燃料電池
【課題】反応ガスの流通経路における十分な水分排出性を有することが可能となる燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料ガス供給口46の近傍であって、燃料ガス供給マニホールド64の上流側に設けられた単セル50a内の燃料極拡散層を構成する第1の拡散層材料が、燃料ガス供給口46から離間する、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に設けられた単セル50b内の燃料極拡散層を構成する第2の拡散層材料よりも高い圧縮率を有する。
【解決手段】燃料ガス供給口46の近傍であって、燃料ガス供給マニホールド64の上流側に設けられた単セル50a内の燃料極拡散層を構成する第1の拡散層材料が、燃料ガス供給口46から離間する、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に設けられた単セル50b内の燃料極拡散層を構成する第2の拡散層材料よりも高い圧縮率を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の最小単位に相当する、一般的な単セル(燃料電池単セルとも称する)の構成について、特に電極部分を含む要部の構成の概略について説明する。図4に例示するように、酸化極触媒層12(酸化極またはカソード触媒層とも称する)と燃料極触媒層14(燃料極またはアノード触媒層とも称する)を、電解質膜10を挟んで互いに対向するように設けた膜電極接合体(MEA)30が構成されている。また、酸化極触媒層12の外側には酸化極拡散層116が、燃料極触媒層14の外側には燃料極拡散層118が、それぞれ設けられている。さらに、酸化極拡散層116の外側には、その両面に酸化ガス流路溝20およびセル冷媒流路溝22が形成された酸化極側セパレータ26が、燃料極拡散層18の外側には、その両面に燃料ガス流路溝24およびセル冷媒流路溝22が形成された燃料極側セパレータ28が、それぞれ設けられており、これらを例えば、接着や圧着などにより一体化させて、単セル150が形成される。
【0003】
得られた単セル150を複数枚積層させることにより、所望の発電性能を獲得することが可能となる。図5に例示するように、積層した単セル150の積層端をそれぞれ集電板52,54で挟み込み、さらにその外側に絶縁板56,58およびエンドプレート60,62で順に挟持して、その外側から例えば図示しないボルト等による締結などの方法により全体を積層方向に押圧保持し、固定され、燃料電池500が構成される。
【0004】
燃料電池は一般に、図4に示す酸化極触媒層12に酸素ガスや空気等の酸化ガスを、燃料極触媒層14に水素ガスや改質ガス等の燃料ガスを、図5に示す各反応ガス供給マニホールド164から図4に示す酸化ガス流路132/燃料ガス流路134を経由してそれぞれ独立して供給し、発電する。このような燃料電池は一般に、発電時には化学反応に伴う熱を発生するが、安定した発電を維持するためには例えば60℃から100℃程度の所定の温度範囲となるように制御することが必要であるため、水やエチレングリコールなどの冷却媒体(冷媒)を各単セルに設けられたセル冷媒流路36に流通させて燃料電池の過熱を防止している。このように燃料極および酸化極を含む電極部分において化学反応が起こり、電荷が発生して電池として機能する。なお、「反応ガス」とは、燃料ガスおよび/または酸化ガスの総称である。
【0005】
一般に燃料電池が良好な発電を行なうためには、例えばパーフルオロ系、パーフルオロスルホン酸系等のフッ素系イオン交換樹脂などが用いられる電解質膜10に対して所定の水分量(含水量)を維持させて、プロトン透過性膜としての機能を発揮させることが好適である。電解質膜10の含水量の不足に伴う、いわゆるドライアップの発生を防止するため、例えば燃料電池内に供給する反応ガスのいずれか一方、または両方を加湿させ、電解質膜10の水分調節を行なう。
【0006】
一方、燃料電池に対する水分の供給量が所定の量を超えると、ガス流路内においてガス中の水分が凝縮し、液体の水(液水)を生成する場合がある(これを凝縮水と称する)。この凝縮水がガス流路や拡散層を塞いでしまうと、反応に必要な原料ガスつまり反応ガスの、触媒層への供給が不十分となってしまう、いわゆるフラッディングと呼ばれる現象が発生し、発電効率が低下するばかりでなく、運転状態が不安定となり、場合によってはシステムの停止に繋がるおそれもある。
【0007】
例えば、燃料極側のガス流路、つまり燃料ガスが流通しているガス流路においては、燃料ガスの流通量は一般に、酸化極側のガス流路、つまり酸化ガスが流通しているガス流路を流通する酸化ガスの流通量よりも少ない。その上、燃料極における水素の消費に伴い、燃料ガス(のオフガス)の流通量が、各単セルの燃料ガス流路の上流側から下流側に進むにつれて次第に低下するばかりでなく、流路内の圧力損失によりガスの流速も次第に低下する。このため、セルスタックの積層枚数や燃料ガス流路の形状および長さによっては、燃料ガスの流通を利用するだけではガス流路内からの水分の排出が十分でない場合があり得る。
【0008】
このように、燃料電池のより安定した運転には、燃料ガスや酸化ガスの流通における、運転条件や各電極の特性に応じた好適な排水性が要求される。
【0009】
特許文献1には、セパレータ表面のガス流路溝の断面積または本数を異ならせることにより少なくとも2つの単セル間の圧力損失値を異ならせ、積層された単セルのうち、ガスの供給側から遠いセルの圧力損失を少なくする技術について記載されている。
【0010】
特許文献2には、導電性を有するカーボン短繊維を使用し、抄紙法により作製したシートを集積させてなる拡散層の製造方法について記載されている。
【0011】
特許文献3には、積層された単セルのうち、ガスの供給側から遠いセルにおけるセパレータに形成されたガス流路溝の断面積を大きくもしくはガス流路の長さを短くして圧力損失を少なくする技術について記載されている。
【0012】
【特許文献1】特開2005−56671号公報
【特許文献2】特開2004−273392号公報
【特許文献3】特開2004−179061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、反応ガスの流通経路における十分な水分排出性を有することが可能となる燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0015】
