説明

球状シリコン結晶及びその製造方法

【課題】 シリコン原料を直接球状シリコン単結晶にするとともに、その歩留りを大幅に向上させる。
【解決手段】 高純度粉末状シリコン22を、表面が微細な凹凸構造をし、多数の窪みを有する高純度セラミックス又は石英ガラス又は高純度多孔質セラミックス容器の前記窪み内に収容する。不活性ガス又は高純度不活性ガスにシランガス又はハロゲン化珪素ガスを添加した雰囲気下で前記窪み内の粉末状シリコン22を融解させて前記窪み内に溌液状シリコン23を生成し、その溌液状シリコン23を冷却して球状シリコン結晶を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状シリコン結晶及びその製造方法に関し、より詳しくは、高純度粉末状シリコンを原料とし、切断などの加工を経ずに直接太陽電池用球状シリコン結晶を製造することのできる無駄の無い安価な製造方法を実現することで、資源の有効利用とシリコン太陽電池の大幅なコスト低減を可能にする球状シリコン結晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電による電気エネルギーの確保は、化石資源の枯渇、環境の悪化、各国のエネルギー不足などの深刻な諸問題の解決に重要な課題であり、世界経済の安定的発展には不可欠である。それ故に先進各国では国費を投じて1960年代から40年以上に渡り高効率な太陽電池とその安価な製造方法の開発に取り組んできている。その結果、現在各国の民間企業による量産化が行われており、特に2003年以降はドイツを中心にヨーロッパ各国での太陽光発電導入への優遇政策による需要の急増で、年率30%以上の驚異的な生産拡大が続いている。ところがこのような商業生産が始まっているにもかかわらず、太陽光発電のコストダウンの障害となっている技術的問題が残されている。それは現在のシリコン基板製造技術では原料の約半分しか利用されず、コストダウンの見通しが得られないままで量産化が進んでいることである。つまり、太陽電池の無駄の無い安価な製造方法は未だに実現されていない。
【0003】
今日の太陽電池は素材の種類やその形態・構造で大きく3つに分類できる。その1番目にあるのが結晶系シリコンで、これには単結晶素材と多結晶素材があり、これらを基板にした太陽電池は世界総生産量の約90%の高い比率を占めている。2番目の太陽電池は薄膜シリコン系で、これはアモルファスシリコンと微結晶シリコン薄膜を用いており、これの世界総生産量は7〜8%の比率である。3番目の太陽電池はシリコンを用いない化合物半導体薄膜系である。この場合の素材はガリウム砒素、銅・インジウム・セレン化合物、テルル化カドミウムなどの希少資源を利用したものであり、これの世界総生産量は2〜3%の比率である。
【0004】
上記3種類の太陽電池の内、結晶系シリコンを基板として用いた太陽電池は発電効率が高く、かつその経時劣化が無い、資源の枯渇が無い、材料に毒性が無いなどの理由により、最も早くから実用化されてきた。ところが現在の結晶系シリコン基板を用いる生産手法には前記の問題点を抱えているために、シリコン原料不足や高騰を招いており、急増している需要を現在の手法で今後満たすことが困難あると予測されている。それを打開するために、素材はシリコンで、原料を有効利用した新たな製法や形状の太陽電池や他の素材での太陽電池の登場が必須になってきた(非特許文献1、2参照)。
【0005】
現状の結晶系シリコン基板の製法は、まず高純度シリコン原料を用いて引き上げ法により単結晶インゴット(直径200mm、長さ800mm程度)を、又はキャスト法により多結晶インゴット(600×600×300mm程度)を作る。これらを帯鋸(バンドソー)などを用いて150×150×300mmのシリコンブロックに一旦整形し、このシリコンブロックからマルチワイヤーソーによる切断で、150×150×0.3mm程度の大きさの太陽電池用基板を数百枚得るという方法である。問題はこの後工程で、インゴットを機械的に切断する方法によりシリコン基板を得るところにある。つまり切断に用いる刃が当たる厚さ分(切断の切り代相当分)のシリコン結晶は削り取られシリコン微粒子となり、切断時に用いる水、油及び研磨剤などと混濁した汚泥となる。特にマルチワイヤーソーを用いて数百枚のシリコン基板を得る工程では、ワイヤーの太さ約0.3mmとシリコン基板の数を掛けた量、すなわちシリコンインゴットの約半分は切断汚泥となる。ここで発生する切断汚泥には研磨剤や金属ワイヤーの成分(鉄やニッケル)が混入しているために再度原料に用いることは困難であり、仮にこれを精製して原料への有効利用を図るにしても精製コストがかかり新品の原料より高くなる。結局現在の結晶系シリコン基板の製造方法では原料の約半分は無駄にしている。しかも切断に用いるマルチワイヤーソーは1台数千万円と高価であり、特にシリコンのような切断困難な材料は、インゴットから150mm角の基板を切り出して加工するのに相当の時間がかかり極めて作業効率が悪い。
【0006】
このようにシリコンインゴットを用いてシリコンブロックからシリコン基板を得る現在の製法は、原料費、加工費、設備費などのコストがかかり、太陽電池のコストダウンを阻害している。図8は過去に公開された資料に基づいて、原料101からインゴット102、シリコン基板103、セル104を経てモジュール105になるまでの製造の流れとコスト内訳を示す。これよりシリコン基板103の製造コストが全体の約50%を占めており、この部分の高コストが問題となっていることが分かる。
【0007】
これらの問題点を解決する方法として、シリコン原料を直接球状シリコン結晶にして、これを基板として使う方法が提案された。太陽電池用基板として球状シリコン結晶を使用する利点は二つある。その一つは、現在の結晶系シリコン基板に較べてシリコン原料の使用量を1/5乃至1/8に減らせることである。例えば直径1mm前後の球状シリコンを樹脂やガラス等の基板上に敷き詰めるか、或いは太陽光を凹面鏡やレンズで集光する方式でそれらをまばらに置くか、どちらの方法を取っても単位面積当たりのシリコン原料の使用量が大幅に少なくなることが明確になっている。(非特許文献3参照)。もう一つの利点は、切断工程を経ずに直接製造できることにある。従って、球状シリコン結晶の利用が可能になれば、原料の使用量の大幅削減と直接製造工程という利点により製造コストの削減、ひいては太陽電池システム価格の低下が図れ、普及拡大へと繋がることが期待できる。
【0008】
上述した球状シリコン結晶は落下方式で製造されており、その概略を図9を用いて説明する。電気炉114内のルツボ111に入れられたシリコン原料は、ヒーター112で加熱され熔融シリコン113になる。ルツボ111の上部のガス配管部よりアルゴンガス115で加圧すると、熔融シリコン113はルツボ111下部に開けられている直径0.5mm程度のノズルからシリコン液滴116になりルツボ外へ押し出され、長さ14m程度の落下塔117の中を重力で加速され落下していく。ルツボ外の空間に押し出されたシリコン液滴116はその表面張力で球状になり、落下にともなって冷却されて固化・結晶化された球状シリコン結晶118が落下塔117下部の収納部118で集められる。この方法ではアルゴンガス115での加圧の仕方、ノズルの形状などを調整することで1秒間に数百個以上の球状シリコンが得られ、高速製造法として量産性に優れていると言われている。
【0009】
このような落下方式で得られる球状シリコン結晶が太陽電池用の品質を備えているかどうかを、不純物の種類や量、結晶欠陥の多少とそれらに伴ったキャリアライフタイムの測定などで見極めをしている。その結果、得られる球状シリコン結晶の内でキャリアライフタイムが1μsec(マイクロ秒)を越えて太陽電池用に使用できる結晶の割合は現在50%程度と報告されている(非特許文献4参照)。
【0010】
