説明

環状のナノ粒子集合体およびその製造方法

【課題】本発明は、所望の2種類以上の異種材料を混合したリングや、所望の位置・配列でリングを作製できる方法、および所定の大きさの環状のナノ粒子集合体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ナノ粒子が分散した溶媒中に赤外線吸収材料が塗布された基板を浸し当該赤外線吸収材料の表面にレーザー光を照射し、
レーザー光の照射点近傍で生じる対流によって前記ナノ粒子を当該照射点に向けて移動させ、
移動したナノ粒子同士を凝集させて環状のナノ粒子集合体を形成する、
環状のナノ粒子集合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のナノ粒子集合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子がその物質波としてのド・ブロイ波長程度の領域に閉じ込められると、電子の波動性による量子(サイズ)効果が出現することから、ナノサイズの半導体を形成させると、伝導帯及び価電子帯にいわゆる量子閉じ込め準位が形成され、電子及び正孔の基底エネルギーが大きくなるため、半導体のバンドギャップが大きくなり、伝導帯に励起された電子が価電子帯の正孔と再結合する際の発光エネルギーが、半導体のサイズの減少とともに大きくなる。そのため、この量子(サイズ)効果を利用し、例えば、特許文献1では、量子ドットがバルク結晶に比べ電子の閉じ込め効果が高いため励起子が再結合する確率を高めることができることに注目して量子ドットを発光層として利用する技術が開示されている。より詳細には、当該発光層に電子を輸送する電子輸送層、および当該発光層にホールを輸送するホール輸送層を、量子ドットを有する発光層が挟まれるように設け、キャリア輸送層間に電圧が印加されると電子およびホールが注入されることにより、当該発光層で発光するような発光デバイスが開示されている。
【0003】
一方、前記量子ドットのような電子の波動性に基づく「量子効果デバイス」がナノテクノロジーのテーマの一つとして具現化されるのと同様に、電子のもつスピンをエレクトロニクスに積極的に取り入れたスピトロニクスの分野が関心を集めており、既に電子スピンによる電気抵抗の大きな変化を利用したハードディスク用磁気ヘッドなどが開発され、電子スピンを利用したスピン電界効果トランジスタの研究も現在進められている。
【0004】
なかでも、非特許文献1や2では、メゾスコピック系のアハラノフ・ボームリング(いわゆる、ABリングであり、直径1μmの無機半導体リング)を用いることで、スピン軌道相互作用により、ABリングの分岐点で時計回りおよび反時計回りに分波した電子スピンは、それぞれ逆向きの歳差運動した後、これらの電子スピンがであう干渉地点ではそれぞれ異なるスピンの向きをしているため、このスピンの相対角度をゲート電圧で制御することでスピンの干渉により伝導性を変化させることが可能であることが開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2では、基板上にGaAsナノウィスカーを形成させて発光デバイスに使用することが開示されており、より具体的には、GaAs基板にAFMで操作して、触媒である金エアロゾル粒子を基板上に配列した後、化学ビームエピタキシーによりGaAsを堆積させることでロッド状のウィスカーを作製している。また非特許文献3でも、ナノサイズのピラー(柱)を形成させて量子干渉効果を発現させてスピントロニクスへの展開を目指した研究がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−172102号公報
【特許文献2】特表2005−532181号公報
【非特許文献1】J.Nitta,F.E.Meijer, and H.Takayanagi、Spin interference device, appl.Phys.Lett.,75,pp.695−697,1999
【非特許文献2】T.Bergsten et al. Phys.Rev.Lett.2006,97,196803
【非特許文献3】M.Kahl et al. Nano Lett.2007,7,2897
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2や非特許文献1〜3のように、デバイスパターンの作製にドライエッチング法や分子ビームエピタキシー法など使用する場合、ある程度の設備を必要とするため、コストが嵩み、また、ナノサイズやメゾスコピック系のデバイスのサンプル作製自体も非常に難しいという問題がある。
【0008】
さらに、ドライエッチングや分子ビームエピタキシー法などの従来の方法を使用して、ナノサイズまたはメゾスコピック系のABリングなどの所望のパターンを形成させる場合は、所望の2種類以上の異種材料を混合したパターンを形成させたり、パターンを形成させる位置や数にも制限があるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、所望の2種類以上の異種材料を混合したリングや、所望の位置・配列でリングを作製できる方法、および所定の大きさの環状のナノ粒子集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み、ナノリングの形成方法を鋭意検討した結果、ナノ粒子が分散した溶媒中に赤外線吸収材料が塗布された基板を浸し当該赤外線吸収材料の表面にレーザー光を照射し、レーザー光の照射点近傍で生じる対流によって前記ナノ粒子を当該照射点に向けて移動させ、移動したナノ粒子同士を凝集させてナノ粒子リングを形成する環状のナノ粒子集合体の作製方法により、本発明の目的を達成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る方法は、溶液プロセスであるため、鋳型も必要なくin situで容易にナノ粒子からなるリングを作成することができる。また、レーザー出力や使用するナノ粒子の濃度、ナノ粒子の平均粒子径を適宜変更することで、所望の外径のリングや所望の幅のリングを製造することができるため、ABリングなど新規デバイスへの展開も期待することができる。
