説明

球面形状測定装置および球面形状測定方法

【課題】 非接触で球面形状を高精度に測定できる球面形状測定装置および球面形状測定方法を提供する。
【解決手段】 軸部1bの一端に球面形状部1aを有する被測定物1を、被測定物支持手段10により軸部1bの中心軸回りに回転させる。球面形状部1aの表面位置を非接触で測定する非接触変位計31を、その中心軸上の所定位置を回動中心として軸部1bの中心軸を含む平面内で、変位計回動手段32により回動させる。被接触変位計31の軸方向位置は軸方向位置調整手段41で調整する。これにより、被測定物1を回転させながら、その軸部1bの中心軸を含む平面内で前記球面形状部1aの中心を回動中心として非接触変位計31を回動させて、球面形状部1aの球面形状測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸端に球面形状部を有する被測定物の球面形状を測定する球面形状測定装置および球面形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球面を含む複雑な3次元形状を測定する従来の装置として、特許文献1に開示の3次元座標測定機が知られている。この測定機は、測定対象球を1軸回りに回転保持する回転保持機構と、進退可能に構成したプローブ先端球の位置を検出する位置検出手段と、各回転位置の測定対象球にプローブ先端球が触れた位置の座標により測定対象球の真球からのずれを表す球面形状データを取得する手段とを備える。
【特許文献1】特開2003−279345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記構成の3次元座標測定機では、接触を検知するプローブ先端球の形状の不確かさや、接触によってプローブがたわむことによる座標読み取り誤差等、その測定精度に限界がある。このため、特許文献1ではその補正法が提案されているが、その補正のための新たな測定作業が必要となり、また接触式の測定である限り、プローブ球の使用中における摩耗による形状変化等も問題となる。
【0004】
この発明の目的は、非接触で球面形状を高精度に測定できる球面形状測定装置および球面形状測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の球面形状測定装置は、軸部の一端に球面形状部を有する被測定物を、前記軸部の中心軸回りに回転自在に支持する被測定物支持手段と、前記被測定物をその軸部の中心軸回りに回転させる被測定物回転手段と、前記球面形状部の表面位置を非接触で測定する非接触変位計、およびこの非接触変位計の中心軸上の所定位置を回動中心として非接触変位計を前記被測定物の軸部の中心軸を含む平面内で回動させる変位計回動手段を有する球面形状測定手段と、前記非接触変位計を少なくともその軸方向に位置調整する位置調整手段とを備える。
この球面形状測定装置では、被測定物支持手段で回転自在に支持された被測定物を、その軸部の中心軸回りに被測定物回転手段で回転させながら、前記軸部の中心軸を含む平面内で、非接触変位計をその中心軸上の所定位置を回動中心として回動させることで、被測定物の球面形状部の球面形状を測定する。被接触変位計の回動中心は、被測定物の球面形状部の中心に位置合わせする。位置調整手段で、非接触変位計の軸方向位置を調整して、被接触変位計が前記球面形状部の表面位置を測定できるようにする。これにより、接触式の測定装置の場合のようなプローブ摩耗による形状変化等の誤差誤差を解消して、非接触で球面形状を高精度に測定できる。
【0006】
この発明において、前記被測定物支持手段は前記被測定物をその球面形状部が上位置となる垂直姿勢で支持し、前記変位計回動手段は前記非接触変位計を前記被測定物の軸部の中心軸を含む垂直面内で回動させるものとし、前記位置調整手段は、前記非接触変位計をその軸方向に位置調整する軸方向位置調整手段の他に、前記球面形状測定手段の全体を垂直方向および水平方向に移動させる垂直・水平移動手段を有し、前記球面形状部の赤道高さ位置および直径を非接触で測定する直径測定手段と、この直径測定手段の測定結果に基づき前記位置調整手段を制御することにより、前記非接触変位計の回動中心を前記球面形状部の中心に位置合わせする位置調整制御手段と、前記被測定物回転手段および前記変位計回動手段を制御することにより、前記被測定物を回転させながら前記非接触変位計を回動させて、前記球面形状部の表面形状測定を行う測定制御手段とを設けても良い。
