燃料電池
【課題】供給ガス流路からの排水量を適切に制御し、発電効率を向上させることが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】膜−電極接合体30と、膜−電極接合体30を挟持する一対のガス拡散層40、42と、一対のガス拡散層40、42を挟持する一対のセパレータ44、46と、を備え、一対のセパレータ44、46の少なくとも一方において、上流端が供給マニホールド50に連通し、下流端が排水路70に連通する供給ガス流路52(第1ガス流路)と、供給ガス流路52(第1ガス流路)から排水路70への連通部72に配置され、連通部72における流路断面積を増減可能な増減手段と、が設けられている。
【解決手段】膜−電極接合体30と、膜−電極接合体30を挟持する一対のガス拡散層40、42と、一対のガス拡散層40、42を挟持する一対のセパレータ44、46と、を備え、一対のセパレータ44、46の少なくとも一方において、上流端が供給マニホールド50に連通し、下流端が排水路70に連通する供給ガス流路52(第1ガス流路)と、供給ガス流路52(第1ガス流路)から排水路70への連通部72に配置され、連通部72における流路断面積を増減可能な増減手段と、が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及び酸素を燃料として電気エネルギーを得るための装置である。燃料電池は、エネルギーへの変換効率が高く、環境面においても優れていることから、今後のエネルギー供給システムとして広く開発が進められている。
【0003】
一般的な燃料電池は、電解質膜及び触媒層を有する膜−電極接合体と、膜−電極接合体に隣接して設けられたガス拡散層と、ガス流路が形成されたセパレータと、を備えている。従来から、ガス拡散層にガスを供給する供給流路と、ガス拡散層からガスを回収する排出流路とが、所定間隔をおいて交互に形成された櫛型のガス流路が知られている。
【0004】
また、このような櫛型のガス流路において、供給ガス流路の先端部に排水路を設け、当該排水路への入口の一部を多孔質体で塞いだガス流路が知られている(特許文献1)。この構成によれば、多孔質体の両面側の圧力を調節することにより、供給ガス流路の先端部から水のみを排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−166545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した櫛型のガス流路では、供給ガス流路の先端部が行き止まりとなっており、水が溜まりやすくなっている。供給ガス流路の先端部に水が溜まると、供給ガス流路からガス拡散層へのガスの拡散が阻害され、発電効率が低下してしまうという問題が生じる。
【0007】
特許文献1に記載の技術によれば、供給ガス流路の先端部に設けられた排水路から排水を行うことにより、水が溜まることを抑制することができる。しかし、この構成では供給ガス流路の先端部から常に排水が行われるため、過剰な排水により電解質膜が乾燥し、かえって発電効率が低下してしまう場合があった。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、供給ガス流路からの排水量を適切に制御することにより、発電効率を向上させることのできる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本燃料電池は、膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体を挟持する一対のガス拡散層と、前記一対のガス拡散層を挟持する一対のセパレータと、を備えている。また、前記一対のセパレータの少なくとも一方の前記ガス拡散層側の面において、上流端が供給マニホールドに連通し、下流端が排水路に連通する溝状の第1ガス流路と、前記第1ガス流路から前記排水路への連通部に配置され、前記連通部における流路断面積を増減可能な増減手段と、が設けられている。本構成によれば、連通部に備えられた増減手段により流路断面積を調節することで、第1ガス流路から排水路への排水量を適切な量に制御することができる。これにより、第1供給ガス流路の先端部における水の滞留及び電解質膜の乾燥の両方を抑制することができるため、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1ガス流路を有する前記セパレータの前記ガス拡散層側の面において、下流端が排出マニホールドに連通し、上流端が行き止まりとなる溝状の第2ガス流路が設けられている構成とすることができる。このように、本発明は櫛型のガス流路を備えた燃料電池に対し特に好適である。
【0011】
上記構成において、前記増減手段は、前記第1ガス流路の下流端における相対湿度、または前記相対湿度を推定可能なパラメータに基づいて、自律的に流路断面積の増減を行う構成とすることができる。本構成によれば、増減手段を制御するための機構を設ける必要がないため、部品点数を低減することができる。
【0012】
上記構成において、前記第1ガス流路の下流端における相対湿度、または前記相対湿度を推定可能なパラメータを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記相対湿度または前記パラメータに基づいて、前記増減手段による流路断面積の増減を制御する制御手段と、を有する構成とすることができる。本構成によれば、制御手段により増減手段を制御することにより、より適切に流路断面積の調節を行うことができる。
【0013】
上記構成において、前記パラメータは、前記第1ガス流路の下流端における温度、前記第1ガス流路または前記第2ガス流路におけるガス圧力、前記第1ガス流路または前記第2ガス流路におけるガス流量、前記燃料電池の出力電流、及び前記燃料電池の出力電圧のうち少なくとも1つである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、供給ガス流路からの排水量を適切に制御することにより、発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図2】図2は、図1における連通部の拡大図である。
【図3】図3は、実施例2に係る燃料電池における連通部の拡大図である。
【図4】図4は、実施例3に係る燃料電池における連通部の拡大図である。
【図5】図5は、実施例3の変形例に係る連通部の拡大図である。
【図6】図6は、実施例4に係る燃料電池システムの構成を示した図である。
【図7】図7は、実施例4に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図8】図8は、図7における連通部の拡大図である。
【図9】図9は、実施例4に係る燃料電池システムの動作を示したフローチャートである。
【図10】図10は、実施例5に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図11】図10における連通部の拡大図である。
【図12】図12は、実施例6に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図13】図13は、図12における制御バーの構成を示した図である。
【図14】図14は、実施例6の変形例に係る制御バーの構成を示した図である。
【図15】図15は、実施例7に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図16】図16は、図15における制御バーの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用い本発明に係る実施例について説明する。
【実施例1】
【0017】
図1(a)は、実施例1に係る燃料電池10の断面模式図である。図1(a)においては、燃料電池10として単セルが図示されている。燃料電池10は、膜−電極接合体30と、膜−電極接合体30を挟持する一対のガス拡散層(アノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42)と、ガス拡散層40及び42を挟持する一対のセパレータ(アノードセパレータ44及びカソードセパレータ46)とを備えている。膜−電極接合体30は、電解質膜32と、アノード触媒層34と、カソード触媒層36とを含む。電解質膜32としては、例えばプロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜(例えば、パーフルオロスルホン酸膜等)を用いることができる。
【0018】
アノード触媒層34及びカソード触媒層36は、電解質膜32を挟持するように配置されている。アノード触媒層34に含まれる触媒は、水素のプロトン化を促進させ、カソード触媒層36に含まれる触媒は、プロトンと酸素との反応を促進させる。アノード触媒層34及びカソード触媒層36の触媒としては、例えば白金を用いることができる。例えば、アノード触媒層34及びカソード触媒層36は、白金担持カーボン等を含む。
【0019】
アノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42は、導電性及びガス拡散性を有する。アノードガス拡散層40は、水素を含むアノードガスを拡散させ、アノード触媒層34に供給する機能を有する。カソードガス拡散層42は、酸素を含むカソードガスを拡散させ、カソード触媒層36に供給する機能を有する。アノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42としては、例えばカーボンペーパ、カーボンクロス等のカーボン繊維を用いることができる。
