説明

燻煙型殺虫剤、燻煙型殺虫装置、殺虫方法

【課題】取扱いが簡便で、低汚染性であり、殺虫効果が高く、かつ、使用者が実効感を得られる燻煙型殺虫剤、該燻煙型殺虫剤を用いた燻煙型殺虫装置および殺虫方法の提供。
【解決手段】(A)ポリオールと、(B)殺虫有効成分と、を含有する燻煙型殺虫剤。該燻煙型殺虫剤は、自己反応性の発熱性基剤を含有しないことが好ましい。該燻煙型殺虫剤と、150〜450℃の熱を発生する発熱部とが、伝熱部を介して配置された燻煙型殺虫装置。該燻煙型殺虫剤を150〜450℃で加熱する殺虫方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙型殺虫剤、該燻煙型殺虫剤を用いた燻煙型殺虫装置および殺虫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広い空間に有効成分を放出、拡散(以下「揮散」という。)する技術として種々の方法が提案されている。たとえば、有効成分を煙霧化して噴出させる方法が行われている。
この一例として、農業用途において、モーターまたはガソリンエンジンを駆動源とした装置を用い、コンプレッサーにより薬液を加圧状態で噴霧ノズルから噴出する農薬散布方法が開示されている(たとえば特許文献1参照)。この方法によれば、ハウス内に均一に農薬を散布できる。
【0003】
また、一般家庭においては、有害生物、たとえばハエ、カ、ゴキブリ等の衛生害虫やカビ、細菌等の防除等のために、家屋内、車両内等の空間を燻煙剤(燻蒸剤)で処理することが行われている。
燻煙剤は、種々の燃焼剤、発泡剤等を混合した発熱性基剤と、殺虫成分や抗菌剤等の有効成分とを主成分とする固形製剤である。発熱性基剤としては、ニトロセルロース、アゾジカルボンアミド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等が一般的に用いられている。
使用時において燻煙剤を加熱すると、発熱性基剤が燃焼または分解することで煙(ガスおよび微粒子)が発生し、この煙と熱の作用により有効成分が空気中に揮散する。そのため、短時間で有効成分が空間内全体に行き渡り、有害生物の防除等を行うことができる。
【0004】
燻煙剤の加熱には、燻煙剤の一部分に点火して燻煙剤を燃焼させる直接加熱方式や、酸化カルシウム等の加熱剤の水和反応熱により燻煙剤を150〜450℃程度の温度に加熱する間接加熱方式が用いられている。たとえばアゾジカルボンアミド等の発熱性基剤と殺虫成分とを含有する燻煙剤組成物を酸化カルシウムの水和反応熱等を利用した間接加熱方式で加熱し、発熱性基剤の自己燃焼により生じた煙(熱分解により生じたガスおよび微粒子)により有効成分を揮散させる燻煙装置が提案され、実用に供されている(たとえば特許文献2〜3参照)。
【0005】
一方、加熱によって有効成分を揮散させて用いられる殺虫剤として、有効成分を溶剤に溶解した液状のものも提案されている。かかる殺虫剤は、吸液芯を備えた装置に収容し、吸液芯に吸液させ、該吸液芯を加熱することで有効成分を徐々に揮発させている。その加熱温度は燻煙剤の場合に比べて低く、通常135℃以下である(たとえば特許文献4〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−224928号公報
【特許文献2】特公昭58−28842号公報
【特許文献3】特公昭59−49201号公報
【特許文献4】特開平7−69805号公報
【特許文献5】特開2009−232915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法は、装置が大がかりであって簡便な方法とは云えず、特に家庭用途には適さない。
特許文献2〜3に記載されているようなアゾジカルボンアミド等の発熱性基剤を含有する燻煙剤は、有効成分の揮散力に優れるものの、発生した煙により白色沈降物等の汚染を生じる問題がある。
また、特許文献4〜5に記載されているタイプの殺虫剤は、発熱性基剤を含有しないため、汚染は生じにくいが、有効成分の揮散が緩やかであるために、空間の隅々まで有効成分が充分に行き渡らない。そのため、特にゴキブリ等などの動きの素早い匍匐性害虫に対しては殺虫効果が弱いという問題がある。その上、有効成分の揮散状態が、燻煙剤を加熱して生じる煙のように視認できないため、使用者が実効感を得られにくいという問題もある。
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、取扱いが簡便で、低汚染性であり、殺虫効果が高く、かつ、使用者が実効感を得られる燻煙型殺虫剤、該燻煙型殺虫剤を用いた燻煙型殺虫装置および殺虫方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、現行の燻煙剤の発熱性基剤(アゾジカルボンアミド等)の代わりにポリオールを選択し、ポリオールをベース基剤とした組成物を150〜450℃で加熱すると、現行の燻煙剤と同様に、白色の煙状物が視認され、殺虫有効成分を空間内全体に揮散できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の態様を有する。
[1](A)ポリオールと、(B)殺虫有効成分と、を含有する燻煙型殺虫剤。
[2]自己反応性の発熱性基剤を含有しない、[1]に記載の燻煙型殺虫剤。
[3][1]または[2]に記載の燻煙型殺虫剤と、150〜450℃の熱を発生する発熱部とが、伝熱部を介して配置された燻煙型殺虫装置。
