説明

物体探知装置

【課題】反射波成分の強度に基づいて対象物の状態を検出できる物体探知装置を提供する。
【解決手段】A/D変換部10は、各アンテナ位置で受信された受信信号の強度をサンプリングタイミングごとに強度データとし、強度データのアンテナ位置ごとの集合を位置毎データ列として記憶部5に記憶する。不要波算出手段12は、同一のサンプリングタイミングごとに、複数のアンテナ位置の強度データが分布している強度範囲を一定の強度幅の強度区間に分割し、強度データのデータ数が最多の強度区間について強度データの平均値を求め、当該平均値の集合を各アンテナ位置で共通の不要波成分として出力する。不要波除去手段13は、各位置毎データ列から不要波成分をそれぞれ減算することにより反射波成分を求め、検出手段14は、複数のアンテナ位置の反射波成分の強度および電磁波が送信されてから反射波成分が受信されるまでの経過時間に基づいて対象物の状態を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中または構造物中に埋設された対象物や、構造物の裏側に存在する対象物を電磁波により探知する物体探知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、地中または構造物中に埋設された対象物(たとえば埋設管など)を電磁波により探知する技術として、パルス状の電磁波を送受信するアンテナ部を地表面または構造物表面からなる基準面に沿う複数のアンテナ位置に移動させ、各アンテナ位置においてアンテナ部から送信され対象物で反射された電磁波をアンテナ部で受信し電気信号である受信信号に変換することにより、対象物を探知することが知られている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、この種の物体探知においてアンテナ部で受信される受信信号には、対象物で反射された電磁波である反射波成分だけでなく、基準面で反射された電磁波などの不要波成分が含まれている。この不要波成分は、通常、各アンテナ位置で共通し、且つ測定環境が大きく変化しない限り定常的な値をとる。
【0004】
ここにおいて、特許文献1に記載の発明では、複数のアンテナ位置で受信した受信信号について、同一伝播時間(つまり、電磁波が送信されてからの経過時間が同一となるタイミング)におけるアンテナ位置ごとの受信信号の強度を求め、この強度の差を各伝播時間ごとに比較することにより、対象物の位置を検出することが提案されている。すなわち、アンテナ位置ごとの受信信号の強度の差を各伝播時間ごとに比較して対象物を探知することにより、各アンテナ位置で共通の上記不要波成分を無視しつつ、アンテナ位置ごとに強度が異なる反射波成分に基づいて対象物を探知することができる。
【特許文献1】特許第3263752号公報(第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された発明は、上述したようにアンテナ位置ごとの受信信号の強度の差を各伝播時間ごとに比較するだけであって、反射波成分の絶対的な強度を求めるものではないので、反射波成分の強度に基づいて対象物の状態を検出することはできない。すなわち、対象物での電磁波の反射率や対象物の材質など対象物の物性について知り得ない情報が多々あり、たとえば探知対象とする対象物を材質で特定することもできない。
【0006】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、反射波成分の強度に基づいて対象物の状態を検出することができる物体探知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、探知領域内に設定された基準面に沿う複数のアンテナ位置においてアンテナ部から基準面に向けて電磁波を間欠的に送信し、基準面の奥に存在する対象物により反射された電磁波をアンテナ部で受信し電気信号である受信信号に変換することにより対象物を探知する物体探知装置であって、各アンテナ位置で受信された受信信号の強度を所定間隔のサンプリングタイミングごとに強度データとし、当該強度データのアンテナ位置ごとの集合を位置毎データ列として記憶部に記憶するサンプリング手段と、電磁波が送信されてからの経過時間が同一となるサンプリングタイミングごとに、複数のアンテナ位置の強度データが分布している強度範囲を一定の強度幅の強度区間に分割し、強度データのデータ数が最多となる強度区間について強度データの平均値を求め、当該平均値の複数のサンプリングタイミング分の集合を各アンテナ位置で共通の不要波成分として出力する不要波算出手段と、前記各位置毎データ列から前記不要波成分をそれぞれ減算することにより、対象物で反射