説明

球状複合粒子およびその製造方法

【課題】球状複合粒子の表面または内部に所望の機能を簡易な方法で効率よく付与することができる球状複合粒子の製造方法、および前記方法で得られる球状複合粒子を提供する。
【解決手段】球状複合粒子の製造方法は、溶融可能な有機固体A、Aとは相溶しない成分B、およびAに対して特定の溶解性パラメータSP値差を有するひとつまたは複数の充填剤Cにつき、A、BおよびCを溶融混練した後、B中に分散したAとCの球状複合粒子を得る方法において、a)SP値差が5未満であるCを使用し、Cが内包された球状複合粒子を得る方法、または、b)SP値差が5以上であるCを使用し、Cが外包された球状複合粒子を得る方法、または、c)SP値差が5未満であるCおよび5以上であるCを使用し、Cが内包および外包された球状複合粒子を得る方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性または熱硬化性の樹脂を含む有機固体の球状複合粒子の製造方法および製造された球状複合粒子に関する。より具体的には、粉体塗料、化粧品、トナーなどに配合して使用され、またはスラッシュ成型や粉末積層造型などの成型方法において使用される球状複合粒子の製造方法および製造された球状複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂粒子を製造する方法として、熱可塑性樹脂と、それとは相溶性のない樹脂を加熱溶融した後、溶剤で洗浄することにより熱可塑性樹脂の粒子を得る方法が知られている(特許文献1)。また、無機充填剤や着色剤を含有する化粧料を製造する方法として、粉体を構成する樹脂、これを分散させるための媒体および無機顔料を溶融混練することにより、生成する粉体中に無機顔料を内包する構造からなる樹脂粒子として得る方法が知られている(特許文献2)。
【0003】
一般に、無機微粒子を内包する内包型樹脂粒子は、あらかじめ粉末化する樹脂に無機顔料をコンパウンドしておき、ついで媒体となる樹脂と溶融混練することにより容易に製造できる。しかし、この方法では複数の混練工程が必要となり、操作が煩雑でコストアップにつながる。一方、樹脂粒子の外側に無機微粒子が固定された外包型樹脂粒子は、無機微粒子の有する高い機能性がそのまま発現されるために有用である。しかし、上述したような従来の製造方法では、樹脂粒子の内部に無機微粒子が相当量取り込まれてしまい、目的である無機微粒子が外包された樹脂粒子を製造することは困難であった。当然、それらの方法では、樹脂粒子の外側および内側に無機微粒子をコントロールして含有させることは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−9433号公報
【特許文献2】特開2001−199836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、球状複合粒子の表面または内部に対し、簡易な方法で効率よく所望の機能を付与することができる球状複合粒子の製造方法、および前記方法で得られる球状複合粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の表面処理を行った充填剤を用いることにより、充填剤を内包または外包をした構造の有機固体の粉体が安定かつ容易に得られること、および異なる充填剤をそれぞれ内包および外包する有機固体の粉体が安定かつ容易に得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、溶融可能な有機固体A、Aとは相溶しない成分B、およびAに対して特定の溶解性パラメータSP値差を有するひとつまたは複数の充填剤Cにつき、A、BおよびCを溶融混練した後、B中に分散したAとCの球状複合粒子を得る方法において、
a)SP値差が5未満であるCを使用し、Cが内包された球状複合粒子を得る方法、または、
b)SP値差が5以上であるCを使用し、Cが外包された球状複合粒子を得る方法、または、
c)SP値差が5未満であるCおよび5以上であるCを使用し、Cが内包および外包された球状複合粒子を得る方法を提供する。
【0008】
前記充填剤Cの少なくとも表面は、Aに対して特定のSP値差を有する充填剤であることが好ましい。または、前記充填剤Cは、Aに対して特定のSP値差を有する物質で表面処理された充填剤であることが好ましい。前記有機固体Aは、熱可塑性樹脂であることが好ましく、熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂であることが好ましい。また、前記充填剤Cは、カルボキシル基、カルボン酸基、カルボン酸塩、アミノ基、アミド基、エポキシ基、その他の親水性基を有すること、または、炭素数8以上のアルキル基、アルキルシリコン基、その他の疎水性基を有することが好ましい。