[4][1]または[2]に記載の燻煙型殺虫剤を150〜450℃で加熱する殺虫方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、取扱いが簡便で、低汚染性であり、殺虫効果が高く、かつ、使用者が実効感を得られる燻煙型殺虫剤、該燻煙型殺虫剤を用いた燻煙型殺虫装置および殺虫方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】燻煙型殺虫装置の構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪燻煙型殺虫剤≫
本発明の燻煙型殺虫剤は、(A)ポリオール(以下(A)成分という。)と(B)殺虫有効成分(以下(B)成分という。)とを含有する。
本発明の燻煙型殺虫剤は、使用時に150〜450℃程度の高温で加熱し、短時間で(B)成分を処理対象の空間に揮散させることができる。該加熱時には、従来の燻煙剤と同様に、使用者は、白色の煙状物が視認でき、実効感を得られる。つまり、本発明の燻煙型殺虫剤に対して該加熱を行うと、(A)成分が気化して室内等の空間中に噴出する。この(A)成分の蒸気が、従来の燻煙剤の煙と同様に働くため、充分な量の(B)成分を短時間で処理対象の空間全体に揮散でき、害虫に対して優れた防除効果を発揮する。また、現行の燻煙剤の煙とは異なり、当該白色の煙状物は(A)成分の蒸気由来のものであることから汚染が抑制される。
加えて、本発明の燻煙型殺虫剤においては、自己反応性の発熱性基剤を含有しないことが好ましい。これにより、発熱性基剤の燃焼または分解により生じる微粒子を含まないことから、白色沈降物による汚染を防止できる。
ここで「発熱性基剤」は、加熱されて燃焼または分解し、これにより生じる燃焼熱または分解熱で有効成分(殺虫有効成分)を揮散させる成分であり、有機発泡剤、発熱剤、燃焼剤等の種々のものが用いられ、具体的には、ニトロセルロース、アゾジカルボンアミド、p・p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等が挙げられる。
【0012】
[(A)成分]
「ポリオール」は、分子内に2個以上の水酸基を有する化合物であり、水酸基を2つ有するものを2価アルコール(グリコール)、3つ有するものを3価アルコールといい、2つ以上有するものは一括して多価アルコールとも称される。ポリオールは、150〜450℃で加熱すると、現行の燻煙剤と同様に白色の煙状物が発生するという特徴を見出し、本発明においては発煙基剤として用いられる。
(A)成分は、特に限定されず、医薬品、医薬部外品、化粧品、雑貨品、工業品等に使用されているもののなかから、(B)成分の揮散性、溶解・分散性、使用時の加熱温度等を考慮して適宜選択される。
(A)成分の沸点は、(B)成分の揮散性の点から、150〜300℃が好ましく、170〜300℃がより好ましい。
(A)成分としては、2価アルコール(グリコール)、3価以上の多価アルコール、糖、糖アルコール等が挙げられる。
【0013】
グリコールのなかで好適なものとしては、炭素数が2以上であり、炭素原子間にエーテル性酸素原子(−O−)が挿入されていてもよい脂肪族炭化水素の2つの炭素原子に1つずつ水酸基が結合している構造を持つ化合物が挙げられる。
該化合物において、脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。また、該脂肪族炭化水素は鎖状であっても環状であってもこれらの組み合わせであってもよく、鎖状であることが好ましい。鎖状である場合、該脂肪族炭化水素は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。環状である場合、該脂肪族炭化水素は単環式でも多環式でもよい。
このような化合物としてより具体的には、下記一般式(A1)または(A2)で表される化合物が挙げられる。
HO−R−OH …(A1)
HO−(RO)−H …(A2)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数2以上の2価の脂肪族炭化水素基であり、nは2以上の整数である。]
【0014】
式(A1)中、Rにおける2価の脂肪族炭化水素基の炭素数は2〜18が好ましく、2〜4がより好ましく、3または4がさらに好ましい。Rとしてはプロピレン基が特に好ましい。
式(A2)で表される化合物は、いわゆるポリエーテルである。
式(A2)中、Rとしては、Rと同様のものが挙げられ、エチレン基またはプロピレン基が好ましく、エチレン基が特に好ましい。
nは2〜14であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。
【0015】
上記一般式(A1)で表される化合物の例として、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、trans−2−ブテン−1,4−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、イソプレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−イコサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール等が挙げられる。
上記一般式(A2)で表される化合物の例として、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、平均分子量200〜20000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、平均分子量300〜2000のポリプロピレングリコール等が挙げられる。
