説明

物体の光学的測定を行うための走査型顕微鏡

【課題】物体の運動とくに測定光線に対して実質的に垂直な運動ならびに測定光線と実質的に平行な運動のいずれもが測定される走査型顕微鏡を提供すること。
【解決手段】走査型顕微鏡は、信号検出部12と信号記憶部13とを備え、信号検出部は走査型顕微鏡の光路内に配置されて、反射光線は信号検出部に集束され、信号記憶部は信号検出部と接続されるとともに、信号検出部の測定信号からなる測定信号列を記憶するように構成され、その際、走査制御部11は信号記憶部と接続されて信号記憶部を制御して、物体上のそれぞれの測定点につき、時間的に順次連続する少なくとも2つの前記測定信号を有する少なくとも1つの測定信号列が記憶される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズ、光源、変位機構および走査制御部を備え、前記光源から送出された測定光線は被測定物体に当たり、前記物体によって反射された測定光線は反射光線として前記対物レンズを通って顕微鏡の光路に入射し、前記走査制御部は前記変位機構と連携するように形成され、前記走査制御部は制御信号によって前記変位機構を制御して、前記物体と測定光線との相対位置を変化させて測定光線が前記物体上の位置の異なる所定の少なくとも2つの測定点に向けられるように構成した、物体の光学的測定を行うための走査型顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の走査型顕微鏡は対物レンズ、光源、変位機構および走査制御部を含んでなる。光源の光は、一般にさらにその他のレンズ、ビームスプリッタおよび転向鏡を含んだ顕微鏡の光路を経て、対物レンズにより、被測定物体上に測定光線として集束される。前記測定光線は物体によって反射され、反射光線として対物レンズを通って再び走査型顕微鏡の光路に入射する。この走査型顕微鏡において、前記反射光線は一般に画像監視ユニット上に結像する。
【0003】
画像監視ユニットは、最も単純な場合、観測者がそれを通して物体上の測定点の結像を観測し得る接眼レンズとしての機能を有すればよいが、画像監視ユニットは、撮像ユニット、特には撮影画像を記憶することができる評価部付きの撮像ユニットとして形成することが一般的である。
【0004】
走査制御部は変位機構と接続されており、変位機構に信号を送出することで、被測定物体と測定光線との相対位置を変化させることができる。
【0005】
通常の変位機構は、走査制御部によって送出された信号に応じて物体を測定光線に対して実質的に垂直なX方向または前記方向に対して垂直なY方向に移動させることのできるX−Yテーブルで構成可能である。これによって、測定光線を物体上の種々相違した、位置の異なる所定の測定点に向けることができ、種々相違した測定点での測定が可能となる。
【0006】
ただし、変位機構が顕微鏡の光路内に配置されて測定光線に作用し、測定光線が偏向されて、被測定物体上の位置の異なる所定の測定点に向けられるようにする構成であってもよい。このような変位機構はたとえば走査型顕微鏡の光路内に配置された制御式回転鏡によって実現することができる。
【0007】
したがって、走査型顕微鏡により、所定の測定プロセスにおいて前記物体上の位置の異なる複数の測定点を測定光線によって照射し、測定されたそれぞれの点につき、反射光線によって画像監視ユニットたとえばカメラ上に結像された画像を記憶することが可能となる。
【0008】
物体上の被測定点は測定に際してほぼ顕微鏡の焦点にくるようにすることで、測定光線が測定点においてできるだけその広がりを小さくし、物体上のできるだけ小さな面が照射されるようにすることで、高い局部分解能が可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、冒頭に述べたタイプの走査型顕微鏡を改良して、物体の運動とくに測定光線に対して実質的に垂直な運動ならびに測定光線と実質的に平行な運動のいずれもが測定されるようにすることであり、その際、走査型顕微鏡の機能拡大が技術的なコスト増を導くのではなく、安価に実現されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、本発明によれば、走査型顕微鏡がさらに信号検出部と信号記憶部とを備え、前記信号検出部は前記走査型顕微鏡の光路内に配置されて、非測定物体からの反射光線は前記信号検出部に集束され、前記信号記憶部は前記信号検出部と接続されるとともに、前記信号検出部の測定信号からなる測定信号列を記憶するように構成され、その際、前記走査制御部は前記信号記憶部と接続されて前記信号記憶部を制御して、物体上のそれぞれの測定点につき、時間的に順次連続する少なくとも2つの前記測定信号を有する少なくとも1つの測定信号列が記憶されることにより解決される。