(1)電解質膜および前記電解質膜を挟んで対面する一対の触媒層を含む膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟んで対面する一対の拡散層と、を備える単セルを、複数積層させてなるセルスタックと、前記セルスタックの内部に反応ガスを供給するための反応ガス供給口を備え、前記セルスタックを貫通する反応ガス供給マニホールドと、前記反応ガス供給マニホールドから供給された前記反応ガスを前記単セルのそれぞれに分配し、前記触媒層に流通させるための反応ガス流路と、前記反応ガス流路を介して前記拡散層と対面するセパレータと、を備え、前記反応ガス供給口の近傍であって、前記反応ガス供給マニホールドの上流側に設けられた単セル内の拡散層を構成する第1の拡散層材料が、前記反応ガス供給口から離間する、前記反応ガス供給マニホールドの下流側に設けられた単セル内の拡散層を構成する第2の拡散層材料よりも高い圧縮率を有する、燃料電池。
【0016】
(2)上記(1)に記載の燃料電池において、前記第1の拡散層材料からなる拡散層と対面する第1のセパレータの表面に形成された反応ガス流路溝が、前記第2の拡散層材料からなる拡散層と対面する第2のセパレータの表面に形成された反応ガス流路溝と同じ形状を有する、燃料電池。
【0017】
(3)上記(1)または(2)に記載の燃料電池において、前記第1の拡散層材料が、抄紙用の網状部材に導電性繊維を含む分散液を透過させ、前記網状部材に前記導電性繊維を堆積させる抄紙法を含み形成された抄紙様基材である、燃料電池。
【0018】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の燃料電池において、前記第2の拡散層材料が、抄紙法で形成された基材を炭化、黒鉛化したカーボンペーパーである、燃料電池。
【0019】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の燃料電池において、前記一対の電極が、前記反応ガスとして酸化ガスを用いる酸化極と、前記反応ガスとして燃料ガスを用いる燃料極と、からなり、前記第1の拡散層材料および前記第2の拡散層材料が、燃料極拡散層を構成する拡散層材料である、燃料電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反応ガスの流通経路における十分な水分排出性を有することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する各図面において、図4,5に示す構成と同様のものについては同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態における燃料電池の構成の概略を示す模式図である。図1に示す燃料電池100において、燃料ガス供給口46の近傍であって、燃料ガス供給マニホールド64の上流側には単セル50aが、燃料ガス供給口46から離間する、燃料ガス供給マニホールド64の下流側には単セル50bが、それぞれ設けられている。図1に示す単セル50a,50bについて、図2を用いてさらに説明する。
【0023】
図2は、図1に示す単セル50a,50bの要部について、その構成の概略をそれぞれ示す拡大図である。図2(a)に示す単セル50aには、燃料極拡散層18が設けられており、燃料極側セパレータ28表面の燃料ガス流路溝24との間に燃料ガス流路34が形成されている。一方、図2(b)に示す単セル50bには、燃料極拡散層38が設けられており、燃料極側セパレータ28表面の燃料ガス流路溝24との間に燃料ガス流路44が形成されている。つまり、図2に示す単セル50a,50bは、燃料極拡散層の構成を除き、図4,5に示す単セル150(150a,150b)とほぼ同様の構成を有している。
【0024】
図3は、図2に示す単セル50a,50bのそれぞれを拡大し、燃料極拡散層と燃料ガス流路溝24との間に形成される燃料ガス流路の形状についてさらに説明する図である。図3において、燃料極拡散層18(単セル50a)を構成する拡散層材料(第1の拡散層材料)18a(図3(a))は、燃料極拡散層38(単セル50b)を構成する拡散層材料(第2の拡散層材料)38a(図3(b))よりも高い圧縮率を有している。このため、図3(a)に示すように、高い圧縮率を有する拡散層材料18aを適用し、拡散層材料38aと燃料極側セパレータ28とを所定の圧力にて押圧挟持させた場合、燃料極拡散層18の、燃料ガス流路溝24へのはみ出し(「垂れ込み」とも称する)40の程度が大きくなり、燃料ガス流路34の断面積を狭める一方、図3(b)では、拡散層材料38aと燃料極側セパレータ28とを図3(a)の場合と同程度の圧力にて押圧挟持させた場合でも、燃料極拡散層38の垂れ込み42はわずかである。
【0025】
このように、圧縮率の相違する拡散層材料を組み合わせて使用すると、その圧縮率の相違に基づいて燃料極拡散層(材料)の垂れ込みの程度に差異が生じる。このため、例えば同形状の燃料ガス流路溝が形成された燃料極側セパレータを使用する場合であっても、これと組み合わせて使用する拡散層材料の圧縮率の相違に基づき、各単セルにおいて燃料ガス流路の流路容積に差異が生じることになる。流路容積の異なる燃料ガス流路では、内部を流通する燃料ガスに対する圧力損失の程度が異なるため、圧縮率の相違する拡散層材料を用いた各単セルを適切に組み合わせて燃料電池を作製することにより、燃料極側における、燃料ガスの流速の制御に寄与し得る。
【0026】
すなわち、図1に示すように燃料ガス供給マニホールド64の上流側に、高い圧縮率を有する拡散層材料を適用することにより、燃料ガス供給マニホールド64の上流側に配置された単セル50aに対する燃料ガスの流入を制限する一方、燃料ガス供給マニホールド64の下流側では、これよりも圧縮率の低い拡散層材料を適用することにより、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に配置された単セル50bに対する燃料ガスの流入を増大させることができる。このため、一般にガスの流通量が低下する傾向にある、燃料ガス供給マニホールド64の下流側の単セル内部においても、流通する燃料ガスによる水分の適切な排出が可能となる。
【0027】
本発明の実施の形態において、図1に示す燃料ガス供給マニホールド64の上流側に配置された、高い圧縮率を有する拡散層材料を用いた燃料ガス拡散層を備える単セル50aは1つに限らず、複数であっても良く、セルスタックにおける単セルの積層枚数や燃料ガス流路の形状などに応じて適宜決定することができる。同様に、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に配置する、比較的圧縮率の低い拡散層材料を用いた燃料ガス拡散層を備える単セル50bの配置は1つに限らず、複数であっても良く、セルスタックにおける単セルの積層枚数や燃料ガス流路の形状などに応じて適宜決定することができる。
【0028】
また、本発明の他の実施の形態として、図1に示す単セル50aと単セル50bとの間に、これらにそれぞれ設けられた各燃料極拡散層を構成する拡散層材料(図2に示す拡散層材料18a,38a)の中間の圧縮率を有する拡散層材料からなる燃料極拡散層を備える単セル50を積層させることも好適である。本実施の形態によれば、単セルの積層部位に応じて燃料ガス流路における圧力損失の制御をさらに細分化することが可能となるため、特に多くの単セルを積層させてなる燃料電池において好適である。