【0020】
アノードセパレータ44及びカソードセパレータ46は、それぞれアノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42と接して配置されている。また、アノードセパレータ44及びカソードセパレータ46には、後述するようにアノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42のそれぞれにガスを供給するためのガス流路が形成されている。
【0021】
図1(b)は、カソードセパレータ46を膜−電極接合体30側から見た図である。図1(c)は、カソードセパレータ46を図1(b)のA−A線方向から見た断面図である。図1(c)に示すように、カソードセパレータ46のカソードガス拡散層42側の面には、溝状の凹部が形成されている。この凹部とカソードガス拡散層42とによって区画された領域は、カソードガスが流動するためのガス流路として機能する。後述する供給マニホールド50、供給ガス流路52、排出マニホールド60、及び排出ガス流路62は、この溝状の凹部によって形成されている。
【0022】
図1(b)に示すように、本実施例では、供給マニホールド50から分岐する複数の供給ガス流路52(第1ガス流路)と、排出マニホールド60から分岐する複数の排出ガス流路62(第2ガス流路)とが交互に噛み合うことにより、対向する櫛型のガス流路が形成されている。供給マニホールド50の上流端はガスの供給口54に連通し、排出マニホールド60の下流端はガスの排出口64に連通している。
【0023】
供給ガス流路52は、カソードガス拡散層42にガスを供給するための流路であり、その上流端は供給マニホールド50に連通している。典型的な櫛型流路では、供給ガス流路52の下流端は閉塞されている場合が多いが、本実施例の燃料電池10では、供給ガス流路52の下流端は排水路70に連通している。排出ガス流路62は、カソードガス拡散層42からガスを回収・排出するための流路であり、その上流端は閉塞され、下流端は排出マニホールド60に連通している。供給ガス流路52と排出ガス流路62とは、所定間隔をおいて交互に形成されている。
【0024】
排水路70は、供給ガス流路52に溜まった水を排出するための流路であり、その上流端は供給ガス流路52の下流端に連通している。本実施例では、排水路70の下流端は排出マニホールド60に連通しているが、排水の目的を果たすことができるものであれば他の構成であってもよい。例えば、排水路70が排出ガス流路62及び排出マニホールド60から独立した構成となっていてもよい。
【0025】
供給ガス流路52から排水路70に通ずる連通部72には、調節弁74が設けられている。調節弁74は、連通部72における流路断面積を増減することのできる増減手段として機能する。これにより、連通部72における流路面積が調節され、供給ガス流路52から排水路70へ排出される水の量が調節される。なお、調節弁74は、連通部72を閉じることもできる。従って、調節弁74は、連通部72の開閉手段としても機能する。
【0026】
図2(a)及び(b)は、図1(b)における連通部72付近の拡大図である。調節弁74は、熱膨張率が比較的高い第1金属板74aと、第1金属板74aより熱膨張率が低い第2金属板74bとが張り合わされたバイメタルであり、その一端が供給ガス流路52及び排水路70の境界の壁面に固定されている。また、調節弁74の向きは、ガスの流動方向に対し斜めになるように調節され、熱膨張率の高い第1金属板74aが、調節弁74が固定された壁面に近い側に配置されている。
【0027】
調節弁74は、連通部72における温度変化に応じて、2枚の金属板74a及び74bの熱膨張率の差異に起因して湾曲し、連通部72における流路断面積を増減させる。連通部72における温度が高い時には、第1金属板74aの膨張量が第2金属板74bの膨張量に比較して大きいことから、調節弁74は、図2(a)のように矢印Aの方向に曲がる。これにより、連通部72の流路断面積が減少する。このとき、流路断面積は0(供給ガス流路52から排水路70への入口を完全に閉鎖された状態)となってもよい。一方、連通部72における温度が低い時には、第1金属板74aの収縮量が第2金属板74bの収縮量に比較して大きいことから、調節弁74は、図2(b)のように矢印Bの方向に曲がる。これにより、連通部72の流路断面積が増加する。
【0028】
従来の燃料電池では、供給ガス流路52の下流端(従来は行き止まりであった部分)に水が溜まることにより、ガスの拡散が不十分となることが問題となっていた。また、供給ガス流路の下流端に排水路が設けられた燃料電池では、過剰に排水が行われることによるドライアップが問題となっていた。
【0029】
本実施例の燃料電池10では、供給ガス流路52の下流端に連通する排水路70が設けられ、さらに供給ガス流路52から排水路70に通ずる連通部72に調節弁74が設けられている。調節弁74は、前述のように、連通部72の温度に応じて流路断面積を調節可能に設定されている。これにより、供給ガス流路52からの排水量が適切に制御される。
【0030】
具体的に、燃料電池10が高温状態(高出力)にある場合は、水分の蒸発が促進されることから、供給ガス流路52の下流端における残留液水は少ない(すなわち、水があまり溜まっていない)と推定される。このとき、調節弁74は連通部72の流路断面積を減少させ(または、連通部72を完全に閉鎖して)、供給ガス流路52からの排水量を減少させる。これにより、燃料電池10のドライアップを抑制することができる。また、連通部72の流路断面積が小さくなることにより、供給ガス流路52の下流端は行き止まり状態またはそれに近い状態となる。これにより、供給ガス流路52からカソードガス拡散層42へのガスの浸透が促進され、カソードガス拡散層42に対するガスの供給効率を向上させることができる。
【0031】
一方、燃料電池10が低温状態(低出力)にある場合は、水分の蒸発があまり行われないことから、供給ガス流路52の下流端における残留液水は多め(すなわち、水が多く溜まっている)と推定される。このとき、調節弁74は連通部72の流路断面積を増加させ、供給ガス流路52からの排水量を増加させる。これにより、供給ガス流路52の下流端に水が滞留することによるガス拡散能力の低下を抑制することができる。
【0032】
以上のように、本実施例の燃料電池10では、調節弁74が存在することにより、供給ガス流路52からの排水量が温度に基づいて調節される。また、連通部72の温度及び相対湿度(水の溜まり具合)は、互いに関連する。従って、バイメタルからなる調節弁74を用いることにより、調節弁74が供給ガス流路52の下流端における液水量を間接的に感知し、自律的に排水量の調節を行うことが可能となる。その結果、燃料電池10の水分量を適切に制御し、発電効率を向上させることができる。
【0033】
なお、本実施例及び以下の実施例では、カソードセパレータ46に排水路70及び調節弁74を設ける例について説明したが、同様の構成をアノードセパレータ44に対して適用し、同様の効果を得ることも可能である。ただし、電解質膜32に固体高分子を用いる場合、特にカソード側のガス流路において水の発生及び滞留が問題となるため、本実施例及び以下の実施例の構成は、カソード側のセパレータにおいて特に好適である。
【実施例2】
【0034】
実施例2は、実施例1と異なる形態の調節弁を用いる例である。実施例2の燃料電池10は、調節弁74Aの形状が実施例1と異なるのみであり、その他の構成は共通である(図1(b)参照)。従って、共通の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0035】
図3(a)及び(b)は、連通部72付近の拡大図である。図3(a)は閉弁状態(流路断面積が小さい状態)を示し、図3(b)は開弁状態(流路断面積が大きい状態)を示す。本実施例の調節弁74Aは、熱膨張係数の比較的大きい材質(例えば、樹脂、ゴム等)から構成される。調節弁74Aは、その一端が連通部72の側壁に固定され、ガスの流動方向に対して略垂直方向に配置されている。
【0036】
連通部72の温度が高い場合は、調節弁74Aは流路に対し略垂直方向に伸張し、流路断面積を減少させる。これにより、供給ガス流路52からの排水量が減少する。図3(a)では、流路が閉塞されているが、温度が上がるにつれ流路断面積が低減する構成となっていればよい。一方、連通部72の温度が低い場合は、調節弁74Aは流路に対し略垂直方向に縮小し、流路断面積を増加させる。これにより、供給ガス流路52からの排水量が増加する。
【0037】
以上のように、増減手段として調節弁74Aを用いた場合でも、実施例1と同様に、温度に応じて流路断面積を自律的に増減させることができる。これにより、供給ガス流路の下端部からの排水量を適切に調節し、発電効率を向上させることができる。
【実施例3】
【0038】
実施例3は、実施例1〜2と異なる形態の調節弁を用いる例である。実施例3の燃料電池10は、調節弁74Bの形状が実施例1と異なるのみであり、その他の構成は共通である(図1(b)参照)。従って、共通の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0039】
図4(a)及び(b)は、連通部72付近の拡大図である。図4(a)は開弁状態(流路断面積が大きい状態)を示し、図4(b)は閉弁状態(流路断面積が小さい状態)を示す。本実施例では、排水路70の一端が供給ガス流路52の下流端近傍へ連通し、他端が排出ガス流路62の下流端近傍へと連通する構成となっている。換言すれば、供給マニホールド50からの供給ガス流路52の突出方向(以下、X方向と称する)に対し、交差する方向(以下、Y方向と称する)に排水路70が形成されている。