この構成の場合、直径測定手段の測定結果に基づき、位置調整制御手段が位置調整手段を制御することにより、非接触変位計の回動中心が前記球面形状部の中心に自動的に位置合わせされる。また、測定制御手段が被測定物回転手段および変位計回動手段を制御することにより、被測定物を回転させながら非接触変位計を回動させて、自動的に前記球面形状部の表面形状測定を行うことができる。
【0007】
この発明において、前記被測定物の軸部は円柱状であり、前記被測定物支持手段は、固定状態で設けられ前記被測定物の円柱状軸部の外周面における同一円周上の2点を支持する周面支持体を有し、前記非接触変位計が回動する垂直面は、平面視で、前記周面支持体の被測定物への対向方向に対して所定の角度となるように設定され、前記直径測定手段は被測定物における円柱状軸部の直径も測定するものとし、前記位置調整制御手段は、前記被測定物支持手段に対して被測定物を取り替えた時に、前記直径測定手段が測定する前記円柱状軸部の直径の変化量に基づき、前記位置調整手段の垂直・水平移動手段を制御して、被測定物取り替え前と同一水平面内で、前記直径の変化量相当分だけ前記球面形状測定手段を移動させ前記非接触変位計の回動中心を補正するものとしても良い。
被測定物支持手段に対して被測定物を取り替えた時に、円柱状軸部の直径に変化があると、非接触変位計の回動中心は球面形状部の中心からずれる。この場合に、位置調整制御手段は、前記位置調整手段の垂直・水平移動手段を制御して、前記直径測定手段が測定する前記円柱状軸部の直径の変化量相当分だけ前記球面形状測定手段を移動させる。そのため、非接触変位計の回動中心の球面形状部の中心からのずれを補正することができる。これにより、被測定物を取り替えた時にも測定精度低下をきたさず、球面形状を高精度に測定できる。
【0008】
この発明において、前記非接触変位計は、測定スポット径が100μm以下のレーザ変位計であっても良い。
この構成の場合、被測定物の球面形状部の表面に形成される溝(すなわち真球面より凹んだ部分)やランド(すなわち真球面より突出した部分)の測定や、溝とランドの幅比率測定なども行うことができる。
【0009】
この発明において、前記球面形状測定手段の変位計回動手段は、垂直に配置されたモータ保持板と、出力軸が前記モータ保持板に垂直な向きとなるようにモータ保持板に取付けられたモータと、このモータの出力軸に連結されて前記モータ保持板と平行な垂直姿勢で回転する変位計支持板とでなり、前記非接触変位計は、その軸線が前記モータの出力軸と直交する姿勢とされて前記変位計支持板に前記軸線方向に進退可能に取付けられ、前記位置調整手段の垂直・水平移動手段は、前記モータ保持板を垂直方向に移動させる上下移動テーブルとこの上下移動テーブルを水平方向に移動させる水平移動テーブルとでなり、前記位置調整手段の軸方向位置調整手段が前記変位計支持板に設けられていても良い。
【0010】
この発明において、前記被測定物は軸部の下端に軸部の他部よりも大径のフランジを有し、このフランジの前記軸部と同心の円周上に等配された複数の孔と、前記フランジに対して垂直方向に所定間隔を隔てて配置された平面上の前記複数の孔の配列円と同一円周上に所定間隔を隔てて設けられ前記孔の有無を検出する2個以上の反射型光電スイッチとでなる回転角検出手段を設け、この回転角検出手段の各光電スイッチの出力の立ち上がりおよび立ち下りをタイミングパルスとして入力し、被測定物の回転角を算出する回転角算出手段を設けても良い。この構成の場合、算出される被測定物の回転角の分解能を高めることができる。
【0011】
この発明において、前記被測定物回転手段は、前記被測定物のフランジの外周に押し当てられる回転ローラと、この回転ローラを前記フランジとの間に滑りの生じない所定低速回転で回転させるモータとでなり、このモータには回転に伴い前記回転角検出手段の出力パルスよりも十分パルス間隔の短いパルスを発生するパルス発生器を設け、前記回転角検出手段の出力パルスと前記パルス発生器の出力パルス数とを対応させて記憶する記憶部を有し、この記憶部の記憶データに基づき前記回転角算出手段の算出する被測定物の回転角を補正する回転角補正手段を設けても良い。この構成の場合、回転角度算出手段の算出する回転角に誤差があっても、その誤差を回転角補正手段で補正できるので、この点でも高精度の球面形状測定を行うことができる。