【0009】
また本発明は、上記本発明の方法により製造される球状複合粒子を提供する。さらに、本発明は、前記本発明の球状複合粒子を含む化粧料を提供する。さらにまた本発明は、前記本発明の球状複合粒子を用いた粉末積層造型方法およびそれにより得られる成形体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、充填剤を内包または外包をした構造の有機固体の粉体、および異なる充填剤をそれぞれ内包および外包する有機固体の粉体を、安定かつ容易に得ることができる。球状複合粒子の表面または内部に、所望の機能を簡易な方法で付与することができるため、広範な用途を有する球状複合粒子を効率よく得ることができ、様々な機能を有する化粧料や、粉末積層造型方法の工程改善およびそれにより得られる成形体の機能付与に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いる溶融可能な有機固体Aには特に制限はなく、熱可塑性の樹脂、熱硬化性の樹脂、比較的低分子量の固体状有機物が使用できる。
【0012】
前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエーテル系樹脂、各種エラストマー、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。
【0013】
ポリアミド系樹脂は、ジアミン成分(ヘキサメチレンジアミン等のC4-10アルキレンジアミンなど)とジカルボン酸成分(アジピン酸等のC4-20アルキレンジカルボン酸など)との重合により得られるポリアミド、アミノカルボン酸(ω−アミノウンデカン酸等のC4-20アミノカルボン酸など)の重縮合により得られるポリアミド、ラクタム(ω−ラウロラクタム等のC4-20ラクタムなど)の開環重合により得られるポリアミド、ジアミン成分(ヘキサメチレンジアミン等のC4-10アルキレンジアミンなど)とジカルボン酸成分(アジピン酸等のC4-20アルキレンジカルボン酸など)とジオール成分(エチレングリコール等のC2-12アルキレンジオールなど)との重縮合により得られるポリエステルアミド等の何れであってもよい。ポリアミド系樹脂にはホモポリアミドおよびコポリアミドが含まれる。代表的なポリアミド系樹脂としては、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミド910、ポリアミド912、ポリアミド1212、ポリアミド1012、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6T、ポリアミド9等の脂肪族ポリアミド;アラミド樹脂などの芳香族ポリアミド;共重合ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0014】
ポリエステル系樹脂は、ジオール成分とジカルボン酸成分との重縮合により得られるポリエステル、オキシカルボン酸の重縮合により得られるポリエステル、ラクトンの開環重合により得られるポリエステル、ポリエステルジオールとジイソシアネートとの反応により得られるウレタン結合を含むポリエステル等の何れであってもよい。ポリエステル系樹脂にはホモポリエステルおよびコポリエステルが含まれる。代表的なポリエステル系樹脂として、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクトンなどの芳香族ポリエステル等が挙げられる。
【0015】
ポリウレタン系樹脂としては、ジイソシアネート類とポリオール類と必要に応じて鎖伸長剤(エチレングリコールやエチレンジアミン等など)との反応により得られる樹脂が挙げられる。代表的なポリウレタン系樹脂としては、ポリエステルジオールポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等からなるソフトセグメントに、MDI,TDI,IPDI、水添MDI、HDIなどの各種イソシアネートや低分子量ジアミン、グリコール等からなるハードセグメントを用いて製造されるウレタン樹脂等が挙げられる。
【0016】
スチレン系樹脂には、ポリスチレン、α−メチルスチレン重合体等のスチレン系重合体;スチレンまたはその誘導体と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、またはアクリロニトリル等との共重合体等の他、これらにゴムが導入されたHIPS樹脂やABS樹脂等が含まれる。
【0017】
アクリル系樹脂には、ポリ(メタ)アクリル酸;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート等のポリアルキル(メタ)アクリレート;ポリアクリロニトリル;およびこれらの共重合体等が含まれる。