平均分子量200〜20000のポリエチレングリコールは、マクロゴールとも称され、ポリエチレングリコール200(平均分子量190〜210)、ポリエチレングリコール300(平均分子量280〜320)、ポリエチレングリコール400(平均分子量380〜420)、ポリエチレングリコール600(平均分子量570〜630)、ポリエチレングリコール1000(平均分子量950〜1050)、ポリエチレングリコール1500(ポリエチレングリコール300とポリエチレングリコール1540の等量混合物)、ポリエチレングリコール1540(平均分子量1290〜1650)、ポリエチレングリコール2000(平均分子量1850〜2150)、ポリエチレングリコール4000(平均分子量2600〜3800)、ポリエチレングリコール6000(平均分子量7300〜9300)、ポリエチレングリコール10000(平均分子量9300〜12500)、ポリエチレングリコール20000(平均分子量15500〜20000)等が挙げられる。
これらのポリエチレングリコールは、たとえば三洋化成工業(株)や日油(株)から入手することができる市販品が利用できる。ポリエチレングリコールの市販品には通常、平均分子量が数値として付されており、商品によっては、たとえばポリエチレングリコール#1000のように、ポリエチレングリコールと数値との間に#がつく場合がある。
なお、上記のポリエチレングリコールの平均分子量は医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量を示し、医薬部外品原料規格2006記載の測定法による値である。
平均分子量300〜2000のポリプロピレングリコールとしては、重合度が4〜34のものが挙げられ、このようなポリプロピレングリコールとしては、ニューポールPP−400、PP−1000、PP−2000(三洋化成工業株式会社製)等の市販品を用いることができる。
なお、ポリプロピレングリコールの平均分子量は数平均分子量であり、水酸基価から求めた値である。
【0016】
糖のなかで好適なものとしては、グルコース、フルクトース等の単糖;スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース等の二糖;三糖以上の多糖等が挙げられる。
糖アルコールのなかで好適なものとしては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、キシリトール、D−ソルビトール、マンニトール、マルチトール等が挙げられる。グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンは、たとえば阪本薬品工業(株)等の市販品を用いることができる。
【0017】
上記のなかでも、(A)成分としては、加熱により特に気化しやすく、殺虫有効成分が揮散しやすいことから、グリコールが好ましく、そのなかでも、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、平均分子量200〜600のポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0018】
本発明の燻煙型殺虫剤に含まれる(A)成分は、1種でも2種以上でもよい。
(A)成分の種類により、または、異なる(A)成分の併用により、発生する煙状物の色の濃さ、煙状物の発生量、煙状物が発生し続ける時間(発煙継続時間)を制御でき、さらには、(B)成分の空間への揮散量も制御することができる。
本発明の燻煙型殺虫剤中、(A)成分の含有量は、燻煙型殺虫剤の総質量に対し、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。20質量%未満であると、(B)成分が充分に揮散しないおそれがある。
(A)成分の含有量の上限は、全配合成分の合計量が100質量%となる範囲内であれば特に限定されず、他の成分の配合量に応じて適宜設定でき、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。(A)成分の含有量が90質量%を超えると、相対的に(B)成分の含有量が少なくなることで、(B)成分が充分に揮散せず、殺虫効果が不充分となるおそれがある。
【0019】
[(B)成分]
(B)成分は、従来、燻煙剤に配合されている殺虫成分のなかから、防除対象の有害害虫の種類等を考慮して適宜選択される。
たとえば、代表的な殺虫成分としては、これらに限定されず、オキサジアゾール系化合物、カーバメイト系化合物、有機リン系化合物、ネオニコチノイド系化合物、ピレスロイド系化合物等が挙げられる。これらの中でも、人体に対する安全性、低刺激性の点で、オキサジアゾール系化合物、カーバメイト系化合物、ピレスロイド系化合物が好ましい。
【0020】
オキサジアゾール系化合物としては、メトキサジアゾン等が挙げられる。
カーバメイト系化合物としては、プロポクスル、カルバリル等が挙げられる。
