説明

燃焼装置用の窓材

【課題】燃焼物残渣等が付着しにくいとともに、その透明性が失われにくく、優れた防汚性機能を有する燃焼装置用、特に石油ストーブ用の窓材を提供する。
【解決手段】SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスの表面に防汚性を有する酸化物系セラミック膜が被覆形成されてなる燃焼装置用の窓材であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼装置用の窓材、特に、石油ストーブ用の窓材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃焼装置等における窓の機能は、内部の炎から発する熱線を外部へ透過させて暖房効果をあげるとともに炎が目に見えるようにすることによって視覚的な暖かさを増すことである。また、窓の機能は外部から炎の燃焼状態を観察するのを可能にすることであり、これらの窓は炎の発する高温や着火時の熱衝撃に耐えねばならない。したがって、燃焼装置の窓に使用する材料は透明であると同時に低熱膨張、高強度で耐熱性、耐熱衝撃性に優れていることが必要である。
【0003】
現在、暖房器具等の燃焼装置用の窓材に使われている材料としてはホウケイ酸ガラス、石英ガラスおよびLi2O−Al23−SiO2系透明結晶化ガラスがあるが、ホウケイ酸ガラスは耐熱性、耐熱衝撃性が十分とは言えず、石英ガラスは、熱的性質は優れているが高価である。これに対してLi2O−Al23−SiO2系透明結晶化ガラスは、熱膨張係数が小さく強度が高いため、耐熱性および耐熱衝撃性に優れており、また比較的安価に製造することが可能であるため広く用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献2には、主結晶としてβ−石英固溶体を析出し、30〜380℃の範囲の平均線熱膨張係数が−10〜10×10-7/℃であり、かつ、β−OHを0.35/mm以上含むことを特徴とするLi2O−Al23−SiO2系透明結晶化ガラスが開示されている。
【0005】
この結晶化ガラスは、溶融の熱源となる燃料に含まれる酸素濃度を制御し、燃焼ガス中の水分量を増減させること等でβ−OHを0.35/mm以上とし、燃料から発生するH2SO4ガスに長時間晒されても、結晶化ガラスの表面が白濁しない利点を有している。このため、この結晶化ガラスは、広く燃焼装置用の窓材として使用されている。
【特許文献1】特開平1−308845号公報
【特許文献2】特開2000−44282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、Li2O−Al23−SiO2系透明結晶化ガラスは、優れた特性を有するため、広く燃焼装置用の窓材として使用されているが、Li2O−Al23−SiO2系透明結晶化ガラス自体は、充分な防汚性を有していない。それ故、燃料から排出される煤をはじめとする炭化物成分等の燃焼物残渣等が結晶化ガラスの表面に付着し、結晶化ガラスの透明性が失われるとともに、燃焼装置の窓材としての美観が損なわれるといった問題があった。また、結晶化ガラスの表面に炭化物成分等が付着すると結晶化ガラスの赤外線透過特性が低下し、燃焼装置の暖房効果が損なわれるといった問題も有していた。
【0007】
特に、石油ストーブ等の燃焼装置の窓材は、燃焼装置に組み込まれているので窓材を清掃するために燃焼装置を分解し、窓材と燃焼装置を分離する必要があり、清掃が困難であった。さらに、一般的に、石油ストーブ等の燃焼装置の窓材は円筒形状であるとともに、燃焼物残渣等が付着するのは主に円筒の内表面であるため、一層、窓材の清掃が困難であるといった事情もあった。
【0008】
また、寒冷地等で使用される石油ストーブ等は、冬期に高い熱量で常時稼動して使用するのが一般的であるため、燃焼装置の窓材に防汚性を付与し、窓材をメンテナンスフリーにすることは重要な課題であった。
【0009】
このような事情に鑑みて、従来、ガラス表面の汚れの付着を防止するために、ガラス表面を撥水撥油性にすることが考えられていた。例えば、特開平9−2840号公報には、ガラス面にフッ素系の化学吸着膜を形成することによって、撥水性の薄膜を形成している。また、特開2002−326841号公報には、ガラスの表面粗さを0.05〜0.4μmに加工し、その面をシラン系化合物の撥水・撥油性被膜で被覆することも考えられている。
【0010】
しかし、上記文献で示されている被覆膜は、シラン系化合物をはじめとする有機化合物系の被膜であるため、耐熱性に乏しく、燃焼装置用の窓材として実際の使用に耐えるだけの耐熱温度を有していなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、種々検討した結果、燃焼装置の窓材として、表面に防汚性を有する酸化物系セラミック被覆膜を形成したSiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスを用いることで上記課題を解決し、本発明を提案するに至った。
