説明

球状炭酸カルシウム及びその製造方法

水酸化カルシウム含有水性懸濁液に二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスを吹き込んで反応させて球状炭酸カルシウムを製造する際、反応開始後、炭酸化率が2〜10%に到達した時点で反応液に水溶性リン酸またはその水溶性塩の水溶液或いは懸濁液を添加し、1.0NL以下の低いガス吹き込み量で、さらに反応を行い(工程(a))、続いて、反応液に水酸化カルシウム含有水性懸濁液及び水溶性リン酸またはその水溶性塩の水溶液或いは懸濁液を添加し、二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスを導入して、反応させることにより平均粒子径が10μm以上の球状炭酸カルシウムを製造する。この製造工程における反応開始から工程(a)終了までを高速回転下で行なう。これにより、白色度が高く、摩擦係数の小さく、比較的真球に近い、平均粒子径が10μm以上のカルサイト型球状炭酸カルシウムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はカルサイト型球状炭酸カルシウム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
炭酸カルシウムは、ゴム、プラスチック、塗料、紙、化粧品等の充填剤或いは顔料として広く利用されている。特に球状炭酸カルシウムは、充填性、分散性、滑り性など種々の特性に優れ、製紙用としてはマットコート紙に、その他の分野では化粧料などに利用されている。従来、これら用途に使用される球状炭酸カルシウムとして、高い白色度、光沢、分散性が得られるように、粒子径が小さい(例えば数μm以下)ものが求められていたが、近年、炭酸カルシウムが使用される製品の多機能化に伴い、粒子径の大きい顔料が求められるようになっている。例えば、製紙の分野では、光沢度が低い艶消しのマットコート紙用として平均粒子径10μm以上の顔料が使用される。また化粧料でも毛穴に入り込めない特定の肌触り感を有する顔料が使用されるようになっている。
球状炭酸カルシウムの製造方法としては、従来、塩化カルシウム水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を反応させる方法や、水溶性カルシウム塩と炭酸塩とをカルシウム以外の2価のカチオン存在下で水溶液反応させる方法、リン酸化合物を使用して塩化カルシウムと炭酸水素塩を反応させてバテライト型の球状炭酸カルシウムを製造する方法など種々の方法が提案されている。リン酸化合物を使用する方法については、例えば特開平6−16417号公報に記載されている。
さらに水酸化カルシウムスラリーに二酸化炭素系ガスを導入して炭酸カルシウムを生成する際に添加物を使用して球状炭酸カルシウムを製造する方法も提案されている。例えば特開平4−4247号公報には、所定量のポリ燐酸塩を添加した濃度15〜20%の水酸化カルシウムスラリーに二酸化炭素を導入し、平均粒子径が2〜10μmの球状沈降カルサイトを製造する方法が記載されている。また特公平7−33433号公報には、水酸化カルシウムスラリーと炭酸ガスの反応時に、反応液が所定の導電率に達したところでリンの酸素酸塩或いは不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩を添加して反応させた反応液と、水酸化カルシウムスラリーと炭酸ガスとを所定の導電率に達するまで反応させた反応液とを混合することにより平均粒子径0.1〜1.5μmのカルサイト型球状炭酸カルシウムを製造する方法が記載されている。
しかしこれら従来の球状炭酸カルシウムの製造方法によって得られる球状炭酸カルシウムは、すべて平均粒子径が10μm以下のものであり、上述した比較的平均粒子径の大きい球状炭酸カルシウムを製造することはできない。なお、特開平11−79740号公報には、水酸化カルシウムスラリーに二酸化炭素系ガスを導入して生成した炭酸カルシウムを噴霧乾燥することによって比表面積の大きい球状炭酸カルシウム二次粒子を製造する方法が提案されているが、この方法で得られる球状炭酸カルシウムは平均粒子径が45〜75μmの二次粒子である。
