説明

環境汚染物質含有空気の収集および/または経皮的再拡散のモニタリング・システムおよび対応する方法

環境汚染物質を含む空気を収集し、および/またはそれを経皮的に再拡散させるモニタリング・システムが開示される。このモニタリング・システムは、少なくとも1つの拡散コレクタ(4)または1つの平衡ディフューザ(5)またはこれら両方を含む。拡散コレクタ(4)は、少なくとも3つの層を備える。すなわち、生物体の皮膚(7)と直接接触する接着剤層(1)、バリヤー層(2)およびモニタリング・システムの外面にある収集層(3)である。平衡ディフューザ(5)は、接着剤層(1)および収集層(3)から構成される。モニタリング・システム(6)の前記2つの構成要素の収集層(3)および接着剤層(1)は、好ましくは、同じ材料で作られており、同じ寸法を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境汚染物質を含有する空気を収集するためのおよび/または経皮的に再拡散させるためのモニタリング・システム、ならびにこの目的に適した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体は膨大な数の環境汚染物質にさらされている。これに関連して、特に、高揮発性の有機物質は、産業廃ガス、自動車の排気ガスおよび塗料に用いる溶媒として種々の産業プロセス、商業プロセスで放出されるために、そして、それらが至る所に存在し、またそれらの影響に関して評価するのが困難なために、大きな役割を演じている。このことは同じくタバコの煙、あらゆる種類のスプレーおよび周囲空気からの同様なものの経皮取り込みにも当てはまる。
【0003】
空気汚染物質の分析のための古典的な方法は、特に、試験管(たとえばドイツ国リューベックのDraeger-Werke AGの製造するもの)を使用する。これらの試験管は一般的に吸収材料で作られており、この吸収材料は発色試薬を含有し、或る種の気体および揮発性物質の濃度に関する濃度依存性の可視的結果を示す。しかしながら、このような試験管は、個別の物質に限られており、そして反応が純粋に化学的な原理に基づいているために一般的に感度が比較的低い。さらに、これらの試験管は、瞬間的に測定された濃度しか示さず、或る時間間隔にわたって平均した曝露値を示すことはない。空気中の濃度を正確に測定するためには、試験管を通して或る規定量の空気を吸引することも必要であり、これには大規模な試験装置が必要である。
【0004】
これらのシステムは、これまでに拡散モニタとして知られているものに取って代わられた。拡散モニタは、既に市販されており(製造業者3M)、比較的小型であって、人体に装着可能である。このようなモニタはテフロン・マトリクス中にほぼ180gの活性炭を含有する。これらの機器は、多数の有機化合物、たとえば、アセトン、クロロホルム、ヘキサン、スチレンなどを測定するのに適している。これらの機器は、クリップを有するカプセルの形で人体に装着し、数時間装着した後に分析評価される。測定は、有機抽出、たとえば二硫化炭素によって行われる。この技術の不利な点は、分析に溶媒を使用しなければならず、その結果難しい手作業の評価工程が必要である。このような拡散コレクタは、汚染物質の吸入と汚染物質の経皮取り込みを区別することができない。
【0005】
汚染物質の皮膚取り込みのために、扁平で、皮膚に装着できる剤形が必要である。皮膚に装着するこのような拡散コレクタはこれまで開示されていない。
【0006】
米国特許第2003/0225362A1号は、揮発性物質の経皮収集のためのシステムおよび方法を開示している。この目的のために、人間の皮膚から経皮的に得た分析サンプルの保持および拡散を行うための少なくとも1つの収集デバイス、および分析サンプルを特定し、定量化するための検出器システムが設けられている。検出器システムの入力データは論理モジュールで受信され、保存される。次いで、これらの入力データは、人間に関するさらなるデータと比較され、出力データとして表示される。この出力データは、別のシステムに送られ、収集デバイスおよび検出器システムの動作を制御する。
【0007】