【0012】
この発明の球面形状測定方法は、軸部の一端に球面形状部を有する被測定物を、前記軸部の中心軸回りに一定速度で回転させながら、前記軸部の中心軸を含む平面面内において、前記球面形状部の表面位置を非接触で測定する非接触変位計を、その軸線が前記球面形状部の中心に向く姿勢で球面形状部の中心を回動中心として回動させることにより、被測定物の表面形状を測定するものである。
この測定方法によると、接触式の測定方法の場合のようなプローブ摩耗による形状変化等の誤差がなく、非接触で球面形状を高精度に測定できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の球面形状測定装置は、軸部の一端に球面形状部を有する被測定物を、前記軸部の中心軸回りに回転自在に支持する被測定物支持手段と、前記被測定物をその軸部の中心軸回りに回転させる被測定物回転手段と、前記球面形状部の表面位置を非接触で測定する非接触変位計、およびこの非接触変位計の中心軸上の所定位置を回動中心として非接触変位計を前記被測定物の軸部の中心軸を含む平面内で回動させる変位計回動手段を有する球面形状測定手段と、前記非接触変位計を少なくともその軸方向に位置調整する位置調整手段とを備えるため、非接触で球面形状を高精度に測定することができる。
この発明の球面形状測定方法は、軸部の一端に球面形状部を有する被測定物を、前記軸部の中心回りに一定速度で回転させながら、前記軸部の中心軸を含む平面面内において、前記球面形状部の表面位置を非接触で測定する非接触変位計を、その軸線が前記球面形状部の中心に向く姿勢で球面形状部の中心を回動中心として回動させることにより、被測定物の表面形状を測定する方法であるため、非接触で球面形状を高精度に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の一実施形態を図1〜図5と共に説明する。図1は、この実施形態の球面形状測定装置における機構部の平面図と制御装置のブロック図とを組み合わせた図を示す。図2および図3は、図1の平面図を矢印IIの方向から見た正面図および III− III矢視断面図をそれぞれを示す。この球面形状測定装置は、被測定物1を支持する被測定物支持手段10、被測定物1を回転させる被測定物回転手段20、球面形状測定手段30、位置調整手段40、直径測定手段50、位置調整制御手段61、および測定制御手段63を備える。
【0015】
被測定物1は、図2のように、円柱状の軸部1bの一端に球面形状部1aを有し、その軸部1bの他端は軸部1bの他部よりも大径としたフランジ1cとされている。なお、ここでは、被測定物1の軸部1bを、外径の異なる複数段の円柱部からなる形状としているが、これに限らず、少なくとも一部に、前記被測定支持手段10の周面支持体12と押し当てローラ13とで回転自在に支持可能で、球面形状部1aと同軸の円柱部を有する形状であれば、他の部分の形状は問わない。
被測定物支持手段10は、前記被測定物1を、その球面形状部1aが上位置となる垂直姿勢で軸部1bの中心軸回りに回転自在に支持する手段であり、図2に示す下端支持体11と、図1,図3に示す周面支持体12および押し当てローラ13とを有する。下端支持体11は、前記軸部1bの下端中心において被測定物1を回転自在に支持する部材であり、先端が円錐状とされ、その円錐状先端部を前記軸部1bの下端面の図示しないセンタ孔に係合させることで被測定物1を支持する。周面支持体12は、図1のように直交する2つの平面からなるV字状の凹部を有する平面形状が左右対称で二股状の部材であり、前記下端支持体11の近傍に立向きに設けられた支持部材14に固定され、被測定物1の円柱状の軸部1bの外周面における同一円周上の2点を支持する。押し当てローラ13は、被測定物1の軸部1bの外周面に押し当てられて、前記周面支持体12とで軸部1bを挟んで支持する。
