説明

球状高分子材料の液相化学反応による改質方法および球状改質高分子材料

【課題】 球状高分子材料に機能性を付与する改質を行うこと、特に材料の高分子量及び機械的特性を維持した状態で、又球状の形態を維持した状態で、反応性活性種又は反応性官能基を導入すること。
【解決手段】 活性放射線により励起されて反応性活性種を生成する第1の化合物を液相として存在せしめ球状高分子材料の共存下において活性放射線を照射することにより該球状高分子材料に該反応性活性種を導入する活性種導入工程を含むことを特徴とする高分子材料の改質方法、更に該球状高分子材料と、反応性官能基を有する第2の化合物とを反応させることにより該反応性活性種を該反応性官能基に変換する官能基変換工程を含んでも良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然もしくは合成高分子からなる粒子の改質方法に関するものである。本発明は、詳しくは高分子からなる粒子に機能性を付与するための反応性官能基又は極性官能基を導入する球状高分子材料の改質方法及び球状改質高分子材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子材料に機能性を付与するために反応性官能基もしくは極性官能基を導入するには、合成高分子の場合には繰り返し単位となる重合性単量体(モノマー)に予め官能基を導入後、重合反応させる方法と、高分子材料を溶媒に溶解して導入すべき官能基を有する化合物と高分子との反応により導入する方法がある。機能性としては、ぬれ性(親水性、撥水性)、極性等がある。これらの高分子材料への官能基導入による高分子材料の改質とその方法については、例えば高分子学会高分子実験学編集委員会編の機能性高分子(共立出版株式会社、1974年7月初版発行)等の成書に述べられている。
【0003】
しかしながら、重合性単量体(モノマー)に予め導入する方法には、導入された官能基が重合反応を阻害し、重合度が高くならなかったり導入された官能基が重合中に反応し官能基量が低下したり、反応により架橋構造を作ることで折角機能付加させた高分子材料の溶媒溶解性を低下させたり、熱軟化温度を高くするために成形等の形状変化を難しくするといった問題があった。
【0004】
さらに重合反応によっては導入される官能基が材料中に不均一にブロックとして存在するために充分な機能を発現しないといった問題もある。
【0005】
また、高分子材料を溶媒に溶解して機能性官能基を有する低分子化合物との反応により官能基を導入する方法では、溶媒に溶解する材料にしか利用できず、また導入する官能基を有する低分子化合物が高分子材料と同じ溶媒に溶解しないと反応が良好に進行せず、また官能基導入反応が進行しても反応溶媒への溶解性が反応進行に伴って低下して析出等により充分な官能基量が導入できないといった問題もある。
【0006】
上記の他に、高分子材料をフィルム、繊維もしくは繊維を依った紡糸を織った布帛や編んだ編み布等の構造体とした後に表面改質をする方法も、従来種々の分野で広く行われている。その方法は主として窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン等のガスの存在下で電子線、プラズマ、コロナ放電といった処理等により高分子構造体(高分子材料)の表面に極性基を発生させる方法がある。例えば、布帛の表面をプラズマ処理して捺染時の染料水溶液の濡れ性を改良する方法が特許文献1及び2等に述べられている。
【0007】
この方法は確かに布帛表面の染料水溶液との濡れ性の改質には効果があるが、機能付与に充分な量の官能基は導入できていない。さらに所望の反応性もしくは極性官能基の導入はできないといった問題がある。
【0008】
また、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムの表面を空気中でコロナ放電処理しその処理面上に塗膜を形成させる方法により接着性を向上させる方法も公開されている。この方法もフィルム表面が改質され確かに塗膜との相互作用により接着性が改良されるが所望の官能基導入はできていない。
【0009】
また、これらの従来方法では場合により処理中の帯電によりゴミ等の異物を引きつけ易く、表面を汚染したりするといった問題点がある。さらにその効果の持続性は短く処理後すぐに次の工程に使用せねばならなかった。また高分子表面のみの改質であり、材料の内部もしくは裏側にまで効果を及ぼすことはできなかった。
【0010】
他に、積極的にオゾン存在下で布帛表面に紫外線を照射することで表面の極性を効率よく改良しようとする技術も公開されているが、充分な量の極性基が導入されず、その効果の持続性には問題があり、所望の官能基導入はできていない。
【0011】
また、光C−H活性化を利用する方法がある。C−H活性化(C−H Activation)とは、飽和炭化水素などの不活性なC−H結合を開裂して直接に官能基を導入する手段であり、天然ガスへの塩素置換などがこれに当たる。通常、金属触媒などが用いられるが、光化学的な反応機構による方法もある。これらの反応は有機合成化学の反応としてはよく知られた例もあるが、反応位置の制御が困難との理由で工業的に広くは利用されていない。しかし、利用例として東レのカプロラクタム合成におけるシクロヘキサンの光ニトロソ化などがある。