【0011】
したがって、本発明は前記走査型顕微鏡が信号検出部と信号記憶部とを備え、前記信号記憶部に前記物体上のそれぞれの測定点につき時間的に順次連続した前記信号検出部の測定信号が記憶されることで、従来の技術とは根本的に異なっている。
【0012】
前記信号検出部は前記走査型顕微鏡の光路内に配置されており、その際、前記走査型顕微鏡は前記反射光線つまり前記物体によって反射された測定光線が前記信号検出部に集束されるように構成されている。
【0013】
前記信号記憶部は前記信号検出部と接続されて、前記信号検出部の測定信号が前記信号記憶部によって記憶されるように構成されており、その際、前記信号記憶部は前記信号の検出器信号の測定信号列つまり時間的に順次連続した前記測定信号が記憶されるように構成されている。
【0014】
前記走査制御部は前記信号記憶部と接続され、前記信号記憶部は前記走査制御部によって制御される。
【0015】
前記走査制御部による制御は、前記物体上のそれぞれの測定点につき少なくとも1つの測定信号列の測定信号が記憶されるようにして行われる。この場合、1測定信号列は少なくとも2つの前記測定信号からなる。前記測定信号は時間的に直接に連続した信号であるが、但し、前記信号間に所定の時間におよぶ測定ポーズがあってよい。
【0016】
上述した構成により、本発明による走査型顕微鏡は、運動中の前記物体によって反射された測定光線が信号検出部によって検出され、前記信号検出部の測定信号は時間分解されて前記物体上のそれぞれの測定点にごとに前記信号記憶部によって記憶される。
【0017】
上述した構成により、本発明による走査型顕微鏡によって物体上の位置の異なる複数の測定点が測定されたのち、これらの測定点の各々につき、前記信号記憶部に記憶された複数の測定信号からなるそれぞれ1つの測定信号列が得られ、この測定信号列から物体上の測定された各々の測定点ごとのこの測定点の運動を推定することができる。
【0018】
この場合、非測定物体の運動は種々の要因によって生じる。
【0019】
マイクロシステム技術で取り扱われる代表的な被測定物体は、前記物体を励起する制御信号を受け入れる制御入力系を有している。この場合、励起は被測定物体に周期的な励起信号を与える外部励起ユニットによって行われる。励起入力系によっては、その他の形態で、たとえば音響パルスまたは光パルスの形態で前記励起ユニットから前記物体に励起信号を与えることになる。
【0020】
ただし、物体によっては物体自体の固有の励起機構によって同じような励起が行われることもある。この種の物体は、一般に、励起と同期した同期信号(トリガ信号)を引き出すことのできる信号を放出している。また、前記物体の測定たとえば前記物体上の定義された点の光学的測定によって前記トリガ信号を得ることも可能である。
【0021】
重要な点は、励起ユニットからであれ、被測定物体自体からであれ、物体の励起に同期した周期的な同期信号を引き出すことができることである。
【0022】
したがって、前記走査制御部は、好ましくは、励起に同期した同期信号が供給される同期入力部を含んでいる。前記走査制御部は前記信号記憶部を同期信号に応じて制御することで励起と測定データの記録とが同期されるように構成されている。
【0023】
ここでの同期の達成は、前記信号記憶部によって記憶されたそれぞれの測定点に関する測定信号列が同期信号に対して、結果的には前記物体の励起に対して、ほぼ同位相となっていることを意味している。
【0024】
たとえば前記物体上の第1の測定点につき第1の測定信号列の第1の(前記検出器の)測定信号が前記物体の励起の開始と共に記憶される場合には、上述した同期により、前記物体上の第2の測定点についても第2の測定信号列の第1の(前記検出器の)測定信号は前記励起ユニットによる前記物体の励起の開始と共に記憶される。したがって、第1の測定信号列の第1の記憶済み測定信号と第2の測定信号列の第1の記憶済み測定信号とに関する測定データは周期的な励起に対して同位相となっている。これはその他の測定点ならびに測定信号列についても同様である。
【0025】
