説明

牛乳の急速冷却システム

【課題】搾乳装置に不可欠な洗浄用湯を、少ない電気又は石油で沸かすことができるシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】牛乳の急速冷却システムは、氷蓄タンク20と、熱交換器14と、氷蓄タンク20に挿入されている伝熱チューブ37を通じて氷蓄タンク20から吸熱する不凍液を高温側媒体とし、水を低温側媒体とし、氷蓄タンク20の熱を水に伝えて湯にするヒートポンプ装置50と、このヒートポンプ装置50で得られた湯を蓄え、所定の温度まで加熱するヒータ31を備えている貯湯タンク32とからなることを特徴とする。
【効果】搾りたての暖かい牛乳を4℃まで急速に冷却するとともに、このときに牛乳から回収した熱を利用して湯を沸かすようにした。湯は60℃程度まで温められるので、80℃まで追い焚きするだけで済み、電気代又は石油代を大幅に節約することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搾りたての牛乳を4℃まで急速に冷却するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
搾りたての牛乳は、36℃程度と暖かい。このまま放置すると風味が落ちると共に雑菌の繁殖が心配される。そこで、従来から、搾りたての暖かい牛乳を4℃まで急速に冷却することが行われてきた。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−274910公報(図1)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図6は従来の技術の急速冷却システムを説明する図であり、搾乳装置101で得られた牛乳は、牛乳送り管102を通じて調量タンク103に送られる。この調量タンク103は、間欠的に供給される牛乳を貯留し、連続流れに変換する役割を果たす。牛乳は36℃程度と暖かいので次に示す手順で急速に冷却する。
ポンプ104で調量タンク103から一定量の牛乳をプレートクーラー105へ送る。このプレートクーラー105へは、氷蓄熱槽106から2℃程度の冷水が供給される。この冷水で牛乳を4℃程度に冷却して、牛乳排出管107から送り出す。これで、暖かい牛乳を4℃まで急速に冷やすことができる。
【0004】
ところで、調量タンク103やプレートクーラー105は、食品を扱っている関係から、定期的に洗浄することが義務づけられている。洗浄時には、ドレーンバルブ110を開いて残存牛乳を排出する。次に、調量タンク103に洗浄ホース111を繋ぎ、洗浄ホッパ112を連結する。この洗浄ホッパ112には、管113を用いて湯を供給し、管114を用いてすすぎ水を供給する。この結果、調量タンク103やプレートクーラー105は、湯で洗い、すすぎ水ですすぐことができる。
【0005】
ところで、管113を用いて供給する湯は、牛乳の脂肪を溶かすことができるように80℃にする必要がある。このような高温の湯は、水道水を電熱ヒータや石油焚きヒータで加熱して作湯する。水道水は、寒冷地においては10℃以下になることが少なくなく、これを80℃まで加熱するには、電気代又は石油代が嵩む。省エネルギーや地球温暖化防止の観点から、電気代又は石油代の節約が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、搾乳装置に不可欠な洗浄用湯を、少ない電気又は石油で沸かすことができるシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、搾りたての暖かい牛乳を4℃まで急速に冷却するとともに、このときに前記牛乳から回収した熱を利用して湯を沸かすようにした牛乳の急速冷却システムであって、0℃前後の媒体を蓄える氷蓄タンクと、この氷蓄タンクに蓄えた媒体を吸熱側媒体とし前記暖かい牛乳を放熱側媒体として熱交換を行う熱交換器と、圧縮機と膨張弁を内蔵し、冷媒を循環させ、氷蓄タンクに挿入されている伝熱チューブを通じて氷蓄タンクから吸熱する不凍液を高温側媒体とし、水を低温側媒体とし、前記氷蓄タンクの熱を前記水に伝えて湯にするヒートポンプ装置と、このヒートポンプ装置で得られた湯を蓄え、所定の温度まで加熱するヒータを備えている貯湯タンクとからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明では、氷蓄タンクと熱交換器とヒートポンプ装置とを採用することで、搾りたての暖かい牛乳を4℃まで急速に冷却するとともに、このときに牛乳から回収した熱を利用して湯を沸かすようにした。