された電磁波に相当する反射波成分の強度を求める不要波除去手段と、複数のアンテナ位置の前記反射波成分の強度および電磁波が送信されてから反射波成分が受信されるまでの経過時間に基づいて対象物の状態を検出する検出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、各位置毎データ列から不要波成分をそれぞれ減算することにより、対象物で反射された電磁波に相当する反射波成分を求める不要波除去手段と、反射波成分に基づいて対象物の状態を検出する検出手段とを備えるので、検出手段では、反射波成分の強度および電磁波が送信されてから反射波成分が受信されるまでの経過時間に基づいて対象物の状態を検出することができる。したがって、対象物での電磁波の反射率や対象物の材質などの対象物の物性を検出することもでき、たとえば探知対象とする対象物を材質で特定することも可能となる。また、一般的に強度データは不要波成分に対して強度軸方向に偏って分布しているが、不要波算出手段は、電磁波が送信されてからの経過時間が同一となるサンプリングタイミングごとに、複数のアンテナ位置の強度データが分布している強度範囲を一定の強度幅の強度区間に分割し、強度データのデータ数が最多となる強度区間について強度データの平均値を求め、当該平均値の複数のサンプリングタイミング分の集合を不要波成分とするから、サンプリングタイミングごとの全強度データの平均値から不要波成分を求める場合に比べて、強度データの分布の偏りの影響を受けず不要波成分を正確に算出することができる。そのため、反射波成分が精度よく求まり、対象物の状態の検出精度が向上する。なお、検出手段は、対象物の状態として、たとえば反射波成分の強度および電磁波が送信されてから反射波成分が受信されるまでの経過時間に基づいて対象物の有無や、対象物までの距離や、対象物の大きさや形状や材質や、物体探知装置と対象物との間に存在する伝播媒質(壁材等)の特性などを検出する。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記受信信号に含まれ前記各アンテナ位置で異なる雑音成分を取り除くフィルタ手段を備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、各アンテナ位置で異なる雑音成分が受信信号に含まれていても、当該雑音成分はフィルタ手段で取り除かれるので、雑音成分の影響を受けずに反射波成分をより精度よく求めることができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記フィルタ手段が、前記アンテナ位置ごとに、複数の前記サンプリングタイミングの前記強度データを対象として前記雑音成分を取り除くことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、フィルタ手段は、アンテナ位置ごとの強度データを対象としているので、熱雑音等のように周期性のないランダムな雑音成分を低減できるとともに、受信信号が受信された段階ですぐに雑音成分を取り除く処理を実行可能であるから、処理時間を短縮することができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、前記フィルタ手段が、前記サンプリングタイミングごとに、複数の前記アンテナ位置の前記強度データを対象として前記雑音成分を取り除くことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、フィルタ手段は、サンプリングタイミングごとの強度データを対象としているので、突発的に発生した極端な値の影響を低減でき、結果的に反射波成分をより精度よく求めることができる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明において、前記不要波算出手段が、前記強度区間の強度幅が、前記受信信号に含まれ前記各アンテナ位置で異なる雑音成分の振幅よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、強度区間の強度幅が、受信信号に含まれ各アンテナ位置で異なる雑音成分の振幅よりも大きく設定されているので、不要波算出手段で求まる不要波成分が前記雑音成分の影響で変化することはなく、反射波成分をより精度よく求めることができる。
【0017】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記強度区間の強度幅の設定に用いられる前記雑音成分を測定する雑音測定手段が設けられていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、雑音測定手段で測定された雑音成分に基づいて強度区間の強度幅が設定されるので、測定環境に応じて強度区間の強度幅が設定されることとなり、反射波成分をより精度よく求めることができる。