【0012】
具体的には、上記の目的を達成するために、第一に、本発明は、SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスの表面に防汚性を有する酸化物系セラミック膜が被覆形成されてなる燃焼装置用の窓材であることを特徴としている。
【0013】
第二に、本発明は、上記酸化物系セラミック膜がSiO2であることを特徴としている。
【0014】
第三に、本発明は、上記燃焼装置が石油ストーブであることを特徴としている。なお、本発明でいう「石油ストーブ」とは、軽油ストーブ、灯油ストーブ、重油ストーブ等の石油由来の液体燃料を使用するストーブを指す。
【0015】
第四に、本発明は、上記燃焼装置用の窓材が円筒形状であることを特徴としている。
【0016】
第五に、SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスが、重量%表示で、SiO2が63〜75%、Al23が15〜25%、Li2Oが1〜5%、MgOが0〜4%、ZnOが0〜5%、TiO2が0〜6%、ZrO2が0〜3%、P25が0〜2%、Na2Oが0〜2%、K2Oが0〜2%の組成を有することを特徴としている。
【0017】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0018】
本発明のSiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスの表面には、酸化物系セラミックの被覆膜が形成されている。また、この酸化物系セラミックの被覆膜は炭化物等の燃焼物残渣等に対して防汚性を備えている。なお、燃焼装置の窓材を汚染する燃焼物残渣等には、煤をはじめとする燃料残渣(炭化物、ナトリウム成分、塩素成分、カルシウム成分等)、粉塵等の異物付着、パッキン材の残渣等が含まれる。
【0019】
上記酸化物系セラミック膜としては、Al23、TiO2、SiO2、ZrO2等を使用することができる。これらの酸化物系セラミック膜は、SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスよりも表面自由エネルギーが低いとともに、表面が滑らかであるため、汚れが付着しにくい。特に、以下の理由により、SiO2が上記酸化物系セラミック膜として好ましい。
【0020】
SiO2の熱膨張係数は、SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスの熱膨張係数と近似しているため、被覆膜に応力が入りにくく、膜の接着性が良好である。さらに、SiO2の屈折率は、SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスの屈折率と近似しているため、SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスにSiO2被覆膜を形成しても、結晶化ガラスの透明性が損なわれず、結晶化ガラスの美観が失われない。
【0021】
また、SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスの表面に形成するSiO2の膜厚は,300〜2000Åが好ましく、500〜1500Åがより好ましく、800〜1200Åがさらに好ましい。SiO2の膜厚が2000Åより大きいと膜に干渉色が発生し美観が損なわれ、300Åより小さいと窓材の防汚性の効果が乏しくなる。
【0022】
SiO2の被覆膜は、種々の方法により形成することができる。例えば、液状のSiアルコラートをディッピング、スプレー噴射、刷毛塗りによって上記結晶化ガラスの表面に塗布する方法がある。また、スパッタリング、減圧CVD法等の方法により、SiO2膜を結晶化ガラスの表面に直接形成する方法もある。特に、本発明の場合、以下に示す方法でSiO2の被覆膜を形成するのが好ましい。
【0023】
まず、被覆膜を形成しようとするSiO2−Al23−Li2 O系透明結晶化ガラスを用意する。次に、液状のSiアルコラートをディッピングにより結晶化ガラスの表面に塗布する。特に、結晶化ガラスが円筒形状の場合、ディッピングによりSiアルコラートを結晶化ガラスの表面に塗布すると、円筒の内表面と外表面で塗布ムラが発生しにくく、簡便に均一な膜厚を形成できるため好ましい。
【0024】
次に、100℃〜1000℃で熱処理を行い、有機成分を分解することにより、結晶化ガラスの表面に酸化物成分SiO2のみの被覆膜を形成する。熱処理温度が100℃より低いと有機成分が充分に分解しないし、1000℃より高いとSiO2が熱分解する虞がある。熱処理温度は、400℃〜800℃が好ましく、500℃〜700℃がより好ましい。