WO99/13336は、人間の皮膚にある、または皮膚の下にある間質液から抽出した分析サンプルを検出するための非侵襲性経皮システムに関する。このシステムは、分析サンプルと相互作用し、間質液から抽出した分析サンプルを決定できる検出感度を有する乾燥化学構成要素と、皮膚にある、または皮膚の下にある間質液から抽出した分析サンプルを乾燥化学構成要素が検査できる充分な量で乾燥化学構成要素へ移送する湿潤化学構成要素とを含む。
【0008】
米国特許第4092119号は、或る種の環境汚染物質の影響下で色を変える発色層をインジケータとして設けたポリマー支持層を含む環境品質インジケータを記載している。この支持層では拡散プロセスまたは浸透プロセスは起こらない。発色層がバリヤー層となることはない。発色層は、或る種の環境汚染物質とのインジケータの化学反応によって生じる色変化を与えるだけである。
【0009】
米国特許第5203327号は、皮膚を通じて放出された流体で1つまたはそれ以上の所定の被検物質を決定できるシステムを開示している。したがって、人間の皮膚を通して排出された流体は、或る種の物質の存在を確かめるために分析され得る。このシステムは、皮膚上に置くガーゼ層および同様の多孔質層、揮発性被検物質を固定するための化学的または生化学的に活性のある物質を含有するバインダ層、通気性フィルタ、ならびに周囲空気からの汚染からシステムを保護するバリヤー層とを含む。
【0010】
従来技術で知られているこのシステムでは、人間の皮膚を通して排出された流体は、或る種の物質の存在を確かめるために分析される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、周囲空気に含まれる或る種の揮発性の高い物質(特に汚染物質)を収集し、および/または経皮的に拡散させることが容易に行えるモニタリング・システムを利用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、生物体の皮膚上に平らに配置し、少なくとも3つの層からなる拡散コレクタおよび/または少なくとも2つの層からなる平衡ディフューザを有するモニタリング・システムによって達成される。
【0013】
本発明の一実施形態においては、生物体の皮膚に向けられた拡散コレクタの層は皮膚に接着することができ、バリヤー層は環境汚染物質の皮膚内への拡散を阻止し、環境汚染物質を取り込む収集層はモニタリング・システムの外面に配置される。
【0014】
本発明のさらなる実施形態においては、生物体の皮膚上に載せられる平衡ディフューザ層は皮膚に接着することができ、環境汚染物質を取り込み、経皮的な再拡散を可能にする収集層はモニタリング・システムの外面に置かれる。
【0015】
好ましくは、収集層は、経皮目的に適した少なくとも1つのポリマー材料から構成される。多孔質材料、吸収性材料は有機環境汚染物質の溶解性および吸収性を高めるために一つまたは複数のポリマー材料に添加される。
【0016】
一つまたは複数のポリマー材料は、シリコーン・コポリマー、ポリイソブチレン、アクリレート・コポリマーおよびスチレン−イソプレン・コポリマーからなる群から選択すると適切である。多孔質材料、吸収性材料は、活性炭、ベントナイト、二酸化ケイ素、或る種の有機微量元素に対して特異な親和性を有する合成ポリマーからなる群から選択すると好ましい。
【0017】
本モニタリング・システムのさらなる設計は、特許請求の範囲の請求項8〜16の特徴から明白となろう。
【0018】
本発明の目的は、また、環境汚染物質を収集し、それの皮膚取り込みをモニタする方法を提供することにある。この方法は、
(a)経皮目的に適しており、環境汚染物質の取り込みのための、多孔質材料、吸収性材料を含む第1のポリマー材料を皮膚に平らに適用し、材料から皮膚への環境汚染物質の取り込みを可能にする工程と、
(b)バリヤー層を有する、同じタイプのさらなるポリマー材料を皮膚に平らに適用し、ポリマー材料を皮膚から仕切る工程と、
(c)2つのポリマー材料を同じ時間にわたって周囲空気に曝露し、環境汚染物質についての材料の摂取飽和状態の開始前に材料を皮膚から取り外す工程と、
(d)第1のポリマー材料およびさらなるポリマー材料における個々の環境汚染物質を分析測定する工程と
を含む。
【0019】