ピレスロイド系化合物としては、除虫菊中に含まれる天然の殺虫成分であるピレトリン、除虫菊の乾花を溶媒で抽出したジョチュウギクエキス、および合成されたピレトリン類似化合物(合成ピレスロイド)のいずれでもよく、菊酸部分とアルコール部分からなるエステル系化合物であれば、天然品でも合成品でも特に限定されない。具体的には、ジョチュウギクエキス、ピレトリン(たとえば住友化学社製の商品名:ピレトリン)、アレスリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:ピナミン)、dl・d−T80−アレスリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:ピナミンフォルテ)、フタルスリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:ネオピナミン)、d・T80−フタルスリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:ネオピナミンフォルテ)、レスメトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:クリスロン)、d−T80−レスメトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:クリスロンフォルテ)、d−T80−フラメトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:ピナミン−D フォルテ)、フェノトリン(たとえば住商アグロインターナショナル(株)製の商品名:スミスリン)、ペルメトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:エクスミン)、d−T80−シフェノトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:ゴキラート)、d・d−T−シフェノトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:ゴキラートS)、d・d−T80−プラレトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:エトック)、EZ−エンペントリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:ベーパースリン)、イミプロトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:プラル)、トランスフルトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:バイオスリン)、メトフルトリン(たとえば住友化学(株)製の商品名:エミネンス)等が挙げられる。
上記のなかでも、処理対象の空間全体により揮散しやすいことから、オキサジアゾール系化合物の中でもメトキサジアゾンが好ましく、カーバメイト系化合物の中でもプロポクスルが好ましく、ピレスロイド系化合物の中でもd,d−T−シフェノトリン、フェノトリンが好ましい。
【0021】
本発明の燻煙型殺虫剤に含まれる(B)成分は、1種でも2種以上でもよい。
本発明の燻煙型殺虫剤中、(B)成分の含有量は、(B)成分の力価、1回の殺虫処理に用いる燻煙型殺虫剤の量(たとえば燻煙型殺虫装置への充填量など)、加熱手段等によって適宜設定すればよく、燻煙型殺虫剤の総質量に対し、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、1〜12質量%がさらに好ましい。0.1質量%未満であると、殺虫効果が不充分となるおそれがある。20質量%を超えると、相対的に(A)成分の含有量が少なくなり、(B)成分の揮散効率が低下するおそれがある。また、(A)成分への溶解性や分散性が損なわれ、製剤化が困難になる場合がある。また、20質量%を超えて配合しても殺虫効果はほとんど変わらないため、経済的視点からも好ましくない。
【0022】
本発明の燻煙型殺虫剤には、さらに、汚染性をより低減させる等の目的で、水を含有させてもよい。(A)成分と水との併用により、発生する煙状物の色の濃さ、煙状物の発生量、煙状物が発生し続ける時間(発煙継続時間)を制御でき、さらには、(B)成分の空間への揮散量も制御することができる。
水としては、精製水、イオン交換水、蒸留水等が使用できる。
燻煙型殺虫剤中の水の含有量は、燻煙型殺虫剤の総質量に対し、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。水の含有量が50質量%以下であると、加熱時に発生する蒸気の比熱が充分に小さいため、濃い煙状物が発生しやすくなり、視認性がより良好となる。
【0023】
(A)成分と水との比率は、発生する煙状物の色の濃さ、煙状物の発生量及び発煙継続時間の制御、汚染性の低減、(B)成分の空間への揮散量の観点から、(A)成分/水で表される質量比で20/80〜100/0であることが好ましく、所望とする効果等に応じて適宜決定すればよい。
そのなかでも、発生する煙状物の色の濃さ、煙状物の発生量及び発煙継続時間の制御、並びに(B)成分の空間への揮散量と、汚染性の低減との両立を図りやすいことから、30/70〜98/2であることがより好ましく、50/50〜98/2であることがさらに好ましく、80/20〜95/5であることが特に好ましい。
【0024】
本発明の燻煙型殺虫剤には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、上記(A)、(B)成分および水以外の他の成分を含有させてもよい。該他の成分としては、たとえば、界面活性剤、忌避剤、殺菌剤、抗菌剤、防腐剤、消臭剤、ゲル化剤、精油、香料、賦形剤等が挙げられる。
界面活性剤としては、通常、医薬品、医薬部外品、化粧品、雑貨品等に使用されるものであれば特に限定されず、(A)成分への溶解性、分散性の観点から、非イオン界面活性剤が好ましい。具体的には、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
