説明

燃料電池

【課題】 燃料電池の向きに関らず液体燃料を均一に流通させることができると共に、発電性能の向上、燃料のクロスオーバーによる損失の低減、燃料電池の小型化に寄与することができる燃料電池を提供する。
【解決手段】 空気極層21、電解質層22及び燃料極層23を有する発電セル20と、該発電セル20と液体燃料を貯留する燃料貯留体10とを接続する液体燃料供給体30とを少なくとも備える燃料電池Aであって、前記液体燃料供給体30は、少なくとも、液体燃料を誘導し得る毛管力を有する有底の断面形状の流路を備えた燃料誘導体部31と、疎水性面と親水性面を有する多孔質体部35との積層体から構成されていることを特徴とする燃料電池A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料を使用する燃料電池に関し、更に詳しくは、所謂、パッシブ型の燃料電池における発電性能の向上、燃料のクロスオーバーによる損失の低減、燃料電池の小型化に寄与することができる燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池は、空気電極層、電解質層及び燃料電極層が積層された燃料電池セルと、燃料電極層に還元剤としての燃料を供給するための燃料供給部と、空気電極層に酸化剤としての空気を供給するための空気供給部とからなり、燃料と空気中の酸素とによって燃料電池内で電気化学反応を生じさせ、外部に電力を得るようにした電池であり種々の形式のものが開発されている。
【0003】
近年、環境問題や省エネルギーに対する意識の高まりにより、クリーンなエネルギー源としての燃料電池を、各種用途に用いることが検討されており、特に、メタノールと水を含む液体燃料を直接供給するだけで発電できる燃料電池が注目されてきている(例えば、特許文献1〜3参照)。
これらの中でも、液体燃料の供給に毛管力を利用した各液体燃料電池等が知られている(例えば、特許文献4及び5参照)。
これらの各特許文献に記載される液体燃料電池、所謂、パッシブ型燃料電池は、発電セルに燃料を毛管力によって供給する方式であるため、燃料供給用のポンプやバルブ等を設ける必要が無く、発電機の小型化が期待できる燃料供給方式である。
本願出願人は、液体燃料、及び、発電セルを通過した排燃料の輸送に、多孔体及び/又は繊維束体(ウイッキング材)の毛管力を利用した燃料電池用の液体燃料輸送方法等について具体的な例示を行っている(例えば、特許文献6〜11参照)。
【0004】
このようなパッシブ型燃料電池の燃料を供給する部材には、布、不織布、粒子焼結体、繊維束、発泡スポンジ等の多孔質体からなるウィッキング材を用いることが一般的である。これらの材料は、気孔率と孔径を調節することで毛管力を変化させることができるものであるが、流路が狭く、複雑に入り組んでいるため、送液の抵抗となり、圧損が生じ、燃料の輸送速度が低いという点に課題がある。
【0005】
また、燃料電池の発電出力が高まると、消費される燃料の量も多くなるため、より燃料輸送速度が高い材料が必要であった。ウィッキング材の厚みを増やすことで、燃料輸送量を高めることができ、燃料輸送速度が高まるが、例えば、初回使用時等、ウィッキング材に燃料が無い状態では、より多くの燃料をウィッキング材に供給しなければ、発電セル全体に燃料を供給できないという点に課題がある。
更には、上記のようなウイッキング材を用いた燃料電池においては、製造に際して、ウイッキング材を配置させる工程が必要となり、ウイッキング材そのものに関する材料費が必要となる。
このようにウイッキング材を用いた燃料電池は、製造コストについての不利な条件も予想される。
【0006】
このような課題に対し、本発明者らは、多孔質炭素板の毛管力を利用し、多孔質炭素板を燃料電池の支持体、集電体、液供給及びガス排出媒体とする従来にない特性、機能を有する燃料電池を提案している(例えば、特許文献12参照)。
しかしながら、この構造の燃料電池において、燃料溶液を吸い上げて、電極面に沿って液体燃料を供給する場合、電極面積が広くなると電極面上における燃料濃度や液供給速度に大きな分布が生じ、電極面全体を発電に有効に活かせない場合がある。また、電極面全体に燃料用液を確保するために多孔質板の厚さが比較的厚くなる結果、電池全体の容積が増え、燃料電池パッケージの小型化に不利になる。更に、メタノール等の液体燃料のクロスオーバーにより燃料の一部が損失してしまうことがあり、非発電時において制御することができないなどの若干の課題がある。
【特許文献1】特開平5−258760号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開平5−307970号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2001−313047号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開平6−188008号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開2001−93551号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開2004−63200号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献7】特開2005−216817号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献8】特開2005−216818号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献9】特開2005−216819号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献10】特開2005−216820号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献11】特開2005−216821号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献12】特開2005−251715号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来のパッシブ型の燃料電池における液体燃料供給システムにおける課題及び現状に鑑み、これを解消するためになされたものであり、液体燃料を均一に供給することによる発電性能の向上、燃料のクロスオーバーによる損失の低減、燃料電池の小型化に寄与することができる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来の課題等について、鋭意検討した結果、少なくとも空気極層、電解質層、燃料極層を備える発電セルと、少なくとも前記発電セル及び液体燃料を貯留する燃料貯留体とを接続する液体燃料供給体を備える燃料電池において、前記燃料供給体の構造を特定構造等とすることにより、上記目的の燃料電池が得られることに成功し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(18)に存する。