【0019】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかの発明において、前記不要波算出手段が、前記サンプリングタイミングごとに、複数の前記アンテナ位置についての前記強度データの最大値と最小値との差分を、予め定められた定数で除算した値を前記強度区間の強度幅とすることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、対象物の材質や物体探知装置と対象物との間の媒質が異なり受信信号の絶対的な強度の分布幅が異なる場合でも、不用波成分を求める際に同数の強度区間について強度データのデータ数が比較されるので、不要波成分を求める際の処理時間のばらつきを抑えることができる。
【0021】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかの発明において、前記アンテナ部からUWBの信号を電磁波として送信することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、電磁波のパルス幅を短くすることにより、電磁波を送信してから受信するまでに要した時間の検出精度が向上し、たとえば対象物までの距離の検出精度が向上する。しかも、不要波成分と反射波成分との違いが明確となり、不要波成分の抽出精度を向上させることができる。なお、UWB(Ultra Wide Band)は、スペクトルのピークから10dB下の点で測定した帯域幅が500MHz以上の帯域をもつか、比帯域が20%以上のものと定義されている。
【0023】
請求項9の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれかの発明において、前記アンテナ部が、1個のアンテナから電磁波を送信するとともに当該アンテナで電磁波を受信するものであり、アンテナ部を前記各アンテナ位置に移動させる移動手段を備えることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、アンテナ部が1個のアンテナで電磁波の送受信を行うので、アンテナ部の小型化を図ることができる。
【0025】
請求項10の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれかの発明において、前記アンテナ部が、電磁波を送信する送信アンテナと電磁波を受信する受信アンテナとを1個ずつ備え、アンテナ部を前記各アンテナ位置に移動させる移動手段を備えることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、アンテナ部が送信アンテナと受信アンテナとを1個ずつ備えるので、1個のアンテナで電磁波の送受信を行う場合に比べて不感帯を短くすることができる。
【0027】
請求項11の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれかの発明において、前記アンテナ部が、電磁波を送信する送信アンテナと電磁波を受信する受信アンテナとの組を複数組備え、送信アンテナと受信アンテナとの組が前記各アンテナ位置にそれぞれ配置されていることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、送信アンテナと受信アンテナとを1組ずつ使用し、且つ使用する送信アンテナと受信アンテナとの組を順に切り替えていくことによって、アンテナ部を移動させることなくアンテナ位置を切り替えることができる。
【0029】
請求項12の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれかの発明において、前記アンテナ部が、電磁波を送信する送信アンテナと電磁波を受信する受信アンテナとの組を複数組備え、アンテナ部を前記各アンテナ位置に移動させる移動手段を備えることを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、アンテナ部が送信アンテナと受信アンテナとの組を複数組備えるので、1個のアンテナで電磁波の送受信を行う場合に比べて不感帯を短くすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、各位置毎データ列から不要波成分をそれぞれ減算して反射波成分を求めることができるから、検出手段では、反射波成分の強度および電磁波が送信されてから反射波成分が受信されるまでの経過時間に基づいて対象物の状態を検出することができ、たとえば探知対象とする対象物を材質で特定することも可能となる。