前記同期制御により、前記物体の運動に関する再構築は著しく容易となる。なぜなら、1つの測定信号列によって測定された前記物体上の1点の運動は、励起に関して、その他の測定信号列において記憶された前記物体上のその他の点の運動の測定と比較して時間的なずれ、つまり位相ずれがないことが保証されているからである。
【0026】
好適な実施形態では、前記走査制御部は、1つの測定信号列が励起1周期の間の前記信号検出部の測定信号を少なくとも含むように、前記信号記憶部を制御する。これにより、1つの励起全範囲における測定点の運動が前記測定信号列内に捕捉されることになる。もしも周期的励起が、この周期的励起に比較して時間的長さの異なる周期的運動を測定物体に周期的運動をもたらす場合には、測定点の周期的運動の少なくとも1周期が、記憶された測定信号列によって保持されるように測定信号列を作り出すことが好適である。
【0027】
1つの測定信号列の時間幅は、測定信号列あたりの記憶測定信号数と、前記信号検出部の測定信号が記憶される時間密度とから規定される。
【0028】
好ましくは、測定信号は、1つの測定信号列において測定信号が記憶されるサンプリングレート(sample Rate)を挙示し得るように、時間的に等間隔で記憶される。
【0029】
1つの測定信号列が少なくとも1つの励起周期または1つの運動周期を含むという前記条件は、たとえば、その間に1つの測定信号列の測定信号が記憶されるサンプリングレートと時間幅との適切な設定によって満たすことができる。また、サンプリングレートと記憶されるべき測定信号の数とを適切に設定することでも可能である。
【0030】
上述した本発明による走査型顕微鏡は、小さな物体の運動とりわけマイクロシステム技術における超小形化された部品の運動または振動の測定に特に適している。前記顕微鏡によって被測定物体に集束された集束光線はこの測定物体を照射するところでは小さな面積(ビーム径)を有しており、そのため高い局部分解能が可能となるからである。
【0031】
この種の物体の運動の測定には、少なくとも1kHzのサンプリングレートで測定信号を記憶するのが好都合であるが、急速な運動も十分正確に分解し得るためには、特に少なくとも100kHzのサンプリングレートで測定信号を記憶するのが好ましい。
【0032】
前記信号記憶部に記憶された測定データを評価するため、前記顕微鏡はさらに前記信号記憶部に接続された評価装置を備えると好都合である。この評価装置は、信号値に応じて異なった明度および/または色値を測定信号に対応させるように構成されている。こうして、面状表示たとえばスクリーン上に順次に、先ず測定信号列のすべての第1の測定信号が面分解されて表示され、その後にすべての第2の測定信号が同様にして表示される等によって、測定された前記物体の動画的な運動を表示することができる。
【0033】
前記物体の運動の分析には、運動が動画的に光学的に表示されるだけでなく、加えてさらに前記物体の運動に関する定量的な情報も得られるのが好ましい。これは、測定面(面内)つまり測定光線に対して垂直な面内における前記物体の測定点の運動速度および/または運動方向の決定によって達成することができる。同じく、測定点の面内運動振幅の決定も運動の定量的評価にとって有用である。
【0034】
したがって、好適な実施形態では、前記評価装置は、異なった測定点に関する測定信号列を互いに相関させて、少なくとも1つの測定点につき、前記信号記憶部に記憶された測定信号列から運動速度、運動方向および/または運動振幅が求められるように構成されている。この場合、測定データからこれらの定量的な運動情報を求めるには、たとえばT. Preuser, M. Rumpf, “Extracting Motion Velocities from 3D Image Sequences and Coupled Spatio-Temporal Smoothing”, SPIE Conferences on Visualization and Data Analyses, SPIE Vol.5009, 2003, p.181-192およびL. Alvarez, J. Weickert, J. Sanchez, “A scale-space approach to nonlocal optical flow calculations”, Scale-Space 1999, Corfu, Greece, Sept.1999, Corfu, Greece, Sept. 1999, Lecture Notes in Computer Science; 1682, pp.235-246, Springer 1999に述べられているように、公知の面内運動分析法に依拠することができる。
