物質の電気化学的配置方法
【課題】基質上の特定位置に物質を配置する改良方法の提供。
【解決手段】保護された化学的官能基を有する分子に近接する電極をその表面に有する基質を準備する工程、該分子の保護された化学的官能基を脱保護できる電気化学的試剤を生成させるのに充分に該電極に電位を適用する工程、および脱保護された化学的官能基をモノマーまたは予め形成された分子と結合する工程を含んでなる方法。
【解決手段】保護された化学的官能基を有する分子に近接する電極をその表面に有する基質を準備する工程、該分子の保護された化学的官能基を脱保護できる電気化学的試剤を生成させるのに充分に該電極に電位を適用する工程、および脱保護された化学的官能基をモノマーまたは予め形成された分子と結合する工程を含んでなる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、基質(substrate、(基材))上の選択された部位において物質を合成し及び配置することに関する。特に、本発明は、基質上の選択された部位において化学物質のモノマーの独立したシーケンスを提供するための方法に関する。
【0002】
本発明は、ペプチド、オリゴマー、ポリマー、オリゴサッカリド(オリゴ糖)、核酸、リボ核酸、ポルフィリン、及び薬剤の同属(drug congener)を製造する分野に適用することができるが、これらに限定されるものではない。本発明は、特に、例えば、急速に発展しつつあるコンビナトリアル・ケミストリー(combinatorial chemistry)の分野において使用されるような生物活性のスクリーニング等のための化学的に多様なソースを製造する方法として用いることができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
既知のターゲット分子と、既知のターゲット分子に選択的に結合することが知られている種々の分子、すなわちリガンドとの結合能(binding capability)を測定するためのアッセイとしては多くのものが知られている。そのような実験から入手し得る情報は、利用し得るリガンドの種類及び数によって制限されることがしばしばある。新たなリガンドを見出すことを目的とする研究が続けられている。新しいリガンドは、偶然によって、又は分子構造を解明するための技術の適用によって、又は分子構造と結合活性との間の関係の系統だった分析によって見出されることがある。
【0004】
小さなペプチド分子は、生物学において作用と構造との関係を調べるための有用なモデルシステムである。ペプチドはアミノ酸のシーケンスである。例えば、20種の天然アミノ酸を縮合させることによってポリマー分子とすることができる。これらのポリマー分子は、多様な3次元的空間的及び電子的構造を形成する。それぞれの構造は、特定のアミノ酸シーケンス及び溶媒条件によって生成し得る。20種の天然アミノ酸が採り得るヘキサペプチド(hexapeptide)の数は、例えば、206であり、従って、64,000,000種の異なるペプチドであり得る。エピトープの研究によって示されるように、小さなペプチド分子はターゲット結合の研究において有用であり、シーケンスは数個のアミノ酸程度に短いものが、ある種の抗体によって高い特異性にて認識される。
【0005】
生物学的に重要なターゲットについての所望のパターンの特異性を有するリガンドを見出すプロセスは、薬剤を開発する今日の多くのアプローチの中心となっている。これらのアプローチは、構造と活性との関係に基づいて、リガンドの合理的な構成及び可能性のある一群のリガンドの大規模なスクリーニングに関連する。アプローチを組合せたものがしばしば用いられる。リガンドは、特に限定される訳ではないが、小さなペプチド分子であることが多い。
【0006】
多くの種類の異なるリガンドを調製する更に別の方法は、効率的に合理的なスクリーニング又はランダムなスクリーニングが十分に許容されるスケールにて用いられる場合でも、骨が折れて遅々としており、コストがきわめて高くついていた。例えば、よく知られている「メリーフィールド(Merrifield)」・メソッド(J. Am. Chem. Soc. (1963)85:2149−2154)は、固体の担体物質上でペプチドを合成するために用いられており、引用することによってその内容を本明細書に含めることとする(非特許文献1)。メリーフィールド・メソッドにおいて、アミノ酸は不溶性のポリマーで形成されている担体上に共有結合的に付着する。共有結合的に付着されているアミノ酸に、アルファ位が保護されているもう1種のアミノ酸を反応させることによってジペプチドを生成させる。洗浄後、保護基を外して、アルファ位が保護されている3番目のアミノ酸をジペプチドに付加させる。所望の長さ及びシーケンスを有するペプチドが得られるまで、この処理を繰り返す。メリーフィールド・メソッドを用いて、一日で少数又はそれ以上のペプチドシーケンスを合成することは、技術的に実施可能なものでなく、経済的にも実用性のあるものでない。
【0007】
より多くのポリマーシーケンスを合成するために、一連のポリマー合成用の反応装置を用いることが提案された。例えば、チューブ状の反応系を用いて、試剤を自動的に連続付加させることによって、固相担体上で鎖状ポリマーを合成することができる。しかしながら、この方法によっても、効率的及び経済的なスクリーニングのために、十分に多くの数のポリマーシーケンスを合成することができない。
【0008】
複数のポリマーシーケンスを合成するもう1つの方法には、多孔質容器を用いて、容器の孔の寸法よりも大きな反応性粒子を既知の量で入れるというものがある。容器内の粒子を所望の物質と反応させることによって、所望のシーケンスの生成物分子を合成することができる。しかしながら、この技術分野において知られている他の方法と同様に、この方法は効率的なスクリーニングのための十分に多様なポリペプチドを合成するのに実用的ではない。
【0009】
他の技術も既に開示されており、試みられている。このような方法の幾つかは、標準的なマイクロタイター・プレートのフォーマットに適合する96のプラスチック・ピン上でペプチドを合成することに関する。残念ながら、これらの技術は多少有用ではあるが、実質的な問題点が残っている。例えば、標準的なマイクロタイター・プレートを用いる方法は、合成及びスクリーニングすることができるシーケンスの多様性に関する制限が課せられたままである。マイクロタイター・プレートを用いると、本質的に純度の高いポリマーが合成されるということは認識されているが、その理由は、各ポリマーはマイクロタイター・プレートの十分に離れされたウェル(well)にて合成され、所定の時間で合成され得るポリマーの数はマイクロタイター・プレート内のウェルの数、従って、96個に限定されるからである。更に、マイクロタイター・プレートでの合成に必要とされる装置の規模は大きい。このような制限のために、マイクロタイター・プレートを用いると、大きな空間を必要として、比較的少数のペプチドが合成される。
【0010】
より小さな空間において、多くのポリマー及びポリペプチドの種々のアレイ(array、配列)を合成する試みが、Pirrungらの米国特許第5,143,854号(1992年)において見出されている(特許文献1)。この特許は、ポリマー及びポリペプチドのアレイを固相合成するためにフォトリソグラフィック技術を用いることを開示している。開示されている技術は、「フォトマスク」及び下側にある官能基を保護するための感光性(phtolabile)の保護基を用いるものである。方法の各工程では、種々のフォトマスクを用いて、露光され、従って脱保護される領域を調節することが必要である。化学物質のモノマーの各アレイについて新しい一組のフォトマスクを製造することが必要であり、そのことによってきわめてコストが高く、自動化にはあまり適さないものとなっている。更に、この方法は、合成の各工程がフォトマスクを機械的に取り除き、配置し及び再整列することを要するので、単調で時間のかかる方法である。従って、Pirrungの方法を用いて大規模なポリマーのライブラリーを合成しようとすることは、効率が悪く、非経済的である。
【0011】
Pirrung法のもう1つの問題点は、使用する感光性保護基が、常套の酸又は塩基に不安定な保護基と同じくらい効率的に除去することはできず、望ましくない副反応による汚染によって影響を受けたりし得ることである。従って、Pirrung法を用いての化学的アレイの純度は、保護基を十分に除去することができないこと、及びその結果として下側の官能基を所望のモノマーと反応させることができないこと、並びに望ましくない副反応によって汚染されることのためにしばしば低下し得る。
【0012】
多種のポリマーを合成するもう1つの試みは、Southernによって1993年11月11日に刊行された国際特許出願WO93/22480に開示されている(特許文献2)。Southernは、選択した部位において表面を電気化学的に改質(modify)することによってポリマーを合成する方法を開示しており、この方法は表面を覆う電解質及び表面に隣接する電極のアレイを設けることを含んでいる。Southernの合成法の各工程において、電極のアレイは合成点に隣接して機械的に配され、電極において電気化学的試剤が生成するのに十分な電位が印加される。電気化学的試剤は、電解質中又は表面のいずれかにおいて見出される別の種類の試剤と反応させられたり、それら自身の表面に付着させられたりして、合成の所望のポイントにて物質に付着したり、物質を改質したりする。電極のアレイはその後機械的に取り除かれ、表面は選択されたモノマーにその後接触させられる。その後の反応としては、電極のアレイが表面に隣接させて再び機械的に配され、次の組(セット)の選択された電極を活性化させる。
【0013】
この方法では、合成が行われる電極のアレイと表面との間の間隔において多くの制御を行う必要がある。改質のための電極と表面との間の間隔にわたる制御は、電極と合成ポイントとの間の正確な位置合わせを確保するため、並びに所望の合成ポイントから離れて電気化学的に生成する試剤の拡散の程度を制限するために必要である。しかしながら、数ミクロンの表面にて電極を繰り返して正確に位置せしめることに特有の困難を伴うことによって、望ましくない合成ポイントにおいて電気化学的に試剤が生成することが起こり得る。更に、電気化学的に生成する試剤が、反応の望ましい部位から反応の望ましくない部位へ拡散することによって、合成部位どうしの間で「化学的クロストーク(cross-talk)」が生じ得る。このようなクロストークは、選択していない部位にて所望しない結合反応を起こし得るので、最終生成物の純度を著しく低下させ得る。電極が移動する場合には生じ得る表面張力の乱れによってクロストークの程度は更に悪化し、電気化学的に生成する試剤の移動を助長し得る対流的混合をまねき得る。Southernは、実際的なやり方として、拡散を相殺するような構成で電位を印加することによって、クロストークの程度を小さくすることを試みたが、Southernが形成することができた電場は拡散を相殺するためには小さ過ぎるものであった。電位を上げて電場を増強させようとする場合、電気化学的に生成する望ましくない試剤が大量に形成される。従って、純粋なポリマーを大量に形成するためには、Southern法は実用的な方法ではない。
【0014】
ポリマーの合成を自動化しようとするより最近の試みは、Hellerによって1995年5月11日に刊行された国際特許出願WO95/12808に開示されている(特許文献3)。Hellerは、ペプチド及びオリゴヌクレオチドのバイオポリマー合成を含む顕微鏡的環境にて、制御された多段階反応を行うことができる、自己アドレス可能(self-addressable)であり、自己アセンブル可能(self-assembling)な電気化学的系を開示している。Hellerの方法は、分析物又は試剤を、特定の結合単位(entity)と効率的に反応及び濃縮させる選択された微小部位(microlocation)に移動させる自由な電気泳動の場を用いるものである。Hellerのデバイスのそれぞれの微小部位は、特定の結合単位の共有結合的な付着のための誘導体化された表面を有しており、結合層、透過層、及び下側の直流電流微小電極を含んでなる。透過層が存在することによって、電気化学的に生成する試剤が、それぞれの合成部位へ電気泳動的に移送される試剤又は合成ポイントに結合したり、それらと相互作用を行ったりすることを防止する。従って、すべての合成は、合成のそれぞれの部位へ電気泳動的に移送される試剤によって行われる。
【0015】
しかしながら、Hellerの方法は、電気泳動的移送を用いることによって著しく制限される。まず、電気泳動的移送では、電場によって影響を受けるように試剤に電荷を帯びさせることが必要であるが、コンビナトリアルケミストリーにおいて用いられる通常の試剤は一般に電荷を有さない分子であり、電気泳動系において用いることができない。次に、Hellerの方法は、結合する試剤を電気泳動的に移送させることに関連する電場の空間的分布のために、固有に生じる大量の化学的クロストークを解決しておらず、また、解決することができない。電気泳動的を用いる系において、保護基を取り除くための機構がないので、微小部位において反応性官能基を保護するために保護基を用いることはできず、電気泳動を用いることによって、種々の結合単位及び/又は反応体は移送されて、選択されていない反応部位にしばしば接触するので、種々の結合単位及び/又は反応体は使用する溶液の全体に配される結果となり得る。従って、電気泳動に固有の電場の空間的分布及び保護基がないことの組合せによって、そのような結合反応がランダムに起こり、いずれかのポリマーが合成されることの正確性を低下させ得る。
【0016】
【特許文献1】米国特許第5,143,854号
【特許文献2】国際特許出願公開WO93/22480
【特許文献3】国際特許出願公開WO95/12808
【非特許文献1】「メリーフィールド(Merrifield)」・メソッド(J. Am. Chem. Soc. (1963)85:2149−2154)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述のように、高い効率での脱保護化(deprotection)及びカップリング機構を用いて、既知の部位にて多様な化学的シーケンスを合成するための向上した方法が依然として必要とされており、そのような要望が存在している。更に、コストに関して効率的及び実際的であり、特定の領域及び時間にてより効率的に合成することができる一方で、合成する化学的シーケンスの正確性を維持し得る、より小さな規模の装置を用いることができる、既知の部位にて多様な化学的シーケンスを合成するための方法が依然として必要とされており、そのような要望が存在している。当業者には自明であろうが、モノマーからポリペプチドを合成することを目的としている上述したような説明は、オリゴヌクレオチドの合成にも同様に適用することができるし、特に、デオキシリボヌクレオチドモノマーからのデオキシリボ核酸(DNA)の合成にも同様に適用することができる。
【0018】
したがって、本発明の目的は、基質上の特定位置に物質を配置する改良方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、基質上に分離した異なった純粋なポリマーまたはオリゴヌクレオチドのアレイを迅速に合成する改良方法を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、コンビナトリアル化学において使用するために非常に近接して電極を配置することを可能にする多電極を有する分離した純粋なポリマーまたはオリゴヌクレオチドまたはDNA合成用の基質を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、研究、産業、商業および治療の使用のために有用である物質の機能的ゲノム、診断、遺伝子スクリーニング、薬品発見およびスクリーニングにおいて使用でき、ポリマーまたはDNA合成法の自動化を可能にし、非常に接近して電極の多電極アレイを有する分離したおよび純粋なポリマーまたはDNA合成用の基質を提供することにある。
【0019】
本発明の追加的な特徴および利点は、以下の説明に部分的に記載されており、説明から部分的に明白であり、本発明の実施から知ることができる。本発明の目的および他の利点は、以下の説明および添付した請求の範囲において特に指摘した要素および組み合わせによって実現でき達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明の要旨
上記目的は、基質上の特定位置で物質を電気化学的に配置する方法であって、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する少なくとも1つの分子に近接する少なくとも1つの電極をその表面に有する基質を準備する工程、
該分子の保護された化学的官能基の少なくとも1つを脱保護できる電気化学的試剤を生成させるのに充分に該電極に電位を適用する工程、
脱保護された化学的官能基をモノマーまたは予形成分子と結合する工程
ことを含んでなる方法
を提供することによって本発明にしたがって達成される。
本発明は、基質上に別個に形成されたポリマーのアレイを電気化学的に合成する方法であって、
基質表面に近接している電極のアレイと接触して緩衝液またはスカベンジ液を配置する工程、該表面は、それに付着している少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する1つまたはそれ以上の分子に隣接しており、
該分子の少なくとも1つにおける少なくとも1つの保護された化学的官能基を選択的に脱保護する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第1モノマーを、該分子の1つまたはそれ以上の脱保護された化学的官能基に結合する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する該分子の他または結合した分子における化学的官能基を選択的に脱保護する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第2モノマーを、該他の脱保護分子または結合分子の脱保護化学的官能基に結合する工程、
所望の長さの少なくとも2つの分離したポリマーが基質表面に形成されるまで、結合保護モノマーまたは結合保護分子における化学的官能基の選択的脱保護、および該脱保護化学的官能基への追加的モノマーの続いての結合を繰り返す工程
を含んでなる方法をも提供する。
別の要旨によれば、本発明は、
基質上に別個に形成されたオリゴヌクレオチドのアレイを電気化学的に合成する方法であって、
基質表面に近接している電極のアレイと接触して緩衝液またはスカベンジ液を配置する工程、該表面は、それに付着している少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する1つまたはそれ以上の分子に隣接しており、
該分子の少なくとも1つにおける少なくとも1つの保護された化学的官能基を選択的に脱保護する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第1ヌクレオチドを、該分子の1つまたはそれ以上の脱保護された化学的官能基に結合する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する該分子の他のまたは結合分子における化学的官能基を選択的に脱保護する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第2ヌクレオチドを、該他の脱保護された分子または結合分子の脱保護化学的官能基に結合する工程、
所望の長さの少なくとも2つの分離したオリゴヌクレオチドが基質表面に形成されるまで、保護された結合ヌクレオチドまたは保護された結合分子における化学的官能基の選択的脱保護、および該脱保護化学的官能基への追加的ヌクレオチドの続いての結合を繰り返す工程
を含んでなる方法をも提供する。
【発明の効果】
【0021】
本明細書で説明する電気化学的方法を使用することによって、モノマー(ポリマー合成に使用できるものおよび修飾できるものの両方)、および予形成分子を基質上で小さいかつ正確に知られた位置に配置することが可能になる。したがって、基材上の選択された位置に既知の化学的シークエンスのポリマーを合成することが可能になる。例えば、本発明に従えば、基質上の選択された位置にヌクレオチドを配置することができ、例えばオリゴヌクレオチドの形態でヌクレオチドの所望シークエンスを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
上記の一般的記述および以下の詳細な記述の両方は例示的なものであり、説明のためだけであり、特許請求されたような本発明を説明しようとするものであることを理解していただきたい。
【0023】
本発明は、選択された領域に1又は複数の化学種を有する基質を形成し及び使用する方法を提供する。本発明は、アミノ酸のシーケンスを含む分子を合成することに主として関連するものとして説明するが、他のポリマーの合成並びに核酸のシーケンスの合成にも容易に適用することができる。そのようなポリマーには、核酸、ポリサッカリド、ホスホリピド、及びアルファ−、ベータ−、又はオメガ−アミノ酸のいずれかを含むペプチド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアセテート、又はこの明細書の開示を参照することによって自明である他のポリマー等の鎖状及び環状のポリマーのいずれもが含まれる。好ましい態様において、本発明はここではペプチドの合成に用いられる。もう1つの好ましい態様において、本発明はオリゴヌクレオチド及び/又はDNAの合成に用いられる。
【0024】
本発明は、モノマー、リンカー分子及び予備形成された分子、特に核酸を含むものから一般に選ばれる分子を、基質の特定の部位に配することに関する。本発明は、特に、固相重合技術によって、基質上の特定の部位にてポリマー、特にポリペプチドを合成することに関しており、少なくとも1つの電極の近くにある基質に配される分子から保護基を電気化学的に除去することを一般に含むものである。本発明は、本明細書に開示するような固相重合技術によって、基質上の選ばれた部位に、オリゴヌクレオチド及び/又はDNAを合成することにも関するものである。
【0025】
分子上の化学的官能基から保護基を電気化学的に除去することができる電気化学的試剤は、選ばれた電極へ十分な電気ポテンシャルを印加することによって、選ばれた電極にて生じさせることができる。本発明に従って保護基を除去すること、又は「脱保護化(deprotection)」は、電極によって生成した化学的試剤が、例えば選ばれた分子から酸又は塩基に不安定な保護基を脱保護化又は除去するように作用する場合に、選ばれた分子において行われる。
【0026】
本発明の1つの態様において、モノマー、ヌクレオチド又はリンカー分子(即ち、例えばモノマー又はヌクレオチドを基質へ「リンク(link)」させる分子)の末端には、少なくとも1種の反応性官能基が付与されており、それは電気化学的に生成する試剤によって除去可能な保護基によって保護されている。保護基は、電極において電気化学的に生成する試剤にさらされ、第1選択領域においてモノマー、ヌクレオチド又はリンカー分子から除去され、反応性官能基を露出する。その後、基質は、さらされた官能基と結合する第1のモノマー又は予備形成された分子に接触する。この第1のモノマー又は予備形成された分子も、電気化学的に生成する試剤によって除去される少なくとも1つの保護された化学的官能基を有していてよい。
【0027】
モノマー又は予備形成された分子は、その後同様の方法で脱保護化して、もう1組の反応性の化学的官能基を得ることができる。第2のモノマー又は予備形成された分子は、電気化学的に生成する試剤によって除去され得る少なくとも1つの保護基を有していてもよく、その後、基質に接触させられて、第2の組のさらされた官能基に結合する。いずれかの未反応の官能基は、場合によって、合成プロセスの間のいずれかの時点においてキャップされてよい。脱保護化及び結合工程は、その後、基質のこの部位において、所望するシーケンス及び長さのポリマー又はオリゴヌクレオチドが得られるまで繰り返して行われる。
【0028】
本発明の他の態様において、結合する少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する1種又はそれ以上の分子を有する基質は、電極のアレイの近傍にあり、そのアレイは緩衝液又はスカベンジング液(scavenging solution)に接触している。アレイ中の選ばれた電極へ、保護された化学的官能基を脱保護化させることができる試剤を電気化学的に生成させるのに十分な電位を印加した後に、選ばれた電極の近くの分子は脱保護化されて、反応性の官能基を露出し、そうすることによってそれらは結合を形成する。例えばタンパク質、核酸、ポリサッカリド及びポルフィリン等の予備形成された分子の溶液又はモノマー溶液は、基質表面に接触し、モノマー又は予備形成された分子は脱保護化された化学的官能基に結合する。
【0029】
アレイの中の選択した電極へ、少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する分子の他のもの又は結合した分子上の少なくとも1つの化学的官能基を脱保護化させるのに十分な別の電位をその後印加する。その後、少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第2のモノマー又は予備形成された分子を、結合した分子又は他の脱保護化された分子の脱保護化された化学的官能基へ結合させる。所望するシーケンス及び長さのポリマー又はオリゴヌクレオチドが得られるまで、選択的脱保護化及び結合工程を繰り返して行うことができる。選択的脱保護化工程は、保護されている結合したモノマー又は保護されている結合した分子上の化学的官能基の脱保護化が行われるのに十分な別の電位を印加することによって、繰り返される。脱保護化された化学的官能基への、追加的モノマー又は予備形成された分子のその後の結合は、少なくとも2つの別個の、所望の長さのオリゴヌクレオチド又はポリマーが基質上に形成されるまで行われる。図1〜5は、上述のような態様を一般的に示している。
【0030】
本発明の好ましい態様では、緩衝液又はスカベンジング溶液を各電極に接触させて使用しており、これらは、電気化学的に生成する試剤、特に、プロトン及び/又はヒドロキシイオンに対する緩衝作用を有しており、アレイの中の1つの電極から他の電極へ電気化学的に生成するイオンの拡散によって生じる化学的クロストークを積極的に防止する。例えば、水性又は部分的に水性の媒体にさらされる電極に十分な正の電位(又は負の電位)がかけられる場合、水の加水分解の生成物としてプロトン(又はヒドロキシイオン)が生成する。例えば、プロトンは、例えば、ペプチド、核酸及びポリサッカリドなどのコンビナトリアル合成において有用ないくつかの分子から、電気化学的保護基を除去するのに有用である。
【0031】
独立した及び純粋なポリマーを合成するために、アレイの中の隣接する電極同士の間の化学的クロストークを最小とし、可能ならば防止すべく、これらのプロトン(又はヒドロキシイオン)を選択した電極の直ぐ近くの領域に閉じ込めることが望ましい。電気化学的に生成する試剤が可動である空間的範囲は、選択された電極から移動して離れる試剤と反応して、これらの試剤が隣接する電極にて反応することを防止する緩衝液又はスカベンジング液を用いることによって積極的に制御することができる。
【0032】
本発明は、基質上のポリマー又は核酸シーケンス合成の領域に近接(又は隣接)する領域どうしの間での化学的クロストークを有利には最小とし、好ましくは防止し、従って、常套の電気化学的に生成する試剤及び既知の電気化学的反応を用いて、基質上の特定の小さな領域に、純粋なポリマー又は核酸シーケンスの独立したアレイを合成することを可能とする。本発明の方法は基質上の特定の部位に物質を配することができるので、本発明の方法を用いて、ポリマーの合成に加えて、複数領域での合成が可能となる。この合成のいくつかの例には、DNA及びオリゴヌクレオチド合成、化学的成分を1つのモノマーへ付加させることを含むモノマーの修飾(decoration)、及び例えば金属をポルフィリンへ付加させることを含む無機合成等が含まれる。
【0033】