しかしながら、落下方式による球状シリコン結晶の歩留まりを更に高めることは困難なことが予想される。その理由は、落下方式によるシリコン結晶の固化・結晶化速度は、約数百℃/秒という異常な速さの中での過冷却状態で行われるために、生成される球状結晶の殆どが多結晶であるからである。しかも高速で落下中の熔融したシリコン球は、その外部表面より固化しているために高密度の結晶欠陥を内蔵しているものが半分程度できてしまう。これらはキャリアライフタイムが0.1μsec以下であるため太陽電池用には使えず、これが歩留まり低下の原因である。従って、落下方式は、切断工程を経ることなく原料を直接球状シリコン結晶へ転換できるという利点はあるものの、原料の利用率が現在50%程度という難点も抱えている。
【0011】
【非特許文献1】日経マイクロデバイス、2006年3月号、P25
【非特許文献2】日経エレクトロニクス、2006年3月13日号、P103
【非特許文献3】オプトニュース(2006)、No.1、P24
【非特許文献4】平成17年度「太陽光発電技術開発及び関連事業」に関する成果報告会予稿集、平成18年9月29日、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、シリコン原料を直接球状シリコン結晶にするとともに、その歩留りを大幅に向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、多数の窪みを有する基板の上に溶融シリコンに対して溌液性を付与する離型層を形成し、その中で高純度シリコンを溶融、固化せしめることにより得られる球状シリコン結晶である。
請求項2発明は、高純度粉末状シリコンを原料とし、高純度不活性ガス雰囲気下で、表面が微細な凹凸構造をし、多数の窪みを有する高純度セラミックス又は石英ガラス容器の前記窪み内の溌液状シリコンから得られる球状シリコン結晶である。
請求項3の発明は、請求項2記載の球状シリコン結晶において、前記高純度セラミックス又は石英ガラスの表面に高純度窒化物粉末が塗布されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項3記載の球状シリコン結晶において、前記高純度セラミックスが高純度多孔質セラミックスであることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項3又は4記載の球状シリコン結晶において、前記高純度窒化物粉末が高純度窒化アルミ粉末であることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項3又は4記載の球状シリコン結晶において、前記高純度窒化物粉末が高純度窒化珪素粉末であることを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項6記載の球状シリコン結晶において、前記高純度窒化珪素粉末が高純度β型窒化珪素粉末であることを特徴とする。ここで、高純度β型窒化珪素粉末は、1〜50ミクロンの粒度を有するものが望ましい。
請求項8の発明は、高純度粉末状シリコンを原料とし、高純度不活性ガスに濃度10%以下のシランガス又は濃度10%以下のハロゲン化珪素ガスを添加した雰囲気下で、高純度窒化物粉末を塗布した、表面が微細な凹凸構造をし、多数の窪みを有する高純度セラミックス又は石英ガラス又は高純度多孔質セラミックス容器の前記窪み内の溌液状シリコンから得られる球状シリコン結晶である。
請求項9の発明は、多数の窪みを有する基板の上に溶融シリコンに対して溌液性を付与する離型層を形成し、その窪みの中で高純度シリコンを溶融、固化させることにより、球状シリコン結晶を得ることを特徴とする球状シリコン結晶の製造方法である。
請求項10の発明は、高純度粉末状シリコンを、表面が微細な凹凸構造をし、多数の窪みを有する高純度セラミックス又は石英ガラス又は高純度多孔質セラミックス容器の前記窪み内に収容し、不活性ガス又は高純度不活性ガスにシランガス又はハロゲン化珪素ガスを添加した雰囲気下で前記窪み内の粉末状シリコンを融解させて前記窪み内に溌液状シリコンを生成し、その溌液状シリコンを冷却して直径が5mm以下の球状シリコン結晶を得ることを特徴とする球状シリコン結晶の製造方法である。
請求項11の発明は、請求項10記載の球状シリコン結晶の製造方法において、前記窪みの底面の形状を平面にしたことを特徴とする。
請求項12の発明は、請求項11記載の球状シリコン結晶の製造方法において、前記溌液状シリコンの冷却速度を毎時200℃以下にしたことを特徴とする。
ここで、高純度不活性ガスとは、純度が6N(99.9999%)以上の不活性ガスである。又、粉末状シリコンとは、大きさ500ミクロン(0.5mm)以下の微小粒シリコン、粗粉シリコン、微細粉シリコン、微小粉シリコン、及び極微細粉シリコンの総称であり、高純度粉末状シリコンとは、純度6N(99.9999%)以上の粉末状シリコンを意味する。さらに、溌液状とは、溌液性を有する状態であり、溌液性とは元素や各種素材が高温で融けて、その融液を支える基板や容器の表面で「濡れない状態」にあることを意味する。融液が水の場合には濡れ性のない状態を表す「撥水性」という用語があるが、「溌液性」は「撥水性」とは異なり、より幅広い温度領域での濡れ性のない状態を普遍的に表す造語である(「金属」2005年8月号、P35、「結晶成長における溌液性付与の効果」)。又、球状シリコン結晶とは、球状シリコン単結晶及び球状シリコン多結晶の総称である。
【0014】
(作用)
本発明によれば、多数の窪みを有する基板の上に溶融シリコンに対して溌液性を付与する離型層を形成し、その窪みの中で高純度シリコンを溶融、固化させることにより、球状シリコン結晶を得る。又、本発明によれば、表面に微細な凹凸を有する高純度セラミックス又は石英ガラスの容器の表面に多数の窪みを形成し、その窪みの中に高純度粉末シリコン粉末を入れ、この粉末を高純度不活性ガス雰囲気中で高温にして熔融させることで溌液状のシリコン融液を生成し、それを冷却することにより、球状シリコン結晶を得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下に示すような効果が得られる。
(1)原料の殆どを球状シリコン結晶に転換でき、原料利用率が高く無駄が無い。
(2)得られる球状シリコン結晶は殆どが単結晶であり、品質が高い。
(3)単純なプロセスであるために、簡易な構造で付属設備が少ない安価な量産化装置により、安価に製造することができる。
(4)容器材料となる石英ガラスや炭化珪素、窒化珪素セラミックスは鋳込み成型法で量産が可能であるため、安価なものが入手できる。
(5)以上のように、本発明には製造上の利点が多く、資源の有効利用とシリコン太陽電池の大幅なコスト低減が期待できる。
更に、本発明での容器と離型材との複合セラミックスは、現在のキャスト法でのシリコンインゴット製造用ルツボ、ブリッジマン法での単結晶シリコン製造用ルツボにも適用できるなど、派生的効果も充分に期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態では、落下法とは異なり、多重ルツボ法により高品質の球状シリコン結晶を多数作り、殆ど全てをキャリアライフタイム1μsec以上にし、高純度シリコン原料の利用率を100%近くに高めることを最大の特長とする。多重ルツボ法とは、石英ガラスやセラミックス上に開けた多数の窪みの中に少量ずつの高純度粉末シリコン粉末を入れ、これを高純度不活性ガス雰囲気中で1450℃の高温で熔融し、シリコン融液を溌液状にして徐々に冷却して直径1mm程度の球状シリコン結晶を得る方法である。
【0017】
ここで、シリコンを熔融して高純度のままで溌液状シリコンを自在に得ることには技術的困難を伴い、多重ルツボ法をシリコンへ適用するには重要な諸課題を解決する必要がある。そこで溌液状シリコンを得るための課題をより深く理解するために、以下に溌液性の基本的な解釈とシリコン以外の素材への多重ルツボ法の適用例について述べる。
【0018】