また、一般的に強度データは不要波成分に対して強度軸方向に偏って分布しているが、本発明では不要波成分を算出する際に、サンプリングタイミングごとの全強度データの平均値から不要波成分を算出するのではなく、強度データのデータ数が最大となる強度区間について強度データの平均値から不要波成分を算出するので、強度データの分布の偏りの影響を受けずに不要波成分を正確に算出することができる。そのため、反射波成分が精度よく求まり、対象物の状態の検出精度が向上するという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本実施形態の物体探知装置は、1個のアンテナで電気信号である送信信号を受けて電磁波を送信するとともに、当該アンテナで電磁波を受信し電気信号である受信信号に変換するアンテナ部を備え、図2に示すように、地表面もしくは構造物表面からなる基準面Sに沿った複数箇所(ここではn箇所)のアンテナ位置X1〜Xnにおいてアンテナ部1から基準面Sに向けて電磁波を間欠的に送信し、基準面Sよりも奥に存在する対象物Bにより反射された電磁波をアンテナ部1で受信することにより対象物Bを探知するものである。
【0033】
物体探知装置は、図1(a)に示すように、前記送信信号および電磁波の送信後の受波期間を定めるタイミング信号を生成して出力する信号生成部2と、信号生成部2から出力された送信信号を信号処理してアンテナ部1からパルス状の電磁波を送信させる第1の信号処理部3と、各アンテナ位置X1〜Xnにおいて前記受波期間にアンテナ部1からの受信信号をそれぞれ受けて各受信信号を信号処理し、対象物Bを探知する第2の信号処理部4とを備える。さらに、第2の信号処理部4での信号処理に用いる各種データを記憶する記憶部5と、第2の信号処理部4での検知結果などを表示する表示部6と、信号生成部2および各信号処理部3,4の信号処理方法(表示部6での表示内容を含む)を制御する制御部7と、制御部7に各種の指示を与えるように操作される入力部8とが設けられている。
【0034】
ここにおいて、信号生成部2は、制御部7からの制御信号に基づいて送信信号およびタイミング信号を生成し、送信信号を第1の信号処理部3に与えるとともにタイミング信号を第2の信号処理部4に与える。第1の信号処理部3は、入力された送信信号に対して増幅などの処理を行いアンテナ部1から電磁波を送信させる。
【0035】
第2の信号処理部4は、図1(b)に示すように、アンテナ部1からの受信信号を増幅する増幅部9と、増幅部9で増幅された受信信号の強度を前記受波期間のサンプリングタイミングごとにディジタルの強度データに変換して記憶部5に記憶するA/D変換部10(サンプリング手段)と、記憶部5に格納された強度データを用いて対象物Bを探知する演算部11とを備えている。記憶部5内には、各アンテナ位置X1〜Xnと各サンプリングタイミングとが対にされ各強度データにそれぞれ対応付けて格納されており、強度データは実質的にアンテナ位置X1〜Xnとサンプリングタイミングとについて2次元配置されたデータマップを形成する。ここに、記憶部5内における強度データのアンテナ位置X1〜Xnごとの集合を位置毎データ列とする。
【0036】
演算部11は、各アンテナ位置X1〜Xnで共通の不要波成分を求める不要波算出手段12と、前記位置毎データ列から前記不要波成分を減算することにより反射波成分を求める不要波除去手段13と、複数のアンテナ位置X1〜Xnにおける前記反射波成分の強度に基づいて対象物Bの状態を検出する検出手段14とを備えている。不要波算出手段12の動作については後に詳述する。
【0037】
以下に、本実施形態の物体探知装置の動作について説明する。ここでは、図2に示すように複数箇所(n箇所)のアンテナ位置X1〜Xnでそれぞれ信号を受信した場合について説明する。また、アンテナ位置X1で受信された受信信号に相当する位置毎データ列をA1、アンテナ位置X2で受信された受信信号に相当する位置毎データ列をA2とするように、各アンテナ位置X1〜Xnで受信された受信信号に相当する位置毎データ列をそれぞれ位置毎データ列A1〜Anとする。図2および図3では、アンテナ部がアンテナ位置X3にある場合の位置毎データ列A3を表している。以下、電磁波の送波時点からの経過時間を伝播時間Tという。図3では、横軸を伝播時間Tとし、縦軸を強度としている。
【0038】
