説明

片手式絶縁抵抗測定器

【課題】鉄塔上で懸垂がいしの絶縁抵抗を安全かつ迅速に一人で測定することができる片手式絶縁抵抗測定器を提供する。
【解決手段】上下の水平アーム2の後端部を握り手となる垂直アーム3で接続して片手で把持できるコの字型の絶縁ホルダ1を形成し、これらの上下の水平アーム2の内部に、絶縁抵抗計の電極端子5をその尖った先端が水平アーム2の先端から突出するように固定する。懸垂がいし17のキャップ金具18に電極端子5の先端を押し付け、個々の懸垂がいし17の絶縁抵抗を測定する。外力を加えない状態では電極端子5の先端を覆うカバー12を、スプリング13を介して取り付けておくことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線の鉄塔上で懸垂がいしの良否を検査するために用いる片手式絶縁抵抗測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電線を鉄塔アームから絶縁支持するために、磁器製の懸垂がいしが広く用いられている。しかし長期間にわたり使用していると磁器部の割れや笠欠けなどの原因によってがいし本来の絶縁抵抗が低下し、がいしとしての機能を発揮できなくなる場合がある。通常、懸垂がいしは直列に多数個を接続してがいし連を構成した状態で用いられるため、1個の懸垂がいしの絶縁性が低下しても、直ちに電力供給の停止といった重大な事故につながる訳ではない。しかし絶縁抵抗を失った懸垂がいしへ雷撃などの異常電圧が加わった場合、内部フラッシオーバによってがいしが爆砕し、がいし連が離断するといった致命的な事故となるおそれがある。
【0003】
そこで電力会社では作業員を定期的に鉄塔上に登らせ、不良がいしの介在を検出する点検作業を行っている。このための装置としては個々の懸垂がいしが負担する電圧から間接的に判定するタイプのものが古くから知られており、絶縁棒の先端に取付けたホーンによってがいしを挟み、ネオンランプの発光度合いを見るネオン式と呼ばれるもの、あるいはギャップ間の放電を見るギャップ式と呼ばれるものなどが知られている。また特許文献1に示されるように、自走式の装置も開発され実用化されている。
【0004】
ところがこのような従来の不良がいし検出器は、一般的な磁器がいしの絶縁不良の発見には活用できるが、近年普及している導電釉がいしに対しては、活用できない問題があった。
【0005】
すなわち、導電釉がいしは磁器がいしの表面に半導電性の釉薬を施釉したものであって、汚損時にがいし表面で発生するコロナ放電を防止する機能を有している。このため通常の磁器がいしの抵抗が2000MΩ以上であるのに対して、導電釉がいしの抵抗は数十〜数百MΩ程度である。このように通常の磁器がいしに比べ、健全な状態においても絶縁抵抗が低いために、分担電圧で判定する従来型の不良がいし検出器では、明確に良否の判断を行いにくい。
【0006】
そこで送電線の送電を停止したうえ、個々のがいしに絶縁抵抗計の電極端子を接触させて絶縁抵抗値を読み取る必要がある。しかし鉄塔上で左右の手にそれぞれ電極端子を持ち、個々の懸垂がいしに押し当てる作業を繰り返す必要があり、作業員の安全性の確保に十分な配慮が必要となる。また、他の作業員が絶縁抵抗計の目盛を読み取って記録しなければならず、作業性が悪いという問題があった。
【0007】
しかも懸垂がいしのキャップ金具には溶融亜鉛めっきの酸化皮膜や、汚損物による絶縁皮膜が付着していることが多いため、電極端子の接触のさせかたによって絶縁抵抗計の表示が大幅に変動し、真の値を測定しにくいという問題もあった。
【特許文献1】特開平5−6718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は上記した従来技術の問題点を解決し、鉄塔上で懸垂がいしの絶縁抵抗を安全かつ迅速に一人で測定することができ、しかもキャップ金具の表面状態の影響を受けない片手式絶縁抵抗測定器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、上下の水平アームの後端部を握り手となる垂直アームで接続して片手で把持できるコの字型の絶縁ホルダを形成し、これらの上下の水平アームの内部に、絶縁抵抗計に接続される電極端子をその尖った先端が水平アームの先端から突出するように固定したことを特徴とするものである。
【0010】