【0035】
測定精度の向上は、対物レンズの焦点外の点から対物レンズに入射する焦点外光線を遮光することによっても達成することができる。したがって、本発明による好適な実施形態では、走査型顕微鏡は空間フィルタを備える共焦点走査型顕微鏡として形成される。この空間フィルタは走査型顕微鏡の光路に配置されて上述した焦点外光線を実質的に遮光する。通例この遮光はピンホールの形の空間フィルタによって実現される。
【0036】
上述した走査型顕微鏡により、測定光線に対して実質的に垂直方向に生ずる前記物体の運動(面内運動)を測定することができる。ただし、3次元運動つまり、単に1つの面内にあるのではなく、たとえば面内運動に対して垂直な運動成分も有する運動も頻繁に生ずる。この種の、測定光線と実質的に平行方向に生ずる運動成分(面外運動)は上述した本発明による走査型顕微鏡の好適な実施形態によって測定することができる。
【0037】
さらに好適な実施形態では、前記走査型顕微鏡はさらに、前記物体と前記対物レンズの焦点面との間の相互距離を調整するように形成されたフォーカス調整機構を含んでいる。
【0038】
前記フォーカス調整機構は、たとえば、前記対物レンズに含まれたレンズを変位させることによって対物レンズの焦点を変化させるか、あるいは前記対物レンズを前記物体に対して相対運動させるかまたは前記物体自体を前記対物レンズに対して相対運動させるように構成されるとよい。
【0039】
重要なことは、前記フォーカス調整機構への制御信号によって、前記物体と前記対物レンズの焦点面との間の距離を調整することができることである。
【0040】
これにより、上述した測定が異なった複数の面で順次に実施されるようにすることが可能となる。
【0041】
先ず、前記物体と対物レンズの焦点面との間の距離が走査制御部によって設定され、続いて、この測定面において前記物体の所定の点の走査測定が実施される。それぞれの測定点につき、このようにして構成された測定信号列の測定信号が信号記憶部に記憶される。
【0042】
続いて、走査制御部は前記フォーカス調整機構を制御して、前記物体と前記焦点面との間の第2の所定の距離、したがって第2の測定面を設定する。これにより、この第2の距離につき、所定の測定点の測定が同じく上述したようにして実施することができる。
【0043】
こうして、結果として、それぞれの所定の測定点ならびにそれぞれの所定の測定面( つまり、前記物体と前記対物レンズの焦点面との間のそれぞれの所定の距離)につき、それぞれ1つの測定信号列を構成する測定信号が得られる。
【0044】
前記測定データの評価のため、この走査型顕微鏡においても、種々相違した測定点および測定面に関する個々の測定信号列を互いに相関させる評価装置を備えているのと好都合である。
【0045】
これらの測定データの相関化により、測定光線に対して実質的に垂直方向に生ずる面内運動の評価のみならず、面外運動の評価も可能である。運動の定量的評価、特に運動速度、運動方向および運動振幅の定量的評価は、たとえばT.Preuser,M.Rumpf(上掲箇所)によって述べられているように、それ自体公知の相関法(たとえばパターン照合アルゴリズム)によって行うことができる。
【0046】
運動データの容易な評価を達成するには、1測定面の個々の測定点のデータが同期化されて記録されるだけでなく、異なった測定面に関するデータの同期化も行われるのが有利である。したがって、そうした場合には、測定されたすべての測定信号列は周期的励起に対して同一の固定的位相関係にある。
【0047】
追加的なフォーカス調整機構を備えた上述した好適な実施形態の走査型顕微鏡は、1台の走査型顕微鏡によって物体の3次元運動を測定する容易かつ安価な形態の可能性を表している。
【0048】
また、測定点の3次元運動を干渉計を用いて測定することも同じく本発明の範囲内にある。
【0049】
このような好適な干渉計を組み込んだ実施形態では、その干渉計は前記走査型顕微鏡の光路に配置され、かつ前記干渉計から送出された干渉測定光線が前記対物レンズを経て前記物体上の測定点に集束されるように配置されている。前記物体によって反射された干渉測定光線は干渉反射光線として再び前記対物レンズと前記顕微鏡の光路とを経て前記干渉計に集束される結果、検出器により公知の方法で重ね合わされた光線の干渉に基づき、干渉測定光線と平行な前記物体上の測定点の運動を干渉計評価部によって求めることができる。