【0040】
供給ガス流路52の下流端には、行き止まり部73が形成されている。本実施例の調節弁74Bの主面は、行き止まり部73の壁面に固定されている。調節弁74Bは、熱膨張率の比較的大きい材質(例えば、樹脂、ゴム等)からなり、温度変化に応じてX方向に伸縮自在となっている。
【0041】
連通部72の温度が高い場合は、調節弁74BはX方向に伸張し、排水路70の入口を塞ぐ(図4(a))。これにより、供給ガス流路52からの排水量が減少する。一方、連通部72の温度が低い場合は、調節弁74BはX方向に縮小し、排水路70の入口を開く(図4(b))。これにより、供給ガス流路52からの排水量が増加する。
【0042】
以上のように、供給ガス流路52の突出方向に対し交差する方向に排水路を設けた場合でも、実施例1〜2と同様に流路断面積を自律的に増減させることができる。
【0043】
図5は、実施例3の変形例を示した図である。この変形例では、供給ガス流路52の下流端近傍から排出ガス流路62の下流端近傍へと連通する第1排水路70の他に、供給ガス流路52の上流端近傍から排出ガス流路62の上流端近傍へと連通する第2排水路70が形成されている。また、供給ガス流路52の行き止まり部73には第1調節弁74B1が設けられ、排出ガス流路62の行き止まり部73には第2調節弁74B2が設けられている。
【0044】
この変形例によれば、実施例3(図4(a)〜(b))と同様に調節弁74B1及び74B2が温度変化に応じて変形することで、供給ガス流路52から排出ガス流路62への排水量が調節される。また、第2の排水路70が設けられていることにより、供給ガス流路52からの排水量が実施例3に比べて増加する。従って、本変形例は供給ガス流路52に水が多く溜まりやすい場合に特に好適である。
【実施例4】
【0045】
実施例4は、供給ガス流路の下流端における水の溜まり具合を何らかの方法により取得し、その取得結果に基づいて連通部における流路断面積の増減を行う制御機構を備えた例である。
【0046】
図6は、実施例4に係る燃料電池システム100の構成を示した図である。燃料電池システム100は、複数の単セルが積層されて構成された燃料電池10を有する。燃料電池10には、アノードガス供給手段12、カソードガス供給手段13、冷却水供給手段14、並びに出力を測定するための電流計15及び、電圧計16が接続されている。また、冷却水通路17には、冷却水の温度を測定するための温度計18が接続されている。また、本実施例の燃料電池10は、燃料電池10の連通部72における流路面積を増減させる増減手段としての駆動部80と、当該駆動部80を制御するための制御部20とを備えている。制御部20は、電流計15、電圧計16、温度計18、及び湿度計19に接続されており、これらの出力信号を取得する。
【0047】
図7は、図6の燃料電池システム100のうち、燃料電池10を構成する単セル、及びその周辺装置の構成を示した図である。駆動部80は、複数のパイプ81を有し、それぞれのパイプ81の先端には弾性体82が取り付けられている。弾性体82は、供給ガス流路52から排出マニホールド60(排水路)への連通部分に位置するように配置される。パイプ81の基端側は集合パイプ83へと接続され、集合パイプ83は圧力印加部84へと接続されている。圧力印加部84により、集合パイプ83及びパイプ81内の圧力が変化し、その圧力変化に伴いパイプ81の先端に取り付けられた弾性体82が変形する。
【0048】
図8(a)及び(b)は、連通部72付近の拡大図である。図8(a)の状態では、圧力印加部84からパイプ81に印加される圧力が小さいため、弾性体82は収縮し、供給ガス流路52から排出マニホールド60への連通部72が開口する。このため、供給ガス流路52の下流端からの排水量は比較的多くなる。
【0049】
一方、図8(b)の状態では、圧力印加部84からパイプ81へ印加される圧力が大きいため、弾性体82は膨張し、連通部72が閉塞する。このため、供給ガス流路52の下流端からの排水量は比較的少なくなる。このように、制御部20が圧力印加部84を制御することにより、連通部72の流路断面積を変化させ、供給ガス流路52の下流端からの排水量を調節することができる。
【0050】
図9は、実施例4に係る燃料電池システム100の動作を示したフローチャートである。最初に、制御部20が供給ガス流路52の下流端における相対湿度、または当該相対湿度を推定可能なパラメータを取得する(ステップS10)。次に、制御部20は相対湿度の大小を判定する(ステップS12)。相対湿度が設定値より大きい場合には、制御部20は排水量を増加させる(ステップS14)。具体的には、圧力印加部84によりパイプ81内の圧力を増大させる。相対湿度が設定値より小さい場合には、制御部20は排水量を減少させる(ステップS16)。具体的には、圧力印加部84によりパイプ81内の圧力を減少させる。
【0051】
ステップS10における目的は、供給ガス流路52の下流端(連通部72)における水の溜まり具合を把握することにある。水の溜まり具合は、直接的には連通部72の相対湿度を測定することにより得られる。連通部72の相対湿度を測定する方法としては、例えば弾性体82の先端に湿度計19を取り付ける方法等が考えられる。
【0052】
連通部72の残留水量は、既に述べたように連通部72の温度により推定することができる(高温の場合は設定湿度より低く、低温の場合は設定湿度より高いと推定される)。連通部72の温度は、例えば図1の温度計18により測定される冷却水の温度(燃料電池10の温度)から算出することができる。また、例えば弾性体82の先端に熱電対センサを設け、連通部72の温度を直接測定することもできる。
【0053】
また、連通部72の湿度は、燃料電池10の出力(負荷)から推定することもできる。燃料電池10の出力とは、例えば図1の電流計15により測定される出力電圧や、電圧計16により測定される出力電流を指す。燃料電池10の出力が大きい場合には、燃料電池10の温度は高くなるため、連通部72における相対湿度は小さいと推定される。一方、燃料電池10の出力が小さい場合には、燃料電池10の温度は低くなるため、連通部72における相対湿度は大きいと推定される。
【0054】
また、連通部72の湿度は、ガス流量により推定することもできる。ガス流量は、例えばガスの排出口にガス流量計を設けることにより測定することができる。ガス流量が大きい場合には、連通部72における相対湿度は設定値より小さいと推定され、ガス流量が小さい場合には、連通部72における相対湿度は設定値より大きいと推定される。
【0055】
以上のように、制御部20は様々な方法で連通部72における相対湿度を直接的または間接的に取得することができる。従って、図6において、電流計15、電圧計16、温度計18、及び湿度計19は、必ずしも設けられていなくてもよい。そして、相対湿度が大きい場合には供給ガス流路52からの排水量を増加させ、相対湿度が小さい場合には排水量を減少させる(図9ステップS14、S16)。これにより、供給ガス流路52の下流端における水の溜まり具合に応じて排水量を調節することができるため、燃料電池10内の水分量を適切に保ち、発電効率を向上させることができる。
【実施例5】
【0056】
実施例5は、実施例4とは異なる構成の駆動部80Aを用いる例である。図10は、実施例5に係る燃料電池の構成を示した図であり、実施例4の図7に対応するものである。共通する構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。本実施例では、駆動部80の構成が実施例4と異なる。
【0057】
本実施例の駆動部80Aは、複数のロッド85を有し、それぞれのロッド85の先端には弁86が取り付けられている。弁86は、供給ガス流路52から排出マニホールド60(排水路)への連通部分に位置するように配置される。ロッド85の基端側は集合ロッド87へと接続され、集合ロッド87は動力部88へと接続されている。動力部88により、ロッド85は供給ガス流路52の突出方向(X方向)へと摺動し、その移動に伴い弁86もX方向へ摺動する。弁86の位置により、連通部72における流路断面積が変化する。
【0058】
図11(a)及び(b)は、連通部72付近の拡大図である。図11(a)の状態では、ロッド85及び弁86は供給ガス流路52から離れる方向に摺動し、供給ガス流路52から排出マニホールド60への連通部72が開口する。このため、供給ガス流路52の下流端からの排水量は比較的多くなる。一方、図11(b)の状態では、ロッド85及び弁86は供給ガス流路52へと近づく方向へと摺動し、連通部72が閉塞する。このため、供給ガス流路52の下流端からの排水量は比較的少なくなる。このように、制御部20が動力部88を制御することにより弁86の位置を変化させ、連通部72の流路断面積を変化させることができる。
【0059】
本実施例における燃料電池システム100の動作は、実施例4(図9)と同様である。このように、ロッド85、弁86、及び動力部88からなる駆動部80Aを用いた場合でも、供給ガス流路52の下流端における相対湿度(または、相対湿度を推定可能なパラメータ)に基づいて、供給ガス流路52の下流端からの排水量を調節することができる。
【実施例6】
【0060】
実施例6は、実施例1〜5とは異なる増減手段を設けた例である。
【0061】