【0016】
被測定物回転手段20は、被測定物支持手段10で支持された被測定物1をその軸部1bの中心軸回りに回転させる手段である。図3のように、被測定物1の軸部1bの下端は、軸部1bの他部よりも大径のフランジ1cとされている。被測定物回転手段20は、被測定物1のフランジ1cの外周に押し当てられる回転ローラ21と、この回転ローラ21に直結されて回転ローラ21を前記フランジ1cとの間に滑りの生じない所定の低速回転で回転させるモータ22とでなる。
【0017】
球面形状測定手段30(図1)は、被測定物1における球面形状部1aの表面位置を非接触で測定する非接触変位計31と、この非接触変位計31の中心軸上の所定位置を回動中心として、非接触変位計31を被測定物1の軸部1bの中心軸を含む平面(垂直面)内で回動させる変位計回動手段32とで構成される。非接触変位計31が回動する垂直面は、図1のように平面視で、被測定物支持手段10の周面支持体12の被測定物1への対向方向に対して所定の角度αとなるように設定されている。ここでは、非接触変位計31として、測定スポット径が100μm以下のレーザ変位計が用いられており、その光軸中心線が被接触変位計31の軸線31aとなる。非接触変位計31としては、そのほか静電容量方式や渦電流方式の変位計を用いても良い。
【0018】
球面形状測定手段30の変位計回動手段32は、図1および図2に示すように、垂直に配置されたモータ保持板33と、出力軸34aがモータ保持板33に垂直な向きとなるようにモータ保持板33に取付けられたモータ34と、このモータ34の出力軸34aに連結されてモータ保持板33と平行な垂直姿勢で回転する変位計支持板35とでなる。非接触変位計31は、その軸線31aがモータ34の出力軸34aと直交する姿勢とされて、前記変位計支持板35に前記軸線31aの方向に進退可能に取付けられる。
【0019】
位置調整手段40は、非接触変位計31をその軸線31a方向における測定可能な位置に位置調整する軸方向位置調整手段41(図1)と、前記球面形状測定手段30の全体を垂直方向および水平方向に移動させる垂直・水平移動手段42とでなる。非接触変位計31がレーザ変位計からなるこの実施形態の場合、測定可能な軸方向位置とは、球面形状部1aの表面での被接触変位計31の測定スポット径が100μm以下となる軸方向位置である。
【0020】
位置調整手段40の垂直・水平移動手段42は、前記変位計回動手段32のモータ保持板33を垂直方向に移動させる上下移動テーブル43と、この上下移動テーブル43を水平方向に移動させる水平移動テーブル44とでなる。図2のように、上下移動テーブル43は、前記モータ保持板33を支持するボールナット43a、およびこのボールナット43aが螺合する垂直姿勢のボールねじ軸43bからなるボールねじと、上記ボールねじ軸43bを回転駆動するモータ43cなどで構成される。水平移動テーブル44は、前記上下移動テーブル43を支持する支持板44a、この支持板44aに連結されたボールナット44b、このボールナット44bが螺合する水平姿勢のボールねじ44c、このボールねじ44cを回転駆動するモータ44dなどで構成される。水平移動テーブル44の固定部である筐体44eは、支柱45に支持される。この場合の水平移動テーブル44の移動方向は、図1に示すように、非接触変位計31が回動する垂直面と平行な方向である。
【0021】
位置調整手段40の軸方向位置調整手段41(図1)は、球面形状測定手段30における変位計支持板35に設けられる。この軸方向位置調整手段42は、非接触変位計31をその軸方向に進退可能に前記変位計支持板35に拘束するガイド部材であっても良いし、例えば非接触変位計31を直接支持するボールナット、およびこのボールナットが螺合されるボールねじ軸からなるボールねじと、そのボールねじ軸を回転駆動するモータなど(いずれも図示せず)で構成しても良い。軸方向位置調整手段41がガイド部材からなる場合は、手作業で被接触変位計31の軸方向位置を調整することになる。
【0022】