【0025】
本方法によるSiO2 の被覆膜の形成方法は、Siアルコラートを塗布した後、熱処理を行うのみで形成することができ、極めて操作が簡便である特長を有している。
【0026】
なお、SiO2以外の酸化物系セラミック膜もディッピング、スプレー噴射、刷毛塗り、スパッタリング、減圧CVD法等の方法によって被覆形成することができる。
【0027】
SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスは、重量%表示で、SiO2が63〜75%、Al23が15〜25%、Li2Oが1〜5%、MgOが0〜4%、ZnOが0〜5%、TiO2が0〜6%、ZrO2が0〜3%、P25が0〜2%、Na2Oが0〜2%、K2Oが0〜2%の組成を有することが好ましい。
【0028】
本発明における結晶化ガラスの組成範囲を上記のように限定したのは以下の理由による。
【0029】
SiO2はガラスのネットワークフォーマーであるとともに、結晶を構成するための必須成分である。しかし、SiO2が63%より少ない場合はガラスが失透しやすくなり、化学的耐久性が悪くなる。また、SiO2が75%より多い場合はガラスの溶融性が悪くなる。
【0030】
Al23は結晶を構成するための必須成分である。しかし、Al23が15%より少ない場合はガラスが失透しやすくなり化学的耐久性が悪くなる。また、Al23が25%より多い場合はガラスの溶融性が悪くなる。
【0031】
Li2Oは結晶を構成するための必須成分である。しかし、Li2Oが1%より少ない場合は所望の結晶が析出しにくくなる。また、Li2Oが5%より多い場合はガラスの化学的耐久性が悪くなりクラック、剥離等が起こりやすくなる。
【0032】
MgOは結晶を構成するための成分である。しかし、MgOが4%より多い場合は、熱膨張係数が大きくなりすぎる。
【0033】
ZnOも結晶を構成するための成分であるが、5%より多い場合はガラスが失透しやすくなる。
【0034】
TiO2は核形成剤として作用するが、6%より多い場合は色調が褐色になり透明性が損われる。
【0035】
ZrO2は核形成剤として作用するが、3%より多い場合はガラスが失透しやすくなり化学的耐久性が悪くなる。
【0036】
TiO2とZrO2の合量が3%より少ない場合は核形成の働きが充分でないため粗大結晶となって化学的耐久性が悪くなる。また、TiO2とZrO2の合量が9%より多い場合はガラスの溶融性が悪くなるとともに、色調が褐色になり透明性が損なわれる。
【0037】
25が2%より多い場合は化学的耐久性が悪くなる。
【0038】
Na2OおよびK2Oはフラックス剤として作用するが各々2%より多い場合は化学的耐久性が著しく悪くなる。
【0039】
さらに、As23、Sb23、SnO2、Cl、SO3等の清澄剤等を合計で2%まで添加することができる。また、その他の成分も特性を損なわない範囲で添加することも可能である。
【0040】
特に、SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスとして、日本電気硝子株式会社製ネオセラムN−0を使用するのが好ましい。ネオセラムN−0は、透明で赤外線透過特性や機械的強度に優れ、熱膨張係数が30〜750℃の温度範囲で−3.0×10-7/℃であり、熱膨張係数が0に近いため800℃の熱衝撃を加えても割れない特長を有している。
【0041】
また、本発明の結晶化ガラスの結晶化は、160〜200℃/時の速度で720〜760℃まで昇温し、その温度(核形成温度)で0.5〜20時間保持して核形成を行い、次いで20〜60℃/時で800〜880℃まで昇温し、その温度(結晶成長温度)で0.5〜20時間保持して結晶成長を行った後、炉冷する条件で行うのが好ましい。
【0042】
核形成温度までの昇温速度が160℃/時より遅いと核形成温度に到達するまでに結晶核が形成されてしまう。核形成温度までの昇温速度が200℃/時より速いと結晶核が充分に形成されない。また、核形成時間が0.5時間より短いと結晶核が充分に形成されない。核形成時間が20時間より長いと結晶成長温度に到達するまでに結晶が成長してしまう。
【0043】
結晶成長温度までの昇温速度が20℃/時より遅いと結晶成長温度に到達するまでに結晶が粗大化する。結晶成長温度までの昇温速度が60℃/時より速いと結晶が充分に成長しない。また、結晶成長時間が0.5時間より短いと結晶が充分に成長しない。核形成時間が20時間より長いと結晶が粗大化する。
【0044】
(実施例)
SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスとして、円筒形状の日本電気硝子株式会社製ネオセラムN−0(外径130mm、長さ150mm、肉厚1.8mm)を使用した。この結晶化ガラスを液状のSiアルコラートにディッピングし、結晶化ガラスの表面にSiアルコラートを塗布する。次に、600℃30分で熱処理を行うことで、結晶化ガラスの表面に1000Å厚のSiO2膜を形成した。