そこで本発明は平均粒子径が10μm以上のカルサイト型球状炭酸カルシウムであり、粉体物性として、白色度が高く、摩擦係数の小さい、比較的真球に近いカルサイト型球状炭酸カルシウムを提供することを目的とする。また、本発明は、このような球状炭酸カルシウムの各種用途への利用を提供することを目的とする。
【発明の開示】
上記目的を達成する本発明者らは、水酸カルシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを吹き込んで炭酸化する際の反応条件及び添加物とその添加条件について鋭意研究した結果、炭酸化が2〜10%付近に到達した時点で水溶性リン酸又はその塩類を添加して低ガス吹き込み量で反応させた後、さらに水酸カルシウム懸濁液と水溶性リン酸又はその塩類を添加して反応させることにより、生成した種結晶が微小粒子の凝集体を形成することなく成長し、平均粒子径が大きく且つ従来法による球状炭酸カルシウムに対し物性の劣らないカルサイト型球状炭酸カルシウムが得られることを見出し本発明に至ったものである。
即ち、本発明のカルサイト型球状炭酸カルシウムは、水酸化カルシウム含有水性懸濁液と二酸化炭素ガスとの反応により生成する軽質炭酸カルシウムであって、平均粒子径10〜20μmのカルサイト型球状炭酸カルシウムである。
また本発明のカルサイト型球状炭酸カルシウムの製造方法は、水酸化カルシウム含有水性懸濁液に二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスを吹き込んで反応させることにより球状炭酸カルシウムを製造する方法であって、反応開始後、炭酸化率が2〜10%に到達した時点で反応液に水溶性リン酸またはその水溶性塩の水溶液或いは懸濁液を添加し、低いガス吹き込み量で、さらに反応を行なう工程(a)と、前記工程(a)後、反応液に水酸化カルシウム含有水性懸濁液及び水溶性リン酸またはその水溶性塩(以下、これらを総称して単にリン酸化合物ともいう)の水溶液或いは懸濁液を添加し、二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスを導入して、反応させることにより球状炭酸カルシウムを生成する工程(b)とを含むことを特徴とする。
本発明において、ガス吹き込み量は水酸化カルシウム1kg当りの100容量%二酸化炭素ガス量として換算した場合に、1.0NL以下である場合を「低ガス吹き込み量」、1.0NLを超える場合を「高ガス吹き込み量」という。
本発明においてリン酸化合物を添加する時点である炭酸化率2〜10%付近は、反応の開始後、降下する導電率の最小値(一次降下の最小値)であり、この時点以降も継続して反応を行なうと微小粒子の凝集体となり、球状炭酸カルシウムの生成が阻害される。従って、炭酸化率2〜10%付近、好適には4〜6%に到達した時点でリン酸化合物を添加するとともに、この工程(a)を低ガス吹き込み量、高速回転下で行なうことにより、微小粒子の凝集体となるのを防止することができる。
「高速回転下」とは、反応を撹拌して行なう際の撹拌速度が高速であることを意味し、具体的には、反応装置に備えられた撹拌棒の回転速度で10m/秒以上、好ましくは12m/秒以上をいう。
本発明の炭酸カルシウムの製造方法では、さらに、工程(a)において炭酸化率が10〜30%に達した時点で反応液に稀釈水を投入し、高ガス吹き込み量で反応を終結させた後、工程(b)を行なうことが好ましい。稀釈水を投入することにより、生成粒子を系内において分散させて局所反応を抑制することができ、真球状の粒子の生成を促進することができる。また温度上昇による反応速度の低減を防ぐことができる。
本発明は、さらに、上記の製造方法によって得られたカルサイト型球状炭酸カルシウムの化粧料への利用、製紙用塗工液への利用を含む。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の球状炭酸カルシウムの製造方法の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明のカルサイト型球状炭酸カルシウム及びその製造方法をさらに詳細に説明する。
1.原料の調製