本発明の別の実施態様は、小さなミクロンサイズの電極、例えば直径が1〜100ミクロンである電極であって、多くのミクロンで隔てられている電極のアレイ(配列)を想定している。しかしながら、必要であれば、わずかサブミクロン(ミクロン以下)の距離によって分離された電極が使用されることもまた想定されている。このアレイは、本発明の方法に従って、基質上の小さな領域において同時に合成される分離した純粋なポリマーまたは核酸の配列を大量に与える。このことは、本発明の方法を容易に自動化する。分離した種々のアレイの純粋なポリマーおよび核酸の配列を生成する能力を保持するとともに本発明が容易に自動化され得ることは、本発明を、急速に発展するコンビナトリアル化学と機能ゲノム(functional genomics)の領域において使用するのに理想的なものとする。
【0034】
本質的に、考えられ得る如何なる基質も本発明に従って用いてよい。基質は、生物的なもの、非生物的なもの、有機物、無機物、あるいはこれらのうちのいくつかの組合せであってよく、粒子、ストランド、沈殿物、ゲル、シート、管状物、球、容器(コンテナ)、毛細管、パッド、スライス、フィルム、プレート、スライド等として存在する。基質は適当な形状を有していてよく、円盤、方形、球、環等のような形状を有していてよい。基質は好ましくは平坦であるが、別の種々の構造形態を採用してもよい。例えば、基質は一段高くした領域、あるいは窪んだ領域を含んでいてもよく、その領域で合成を行ってもよい。基質およびその表面は、好ましくは硬い支持体を形成し、その上において本明細書で説明した反応が遂行される。基質および各々の個々のポリマーもしくは低分子の合成のための領域は、どのような寸法および形状であってもよい。さらに、基質は異なる領域で異なる物質を含んでいてもよい。
【0035】
想定され得る物質は基質として好ましく用いられ、そして電極を保持し、電極を電気的に絶縁することができるものであるが、そのような物質には、窒化ケイ素、酸化ケイ素、ケイ素、ダイヤモンド、黄銅鉱、ウルツ鉱、閃亜鉛鉱、岩塩、III−V族の化合物およびII−IV族の化合物のようなドープされていない半導体;コバルトガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコールガラス、ホウ珪酸塩ガラスおよび石英のようなガラス;アルミナ、磁器、ジルコン、コーディエライト、チタン酸塩、酸化金属、クレイおよびゼオライトのようなセラミック;パラリエン(paralyene)、高密度ポリエチレン、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアシラート、ポリシアノアクリラート、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミド、ポリシロキサン、ポリシリコーン、ポリニトリル、ポリ塩化ビニル、アルキドポリマー、セルロース、エポキシポリマー、メラミン、ウレタン、前記いずれかのポリマーと他のポリマーとのコポリマーおよび混合物、ならびに前記いずれかのポリマーとガラスもしくはセラミックとの混合物のようなポリマー;ならびにアペイゾン(apeizon)のようなワックスが含まれる。他の基質物質は、この開示から当業者には直ちに明らかであろう。
【0036】
本発明の基質は、少なくとも1つの電極、すなわち実質的に電気的に絶縁性である領域で囲まれた基質の導電領域に近接(または隣接)している。一もしくは複数の電極は、基質に「近接」していることによって、基質に配置され得る、すなわち、基質の中にもしくは基質の上に固定され、基質の隣に、基質の下に、あるいは基質の上に存在し得るが、電極は、電極で電気化学的に生成された試剤がモノマーおよび/または分子の化学的官能基の所定の脱保護を成し遂げることができるように、基質に十分に近接している必要がある。
【0037】
少なくとも1つの電極に近接していることに加え、基質はその表面に少なくとも1つの分子、好ましくは数個の分子を有し、分子は、電気化学的に除去し得る保護基によって保護されている化学的官能基を少なくとも1つ有する。保護されている化学的官能基を有するこれらの分子はまた、電極に近接している必要がある。この点に関して、基質の表面にある分子は、電極で生成された電気化学的試剤が、近接する分子にある少なくとも1つの保護された官能基から保護基を取り除くことができるように、電極に十分に近接している必要がある。
【0038】
基質の表面に付着している保護された化学的官能基を与える分子は一般に、分子、リンカー分子(linker molecule)、および予形成分子(pre-formed molecules)から選択される。基質の表面に付着している分子には、好ましくは、モノマー、ヌクレオチド、およびリンカー分子が含まれる。これらの分子のすべては、一般に、共有結合またはイオン相互作用(またはイオン結合)によって基質に結合する。あるいは、これらの分子のすべては、共有結合またはイオン相互作用によってまた、基質の上を覆っている層、例えば浸透性(または透水性)の薄膜層に結合していてもよい。この層は、種々の方法で基質表面に付着していてよく、その方法には共有結合、イオン相互作用、分散相互作用(dispersive interaction)、および親水または疎水相互作用(または疎水結合)が含まれる。さらに別の付着の態様において、モノマーまたは予形成分子が、基質または基質を覆っている層のいずれかに結合しているリンカー分子に結合していてもよい。
【0039】
ここで用いられるモノマー、リンカー分子および予形成分子は、電気化学的に生成された試剤によって取り除くことができる保護基によって保護された化学的官能基を好ましくは備えている。電気化学的に生成された試剤によって脱保護され得る化学的官能基が基質表面上の分子に存在していない場合、その後に続く分子もしくは予形成分子の結合は、この分子において存在し得ない。好ましくは保護基は、リンカー分子、モノマーまたは予形成分子の遠位端もしくは末端に、基質に向かい合って存在する。つまり、リンカー分子は好ましくは、アミノ基またはカルボン酸基のような化学的官能基で終わっており、電気化学的に取り除くことができる保護基を与える。モノマー、リンカー分子および予形成分子において与えられる化学的官能基には、化学的反応性を有するいずれの官能性も含まれる。通常、化学的官能基は、対応する保護基と会合しており、合成される生成物に基づいて選択され、あるいは利用される。本発明の分子は、脱保護された化学的官能基に共有結合あるいはイオン相互作用によって結合する。
【0040】
想定される種々のポリマーを合成するために本発明に従って用いられるモノマーには、結合してポリマーを形成し得る低分子のセットのすべての構成成分が含まれる。このセットには、通常のL−アミノ酸のセット、D−アミノ酸のセット、合成アミノ酸のセット、ヌクレオチドのセット、ならびにペントースおよびヘキソースのセットが含まれるが、これらに限定されるものではない。ここで用いられる限りにおいて、モノマーには、ポリマーを合成するための基礎原料セットのいずれの構成成分も含まれる。例えば、L−アミノ酸の三量体は約8000のモノマーの基礎原料セットをポリペプチドを合成するために形成する。モノマーの種々の基礎原料セットを、本発明の方法を用いるポリマーの合成において逐次連続する工程で用いることができる。本発明の合成方法に従って用いられ得るモノマーの数は広い範囲で変化することができ、例えば、2から数千のモノマーを用いることができるが、より好ましい実施態様において、モノマーの数は約4〜約200の範囲内にあり、さらに好ましくはモノマーの数は4〜20の範囲である。
【0041】
本発明に従って用いられ得る追加のモノマーにはまた、修飾され得るモノマー、すなわち、それにプロスタグランジン、ベンゾジアザピン(benzodiazapine)、トロンボキサンおよびロイコトリエンのような化学的成分(または部分)が加えられ得るモノマーのセットが含まれる。本発明は、ポリマー合成に有用なモノマーと修飾され得るモノマーとの組合せをも含んでいる。上述したモノマーは、たいていの化学品供給会社から、保護されていない形態で入手してもよく、全てではないがたいていのものは保護された形態で、カルフォルニア州のトランスにあるBachem社から入手できる。核酸の合成のためのホスホラミダイト(phosphoramidite)モノマーは、カルフォルニア州のフォスターシティーにあるApplied Biosystems社から入手できる。
【0042】
本発明の好ましい実施態様において、モノマーは、そのアミノ末端もしくはカルボキシ末端に、電気化学的に生成された試剤によって取り除くことができる保護基を含むアミノ酸である。モノマーがα−アミノ酸でありアミド結合によって結合しているポリマーはペプチドであり、またポリペプチドとして知られている。本発明に関連して、アミノ酸がL系光学異性体もしくはD系光学異性体またはその2つの混合物であってもよいことは評価に値するものである。ペプチドは少なくとも2つのアミノ酸モノマーの長さを有し、多くの場合20以上のアミノ酸モノマーの長さを有する。
【0043】
さらに、本質的に予形成分子はいずれも基質、基質を覆う層、モノマーまたはリンカー分子に結合し得る。予形成分子には、例えば、特にレセプター、酵素、イオンチャンネルおよび抗体を含むタンパク質、核酸、多糖類、ポルフィリン等が含まれる。予形成分子は一般に、本発明の基質以外の場所で形成される。好ましい態様において、予形成分子は、分子、モノマーもしくは別の予形成分子にある脱保護された官能基に結合している。この点に関して、既に基質に付着している予形成分子は少なくとも1つの保護された化学的官能基をさらに有してもよく、その官能基にはモノマーまたは予形成分子が、その化学的官能基が脱保護された後に結合してもよい。
【0044】
保護基は、モノマー、リンカー分子、または予形成分子に結合してモノマー、リンカー分子、または予形成分子に存在する反応性を有する官能性を保護するものである。保護基は、電気化学的に生成された試剤のような活性化物質(または賦活剤)に選択的に曝して除去してもよい。本発明に従って用いられる保護基には、好ましくは全ての酸および塩基反応性の活性な保護基が含まれる。例えば、ペプチドアミン基は、好ましくは、ともに酸反応性の保護基であるt−ブチルオキシカルボニル(BOC)またはベンジルオキシカルボニル(CBZ)、あるいは塩基反応性の保護基である9−フルオレニルメトキシカルボニル(FMOC)で保護される。さらに、ホスホラミダイトにある水酸基は、酸反応性の保護基であるジメトキシトリチル(DMT)で保護してもよい。ヌクレオシド、特にホスホラミダイトの環外アミン基は、好ましくは、ともに塩基反応性の保護基である、アデノシンおよびグアノシンベースのジメチルホルムアミジン、ならびにシチジンベースのイソブチリルで保護される。この保護方法は、高速オリゴヌクレオチド脱保護(fast oligonucleotide deprotection;FOD)として知られている。この方法で保護されたホスホラミダイトはFODホスホラミダイトとして知られている。
【0045】
本発明に従って使用される別の保護基には、アミノ部分(または成分)を保護するための酸反応性の基、すなわちtert−ブチルオキシカルボニル、tert−アミルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、1−メチルシクロブチルオキシカルボニル、2−(p−ビフェニル)プロピル(2)オキシカルボニル、2−(p−フェニルアゾフェニリル)プロピル(2)オキシカルボニル、α,α−ジメチル−3,5−ジメチルオキシベンジルオキシ−カルボニル、2−フェニルプロピル(2)オキシカルボニル、4−メチルオキシベンジルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、フルフリルオキシカルボニル、トリフェニルメチル(トリチル)、p−トルエンスルフェニルアミノカルボニル、ジメチルホスフィノチオイル、ジフェニルホスフィノチオイル、2−ベンゾイル−1−メチルビニル、o−ニトロフェニルスルフェニルおよび1−ナフチリデン;アミノ部分を保護するための塩基反応性の基として、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル、メチルスルホニルエチルオキシカルボニルおよび5−ベンズイソアゾリルメチレンオキシカルボニル;アミノ部分を保護するための基であって還元されたときに反応性となる基として、ジチアスクシノイル(dithiasuccinoyl)、p−トルエンスルホニル、およびピペリジノ−オキシカルボニル;アミノ部分を保護するための基であって酸化されたときに反応性となる基として、(エチルチオ)カルボニル;アミノ部分を保護するための基であって種々の試薬(基の後に適当な試薬を括弧内に記載する)に対して反応性である基として、フタロイル(ヒドラジン)、トリフルオロアセチル(ピペリジン)、およびクロロアセチル(2−アミノチオフェノール);カルボン酸を保護するための酸反応性の基として、tert−ブチルエステル;水酸基を保護するための酸反応性の基として、ジメチルトリチル;ならびにホスホトリエステル基を保護するための塩基反応性の基としてシアノエチルが含まれる。
【0046】
上述のとおり、反応していない脱保護された化学的官能基はいずれも、その分子に更に結合することを防止するために、合成反応のいずれの時点においてもキャッピングすることができる。キャッピング基(capping group)は脱保護された官能基を、例えば未反応のアミノ官能基と結合させてアミドを形成することによって「キャッピング」する。本発明で使用するのに適したキャッピング剤には、無水酢酸、n−アセチルイミジゾール、イソプロペニルホルマート、フルオレサミン、3−ニトロフタル酸無水物および3−スルホプロピオン酸無水物が含まれる。これらの中では、無水酢酸およびn−アセチルイミジゾールが好ましい。
【0047】
本発明によれば、基質の表面には、リンカー分子の層が設けられることが好ましい。リンカー分子によって、基質または基質に重なる層への、モノマーまたは予形成分子の間接的付着が可能になる。リンカー分子は、層物質として例えば制御多孔性ガラス(CPG)を使用した、ケイ素−炭素結合を介して、重なり層に付着していることが好ましい。リンカー分子は、合成ポリマーのターゲット認識を促進をもする。さらに、リンカー分子は、それの親水性/疎水性に基づいて選択されることが好ましく、レセプタへの合成ポリマーの提供を改良する。例えば、親水性レセプタの場合に、親水性リンカー分子が好ましく、レセプターが合成ポリマーにより密接に接近することが可能になる。
【0048】
リンカー分子は、完成基質上のポリマーが基質にさらされた結合体と自由に相互作用するように充分な長さを有することが好ましい。使用した場合に、リンカー分子は、6〜50原子長さを有することが好ましく、結合体への官能基の充分な露出を提供する。本発明にしたがって使用することが好都合であってよいリンカー分子は、例えば、アリールアセチレン、2〜10のモノマー単位を有するエチレングリコールオリゴマー、ジアミン、ジアシッド、アミノ酸およびこれらの組み合わせを包含する。他のリンカー分子は、本発明の異なった態様において使用してよく、本願の開示を参照して当業者によって認識できる。
【0049】
他の好ましい態様によれば、リンカー分子は、中間位置で開裂可能な基を備えていてよく、該基は、電気化学的に生成した試剤で開裂できる。この基は、保護基を除去するのに使用される試剤とは異なった試剤で開裂されることが好ましい。これは、電気化学的生成試剤による合成の完了に続く種々の合成ポリマーまたは核酸シークエンスの取出を可能にする。特に、エキソ環状活性エステルと酸反応性の4,4’−ジメトキシトリチル分子の誘導体を本発明にしたがって使用できる。これらリンカー分子は、Perseptive Biosystems(Framingham,マサチューセッツ)から得ることができる。より好ましくは、N−スクシンイミジル−4−[ビス−(4−メトキシフェニル)−クロロメチル]−ベンゾエートが、DNA合成中の開裂可能なリンカー分子として使用できる。この分子の合成および使用は、A Versatile Acid-Labile Linker for Modification of Synthetic Biomolecules, by Brian D. Gildea, James M. Coull およびHubert Koester, Tetrahedron Letters,第31巻,第49号,7095〜7098頁(1990)に記載されている。あるいは、アレイ全体にわたって同時に、開裂の他の手順、例えば、化学的試剤、光または熱を使用することができる。
【0050】
開裂可能なリンカー基を使用することによって、合成分子、例えば、ポリマーまたは核酸シークエンスを、電極アレイから所望の時に、解離または分離することができる。この解離によって、例えば、合成ポリマーまたは核酸シークエンスを他の電極アレイまたは第2基質に移動することが可能になる。第2基質は、バクテリアを含有することができ、バクテリアを殺すときに元の電極アレイ上に形成された分子の有効性を分析するのに役立つ。あるいは、第2基質は、元の電極アレイ上に形成された物質を純粋化するために使用することができる。明らかに、当業者は、元の電極上に合成された分子を第2基質に移動する幾つかの使用を考えることができる。
【0051】
本発明の分子、即ち、モノマー、リンカー分子および予形成分子は、基質に直接に結合でき、基質に重なる分離物質の層または膜に結合できる。分子が電気化学的に生成した試剤による改質のために結合できるように、基質に重なる層または膜を形成できる物質は、制御多孔性ガラス(CPG);一般的ポリマー、例えば、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアシレート、ポリシアノアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリシロキサン、ポリシリコーン、ポリニトリル、ポリエレクトロライト、ハイドロゲル、エポキシポリマー、メラミン、ウレタン、ならびにこれらおよび他のポリマーのコポリマーおよび混合物;生物学的誘導ポリマー、例えば、ポリサッカライド、polyhyaluric acid、セルロースおよびチトン(chitons);セラミック、例えば、アルミナ、金属酸化物、クレイ、およびゼオライト;界面活性剤;チオール;自己組み立て単層;多孔質カーボン;フレリン(fullerine)物質を包含する。膜は、スピン被覆、浸漬被覆または手動適用または他の許容できる形態の被覆によって、基質上に被覆することができる。
【0052】
電極で電気化学的に発生できる試剤は、2つの種類に分類できる。酸化剤および還元剤である。本発明に従って使用できるミセル状試剤もある。電気化学的に生成できる酸化剤は、ヨウ素、アイオデート、過ヨウ素酸、過酸化水素、ハイポクロライト、メタバナデート、ブロメート、ジクロメート、セリウム(IV)およびパーマンガネートを包含する。電気化学的に生成できる還元剤は、クロム(III)、フェロシアナイド、チオール、チオスルフェート、チタン(III)、ヒ素(III)、鉄(II)を包含する。他の試剤は、臭素、塩素、プロトンおよびヒドロキシルイオンを包含する。前記試剤の中で、プロトン、ヒドロキシルイオン、ヨウ素、臭素、塩素およびチオールが好ましい。
【0053】
本発明の好ましい態様によれば、緩衝液および/またはスカベンジ液は、それぞれの電極に接触している。本発明にしたがって使用してよい緩衝液および/またはスカベンジ液は、プロトンおよび/またはヒドロキシルイオンに対して緩衝され、またはこれらを掃去するが、バッファされるおよび/または掃去できる他の電気化学的に生成する試剤は明白に考えられる。緩衝液は、アレイにおける1つの電極からアレイにおける他の電極への電気化学的に生成する試剤の拡散による化学的混信を防止するように働き、一方、スカベンジ液は、電気化学的に発生した試剤に結合または反応することによって、これらを見つけだし、中和/失活するように働く。このようにして、電気化学的に発生した試剤の変位の空間的程度は、緩衝液および/またはスカベンジ液の使用によって活動的に制御できる。本発明によれば、緩衝液およびスカベンジ液は、独立的にまたは一体に使用してよい。緩衝液を使用することが好ましい。なぜなら、緩衝液の容量が、スカベンジ液に比較して、より容易に維持されるからである。
【0054】
本発明に従って使用できる緩衝液は、水性物または部分的な水性物において使用される全ての電解質塩を包含する。本発明に従って使用することが好ましい緩衝液は、アセテートバッファ、これは典型的にはほぼpH5に緩衝する;ボレートバッファ、これは典型的にはほぼpH8に緩衝する;カーボネートバッファ、これは典型的にはほぼpH9に緩衝する;シトレートバッファ、これは典型的にはほぼpH6に緩衝する;グリシンバッファ、これは典型的にはほぼpH3に緩衝する;HEPESバッファ、これは典型的にはほぼpH7に緩衝する;MOPSバッファ、これは典型的にはほぼpH7に緩衝する;ホスフェートバッファ、これは典型的にはほぼpH7に緩衝する;TRISバッファ、これは典型的にはほぼpH8に緩衝する;溶液中の0.1MのKI、これは平衡反応I2+I-=I3-によりヨウ素を緩衝し、この反応の平衡係数はほぼ10-2である、を包含する。
【0055】
代替的に、または緩衝液と組み合わせて、非水性媒体においてプロトンスカベンジャーとして機能するスルホン酸またはヒドロキシルイオンスカベンジャーとして機能する第3級アミンのような種を含有するスカベンジ液を使用してよい。試剤/種が掃去される速度は、生じる反応の本質的速度およびスカベンジャーの濃度の両方に依存する。例えば、溶媒は良好なスカベンジャーを形成する。なぜなら、それらは頻繁に高濃度で存在するからである。ほとんどの分子は、非選択的に掃去するが、一方、幾つかの分子、例えば、スーパーオキシドジスムターゼおよびホースラディシュパーオキシダーゼは選択的に掃去する。
【0056】
本発明の中で特に興味のあるものは、ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシド、酸素ラジカルおよび水素パーオキシドを包含する、電極で水の加水分解によって共通に生成した異なった反応性種を掃去できるスカベンジャー分子である。ヒドロキシルラジカルは、知られている最も反応性の分子の1つである。その反応速度は、拡散制御であり、即ち、出会う第1反応体/種と反応する。ヒドロキシルラジカルが水の加水分解によって生成された場合に、それらが通常に出会う第1分子は水分子である。この理由から、水は、ヒドロキシルラジカルの迅速で効果的なスカベンジャーである。スーパーオキシドもかなり反応性の種であるが、幾つかの非水性溶媒または部分的水性溶媒において安定であることがある。水性媒体において、スーパーオキシドは、水を包含する、ほとんどの分子と迅速に反応する。多くの溶媒において、これらは、スーパーオキシダーゼジスムターゼで選択的に掃去できる。
【0057】
酸素ラジカルは、フリーラジカルとして存在する酸素種の族である。酸素ラジカルは、種々の分子、例えば、水またはアスコルビン酸によって掃去できる。水素パーオキシドは、特にコンビナトリアル合成において有用であるかなり穏やかな反応性種である。水素パーオキシドは、水ならびに多くの種類の酸化剤および還元剤によって掃去できる。水素パーオキシドが掃去される速度は、使用されるスカベンジャー分子のレドックスポテンシャルに依存する。水素パーオキシドは、ホースラディシュパーオキシダーゼによって選択的に掃去できる。掃去できる他の電気化学的生成種はヨウ素である。ヨウ素は、コンビナトリアル合成に有用でもある穏やかな酸化剤である。ヨウ素は、ヒドロキシルイオンとの反応によって掃去でき、ヨウ素イオンおよびハイポアイオダイトを形成できる。ヨウ素が掃去される速度は、pH依存性であり、液のpHが高いほど、より早くヨウ素を掃去する。前記スカベンジャー分子の全てが、本発明にしたがって使用できる。他のスカベンジャー分子が、本明細書の開示を参照して、当業者に容易に明白である。
【0058】
本発明に従えば、緩衝液は、少なくとも0.01mMの濃度で使用することが好ましい。緩衝液は1〜100mMの範囲の濃度で存在することがより好ましく、緩衝液は10〜100mMの範囲の濃度で存在することが特に好ましい。緩衝液の濃度は約30mMであることが最も好ましい。約0.1モーラーの緩衝液濃度によって、pHをバルク値に緩衝する前にプロトンまたはヒドロキシルイオンが約100オングストローム移動することが可能になる。低い緩衝液濃度、例えば、0.00001モーラーは数μのイオン移動を可能にし、これは、アレイにおける電極間の距離に依存した許容可能な距離であり得る。本発明に従えば、溶液におけるスカベンジャー分子の濃度は、使用する特定のスカベンジャー分子に依存する。なぜなら、異なったスカベンジャー分子が異なった速度で反応するからである。スカベンジャーがより反応性であればあるほど、必要なスカベンジ液の濃度が低くなる。当業者は、選択した特定のスカベンジャーに応じて、スカベンジ液のだいたいの濃度を決めることができる。
【0059】
本発明の基質に近接する少なくとも1つの電極は、電極のアレイであることが好ましい。いずれかの寸法の電極のアレイを使用してよく、アレイは数百万までの電極を有していてよい。アレイにおける複数の電極が電源によって同時にアドレス可能であり、かつ制御可能である。より好ましくは、それぞれの電極は、それ自体の電源によって個々にアドレス可能でありかつ制御可能である。これにより、アレイにおける電極を選択するように異なったポテンシャルの選択的適用が可能になる。この点に関して、電極は「スイッチ可能」であると呼ばれる。
【0060】
アレイは、特定の形状である必要はない。すなわち、電極は、四角形のマトリックス形状である必要はない。使用できる電極アレイ幾何は、四角形;長方形;直線で囲まれた形状および六角形グリッドアレイ(いずれかの種類の多角形境界を有する);同心円状環状グリッド幾何(ここで、電極が共通中心のまわりに同心円を形成し、これは任意の多角形によって境界付けされてよい。);同様のまたは異なった直径を有する電極を有する断片的グリッドアレイを包含する。本発明にしたがって、交錯電極を使用してよい。しかし、電極のアレイは、10x10マトリックスにおいて、少なくとも100個の電極を有することが好ましい。10x10マトリックスの電極を有する本発明にしたがって使用してよい基質の1つの態様は、図6に示されている。基質の表面での電極の側面図も示されている。
【0061】
電極のアレイが、例えば少なくとも20x20マトリックスにおいて、少なくとも400電極を有することが好ましい。アレイが、例えば少なくとも64x32マトリックスにおいて少なくとも2048電極を有することがさらに好ましく、アレイが、例えば少なくとも640x320アレイにおいて少なくとも204800電極を有することが特に好ましい。本発明にしたがって使用してよい他の寸法のアレイは、本明細書の開示を参照して、当業者に容易に明白である。
【0062】
約1ミクロン未満〜100ミクロン(0.1ミリメートル)の範囲の直径を有する電極を有する電極アレイが、本発明に従って好都合に使用できる。さらに、電極直径に関係なく、電極の中心から中心まで約10〜1000ミクロンの距離を有する電極アレイが、本発明に従って好都合に使用できる。50〜100ミクロンの距離が2つの隣接電極の中心間に存在することがさらに好ましい。
【0063】
図6の側面図に示すように、電極は、基質の表面と同一平面にあってよい。しかし、本発明の好ましい態様に従えば、電極は、平坦ディスクではなく、半球形状である。半球形状の電極のプロフィールが、半球のように見えるアークタンジェント機能によって示されている。当業者は、この形状の電極を熟知している。半球形状の電極は、電気ポテンシャルが電極の半径方向を横切って一定になることを助ける。すなわち、半球形状の電極は、電気ポテンシャルが電極の中央においてよりも電極の縁の付近において大きくなることを助け、電気化学的試剤の生成が電極の全ての部分において同様の速度で生じることが確実になる。
【0064】
本発明にしたがって使用してよい電極は、限定されないが、貴金属、例えば、イリジウムおよび/またはプラチナ、ならびに他の金属、例えば、パラジウム、金、銀、銅、水銀、ニッケル、亜鉛、チタン、タングステン、アルミニウム、および種々の金属の合金、ならびに他の伝導性物質、例えば、カーボン、例示すれば、ガラス状カーボン、網状ガラス質カーボン、ベーサルプレーングラファイト、エッジプレーングラファイト、およびグラファイトからなっていてよい。ドープされた酸化物、例えば、インジウム錫酸化物、および半導体、例えば、ケイ素酸化物およびガリウムヒ素をも使用してよい。加えて、電極は、導電性ポリマー、金属ドープポリマー、導電性セラミックおよび導電性クレイからなっていてもよい。貴金属の中で、プラチナおよびパラジウムが特に好ましい。なぜなら、水素を吸収する能力、すなわち、本発明の方法において使用する前に水素を予め充填できる能力を有する好都合な性質を有するからである。
【0065】