直径測定手段50は、前記被測定物支持手段10で支持された被測定物1における球面形状部1aの赤道高さ位置および直径を非接触で測定する手段であり、ここではこの他に被測定物1の円柱状軸部1bにおける被測定物支持手段10の周面支持体12で支持される周面での直径も測定する。この直径測定手段50は、図1および図3に示すように、上下移動テーブル51に保持板52を介して保持されたスリット状投光器53と受光器54とでなり、スリット状投光器53と受光器54は前記被測定物支持手段10で支持された被測定物1を挟んで互いに対向配置される。直径測定手段50は、上下移動テーブル51の上下移動により、被測定物1の球面形状部1aの赤道高さ位置と、球面状軸部1bを測定可能な高さ位置に位置設定される。上下移動テーブル51は、支柱56に支持された昇降機構57に連結されて昇降駆動される。昇降機構57は、上下移動テーブル51を支持するボールナット57a、およびこのボールナット57aが螺合する垂直姿勢のボールねじ軸57bからなるボールねじと、そのボールねじ軸57bを回転駆動するモータ57cなどで構成される。
【0023】
この球面形状測定装置を制御する図1の制御装置60は、図示しない制御盤に設けられる。制御装置60は、位置調整制御手段61、測定制御手段63、回転角算出手段64、回転角補正手段65、および測定データ記録手段67を備える。
位置調整制御手段61は、前記直径測定手段50の測定結果に基づき前記位置調整手段40を制御することにより、非接触変位計31の回動中心を被測定物1における球面形状部1aの中心に位置合わせする制御手段である。この位置調整制御手段61は、被測定物支持手段10に対して被測定物1を取り替えた時に、非接触変位計31の回動中心を補正する回動中心補正手段62を有する。詳しくは、この回動中心補正手段62は、被測定物1を取り替えた時に、前記直径測定手段50が測定する被測定物1における円柱状軸部1bの直径の変化量に基づき、前記位置調整手段40の垂直・水平移動手段41を制御して、被測定物取り替え前と同一水平面内で、前記直径の変化量相当分だけ前記球面形状測定手段30を移動させて被接触変位計31の回動中心を補正するものである。
【0024】
測定制御手段63は、前記被測定物回転手段20および前記球面形状測定手段30における変位計回動手段32を制御することにより、被測定物支持手段10で支持された被測定物1を超低速で等速回転させながら、前記被接触変位計31を前記変位計支持板35と平行な垂直面内で回動させて、被測定物1における球面形状部1aの表面形状測定を行う制御手段である。
【0025】
回転角算出手段64は、被測定物1の下端側に設けられた回転角検出手段70(図3)から出力されるタイミングパルスを入力して、被測定物1の回転角を算出する手段である。測定データ記録手段67は、非接触変位計31の測定データを、前記回転角算出手段64で算出される被測定物1の回転角に対応付けて記録する。前記回転角検出手段70は、被測定物1における軸部1bの下端のフランジ1cの軸部1bと同心の円周上に等配された複数(ここでは6個)の透孔71と、この透孔71の有無を検出する2個以上(ここでは3個)の反射型光電スイッチ73とでなる。光電スイッチ73は、前記フランジ1cに対して所定間隔を隔てて配置された平面板材72の上の前記複数の孔の配列円と同一円周上に所定間隔を隔てて設けられる。ここでは、前記透孔71の配列ピッチを1周期として、電気角で60°となる間隔で3個の光電スイッチ73が前記円周上に配置される。具体的には、前記孔配列円上の隣り合う透孔71の間の間隔をL、前記出力波形がローレベルとなる区間の長さをL1とするとき、各光電スイッチ73間の間隔L0は、
L0=(L−L1)×1/3 ……(1)
となるように設定される。図5の(1)〜(3)の波形図は前記各光電スイッチ73の出力A〜Cの波形図を示す。その出力は、前記光電スイッチ73の前記フランジ1cとの間隔や感度調整によって、デューティ比50%の矩形波(ハイレベル幅とローレベル幅の比率が1:1)となるようにされている。回転角算出手段64は、前記各出力A〜Cの立ち上がりおよび立ち下りを、図5の(4)〜(9)の波形図のようなタイミングパルスとして入力し、図5の(10)のように合成したパルス信号として被測定物1の回転角を算出する。これにより、被測定物1の回転角の分解能が高められる。この例では、被測定物1の1回転に36個のタイミングパルスが入力される。すなわち、タイミングパルス1個の出力間隔は、回転角10°に相当する。