【0029】
本発明の実施の形態において、拡散層材料の「圧縮率」とは、例えば、用意した拡散層材料の、単セルとして積層するときの当該積層方向の厚さを基準とし、この積層方向に対して面全体に一定の荷重または圧力(単セルまたはセルスタックを積層させるときの荷重または面圧に相当。例えば、1MPa〜2MPa程度と設定することができる)を加えたときに圧縮される拡散層材料の厚さの程度として表すことができる。このような圧縮率の測定として、より具体的には、JIS L1913 6.12に準拠して行うことができる。ただし、本明細書における拡散層材料の「圧縮率」は、各拡散層材料間の相対比較が可能であれば良く、絶対値はそれほど重要でないため、各拡散層材料においてその「圧縮率」の程度を比較することが可能な方法であればこれに限らない。
【0030】
図1において、燃料ガス供給マニホールド64の上流(燃料ガス供給口46の近傍)側の単セル50aに好適に用いられる、高い圧縮率を有する第1の拡散層材料として、例えば抄紙用の網状部材に導電性繊維を含む分散液を透過させ、この網状部材に導電性繊維を堆積させる抄紙法を含み形成された抄紙様基材を適用することができる。
【0031】
一方、図1において、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に用いられる、第1の拡散層材料よりも圧縮率の小さい第2の拡散層材料として、例えば抄紙法で形成された基材を炭化、黒鉛化したカーボンペーパーを適用することができる。
【0032】
本発明の実施の形態において、図3に示す拡散層材料18a,38aは、燃料極拡散層を構成する拡散層材料として説明したが、これを酸化極拡散層に適用することも可能である。例えば、酸化ガス供給マニホールドの上流(酸化ガス供給口の近傍)側に高い圧縮率を有する第1の拡散層材料18aを、酸化ガス供給マニホールドの下流側に第1の拡散層材料18aよりも圧縮率の低い第2の拡散層材料38aをそれぞれ適用することにより、酸化ガス供給マニホールドの下流側においても速やかに酸化ガス流路内の水分を排出させることができる。
【実施例】
【0033】
圧縮率の異なる拡散層材料を用いることを除いては同様の構成を有する単セルを組み合わせて積層させた燃料電池を作製し、セル電圧の安定性について比較した。
【0034】
[拡散層材料1(抄紙様基材)の作製]
導電性繊維であるカーボンファイバーの短繊維(代表的な大きさは直径13μm、長さ3mm)とパルプとを質量比6:4で混合し、水中に叩解することにより導電性繊維とパルプとを均一に分散させた抄紙用スラリーを作製した。次いで、この抄紙用スラリーを用い、網状部材にて抄紙処理し、抄紙用スラリーに含まれる固形分を液分から分離し、厚さ約0.3mmの薄層シートを作製した。次いで、カーボンブラック(デンカブラック、電気化学工業製)と撥水剤(PTFE分散液D−1、ダイキン工業製)とを質量比5:2で混合分散させたペーストを作製し、これを薄層シート表面上にロールコータにて塗工し含浸させた。乾燥後、380℃にて1時間焼成し、薄層シートに含まれるパルプを消失させた。このシートを厚みが面内にて均一になるようにホットプレスし、厚さ約0.3mm、密度7.6mg/cm2のカーボンシートである拡散層材料1を得た。
【0035】
[拡散層材料2(カーボンペーパー)の作製]
カーボンブラック(デンカブラック、電気化学工業製)と撥水剤(PTFE分散液D−1、ダイキン工業製)とを質量比3:2で混合分散させたペーストを作製し、これを厚さ約0.2mmのカーボンペーパー(TGP−H−060、東レ製)にダイコート法にて塗工し含浸させた。乾燥後、さらに、2層目としてカーボンブラック(VGCF(商品名)、昭和電工製)と撥水剤(PTFE分散液D−1、ダイキン工業製)とを質量比3:2で混合分散させたペーストを作製し、ダイコート法にて塗工し含浸させた。乾燥後、380℃にて1時間焼成し、厚さ約0.3mm、密度7.8mg/cm2の拡散層材料2を得た。
【0036】
[拡散層材料3の作製]
カーボンブラック(デンカブラック、電気化学工業製)と撥水剤(PTFE分散液D−1、ダイキン工業製)とを質量比3:2で混合分散させたペーストを作製し、これを厚さ約0.2mmのカーボンペーパー(TGP−H−060、東レ製)にドクターブレード法にて塗工し含浸させた。乾燥後、380℃にて1時間焼成し、厚さ約0.3mm、密度6.5mg/cm2の拡散層材料3を得た。
【0037】
拡散層材料1〜3について、その「圧縮率」の程度を比較した。具体的には、各拡散層材料の、荷重をかけていないときの厚さを100とし、これに一定の面圧(1MPa、2MPa)にて押圧したときの厚みをn=10でそれぞれ測定し、平均した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、面圧の程度によりその圧縮の程度は異なるものの、拡散層材料1が最も高い圧縮率を有し、拡散層材料2が最も低い圧縮率を有していることがわかる。
【0040】
[単セル1の作製]
燃料極拡散層として上述した拡散層材料1を、酸化極拡散層として拡散層材料3を、それぞれ使用し、図2に示すような構成を有する単セル1を作製した。
【0041】
[単セル2の作製]
燃料極拡散層として拡散層材料2を使用したことを除き、単セル1と同様の構成を有する単セル2を作製した。
【0042】
[単セル3の作製]
燃料極拡散層として拡散層材料3を使用したことを除き、単セル1と同様の構成を有する単セル3を作製した。
【0043】
次に、単セル1〜3を組み合わせて、図1に示すような構成を有する燃料電池を作製した。
【0044】
[燃料電池1の作製]
図1において、燃料ガス供給口46の近傍側である、燃料ガス供給マニホールド64の上流側に単セル1を、燃料ガス供給口46から離間する、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に単セル2をそれぞれ設け、さらにその中間に単セル3を積層させた燃料電池1を作製した。なお、セルスタックを構成する単セルの総積層枚数は10枚とし、うち単セル1,2はそれぞれ2枚ずつとした。また、エンドセル60,62締結時における、単セル積層方向への面圧は1MPaに設定した。
【0045】
[燃料電池2の作製]
単セル1に代えて単セル2を、単セル2に代えて単セル1を、それぞれ用いたことを除き、燃料電池1と同様の構成を有する燃料電池2を作製した。
【0046】
[燃料電池3の作製]
すべての単セルを単セル3としたことを除き、燃料電池1と同様の構成を有する燃料電池3を作製した。
【0047】
なお、以下の説明において、それぞれ10枚の単セルを積層させた燃料電池1〜3における、燃料ガス供給マニホールド64の最上流側の単セルをセルナンバー1、燃料ガス供給マニホールド64の最下流側の単セルをセルナンバー10、その中間に配置された単セルも同様にセルナンバー2〜9と称する。
【0048】
[燃料電池性能の評価]
・ 燃料ガス利用率限界試験
[実施例1]