【0018】
オレフィン系樹脂には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等が含まれる。
【0019】
ビニル系樹脂には、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン−酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、テトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ビニルエステル系樹脂などのビニル系化合物の単独または共重合体等が含まれる。
【0020】
セルロース系樹脂には、セルロース単独または共重合体等が含まれる。例えば、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシエチルセルロース等が含まれる。
【0021】
ポリエーテル系樹脂には、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリオキシメチレン等が含まれる。セルロース系樹脂は、例えば、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースエステル類、セルロースエーテル類、セルロースカーバメート類などが含まれる。ポリカーボネート系樹脂には、ビスフェノールA等で構成される芳香族ポリカーボネート;1,6−ヘキサメチレングリコールで構成される脂肪族ポリカーボネート等が含まれる。
【0022】
前記エラストマーには、いわゆるゴムおよび熱可塑性エラストマーが含まれる。ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレンゴム[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、三元エチレン−プロピレンゴム(EPDM)]、アクリルゴム(ACM、ANMなど)、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、ウレタンゴム(AU)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)などが挙げられる。ゴムは未加硫ゴムおよび加硫ゴムの何れであってもよい。
【0023】
熱可塑性エラストマーとしては、分子内にハードセグメントとソフトセグメントとを有する公知のエラストマーを用いることができ、例えば、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、フッ素ポリマー系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー(TPO)などが挙げられる。ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、ポリアミド6あるいはポリアミド12などからなるポリアミド成分と、ポリエーテルジオール等からなるポリエーテル成分とを、それぞれハードセグメントとソフトセグメントとして有するポリアミドエラストマー等が挙げられる。
【0024】
本発明に用いる充填剤Cとしては、製造しようとする球状複合粒子より大きさが小さければ、特にその材質や形状には制限はない。なお、本発明における充填剤とは、球状複合粒子に種々の機能を付与しうる比較的不活性な物質を意味しており、前記機能としては、例えば、絶縁性、強度、粘度、難燃性、導電性、光輝性、色素、抗菌性等を例示できる。充填剤には、無機または有機充填剤等が含まれる。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、カオリン、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、マイカ、タルク、シリカ、石英粉末、ガラス粉、珪藻土、ネフェリンサイナイト、クリストバライト、ウォラストナイト、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミナ、硫酸カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、炭化珪素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末、黒鉛、フェライト、カーボンブラック(導電性等)などが例示でき、さらに、銀、銅、亜鉛等の抗菌機能を持つ金属イオンを各種化合物に結合させた抗菌性フィラー(ヒドロキシアパタイト銀、ゼオライト銀等)なども利用できる。有機充填剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボン繊維、フタロシアニンなどの有機顔料、架橋ポリメタクリル酸メチル等の各種ポリマーの粒状物などが挙げられる。