本発明の燻煙型殺虫剤は、上記の各成分を混合することにより調製できる。
【0025】
≪殺虫方法≫
本発明の燻煙型殺虫剤は、上述したとおり、150〜450℃で加熱されることにより白色の煙状物が発生するとともに(B)成分が揮散する。家屋内、車両内等の空間内で本発明の燻煙型殺虫剤を加熱すると、該煙状物によって(B)成分が短時間で当該空間内に揮散し、害虫に対する殺虫効力が発揮される。
燻煙型殺虫剤の加熱温度は、150〜450℃であり、170〜400℃が好ましく、190〜400℃がより好ましい。150℃以上で加熱することで、発生した(A)成分の蒸気を煙状に噴出させることができ、短時間で(B)成分を処理対象の空間全体に拡散させることができる。該範囲内においては、加熱温度が高いほど、(B)成分が空間内全体に拡散する時間が短くなり、その拡散範囲も広くなる。加熱温度が450℃を超えると、(B)成分が熱分解し、有効な状態(未分解の状態)で揮散する量が減少(揮散効率が低下)するおそれがある。
【0026】
燻煙型殺虫剤の加熱は、汚染防止効果に優れることから、間接加熱方式により行うことが好ましい。間接加熱方式は、燻煙剤の加熱方式の一つとして知られる方法で、燻煙剤を燃焼させることなく、発熱性基剤の熱分解に必要な温度(熱エネルギー)を、伝熱部(たとえば当該燻煙剤を収容した容器の壁(側壁や底壁)、該容器の空間等)を介して供給する簡便な方法である。つまり、本発明の場合、燻煙型殺虫剤を燃焼させることなく、(A)成分の気化に必要な温度(熱エネルギー)を、伝熱部を介して供給することが好ましい。
加熱手段としては、特に限定されず、従来、間接加熱方式に用いられている加熱手段を用いることができる。たとえば、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法、金属と該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物または酸化剤とを混合(たとえば鉄粉と酸化剤(塩素酸アンモニウム等)とを混合)し、その酸化反応により生じる熱を利用する方法、電熱線のような電気的な力(たとえばホットプレート等)によって発生した熱を利用する方法等が挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法が好ましく、酸化カルシウムと水との反応熱を利用する方法がより好ましい。
水と接触して発熱する物質としては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等が挙げられる。たとえば酸化カルシウムと水とを反応させると、200〜400℃程度の熱が発生する。
間接加熱方式による加熱は、たとえば、従来、間接加熱方式の燻煙装置に用いられている容器に、本発明の燻煙型殺虫剤を組み込むことにより実施できる。
【0027】
燻煙型殺虫剤の加熱は、伝熱部面が好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上に達するように行う。このように燻煙型殺虫剤を加熱する設定温度を制御することによって(B)成分がより揮散しやすくなる。
また、加熱によって燻煙型殺虫剤の温度を、設定温度になるべく短時間で到達させることが好ましい。具体的には、前記の各反応又は電熱線によって加熱し始めてから、好ましくは120秒以内に、より好ましくは60秒以内に、設定温度に到達するように加熱を行う。このように加熱速度を制御することにより、(B)成分の熱分解がより抑制されて殺虫効果が高まる。
さらに、設定温度をなるべく長い時間保持することが好ましい。具体的には、好ましくは90秒間以上、より好ましくは150秒間以上、設定温度を保持するように加熱を行う。このように設定温度を保持することにより、発煙継続時間が長くなり、(B)成分を処理対象の空間全体により拡散できる、又は、(B)成分の空間への揮散量をより増加させることができる。
前記の設定温度、加熱速度及び保持時間は、(B)成分の種類に応じて適宜設定すればよい。水と接触して発熱する物質として酸化カルシウムを用いる場合、酸化カルシウムと水との比率、酸化カルシウムの使用量、酸化カルシウムの商品グレードの選択により制御できる。また、燻煙型殺虫剤を収容する容器の容量又は材質等によっても制御できる。
【0028】
本発明の殺虫方法の殺虫対象としては、たとえばハエ、カ、ゴキブリ、ダニ等の害虫が挙げられる。
本発明により殺虫処理を行う対象空間は、たとえば家屋内(浴室、居間、寝室、押入れ等)、車両内等の密閉可能な空間が挙げられる。
燻煙型殺虫剤の使用量は、対象とする床面積に応じて適宜設定すればよい。通常、1m当たり、0.1〜2.0gが好ましく、0.2〜1.5gがより好ましい。
処理時間(加熱開始後、対象空間を密閉する時間)は、特に限定されず、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。
【0029】
≪燻煙型殺虫装置≫
本発明の燻煙型殺虫装置は、前記本発明の燻煙型殺虫剤と、150〜450℃の熱を発生する発熱部とが、伝熱部を介して配置されたものである。
本発明の燻煙型殺虫装置の構成は、燻煙剤の代わりに本発明の燻煙型殺虫剤を用いる以外は、公知の間接加熱方式の燻煙装置の構成と同様のもの等が挙げられる。
本発明の燻煙型殺虫装置の一実施形態を、添付の図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態の燻煙型殺虫装置1の構成を示す概略断面図である。