本発明の製造方法において用いる水酸化カルシウム含有水性懸濁液(以下、水酸化カルシウムスラリーともいう)は、消石灰を水と混合して調製するか、生石灰(酸化カルシウム)を水で湿式消化させることにより調製することができる。湿式消化は、Ca濃度50〜260g/L、好ましくは60〜200g/L、温度20〜100℃好ましくは40〜100℃及びスレーカーでの平均滞留時間60分以内、好ましくは3〜30分という消化条件下で、連続湿式型のスレーカーを用いて行なうことが好ましい。
消化用の水は通常の水道水、工業用水、地下水、井戸水、或いは次の炭酸化工程で生成される炭酸カルシウム水性スラリーの分離脱水処理により得られる分離水またはろ過処理により得られるろ水を用いることができる。
2.炭酸化反応
上記のように調製した水酸化カルシウムスラリーに二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスを吹き込み反応させて、炭酸カルシウムを生成する。この炭酸化反応は、種結晶を生成させる工程と結晶を成長させる工程とを含み、好適には多段的に行なう。具体的には、例えば図1に示すように、1)まず、必要に応じて水酸化カルシウム濃度を調整した後、水酸化カルシウムスラリーに二酸化炭素ガスもしくは二酸化炭素含有ガスを吹き込み、反応溶液の炭酸化率が2〜10%付近、好適には4〜6%付近に達するまで反応させる(段階1)。2)水溶性リン酸類またはその水溶性塩の水溶液或いは懸濁液を添加し、低ガス吹き込み量で引き続き炭酸化を行なう(段階2)。3)炭酸化率15%付近(10〜30%)に達した時点で、反応液に稀釈水を投入し、高ガス吹き込み量で反応を行い、終結させる(段階3)。この1)〜3)までの段階が種結晶生成工程であり、この工程は高速回転下で行なう。次に、4)種結晶生成工程で得られた炭酸カルシウムに、さらに水酸化カルシウムスラリーと水溶性リン酸類またはその水溶性塩の水溶液或いは懸濁液を加え、二酸化炭素ガスもしくは二酸化炭素含有ガスを吹き込みながら引き続き炭酸化を行い、結晶を成長させる(段階4)。
反応の各段階は、常圧又は加圧下で行なうことができる。
反応開始温度は、好適には0〜100℃、より好適には5〜50℃とする。各段階における反応温度は圧力条件等との関係もあり、好適な範囲も変動するが、5〜260℃の範囲とする。高温・高圧になればなるほど、粒子形成の速度が増大する傾向がみられ、また、攪拌速度が増大するほど、粒子形成の速度が増大するものの、粒子の形状のバラツキが生じる要因となる。従って、均一な粒子形状の炭酸カルシウムを得るためには、温度0〜100℃で反応させることが好適である。
炭酸化反応における反応液の水酸化カルシウム濃度は、好適には50〜200g/L、さらに好適には約50〜150g/Lである。炭酸カルシウムの量が少なく低濃度になりすぎると生産性が低下する。また多すぎて高濃度になりすぎても水溶性リン酸塩類またはその水溶液あるいは水懸濁液の分散性が良好ではなく、局所反応が起こりやすくなる。このためアパタイトによる均一な表面修復が得られなくなるうえに、炭酸カルシウムとアパタイトの混合物が生成しやすくなるので好ましくない。
また反応液のpH値は、反応の各段階において塩基性領域とすることが好ましく、具体的にはpH8〜13、好ましくはpH9〜11の範囲とする。このpH値が低すぎるとリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)などのアパタイト以外のリン酸カルシウムを生成し、粒子径や物性が均一な球状炭酸カルシウムを得ることができない。またpH値が高すぎても反応後の懸濁液のpHが高くなり、その後に物性変動や製品への影響を生じるおそれがあり好ましくない。
二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスの吹き込み量は、反応の各段階で変化させる。最初の段階(段階1)では比較的高い吹き込み量とする。具体的には、水酸化カルシウム1kg当りの100容量%二酸化炭素ガス量として0.1〜10NL/分の範囲とする。これにより反応の初期に効率よく微小粒子を生成することができる。水溶性リン酸類またはその水溶性塩を添加した後(段階2)は、低ガス吹き込み量とする。具体的には、水酸化カルシウム1kg当りの100容量%二酸化炭素ガス量として0.1〜1.0NL/分の範囲とする。