(1) 空気極層、電解質層及び燃料極層を有する発電セルと、該発電セルと液体燃料を貯留する燃料貯留体とを接続する液体燃料供給体とを少なくとも備える燃料電池であって、前記液体燃料供給体は、少なくとも、液体燃料を誘導し得る毛管力を有する有底の断面形状の流路を備えた燃料誘導体部と、疎水性面と親水性面を有する多孔質体部との積層体から構成されていることを特徴とする燃料電池。
(2) 前記燃料誘導体部の流路において、有底の断面形状の流路の断面線長をL1、有底の断面形状の流路部分の断面積をs1、液体燃料の比重をρ1、液体燃料の表面張力をγ1、液体燃料と流路表面との接触角をθ1、重力加速度をgとした場合、前記燃料供給板部の流路の長さh1が下記式(I)で表される範囲の流路を備えてなる上記(1)に記載の燃料電池。
h1≦(L1×γ1×cosθ1)/(s1×ρ1×g) ………(I)
(3) 前記燃料誘導体部の流路の断面形状が、長方形の一辺を欠いた形状の有底の断面形状の流路である上記(1)又は(2)に記載の燃料電池。
(4) 前記燃料誘導体部の流路の一部が、管状である上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の燃料電池。
(5) 前記燃料誘導体部の流路表面を親水化処理してなる上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の燃料電池。
(6) 前記親水化処理がプラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、レーザー処理の何れか一つから選ばれる上記(5)に記載の燃料電池。
(7) 前記燃料誘導体部のうち、流路表面以外の部分を疎水処理してなる上記(1)〜(6)の何れか一つに記載の燃料電池。
(8) 前記燃料誘導体部の流路の一部に、渦巻き型の流路、波型の流路及びつづら折状の流路の何れか一つを有する上記(1)〜(7)の何れか一つに記載の燃料電池。
(9) 前記多孔質体部の親水性面と接する燃料誘導体部が渦巻き型の流路面、若しくは波型の流路面、又はつづら折状の流路面である上記(8)に記載の燃料電池。
(10) 前記燃料誘導体部及び/又は多孔質体部が、炭素材料、ガラス材料、セラミックス材料、高分子材料から選ばれる少なくとも1種から構成される上記(1)〜(9)の何れか一つに記載の燃料電池。
(11) 前記燃料供給体は、平板状である上記(1)〜(10)の何れか一つに記載の燃料電池。
(12) 前記燃料供給体の厚さが、0.05〜30mmである上記(1)〜(11)の何れか一つに記載の燃料電池。
(13) 前記燃料極層と、前記燃料供給体との間に多孔質体層を設けた上記(1)〜(12)の何れか一つに記載の燃料電池。
(14) 前記多孔質体層がガス排出層を兼ねる上記(13)に記載の燃料電池。
(15) 前記多孔質体層の厚さは、0.05〜5mmである上記(13)又は(14)に記載の燃料電池。
(16) 前記多孔質体層は、炭素材料、ガラス材料、セラミックス材料、高分子材料から選ばれる少なくとも1種から構成される上記(13)〜(15)の何れか一つに記載の燃料電池。
(17) 前記多孔質体層には、少なくとも孔径50μm以下の孔が形成されている上記(13)〜(16)のいずれか一つに記載の燃料電池。
(18) 前記燃料貯留体から、前記発電セルに至る液体燃料供給体上の何れかの部分に燃料供給の遮断機構を設けた上記(1)〜(17)の何れか一つに記載の燃料電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料電池の向きに関らず液体燃料を均一に流通させることができると共に、発電性能の向上、燃料のクロスオーバーによる損失の低減、燃料電池の小型化に寄与することができる燃料電池が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照しながら、詳しく説明する。
図1〜図4は、本発明の実施形態の一例となる燃料電池を示すものであり、図1(a)は、燃料電池の要旨を示す縦断面図、(b)はその横断面図、図2(a)は、燃料誘導体部の基本形態の平面図、(b)は(a)のx−x線での横断面図、図3(a)は、多孔質体部の表面側の平面図、(b)は多孔質体部の裏面側の平面図、(c)は多孔質体部の縦断面図、図4は、燃料誘導体部と多孔質体部とを積層して燃料供給体とした基本形態の平面図である。
【0012】
本実施形態の燃料電池Aは、図1(a)及び(b)に示すように、液体燃料を貯留する燃料貯留体10と、空気極層、電解質層及び燃料極層を有する発電セル20と、該発電セル20と液体燃料を貯留する燃料貯留体10とを接続する液体燃料供給体30とを少なくとも備えるものであり、前記液体燃料供給体30は、少なくとも、液体燃料を誘導し得る毛管力を有する有底の断面形状の流路を備えた燃料誘導体部31と、疎水性面と親水性面を有する多孔質体部35との積層体から構成されているものである。
【0013】
液体燃料を貯留する燃料貯留体10としては、例えば、カートリッジ容器内に直接液体燃料が充填され、カートリッジ容器の端部に設けられた弁体及び燃料誘導部材により燃料供給体30を構成する燃料誘導体部31の流路32の入り口部に液体燃料を供給する構造となるもの、または、カートリッジ容器内に液体燃料を吸蔵する吸蔵体が収容され、カートリッジ容器の端部に設けられた燃料誘導部材により燃料供給体30を構成する燃料誘導体部31の流路32の入り口部に液体燃料を供給する構造となるものが挙げられ、燃料誘導体部31に液体燃料を供給することできる燃料貯留体であれば、特にその構造は限定されない。
【0014】
また、燃料貯留体10に収容等する液体燃料としては、メタノールと水とからなるメタノール水溶液が挙げられるが、後述する発電セルの燃料極層において燃料として供給された化合物から効率良く水素イオン(H+)と電子(e-)が得られるものであれば、液体燃料は特に限定されず、燃料極層の構造などにもよるが、メタノール水溶液の他に、例えば、ジメチルエーテル(DME)、エタノール水溶液、ギ酸、ヒドラジン、アンモニア液、エチレングリコール、水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの液体燃料も用いることができる。