【0050】
前記干渉計評価部を前記信号記憶部と接続することにより、前記物体上のそれぞれの測定点につき、前記信号検出部の測定信号からなる測定信号列に加えて、前記測定点につき前記干渉計評価部によって求められた面外運動の運動データも測定データとして記憶される。
【0051】
したがって、本発明によるこの実施形態の走査型顕微鏡において、前記物体の3次元運動を測定するには、前記物体上のそれぞれの測定点につき単に1回の走査プロセスが実施されるだけでよい。この場合には、先述した好適な態様において必要となるような、測定面を変化させるというプロセスが割愛されるので、遥かに速やかな測定が可能となる。
【0052】
前記干渉計は、好ましくは、周波数のわずかに異なる2つの光波が重ね合わされるヘテロダイン干渉計として形成されるとよい。これは、通例、干渉計の光路に音響光学変調器が配設されて光波の周波数がずらされることによって実現できる。
【0053】
ヘテロダイン干渉計の場合、前記干渉計検出器には双方の光波の周波数差(いわゆるヘテロダイン周波数)を有した信号が生成されるため、前記干渉計検出器の信号から、公知の方法で、測定さるべき測定点の測定光線と平行な運動の速度のみならず、運動の方向も求めることができる。
【0054】
この好適な実施形態において、前記干渉計検出器で生成された信号は前記測定信号列の測定信号としても使用することができる。つまり、前記干渉計検出器の前記信号から、前記信号のキャリア強度に応じて、反射された前記干渉計測定信号の光強度を推定することができる。この場合、前記干渉計の信号からの光強度の計算は、たとえばC. Rembe, A. Drabenstedt,“The Laser-Doppel Confocal Vibrometer Microscope”, SPIE 5856, (2005), pp.698-709に述べられているように、それ自体公知の方法によって行なうことができる。
【0055】
こうして算出された光強度(例えば輝度)は測定信号列の測定信号として利用し得ることから、この場合、前記干渉計検出器は同時に信号検出部として利用することができる。算出された光強度は、上述したように、それぞれの測定点に関する測定信号列において前記信号記憶部によって記憶される。
【0056】
したがって、上述した好適な実施形態において、運動情報ならびに光強度情報のいずれもが前記干渉計の信号から得られる。これからさらなる利点が生ずる。
【0057】
前記干渉計から発した干渉測定光線は前記干渉計検出器の信号によるいっさいの測定データの算定に利用されるため、一方において、前記干渉計は検出器としても、光源としても機能する。したがって、1つの干渉計が使用されるだけであるが、その測定信号が多重評価されるため、前記走査型顕微鏡は装置として簡単に構成することができる。
【0058】
さらに、光強度信号は前記干渉計測定信号から得られるため、光強度決定には前記干渉計で重ね合わされた光線の干渉が基礎とされている。これにより、光強度信号の決定に際して、より高い測定精度とより優れた堅牢性とを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明の実施例を、添付図面を参照して、詳細に記述し、説明する。
【0060】
図1に示した走査型顕微鏡は光源1を備えており、前記光源から発した光線は第1のレンズ2、第1のビームスプリッタ3、第2のビームスプリッタ4および対物レンズ5を経て被測定物体6に集束される。物体6によって反射された光源1の光線は反射光線として対物レンズ5、第2のビームスプリッタ4、第1のビームスプリッタ3および第2のレンズ7を経て、カメラ8として形成された画像監視ユニットに集束され、結像する。
【0061】
物体6は、走査制御部11に接続された変位機構10上に支持されている。変位機構10はX−Yテーブルとして形成されているため、物体6を測定光線に対して実質的に垂直な双方向に、つまり、図1において左右方向かつ図面から手前ならびに図面の奥に向かって移動させることができる。
【0062】
また、X−Yテーブルに代えて、顕微鏡の光路内に配置されて、物体上の位置の異なる所定の複数の測定点に測定光線を向けるようにする走査ミラーシステムとして変位機構を形成することも可能である。
【0063】
いずれにせよ、変位機構10は走査制御部11によって制御される。
【0064】