【0025】
また、本発明に用いる充填剤としては、無機系または有機系着色剤が、熱可塑性樹脂からなる粒子の表面または内部に固定されることにより、コントロールされた発色が得られる点で好ましく用いられる。無機系着色剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、群青、べんがら、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、酸化クロム、複合酸化物顔料等の無機顔料等が挙げられる。有機系着色剤としては、例えば、アゾ系顔料;アントラキノン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ジケトピロロピロール等の多環式系顔料;等の有機顔料、更に樹脂用に使用される分散染料、油性染料等が挙げられる。さらに、化粧品等に使用される厚生省令第30号に規定される各種タール色素類;アルミニウムレーキ類などのレーキ顔料等も好ましく用いられる。
【0026】
本発明に用いる充填剤の形状は、粒状であれば特に限定されず、真球状、楕球状などの球状、円柱状、角柱状などの何れであってもよい。また本発明に用いられる充填剤の大きさは、その分散性を損なわない範囲で用途に応じて選択でき、直径または長径が例えば0.001〜100μm、好ましくは0.005〜50μm、より好ましくは0.010〜30μmである。
【0027】
本発明に用いる充填剤の使用量は、有機固体Aの100重量部に対して、例えば1〜80重量部、好ましくは5〜60重量部程度である。
【0028】
本発明の球状複合粒子には、有機固体Aや充填剤C以外の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、樹脂に対して一般的に使用される酸化防止剤、滑剤、耐候安定剤、難燃剤等を好適に使用することがでる。これらの添加剤の種類や使用量は、球状複合粒子の要求性能に応じて適宜選択できる。
【0029】
これらの充填剤を内包または外包させるためには、充填剤Cと有機固体Aとの親和性が極めて重要となる。充填剤Cと有機固体Aとの相互作用を表すためには溶解性パラメータSP値を使用するのが有効である。充填剤Cと有機固体AのSP値差が小さい場合は充填剤が内包され、両者のSP値差が大きい場合は外包される傾向にある。両者のSP値差が5未満の場合はSP値差が小さく、両者のSP値差が5以上の場合はSP値差が大きいと言える。SP値を得る方法としては一般的なものを使用することができ、例えば、「SP値 基礎と応用と計算法」(山本秀樹著、情報機構出版)などに記載されている方法が挙げられる。
【0030】
充填剤Cと有機固体AのSP値差を調整するには、無機充填剤や有機充填剤を、表面処理剤等により処理する方法が極めて有効である。例えば、有機固体Aの有する官能基と同様の官能基を持つ処理剤や、有機固体Aの有する官能基と強い相互作用を有する官能基を持つ処理剤で充填剤Cを処理した場合、充填剤Cは有機固体Aと極めて強い相互作用をすることになり、両者のSP値差は小さくなる。一方、有機固体Aの有する官能基と相互作用の弱い官能基を有する処理剤で充填剤Cを処理した場合は、両者のSP値差は大きくなる。例えば、有機固体Aがカルボキシル基を有する場合、充填剤Cをアミノシランカップリング剤で処理すれば、両者の強い相互作用によりSP値差は小さくなり、内包型の球状複合粒子を得ることができる。一方、充填剤Cにポリジメチルシロキサンなどを用いてシリコン処理を施せば、両者の弱い相互作用によりSP値差は大きくなり、外包型の球状複合粒子を得ることができる。また、アミノシランカップリング剤で処理した充填剤とシリコン処理した充填剤とを混合して使用すれば、前者充填剤を内包し、後者充填剤を外包した球状複合粒子を得ることができる。
【0031】
本発明の方法は、溶融可能な有機固体A、Aとは相溶しない成分B、およびAに対して特定のSP値差を有するひとつまたは複数の充填剤Cを溶融混練した後、有機固体Aと充填剤Cとで形成された有機固体組成物が成分Bからなるマトリックス中に分散した状態で形成された後、マトリックス成分を水や溶剤などにより除去することにより行われる。
【0032】
本発明に用いる成分Bとしては、有機固体Aと非相溶であれば特に限定されず、公知のものを使用できる。溶融混錬した際、有機固体、成分B、充填剤Cの組成比に応じて、有機固体組成物が分散構造を形成するものであればよく、また、所望の粒子径を持つ球状複合粒子を得るべく、適当な溶融粘度を有するものを選択することができる。
【0033】