各位置毎データ列A1〜Anは、A/D変換部10でサンプリングされることにより複数個の強度データの集合で表されることとなる。ここでは、サンプリングタイミングの時間間隔を図3に示すようにΔt〔s〕とすることにより、各位置毎データ列A1〜Anはそれぞれ計m個の強度データ(要素)で表される。すなわち、位置毎データ列A1=〔強度データA1(1)、強度データA1(2)、・・・、強度データA1(m)〕、位置毎データ列A2=〔強度データA2(1)、強度データA2(2)、・・・、強度データA2(m)〕、・・・、位置毎データ列An=〔強度データAn(1)、強度データAn(2)、・・・、強度データAn(m)〕となる。
【0039】
強度データは、記憶部5内において同一のサンプリングタイミング(同一の伝播時間T)ごとにも格納され、それぞれ時間毎データ列t1〜tmを構成する。すなわち、受信された各位置毎データ列A1〜Anにおける最初のサンプリングタイミングの強度データの集合〔強度データA1(1)、強度データA2(1)、・・・、強度データAn(1)〕が時間毎データ列t1となり、以降、時間毎データ列t2=〔強度データA1(2)、強度データA2(2)、・・・、強度データAn(2)〕、・・・、時間毎データ列tm=〔強度データA1(m)、強度データA2(m)、・・・、強度データAn(m)〕となる。
【0040】
ところで、図4(c)に示す位置毎データ列A1〜Anは、図4(a)の不要波成分と図4(b)の反射波成分との2つの成分が合成されたものである。図4では、横軸を伝播時間Tとし、縦軸を強度として、複数のアンテナ位置X1〜Xnに対応する各波形を縦軸方向に並べている。ここでいう不要波成分とは、対象物Bで反射されたのではなく、基準面Sや物体探知装置の表面で反射された電磁波を意味する。電磁波を送信する送信アンテナと電磁波を受信する受信アンテナとを別に有したアンテナ部1を用いる場合には、送信アンテナから受信アンテナに直接伝播する直接波も不要波成分に含まれる。これら不要波成分は、異なるアンテナ位置X1〜Xnでも変化せず、且つ測定環境が大きく変化しない限り定常的な値をとる。反射波成分は対象物Bで反射された電磁波を意味する。なお、ランダムに発生する熱雑音等の雑音成分が位置毎データ列A1〜Anに含まれることもある。
【0041】
不要波算出手段12は、記憶部5から強度データを時間毎データ列t1〜tmごとに取り出す。各時間毎データ列t1〜tmは、それぞれ図4(c)における位置毎データ列A1〜Anを同一のサンプリングタイミング(同一の伝播時間T)で切断した断面1、2、・・・、N、・・・mに相当する。横軸をアンテナ位置X1〜Xnとし、縦軸を強度として、複数の時間毎データ列t1、・・・、tN、tN+1、・・・、を縦軸方向に並べると図5のようになる。図5では、各時間毎データ列が相対的に比較されているので、異なるアンテナ位置X1〜Xnでも変化しない不要波成分は反映されず、雑音成分がなければ、図4(b)における反射波成分を同一のサンプリングタイミング(同一の伝播時間T)で切断した断面に相当する。
【0042】
図5に示した時間毎データ列の1つ(時間毎データ列tk)を図6に示す。図6では、横軸をアンテナ位置X1〜Xnとし、縦軸を強度としている。ここにおいて、不要波算出手段12は、時間毎データ列tkを構成する複数の強度データA1(k)、A2(k)、・・・、An(k)が分布している強度範囲(ここでは図6の上下両端間)を一定の強度幅ΔVで分割した強度区間に、これらの強度データA1(k)、A2(k)、・・・、An(k)をグループ分けする。つまり、強度範囲を強度幅ΔV刻みで複数の強度区間に分け、各強度データA1(k)、A2(k)、・・・、An(k)をいずれかの強度区間にそれぞれ当てはめる。そして、強度区間ごとに強度データのデータ数(個数)を比較し、このデータ数が最多となる強度区間(図6に「P」で示す)について、当該強度区間に含まれる全ての強度データの平均値Y(k)をとる。同様の処理を全ての時間毎データ列t1〜tmについて繰り返す。不要波算出手段12は、このように算出された平均値の全サンプリングタイミング分の集合〔Y(1)、Y(2)、・・・、Y(m)〕を不要波成分Yとして出力する。図7には、横軸を伝播時間T、縦軸を強度として、不要波算出手段12で算出された不要波成分Yの一例を示す。
【0043】
一方、不要波除去手段13は、記憶部5内の位置毎データ列A1〜Anから不要波算出手段12の出力(不要波成分Y)を減算することにより、反射波成分を求める。ただし、位置毎データ列A1〜Anには、不要波成分Y以外に、アンテナ位置X1〜Xnごとに異なる雑音成分(ランダムに発生する熱雑音等)が含まれる場合があり、この場合には不要波除去手段13で求まる反射波成分に雑音成分(高周波成分)が重畳されることがある。
【0044】