常温の液体の濡れ性については、水や有機物液体について古くからそのメカニズムについて解釈がなされている。この場合、液体が基板の上で濡れ性の無い状態を撥水性といい、撥水性が見られるかどうかは液体と基板との間に化学的な反応基の有無、又は表面に凹凸面が形成されて液体の接触面積をどれだけ低減できるか、で決まる。これは高温の液体の場合にも共通しており、本発明での粉末原料の濡れ性、溌液性について図1を参照しながら説明する。同図Aに示すように、基板2上の粉末原料1は高温で融解し液体になるが、基板2の上が汚れているか又は粉末原料1に不純物があると、これらが基板2と液体との間を化学的に結合する反応基となり、濡れ性を促進し、同図Bに示すように、基板2との接触角θが鋭角になるように広がった液体3がそのまま固体になる。一方、基板2と液体に反応基が無く、且つ基板2の表面に凹凸を形成して物理的に接触面を減らすと、液体は溌液状液体4になり、形状は球体に近く、接触角は180°に近づいてくる。
【0019】
このように、溌液性は極めて単純に説明できるが、熔融状態のシリコンは不活性ガス以外の殆どの元素や物質と化学反応を起こし、各種シリコン化合物を作るため、シリコンに溌液性を持たせることには困難が伴う。一方、半導体材料のゲルマニウムや光学材料のフッ化カルシウムなど、シリコン以外の材料を溌液状にして球状結晶を得ることは比較的容易であるため、まずその実験結果を交えて述べる。これらの熔融物は融点がシリコンより低く、カーボンや石英ガラスなどの容器材料と濡れ性が起き難く、又反応性が少ないことが溌液化を容易にしている。シリコン以外の材料の溌液化とそれに伴う結晶の整形方法については、本願発明者が先に出願した特願2000-216319号(特開2002-29882号公報)に記載されており、ここではフッ化物光学材料やガリウムアンチモン半導体材料について、容器材料にカーボンを用いて溌液状態を作り出し、自由表面を有する整形結晶を得ることを可能としている。本願発明者は、これらの材料で球状結晶を得るのが容易であることを裏付けるために、カーボンをルツボとし、原料に粉末材を用いて三種類の球状結晶の作成を行った。その結果を図2を参照しながら説明する。同図Aは多重ルツボ法の流れを簡単に示すものであり、まず上段の図に示すよう多数の窪みのあるルツボ5へ粉末原料1を入れ、次いで中段の図に示すように融解させ溌液状にすると融液6は表面張力により球状になり、下段の図に示すように冷却して固化・結晶化することで球状結晶7が得られる。同図Bはこの様なプロセスで得られた直径5mmの塩化カリウム(融点:768℃)、直径2mmのゲルマニウム(融点:936℃)及びフッ化カルシウム(融点:1396℃)の球状結晶の写真である。この場合のルツボ5の材料はいずれもカーボンを用い、雰囲気は真空、アルゴンガス、水素ガスなどである。これらの材料は赤外線や紫外線の光学材料に有用な素材であるが、いずれも使用目的に必要な純度を保っており、最初の粉末原料から球状結晶に至るまで汚染されることなく得られている。このようにシリコン以外の素材を用い、それらの高純度粉末原料を溌液状融液にし、直径5mm以下程度の球状結晶を得ることは困難でない。
【0020】
ここで注目すべき点は、得られた塩化カリウム、ゲルマニウム、フッ化カルシウムの球状結晶の殆どが単結晶化していることである。一般に単結晶は、人為的に種結晶を予め用意して、その一部を融解して結晶成長させ全体を単結晶化することで得られる。しかし本実験では微小な球状単結晶が種結晶を用いることなく自発的に生成していることが発見された。この自発単結晶化は以下の理由で促進されていると解釈され、そのメカニズムを、図3を用いて説明する。同図Aでは球状の溌液状融液11が、球の最下点の小面積の融液接触界面12で基板13に支えられている。この融液11の温度を下げて結晶化させる際に、結晶化潜熱の流れは矢印「⇒」で示される一点に集中する形になる。そのために融液11が固化して結晶成長を開始する微細な種結晶核は点状に限定され、これが徐々に成長して単結晶化が進行することになる。更に結晶成長界面14は、3本の矢印「↑」で示すように外部方向へ進行して凸面を形成し、自発的に全体の単結晶化が進み易くなる。一方同図Bに示すように、融液11が基板13と濡れ、接触角が鋭角になった場合は、融液11と基板13との融液接触界面12の面積はAの場合とは違って大面積になる。従って結晶化潜熱の流れは矢印「⇒」で示されるように多数に分散し、基板13と融液接触界面12では多くの微細な種結晶核が発生して多結晶化の原因となる。この場合、結晶成長界面14は3本の矢印「↑」で示すように内側方向へ進行して凹面となり、全体が多結晶化してしまう。このような結晶化潜熱の流れの方向や成長界面が凸面形状になると単結晶化、凹面形状になると多結晶化が進むという相関関係は、大型結晶の成長過程で古くから裏付けられてきたが、今回微小な球状結晶でも同様な現象が起きていることが、実験的に初めて明らかにされた。
【0021】
この球状単結晶化のメカニズムは、本発明での球状シリコン結晶に適用できることはいうまでもない。しかし、高純度シリコン粉末を原料とし、太陽電池用に使える球状シリコン結晶を得るに際して困難な点は幾つもある。それらはシリコン粉末原料、容器材料、雰囲気そして装置・プロセスの4項目に付随した技術的問題からくるもので、これらを順序だてて説明する。
【0022】
まず第一番目の項目である、原料となる高純度シリコン粉末について述べる。
シリコン粉末原料を熔融する高温過程で、シリコンは不活性ガス以外の殆どの元素や物質と化学反応を起こし、あらゆる種類のシリコン化合物を作り、このシリコン特有の性質が、溌液状シリコンを容易に得られない最大の要因となっている。ここで使用できる原料は6N(99.9999%)以上の高純度な粉末が必要であるため、市販されている半導体用又は太陽電池用のものを入手し、純度低下の無いように粉砕した原料にしなければならない。又純度とともに重要な基準は粉末の粒度である。その理由は、粉末原料は塊状原料より粒子の体積に対する表面積の割合が大きいために、その表面に吸着している水分や酸素などは、塊状原料より桁違いに多い量となるからである。又粉末粒子間の空間には空気の成分である窒素、酸素、二酸化炭素が吸蔵されており、この様な水分や残留ガスの存在下で昇温すると、これらが取り込まれ、熔融シリコンは溌液状態を保持できなくなる。よって球状シリコン単結晶用の原料は、熔融シリコンへ導く高温過程で真空加熱処理を行うことで粉末表面の吸着水分や粉末粒子間の吸蔵ガスの効果的な除去が必要となるために、高純度粉末状であると同時に粒子の大きさが10ミクロンから300ミクロン程度のものを使用することが望ましい。
【0023】
第二番目の項目は、高純度シリコン粉末から熔融・溌液化、結晶化まで、シリコンを保持する容器である。
反応性が高い熔融シリコンと濡れ性・反応性が無く且つ汚染源とならない容器材料は、極めて限定される。例えば一般的な容器材料として有用なカーボンは熔融シリコンと直接接触すると瞬時に反応し、炭化珪素を生じて熔融シリコンは容器に滲み込むため全く用をなさないし、ガリウム砒素に対して最も優れた容器材料である熱分解窒化ホウ素(P-BN)は、熔融シリコンとの濡れ性は無いもののシリコン中へのホウ素の溶け込みが進み、太陽電池には使用できない量のホウ素不純物汚染をもたらすために使用できない。
そこで容器材料は素材の融点がシリコンの融点より高く、熔融シリコンと濡れ性・反応性が無く、高純度化が可能な各種耐火物材料となり、このような条件を満たすものは以下のように限定される。それらは酸化物セラミックスでは酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化物セラミックスでは窒化アルミ、窒化珪素、炭化物セラミックスでは炭化珪素、そして石英ガラスとカーボンであり、どれも緻密質と多孔質の素材がある。
しかし、これらは緻密質であれ多孔質であれ、全て素材は表面が微細な凹凸構造を有するか又はこの凹凸表面に離型材を塗布するか、又はCVD(Chemical Vapor Deposition)法などで窒化珪素や窒化アルミなどの薄膜形成をするか、いずれかの表面処理をしなければシリコンの溌液化は困難である。例えば緻密質のアルミナ、窒化アルミ及びや窒化珪素はその表面を機械的にロール加工、ブラスト加工、レーザー加工などで数十ミクロンの凹凸構造にし、石英ガラスはフッ化水素酸で表面を融かし出して(エッチング処理)凹凸構造にするなどの処理により、熔融シリコンとの接触面積を大幅に減らすことで溌液化を行うことが必要である。一方、多孔質のカーボン、炭化珪素、窒化珪素などは、それらの表面に熔融シリコンと濡れ性・反応性が無い離型材を塗布することで容器材料として機能させることができる。