回収熱で湯は60℃程度まで温められるので、80℃まで追い焚きするだけで済み、電気代又は石油代を大幅に節約することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【0010】
図1は本発明に係る牛乳の急速冷却システムの原理図であり、このシステムは、牛乳を急速に冷却する急速冷却部10と、80℃の湯を作る作湯部30とからなる。
急速冷却部10は、搾乳を一端溜めるレシーバージャー11と、このレシーバージャー11から牛乳を送り出す送乳管12と、この送乳管12に設けられた送乳ポンプ13、熱交換器14、送乳流量調節弁15及び送乳温度計16と、この送乳温度計16で測った温度が4℃を超えているときは流量を絞り、温度が4℃を下回っているときには流量を増加させるように送乳流量調節弁15を開閉制御する送乳温度調節器17と、急速冷却された牛乳を蓄える貯乳タンク18と、熱交換器14のための吸熱側媒体19を蓄える氷蓄タンク20と、吸熱側媒体19を熱交換器14へ循環させる循環路21と、この循環路21に設けた循環ポンプ22とからなる。
【0011】
熱交換器14は、プレート式熱交換器が好適であるが、多管式熱交換器であってもよく、構造は任意である。
貯乳タンク18は、ステンレス鋼を二重構造にした、保温瓶構造のバルククーラーが好適である。
吸熱側媒体19は、水と氷の混合物である。温度変化はあるが、平均温度は0℃と見なすことができる。
【0012】
作湯部30は、追焚き用のヒータ31を備え、湯を貯える貯湯タンク32と、水道水などの水を送る送水管33と、この送水管33に設けられた送水流量調節弁34及び送水温度計35と、この送水温度計35で測った温度が例えば60℃になるように送水流量調節弁34を開閉制御する送水温度調節器36と、氷蓄タンク20に挿入した伝熱チューブ37と、この伝熱チューブ37に不凍液を循環させる不凍液管38と、この不凍液管38に設けた不凍液ポンプ39、不凍液流量調節弁41及び不凍液温度計42と、この不凍液温度計42で測った温度に基づいて不凍液流量調節弁41を開閉制御する不凍液温度調節器43と、不凍液を高温側媒体とし水を低温側媒体として熱交換を行わせるヒートポンプ装置50(詳細後述)とからなる。
【0013】
図2は本発明で採用したヒートポンプ装置の原理図であり、ヒートポンプ装置50は、断熱構造のケース51と、このケース51に収納され冷媒が封入されている冷媒循環管52と、この冷媒循環管52に設けられている圧縮機53、凝縮器54、膨張弁55及び蒸発器56と、蒸発器54に接して不凍液を流す高温側コア57と、凝縮器54に接して水を流す低温側コア58とからなる。
【0014】
ヒートポンプはエアコンに広く採用されており、その原理はよく知られているが、念のために作動を説明する。
蒸発器56の中にある液状冷媒は、高温側コア57から吸熱して、蒸発する。すなわち、液状冷媒は、蒸発に必要な大量の熱を高温側コア57から奪って蒸発する。蒸発した冷媒は、圧縮機53に吸い込まれ、加圧される。加圧されることで冷媒は高圧で高温の状態になる。この状態の冷媒は、凝縮器54で隣接する低温側コア58で冷やされて液体に変化する。気体から液体に変化するときに大量の熱を低温側コア58へ与え、自身は低温(常温)で高圧の液状冷媒になる。この液状冷媒は高圧であるため、膨張弁55で断熱膨張させて低圧にする。常温で低圧の液状冷媒は、次に蒸発器56で簡単に気化される。
【0015】
高温側コア57には不凍液が流れているため、不凍液は低温になる。また、低温側コア58には水が流れているため、水は湯になる。
【0016】
以上の構成からなる牛乳の急速冷却システムの作用を説明する。なお、理解を促すために温度を図面に矩形枠で囲って記入したが、これらの温度は厳密な値ではなく単なる参考値である。