そこで、本実施形態の物体探知装置では、受信信号に含まれる雑音成分を取り除くフィルタ手段15(図1(b)参照)を演算部11に備えることによって、不要波成分Yの抽出精度を向上させている。フィルタ手段15としては、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタやFIR(Finite Impulse Response)フィルタ、または、これらにハミング窓(Hamming Window)などの窓関数やチェビシェフ(Chebyshev)近似などを適用したものなど多くの選択肢があり、これらを適宜採用すればよい。
【0045】
ここに、フィルタ手段15は、以下の2つのいずれかを雑音成分を取り除く対象とする。1つ目は、アンテナ位置X1〜Xnごとの強度データの集合、つまり各位置毎データ列A1〜Anであって、たとえば図3の位置毎データ列A3については、複数のサンプリングタイミングの強度データ(A3(1)、A3(2)、・・・、A3(m))から雑音成分を取り除く。2つ目は、サンプリングタイミングごとの強度データの集合、つまり各時間毎データ列t1〜tmであって、たとえば図6の時間毎データ列tkについては、複数のアンテナ位置X1〜Xnの強度データ(A1(k)、A2(k)、・・・、An(k))から雑音成分を取り除く。各位置毎データ列A1〜Anについて雑音成分を取り除き、その後さらに各時間毎データ列t1〜tmについて雑音成分を取り除く処理を行う等、両フィルタ処理を組み合わせてもよい。
【0046】
一方、位置毎データ列A1〜Anを得る前に熱雑音等の雑音成分を予め測定する雑音測定手段(図示せず)を設け、不要波算出手段12で用いる強度区間の強度幅ΔVの値を、雑音測定手段で測定された雑音成分の最大振幅よりも大きく設定するようにしてもよい。これにより、不要波算出手段12で求まる不要波成分Yが雑音成分の影響で変化することはなくなるので、上記フィルタ手段15を用いない場合、あるいは、上記フィルタ手段15で雑音成分が完全には取り除くことができなかった場合でも、雑音成分の影響を無視することができる。
【0047】
ただし、強度幅ΔVが大きくなると、不要波算出手段12での不要波成分の算出に要する信号処理時間は短縮されるものの、不要波成分Yの算出精度は低下する。そのため、たとえば雑音成分の最大振幅の2倍の値を強度幅ΔVとするなど、測定環境等の状況に応じて適切な強度幅ΔVに設定する必要がある。なお、雑音測定手段で測定された雑音成分の情報は、対象物Bの探知を行う前に第2の信号処理部4内のメモリ(図示せず)に格納するか、あるいは、対象物Bの探知を行うときに信号処理部4内のメモリに書き込みをすることにより、不要波算出手段12で使用可能となる。
【0048】
また、上述のように強度区間の強度幅ΔVを予め設定するのではなく、サンプリングタイミングごとに、複数のアンテナ位置X1〜Xnについての強度データの最大値と最小値との間の範囲を強度範囲とし、この強度範囲を予め定められた定数で分割することにより強度幅ΔVの強度区間を設定してもよい。ここで、たとえば8bit演算を利用するのであれば強度範囲を256分割すればよい。この場合には、256個の強度区間の全てについて強度データの個数を比較すると処理時間が比較的長くなる。そこで、各位置毎データ列A1〜Anの強度範囲を2分割して可変区間とし、分割後の可変区間のうちで強度データのデータ数が最多となる可変区間を再度2分割することにより、強度範囲の2分の1、4分の1、8分の1、・・・というように可変区間を徐々に狭めていく処理を、可変区間が強度幅ΔVの強度区間に相当するまで繰り返すことが望ましい。これにより、処理時間の短縮を図ることができる。ただし、可変区間を徐々に狭めて不要波成分Yを算出する方法は、強度データの分布状況によっては使用できない場合もある。なお、可変区間を徐々に狭める際の分割は2分割に限らず、たとえば3分割であってもよい。
【0049】
本実施形態の検出手段14は、上述のように不要波除去手段13で求まった複数のアンテナ位置X1〜Xnについての反射波成分を解析し、反射波成分の強度が所定の閾値を超えるか否かによって対象物Bの有無を検出する。ここに、反射波成分の強度は対象物Bでの電磁波の反射率により変化し、当該反射率は対象物Bの材質により変化するので、前記閾値を特定の材質の対象物Bにおける電磁波の反射率に合わせて設定しておくことによって、対象物Bよりも電磁波の反射率の小さい物体を無視して特定の材質の対象物Bのみを検出することができる。なお、検出手段14は、反射波成分に基づいて対象物Bの有無以外の状態を検出する構成であってもよく、たとえば、対象物Bまでの距離や、対象物Bの大きさや形状あるいは材質、さらにはアンテナ部1と対象物Bとの間に存在する伝播媒質(壁材等)の特性などを検出手段14に検出させることが考えられる。実際には、電磁波はその伝播距離によって減衰量が異なるため、電磁波がアンテナ部1より送信されてからアンテナ部1で受信されるまでに要した時間と電磁波の速度からその伝播距離を算出し、減衰効果を考慮することで、各特性をより高精度に検出することが可能となる。