また、これらの液体燃料の濃度は、燃料電池の構造、特性等により種々の濃度の液体燃料を用いることができ、例えば、1〜100%濃度の液体燃料を用いることができる。
【0015】
用いる発電セル20は、後述する燃料供給体30の多孔質体部35上に配置されるものであり、下面側から燃料極層21、電解質層22、空気極層23が順次積層されたものである。燃料極層(燃料電極体)21は、例えば、三次元網目構造若しくは点焼結構造よりなり、アモルファス炭素と炭素粉末とで構成される炭素複合成形体、等方性高密度炭素成形体、炭素繊維抄紙成形体、活性炭素成形体などを用いることができる。また、この燃料極層21の外表面部には、白金−ルテニウム(Pt−Ru)触媒、イリジウム−ルテニウム(Ir−Ru)触媒、白金−スズ(Pt−Sn)触媒などが当該金属イオンや金属錯体などの金属微粒子前駆体を含んだ溶液を含浸や浸漬処理後還元処理する方法や金属微粒子の電析法などにより形成されている。
【0016】
電解質層(電解質膜)22としては、プロトン伝導性又は水酸化物イオン伝導性を有するイオン交換膜、例えば、ナフィオン(Nafion、Du pont社製)を初めとするフッ素系イオン交換膜が挙げられる他、耐熱性、メタノールクロスオーバーの抑制が良好なもの、例えば、無機化合物をプロトン伝導材料とし、ポリマーを膜材料としたコンポジット(複合)膜、具体的には、無機化合物としてゼオライトを用い、ポリマーとしてスチレン−ブタジエン系ラバーからなる複合膜、炭化水素系グラフト膜などが挙げられる。
また、空気極層23としては、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等を上述の金属微粒子前駆体を含んだ溶液等を用いた方法で担持させた多孔質構造からなる炭素多孔体が挙げられる。
【0017】
本実施形態の燃料供給体30は、前記燃料貯留体10から誘導された液体燃料を発電セル20の燃料極層21に供給する機能を有するものであり、液体燃料を誘導し得る毛管力を有する有底の断面形状の流路32を備えた燃料誘導体部31と、疎水性面36と親水性面37を有する多孔質体部35との積層体から構成されている。
上記燃料誘導体部31の流路32は、燃料誘導体部31の表面側に、有底の断面形状となるスリット溝からなる流路であって、該流路32は液体燃料を誘導し得る毛管力を有する構造となっている。具体的には、図2(a)及び(b)に示すように、燃料誘導体部31には、中央下端部より4本の直線状の流路32を有し、夫々、燃料入り口部となる起点流路32a、直線流路32b、長方形渦巻き状とした渦巻き流路32cとを有するものであり、更に、終点流路32dを一体に備えたものであり、渦巻き流路32c以外は、角部を有する直線状の流路となっている。この4本の流路32は、燃料誘導体部31上でほぼ均等に四分割されたその領域面において液体燃料が進行するように形成されている。
【0018】
前記各流路32の毛管力は、始点流路32aから終点流路32dに向かうにつれ、大きくなるように設定することで、液体燃料の流れを始点流路32aから終点流路32dの方向へ流れるようにすることができる。本実施形態の場合、流路の断面線長Lを32a>32b>32c>32dと徐々に小さくするように成形させることによって、毛管力を始点流路32a部分から終点流路32d部分へ大きくなるように成形したものである。
本発明において、「流路32の断面線長L」とは、前記燃料誘導体部31を流路32に直角な断面図、例えば、図2(b)の場合、流路を構成する壁面、底面と前記断面との交線の長さを合計したものである。
【0019】
この流路32の断面形状としては、図2(b)に図示したような長方形の一辺を欠いた「コの字」型はもちろんのこと、「U字型」、「V字型」、台形の一辺を欠いた形状など、毛管力を有する「有底の形状」であれば何ら制限されるものではない。
【0020】
本実施形態では、流路32の毛管力を流路の断面線長Lによって制御しているが、毛管力を流路壁面の液体燃料に対する濡れ性(接触角:θ)などを適宜設定して制御することもできる。実際の流路の設計においては、これらの制御方法を適宜組合せながら、毛管力を制御することができる。
例えば、液体燃料の流れの「上流」の流路(即ち始点流路32a近傍)に撥水処理を施し、「下流」の流路(即ち終点流路32d近傍)に親水化処理を施すことなどによって、適宜液体燃料の流れを制御することができる。
流路32内及び燃料誘導体部31表面は、上記したような理由に応じて、親水化処理、疎水処理を施すことができる。流路32内部へ親水化処理を施すことで、流路32の毛管力を高め、燃料輸送速度を更に高めることができる。
【0021】
親水化処理の方法としては、例えば、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、レーザー処理、電子線による処理、イオン注入法による処理、イオンビームによる処理、イオン照射による処理等を、加工を施す場所や希望する親水化度に応じて適宜採用することができる。
特に、レーザー処理、電子線による処理、イオン注入法による処理、イオンビームによる処理、イオン照射による処理としては、出力調整されたレーザー光や電子ビーム等を流路41内を走査させる要領で照射して処理することが挙げることができるが、特に限定されない。
【0022】
好ましい親水化処理の方法としては、作業効率性、確実な親水化処理の点から、レーザー処理が望ましい。用いるレーザー照射処理としては、流路32の所定の表面部、例えば、レーザー処理部が少なくとも流路面の一部又は全部に、親水性官能基形成増加と表面の粗さRaが50μm未満となる凹凸部、好ましくは、表面の平均粗さRaが30μm未満となる凹凸部、更に好ましくは、表面の粗さ平均Raが0.3〜7μmとなる凹凸部を形成できるレーザー照射であれば、特に限定されず、例えば、YAGレーザー、炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、アルゴンレーザー、ルビーレーザー、ガラスレーザーなどが挙げられる。好ましくは、発振波長、汎用性の点からYAGレーザーが望ましい。
レーザー照射処理は、流路32の所定の表面部、例えば、少なくとも流路面の一部又は全部に、−OH基,−COOH基、>C=O基などの少なくとも1つ以上の親水性官能基を効率良く形成増加せせる点、経済性の点から、室温下(25℃)空気雰囲気中、若しくは、少なくとも酸素を含むガス雰囲気中で行うことが好ましい。また、室温下以上の加湿状態で行ってもよいものである。