なお請求項2のように、コの字型の絶縁ホルダの上下の水平アーム間の距離を、測定対象となる懸垂がいしのピッチに一致させることが好ましい。また請求項3のように、垂直アームよりも先端寄りの位置に、握った手を保護するための垂直棒を設けることが好ましい。また請求項4のように、電極端子の先端から垂直棒までの水平距離を、測定対象となる懸垂がいしの笠半径よりもやや大きくすることが好ましい。
【0011】
さらに請求項5のように、上下の水平アームの先端部に、外力を加えない状態では電極端子の先端を覆うカバーを、スプリングを介して取り付けることが好ましく、請求項6のように、絶縁ホルダに落下防止用の紐を取付けることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の片手式絶縁抵抗測定器は、片手で把持できるコの字型の絶縁ホルダの上下の水平アームの内部に、絶縁抵抗計に接続される電極端子をその先端が水平アームの先端から突出するように固定したものであるから、片手で絶縁ホルダを握り、上下の水平アームの先端をがいし連を構成する上下の懸垂がいしのキャップ金具に押し付けながら、他方の手で絶縁抵抗計を持って目盛を読み取る方法によって、懸垂がいしの絶縁抵抗を安全かつ迅速に一人で測定することができる。
【0013】
また電極端子の先端を尖らせたので、懸垂がいしのキャップ金具に施した溶融亜鉛めっきの酸化皮膜や、汚損物による絶縁皮膜を貫通してキャップ金具に確実に接触させることができ、表面状態の影響を受けることなく正確に絶縁抵抗値を測定することができる。
【0014】
請求項2のように、コの字型の絶縁ホルダの上下の水平アーム間の距離を、測定対象となる懸垂がいしのピッチに一致させておけば、がいし連を構成する各懸垂がいしの測定を次々に能率的に行うことができる。
【0015】
請求項3のように、垂直アームよりも先端寄りの位置に、握った手を保護するための垂直棒を設けておけば、作業員を保護することができる。
【0016】
請求項4のように、電極端子の先端から垂直棒までの水平距離を、測定対象となる懸垂がいしの笠半径よりもやや大きくしておけば、電極端子の先端を確実にキャップ金具に押し付けることができる。
【0017】
請求項5のように、上下の水平アームの先端部に、外力を加えない状態では電極端子の先端を覆うカバーを、スプリングを介して取付けておけば、運搬中などに尖った電極端子の先端が露出することがなく、安全である。
【0018】
請求項6のように、絶縁ホルダに落下防止用の紐を取付けておけば、この紐を腕などに巻きつけることによって、高所作業中に誤って落下させる危険を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は本発明の片手式絶縁抵抗測定器の部分断面図であり、1はABS樹脂などの絶縁性樹脂により形成されたコの字型の絶縁ホルダである。この絶縁ホルダ1は上下の水平アーム2,2の後端部を握り手となる垂直アーム3で接続しコの字型としたものである。握り手となる垂直アーム3よりもやや先端寄りの位置には、垂直アーム3を握った手指を保護するための垂直棒4が形成されている。
【0020】
上下の水平アーム2の内部には空洞が形成されており、図示しない絶縁抵抗計に接続される電極端子5が収納されている。この電極端子5は先端が尖った針状もしくは釘状接触子6の周囲を樹脂製カバー7によりモールドした形状であり、先端付近に形成されたフランジ部8を水平アーム2の先端面に当て、さらに係止片9を備えたキャップ10をフランジ部8の前面から被せたうえ、係止片9を蝶ネジ11によって水平アーム2に固定する方法で水平アーム2に固定されている。フランジ部8が前後から固定されるので、電極端子5ががたつくことはない。
【0021】
電極端子5の先端は水平アーム2の先端から3〜4cm程度突出されているが、そのままでは尖った電極端子5の先端が危険である。そこで透明の絶縁性ゴム、例えばシリコンゴムからなるカバー12を電極端子5の先端にスプリング13を介して取り付け、外力を加えない状態では電極端子5の先端をカバー12によって覆っている。しかし図2のように測定の際にはスプリング13が圧縮されてカバー12は後退し、電極端子5の尖った先端が露出することとなる。
【0022】
電極端子5の後部から延びるリード線14は水平アーム2から引き出され、その先端には絶縁抵抗計への接続端子15が設けられている。
【0023】
また絶縁ホルダ1の一部には貫通孔が形成されており、落下防止用の紐16を取付けてある。この紐16の他端を作業員の腕や腰などに固定しておけば、万一手から離れた場合にも落下事故を防止することが可能となる。
【0024】
