説明

状態判定装置および状態判定方法

【課題】覚醒度または集中度の判定精度の向上を実現すること。
【解決手段】α波特徴量算出部13が、脳波信号からα波の特徴量を算出し、眼球停留関連電位特徴量算出部14が、被験者の眼球移動量および脳波信号に基づいて、眼球停留関連電位の特徴量を算出し、覚醒度判定部15が、α波特徴量算出部13において算出されたα波の特徴量と、眼球停留関連電位特徴量算出部14において算出された眼球関連電位の特徴量とに基づいて、被験者の覚醒度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の脳波信号に基づいて被験者の覚醒状態または集中状態を判定する状態判定装置および状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単調な運転または疲労などにより、運転者は眠気を感じ易くなる。すなわち、運転者の覚醒度の低下が起こり易くなる。また、会話または考え事などに気を取られると、運転者の運転に対する集中度の低下が起こり易くなる。そのため、従来から、運転者の脳波信号を計測して、運転者の覚醒状態(例えば、覚醒度の低下度合)または運転に対する集中状態(例えば、集中度の低下度合)を判定することで、安全運転のための支援を行う手法が提案されている。
【0003】
覚醒度の判定方法として、α波を用いた手法が知られている。α波は、脳波信号をフーリエ変換することで得られる特定周波数(8〜13Hz)の成分である。α波は、閉目時またはリラックスした状態で顕著に見られる律動である。一方で、開眼時においても被験者(例えば上記運転のケースにおける運転者)の覚醒度の低下に伴いα波のパワースペクトル値が上昇するという特徴が知られている。この特徴を利用して、α波のパワースペクトル値が上昇した場合に被験者の覚醒度が低下したと判定する判定方法が一般的に知られている。
【0004】
一方、集中度の判定方法として、近年、脳波の眼球停留関連電位(Eye Fixation Related Potential:EFRP)を用いて、被験者が見ている視対象に対する、被験者の注意量(被験者の視対象に対する集中度)を調べる研究が行われている。この方法によれば、例えば、被験者である運転者に対して、意識の脇見状態を含めた運転に対する注意状態(運転に対する集中度)を調べることが可能になる。「眼球停留関連電位」とは、人が作業しているとき、または、自由に物を見ている際の、急速眼球運動(サッケード)の終了(すなわち、眼球停留の開始)に関連して生じる脳の一過性の電位変動をいう。眼球停留関連電位の成分のうち、眼球停留の開始時点より約100ミリ秒付近に後頭部で有意に出現する正の成分を「ラムダ(λ)反応)」という。ラムダ反応は、視対象に対する集中度によって変動するという特徴を有する。例えば、特許文献1では、この特徴を利用して、ラムダ反応の振幅値により、運転中の視対象に対する注意量を計測することで、運転者の運転に対する集中度を判定することが開示されている。具体的には、ラムダ反応の振幅値が低下した場合に運転者の運転に対する集中度が低下したと判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−125184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、α波のみに基づいて被験者の覚醒度を判定する。また、上記従来技術では、ラムダ反応のみに基づいて被験者の集中度を判定する。しかしながら、考え事などにより運転に対する集中度が変化した場合には、実際の覚醒度は変わらないにもかかわらず、α波のパワースペクトル値が変動することがあり、上記従来技術では覚醒度を精度良く判定できない可能性がある。同様に、運転中に覚醒度が変化した場合にも、実際の集中度は変わらないにもかかわらず、ラムダ反応の振幅値が変動することがあり、上記従来技術では集中度を精度良く判定できない可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、覚醒度および集中度の判定精度を向上させることができる状態判定装置および状態判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る状態判定装置は、被験者の脳波信号に基づいて、前記被験者の状態を判定する状態判定装置であって、前記脳波信号からα波の特徴量を算出するα波特徴量算出手段と、前記被験者の眼球移動量および前記脳波信号に基づいて、眼球停留関連電位の特徴量を算出する眼球停留関連電位特徴量算出手段と、前記α波特徴量算出手段において算出された前記α波の特徴量と、前記眼球関連電位特徴量算出手段において算出された前記眼球関連電位の特徴量とに基づいて、前記被験者の覚醒度または前記被験者の集中度を判定する判定手段と、を具備する構成を採る。
【0009】
本発明の一態様に係る状態推定方法は、被験者の脳波信号に基づいて、前記被験者の状態を判定する状態判定方法であって、前記脳波信号からα波の特徴量を算出し、前記被験者の眼球移動量および前記脳波信号に基づいて、眼球停留関連電位の特徴量を算出し、算出された前記α波の特徴量と、算出された前記眼球関連電位の特徴量とに基づいて、前記被験者の覚醒度または前記被験者の集中度を判定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、覚醒度または集中度の判定において、覚醒度の低下に抗って運転への集中を高めようとする運転者の行動、および、集中度の低下に伴う運転者の情報処理負荷の低下を考慮して覚醒度または集中度を判定できるようになり、覚醒度および集中度の判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る状態判定装置の主要構成を示すブロック図
【図2】本発明の実施の形態1に係る状態判定装置の構成を示すブロック図
【図3】脳波計の電極位置の一例を示す図
【図4】ランダム反応振幅値の算出方法の一例を示す図
【図5】本発明の実施の形態1に係る覚醒度判定部の内部構成を示すブロック図
【図6】本発明の実施の形態1に係る実験条件を示すブロック図
【図7】本発明の実施の形態1に係るα波パワースペクトル値およびラムダ反応振幅値の特性を示す図
【図8】本発明の実施の形態1に係る状態判定装置の動作を示すフロー図
【図9】本発明の実施の形態1に係るα波パワースペクトル値、ラムダ反応振幅値および覚醒度レベルの対応関係を示す図
【図10】本発明の実施の形態2に係る状態判定装置の構成を示すブロック図
【図11】本発明の実施の形態2に係る覚醒度判定部の内部構成を示すブロック図
【図12】本発明の実施の形態2に係る状態判定装置の動作を示すフロー図
【図13】本発明の実施の形態2に係るα−λ平面における判別直線を示す図
【図14】本発明の実施の形態2に係る覚醒度評価値と覚醒度との対応関係を示す図
【図15】本発明の実施の形態3に係る状態判定装置の構成を示すブロック図
【図16】本発明の実施の形態3に係る覚醒度判定部の内部構成を示すブロック図
【図17】本発明の実施の形態3に係る状態判定装置の動作を示すフロー図
【図18】本発明の実施の形態4に係る状態判定装置の主要構成を示すブロック図
【図19】本発明の実施の形態4に係る状態判定装置の構成を示すブロック図
【図20】本発明の実施の形態4に係る集中度判定部の内部構成を示すブロック図
【図21】本発明の実施の形態4に係るα波パワースペクトル値およびラムダ反応振幅値の特性を示す図
【図22】本発明の実施の形態4に係る状態判定装置の動作を示すフロー図
【図23】本発明の実施の形態4に係るα波パワースペクトル値、ラムダ反応振幅値および集中度レベルの対応関係を示す図
【図24】本発明の実施の形態5に係る状態判定装置の構成を示すブロック図
【図25】本発明の実施の形態5に係る集中度判定部の内部構成を示すブロック図
【図26】本発明の実施の形態5に係る状態判定装置の動作を示すフロー図
【図27】本発明の実施の形態5に係るα−λ平面における判別直線を示す図
【図28】本発明の実施の形態5に係る集中度評価値と集中度との対応関係を示す図
【図29】本発明の実施の形態6に係る状態判定装置の構成を示すブロック図
【図30】本発明の実施の形態6に係る集中度判定部の内部構成を示すブロック図
【図31】本発明の実施の形態6に係る状態判定装置の動作を示すフロー図
【図32】本発明の実施の形態6に係る周辺環境に関する対応テーブル
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、状態判定装置において覚醒度または集中度の判定対象となる「被験者」を、運転を行っている「運転者」とする場合について説明する。ただし、状態判定装置において覚醒度または集中度の判定対象となる「被験者」は、運転者に限らない。
【0013】
<実施の形態1>
図1は、本実施の形態に係る状態判定装置10の主要構成を示すブロック図である。図1に示す状態判定装置10は、運転者の状態を判定する。状態判定装置10において、α波特徴量算出部13が、脳波信号からα波の特徴量(例えば、α波パワースペクトル値)を算出し、眼球停留関連電位特徴量算出部14が、運転者の眼球移動量および脳波信号に基づいて、眼球停留関連電位の特徴量(例えば、ラムダ反応振幅値)を算出し、覚醒度判定部15が、α波特徴量算出部13において算出されたα波の特徴量と、眼球停留関連電位特徴量算出部14において算出された眼球関連電位の特徴量とに基づいて、運転者の覚醒度を判定する。
【0014】