ここで重要なのは、走査型顕微鏡がさらに信号検出部12、信号記憶部13および励起ユニット14を備えていることである。物体によって反射された測定光線は反射光線として、対物レンズ5を通過した後、第2のビームスプリッタ4により方向転換され第3のレンズ15を経て信号検出部12に集束される。前記信号検出部は測定光線の光強度を測定し、相応した信号を信号記憶部13に転送する。
【0065】
走査制御部11は信号記憶部13および励起ユニット14と接続されている。励起ユニット14はまた物体6と励起可能に連係されているため、前記物体は励起ユニット14によって周期的に励起される。
【0066】
走査制御部11は変位機構10および信号記憶部13を、励起ユニット14から得られた同期信号に応じて制御して、所定のそれぞれの測定点につき1つの測定信号列が、所定の数の測定点について信号記憶部に記憶されるようにする。この場合、測定点は所定のサンプリングレートで走査される。
【0067】
続いて、走査制御部は変位機構10を制御して、物体6上の次の測定点に測定光線が照射されるようにする。次いで、この測定点につき、同様にして測定信号列の生成が開始されて、得られた測定信号列が信号記憶部13に記憶される。
【0068】
走査制御部11は測定に際して、励起ユニット14から得られた同期信号に応じて信号記憶部13を同期させるため、それぞれの測定信号列は励起ユニット14の励起周期に対して同一の位相関係にある。
【0069】
走査制御部11にはさらに評価装置18が付属しており、前記評価装置は物体上の所定のすべての測定点の測定が実施された後、信号記憶部13に記憶された測定データの評価を行い、これにより、測定物体6の面内運動の動画的な運動が生成される。
【0070】
図1に示した走査型顕微鏡はさらに、同じく走査制御部11と接続されたフォーカス調整機構16を有している。これによって、上述した測定プロセスを種々異なった測定面で、つまり測定物体と対物レンズの焦点面との距離を種々相違させて実施することが可能である。走査制御部11は所定のそれぞれの測定面に合わせてフォーカス調整機構を調整し、こうして、対物レンズ5は測定物体6に対して所望の距離に、つまり図1において上方または下方に適切に移動させられる。続いて、物体6上のそれぞれの測定点につき、それぞれ1つの測定信号列の生成が開始される。
【0071】
好ましくは、図1に示した走査型顕微鏡は共焦点走査型顕微鏡として形成されている。つまりそれは顕微鏡の光路内に、焦点外光線を遮光して、対物レンズの焦点域から顕微鏡の光路に入射する光線のみが測定に寄与するようにする(不図示の)ピンホールを備えている。
【0072】
測定の完了後、個々の測定点および個々の測定面に関するデータから測定点の3次元運動が再構築(再現)され、パターン照合アルゴリズムにより、個々の測定点に関する定量的な情報たとえば運動速度、運動方向および運動振幅等を求めることができる。
【0073】
図2には本発明による走査型顕微鏡のさらに別の実施形態が表されており、この顕微鏡もすでに図1において述べた要素つまり、光源1、第1のレンズ2、第1のビームスプリッタ3、第2のビームスプリッタ4、対物レンズ5、変位機構10、第2のレンズ7、カメラ8、走査制御部11、フォーカス調整機構16ならびに励起ユニット14を有している。
【0074】
図1に述べた実施形態とは異なり、図2に示した走査型顕微鏡は信号記憶部13と接続されたヘテロダイン干渉計20を有している。ヘテロダイン干渉計20は干渉測定光線を送出し、前記光線は第2のビームスプリッタ4を経て対物レンズ5を通って測定物体6に当たり、反射された干渉測定光線は干渉反射光線として対物レンズ5を通って再び走査型顕微鏡の光路に入射して、第2のビームスプリッタ4を経て干渉計20に集束される。干渉計20において双方の光線(測定光線と反射光線)は干渉計検出器で重ね合わされる。干渉計20は、信号記憶部13と接続されて前記信号記憶部13に2種のデータを送信する干渉計評価部20aを含んでいる。
【0075】
前記干渉計評価部20aは一方で干渉計検出器のデータを評価して、物体6の測定点の面外運動の速度および方向を決定して、これらのデータを信号記録部13に転送する。前記干渉計評価部20aはさらに、干渉計のデータを評価して、測定信号のキャリア強度を信号記憶部13に伝達する。測定信号のキャリア強度とは物体6上の測定点によって反射された干渉反射光線の強度の尺度である。
【0076】
前記干渉計評価部20aは干渉計20の測定データを評価するため、面外運動を決定するための信号と光強度を決定するための信号とをパラレル処理する多チャンネル信号評価部を含んでいる。こうして、双方のデータが同時に検出されるため、双方の情報の容易な同期化が可能である。