図12(a)〜(b)は、実施例6に係る燃料電池の構成を示した図であり、実施例1の図1(b)に対応するものである。本実施例では、連通部72における流路断面積を増減可能な増減手段として、連通部72に制御バー90が配置されている。供給ガス流路52は、制御バー90を介して排水路70と連通している。
【0062】
図13は、制御バー90の詳細な構成を示した図である。制御バー90には、供給ガス流路52の下流端を排水路70に連通するための第1貫通孔91aと、排出ガス流路62の下流端を排出マニホールド60に連通するための第2貫通孔91bとが交互に形成されている。第1貫通孔91aの大きさは、第2貫通孔91bより小さくなることが好ましい。また、第2貫通孔91bの大きさは、後述する制御バー90の摺動により、排出ガス流路62から排出マニホールド60へのガス及び水の排出量に実質的な影響を与えない程度の大きさであることが好ましい。具体的には、第2貫通孔91bの大きさは、排出ガス流路62の流路断面積より大きいことが好ましい。
【0063】
また、制御バー90の一端にはサーモスタット92が取り付けられ、制御バー90の他端には吸水性樹脂93が取り付けられている。燃料電池の温度が高い(湿度が低い)場合には、サーモスタット92は膨張し、吸水性樹脂93は収縮する。これにより、制御バー90は矢印Aの方向へと移動する(この位置を第1位置とする)。一方、燃料電池の温度が低い(湿度が高い)場合には、サーモスタット92は収縮し、吸水性樹脂93は膨張する。これにより、制御バー90は矢印Bの方向へと移動する(この位置を第2位置とする)。
【0064】
本実施例では、制御バー90の初期位置及び貫通孔の大きさが、以下の条件を満たすように定められる。すなわち、制御バー90が第1位置にある場合は、第1貫通孔91aが供給ガス流路52から外れた場所に位置することにより連通部72が閉塞するように定められる(図12(a))。一方、制御バー90が第2位置にある場合は、第1貫通孔91aが供給ガス流路52の下流端に位置することにより連通部72が開放するように定められる(図12(b))。
【0065】
以上のように、本実施例では、燃料電池が高温で湿度が低い状態の場合は、制御バー90が第1位置に位置することにより排水量が減少する。一方、燃料電池が低温で湿度が低い状態の場合には、制御バーが第2位置に位置することにより排水量が増加する。このように、増減手段として制御バーを用いた場合でも、供給ガス流路52の相対湿度(及びそれに関連するパラメータ)に応じて、排水量の調節を行うことができる。
【0066】
実施例6では、サーモスタット92及び吸水性樹脂93を用いることにより、制御バー90の位置が自律的に変化する構成であったが、外部の駆動機構により制御バー90の位置を変化させてもよい。
【0067】
図14は、変形例に係る制御バー90周辺の構成を示した図である。実施例6(図13)と異なり、制御バー90の一端には、ステッピングモータ94に接続されたギア95が取り付けられている。ステッピングモータ94は、制御部20と電気的に接続されており、制御部20の指令により駆動する。制御部20は、図1と同様に様々なセンサからの出力を取得可能に構成されている。
【0068】
上記の構成によれば、制御部20がステッピングモータ94を制御することにより、制御バー90を矢印の方向に移動させ、第1貫通孔91aの位置を変化させることができる。これにより、供給ガス流路52の下流端からの排水量を精度良く調節することができる。なお、制御部20は、供給ガス流路52の下流端における相対湿度、またはそれに関連するパラメータに基づいて排水量の制御を行う。この点は、実施例3(図9)と同様である。
【実施例7】
【0069】
実施例6は、制御バーを用いて流路の切り替えを行う例である。
【0070】
図15(a)〜(b)は、実施例7に係る燃料電池のセパレータの詳細な構成を示した図であり、実施例1の図1(b)に対応するものである。本実施例では、供給マニホールド50と排出マニホールド60との間にある複数のガス流路53の上流端及び下流端のそれぞれに、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが設けられている。複数のガス流路53の上流端は、第1制御バー90aを介して供給マニホールド50に連通している。また、複数のガス流路53の下流端は、第2制御バー90bを介して排出マニホールド60に連通している。すなわち、本実施例では全てのガス流路が、供給マニホールド50及びは排出マニホールド60に連通しており、この点が排出ガス流路62の上流端が閉塞されていた実施例1〜6とは異なる。
【0071】
図16は、制御バー(第1制御バー90a及び第2制御バー90b)の構成を示した図である。制御バー90には、ガス流路53の流路断面積と略等しい断面積を持つ貫通孔91が、所定間隔をおいて複数形成されている。
【0072】
図15(a)は、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが第1位置にある状態を示す。このとき、複数のガス流路の一部(以下、第1ガス流路53aと称する)は、その上流端が第1制御バー90aを介して供給マニホールド50に接続され、下流端が第2制御バー90bにより閉塞された状態となっている。また、残りのガス流路(以下、第2ガス流路53bと称する)は、その上流端が第1制御バー90aにより閉塞され、下流端が第2制御バー90bを介して排出マニホールド60に接続された状態となっている。すなわち、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが第1位置にある場合、第1ガス流路53aが実施例1〜6における供給ガス流路52の役割を果たし、第2ガス流路53bが排出ガス流路62の役割を果たす。
【0073】
図15(b)は、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが第2位置にある状態を示す。このとき、第1ガス流路53aは、その上流端が第1制御バー90aにより閉塞され、下流端が第2制御バー90bを介して排出マニホールド60に接続された状態となっている。また、第2ガス流路53bは、その上流端が第1制御バー90aを介して供給マニホールド50に接続され、下流端が第2制御バー90bにより閉塞された状態となっている。すなわち、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが第2位置にある場合、第1ガス流路53aが排出ガス流路62の役割を果たし、第2ガス流路53bが供給ガス流路52の役割を果たす。
【0074】
以上のように、実施例7の燃料電池システム100によれば、第1制御バー90a及び第2制御バー90bの位置を変化させることにより、供給マニホールド50及び排出マニホールド60の間にある複数のガス流路53(第1ガス流路53a及び第2ガス流路53b)を、供給ガス流路52及び排出ガス流路62のいずれかに切り替えて使用することができる。これにより、例えば供給ガス流路52として使用されたガス流路53の下流端に水が溜まった場合は、それまでの供給ガス流路52を排出ガス流路62に切り替えることで、下流端が開放され、溜まった水が排出される。これにより、供給ガス流路の下流端に水が滞留することによる発電効率の低下を抑制することができる。
【0075】
なお、第1制御バー90a及び第2制御バー90bの位置制御は、図12(b)〜(c)のように環境に応じて自律的に行われる構成としてもよいし、図13のように制御部20により制御される構成としてもよい。いずれの方法においても、供給ガス流路52として使用されたガス流路53の下流端における水の滞留を抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0076】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 燃料電池
20 制御部
30 膜−電極接合体
50 供給マニホールド
52 供給ガス流路
60 排出マニホールド
62 排出ガス流路
70 排水路
72 連通部
74 調節弁
90 制御バー
100 燃料電池システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及び酸素を燃料として電気エネルギーを得るための装置である。燃料電池は、エネルギーへの変換効率が高く、環境面においても優れていることから、今後のエネルギー供給システムとして広く開発が進められている。
【0003】
一般的な燃料電池は、電解質膜及び触媒層を有する膜−電極接合体と、膜−電極接合体に隣接して設けられたガス拡散層と、ガス流路が形成されたセパレータと、を備えている。従来から、ガス拡散層にガスを供給する供給流路と、ガス拡散層からガスを回収する排出流路とが、所定間隔をおいて交互に形成された櫛型のガス流路が知られている。
【0004】
また、このような櫛型のガス流路において、供給ガス流路の先端部に排水路を設け、当該排水路への入口の一部を多孔質体で塞いだガス流路が知られている(特許文献1)。この構成によれば、多孔質体の両面側の圧力を調節することにより、供給ガス流路の先端部から水のみを排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−166545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した櫛型のガス流路では、供給ガス流路の先端部が行き止まりとなっており、水が溜まりやすくなっている。供給ガス流路の先端部に水が溜まると、供給ガス流路からガス拡散層へのガスの拡散が阻害され、発電効率が低下してしまうという問題が生じる。