図2は本発明の片手式絶縁抵抗測定器の使用状態を示す図であり、作業員は片手で絶縁ホルダ1の垂直アーム3を握り、がいし連を構成する上下の懸垂がいし17のキャップ金具18に上下の水平アーム2の先端を押し付ける。この押し付け力によってスプリング13が圧縮されてカバー12は後退し、電極端子5の尖った先端がキャップ金具18に接触する。このように電極端子5の先端は尖っているため、キャップ金具18の表面に施されている溶融亜鉛めっきの酸化皮膜や、汚損物による絶縁皮膜を貫通することができ、表面状態の影響を受けることがない。
【0025】
作業員は片手で本発明の片手式絶縁抵抗測定器を操作しながら、反対側の手に持った絶縁抵抗計の目盛を読み取る。この操作をがいし連を構成する全部の懸垂がいしに対して行えば、絶縁性の低下したがいしを正確に発見することができる。
【0026】
しかし懸垂がいし17のサイズは様々であり、上下の懸垂がいし17のキャップ金具18、18間の距離も様々である。そこで本発明の片手式絶縁抵抗測定器は、コの字型の絶縁ホルダ1の上下の水平アーム2,2間の距離を、測定対象となる懸垂がいし17の上下方向のピッチに一致させておくことが好ましい。このようにすれば、測定の位置合わせに神経を使うことなく、がいし連を構成するどの懸垂がいし17に対しても、同一条件で測定を行い易い。
【0027】
また本発明の片手式絶縁抵抗測定器は、電極端子5の先端から垂直棒4までの水平距離を、測定対象となる懸垂がいし17の笠19の半径よりもやや大きくしておく。これにより笠19による干渉を受けることなく、絶縁抵抗地の測定が可能となる。
【0028】
以上に説明したように、本発明の片手式絶縁抵抗測定器を用いることにより、送電線鉄塔上で各懸垂がいし17の絶縁抵抗を一人で測定することができる。このように個々のがいしの絶縁抵抗値を測定すれば、健全状態における絶縁抵抗値が数十〜数百MΩ程度に過ぎない導電釉がいしについても、劣化の有無を正確に把握することが可能となる利点がある。また、導電釉がいしに限らず一般的な磁器がいしでも不良がいしの取替えに際しては鉄塔上で絶縁抵抗計を用いた点検が行われており、本発明の片手式絶縁抵抗器を活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示す部分断面図である。
【図2】使用状態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 絶縁ホルダ
2 水平アーム
3 垂直アーム
4 垂直棒
5 電極端子
6 接触子
7 樹脂製カバー
8 フランジ部
9 係止片
10 キャップ
11 蝶ネジ
12 カバー
13 スプリング
14 リード線
15 接続端子
16 落下防止用の紐
17 懸垂がいし
18 キャップ金具
19 笠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下の水平アームの後端部を握り手となる垂直アームで接続して片手で把持できるコの字型の絶縁ホルダを形成し、これらの上下の水平アームの内部に、絶縁抵抗計に接続される電極端子をその尖った先端が水平アームの先端から突出するように固定したことを特徴とする片手式絶縁抵抗測定器。
【請求項2】
コの字型の絶縁ホルダの上下の水平アーム間の距離を、測定対象となる懸垂がいしのピッチに一致させたことを特徴とする請求項1記載の片手式絶縁抵抗測定器。
【請求項3】
垂直アームよりも先端寄りの位置に、握った手を保護するための垂直棒を設けたことを特徴とする請求項1記載の片手式絶縁抵抗測定器。
【請求項4】
電極端子の先端から垂直棒までの水平距離を、測定対象となる懸垂がいしの笠半径よりもやや大きくしたことを特徴とする請求項3記載の片手式絶縁抵抗測定器。
【請求項5】
上下の水平アームの先端部に、外力を加えない状態では電極端子の先端を覆うカバーを、スプリングを介して取り付けたことを特徴とする請求項1記載の片手式絶縁抵抗測定器。
【請求項6】
絶縁ホルダに落下防止用の紐を取付けたことを特徴とする請求項1記載の片手式絶縁抵抗測定器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−216673(P2009−216673A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63466(P2008−63466)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】