【0012】
しかしながら、このような光化学的な反応機構による方法では、主として低分子化合物の反応を実施しているため、液相中でも分子の拡散又は混合は充分に起こるが、高分子材料との反応では固体中での分子の拡散を充分に起させるためには、固体−液体よりは固体−気体の状態の方が拡散速度も速く、表面ばかりでなく、高分子材料内部の改質も効率よく実施できる。
【0013】
そこで、本発明者らの1人は固相−気相反応による光化学反応を利用して高分子材料の改質方法を開発した(特許文献3)。しかしながら、改質により導入される表面官能基濃度が用途によって不十分な場合があった。特に高分子材料からなる球状粒子の表面に均一かつ高濃度に反応性官能基を導入することは困難であった。
【0014】
【特許文献1】特開平2−47378号公報
【特許文献2】特開平4−153381号公報
【特許文献3】特開平9−316126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、球状高分子材料に機能性を付与のための改質を行うこと、特に材料の高分子量及び機械的特性を維持した状態で、又球状の形態を維持した状態で、反応性活性種又は反応性官能基もしくは極性官能基(この両基を単に、「反応性官能基」ともいう。)を導入することである。
【0016】
さらに導入すべき官能基量も表面のみならず、必要に応じて粒子内部にも従来技術より多く導入し、その効果の持続性が長い球状高分子材料を提供することが、本発明の他の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明においては球状高分子材料の表面または内部の改質を特定化合物の液相中で活性反応種を生成させ、この反応性活性種を高分子材料に導入すること、さらにこれを種々の反応性官能基又は極性官能基に変換することが有効であることを、本発明者らは見出した。
【0018】
本発明の上記課題は、以下の手段により解決された。
項1)活性放射線により励起されて反応性活性種を生成する第1の化合物を液相として存在せしめ球状高分子材料の共存下において活性放射線を照射することにより該球状高分子材料に該反応性活性種を導入する活性種導入工程を含むことを特徴とする高分子材料の改質方法。
【0019】
上記の改質方法の好ましい実施態様を以下に列記する。
項2)該反応性活性種を導入した該球状高分子材料と、反応性官能基を有する第2の化合物とを反応させることにより該反応性活性種を該反応性官能基に変換する官能基変換工程を含む項1)記載の球状高分子材料の改質方法、
項3)反応性官能基が、−COCl,−COOH,−OH,−SH,−NH2,−R1NH,及び−R12Nよりなる群から選ばれた少なくとも1つの基を末端に有する基である項1)又は2)記載の球状高分子材料の改質方法、
項4)前記第1の化合物がハロゲン化オキザリルである項1)〜3)いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法、
項5)前記第2の化合物が、球状高分子材料に導入されたハロゲン化カルボニル基と反応しうる活性水素を有する化合物又は水である項1)〜4)いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法、
項6)前記第1の化合物が二塩化オキザリル及び/又は臭化オキザリルである項1)〜5)いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法、
項7)前記活性放射線が紫外線である項1)〜6)いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法、
項8)官能基変換工程を有機溶媒中で行う項2)〜7)いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法、
項9)官能基変換工程を前記第2の化合物の気相中で行う項2)〜8)のいずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法、
項10)前記第2の化合物が分子構造中に2種以上の反応性官能基を有する項2)〜9)いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法。
【0020】
本発明の上記課題は、以下の項11)に記載する手段により解決された。
項11)活性放射線により励起された第1の化合物により生成した反応性活性種が粒子表面に導入された球状高分子材料であることを特徴とする球状改質高分子材料。
【0021】
上記の球状改質高分子材料の好ましい実施態様を以下に列記する。
項12)項11)記載の改質球状高分子材料が有する反応性活性種を変換して得られる反応性官能基を有する球状改質高分子材料、
項13)該反応性官能基が、−COCl,−COBr,−COOH,−OH,−SH,−NH2,−R1NH,及び−R12N(R1及びR2は独立に水素原子、アルキル基又はアリール基を示す。)よりなる群より選ばれ、かつ高分子材料に共有結合で結合した基である項11)又は12)記載の球状改質高分子材料、