図3は本発明に係る急速冷却部の作用説明図であり、熱交換器14に、氷蓄タンク20から0℃の吸熱側媒体19を送る。流量は循環路ポンプ22の能力で決めることができる。
【0017】
一方、熱交換器14に、レシーバージャー11から放熱側媒体として36℃の牛乳を送る。流量は送乳ポンプ13の能力で決めることができる。熱交換器14では、吸熱側媒体19で牛乳が冷やされる。送乳温度計16で測定した温度が4℃になるように送乳温度調節器17で送乳流量調節弁15を制御する。
【0018】
具体的には、送乳温度計16で測定した温度が4℃を超えていれば、送乳流量調節弁15を絞る。すると、牛乳の温度が下がり4℃に達する。また、送乳温度計16で測定した温度が4℃未満であれば、送乳流量調節弁15を開く。すると、牛乳の温度が上がり4℃に達する。
【0019】
熱交換器14では、Q11で示す熱量が移動し、吸熱側媒体19は吸熱により6℃まで温度上昇して氷蓄タンク20に戻る。氷蓄タンク20には水と氷の混合物が蓄えられており、図3の作用を進めると、氷が徐々に少なくなり、水の量が増加する。当分の間は熱交換器14へ0℃の吸熱側媒体19を供給することができるが、水を氷に変換する手当は必要となる。
【0020】
図4は本発明に係る作湯部の作用説明図であり、ヒートポンプ装置50には、低温側媒体として5〜20℃の水が供給される。ヒートポンプ装置50でQ12の熱移動が発生し、この熱量Q12で水が60℃まで加熱される。送水温度計35で測った温度が60℃未満であれば送水流量調節弁34を絞る。すると、温度が上昇して60℃に達する。
【0021】
貯湯タンク32では、貯湯温度計61で測った温度が80℃になるように、ヒータ31で追い焚きする。なお、ヒータ31の出力は貯湯温度調節器62で調整する。
【0022】
ヒートポンプ装置50によりQ12の熱移動が発生しているため、高温側媒体である不凍液は、冷却される。具体的には、−2℃の不凍液が−10℃まで冷却される。不凍液温度計42で測った温度が−10℃を超えている(0℃に寄っている)ときには、不凍液流量調節弁41を絞る。すると、不凍液の温度が下がって−10℃に達する。
【0023】
氷蓄タンク20では、吸熱側媒体19が、伝熱コイル37を介して−10℃の不凍液で冷却される。吸熱側媒体19は水と氷との混合物であり、不凍液で冷却されることで、水が徐々に氷に変化し、氷の割合が増加する。
【0024】
図3から明らかなように牛乳が36℃から4℃に下がる過程で放出した熱量Q11は、熱交換器14を介して氷蓄タンク20へ移動する。次に、図4において、氷蓄タンク20の放出熱量Q12は、ヒートポンプ装置50を介して水に移動する。熱量Q11と熱量12とは、熱損失や効率を無視すると同一になる。この結果、36℃の牛乳は4℃に下がり、5〜20℃の水は60℃の湯になる。すなわち、牛乳の保有熱を熱源として水を加熱したことになる。
【0025】
本発明によれば、ヒータ31は60℃の湯を80℃まで追い焚きする。このときに加える熱エネルギーは、水量×比熱×(80−60)=水量×比熱×20となる。
これに対して、本発明を用いないで10℃の水道水を80℃まで加熱するときは、水量×比熱×(80−10)=水量×比熱×70の熱エネルギーが必要となる。水量と比熱は同一であるから、(本発明で必要な熱エネルギー)/(従来必要な熱エネルギー)=20/70=1/3.5となり、本発明によれば、従来の1/3以下のエネルギーで80℃の湯を得ることができる。
【0026】
次に、夜間電力の利用の形態を検討する。寒冷地においては、電力供給者が、給湯ヒータ用・暖房循環ヒータ用にとして、格安の夜間電力を供給することがある。
図5は搾乳のタイムスケジュールを示す図であり、搾乳は1日2回、5時〜7時と17時〜19時に実施する。これを受けて、急速冷却部は5時〜8時と17時〜20時に作動させる。氷蓄タンクの準備はその前に済ませておく必要があるので、作湯部は例えば、2時〜5時と14時〜17時に作動させる。
【0027】
電気区分は、0時〜8時が夜間電気で、残りが昼間電気である。夜間電気は、昼間電気の約5分の1の料金に規定されている例がある。