本発明に従って使用する電極は、既知の手順で電源に接続してよい。電極を電源に接続する好ましい手順は、CMOSスイッチング回路、ラジオおよびマイクロ波周波数アドレッサブルスイッチ、光アドレッサブルスイッチ、および電極から半導体チップの周囲上の結合パッドへの直接接続を包含する。
CMOSスイッチング回路は、CMOSトランジスタスイッチへのそれぞれの電極の接続を包含する。スイッチは、電子アドレスシグナルを共通ブスへ、それぞれの電極に伴ったSRAM(スタティクランダムアクセスメモリ)回路に送ることによってアクセスされる。スイッチがオンの状態にある場合に、電極は電源に接続される。これは、操作の好ましいモードである。
【0066】
ラジオおよびマイクロ波周波数アドレッサブルスイッチは、RFまたはマイクロ波信号によってスイッチングされる電極を包含する。これによって、スイッチングロジックを使用してあるいはこれを使用することなくの両方で、スイッチを動かすことが可能になる。スイッチは、特定周波数またはモジュール周波数を受け、スイッチングロジック無くスイッチするように切り替えることができる。あるいは、スイッチは両方の方法を使用できる。
【0067】
光アドレッサブルスイッチは、光によってスイッチできる。この方法において、電極は、スイッチングロジックのある状態でおよび無い状態でスイッチングできる。光信号は、空間的に局在化しており、スイッチングロジック無くスイッチングを行う。これは、例えば、電極アレイ上でレーザービームを走査することによって行える。電極は、レーザーがそれを照らすそれぞれの時にスイッチングされる。あるいは、全体のアレイが充分に照らされ、光信号が一時的にモジュール化され、コード信号を生じる。しかし、スイッチングロジックが充分な照らしのために必要である。
【0068】
間接的手順で光アドレッサブルスイッチングを行うこともできる。この方法において、電極は半導体物質から形成される。次いで、半導体電極を閾値電圧よりも下にバイアスする。充分に低いバイアスにおいて、電気化学は生じない。なぜなら、電子がバンドギャップに打ち勝つのに充分なエネルギーを有しないからである。オンの状態にある電極は、他の方法によって、すでにスイッチングされている。電極が照らされる場合に、電子は、バンドギャップに打ち勝って電気化学が生じるのに充分な光からのエネルギーを得る。
【0069】
このようにして、電極のアレイは、平衡状態にされ、電極が照らされるときはいつでも電気化学を行うことができる。この方法によって、全体のアレイが充分に照らされるかまたはそれぞれの電極が別個に照らされる。この技術は、早いスイッチングエレクトロニクスの必要なく、電気化学の非常に迅速なパルスのために有用である。電極から半導体チップの周囲上の結合パッドへの直接接続は、他の可能性であるが、この接続方法はアレイの密度を限定する。
【0070】
所望の種類の化学的種の電気化学的発生は、それぞれの電極の電気ポテンシャルが或る最小値を有することを必要とする。すなわち、或る最小ポテンシャルが必要であり、これは、電圧または電流を特定することによって達成できる。このようにして、それぞれの電極で必要な最小ポテンシャルを達成する2つの方法がある。電圧が必要値に特定されるかまたは電流が必要な電圧を収容するのに充分になるように決められる。必要な最小ポテンシャル値は、発生するために選択される化学的試剤の種類によって決められる。当業者は、所望な化学的種に基づいて使用される必要な電圧および/または電流を容易に決めることができる。使用できるポテンシャルの最大値は、所望化学的種によっても決められる。所望の化学的種に伴ったポテンシャルの最大値を超えた場合に、結果的に望ましくない化学的種が製造される。
【0071】
本発明にしたがって製造される基質は、例えば、生物学的活性用の多数のポリマーのスクリーニングを包含する種々の用途を有する。例えば医薬品発見の分野において生物学的活性のためにスクリーニングするため、基質は、1つまたはそれ以上のレセプタ、例えば、抗体、全体の細胞、小胞上のレセプタ、脂質、または種々の他のレセプタのいずれか1つに暴露される。レセプタは、例えば、電気化学的マーカー、電気化学イルミネセントマーカー、化学イルミネセントマーカー、蛍光マーカー、放射能マーカー、またはレセプタと反応性のラベルされた抗体でラベルされることが好ましい。基質上のマーカーの位置は、例えば、電気化学的、蛍光またはオートラジオグラフ法によって検出される。結合が観測される位置で物質のシークエンスの知識によって、どのシークエンスがレセプタと結合しているかを迅速に求めることができ、したがって、この方法が多数のペプチドをスクリーニングするために使用できる。
【0072】
本発明は、治療物質の開発のためにも使用でき、即ち、薬品の開発およびバイオマテリアルの研究のために、ならびにバイオメディカル研究、分析的化学およびバイオプロセスモニタリングのためにも使用できる。本発明の用途の例は、特定のレセプタ用の種々のリガンドが基質に配置でき、例えば、血液の血清がスクリーニングされる診断を包含する。用途の他の例は、基質上での選択された位置での単一のまたは複数の予形成レセプタ分子の配置を包含し、薬品スクリーニングは、どの分子がどの予形成レセプタ分子に結合しているかを決めるために基質を薬品候補分子にさらすことによって行える。
【0073】
さらに別の用途は、例えば、ハイブリダイゼーションによるシークエンス法によってゲノムDNAを配列決定することを包含する。他の用途は、電極アレイチップ上の異なった空間的位置で異なった量の分子またはリガンドを合成およびディスプレーし、次いで、チップ上で直接に希釈シリーズ実験を行うことを包含する。希釈シリーズ実験は、例えばリガンドおよびレセプタの特定または非特定結合の間の区別を行う。非生物的用途もあり、例えば、半導体デバイスにおいて使用するためにドーピングのレベルを種々にした有機物質の製造を包含する。非生物学的用途の他の例は、腐食防止、防汚および塗料を包含する。
【0074】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、実施例は、本発明の単なる例示である。
【実施例】
【0075】
実施例1:Leuエンケファリンエピトープのコンビナトリアル合成
背景
エンドルフィンは、脳中でアヘン剤受容体に結合する、例えば約20〜40のアミノ酸を含む天然の小ペプチドである。エンドルフィンの活性の大部分は、ペプチドの最後の5つのアミノ酸によるものであることが知られている。これらの末端ペンタペプチドが、いわゆるエンケファリンである。
Leu−エンケファリンエピトープを検出するための免疫蛍光法は、標準検出プロトコルに従う。例えば、F.M.Ausubel et.al., Short Protocols in Molecular Biology, 第3版、Unit 14,14-23ff頁(1995)参照。このアセイは、第1抗体、例えば3-E7単クローン抗体、および第1抗体の源種に特異的な第2抗体蛍光色素複合体、例えばヒツジ抗マウス蛍光色素複合体を必要とする。3−E7抗体は、Leu−エンケファリンに結合するβ−エンドルフィンに対するマウス単クローン抗体である。この技術のための両方の抗体は、Boehringer, Mannheim Biochemicals Indianapolis, Indianaから得られる。
さらに、3-E7単クローン抗体に関する情報は、Meo,Tommaso et al., “Monoclonal antibody to the message sequence Try-Gly-Gly-Phe of opioid peptides exhibits the specificity requirements of mammalian opioid receptors", Proc. Natl. Acad. Sci USA 80, pps.4084-4088(1983)参照。
【0076】
コンビナトリアル合成で使用するための電極アレイの作成
図6に示されるように、10×10白金電極アレイを使用する。カラム1および10は、対電極として使用される。アレイの活性カラムは、カラム2、3、5、6および7である。カラム4、8および9はこの合成において活性化されていない。
アレイの表面は、半導体製造工程において適した条件下の二酸化ケイ素の蒸着によってアレイに適用される制御多孔性ガラス(CPG)から形成される透過膜層によって変性される。CPGは、イオンを透過できる化学的に不活性な膜を形成する。この膜は、クロロメチルシランによるシラン処理によって官能化される。クロロメチルシラン基は、さらに、10のエチレングリコール部分を有するエチレングリコールリンカー分子によって、10のエチレングリコール部分およびそれぞれの末端の2つのアミノ基を有する分子とシラン処理されたCPG膜を反応することによって変性される。この膜は、アミン基によって官能化されたアレイの表面を覆う層を提供し、アミン基は、シラン部分によってCPGマトリックに付着する。ジアミノエチレングリコール分子は、形成されるエピトープ分子と膜の間のリンカー分子(スペーサー基)として作用する。
【0077】
膜への保護官能基の付加
官能化CPG膜被覆電極アレイを、カップリング剤、例えば限定しないが、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)またはジイソプロピルカルボジイミドを含有するベンジルオキシカルボニル(CBZ)保護L−ロイシンのDMF溶液に、室温で、約2時間曝露した。この曝露によって、エチレングリコールリンカー分子によって膜層に付着したCBZ−保護L−ロイシン部分によって完全に被覆されたアレイ被覆CPG膜層を得る。この部分被覆膜層は、図7に示す。これは、エピトープ分子が構築された分子の床である。
部分被覆膜層を次いで、pH7.4を有する0.1Mリン酸緩衝水溶液によって3回洗浄した。
【0078】
保護基の除去(脱保護)
電気化学的に発生した試剤(プロトン)を使用する保護アミノ酸からCBZ保護基の除去、つまり脱保護は、以下のとおり行う。
図6の電極アレイについて、予め条件を整える工程を行う:カラム2、3、5、6および7を、対電極として作用するカラム1および10に関して負方向にバイアスをかける。このシステムに参照電極はない。電位差は、約3ボルトであり、この電圧を約10秒間印加する。この予め条件を整える工程において、ヒドロキシルイオンが負バイアスを有する電極に形成され、プロトンが正バイアスを有する対電極で形成される。この予め条件を整える工程において、さらにプロトンが負バイアスを有する電極で水素分子に還元される。白金電極は、塊状金属における水素分子のいくらかを吸収し、保持する。
予め条件を整える工程に続いて、バイアスを次いで逆にする。カラム1および10の電極(対電極)をカラム2、3、5、6、および7に関して負方向にバイアスする。電位差は、約2.6ボルトであり、この電圧を、約3秒間印加する。この工程において、予め条件を整える工程の間に白金電極に吸収された水素分子の酸化および水の加水分解から、プロトンが正バイアスを有する電極に形成される。予め条件を整える工程およびこの後の工程の結果として、CBZ保護基は、カラム2、3、5、6および7において電極でロイシンアミノ酸部分から除去される。
これらの2工程の結果、図8に示されるように、これらの部位(カラム2、3、5、6および7)でロイシンに付着したままである脱保護された反応性アミン残基が得られる。
【0079】
カップリングのための膜の調製
CBZ−L−フェニルアラニンを脱保護ロイシン基にカップリングするための反応性アミン部分被覆膜を調製するために、以下の工程を行う:
反応性アミン部分被覆膜を含有する電極アレイを純DMFによって2回洗浄する。電極アレイを次いで、CBZ−L−フェニルアラニンおよびカップリング剤、例えばDCCを含有するDMF溶液に室温で約2時間曝露する。この工程によって、ロイシンおよびフェニルアラニンのCBZ保護ジペプチドによって変性されたカラム2、3、5、6および7の電極を得た。これは図9に示される。
脱保護およびカップリング工程は、次いでカラム3、5、6および7で繰り返す。つまり、電極アレイを、pH7.4を有する0.1Mリン酸緩衝水溶液に再び曝露する。次いで、電極アレイを室温で約2時間、CBZ保護グリシンおよびカップリング剤のDMF溶液に曝露する。この結果、図10に示されるように、CBZ−保護トリペプチドグリシン−フェニルアラニン−ロイシン(G−F−L)によって修飾されたカラム3、5、6および7の電極を得た。
脱保護およびカップリング工程は、次いでカラム5、6および7で繰り返す。つまり、電極アレイを、pH7.4を有する0.1Mリン酸緩衝水溶液に再び曝露し、次いで、電極アレイを室温で約2時間、CBZ−保護グリシンおよびカップリング剤のDMF溶液に曝露する。この結果、CBZ−保護テトラペプチドグリシン−グリシン−フェニルアラニン−ロイシン(G−G−F−L)によって修飾されたカラム5、6および7の電極を得た。
【0080】
脱保護およびカップリング工程は、次いでカラム6および7で繰り返し、電極アレイを、pH7.4を有する0.1Mリン酸緩衝水溶液に再び曝露する。次いで、電極アレイを室温で約2時間、CBZ−保護-L−チロシンおよびカップリング剤のDMF溶液に曝露する。この結果、図11に示されるように、CBZ−保護ペンタペプチドチロシン−グリシン−グリシン−フェニルアラニン−ロイシン(Y−G−G−F−L)によって修飾されたカラム6および7の電極を得た。これは、所望のLeu−エンケファリンエピトープのCBZ保護バージョンである。
次いで、脱保護工程をカラム2、3、5および6で、予め条件を整える工程なしで繰り返し、コンビナトリアル配列の末端アミノ酸からCBZ保護基を除去した。この製造工程は以下の配列を作成する:
カラム1および10:保護Leu−エンケファリンエピトープによる修飾
(これらが対電極である)
カラム2:脱保護ジペプチドF−Lによる修飾
カラム3:脱保護トリペプチドG−F−Lによる修飾
カラム4、8および9:CBZ−保護ロイシンアミノ酸による修飾
カラム5:脱保護テトラペプチドG−G−F−Lによる修飾
カラム6:脱保護Leu−エンケファリンエピトープによる修飾
カラム7:CBZ−保護Leu−エンケファリンエピトープによる修飾
【0081】
3−E7単クローン抗体アセイ
修飾電極アレイ、つまり、10の修飾カラムを有する電極アレイを、上記のLeu−エンケファリンエピトープ検出技術によって、3−E7単クローン抗体に曝露し、その後、ヒツジ抗マウス蛍光色素複合体に曝露した。次いで、エピフルオレセント顕微鏡を使用して電極アレイを調べた。予想された結果が、図12および13に示される。図12および13に示されるように、活性Leu−エンケファリンエピトープは、カラム6の電極に最も近接している(カラム6は、脱保護Leu−エンケファリンエピトープによって修飾されている唯一のカラムである。)。
注:合成は、対電極(カラム1および10)で進行する。というのは、それぞれの予め条件を整える(脱保護)工程の間に対電極でプロトンが発生するためにである。予め条件を整える工程を最終の脱保護工程では行わないため、最終工程では、プロトンを対電極に発生せず、保護されたLeu−エンケファリンエピトープが対電極に生成され、抗体と蛍光色素複合体の曝露によって反応しない。
【0082】
実施例2:デオキシリボ核酸のコンビナトリアル合成
背景
DNAのコンビナトリアル合成のためのモノマーユニットは、いわゆるホスホラミダイトである。ホスホラミダイトは、ホスホジエステル結合によって1本鎖核酸ポリマーに一緒に結合する。リンは、合成の間シアノエチルエーテル部分によって保護されているので、結合は、ホスホトリエステル結合である。シアノエチル基は、合成末端で塩基によって除去でき、ホスホジエステル結合を与える。ホスホラミダイトは、いわゆる3’および5’末端である2つの末端を有する。1つのホスホラミダイトの3’末端が、他の5’末端とカップリングする。通常3’末端は固体支持体に付着され、5’末端は他のホスホラミダイトによって変性され、合成サイクルを開始する。5’末端は、ジメチルトリチル(DMT)と呼ばれる分子によって保護されうるヒドロキシル基である。DMT基は、酸に不安定な保護基である。
【0083】
DNAポリマーを形成する天然のデオキシリボ核酸は4つある。それらは、アデノシン(A)、チミジン(T)、シトシン(C)およびグアノシン(G)である。DNAは、モノマーを結合するホスホジエステル基が酸性であるので、酸性であると理解されている。ヌクレオシド(A、T、C、G)は、有機塩基である。天然のDNAは、通常1000万〜100億の塩基ユニットの長さである。DNAの15の塩基ユニットの長さ片は以下の例において調製されうる。この長さのDNA片は、オリゴヌクレオチドとして知られている。DNA分子は、少なくともこの長さであり、さもなければDNA分子の間で区別することは非常に困難である。
【0084】
環外アミン塩基(A、C、G)は酸によって汚染されやすいので、ヌクレオシドは保護される。これらの塩基上のこの保護基は塩基に不安定である。ホスホラミダイト上の保護基は3種ある。5’ヒドロキシル基を保護するDMT基、リンを保護するシアノエチルエーテル基、ヌクレオシド塩基上の環外アミンを保護するFOD(高速オリゴヌクレオチド脱保護)基がある。DMT基は、酸に不安定であり、他のものは塩基に不安定である。
DNAは、天然の多くは、有名な二重らせん構造を有する「二重らせん」形態で見られる。このことは、DNAの2つの1本鎖がヌクレオシド塩基の間の相互作用によってともに結合することを意味する。ヌクレオシド塩基Tは、ヌクレオシド塩基Aと相互作用して、A−T結合を形成する。ヌクレオシド塩基Cは、ヌクレオシド塩基Gと相互作用して、C−G結合を形成する。A−TおよびC−G相互作用は、唯一安定な相互作用であり、他の組合せは弱い。A−TまたはC−Gでない結合は生じることがあるが、いわゆるミスマッチである。DNAの2つの相補的な1本鎖がともに生じて、二重らせんを形成する場合、これをハイブリダイゼーションという。二重らせんのDNAの1本鎖がばらばらである場合、二重らせんDNAは変性されているという。DNA二重らせんは、加熱および/または低いイオン強度の水溶液に曝露されたとき、典型的に変性する。
【0085】
特異的なDNA配列が特定部位で合成されたかどうかを決定するために、おそらくその特定部位で合成された鎖と相補的であるDNAプローブ鎖を使用する。プローブ鎖は、正しい配列と正しくない配列の両方で表面上にDNA分子に結合する。しかしながら、溶融温度は、相補的な結合、すなわち、A−T結合およびC−G結合を含むDNA二重らせんよりも、ミスマッチ、すなわちA−TでないおよびC−Gでない結合を含むDNA二重らせんにおいて非常に低い。したがって、加熱によって、正しくないDNA鎖を有する二重らせんを形成するプローブは最初に変性する。ミスマッチしたDNA二重らせんのすべてが変性するレベルに温度を増大させることによって、エピフルオレセント顕微鏡を使用して蛍光色素を観察することによって正しい配列を有するDNA分子だけを検出することが可能である。また、テスト表面を低いイオン強度水溶液で洗浄することも可能である。これは、温度を上昇させることと同じ効果を有し、実験的により好都合である。
【0086】
合成工程
電極アレイを最初にアクリレート/ポリビニルアルコールコポリマー層または膜によって変性する。コポリマー層は、ホスホラミダイトに対して反応性である、数多くのペンダントヒドロキシル基を含有する。次いで、ポリマー修飾電極アレイを、無水のアセトニトリル中で0.05Mの濃度のテトラゾールおよびDMT−保護シチジンホスホラミダイトに室温で30秒間曝露する。FOD保護スキームを使用して、シトシン塩基およびこの実施例で使用される他の塩基を保護する(FOD保護基は、環外アミンの汚染に対して最も良好な保護を提供する。)。次いで、このアレイを、無水のアセトニトリルで洗浄する。表面上の未反応のヒドロキシル基を、無水酢酸および1−メチルイミダゾールの無水のアセトニトリル溶液に30秒間曝露することによってキャップする。この結果、DMT保護されたC塩基ユニットによってあらゆる場所で修飾させた表面が得られる。
【0087】
ポリマーとホスホラミダイトの間の4価亜ホスファイト結合を、電気的に発生したヨウ素によってさらに安定な5価ホスホトリエステル結合に酸化する。ヨウ素は、ヨウ化カリウムのTHF水溶液中のヨウ素イオンの酸化によって電気化学的に発生する。ヨウ素は、ヨウ素の緩衝反応および掃去反応の両方によって形成される局在化部分に限定される。ヨウ素は、ヨウ素イオンによる平衡反応によって緩衝され、トリヨウ素イオンを形成する。トリヨウ素イオンは有用な試剤ではない。さらに、かすかに塩基性であるのでヒドロキシル基については、溶液を緩衝できる。ヨウ素は、ヒドロキシルイオンと反応し、ヨウ素イオンおよび次亜ヨウ素酸塩を形成する。これらの化学物質の両方とも反応性ではない。したがって、ヒドロキシルイオンは、ヨウ素のための掃去剤として作用する。ヨウ素イオンの電気化学的酸化は、プロトンも発生する条件下で行うことができるので、局地的環境を酸性にすることができるが、一方でヨウ素が発生する。ヨウ素が活性であることを要しない酸性領域では掃除しない。結果として、ヨウ素を電気化学的に発生するこれらの電極の上に、唯一のポリマーフイルムに安定なホスホトリエステル結合が存在する。酢酸無水物キャッピング溶液に曝露を繰り返した後、酸化していないホスファイト結合基は偶然的に減少する。
【0088】
電極アレイを次に0.1Mリン酸ナトリウム水溶液に曝露する。最初に選択された領域に、正のポテンシャルを1秒間印加し、最初に選択された領域でDMT保護基をシチジンホスホラミダイトから除去する。アレイを無水の酢酸無水物で洗浄する。反応性アレイを、無水のアセトニトリル中のチミジンホスホラミダイト、Tおよびテトラゾールの0.05M溶液に30秒間曝露する。最初に選択された部位でTヌクレオシドは、Cヌクレオシドと反応し、C−Tダイマーを形成する。残存の未反応Cヌクレオシドをキャップし、ホスファイト結合を、上記のように、ホスホトリエステル結合に還元する。
この方法を第2、第3、第4などに選択された部位に繰り返し、アレイの選択された部位に4つの異なるフォーティンマーオリゴヌクレオチドをコンビナトリアル合成する。アレイを次いで0.1M水酸化アンモニウム水溶液に50℃で1時間曝露する。ホスホトリエステル上のシアノエチル保護基およびFOD保護基を、ヒドロキシルイオンによって除去する。得られるアレイは、ポリマー膜に共有結合したオリゴマー核酸の1本鎖からなる
【0089】
アレイの忠実度の評価
コンビナトリアルアレイの忠実度は、アレイ上に合成されたオリゴヌクレオチドと相補的である4つの異なる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブを使用して試験する。アレイをpH7.2で0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液中の蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブの第1の100nM溶液に室温で30分間曝露する。アレイを次いでpH7.2の0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液で3回洗浄する。アレイを次いで、エピフルオレセント顕微鏡で調べる。明るいスポットが、オリゴヌクレオチドが存在する第1の領域で見られた。オリゴヌクレオチドプローブおよびその相補体が実際的に交雑することを確かめるために、アレイを70℃で5分間脱イオン水で数回洗浄する。エピフルオレセント顕微鏡によるアレイの再調査は暗い領域を明らかにする。これは、プローブが相補体と交雑することを意味し、その結果は非特異的な吸収のよるものではない。アレイは、pH7.2の0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液中の、他の蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブの第2の100nM溶液に曝露する。その後、アレイを洗浄し、エピフルオレセント顕微鏡で調べ、次いで非特異的吸収を調べる。明るいスポットが、ヌクレオチドプローブが合成する第2の領域で見られる。この手順を第3および第4のオリゴヌクレオチド配列について繰り返す。コントロール領域は蛍光標識プローブに結合せず、アセイにおいて、いくつかの点で明るくなる。
【0090】
実施例3および比較例4
以下の実施例および比較例のために、結果を記録し、さまざまな条件下で、それぞれの電極アレイチップをデジタル的に捕らえたビデオ顕微鏡写真の形態で再現する。
結果の記録−写真撮影
顕微鏡写真は、Pulnix TM-745集積CCDカメラを備えたOlympus BX60顕微鏡を使用して撮影する。Pentium(登録商標)ベースのパーソナルコンピーターによって作動するData Translation DT3155ビデオ捕獲カードによってカメラは制御され、イメージが撮られている。DT3155カードを制御するソフトウェアは、当業者によって容易に入力することができる。
顕微鏡写真の多くは、ほぼ16の電極をそれぞれのイメージで見ることを可能にする10×対物レンズで撮影されるが、評価の目的によって、関心のある電極活性上の焦点に、イメージはときどきトリミングされる。ときには、4×対物レンズも使用される。2種の顕微鏡写真が撮影される。数枚の写真は、白光光源を使用して撮影される。これらの場合において、電極は反射する。例えば、図14参照。顕微鏡写真の大部分は、エピフルオレセント光源を使用して撮影される。これらの場合、電極は被覆されていない場合、すなわち、蛍光被覆が存在しない場合、電極の金属、例えば白金が存在する蛍光を消滅させるので、電極は顕微鏡写真において暗くみえる。
エピフルオレセント顕微鏡は、チップ表面に鉛直な経路に沿って、チップ表面上の位置から電極アレイチップを照射することを含む。照射ビームは、フィルターを通過して、使用される蛍光色素の励起波長で中央となる狭いバンドを得る。以下の実施例および比較例で使用される蛍光色素は、595nmで最大吸収を有するTexas Redであった。この色素は、ほぼ595nmの光で励起するときに615nmで最大発光を有する蛍光を放射する。Texas Redは、Molecular Probes, Eugene Oregonから得ることができる。Olympus BX60顕微鏡のフィルターは、励起光がCCDカメラの光学検出器に移動することを妨げる。Olympus BX60顕微鏡は、補助技術認識計器モジュールを備え、Texas Red色素を使用してエピフルオレセント顕微鏡法を行う。
白光源およびエピフルオレセント光源を使用して撮影された例となる顕微鏡写真は、図14〜16に示す。図14および15は、非被覆電極アレイチップを示し、図16は、蛍光膜で被覆された電極アレイチップを示す。
【0091】
電極アレイチップの説明および作成
以下の実施例および比較例で作成されるおよび使用されるチップは、100μmの直径白金電極の16(x方向)×64(y方向)を有する長方形デバイスである。これらのアレイにおける電極の総数は1024であった。チップの寸法は、約0.5cm(x方向)×2.3cm(y方向)であり、チップの全表面積は約1cm2であった。それぞれのアレイの電極は、電極の中心から測定して、x方向において約250μm離れ、y方向において約350μm離れていた。
アレイのそれぞれの電極は、SRAMセル(静的ランダムアクセスメモリ)、アレイの電気的回路を独立してアドレスする標準技術認識方法を使用して、独立してアドレスすることができる。SRAMセルは、電極に付随する電気回路において電極の隣に位置される。アレイ中のそれぞれの電極は、電極に付着した4つに分離した切り替えできる電圧線を有し、アレイ中のそれぞれの電極は、1電圧線から他の電圧線に独立して切り替えできる。電圧は、任意であり、外部からの電圧源によって設定された。
【0092】
以下の実施例および比較例で使用されるチップにおいて、パッドを結合するようにハードワイヤ接続されているチップの面にさらに13の電極がある。このことは、16×64アレイにおける電極のように切り替えができ、独立してアドレスできることはないこと意味する。これらの13の電極は、単一電圧線を除いて、電極に付随する回路を有さず、したがって、付随した電極アレイに係合しないで、電極上でプロトコルを作動できる。これらの13電極は、直径が100μmであり、アレイにおいて電極から異なった間隔を取られていた。例えば、図17を参照すると、図17はハードワイヤ接続された電極の三角配向を示し、そこでは、電極は、電極の中心から250μm離れている。