作製した燃料電池1を用い、燃料ガスとして、純水素ガスを、酸化ガスとして、空気を、それぞれ使用し、酸化ガス利用率を一定とした場合に、燃料ガス利用率を段階的に上げていき、どの程度まで安定した電池性能が発揮できるかを評価した。測定条件は、次の通りである:電流密度=0.078A/cm2、酸化ガス利用率=50%、露点温度(アノード/カソード)=60℃/65℃、(冷却水温度)セルスタックへの入口温度=71℃,セルスタックからの出口温度=72℃。なお、測定は、各燃料ガス利用率において10分間連続運転し、そのときのセルナンバー1,5,10の単セルにおける平均セル電圧と、標準偏差をσとしたときの最大の3σの値(3σmax)をそれぞれ算出した。表2に結果を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2によれば、燃料ガスの利用率80%まで安定した運転が行われていることがわかる。
【0051】
[比較例1]
燃料電池2を用いたことを除き、実施例1と同様の試験を行った。表3に結果を示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、燃料ガスの利用率80%では安定した運転を行うことができなかった。
【0054】
[比較例2]
燃料電池3を用いたことを除き、実施例1と同様の試験を行った。セル電圧および3σmaxの測定はセルナンバー5のみとし、その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4に示すように、燃料ガスの利用率80%ではセル電圧のばらつきが大きく、安定した運転を行うことができなかった。
【0057】
・ 酸化ガス利用率限界試験
[実施例2]
燃料電池1を用い、燃料ガスとして、純水素ガスを、酸化ガスとして、空気を、それぞれ使用し、燃料ガス利用率を一定とした場合に、酸化ガス利用率を段階的に上げていき、どの程度まで安定した電池性能が発揮できるかを評価した。測定条件は、次の通りである:電流密度=0.078A/cm2、燃料ガス利用率=70%、露点温度(アノード/カソード)=60℃/65℃、(冷却水温度)セルスタックへの入口温度=71℃,セルスタックからの出口温度=72℃。なお、測定は、各酸化ガス利用率において10分間連続運転し、そのときのセルナンバー1,5,10の単セルにおける平均セル電圧と、標準偏差をσとしたときの最大の3σの値(3σmax)をそれぞれ算出した。表5に結果を示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5によれば、酸化ガスの利用率65%まで安定した運転が行われていることがわかる。
【0060】
[比較例3]
燃料電池2を用いたことを除き、実施例2と同様の試験を行った。表6に結果を示す。
【0061】
【表6】
【0062】
表6に示すように、酸化ガスの利用率55%では安定した運転を行うことができなかった。
【0063】
[比較例4]
燃料電池3を用いたことを除き、実施例2と同様の試験を行った。セル電圧および3σmaxの測定はセルナンバー5のみとし、その結果を表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
表7に示すように、燃料ガスの利用率65%では、安定した運転を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、特に、単セルを複数積層させてなるセルスタックを備える燃料電池において好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】燃料電池の構成の概略を示す模式図である。
【図2】図1に示す単セル50a,50bの要部について、その構成の概略を示す拡大図である。
【図3】燃料極拡散層と燃料ガス流路溝との間に形成される燃料ガス流路の形状について説明する図である。
【図4】単セルの要部の構成について示す概略図である。
【図5】従来の燃料電池の構成の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0068】
10 電解質膜、12 酸化極触媒層、14 燃料極触媒層、18,38,118 燃料極拡散層、18a,38a 拡散層材料、20 酸化ガス流路溝、22 セル冷媒流路溝、24 燃料ガス流路溝、26 酸化極側セパレータ、28 燃料極側セパレータ、30 膜電極接合体(MEA)、34,44,134 燃料ガス流路、36 セル冷媒流路、40,42 垂れ込み、46 燃料ガス供給口、48 燃料ガス排出口、50,50a,50b,150,150a,150b 単セル、52,54 集電板、56,58 絶縁板、60,62 エンドプレート、64 燃料ガス供給マニホールド、68 燃料ガス排出マニホールド、100,500 燃料電池、116 酸化極拡散層、132 酸化ガス流路、164 反応ガス供給マニホールド、168 反応ガス排出マニホールド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の最小単位に相当する、一般的な単セル(燃料電池単セルとも称する)の構成について、特に電極部分を含む要部の構成の概略について説明する。図4に例示するように、酸化極触媒層12(酸化極またはカソード触媒層とも称する)と燃料極触媒層14(燃料極またはアノード触媒層とも称する)を、電解質膜10を挟んで互いに対向するように設けた膜電極接合体(MEA)30が構成されている。また、酸化極触媒層12の外側には酸化極拡散層116が、燃料極触媒層14の外側には燃料極拡散層118が、それぞれ設けられている。さらに、酸化極拡散層116の外側には、その両面に酸化ガス流路溝20およびセル冷媒流路溝22が形成された酸化極側セパレータ26が、燃料極拡散層18の外側には、その両面に燃料ガス流路溝24およびセル冷媒流路溝22が形成された燃料極側セパレータ28が、それぞれ設けられており、これらを例えば、接着や圧着などにより一体化させて、単セル150が形成される。
【0003】
得られた単セル150を複数枚積層させることにより、所望の発電性能を獲得することが可能となる。図5に例示するように、積層した単セル150の積層端をそれぞれ集電板52,54で挟み込み、さらにその外側に絶縁板56,58およびエンドプレート60,62で順に挟持して、その外側から例えば図示しないボルト等による締結などの方法により全体を積層方向に押圧保持し、固定され、燃料電池500が構成される。
【0004】
燃料電池は一般に、図4に示す酸化極触媒層12に酸素ガスや空気等の酸化ガスを、燃料極触媒層14に水素ガスや改質ガス等の燃料ガスを、図5に示す各反応ガス供給マニホールド164から図4に示す酸化ガス流路132/燃料ガス流路134を経由してそれぞれ独立して供給し、発電する。このような燃料電池は一般に、発電時には化学反応に伴う熱を発生するが、安定した発電を維持するためには例えば60℃から100℃程度の所定の温度範囲となるように制御することが必要であるため、水やエチレングリコールなどの冷却媒体(冷媒)を各単セルに設けられたセル冷媒流路36に流通させて燃料電池の過熱を防止している。このように燃料極および酸化極を含む電極部分において化学反応が起こり、電荷が発生して電池として機能する。なお、「反応ガス」とは、燃料ガスおよび/または酸化ガスの総称である。