【0007】
特許文献1に記載の技術によれば、供給ガス流路の先端部に設けられた排水路から排水を行うことにより、水が溜まることを抑制することができる。しかし、この構成では供給ガス流路の先端部から常に排水が行われるため、過剰な排水により電解質膜が乾燥し、かえって発電効率が低下してしまう場合があった。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、供給ガス流路からの排水量を適切に制御することにより、発電効率を向上させることのできる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本燃料電池は、膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体を挟持する一対のガス拡散層と、前記一対のガス拡散層を挟持する一対のセパレータと、を備えている。また、前記一対のセパレータの少なくとも一方の前記ガス拡散層側の面において、上流端が供給マニホールドに連通し、下流端が排水路に連通する溝状の第1ガス流路と、前記第1ガス流路から前記排水路への連通部に配置され、前記連通部における流路断面積を増減可能な増減手段と、が設けられている。本構成によれば、連通部に備えられた増減手段により流路断面積を調節することで、第1ガス流路から排水路への排水量を適切な量に制御することができる。これにより、第1供給ガス流路の先端部における水の滞留及び電解質膜の乾燥の両方を抑制することができるため、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1ガス流路を有する前記セパレータの前記ガス拡散層側の面において、下流端が排出マニホールドに連通し、上流端が行き止まりとなる溝状の第2ガス流路が設けられている構成とすることができる。このように、本発明は櫛型のガス流路を備えた燃料電池に対し特に好適である。
【0011】
上記構成において、前記増減手段は、前記第1ガス流路の下流端における相対湿度、または前記相対湿度を推定可能なパラメータに基づいて、自律的に流路断面積の増減を行う構成とすることができる。本構成によれば、増減手段を制御するための機構を設ける必要がないため、部品点数を低減することができる。
【0012】
上記構成において、前記第1ガス流路の下流端における相対湿度、または前記相対湿度を推定可能なパラメータを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記相対湿度または前記パラメータに基づいて、前記増減手段による流路断面積の増減を制御する制御手段と、を有する構成とすることができる。本構成によれば、制御手段により増減手段を制御することにより、より適切に流路断面積の調節を行うことができる。
【0013】
上記構成において、前記パラメータは、前記第1ガス流路の下流端における温度、前記第1ガス流路または前記第2ガス流路におけるガス圧力、前記第1ガス流路または前記第2ガス流路におけるガス流量、前記燃料電池の出力電流、及び前記燃料電池の出力電圧のうち少なくとも1つである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、供給ガス流路からの排水量を適切に制御することにより、発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図2】図2は、図1における連通部の拡大図である。
【図3】図3は、実施例2に係る燃料電池における連通部の拡大図である。
【図4】図4は、実施例3に係る燃料電池における連通部の拡大図である。
【図5】図5は、実施例3の変形例に係る連通部の拡大図である。
【図6】図6は、実施例4に係る燃料電池システムの構成を示した図である。
【図7】図7は、実施例4に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図8】図8は、図7における連通部の拡大図である。
【図9】図9は、実施例4に係る燃料電池システムの動作を示したフローチャートである。
【図10】図10は、実施例5に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図11】図10における連通部の拡大図である。
【図12】図12は、実施例6に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図13】図13は、図12における制御バーの構成を示した図である。
【図14】図14は、実施例6の変形例に係る制御バーの構成を示した図である。
【図15】図15は、実施例7に係る燃料電池の構成を示した図である。
【図16】図16は、図15における制御バーの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用い本発明に係る実施例について説明する。
【実施例1】
【0017】
図1(a)は、実施例1に係る燃料電池10の断面模式図である。図1(a)においては、燃料電池10として単セルが図示されている。燃料電池10は、膜−電極接合体30と、膜−電極接合体30を挟持する一対のガス拡散層(アノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42)と、ガス拡散層40及び42を挟持する一対のセパレータ(アノードセパレータ44及びカソードセパレータ46)とを備えている。膜−電極接合体30は、電解質膜32と、アノード触媒層34と、カソード触媒層36とを含む。電解質膜32としては、例えばプロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜(例えば、パーフルオロスルホン酸膜等)を用いることができる。
【0018】
アノード触媒層34及びカソード触媒層36は、電解質膜32を挟持するように配置されている。アノード触媒層34に含まれる触媒は、水素のプロトン化を促進させ、カソード触媒層36に含まれる触媒は、プロトンと酸素との反応を促進させる。アノード触媒層34及びカソード触媒層36の触媒としては、例えば白金を用いることができる。例えば、アノード触媒層34及びカソード触媒層36は、白金担持カーボン等を含む。
【0019】
アノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42は、導電性及びガス拡散性を有する。アノードガス拡散層40は、水素を含むアノードガスを拡散させ、アノード触媒層34に供給する機能を有する。カソードガス拡散層42は、酸素を含むカソードガスを拡散させ、カソード触媒層36に供給する機能を有する。アノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42としては、例えばカーボンペーパ、カーボンクロス等のカーボン繊維を用いることができる。
【0020】
アノードセパレータ44及びカソードセパレータ46は、それぞれアノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42と接して配置されている。また、アノードセパレータ44及びカソードセパレータ46には、後述するようにアノードガス拡散層40及びカソードガス拡散層42のそれぞれにガスを供給するためのガス流路が形成されている。
【0021】
図1(b)は、カソードセパレータ46を膜−電極接合体30側から見た図である。図1(c)は、カソードセパレータ46を図1(b)のA−A線方向から見た断面図である。図1(c)に示すように、カソードセパレータ46のカソードガス拡散層42側の面には、溝状の凹部が形成されている。この凹部とカソードガス拡散層42とによって区画された領域は、カソードガスが流動するためのガス流路として機能する。後述する供給マニホールド50、供給ガス流路52、排出マニホールド60、及び排出ガス流路62は、この溝状の凹部によって形成されている。
【0022】
図1(b)に示すように、本実施例では、供給マニホールド50から分岐する複数の供給ガス流路52(第1ガス流路)と、排出マニホールド60から分岐する複数の排出ガス流路62(第2ガス流路)とが交互に噛み合うことにより、対向する櫛型のガス流路が形成されている。供給マニホールド50の上流端はガスの供給口54に連通し、排出マニホールド60の下流端はガスの排出口64に連通している。
【0023】
供給ガス流路52は、カソードガス拡散層42にガスを供給するための流路であり、その上流端は供給マニホールド50に連通している。典型的な櫛型流路では、供給ガス流路52の下流端は閉塞されている場合が多いが、本実施例の燃料電池10では、供給ガス流路52の下流端は排水路70に連通している。排出ガス流路62は、カソードガス拡散層42からガスを回収・排出するための流路であり、その上流端は閉塞され、下流端は排出マニホールド60に連通している。供給ガス流路52と排出ガス流路62とは、所定間隔をおいて交互に形成されている。
【0024】
排水路70は、供給ガス流路52に溜まった水を排出するための流路であり、その上流端は供給ガス流路52の下流端に連通している。本実施例では、排水路70の下流端は排出マニホールド60に連通しているが、排水の目的を果たすことができるものであれば他の構成であってもよい。例えば、排水路70が排出ガス流路62及び排出マニホールド60から独立した構成となっていてもよい。
【0025】