チップは、ハイブリッドデジタル/アナログの超大規模集積回路(VLSI)を使用して3μ工程によって作成された。当業者には、そのような工程は周知であり、本発明において使用するためのチップを容易に調製することができる。Mead, C., Analog VLSI and Neural Systems, Addison-Wesley(1989)参照。使用される回路は、CMOS(相補的な金属/酸化物ケイ素)に基づき、当業者に周知である。
【0093】
チップは、Pentium(登録商標)ベースのパーソナルコンピーターによって作動される少なくとも1つのAdvantech PCL-812デジタルI/Oカード(コンピーター中)によって制御される。これらのデジタルI/OカードはCyber Research, Branford, Connecticutから得られる。チップは、インタフェースハードウェア、すなわちインターファイスカードを通して、I/Oカードに連結されることが好ましい。I/Oカードを作動するためのソフトウェアは、当業者によって容易に書き込める。チップに動力を供給するDC電圧は、PCL-812および/またはHewlett-Packard E3612A DC電源によって供給される。電極のための電圧は、PCL-812カードによっておよび/または外部からのKeithley 2400電源測定ユニットによって供給される。
【0094】
電極アレイチップは、すべてのオンチップ回路用結合パッドが、チップの長いサイドの1末端に位置するように設計される。図18aおよび18b参照。チップは、半分に切られた標準121ピンPGA(ピンガイドアレイ)パッケージに付着し、約2cmのチップが末端から外に延在し、ダイビングボードに類似していた。図18b参照。PGAパッケージは、Spectrum Semiconductor Materials, San Jose, Californiaから得られる。連結ワイヤは、チップ上の結合パッドとPGAパッケージ上の接触(結合パッド)の間を通った。チップ上の結合パッド、連結ワイヤおよびPGAパッケージ上の接触は保護および絶縁のためのエポキシによって被覆された。図18aの切断図参照。空気中に延在するチップのセクションは、電極アレイを含み、エポキシによって被覆されていなかった。チップのこのセクションは、チップの表面に電極上で化学的合成に関係する溶液に浸漬するのに有用である。当業者には、本発明による使用に適したチップを、容易に設置および設計できる。
【0095】
実施例3(本発明)−脱保護および局在化
背景
16×64白金電極を含んでなる上記の電極アレイチップの1つを本実施例で使用した。上記のように、13のハードワイヤ接続した電極を有するチップは、チップの長いサイドの1末端で局在化した。しかしながら、これらのハードワイヤ接続した電極は本発明には含まれない。
電気化学的に発生した試剤を使用する選択的な脱保護および局在化を示すための本実施例で使用されるモデル化学的システムは、トリチルリンカー分子によって電極アレイチップを覆う膜に、Vector Laboratories, Burlingame, Californiaから得られる蛍光標識されたストレプトアビジン分子、周知のさまざまな種のアビジンを付着することを必要とする。使用される被覆膜は、ポリサッカリドベースであった。使用されるトリチルリンカー分子は、酸に不安定であり、つまりプロトンに不安定であり、プロトンの存在下で被覆膜から分離して、付着した蛍光標識ストレプトアビジン分子を運ぶ。さらに好ましくは、使用されるトリチルリンカー分子は、Perseptive Biosystems, Framingham, Massachusettsから得られる環外活性エステルによって修飾された4,4’ジメトキシトリチル分子であった。
【0096】
実験方法
分子の付着するチップの作成
電極に近接して合成および/または脱保護のための電極アレイチップの表面に、分子、特にトリチルリンカー分子が付着できるように、チップをポリサッカリドベースの物質の被覆膜によって被覆および/または修飾した。特に、ポリガラクトシドを、本実施例における被覆膜の物質として使用した。ポリガラクトシド膜は、チップ上に浸漬被覆した。
【0097】
トリチルリンカー分子の付着
電極アレイチップをポリサッカリド膜で被覆した後、トリリンカー分子をチップに付着した。本実施例で使用されたトリチルリンカー分子は、環外活性エステルによって変性された4,4’−ジメトキシトリチル分子であり、特にその分子は、N−スクシンイミジル−4−[ビス−(4−メトキシフェニル)−クロロメチル]−ベンゾエートであった。この分子の合成および使用は、A Versatile Acid-Labile Linker for Modification of Synthetic Biomoleucules, by Brian D. Gildea, James M. Coull and Hubert Koester, Tetrahedron Letters, Volume 31, No.49, pgs 7095-7098(1990)に記載されている。
トリチルリンカー分子は、0.5Mのt-ブチルアンモニウム過塩素酸塩、0.75Mの2,4,6−コリジンおよび0.2Mのトリチルリンカーを含有するDMF溶液へのポリサッカリド膜被覆チップの浸漬によってポリサッカリド膜に付着される。ポリサッカリド膜被覆のチップをDMFリンカー溶液に浸漬することを周囲温度で30分間続けた。しかしながら、当業者に既知のいずれかの方法による浸漬または被覆は許容できる。トリチルリンカー被覆チップを次いでDMFで洗浄し、残留試剤を除去した。次いで、トリチルリンカー被覆チップを、pH8.0に調節した0.1Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液中で洗浄し、乾燥した。
【0098】
蛍光色素標識分子の付着
次いでトリチルリンカー被覆チップを1mLにつき50mgの濃度を有する蛍光色素(Texas Red)標識ストレプトアビジン分子の水溶液に浸漬し、周囲温度で1時間この溶液中でそのままにした。浸漬の間、リンカー分子が誘導化され、蛍光色素標識ストレプトアビジン分子がリンカー分子に付着した。
蛍光色素標識ストレプトアビジン分子を有するチップを、pH8.0に調節した0.1Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液によって洗浄して、残留している試剤を除去して、乾燥した。チップは、本発明の電気化学的工程、すなわち選択的脱保護工程の使用のための準備ができていた。
蛍光標識ストレプトアビジン分子への作成したチップの曝露に続いて、電流および電圧の印加より前であるが、アレイにおける電極は、蛍光によってすべて明るい。というのは、電極に近傍の膜は、トリチルリンカーによって膜に結合する蛍光標識ストレプトアビジン分子を含むからであった。これの顕微鏡写真は、図19aに示す。
【0099】
選択的脱保護
選択的脱保護工程を行うために、作成したチップを、試剤の電気化学的発生を可能にする0.05Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液に浸漬した。約10分間、選択電極に2.8ボルトの電位差を印加し(チャッカーボードパターンにおいて交替する)、アノードにプロトンを電気化学的に発生させた。
プロトンを電気化学的に発生した後、アノードは、暗くなった。というのは、アノードに近接して予め結合したトリチルリンカーは、アノードから解離し、蛍光標識ストレプトアビジン分子が除去されるからである。チェッカーボードパターンにおいてアノードで生じて、カソードで生じない程度は、アレイ中の電極間で生じる化学的クロストークの尺度である。つまり、化学的クロストークが生じる場合、カソードは、暗くなる。というのは、プロトンが移動して、カソードでトリチルリンカーを解離するからである。
つまり、エピフルオレセント顕微鏡法の下において、明るい電極(カソード)は、電極でリンカー分子に結合したTexas Red標識ストレプトアビジン分子の存在を示し、暗い電極(アノード)は、電極でリンカー分子に結合したTexas Red標識ストレプトアビジン分子の欠落を示す。図20および21において、このことは示され、図20は、2秒の集積時間で4×対物レンズを使用して撮影し、図21は、500ミリ秒の集積時間で10×対物レンズを使用して撮影した。
【0100】
結果
チップの乾燥の後に、脱保護工程の終了後に電極アレイの顕微鏡写真を撮影し、図20および21に再現した。これらの図に示されるように、選択的な脱保護は、本発明の方法を使用することによって達成された。これらの図に示されるように、チェッカーボードパターンの繰り返しを行い、本発明の方法がアノードで発生するプロトンの局在化を達成し、カソードへのこれらのプロトンの移動を妨げることを示した。暗い領域(アノード)ははっきりと示され、はっきりと示される明るい領域(カソード)と区別される。顕微鏡写真で示されるはっきりと分けられたチェッカーボードパターンは、脱保護工程の間に化学的クロストークが全くまたはほとんど生じないことを示した。
【0101】
実施例4−比較例
本発明によって作成させた2つの電極アレイチップを使用して、1つのチップを、緩衝溶液を使用する本発明による選択的脱保護工程を使用して処理し、第2チップを、Southern (WO93/22480,1993年11月11日出願)の実施例に使用される電解質を本発明の緩衝溶液に置き換えることだけで変更した選択的脱保護工程を用いて処理した。
電極アレイを使用するよりむしろ、この対比は、電極アレイチップの面に見出される数個のハードワイヤ接続した電極上で行った。図17は、図14と同じ条件で顕微鏡写真を撮影したが、本実施例に使用されるハードワイヤ接続した電極を示した。
【0102】
本発明に従った脱保護
ポリサッカライド膜でチップを被覆し、トリチルリンカー分子を膜に付着する工程を実施例3で使用した上記手順にしたがって行った。
蛍光色素ラベルストレプトアビジン分子の付着および脱保護工程は実施例3にしたがって行ったが、試剤の電気化学的発生を可能にするように20mMのリン酸ナトリウム緩衝水溶液を、実施例3で使用した0.05M溶液に代えて使用した。選択電極間に適用した電圧は2.8Vであり、約30秒間にわたって適用した。
【0103】
実施例3と同様の結果を得た。これら結果を図22〜24に示す。
図22は、T1,T2およびT4としてラベルした、本方法に含まれるハードワイヤ接続された電極を示す。この方法において、T1はカウンター電極、即ちカソードであり、T2およびT4は電流または電圧の適用時にプロトンが発生するアノードである。図22に示す電極には電圧は適用されていない。
図23は、蛍光ラベルストレプトアビジン分子による誘導体化または結合の後の同様の電極である。示すように、電極T2およびT4は明るく、これら電極のそれぞれに隣接するリンカー分子に結合したTexas Redラベルしたストレプトアビジンの存在を示す。
図24は、アノードでのプロトンの電気化学的発生を生じさせる電圧の適用およびこれら位置でトリチルリンカーの結果的な解離の後のアノードT2およびT4の条件を示す。一旦解離が生じると、蛍光ラベルしたストレプトアビジン分子が洗浄除去され、アノードを暗くする。顕著なことには、アノードT2およびT4は、近隣の電極よりも暗く、化学的混信が生じていないことを示している。
図23および図24に示すように、局在化および選択的脱保護が、望むように、アノードT2およびT4において達成される。
【0104】
Southern(WO93/24480)の電極を使用した脱保護
本発明に従った緩衝液を使用することに代えて、Southenの実施例に開示されているように、アセトニトリル溶媒中で1%のトリエチルアンモニウムスルフェート電解質の存在下で脱保護を行うこと以外は、本発明の上記方法と同様に全ての工程を行った。
【0105】
この方法の結果を図25a、25b、26aおよび26bに示す。
示すラベルした電極T1およびT4において、電極T1はカソードを示し、電極T4はアノードを示す。
【0106】
図25a、25b、26aおよび26bは、膜がランダムで不正確な明るい領域および暗い領域を示すことを示している。これら明るい領域および暗い領域は、アノードで発生したプロトンが電極に近接した領域に閉じ込められまたは局在化しないことを示しており、光学顕微鏡の全範囲にわたるトリチルリンカーの顕著な解離を生じさせる。T1は、電極の直に上の蛍光のほとんどを保持しているようであった。これは、T1カソードで発生した塩基によって説明され、該塩基は、T4アノードに近接して発生する酸を中和する。
【0107】
本発明に従って達成される結果を例示する顕微鏡写真およびSouthern(WO93/22480)の電解質を使用して行われた類似の実験から得られた結果を示す顕微鏡写真の比較からわかるように、電気化学的発生試剤の優れた局在化が、本発明の方法を使用して、達成される。本発明の方法を使用して達成される優れた局在化は、隣接電極間の望ましくない化学的混信を、たとえ無くさないとしても、大いに減少させる。対照的に、従来技術の電解質を使用して、電気化学的に発生した試剤の局在化がほとんど達成されない場合には、顕微鏡の全範囲においてランダムで不正確な脱保護という結果になる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】電極1及び4の近くで、電気化学的に生成する試剤(プロトン)を生じさせ、リンカー分子(L)上の反応性官能基(NH2)にさらされることによって行う選択的脱保護化を示している。基質は断面で示されており、5つの電極を有している。
【図2a】電極1及び4の近くでの、保護された化学的官能基(P)を有するモノマー(A)と、(反応性官能基を有する)脱保護化されたリンカー分子との結合の様子を示している。
【図2b】電極1及び4の近くでの、保護された化学的官能基(P)を有するモノマー(A)と、(反応性官能基を有する)脱保護化されたリンカー分子との結合の様子を示している。
【図3】それぞれ、電極2及び4の近くで、モノマー及び分子上のもう1つの組の反応性官能基が、電極2及び4にて生じるプロトンによって選択的に脱保護化される様子を示している。
【図4a】電極2及び4の近くでの、保護された化学的官能基(P)を有するモノマー(B)と、脱保護化された分子及びモノマーとの結合の様子を示している。
【図4b】電極2及び4の近くでの、保護された化学的官能基(P)を有するモノマー(B)と、脱保護化された分子及びモノマーとの結合の様子を示している。
【図5】モノマー(A)と(B)との可能性のあるすべての組合せを有する5種の電極基質を示している。電極1の近くのリンカー分子は、それに結合する、保護されたダイマー、例えば2つのモノマー(A)を含むジペプチドを有している。電極2の近くのリンカー分子は、リンカー分子(L)に結合するモノマー(B)及びそのモノマー(B)に結合する保護されたモノマー(A)を含む保護されたダイマーを有している。電極3の近くのリンカー分子は、制御電極を示しており、近くの電極に電位が印加されないために合成が起こらない場合のリンカー分子を示している。電極4の近くのリンカー分子は、リンカー分子(L)に結合するモノマー(A)及びそのモノマー(A)に結合する保護されたモノマー(B)を含む保護されたダイマーを有している。電極5の近くのリンカー分子は、リンカー分子(L)に結合する2つのモノマー(B)を含む保護されたダイマーを有している。
【図6】表面に、100個の電極を有する10×10の電極アレイを有する基質を示す平面図を示している。基質の表面における典型的な電極の側面図も示している。
【図7】CBZ−保護されたロイシンモノマー(L)が結合している透過性の付着層又は膜を有する基質を示している。層/膜は、基質の表面において電極に重なっている。
【図8】表面において電極に重なる透過性の付着層又は膜を有する基質を示している。この層/膜は、電極2、3、5、6及び7並びに対電極1及び10の近くのモノマーにおいて、例えば、保護基(P=CBZ)が除去された後の反応性アミン官能基を有するロイシンモノマー(L)を有している。
【図9】CBZ保護されたフェニルアラニンモノマー(F)を、電極2、3、5、6及び7の近くのロイシンモノマーの反応性アミン官能基に結合させて、それらの電極の近くのモノマーを改質することを示している(ジペプチドが生成している)。
【図10】電極3、5、6及び7の近くにて、CBZ保護されたトリペプチド、グリシン−フェニルアラニン−ロイシン(G−F−L)によって基質表面を改質することを示している。
【図11】電極6及び7の近くにて、CBZ保護されたペンタペプチド、チロシン−グリシン−グリシン−フェニルアラニン−ロイシン(Y−G−G−F−L)によって基質表面を改質することを示している。
【図12】電極7及び対電極1及び10の近くの保護されたロイ−エンケファリン・エピトープ(leu-enkephalin epitope)、並びに電極6の近くの脱保護化されたロイ−エンケファリン・エピトープを示している。
【図13】実施例1に従って、抗体にさらし、蛍光結合(fluorescent conjugate)させた、エピフルオレッセント顕微鏡(epifluorescent microscope)を用いて観察され得る代表的な結果を示している。
【図14】およそ70個の電極を示す、被覆していない電極アレイチップのデジタル的に撮影した白色光顕微鏡写真である。この写真は、Pulnix TM-745一体式CCDカメラを備えたOlympus BX60顕微鏡によって、4倍の対物レンズを用いて撮影したものである。これらの独立したアドレス可能な電極に組み合わせられている電気的回路があることに注意すべきである。
【図15】図14に示している電極の同じアレイのデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真であって、倍率は同じである。この写真は、被覆していない電極アレイチップは、その上に蛍光性被覆物質がない場合、電極が暗く表示されることを示している。電極の暗さは、存在する何らかの蛍光が(白金)電極によってクエンチされることによって説明される。
【図16】図14及び15と同じアレイの電極のデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真であるが、10倍の対物レンズを用いて撮影したものであって、16個の電極のみを示している。この顕微鏡写真は、蛍光膜材料によって被覆されており、従って、電極に重なる膜に付着する蛍光ラベルされた分子が存在する、チップの写真である。この顕微鏡写真は、電極が蛍光物質を含む膜によって被覆されている場合に、電極の近く/上部の領域が明るい領域であることを示している。この顕微鏡写真に用いた蛍光物質は、Texas Red dyeによってラベルされたストレプトアビジン(Streptavidin)分子であった。
【図17】図14と同様のデジタル的に撮影した白色光顕微鏡写真であるが、顕微鏡写真外にある電源に電極を接続しているリード線によって示されるように、電極は配線されている。さらに、この顕微鏡写真は10倍の対物レンズを用いて撮影されている。これらの配線された電極は、電極がアレイされたチップの側に設けられている。これらの配線された電極に組み合わせられている回路はないことに注意すべきである。
【図18】チップ/ピン・グリッド・アレイ(PGA)パッケージ・アッセンブリを示している。aに示すように、チップは、チップの活性領域(活性領域は表面に電極を有する領域である。)の反対側において、接着剤によりPGAパッケージに取り付けられており、チップの活性領域を溶液中に浸したり、浸漬させたりするような形態にて、PGAパッケージの端部から突出する活性電極領域が残されている。チップ上のボンディングパッドをPGAパッケージ上のボンディングパッドへ結合させる電線は、エポキシによって封止されている。bに示すピンは、aに示すPGAパッケージの反対側に配されている。
【図19a】電位を適用して脱保護を行う前の電極アレイチップを示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。いずれかの電位を印加する前に、pH8.0の0.05Mリン酸ナトリウム水溶液の緩衝液を、アレイのすべての電極に接触させて入れ、電気化学的試剤が生成するようにした。4倍の対物レンズを用いて顕微鏡写真を撮影し、1秒の集積時間(integration time)を用いた。
【図19b】電位を適用して脱保護を行った後の電極アレイチップを示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。いずれかの電位を印加する前に、pH8.0の0.05Mリン酸ナトリウム水溶液の緩衝液を、アレイのすべての電極に接触させて入れ、電気化学的試剤が生成するようにした。アレイの中の電極のすべてに同じ電位を適用し、アレイの中の各電極にて脱保護化を生じさせた後の電極アレイを示している。2.8ボルトの電位を10分間印加した。4倍の対物レンズを用いて顕微鏡写真を撮影し、1秒の集積時間(integration time)を用いた。
【図20】配線された電極アレイチップを示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真であって、アノード(黒く示されている電極)及びカソードは交番電極である。図示するチェッカーボード・パターンは、2.8ボルトを10分間印加して得られた。この顕微鏡写真を得るために使用した対物レンズは4倍であり、集積時間は1秒であった。アノードにおける酸の局在化に注意されたい。本発明によって達成される局在化が正確であるので、チェッカーボード・パターンが得られている。
【図21】図20の場合と同様に配線された電極アレイチップを示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真であるが、この顕微鏡写真は10倍の対物レンズを用いて、700ミリ秒の集積時間にて得られたものである。
【図22】配線された電極のアレイを示す、被覆されていない電極アレイチップのデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。(この図では、隣接する電極アレイも示している。)図示するアレイの配向(orientation)によって電極の明るさを正確に読み取ることができる。図示する電極は黒く示されている。電気的接続が形成されており、明るさ又は暗さが観察される3つの電極が設けられており、「T1」、「T2」及び「T4」とラベルされている。
【図23】トリチルリンカー分子を介して電極に取り付けられ、Texas Redによってラベルされたストレプトアビジン分子を含む蛍光膜により被覆されているチップのデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。電極T2及びT4は強く明るい信号を有している。電極T1は暗い。電極へはまだ電位を印加していない。
【図24】電極T2及びT4へ正電位を印加した後の図23に示すチップのデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。正電位によって、これらの電極ではプロトンが生成した。トリチルリンカー分子は電極を覆う膜と会合していないので、電極T2及びT4は暗い。電極T1は対電極として用いられている。暗い領域は電極T2及びT4に限定されており、従って、隣接する電極の間では化学的クロストークはほとんどない。
【図25a】反応条件、即ち、従来技術であるSouthernの国際特許出願WO93/22480号の反応条件に従って行った脱保護化工程の前の配線された電極の様子を示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は、10倍の対物レンズを用いて撮影されたものであり、電極どうしの間での「化学的クロストーク」によって生じる不正確さ及びランダムさが示されている。これらの顕微鏡写真において、電極を取り囲む広い面積のブラック−アウト領域及びホワイト−アウト領域は、電気化学的試剤(プロトン)の生成した場所である電極から電気化学的試剤が離れることを示している。
【図25b】反応条件、即ち、従来技術であるSouthernの国際特許出願WO93/22480号の反応条件に従って行った脱保護化工程の後の配線された電極の様子を示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は、10倍の対物レンズを用いて撮影されたものであり、電極どうしの間での「化学的クロストーク」によって生じる不正確さ及びランダムさが示されている。これらの顕微鏡写真において、電極を取り囲む広い面積のブラック−アウト領域及びホワイト−アウト領域は、電気化学的試剤(プロトン)の生成した場所である電極から電気化学的試剤が離れることを示している。
【図26a】図25aに示したものと同じ配線の電極を20倍の対物レンズにて100ミリ秒の集積時間にてデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。
【図26b】図25bに示したものと同じ配線の電極を20倍の対物レンズにて100ミリ秒の集積時間にてデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、基質(substrate、(基材))上の選択された部位において物質を合成し及び配置することに関する。特に、本発明は、基質上の選択された部位において化学物質のモノマーの独立したシーケンスを提供するための方法に関する。
【0002】
本発明は、ペプチド、オリゴマー、ポリマー、オリゴサッカリド(オリゴ糖)、核酸、リボ核酸、ポルフィリン、及び薬剤の同属(drug congener)を製造する分野に適用することができるが、これらに限定されるものではない。本発明は、特に、例えば、急速に発展しつつあるコンビナトリアル・ケミストリー(combinatorial chemistry)の分野において使用されるような生物活性のスクリーニング等のための化学的に多様なソースを製造する方法として用いることができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
既知のターゲット分子と、既知のターゲット分子に選択的に結合することが知られている種々の分子、すなわちリガンドとの結合能(binding capability)を測定するためのアッセイとしては多くのものが知られている。そのような実験から入手し得る情報は、利用し得るリガンドの種類及び数によって制限されることがしばしばある。新たなリガンドを見出すことを目的とする研究が続けられている。新しいリガンドは、偶然によって、又は分子構造を解明するための技術の適用によって、又は分子構造と結合活性との間の関係の系統だった分析によって見出されることがある。
【0004】
小さなペプチド分子は、生物学において作用と構造との関係を調べるための有用なモデルシステムである。ペプチドはアミノ酸のシーケンスである。例えば、20種の天然アミノ酸を縮合させることによってポリマー分子とすることができる。これらのポリマー分子は、多様な3次元的空間的及び電子的構造を形成する。それぞれの構造は、特定のアミノ酸シーケンス及び溶媒条件によって生成し得る。20種の天然アミノ酸が採り得るヘキサペプチド(hexapeptide)の数は、例えば、206であり、従って、64,000,000種の異なるペプチドであり得る。エピトープの研究によって示されるように、小さなペプチド分子はターゲット結合の研究において有用であり、シーケンスは数個のアミノ酸程度に短いものが、ある種の抗体によって高い特異性にて認識される。
【0005】
生物学的に重要なターゲットについての所望のパターンの特異性を有するリガンドを見出すプロセスは、薬剤を開発する今日の多くのアプローチの中心となっている。これらのアプローチは、構造と活性との関係に基づいて、リガンドの合理的な構成及び可能性のある一群のリガンドの大規模なスクリーニングに関連する。アプローチを組合せたものがしばしば用いられる。リガンドは、特に限定される訳ではないが、小さなペプチド分子であることが多い。
【0006】
多くの種類の異なるリガンドを調製する更に別の方法は、効率的に合理的なスクリーニング又はランダムなスクリーニングが十分に許容されるスケールにて用いられる場合でも、骨が折れて遅々としており、コストがきわめて高くついていた。例えば、よく知られている「メリーフィールド(Merrifield)」・メソッド(J. Am. Chem. Soc. (1963)85:2149−2154)は、固体の担体物質上でペプチドを合成するために用いられており、引用することによってその内容を本明細書に含めることとする(非特許文献1)。メリーフィールド・メソッドにおいて、アミノ酸は不溶性のポリマーで形成されている担体上に共有結合的に付着する。共有結合的に付着されているアミノ酸に、アルファ位が保護されているもう1種のアミノ酸を反応させることによってジペプチドを生成させる。洗浄後、保護基を外して、アルファ位が保護されている3番目のアミノ酸をジペプチドに付加させる。所望の長さ及びシーケンスを有するペプチドが得られるまで、この処理を繰り返す。メリーフィールド・メソッドを用いて、一日で少数又はそれ以上のペプチドシーケンスを合成することは、技術的に実施可能なものでなく、経済的にも実用性のあるものでない。