【0005】
一般に燃料電池が良好な発電を行なうためには、例えばパーフルオロ系、パーフルオロスルホン酸系等のフッ素系イオン交換樹脂などが用いられる電解質膜10に対して所定の水分量(含水量)を維持させて、プロトン透過性膜としての機能を発揮させることが好適である。電解質膜10の含水量の不足に伴う、いわゆるドライアップの発生を防止するため、例えば燃料電池内に供給する反応ガスのいずれか一方、または両方を加湿させ、電解質膜10の水分調節を行なう。
【0006】
一方、燃料電池に対する水分の供給量が所定の量を超えると、ガス流路内においてガス中の水分が凝縮し、液体の水(液水)を生成する場合がある(これを凝縮水と称する)。この凝縮水がガス流路や拡散層を塞いでしまうと、反応に必要な原料ガスつまり反応ガスの、触媒層への供給が不十分となってしまう、いわゆるフラッディングと呼ばれる現象が発生し、発電効率が低下するばかりでなく、運転状態が不安定となり、場合によってはシステムの停止に繋がるおそれもある。
【0007】
例えば、燃料極側のガス流路、つまり燃料ガスが流通しているガス流路においては、燃料ガスの流通量は一般に、酸化極側のガス流路、つまり酸化ガスが流通しているガス流路を流通する酸化ガスの流通量よりも少ない。その上、燃料極における水素の消費に伴い、燃料ガス(のオフガス)の流通量が、各単セルの燃料ガス流路の上流側から下流側に進むにつれて次第に低下するばかりでなく、流路内の圧力損失によりガスの流速も次第に低下する。このため、セルスタックの積層枚数や燃料ガス流路の形状および長さによっては、燃料ガスの流通を利用するだけではガス流路内からの水分の排出が十分でない場合があり得る。
【0008】
このように、燃料電池のより安定した運転には、燃料ガスや酸化ガスの流通における、運転条件や各電極の特性に応じた好適な排水性が要求される。
【0009】
特許文献1には、セパレータ表面のガス流路溝の断面積または本数を異ならせることにより少なくとも2つの単セル間の圧力損失値を異ならせ、積層された単セルのうち、ガスの供給側から遠いセルの圧力損失を少なくする技術について記載されている。
【0010】
特許文献2には、導電性を有するカーボン短繊維を使用し、抄紙法により作製したシートを集積させてなる拡散層の製造方法について記載されている。
【0011】
特許文献3には、積層された単セルのうち、ガスの供給側から遠いセルにおけるセパレータに形成されたガス流路溝の断面積を大きくもしくはガス流路の長さを短くして圧力損失を少なくする技術について記載されている。
【0012】
【特許文献1】特開2005−56671号公報
【特許文献2】特開2004−273392号公報
【特許文献3】特開2004−179061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、反応ガスの流通経路における十分な水分排出性を有することが可能となる燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0015】
(1)電解質膜および前記電解質膜を挟んで対面する一対の触媒層を含む膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟んで対面する一対の拡散層と、を備える単セルを、複数積層させてなるセルスタックと、前記セルスタックの内部に反応ガスを供給するための反応ガス供給口を備え、前記セルスタックを貫通する反応ガス供給マニホールドと、前記反応ガス供給マニホールドから供給された前記反応ガスを前記単セルのそれぞれに分配し、前記触媒層に流通させるための反応ガス流路と、前記反応ガス流路を介して前記拡散層と対面するセパレータと、を備え、前記反応ガス供給口の近傍であって、前記反応ガス供給マニホールドの上流側に設けられた単セル内の拡散層を構成する第1の拡散層材料が、前記反応ガス供給口から離間する、前記反応ガス供給マニホールドの下流側に設けられた単セル内の拡散層を構成する第2の拡散層材料よりも高い圧縮率を有する、燃料電池。
【0016】
(2)上記(1)に記載の燃料電池において、前記第1の拡散層材料からなる拡散層と対面する第1のセパレータの表面に形成された反応ガス流路溝が、前記第2の拡散層材料からなる拡散層と対面する第2のセパレータの表面に形成された反応ガス流路溝と同じ形状を有する、燃料電池。
【0017】
(3)上記(1)または(2)に記載の燃料電池において、前記第1の拡散層材料が、抄紙用の網状部材に導電性繊維を含む分散液を透過させ、前記網状部材に前記導電性繊維を堆積させる抄紙法を含み形成された抄紙様基材である、燃料電池。
【0018】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の燃料電池において、前記第2の拡散層材料が、抄紙法で形成された基材を炭化、黒鉛化したカーボンペーパーである、燃料電池。
【0019】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の燃料電池において、前記一対の電極が、前記反応ガスとして酸化ガスを用いる酸化極と、前記反応ガスとして燃料ガスを用いる燃料極と、からなり、前記第1の拡散層材料および前記第2の拡散層材料が、燃料極拡散層を構成する拡散層材料である、燃料電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反応ガスの流通経路における十分な水分排出性を有することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する各図面において、図4,5に示す構成と同様のものについては同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態における燃料電池の構成の概略を示す模式図である。図1に示す燃料電池100において、燃料ガス供給口46の近傍であって、燃料ガス供給マニホールド64の上流側には単セル50aが、燃料ガス供給口46から離間する、燃料ガス供給マニホールド64の下流側には単セル50bが、それぞれ設けられている。図1に示す単セル50a,50bについて、図2を用いてさらに説明する。
【0023】
図2は、図1に示す単セル50a,50bの要部について、その構成の概略をそれぞれ示す拡大図である。図2(a)に示す単セル50aには、燃料極拡散層18が設けられており、燃料極側セパレータ28表面の燃料ガス流路溝24との間に燃料ガス流路34が形成されている。一方、図2(b)に示す単セル50bには、燃料極拡散層38が設けられており、燃料極側セパレータ28表面の燃料ガス流路溝24との間に燃料ガス流路44が形成されている。つまり、図2に示す単セル50a,50bは、燃料極拡散層の構成を除き、図4,5に示す単セル150(150a,150b)とほぼ同様の構成を有している。