早朝に行われる急速冷却部の作動及び作湯部の作動は夜間電気で賄うことができる。したがって、湯を作るコストは更に下げることができる。
【0028】
急速冷却部と作湯部とは、同時に運転する必要がないため次のような利点がある。
図4に示す作湯部30の機器に故障が発生して修理が必要になることがある。この場合であっても図3に示す急速冷却部10は、氷蓄タンク20内に氷が残存している限り、作動させることができる。その間に、作湯部30を復旧すればよい。急速冷却部10と作湯部30とを独立して運転可能にしたため、牛乳の急速冷却システムは弾力的に運転が行える。
【0029】
以上の説明したことから、本発明の牛乳の急速冷却システムは次のようにまとめることができる。
図1において、搾りたての暖かい牛乳を4℃まで急速に冷却するとともに、このときに前記牛乳から回収した熱を利用して湯を沸かすようにした牛乳の急速冷却システムは、
0℃前後の媒体を蓄える氷蓄タンク20と、
この氷蓄タンク20に蓄えた媒体を吸熱側媒体19とし前記暖かい牛乳を放熱側媒体として熱交換を行う熱交換器14と、
圧縮機と膨張弁を内蔵し、冷媒を循環させ、氷蓄タンク20に挿入されている伝熱チューブ37を通じて氷蓄タンク20から吸熱する不凍液を高温側媒体とし、水を低温側媒体とし、前記氷蓄タンク20の熱を前記水に伝えて湯にするヒートポンプ装置50と、
このヒートポンプ装置50で得られた湯を蓄え、所定の温度まで加熱するヒータ31を備えている貯湯タンク32とからなることを特徴とする。
【0030】
尚、図1に示した温度計、流量調節弁、ポンプは適宜、追加、削除することは差し支えない。
また、本発明の牛乳の急速冷却システムは、北海道などの寒冷地に好適であるが、本州、四国、九州に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の牛乳の急速冷却システムは、北海道などの寒冷地に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る牛乳の急速冷却システムの原理図である。
【図2】本発明で採用したヒートポンプ装置の原理図である。
【図3】本発明に係る急速冷却部の作用説明図である。
【図4】本発明に係る作湯部の作用説明図である。
【図5】搾乳のタイムスケジュールを示す図である。
【図6】従来の技術の急速冷却システムを説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
10…急速冷却部、14…熱交換器、19…吸熱側媒体、20…氷蓄タンク、30…作湯部、31…ヒータ、32…貯湯タンク、37…伝熱チューブ、38…不凍液管、50…ヒートポンプ装置、53…圧縮機、54…凝縮器、55…膨張弁、56…蒸発器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搾りたての暖かい牛乳を4℃まで急速に冷却するとともに、このときに前記牛乳から回収した熱を利用して湯を沸かすようにした牛乳の急速冷却システムであって、
0℃前後の媒体を蓄える氷蓄タンクと、
この氷蓄タンクに蓄えた媒体を吸熱側媒体とし前記暖かい牛乳を放熱側媒体として熱交換を行う熱交換器と、
圧縮機と膨張弁を内蔵し、冷媒を循環させ、氷蓄タンクに挿入されている伝熱チューブを通じて氷蓄タンクから吸熱する不凍液を高温側媒体とし、水を低温側媒体とし、前記氷蓄タンクの熱を前記水に伝えて湯にするヒートポンプ装置と、
このヒートポンプ装置で得られた湯を蓄え、所定の温度まで加熱するヒータを備えている貯湯タンクとからなることを特徴とする牛乳の急速冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−82085(P2009−82085A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257725(P2007−257725)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(507327338)株式会社日翔 (1)
【Fターム(参考)】