【0007】
より多くのポリマーシーケンスを合成するために、一連のポリマー合成用の反応装置を用いることが提案された。例えば、チューブ状の反応系を用いて、試剤を自動的に連続付加させることによって、固相担体上で鎖状ポリマーを合成することができる。しかしながら、この方法によっても、効率的及び経済的なスクリーニングのために、十分に多くの数のポリマーシーケンスを合成することができない。
【0008】
複数のポリマーシーケンスを合成するもう1つの方法には、多孔質容器を用いて、容器の孔の寸法よりも大きな反応性粒子を既知の量で入れるというものがある。容器内の粒子を所望の物質と反応させることによって、所望のシーケンスの生成物分子を合成することができる。しかしながら、この技術分野において知られている他の方法と同様に、この方法は効率的なスクリーニングのための十分に多様なポリペプチドを合成するのに実用的ではない。
【0009】
他の技術も既に開示されており、試みられている。このような方法の幾つかは、標準的なマイクロタイター・プレートのフォーマットに適合する96のプラスチック・ピン上でペプチドを合成することに関する。残念ながら、これらの技術は多少有用ではあるが、実質的な問題点が残っている。例えば、標準的なマイクロタイター・プレートを用いる方法は、合成及びスクリーニングすることができるシーケンスの多様性に関する制限が課せられたままである。マイクロタイター・プレートを用いると、本質的に純度の高いポリマーが合成されるということは認識されているが、その理由は、各ポリマーはマイクロタイター・プレートの十分に離れされたウェル(well)にて合成され、所定の時間で合成され得るポリマーの数はマイクロタイター・プレート内のウェルの数、従って、96個に限定されるからである。更に、マイクロタイター・プレートでの合成に必要とされる装置の規模は大きい。このような制限のために、マイクロタイター・プレートを用いると、大きな空間を必要として、比較的少数のペプチドが合成される。
【0010】
より小さな空間において、多くのポリマー及びポリペプチドの種々のアレイ(array、配列)を合成する試みが、Pirrungらの米国特許第5,143,854号(1992年)において見出されている(特許文献1)。この特許は、ポリマー及びポリペプチドのアレイを固相合成するためにフォトリソグラフィック技術を用いることを開示している。開示されている技術は、「フォトマスク」及び下側にある官能基を保護するための感光性(phtolabile)の保護基を用いるものである。方法の各工程では、種々のフォトマスクを用いて、露光され、従って脱保護される領域を調節することが必要である。化学物質のモノマーの各アレイについて新しい一組のフォトマスクを製造することが必要であり、そのことによってきわめてコストが高く、自動化にはあまり適さないものとなっている。更に、この方法は、合成の各工程がフォトマスクを機械的に取り除き、配置し及び再整列することを要するので、単調で時間のかかる方法である。従って、Pirrungの方法を用いて大規模なポリマーのライブラリーを合成しようとすることは、効率が悪く、非経済的である。
【0011】
Pirrung法のもう1つの問題点は、使用する感光性保護基が、常套の酸又は塩基に不安定な保護基と同じくらい効率的に除去することはできず、望ましくない副反応による汚染によって影響を受けたりし得ることである。従って、Pirrung法を用いての化学的アレイの純度は、保護基を十分に除去することができないこと、及びその結果として下側の官能基を所望のモノマーと反応させることができないこと、並びに望ましくない副反応によって汚染されることのためにしばしば低下し得る。
【0012】
多種のポリマーを合成するもう1つの試みは、Southernによって1993年11月11日に刊行された国際特許出願WO93/22480に開示されている(特許文献2)。Southernは、選択した部位において表面を電気化学的に改質(modify)することによってポリマーを合成する方法を開示しており、この方法は表面を覆う電解質及び表面に隣接する電極のアレイを設けることを含んでいる。Southernの合成法の各工程において、電極のアレイは合成点に隣接して機械的に配され、電極において電気化学的試剤が生成するのに十分な電位が印加される。電気化学的試剤は、電解質中又は表面のいずれかにおいて見出される別の種類の試剤と反応させられたり、それら自身の表面に付着させられたりして、合成の所望のポイントにて物質に付着したり、物質を改質したりする。電極のアレイはその後機械的に取り除かれ、表面は選択されたモノマーにその後接触させられる。その後の反応としては、電極のアレイが表面に隣接させて再び機械的に配され、次の組(セット)の選択された電極を活性化させる。
【0013】
この方法では、合成が行われる電極のアレイと表面との間の間隔において多くの制御を行う必要がある。改質のための電極と表面との間の間隔にわたる制御は、電極と合成ポイントとの間の正確な位置合わせを確保するため、並びに所望の合成ポイントから離れて電気化学的に生成する試剤の拡散の程度を制限するために必要である。しかしながら、数ミクロンの表面にて電極を繰り返して正確に位置せしめることに特有の困難を伴うことによって、望ましくない合成ポイントにおいて電気化学的に試剤が生成することが起こり得る。更に、電気化学的に生成する試剤が、反応の望ましい部位から反応の望ましくない部位へ拡散することによって、合成部位どうしの間で「化学的クロストーク(cross-talk)」が生じ得る。このようなクロストークは、選択していない部位にて所望しない結合反応を起こし得るので、最終生成物の純度を著しく低下させ得る。電極が移動する場合には生じ得る表面張力の乱れによってクロストークの程度は更に悪化し、電気化学的に生成する試剤の移動を助長し得る対流的混合をまねき得る。Southernは、実際的なやり方として、拡散を相殺するような構成で電位を印加することによって、クロストークの程度を小さくすることを試みたが、Southernが形成することができた電場は拡散を相殺するためには小さ過ぎるものであった。電位を上げて電場を増強させようとする場合、電気化学的に生成する望ましくない試剤が大量に形成される。従って、純粋なポリマーを大量に形成するためには、Southern法は実用的な方法ではない。
【0014】
ポリマーの合成を自動化しようとするより最近の試みは、Hellerによって1995年5月11日に刊行された国際特許出願WO95/12808に開示されている(特許文献3)。Hellerは、ペプチド及びオリゴヌクレオチドのバイオポリマー合成を含む顕微鏡的環境にて、制御された多段階反応を行うことができる、自己アドレス可能(self-addressable)であり、自己アセンブル可能(self-assembling)な電気化学的系を開示している。Hellerの方法は、分析物又は試剤を、特定の結合単位(entity)と効率的に反応及び濃縮させる選択された微小部位(microlocation)に移動させる自由な電気泳動の場を用いるものである。Hellerのデバイスのそれぞれの微小部位は、特定の結合単位の共有結合的な付着のための誘導体化された表面を有しており、結合層、透過層、及び下側の直流電流微小電極を含んでなる。透過層が存在することによって、電気化学的に生成する試剤が、それぞれの合成部位へ電気泳動的に移送される試剤又は合成ポイントに結合したり、それらと相互作用を行ったりすることを防止する。従って、すべての合成は、合成のそれぞれの部位へ電気泳動的に移送される試剤によって行われる。
【0015】
しかしながら、Hellerの方法は、電気泳動的移送を用いることによって著しく制限される。まず、電気泳動的移送では、電場によって影響を受けるように試剤に電荷を帯びさせることが必要であるが、コンビナトリアルケミストリーにおいて用いられる通常の試剤は一般に電荷を有さない分子であり、電気泳動系において用いることができない。次に、Hellerの方法は、結合する試剤を電気泳動的に移送させることに関連する電場の空間的分布のために、固有に生じる大量の化学的クロストークを解決しておらず、また、解決することができない。電気泳動的を用いる系において、保護基を取り除くための機構がないので、微小部位において反応性官能基を保護するために保護基を用いることはできず、電気泳動を用いることによって、種々の結合単位及び/又は反応体は移送されて、選択されていない反応部位にしばしば接触するので、種々の結合単位及び/又は反応体は使用する溶液の全体に配される結果となり得る。従って、電気泳動に固有の電場の空間的分布及び保護基がないことの組合せによって、そのような結合反応がランダムに起こり、いずれかのポリマーが合成されることの正確性を低下させ得る。
【0016】
【特許文献1】米国特許第5,143,854号
【特許文献2】国際特許出願公開WO93/22480
【特許文献3】国際特許出願公開WO95/12808
【非特許文献1】「メリーフィールド(Merrifield)」・メソッド(J. Am. Chem. Soc. (1963)85:2149−2154)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述のように、高い効率での脱保護化(deprotection)及びカップリング機構を用いて、既知の部位にて多様な化学的シーケンスを合成するための向上した方法が依然として必要とされており、そのような要望が存在している。更に、コストに関して効率的及び実際的であり、特定の領域及び時間にてより効率的に合成することができる一方で、合成する化学的シーケンスの正確性を維持し得る、より小さな規模の装置を用いることができる、既知の部位にて多様な化学的シーケンスを合成するための方法が依然として必要とされており、そのような要望が存在している。当業者には自明であろうが、モノマーからポリペプチドを合成することを目的としている上述したような説明は、オリゴヌクレオチドの合成にも同様に適用することができるし、特に、デオキシリボヌクレオチドモノマーからのデオキシリボ核酸(DNA)の合成にも同様に適用することができる。
【0018】
したがって、本発明の目的は、基質上の特定位置に物質を配置する改良方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、基質上に分離した異なった純粋なポリマーまたはオリゴヌクレオチドのアレイを迅速に合成する改良方法を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、コンビナトリアル化学において使用するために非常に近接して電極を配置することを可能にする多電極を有する分離した純粋なポリマーまたはオリゴヌクレオチドまたはDNA合成用の基質を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、研究、産業、商業および治療の使用のために有用である物質の機能的ゲノム、診断、遺伝子スクリーニング、薬品発見およびスクリーニングにおいて使用でき、ポリマーまたはDNA合成法の自動化を可能にし、非常に接近して電極の多電極アレイを有する分離したおよび純粋なポリマーまたはDNA合成用の基質を提供することにある。
【0019】
本発明の追加的な特徴および利点は、以下の説明に部分的に記載されており、説明から部分的に明白であり、本発明の実施から知ることができる。本発明の目的および他の利点は、以下の説明および添付した請求の範囲において特に指摘した要素および組み合わせによって実現でき達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明の要旨
上記目的は、基質上の特定位置で物質を電気化学的に配置する方法であって、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する少なくとも1つの分子に近接する少なくとも1つの電極をその表面に有する基質を準備する工程、
該分子の保護された化学的官能基の少なくとも1つを脱保護できる電気化学的試剤を生成させるのに充分に該電極に電位を適用する工程、
脱保護された化学的官能基をモノマーまたは予形成分子と結合する工程
ことを含んでなる方法
を提供することによって本発明にしたがって達成される。
本発明は、基質上に別個に形成されたポリマーのアレイを電気化学的に合成する方法であって、
基質表面に近接している電極のアレイと接触して緩衝液またはスカベンジ液を配置する工程、該表面は、それに付着している少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する1つまたはそれ以上の分子に隣接しており、
該分子の少なくとも1つにおける少なくとも1つの保護された化学的官能基を選択的に脱保護する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第1モノマーを、該分子の1つまたはそれ以上の脱保護された化学的官能基に結合する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する該分子の他または結合した分子における化学的官能基を選択的に脱保護する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第2モノマーを、該他の脱保護分子または結合分子の脱保護化学的官能基に結合する工程、
所望の長さの少なくとも2つの分離したポリマーが基質表面に形成されるまで、結合保護モノマーまたは結合保護分子における化学的官能基の選択的脱保護、および該脱保護化学的官能基への追加的モノマーの続いての結合を繰り返す工程
を含んでなる方法をも提供する。
別の要旨によれば、本発明は、
基質上に別個に形成されたオリゴヌクレオチドのアレイを電気化学的に合成する方法であって、
基質表面に近接している電極のアレイと接触して緩衝液またはスカベンジ液を配置する工程、該表面は、それに付着している少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する1つまたはそれ以上の分子に隣接しており、
該分子の少なくとも1つにおける少なくとも1つの保護された化学的官能基を選択的に脱保護する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第1ヌクレオチドを、該分子の1つまたはそれ以上の脱保護された化学的官能基に結合する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する該分子の他のまたは結合分子における化学的官能基を選択的に脱保護する工程、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第2ヌクレオチドを、該他の脱保護された分子または結合分子の脱保護化学的官能基に結合する工程、
所望の長さの少なくとも2つの分離したオリゴヌクレオチドが基質表面に形成されるまで、保護された結合ヌクレオチドまたは保護された結合分子における化学的官能基の選択的脱保護、および該脱保護化学的官能基への追加的ヌクレオチドの続いての結合を繰り返す工程
を含んでなる方法をも提供する。
【発明の効果】
【0021】
本明細書で説明する電気化学的方法を使用することによって、モノマー(ポリマー合成に使用できるものおよび修飾できるものの両方)、および予形成分子を基質上で小さいかつ正確に知られた位置に配置することが可能になる。したがって、基材上の選択された位置に既知の化学的シークエンスのポリマーを合成することが可能になる。例えば、本発明に従えば、基質上の選択された位置にヌクレオチドを配置することができ、例えばオリゴヌクレオチドの形態でヌクレオチドの所望シークエンスを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
上記の一般的記述および以下の詳細な記述の両方は例示的なものであり、説明のためだけであり、特許請求されたような本発明を説明しようとするものであることを理解していただきたい。
【0023】
本発明は、選択された領域に1又は複数の化学種を有する基質を形成し及び使用する方法を提供する。本発明は、アミノ酸のシーケンスを含む分子を合成することに主として関連するものとして説明するが、他のポリマーの合成並びに核酸のシーケンスの合成にも容易に適用することができる。そのようなポリマーには、核酸、ポリサッカリド、ホスホリピド、及びアルファ−、ベータ−、又はオメガ−アミノ酸のいずれかを含むペプチド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアセテート、又はこの明細書の開示を参照することによって自明である他のポリマー等の鎖状及び環状のポリマーのいずれもが含まれる。好ましい態様において、本発明はここではペプチドの合成に用いられる。もう1つの好ましい態様において、本発明はオリゴヌクレオチド及び/又はDNAの合成に用いられる。
【0024】
本発明は、モノマー、リンカー分子及び予備形成された分子、特に核酸を含むものから一般に選ばれる分子を、基質の特定の部位に配することに関する。本発明は、特に、固相重合技術によって、基質上の特定の部位にてポリマー、特にポリペプチドを合成することに関しており、少なくとも1つの電極の近くにある基質に配される分子から保護基を電気化学的に除去することを一般に含むものである。本発明は、本明細書に開示するような固相重合技術によって、基質上の選ばれた部位に、オリゴヌクレオチド及び/又はDNAを合成することにも関するものである。
【0025】
分子上の化学的官能基から保護基を電気化学的に除去することができる電気化学的試剤は、選ばれた電極へ十分な電気ポテンシャルを印加することによって、選ばれた電極にて生じさせることができる。本発明に従って保護基を除去すること、又は「脱保護化(deprotection)」は、電極によって生成した化学的試剤が、例えば選ばれた分子から酸又は塩基に不安定な保護基を脱保護化又は除去するように作用する場合に、選ばれた分子において行われる。
【0026】
本発明の1つの態様において、モノマー、ヌクレオチド又はリンカー分子(即ち、例えばモノマー又はヌクレオチドを基質へ「リンク(link)」させる分子)の末端には、少なくとも1種の反応性官能基が付与されており、それは電気化学的に生成する試剤によって除去可能な保護基によって保護されている。保護基は、電極において電気化学的に生成する試剤にさらされ、第1選択領域においてモノマー、ヌクレオチド又はリンカー分子から除去され、反応性官能基を露出する。その後、基質は、さらされた官能基と結合する第1のモノマー又は予備形成された分子に接触する。この第1のモノマー又は予備形成された分子も、電気化学的に生成する試剤によって除去される少なくとも1つの保護された化学的官能基を有していてよい。
【0027】
モノマー又は予備形成された分子は、その後同様の方法で脱保護化して、もう1組の反応性の化学的官能基を得ることができる。第2のモノマー又は予備形成された分子は、電気化学的に生成する試剤によって除去され得る少なくとも1つの保護基を有していてもよく、その後、基質に接触させられて、第2の組のさらされた官能基に結合する。いずれかの未反応の官能基は、場合によって、合成プロセスの間のいずれかの時点においてキャップされてよい。脱保護化及び結合工程は、その後、基質のこの部位において、所望するシーケンス及び長さのポリマー又はオリゴヌクレオチドが得られるまで繰り返して行われる。
【0028】
本発明の他の態様において、結合する少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する1種又はそれ以上の分子を有する基質は、電極のアレイの近傍にあり、そのアレイは緩衝液又はスカベンジング液(scavenging solution)に接触している。アレイ中の選ばれた電極へ、保護された化学的官能基を脱保護化させることができる試剤を電気化学的に生成させるのに十分な電位を印加した後に、選ばれた電極の近くの分子は脱保護化されて、反応性の官能基を露出し、そうすることによってそれらは結合を形成する。例えばタンパク質、核酸、ポリサッカリド及びポルフィリン等の予備形成された分子の溶液又はモノマー溶液は、基質表面に接触し、モノマー又は予備形成された分子は脱保護化された化学的官能基に結合する。
【0029】
アレイの中の選択した電極へ、少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する分子の他のもの又は結合した分子上の少なくとも1つの化学的官能基を脱保護化させるのに十分な別の電位をその後印加する。その後、少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する第2のモノマー又は予備形成された分子を、結合した分子又は他の脱保護化された分子の脱保護化された化学的官能基へ結合させる。所望するシーケンス及び長さのポリマー又はオリゴヌクレオチドが得られるまで、選択的脱保護化及び結合工程を繰り返して行うことができる。選択的脱保護化工程は、保護されている結合したモノマー又は保護されている結合した分子上の化学的官能基の脱保護化が行われるのに十分な別の電位を印加することによって、繰り返される。脱保護化された化学的官能基への、追加的モノマー又は予備形成された分子のその後の結合は、少なくとも2つの別個の、所望の長さのオリゴヌクレオチド又はポリマーが基質上に形成されるまで行われる。図1〜5は、上述のような態様を一般的に示している。
【0030】
本発明の好ましい態様では、緩衝液又はスカベンジング溶液を各電極に接触させて使用しており、これらは、電気化学的に生成する試剤、特に、プロトン及び/又はヒドロキシイオンに対する緩衝作用を有しており、アレイの中の1つの電極から他の電極へ電気化学的に生成するイオンの拡散によって生じる化学的クロストークを積極的に防止する。例えば、水性又は部分的に水性の媒体にさらされる電極に十分な正の電位(又は負の電位)がかけられる場合、水の加水分解の生成物としてプロトン(又はヒドロキシイオン)が生成する。例えば、プロトンは、例えば、ペプチド、核酸及びポリサッカリドなどのコンビナトリアル合成において有用ないくつかの分子から、電気化学的保護基を除去するのに有用である。
【0031】
独立した及び純粋なポリマーを合成するために、アレイの中の隣接する電極同士の間の化学的クロストークを最小とし、可能ならば防止すべく、これらのプロトン(又はヒドロキシイオン)を選択した電極の直ぐ近くの領域に閉じ込めることが望ましい。電気化学的に生成する試剤が可動である空間的範囲は、選択された電極から移動して離れる試剤と反応して、これらの試剤が隣接する電極にて反応することを防止する緩衝液又はスカベンジング液を用いることによって積極的に制御することができる。
【0032】
本発明は、基質上のポリマー又は核酸シーケンス合成の領域に近接(又は隣接)する領域どうしの間での化学的クロストークを有利には最小とし、好ましくは防止し、従って、常套の電気化学的に生成する試剤及び既知の電気化学的反応を用いて、基質上の特定の小さな領域に、純粋なポリマー又は核酸シーケンスの独立したアレイを合成することを可能とする。本発明の方法は基質上の特定の部位に物質を配することができるので、本発明の方法を用いて、ポリマーの合成に加えて、複数領域での合成が可能となる。この合成のいくつかの例には、DNA及びオリゴヌクレオチド合成、化学的成分を1つのモノマーへ付加させることを含むモノマーの修飾(decoration)、及び例えば金属をポルフィリンへ付加させることを含む無機合成等が含まれる。
【0033】
本発明の別の実施態様は、小さなミクロンサイズの電極、例えば直径が1〜100ミクロンである電極であって、多くのミクロンで隔てられている電極のアレイ(配列)を想定している。しかしながら、必要であれば、わずかサブミクロン(ミクロン以下)の距離によって分離された電極が使用されることもまた想定されている。このアレイは、本発明の方法に従って、基質上の小さな領域において同時に合成される分離した純粋なポリマーまたは核酸の配列を大量に与える。このことは、本発明の方法を容易に自動化する。分離した種々のアレイの純粋なポリマーおよび核酸の配列を生成する能力を保持するとともに本発明が容易に自動化され得ることは、本発明を、急速に発展するコンビナトリアル化学と機能ゲノム(functional genomics)の領域において使用するのに理想的なものとする。
【0034】
本質的に、考えられ得る如何なる基質も本発明に従って用いてよい。基質は、生物的なもの、非生物的なもの、有機物、無機物、あるいはこれらのうちのいくつかの組合せであってよく、粒子、ストランド、沈殿物、ゲル、シート、管状物、球、容器(コンテナ)、毛細管、パッド、スライス、フィルム、プレート、スライド等として存在する。基質は適当な形状を有していてよく、円盤、方形、球、環等のような形状を有していてよい。基質は好ましくは平坦であるが、別の種々の構造形態を採用してもよい。例えば、基質は一段高くした領域、あるいは窪んだ領域を含んでいてもよく、その領域で合成を行ってもよい。基質およびその表面は、好ましくは硬い支持体を形成し、その上において本明細書で説明した反応が遂行される。基質および各々の個々のポリマーもしくは低分子の合成のための領域は、どのような寸法および形状であってもよい。さらに、基質は異なる領域で異なる物質を含んでいてもよい。
【0035】
想定され得る物質は基質として好ましく用いられ、そして電極を保持し、電極を電気的に絶縁することができるものであるが、そのような物質には、窒化ケイ素、酸化ケイ素、ケイ素、ダイヤモンド、黄銅鉱、ウルツ鉱、閃亜鉛鉱、岩塩、III−V族の化合物およびII−IV族の化合物のようなドープされていない半導体;コバルトガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコールガラス、ホウ珪酸塩ガラスおよび石英のようなガラス;アルミナ、磁器、ジルコン、コーディエライト、チタン酸塩、酸化金属、クレイおよびゼオライトのようなセラミック;パラリエン(paralyene)、高密度ポリエチレン、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアシラート、ポリシアノアクリラート、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミド、ポリシロキサン、ポリシリコーン、ポリニトリル、ポリ塩化ビニル、アルキドポリマー、セルロース、エポキシポリマー、メラミン、ウレタン、前記いずれかのポリマーと他のポリマーとのコポリマーおよび混合物、ならびに前記いずれかのポリマーとガラスもしくはセラミックとの混合物のようなポリマー;ならびにアペイゾン(apeizon)のようなワックスが含まれる。他の基質物質は、この開示から当業者には直ちに明らかであろう。
【0036】
本発明の基質は、少なくとも1つの電極、すなわち実質的に電気的に絶縁性である領域で囲まれた基質の導電領域に近接(または隣接)している。一もしくは複数の電極は、基質に「近接」していることによって、基質に配置され得る、すなわち、基質の中にもしくは基質の上に固定され、基質の隣に、基質の下に、あるいは基質の上に存在し得るが、電極は、電極で電気化学的に生成された試剤がモノマーおよび/または分子の化学的官能基の所定の脱保護を成し遂げることができるように、基質に十分に近接している必要がある。
【0037】
少なくとも1つの電極に近接していることに加え、基質はその表面に少なくとも1つの分子、好ましくは数個の分子を有し、分子は、電気化学的に除去し得る保護基によって保護されている化学的官能基を少なくとも1つ有する。保護されている化学的官能基を有するこれらの分子はまた、電極に近接している必要がある。この点に関して、基質の表面にある分子は、電極で生成された電気化学的試剤が、近接する分子にある少なくとも1つの保護された官能基から保護基を取り除くことができるように、電極に十分に近接している必要がある。
【0038】
基質の表面に付着している保護された化学的官能基を与える分子は一般に、分子、リンカー分子(linker molecule)、および予形成分子(pre-formed molecules)から選択される。基質の表面に付着している分子には、好ましくは、モノマー、ヌクレオチド、およびリンカー分子が含まれる。これらの分子のすべては、一般に、共有結合またはイオン相互作用(またはイオン結合)によって基質に結合する。あるいは、これらの分子のすべては、共有結合またはイオン相互作用によってまた、基質の上を覆っている層、例えば浸透性(または透水性)の薄膜層に結合していてもよい。この層は、種々の方法で基質表面に付着していてよく、その方法には共有結合、イオン相互作用、分散相互作用(dispersive interaction)、および親水または疎水相互作用(または疎水結合)が含まれる。さらに別の付着の態様において、モノマーまたは予形成分子が、基質または基質を覆っている層のいずれかに結合しているリンカー分子に結合していてもよい。