このよう種々の素材と離型材との組み合わせの中で最適なものを選択して、溶融シリコンに対する不純物汚染を低減した特別な容器材料を探索する必要がある。
【0024】
第三番目の項目は、高純度シリコン粉末原料を熔融する雰囲気(空間)である。
高純度シリコン粉末原料は常温で多重ルツボに充填され、これを電気炉に入れて加熱しながら、真空ポンプで空気や吸着ガス・水分を排気し、所定の温度と真空度になったら高純度不活性ガスを電気炉内に導入し、更に温度を上げて熔融して溌液状シリコンにしなければならない。
雰囲気とする高純度不活性ガスはボンベから配管を流れて電気炉の雰囲気中に導かれるが、仮にこの間に微量の酸素や水分、窒素、二酸化炭素、などの成分が混入したとすると、これらは瞬間的に熔融シリコンと化学反応を起こし、酸素や水分とは二酸化珪素、窒素とは窒化珪素、二酸化炭素とは炭化珪素をつくり、生成物はいずれも高融点のセラミックスとなる。その結果、熔融シリコンは、溌液性が失われ容器材料と濡れ、同時にこれらは熔融シリコンに取り込まれて不純物になる。従って、これを防ぐためにガスの配管や電気炉内での不純物ガスの混入、湧き出しは最小限に留めることが重要である。又、仮に極微量の水分が電気炉タンクの内壁から湧き出してもそれが熔融シリコンと触れる前に化学反応を利用して別な物質に変え、無害化する工夫も必要であり、有効である。
このように粉末原料から固化に至るまでの間、シリコンの汚染を防ぎ、太陽電池用に使える純度を保つことが必須で、それには雰囲気で使用する高純度不活性ガスの純度低下を最小にして汚染防止を図らねばならない。
【0025】
最後に第四番目の項目は、高純度シリコン粉末から熔融シリコンを経て球状シリコン単結晶を得るまでの過程で使用される装置とそれを機能させるプロセスである。高純度シリコン粉末原料や容器材料は、工程開始の常温から熔融シリコンへ至り、その後固化する高温の期間中電気炉内に置かれている。ここで、原料、容器および雰囲気について上記問題を解消しても溌液状シリコン融液は得られない。その理由は、もし高純度シリコン粉末から熔融シリコンへ至る一連の工程の期間、真空バルブや真空計などの電気炉付属部品や電気炉内壁、断熱材などからの不純物元素や不純物ガスの湧き出しが微量でもあると、熔融シリコンと不純物との化学反応のために溌液状シリコンは得られない。例えば高純度アルゴンガスはガスボンベから電気炉に入るまでの配管の途中での汚染があり、又電気炉内部へ導入されたら内部の壁や断熱材から高温時に湧き出してくるガスからの汚染もある。これらを最小限に留める工夫や仮に汚染が生じてもそれを無害化する工夫などが必要となる。さらに電気炉のヒーターや構造物からは高温時にガスの湧き出しは必ず伴うために、電気炉は高純度シリコン粉末を入れる前に予め1450℃以上の高温で真空ポンプによる焼きだし(以下ベーキングという)を行い、雰囲気汚染を最小にするためのプロセス上の工夫をする必要がある。
【0026】
この様に高純度シリコン粉末から「溌液結晶化法」で球状シリコン単結晶を得るには、前記に述べた個別の問題点の解決が必須であり、しかもこれらは相互に関連しており、どれ一つ未解決なものがあってはならないし、その中で最適条件を見出さねばならない。
【0027】
太陽電池用球状シリコン結晶を得るための課題をまとめると以下の三つになる。
(1)第一の課題:シリコン粉末を原料とし、その溌液性を自在に得られる条件を確立する事。
(2)第二の課題:製造工程で熔融シリコンの不純物汚染を最小限に留めて太陽電池に使える品質の球状シリコン結晶を得る事。
(3)第三の課題:溌液状熔融シリコンより大量の太陽電池用球状シリコン結晶を得る事。
これらの課題を解決することで高純度シリコン粉末から溌液状シリコン融液、球状シリコン結晶を自在にしかも大量に得ることが可能になり、以下に具体的に課題解決の手段を述べる。
【0028】
課題解決の手段として最初に取上げるのが高純度シリコン粉末原料である。
半導体用シリコンは古くから高純度化がなされ、その純度は11Nに達するほどの超高純度品が市販されており、これは主にLSIなどの高機能半導体を作るのに必要な高品質単結晶引き上げ用原料に使われている。そして太陽電池の需要の少ない1990年代には、これら半導体用単結晶シリコンの先端や後端の低品位で使用不可な部分が太陽電池向け端材原料として再利用されていた。ところが現在、インゴット製造をするのに必要な太陽電池用原料は需要が大幅に増え、この端材の量では足りなくなり、半導体用の高純度な原料も使わざるを得なくなっている。
本発明で必要とされるシリコン粉末原料は、太陽電池向け原料と同じく純度は6N以上が確保できれば使用可能である。しかしここでは純度の他に粉末の粒度や価格が重要になるので、それを満足するものを以下の三種類のものから選択することができる。
(a)熱分解法による多結晶シリコン
これは純度11Nの塊状品であるために、粉砕する必要がある。そのために粉砕コストを抑える、粉砕での不純物の混入を抑える、粒度のバラツキを小さくするなどの対策を行うことで、本塊状品を利用することができる。
(b)流動床法による粒状シリコン
これは純度11Nの高品質、粒状原料で半導体用の高品位な原料としての実績がある。この原料は直径0.1mmから2mm程度の粒状のため、本発明で1mm程度の球状シリコンを作るための原料とするには、篩いで0.3mm(300ミクロン)以下を選別して使用可能である。それ以上の大きさの粒状シリコンは(a)の場合と同じく、粉砕することで原料に使うことが出来る。又、本原料製造プロセスでは、1ミクロン以下のシリコン高純度微小粉が副産物として排出され、これを有効利用することは大きな利点になる。
(c)亜鉛還元法による粉末状シリコン
これは太陽電池用原料としてチッソ株式会社により開発されたもので、直径が数ミクロン、長さ100ミクロン程度の針状粉末結晶であり、純度は6N以上である。この原料はまだ市販されていないが、本発明での粒状シリコン単結晶用原料として使用可能である。
【0029】
本発明で使用できる容器材料と表面構造については前述したが、シリコン融液が直接接触して、それを汚染することなく溌液状を呈する単独のセラミックス材料を実現するには、今後、容器材料の純度向上、表面凹凸形状の形成、CVD法などによる高品質薄膜の形成など、あらゆる観点からの検証を行い、最適化を図る必要があるだろう。
そこで、それに代わるものとして本実施形態では、セラミックス材料用の表面にシリコン融液が直接接触してもそれを汚染しない離型材を探索し、それを塗布した単純構造の容器材料を見出し、改良を重ねて問題解決へ対処した。
下記の表1は、株式会社ホクサンが通産省のサンシャイン計画のプロジェクトにおいて、太陽電池用多結晶シリコン基板を、カーボンやセラミックス材料の表面に離型材を塗布した基板上で直接作る試みを行う中で、カーボン基板上に52種類の離型材の候補材料を取上げ、それらを個別にカーボン基板に塗布してシリコンとの濡れ性と離型材の剥離性評価実験を行った結果(I.Hide etal, J.of Cryst. Growth 79(1986) p583)の一部を示すものである。
【0030】
【表1】

【0031】
この実験では、融けたシリコンがカーボン基板上の各種離型材と濡れない場合はドロップ状、多少濡れた場合は平板状のシリコンが得られた。又、濡れるか、化学反応を起こした場合、原料は離型材とカーボン基板に滲み込み、形あるものは得られなかった。ここではドロップ状のシリコン、平板状のシリコンの各々と基板との間の接触角を求めており、表1には52種類の実験結果の中でシリコンとの接触角の大きい9種類の離型材を書き出した。この表によれば、最大の接触角を示すのは窒化ホウ素であるが、これは前述したように表中の他のホウ素化合物と同じく、シリコン中へのホウ素の混入があるので採用できない。
【0032】