【0023】
レーザー照射条件は、流路32の所定の表面部に、例えば、少なくとも流路面の一部又は全部に、親水性官能基の形成増加と表面の平均粗さRaが50μm未満となる凹凸部が形成できる照射量であれば、特に限定されるものではなく、燃料供給体の原材料種、大きさ、形状等により変動するものであるが、YAGレーザーなどを用いた場合、3〜15Wの間での出力調整、レーザースキャン速度の調整、レーザーパルス幅の調整、焦点距離によるレーザースポット径若しくはエネルギー密度の調整(およそ、103〜106W/cm2)、レーザー照射パターンの調整等の任意の条件調整を行うことで、目的の親水性官能基の形成増加と表面の平均粗さRaが50μm未満となる凹凸部が形成できるものとなる。
なお、上記3〜15Wの間での出力調整は、レーザーの仕様、照射条件等により変動し一概には言えないが、出力が3W未満であると、親水官能基の形成増加が困難となり、また、処理に要する時間が増大したり、経時的にも親水性官能基の固定機能を発揮できないことがある。一方、出力が15Wを超える照射であると、照射量が多大となり、照射部を深く削ることとなるので、目的の親水性官能基の形成増加と凹凸部を形成することができず、しかも、流路表面、あるいは、流路面の寸法精度が問題となり、燃料電池の性能が不安定となる。
【0024】
また、上記親水化処理とは別に、流路32以外の燃料誘導体部31の表面を疎水化処理、例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン−コ−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)や、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂などでコーティングする方法が挙げられる。このような処理をすることで、燃料の流路32からの漏れを防止することができる。
【0025】
更に、図2(b)に示すように、本実施形態の流路32は、有底の断面形状となるスリット溝から構成されている。本実施形態の液体燃料誘導体部31では、流路32が開放されている面に後述するように、多孔質体部35が重ね合わされるように配置され、液体燃料を多孔質体部35へ供給することができる。このため、閉じられた側から、液体燃料の漏洩や蒸発の蒸発が無く、燃料の流通が管理しやすい。
【0026】
本実施形態では、図2(a)及び(b)において、流路の幅a、流路の深さb(合わせて流路の断面線長Lによって代表する)は、燃料誘導体部31を直立させた時でも燃料を供給できる毛管力を付与できるように制御することができる。
即ち、前記燃料誘導体部31の流路32において、有底の断面形状の流路の断面線長をL1、有底の断面形状の流路部分の断面積(スリットのすりきり断面積)をs1、液体燃料の比重をρ1、液体燃料の表面張力をγ1、液体燃料と流路表面との接触角をθ1、重力加速度をgとした場合、流路の長さ(スリット入り口と発電セルまでの距離)hが下記式(I)で表される範囲の流路を備えていることが好ましい。
h≦(L1×γ1×cosθ1)/(s1×ρ1×g) ………(I)
【0027】
本実施形態の液体燃料として、例えば、メタノール水溶液を使用した場合、メタノール濃度別の表面張力及び比重と、計算上の流路32の幅を下記表1に示す。
ここでは、燃料電池を利用する電子機器との高低差を10cmとし、液体燃料の貯蔵部を床に置いたものとした(即ちh=0.1m)。また、接触角の測定には、協和界面科学株式会社製接触角計CA−Xを用いて、親水化処理を施したものを用いた場合、全ての測定値が20°以下であったことをから、cosθ≒1とした。更に、スリットの断面形状を図2(b)に示すような「幅」=「深さ」の「コの字型」であると仮定して、L1=3a,s1=a2で近似的な計算を行った。
h≧0.1mより、
h=(3a×γ1×cosθ1)/(a2×ρ1×g)から、a=3γ1/0.98ρ1
メタノール濃度0%(即ち水)を記載したのは、発電時、燃料電池の燃料極を予め水で湿潤させる必要があるなど、水用のスリット溝を作らねばならない場合があるからである。
【表1】

【0028】
逆に、スリットが毛管力で吸い上げることができる高さH(H≧h)は、
H×a×b×ρ1×g=〔2(a+b)〕×γ1×cosθ1より
H=〔2(a+b)×γ1×cosθ1〕/(a×b×ρ1×g)
と、スリットの幅及び深さ等の数値から吸い上げのできる高さが計算することができる。ここでは試算は省略する。なお、液体燃料として、メタノール水溶液以外の燃料、例えば、ジメチルエーテル(DME)、エタノール水溶液、ギ酸、ヒドラジン、アンモニア液、エチレングリコール、水素化ホウ素ナトリウム水溶液などを使用した場合も、各燃料の濃度別の表面張力及び比重を算出すれば、同様に、最適となる流路32の幅を上記表1のメタノール水溶液と同様に示すことができる。
【0029】
より実施的には、液体燃料貯留体10は、電子機器(燃料電池本体)の、さらに近傍に置かれることが多いと考えられ、貯留部10と発電セル20の高低差がほとんど無い場合も考えられるから、上記表1に記載したよりも大きなスリットとすることが可能である。例えば、h=5mmとして純メタノールを燃料として使用する場合を考えると、スリット溝幅は1.74×10-3mと計算できる。
【0030】
上記の計算値に加え、様々な要素を加味して、実際のスリット溝幅aを検討すると、0.01〜2.00mmが好ましく、発電部の大きさによって最適値を設計できる。スリット溝の幅が0.01mm未満であると、輸送できる燃料の絶対量が少なくなり、2.00mmよりも大きいと、必要な毛管力を付与できない可能性がある。
【0031】
また、スリット溝の深さについても、発電部となる発電セル20の大きさによる等、様々な要素を加味して最適値を設計検討できる。実際のスリット溝深さは、0.01〜5.00mmが好ましい。スリット溝の深さが0.01mm未満であると、輸送できる燃料の絶対量が少なくなり、5.00mmよりも大きいと、燃料供給部材の厚みを大きくしなければならなくなり、燃料電池の小型化に適さなくなる。
【0032】
更には、スリット溝の断面線長Lを検討すると、上記好ましい「幅」の3倍程度、0.03〜6.00mmが好ましいことが推察される。実際的にも0.03mm未満であると、輸送できる燃料の絶対量が少なくなり、6.00mmよりも大きいと、燃料供給部材自体を大きくしなければならなくなり、燃料電池の小型化に適さなくなる。
【0033】