【0039】
ここで用いられるモノマー、リンカー分子および予形成分子は、電気化学的に生成された試剤によって取り除くことができる保護基によって保護された化学的官能基を好ましくは備えている。電気化学的に生成された試剤によって脱保護され得る化学的官能基が基質表面上の分子に存在していない場合、その後に続く分子もしくは予形成分子の結合は、この分子において存在し得ない。好ましくは保護基は、リンカー分子、モノマーまたは予形成分子の遠位端もしくは末端に、基質に向かい合って存在する。つまり、リンカー分子は好ましくは、アミノ基またはカルボン酸基のような化学的官能基で終わっており、電気化学的に取り除くことができる保護基を与える。モノマー、リンカー分子および予形成分子において与えられる化学的官能基には、化学的反応性を有するいずれの官能性も含まれる。通常、化学的官能基は、対応する保護基と会合しており、合成される生成物に基づいて選択され、あるいは利用される。本発明の分子は、脱保護された化学的官能基に共有結合あるいはイオン相互作用によって結合する。
【0040】
想定される種々のポリマーを合成するために本発明に従って用いられるモノマーには、結合してポリマーを形成し得る低分子のセットのすべての構成成分が含まれる。このセットには、通常のL−アミノ酸のセット、D−アミノ酸のセット、合成アミノ酸のセット、ヌクレオチドのセット、ならびにペントースおよびヘキソースのセットが含まれるが、これらに限定されるものではない。ここで用いられる限りにおいて、モノマーには、ポリマーを合成するための基礎原料セットのいずれの構成成分も含まれる。例えば、L−アミノ酸の三量体は約8000のモノマーの基礎原料セットをポリペプチドを合成するために形成する。モノマーの種々の基礎原料セットを、本発明の方法を用いるポリマーの合成において逐次連続する工程で用いることができる。本発明の合成方法に従って用いられ得るモノマーの数は広い範囲で変化することができ、例えば、2から数千のモノマーを用いることができるが、より好ましい実施態様において、モノマーの数は約4〜約200の範囲内にあり、さらに好ましくはモノマーの数は4〜20の範囲である。
【0041】
本発明に従って用いられ得る追加のモノマーにはまた、修飾され得るモノマー、すなわち、それにプロスタグランジン、ベンゾジアザピン(benzodiazapine)、トロンボキサンおよびロイコトリエンのような化学的成分(または部分)が加えられ得るモノマーのセットが含まれる。本発明は、ポリマー合成に有用なモノマーと修飾され得るモノマーとの組合せをも含んでいる。上述したモノマーは、たいていの化学品供給会社から、保護されていない形態で入手してもよく、全てではないがたいていのものは保護された形態で、カルフォルニア州のトランスにあるBachem社から入手できる。核酸の合成のためのホスホラミダイト(phosphoramidite)モノマーは、カルフォルニア州のフォスターシティーにあるApplied Biosystems社から入手できる。
【0042】
本発明の好ましい実施態様において、モノマーは、そのアミノ末端もしくはカルボキシ末端に、電気化学的に生成された試剤によって取り除くことができる保護基を含むアミノ酸である。モノマーがα−アミノ酸でありアミド結合によって結合しているポリマーはペプチドであり、またポリペプチドとして知られている。本発明に関連して、アミノ酸がL系光学異性体もしくはD系光学異性体またはその2つの混合物であってもよいことは評価に値するものである。ペプチドは少なくとも2つのアミノ酸モノマーの長さを有し、多くの場合20以上のアミノ酸モノマーの長さを有する。
【0043】
さらに、本質的に予形成分子はいずれも基質、基質を覆う層、モノマーまたはリンカー分子に結合し得る。予形成分子には、例えば、特にレセプター、酵素、イオンチャンネルおよび抗体を含むタンパク質、核酸、多糖類、ポルフィリン等が含まれる。予形成分子は一般に、本発明の基質以外の場所で形成される。好ましい態様において、予形成分子は、分子、モノマーもしくは別の予形成分子にある脱保護された官能基に結合している。この点に関して、既に基質に付着している予形成分子は少なくとも1つの保護された化学的官能基をさらに有してもよく、その官能基にはモノマーまたは予形成分子が、その化学的官能基が脱保護された後に結合してもよい。
【0044】
保護基は、モノマー、リンカー分子、または予形成分子に結合してモノマー、リンカー分子、または予形成分子に存在する反応性を有する官能性を保護するものである。保護基は、電気化学的に生成された試剤のような活性化物質(または賦活剤)に選択的に曝して除去してもよい。本発明に従って用いられる保護基には、好ましくは全ての酸および塩基反応性の活性な保護基が含まれる。例えば、ペプチドアミン基は、好ましくは、ともに酸反応性の保護基であるt−ブチルオキシカルボニル(BOC)またはベンジルオキシカルボニル(CBZ)、あるいは塩基反応性の保護基である9−フルオレニルメトキシカルボニル(FMOC)で保護される。さらに、ホスホラミダイトにある水酸基は、酸反応性の保護基であるジメトキシトリチル(DMT)で保護してもよい。ヌクレオシド、特にホスホラミダイトの環外アミン基は、好ましくは、ともに塩基反応性の保護基である、アデノシンおよびグアノシンベースのジメチルホルムアミジン、ならびにシチジンベースのイソブチリルで保護される。この保護方法は、高速オリゴヌクレオチド脱保護(fast oligonucleotide deprotection;FOD)として知られている。この方法で保護されたホスホラミダイトはFODホスホラミダイトとして知られている。
【0045】
本発明に従って使用される別の保護基には、アミノ部分(または成分)を保護するための酸反応性の基、すなわちtert−ブチルオキシカルボニル、tert−アミルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、1−メチルシクロブチルオキシカルボニル、2−(p−ビフェニル)プロピル(2)オキシカルボニル、2−(p−フェニルアゾフェニリル)プロピル(2)オキシカルボニル、α,α−ジメチル−3,5−ジメチルオキシベンジルオキシ−カルボニル、2−フェニルプロピル(2)オキシカルボニル、4−メチルオキシベンジルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、フルフリルオキシカルボニル、トリフェニルメチル(トリチル)、p−トルエンスルフェニルアミノカルボニル、ジメチルホスフィノチオイル、ジフェニルホスフィノチオイル、2−ベンゾイル−1−メチルビニル、o−ニトロフェニルスルフェニルおよび1−ナフチリデン;アミノ部分を保護するための塩基反応性の基として、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル、メチルスルホニルエチルオキシカルボニルおよび5−ベンズイソアゾリルメチレンオキシカルボニル;アミノ部分を保護するための基であって還元されたときに反応性となる基として、ジチアスクシノイル(dithiasuccinoyl)、p−トルエンスルホニル、およびピペリジノ−オキシカルボニル;アミノ部分を保護するための基であって酸化されたときに反応性となる基として、(エチルチオ)カルボニル;アミノ部分を保護するための基であって種々の試薬(基の後に適当な試薬を括弧内に記載する)に対して反応性である基として、フタロイル(ヒドラジン)、トリフルオロアセチル(ピペリジン)、およびクロロアセチル(2−アミノチオフェノール);カルボン酸を保護するための酸反応性の基として、tert−ブチルエステル;水酸基を保護するための酸反応性の基として、ジメチルトリチル;ならびにホスホトリエステル基を保護するための塩基反応性の基としてシアノエチルが含まれる。
【0046】
上述のとおり、反応していない脱保護された化学的官能基はいずれも、その分子に更に結合することを防止するために、合成反応のいずれの時点においてもキャッピングすることができる。キャッピング基(capping group)は脱保護された官能基を、例えば未反応のアミノ官能基と結合させてアミドを形成することによって「キャッピング」する。本発明で使用するのに適したキャッピング剤には、無水酢酸、n−アセチルイミジゾール、イソプロペニルホルマート、フルオレサミン、3−ニトロフタル酸無水物および3−スルホプロピオン酸無水物が含まれる。これらの中では、無水酢酸およびn−アセチルイミジゾールが好ましい。
【0047】
本発明によれば、基質の表面には、リンカー分子の層が設けられることが好ましい。リンカー分子によって、基質または基質に重なる層への、モノマーまたは予形成分子の間接的付着が可能になる。リンカー分子は、層物質として例えば制御多孔性ガラス(CPG)を使用した、ケイ素−炭素結合を介して、重なり層に付着していることが好ましい。リンカー分子は、合成ポリマーのターゲット認識を促進をもする。さらに、リンカー分子は、それの親水性/疎水性に基づいて選択されることが好ましく、レセプタへの合成ポリマーの提供を改良する。例えば、親水性レセプタの場合に、親水性リンカー分子が好ましく、レセプターが合成ポリマーにより密接に接近することが可能になる。
【0048】
リンカー分子は、完成基質上のポリマーが基質にさらされた結合体と自由に相互作用するように充分な長さを有することが好ましい。使用した場合に、リンカー分子は、6〜50原子長さを有することが好ましく、結合体への官能基の充分な露出を提供する。本発明にしたがって使用することが好都合であってよいリンカー分子は、例えば、アリールアセチレン、2〜10のモノマー単位を有するエチレングリコールオリゴマー、ジアミン、ジアシッド、アミノ酸およびこれらの組み合わせを包含する。他のリンカー分子は、本発明の異なった態様において使用してよく、本願の開示を参照して当業者によって認識できる。
【0049】
他の好ましい態様によれば、リンカー分子は、中間位置で開裂可能な基を備えていてよく、該基は、電気化学的に生成した試剤で開裂できる。この基は、保護基を除去するのに使用される試剤とは異なった試剤で開裂されることが好ましい。これは、電気化学的生成試剤による合成の完了に続く種々の合成ポリマーまたは核酸シークエンスの取出を可能にする。特に、エキソ環状活性エステルと酸反応性の4,4’−ジメトキシトリチル分子の誘導体を本発明にしたがって使用できる。これらリンカー分子は、Perseptive Biosystems(Framingham,マサチューセッツ)から得ることができる。より好ましくは、N−スクシンイミジル−4−[ビス−(4−メトキシフェニル)−クロロメチル]−ベンゾエートが、DNA合成中の開裂可能なリンカー分子として使用できる。この分子の合成および使用は、A Versatile Acid-Labile Linker for Modification of Synthetic Biomolecules, by Brian D. Gildea, James M. Coull およびHubert Koester, Tetrahedron Letters,第31巻,第49号,7095〜7098頁(1990)に記載されている。あるいは、アレイ全体にわたって同時に、開裂の他の手順、例えば、化学的試剤、光または熱を使用することができる。
【0050】
開裂可能なリンカー基を使用することによって、合成分子、例えば、ポリマーまたは核酸シークエンスを、電極アレイから所望の時に、解離または分離することができる。この解離によって、例えば、合成ポリマーまたは核酸シークエンスを他の電極アレイまたは第2基質に移動することが可能になる。第2基質は、バクテリアを含有することができ、バクテリアを殺すときに元の電極アレイ上に形成された分子の有効性を分析するのに役立つ。あるいは、第2基質は、元の電極アレイ上に形成された物質を純粋化するために使用することができる。明らかに、当業者は、元の電極上に合成された分子を第2基質に移動する幾つかの使用を考えることができる。
【0051】
本発明の分子、即ち、モノマー、リンカー分子および予形成分子は、基質に直接に結合でき、基質に重なる分離物質の層または膜に結合できる。分子が電気化学的に生成した試剤による改質のために結合できるように、基質に重なる層または膜を形成できる物質は、制御多孔性ガラス(CPG);一般的ポリマー、例えば、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアシレート、ポリシアノアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリシロキサン、ポリシリコーン、ポリニトリル、ポリエレクトロライト、ハイドロゲル、エポキシポリマー、メラミン、ウレタン、ならびにこれらおよび他のポリマーのコポリマーおよび混合物;生物学的誘導ポリマー、例えば、ポリサッカライド、polyhyaluric acid、セルロースおよびチトン(chitons);セラミック、例えば、アルミナ、金属酸化物、クレイ、およびゼオライト;界面活性剤;チオール;自己組み立て単層;多孔質カーボン;フレリン(fullerine)物質を包含する。膜は、スピン被覆、浸漬被覆または手動適用または他の許容できる形態の被覆によって、基質上に被覆することができる。
【0052】
電極で電気化学的に発生できる試剤は、2つの種類に分類できる。酸化剤および還元剤である。本発明に従って使用できるミセル状試剤もある。電気化学的に生成できる酸化剤は、ヨウ素、アイオデート、過ヨウ素酸、過酸化水素、ハイポクロライト、メタバナデート、ブロメート、ジクロメート、セリウム(IV)およびパーマンガネートを包含する。電気化学的に生成できる還元剤は、クロム(III)、フェロシアナイド、チオール、チオスルフェート、チタン(III)、ヒ素(III)、鉄(II)を包含する。他の試剤は、臭素、塩素、プロトンおよびヒドロキシルイオンを包含する。前記試剤の中で、プロトン、ヒドロキシルイオン、ヨウ素、臭素、塩素およびチオールが好ましい。
【0053】
本発明の好ましい態様によれば、緩衝液および/またはスカベンジ液は、それぞれの電極に接触している。本発明にしたがって使用してよい緩衝液および/またはスカベンジ液は、プロトンおよび/またはヒドロキシルイオンに対して緩衝され、またはこれらを掃去するが、バッファされるおよび/または掃去できる他の電気化学的に生成する試剤は明白に考えられる。緩衝液は、アレイにおける1つの電極からアレイにおける他の電極への電気化学的に生成する試剤の拡散による化学的混信を防止するように働き、一方、スカベンジ液は、電気化学的に発生した試剤に結合または反応することによって、これらを見つけだし、中和/失活するように働く。このようにして、電気化学的に発生した試剤の変位の空間的程度は、緩衝液および/またはスカベンジ液の使用によって活動的に制御できる。本発明によれば、緩衝液およびスカベンジ液は、独立的にまたは一体に使用してよい。緩衝液を使用することが好ましい。なぜなら、緩衝液の容量が、スカベンジ液に比較して、より容易に維持されるからである。
【0054】
本発明に従って使用できる緩衝液は、水性物または部分的な水性物において使用される全ての電解質塩を包含する。本発明に従って使用することが好ましい緩衝液は、アセテートバッファ、これは典型的にはほぼpH5に緩衝する;ボレートバッファ、これは典型的にはほぼpH8に緩衝する;カーボネートバッファ、これは典型的にはほぼpH9に緩衝する;シトレートバッファ、これは典型的にはほぼpH6に緩衝する;グリシンバッファ、これは典型的にはほぼpH3に緩衝する;HEPESバッファ、これは典型的にはほぼpH7に緩衝する;MOPSバッファ、これは典型的にはほぼpH7に緩衝する;ホスフェートバッファ、これは典型的にはほぼpH7に緩衝する;TRISバッファ、これは典型的にはほぼpH8に緩衝する;溶液中の0.1MのKI、これは平衡反応I2+I-=I3-によりヨウ素を緩衝し、この反応の平衡係数はほぼ10-2である、を包含する。
【0055】
代替的に、または緩衝液と組み合わせて、非水性媒体においてプロトンスカベンジャーとして機能するスルホン酸またはヒドロキシルイオンスカベンジャーとして機能する第3級アミンのような種を含有するスカベンジ液を使用してよい。試剤/種が掃去される速度は、生じる反応の本質的速度およびスカベンジャーの濃度の両方に依存する。例えば、溶媒は良好なスカベンジャーを形成する。なぜなら、それらは頻繁に高濃度で存在するからである。ほとんどの分子は、非選択的に掃去するが、一方、幾つかの分子、例えば、スーパーオキシドジスムターゼおよびホースラディシュパーオキシダーゼは選択的に掃去する。
【0056】
本発明の中で特に興味のあるものは、ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシド、酸素ラジカルおよび水素パーオキシドを包含する、電極で水の加水分解によって共通に生成した異なった反応性種を掃去できるスカベンジャー分子である。ヒドロキシルラジカルは、知られている最も反応性の分子の1つである。その反応速度は、拡散制御であり、即ち、出会う第1反応体/種と反応する。ヒドロキシルラジカルが水の加水分解によって生成された場合に、それらが通常に出会う第1分子は水分子である。この理由から、水は、ヒドロキシルラジカルの迅速で効果的なスカベンジャーである。スーパーオキシドもかなり反応性の種であるが、幾つかの非水性溶媒または部分的水性溶媒において安定であることがある。水性媒体において、スーパーオキシドは、水を包含する、ほとんどの分子と迅速に反応する。多くの溶媒において、これらは、スーパーオキシダーゼジスムターゼで選択的に掃去できる。
【0057】
酸素ラジカルは、フリーラジカルとして存在する酸素種の族である。酸素ラジカルは、種々の分子、例えば、水またはアスコルビン酸によって掃去できる。水素パーオキシドは、特にコンビナトリアル合成において有用であるかなり穏やかな反応性種である。水素パーオキシドは、水ならびに多くの種類の酸化剤および還元剤によって掃去できる。水素パーオキシドが掃去される速度は、使用されるスカベンジャー分子のレドックスポテンシャルに依存する。水素パーオキシドは、ホースラディシュパーオキシダーゼによって選択的に掃去できる。掃去できる他の電気化学的生成種はヨウ素である。ヨウ素は、コンビナトリアル合成に有用でもある穏やかな酸化剤である。ヨウ素は、ヒドロキシルイオンとの反応によって掃去でき、ヨウ素イオンおよびハイポアイオダイトを形成できる。ヨウ素が掃去される速度は、pH依存性であり、液のpHが高いほど、より早くヨウ素を掃去する。前記スカベンジャー分子の全てが、本発明にしたがって使用できる。他のスカベンジャー分子が、本明細書の開示を参照して、当業者に容易に明白である。
【0058】
本発明に従えば、緩衝液は、少なくとも0.01mMの濃度で使用することが好ましい。緩衝液は1〜100mMの範囲の濃度で存在することがより好ましく、緩衝液は10〜100mMの範囲の濃度で存在することが特に好ましい。緩衝液の濃度は約30mMであることが最も好ましい。約0.1モーラーの緩衝液濃度によって、pHをバルク値に緩衝する前にプロトンまたはヒドロキシルイオンが約100オングストローム移動することが可能になる。低い緩衝液濃度、例えば、0.00001モーラーは数μのイオン移動を可能にし、これは、アレイにおける電極間の距離に依存した許容可能な距離であり得る。本発明に従えば、溶液におけるスカベンジャー分子の濃度は、使用する特定のスカベンジャー分子に依存する。なぜなら、異なったスカベンジャー分子が異なった速度で反応するからである。スカベンジャーがより反応性であればあるほど、必要なスカベンジ液の濃度が低くなる。当業者は、選択した特定のスカベンジャーに応じて、スカベンジ液のだいたいの濃度を決めることができる。
【0059】
本発明の基質に近接する少なくとも1つの電極は、電極のアレイであることが好ましい。いずれかの寸法の電極のアレイを使用してよく、アレイは数百万までの電極を有していてよい。アレイにおける複数の電極が電源によって同時にアドレス可能であり、かつ制御可能である。より好ましくは、それぞれの電極は、それ自体の電源によって個々にアドレス可能でありかつ制御可能である。これにより、アレイにおける電極を選択するように異なったポテンシャルの選択的適用が可能になる。この点に関して、電極は「スイッチ可能」であると呼ばれる。
【0060】
アレイは、特定の形状である必要はない。すなわち、電極は、四角形のマトリックス形状である必要はない。使用できる電極アレイ幾何は、四角形;長方形;直線で囲まれた形状および六角形グリッドアレイ(いずれかの種類の多角形境界を有する);同心円状環状グリッド幾何(ここで、電極が共通中心のまわりに同心円を形成し、これは任意の多角形によって境界付けされてよい。);同様のまたは異なった直径を有する電極を有する断片的グリッドアレイを包含する。本発明にしたがって、交錯電極を使用してよい。しかし、電極のアレイは、10x10マトリックスにおいて、少なくとも100個の電極を有することが好ましい。10x10マトリックスの電極を有する本発明にしたがって使用してよい基質の1つの態様は、図6に示されている。基質の表面での電極の側面図も示されている。
【0061】
電極のアレイが、例えば少なくとも20x20マトリックスにおいて、少なくとも400電極を有することが好ましい。アレイが、例えば少なくとも64x32マトリックスにおいて少なくとも2048電極を有することがさらに好ましく、アレイが、例えば少なくとも640x320アレイにおいて少なくとも204800電極を有することが特に好ましい。本発明にしたがって使用してよい他の寸法のアレイは、本明細書の開示を参照して、当業者に容易に明白である。
【0062】
約1ミクロン未満〜100ミクロン(0.1ミリメートル)の範囲の直径を有する電極を有する電極アレイが、本発明に従って好都合に使用できる。さらに、電極直径に関係なく、電極の中心から中心まで約10〜1000ミクロンの距離を有する電極アレイが、本発明に従って好都合に使用できる。50〜100ミクロンの距離が2つの隣接電極の中心間に存在することがさらに好ましい。
【0063】
図6の側面図に示すように、電極は、基質の表面と同一平面にあってよい。しかし、本発明の好ましい態様に従えば、電極は、平坦ディスクではなく、半球形状である。半球形状の電極のプロフィールが、半球のように見えるアークタンジェント機能によって示されている。当業者は、この形状の電極を熟知している。半球形状の電極は、電気ポテンシャルが電極の半径方向を横切って一定になることを助ける。すなわち、半球形状の電極は、電気ポテンシャルが電極の中央においてよりも電極の縁の付近において大きくなることを助け、電気化学的試剤の生成が電極の全ての部分において同様の速度で生じることが確実になる。
【0064】
本発明にしたがって使用してよい電極は、限定されないが、貴金属、例えば、イリジウムおよび/またはプラチナ、ならびに他の金属、例えば、パラジウム、金、銀、銅、水銀、ニッケル、亜鉛、チタン、タングステン、アルミニウム、および種々の金属の合金、ならびに他の伝導性物質、例えば、カーボン、例示すれば、ガラス状カーボン、網状ガラス質カーボン、ベーサルプレーングラファイト、エッジプレーングラファイト、およびグラファイトからなっていてよい。ドープされた酸化物、例えば、インジウム錫酸化物、および半導体、例えば、ケイ素酸化物およびガリウムヒ素をも使用してよい。加えて、電極は、導電性ポリマー、金属ドープポリマー、導電性セラミックおよび導電性クレイからなっていてもよい。貴金属の中で、プラチナおよびパラジウムが特に好ましい。なぜなら、水素を吸収する能力、すなわち、本発明の方法において使用する前に水素を予め充填できる能力を有する好都合な性質を有するからである。
【0065】
本発明に従って使用する電極は、既知の手順で電源に接続してよい。電極を電源に接続する好ましい手順は、CMOSスイッチング回路、ラジオおよびマイクロ波周波数アドレッサブルスイッチ、光アドレッサブルスイッチ、および電極から半導体チップの周囲上の結合パッドへの直接接続を包含する。
CMOSスイッチング回路は、CMOSトランジスタスイッチへのそれぞれの電極の接続を包含する。スイッチは、電子アドレスシグナルを共通ブスへ、それぞれの電極に伴ったSRAM(スタティクランダムアクセスメモリ)回路に送ることによってアクセスされる。スイッチがオンの状態にある場合に、電極は電源に接続される。これは、操作の好ましいモードである。
【0066】
ラジオおよびマイクロ波周波数アドレッサブルスイッチは、RFまたはマイクロ波信号によってスイッチングされる電極を包含する。これによって、スイッチングロジックを使用してあるいはこれを使用することなくの両方で、スイッチを動かすことが可能になる。スイッチは、特定周波数またはモジュール周波数を受け、スイッチングロジック無くスイッチするように切り替えることができる。あるいは、スイッチは両方の方法を使用できる。
【0067】
光アドレッサブルスイッチは、光によってスイッチできる。この方法において、電極は、スイッチングロジックのある状態でおよび無い状態でスイッチングできる。光信号は、空間的に局在化しており、スイッチングロジック無くスイッチングを行う。これは、例えば、電極アレイ上でレーザービームを走査することによって行える。電極は、レーザーがそれを照らすそれぞれの時にスイッチングされる。あるいは、全体のアレイが充分に照らされ、光信号が一時的にモジュール化され、コード信号を生じる。しかし、スイッチングロジックが充分な照らしのために必要である。
【0068】
間接的手順で光アドレッサブルスイッチングを行うこともできる。この方法において、電極は半導体物質から形成される。次いで、半導体電極を閾値電圧よりも下にバイアスする。充分に低いバイアスにおいて、電気化学は生じない。なぜなら、電子がバンドギャップに打ち勝つのに充分なエネルギーを有しないからである。オンの状態にある電極は、他の方法によって、すでにスイッチングされている。電極が照らされる場合に、電子は、バンドギャップに打ち勝って電気化学が生じるのに充分な光からのエネルギーを得る。
【0069】
このようにして、電極のアレイは、平衡状態にされ、電極が照らされるときはいつでも電気化学を行うことができる。この方法によって、全体のアレイが充分に照らされるかまたはそれぞれの電極が別個に照らされる。この技術は、早いスイッチングエレクトロニクスの必要なく、電気化学の非常に迅速なパルスのために有用である。電極から半導体チップの周囲上の結合パッドへの直接接続は、他の可能性であるが、この接続方法はアレイの密度を限定する。
【0070】
所望の種類の化学的種の電気化学的発生は、それぞれの電極の電気ポテンシャルが或る最小値を有することを必要とする。すなわち、或る最小ポテンシャルが必要であり、これは、電圧または電流を特定することによって達成できる。このようにして、それぞれの電極で必要な最小ポテンシャルを達成する2つの方法がある。電圧が必要値に特定されるかまたは電流が必要な電圧を収容するのに充分になるように決められる。必要な最小ポテンシャル値は、発生するために選択される化学的試剤の種類によって決められる。当業者は、所望な化学的種に基づいて使用される必要な電圧および/または電流を容易に決めることができる。使用できるポテンシャルの最大値は、所望化学的種によっても決められる。所望の化学的種に伴ったポテンシャルの最大値を超えた場合に、結果的に望ましくない化学的種が製造される。
【0071】
本発明にしたがって製造される基質は、例えば、生物学的活性用の多数のポリマーのスクリーニングを包含する種々の用途を有する。例えば医薬品発見の分野において生物学的活性のためにスクリーニングするため、基質は、1つまたはそれ以上のレセプタ、例えば、抗体、全体の細胞、小胞上のレセプタ、脂質、または種々の他のレセプタのいずれか1つに暴露される。レセプタは、例えば、電気化学的マーカー、電気化学イルミネセントマーカー、化学イルミネセントマーカー、蛍光マーカー、放射能マーカー、またはレセプタと反応性のラベルされた抗体でラベルされることが好ましい。基質上のマーカーの位置は、例えば、電気化学的、蛍光またはオートラジオグラフ法によって検出される。結合が観測される位置で物質のシークエンスの知識によって、どのシークエンスがレセプタと結合しているかを迅速に求めることができ、したがって、この方法が多数のペプチドをスクリーニングするために使用できる。
【0072】