供給ガス流路52から排水路70に通ずる連通部72には、調節弁74が設けられている。調節弁74は、連通部72における流路断面積を増減することのできる増減手段として機能する。これにより、連通部72における流路面積が調節され、供給ガス流路52から排水路70へ排出される水の量が調節される。なお、調節弁74は、連通部72を閉じることもできる。従って、調節弁74は、連通部72の開閉手段としても機能する。
【0026】
図2(a)及び(b)は、図1(b)における連通部72付近の拡大図である。調節弁74は、熱膨張率が比較的高い第1金属板74aと、第1金属板74aより熱膨張率が低い第2金属板74bとが張り合わされたバイメタルであり、その一端が供給ガス流路52及び排水路70の境界の壁面に固定されている。また、調節弁74の向きは、ガスの流動方向に対し斜めになるように調節され、熱膨張率の高い第1金属板74aが、調節弁74が固定された壁面に近い側に配置されている。
【0027】
調節弁74は、連通部72における温度変化に応じて、2枚の金属板74a及び74bの熱膨張率の差異に起因して湾曲し、連通部72における流路断面積を増減させる。連通部72における温度が高い時には、第1金属板74aの膨張量が第2金属板74bの膨張量に比較して大きいことから、調節弁74は、図2(a)のように矢印Aの方向に曲がる。これにより、連通部72の流路断面積が減少する。このとき、流路断面積は0(供給ガス流路52から排水路70への入口を完全に閉鎖された状態)となってもよい。一方、連通部72における温度が低い時には、第1金属板74aの収縮量が第2金属板74bの収縮量に比較して大きいことから、調節弁74は、図2(b)のように矢印Bの方向に曲がる。これにより、連通部72の流路断面積が増加する。
【0028】
従来の燃料電池では、供給ガス流路52の下流端(従来は行き止まりであった部分)に水が溜まることにより、ガスの拡散が不十分となることが問題となっていた。また、供給ガス流路の下流端に排水路が設けられた燃料電池では、過剰に排水が行われることによるドライアップが問題となっていた。
【0029】
本実施例の燃料電池10では、供給ガス流路52の下流端に連通する排水路70が設けられ、さらに供給ガス流路52から排水路70に通ずる連通部72に調節弁74が設けられている。調節弁74は、前述のように、連通部72の温度に応じて流路断面積を調節可能に設定されている。これにより、供給ガス流路52からの排水量が適切に制御される。
【0030】
具体的に、燃料電池10が高温状態(高出力)にある場合は、水分の蒸発が促進されることから、供給ガス流路52の下流端における残留液水は少ない(すなわち、水があまり溜まっていない)と推定される。このとき、調節弁74は連通部72の流路断面積を減少させ(または、連通部72を完全に閉鎖して)、供給ガス流路52からの排水量を減少させる。これにより、燃料電池10のドライアップを抑制することができる。また、連通部72の流路断面積が小さくなることにより、供給ガス流路52の下流端は行き止まり状態またはそれに近い状態となる。これにより、供給ガス流路52からカソードガス拡散層42へのガスの浸透が促進され、カソードガス拡散層42に対するガスの供給効率を向上させることができる。
【0031】
一方、燃料電池10が低温状態(低出力)にある場合は、水分の蒸発があまり行われないことから、供給ガス流路52の下流端における残留液水は多め(すなわち、水が多く溜まっている)と推定される。このとき、調節弁74は連通部72の流路断面積を増加させ、供給ガス流路52からの排水量を増加させる。これにより、供給ガス流路52の下流端に水が滞留することによるガス拡散能力の低下を抑制することができる。
【0032】
以上のように、本実施例の燃料電池10では、調節弁74が存在することにより、供給ガス流路52からの排水量が温度に基づいて調節される。また、連通部72の温度及び相対湿度(水の溜まり具合)は、互いに関連する。従って、バイメタルからなる調節弁74を用いることにより、調節弁74が供給ガス流路52の下流端における液水量を間接的に感知し、自律的に排水量の調節を行うことが可能となる。その結果、燃料電池10の水分量を適切に制御し、発電効率を向上させることができる。
【0033】
なお、本実施例及び以下の実施例では、カソードセパレータ46に排水路70及び調節弁74を設ける例について説明したが、同様の構成をアノードセパレータ44に対して適用し、同様の効果を得ることも可能である。ただし、電解質膜32に固体高分子を用いる場合、特にカソード側のガス流路において水の発生及び滞留が問題となるため、本実施例及び以下の実施例の構成は、カソード側のセパレータにおいて特に好適である。
【実施例2】
【0034】
実施例2は、実施例1と異なる形態の調節弁を用いる例である。実施例2の燃料電池10は、調節弁74Aの形状が実施例1と異なるのみであり、その他の構成は共通である(図1(b)参照)。従って、共通の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0035】
図3(a)及び(b)は、連通部72付近の拡大図である。図3(a)は閉弁状態(流路断面積が小さい状態)を示し、図3(b)は開弁状態(流路断面積が大きい状態)を示す。本実施例の調節弁74Aは、熱膨張係数の比較的大きい材質(例えば、樹脂、ゴム等)から構成される。調節弁74Aは、その一端が連通部72の側壁に固定され、ガスの流動方向に対して略垂直方向に配置されている。
【0036】
連通部72の温度が高い場合は、調節弁74Aは流路に対し略垂直方向に伸張し、流路断面積を減少させる。これにより、供給ガス流路52からの排水量が減少する。図3(a)では、流路が閉塞されているが、温度が上がるにつれ流路断面積が低減する構成となっていればよい。一方、連通部72の温度が低い場合は、調節弁74Aは流路に対し略垂直方向に縮小し、流路断面積を増加させる。これにより、供給ガス流路52からの排水量が増加する。
【0037】
以上のように、増減手段として調節弁74Aを用いた場合でも、実施例1と同様に、温度に応じて流路断面積を自律的に増減させることができる。これにより、供給ガス流路の下端部からの排水量を適切に調節し、発電効率を向上させることができる。
【実施例3】
【0038】
実施例3は、実施例1〜2と異なる形態の調節弁を用いる例である。実施例3の燃料電池10は、調節弁74Bの形状が実施例1と異なるのみであり、その他の構成は共通である(図1(b)参照)。従って、共通の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0039】
図4(a)及び(b)は、連通部72付近の拡大図である。図4(a)は開弁状態(流路断面積が大きい状態)を示し、図4(b)は閉弁状態(流路断面積が小さい状態)を示す。本実施例では、排水路70の一端が供給ガス流路52の下流端近傍へ連通し、他端が排出ガス流路62の下流端近傍へと連通する構成となっている。換言すれば、供給マニホールド50からの供給ガス流路52の突出方向(以下、X方向と称する)に対し、交差する方向(以下、Y方向と称する)に排水路70が形成されている。
【0040】
供給ガス流路52の下流端には、行き止まり部73が形成されている。本実施例の調節弁74Bの主面は、行き止まり部73の壁面に固定されている。調節弁74Bは、熱膨張率の比較的大きい材質(例えば、樹脂、ゴム等)からなり、温度変化に応じてX方向に伸縮自在となっている。
【0041】
連通部72の温度が高い場合は、調節弁74BはX方向に伸張し、排水路70の入口を塞ぐ(図4(a))。これにより、供給ガス流路52からの排水量が減少する。一方、連通部72の温度が低い場合は、調節弁74BはX方向に縮小し、排水路70の入口を開く(図4(b))。これにより、供給ガス流路52からの排水量が増加する。
【0042】
以上のように、供給ガス流路52の突出方向に対し交差する方向に排水路を設けた場合でも、実施例1〜2と同様に流路断面積を自律的に増減させることができる。
【0043】
図5は、実施例3の変形例を示した図である。この変形例では、供給ガス流路52の下流端近傍から排出ガス流路62の下流端近傍へと連通する第1排水路70の他に、供給ガス流路52の上流端近傍から排出ガス流路62の上流端近傍へと連通する第2排水路70が形成されている。また、供給ガス流路52の行き止まり部73には第1調節弁74B1が設けられ、排出ガス流路62の行き止まり部73には第2調節弁74B2が設けられている。
【0044】
この変形例によれば、実施例3(図4(a)〜(b))と同様に調節弁74B1及び74B2が温度変化に応じて変形することで、供給ガス流路52から排出ガス流路62への排水量が調節される。また、第2の排水路70が設けられていることにより、供給ガス流路52からの排水量が実施例3に比べて増加する。従って、本変形例は供給ガス流路52に水が多く溜まりやすい場合に特に好適である。
【実施例4】
【0045】
実施例4は、供給ガス流路の下流端における水の溜まり具合を何らかの方法により取得し、その取得結果に基づいて連通部における流路断面積の増減を行う制御機構を備えた例である。
【0046】
図6は、実施例4に係る燃料電池システム100の構成を示した図である。燃料電池システム100は、複数の単セルが積層されて構成された燃料電池10を有する。燃料電池10には、アノードガス供給手段12、カソードガス供給手段13、冷却水供給手段14、並びに出力を測定するための電流計15及び、電圧計16が接続されている。また、冷却水通路17には、冷却水の温度を測定するための温度計18が接続されている。また、本実施例の燃料電池10は、燃料電池10の連通部72における流路面積を増減させる増減手段としての駆動部80と、当該駆動部80を制御するための制御部20とを備えている。制御部20は、電流計15、電圧計16、温度計18、及び湿度計19に接続されており、これらの出力信号を取得する。