【0050】
上述したように、本実施形態の構成によれば、位置毎データ列A1〜Anから不要波成分Yおよび雑音成分を除いた反射波成分に基づいて対象物Bを探知することができ、したがって、不要波成分Yや雑音成分の影響を受けずに対象物Bを正確に探知できるという利点がある。また、一般的に強度データは不要波成分Yに対して強度軸方向に偏って分布しているが、本発明では不要波成分Yを算出する際に、サンプリングタイミングごとの全強度データの平均値から不要波成分Yを算出するのではなく、強度データのデータ数が最大となる強度区間について強度データの平均値から不要波成分Yを算出するので、強度データの分布の偏りの影響を受けずに不要波成分Yを正確に算出することができる。そのため、反射波成分が精度よく求まり、対象物Bの状態の検出精度がよくなる。
【0051】
また、本実施形態の物体探知装置では、アンテナ部1から電磁波として超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)のパルス信号を送信する。UWBの信号を送信すれば、パルス幅の非常に狭い電磁波をアンテナ部1から送信できるので、電磁波を送信してから受信するまでに要した時間の検出精度が向上し、たとえば対象物Bまでの距離等の検出精度が向上する。しかも、不要波成分Yと反射波成分との波形の違いが明確となり、不要波成分Yの抽出精度を向上させることができる。
【0052】
ところで、地表面もしくは構造物表面からなる基準面Sの奥に存在する対象物Bを探知する場合には、一般的に、上述したように複数のアンテナ位置X1〜Xnにおいて電磁波の送受信を行い受信信号を収集する。本実施形態では、複数のアンテナ位置X1〜Xnで電磁波の送受信を行うために、アンテナ部1が各アンテナ位置X1〜Xnに移動するように(図2参照)物体探知装置自体を移動させる移動手段(図示せず)を備えている。移動手段としては、基準面S上を転動する車輪を有した構成を採用するが、この構成に限るものではなく、たとえば複数のアンテナ位置X1〜Xnを通るレールに沿って物体探知装置を移動させる構成などが考えられる。ここに、アンテナ部1は、1個のアンテナから電磁波を送信するとともに当該アンテナで電磁波を受信するように構成されており、アンテナ部1の小型化を図っている。
【0053】
また、アンテナ部1は、電磁波を送信する送信アンテナと電磁波を受信する受信アンテナとを1個ずつ備える構成であってもよく、この場合にも、アンテナ部1を各アンテナ位置X1〜Xnに移動させる移動手段が設けられる。さらにまた、アンテナ部1は、電磁波の送受信を行うアンテナを複数個備えるか、あるいは送信アンテナと受信アンテナとの組を複数組備えていてもよく、この場合でも、移動手段によってアンテナ部1を各アンテナ位置X1〜Xnに移動させる移動手段が設けられる。
【0054】
ここにおいて、送信アンテナと受信アンテナとの組が各アンテナ位置X1〜Xnにそれぞれ配置されている場合、あるいはそれぞれ電磁波の送受信を行うアンテナが各アンテナ位置X1〜Xnにそれぞれ配置されている場合には、送信アンテナと受信アンテナとを1組ずつ使用し(あるいはアンテナを1個ずつ使用し)、且つ使用する送信アンテナと受信アンテナとの組(あるいは使用するアンテナ)を順に切り替えていくことにより、アンテナ部1を移動させることなくアンテナ位置X1〜Xnを切り替えることができるので、移動手段を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態を示し、(a)はブロック図、(b)は要部のブロック図である。
【図2】同上の動作説明図である。
【図3】(a)は同上の位置毎データ列を示す説明図、(b)は(a)の一部Zを拡大した説明図である。
【図4】同上の動作説明図であって、(a)は不要波成分を示す説明図、(b)は反射波成分を示す説明図、(c)は位置毎データ列を示す説明図である。
【図5】同上の動作説明図である。
【図6】同上の動作説明図である。
【図7】同上の不要波成分の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 アンテナ部
5 記憶部
10 A/D変換部(サンプリング手段)
12 不要波算出手段
13 不要波除去手段
14 検出手段
15 フィルタ手段
A1〜An 位置毎データ列
B 対象物
S 基準面