本発明は、治療物質の開発のためにも使用でき、即ち、薬品の開発およびバイオマテリアルの研究のために、ならびにバイオメディカル研究、分析的化学およびバイオプロセスモニタリングのためにも使用できる。本発明の用途の例は、特定のレセプタ用の種々のリガンドが基質に配置でき、例えば、血液の血清がスクリーニングされる診断を包含する。用途の他の例は、基質上での選択された位置での単一のまたは複数の予形成レセプタ分子の配置を包含し、薬品スクリーニングは、どの分子がどの予形成レセプタ分子に結合しているかを決めるために基質を薬品候補分子にさらすことによって行える。
【0073】
さらに別の用途は、例えば、ハイブリダイゼーションによるシークエンス法によってゲノムDNAを配列決定することを包含する。他の用途は、電極アレイチップ上の異なった空間的位置で異なった量の分子またはリガンドを合成およびディスプレーし、次いで、チップ上で直接に希釈シリーズ実験を行うことを包含する。希釈シリーズ実験は、例えばリガンドおよびレセプタの特定または非特定結合の間の区別を行う。非生物的用途もあり、例えば、半導体デバイスにおいて使用するためにドーピングのレベルを種々にした有機物質の製造を包含する。非生物学的用途の他の例は、腐食防止、防汚および塗料を包含する。
【0074】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、実施例は、本発明の単なる例示である。
【実施例】
【0075】
実施例1:Leuエンケファリンエピトープのコンビナトリアル合成
背景
エンドルフィンは、脳中でアヘン剤受容体に結合する、例えば約20〜40のアミノ酸を含む天然の小ペプチドである。エンドルフィンの活性の大部分は、ペプチドの最後の5つのアミノ酸によるものであることが知られている。これらの末端ペンタペプチドが、いわゆるエンケファリンである。
Leu−エンケファリンエピトープを検出するための免疫蛍光法は、標準検出プロトコルに従う。例えば、F.M.Ausubel et.al., Short Protocols in Molecular Biology, 第3版、Unit 14,14-23ff頁(1995)参照。このアセイは、第1抗体、例えば3-E7単クローン抗体、および第1抗体の源種に特異的な第2抗体蛍光色素複合体、例えばヒツジ抗マウス蛍光色素複合体を必要とする。3−E7抗体は、Leu−エンケファリンに結合するβ−エンドルフィンに対するマウス単クローン抗体である。この技術のための両方の抗体は、Boehringer, Mannheim Biochemicals Indianapolis, Indianaから得られる。
さらに、3-E7単クローン抗体に関する情報は、Meo,Tommaso et al., “Monoclonal antibody to the message sequence Try-Gly-Gly-Phe of opioid peptides exhibits the specificity requirements of mammalian opioid receptors", Proc. Natl. Acad. Sci USA 80, pps.4084-4088(1983)参照。
【0076】
コンビナトリアル合成で使用するための電極アレイの作成
図6に示されるように、10×10白金電極アレイを使用する。カラム1および10は、対電極として使用される。アレイの活性カラムは、カラム2、3、5、6および7である。カラム4、8および9はこの合成において活性化されていない。
アレイの表面は、半導体製造工程において適した条件下の二酸化ケイ素の蒸着によってアレイに適用される制御多孔性ガラス(CPG)から形成される透過膜層によって変性される。CPGは、イオンを透過できる化学的に不活性な膜を形成する。この膜は、クロロメチルシランによるシラン処理によって官能化される。クロロメチルシラン基は、さらに、10のエチレングリコール部分を有するエチレングリコールリンカー分子によって、10のエチレングリコール部分およびそれぞれの末端の2つのアミノ基を有する分子とシラン処理されたCPG膜を反応することによって変性される。この膜は、アミン基によって官能化されたアレイの表面を覆う層を提供し、アミン基は、シラン部分によってCPGマトリックに付着する。ジアミノエチレングリコール分子は、形成されるエピトープ分子と膜の間のリンカー分子(スペーサー基)として作用する。
【0077】
膜への保護官能基の付加
官能化CPG膜被覆電極アレイを、カップリング剤、例えば限定しないが、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)またはジイソプロピルカルボジイミドを含有するベンジルオキシカルボニル(CBZ)保護L−ロイシンのDMF溶液に、室温で、約2時間曝露した。この曝露によって、エチレングリコールリンカー分子によって膜層に付着したCBZ−保護L−ロイシン部分によって完全に被覆されたアレイ被覆CPG膜層を得る。この部分被覆膜層は、図7に示す。これは、エピトープ分子が構築された分子の床である。
部分被覆膜層を次いで、pH7.4を有する0.1Mリン酸緩衝水溶液によって3回洗浄した。
【0078】
保護基の除去(脱保護)
電気化学的に発生した試剤(プロトン)を使用する保護アミノ酸からCBZ保護基の除去、つまり脱保護は、以下のとおり行う。
図6の電極アレイについて、予め条件を整える工程を行う:カラム2、3、5、6および7を、対電極として作用するカラム1および10に関して負方向にバイアスをかける。このシステムに参照電極はない。電位差は、約3ボルトであり、この電圧を約10秒間印加する。この予め条件を整える工程において、ヒドロキシルイオンが負バイアスを有する電極に形成され、プロトンが正バイアスを有する対電極で形成される。この予め条件を整える工程において、さらにプロトンが負バイアスを有する電極で水素分子に還元される。白金電極は、塊状金属における水素分子のいくらかを吸収し、保持する。
予め条件を整える工程に続いて、バイアスを次いで逆にする。カラム1および10の電極(対電極)をカラム2、3、5、6、および7に関して負方向にバイアスする。電位差は、約2.6ボルトであり、この電圧を、約3秒間印加する。この工程において、予め条件を整える工程の間に白金電極に吸収された水素分子の酸化および水の加水分解から、プロトンが正バイアスを有する電極に形成される。予め条件を整える工程およびこの後の工程の結果として、CBZ保護基は、カラム2、3、5、6および7において電極でロイシンアミノ酸部分から除去される。
これらの2工程の結果、図8に示されるように、これらの部位(カラム2、3、5、6および7)でロイシンに付着したままである脱保護された反応性アミン残基が得られる。
【0079】
カップリングのための膜の調製
CBZ−L−フェニルアラニンを脱保護ロイシン基にカップリングするための反応性アミン部分被覆膜を調製するために、以下の工程を行う:
反応性アミン部分被覆膜を含有する電極アレイを純DMFによって2回洗浄する。電極アレイを次いで、CBZ−L−フェニルアラニンおよびカップリング剤、例えばDCCを含有するDMF溶液に室温で約2時間曝露する。この工程によって、ロイシンおよびフェニルアラニンのCBZ保護ジペプチドによって変性されたカラム2、3、5、6および7の電極を得た。これは図9に示される。
脱保護およびカップリング工程は、次いでカラム3、5、6および7で繰り返す。つまり、電極アレイを、pH7.4を有する0.1Mリン酸緩衝水溶液に再び曝露する。次いで、電極アレイを室温で約2時間、CBZ保護グリシンおよびカップリング剤のDMF溶液に曝露する。この結果、図10に示されるように、CBZ−保護トリペプチドグリシン−フェニルアラニン−ロイシン(G−F−L)によって修飾されたカラム3、5、6および7の電極を得た。
脱保護およびカップリング工程は、次いでカラム5、6および7で繰り返す。つまり、電極アレイを、pH7.4を有する0.1Mリン酸緩衝水溶液に再び曝露し、次いで、電極アレイを室温で約2時間、CBZ−保護グリシンおよびカップリング剤のDMF溶液に曝露する。この結果、CBZ−保護テトラペプチドグリシン−グリシン−フェニルアラニン−ロイシン(G−G−F−L)によって修飾されたカラム5、6および7の電極を得た。
【0080】
脱保護およびカップリング工程は、次いでカラム6および7で繰り返し、電極アレイを、pH7.4を有する0.1Mリン酸緩衝水溶液に再び曝露する。次いで、電極アレイを室温で約2時間、CBZ−保護-L−チロシンおよびカップリング剤のDMF溶液に曝露する。この結果、図11に示されるように、CBZ−保護ペンタペプチドチロシン−グリシン−グリシン−フェニルアラニン−ロイシン(Y−G−G−F−L)によって修飾されたカラム6および7の電極を得た。これは、所望のLeu−エンケファリンエピトープのCBZ保護バージョンである。
次いで、脱保護工程をカラム2、3、5および6で、予め条件を整える工程なしで繰り返し、コンビナトリアル配列の末端アミノ酸からCBZ保護基を除去した。この製造工程は以下の配列を作成する:
カラム1および10:保護Leu−エンケファリンエピトープによる修飾
(これらが対電極である)
カラム2:脱保護ジペプチドF−Lによる修飾
カラム3:脱保護トリペプチドG−F−Lによる修飾
カラム4、8および9:CBZ−保護ロイシンアミノ酸による修飾
カラム5:脱保護テトラペプチドG−G−F−Lによる修飾
カラム6:脱保護Leu−エンケファリンエピトープによる修飾
カラム7:CBZ−保護Leu−エンケファリンエピトープによる修飾
【0081】
3−E7単クローン抗体アセイ
修飾電極アレイ、つまり、10の修飾カラムを有する電極アレイを、上記のLeu−エンケファリンエピトープ検出技術によって、3−E7単クローン抗体に曝露し、その後、ヒツジ抗マウス蛍光色素複合体に曝露した。次いで、エピフルオレセント顕微鏡を使用して電極アレイを調べた。予想された結果が、図12および13に示される。図12および13に示されるように、活性Leu−エンケファリンエピトープは、カラム6の電極に最も近接している(カラム6は、脱保護Leu−エンケファリンエピトープによって修飾されている唯一のカラムである。)。
注:合成は、対電極(カラム1および10)で進行する。というのは、それぞれの予め条件を整える(脱保護)工程の間に対電極でプロトンが発生するためにである。予め条件を整える工程を最終の脱保護工程では行わないため、最終工程では、プロトンを対電極に発生せず、保護されたLeu−エンケファリンエピトープが対電極に生成され、抗体と蛍光色素複合体の曝露によって反応しない。
【0082】
実施例2:デオキシリボ核酸のコンビナトリアル合成
背景
DNAのコンビナトリアル合成のためのモノマーユニットは、いわゆるホスホラミダイトである。ホスホラミダイトは、ホスホジエステル結合によって1本鎖核酸ポリマーに一緒に結合する。リンは、合成の間シアノエチルエーテル部分によって保護されているので、結合は、ホスホトリエステル結合である。シアノエチル基は、合成末端で塩基によって除去でき、ホスホジエステル結合を与える。ホスホラミダイトは、いわゆる3’および5’末端である2つの末端を有する。1つのホスホラミダイトの3’末端が、他の5’末端とカップリングする。通常3’末端は固体支持体に付着され、5’末端は他のホスホラミダイトによって変性され、合成サイクルを開始する。5’末端は、ジメチルトリチル(DMT)と呼ばれる分子によって保護されうるヒドロキシル基である。DMT基は、酸に不安定な保護基である。
【0083】
DNAポリマーを形成する天然のデオキシリボ核酸は4つある。それらは、アデノシン(A)、チミジン(T)、シトシン(C)およびグアノシン(G)である。DNAは、モノマーを結合するホスホジエステル基が酸性であるので、酸性であると理解されている。ヌクレオシド(A、T、C、G)は、有機塩基である。天然のDNAは、通常1000万〜100億の塩基ユニットの長さである。DNAの15の塩基ユニットの長さ片は以下の例において調製されうる。この長さのDNA片は、オリゴヌクレオチドとして知られている。DNA分子は、少なくともこの長さであり、さもなければDNA分子の間で区別することは非常に困難である。
【0084】
環外アミン塩基(A、C、G)は酸によって汚染されやすいので、ヌクレオシドは保護される。これらの塩基上のこの保護基は塩基に不安定である。ホスホラミダイト上の保護基は3種ある。5’ヒドロキシル基を保護するDMT基、リンを保護するシアノエチルエーテル基、ヌクレオシド塩基上の環外アミンを保護するFOD(高速オリゴヌクレオチド脱保護)基がある。DMT基は、酸に不安定であり、他のものは塩基に不安定である。
DNAは、天然の多くは、有名な二重らせん構造を有する「二重らせん」形態で見られる。このことは、DNAの2つの1本鎖がヌクレオシド塩基の間の相互作用によってともに結合することを意味する。ヌクレオシド塩基Tは、ヌクレオシド塩基Aと相互作用して、A−T結合を形成する。ヌクレオシド塩基Cは、ヌクレオシド塩基Gと相互作用して、C−G結合を形成する。A−TおよびC−G相互作用は、唯一安定な相互作用であり、他の組合せは弱い。A−TまたはC−Gでない結合は生じることがあるが、いわゆるミスマッチである。DNAの2つの相補的な1本鎖がともに生じて、二重らせんを形成する場合、これをハイブリダイゼーションという。二重らせんのDNAの1本鎖がばらばらである場合、二重らせんDNAは変性されているという。DNA二重らせんは、加熱および/または低いイオン強度の水溶液に曝露されたとき、典型的に変性する。
【0085】
特異的なDNA配列が特定部位で合成されたかどうかを決定するために、おそらくその特定部位で合成された鎖と相補的であるDNAプローブ鎖を使用する。プローブ鎖は、正しい配列と正しくない配列の両方で表面上にDNA分子に結合する。しかしながら、溶融温度は、相補的な結合、すなわち、A−T結合およびC−G結合を含むDNA二重らせんよりも、ミスマッチ、すなわちA−TでないおよびC−Gでない結合を含むDNA二重らせんにおいて非常に低い。したがって、加熱によって、正しくないDNA鎖を有する二重らせんを形成するプローブは最初に変性する。ミスマッチしたDNA二重らせんのすべてが変性するレベルに温度を増大させることによって、エピフルオレセント顕微鏡を使用して蛍光色素を観察することによって正しい配列を有するDNA分子だけを検出することが可能である。また、テスト表面を低いイオン強度水溶液で洗浄することも可能である。これは、温度を上昇させることと同じ効果を有し、実験的により好都合である。
【0086】
合成工程
電極アレイを最初にアクリレート/ポリビニルアルコールコポリマー層または膜によって変性する。コポリマー層は、ホスホラミダイトに対して反応性である、数多くのペンダントヒドロキシル基を含有する。次いで、ポリマー修飾電極アレイを、無水のアセトニトリル中で0.05Mの濃度のテトラゾールおよびDMT−保護シチジンホスホラミダイトに室温で30秒間曝露する。FOD保護スキームを使用して、シトシン塩基およびこの実施例で使用される他の塩基を保護する(FOD保護基は、環外アミンの汚染に対して最も良好な保護を提供する。)。次いで、このアレイを、無水のアセトニトリルで洗浄する。表面上の未反応のヒドロキシル基を、無水酢酸および1−メチルイミダゾールの無水のアセトニトリル溶液に30秒間曝露することによってキャップする。この結果、DMT保護されたC塩基ユニットによってあらゆる場所で修飾させた表面が得られる。
【0087】
ポリマーとホスホラミダイトの間の4価亜ホスファイト結合を、電気的に発生したヨウ素によってさらに安定な5価ホスホトリエステル結合に酸化する。ヨウ素は、ヨウ化カリウムのTHF水溶液中のヨウ素イオンの酸化によって電気化学的に発生する。ヨウ素は、ヨウ素の緩衝反応および掃去反応の両方によって形成される局在化部分に限定される。ヨウ素は、ヨウ素イオンによる平衡反応によって緩衝され、トリヨウ素イオンを形成する。トリヨウ素イオンは有用な試剤ではない。さらに、かすかに塩基性であるのでヒドロキシル基については、溶液を緩衝できる。ヨウ素は、ヒドロキシルイオンと反応し、ヨウ素イオンおよび次亜ヨウ素酸塩を形成する。これらの化学物質の両方とも反応性ではない。したがって、ヒドロキシルイオンは、ヨウ素のための掃去剤として作用する。ヨウ素イオンの電気化学的酸化は、プロトンも発生する条件下で行うことができるので、局地的環境を酸性にすることができるが、一方でヨウ素が発生する。ヨウ素が活性であることを要しない酸性領域では掃除しない。結果として、ヨウ素を電気化学的に発生するこれらの電極の上に、唯一のポリマーフイルムに安定なホスホトリエステル結合が存在する。酢酸無水物キャッピング溶液に曝露を繰り返した後、酸化していないホスファイト結合基は偶然的に減少する。
【0088】
電極アレイを次に0.1Mリン酸ナトリウム水溶液に曝露する。最初に選択された領域に、正のポテンシャルを1秒間印加し、最初に選択された領域でDMT保護基をシチジンホスホラミダイトから除去する。アレイを無水の酢酸無水物で洗浄する。反応性アレイを、無水のアセトニトリル中のチミジンホスホラミダイト、Tおよびテトラゾールの0.05M溶液に30秒間曝露する。最初に選択された部位でTヌクレオシドは、Cヌクレオシドと反応し、C−Tダイマーを形成する。残存の未反応Cヌクレオシドをキャップし、ホスファイト結合を、上記のように、ホスホトリエステル結合に還元する。
この方法を第2、第3、第4などに選択された部位に繰り返し、アレイの選択された部位に4つの異なるフォーティンマーオリゴヌクレオチドをコンビナトリアル合成する。アレイを次いで0.1M水酸化アンモニウム水溶液に50℃で1時間曝露する。ホスホトリエステル上のシアノエチル保護基およびFOD保護基を、ヒドロキシルイオンによって除去する。得られるアレイは、ポリマー膜に共有結合したオリゴマー核酸の1本鎖からなる
【0089】
アレイの忠実度の評価
コンビナトリアルアレイの忠実度は、アレイ上に合成されたオリゴヌクレオチドと相補的である4つの異なる蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブを使用して試験する。アレイをpH7.2で0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液中の蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブの第1の100nM溶液に室温で30分間曝露する。アレイを次いでpH7.2の0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液で3回洗浄する。アレイを次いで、エピフルオレセント顕微鏡で調べる。明るいスポットが、オリゴヌクレオチドが存在する第1の領域で見られた。オリゴヌクレオチドプローブおよびその相補体が実際的に交雑することを確かめるために、アレイを70℃で5分間脱イオン水で数回洗浄する。エピフルオレセント顕微鏡によるアレイの再調査は暗い領域を明らかにする。これは、プローブが相補体と交雑することを意味し、その結果は非特異的な吸収のよるものではない。アレイは、pH7.2の0.1Mリン酸ナトリウム緩衝溶液中の、他の蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブの第2の100nM溶液に曝露する。その後、アレイを洗浄し、エピフルオレセント顕微鏡で調べ、次いで非特異的吸収を調べる。明るいスポットが、ヌクレオチドプローブが合成する第2の領域で見られる。この手順を第3および第4のオリゴヌクレオチド配列について繰り返す。コントロール領域は蛍光標識プローブに結合せず、アセイにおいて、いくつかの点で明るくなる。
【0090】
実施例3および比較例4
以下の実施例および比較例のために、結果を記録し、さまざまな条件下で、それぞれの電極アレイチップをデジタル的に捕らえたビデオ顕微鏡写真の形態で再現する。
結果の記録−写真撮影
顕微鏡写真は、Pulnix TM-745集積CCDカメラを備えたOlympus BX60顕微鏡を使用して撮影する。Pentium(登録商標)ベースのパーソナルコンピーターによって作動するData Translation DT3155ビデオ捕獲カードによってカメラは制御され、イメージが撮られている。DT3155カードを制御するソフトウェアは、当業者によって容易に入力することができる。
顕微鏡写真の多くは、ほぼ16の電極をそれぞれのイメージで見ることを可能にする10×対物レンズで撮影されるが、評価の目的によって、関心のある電極活性上の焦点に、イメージはときどきトリミングされる。ときには、4×対物レンズも使用される。2種の顕微鏡写真が撮影される。数枚の写真は、白光光源を使用して撮影される。これらの場合において、電極は反射する。例えば、図14参照。顕微鏡写真の大部分は、エピフルオレセント光源を使用して撮影される。これらの場合、電極は被覆されていない場合、すなわち、蛍光被覆が存在しない場合、電極の金属、例えば白金が存在する蛍光を消滅させるので、電極は顕微鏡写真において暗くみえる。
エピフルオレセント顕微鏡は、チップ表面に鉛直な経路に沿って、チップ表面上の位置から電極アレイチップを照射することを含む。照射ビームは、フィルターを通過して、使用される蛍光色素の励起波長で中央となる狭いバンドを得る。以下の実施例および比較例で使用される蛍光色素は、595nmで最大吸収を有するTexas Redであった。この色素は、ほぼ595nmの光で励起するときに615nmで最大発光を有する蛍光を放射する。Texas Redは、Molecular Probes, Eugene Oregonから得ることができる。Olympus BX60顕微鏡のフィルターは、励起光がCCDカメラの光学検出器に移動することを妨げる。Olympus BX60顕微鏡は、補助技術認識計器モジュールを備え、Texas Red色素を使用してエピフルオレセント顕微鏡法を行う。
白光源およびエピフルオレセント光源を使用して撮影された例となる顕微鏡写真は、図14〜16に示す。図14および15は、非被覆電極アレイチップを示し、図16は、蛍光膜で被覆された電極アレイチップを示す。
【0091】
電極アレイチップの説明および作成
以下の実施例および比較例で作成されるおよび使用されるチップは、100μmの直径白金電極の16(x方向)×64(y方向)を有する長方形デバイスである。これらのアレイにおける電極の総数は1024であった。チップの寸法は、約0.5cm(x方向)×2.3cm(y方向)であり、チップの全表面積は約1cm2であった。それぞれのアレイの電極は、電極の中心から測定して、x方向において約250μm離れ、y方向において約350μm離れていた。
アレイのそれぞれの電極は、SRAMセル(静的ランダムアクセスメモリ)、アレイの電気的回路を独立してアドレスする標準技術認識方法を使用して、独立してアドレスすることができる。SRAMセルは、電極に付随する電気回路において電極の隣に位置される。アレイ中のそれぞれの電極は、電極に付着した4つに分離した切り替えできる電圧線を有し、アレイ中のそれぞれの電極は、1電圧線から他の電圧線に独立して切り替えできる。電圧は、任意であり、外部からの電圧源によって設定された。
【0092】
以下の実施例および比較例で使用されるチップにおいて、パッドを結合するようにハードワイヤ接続されているチップの面にさらに13の電極がある。このことは、16×64アレイにおける電極のように切り替えができ、独立してアドレスできることはないこと意味する。これらの13の電極は、単一電圧線を除いて、電極に付随する回路を有さず、したがって、付随した電極アレイに係合しないで、電極上でプロトコルを作動できる。これらの13電極は、直径が100μmであり、アレイにおいて電極から異なった間隔を取られていた。例えば、図17を参照すると、図17はハードワイヤ接続された電極の三角配向を示し、そこでは、電極は、電極の中心から250μm離れている。
チップは、ハイブリッドデジタル/アナログの超大規模集積回路(VLSI)を使用して3μ工程によって作成された。当業者には、そのような工程は周知であり、本発明において使用するためのチップを容易に調製することができる。Mead, C., Analog VLSI and Neural Systems, Addison-Wesley(1989)参照。使用される回路は、CMOS(相補的な金属/酸化物ケイ素)に基づき、当業者に周知である。
【0093】
チップは、Pentium(登録商標)ベースのパーソナルコンピーターによって作動される少なくとも1つのAdvantech PCL-812デジタルI/Oカード(コンピーター中)によって制御される。これらのデジタルI/OカードはCyber Research, Branford, Connecticutから得られる。チップは、インタフェースハードウェア、すなわちインターファイスカードを通して、I/Oカードに連結されることが好ましい。I/Oカードを作動するためのソフトウェアは、当業者によって容易に書き込める。チップに動力を供給するDC電圧は、PCL-812および/またはHewlett-Packard E3612A DC電源によって供給される。電極のための電圧は、PCL-812カードによっておよび/または外部からのKeithley 2400電源測定ユニットによって供給される。
【0094】
電極アレイチップは、すべてのオンチップ回路用結合パッドが、チップの長いサイドの1末端に位置するように設計される。図18aおよび18b参照。チップは、半分に切られた標準121ピンPGA(ピンガイドアレイ)パッケージに付着し、約2cmのチップが末端から外に延在し、ダイビングボードに類似していた。図18b参照。PGAパッケージは、Spectrum Semiconductor Materials, San Jose, Californiaから得られる。連結ワイヤは、チップ上の結合パッドとPGAパッケージ上の接触(結合パッド)の間を通った。チップ上の結合パッド、連結ワイヤおよびPGAパッケージ上の接触は保護および絶縁のためのエポキシによって被覆された。図18aの切断図参照。空気中に延在するチップのセクションは、電極アレイを含み、エポキシによって被覆されていなかった。チップのこのセクションは、チップの表面に電極上で化学的合成に関係する溶液に浸漬するのに有用である。当業者には、本発明による使用に適したチップを、容易に設置および設計できる。
【0095】
実施例3(本発明)−脱保護および局在化
背景
16×64白金電極を含んでなる上記の電極アレイチップの1つを本実施例で使用した。上記のように、13のハードワイヤ接続した電極を有するチップは、チップの長いサイドの1末端で局在化した。しかしながら、これらのハードワイヤ接続した電極は本発明には含まれない。
電気化学的に発生した試剤を使用する選択的な脱保護および局在化を示すための本実施例で使用されるモデル化学的システムは、トリチルリンカー分子によって電極アレイチップを覆う膜に、Vector Laboratories, Burlingame, Californiaから得られる蛍光標識されたストレプトアビジン分子、周知のさまざまな種のアビジンを付着することを必要とする。使用される被覆膜は、ポリサッカリドベースであった。使用されるトリチルリンカー分子は、酸に不安定であり、つまりプロトンに不安定であり、プロトンの存在下で被覆膜から分離して、付着した蛍光標識ストレプトアビジン分子を運ぶ。さらに好ましくは、使用されるトリチルリンカー分子は、Perseptive Biosystems, Framingham, Massachusettsから得られる環外活性エステルによって修飾された4,4’ジメトキシトリチル分子であった。
【0096】
実験方法
分子の付着するチップの作成
電極に近接して合成および/または脱保護のための電極アレイチップの表面に、分子、特にトリチルリンカー分子が付着できるように、チップをポリサッカリドベースの物質の被覆膜によって被覆および/または修飾した。特に、ポリガラクトシドを、本実施例における被覆膜の物質として使用した。ポリガラクトシド膜は、チップ上に浸漬被覆した。
【0097】
トリチルリンカー分子の付着
電極アレイチップをポリサッカリド膜で被覆した後、トリリンカー分子をチップに付着した。本実施例で使用されたトリチルリンカー分子は、環外活性エステルによって変性された4,4’−ジメトキシトリチル分子であり、特にその分子は、N−スクシンイミジル−4−[ビス−(4−メトキシフェニル)−クロロメチル]−ベンゾエートであった。この分子の合成および使用は、A Versatile Acid-Labile Linker for Modification of Synthetic Biomoleucules, by Brian D. Gildea, James M. Coull and Hubert Koester, Tetrahedron Letters, Volume 31, No.49, pgs 7095-7098(1990)に記載されている。