そこで、我々は表1にある、ホウ素化合物以外の素材の中で、高純度粉末状シリコンを原料とした場合、窒化アルミと窒化珪素の二種類が夫々単独で熔融シリコンに対する溌液性を持ち、有用な離型材であることを確認した。これらの優れた点は、シリコンに対する離型性が良いことの他に容器材料との密着性が良く、実用的な単純構造ができることである。更に窒化珪素には内部結晶構造の違いでα型とβ型があるが、一連の実験でシリコンに対する離型性はβ型がα型より優れていることが判明した。しかし実際には窒化珪素の製法上、β型を100%含有しているものは得られないため、α型とβ型の混合比率でβ型の含有率の高いものを使用すれば良いことが判った。勿論これらには、太陽電池用球状シリコンの性能を損なわない5N以上の純度を保つ品質が要求されるのは云うまでもない。
【0033】
又容器材料としては、表面をサンドブラスト法で凹凸構造を施した石英ガラス、高純度多孔質石英及び高純度多孔質炭化珪素がいずれも窒化アルミ及び窒化珪素と優れた密着性を有し、耐久性のある単純構造容器材料になることを見出した。ここで取上げた離型材である窒化アルミと、窒化珪素及び容器材料である石英ガラス、高純度多孔質石英及び高純度多孔質炭化珪素はいずれも市販されており、量産での低価格化の可能な材料であるためにどの様な組み合わせをとっても実用化が可能である。又、離型材は1ミクロンから10ミクロン程度の微粉末であるために、それらをメタノールやポリビニールアルコールに溶かして刷毛塗りやスプレー塗装で容器材料表面に塗布できるため、高価な装置は不要である。
【0034】
高純度シリコン粉末原料を熔融する雰囲気をつくるには、まず、第一にガス配管材料、電気炉容器内面材料、電気炉内高温部材など、雰囲気ガス触れる場所に用いる材料は、種類や表面仕上げの程度など、半導体製造装置で使われるレベルのものを採用し、予め真空焼きだしで不純物ガスの追い出しをしておかなければならない。しかしこのような手順を踏んでも、高純度不活性ガスの配管部や電気炉内部には極微量の水分や酸素の湧き出しは必ずある。そこで以下のようなシリコン化合物を電気炉やガス配管部へ微量導入し、化学反応を利用して別な物質に変え、無害化することで熔融シリコンの周りの雰囲気を水分や酸素のまったく無い、高清浄環境に維持する。表2には、本発明で使用可能なシリコン化合物とそれらの融点、沸点及び各々の水分や酸素との化学反応式を示す。これらの反応は常温でも起きるが、高温になればさらに激しくなり、水分や酸素の除去・無害化に極めて効果的である。
【0035】
【表2】

【0036】
表2中の全ての反応式で特徴的なことは、水分や酸素との反応生成物質のひとつがいずれも二酸化珪素であるため、これら水分や酸素が熔融シリコンと触れる前に超微粒子二酸化珪素に転換さることである。又モノシランと水分や酸素との反応生成物は水素で、これは熔融シリコンと触れても悪影響は無い。それ以外の4種類のハロゲン化珪素では、水分や酸素との反応生成物質は二酸化珪素の他にハロゲン化水素又はハロゲンである。これらの内、フッ素や塩素等のハロゲンガスは熔融シリコンと触れると、新たにハロゲン化珪素を生成するが、これは新たに水分や酸素のキラーとなるために無害である。又、塩化水素や臭化水素等のハロゲン化水素と熔融シリコンとの反応は明確でないが、実験結果より、プロセスへの悪影響は無いことが判明している。但し、ここで生成したハロゲン化水素又はハロゲンは水分の消失した雰囲気では金属や他の物質との化学反応殆どはしないが、作業終了後、作成したシリコン試料の取り出しで一旦電気炉を大気開放して水分に触れると、たちまちステンレスや他の金属と反応し、この時の生成物は高純度シリコン原料の汚染源になる。それを防ぐためには、電気炉の大気開放前に電気炉内へ乾燥窒素ガスを充分に流して、ハロゲン化珪素、ハロゲン化水素及びハロゲンの置換追い出しを行うことが必須である。ここでは珪素と水素又はハロゲンの単純な化合物の使用例を示したが、その他の珪素化合物、例えばトリクロロシラン(SiHCl)やジクロロシラン(SiHCl)も、微量の水分や酸素を無害化する反応ガスとして使用可能である。
【0037】
ここで第三の課題である、溌液状熔融シリコンより太陽電池用球状シリコン単結晶を大量に得るための手段として重要な、容器材料に開ける窪み穴の構造や大きさについて述べる。
直径1mm程度の球状シリコン単結晶を用いて太陽電池を作る場合には1ワットの発電をするには約2,000個の球状シリコンが必要とされている(非特許文献3)。これより、一般的な太陽電池システムの発電規模である3キロワットの発電をするには、600万個(2,000個×3,000W)の球状シリコン単結晶が必要となる。このような大量の球状シリコン単結晶を多重ルツボ法で量産するには、製造装置の工夫が必要なことは当然であるが、その前に容器材料への充分な検討を加えておくことが必要である。例えば直径1mmの球状シリコン単結晶を得るために、粉末原料が入る多重ルツボの窪みの穴を、直径1.5mm、深さ1.5mmとする。これを200×200mm、厚み2mmの板状の容器に2mm間隔で加工すると、縦横100個開けることができる。この板1枚で1mmの球状シリコン単結晶が1万個(100個×100個)できるが、この板厚は2mmで100枚重ねると全体の高さは200mmで、それほど大きなものではない。これを量産時の容器の1ユニット・100万個(100個×100個×100枚)とすれば、1ユニットを10分程度で処理する製造装置を開発すると、生産能力は1時間当たり600万個(100個×100個×100枚/10分×60分)になる。これより、本発明での球状シリコン単結晶は、直径1mm程度のものを大量に生産できる可能性が充分にあることが分かる。
【0038】
次に粉末原料が入る多重ルツボの窪み穴の形状について述べる。球状シリコン単結晶の量産性は窪み穴の形を決め、それをいかに多く板状の容器に加工できるかに左右される。図4Aは、直径1.5mm、深さ1.5mmとした場合の窪み形状とそれにシリコン粉末22を充填した状態を上段に、その下に矢印と共に粉末シリコンが融けて溌液状シリコン23となった状態を示す。この場合の窪みの穴は、刃物の直径が1.5mmの先の丸いボールエンドミルを用い、深さ1.5mmに加工している。同じ刃物で深さを1mmにした場合をBに示すが、このときは粉末原料22の充填量が少なくなるので球状シリコン単結晶23の直径は0.8mm程度に小さくなる。加工刃物の先端が平らな場合の例について、Cは断面が角型,Dは断面が台形の場合を示すが、いずれも直径と深さで原料の充填量が決まる。
又、これらの窪み穴は多重ルツボの平面上に最大数の加工ができるようにお互いの間隔をできるだけ狭くした稠密充填の設計が必要である。
【0039】
ここで、図3 を参照しながら先に述べた球状シリコンの単結晶化のし易さと図4に示す多重ルツボの各窪み穴の底面形状との関係について述べる。図4A、Bの窪み穴の底面は、半径0.75mmの曲率を持つ曲面であるが、C、Dでは平面である。球状シリコンが単結晶化し易いのは、溌液状シリコン底面と容器との接触面積ができるだけ小さい場合である。C、Dの窪み穴の底面は平面であるから、溌液状球状シリコン底部は点で基板と接触している。これに対し、底部が曲面のA、Bの窪み穴では溌液状球状シリコン底部は曲面で接触しているため、接触面積はC、Dの場合より大きくなる。このことから、球状シリコンの単結晶化率を高め、高品質の素材をよりたくさん得るには、窪み穴の底面形状は平面であるC、Dの形が望ましいといえる。
【0040】
次に上述した三つの課題を解決し、太陽電池用球状シリコン単結晶を製造する装置について説明する。
図5に、高純度シリコン粉末を溌液状シリコンにし、それを固化して太陽電池用球状シリコン単結晶を少量得るための電気炉及び付属の器具や装置を示す。
電気炉31内部にはヒーター32と断熱材33とがあり、ヒーター32は熱電対37及び温度制御装置38により、シリコン粉末原料35を精密に指定の温度になるように加熱・制御できる。シリコン粉末原料35は基板36の上に置かれ、その周りはライナー管34で囲まれ、不活性ガス39ができるだけ断熱材33やヒーター32と隔離されて純度低下が無いようにしてある。基板36は、直径10mm程度の溌液状シリコンドロップを確認するためのもので、材料は石英ガラス、基板へ塗布した離型材は窒化珪素粉末である。
【0041】