水溶性リン酸またはその水溶性塩は、炭酸カルシウムの全表面にアパタイト被覆層を形成させるために添加されるもので、段階1の反応において炭酸化率が2〜10%、好適には4〜6%となった時点で添加される。添加時期がこれより早い場合、例えば、反応と同時に入れた場合や、炭酸化率が10%を超えた場合には、いずれも平均粒子径の大きい炭酸カルシウムを生成することができない。水溶性リン酸としては、例えばオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸などが挙げられ、その水溶性塩としては例えば、NHPO、(NHHPO、(NHPO、NaHPO、NaHPO、NaPO、KHPO、KHPO、KPOなどが挙げられる。これは1種用いても良いし、または2種以上組み合わせてもよい。
これら水溶性リン酸またはその水溶性塩は、好適には水溶液あるいは水懸濁液として添加する。添加量は、炭酸カルシウムの全表面にアパタイト被覆層を形成させるのに十分な量や適当な濃度のものを用いることが重要である。具体的には、軽質炭酸カルシウムと水溶性リン酸化合物とのCa/P(モル比)で2〜20、好ましくは10〜20の範囲で選ばれる。この比が小さすぎると軽質炭酸カルシウムとアパタイトの混合物が生成するし、また大きすぎても軽質炭酸カルシウムの全表面へのアパタイト被覆層の形成が不充分となるので好ましくはない。
水溶性リン酸類またはその水溶性塩を添加した後は、上述したように二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスの吹き込み量を低ガス吹き込み量条件とし、高速回転で反応を行なう(段階2の反応)。具体的には、撹拌棒の回転速度で10m/秒以上、好ましくは12m/秒以上で反応させる。このように種結晶生成工程を高速回転で行なうとともに、各段階におけるガス量を制御することにより、微小粒子の凝集を抑制し、その後の段階で真球状粒子の結晶を成長させることができる。
この段階2の条件で反応を終結させる(炭酸化率100%とする)ことも可能であるが、好適には、段階2において炭酸化率が15%(10〜30%)程度になった時点で稀釈水を投入し、段階3の反応を行なう。段階3では、ガス吹き込み量を高いガス吹き込み量条件とし、高速回転で反応させる。具体的には、ガス吹き込み量は、段階1と同様かそれ以上、回転速度は段階1と同様である。
このように反応が終結する前に稀釈水を投入することにより、温度上昇による反応速度の低下を防ぐとともに、生成粒子を系内で分散させることができ、局所反応を抑制することができる。希釈水の投入量は、特に限定されないが、反応液の濃度を1/2程度にするのが好ましく、反応開始前に仕込んだ水酸化カルシウム水性スラリーの量(容量)に対し、0.5〜2.0倍、好ましくは0.8〜1.3倍程度である。
3.結晶成長工程
上記種結晶を生成するための炭酸化工程1)〜3)が終了後、さらに水酸化カルシウムスラリーと水溶性リン酸塩類またはその水溶性塩の水溶液を添加し、常圧または加圧下、0〜100℃の温度で引き続き炭酸化を行い、結晶を成長させる。
結晶成長工程において使用する水酸化カルシウムスラリーは、種結晶生成工程で調整したものを引き続き使用することができる。また、この炭酸化工程で使用する水酸化カルシウムスラリーの濃度及び水溶性リン酸またはその水溶性塩の添加量は、種結晶生成工程における濃度、添加量と同様である。但し、この段階では攪拌速度は遅いほうが好ましい。速度を増大させた場合には、生成速度が増大し、生成する球状粒子表面が歪になる傾向があるので、好ましくない。具体的には、攪拌棒の周速で、結晶生成工程の数分の一程度が好適である。
炭酸化後の反応スラリーを振動篩等の篩でろ過することにより、本発明の球状炭酸カルシウムを得ることができる。この場合、篩によるろ渦に先立って、液体サイクロンを用いた分級を行なうことが好ましい。液体サイクロンによる分級を行なうことにより、篩の日詰まりおよび、微細粒子の混入を防止することができる。
4.用途
このようにして製造された本発明の球状炭酸カルシウムは、平均粒子径が10μm以上のカルサイト型炭酸カルシウムであり、顔料、充填剤、化粧料等公知の炭酸カルシウムの用途、特に比較的粒子径の大きい炭酸カルシウムが求められる用途に用いることができる。具体的には、製紙、特にマットコート紙の塗工用顔料、化粧料、プラスチックやフィルム・ゴムなどの充填剤として好適に使用することができる。本発明の球状炭酸カルシウムは、巨大粒子であるため嵩高く、白色度に優れたものである。