分析測定のためには、環境汚染物質を有機溶剤によって2つのポリマー材料から抽出するのが好ましく、そうして得た溶液をクロマトグラフィによって標準溶液と比較し、これらの材料が取り込んだ環境汚染物質の量を測定する。
【0020】
本方法の一実施形態においては、2つのポリマー材料の各々を、曝露後、ヘッドスペース・ガスクロマトグラフにおいて加熱される密閉容器内に置き、材料からそれぞれの容器の気体スペース内に拡散する環境汚染物質と材料に残っている環境汚染物質との間に平衡状態を確立させ、環境汚染物質の量を気体スペースの気相から測定する。2つのポリマー材料内の環境汚染物質の測定した量および濃度を比較することによって、生物体に対する環境汚染物質の皮膚送達率についての推定値が決定される。
【0021】
本発明は、一緒に使用してもよく、またはそれぞれを単独で用いてもよい拡散コレクタおよび平衡ディフューザをモニタリング・システムが含むという利点をもたらす。拡散コレクタと平衡ディフューザを組み合わせて使用する場合、環境汚染物質の経皮取り込み率を特に簡単かつ高い信頼性を持って評価できる。拡散コレクタおよび平衡ディフューザを互いに独立して使用する場合、拡散コレクタ内に保持されている汚染物質の分析で、周囲空気内に存在する個々の物質の濃度に関する結論を引き出すことができる。平衡ディフューザを単独で使用する場合、平衡ディフューザ内に存在する環境汚染物質の測定で、濃度および量に関する環境汚染物質の経皮取り込みに関する結論を引き出すことができる。
【0022】
以下、図面に示す図示実施形態に基づいて本発明をより詳しく説明する。
図1は、本発明による拡散コレクタの概略断面図を示している。
図2は、本発明による平衡ディフューザの概略断面図を示している。
図3は、生物体の皮膚に平らに配置した本発明によるモニタリング・システムを示している。
図4aは、拡散コレクタおよび平衡ディフューザにおける拡散率、ならびに後者の経皮浸透率を示す概略図である。
図4bは、図4aと比較してやや変更した実施形態の拡散コレクタ、および平衡ディフューザにおける拡散率、ならびに後者の経皮浸透率を示す概略図である。
【0023】
本発明によるモニタリング・システム6は、生物体の皮膚に貼布され、数時間、場合により最高24時間にわたって装着した後、空気を介して取り込まれている微量な有機揮発性化合物を分析測定することによって評価される平らなポリマー含有経皮剤形を含む。
【0024】
モニタリング・システム6(図3、4a、4b参照)は、少なくとも1つの拡散コレクタ4、8または少なくとも1つの平衡ディフューザ5またはこれら両方を含む。実施しようとする測定に応じて、このモニタリング・システムは、皮膚に装着しようとする空気汚染物質拡散コレクタ4、8だけでなく、この拡散コレクタに加えて、有機微量元素のための格納デバイスと同じ数の平衡ディフューザ5を含み、同時に、微量元素の皮膚への再拡散を可能にするタイプの収集システムも含み得る。
【0025】
図1は、少なくとも3つの層、すなわち、皮膚に向けされた接着剤層1と、拡散を阻止するバリヤー層2と、モニタリング・システムの外面に配置した収集層3とからなる拡散コレクタ4の概略断面図を示している。
【0026】
収集層3の組成は、特定の用途目的に適合させることができる。収集層3のテクスチュアは、24時間装着するのに充分に強靱である。本発明の用途にとっては、ポリマー材料が主成分として基本的に適している。皮膚との良好な親和性のために、特に良く適している材料は、シリコーン・コポリマー、ポリイソブチレン、スチレン−イソプレン・コポリマーおよび経皮治療システム用に使用される他の材料である。有機汚染物質の溶解性および吸収性を高めるために、活性炭、ベントナイトおよび二酸化ケイ素のような多孔性および吸収性の材料をポリマー材料に添加する。特に或る種の個々の物質の吸収のためには合成ポリマーを使用する。微量元素に対して特殊な親和性を有するこのような合成ポリマーを作成する技術は、「分子インプリンティング」という用語の下で文献に詳細に記載されて存在する。
【0027】