電気炉31の内部は予め真空ベーキングを行い、真空漏れの無いことや内部のヒーター32、断熱材33、ライナー管34及び基板36からの吸着ガスの追い出しを充分に行っておく。
この様な準備作業をした後に、シリコン粉末原料35は、汚染の無いような取り扱いをして電気炉31内部のライナー管34内に置かれ、バルブ43を開け、バルブ42、45、47及び48を閉め、真空ポンプ40を動作させてバルブ41をゆっくり開ける。真空ポンプ40の働きで電気炉31内部、及びライナー管34内部の空気や水分は排気される。真空ポンプ40は荒引きにロータリーポンプを用い、高真空への排気はクライオポンプで行う。具体的には、ロータリーポンプでの排気で真空度が0.05Torrになったら、クライオポンプでの排気に切り替える。
以後、クライオポンプによる真空排気で内部の真空度が10-5Torr以下に保ち、温度制御装置38及びヒーター32によりシリコン粉末原料35の加熱を開始し、電気炉31の内部温度を毎時400℃程度の割合で昇温していく。この際に温度上昇が早過ぎると真空度が悪くなるので、その場合は一時昇温をやめ、ホールド状態でしばらく真空度が良くなるまで待機する。真空度を10-5Torr以下に保持した状態でシリコン粉末原料35を800℃まで加熱し、原料中の吸着水分除去を充分に行う。このような真空中での加熱を10-5Torr以下ですることで、真空中に置かれたシリコン粉末原料35は800℃まで加熱しても殆ど酸化しなくなる。
シリコン粉末原料35が800℃になったら、バルブ41を閉めて真空ポンプ側を切り離し、バルブ48を開けてガラス管からなる容器46内の四塩化珪素46aを電気炉31内部、ライナー管34内部へ約5Torr導入する。容器46内の四塩化珪素46aは常温で約400Torrの蒸気圧があり、バルブ48を徐々に開けることで正確な圧力の調整が可能である。その後バルブ47を開けてアルゴンガスボンベ44より高純度アルゴンガスを電気炉31内部及びライナー管34内部へ導入し、内圧を1気圧より少し高め(〜790Torr)にする。次いでバルブ42を開けて電気炉31の内部を1気圧にし、高純度アルゴンガスを約1リットル/分の流量で四塩化珪素46aの容器46を通して電気炉31の内部及びライナー管34の内部に流す。これをシリコン粉末原料が熔融し、固化するまで続ける。バルブ42を出たガスは水酸化ナトリウム中和水溶液49を通り大気へ排出される。このとき、アルゴンガス中の四塩化珪素は水酸化ナトリウム中和水溶液49で、「SiCl+4NaOH=SiO+4NaCl」の反応により、二酸化珪素と塩化ナトリウムに変わり無害化される。このように、高純度アルゴンガスは常時、四塩化珪素46が数Torr含まれた状態でライナー管34内部を流れているため、シリコン粉末原料は水分や酸素から完全に遮断され、溌液状シリコンが確実に実現されることになる。
【0042】
以上のように、溌液状シリコンの実現のために、高純度シリコン粉末、基板(容器材料)及び雰囲気ガスに特別な配慮をし、装置・プロセス上の工夫をすることで、直径10mm程度のシリコンドロップが再現性良く得られる。この程度の大きさのシリコンドロップが直径1mm程度の球状シリコン単結晶と同じ条件で作れると、できた試料を四探針法による抵抗率測定、FTIR法による赤外線透過率測定、エッチング法による転位密度の測定など、小さな球状シリコンでは評価困難な測定が効果的に実行できる。
シリコンドロップでの工程が安定したら、図4に示す小型の多重ルツボに高純度シリコン粉末を充填し、前記工程と同様にすることで球状シリコン単結晶が数十から数百個得られる。
【0043】
図6は球状シリコン単結晶を量産するための装置の構成を示す。ここで、図6Bは全体の構成を示し、図6Aは容器ユニット収納チャンバーの上面を示す。
この装置は、プロセスチャンバー61、容器ユニット供給チャンバー62、温度制御部63、ガス供給部64、真空排気部65、及び容器ユニット収納チャンバー66から成る。プロセスチャンバー61には、4個のヒーターHa,Hb,Hc,Hdが等間隔で配置され、その周りを固定断熱材67が取り囲んでいる。ヒーターHa,Hb,Hc,Hdの内部にはライナー管68が設けられている。ライナー管68はヒーター、断熱材、プロセスチャンバー内壁からライナー管68の内部を間接的に遮断し、内部雰囲気の汚染を防ぐためのものである。ライナー管68内には、容器ユニットを右側から左側へ順次搬送するためのガイドレール69が水平に配置されている。プロセスチャンバー61、容器ユニット供給チャンバー62及び容器ユニット収納チャンバー66は、互いを完全に真空遮断できる入り口ゲートバルブ72と出口ゲートバルブ73とで接続・固定されている。温度制御部63はヒーターHa,Hb,Hc,Hdを個別に制御し、プロセスチャンバー61の内部の温度を上げ、又温度分布を変えたり一定温度に保ったりする。プロセスチャンバー61には、真空排気部65としてロータリーポンプの他に高真空を作るためのクライオポンプ65が、ガス供給部64として高純度アルゴンガスボンベの他にハロゲン化珪素の収納部74が接続されている。ガス供給部64でシランガスを使用する場合は、ハロゲン化珪素の収納部74は不要であり、その代わりガスボンベとして10%以下のシランガスを含んだ高純度アルゴンガス混合ボンベを用いればよい。
【0044】
ライナー管68及びガイドレール69は容器ユニットに最も近い位置にあるため、これらの材質は高純度で耐久性の高い物を選択する必要がある。その素材としては、熱分解炭素薄膜コートカーボン、ガラス状炭素皮膜コートカーボン、窒化珪素CVD皮膜コート窒化珪素セラミックス、炭化珪素CVD皮膜コート炭化珪素セラミックス及び石英ガラスが使用できる。
図では、ライナー管68内のガイドレール69には容器ユニットLa、Lb、Lc、Ldが配置され、容器ユニット供給チャンバー62内には容器ユニットLe、Lf、Lg、Lh等が待機している。各容器ユニットは、前述した200×200mm、厚み2mmの板状の容器を100枚積み重ねたものを1ユニットしている。
【0045】
以上の構成を有する装置で球状シリコン結晶を量産するプロセスの概要を以下に説明する。ここでの生産方式の特長は、高純度粉末状シリコンを予め充填した容器ユニットが、容器ユニット供給チャンバー62からプロセスチャンバー61を通り、容器ユニット収納チャンバー66へと流れて、球状シリコン単結晶が連続的に得られることである。
まず容器ユニット供給チャンバー62内には容器ユニットが多数収納され、その内の数ユニットLe,Lf,Lg,Lh ・・は、真空排気しながら予め予熱ヒーター87で800℃以下に加熱して、水分やその他のガス成分を追い出しておく。容器ユニット供給チャンバー62内は真空排気後、四塩化珪素が数Torr含まれた高純度アルゴンガス又は1%以下のシランガスを含んだ高純度アルゴンガス(以下混合ガスという)で置換され、水分や酸素の無い雰囲気にする。この間、プロセスチャンバー61は前もって真空ベーキングをした高清浄環境にあり、内部は混合ガスで1気圧にし、ガス供給部64より常時、毎分数リットルの混合ガスを流しておく。多数の容器ユニットの内、容器ユニット供給チャンバー62で最初に上記の処理を受けた容器ユニットLa,Lb,Lc,Ldが、温度分布89を持つ高温のプロセスチャンバー61に配置されている。先頭の容器ユニットLaにはすでに100万個の溌液状シリコンができており、次の容器ユニットLbのシリコンは溌液状になったばかりであり、次の容器ユニットLcでは融解直前にあり、容器ユニットLdでは粉末のシリコンのままという、温度分布89とプロセスチャンバー61内の滞在時間とを反映した原料の状態にある。
プロセスチャンバー61内の容器ユニットの先頭部から最後部までの温度分布89はプロセスの最適化を図る際に決めることができるが、ここでは容器ユニットLa,Lbが配置されている部位をシリコンの融点1414℃より充分高い1470℃以上に設定した。
【0046】