成分Bとしては、水溶性材料または非水溶性材料を使用することができる。水溶性材料としては、例えば、単糖類、オリゴ糖、多糖類、糖アルコール、ポリデキストロース、マルトデキストリン、イヌリンなどの糖類、前記糖類の水素化物や加水分解物、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等が挙げられる。一方、非水溶性材料としては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ステアリン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、ステアリリン酸カルシウムなどの固体状アルコール、カルボン酸、金属石鹸、固体状ポリエチレンワックス、石油樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、等の有機溶剤可溶性の熱可塑性樹脂などが挙げられる。なお、水溶性材料または非水溶性材料いずれの場合にも、後の精製工程において容易に除去できるよう、水または溶剤等に溶解した際にできるだけ低い粘度となるものが好ましい。
【0034】
ここで、有機固体Aと成分Bが非相溶であることは、(i)有機固体A、成分B、および充填剤Cとを溶融混練して得られた有機固体組成物の融点またはガラス転移点が、有機固体A単独、または成分B単独の融点またはガラス転移点に近い値(例えば±20%)を示すこと、あるいは、(ii)有機固体Aを20重量%程度含有する成分Bとを加熱混練した後に冷却して得られた混練物を、有機固体Aを溶解せず成分Bを溶解する溶剤に溶解させて得られる分散液につき、顕微鏡下で、有機固体Aが分散した分散液として観察されることで確認することができる。なお、前記ガラス転移点は、DSCや動的粘弾性測定等の慣用の方法で測定できる。
【0035】
本発明における有機固体組成物は、有機固体Aと充填剤Cからなる球状複合粒子が成分Bからなるマトリックス中に分散した形態を有している。このような有機固体組成物は、公知の方法で調製でき、例えば、予め粒状に成形した球状複合粒子を成分Bに分散する方法や、有機固体A、成分B、および充填剤Cを溶融混練して押し出す方法等で調製することができる。本発明では特に後者の方法で調製された有機固体組成物が好ましく用いられる。
【0036】
好ましい有機固体組成物は、例えば、有機固体A、成分B、充填剤C、および必要に応じて添加剤を溶融混練することにより、大きさがほぼ均一の球状(例えば真球状)の複合粒子の分散体を形成した後、押し出す方法により調製することができる。溶融混練および押出しは、一般的な混練機(ニーダー)、押出機(一軸押出機、二軸押出機、ロール式押出機等)などを用い
て行うことができる。
【0037】
混練および押出し温度は、有機固体Aおよび成分Bが溶融する温度であり、かつ各成分の耐熱温度以下であれば特に限定されないが、有機固体Aおよび成分Bの種類や量に応じて適宜選択され、例えば100〜300℃、好ましくは110〜250℃程度である。押出し時の粘度としては、例えば、キャピログラフで測定した押出し温度での溶融粘度が1〜10000Pa・sの範囲が好ましい。前記溶融粘度は、目的とする球状複合粒子の粒子径を制御する点で重要であり、押し出される有機固体組成物の形状は、ストランド状、シート状等の何れであってもよい。また、押出し後は、速やかに冷却されることが好ましい。
【0038】
上記方法により、有機固体Aおよび充填剤Cからなる球状複合粒子が成分Bからなるマトリックス中に分散している有機固体組成物を得ることができる。前記有機固体組成物は、必要に応じて、溶融、延伸、圧縮等の慣用の成形・加工手段を施してもよい。
【0039】
本発明は、上記構成からなる有機固体組成物から成分Bを除去することにより球状複合粒子を製造する方法である。前記成分Bの除去は、例えば、有機固体組成物の洗浄工程、すなわち、有機固体組成物を溶媒中に分散することにより成分Bを液相に溶解させ、固相の球状複合粒子を回収する工程により実施される。前記溶媒としては、有機固体Aを溶解しないが、成分Bを溶解することできれば、特に限定されない。前記溶媒としては、例えば、水、低級アルコール等の水溶性有機溶媒、およびこれらの混合溶媒を用いることができる。特に、環境適性や取扱性の観点から、水が好ましく用いられる。
【0040】
前記分散は、撹拌器、超音波発生装置等の慣用の混合・撹拌手段を用いて行うことができる。なかでも、超音波発生装置によれば、分散効率を向上させ、時間を短縮することができる。
【0041】
上記工程を経て回収された球状複合粒子を乾燥することにより球状複合粒子の製品を得ることができる。最終的に得られる球状複合粒子の大きさは、特に限定されず、球状複合粒子の用途に応じて適宜選択できるが、例えば0.01〜100μm、好ましくは0.5〜80μm程度である。この球状複合粒子の大きさは、例えば、有機固体Aおよび成分Bの種類、使用量(使用比率)、押出し機の構造、押出し条件等を調整することによりコントロールできる。