トリチルリンカー分子は、0.5Mのt-ブチルアンモニウム過塩素酸塩、0.75Mの2,4,6−コリジンおよび0.2Mのトリチルリンカーを含有するDMF溶液へのポリサッカリド膜被覆チップの浸漬によってポリサッカリド膜に付着される。ポリサッカリド膜被覆のチップをDMFリンカー溶液に浸漬することを周囲温度で30分間続けた。しかしながら、当業者に既知のいずれかの方法による浸漬または被覆は許容できる。トリチルリンカー被覆チップを次いでDMFで洗浄し、残留試剤を除去した。次いで、トリチルリンカー被覆チップを、pH8.0に調節した0.1Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液中で洗浄し、乾燥した。
【0098】
蛍光色素標識分子の付着
次いでトリチルリンカー被覆チップを1mLにつき50mgの濃度を有する蛍光色素(Texas Red)標識ストレプトアビジン分子の水溶液に浸漬し、周囲温度で1時間この溶液中でそのままにした。浸漬の間、リンカー分子が誘導化され、蛍光色素標識ストレプトアビジン分子がリンカー分子に付着した。
蛍光色素標識ストレプトアビジン分子を有するチップを、pH8.0に調節した0.1Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液によって洗浄して、残留している試剤を除去して、乾燥した。チップは、本発明の電気化学的工程、すなわち選択的脱保護工程の使用のための準備ができていた。
蛍光標識ストレプトアビジン分子への作成したチップの曝露に続いて、電流および電圧の印加より前であるが、アレイにおける電極は、蛍光によってすべて明るい。というのは、電極に近傍の膜は、トリチルリンカーによって膜に結合する蛍光標識ストレプトアビジン分子を含むからであった。これの顕微鏡写真は、図19aに示す。
【0099】
選択的脱保護
選択的脱保護工程を行うために、作成したチップを、試剤の電気化学的発生を可能にする0.05Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液に浸漬した。約10分間、選択電極に2.8ボルトの電位差を印加し(チャッカーボードパターンにおいて交替する)、アノードにプロトンを電気化学的に発生させた。
プロトンを電気化学的に発生した後、アノードは、暗くなった。というのは、アノードに近接して予め結合したトリチルリンカーは、アノードから解離し、蛍光標識ストレプトアビジン分子が除去されるからである。チェッカーボードパターンにおいてアノードで生じて、カソードで生じない程度は、アレイ中の電極間で生じる化学的クロストークの尺度である。つまり、化学的クロストークが生じる場合、カソードは、暗くなる。というのは、プロトンが移動して、カソードでトリチルリンカーを解離するからである。
つまり、エピフルオレセント顕微鏡法の下において、明るい電極(カソード)は、電極でリンカー分子に結合したTexas Red標識ストレプトアビジン分子の存在を示し、暗い電極(アノード)は、電極でリンカー分子に結合したTexas Red標識ストレプトアビジン分子の欠落を示す。図20および21において、このことは示され、図20は、2秒の集積時間で4×対物レンズを使用して撮影し、図21は、500ミリ秒の集積時間で10×対物レンズを使用して撮影した。
【0100】
結果
チップの乾燥の後に、脱保護工程の終了後に電極アレイの顕微鏡写真を撮影し、図20および21に再現した。これらの図に示されるように、選択的な脱保護は、本発明の方法を使用することによって達成された。これらの図に示されるように、チェッカーボードパターンの繰り返しを行い、本発明の方法がアノードで発生するプロトンの局在化を達成し、カソードへのこれらのプロトンの移動を妨げることを示した。暗い領域(アノード)ははっきりと示され、はっきりと示される明るい領域(カソード)と区別される。顕微鏡写真で示されるはっきりと分けられたチェッカーボードパターンは、脱保護工程の間に化学的クロストークが全くまたはほとんど生じないことを示した。
【0101】
実施例4−比較例
本発明によって作成させた2つの電極アレイチップを使用して、1つのチップを、緩衝溶液を使用する本発明による選択的脱保護工程を使用して処理し、第2チップを、Southern (WO93/22480,1993年11月11日出願)の実施例に使用される電解質を本発明の緩衝溶液に置き換えることだけで変更した選択的脱保護工程を用いて処理した。
電極アレイを使用するよりむしろ、この対比は、電極アレイチップの面に見出される数個のハードワイヤ接続した電極上で行った。図17は、図14と同じ条件で顕微鏡写真を撮影したが、本実施例に使用されるハードワイヤ接続した電極を示した。
【0102】
本発明に従った脱保護
ポリサッカライド膜でチップを被覆し、トリチルリンカー分子を膜に付着する工程を実施例3で使用した上記手順にしたがって行った。
蛍光色素ラベルストレプトアビジン分子の付着および脱保護工程は実施例3にしたがって行ったが、試剤の電気化学的発生を可能にするように20mMのリン酸ナトリウム緩衝水溶液を、実施例3で使用した0.05M溶液に代えて使用した。選択電極間に適用した電圧は2.8Vであり、約30秒間にわたって適用した。
【0103】
実施例3と同様の結果を得た。これら結果を図22〜24に示す。
図22は、T1,T2およびT4としてラベルした、本方法に含まれるハードワイヤ接続された電極を示す。この方法において、T1はカウンター電極、即ちカソードであり、T2およびT4は電流または電圧の適用時にプロトンが発生するアノードである。図22に示す電極には電圧は適用されていない。
図23は、蛍光ラベルストレプトアビジン分子による誘導体化または結合の後の同様の電極である。示すように、電極T2およびT4は明るく、これら電極のそれぞれに隣接するリンカー分子に結合したTexas Redラベルしたストレプトアビジンの存在を示す。
図24は、アノードでのプロトンの電気化学的発生を生じさせる電圧の適用およびこれら位置でトリチルリンカーの結果的な解離の後のアノードT2およびT4の条件を示す。一旦解離が生じると、蛍光ラベルしたストレプトアビジン分子が洗浄除去され、アノードを暗くする。顕著なことには、アノードT2およびT4は、近隣の電極よりも暗く、化学的混信が生じていないことを示している。
図23および図24に示すように、局在化および選択的脱保護が、望むように、アノードT2およびT4において達成される。
【0104】
Southern(WO93/24480)の電極を使用した脱保護
本発明に従った緩衝液を使用することに代えて、Southenの実施例に開示されているように、アセトニトリル溶媒中で1%のトリエチルアンモニウムスルフェート電解質の存在下で脱保護を行うこと以外は、本発明の上記方法と同様に全ての工程を行った。
【0105】
この方法の結果を図25a、25b、26aおよび26bに示す。
示すラベルした電極T1およびT4において、電極T1はカソードを示し、電極T4はアノードを示す。
【0106】
図25a、25b、26aおよび26bは、膜がランダムで不正確な明るい領域および暗い領域を示すことを示している。これら明るい領域および暗い領域は、アノードで発生したプロトンが電極に近接した領域に閉じ込められまたは局在化しないことを示しており、光学顕微鏡の全範囲にわたるトリチルリンカーの顕著な解離を生じさせる。T1は、電極の直に上の蛍光のほとんどを保持しているようであった。これは、T1カソードで発生した塩基によって説明され、該塩基は、T4アノードに近接して発生する酸を中和する。
【0107】
本発明に従って達成される結果を例示する顕微鏡写真およびSouthern(WO93/22480)の電解質を使用して行われた類似の実験から得られた結果を示す顕微鏡写真の比較からわかるように、電気化学的発生試剤の優れた局在化が、本発明の方法を使用して、達成される。本発明の方法を使用して達成される優れた局在化は、隣接電極間の望ましくない化学的混信を、たとえ無くさないとしても、大いに減少させる。対照的に、従来技術の電解質を使用して、電気化学的に発生した試剤の局在化がほとんど達成されない場合には、顕微鏡の全範囲においてランダムで不正確な脱保護という結果になる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】電極1及び4の近くで、電気化学的に生成する試剤(プロトン)を生じさせ、リンカー分子(L)上の反応性官能基(NH2)にさらされることによって行う選択的脱保護化を示している。基質は断面で示されており、5つの電極を有している。
【図2a】電極1及び4の近くでの、保護された化学的官能基(P)を有するモノマー(A)と、(反応性官能基を有する)脱保護化されたリンカー分子との結合の様子を示している。
【図2b】電極1及び4の近くでの、保護された化学的官能基(P)を有するモノマー(A)と、(反応性官能基を有する)脱保護化されたリンカー分子との結合の様子を示している。
【図3】それぞれ、電極2及び4の近くで、モノマー及び分子上のもう1つの組の反応性官能基が、電極2及び4にて生じるプロトンによって選択的に脱保護化される様子を示している。
【図4a】電極2及び4の近くでの、保護された化学的官能基(P)を有するモノマー(B)と、脱保護化された分子及びモノマーとの結合の様子を示している。
【図4b】電極2及び4の近くでの、保護された化学的官能基(P)を有するモノマー(B)と、脱保護化された分子及びモノマーとの結合の様子を示している。
【図5】モノマー(A)と(B)との可能性のあるすべての組合せを有する5種の電極基質を示している。電極1の近くのリンカー分子は、それに結合する、保護されたダイマー、例えば2つのモノマー(A)を含むジペプチドを有している。電極2の近くのリンカー分子は、リンカー分子(L)に結合するモノマー(B)及びそのモノマー(B)に結合する保護されたモノマー(A)を含む保護されたダイマーを有している。電極3の近くのリンカー分子は、制御電極を示しており、近くの電極に電位が印加されないために合成が起こらない場合のリンカー分子を示している。電極4の近くのリンカー分子は、リンカー分子(L)に結合するモノマー(A)及びそのモノマー(A)に結合する保護されたモノマー(B)を含む保護されたダイマーを有している。電極5の近くのリンカー分子は、リンカー分子(L)に結合する2つのモノマー(B)を含む保護されたダイマーを有している。
【図6】表面に、100個の電極を有する10×10の電極アレイを有する基質を示す平面図を示している。基質の表面における典型的な電極の側面図も示している。
【図7】CBZ−保護されたロイシンモノマー(L)が結合している透過性の付着層又は膜を有する基質を示している。層/膜は、基質の表面において電極に重なっている。
【図8】表面において電極に重なる透過性の付着層又は膜を有する基質を示している。この層/膜は、電極2、3、5、6及び7並びに対電極1及び10の近くのモノマーにおいて、例えば、保護基(P=CBZ)が除去された後の反応性アミン官能基を有するロイシンモノマー(L)を有している。
【図9】CBZ保護されたフェニルアラニンモノマー(F)を、電極2、3、5、6及び7の近くのロイシンモノマーの反応性アミン官能基に結合させて、それらの電極の近くのモノマーを改質することを示している(ジペプチドが生成している)。
【図10】電極3、5、6及び7の近くにて、CBZ保護されたトリペプチド、グリシン−フェニルアラニン−ロイシン(G−F−L)によって基質表面を改質することを示している。
【図11】電極6及び7の近くにて、CBZ保護されたペンタペプチド、チロシン−グリシン−グリシン−フェニルアラニン−ロイシン(Y−G−G−F−L)によって基質表面を改質することを示している。
【図12】電極7及び対電極1及び10の近くの保護されたロイ−エンケファリン・エピトープ(leu-enkephalin epitope)、並びに電極6の近くの脱保護化されたロイ−エンケファリン・エピトープを示している。
【図13】実施例1に従って、抗体にさらし、蛍光結合(fluorescent conjugate)させた、エピフルオレッセント顕微鏡(epifluorescent microscope)を用いて観察され得る代表的な結果を示している。
【図14】およそ70個の電極を示す、被覆していない電極アレイチップのデジタル的に撮影した白色光顕微鏡写真である。この写真は、Pulnix TM-745一体式CCDカメラを備えたOlympus BX60顕微鏡によって、4倍の対物レンズを用いて撮影したものである。これらの独立したアドレス可能な電極に組み合わせられている電気的回路があることに注意すべきである。
【図15】図14に示している電極の同じアレイのデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真であって、倍率は同じである。この写真は、被覆していない電極アレイチップは、その上に蛍光性被覆物質がない場合、電極が暗く表示されることを示している。電極の暗さは、存在する何らかの蛍光が(白金)電極によってクエンチされることによって説明される。
【図16】図14及び15と同じアレイの電極のデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真であるが、10倍の対物レンズを用いて撮影したものであって、16個の電極のみを示している。この顕微鏡写真は、蛍光膜材料によって被覆されており、従って、電極に重なる膜に付着する蛍光ラベルされた分子が存在する、チップの写真である。この顕微鏡写真は、電極が蛍光物質を含む膜によって被覆されている場合に、電極の近く/上部の領域が明るい領域であることを示している。この顕微鏡写真に用いた蛍光物質は、Texas Red dyeによってラベルされたストレプトアビジン(Streptavidin)分子であった。
【図17】図14と同様のデジタル的に撮影した白色光顕微鏡写真であるが、顕微鏡写真外にある電源に電極を接続しているリード線によって示されるように、電極は配線されている。さらに、この顕微鏡写真は10倍の対物レンズを用いて撮影されている。これらの配線された電極は、電極がアレイされたチップの側に設けられている。これらの配線された電極に組み合わせられている回路はないことに注意すべきである。
【図18】チップ/ピン・グリッド・アレイ(PGA)パッケージ・アッセンブリを示している。aに示すように、チップは、チップの活性領域(活性領域は表面に電極を有する領域である。)の反対側において、接着剤によりPGAパッケージに取り付けられており、チップの活性領域を溶液中に浸したり、浸漬させたりするような形態にて、PGAパッケージの端部から突出する活性電極領域が残されている。チップ上のボンディングパッドをPGAパッケージ上のボンディングパッドへ結合させる電線は、エポキシによって封止されている。bに示すピンは、aに示すPGAパッケージの反対側に配されている。
【図19a】電位を適用して脱保護を行う前の電極アレイチップを示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。いずれかの電位を印加する前に、pH8.0の0.05Mリン酸ナトリウム水溶液の緩衝液を、アレイのすべての電極に接触させて入れ、電気化学的試剤が生成するようにした。4倍の対物レンズを用いて顕微鏡写真を撮影し、1秒の集積時間(integration time)を用いた。
【図19b】電位を適用して脱保護を行った後の電極アレイチップを示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。いずれかの電位を印加する前に、pH8.0の0.05Mリン酸ナトリウム水溶液の緩衝液を、アレイのすべての電極に接触させて入れ、電気化学的試剤が生成するようにした。アレイの中の電極のすべてに同じ電位を適用し、アレイの中の各電極にて脱保護化を生じさせた後の電極アレイを示している。2.8ボルトの電位を10分間印加した。4倍の対物レンズを用いて顕微鏡写真を撮影し、1秒の集積時間(integration time)を用いた。
【図20】配線された電極アレイチップを示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真であって、アノード(黒く示されている電極)及びカソードは交番電極である。図示するチェッカーボード・パターンは、2.8ボルトを10分間印加して得られた。この顕微鏡写真を得るために使用した対物レンズは4倍であり、集積時間は1秒であった。アノードにおける酸の局在化に注意されたい。本発明によって達成される局在化が正確であるので、チェッカーボード・パターンが得られている。
【図21】図20の場合と同様に配線された電極アレイチップを示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真であるが、この顕微鏡写真は10倍の対物レンズを用いて、700ミリ秒の集積時間にて得られたものである。
【図22】配線された電極のアレイを示す、被覆されていない電極アレイチップのデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。(この図では、隣接する電極アレイも示している。)図示するアレイの配向(orientation)によって電極の明るさを正確に読み取ることができる。図示する電極は黒く示されている。電気的接続が形成されており、明るさ又は暗さが観察される3つの電極が設けられており、「T1」、「T2」及び「T4」とラベルされている。
【図23】トリチルリンカー分子を介して電極に取り付けられ、Texas Redによってラベルされたストレプトアビジン分子を含む蛍光膜により被覆されているチップのデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。電極T2及びT4は強く明るい信号を有している。電極T1は暗い。電極へはまだ電位を印加していない。
【図24】電極T2及びT4へ正電位を印加した後の図23に示すチップのデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。正電位によって、これらの電極ではプロトンが生成した。トリチルリンカー分子は電極を覆う膜と会合していないので、電極T2及びT4は暗い。電極T1は対電極として用いられている。暗い領域は電極T2及びT4に限定されており、従って、隣接する電極の間では化学的クロストークはほとんどない。
【図25a】反応条件、即ち、従来技術であるSouthernの国際特許出願WO93/22480号の反応条件に従って行った脱保護化工程の前の配線された電極の様子を示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は、10倍の対物レンズを用いて撮影されたものであり、電極どうしの間での「化学的クロストーク」によって生じる不正確さ及びランダムさが示されている。これらの顕微鏡写真において、電極を取り囲む広い面積のブラック−アウト領域及びホワイト−アウト領域は、電気化学的試剤(プロトン)の生成した場所である電極から電気化学的試剤が離れることを示している。
【図25b】反応条件、即ち、従来技術であるSouthernの国際特許出願WO93/22480号の反応条件に従って行った脱保護化工程の後の配線された電極の様子を示すデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は、10倍の対物レンズを用いて撮影されたものであり、電極どうしの間での「化学的クロストーク」によって生じる不正確さ及びランダムさが示されている。これらの顕微鏡写真において、電極を取り囲む広い面積のブラック−アウト領域及びホワイト−アウト領域は、電気化学的試剤(プロトン)の生成した場所である電極から電気化学的試剤が離れることを示している。
【図26a】図25aに示したものと同じ配線の電極を20倍の対物レンズにて100ミリ秒の集積時間にてデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。
【図26b】図25bに示したものと同じ配線の電極を20倍の対物レンズにて100ミリ秒の集積時間にてデジタル的に撮影したエピフルオレッセント顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質上の特定位置で物質を電気化学的に配置する方法であって、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する少なくとも1つの分子に近接する少なくとも1つの電極をその表面に有する基質を準備する工程、
該分子の保護された化学的官能基の少なくとも1つを脱保護できる電気化学的試剤を生成させるのに充分に該電極に電位を適用する工程、
脱保護された化学的官能基をモノマーまたは予形成分子と結合する工程
を含んでなる方法。
【請求項2】
基質の表面で電極と接触して緩衝液またはスカベンジング液を配置して、電気化学的に生成した試剤が電極の位置から出て行くのを防止することをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該緩衝液が、アセテートバッファ、ボレートバッファ、カーボネートバッファ、シトレートバッファ、グリシンバッファ、HEPESバッファ、MOPSバッファ、ホスフェートバッファ、TRISバッファおよびKI溶液から選択されたものである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該緩衝液が少なくとも0.01mMの濃度で存在する請求項2に記載の方法。
【請求項5】
該緩衝液の濃度が0.1〜100mMである請求項2に記載の方法。
【請求項6】
該モノマーまたは予形成分子が、分子の脱保護された化学的官能基との結合が生じる位置と異なった位置で少なくとも1つの他の保護された化学的官能基を有する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該モノマーがアミノ酸である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該予形成分子がタンパク、核酸、ポリサッカライド、ポルフィリンから選択される請求項2に記載の方法。
【請求項9】
該分子がリンカー分子またはモノマーである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該分子が、該基質の表面に直接に付着しているか、リンカー分子を介して該基質の表面に付着しているか、または該基質に重なる物質の層に付着している請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該リンカー分子が、電気化学的に生成した試剤によって開裂可能である基を有しており、該開裂可能な基が基質から物質の除去を可能にする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該保護された化学的官能基が、酸または塩基可変性の保護基によって保護されている請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該少なくとも1つの電極が電極のアレイを有してなる請求項1に記載の方法。
【請求項14】
電極の該アレイが少なくとも100個の電極を有してなる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
モノマーまたは予形成分子の他の保護された化学的官能基を脱保護し、脱保護したモノマーまたは予形成分子に他のモノマーまたは予形成分子を結合することをさらに含んでなる請求項6に記載の方法。
【請求項1】
基質上の特定位置で物質を電気化学的に配置する方法であって、
少なくとも1つの保護された化学的官能基を有する少なくとも1つの分子に近接する少なくとも1つの電極をその表面に有する基質を準備する工程、
該分子の保護された化学的官能基の少なくとも1つを脱保護できる電気化学的試剤を生成させるのに充分に該電極に電位を適用する工程、
脱保護された化学的官能基をモノマーまたは予形成分子と結合する工程
を含んでなる方法。
【請求項2】
基質の表面で電極と接触して緩衝液またはスカベンジング液を配置して、電気化学的に生成した試剤が電極の位置から出て行くのを防止することをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該緩衝液が、アセテートバッファ、ボレートバッファ、カーボネートバッファ、シトレートバッファ、グリシンバッファ、HEPESバッファ、MOPSバッファ、ホスフェートバッファ、TRISバッファおよびKI溶液から選択されたものである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該緩衝液が少なくとも0.01mMの濃度で存在する請求項2に記載の方法。
【請求項5】
該緩衝液の濃度が0.1〜100mMである請求項2に記載の方法。
【請求項6】
該モノマーまたは予形成分子が、分子の脱保護された化学的官能基との結合が生じる位置と異なった位置で少なくとも1つの他の保護された化学的官能基を有する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該モノマーがアミノ酸である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該予形成分子がタンパク、核酸、ポリサッカライド、ポルフィリンから選択される請求項2に記載の方法。
【請求項9】
該分子がリンカー分子またはモノマーである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該分子が、該基質の表面に直接に付着しているか、リンカー分子を介して該基質の表面に付着しているか、または該基質に重なる物質の層に付着している請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該リンカー分子が、電気化学的に生成した試剤によって開裂可能である基を有しており、該開裂可能な基が基質から物質の除去を可能にする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該保護された化学的官能基が、酸または塩基可変性の保護基によって保護されている請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該少なくとも1つの電極が電極のアレイを有してなる請求項1に記載の方法。
【請求項14】
電極の該アレイが少なくとも100個の電極を有してなる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
モノマーまたは予形成分子の他の保護された化学的官能基を脱保護し、脱保護したモノマーまたは予形成分子に他のモノマーまたは予形成分子を結合することをさらに含んでなる請求項6に記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19a】
【図19b】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25a】
【図25b】
【図26a】
【図26b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19a】
【図19b】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25a】
【図25b】
【図26a】
【図26b】
【公開番号】特開2006−291359(P2006−291359A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108755(P2006−108755)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【分割の表示】特願平10−505262の分割
【原出願日】平成9年7月3日(1997.7.3)
【出願人】(399019412)コンビマトリックス・コーポレイション (6)
【氏名又は名称原語表記】CombiMatrix Corporation
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【分割の表示】特願平10−505262の分割
【原出願日】平成9年7月3日(1997.7.3)
【出願人】(399019412)コンビマトリックス・コーポレイション (6)
【氏名又は名称原語表記】CombiMatrix Corporation
【Fターム(参考)】
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