【実施例】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら、制限されるものではない。
なお、以下の実施例において、二酸化炭素もしくは二酸化炭素含有ガスの吹き込み量は、20℃の状態の100%二酸化炭素ガスに換算した量で示す。また炭酸カルシウムの粒子径(メディアン径(μm)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−920:堀場製作所社製)で測定した値である。
1.球状炭酸カルシウムの製造
【実施例1】
1000Lの水(導電率0.05mS/cm)に、生石灰86kgを入れ、105g/Lの濃度の水酸化カルシウム水性スラリー(消石灰ミルク)を得た。次いで、このスラリーを濃度100g/L、20℃に調整した後、150Lを半回分式反応器に仕込み、周速13m/sでかきまぜながら、二酸化炭素濃度30容量%のガスを、水酸化カルシウム1kg当り、100容量%二酸化炭素換算で3NL/minの割合で吹き込み、反応液の炭酸化率4%またはその付近に達したところで、反応を一次停止し、一次反応中間体を得た(段階1)。
上記一次反応中間体に、その水酸化カルシウム換算100重量部に対し、ヘキサメタリン酸ナトリウムを1.5重量部、固形分濃度2%の水溶液にして添加して混合し、次いで周速13m/sでかき混ぜながら、二酸化炭素濃度30容量%のガスを、水酸化カルシウム1kg当り、100容量%二酸化炭素換算で0.3NL/minの割合で吹き込み、炭酸化率15%またはその付近に達したところで、反応を二次停止し、二次反応中間体を得た(段階2)。
二次反応中間体に、20℃の水150Lを投入し、二次反応中間体を希釈した後、次いで周速13m/sでかき混ぜながら、二酸化炭素濃度80容量%のガスを、水酸化カルシウム1kg当り、100容量%二酸化炭素換算で3.6NL/minの割合で吹き込み、反応を終結させ、三次中間体を得た(段階3)。
上記三次反応中間体150L、水酸化カルシウム水性スラリー(濃度50g/L)150Lとその水酸化カルシウム換算100重量部に対し1.0重量部のヘキサメタリン酸ナトリウムを固形分濃度2%の水溶液にして添加したものを、半回分式反応器に仕込み20℃に調整した後、次いで周速2.6m/sでかき混ぜながら、二酸化炭素濃度30容量%のガスを、水酸化カルシウム1kg当り、100容量%二酸化炭素換算で3NL/minの割合で吹き込み、反応を終結させた(段階4)。
このようにして得られた球状炭酸カルシウムの水性スラリーをフィルタープレスでろ渦後脱水を行い、固形分濃度40重量%の脱水ケーキを得、乾燥機にて乾燥後、粉砕処理を行なうことでパウダーを得た。このパウダーの平均粒子径13.0μmの球状粒子であり、X線回析分析結果からカルサイトであることが確認された。
【実施例2】
実施例1と同様にして三次反応中間体を得た。この三次反応中間体を210L、水酸化カルシウム水性スラリー(濃度50g/L)90Lとその水酸化カルシウム換算100重量部に対し1.0重量部のヘキサメタリン酸ナトリウムを固形分濃度2%の水溶液にして添加したものを、半回分式反応器に仕込み、その他の条件は実施例1と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
このようにして得られた球状炭酸カルシウムは、平均粒子径11.5μmの球状粒子であり、X線回折分析結果からカルサイトであることが確認された。
【実施例3】
実施例1と同様にして三次反応中間体を得た。この三次反応中間体を90L、水酸化カルシウム水性スラリー(濃度50g/L)210Lとその水酸化カルシウム換算100重量部に対し1.0重量部のヘキサメタリン酸ナトリウムを固形分濃度2%の水溶液にして添加したものを、半回分式反応器に仕込み、その他の条件は実施例1と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
このようにして得られた球状炭酸カルシウムは、平均粒子径16.3μmの球状粒子であり、X線回折分析結果からカルサイトであることが確認された。
<比較例1>(結晶成長工程なし)
実施例1と同様にして三次反応中間体を得た時点で反応を終結し、生成した球状炭酸カルシウムを回収した。
このようにして得られた球状炭酸カルシウムは、平均粒子径7.8μmの球状粒子であり、X線回折分析結果からカルサイトであることが確認された。