【0026】
前記各光電スイッチ73の出力がデューティ比50%の矩形波とならない場合は、上記した合成パルス信号のパルス間隔は等間隔とはならず、回転角の精度が低下する。そこで、前記パルス間隔を回転角補正手段65によって補正する。この回転角補正手段65は、前記被測定物回転手段20のモータ22に設けられたパルス発生器74(図3)が、モータ22の回転に伴い発生するパルスの数を、前記回転角算出手段64の出力パルスと対応させて記憶する記憶部66を有する。この記憶部66へのデータ書き込みは、測定開始の前に、被測定物回転手段20を回転駆動させて行なわれる。パルス発生器74として、前記回転角検出手段70の出力A〜Cよりも十分パルス間隔の短いパルス、例えば被測定物1の1回転あたり1000相当のパルスを発生するロータリエンコーダが用いられる。回転角補正手段65は、前記記憶部66の記憶データに基づき、前記回転角算出手段64の算出する被測定物1の回転角を補正する。
【0027】
次に、上記構成の球面形状測定装置による測定動作について説明する。
先ず、測定を始める前に、被測定物支持手段10に支持された被測定物1における球面形状部1aの赤道高さと直径、および円柱状軸部1bの直径が測定される。位置調整制御手段61は、被測定物支持手段10によって測定された前記赤道高さと直径とから、球面形状部1aの中心座標を求め、この中心に非接触変位計31の回動中心が位置合わせされるように位置調整手段40の垂直・水平移動手段42を制御する。
このようにして、非接触変位計31の回動中心が被測定物1における球面形状部1aの中心に位置合わせされると、作業者の手作業で軸方向位置調整手段41を操作することで、非接触変位計31が球面形状部1aの表面位置を測定可能な軸方向位置に調整される。なお、被接触変位計31の軸方向位置の調整は、前記直径測定手段50により測定される球面形状部1aの直径に基づき、位置調整制御手段61で軸方向位置調整手段41を制御することで、自動的に行うようにしても良い。
【0028】
このようにして位置調整が終了すると、測定制御手段63が、被測定物回転手段20および球面形状測定手段30の変位計回動手段32を制御する。これにより、被測定物1をその軸部1bの中心軸回りに超低速で等速回転させながら、非接触変位計31が球面形状部1aの中心を回動中心として、前記軸部1bの中心軸を含む垂直面内を回動し、球面形状部1aの表面位置(具体的には、球面形状部1aの表面位置の所定半径との誤差)を測定する。その測定データは、制御装置60の測定データ記録手段67に入力される。また、被測定物1の回転に伴い、回転角検出手段70の各光電スイッチ73からの出力A〜C(図5(1)〜(3))が回転角算出手段64に入力され、回転角算出手段64はそれらの出力A〜Cから図5(10)に示すタイミングパルスを得て、このタイミングパルスから被測定物1の回転角を算出する。算出された回転角は、さらに回転角補正手段65で補正されて、より精度の高い回転角とされ、前記測定データ記録手段67に入力される。これにより、測定データ記録手段67では、被測定物1の回転角に対応付けて被接触変位計31による測定データが記録される。
【0029】
このように、この球面形状測定装置では、球面形状の誤差分を所定値からのずれ量として非接触で測定できるため、プローブの摩耗による形状変化等の誤差がなく、高精度の球面形状測定が可能となる。また、この実施形態では、非接触変位計31として、測定スポット径が100μm以下のレーザ変位計を使用しているので、例えば被測定球面上に形成されている溝(真球面から凹んだ部分)やランド(真球面から突出した部分)の測定、および溝とランドの幅比率の測定も可能である。
【0030】
また、被測定物支持部材10に対して被測定物1を取り替えた時には、位置調整制御手段61の回動中心補正手段62によって、以下のように非接触変位計31の回動中心が補正される。