【0047】
図7は、図6の燃料電池システム100のうち、燃料電池10を構成する単セル、及びその周辺装置の構成を示した図である。駆動部80は、複数のパイプ81を有し、それぞれのパイプ81の先端には弾性体82が取り付けられている。弾性体82は、供給ガス流路52から排出マニホールド60(排水路)への連通部分に位置するように配置される。パイプ81の基端側は集合パイプ83へと接続され、集合パイプ83は圧力印加部84へと接続されている。圧力印加部84により、集合パイプ83及びパイプ81内の圧力が変化し、その圧力変化に伴いパイプ81の先端に取り付けられた弾性体82が変形する。
【0048】
図8(a)及び(b)は、連通部72付近の拡大図である。図8(a)の状態では、圧力印加部84からパイプ81に印加される圧力が小さいため、弾性体82は収縮し、供給ガス流路52から排出マニホールド60への連通部72が開口する。このため、供給ガス流路52の下流端からの排水量は比較的多くなる。
【0049】
一方、図8(b)の状態では、圧力印加部84からパイプ81へ印加される圧力が大きいため、弾性体82は膨張し、連通部72が閉塞する。このため、供給ガス流路52の下流端からの排水量は比較的少なくなる。このように、制御部20が圧力印加部84を制御することにより、連通部72の流路断面積を変化させ、供給ガス流路52の下流端からの排水量を調節することができる。
【0050】
図9は、実施例4に係る燃料電池システム100の動作を示したフローチャートである。最初に、制御部20が供給ガス流路52の下流端における相対湿度、または当該相対湿度を推定可能なパラメータを取得する(ステップS10)。次に、制御部20は相対湿度の大小を判定する(ステップS12)。相対湿度が設定値より大きい場合には、制御部20は排水量を増加させる(ステップS14)。具体的には、圧力印加部84によりパイプ81内の圧力を増大させる。相対湿度が設定値より小さい場合には、制御部20は排水量を減少させる(ステップS16)。具体的には、圧力印加部84によりパイプ81内の圧力を減少させる。
【0051】
ステップS10における目的は、供給ガス流路52の下流端(連通部72)における水の溜まり具合を把握することにある。水の溜まり具合は、直接的には連通部72の相対湿度を測定することにより得られる。連通部72の相対湿度を測定する方法としては、例えば弾性体82の先端に湿度計19を取り付ける方法等が考えられる。
【0052】
連通部72の残留水量は、既に述べたように連通部72の温度により推定することができる(高温の場合は設定湿度より低く、低温の場合は設定湿度より高いと推定される)。連通部72の温度は、例えば図1の温度計18により測定される冷却水の温度(燃料電池10の温度)から算出することができる。また、例えば弾性体82の先端に熱電対センサを設け、連通部72の温度を直接測定することもできる。
【0053】
また、連通部72の湿度は、燃料電池10の出力(負荷)から推定することもできる。燃料電池10の出力とは、例えば図1の電流計15により測定される出力電圧や、電圧計16により測定される出力電流を指す。燃料電池10の出力が大きい場合には、燃料電池10の温度は高くなるため、連通部72における相対湿度は小さいと推定される。一方、燃料電池10の出力が小さい場合には、燃料電池10の温度は低くなるため、連通部72における相対湿度は大きいと推定される。
【0054】
また、連通部72の湿度は、ガス流量により推定することもできる。ガス流量は、例えばガスの排出口にガス流量計を設けることにより測定することができる。ガス流量が大きい場合には、連通部72における相対湿度は設定値より小さいと推定され、ガス流量が小さい場合には、連通部72における相対湿度は設定値より大きいと推定される。
【0055】
以上のように、制御部20は様々な方法で連通部72における相対湿度を直接的または間接的に取得することができる。従って、図6において、電流計15、電圧計16、温度計18、及び湿度計19は、必ずしも設けられていなくてもよい。そして、相対湿度が大きい場合には供給ガス流路52からの排水量を増加させ、相対湿度が小さい場合には排水量を減少させる(図9ステップS14、S16)。これにより、供給ガス流路52の下流端における水の溜まり具合に応じて排水量を調節することができるため、燃料電池10内の水分量を適切に保ち、発電効率を向上させることができる。
【実施例5】
【0056】
実施例5は、実施例4とは異なる構成の駆動部80Aを用いる例である。図10は、実施例5に係る燃料電池の構成を示した図であり、実施例4の図7に対応するものである。共通する構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。本実施例では、駆動部80の構成が実施例4と異なる。
【0057】
本実施例の駆動部80Aは、複数のロッド85を有し、それぞれのロッド85の先端には弁86が取り付けられている。弁86は、供給ガス流路52から排出マニホールド60(排水路)への連通部分に位置するように配置される。ロッド85の基端側は集合ロッド87へと接続され、集合ロッド87は動力部88へと接続されている。動力部88により、ロッド85は供給ガス流路52の突出方向(X方向)へと摺動し、その移動に伴い弁86もX方向へ摺動する。弁86の位置により、連通部72における流路断面積が変化する。
【0058】
図11(a)及び(b)は、連通部72付近の拡大図である。図11(a)の状態では、ロッド85及び弁86は供給ガス流路52から離れる方向に摺動し、供給ガス流路52から排出マニホールド60への連通部72が開口する。このため、供給ガス流路52の下流端からの排水量は比較的多くなる。一方、図11(b)の状態では、ロッド85及び弁86は供給ガス流路52へと近づく方向へと摺動し、連通部72が閉塞する。このため、供給ガス流路52の下流端からの排水量は比較的少なくなる。このように、制御部20が動力部88を制御することにより弁86の位置を変化させ、連通部72の流路断面積を変化させることができる。
【0059】
本実施例における燃料電池システム100の動作は、実施例4(図9)と同様である。このように、ロッド85、弁86、及び動力部88からなる駆動部80Aを用いた場合でも、供給ガス流路52の下流端における相対湿度(または、相対湿度を推定可能なパラメータ)に基づいて、供給ガス流路52の下流端からの排水量を調節することができる。
【実施例6】
【0060】
実施例6は、実施例1〜5とは異なる増減手段を設けた例である。
【0061】
図12(a)〜(b)は、実施例6に係る燃料電池の構成を示した図であり、実施例1の図1(b)に対応するものである。本実施例では、連通部72における流路断面積を増減可能な増減手段として、連通部72に制御バー90が配置されている。供給ガス流路52は、制御バー90を介して排水路70と連通している。
【0062】
図13は、制御バー90の詳細な構成を示した図である。制御バー90には、供給ガス流路52の下流端を排水路70に連通するための第1貫通孔91aと、排出ガス流路62の下流端を排出マニホールド60に連通するための第2貫通孔91bとが交互に形成されている。第1貫通孔91aの大きさは、第2貫通孔91bより小さくなることが好ましい。また、第2貫通孔91bの大きさは、後述する制御バー90の摺動により、排出ガス流路62から排出マニホールド60へのガス及び水の排出量に実質的な影響を与えない程度の大きさであることが好ましい。具体的には、第2貫通孔91bの大きさは、排出ガス流路62の流路断面積より大きいことが好ましい。
【0063】
また、制御バー90の一端にはサーモスタット92が取り付けられ、制御バー90の他端には吸水性樹脂93が取り付けられている。燃料電池の温度が高い(湿度が低い)場合には、サーモスタット92は膨張し、吸水性樹脂93は収縮する。これにより、制御バー90は矢印Aの方向へと移動する(この位置を第1位置とする)。一方、燃料電池の温度が低い(湿度が高い)場合には、サーモスタット92は収縮し、吸水性樹脂93は膨張する。これにより、制御バー90は矢印Bの方向へと移動する(この位置を第2位置とする)。
【0064】
本実施例では、制御バー90の初期位置及び貫通孔の大きさが、以下の条件を満たすように定められる。すなわち、制御バー90が第1位置にある場合は、第1貫通孔91aが供給ガス流路52から外れた場所に位置することにより連通部72が閉塞するように定められる(図12(a))。一方、制御バー90が第2位置にある場合は、第1貫通孔91aが供給ガス流路52の下流端に位置することにより連通部72が開放するように定められる(図12(b))。
【0065】
以上のように、本実施例では、燃料電池が高温で湿度が低い状態の場合は、制御バー90が第1位置に位置することにより排水量が減少する。一方、燃料電池が低温で湿度が低い状態の場合には、制御バーが第2位置に位置することにより排水量が増加する。このように、増減手段として制御バーを用いた場合でも、供給ガス流路52の相対湿度(及びそれに関連するパラメータ)に応じて、排水量の調節を行うことができる。
【0066】
実施例6では、サーモスタット92及び吸水性樹脂93を用いることにより、制御バー90の位置が自律的に変化する構成であったが、外部の駆動機構により制御バー90の位置を変化させてもよい。
【0067】