【0045】
上記の円筒形状のSiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスを石油ストーブの窓材として連続的に200時間使用した。ストーブの燃焼温度は結晶化ガラスの円筒の外表面温度が400℃となる温度に調整し、石油ストーブの燃料は灯油を使用した。なお、本条件は、被覆膜の防汚性を評価するための加速試験であり、本条件で燃焼物残渣等の付着がなければ、長期間の防汚性を有していると判断できる。
【0046】
その結果、SiO2膜を被覆したSiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスは、燃焼物残渣等の付着がなく、可視光透過率が初期値と同等であり、透明性が保持されていた。また、結晶化ガラスの赤外線透過特性も初期値を維持しており、石油ストーブの暖房効果は低下していなかった。
【0047】
結果として、SiO2膜を被覆したSiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスは、メンテナンスすることなしに石油ストーブ用の窓材として長期間連続して使用できると判断される。
【0048】
(比較例)
実施例で用いた円筒形状のSiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスと同一形状同一材質の試料を比較試料として用いた。ただし、実施例と異なり、結晶化ガラスの表面にSiO2膜を被覆しなかった。上記実施例と同様に、上記透明結晶化ガラスを石油ストーブの窓材として連続的に200時間使用した。なお、実施例と同様に、ストーブの燃焼温度は結晶化ガラスの円筒の外表面温度が400℃となる温度に調整し、石油ストーブの燃料は灯油を使用した。
【0049】
その結果、SiO2膜を被覆しなかったSiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスは、灰色の燃焼物残渣等の付着がしており、透明性が著しく損なわれ、可視光透過率が著しく低下していた。また、灰色の燃焼物残渣等が付着している影響で結晶化ガラスの赤外線透過特性が低下し、石油ストーブの暖房効果が低下していた。さらに、灰色の燃焼物残渣等の付着しているので、結晶化ガラスの美観が損なわれていた。
【0050】
結果として、SiO2膜を被覆しなかったSiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスは、メンテナンスすることなしに石油ストーブの窓材として長期間連続的に使用することができないと判断される。
【0051】
(発明の効果)
以上説明したように、本発明による防汚性を有する酸化物セラミック被覆膜を形成したSiO2 −Al23−Li2O系透明結晶化ガラスからなる燃焼装置用窓材は、燃焼物残渣等が付着しにくいとともに、その透明性が失われにくく、優れた防汚性機能を有することが明らかである。
【0052】
したがって、本発明による燃焼装置用窓材は、長時間メンテナンスフリーとすることができるため、特に、窓材表面に付着した燃焼物残渣等を清掃することが困難である円筒形状の石油ストーブ用窓材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスの表面に防汚性を有する酸化物系セラミック膜が被覆形成されてなることを特徴とする燃焼装置用の窓材。
【請求項2】
酸化物系セラミック膜がSiO2であることを特徴とする請求項1に記載の燃焼装置用の窓材。
【請求項3】
燃焼装置が石油ストーブであることを特徴とする請求項1または2に記載の燃焼装置用の窓材。
【請求項4】
燃焼装置用の窓材が円筒形状であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の燃焼装置用の窓材。
【請求項5】
SiO2−Al23−Li2O系透明結晶化ガラスが、重量%表示で、SiO2が63〜75%、Al23が15〜25%、Li2Oが1〜5%、MgOが0〜4%、ZnOが0〜5%、TiO2が0〜6%、ZrO2が0〜3%、P25が0〜2%、Na2Oが0〜2%、K2Oが0〜2%の組成を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の燃焼装置用の窓材。

【公開番号】特開2007−3140(P2007−3140A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186045(P2005−186045)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】