶対バール(0.4×105絶対パスカル)、0.22絶対バール(0.22×105絶対パスカル))で動作する高分子電解質燃料電池についての分極曲線(251−256で参照される電流/電圧曲線)を示す図である。図5Aは、燃料電池の定常動作電圧に対して(又は、換言すれば、関連した蓄積用バッテリの定電圧に対して)、電流が圧力に従って著しく変化し、これにより、燃料電池により与えられる電力の調整が可能になることを示す。実際には、図5Aの曲線から、0.85ボルトの定常動作電圧において、スタックが2.5バール(2.5×105パスカル)ではなく、0.4バール(0.4×105パスカル)の圧力で動作されると、出力電力は、ほぼ10分の1に低下すると計算することができる。本例は、空気の代わりに、ほぼ純粋な酸素ガスが供給される燃料電池システムを用いる利点の1つを示す。実際に、空気は、窒素が豊富なガスであり、窒素の存在により、動作圧力を周囲より大幅に低くすることが、より困難になる。
【0035】
図5Bは、バッテリの充電状態(SOC)の関数として、蓄積用バッテリ電圧の最小値および最大値を示す図である。周知のように、所与のSOCにおけるバッテリの閉回路電圧は、開回路電圧(OCV)及びバッテリを通る電流の流れに起因する電圧損失の両方により定められる。図5Bは、所与のSOCにおけるバッテリについての最大許容電圧が、最大許容充電電流と関連した電圧損失をOCVに付加することによって定められることを示す。同等の方法により、最小許容電圧は、OCVから、最大許容放電電流と関連した電圧損失を差し引くことによって定められる。当然、最大充電電流及び放電電流の両方とも、SOCの関数である。特に、SOCが最大使用可能充電量の100%である場合、最大許容充電電流はゼロであり、SOCが最大使用可能充電量の0%である場合には、最大許容放電電流はゼロである。図5Bの影付き領域は、許容バッテリ動作領域に対応する。
【0036】
既述のように、蓄積用バッテリ及び燃料電池スタックは直接接続されているため、これらの電圧は同一である。従って、燃料電池スタックの出力電圧はバッテリのOCVを上回り、出力電圧がさらに上昇する場合には、スタックによりバッテリに供給される充電電流もまた増大する。反対に、スタックからの出力電圧がバッテリのOCVを下回り、出力電圧がさらに低下する場合には、バッテリにより供給される放電電流が増大される。換言すれば、蓄積用バッテリは、スタックに接続される総負荷電力の変動を制限するバッファとして働く。蓄積用バッテリ及びスタックは、同じ電圧を共有するため、OCVが、既述した安全上限値と安全下限値の間隔内にある平均燃料電池電圧に対応するように、蓄積用バッテリのサイズを選択すべきであることが理解されるであろう。本例においては、高電池電圧及び低電池電圧にならないことを保証するための安全限度は、それぞれ0.90ボルト及び0.65ボルトである。OCVに対応する平均燃料電池電圧は、蓄積用バッテリの仕様に応じて、バッテリのあらゆる許容SOCについての、すなわち、最大使用可能充電量の0%に対応するSOCと最大使用可能充電量の100%に対応するSOCの間隔におけるバッテリのあらゆるSOCについての、前述の安全上限値と安全下限値との間にとどまることが好ましい。
【0037】
燃料電池制御装置58は、水素供給弁110及び酸素供給弁120を部分的に又は完全に閉じることにより、燃料電池スタックに供給される反応物ガスの圧力を低下させるように配置される。しかしながら、供給弁110又は120のいずれかが完全に又はほとんど閉じられた場合、対応するエゼクタポンプ113又は123は役に立たなくなり、再循環ライン11R又は12Rを通る使用済みガスの流れが停止する。かかる状況においては、供給マニホルド(160又は165)と排気マニホルド(180又は185)における圧力が均等になる傾向があり、流れ場170又は175に沿って反応物ガスを駆動するのに必要な圧力降下がなくなる。供給弁110又は120が閉じたときでも、燃料電池スタックが動作し続けるのを可能にするように、制御ユニット15は、対応する補助ポンプ213又は223を作動させる。ポンプ213又は223のいずれかが動作している場合は、排気マニホルド180又は185に存在する残りの反応物ガスを、対応する供給マニホルド160及び165に再注入する。補助ポンプ213及び223の使用により、供給マニホルドと排気マニホルドとの間に必要な圧力差を維持することが可能になる。
【0038】
上述のように、本発明の方法が実施される受動型ハイブリッド電源の燃料電池システムは、電子制御部と、燃料電池制御装置により制御される供給弁110、120と、ポンプ213、223と、気液分離器とを含む。燃料電池システムはまた、水ポンプを用いる冷却回路56も含み、場合によっては、電気加熱手段を含むこともできる。全てのこれらの要素等は、補助装置と呼ばれるものを形成する。これらの補助装置は、動作のために電気を必要とし、一般に、燃料電池システムの寄生負荷と呼ばれるものを構成する。従って、燃料電池システムが動作しているときは、アイドリング状態にあるとき(すなわち、接続負荷がない動作条件にあるとき)でさえも、電力需要が決してゼロになることはない。本例においては、寄生負荷電力についての現実的な数値は、約600ワットである。
【0039】