拡散コレクタ4の接着剤層1は、たとえば、生体適合性接着性ポリマーで作られるが、本発明ではシリコーン・ポリマーが第一選択材料である。さらに、ポリアクリレートおよびイソブチレンも適切な接着剤である。収集層3の好ましい層厚さは1〜100μmである。接着剤層は5〜200μmの厚さを有する。この厚さは、好ましくは、5〜100μmである。バリヤー層2の選択では、可撓性であって、種々の汚染物質の拡散を許さないかまたは最小限に抑えることができるすべての原材料が適している。本発明では、アルミニウム、銀および金のような純粋な金属が特に好ましく、厚さほぼ1〜5μmの薄層として使用する。理想的には、金属は、フィルムとしての元素の形態で存在すべきである。真空で前記金属の1つを図1に示す収集層3の下面に蒸着させることもできる。ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン・テレフタレートまたはアクリロニトリル・コポリマーのようなポリマーもバリヤー層として非常に適している。
【0028】
平衡ディフューザ5の構造は、図2でわかるように、バリヤー層2がないという点で拡散コレクタ4の構造とは異なる。平衡ディフューザ5の接着剤層1および収集層3は、拡散コレクタ4の対応する層1、3と同一であるのが好ましい。換言すれば、拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5の各々は、同じ材料の接着剤層1および収集層3を有する。さらに、拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5の収集層3および接着剤層1は同じ寸法を有する。拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5は、共に、或る種の環境汚染物質に対するバリヤー層として、そして織物、プラスチック、皮革などに対する非粘着性層として1つまたはそれ以上の付加的な層を含むことができる。付加的なバリヤー層を設けることでモニタリング・システムを空気に含まれる特定の物質の測定用のみに設計できる。これらの物質のみがバリヤー層を通過し、他の汚染物質がこれらのバリヤー層を通過することができないからである。非粘着性層(モニタリング・システムの収集層の外面に各々適用する)は、モニタリング・システムを皮膚に装着している人間の、織物または皮革で作った衣類に収集層が粘着するのを防ぐのに役立つ。
【0029】
図3は、人間の皮膚7に平らな状態で載せた拡散コレクタ4、平衡ディフューザ5を含むモニタリング・システム6を示している。モニタリング・システム6全体が汚染空気に曝露されている。すなわち、それぞれの収集層3および接着剤層1の寸法、したがって、体積が同じであるため、同じ量の空気が拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5に作用する。いずれの場合でも層1、3の材料は拡散コレクタ4、平衡ディフューザ5で同じであるから、皮膚を通しての拡散、浸透プロセスを互いに比較できる。
【0030】
図4a、4bには、モニタリング・システム6の拡散コレクタ4、8および平衡ディフューザ5における拡散、浸透プロセスが示してある。周囲空気は、濃度Cの揮発性汚染物質の有する。周囲空気とモニタリング・システム6の構成要素との間の界面で矢印A、Bで示す拡散プロセスが生じる。拡散とは、或る媒体内で高濃度から低濃度への原子、イオンおよび分子の移動として理解されている。システム内ですべての粒子が均一に分布した後には、もはや検出できるだけの正味の移動はない。濃度が平衡に達し、システムが平衡状態にあるためである。粒子の速度は温度に依存しており、温度が上昇するにつれて増大する。したがって、曝露の開始時に最初に個々の粒子が空気と収集層の間の界面または分離面を通る、すなわち、収集層3内へ矢印Aの方向に移動するように粒子がランダムに移動することが想定される。すべてではないが非常にたくさんの粒子が矢印Bで示すように再び空気中に移動し、結果として初期には汚染物質がなかった収集層の方向に粒子の正味運動または正味流量が生じる。或る曝露期間後、システム内に上記の平衡状態がそれ自体で再確立し、その時、収集層内の汚染物質の濃度はC1である。拡散コレクタ4がバリヤー層を備えているので、収集された汚染物質は皮膚7の方向にさらに拡散することはない。平衡ディフューザ5においては、バリヤー層がないので皮膚への再拡散は可能である。周囲空気と収集層3との界面または分離面での拡散プロセスは、2つの収集層3が同じ材料があり、同じ寸法であるならば、拡散コレクタ4と同じである。