図2は、本実施の形態に係る状態判定装置の構成を示すブロック図である。例えば、運転者の覚醒度に基づき、運転者に対して警告または制動などの運転支援を行う安全運転支援システム(図示せず)において、本実施の形態に係る状態判定装置10(図2)は、運転者の状態として、運転者の覚醒度の判定を行う。つまり、本実施の形態に係る状態判定装置10は、運転者の覚醒度の状態を判定する覚醒度判定装置である。
【0015】
状態判定装置10は、脳波信号取得部11と、眼球移動量取得部12と、α波特徴量算出部13と、眼球停留関連電位特徴量算出部14と、覚醒度判定部15と、覚醒度対応テーブル16と、を備えている。
【0016】
脳波信号取得部11は、運転者の脳波信号を取得し、取得した脳波信号をα波特徴量算出部13および眼球停留関連電位特徴量算出部14に出力する。
【0017】
例えば、脳波信号取得部11は、運転者の頭部に装着された電極の電位変化(脳波信号)を計測する脳波計により計測された脳波信号を取得する。脳波計は、ヘッドマウント式脳波計であってもよく、この場合、運転者は脳波計を予め装着しているものとする。または、車のシート(主にヘッドレスト)に脳波計の電極を埋め込み、運転者が着座すると、脳波計の電極が運転者の頭部と接するようにしてもよい。運転者の頭部に脳波計が装着されたとき、脳波計の電極は、運転者の頭部の所定の位置に接触するように配置される。例えば、図3に示す電極位置(国際10−20法の電極配置)において、後頭部(Oz)、マストイド(A1またはA2)の位置で頭部と接触するように電極が配置される。ただし、後頭部(Oz)以外の部位でも脳波の計測は可能であり、例えば、Pz等のOz周辺位置に脳波計の電極を配置してもよい。例えば、脳波計の電極位置は、信号測定の信頼性および装着の容易さ等から決定される。
【0018】
これにより、脳波信号取得部11は運転者の脳波信号を取得できる。取得された脳波信号は、コンピュータで処理できるようにサンプリングされ、予め決められた一定時間分のデータが脳波信号取得部11の内部にある記憶部に一次的に記憶され、かつ随時更新される。なお、脳波信号取得部11において取得(計測)された脳波信号に対して、例えば15Hzのローパスフィルタ処理を予め施すことにより、脳波信号に混入するノイズの影響を低減することができる。また、脳波信号取得部11は、運転者の脳波を計測することで運転者の脳波信号を取得する場合に限らず、例えば、予め計測され、記憶部に記録された運転者の脳波信号を読み込むことで、運転者の脳波信号を取得してもよい。
【0019】
眼球移動量取得部12は、運転者の眼球運動を計測することで、所定時間における運転者の眼球移動量を取得する。眼球移動量取得部12は、取得した眼球移動量を眼球停留関連電位特徴量算出部14に出力する。
【0020】
眼球移動量取得部12は、例えば、EOG(Electro-oculogram)法に基づいて運転者の眼球運動を計測する。「EOG法」とは、眼球の左右または上下に配置した電極の電位変化から眼球運動を計測する方法である。EOG法は、眼球の角膜が網膜に対して正に帯電する性質を利用する。眼球移動量取得部12は、この性質を利用して、眼球の左右または上下の電極における電位変化から、眼球運動を計測する。また、眼球移動量取得部12は、脳波信号取得部11(脳波計)と同様、ヘッドマウント式の計測器であってもよい。また、眼球移動量取得部12は、運転者の眼球運動を計測することで運転者の眼球移動量を取得する場合に限らず、例えば、予め計測され、記憶部に記録された運転者の眼球移動量を読み込むことで、運転者の眼球移動量を取得してもよい。
【0021】
また、眼球移動量取得部12では、EOG法の代わりに、運転者の顔または眼球を撮影するカメラにより取得した画像から、「角膜反射法」などにより眼球移動量を計算してもよい。「角膜反射法」とは、近赤外線光源(点光源)が近赤外線を眼球に照射し、カメラで眼球の映像を撮影し、撮影した映像を用いて瞳孔および角膜表面における光源の角膜反射像の位置を検出する方法である。「角膜反射法」では、このようにして算出された瞳孔と角膜反射像との位置関係から、眼球移動量を算出することができる。また、眼球移動量取得部12は、運転者の顔を撮影する場合には運転席のステアリングコラム付近に設置された装置であってもよく、運転者の眼球を撮影する場合にはヘッドマウント式の計測器であってもよい。
【0022】
α波特徴量算出部13は、脳波信号取得部11で取得された脳波信号からα波のパワースペクトル値(α波の特徴量)を算出する。例えば、α波特徴量算出部13は、脳波信号取得部11で取得された所定時間の脳波信号に対してフーリエ変換を行って周波数成分データを求め、運転者の脳波信号のパワースペクトルを算出する。一般に、脳波信号において、8Hz以上13Hz未満の周波数成分はα波、13Hz以上の周波数成分はβ波、4Hz以上8Hz未満の周波数成分はθ波と呼ばれる。つまり、α波特徴量算出部13は、脳波信号の周波数成分データのうち、α波に該当する8〜13Hzにおけるパワースペクトル値(α波パワースペクトル値、またはα波特徴量)を算出する。α波特徴量算出部13は、算出したα波パワースペクトル値を覚醒度判定部15に出力する。
【0023】
眼球停留関連電位特徴量算出部14は、脳波信号取得部11で取得された所定時間の脳波信号、および、眼球移動量取得部12で取得された所定時間の眼球移動量に基づいて、サッケードの終了時点を起点としたラムダ反応振幅値を、眼球停留関連電位特徴量として算出する。眼球停留関連電位特徴量算出部14は、算出したラムダ反応振幅値を覚醒度判定部15に出力する。
【0024】
一例として、眼球停留関連電位特徴量算出部14において、所定時間TW前から現在におけるまでの脳波信号と、眼球移動量とから、ラムダ反応振幅値を算出する処理について、図4を用いて説明する。図4は、脳波信号および眼球移動量の時系列変化(所定時間TW)を模式的に示したものである。図4では、所定時間TWにおいて、サッケード91が複数(6箇所)検出されている。この場合、図4に示すように、検出された各サッケード91の終了時点を起点として、脳波信号の切り出しが行われる。切り出された複数の脳波信号92(図4では5個)には、運転者の動きによる影響または周辺に存在する電子機器から発生する電磁波の影響によりノイズ成分が多く含まれる。このため、複数の脳波信号92は加算平均される。これにより、脳波信号におけるノイズ成分が平滑化され、特徴成分のみが抽出された加算平均脳波信号93が得られる。なお、脳波信号はサッケードの終了時点を起点として切り出されるが、図4では、サッケードの切り出し前を含む-300〜600msecの範囲を脳波信号92として切り出した例を図示している。図4に示す加算平均脳波信号93において、サッケード終了時点(つまり、加算平均脳波信号93の開始時点(0ミリ秒))より、約100ミリ秒付近に現れる特徴的な反応94がラムダ反応である。そこで、眼球停留関連電位特徴量算出部14は、ラムダ反応94の振幅値を、視覚情報に対する注意量を示すラムダ反応振幅値として算出する。なお、ラムダ反応振幅値としては、加算平均脳波信号93において、サッケード終了時点から100ミリ秒までの区間における最大振幅値を用いてもよく、同区間における極大値若しくは同区間における平均振幅を用いてもよい。また、同区間は、サッケード終了時点から50ミリ秒から、150ミリ秒までの間と設定してもよい。
【0025】
また、直前のサッケード91の大きさ、つまり眼球の移動量が大きい場合(例えば所定の閾値以上の場合)には、算出されるラムダ反応振幅値も増加することが知られている。そのため、サッケードの大きさの影響によるラムダ反応振幅値の変化を、運転者の集中度の変化と誤判定してしまう可能性がある。
【0026】
そこで、眼球停留関連電位特徴量算出部14は、サッケードの大きさによるラムダ反応振幅値への影響を低減するために、ラムダ反応振幅値を直前のサッケード91の大きさで除算(すなわち正規化)することで、正規化ラムダ反応振幅値を算出してもよい。これにより、眼球停留関連電位特徴量算出部14は、直前のサッケード91の大きさに依存しないラムダ反応振幅値(正規化ラムダ反応振幅値)を算出し、運転者の集中度を精度良く判定することができる。
【0027】
覚醒度判定部15は、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値と、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値とに基づいて、運転者の覚醒度を判定する。また、覚醒度判定部15は、運転者の覚醒度が低いと判定した場合、さらに、覚醒度対応テーブル16を参照して、複数の覚醒度を示すレベル(覚醒度レベル)の中から、運転者の覚醒度レベルを特定する。
【0028】
図5は、本実施の形態に係る覚醒度判定部15の内部構成を示すブロック図である。図5に示すように、覚醒度判定部15は、第1覚醒度判定部101と第2覚醒度判定部102とを備えている。
【0029】
第1覚醒度判定部101は、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値(α波特徴量)が所定の閾値(例えば、閾値Thα)以上であるか否かを判定する。すなわち、第1覚醒度判定部101は、α波パワースペクトル値と所定の閾値とを比較することによって、覚醒度判定処理を行う。第1覚醒度判定部101は、α波パワースペクトル値に対する判定結果を第2覚醒度判定部102に出力する。具体的には、第1覚醒度判定部101は、α波パワースペクトル値が所定の閾値未満の場合、運転者が覚醒している状態(覚醒度が高い状態)であると判定する。
【0030】