【0042】
本発明の方法によれば、有機固体Aの表面または内部に充填剤Cが適当に配置された球状複合粒子を形成することができる。ここで、球状複合粒子の表面または内部に充填剤Cが含まれた状態を形成していることは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて確認することができる。
【0043】
本発明の球状複合粒子は、上記構成を有するため、絶縁性、強度、粘度、難燃性、導電性、光輝性、色素、抗菌性等の所望の機能を、粒子の表面または内部に対して効率よく付与することができる。このような球状複合粒子は、例えば、化粧料(スクラブ剤、ファンデーション等)、充填剤、シートやフィルム等の樹脂膜に配合する光学特性付与剤、各種添加剤等として利用できる。
【0044】
本発明の化粧料は、上記製造方法により得られる球状複合粒子を含んでいる。本発明の化粧料は、使用目的に応じて、アルコール、メチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)などの安定剤、界面活性剤、香料、防腐剤、抗酸化剤、コラーゲン、紫外線吸収剤、ムコ多糖類、バインダー、増量剤などの慣用の添加剤を含んでいてもよい。これらの化粧料は、ローション、エマルジョン、クリーム状、ゲル状などの液状や、粉状、粒状、練り状、成形体などの固形状等の形態で用いられ、例えば、クリーム、ファンデーション、リップクリーム、ハンドクリーム、ボディクリーム、化粧石鹸、洗浄料、ピーリング剤、スクラブ剤、パック剤、化粧水、乳液、美容液、シャンプー、リンス、整髪料等として利用することができる。特に本発明の球状複合粒子は、フィラーとして色素を用いることにより、発色性に優れたファンデーション等の化粧料として好適に利用することができる。
【0045】
本発明の粉末積層造形方法は、上記製造方法により得られる球状複合粒子を用いる。本発明の粉末積層造形方法において、外包する充填剤の種類を選択することにより、各層における粉末の流動性を改善したり、粉末間の接着性を調整できるなど、工程改善に寄与することができる。同時に、内包する充填剤の種類を選択することにより、使用目的に応じて、得られる成形体の強度、耐熱性、機械特性を調整できるため、機能性に富んだ多様な三次元物体を効率よくコントロールして得る方法として極めて有効である。
【0046】
本発明の粉末積層造形方法により得られる成形体は、上記製造方法により得られる球状複合粒子を含んでいる。本発明の成形体は、使用目的に応じて、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤などの慣用の添加剤を含んでいてもよい。また、充填剤C以外の充填剤として、さらに、ガラス、金属、金属酸化物またはセラミックを含んでいてもよい。特に本発明の球状複合粒子は、充填剤として着色剤を用いることにより、彩色性や色素増感性が重要な成形体の製造に好適に利用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0048】
実施例1
ダイセル・エボニック社製のポリアミド12樹脂(COOH末端基123mmol/kg、SP値21.7)20重量部、オリゴ糖として東和化成工業製の粉末還元澱粉糖化物(商品名「PO−10」)65重量部、D−ソルビトール35重量部の混合物、およびステアリン酸処理した酸化亜鉛(粒子径0.3μm、SP値18.7)4重量部を、200℃に設定した二軸押出し機でを用いて溶融混練した後、ストランド状(約3mm径)に押出してベルトクーラーで冷却し、ポリアミド12樹脂、オリゴ糖、および酸化亜鉛からなるペレット状の有機固体組成物を作成した。
【0049】
ついで、このペレット状の有機固体組成物を5重量%濃度で水に溶解し、5Aの濾紙を用いてヌッチェで減圧濾過し、洗浄する工程を10回繰り返して、水溶性のオリゴ糖をポリアミド12樹脂と酸化亜鉛からなる球状複合粒子から除去し、得られた湿ケーキを80℃で減圧乾燥した。
【0050】
得られた球状複合粒子は中心径は5μmであった。この球状複合粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、ポリアミド12樹脂粒子の内部に酸化亜鉛が含まれた球状複合粒子が形成されていた。
【0051】
実施例2