【0024】
図3は、図2に示す単セル50a,50bのそれぞれを拡大し、燃料極拡散層と燃料ガス流路溝24との間に形成される燃料ガス流路の形状についてさらに説明する図である。図3において、燃料極拡散層18(単セル50a)を構成する拡散層材料(第1の拡散層材料)18a(図3(a))は、燃料極拡散層38(単セル50b)を構成する拡散層材料(第2の拡散層材料)38a(図3(b))よりも高い圧縮率を有している。このため、図3(a)に示すように、高い圧縮率を有する拡散層材料18aを適用し、拡散層材料38aと燃料極側セパレータ28とを所定の圧力にて押圧挟持させた場合、燃料極拡散層18の、燃料ガス流路溝24へのはみ出し(「垂れ込み」とも称する)40の程度が大きくなり、燃料ガス流路34の断面積を狭める一方、図3(b)では、拡散層材料38aと燃料極側セパレータ28とを図3(a)の場合と同程度の圧力にて押圧挟持させた場合でも、燃料極拡散層38の垂れ込み42はわずかである。
【0025】
このように、圧縮率の相違する拡散層材料を組み合わせて使用すると、その圧縮率の相違に基づいて燃料極拡散層(材料)の垂れ込みの程度に差異が生じる。このため、例えば同形状の燃料ガス流路溝が形成された燃料極側セパレータを使用する場合であっても、これと組み合わせて使用する拡散層材料の圧縮率の相違に基づき、各単セルにおいて燃料ガス流路の流路容積に差異が生じることになる。流路容積の異なる燃料ガス流路では、内部を流通する燃料ガスに対する圧力損失の程度が異なるため、圧縮率の相違する拡散層材料を用いた各単セルを適切に組み合わせて燃料電池を作製することにより、燃料極側における、燃料ガスの流速の制御に寄与し得る。
【0026】
すなわち、図1に示すように燃料ガス供給マニホールド64の上流側に、高い圧縮率を有する拡散層材料を適用することにより、燃料ガス供給マニホールド64の上流側に配置された単セル50aに対する燃料ガスの流入を制限する一方、燃料ガス供給マニホールド64の下流側では、これよりも圧縮率の低い拡散層材料を適用することにより、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に配置された単セル50bに対する燃料ガスの流入を増大させることができる。このため、一般にガスの流通量が低下する傾向にある、燃料ガス供給マニホールド64の下流側の単セル内部においても、流通する燃料ガスによる水分の適切な排出が可能となる。
【0027】
本発明の実施の形態において、図1に示す燃料ガス供給マニホールド64の上流側に配置された、高い圧縮率を有する拡散層材料を用いた燃料ガス拡散層を備える単セル50aは1つに限らず、複数であっても良く、セルスタックにおける単セルの積層枚数や燃料ガス流路の形状などに応じて適宜決定することができる。同様に、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に配置する、比較的圧縮率の低い拡散層材料を用いた燃料ガス拡散層を備える単セル50bの配置は1つに限らず、複数であっても良く、セルスタックにおける単セルの積層枚数や燃料ガス流路の形状などに応じて適宜決定することができる。
【0028】
また、本発明の他の実施の形態として、図1に示す単セル50aと単セル50bとの間に、これらにそれぞれ設けられた各燃料極拡散層を構成する拡散層材料(図2に示す拡散層材料18a,38a)の中間の圧縮率を有する拡散層材料からなる燃料極拡散層を備える単セル50を積層させることも好適である。本実施の形態によれば、単セルの積層部位に応じて燃料ガス流路における圧力損失の制御をさらに細分化することが可能となるため、特に多くの単セルを積層させてなる燃料電池において好適である。
【0029】
本発明の実施の形態において、拡散層材料の「圧縮率」とは、例えば、用意した拡散層材料の、単セルとして積層するときの当該積層方向の厚さを基準とし、この積層方向に対して面全体に一定の荷重または圧力(単セルまたはセルスタックを積層させるときの荷重または面圧に相当。例えば、1MPa〜2MPa程度と設定することができる)を加えたときに圧縮される拡散層材料の厚さの程度として表すことができる。このような圧縮率の測定として、より具体的には、JIS L1913 6.12に準拠して行うことができる。ただし、本明細書における拡散層材料の「圧縮率」は、各拡散層材料間の相対比較が可能であれば良く、絶対値はそれほど重要でないため、各拡散層材料においてその「圧縮率」の程度を比較することが可能な方法であればこれに限らない。
【0030】
図1において、燃料ガス供給マニホールド64の上流(燃料ガス供給口46の近傍)側の単セル50aに好適に用いられる、高い圧縮率を有する第1の拡散層材料として、例えば抄紙用の網状部材に導電性繊維を含む分散液を透過させ、この網状部材に導電性繊維を堆積させる抄紙法を含み形成された抄紙様基材を適用することができる。
【0031】
一方、図1において、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に用いられる、第1の拡散層材料よりも圧縮率の小さい第2の拡散層材料として、例えば抄紙法で形成された基材を炭化、黒鉛化したカーボンペーパーを適用することができる。
【0032】
本発明の実施の形態において、図3に示す拡散層材料18a,38aは、燃料極拡散層を構成する拡散層材料として説明したが、これを酸化極拡散層に適用することも可能である。例えば、酸化ガス供給マニホールドの上流(酸化ガス供給口の近傍)側に高い圧縮率を有する第1の拡散層材料18aを、酸化ガス供給マニホールドの下流側に第1の拡散層材料18aよりも圧縮率の低い第2の拡散層材料38aをそれぞれ適用することにより、酸化ガス供給マニホールドの下流側においても速やかに酸化ガス流路内の水分を排出させることができる。
【実施例】
【0033】
圧縮率の異なる拡散層材料を用いることを除いては同様の構成を有する単セルを組み合わせて積層させた燃料電池を作製し、セル電圧の安定性について比較した。
【0034】
[拡散層材料1(抄紙様基材)の作製]
導電性繊維であるカーボンファイバーの短繊維(代表的な大きさは直径13μm、長さ3mm)とパルプとを質量比6:4で混合し、水中に叩解することにより導電性繊維とパルプとを均一に分散させた抄紙用スラリーを作製した。次いで、この抄紙用スラリーを用い、網状部材にて抄紙処理し、抄紙用スラリーに含まれる固形分を液分から分離し、厚さ約0.3mmの薄層シートを作製した。次いで、カーボンブラック(デンカブラック、電気化学工業製)と撥水剤(PTFE分散液D−1、ダイキン工業製)とを質量比5:2で混合分散させたペーストを作製し、これを薄層シート表面上にロールコータにて塗工し含浸させた。乾燥後、380℃にて1時間焼成し、薄層シートに含まれるパルプを消失させた。このシートを厚みが面内にて均一になるようにホットプレスし、厚さ約0.3mm、密度7.6mg/cm2のカーボンシートである拡散層材料1を得た。