第2覚醒度判定部102は、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値(眼球停留関連電位特徴量)が所定の閾値(例えば、閾値Thλ)以上であるか否かを判定する。すなわち、第2覚醒度判定部102は、ラムダ反応振幅値と所定の閾値とを比較することによって、覚醒度判定処理を行う。
【0031】
第2覚醒度判定部102での覚醒度判定処理は、例えば、第1覚醒度判定部101から入力される判定結果が、α波パワースペクトル値が所定の閾値以上であることを示す場合のみ行われる。具体的には、第2覚醒度判定部102は、ラムダ反応振幅値が所定の閾値以上の場合、運転者の覚醒度が低い状態であると判定する。
【0032】
また、第2覚醒度判定部102は、ラムダ反応振幅値が所定の閾値未満の場合、運転者が覚醒している状態(覚醒度が高い状態)であると判定する。また、第2覚醒度判定部102は、ラムダ反応振幅値に対する覚醒度判定の結果、運転者の覚醒度が低いと判定した場合(ラムダ反応振幅値が所定の閾値以上であると判定した場合)、さらに、覚醒度対応テーブル16を参照して、複数の覚醒度レベルの中から、運転者の覚醒度レベルを判定する。
【0033】
以上、覚醒度判定部15の内部構成について説明した。
【0034】
覚醒度対応テーブル16は、複数の覚醒度レベルと、α波パワースペクトルおよびラムダ反応振幅値との対応関係が定義された情報を格納する。
【0035】
[状態判定装置10の動作]
次に、上述のように構成された状態判定装置10の動作について説明する。
【0036】
本発明者らは、α波パワースペクトル値およびラムダ反応振幅値に基づいて、運転者の覚醒度を精度良く判定可能であることに着目した。
【0037】
まず、本発明者らによる実験により得られた新たな知見に基づいて着目した覚醒度判定方法について説明する。
【0038】
本発明者らは、運転者の覚醒度、および、運転者の運転に対する集中度が運転中に同時に変化する状況を実験環境上で再現し、覚醒度または集中度が低下した際に、運転者の脳波に現れる特徴を計測する実験を実施した。
【0039】
図6は、当該実験において、運転者の脳波信号を抽出する際の覚醒度および集中度の状態の組み合わせ(実験条件)を示す。すなわち、実験では、図6に示すように、(1)運転集中時(集中度:高)、かつ、覚醒度が高い条件、(2)注意散漫時(集中度:低)、かつ、覚醒度が高い条件、(3)運転集中時(集中度:高)、かつ、覚醒度が低い条件、および(4)注意散漫時(集中度:低)、かつ、覚醒度が低い条件、のそれぞれにおいて、運転者の脳波信号を抽出している。
【0040】
図7は、図6に示す条件に従って抽出した運転者の脳波信号から算出されたα波パワースペクトル値およびラムダ反応振幅値を、覚醒度状態および集中度状態の組み合わせ毎にプロットした結果を示す。図7において、横軸はα波パワースペクトル値[μV]を示し、縦軸はラムダ反応振幅値[μV]を示す。また、図7において、「■」は運転集中時、かつ、覚醒度が高い条件(上記条件(1))での結果を示し、「◆」は注意散漫時、かつ、覚醒度が高い条件(上記条件(2))での結果を示し、「△」は運転集中時、かつ、覚醒度が低い条件(上記条件(3))での結果を示し、「○」は注意散漫時、かつ、覚醒度が低い条件(上記条件(4))での結果を示す。
【0041】
図7に示すように、運転集中状態(運転に対する集中度:高)においては、運転者の覚醒度が高い状態から低い状態へ変化した場合(■→△)、α波パワースペクトル値が増加することが分かる。
【0042】
一方、図7に示すように、注意散漫状態(運転に対する集中度:低)においては、運転者の覚醒度が高い状態から低い状態へ変化した場合(◆→○)、ラムダ反応振幅値が増加することが分かる。
【0043】
以上より、運転集中状態においては、従来の知見通り、運転者の覚醒度の低下に伴いα波パワースペクトル値が増加する。一方、注意散漫状態においては、運転者の覚醒度の低下に伴い、ラムダ反応振幅値が増加するという新たな知見が得られた。これは、運転者が、覚醒度の低下に逆らって、運転への集中を意識的に高めようとする行動が促進されるためと考えられる。
【0044】
このため、従来技術のように、α波パワースペクトル値のみを用いて運転者の覚醒度を判定する場合には、注意散漫時(運転に対する集中度が低い場合)において、運転者の覚醒度を正確に判定することができないことが発生してしまう。具体的には、図7に示す「◆」は、注意散漫時、かつ、覚醒度が高い場合の結果である。しかし、従来技術では、α波パワースペクトル値のみに着目するので、図7に示す「◆」の状態(α波パワースペクトル値が比較的大きい場合)を、運転者の覚醒度が低下していると判定してしまう可能性がある。よって、従来技術(α波パワースペクトル値のみを用いる場合)では、運転に対する集中度が低い場合には、運転者の覚醒度判定の精度が劣化してしまう。
【0045】
このように、運転者の覚醒度と運転に対する集中度とは密接に関連しており、相互の状態が影響を受ける。すなわち、運転者の覚醒度の判定においては、α波パワースペクトルは、運転者の覚醒度だけでなく、運転に対する集中度が変化した場合にも変動することがあり、従来技術のように、α波パワースペクトル値のみでは覚醒度を精度良く判定できない可能性がある。
【0046】
そこで、本実施の形態では、状態判定装置10は、α波パワースペクトル値、ラムダ反応振幅値、および、それぞれの値に対する所定の基準値を用いて、運転者の覚醒度を判定する。具体的には、状態判定装置10は、図7に示す実験結果で得られた新たな知見より、α波パワースペクトル値が比較的大きい場合(例えば閾値以上)でも、ラムダ反応振幅値が比較的小さい場合(例えば閾値未満)には、運転者の覚醒度は高い(すなわち、覚醒している状態である)と判定する。これにより、状態判定装置10は、集中状態(すなわち、集中度合)によらず、覚醒度の低下を精度良く判定することができる。
【0047】
次に、状態判定装置10の動作について説明する。図8は、状態判定装置10の動作説明に供するフロー図である。なお、ここでは、状態判定装置10は、所定の判定間隔TSで覚醒度判定処理を実行するものとする。
【0048】
ステップS01において、脳波信号取得部11は、運転者の所定時間TW前から現在までの脳波信号を取得する。所定時間TWは、覚醒度の判定に使用する脳波信号の区間(例えば、図4参照)であり、例えば、30秒、90秒、120秒などの任意の値が設定される。取得した脳波信号は、TWの時間における脳波信号の時系列情報として、一時記憶装置などに記録される。
【0049】
ステップS02において、眼球移動量取得部12は、運転者の所定時間TW前から現在までの眼球移動量を取得する。取得した眼球移動量は、例えば、運転者の視線の水平方向の角度情報である。また、取得した眼球移動量は、TWの時間における視線の水平方向の角度情報の時系列情報として、一時記憶装置などに記録される。
【0050】
ステップS03において、眼球移動量取得部12は、ステップS02で取得した所定時間における眼球移動量を用いて、サッケード(例えば、図4に示すサッケード91)を検出する。一般に、サッケードに要する時間は通常20〜70ミリ秒で、サッケードの速度は視角で表すと300〜500度/秒である。したがって、眼球移動量取得部12は、眼球の運動方向が所定時間(例えば、20〜70ミリ秒)連続して同じであり、かつ、当該所定時間の平均角速度が300度/秒以上である眼球運動をサッケードとして検出できる。
【0051】
ステップS04において、所定時間内のサッケードの有無を判定する。所定時間TW内にステップS03でサッケードが検出されない場合(ステップS04:NO)、状態判定装置10は、覚醒度判定処理を行わず処理を終了し、判定間隔TSの経過後、再びステップS01の処理を開始する。
【0052】
一方、所定時間TW内にステップS03でサッケードが検出された場合(ステップS04:YES)、眼球移動量取得部12は、検出した各サッケードの終了時点、すなわち眼球停留開始時点を抽出(特定)する。
【0053】
ステップS05において、α波特徴量算出部13は、ステップS01で取得された所定時間TWにおける脳波信号に対してフーリエ変換を行い、α波(8〜13Hzの周波数成分)のパワースペクトル値(α波パワースペクトル値)を算出する。
【0054】
ステップS06において、眼球停留関連電位特徴量算出部14は、ステップS01で取得された所定時間TW前から現在におけるまでの脳波信号、ステップS02で取得された眼球移動量、および、ステップS04で抽出したサッケードの終了時点に基づいて、ラムダ反応振幅値を算出する(例えば、図4参照)。
【0055】
ステップS07において、覚醒度判定部15の第1覚醒度判定部101は、ステップS05で算出されたα波パワースペクトル値と所定の閾値Thαとを比較する。「α波パワースペクトル値≧Thα」の場合(ステップS07:YES)、ステップS08の処理へ進む。「α波パワースペクトル値≧Thα」でない場合(ステップS07:NO)、ステップS10の処理へ進む。なお、Thαは、事前に、実験データを用いた学習などを通じて最適な値が設定されているものとする。例えば、図7の実験結果より、Thα=0.012[μV]と設定してもよい。
【0056】
ステップS08において、覚醒度判定部15の第2覚醒度判定部102は、ステップS06で算出されたラムダ反応振幅値と所定の閾値Thλとを比較する。「ラムダ反応振幅値≧Thλ」の場合(ステップS08:YES)、ステップS09の処理へ進む。「ラムダ反応振幅値≧Thλ」でない場合(ステップS08:NO)、ステップS10の処理へ進む。なお、Thλは、事前に最適な値が設定されているものとする。例えば、図7の実験結果より、Thλ=1.4[μV]と設定してもよい。
【0057】