燻煙型殺虫装置1は、外容器10と、外容器10の内側に設けられた内容器20と、外容器10と内容器20との間に設けられた発熱部30と、内容器20に収容された燻煙型殺虫剤40とで概略構成されている。
燻煙型殺虫剤40としては、前記本発明の燻煙型殺虫剤が用いられる。
【0030】
発熱部30は、水と接触して発熱する物質(たとえば、酸化カルシウム等)を充填することにより形成されている。該物質の充填量は、燻煙型殺虫剤40からの蒸気の発生に必要な熱量等を考慮して決定することができる。水と接触して発熱する物質としては、前記殺虫方法の説明で挙げたものと同様のものが挙げられ、酸化カルシウムが好ましい。酸化カルシウムと水との比率は、発生する煙状物の色の濃さ、煙状物の発生量、発煙継続時間、(B)成分の揮散量などを勘案して適宜決定すればよい。
なお、ここでは水と接触して発熱する物質が充填された例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。たとえば発熱部30内に仕切り材を配置して独立した複数の区画を形成し、各区画にそれぞれ金属と、該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物または酸化剤とを充填してもよい。
【0031】
内容器20は、燻煙型殺虫剤40を収容する容器として機能すると共に、発熱部30で生じた熱エネルギーを燻煙型殺虫剤40に伝える伝熱部として機能するものである。
内容器20の材質は、伝熱性を有するものであればよく、たとえば金属、プラスチック、紙等が挙げられる。
内容器20は、発熱部30と接触していても離間していてもよい。
【0032】
外容器10は、本体12と、蓋部14と、底部16とから構成されている。
本体12、蓋部14、底部16のそれぞれの材質は、発熱部30で発生する熱や燻煙型殺虫剤40から発生する高温の蒸気による変形等が生じない耐熱性を有するものが用いられ、たとえば金属、セラミック、紙等が挙げられる。
本体12は略円筒状で、その内径は内容器20の外径よりも大きく、また、高さは内容器20の高さよりも高い。これにより、外容器10内に内容器20を設置した際に、内容器20の側壁および底壁との間に隙間が形成されるようになっている。
蓋部14は、蒸気が通過する孔を有するものであり、メッシュ、パンチングメタル、格子状の枠体等が挙げられる。
底部16は、水を透過し、かつ発熱部30を構成する物質(水と接触して発熱する物質)を透過しない孔を有するもの、たとえば不織布、メッシュ等で構成される。これにより、使用時に底部16から水を発熱部30内に浸入させ、発熱させることができるようになっている。
なお、底部16の構造は、発熱部30の構成に応じて決定され、たとえば、発熱部30に金属と、該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物または酸化剤とが充填されている場合は、底部16の構造は水を透過しないものであってよい。
【0033】
燻煙型殺虫装置1を用いた殺虫方法について説明する。
まず、燻煙型殺虫装置1を対象空間内に設置する。次いで、発熱部30の機構に応じて発熱部30を発熱させる。たとえば、酸化カルシウムを充填した発熱部30が設けられている場合、外容器10の底部16を水中に浸漬する。これにより、底部16から浸入した水が発熱部30で酸化カルシウムと反応し、200〜350℃程度の熱が発生する。このとき、内容器20の内側底面中央部22の温度を、外容器10の底部16を水中に浸漬した時点から、好ましくは120秒以内に300℃以上(より好ましくは60秒以内に350℃以上)に到達するように制御する。加えて、内側底面中央部22の温度を、好ましくは300℃以上に90秒間以上(より好ましくは150秒間以上)保持する。なお、内側底面中央部22の温度は、酸化カルシウムと反応する水の量を調整することによって制御できる。
そして、底部16から浸入した水が発熱部30で酸化カルシウムと反応して発生した熱が内容器20の側壁や底壁を介して燻煙型殺虫剤40に伝わり、燻煙型殺虫剤40の温度が上昇して(A)成分の蒸気が発生する。生じた蒸気と共に(B)成分が蓋部14の孔を通過して拡散する。そして、対象空間内に(B)成分が拡散することで、殺虫効果を得ることができる。また、(A)成分の蒸気は白煙のように視認され、使用者は実効感を得られる。このように、燻煙型殺虫装置1を用いることで簡便に殺虫処理を施すことができる。
【0034】
上述の実施形態は、いわゆる間接加熱方式の燻煙型殺虫装置であるが、たとえば殺虫剤の含浸体(たとえば吸液芯など)もしくは成形体と、これと離間して配置された伝熱部とを備えるものであってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の各例で使用した原料は下記の通りである。
ジプロピレングリコール:関東化学(株)製。
トリプロピレングリコール:関東化学(株)製。
プロピレングリコール:関東化学(株)製。
1,3−ブチレングリコール:ナカライテスク(株)製。
トリエチレングリコール:ナカライテスク(株)製。
フェノトリン:住商アグロインターナショナル(株)製。
d・d−T−シフェノトリン:住友化学(株)製。
プロポクスル:住友化学(株)製。
メトキサジアゾン:住友化学(株)製。
ペルメトリン:住友化学(株)製。
アゾジカルボンアミド:永和化成工業(株)製。
低級ニトロセルロース:T.N.C.INDUSTRIAL CO.,LTD.製。
ヒプロメロース:信越化学工業(株)製。
クレー:昭和ケミカル(株)製。
【0036】
<実施例1〜19、比較例1〜4>