図14は、変形例に係る制御バー90周辺の構成を示した図である。実施例6(図13)と異なり、制御バー90の一端には、ステッピングモータ94に接続されたギア95が取り付けられている。ステッピングモータ94は、制御部20と電気的に接続されており、制御部20の指令により駆動する。制御部20は、図1と同様に様々なセンサからの出力を取得可能に構成されている。
【0068】
上記の構成によれば、制御部20がステッピングモータ94を制御することにより、制御バー90を矢印の方向に移動させ、第1貫通孔91aの位置を変化させることができる。これにより、供給ガス流路52の下流端からの排水量を精度良く調節することができる。なお、制御部20は、供給ガス流路52の下流端における相対湿度、またはそれに関連するパラメータに基づいて排水量の制御を行う。この点は、実施例3(図9)と同様である。
【実施例7】
【0069】
実施例6は、制御バーを用いて流路の切り替えを行う例である。
【0070】
図15(a)〜(b)は、実施例7に係る燃料電池のセパレータの詳細な構成を示した図であり、実施例1の図1(b)に対応するものである。本実施例では、供給マニホールド50と排出マニホールド60との間にある複数のガス流路53の上流端及び下流端のそれぞれに、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが設けられている。複数のガス流路53の上流端は、第1制御バー90aを介して供給マニホールド50に連通している。また、複数のガス流路53の下流端は、第2制御バー90bを介して排出マニホールド60に連通している。すなわち、本実施例では全てのガス流路が、供給マニホールド50及びは排出マニホールド60に連通しており、この点が排出ガス流路62の上流端が閉塞されていた実施例1〜6とは異なる。
【0071】
図16は、制御バー(第1制御バー90a及び第2制御バー90b)の構成を示した図である。制御バー90には、ガス流路53の流路断面積と略等しい断面積を持つ貫通孔91が、所定間隔をおいて複数形成されている。
【0072】
図15(a)は、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが第1位置にある状態を示す。このとき、複数のガス流路の一部(以下、第1ガス流路53aと称する)は、その上流端が第1制御バー90aを介して供給マニホールド50に接続され、下流端が第2制御バー90bにより閉塞された状態となっている。また、残りのガス流路(以下、第2ガス流路53bと称する)は、その上流端が第1制御バー90aにより閉塞され、下流端が第2制御バー90bを介して排出マニホールド60に接続された状態となっている。すなわち、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが第1位置にある場合、第1ガス流路53aが実施例1〜6における供給ガス流路52の役割を果たし、第2ガス流路53bが排出ガス流路62の役割を果たす。
【0073】
図15(b)は、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが第2位置にある状態を示す。このとき、第1ガス流路53aは、その上流端が第1制御バー90aにより閉塞され、下流端が第2制御バー90bを介して排出マニホールド60に接続された状態となっている。また、第2ガス流路53bは、その上流端が第1制御バー90aを介して供給マニホールド50に接続され、下流端が第2制御バー90bにより閉塞された状態となっている。すなわち、第1制御バー90a及び第2制御バー90bが第2位置にある場合、第1ガス流路53aが排出ガス流路62の役割を果たし、第2ガス流路53bが供給ガス流路52の役割を果たす。
【0074】
以上のように、実施例7の燃料電池システム100によれば、第1制御バー90a及び第2制御バー90bの位置を変化させることにより、供給マニホールド50及び排出マニホールド60の間にある複数のガス流路53(第1ガス流路53a及び第2ガス流路53b)を、供給ガス流路52及び排出ガス流路62のいずれかに切り替えて使用することができる。これにより、例えば供給ガス流路52として使用されたガス流路53の下流端に水が溜まった場合は、それまでの供給ガス流路52を排出ガス流路62に切り替えることで、下流端が開放され、溜まった水が排出される。これにより、供給ガス流路の下流端に水が滞留することによる発電効率の低下を抑制することができる。
【0075】
なお、第1制御バー90a及び第2制御バー90bの位置制御は、図12(b)〜(c)のように環境に応じて自律的に行われる構成としてもよいし、図13のように制御部20により制御される構成としてもよい。いずれの方法においても、供給ガス流路52として使用されたガス流路53の下流端における水の滞留を抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0076】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 燃料電池
20 制御部
30 膜−電極接合体
50 供給マニホールド
52 供給ガス流路
60 排出マニホールド
62 排出ガス流路
70 排水路
72 連通部
74 調節弁
90 制御バー
100 燃料電池システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜−電極接合体と、
前記膜−電極接合体を挟持する一対のガス拡散層と、
前記一対のガス拡散層を挟持する一対のセパレータと、を備え、
前記一対のセパレータの少なくとも一方の前記ガス拡散層側の面において、
上流端が供給マニホールドに連通し、下流端が排水路に連通する溝状の第1ガス流路と、
前記第1ガス流路から前記排水路への連通部に配置され、前記連通部における流路断面積を増減可能な増減手段と、
が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記第1ガス流路を有する前記セパレータの前記ガス拡散層側の面において、
下流端が排出マニホールドに連通し、上流端が行き止まりとなる溝状の第2ガス流路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記増減手段は、前記第1ガス流路の下流端における相対湿度、または前記相対湿度を推定可能なパラメータに基づいて、自律的に流路断面積の増減を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第1ガス流路の下流端における相対湿度、または前記相対湿度を推定可能なパラメータを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記相対湿度または前記パラメータに基づいて、前記増減手段による流路断面積の増減を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記パラメータは、前記第1ガス流路の下流端における温度、前記第1ガス流路または前記第2ガス流路におけるガス圧力、前記第1ガス流路または前記第2ガス流路におけるガス流量、前記燃料電池の出力電流、及び前記燃料電池の出力電圧のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池。
【請求項1】
膜−電極接合体と、
前記膜−電極接合体を挟持する一対のガス拡散層と、
前記一対のガス拡散層を挟持する一対のセパレータと、を備え、
前記一対のセパレータの少なくとも一方の前記ガス拡散層側の面において、
上流端が供給マニホールドに連通し、下流端が排水路に連通する溝状の第1ガス流路と、
前記第1ガス流路から前記排水路への連通部に配置され、前記連通部における流路断面積を増減可能な増減手段と、
が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記第1ガス流路を有する前記セパレータの前記ガス拡散層側の面において、
下流端が排出マニホールドに連通し、上流端が行き止まりとなる溝状の第2ガス流路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記増減手段は、前記第1ガス流路の下流端における相対湿度、または前記相対湿度を推定可能なパラメータに基づいて、自律的に流路断面積の増減を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第1ガス流路の下流端における相対湿度、または前記相対湿度を推定可能なパラメータを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記相対湿度または前記パラメータに基づいて、前記増減手段による流路断面積の増減を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記パラメータは、前記第1ガス流路の下流端における温度、前記第1ガス流路または前記第2ガス流路におけるガス圧力、前記第1ガス流路または前記第2ガス流路におけるガス流量、前記燃料電池の出力電流、及び前記燃料電池の出力電圧のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−272249(P2010−272249A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121272(P2009−121272)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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