<比較例2>(リン酸化合物を段階1で添加)
実施例1と同様の水酸化カルシウム水性スラリー(濃度100g/L、20℃)150Lを半回分式反応器に仕込み、さらに、水酸化カルシウム換算100重量部に対し、ヘキサメタリン酸ナトリウム1.5重量部を固形分濃度2%の水溶液にして添加して混合し、次いで周速13m/sでかき混ぜながら、二酸化炭素濃度30容量%のガスを、水酸化カルシウム1kg当り、100容量%二酸化炭素換算で0.3NL/minの割合で吹き込み、炭酸化率15%またはその付近に達したところで、反応を停止し、一次反応中間体を得た。
20℃の水150Lを投入し、一次反応中間体を希釈した後、次いで周速13m/sでかき混ぜながら、二酸化炭素濃度80容量%のガスを、水酸化カルシウム1kg当り、100容量%二酸化炭素換算で3.6NL/minの割合で吹き込み、反応を終結させて、生成した球状炭酸カルシウムを回収した。
このようにして得られた球状炭酸カルシウムは、平均粒子径4.7μmの球状粒子であり、X線回折分析結果からカルサイトであることが確認された。
<比較例3>(リン酸化合物を炭酸化率12%で添加)
実施例1の段階1で、炭酸化率12%に達するまで反応させた後、反応を一次停止し、一次反応中間体を得た。その後、実施例1の段階2、段階3と同様に反応を行い、生成した球状炭酸カルシウムを回収した。
このようにして得られた炭酸カルシウムは、平均粒子径5.6μmの微細粒子の凝集体であることが確認された。
<比較例4>(リン酸化合物添加後の段階2を高ガス吹き込み量条件で実施)
実施例1の段階2におけるガス吹き込み量を、1.7NL/分の高ガス吹き込み量条件に変えた以外は、実施例1と同様にして段階1〜段階3の反応を行い、生成した球状炭酸カルシウムを回収した。
このようにして得られた炭酸カルシウムは、平均粒子径4.8μmの微細粒子の凝集体であることが確認された。
<比較例5>(リン酸化合物添加後の段階2を低速回転条件で実施)
実施例1の段階2における撹拌棒の回転数を、7.8m/sの低回転条件に変えた以外は、実施例1と同様にして段階1〜段階3の反応を行い、生成した球状炭酸カルシウムを回収した。
このようにして得られた炭酸カルシウムは、微細粒子の凝集体と球状粒子の混合物であり、その平均粒子径は4.7μmであった。
実施例1及び比較例1〜5の反応条件と得られた炭酸カルシウムの平均粒子径をまとめて表1に示す。

表1に示す結果からもわかるように、結晶成長工程を設けない場合には、平均粒子径10μm以上の炭酸カルシウムを得ることができなかった。また比較例1と比較例2〜5との比較からもわかるように、結晶生成工程において、リン酸化合物の添加を初期にした場合や炭酸化率12%で添加した場合及びリン酸化合物添加後の反応を高ガス吹き込み量或いは低速回転下で行なった場合には、いずれも大きな種結晶を生成させることができなかった。
2.炭酸カルシウムの評価
実施例1〜3及び比較例1で得られた炭酸カルシウムのパウダーの動摩擦係数(μm)を、J.TAPPI紙パルプ試験方法No.30−79に準拠して、次のように測定した。試料台上に両面テープをはり、その表面に一定量(18〜20g/m)の粉末を乗せて、東洋精機製作所製のストログラフR型を用い測定した。結果を表2に示す。
3.製紙用塗工液の調製及び塗工紙の製造
実施例1〜3及び比較例1で得た炭酸カルシウムの乾燥粉体を用い、これを固形分濃度約68%となるように、水及び分散剤(1%のCaCO)と混合し、炭酸カルシウムスラリーを調製した。
上記のように調製した炭酸カルシウムスラリーを塗工液として、上質紙(坪量81g/m)の片面に手塗ロットバーで塗布量が約22m/gとなるように塗工、乾燥し塗工紙を製造した。
これら塗工紙の物性を下記方法で測定した。結果を表2に示す。
白紙光沢度:JIS P8142に準拠して測定。
インク受理性:JAPAN TAPPI No.46に準拠して測定。

表2の結果からもわかるように、本発明によれば粒子径が大きく白紙光沢度が優れた球状炭酸カルシウムが得られた。この炭酸カルシウムを用いた塗工紙は従来の粒子径の小さい球状炭酸カルシウムを用いた塗工紙と同程度の白色度を有し、インク受理性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、安定した結晶形であるカルサイト型で、平均粒子径10μm以上の球状炭酸カルシウムを提供することができる。また本発明によれば、平均粒子径が最大20μm、最小11μmの球状粒子を選択的に生成することができる。