【0031】
収集層3内へ矢印Aの方向に拡散する汚染物質粒子の若干量は再び周囲空気中に戻るように拡散する(矢印B参照)が、他の粒子は接着剤層1を経て経皮的に皮膚7により取り込まれることになる。この浸透が矢印Dで示してある。浸透は透過性に依存しており、表面(膜)を通しての粒子の拡散として理解すべきである。皮膚7は、すべての物質に対して同じレベルの透過性を持っていない生体膜と考えることができる。皮膚の透過性は選択的である。すなわち、皮膚は物質Iに対しては透過性があるが、物質IIに対しては不透過性である。透過性は選択的であり、化学的に関連した物質の或る群に対して親和性を有する皮膚中の特定のキャリア分子に依存する。
【0032】
平衡ディフューザ5においては、濃度C2の汚染物質で平衡が確立される。汚染物質のいくつかが平衡ディフューザ5の収集層3に残らず、その代わりに皮膚7の方向にさらに拡散するので、濃度C2は拡散コレクタ4の濃度C1より低い。
【0033】
モニタリング・システムが曝露された人間または曝露された動物の皮膚7に或る期間装着された後、モニタリング・システムは皮膚から外される。装着期間は、測定しようとしている個々の物質毎に異なる。すなわち、異なった長さの時間を必要とする。一般的には、測定システムが装着される最短時間、すなわち約4〜5時間は、収集層3の中に取り込まれていく最短飽和時間を有する物質のためにあるといわれている。検査しようとする他の物質では、装着時間は最短装着時間よりも長い。したがって、比較的多い汚染物質を測定しようとしている場合、いくつかの拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5を備えたモニタリング・システムを使用する方が好都合である。それ故、一対の拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5は、1つまたは2、3の汚染物質を測定するために設計される。上記の一対を用いて測定される汚染物質とは異なる1つまたはそれ以上の汚染物質を測定するためには、それぞれ、さらなる対の拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5を用意する。このやり方でこのモニタリング・システムで多数の異なった汚染物質を測定することが可能となる。
【0034】
モニタリング・システムを皮膚から取り外して直ぐに、適切であるならば、随意の中間保管段階後に、汚染物質の分析ワーキングアップおよび分析測定が行われる。分析ワーキングアップは、公知の方法、たとえばガスクロマトグラフ法によって実施される。これには、一般的に、それぞれの汚染物質を含まない最高純度の有機溶剤での初期抽出が伴う。こうして得た溶液を高圧液体クロマトグラフまたはガスクロマトグラフで分析する。検査しようとしている溶液と同じ汚染物質を含む既知の標準溶液と比較することによってモニタリング・システムにより取り込まれた汚染物質の量を決定することができる。空気から環境汚染物質を収集し、その経皮摂取をモニタするための方法では、手順は次の通りである。経皮目的のために適しており、或る種の環境汚染物質の摂取のための多孔質材料、吸収性材料を含む少なくとも1つのポリマー材料を皮膚上に平らに固定する。ポリマー材料を皮膚から仕切るバリヤー層を有する同様のタイプのポリマー材料も皮膚上に平らに固定する。これら2つのポリマー材料を同じ時間にわたって曝露し、その後、特に環境汚染物質の対する材料の取り込み飽和状態が始まる前の時刻に皮膚から取り外す。その後、収集した環境汚染物質を抽出し、分析測定を行う。
【0035】
環境汚染物質についての材料の摂取飽和状態の開始後まで材料を取り外さない場合、平衡ディフューザ5の収集層3では、そのとき濃度C2を有し、飽和状態が生じたときに汚染物質が収集層3に取り込まれなくなるのに収集層3からの浸透が続くため、浸透度も変化し、またそれ故皮膚における経皮送達率も変化する可能性がある。或る装着時間後に濃度C1の汚染物質で取り込み飽和状態が拡散コレクタ4の収集層3において平衡状態で生じた場合、これは、浸透のために、濃度C2が濃度C1より低く、平衡状態がないので平衡ディフューザ5では起こらない。