表1〜4に示す各成分を混合、溶解することにより、各例の燻煙型殺虫剤を調製した。
表1〜4中、各成分の配合量の単位は質量%であり、各例の燻煙型殺虫剤は、水またはクレーを加えて全量が100質量%となるようにそれぞれ調製した。
そして、図1に示す実施形態の燻煙型殺虫装置1と同一の実施形態の燻煙型殺虫装置を用いた。具体的には、ライオン(株)製「水ではじめるバルサン12.5g」に使用されているブリキ缶(Sサイズ;直径52mm×高さ67mm)に、酸化カルシウム50gを充填し、専用の底蓋を取り付け、各例の燻煙型殺虫剤5gを内容器に収容して燻煙型殺虫装置とした。
各燻煙型殺虫装置について、以下の評価を行った。その結果を表1〜4に併記した。
【0037】
(評価方法)
[汚染性の評価]
縦12cm×横12cmの各種素材板(フローリング、ガラス板、黒色アクリル板、真鍮板)を用い、当該素材板の左半面(縦12cm×横6cm)を紙で覆い、残り右半面が露出した状態のサンプル板を作製した。
8畳相当のチャンバー試験室(横3.42m×縦3.82m×高さ2.4m)の床面に各種サンプル板をそれぞれ配置した。そして、水16gを入れたプラスチックカップ(直径8cm、高さ7cm)を、当該試験室内中央床面に設置し、該プラスチックカップに燻煙型殺虫装置を配置して燻煙を開始し、室内を2時間密閉した。
2時間密閉の後、当該試験室内からサンプル板を取り出し、覆っていた紙を剥がし、10名のパネラーにより、各種サンプル板の汚染性について、下記基準に従い、評点付けを行った。そして、10名の平均点を算出し、下記判定基準により汚染性を評価した。
<評点>
4点:サンプル板面において、左右の境界線が容易に判別でき、サンプル板の右半面(露出部分)の色が変化していた。
3点:サンプル板面において、左右の境界線が判別でき、サンプル板の右半面(露出部分)の色が若干変化して見えた。
2点:サンプル板面において、左右の境界線は注視すると判別できるが、サンプル板の右半面(露出部分)の色の変化は認められなかった。
1点:サンプル板面において、わずかに左右の境界線は判別できるが、判別しにくいものであった。
0点:サンプル板面において、左右の境界線は注視しても判別できなかった(汚染性がない)。
<判定基準>
◎:10名の平均点が0.5点未満。
○:10名の平均点が0.5点以上、1.5点未満。
△:10名の平均点が1.5点以上、2.5点未満。
×:10名の平均点が2.5点以上。
【0038】
[殺虫効果の評価]
8畳相当のチャンバー試験室(横3.42m×縦3.82m×高さ2.4m)の床面の3ヶ所(室内中央、室内隅、その中央と隅との中間点)に腰高シャーレを設置し、各シャーレに、感受性チャバネゴキブリ10匹(雌雄各5匹ずつ)を潜伏させた。そして、水16gを入れたプラスチックカップ(直径8cm、高さ7cm)を、当該室内中央床面に設置し、該プラスチックカップに燻煙型殺虫装置を配置して燻煙を開始し、室内を2時間密閉した。
2時間密閉の後、供試虫を回収し、別室にて開放直後および6時間後のノックダウン数および致死数を計測し、有効率(%)=(ノックダウン数および致死数)/30匹、を求め、下記判定基準により殺虫効果を評価した。
<判定基準>
◎:有効率が90%以上。
○:有効率が70%以上、90%未満。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
本発明を適用した実施例1〜19の燻煙型殺虫剤を用いた燻煙型殺虫装置を燻煙した際、いずれの例においても、白色の煙状物が視認された。
表に示す結果から、本発明の燻煙型殺虫剤、燻煙型殺虫装置および殺虫方法は、大がかりな装置を必要とせず、取扱いが簡便で、低汚染性であり、かつ、殺虫効果が高いことが分かる。
【0044】
<試験例(1)>
ポリオールとしてプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンを用い、これらの各ポリオールと水とを表5〜7に示す比率(質量比)で混合した混合溶液(殺虫有効成分を含有していない)をそれぞれ調製した。
次いで、燻煙型殺虫剤40の代わりに前記混合溶液を内容器20に収容した以外は、図1に示す実施形態の燻煙型殺虫装置1と同一の実施形態の燻煙型殺虫装置を用いた。具体的には、ライオン(株)製「水ではじめるバルサン25g」に使用されているブリキ缶(Lサイズ;直径66mm×高さ75mm)に、酸化カルシウム75gを充填し、専用の底蓋を取り付け、前記混合溶液3g、9gをそれぞれ内容器に収容したものを用いた。そして、以下の評価を行った。その結果を表5〜7に併記した。
【0045】
(評価方法)
水26gを入れたプラスチックカップ(直径8cm、高さ7cm)を、内容積23.8m(床面積9.9m×高さ2.4m)の試験室内(温度25±2℃、相対湿度45±5%RH)の中央床面に設置した。その後、該プラスチックカップに、上記のポリオールと水との混合溶液を内容器に収容した燻煙型殺虫装置を配置し、燻煙を開始した。
燻煙を開始してから、燻煙が終了するまでビデオ撮影を行い、煙状物が発生し始めるまでの時間(発煙開始時間)、煙状物が発生し続けている時間(発煙継続時間)、煙状物の煙の濃さ、煙状物の発生量について、以下のようにして評価を行った。尚、試験室天井には直管型蛍光灯40形(37W相当)2本を設置して各評価をそれぞれ行った。
【0046】
[発煙開始時間、発煙継続時間の評価]
水の入った前記プラスチックカップに前記燻煙型殺虫装置を配置した時点から、煙状物が発生し始めるまでの発煙開始時間(秒)と、煙状物が発生し始めてからその発煙が終了するまでの発煙継続時間(秒)とをそれぞれ計測した。3回計測を行い、平均値を評価結果とした。