ステップS09において、覚醒度判定部15は、運転者の覚醒度が低い状態(覚醒度低下状態)であると判定する。すなわち、覚醒度判定部15は、ステップS07において「α波パワースペクトル≧Thα」と判定され、かつ、ステップS08において「ラムダ反応振幅値≧Thλ」と判定された場合に、運転者の覚醒度が低い状態であると判定する。
【0058】
ステップS10において、覚醒度判定部15は、運転者の覚醒度が高い状態(覚醒している状態)であると判定する。すなわち、覚醒度判定部15は、ステップS07において「α波パワースペクトル<Thα」と判定された場合、または、ステップS08において「ラムダ反応振幅値<Thλ」と判定された場合に、運転者の覚醒度が高い状態であると判定する。
【0059】
ステップS11において、覚醒度判定部15は、ステップS09において覚醒度が低い状態であると判定されると、さらに、α波パワースペクトル値、ラムダ反応振幅値、および、覚醒度対応テーブル16を参照することによって、複数の段階で定義される覚醒度のレベル(覚醒度レベル)を判定する。
【0060】
例えば、図9は、覚醒度対応テーブル16が保持する対応関係を示す図である。具体的には、図9に示す覚醒度対応テーブル16には、閾値Tα以上と閾値Tα未満のα波パワースペクトル値と、閾値Tλ以上と閾値Tλ未満のラムダ反応振幅値とを対応させて、覚醒度レベルが複数の段階で定義されている。図9では、「やや低い」、「低い」、および「非常に低い」の3段階の覚醒度レベルが設定されている。覚醒度判定部15は、ステップS05で算出されたα波パワースペクトル値およびステップS06で算出されたラムダ反応振幅値と、それぞれの値に対する閾値TαおよびTλとをそれぞれ比較して、運転者の覚醒度レベルを判定する。なお、図9では、α波パワースペクトル値、ラムダ反応振幅値のそれぞれに閾値が1つ設定されている場合を一例として示しているが、それぞれの値に対して閾値を複数設けて、より細分化した覚醒度のレベルを判定するようにしてもよい。
【0061】
このように、状態判定装置10は、α波パワースペクトル値、および、ラムダ反応振幅値を用いて、運転者の覚醒度を判定する。具体的には、状態判定装置10は、α波パワースペクトルが閾値Thα未満の状態(例えば、図7に示す「■」の状態)を、従来と同様、運転者の覚醒度が高いと判定する。さらに、状態判定装置10は、α波パワースペクトルが閾値Thα以上であり、かつ、ラムダ反応振幅値が閾値Thλ未満の状態(例えば、図7に示す「◆」の状態)も、運転者の覚醒度が高いと判定する。すなわち、状態判定装置10は、α波パワースペクトルが閾値Thα以上であり、かつ、ラムダ反応振幅値が閾値Thλ以上の状態(例えば、図7に示す「△」および「○」の状態)のみを、運転者の覚醒度が低いと判定する。
【0062】
こうすることで、状態判定装置10は、運転者の運転に対する集中度の変化に影響を受けることなく、運転者の覚醒度を精度良く判定することが可能になる。すなわち、状態判定装置10は、運転者の覚醒度の判定において、運転者の覚醒度の低下に抗って運転への集中を高めようとする運転者の行動(すなわち、集中度の変化)を考慮して覚醒度を判定できる。これにより、例えば、運転者への情報提示、警告、または、車両の制御など、最適な安全運転支援を行うことが可能になる。
【0063】
<実施の形態2>
図10は、本実施の形態に係る状態判定装置20の構成を示すブロック図である。なお、図10において、実施の形態1(図2)と同一構成である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。図10に示す状態判定装置20は、図2に示す状態判定装置10と比較して、覚醒度対応テーブルが削除され、覚醒度判定部21の動作が異なる。
【0064】
図10において、覚醒度判定部21は、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値と、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値とから得られる覚醒度評価値を用いて、運転者の覚醒度を判定する。
【0065】
図11は、本実施の形態に係る覚醒度判定部21の内部構成を示すブロック図である。図11に示すように、覚醒度判定部21は、覚醒度評価値算出部201と、評価値判定部202とを備えている。
【0066】
覚醒度評価値算出部201は、α波パワースペクトル値とラムダ反応振幅値とから、覚醒度評価値を算出する。具体的には、覚醒度評価値算出部201は、α波パワースペクトル値とラムダ反応振幅値とからなる2次元平面上において、所定の境界線(判別線)を用いて、覚醒度評価値を算出する。覚醒度評価値は、運転者の覚醒度を判定するために用いられる値である。例えば、覚醒度評価値は、実験などにより予め設定された覚醒度評価値算出式に従って算出される。
【0067】
評価値判定部202は、覚醒度評価値算出部201で算出された覚醒度評価値と、実験などにより予め設定された基準値(閾値)とを比較し、運転者の覚醒度を判定する。
【0068】
次に、本実施の形態に係る状態判定装置20の動作について説明する。
【0069】
図12は、状態判定装置20の動作説明に供するフロー図である。なお、図12において、実施の形態1(図8)と同一処理である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0070】
ステップS21において、覚醒度判定部21の覚醒度評価値算出部201は、ステップS05で算出された各時点におけるα波パワースペクトル値(αt)、および、ステップS06で算出された各時点におけるラムダ反応振幅値(λt)に対して、式(1)に示す覚醒度評価値算出式に従って、覚醒度評価値(D)を算出する。
【数1】

【0071】
式(1)に示す覚醒度評価値算出式は、α波パワースペクトル値(α)とラムダ反応振幅値(λ)とからなるα−λの2次元平面において、α波パワースペクトル値が増加する場合にラムダ反応振幅値が低下することを特徴とする式である。すなわち、式(1)において、係数aおよび係数bの正負の符号が同一であることを特徴とする。覚醒度評価値算出部201は、各時点で取得するα波パワースペクトル値(αt)およびラムダ反応振幅値(λt)を式(1)に代入することにより、覚醒度評価値Dを算出する。
【0072】
覚醒度評価値Dの算出方法について図13を用いて説明する。図13は、図7に示す実験結果を学習データとして、覚醒度が高い状態と覚醒度が低い状態とを判別するために、線形判別分析を行った結果である。なお、図13において、覚醒度が高い状態の学習データとして、運転集中時かつ覚醒度が高い場合の結果、および、注意散漫時かつ覚醒度が高い場合の結果を用いて、覚醒度が低い状態の学習データとして、運転集中時かつ覚醒度が低い場合の結果、および、注意散漫時かつ覚醒度が低い場合の結果を用いて、線形判別分析を行うとする。この結果として、例えば、図13および次式(2)に示す判別直線(上記所定の境界線)が得られる。
【数2】

【0073】
そして、式(2)に示す判別直線に基づいて、次式(3)に示す覚醒度評価値算出式が導出される。
【数3】

【0074】
ステップS22において、覚醒度判定部21の評価値判定部202は、ステップS21で算出された覚醒度評価値Dと、予め実験などにより設定された基準値Thとを比較することにより、運転者の覚醒度を判定する。例えば、覚醒度評価値算出式を式(3)で表現した場合、基準値Thは0となる。よって、評価値判定部202は、D≧0であれば(ステップS22:YES)、ステップS09において運転者の覚醒度が低いと判定する。一方、評価値判定部202は、D<0であれば(ステップS22:NO)、ステップST09において運転者の覚醒度が高いと判定する。なお、D≧0の状態の(αt,λt)は、図13に示す判別直線上よりも上の領域(判別直線上を含む)に相当し、D<0の状態の(αt,λt)は、図13に示す判別直線上よりも下の領域(判別直線上を含まず)に相当する。
【0075】
また、評価値判定部202は、覚醒度評価値Dと、運転者の覚醒度レベルとの関係を実験などにより予め学習することにより、例えば、図14に示す対応関係を示すテーブルに基づいて、覚醒度レベルを判定してもよい。図14において、D1およびD2は予め設定された、覚醒度評価値Dに対する閾値を示す。
【0076】
このように、状態判定装置20は、実施の形態1(状態判定装置10)と同様、α波パワースペクトル値、および、ラムダ反応振幅値を用いて、運転者の覚醒度を判定する。ただし、実施の形態1(状態判定装置10)では覚醒度対応テーブルを用いて複数の覚醒度レベルの中から運転者の覚醒度レベルを判定したのに対して、本実施の形態では、状態判定装置20は、α−λの2次元平面における覚醒度評価値Dに基づいて、運転者の覚醒度レベルを判定する。
【0077】
こうする場合でも、実施の形態1と同様、状態判定装置20は、運転者の覚醒度の判定において、運転者の運転に対する集中度の変化を考慮して覚醒度を判定できる。よって、状態判定装置20は、運転者の運転に対する集中度の変化に影響を受けることなく、運転者の覚醒度を精度良く判定することが可能になる。これにより、例えば、運転者の覚醒度に応じて、運転者への情報提示、警告、または、車両の制御など、最適な安全運転支援を行うことが可能になる。
【0078】
なお、本実施の形態における判別直線(覚醒度評価値算出式)は、直線で表されるものに限定されるものでなく、双曲線、二次曲線などのような曲線で表されるものであってもよい。
【0079】
<実施の形態3>