さらに本発明のカルサイト型球状炭酸カルシウムは、塗工用顔料として用いることにより、白色度が比較的高く、白紙光沢度が低いマットコート紙の特性を十分満たす紙材を提供することができる。また本発明のカルサイト型球状炭酸カルシウムは、平均粒子径が小さいものとほぼ同程度の動摩擦係数(μm)を有し、しかも毛穴などにも入りこめない粒子径を備えていることから、肌触りなどの異物感に影響を及ぼす化粧料としても有効である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウム含有水性懸濁液に二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスを導入して反応させることにより生成した球状炭酸カルシウムであって、その平均粒子径が10μm以上である球状炭酸カルシウム。
【請求項2】
結晶系がカルサイト型である請求項1記載の球状炭酸カルシウム。
【請求項3】
水酸化カルシウム含有水性懸濁液に二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスを吹き込んで反応させることにより球状炭酸カルシウムを製造する方法であって、
反応開始後、炭酸化率が2〜10%に到達した時点で反応液に水溶性リン酸またはその水溶性塩の水溶液或いは懸濁液を添加し、低いガス吹き込み量で、さらに反応を行なう工程(a)と、
前記工程(a)後、反応液に水酸化カルシウム含有水性懸濁液及び水溶性リン酸またはその水溶性塩の水溶液或いは懸濁液を添加し、二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスを導入して、反応させることにより球状炭酸カルシウムを生成する工程(b)とを含み、反応開始から工程(a)の終了までを高速回転下で行なうことを特徴とする球状炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)におけるガス吹き込み量が、水酸化カルシウム1kg当りの100容量%二酸化炭素ガス量として0.1〜1.0NL/分の範囲である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)において炭酸化率が10〜30%に達した時点で反応液に稀釈水を投入し、高ガス吹き込み量で反応を終結させた後、工程(b)を行なうことを特徴とする請求項3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)及び(b)をpHが8〜13の塩基性領域で行なうことを特徴とする請求項3〜5いずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)において、水溶性リン酸又はその水溶性塩の添加量が、カルシウムとリンとのモル比(Ca/P)で2〜20の範囲であることを特徴とする請求項3〜6いずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
請求項3ないし7いずれか1項記載の製造方法により製造された球状炭酸カルシウム。
【請求項9】
請求項1、2及び8のいずれか1項記載の球状炭酸カルシウムの顔料としての使用。
【請求項10】
請求項1、2及び8のいずれか1項記載の球状炭酸カルシウムの化粧料としての使用。
【請求項11】
請求項1、2及び8のいずれか1項記載の球状炭酸カルシウムの充填材としての使用。

【国際公開番号】WO2004/076352
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502923(P2005−502923)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002268
【国際出願日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【出願人】(390020167)奥多摩工業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】