【0047】
[煙状物の煙の濃さの評価]
発煙が終了した時点のビデオ画像を、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事株式会社製のビジュアルシステム)を用いて解析した。画像選択枠(ROI)を、発煙が終了した時点における煙状物の最も白い部分に設定し、色抽出処理を行った。
その際、RGB(RGBカラーモデル)値を測定し、煙状物の煙の濃さとしてB値(青値)を使用した。3回計測を行い、平均値を評価結果とした。
尚、煙状物の外観とB値との関係は以下の通りである。
B値が110未満 :煙状物を視認できるが、その煙の白さが非常に薄い。
B値が110以上150未満:煙状物を充分に視認できる。
B値が150以上170未満:煙状物の煙の白さが濃い。
B値が170以上 :煙状物の煙の白さが非常に濃い。
【0048】
[煙状物の発生量の評価]
発煙が終了した時点のビデオ画像より、下記の評価基準に従い、煙状物の発生量について評価した。3回計測を行い、平均値を四捨五入して整数とし、かかる評価の結果とした。
(評価基準)
5点:煙状物が試験室内に充満し、天井の蛍光灯の形状がほとんど見えない。
4点:煙状物が試験室内に充満し、天井の蛍光灯の形状がかすんで見える。
3点:煙状物が試験室内に充満し、天井の蛍光灯の形状がくっきり見える。
2点:煙状物が試験室内に残っているが、試験室の一部の空間に滞留している。
1点:煙状物が試験室内にほとんど残っていない。
【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
表に示す結果から、ポリオールと水との混合溶液は、水のみの場合に比べて、発煙継続時間が長いこと、煙状物の煙の白さが濃いこと、煙状物の発生量が多いこと、がそれぞれ確認できる。
加えて、当該混合溶液中のポリオールの比率が高くなるほど、発煙継続時間が長くなる、煙状物の煙の白さが濃くなる、煙状物の発生量が多くなる傾向が見られる。
プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンのなかでは、トリプロピレングリコールが、最も、発煙継続時間が長く、煙状物の煙の白さが濃く、煙状物の発生量が多いことが分かる。
【0053】
<試験例(2)>
図1に示す実施形態の燻煙型殺虫装置1において内容器20に燻煙型殺虫剤40を収容していない実施形態の燻煙型殺虫装置を用い、内容器20の内側底面中央部22の温度変化を測定した。具体的には、ライオン(株)製の「水ではじめるバルサン12.5g」に使用されているブリキ缶(Sサイズ;直径52mm×高さ67mm)に酸化カルシウム(37g、50g)をそれぞれ充填し、及び、「水ではじめるバルサン25g」に使用されているブリキ缶(Lサイズ;直径66mm×高さ75mm)に酸化カルシウム(75g)を充填し、それぞれのブリキ缶に、専用の底蓋を取り付け、温度センサーを内側底面中央部に固定した内容器を配置した形態の燻煙型殺虫装置を用いた。
そして、所定量(23g、16g、26g)の水をそれぞれ入れたプラスチックカップ(いずれも直径8cm、高さ7cm)を、内容積23.8m(床面積9.9m×高さ2.4m)の試験室内(温度25±2℃、相対湿度45±5%RH)の中央床面に設置した。
その後、該プラスチックカップに、上記の内容器に温度センサーを備えた燻煙型殺虫装置をそれぞれ配置し、燻煙を開始すると同時に、内容器の内側底面中央部の温度測定を開始した。当該内側底面中央部の温度を1秒毎に測定し、最高温度と、300℃に到達するまでに要した時間と、350℃に到達するまでに要した時間と、300℃以上に保持された保持時間とをそれぞれ測定した。これらの測定は各装置につき3回行い、その平均した結果を表8に併記した。
なお、温度センサーとしてテープ形、製品名ST−13E−015−GW1−ANP、安立計器株式会社製を用いた。当該温度センサーと接続される温度計として製品名COMPACT THERMO LOGGER AM−8000E、安立計器株式会社製を用いた。
【0054】
【表8】

【0055】
表に示す結果から、酸化カルシウムと水との比率、又は内容器20の容量により、到達最高温度、加熱速度、保持時間を制御できることが確認できる。
【符号の説明】
【0056】
1…燻煙型殺虫装置、10…外容器、12…本体、14…蓋部、16…底部、20…内容器、30…発熱部、40…燻煙型殺虫剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオールと、(B)殺虫有効成分と、を含有する燻煙型殺虫剤。
【請求項2】
自己反応性の発熱性基剤を含有しない、請求項1に記載の燻煙型殺虫剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燻煙型殺虫剤と、150〜450℃の熱を発生する発熱部とが、伝熱部を介して配置された燻煙型殺虫装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の燻煙型殺虫剤を150〜450℃で加熱する殺虫方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−236813(P2012−236813A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179603(P2011−179603)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】