図15は、本実施の形態に係る状態判定装置30の構成を示すブロック図である。なお、図15において、実施の形態1(図2)と同一構成である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0080】
図15において、行動検出部31は、運転者が運転への注意を意識的に高める行動(注意行動)を検出する。一般に、運転または監視といった作業中、疲労および単調作業により運転者の覚醒度が低下した際に、運転者は視線移動を頻繁に行ったり、瞬きを頻繁に行ったりして、作業への注意を意識的に高めようとする行動(注意行動)を取ることがある。そこで、行動検出部31は、例えば、ヘッドマウント式の計測器によって、上述した「EOG法」などを用いて運転者の眼球移動量を算出して、頻繁な視線移動または瞬きなどに基づいて注意行動を検出してもよい。また、行動検出部31は、ステアリングコラム付近に設置されたカメラにより運転者を撮影し、上述した「角膜反射法」などを用いて眼球移動量を算出して、注意行動を検出してもよい。
【0081】
基準値補正部32は、行動検出部31で注意行動が検出された場合、ラムダ反応振幅値の判定閾値(基準値)Thλを補正する。注意行動が検出された場合には、運転者によって運転への集中を高めようとする行動が促進されるため、ラムダ反応振幅値が増加することが考えられる。そこで、基準値補正部32は、検出された注意行動に応じて、判定閾値Thλを通常の場合(注意行動が検出されない場合)よりも高い値に補正する。基準値補正部32は、補正後の判定閾値Thλを覚醒度判定部15aに出力する。これにより、状態判定装置30では、運転者の覚醒度の判定精度の向上を図ることができる。
【0082】
覚醒度判定部15aは、実施の形態1と同様、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値と、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値とを用いて、運転者の覚醒度を判定する。ただし、覚醒度判定部15aでは、ラムダ反応振幅値に対する覚醒度判定処理の際、基準値補正部32から入力される判定閾値Thλ(補正後の判定閾値)に従って覚醒度判定処理を行う点のみが実施の形態1と異なる。
【0083】
図16は、本実施の形態に係る覚醒度判定部15aの内部構成を示すブロック図である。図16に示すように、覚醒度判定部15aは、第1覚醒度判定部101と、第2覚醒度判定部102aとを備え、第2覚醒度判定部102aの動作のみが、実施の形態1(図5)と異なる。具体的には、第2覚醒度判定部102aは、基準値補正部32から入力される補正後の判定閾値(例えば、閾値Thλ)と、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値とを比較する。
【0084】
次に、本実施の形態に係る状態判定装置30の動作について説明する。
【0085】
図17は、状態判定装置30の動作説明に供するフロー図である。なお、図17において、実施の形態1(図8)と同一処理である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0086】
ステップS31において、行動検出部31は、ステップS01およびステップS02で取得された脳波信号および眼球移動量を用いて、所定区間TWにおける運転者の注意行動を検出し、基準値補正部32は、行動検出部31で検出された注意行動の回数および種類を記録する。注意行動の種類については、例えば、上述したように、頻繁な視線移動、頻繁な瞬きなどがある。
【0087】
ステップS32において、基準値補正部32は、ステップS31において注意行動が検出された場合、ラムダ反応振幅値の判定閾値Thλを通常の値よりも高い値に補正する。この際、基準値補正部32は、ステップS11で記録された、注意行動の種類および回数に応じて、判定閾値Thλの補正量を変更してもよい。
【0088】
ステップS33において、覚醒度判定部15aの第2覚醒度判定部102aは、ステップS31において注意行動が検出された場合、ステップS06で算出されたラムダ反応振幅値と、S32で補正された判定閾値Thλとを比較する。
【0089】
こうすることで、状態判定装置30は、運転者の注意行動に応じて変動するラムダ反応振幅値に対応する適切な判定閾値(基準値)を用いて、覚醒度判定処理を行うことができる。これにより、本実施の形態では、運転者の注意行動を考慮して運転者の覚醒度を精度良く判定することができる。よって、例えば、運転者への情報提示、警告、または、車両の制御など、最適な安全運転支援を行うことが可能になる。
【0090】
<実施の形態4>
図18は、本実施の形態に係る状態判定装置40の主要構成を示すブロック図である。図18に示す状態判定装置40は、運転者の状態を判定する。状態判定装置40において、α波特徴量算出部13が、脳波信号からα波の特徴量(例えば、α波パワースペクトル値)を算出し、眼球停留関連電位特徴量算出部14が、運転者の眼球移動量および脳波信号に基づいて、眼球停留関連電位の特徴量(例えば、ラムダ反応振幅値)を算出し、集中度判定部41が、α波特徴量算出部13において算出されたα波の特徴量と、眼球関連電位特徴量算出部14において算出された眼球関連電位の特徴量とに基づいて、運転者の集中度を判定する。
【0091】
図19は、本実施の形態に係る状態判定装置の構成を示すブロック図である。例えば、
運転者の運転に対する集中度に基づき、運転者に対して警告または制動などの運転支援を行う安全運転支援システム(図示せず)において、本実施の形態に係る状態判定装置40(図19)は、運転者の状態として、運転者の運転に対する集中度の判定を行う。つまり、本実施の形態に係る状態判定装置40は、運転者の運転に対する集中度の状態を判定する集中度判定装置である。
【0092】
なお、図19において、実施の形態1(図2)と同一構成である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0093】
図19において、集中度判定部41は、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値と、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値とに基づいて、運転者の運転に対する集中度を判定する。また、集中度判定部41は、運転者の運転に対する集中度が低いと判定した場合、さらに、集中度対応テーブル42を参照して、複数の集中度を示すレベル(集中度レベル)の中から、集中度レベルを判定する。
【0094】
図20は、本実施の形態に係る集中度判定部41の内部構成を示すブロック図である。図20に示すように、集中度判定部41は、第1集中度判定部401と第2集中度判定部402とを備えている。
【0095】
第1集中度判定部401は、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値(眼球停留関連電位特徴量)が所定の閾値(例えば、閾値Thλ)以下であるか否かを判定する。すなわち、第1集中度判定部401は、ラムダ反応振幅値と所定の閾値とを比較することによって、集中度判定処理を行う。第1集中度判定部401は、ラムダ反応振幅値に対する判定結果を第2集中度判定部402に出力する。具体的には、第1集中度判定部401は、ラムダ反応振幅値が所定の閾値より大きい場合、運転者が集中している状態(集中度が高い状態)であると判定する。
【0096】
第2集中度判定部402は、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値(α波特徴量)が所定の閾値(例えば、閾値Thα)以上であるか否かを判定する。すなわち、第2集中度判定部402は、α波パワースペクトル値と所定の閾値とを比較することによって、集中度判定処理を行う。第2集中度判定部402での集中度判定処理は、例えば、第1集中度判定部401から入力される判定結果が、ラムダ反応振幅値が所定の閾値以下であることを示す場合のみ行われる。
【0097】
具体的には、第2集中度判定部402は、α波パワースペクトル値が所定の閾値以上の場合、運転者が運転に対して注意散漫の状態(集中度が低い状態)であると判定する。一方、第2集中度判定部402は、α波パワースペクトル値が所定の閾値未満の場合、運転者が集中している状態(集中度が高い状態)であると判定する。また、第2集中度判定部402は、α波パワースペクトル値に対する集中度判定の結果、運転者の運転に対する集中度が低いと判定した場合(α波パワースペクトル値が所定の閾値以上であると判定した場合)、さらに、集中度対応テーブル42を参照して、複数の集中度レベルの中から、運転者の集中度レベルを判定する。
【0098】
以上、集中度判定部41の内部構成について説明した。
【0099】
集中度対応テーブル42は、複数の集中度レベルと、α波パワースペクトルおよびラムダ反応振幅値との対応関係が定義された情報を格納する。
【0100】
[状態判定装置40の動作]
次に、上述のように構成された状態判定装置40の動作について説明する。
【0101】
実施の形態1と同様、本発明者らは、α波パワースペクトル値およびラムダ反応振幅値に基づいて、運転者の運転に対する集中度を精度良く判定可能であることに着目した。
【0102】
まず、本発明者らによる実験により得られた新たな知見に基づいて着目した集中度判定方法について説明する。
【0103】