【0035】
[拡散層材料2(カーボンペーパー)の作製]
カーボンブラック(デンカブラック、電気化学工業製)と撥水剤(PTFE分散液D−1、ダイキン工業製)とを質量比3:2で混合分散させたペーストを作製し、これを厚さ約0.2mmのカーボンペーパー(TGP−H−060、東レ製)にダイコート法にて塗工し含浸させた。乾燥後、さらに、2層目としてカーボンブラック(VGCF(商品名)、昭和電工製)と撥水剤(PTFE分散液D−1、ダイキン工業製)とを質量比3:2で混合分散させたペーストを作製し、ダイコート法にて塗工し含浸させた。乾燥後、380℃にて1時間焼成し、厚さ約0.3mm、密度7.8mg/cm2の拡散層材料2を得た。
【0036】
[拡散層材料3の作製]
カーボンブラック(デンカブラック、電気化学工業製)と撥水剤(PTFE分散液D−1、ダイキン工業製)とを質量比3:2で混合分散させたペーストを作製し、これを厚さ約0.2mmのカーボンペーパー(TGP−H−060、東レ製)にドクターブレード法にて塗工し含浸させた。乾燥後、380℃にて1時間焼成し、厚さ約0.3mm、密度6.5mg/cm2の拡散層材料3を得た。
【0037】
拡散層材料1〜3について、その「圧縮率」の程度を比較した。具体的には、各拡散層材料の、荷重をかけていないときの厚さを100とし、これに一定の面圧(1MPa、2MPa)にて押圧したときの厚みをn=10でそれぞれ測定し、平均した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、面圧の程度によりその圧縮の程度は異なるものの、拡散層材料1が最も高い圧縮率を有し、拡散層材料2が最も低い圧縮率を有していることがわかる。
【0040】
[単セル1の作製]
燃料極拡散層として上述した拡散層材料1を、酸化極拡散層として拡散層材料3を、それぞれ使用し、図2に示すような構成を有する単セル1を作製した。
【0041】
[単セル2の作製]
燃料極拡散層として拡散層材料2を使用したことを除き、単セル1と同様の構成を有する単セル2を作製した。
【0042】
[単セル3の作製]
燃料極拡散層として拡散層材料3を使用したことを除き、単セル1と同様の構成を有する単セル3を作製した。
【0043】
次に、単セル1〜3を組み合わせて、図1に示すような構成を有する燃料電池を作製した。
【0044】
[燃料電池1の作製]
図1において、燃料ガス供給口46の近傍側である、燃料ガス供給マニホールド64の上流側に単セル1を、燃料ガス供給口46から離間する、燃料ガス供給マニホールド64の下流側に単セル2をそれぞれ設け、さらにその中間に単セル3を積層させた燃料電池1を作製した。なお、セルスタックを構成する単セルの総積層枚数は10枚とし、うち単セル1,2はそれぞれ2枚ずつとした。また、エンドセル60,62締結時における、単セル積層方向への面圧は1MPaに設定した。
【0045】
[燃料電池2の作製]
単セル1に代えて単セル2を、単セル2に代えて単セル1を、それぞれ用いたことを除き、燃料電池1と同様の構成を有する燃料電池2を作製した。
【0046】
[燃料電池3の作製]
すべての単セルを単セル3としたことを除き、燃料電池1と同様の構成を有する燃料電池3を作製した。
【0047】
なお、以下の説明において、それぞれ10枚の単セルを積層させた燃料電池1〜3における、燃料ガス供給マニホールド64の最上流側の単セルをセルナンバー1、燃料ガス供給マニホールド64の最下流側の単セルをセルナンバー10、その中間に配置された単セルも同様にセルナンバー2〜9と称する。
【0048】
[燃料電池性能の評価]
・ 燃料ガス利用率限界試験
[実施例1]
作製した燃料電池1を用い、燃料ガスとして、純水素ガスを、酸化ガスとして、空気を、それぞれ使用し、酸化ガス利用率を一定とした場合に、燃料ガス利用率を段階的に上げていき、どの程度まで安定した電池性能が発揮できるかを評価した。測定条件は、次の通りである:電流密度=0.078A/cm2、酸化ガス利用率=50%、露点温度(アノード/カソード)=60℃/65℃、(冷却水温度)セルスタックへの入口温度=71℃,セルスタックからの出口温度=72℃。なお、測定は、各燃料ガス利用率において10分間連続運転し、そのときのセルナンバー1,5,10の単セルにおける平均セル電圧と、標準偏差をσとしたときの最大の3σの値(3σmax)をそれぞれ算出した。表2に結果を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2によれば、燃料ガスの利用率80%まで安定した運転が行われていることがわかる。
【0051】
[比較例1]
燃料電池2を用いたことを除き、実施例1と同様の試験を行った。表3に結果を示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、燃料ガスの利用率80%では安定した運転を行うことができなかった。
【0054】
[比較例2]
燃料電池3を用いたことを除き、実施例1と同様の試験を行った。セル電圧および3σmaxの測定はセルナンバー5のみとし、その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4に示すように、燃料ガスの利用率80%ではセル電圧のばらつきが大きく、安定した運転を行うことができなかった。
【0057】
・ 酸化ガス利用率限界試験
[実施例2]
燃料電池1を用い、燃料ガスとして、純水素ガスを、酸化ガスとして、空気を、それぞれ使用し、燃料ガス利用率を一定とした場合に、酸化ガス利用率を段階的に上げていき、どの程度まで安定した電池性能が発揮できるかを評価した。測定条件は、次の通りである:電流密度=0.078A/cm2、燃料ガス利用率=70%、露点温度(アノード/カソード)=60℃/65℃、(冷却水温度)セルスタックへの入口温度=71℃,セルスタックからの出口温度=72℃。なお、測定は、各酸化ガス利用率において10分間連続運転し、そのときのセルナンバー1,5,10の単セルにおける平均セル電圧と、標準偏差をσとしたときの最大の3σの値(3σmax)をそれぞれ算出した。表5に結果を示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5によれば、酸化ガスの利用率65%まで安定した運転が行われていることがわかる。
【0060】
[比較例3]
燃料電池2を用いたことを除き、実施例2と同様の試験を行った。表6に結果を示す。
【0061】
【表6】
【0062】
表6に示すように、酸化ガスの利用率55%では安定した運転を行うことができなかった。
【0063】
[比較例4]
燃料電池3を用いたことを除き、実施例2と同様の試験を行った。セル電圧および3σmaxの測定はセルナンバー5のみとし、その結果を表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