被測定物1の円柱状軸部1bの周面を支持する周面支持体12は支持部材14に固定されているため、被測定物1を取り替え時、軸部1bの直径寸法が変化すると、それに伴って軸部1bの中心の位置が、前記周面支持体12の支持面に対して支持方向に移動し、球面形状部1aの中心位置も変化する。図4には、非接触変位計31が回動する垂直面が軸部1bの支持方向に対してなす角α(図1)を45°とした場合の、球面形状部1aの中心位置の移動の例を示す。同図において、測定中心とは非接変位計31の回動中心を表す。被測定物1が取り替えられ、取替え前の軸部1b1よりも半径ΔR だけ大きい軸部1b2となると、取替え前の球面形状部1a1の中心O1に対して取替え後の球面形状部1a2の中心O2はΔh(=√2×ΔR )だけ移動する。その状態で、非接触変位計31の回動中心(測定中心)O1を補正せず球面形状を測定すると、その回動中心(測定中心)O1は実際の球面形状部1a2の中心O2から周面支持体12の支持面に沿ってΔR ずれているため、正常な測定が困難である。
そこで、位置調整制御手段61は、先ず前記直径測定手段50が測定する軸部1bの直径の変化量に基づき、その半径変化量ΔR を算出する。次に、位置調整手段40の垂直・水平移動手段42を制御して、前記半径変化量ΔR に相当する量だけ、非接触変位計31の軸方向31aに沿って球面形状測定手段30を水平移動させる。これにより、非接触変位計31の回動中心(測定中心)はO1からO3へと移動する。この場合、球面形状測定は、O3を回動中心として行うので、非接触変位計31は半径r1を測定することになり、真の球面形状半径r0を測定できない。ところで、これらの半径r0,r1の間には、 r0=√(r12 +ΔR2 ) ……(2)
の関係が成り立つので、測定データを上記(2)式に当てはめることにより、真の球面形状半径r0を割り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施形態にかかる球面形状測定装置の機構部平面図と制御装置のブロック図とを組み合わせて示す図である。
【図2】図1の平面図における矢印II方向から見た正面図である。
【図3】図1の平面図におけるIII − III矢視断面図である。
【図4】被測定物取替え時における非接触変位計の回動中心補正の説明図である。
【図5】被測定物回転角を検出するためのパルスの波形図である。
【符号の説明】
【0032】
1…被測定物
1a…球面形状部
1b…軸部
1c…フランジ
10…被測定物支持手段
12…周面支持体
20…被測定物回転手段
21…回転ローラ
22…モータ
30…球面形状測定手段
31…非接触変位計
32…変位計回動手段
40…位置調整手段
41…軸方向位置調整手段
42…垂直・水平移動手段
50…直径測定手段
61…位置調整制御手段
62…回動中心補正手段
63…測定制御手段
64…回転角算出手段
65…回転角補正手段
70…回転角検出手段
71…透孔
73…光電スイッチ
74…パルス発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の一端に球面形状部を有する被測定物を、前記軸部の中心軸回りに回転自在に支持する被測定物支持手段と、前記被測定物をその軸部の中心軸回りに回転させる被測定物回転手段と、前記球面形状部の表面位置を非接触で測定する非接触変位計、およびこの非接触変位計の中心軸上の所定位置を回動中心として非接触変位計を前記被測定物の軸部の中心軸を含む平面内で回動させる変位計回動手段を有する球面形状測定手段と、前記非接触変位計を少なくともその軸方向に位置調整する位置調整手段とを備えた球面形状測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記被測定物支持手段は前記被測定物をその球面形状部が上位置となる垂直姿勢で支持し、前記変位計回動手段は前記非接触変位計を前記被測定物の軸部の中心軸を含む垂直面内で回動させるものとし、前記位置調整手段は、前記非接触変位計をその軸方向に位置調整する軸方向位置調整手段の他に、前記球面形状測定手段の全体を垂直方向および水平方向に移動させる垂直・水平移動手段を有し、前記球面形状部の赤道高さ位置および直径を非接触で測定する直径測定手段と、この直径測定手段の測定結果に基づき前記位置調整手段を制御することにより、前記非接触変位計の回動中心を前記球面形状部の中心に位置合わせする位置調整制御手段と、前記被測定物回転手段および前記変位計回動手段を制御することにより、前記被測定物を回転させながら前記非接触変位計を回動させて、前記球面形状部の表面形状測定を行う測定制御手段とを設けた球面形状測定装置。