図21は、実施の形態1と同様、図6に示す条件(覚醒度および集中度の状態の組み合わせ)に従って抽出した運転者の脳波信号から算出されたα波パワースペクトル値およびラムダ反応振幅値を、覚醒度状態および集中度状態の組み合わせ毎にプロットした結果を示す。図21において、横軸はα波パワースペクトル値[μV]を示し、縦軸はラムダ反応振幅値[μV]を示す。また、図21において、「■」は運転集中時(集中度:高)、かつ、覚醒度が高い条件での結果を示し、「◇」は注意散漫時(集中度:低)、かつ、覚醒度が高い条件での結果を示し、「▲」は運転集中時(集中度:高)、かつ、覚醒度が低い条件での結果を示し、「○」は注意散漫時(集中度:低)、かつ、覚醒度が低い条件での結果を示す。つまり、図21は、図7(実施の形態1:覚醒度に着目した標記)と同一の結果に対して、運転者の運転に対する集中度に着目した表記である。
【0104】
図21に示すように、覚醒度が高い状態においては、運転者の運転に対する集中度が高い状態から低い状態へ変化した場合(■→◇)、ラムダ反応振幅値が減少し、α波パワースペクトル値が増加することが分かる。
【0105】
一方、図21に示すように、覚醒度が低い状態においては、運転者の運転に対する集中度が高い状態から低い状態へ変化した場合(▲→○)、ラムダ反応振幅値が減少し、α波パワースペクトル値が増加することが分かる。
【0106】
以上より、覚醒度がいずれの状態でも、従来の知見通り、運転者の運転に対する集中度の低下に伴いラムダ反応振幅値が減少する。また、覚醒度がいずれの状態でも、運転者の運転に対する集中度の低下に伴いα波パワースペクトル値が増加するという新たな知見が得られた。これは、集中度の低下(運転者の視覚情報に対する注意量の低下)に伴って運転者における情報処理負荷が低下するためと考えられる。
【0107】
このため、従来技術のように、ラムダ反応振幅値のみを用いて運転者の運転に対する集中度を判定する場合には、例えば、覚醒度が高い状態において、集中度を正確に判定することができないことが発生してしまう。具体的には、図21に示す「■」は、集中度が高く、かつ、覚醒度が高い場合の結果である。しかし、従来技術では、ラムダ反応振幅値のみに着目するので、図7に示す「■」の状態(ラムダ反応振幅値が比較的小さい場合)を、運転に対する集中度が低下していると判定してしまう可能性がある。よって、従来技術(ラムダ反応振幅値のみを用いる場合)では、運転者の覚醒度が高い場合には、集中度判定の精度が劣化してしまう。
【0108】
このように、運転者の覚醒度と運転に対する集中度とは密接に関連しており、相互の状態に影響を受ける。すなわち、運転者の運転に対する集中度の判定においては、ラムダ反応振幅値が変動するだけでなく、α波パワースペクトル値も変動することがあり、従来技術のように、ラムダ反応振幅値のみでは集中度を精度良く判定できない可能性がある。
【0109】
そこで、本実施の形態では、状態判定装置40は、α波パワースペクトル値、ラムダ反応振幅値、および、それぞれの値に対する所定の基準値を用いて、運転者の運転に対する集中度を判定する。具体的には、状態判定装置40は、図21に示す実験結果で得られた新たな知見より、ラムダ反応振幅値が比較的小さい場合(例えば閾値以下)でも、α波パワースペクトル値が比較的小さい場合(例えば閾値未満)には、運転者の運転に対する集中度は高いと判定する。これにより、状態判定装置40は、運転に対する集中度の低下を精度良く判定することができる。
【0110】
次に、状態判定装置40の動作について説明する。図22は、状態判定装置40の動作説明に供するフロー図である。なお、図22において、実施の形態1(図8)と同一処理である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0111】
ステップS41において、集中度判定部41の第1集中度判定部401は、ステップS06で算出されたラムダ反応振幅値と所定の閾値Thλとを比較する。「ラムダ反応振幅値≦Thλ」の場合(ステップS41:YES)、ステップS42へ進む。「ラムダ反応振幅値≦Thλ」でない場合(ステップS41:NO)、ステップS44へ進む。なお、Thλは、事前に最適な値が設定されているものとする。例えば、図21の実験結果より、Thλ=2.0[μV]と設定してもよい。
【0112】
ステップS42において、集中度判定部41の第2集中度判定部402は、ステップS05で算出されたα波パワースペクトル値と所定の閾値Thαとを比較する。「α波パワースペクトル値≧Thα」の場合(ステップS42:YES)、ステップS43へ進む。「α波パワースペクトル値≧Thα」でない場合(ステップS42:NO)、ステップS44へ進む。なお、Thαは、事前に最適な値が設定されているものとする。例えば、図21の実験結果より、Thα=0.012[μV]と設定してもよい。
【0113】
ステップS43において、集中度判定部41は、運転者の運転に対する集中度が低い状態(注意散漫の状態)であると判定する。すなわち、集中度判定部41は、ステップS41において「ラムダ反応振幅値≦Thλ」と判定され、ステップS42において、「α波パワースペクトル≧Thα」と判定された場合に、運転者の運転に対する集中度が低い状態(注意散漫状態)であると判定する。
【0114】
ステップS44において、集中度判定部41は、運転者の運転に対する集中度が高い状態(集中している状態)であると判定する。すなわち、集中度判定部41は、ステップS41において「ラムダ反応振幅値>Thλ」と判定された場合、または、ステップS42において「α波パワースペクトル<Thα」と判定された場合に、運転者の運転に対する集中度が高い状態であると判定する。
【0115】
ステップS45において、集中度判定部41は、ステップS43において集中度が低い状態であると判定されると、さらに、α波パワースペクトル値、ラムダ反応振幅値、および、集中度対応テーブルを参照することによって、複数の段階で定義される集中度のレベル(集中度レベル)を判定する。
【0116】
例えば、図23は、集中度対応テーブル42が保持する対応関係を示す図である。具体的には、図23に示す集中度対応テーブル42には、閾値Tα以上と閾値Tα未満のα波パワースペクトル値と、閾値Tλ以上と閾値Tλ未満のラムダ反応振幅値とを対応させて、集中度レベルが複数の段階で定義されている。図23では、「やや低い」、「低い」、および「非常に低い」の3段階の集中度レベルが設定されている。集中度判定部41は、ステップS05で算出されたα波パワースペクトル値およびステップS06で算出されたラムダ反応振幅値と、それぞれの値に対する閾値TαおよびTλとをそれぞれ比較して、運転者の運転に対する集中度レベルを判定する。なお、図23では、α波パワースペクトル値、ラムダ反応振幅値のそれぞれに閾値は1つ設定されている場合を一例として示しているが、それぞれの値に対して閾値を複数設けて、より細分化した集中度のレベルを判定するようにしてもよい。
【0117】
このようにして、状態判定装置40は、α波パワースペクトル値、および、ラムダ反応振幅値を用いて、運転者の運転に対する集中度を判定する。具体的には、状態判定装置40は、ラムダ反応振幅値が閾値Thλより大きい状態(例えば、図21に示す「▲」の状態)を、従来と同様、集中度が高いと判定する。さらに、状態判定装置40は、ラムダ反応振幅値が閾値Thλ以下であり、かつ、α波パワースペクトル値が閾値Thα未満の状態(例えば、図21に示す「■」の状態)も、集中度が高いと判定する。すなわち、状態判定装置40は、ラムダ反応振幅値が閾値Thλ以下であり、かつ、α波パワースペクトル値が閾値Thα以上の状態(例えば、図7に示す「◇」および「○」の状態)のみを、集中度が低いと判定する。
【0118】
こうすることで、状態判定装置40は、運転者の覚醒度の変化に影響を受けることなく、運転者の運転に対する集中度を精度良く判定することが可能になる。すなわち、状態判定装置40は、運転者の運転に対する集中度の判定において、集中度の低下に伴う運転者の情報処理負荷の低下を考慮して集中度を判定できる。これにより、例えば、運転者への情報提示、警告、または、車両の制御など、最適な安全運転支援を行うことが可能になる。
【0119】
<実施の形態5>
図24は、本実施の形態に係る状態判定装置50の構成を示すブロック図である。なお、図24において、実施の形態4(図19)と同一構成である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。図24に示す状態判定装置50は、図19に示す状態判定装置40と比較して、集中度対応テーブルが削除され、集中度判定部51の動作が異なる。
【0120】
図24において、集中度判定部51は、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値と、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値とから得られる集中度評価値を用いて、運転者の運転に対する集中度を判定する。
【0121】
図25は、本実施の形態に係る集中度判定部51の内部構成を示すブロック図である。図25に示すように、集中度判定部51は、集中度評価値算出部501と、評価値判定部502とを備えている。
【0122】
集中度評価値算出部501は、α波パワースペクトル値とラムダ反応振幅値とから、集中度評価値を算出する。具体的には、集中度評価値算出部501は、α波パワースペクトル値とラムダ反応振幅値とからなる2次元平面上において、所定の境界線(判別線)を用いて、集中度評価値を算出する。集中度評価値は、運転者の運転に対する集中度を判定するために用いられる値である。例えば、集中度評価値は、実験などにより予め設定された集中度評価値算出式に従って算出される。
【0123】