前記燃料誘導体部31を構成する基板材料としては、流通させる液体燃料に浸食されず、液体燃料が浸透しない緻密体である材料であれば、特に限定されず、いろいろなものが使用できる。例えば、有機高分子樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)などの高分子材料、各種炭素材料、セラミック材料、金属材料、ガラス材料、木材、岩石、セメント、粘土およびその焼成物などが挙げられるが、加工のしやすさ、扱いやすさなどの点から有機高分子樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など)、各種炭素材料、金属が好ましい。
前記炭素材料の素材としては、例えば、ガラス状炭素、等方性炭素材、黒鉛粉末〔高配向性熱分解黒鉛(HOPG)、キッシュ黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛、フラーレンを含む〕、炭素繊維〔気相成長炭素繊維、PAN系炭素繊維、黒鉛繊維を含む〕、カーボンナノチューブ、膨張黒鉛シート等が挙げられる。また、これらの材料を適宜組み合わせて構成してもよいものである。
この燃料誘導体部31の厚さとしては、必要量の燃料液を供給するための溝を有しつつ、装置の小型化を可能にするという点から、0.05〜30mm、好ましくは、0.1〜2mm程度とすることが望ましい。
【0034】
前記多孔質体部35は、好適な厚さ、気孔率、細孔径分布を有し、内部に液体燃料を浸透する機能を有する材料からなる多孔質部材から構成されており、燃料誘導体部31と重ね合わされる面(図1では裏面側)には、図3(a)に示すように、ある設定した領域、本実施形態では多孔質体部35面上に略均等に四分割された領域に親水性面36,36…と、該親水性面36以外を疎水性面37に区分けされている。この疎水性面37の表面からは液体燃料は浸透しにくい構成となっており、親水性面36から液体燃料が浸透する構成となっている。
前記多孔質体部35の設定領域を親水性面36,36…とする方法としては、多孔質体部35自体が親水性となる場合には、そのままの状態で使用でき、更に、親水性面を増強する場合又は親水性面とする場合は、上述の燃料誘導体部31での親水化処理方法(例えば、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、レーザー処理、電子線による処理、イオン注入法による処理、イオンビームによる処理、イオン照射による処理等)により設定領域を親水性面とすることができ、好ましくは、作業効率性、確実な親水化処理の点から、上述の照射条件でのレーザー処理、特に、YAGレーザー処理により行うことが望ましい。
また、前記多孔質体部35の設定領域を疎水性面37とする方法としては、上述の燃料誘導体部31での疎水化処理方法〔例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン−コ−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)や、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、トリメトキシフルオロアルキルシランなどでコーティングする方法〕により行うことができる。
なお、上記多孔質体部35自体が親水性となる場合には、上記疎水化処理により設定領域を疎水性面37とすることにより、多孔質体部35に親水性面36と疎水性面37を形成することができることとなる。
【0035】
また、多孔質体部35の他方の面(図1では表面側)は、親水性面、疎水性面のどちらでもよく、液体燃料の濃度、例えば、メタノール水溶液の濃度が非常に濃い場合は、疎水性面とすることが望ましい。なお、親水性面、疎水性面とする方法としては、上述の親水化処理、疎水化処理等により行うことができる。
更に、この多孔質体部35の面には、図3(b)及び(c)に示すように、電極での生成ガスである二酸化炭素の排出用のスリット溝38を形成することが望ましい。スリット溝38としては、幅0.1〜5mm、深さ0.1〜5mmのスリット溝を、溝間隔0.1〜10mmで形成することが望ましい。このスリット溝38は、図3(b)及び(c)に示すように、多孔質体部35の横方向を横断せしめることにより、生成ガスを多孔質体部35外(外気)に排出することができるものとなる。なお、スリット溝は、多孔質体部35の縦方向を縦断せしめるものであってもよく、そのスリット溝38の本数も適宜形成することができ、幅1mm、深さ1mmで、多孔質体長さ1cmあたり2〜8本程度形成することが望ましい。
【0036】
この多孔質体部35は、浸透させる液体燃料に浸食されず、液体燃料が浸透することができる構造となるものであれば、特に限定されず、いろいろな材料を用いて構成することができる。例えば、有機高分子樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)などの高分子材料、各種炭素材料、セラミック材料、金属材料、ガラス材料、木材、岩石、セメント、粘土およびその焼成物を用いて、気孔率5〜80%、0.1〜50μmの細孔径分布を有する多孔質体部35を形成することができる。
好ましくは、液体燃料が面全体に均一に拡散すること、また、物質移動抵抗の付与により液体燃料のクロスオーバーを抑制するという点から、気孔率10〜70%、1〜20μmの細孔径分布を有することが望ましい。
この多孔質体部35の厚さとしては、液体燃料の面全体への均一な供給と、液体燃料のクロスオーバーの抑制効果の点から、0.2〜5mm、好ましくは、0.5〜2mm程度とすることが望ましい。
【0037】
本発明の液体燃料供給体30は、上記構成の液体燃料を誘導し得る毛管力を有する有底の断面形状の流路32を備えた燃料誘導体部31と、親水性面36と疎水性面37と有する多孔質体部35を、図4に示すように、スリット溝からなる流路32が形成された面を上側とした燃料誘導体部31上に、親水性面36と疎水性面37と有する面側を下面側とした多孔質体部35を重ね合わせる(積層化する)ことにより平板状の液体燃料供給体30が構成されることとなる。これらを、例えば、ホルダー内に積層し、ネジ止め等により適当な圧力で押さえることにより積層部が一体化することができる。
液体燃料供給体30の厚さは、上記燃料誘導体部31及び多孔質体部35の各厚さ、燃料電池の構造等により変動するものであるが、更なる小型化の点から、0.5〜30mm、好ましくは、0.5〜5mm程度とすることが望ましい。
【0038】