【請求項3】
請求項2において、前記被測定物の軸部は円柱状であり、前記被測定物支持手段は、固定状態で設けられ前記被測定物の円柱状軸部の外周面における同一円周上の2点を支持する周面支持体を有し、前記非接触変位計が回動する垂直面は、平面視で、前記周面支持体の被測定物への対向方向に対して所定の角度となるように設定され、前記直径測定手段は被測定物における円柱状軸部の直径も測定するものとし、前記位置調整制御手段は、前記被測定物支持手段に対して被測定物を取り替えた時に、前記直径測定手段が測定する前記円柱状軸部の直径の変化量に基づき、前記位置調整手段の垂直・水平移動手段を制御して、被測定物取り替え前と同一水平面内で、前記直径の変化量相当分だけ前記球面形状測定手段を移動させ前記被接触変位計の回動中心を補正するものとした球面形状測定装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記非接触変位計は、測定スポット径が100μm以下のレーザ変位計である球面形状測定装置。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のいずれか1項において、前記球面形状測定手段の変位計回動手段は、垂直に配置されたモータ保持板と、出力軸が前記モータ保持板に垂直な向きとなるようにモータ保持板に取付けられたモータと、このモータの出力軸に連結されて前記モータ保持板と平行な垂直姿勢で回転する変位計支持板とでなり、前記非接触変位計は、その軸線が前記モータの出力軸と直交する姿勢とされて前記変位計支持板に前記軸線方向に進退可能に取付けられ、前記位置調整手段の垂直・水平移動手段は、前記モータ保持板を垂直方向に移動させる上下移動テーブルとこの上下移動テーブルを水平方向に移動させる水平移動テーブルとでなり、前記位置調整手段の軸方向位置調整手段が前記変位計支持板に設けられている球面形状測定装置。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれか1項において、前記被測定物は軸部の下端に軸部の他部よりも大径のフランジを有し、このフランジの前記軸部と同心の円周上に等配された複数の孔と、前記フランジに対して垂直方向に所定間隔を隔てて配置された平面上の前記複数の孔の配列円と同一円周上に所定間隔を隔てて設けられ前記孔の有無を検出する2個以上の反射型光電スイッチとでなる回転角検出手段を設け、この回転角検出手段の各光電スイッチの出力の立ち上がりおよび立ち下りをタイミングパルスとして入力し、被測定物の回転角を算出する回転角算出手段を設けた球面形状測定装置。
【請求項7】
請求項6において、前記被測定物回転手段は、前記被測定物のフランジの外周に押し当てられる回転ローラと、この回転ローラを前記フランジとの間に滑りの生じない所定低速回転で回転させるモータとでなり、このモータには回転に伴い前記回転角検出手段の出力パルスよりも十分パルス間隔の短いパルスを発生するパルス発生器を設け、前記回転角検出手段の出力パルスと前記パルス発生器の出力パルス数とを対応させて記憶する記憶部を有し、この記憶部の記憶データに基づき前記回転角算出手段の算出する被測定物の回転角を補正する回転角補正手段を設けた球面形状測定装置。
【請求項8】
軸部の一端に球面形状部を有する被測定物を、前記軸部の中心軸回りに一定速度で回転させながら、前記軸部の中心軸を含む平面面内において、前記球面形状部の表面位置を非接触で測定する非接触変位計を、その軸線が前記球面形状部の中心に向く姿勢で球面形状部の中心を回動中心として回動させることにより、被測定物の表面形状を測定する球面形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−204440(P2009−204440A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46997(P2008−46997)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】