【0036】
汚染物質の量および皮膚に対するそれらの経皮送達率は、クロマトグラフ的に有機溶剤なしで測定することもできる。このために、曝露後、拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5およびこれらの構成要素の収集層3の材料をいわゆるヘッドスペース・ガスクロマトグラフで加熱される密閉ガラス容器内に入れる。次いで、材料からそれぞれの密閉容器の気体スペースに拡散する環境汚染物質と材料に残っている環境汚染物質との間に平衡状態が確立される。次に、気体スペース内の気体相で環境汚染物質の量および濃度を測定できる。拡散コレクタ4および平衡ディフューザ5内の環境汚染物質の測定した量および濃度を比較することによって、人間または動物への環境汚染物質の経皮送達率の推定値を決定できる。送達率は、膜と考えることができる皮膚を通る正味流量に対応し、送出率=−D/d×(C1−C2)という式で算出する。D/d項は、透過率定数であり、単位は[cm/s]である。変数dは、皮膚の厚さに対応し、送達率は、毎秒所定の表面を通って移動するモル数である。表面からの距離が増大するにつれて濃度が減少するので、濃度勾配(C1−C2)/dは負の値を有する。
【0037】
図4bに記載のモニタリング・システムのわずかに変形した実施形態は、拡散コレクタ8に関してのみ図4aに記載の実施形態と異なる。拡散コレクタ8は、収集層3の下面に隣接しておらず、その代わりにこの下面から或る距離隔たったところに配置されたバリヤー層2を有する。収集層3とバリヤー層2との間には、さらに別の層9がある。この層は、たとえば、或る特定の汚染物質のためのバリヤー層である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による拡散コレクタを通る概略断面図を示す。
【図2】本発明による平衡ディフューザを通る概略断面図を示す。
【図3】生物体の皮膚に平らに配置した本発明によるモニタリング・システムを示す。
【図4a】拡散コレクタおよび平衡ディフューザにおける拡散率を示す、後者では経皮浸透率を示す概略図である。
【図4b】図4aと比較してやや変更した拡散コレクタの実施形態と平衡ディフューザにおける拡散率を示す、後者では経皮浸透率を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境汚染物質を含有する空気を収集し、および/またはそれを経皮的に再拡散させるモニタリング・システムであって、生物体の皮膚(7)上に平らに配置され、少なくとも1つの拡散コレクタ(4;8)と少なくとも1つの平衡ディフューザ(5)を含むモニタリング・システム。
【請求項2】
拡散コレクタ(4;8)が少なくとも3つの層(1、2、3)を有し、これらの層のうち、生物体の皮膚(7)に向けられた層(1)が皮膚(7)に接着することができ、バリヤー層(2)が環境汚染物質の皮膚(7)内への拡散を防ぎ、そして環境汚染物質を取り込む収集層(3)がモニタリング・システム(6)の外面に配置される、請求項1に記載のモニタリング・システム。
【請求項3】
平衡ディフューザ(5)が少なくとも2つの層(1、3)からなり、これらの層のうち、生物体の皮膚(7)上に置かれる層(1)が皮膚(7)に接着することができ、環境汚染物質を取り込み、経皮再拡散を可能にする収集層(3)がモニタリング・システム(6)の外面に位置する、請求項1に記載のモニタリング・システム。
【請求項4】
収集層(3)が経皮目的に適した少なくとも1つのポリマー材料から構成される、請求項2または3に記載のモニタリング・システム。
【請求項5】
有機環境汚染物質の溶解性および吸収性を増大させるために多孔質材料、吸収性材料が、ポリマー材料に添加される、請求項4に記載のモニタリング・システム。
【請求項6】
ポリマー材料が、シリコーン・コポリマー、ポリイソブチレン、アクリレート・コポリマーおよびスチレン・イソプレン・コポリマーを含む群から選択され得る、請求項4に記載のモニタリング・システム。
【請求項7】