溌液状シリコンが出来た容器ユニットは、出口開閉断熱材71と出口ゲートバルブ73とを開けて、引き出し機構91により迅速に左方向の冷却台84へ移動させ、出口開閉断熱材71と出口ゲートバルブ73を閉じる。冷却台84の周りには、徐冷ヒーター92が設けられており、容器ユニットが急冷却されることなく、溌液状シリコンの単結晶化が下から上方向へ進められる。また、徐冷ヒーター92の温度制御を行うことで、容器ユニット内の溌液状シリコンの成長速度を自由に制御し、最適化を図ることができる。容器ユニットの出し入れに際し、容器ユニット収納チャンバー66内は予め真空排気後混合ガスで置換され、1気圧に保たれていることは当然である。容器ユニット冷却台84は水冷シャフト(内部に水冷管が配置された柱状の冷却体)85で冷却されているために、容器ユニット86の下面は効率よく底面が冷却され、溌液状シリコンの一方向結晶成長を効果的に行える。
【0047】
容器ユニット収納チャンバー66内で冷却・結晶化が終了した容器ユニット26は収納押し出し機構88により方向を90度変えて容器ユニット収納チャンバー66内を低温部へ移動し、常温近くになるまで容器ユニット収納チャンバー66内に保管されている。このように容器ユニット内で多量の球状シリコン単結晶が10分に1回ずつ順次結晶化して送り出される。容器ユニット供給チャンバー62からは、この送り出しに同期して、新たな容器ユニットをプロセスチャンバー61へ送り込む。
【0048】
図6には、容器ユニット供給チャンバー62内には容器ユニットLa,Lb,Lc,Ldをプロセスチャンバー61へ送り出した後の状態が示されており、容器ユニットLe,Lf,Lg,Lhは支持台90の上に積み重ねて置かれている。プロセスチャンバー61で容器ユニットLdが容器ユニットLcの位置へ移動したら、入り口開閉断熱材70と入り口ゲートバルブ72を開けて、容器ユニットLeを押し出し機構83により左方向に素早く容器ユニットLdのあった場所へ移動させ、入り口開閉断熱材70と入り口ゲートバルブ72を閉じる。容器ユニットLeは数百℃から1400℃まで急速に加熱され、ヒーターHbの位置へ移動するまでの30分間で容器ユニット内の粉末状シリコンは融解して溌液状シリコンになる。
容器ユニット供給チャンバー62内では容器ユニットLeの場所が空になったので容器押し上げ機構82により、支持台90上の容器ユニットLf,Lg,Lhはその1個分の高さ押し上げられ、次の動作まで待機する。一連の動作の間、プロセスチャンバー61、容器ユニット供給チャンバー62及び容器ユニット収納チャンバー66の内部は真空排気の後、混合ガスが導入されて1気圧の高清浄雰囲気に保たれていることは云うまでもない。特にプロセスチャンバー61内では、真空排気部65のロータリーポンプ、クライオポンプ75、開閉バルブ76,77,78,79、80、ガス供給部64及び高純ハロゲン化珪素の収納部74が連携して、「0039」で述べた動作を行うことが重要である。
以上のように、図6に示す連続生産装置を用いて、ここで述べた操作手順により太陽電池用球状シリコン単結晶を大量に安く生産することが可能になる。
【0049】
〔実施例〕
本発明の詳細を実施例で説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
本実施例では、球状シリコン結晶を得るための装置は、基本的構成を示した図5を用いている。そのために原料の充填から温度上昇、真空排気と高純度雰囲気ガスの充填、などの工程の詳細は図5に関する説明(「0038」、「0039」)で説明しているものと殆ど同じであるために、実施例の中では説明しない。従って、以下の実施例では溌液状シリコンから球状シリコン結晶を得るのに重要なパラメーターとなる、a:原料、b:容器材料・離型材、c:雰囲気ガスの三点の内容と得られた結果についてのべる。又、球状シリコン結晶が太陽電池用に使用できるか否かの目安として、キャリアライフタイムの値を1μsec以上、ホウ素添加物の無い場合の抵抗率の目標値を10Ω・cm以上とし、実施例での条件の適、不適を判断した。
【0050】
実施例1
本例では原料として市販の純度4N、粉末の粒度75ミクロンのものを用いた。雰囲気ガスは純度6N(99.9999%)以上のアルゴンガスを用い、水分、酸素の除去には四塩化珪素が使われた。多重ルツボの容器には純度5Nの多孔質炭化珪素セラミックス板でその表面は純度5N、粒度0.5ミクロンのα型窒化珪素粉末を塗布した。この粉末はメタノールの液体中へ入れて約20%濃度にしてあるために、多孔質炭化珪素セラミックス板への塗布は筆塗りやスプレーを利用した。又塗布された窒化珪素粉末層の厚さは約150ミクロン程度である。又多孔質炭化珪素セラミックスは、厚さ3mmで、80×80mmの面積に直径2mm、深さ1mmの窪みが約900箇所開けられている。球状シリコンの結晶成長は、溌液状シリコンからの固化速度冷却速度を100℃/Hにして行われた。
このような条件で得られた球状シリコン結晶は、数が約850個で殆どのものの表面が幾分くすんで汚染された形跡があるために、その表面が光沢を帯びるまでフッ酸と硝酸の混合液で約2分のエッチング処理を行った。又、多孔質炭化珪素セラミックス板の上には、同じ材質で作られ同じ窒化珪素粉末が塗布された、内径12mm、高さ15mmの小容器を載せ、直径12mm、高さ10mm程度のシリコンドロップを球状シリコン結晶と同時に作った。このシリコンドロップにより四探針法で抵抗率の測定を行った結果、抵抗率は0.2〜0.5Ω・cmであった。又、球状シリコン結晶はマイクロPCD法によるキャリアライフタイム測定を実施したところ、その値は約0.05μsecであった。
この実施例では、抵抗率の値は目標値より小さく、キャリアライフタイムは大幅に悪い値となっている。この原因は、原料の純度の影響が最も大きく、次に考えられるのが多孔質炭化珪素セラミックス板とこれに塗布されたα型窒化珪素粉末である。よって実施例1での条件は太陽電池用球状シリコン結晶を得るためには不適である。
【0051】
実施例2
本例では原料として半導体用の純度11Nの流動床法粒状シリコンを用いた。但しこれらは粒度の大きなものが大半であるために、篩いを用いて0.3mm以下のものを選別して原料とした。雰囲気ガスは純度6N(99.9999%)以上のアルゴンガスを用い、水分、酸素の除去には四塩化珪素を使用した。多重ルツボの容器には高純度石英ガラスに直径2mm、深さ1.5mmの窪みを64個開け、その表面は純度5Nのβ型窒化珪素粉末を塗布した。球状シリコンの結晶成長は、溌液状シリコンからの冷却速度を120℃/Hにして行われた。
得られた球状シリコン結晶は、数が約60個で殆どのものの表面光沢を帯びていた。但しキャリアライフタイム測定の前にはフッ酸と硝酸の混合液で30秒のエッチング処理を行った。又、石英ガラスの多重ルツボの横には内径12mm、高さ15mmの石英ガラス小容器を置き、同じ5Nのβ型窒化珪素粉末を塗布し、直径12mm、高さ10mm程度のシリコンドロップを球状シリコン結晶と同時に作った。シリコンドロップによる四探針法で抵抗率の測定結果は、抵抗率は約30Ω・cmであった。又球状シリコン結晶はマイクロPCD法によるキャリアライフタイム測定を実施し、その値は2 〜2.4μsecであった。更に本実施例での試料については、無作為に5個選んでX線によるラウエ写真撮影を実施し結晶性の評価を行った。その結果、5個の全ての写真中で、殆どのラウエスポットは明瞭な点状でしかもそれらの配列は曲線状になっており、これは単結晶特有なものである。図7は5枚のラウエ写真の内、4枚を示す。よってこれらの事実は、多重ルツボ法で得られる球状シリコン結晶は殆どが単結晶であることを示唆している。
実施例2では、抵抗率の値は目標値を越え、キャリアライフタイムも目標値を越える値となっている。この要因は、原料の純度が大幅に向上していることが最も大きいと思われる。よって実施例2の条件は太陽電池用球状シリコン結晶を得るためには適当であり、しかも殆どが単結晶であることから、今後の素材の純度向上や工程の改良で高品質化が図れる可能性が充分にある。
【0052】
実施例3
本例では原料として熱分解法による純度11Nの多結晶シリコン塊状品を粉砕したもので、アルミナ不純物の混入のために純度6Nになったものを用いた。雰囲気ガスは高純度アルゴンガスへ0.5%のシランガス(SiH)を添加したものを用いた。多重ルツボの容器には実施例1と同じく、80×80mmの面積に直径2mm、深さ1mmの窪みが約900箇所開いた多孔質炭化珪素セラミックスを用い、その表面には純度4Nのβ型窒化珪素粉末を塗布した。球状シリコンの結晶成長は、溌液状シリコンからの冷却速度を120℃/Hにして行われた。