表7に示すように、燃料ガスの利用率65%では、安定した運転を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、特に、単セルを複数積層させてなるセルスタックを備える燃料電池において好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】燃料電池の構成の概略を示す模式図である。
【図2】図1に示す単セル50a,50bの要部について、その構成の概略を示す拡大図である。
【図3】燃料極拡散層と燃料ガス流路溝との間に形成される燃料ガス流路の形状について説明する図である。
【図4】単セルの要部の構成について示す概略図である。
【図5】従来の燃料電池の構成の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0068】
10 電解質膜、12 酸化極触媒層、14 燃料極触媒層、18,38,118 燃料極拡散層、18a,38a 拡散層材料、20 酸化ガス流路溝、22 セル冷媒流路溝、24 燃料ガス流路溝、26 酸化極側セパレータ、28 燃料極側セパレータ、30 膜電極接合体(MEA)、34,44,134 燃料ガス流路、36 セル冷媒流路、40,42 垂れ込み、46 燃料ガス供給口、48 燃料ガス排出口、50,50a,50b,150,150a,150b 単セル、52,54 集電板、56,58 絶縁板、60,62 エンドプレート、64 燃料ガス供給マニホールド、68 燃料ガス排出マニホールド、100,500 燃料電池、116 酸化極拡散層、132 酸化ガス流路、164 反応ガス供給マニホールド、168 反応ガス排出マニホールド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜および前記電解質膜を挟んで対面する一対の触媒層を含む膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟んで対面する一対の拡散層と、を備える単セルを、複数積層させてなるセルスタックと、
前記セルスタックの内部に反応ガスを供給するための反応ガス供給口を備え、前記セルスタックを貫通する反応ガス供給マニホールドと、
前記反応ガス供給マニホールドから供給された前記反応ガスを前記単セルのそれぞれに分配し、前記触媒層に流通させるための反応ガス流路と、
前記反応ガス流路を介して前記拡散層と対面するセパレータと、
を備え、
前記反応ガス供給口の近傍であって、前記反応ガス供給マニホールドの上流側に設けられた単セル内の拡散層を構成する第1の拡散層材料が、前記反応ガス供給口から離間する、前記反応ガス供給マニホールドの下流側に設けられた単セル内の拡散層を構成する第2の拡散層材料よりも高い圧縮率を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記第1の拡散層材料からなる拡散層と対面する第1のセパレータの表面に形成された反応ガス流路溝が、前記第2の拡散層材料からなる拡散層と対面する第2のセパレータの表面に形成された反応ガス流路溝と同じ形状を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池において、
前記第1の拡散層材料が、抄紙用の網状部材に導電性繊維を含む分散液を透過させ、前記網状部材に前記導電性繊維を堆積させる抄紙法を含み形成された抄紙様基材であることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池において、
前記第2の拡散層材料が、抄紙法で形成された基材を炭化、黒鉛化したカーボンペーパーであることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池において、
前記一対の拡散層が、前記反応ガスとして酸化ガスを用いる酸化極拡散層と、前記反応ガスとして燃料ガスを用いる燃料極拡散層とからなり、
前記第1の拡散層材料および前記第2の拡散層材料が、燃料極拡散層を構成する拡散層材料であることを特徴とする燃料電池。
【請求項1】
電解質膜および前記電解質膜を挟んで対面する一対の触媒層を含む膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟んで対面する一対の拡散層と、を備える単セルを、複数積層させてなるセルスタックと、
前記セルスタックの内部に反応ガスを供給するための反応ガス供給口を備え、前記セルスタックを貫通する反応ガス供給マニホールドと、
前記反応ガス供給マニホールドから供給された前記反応ガスを前記単セルのそれぞれに分配し、前記触媒層に流通させるための反応ガス流路と、
前記反応ガス流路を介して前記拡散層と対面するセパレータと、
を備え、
前記反応ガス供給口の近傍であって、前記反応ガス供給マニホールドの上流側に設けられた単セル内の拡散層を構成する第1の拡散層材料が、前記反応ガス供給口から離間する、前記反応ガス供給マニホールドの下流側に設けられた単セル内の拡散層を構成する第2の拡散層材料よりも高い圧縮率を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記第1の拡散層材料からなる拡散層と対面する第1のセパレータの表面に形成された反応ガス流路溝が、前記第2の拡散層材料からなる拡散層と対面する第2のセパレータの表面に形成された反応ガス流路溝と同じ形状を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池において、
前記第1の拡散層材料が、抄紙用の網状部材に導電性繊維を含む分散液を透過させ、前記網状部材に前記導電性繊維を堆積させる抄紙法を含み形成された抄紙様基材であることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池において、
前記第2の拡散層材料が、抄紙法で形成された基材を炭化、黒鉛化したカーボンペーパーであることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池において、
前記一対の拡散層が、前記反応ガスとして酸化ガスを用いる酸化極拡散層と、前記反応ガスとして燃料ガスを用いる燃料極拡散層とからなり、
前記第1の拡散層材料および前記第2の拡散層材料が、燃料極拡散層を構成する拡散層材料であることを特徴とする燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2009−252442(P2009−252442A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97081(P2008−97081)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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