多孔質材料、吸収性材料が、活性炭、ベントナイト、二酸化ケイ素、或る種の有機微量元素に対して特異な親和性を有する合成ポリマーを含む群から選択され得る、請求項5に記載のモニタリング・システム。
【請求項8】
接着剤層(1)が、シリコーン・コポリマー、ポリアクリレート、ポリイソブチレンまたはそれらの混合物を含む、請求項2または3に記載のモニタリング・システム。
【請求項9】
バリヤー層(2)が、純粋な金属、ポリエチレン・テレフタレート、アクリロニトリル・コポリマーまたはポリテトラフルオロエチレンから構成される、請求項2に記載のモニタリング・システム。
【請求項10】
金属がアルミニウム、銀または金である、請求項9に記載のモニタリング・システム。
【請求項11】
拡散コレクタ(4;8)および平衡ディフューザ(5)の両方が、或る種の環境汚染物質に対するバリヤー層として、また、織物、プラスチック、皮革などに対する非粘着性層として、1つまたはそれ以上の付加的な層を含む、請求項2または3に記載のモニタリング・システム。
【請求項12】
拡散コレクタ(4;8)および平衡ディフューザ(5)が、各々、同じ材料の収集層(3)および接着剤層(1)を有する、請求項2または3に記載のモニタリング・システム。
【請求項13】
拡散コレクタ(4;8)および平衡ディフューザ(5)の収集層(3)および接着剤層(1)の各々が同じ寸法を有する、請求項2または3に記載のモニタリング・システム。
【請求項14】
接着剤層(1)が、5〜200μm、特に5〜100μmの厚さを有する、請求項2または3に記載のモニタリング・システム。
【請求項15】
収集層(3)が1〜100μmの厚さを有する、請求項2または3に記載のモニタリング・システム。
【請求項16】
生物体が人間または動物である、請求項1に記載のモニタリング・システム。
【請求項17】
空気から環境汚染物質を収集し、環境汚染物質の皮膚取り込みをモニタする方法であって、以下:
(a)経皮目的に適しており、場合により、環境汚染物質の取り込みのための、多孔質材料、吸収性材料を含む少なくとも1つのポリマー材料を平らに適用する工程、
(b)バリヤー層を有する同じタイプのさらなるポリマー材料を皮膚に平らに適用し、ポリマー材料を皮膚から仕切る工程、
(c)2つのポリマー材料を同じ時間にわたって周囲空気に曝露し、環境汚染物質についての材料の取り込み飽和状態の開始前に材料を皮膚から取り外す工程、
(d)個々の環境汚染物質の分析決定を行う工程
を含む上記方法。
【請求項18】
分析決定のために、環境汚染物質を有機溶剤によってポリマー材料から抽出し、そうして得た溶液をクロマトグラフィによって標準溶液と比較し、その結果これらの材料によって取り込まれた環境汚染物質の量を決定する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
各材料を、曝露後にヘッドスペース・ガスクロマトグラフにおいて加熱される密閉容器内に置き、材料からそれぞれの容器の気体スペース内へ拡散する環境汚染物質と材料に残っている環境汚染物質との間で平衡状態を確立させ、環境汚染物質の量を気体スペースの気相から測定する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
材料内の環境汚染物質の測定した量および濃度を比較することによって、生物体に対する環境汚染物質の経皮送達率の推定値を決定する、請求項17〜19のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2008−510128(P2008−510128A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525233(P2007−525233)
【出願日】平成17年8月6日(2005.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008555
【国際公開番号】WO2006/018166
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(300005035)エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー (128)
【Fターム(参考)】