図6は、燃料電池システムと蓄積用バッテリとの間で、負荷をどのように共有できるかを示す図である。図の中心にある水平線は、完全に充電されたバッテリ(SOC=100%)の等電力線である。ほぼ垂直方向の細い線は、燃料電池スタックの等電力線である。図の左にあるほぼ垂直の太い線は、600ワットに対応する等電力線である(寄生負荷電力)。図6は、燃料電池における反応物の圧力を制御することにより、蓄積用バッテリの充電状態が既に100%であるときでも、高電池電圧を回避しながら低出力負荷条件に対処することが可能であることを示す。実際には、図は、完全充電バッテリについてのOCVが、0.85ボルト/電池に対応することを示す。燃料電池電圧を一定に維持しながら、燃料電池における圧力を0.5バール(0.5×105パスカル)まで低下させた場合、燃料電池スタックにより生成される電力量は、約300ワットまで減少される。この場合、蓄積用バッテリからさらに300ワットを引き出し、補助装置の需要を満たさなければならない。別の可能性は、スタックが600ワットの電力を生成するまで、圧力をわずかに上昇させることである。
【0040】
さらに図6を参照すると、2.5バール(2.5×105パスカル)の線と600ワットの等電力線との交点における動作点が、ほぼ1ボルトの燃料電池電圧に対応することに気づくであろう。換言すれば、受動ハイブリッド電源においては、動作圧力を低下させずに、高電池電圧を回避することはできない。つまり、図6は、本発明が、バッテリにおいてエネルギー蓄積能力がない場合でも、接続負荷がない動作条件で、いかにして燃料電池システムを停止させずに済ますことが可能であるかを示す。
【符号の説明】
【0041】
1 燃料電池スタック; 11R 第1の水素再循環ライン;
12R 酸素再循環ライン; 13 バッテリ電圧センサ;
15 制御ユニット; 17 負荷回路; 18 蓄積用バッテリ;
52 酸素回路; 54 水素回路; 56 冷却回路; 58 燃料電池制御装置;
60 加圧水素貯蔵容器; 61 スタック電流センサ;
62 スタック温度センサ; 64 燃料電池電圧センサ;
65 加圧酸素貯蔵容器; 66 スイッチ; 67 バッテリ電流センサ;
71 負荷電流センサ; 73 電気機械; 75 モータ電流センサ;
77 モータ電圧センサ; 79 モータ制御装置; 81 電力変換器;
85 電力管理制御装置; 110 水素供給弁; 111 水素圧力センサ;
113、123 エゼクタポンプ; 120 供給弁; 121 酸素圧力センサ;
130、140 エンドプレート; 150 水素入口ポート;
155 酸素入口ポート; 160 水素供給マニホルド;
165 酸素供給マニホルド; 170 水素流れ場; 175 酸素流れ場;
180 水素排出マニホルド; 185 水素排出マニホルド;
190 水素出口ポート; 195 酸素出口ポート; 200 補助水素入口;
205 補助酸素入口; 210 補助水素出口;
211R 第2の水素再循環ライン; 215 補助酸素出口;
223 補助酸素ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変負荷に並列に接続されたPEM燃料電池システムと蓄積用バッテリとを含み、前記PEM燃料電池システムが、直列に接続された複数の個々のPEM燃料電池と、制御可能な水素再循環ポンプ及び制御可能な酸素再循環ポンプとを含む、受動型ハイブリッド電源を、接続負荷がない条件又は接続負荷がない条件付近で動作させる動作方法であって、
水素の流れを前記燃料電池のアノードに供給し、
酸素の流れを前記燃料電池のカソードに供給し、
前記蓄積用バッテリにより供給される電流を監視し、
前記燃料電池及び前記バッテリにより共有される出力電圧を監視し、
前記電流及び前記出力電圧に基づいて、前記バッテリの充電状態(SOC)を評価し、
前記燃料電池における水素圧力を監視し、
前記燃料電池における酸素圧力を監視し、
水素の流れ及び酸素の流れを制限し、前記水素及び酸素再循環ポンプを作動させ、前記水素圧力を前記酸素圧力の70%から130%までの間に維持しながら、該水素圧力及び該酸素圧力が0.7絶対バール(0.7×105絶対パスカル)を下回りこれを維持するようにし、前記出力電圧が0.90ボルト/電池より低い値に対応するレベルに維持され、前記バッテリの最大電圧限度を上回らないことを確実にする、
ステップを含むことを含むことを特徴とする動作方法。
【請求項2】
前記方法は、前記出力電圧が0.70ボルト/電池から0.85ボルト/電池までに対応するレベルにとどまるように、前記水素の流れ及び前記酸素の流れを調整するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の動作方法。
【請求項3】
前記蓄積用バッテリは、前記バッテリの前記充電状態が50%であるときに、0.75ボルト/燃料電池から0.80ボルト/燃料電池までに対応する開回路電圧を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の動作方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−103300(P2011−103300A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−251555(P2010−251555)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(510010894)ベレノス・クリーン・パワー・ホールディング・アーゲー (18)
【Fターム(参考)】