実施例1において、酸化亜鉛の代わりに、ステアリン酸カルシウム処理した酸化チタン(粒子径0.3μm、SP値18.0)4重量部を用い、210℃に設定した二軸押出し機を使用した以外は実施例1と同様の操作で有機固体組成物を得た後、該有機固体組成物より球状複合粒子を回収した。得られた球状複合粒子の中心径は1.6μmであった。この球状複合粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、ポリアミド12樹脂粒子の内部に酸化チタンが含まれた球状複合粒子が形成されていた。得られた球状複合粒子のTEM写真を図1に示す。
【0052】
実施例3
実施例1において、酸化亜鉛の代わりに、シリコン処理した酸化チタン(粒子径0.3μm、SP値<10)4重量部を用い、190℃に設定した二軸押出し機を使用した以外は実施例1と同様の操作で有機固体組成物を得た後、該有機固体組成物より球状複合粒子を回収した。得られた球状複合粒子の中心径は1.3μmであった。この球状複合粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、ポリアミド12樹脂粒子の表面に酸化チタンが固定された球状複合粒子が形成されていた。得られた球状複合粒子のTEM写真を図2に示す。
【0053】
実施例4
実施例1において、酸化亜鉛の代わりに、シリコン処理した酸化チタン(粒子径0.3μm、SP値<10)2重量部およびステアリン酸カルシウム処理した酸化チタン(粒子径0.3μm、SP値18.0)2重量部を用い、それ以外は実施例1と同様の操作で有機固体組成物を得た後、該有機固体組成物より球状複合粒子を回収した。得られた球状複合粒子の中心径は2.3μmであった。この球状複合粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、ポリアミド12樹脂粒子の表面に酸化チタンが固定され、内部に酸化チタンが含まれた球状複合粒子が形成されていた。得られた球状複合粒子のTEM写真を図3に示す。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例2で得た球状複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例3で得た球状複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例4で得た球状複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融可能な有機固体A、Aとは相溶しない成分B、およびAに対して特定の溶解性パラメータSP値差を有するひとつまたは複数の充填剤Cにつき、A、BおよびCを溶融混練した後、B中に分散したAとCの球状複合粒子を得る方法において、
a)SP値差が5未満であるCを使用し、Cが内包された球状複合粒子を得る方法、または、
b)SP値差が5以上であるCを使用し、Cが外包された球状複合粒子を得る方法、または、
c)SP値差が5未満であるCおよび5以上であるCを使用し、Cが内包および外包された球状複合粒子を得る方法。
【請求項2】
充填剤Cの少なくとも表面が、Aに対して特定のSP値差を有する充填剤である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
充填剤Cが、Aに対して特定のSP値差を有する物質で表面処理された充填剤である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
有機固体Aが、熱可塑性樹脂である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
充填剤Cが、カルボキシル基、カルボン酸基、カルボン酸塩、アミノ基、アミド基、エポキシ基、その他の親水性基を有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
充填剤Cが、炭素数8以上のアルキル基、アルキルシリコン基、その他の疎水性基を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れかの項に記載の方法により得られる球状複合粒子。
【請求項9】
請求項8記載の球状複合粒子を用いた化粧料。
【請求項10】
請求項8記載の球状複合粒子を用いて粉末積層造形を行うことを特徴とする粉末積層造形方法。
【請求項11】
請求項10記載の粉末積層造形方法により得られる成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−132811(P2010−132811A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311266(P2008−311266)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000108982)ダイセル・エボニック株式会社 (31)
【Fターム(参考)】