上記燃料誘導体部31と多孔質体部35を重ね合わせた上に、上記燃料極層21/電解質層22/空気極層23からなる膜電極接合体を、例えば、ホルダー内に積層し、ネジ止め等により適当な圧力で押さえることなどにより積層化することにより、液体燃料供給体30と上記膜電極接合体を一体化することができる。
【0039】
このように構成される本実施形態の燃料電池Aでは、燃料貯留体10から導出される液体燃料が、燃料誘導体部31の燃料入り口部となる4つの起点流路32aに供給されると、図4に示すように、液体燃料はY1の位置から矢印の方向に沿って毛管力によって燃料誘導体部31と多孔質体部35の界面を浸透する。Y2の位置までは流路32は、多孔質体部35の疎水性面37と接触しているので、多孔質体部35内部への浸透は殆ど起こらず供給されるものとなる。次に、Y2の位置から、長方形渦巻き状とした渦巻き流路32cと接触する各親水面36全域及び浸透が広がり、更に厚さ方向、面方向など、多孔質体部35内部へ広く浸透する。これにより、液体燃料の供給位置が面上で4つの領域となる親水性面から分散されることにより、多孔質体部35全体に均等に液体燃料が浸透し、多孔質体部35の面上の液体燃料の濃度、供給量の分布が緩和されることとなる。
多孔質体部35内部へ浸透した液体燃料は多孔質体部35上に積層された発電セル20の燃料極層21に供給される。また、最上面の空気極層33が空気(外気)に晒されることで、拡散、対流によって酸素が空気極層33に供給され、燃料電池として発電することとなる。図1(a)及び(b)の矢印X1は燃料誘導部31及び多孔質体部35の液体燃料の浸透方向を示すものであり、X2は電極反応で生じた生成ガスである二酸化炭素ガスが多孔質体部35のスリット溝38に沿って面方向へ排出された様子を示すものである。これにより、液体燃料の浸透による供給と生成ガス排出は一方向になり、供給と排出がスムーズに行われることとなる。
また、燃料電池の向きに関らず液体燃料を流通させることができると共に、多孔体あるいは繊維束体などのウイッキング材からなる流路と比較して、極めて早く液体燃料を効率よく流通させることができ、更に、ウイッキング材を配置することを省略することができる、安価で燃料電池の起動時間が早いパッシブ型の燃料電池が得られるものとなる。
更に、流路32となるスリット溝を燃料電池の構造、燃料種及びその濃度等に応じて、好適な毛管力となるように切削できるため、燃料の効率的な供給、分配、回収が可能となる燃料電池が得られることとなる。
これらの結果、本実施形態の燃料電池Aは、液体燃料の供給が電極面全体に均一に行えるようになるため、電極面積が広くなっても電極面上における燃料濃度や液供給速度に大きな分布が生じることがなく、電極面全体を発電に有効に活かせることができ、また、電極面全体に燃料用液を容易に確保することができるため燃料供給体の厚さを薄くでき、その結果、電池全体の容積を小さくでき、燃料電池パッケージの小型化に寄与することができるものとなる。
【0040】
図5及び図6は、上記実施形態で燃料誘導部31に形成した多孔質体部35の親水性面36と接触する長方形渦巻き状とした渦巻き流路32cの別の実施形態を示すものであり、図5(a)は、上下方向に波型状とした波型流路32e、(b)は、対角線方向に波型状とした波型流路32f、図6はつづら折状の流路32gとしたものであり、上記実施形態の渦巻き流路32cと同様に機能するものである。なお、上記実施形態と同様の構成は同一符号を付けてその説明を省略する(以下の実施形態においても同様)。
【0041】
図7は、前記燃料貯留体10から、前記発電セル20に至る液体燃料供給体30上の何れかの部分に燃料供給の遮断機構を設ける実施形態の一例の図面である。
この遮断機構は、図7(a)〜(d)に示すように、燃料貯留体10から燃料誘導部31の入り口部となる始点流路32aに繋がる液流路(チューブ体)へ燃料を供給するコック体(回転コック体)15を設けたものである。
この遮断機構により、電極面全体への燃料供給を遮断することができるため、非発電時にコック体を閉じることにより、液体燃料のクロスオーバーのために損失する燃料の流れを更に止めることができる。更に、燃料供給用の流路及び多孔質体部の空隙体積はちいさいので、コック体を閉じた後に生じる、残量液体燃料のクロスオーバー損失を小さく減らすことができる。
【0042】
図8は、本発明の燃料電池の別の実施形態の要部の一例を示す横断面図である。
本実施形態の燃料電池Bは、燃料供給体30の多孔質体部35と燃料極層21との間に多孔質体層40を設けた点でのみ、上記実施形態の燃料電池Aと相違するものであり、上記実施形態と同様に作用効果を発揮するものである。
この多孔質体層40は、例えば、カーボンフェルトやカーボンクロスなどの気孔率の高いの高い炭素材料、高分子材料などから構成されるものであり、燃料極層21への液体燃料の供給と、生成ガスである二酸化炭素ガスを排出する排出層としての機能を有するものである。上記実施形態で、多孔質体部35にガス排出用のスリット溝38を形成しない場合に当該多孔質体層40を介在することができ、また、多孔質体部35にガス排出用のスリット溝38を形成している場合には、多孔質体層40との両方で生成ガスである二酸化炭素ガスを効率的に排出することができるものとなる。
この多孔質体層40には、好ましくは、少なくとも孔径10μm以上、気孔率10〜95%となるものが好ましく、更に好ましくは、孔径100〜1000μm、気孔率50〜90%となるものが望ましい。
また、この多孔質体層40の厚さとしては、燃料極層21への液体燃料の効率的な供給と、生成ガスである二酸化炭素ガスの効率的な排出を達成せしめる点から、0.05〜5mmとすることが望ましい。
【0043】
図9は、本発明の燃料電池の別の実施形態の要部の一例を示す横断面図である。
本実施形態の燃料電池Cは、燃料供給体30の燃料誘導体部31の両面に、図2(a)及び(b)に示す態様の流路を設けることで、燃料誘導体部31を共有し、両面に多孔質体部35を介して燃料電池の発電セルを積層化(一体化)した点でのみ、上記実施形態の燃料電池Aと相違するものであり、上記実施形態と同様に作用効果を発揮するものである。
この燃料電池Cでは、燃料供給体30の燃料誘導体部31の両面に、流路32,32を設けることで、燃料誘導体部31を共有し、両面に多孔質体部35を介して燃料電池の発電セルを積層化した構造であるので、更に燃料電池の薄型化が可能となる。
【0044】
図10は、本発明の燃料電池の別の実施形態の要部の一例を示す横断面図である。
本実施形態の燃料電池Dは、上記実施形態の燃料電池B及びCを組み合わせたものであり、上記実施形態の燃料電池Cにおいて、夫々の多孔質体部35と燃料極層21との間に各多孔質体層40を設けた点でのみ、上記実施形態の燃料電池Cと相違するものであり、上記実施形態と同様に作用効果を発揮するものである。