X1〜Xn 受信位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探知領域内に設定された基準面に沿う複数のアンテナ位置においてアンテナ部から基準面に向けて電磁波を間欠的に送信し、基準面の奥に存在する対象物により反射された電磁波をアンテナ部で受信し電気信号である受信信号に変換することにより対象物を探知する物体探知装置であって、各アンテナ位置で受信された受信信号の強度を所定間隔のサンプリングタイミングごとに強度データとし、当該強度データのアンテナ位置ごとの集合を位置毎データ列として記憶部に記憶するサンプリング手段と、電磁波が送信されてからの経過時間が同一となるサンプリングタイミングごとに、複数のアンテナ位置の強度データが分布している強度範囲を一定の強度幅の強度区間に分割し、強度データのデータ数が最多となる強度区間について強度データの平均値を求め、当該平均値の複数のサンプリングタイミング分の集合を各アンテナ位置で共通の不要波成分として出力する不要波算出手段と、前記各位置毎データ列から前記不要波成分をそれぞれ減算することにより、対象物で反射された電磁波に相当する反射波成分の強度を求める不要波除去手段と、複数のアンテナ位置の前記反射波成分の強度および電磁波が送信されてから反射波成分が受信されるまでの経過時間に基づいて対象物の状態を検出する検出手段とを備えることを特徴とする物体探知装置。
【請求項2】
前記受信信号に含まれ前記各アンテナ位置で異なる雑音成分を取り除くフィルタ手段を備えることを特徴とする請求項1記載の物体探知装置。
【請求項3】
前記フィルタ手段は、前記アンテナ位置ごとに、複数の前記サンプリングタイミングの前記強度データを対象として前記雑音成分を取り除くことを特徴とする請求項2記載の物体探知装置。
【請求項4】
前記フィルタ手段は、前記サンプリングタイミングごとに、複数の前記アンテナ位置の前記強度データを対象として前記雑音成分を取り除くことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の物体探知装置。
【請求項5】
前記不要波算出手段は、前記強度区間の強度幅が、前記受信信号に含まれ前記各アンテナ位置で異なる雑音成分の振幅よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の物体探知装置。
【請求項6】
前記強度区間の強度幅の設定に用いられる前記雑音成分を測定する雑音測定手段が設けられていることを特徴とする請求項5記載の物体探知装置。
【請求項7】
前記不要波算出手段は、前記サンプリングタイミングごとに、複数の前記アンテナ位置についての前記強度データの最大値と最小値との差分を、予め定められた定数で除算した値を前記強度区間の強度幅とすることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の物体探知装置。
【請求項8】
前記アンテナ部からUWBの信号を電磁波として送信することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の物体探知装置。
【請求項9】
前記アンテナ部は、1個のアンテナから電磁波を送信するとともに当該アンテナで電磁波を受信するものであり、アンテナ部を前記各アンテナ位置に移動させる移動手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の物体探知装置。
【請求項10】
前記アンテナ部は、電磁波を送信する送信アンテナと電磁波を受信する受信アンテナとを1個ずつ備え、アンテナ部を前記各アンテナ位置に移動させる移動手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の物体探知装置。
【請求項11】
前記アンテナ部は、電磁波を送信する送信アンテナと電磁波を受信する受信アンテナとの組を複数組備え、送信アンテナと受信アンテナとの組が前記各アンテナ位置にそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の物体探知装置。
【請求項12】
前記アンテナ部は、電磁波を送信する送信アンテナと電磁波を受信する受信アンテナとの組を複数組備え、アンテナ部を前記各アンテナ位置に移動させる移動手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の物体探知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−107249(P2008−107249A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291773(P2006−291773)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】