項14)反応性活性種が−COCl又は−COBrである項11)〜13)いずれか1つに記載の球状改質高分子材料。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、PET微粒子、PE微粒子又はPP微粒子のような球状形態を有する高分子材料にもハロゲン化カルボニル基のような反応性活性種を導入することができ、この基を後続反応により他の反応性官能基に誘導することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
上記の課題を解決する手段を以下に具体的に述べる。
本発明者らは高分子材料の改質に関する前記課題を解決するために、鋭意検討をした結果、高分子材料の多くは飽和もしくは不飽和の炭化水素構造を有するため、C−H活性化反応を利用することで課題を解決することができることを見出した。そして、光C−H活性化により高分子材料のC−H結合に反応活性種を導入し、その特性を改質するために光化学反応を液相で行うことにより、種々の形態の高分子材料すなわち繊維、織布、フィルム、特に粒子形状を有する高分子材料でも改質することを可能とした。
【0024】
すなわち、本発明は、活性放射線により励起されて反応性活性種を生成する第1の化合物を液相として存在せしめ球状高分子材料の共存下において活性放射線を照射することにより該球状高分子材料に該反応性活性種を導入する活性種導入工程を含むことを特徴とする球状高分子材料の改質方法に係る。
本発明は又、活性放射線により励起された第1の化合物により生成した反応性活性種が導入された球状高分子材料であることを特徴とする改質高分子材料に係る。
ここで、球状粒子の平均粒子直径は、0.1〜1,000μmが好ましく、0.5〜500μmがより好ましく、1〜100μmが特に好ましい。ここで平均とは、数平均を言う。
なお、球状粒子は真球状の他に球状に近い略球状の形状を含み、ここで略球形とは、形状係数SF−1により、100〜140の形状、好ましくは105〜130を意味する。形状係数SF1は、形状係数の平均値であり、次の方法で算出する。即ち、スライドグラス上に散布した球状粒子の光学顕微鏡像をビデオカメラを通じてルーゼックス画像解析装置に取り込み、100個以上のトナーについて、周囲長および投影面積から、下記式によりSF1を求め、平均値を得たものである。式中、MLはトナー粒子の最大長を示し、Aは粒子の投影面積を示す。
【0025】
【数1】

【0026】
以下、本発明の理解を容易にするために、一実施形態として、二塩化オキザリルの光化学反応による、C−Hのクロロカルボニル化反応を用いた例を示す。この反応は、光化学的に発生する、反応性活性種(ラジカル種)を経る反応であり、化学量論的には式(1)に示すとおりである。
【0027】
【化1】

ここで、Rは球状高分子材料中の炭素原子残基を示す。
【0028】
この反応は、各種の高分子材料中の炭化水素基のクロロカルボニル化反応に有効であり、例えば、ポリエチレンテレフタレートの基本構造を有する化合物では、メチレン鎖等の炭素原子がクロロカルボニル化された生成物が得られる。
【0029】
一般にC−H活性化に使用される活性放射線としては、第1の化合物を励起して、反応活性種(ラジカル種)を発生させる活性放射線であれば、いかなる種類も使用可能である。例えば、γ線,β線,X線などの電子線や放射線や紫外線等が例示できる。その中でも、紫外線を利用することが、使用場所の制限を受けず、小型化でき、安全性からも好ましい。紫外線は、ラジカル発生源である第1の化合物が吸収するUV波長成分を含むことが好ましい。
【0030】
また、反応性活性種を発生する第1の化合物としては、前述の活性エネルギー線により励起され反応性活性種を発生する化合物であればよいが、実施例に示す以外にも種々の化合物が使用可能であり、本発明は例示化合物以外にも効果があることはいうまでもなく、発明の範囲は実施例に限定されるものではない。第1の化合物としては例えば、塩化チオニル、臭化チオニル、塩化スルフリル、臭化スルフリル等があげられる。
【0031】
第1の化合物を含む溶液は、第1の化合物自身をそのままニートで使用することが好ましく、必要に応じて不活性溶媒を使用しても良い。不活性溶媒として、塩化メチレン,クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が例示できる。
【0032】
導入後の反応活性種を利用して高分子材料の特性を変えるためには、第1の化合物として、ハロゲン化オキザリルが好ましく、塩化オキザリル及び臭化オキザリルがより好ましく、二塩化オキザリルが特に好ましい。二塩化オキザリル及び二臭化オキザリルは常温で液体であり、そのまま反応処理容器に導入することで液相での処理が可能となる。
【0033】
液相反応の際の雰囲気ガスとしては、空気でも可能であるが安定に処理するためには、湿度及び酸素含有量を制御するために窒素,ヘリウム,アルゴン等の不活性気体が好ましい。また、取り扱いの容易さからは乾燥窒素が好ましい。処理時の雰囲気ガス圧力は特に問題とはならないが、常圧処理で充分な効果が得られる。また装置の簡便さの点でも常圧処理が好ましい。
【0034】