【0077】
したがって、信号記憶部13において、それぞれの測定点につき、前記の面外運動データならびに光強度データのいずれもが面内運動を決定するための測定信号列において時間分解されて記憶されることができる。
【0078】
前記測定プロセスはすでに図1について述べたのと同様にして行われ、走査制御部11によって制御される。
【0079】
したがって、3次元運動の測定には、図2に示した走査型顕微鏡によれば所定の測定点の1回の走査プロセスが必要とされるにすぎないが、他方、図1に示した走査型顕微鏡の場合には、それぞれの測定面について所定の測定点の走査プロセスが必要である。
【0080】
それゆえ、図2に示した走査型顕微鏡において、フォーカス調整機構16は複数の測定面を設定する機能を果たすものではなく、その機能は焦点を被測定物体の表面と整合させることである。したがって、図2に示した走査型顕微鏡は、焦点外光線を遮光する(不図示の)ピンホールを顕微鏡の光路内に有する共焦点オートフォーカス顕微鏡として形成されている。
【0081】
このため、図2に示した走査制御部11は、フォーカス調整機構16を調整して対物レンズ5の焦点を被測定物体の表面のそれぞれの測定点に合わせるそれ自体公知のオートフォーカスシステムを含んでいるとよい。この種のオートフォーカスシステムはたとえば欧州特許第1610088号明細書に記載されている。
【0082】
したがって、図2に示した走査型顕微鏡において、前記干渉計は、この干渉計のレーザ光線が光強度を決定するための測定光線として用いられるかぎりで測定プロセスの光源として機能する。したがって、光源1とカメラ8ならびに前記光学要素である第1のレンズ2、第1のビームスプリッタ3および第2のレンズ7は本来の測定プロセスには不要であり、それ自体省くことも可能である。ただし、ユーザがこれらの要素を経てカメラ8により被測定物体6の光学像を得て、たとえば物体上の測定点のポジショニングをチェックするのに好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】フォーカス調整機構を含んだ本発明による走査型顕微鏡の機能ブロック図
【図2】フォーカス調整機構と干渉計とを含んだ本発明による走査型顕微鏡の機能ブロック図
【符号の説明】
【0084】
1:光源
5:対物レンズ
6:被測定物体
10:変位機構
11:走査制御部
12:信号検出部
13:信号記憶部
14:励起ユニット
20:干渉計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズ、光源、変位機構および走査制御部を備え、前記光源から送出された測定光線は被測定物体に当たり、前記物体によって反射された測定光線は反射光線として前記対物レンズを通って顕微鏡の光路に入射し、前記走査制御部は前記変位機構と連携するように形成され、前記走査制御部は制御信号によって前記変位機構を制御して、前記物体と測定光線との相対位置を変化させて測定光線が前記物体上の位置の異なる所定の少なくとも2つの測定点に向けられるように構成した、物体の光学的測定を行うための走査型顕微鏡であって、
前記走査型顕微鏡はさらに信号検出部と信号記憶部とを備え、前記信号検出部は前記走査型顕微鏡の光路内に配置されて、前記反射光線は前記信号検出部に集束され、前記信号記憶部は前記信号検出部と接続されるとともに、前記信号検出部の測定信号からなる測定信号列を記憶するように構成され、その際、前記走査制御部は前記信号記憶部と接続されて前記信号記憶部を制御して、物体上のそれぞれの測定点につき、時間的に順次連続する少なくとも2つの前記測定信号を有する少なくとも1つの測定信号列が記憶されることを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項2】
前記走査制御部は同期入力部を有するとともに、前記同期入力部に与えられる同期信号に応じて前記信号記憶部を制御し、それぞれの測定点につき前記信号記憶部によって記憶された測定信号列は前記同期信号とほぼ同位相となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記走査制御部は前記信号記憶部と連携するように構成され、1つの測定点につき記憶された測定信号列は少なくとも所定の数の前記測定信号を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の走査型顕微鏡。