【0045】
本発明の燃料電池は、上述の如く構成されるものであるが、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で更に種々の変更をすることができる。例えば、上記各実施形態においては、流路32として片側が閉じられたスリット溝(有底のスリット溝)を挙げて説明をしたが、これらの「スリット溝」に限らず、多孔質体部35の親水性面36と接触する部分以外の流路32a、32b、32dにおいては、燃料の蒸発などの漏洩を防止したい部分に、管状の流路を採用することもできる。この場合、上記した流路についての条件に合致させるため、管状流路の流路断面積や管状流路壁面の接触角を制御することで、全体の整合を採ることができる。
【0046】
また、上記実施形態では、親水性面36の数は4個であるが、発電セル20の大きさ、形状等に応じて、親水性面の数、大きさ等を少なく又は多くすることができる。
更に、「下流」のスリット溝となる終点流路32dを、外界若しくは、燃料誘導体部31の、いずれのスリット溝からなる流路よりも強い毛管力を持つ、廃燃料回収体に連結して、廃燃料などを排出する構成としてもよいものである。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例及び比較例により、更に詳述するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕
下記作製法、処理方法により、燃料電池用燃料供給体を得た後、それを用いて燃料電池を組み立て、燃料貯留体から発電セルまで液体燃料が移動する速度を測定し、発電の様子も観察した。
(燃料誘導体部の作製)
フラン樹脂〔日立化成工業(株)製 ヒタフランVF−303〕10重量部と、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体(新第一塩ビ社製 ZEST−C150S)40重量部との混合樹脂に、天然鱗状黒鉛(日本黒鉛工業社製、平均粒径5μm)50重量部を加え、更に可塑剤としてジアリルフタレート20重量部添加した材料をヘンシェルミキサーで混合、分散し、ミキシング用二本ロールを用いて十分に混練を繰り返して燃料電池誘導体部用組成物を調整し、更に粉砕、篩いをかけて粉末を得た。
得られた粉末を図2に準拠する所定の溝パターンを持つ成形用金型でプレス成形した後、有酸素ガス雰囲気中で300℃の温度で乾燥固化させ、不活性ガス雰囲気中で1500℃の加熱処理を行い、炭素製燃料誘導体部を得た。
得られた燃料誘導体部の寸法は50mm×90mm×2mm(流路面の幅0.1mm、深さ0.1mm)であった。
更に、得られた燃料誘導体部の流路面に下記方法により、レーザー処理を施し、親水性官能基を形成し、液体燃料に対する毛管力を調整した。
レーザー処理は、得られた炭素製燃料誘導体部の流路面に、YAGレーザー装置を用いて、室温空気雰囲気下で、出力12W、パルス幅50μsの条件で流路面にレーザー処理を行い、親水性官能基と凹凸部を形成した。
【0049】
(多孔質体部の作製)
フラン樹脂(日立化成社製、ヒタフランVF−303)36重量部に、乾留ピッチ(呉羽化学工業社製、KH−1P)14重量部との混合樹脂に、カーボンナノチューブ(昭和電工社製、VGCF)30重量部を加え、更に、PMMA(粒径60μm)20重量部を添加した材料を混合機中で混練し、更に、粉砕、篩いをかけて粉末を得た。
得られた粉末を図3に準拠する形状に金型を用いて圧縮成形した後、有酸素ガス雰囲気中で1000℃の加熱処理を行い、炭素製多孔質体部を得た。
得られた多孔質体部の寸法は50mm×90mm×1mmであった。
更に、得られた多孔質体部に下記方法により親水性面、疎水性面、ガス排出用スリット溝を形成した。
図3に準拠するように、4つの親水性面(20mm×36mm)となる箇所に下記方法によりレーザー処理を施し、親水性官能基を形成し、液体燃料に対する毛管力を調整した。なお、親水性面(18mm×36mm)は、上下方向の間隔は、上端から6mm間隔で、左右の間隔は、左端から4mm、6mm、4mmである。
レーザー処理は、得られた炭素製燃料誘導体部の流路面に、YAGレーザー装置を用いて、室温空気雰囲気下で、出力12W、パルス幅50μsの条件で流路面にレーザー処理を行い、親水性官能基と凹凸部を形成した。
この親水性面の箇所をマスキングし、トリメトキシフルオロアルキルシラン(例えば、TSL8233、東芝シリコーン社製)の2wt%メタノール溶液等を用いて30分間ディップコーティングを施し、120℃で1時間乾燥を行い、親水性面以外の箇所を疎水性面とした。
ガス排出用スリット溝は、多孔質体部の幅方向に、幅0.1mm、深さ0.1mm、長さ1cm当たり2本形成した。
【0050】
(燃料供給体の作製)
上記で得られた燃料誘導体部と多孔質体部とをホルダー内に積層し、ネジ止めにより適切な圧力で押さえ、燃料供給体を作製した。
【0051】
(比較例1)
前記実施例1の燃料誘導体部の代わりに、前記多孔質体を、前記燃料誘導体と同じ寸法に成形したものを用いて実施例1と同様にして燃料供給体を作製した。
【0052】
上記実施例1の燃料誘導体部、多孔質体部について、流路面又は親水性面の親水官能基を、島津製作所社製 X線光電子分光分析装置(ESCA−3400)で行ったところ、C−O、C=Oの結合エネルギーピークの成長があり、新たにカルボキシル基(COOH基)の結合が生成、更に酸素の結合エネルギーピークの成長があることが判った。また、平均粗さRaを、東京精密社製 平均粗さ形状測定器 サーフコムを用い、駆動速度0.3mm/分で行ったところ、流路面は、平均粗さRa1.1μmであり、親水性面は、平均粗さRa5μmであることが判った。
また、燃料誘導部の始点流路に、50wt%メタノール水溶液を含浸させた気孔率90%の繊維束多孔体からなる貯留体を毛管連結させたところ、多孔質体部の前面まで浸透する速度は、実施例1では、10秒以内にすべて燃料流路に燃料が供給されたが、比較例1では、実施例1と同じ方法で50wt%メタノール水溶液を浸透させたところ、多孔質体全面に燃料が浸透する時間は60秒であった。
【0053】
上記の結果から明らかなように、本発明範囲となる燃料供給体を用いた実施例1は、本発明の範囲外となる比較例1の燃料供給体に較べて、優れた燃料の輸送速度、並びに、安定した燃料の輸送力を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