評価値判定部502は、集中度評価値算出部501で算出された集中度評価値と、実験などにより予め設定された基準値(閾値)とを比較し、運転に対する集中度を判定する。
【0124】
次に、本実施の形態に係る状態判定装置50の動作について説明する。
【0125】
図26は、状態判定装置50の動作説明に供するフロー図である。なお、図26において、実施の形態4(図22)と同一処理である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0126】
ステップS51において、集中度判定部51の集中度評価値算出部501は、ステップS05で算出された各時点におけるα波パワースペクトル値(αt)、および、ステップS06で算出された各時点におけるラムダ反応振幅値(λt)に対して、式(4)に示す集中度評価値算出式に従って、集中度評価値(A)を算出する。
【数4】

【0127】
式(4)に示す集中度評価値算出式は、α波パワースペクトル値(α)とラムダ反応振幅値(λ)とからなるα−λの2次元平面において、α波パワースペクトル値が増加する場合にラムダ反応振幅値も増加することを特徴とする式である。すなわち、式(4)において、係数aおよび係数bの正負の符号が異なることを特徴とする。集中度評価値算出部501は、各時点で取得するα波パワースペクトル値(αt)およびラムダ反応振幅値(λt)を式(4)に代入することにより、覚醒度評価値Aを算出する。
【0128】
集中度評価値Aの算出方法について図27を用いて説明する。図27は、図21に示す実験結果を学習データとして、集中度が高い状態と集中度が低い状態とを判別するために、線形判別分析を行った結果である。なお、図27において、集中度が高い状態の学習データとして、運転集中時(集中度:高)かつ覚醒度が高い場合の結果、および、運転集中時(集中度:高)かつ覚醒度が低い場合の結果を用いて、集中度が低い状態の学習データとして、注意散漫時(集中度:低)かつ覚醒度が高い場合の結果、および、注意散漫時(集中度:低)かつ覚醒度が低い場合の結果を用いて、線形判別分析を行うとする。この結果として、例えば、図27および次式(5)に示す判別直線(上記所定の境界線)が得られる。
【数5】

【0129】
そして、式(5)に示す判別直線に基づいて、次式(6)に示す集中度評価値算出式が導出される。
【数6】

【0130】
ステップS52において、集中度判定部51の評価値判定部502は、ステップS51で算出された集中度評価値Aと、予め実験などにより設定された基準値Thaとを比較較することにより、運転者の運転に対する集中度を判定する。例えば、集中度評価値算出式を式(6)で表現した場合、基準値Thaは0となる。よって、評価値判定部502は、A≧0であれば(ステップ52:YES)、ステップS44において集中度が高いと判定する。一方、評価値判定部502は、A<0であれば(ステップS52:NO)、ステップS43において集中度が低いと判別する。なお、A≧0の状態の(αt,λt)は、図27に示す判別直線上よりも上の領域(判別直線上を含む)に相当し、A<0の状態の(αt,λt)は、図27に示す判別直線上よりも下の領域(判別直線上を含まず)に相当する。
【0131】
また、評価値判定部502は、集中度評価値Aと、運転者の集中度レベルとの関係を実験などにより予め学習することにより、例えば、図28に示す対応関係を示すテーブルに基づいて、集中度レベルを判定してもよい。図28において、A1およびA2は予め設定された、集中度評価値Aに対する閾値を示す。
【0132】
このように、状態判定装置50は、実施の形態4(状態判定装置40)と同様、α波パワースペクトル値、および、ラムダ反応振幅値を用いて、運転者の運転に対する集中度を判定する。ただし、実施の形態4(状態判定装置40)では集中度対応テーブルを用いて複数の集中度レベルの中から運転者の集中度レベルを判定したのに対して、本実施の形態では、状態判定装置50は、α−λの2次元平面における集中度評価値Aに基づいて、運転者の集中度レベルを判定する。
【0133】
こうする場合でも、実施の形態4と同様、状態判定装置50は、運転者の運転に対する集中度の判定において、運転者の覚醒度の変化を考慮して集中度を判定できる。よって、状態判定装置50は、運転者の覚醒度の変化に影響を受けることなく、運転者の運転に対する集中度を精度良く判定することが可能になる。これにより、例えば、運転者の運転に対する集中度に応じて、運転者への情報提示、警告、または、車両の制御など、最適な安全運転支援を行うことが可能になる。
【0134】
なお、本実施の形態における判別直線(集中度評価値算出式)は、直線で表されるものに限定されるものでなく、双曲線、二次曲線などのような曲線で表されるものであってもよい。
【0135】
<実施の形態6>
図29は、本実施の形態に係る状態判定装置60の構成を示すブロック図である。なお、図29において、実施の形態4(図19)と同一構成である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0136】
図29において、環境検出部61は、運転者の視覚情報に対する処理負荷を高める周辺環境の検出を行う。一般に、高速道路または単調な直線単路と比較して、交差点または市街地などの複雑な運転環境になるほど、運転者の視覚情報に対する処理負荷が高まると考えられている。そこで、環境検出部61は、例えば、カーナビゲーションシステムの地図情報から、道路種別(高速道路/一般道路)、道路形状(直線、カーブ、交差点)などの周辺環境の状況を取得してもよい。または、環境検出部61は、ルームミラー付近または車両の先端部に設置された、車両前方を監視するカメラなどにより取得された周辺画像を画像解析することにより、周辺環境の状況を取得してもよい。
【0137】
基準値補正部62は、環境検出部61において複雑な周辺環境(運転者の視覚情報に対する処理負荷を高める周辺環境)が検出された場合、αパワースペクトル値の判定閾値(基準値)Thαを補正する。複雑な周辺環境が検出された場合には、運転者の視覚情報に対する処理負荷が高まるため、α波の出現が抑制されると考えられる。そこで、基準値補正部62は、検出された周辺環境に応じて、判定閾値Thαを通常の場合(例えば、単純な運転環境)よりも低い値に補正する。基準値補正部62は、補正後の判定閾値Thαを集中度判定部41aに出力する。これにより、状態判定装置60では、抑制されたα波についても精度良く判定可能となり、集中度の判定精度の向上を図ることができる。
【0138】
集中度判定部41aは、実施の形態4と同様、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値と、眼球停留関連電位特徴量算出部14で算出されたラムダ反応振幅値とを用いて、運転者の運転に対する集中度を判定する。ただし、集中度判定部41aでは、α波パワースペクトル値に対する集中度判定処理の際、基準値補正部62から入力される判定閾値Thα(補正後の判定閾値)に従って集中度判定処理を行う点のみが実施の形態4と異なる。
【0139】
図30は、本実施の形態に係る集中度判定部41aの内部構成を示すブロック図である。図30に示すように、集中度判定部41aは、第1集中度判定部401と、第2集中度判定部402aとを備え、第2集中度判定部402aの動作のみが、実施の形態4(図20)と異なる。具体的には、第2集中度判定部402aは、基準値補正部62から入力される補正後の判定閾値(例えば、閾値Thα)と、α波特徴量算出部13で算出されたα波パワースペクトル値とを比較する。
【0140】
次に、本実施の形態に係る状態判定装置60の動作について説明する。
【0141】
図31は、状態判定装置60の動作説明に供するフロー図である。なお、図31において、実施の形態4(図22)と同一処理である部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0142】
ステップS61において、環境検出部61は、ステップS01およびステップS02で各情報が取得される所定区間TWにおける、道路種別、道路形状などの周辺環境を取得する。例えば、環境検出部61は、道路の混雑状況などを取得してもよい。
【0143】
ステップS62において、基準値補正部62は、ステップS61において検出された周辺環境に応じて、αパワースペクトル値の判定閾値Thαを補正する。例えば、基準値補正部62は、図32に示す、周辺環境に関する対応テーブルに基づいて、αパワースペクトル値の判定閾値Thαを補正してもよい。図32では、周辺環境として、道路種別、道路形状、および、道路状況の3つの項目が設定されている。また、図32では、各項目について、運転者に必要な視覚情報処理負荷が高い環境と、運転者に必要な視覚情報処理負荷が低い環境とが対応付けられている。基準値補正部62は、図32において運転者に必要な視覚情報処理負荷が高い環境では、判定閾値Thαを通常(例えば、運転者に必要な視覚情報処理負荷が低い環境の場合)よりも低い値に補正する。なお、基準値補正部62は、図32に示す対応テーブル(道路種別、道路形状、道路状況)の中で、少なくとも一項目でも、高い視覚情報処理負荷が必要な環境がある場合には閾値Thαを通常よりも低く設定してもよい。または、基準地補正部62は、図32に示す対応テーブル(道路種別、道路形状、道路状況)の中で、高い視覚情報処理負荷を必要とする項目数に応じて、判定閾値Thαの減少値を変更してもよい。
【0144】
ステップS63において、集中度判定部41aの第2集中度判定部402aは、ステップS05で算出されたα波パワースペクトル値と、S62で補正された判定閾値Thαとを比較する。