改質処理する高分子材料としては、天然高分子材料も合成高分子材料も使用できる。その形態も特に制限されず、繊維、布帛、フィルム、粒子状が例示できる。布帛の状態としては、植物繊維,動物繊維,人造繊維等からなる織布や編布等が使用できる。植物繊維としては、綿花,麻よりなる布帛、動物繊維としては絹,羊毛よりなる布帛、人造繊維としては再生人造繊維と分類される繊維素系のビスコースレーヨン,ポリノジックレーヨン,銅アンモニウムレーヨン,蛋白質系等の布帛が挙げられる。また、人造繊維中合成繊維に分類されるポリアミド,ポリイミド,ポリウレタン,ポリビニルアルコール,ポリアクリル,ポリエステル,ポリプロピレン,塩化ビニル,塩化ビニリデン等からなる繊維よりなる布帛が挙げられる。これらの布帛はいずれも繊維状でも織物状並びに編物状の形態のいずれでも使用できる。これらを構成する繊維糸はフィラメント,ステープルの形態のいずれの形態でも構わない。またこれらの繊維は単独あるいは2種以上の混紡,混織,混編のいずれでも使用可能である。すなわち、これら繊維を構成する高分子材料の分子構造中にC−H結合を有していればいずれの場合にも使用可能である。
特に、本発明の液相法による改質方法は従来の気相法では改質しにくかったポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系の球状高分子材料に対して有効に作用する。
【0035】
また、高分子材料の形態としては粒子ばかりでなく、不織布、フィルム、繊維もしくは板状の材料にも適応できる。これらを形成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリイミド,ポリアミド,塩化ビニル,塩化ビニリデン等が挙げられる。またこれらの高分子材料のブレンドや貼り合わせ等の複合材料にも使用することができる。これら複合材料としては、各々の材料を混合してキャストしたフィルム,板やこれらフィルム,板を貼り合わせた表裏の材料が異なるもの、もしくはPET表面にポリウレタン樹脂等を塗布したフィルム等が挙げられる。
【0036】
高分子材料に導入された反応性活性種は、必要に応じて、反応性官能基に変換することができる。すなわち、本発明の改質方法において、反応性活性種を導入した該高分子材料と、反応性官能基を有する第2の化合物とを反応させることにより該反応性活性種を該反応性官能基に変換する官能基変換工程を施しても良い。
この第2の化合物としては、高分子材料に導入されたハロゲン化カルボニル基等と反応しうる活性水素を有する有機化合物又は水が例示できる。
さらに、本発明では改質された高分子材料の表面官能基を変更することで、使用する用途及び高分子材料に対して使用できる化合物の範囲を拡大できることも特徴である。すなわち、始めに導入された反応性活性種を第2の化合物と反応させて反応性官能基共有結合により有する化合物に変換することで、表面の官能基を変更することが可能である。例えば、式1で示した酸クロライド残基はさらにアミン類もしくはアルコール類,チオール類の化合物もしくは水と反応し、残基を変換することができる。そのとき塩基性化合物の存在下で反応させると導入率を向上させることもできる。
【0037】
さらに、この時反応性官能基又は極性官能基を分子構造中に2個以上有する第1の化合物を使用すると表面の官能基を所望の残基とすることができるので好ましい。複数の官能基もしくは極性基は同じであっても異なっていても良いが、表面状態を同種官能基とするには同じ官能基であることが好ましい。
【0038】
第2の化合物としては、エチレンジアミン,トリエチレンジアミン等のアミン類やエチレングリコール,ジエチレングリコール,ブタンジオール等のグリコール類やジエタノールアミン,ヒドロキシエチルアミン等の異種の官能基を有する化合物が例示できる。本発明は必ずしも例示した化合物ばかりでなく、反応性活性種と反応する官能基を有する化合物ならばいずれも使用することが可能である。
【0039】
反応性官能基に変換する反応は有機溶媒中で実施することが好ましい。有機溶媒としては、変換反応に不活性な溶媒の使用が好ましく、例えばベンゼン,トルエン,キシレン,ヘキサン,ヘプタン等の石油系炭化水素溶媒や塩化メチレン,クロロホルム四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等の溶剤中に第2の化合物を溶解して、改質されて酸クロライド残基等を有する高分子材料表面に浸漬することで処理することができる。またこの時に脱塩化水素のためにトリエチルアミンやピリジン等の三級アミン類や水酸化ナトリウム、ナトリウムアルコキシド等のアルカリ性試薬を共存させて反応させた後水洗して副成物を除去しても良い。
【0040】
また、本反応は第2の化合物をガス状として導入した気相中でも達成できる。このような第2の化合物としては沸点が低く蒸気圧が比較的高いものか、もしくは加熱することで容易にガス状にできるものであれば可能であり洗浄等の処理を必要としないなどの利点を有する。このような第2の化合物の中でもガス状にして気相中で反応可能なものとしてはエチレンジアミン等の化合物が使用できる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例により具体的効果を説明する。
高分子材料が微小球体である場合の実施例を以下に示すが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