固体高分子型などの燃料電池において、発電性能の向上、燃料のクロスオーバーによる損失の低減、燃料電池の小型化に有用な燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の燃料電池の実施形態の一例を示すものであり、(a)は、燃料電池の要旨を示す縦断面図、(b)はその横断面図である。
【図2】(a)は、燃料誘導体部の基本形態の平面図、(b)は(a)のx−x線での横断面図である。
【図3】(a)は、多孔質体部の表面側の平面図、(b)は多孔質体部の裏面側の平面図、(c)は多孔質体部の縦断面図
【図4】燃料誘導体部と多孔質体部とを積層して燃料供給体とした基本形態の平面図である。
【図5】(a)は、燃料誘導部に形成する波型流路の一例を示す部分平面図、(b)は、他の波型流路の一例を示す部分平面図である。
【図6】燃料誘導部に形成するつづら状流路の一例を示す部分平面図である。
【図7】(a)〜(d)は、燃料貯留体から発電セルに至る液体燃料供給体上の何れかの部分に燃料供給の遮断機構を設ける実施形態の一例を示すものであり、(a)及び(b)は燃料が供給された遮断機構が開状態の正面図、縦断面図であり、(c)及び(d)は燃料が供給された遮断機構が閉状態の正面図、縦断面図である。
【図8】本発明の燃料電池の別の実施形態の要部の一例を示す横断面図である。
【図9】本発明の燃料電池の別の実施形態の要部の一例を示す横断面図である。
【図10】本発明の燃料電池の別の実施形態の要部の一例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0056】
10 燃料貯留体
20 発電セル
21 燃料極層
22 電解質層
23 空気極層
30 燃料供給体
31 燃料誘導体部
32 流路
35 多孔質体部
36 親水性面
37 疎水性面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極層、電解質層及び燃料極層を有する発電セルと、該発電セルと液体燃料を貯留する燃料貯留体とを接続する液体燃料供給体とを少なくとも備える燃料電池であって、前記液体燃料供給体は、少なくとも、液体燃料を誘導し得る毛管力を有する有底の断面形状の流路を備えた燃料誘導体部と、疎水性面と親水性面を有する多孔質体部との積層体から構成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記燃料誘導体部の流路において、有底の断面形状の流路の断面線長をL1、有底の断面形状の流路部分の断面積をs1、液体燃料の比重をρ1、液体燃料の表面張力をγ1、液体燃料と流路表面との接触角をθ1、重力加速度をgとした場合、前記燃料供給板部の流路の長さh1が下記式(I)で表される範囲の流路を備えてなる請求項1に記載の燃料電池。
h1≦(L1×γ1×cosθ1)/(s1×ρ1×g) ………(I)
【請求項3】
前記燃料誘導体部の流路の断面形状が、長方形の一辺を欠いた形状の有底の断面形状の流路である請求項1又は2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料誘導体部の流路の一部が、管状である請求項1〜3の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項5】
前記燃料誘導体部の流路表面を親水化処理してなる請求項1〜4の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記親水化処理がプラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、レーザー処理の何れか一つから選ばれる請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記燃料誘導体部のうち、流路表面以外の部分を疎水処理してなる請求項1〜6の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記燃料誘導体部の流路の一部に、渦巻き型の流路、波型の流路及びつづら折状の流路の何れか一つを有する請求項1〜7の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項9】
前記多孔質体部の親水性面と接する燃料誘導体部が渦巻き型の流路面、若しくは波型の流路面、又はつづら折状の流路面である請求項8に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記燃料誘導体部及び/又は多孔質体部が、炭素材料、ガラス材料、セラミックス材料、高分子材料から選ばれる少なくとも1種から構成される請求項1〜9の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項11】
前記燃料供給体は、平板状である請求項1〜10の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項12】
前記燃料供給体の厚さが、0.05〜30mmである請求項1〜11の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項13】
前記燃料極層と、前記燃料供給体との間に多孔質体層を設けた請求項1〜12の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項14】
前記多孔質体層がガス排出層を兼ねる請求項13に記載の燃料電池。
【請求項15】
前記多孔質体層の厚さは、0.05〜5mmである請求項13又は14に記載の燃料電池。
【請求項16】
前記多孔質体層は、炭素材料、ガラス材料、セラミックス材料、高分子材料から選ばれる少なくとも1種から構成される請求項13〜15の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項17】
前記多孔質体層には、少なくとも孔径50μm以下の孔が形成されている請求項14〜16の何れか一つに記載の燃料電池。
【請求項18】
前記燃料貯留体から、前記発電セルに至る液体燃料供給体上の何れかの部分に燃料供給の遮断機構を設けた請求項1〜17の何れか一つに記載の燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−265683(P2007−265683A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86419(P2006−86419)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】