【請求項4】
前記走査制御部は前記信号記憶部と連携するように構成され、それぞれの測定点につき所定の時間にわたって測定信号が所定のサンプリングレートで記憶されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の走査型顕微鏡。
【請求項5】
前記信号検出部と前記信号記憶部とは測定信号が少なくとも1kHzのサンプリングレートで記憶されるように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の走査型顕微鏡。
【請求項6】
前記走査型顕微鏡は、前記信号記憶部に接続された評価装置を備えるとともに、異なった測定点に関する個々の測定信号列を互いに相関させるように構成され、前記評価装置は少なくとも1つの測定点につき運動の速度又は振幅あるいはその両方を求めるように構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の走査型顕微鏡。
【請求項7】
前記走査型顕微鏡は共焦点走査型顕微鏡として形成され、この顕微鏡光路に配置されるとともに、前記対物レンズの焦点外の点から前記対物レンズに入射する焦点外光線を遮光する空間フィルタを備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の走査型顕微鏡。
【請求項8】
前記走査型顕微鏡はさらに、前記物体と前記対物レンズの焦点面との間の相互距離を調整するフォーカス調整機構を備えており、
前記フォーカス調整機構は前記走査制御部と接続され、前記走査制御部は前記フォーカス調整機構、前記変位機構および前記信号記憶部を制御して、それぞれの測定点につき、前記物体と前記焦点面との間のそれぞれ少なくとも2つの所定の距離毎に前記信号検出部の測定信号からなる1つの測定信号列を記憶させることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の走査型顕微鏡。
【請求項9】
前記評価装置は異なった測定点毎に、及び前記物体と前記対物レンズの焦点面との間のそれぞれの距離毎に、個々の測定信号列を互いに相関させて、少なくとも1つの測定点につき運動の速度又は振幅あるいはその両方を求めるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の走査型顕微鏡。
【請求項10】
前記走査型顕微鏡は、前記走査型顕微鏡の光路に配置された干渉計を備え、前記干渉計は、この干渉計から送出された干渉測定光線が前記対物レンズを経て前記物体上の測定点に集束され、前記物体によって反射された干渉測定光線が干渉反射光線として再び前記対物レンズと前記顕微鏡の光路とを経て前記干渉計に集束されるように配置されており、前記干渉計は干渉計測定データから干渉測定光線と平行な前記物体の運動を評価する干渉計評価部を有し、前記干渉計評価部は前記信号記憶部と接続され、前記信号記憶部は前記物体上のそれぞれの測定点につき前記信号検出部の測定信号からなる測定信号列に加えて、前記測定点につき前記干渉計評価部によって得られた運動データも記憶することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の走査型顕微鏡。
【請求項11】
前記干渉計は周波数の異なる2つの光波が重ね合わされるヘテロダイン干渉計として形成されていることを特徴とする請求項10に記載の走査型顕微鏡。
【請求項12】
前記干渉計は前記信号検出部として構成され、前記干渉計測定信号のキャリア強度から面内運動に関する測定信号が得られることを特徴とする請求項10又は11に記載の走査型顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−3597(P2008−3597A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161047(P2007−161047)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(598126324)ポリテック・ゲー・エム・ベー・ハー (8)
【氏名又は名称原語表記】POLYTEC GMBH
【住所又は居所原語表記】POLYTECPLATZ 1‐7, D‐76337 WALDBRONN, BUNDESREPUBLIK DEUTSCHLAND
【Fターム(参考)】