粒子径が5〜30μmのポリプロピレンからなる微小球体(平均粒子径18μm、SF−1=110)を特開2001−114901に記載した溶融分相法により500g合成した。このうち0.5gをとって石英ガラス製の回転式反応容器に装填し、0.2gの2塩化オキザリル液を加えて窒素ガス雰囲気に切り替えた。ついで、32Wの低圧水銀灯から発生する紫外線を20分間照射したのち、50℃〜100℃の温度で10分間窒素ガスを流して反応官内の残留する2塩化オキザリル除去して試料を回収した。
【0043】
(実施例2)
実施例1においてポリプロピレン粒子を使用した代わりにポリエチレン粒子を用いたほかは同条件で処理して試料を回収した。
【0044】
(比較例1)
実施例2−1において2塩化オキザリル液に代えて2塩化オキザリルガスを使用し分圧100mmHg、Ar分圧660mmHgになるようにした他は同条件で処理して試料を回収した。
【0045】
以上の実施例1、2および比較例1の試料を反射FT−IRにより表面の赤外スペクトルにより塩化カルボニル基の特性吸収を測定した。さらに、それぞれの試料を50℃で100mlの水に30分間浸漬し、試料を濾過し濾液の特性をリトマス試験紙で測定した。また、濾別した試料を錠剤成型器でペレット状にしその表面に水滴を配置し濡れ性の指標である接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
以上の結果から、高分子材料の形態が粒子状である微小球体の場合にも気相反応に比べて本発明の液相反応で材料に多くの塩化カルボニル基等が導入され、水により加水分解され残液が強酸性を呈することがわかる。また、液相反応の有効性が濡れ性を示す接触角にも反映されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性放射線により励起されて反応性活性種を生成する第1の化合物を液相として存在せしめ球状高分子材料の共存下において活性放射線を照射することにより該球状分子材料に該反応性活性種を導入する活性種導入工程を含むことを特徴とする
球状高分子材料の改質方法。
【請求項2】
該反応性活性種を導入した該球状高分子材料と、反応性官能基を有する第2の化合物とを反応させることにより該反応性活性種を該反応性官能基に変換する官能基変換工程を含む
請求項1記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項3】
反応性官能基が、−COCl,−COOH,−OH,−SH,−NH2,−R1NH,及び−R12Nよりなる群から選ばれた少なくとも1つの基を末端に有する基である
請求項1又は2記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項4】
前記第1の化合物がハロゲン化オキザリルである
請求項1〜3いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項5】
前記第2の化合物が、球状高分子材料に導入されたハロゲン化カルボニル基と反応しうる活性水素を有する化合物又は水である
請求項1〜4いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項6】
前記第1の化合物が二塩化オキザリル及び/又は臭化オキザリルである
請求項1〜5いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項7】
前記活性放射線が紫外線である
請求項1〜6いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項8】
官能基変換工程を有機溶媒中で行う
請求項2〜7いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項9】
官能基変換工程を前記第2の化合物の気相中で行う
請求項2〜8いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項10】
前記第2の化合物が分子構造中に2種以上の反応性官能基を有する請求項2〜9いずれか1つに記載の球状高分子材料の改質方法。
【請求項11】
活性放射線により励起された第1の化合物により生成した反応性活性種が導入された球状高分子材料であることを特徴とする球状改質高分子材料。
【請求項12】
請求項11記載の改質球状高分子材料が有する反応性活性種を変換して得られる反応性官能基を有する球状改質高分子材料。
【請求項13】
該反応性官能基が、−COCl,−COBr,−COOH,−OH,−SH,−NH2,−R1NH,及び−R12N(R1及びR2は独立に水素原子、アルキル基又はアリール基を示す。)よりなる群より選ばれ、かつ高分子材料に共有結合で結合した基である請求項11又は12記載の球状改質高分子材料。
【請求項14】
反応性活性種が−COCl又は−COBrである請求項11〜13いずれか1つに記載の球状改質高分子材料。

【公開番号】特開2006−265452(P2006−265452A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88364(P2005−88364)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(302050123)トライアル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】