【0145】
こうすることで、状態判定装置60は、周辺環境に対する運転者の視覚情報処理負荷の大きさに応じて変動するα波パワースペクトル値に対応する適切な判定閾値(基準値)を用いて、集中度判定処理を行うことができる。これにより、本実施の形態では、周辺環境に対する運転者の視覚情報処理負荷を考慮して運転者の運転に対する集中度を精度良く判定することができる。よって、例えば、運転者への情報提示、警告、または、車両の制御など、最適な安全運転支援を行うことが可能になる。
【0146】
以上、本発明の各実施の形態について説明した。
【0147】
なお、上記各実施の形態では、α波パワースペクトル値およびラムダ反応振幅値の算出結果に基づいて覚醒度または集中度を算出する場合について説明した。しかし、α波パワースペクトル値およびラムダ反応振幅値の両指標の被験者間での個人差が大きい場合には、覚醒度および集中度の判定精度が低下することが考えられる。そこで、両指標について、基準値(閾値)との差分、または、基準値(閾値)との比率を被験者ごとに算出して、判定に用いてもよい。
【0148】
具体的には、運転直前または日常生活における両指標を基準値として予め算出しておき、運転中に算出される両指標に対して、予め算出した基準値との差分、または、予め算出した基準値との比率を計算することにより、正規化された指標(正規化α波パワースペクトル値、正規化ラムダ反応振幅値)を算出してもよい。正規化された両指標に対して、同様に正規化されたデータを用いた学習を通じて取得した閾値または判別式を用いることにより、被験者間の個人差による影響を低減して、覚醒度または集中度を判定ことができる。
【0149】
また、上記各実施の形態では、α波特徴量としてα波パワースペクトル値を使用する場合について説明した。しかし、α波パワースペクトル値の被験者間での個人差が大きい場合には、α波特徴量として、α波含有率を使用してもよい。α波含有率は、全帯域のパワースペクトル値に対するα波のパワースペクトル値の割合であってもよく、α波、β波などの特定の周波数帯域に対するα波のパワースペクトル値の割合であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明にかかる状態判定装置は、車両や電車に搭載される、覚醒度または集中度の低下の防止を目的とした安全運転支援システムとして有用である。
【符号の説明】
【0151】
10,20,30,40,50,60 状態判定装置
11 脳波信号取得部
12 眼球移動量取得部
13 α波特徴量算出部
14 眼球停留関連電位特徴量算出部
15,15a,21 覚醒度判定部
16 覚醒度対応テーブル
101 第1覚醒度判定部
102,102a 第2覚醒度判定部
201 覚醒度評価値算出部
202 評価値判定部
31 行動検出部
32,62 基準値補正部
41,41a,51 集中度判定部
42 集中度対応テーブル
401 第1集中度判定部
402,402a 第2集中度判定部
501 集中度評価値算出部
502 評価値判定部
61 環境検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳波信号に基づいて、前記被験者の状態を判定する状態判定装置であって、
前記脳波信号からα波の特徴量を算出するα波特徴量算出手段と、
前記被験者の眼球移動量および前記脳波信号に基づいて、眼球停留関連電位の特徴量を算出する眼球停留関連電位特徴量算出手段と、
前記α波特徴量算出手段において算出された前記α波の特徴量と、前記眼球関連電位特徴量算出手段において算出された前記眼球関連電位の特徴量とに基づいて、前記被験者の覚醒度または前記被験者の集中度を判定する判定手段と、
を具備する状態判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、
前記α波の特徴量と、第1の基準値とを比較することによって、前記覚醒度を判定する第1覚醒度判定手段と、
前記第1覚醒度判定手段で前記α波の特徴量が前記第1の基準値以上であると判定された場合に、前記眼球関連電位の特徴量と第2の基準値とを比較することによって、前記覚醒度を判定する第2覚醒度判定手段と、を具備する、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項3】
前記第1覚醒度判定手段は、前記α波の特徴量が前記第1の基準値未満の場合、前記覚醒度が高い状態であると判定し、
前記第2覚醒度判定手段は、前記眼球関連電位の特徴量が前記第2の基準値未満の場合、前記覚醒度が高い状態であると判定し、前記眼球関連電位の特徴量が前記第2の基準値以上の場合、前記覚醒度が低い状態であると判定する、
請求項2に記載の状態判定装置。
【請求項4】
前記α波の特徴量と、前記眼球停留関連電位の特徴量と、前記第1の基準値と、前記第2の基準値とを対応させて前記覚醒度のレベルが複数の段階で定義された対応テーブルを、さらに具備し、
前記判定手段は、前記第2覚醒度判定手段において前記眼球停留関連電位の特徴量が前記第2の基準値以上であると判定された場合、前記対応テーブルを参照して、前記複数の段階の中から、前記被験者の前記覚醒度のレベルを判定する、
請求項2に記載の状態判定装置。
【請求項5】
前記被験者が意識的に注意を高める注意行動を検出する検出手段と、
前記検出手段で前記注意行動が検出された場合に、前記第2の基準値を補正する補正手段と、をさらに具備する、
請求項2に記載の状態判定装置。
【請求項6】
前記判定手段は、
前記眼球停留関連電位の特徴量と、第3の基準値とを比較することによって、前記集中度を判定する第1集中度判定手段と、
前記第1集中度判定手段で前記眼球停留関連電位の特徴量が前記第3の基準値以下であると判定された場合に、前記α波の特徴量と第4の基準値とを比較することによって、前記集中度を判定する第2集中度判定手段と、を具備する、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項7】
前記第1集中度判定手段は、前記眼球停留関連電位の特徴量が前記第3の基準値より大きい場合、前記集中度が高い状態であると判定し、
前記第2集中度判定手段は、前記α波の特徴量が前記第4の基準値以上の場合、前記集中度が低い状態であると判定し、前記α波の特徴量が前記第4の基準値未満の場合、前記集中度が高い状態であると判定する、
請求項6に記載の状態判定装置。
【請求項8】
前記α波の特徴量と、前記眼球停留関連電位の特徴量と、前記第3の基準値と、前記第4の基準値とを対応させて前記集中度のレベルが複数の段階で定義された対応テーブルを、さらに具備し、
前記判定手段は、前記第2集中度判定手段において前記α波特徴量が前記第4の基準値以上であると判断された場合、前記対応テーブルを参照して、前記複数の段階の中から、前記被験者の前記集中度のレベルを判定する、
請求項6に記載の状態判定装置。
【請求項9】
前記被験者の周辺環境を取得する取得手段と、
前記取得手段で前記被験者の視覚情報処理負荷を高める前記周辺環境が取得された場合に、前記第4の基準値を補正する補正手段と、をさらに具備する、
請求項6に記載の状態判定装置。
【請求項10】
前記判定手段は、
前記α波の特徴量と前記眼球停留関連電位の特徴量とからなる2次元平面上において、所定の境界線を用いて覚醒度評価値を算出する覚醒度評価値算出手段と、
前記覚醒度評価値算出手段で算出された前記覚醒度評価値と、所定の基準値とに基づいて、前記覚醒度を判定する評価値判定手段と、を具備し、
前記所定の境界線は、前記α波の特徴量が増加する場合に前記眼球停留関連電位の特徴量が低下することを特徴とする、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項11】
前記判定手段は、
前記α波の特徴量と前記眼球停留関連電位の特徴量とからなる2次元平面上において、所定の境界線を用いて集中度評価値を算出する集中度評価値算出手段と、
前記集中度評価値算出手段で算出された前記集中度評価値と、所定の基準値とに基づいて、前記集中度を判定する評価値判定手段と、を具備し、
前記所定の境界線は、前記α波の特徴量が増加する場合に前記眼球停留関連電位の特徴量が増加することを特徴とする、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項12】
前記眼球停留関連電位特徴量算出手段は、前記眼球移動量からサッケード終了時直前のサッケード眼球変位量を算出し、前記眼球停留関連電位の特徴量を前記サッケード眼球変位量で除算して正規化し、
前記判定手段は、正規化された前記眼球停留関連電位の特徴量を用いて、前記覚醒度または前記集中度を判定する、
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項13】
被験者の脳波信号に基づいて、前記被験者の状態を判定する状態判定方法であって、
前記脳波信号からα波の特徴量を算出し、
前記被験者の眼球移動量および前記脳波信号に基づいて、眼球停留関連電位の特徴量を算出し、
算出された前記α波の特徴量と、算出された前記眼球関連電位の特徴量とに基づいて、前記被験者の覚醒度または前記被験者の集中度を判定する、
状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2013−111348(P2013−111348A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261611(P2011−261611)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】