得られた球状シリコン結晶は、数が約800個で殆どのものの表面光沢を帯びていた。但しキャリアライフタイム測定の前にはフッ酸と硝酸の混合液で30秒のエッチング処理を行った。又、多孔質炭化珪素セラミックス板の上には、同じ材質で作られ同じ窒化珪素粉末が塗布された、内径12mm、高さ15mmの小容器を載せ、直径12mm、高さ10mm程度のシリコンドロップを球状シリコン結晶と同時に作った。シリコンドロップによる四探針法で抵抗率の測定結果は、抵抗率は約10〜20Ω・cmであった。又球状シリコン結晶はマイクロPCD法によるキャリアライフタイム測定を実施し、その値は0.8 〜1.8μsecであった。
この実施例では、抵抗率の値は目標値を越え、キャリアライフタイムは目標値の範囲内の値となっている。これらの値が実施例2より僅かに劣る要因は、多孔質炭化珪素セラミックス板の上に塗布されたβ型窒化珪素粉末の純度が4Nと低いことが最も大きいと思われる。よって実施例3での条件は、太陽電池用球状シリコン結晶を得るために離型材の改善を図れば適当である。
【0053】
実施例4
本例では原料として、半導体用の純度11N、直径0.3mm以下の流動床法粒状シリコンを用いた。雰囲気ガスは高純度アルゴンガスへ0.5%のシランガス(SiH)を添加したものを用いた。多重ルツボの容器は、実施例2と同じく高純度石英ガラスに直径2mm、深さ1.5mmの窪みを64個開け、その表面は純度4Nの窒化アルミ粉末(AlN)が塗布された。球状シリコンの結晶成長は、溌液状シリコンからの冷却速度を60℃/Hにして行われた。
得られた球状シリコン結晶は、数が約50個で殆どのものの表面光沢を帯びていた。但しキャリアライフタイム測定の前にはフッ酸と硝酸の混合液で30秒のエッチング処理を行った。又、石英ガラスの多重ルツボの横には内径12mm、高さ15mmの石英ガラス小容器を置き、同じ純度4Nの窒化アルミ粉末(AlN)が塗布され、直径12mm、高さ10mm程度のシリコンドロップを球状シリコン結晶と同時に作った。シリコンドロップによる四探針法で抵抗率の測定結果は、抵抗率は1〜5Ω・cmであった。又球状シリコン結晶はマイクロPCD法によるキャリアライフタイム測定を実施し、その値は0.4 〜0.8μsecであった。
この実施例では、抵抗率の値は目標値の半分程度で、キャリアライフタイムも目標値に届いていない。これらの値が実施例2より多少悪い要因は、石英ガラス上に塗布された窒化アルミ粉末の純度が4Nと低いことが最も大きいと思われる。よって実施例4での条件は、太陽電池用球状シリコン結晶を得るために離型材の改善を図れば適当である。
【0054】
以上本願発明の実施例で得られたデータは、従来例である落下法で得られる太陽電池用球状シリコン結晶でのデータとの差異が明らかとなった。落下法による球状シリコン結晶は約50%がキャリアライフタイムの値が0.1μsec以下で太陽電池用には使えずシリコン原料の利用率は50%を越えることは困難な状況にある。一方、多重ルツボ法による球状シリコン結晶は一度に得られるものは殆ど全てが類似した抵抗率、キャリアライフタイム及び結晶性を保持していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】材料の濡れ性と溌液性についての説明図である。
【図2】粉末原料を用いた多重ルツボ法による球状結晶の製造の流れと、得られた三種類の球状結晶の写真を示した図である。
【図3】溌液状融液からの自発単結晶化と、濡れ性融液からの多結晶化を示す図である。
【図4】多重ルツボの窪み穴の形状を示す図である。
【図5】高純度シリコン粉末を溌液状シリコンにし、それを固化して太陽電池用球状シリコン結晶を少量得るための電気炉及び付属の器具や装置を示す図である。
【図6】球状シリコン結晶を量産するための装置や付属部材の断面図である。
【図7】球状シリコン結晶の単結晶性を示すラウエ写真の図である。
【図8】結晶系シリコンの原料からモジュールまでの製造の流れとコスト内訳を示す図である。
【図9】落下方式による球状シリコン結晶の製造装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
35・・・シリコン粉末原料、31・・・電気炉、32,Ha,Hb,Hc,Hd・・・ヒーター、36・・・基板、39・・・不活性ガス、40・・・真空ポンプ、44・・・アルゴンガスボンベ、64・・・ガス供給部、La〜Lh・・・容器ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の窪みを有する基板の上に溶融シリコンに対して溌液性を付与する離型層を形成し、その中で高純度シリコンを溶融、固化せしめることにより得られる球状シリコン結晶。
【請求項2】
高純度粉末状シリコンを原料とし、高純度不活性ガス雰囲気下で、表面が微細な凹凸構造をし、多数の窪みを有する高純度セラミックス又は石英ガラス容器の前記窪み内の溌液状シリコンから得られる球状シリコン結晶。
【請求項3】
請求項2記載の球状シリコン結晶において、前記高純度セラミックス又は石英ガラスの表面に高純度窒化物粉末が塗布されていることを特徴とする球状シリコン結晶。
【請求項4】
請求項3記載の球状シリコン結晶において、前記高純度セラミックスが高純度多孔質セラミックスであることを特徴とする球状シリコン結晶。
【請求項5】
請求項3又は4記載の球状シリコン結晶において、前記高純度窒化物粉末が高純度窒化アルミ粉末であることを特徴とする球状シリコン結晶。
【請求項6】
請求項3又は4記載の球状シリコン結晶において、前記高純度窒化物粉末が高純度窒化珪素粉末であることを特徴とする球状シリコン結晶。
【請求項7】
請求項6記載の球状シリコン結晶において、前記高純度窒化珪素粉末が高純度β型窒化珪素粉末であることを特徴とする球状シリコン結晶。
【請求項8】
高純度粉末状シリコンを原料とし、高純度不活性ガスに濃度10%以下のシランガス又は濃度10%以下のハロゲン化珪素ガスを添加した雰囲気下で、高純度窒化物粉末を塗布した、表面が微細な凹凸構造をし、多数の窪みを有する高純度セラミックス又は石英ガラス又は高純度多孔質セラミックス容器の前記窪み内の溌液状シリコンから得られる球状シリコン結晶。
【請求項9】
多数の窪みを有する基板の上に溶融シリコンに対して溌液性を付与する離型層を形成し、その窪みの中で高純度シリコンを溶融、固化させることにより、球状シリコン結晶を得ることを特徴とする球状シリコン結晶の製造方法。
【請求項10】
高純度粉末状シリコンを、表面が微細な凹凸構造をし、多数の窪みを有する高純度セラミックス又は石英ガラス又は高純度多孔質セラミックス容器の前記窪み内に収容し、不活性ガス又は高純度不活性ガスにシランガス又はハロゲン化珪素ガスを添加した雰囲気下で前記窪み内の粉末状シリコンを融解させて前記窪み内に溌液状シリコンを生成し、その溌液状シリコンを冷却して直径が5mm以下の球状シリコン結晶を得ることを特徴とする球状シリコン結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の球状シリコン結晶の製造方法において、前記窪みの底面の形状を平面にしたことを特徴とする球状シリコン結晶の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の球状シリコン結晶の製造方法において、前記溌液状シリコンの冷却速度を毎時200℃以下にしたことを特徴とする球状シリコン結晶の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−143754(P2008−143754A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334885(P2006−334885)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(591054864)ユニオンマテリアル株式会社 (13)
【Fターム(参考)】