【0012】
さらに、本発明の方法は、所望の2種類以上の異種材料を混合したリングを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1−1】蒸発による溶媒の流れに着目した気泡がナノ粒子を引き込む際の機構を示す模式図である。
【図1−2】表面張力勾配による表面流れに着目した気泡がナノ粒子を引き込む際の機構を示す模式図である。
【図1−3】気泡による引き込みメカニズムの模式図である。
【図2】幅2μmの金電極上で出力100mWレーザー照射したときに発生する気泡を観察した光学顕微鏡の像である。
【図3】界面活性剤の有無によるポリスチレンビーズの移動速度と移動距離との相違を示す結果である。
【図4】界面活性剤の有無による環状のナノ粒子集合体の形状の相違を示す蛍光顕微鏡の像である。
【図5】外円の直径が770nmの環状のナノ粒子集合体の蛍光顕微鏡の像である。
【図6】本実施例で使用した光ピンセットの光学系の模式図である。
【図7】本発明において使用する溶液セルの構造を示す模式図である。
【図8】本発明の環状のナノ粒子集合体の蛍光顕微鏡の像である。
【図9】本発明の環状のナノ粒子集合体の蛍光顕微鏡の像である。
【図10】石英上に金を蒸着した基板であり、上から金薄膜の膜厚が10nm、20nmと順次示す。
【図11】石英上に蒸着した金薄膜の(a)透過率(b)反射率(c)吸収率のスペクトル図である。
【図12−1】蒸発よる溶媒の流れを示す模式図である。
【図12−2】自然蒸発による液滴界面の流れを示す模式図である。
【図13】量子ドットをリング状(環状)に金薄膜に堆積させたサンプルの5μm×5μmのAFM画像である。
【図14】界面活性剤を水に混合し、その濃度を変化させた場合の金薄膜被覆基板上に対する接触角の変化を示す図(a)と、ポリスチレンビーズの引き込み測定の模式図である。
【図15】リングの耐久性評価の結果を示す蛍光顕微鏡の像である。
【図16】レーザー出力と環状のナノ粒子集合体の外円の直径との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第一は、ナノ粒子が分散した溶媒中に赤外線吸収材料が塗布された基板を浸し当該赤外線吸収材料の表面にレーザー光を照射し、レーザー光の照射点近傍で生じる対流によって前記ナノ粒子を当該照射点に向けて移動させ、移動したナノ粒子同士を凝集させて環状のナノ粒子集合体を製造する方法である。
【0015】
すなわち、ナノ粒子が分散している液相下であって、かつ赤外光吸収材料が被覆された基板の被覆面と当該液相が接触している条件で、当該被覆面にレーザーを照射した場合、レーザー照射点近傍の赤外光吸収材料の層が赤外線を吸収し熱に変換されるため、レーザー光の照射点を中心とするレーザー光集束領域(レーザー光が集まる領域であり、「レーザー光の照射点」を中心とした近傍の領域であって、レーザー光が集まるため、対象物がレーザー光を吸収し熱に変換すると温度上昇が起こる領域をいう。また、「レーザー光集束領域」は、照射するレーザーや照射される対象の物性によって変化し、「レーザー照射点」と一体となって移動するものである。)では急激に温度が上昇し、近傍の溶媒が急激に相転移することで気泡(以下、マイクロバブルとも称する)が生じるため、レーザー照射点近傍に溶媒の対流が発生して、この対流によりナノ粒子がレーザー照射点に向かって移動し、移動したナノ粒子同士が凝集して環状のナノ粒子集合体が形成される。
【0016】
より詳細に前記対流について図1−1〜図1−3を参照しながら説明すると、レーザー照射により発生した赤外光吸収材料の被覆表面の気泡は、気泡内の飽和水蒸気が逐次液体となるため(図1−1)、気液界面を通過する溶媒の流れが生じ(図1−3)、かつ赤外光吸収材料の層の局所的加熱により気液界面には大きな温度勾配(図1−2のように被覆表面の温度は高く、被覆表面から離れるしたがって温度が低い)があるため表面張力に差が生じ、この表面張力差により生じるマラゴンニ対流によってナノ粒子が引き込まれることで、レーザー照射点に向かって移動し、移動したナノ粒子同士が凝集することで環状のナノ粒子集合体が形成される。
【0017】
ナノ粒子が対流によって引き込まれる現象に関して、後述する実験結果を踏まえて以下2つの点を説明する。
(1)図2に示すように、幅2μmの金電極上に出力100mWのレーザー(Nd:YAGレーザー1064nm)を照射すると、気泡が出来ることが観測されている。一方、石英表面に前記レーザーをあてても何も起こらず、また、ナノ粒子が分散した溶媒中に石英基板を浸し当該石英基板の表面にレーザー光を照射してもナノ粒子が引き込まれる現象を確認できない。
(2)後述の実施例においても詳説するが、ポリスチレンビーズが分散された水溶液と、ポリスチレンビーズおよび界面活性剤を添加した水溶液(CMC以下の濃度)とに対して、それぞれ赤外線吸収材料が塗布された基板を浸し、出力50mWのレーザー(Nd:YAGレーザー1064nm)を照射すると、界面活性剤を含む場合は速度が著しく低下する結果が得られているため(図3)、ナノ粒子が気泡に引き込まれる駆動力に気液界面張力が寄与していると考えられる。
【0018】
以上の3つの点から、レーザー照射による赤外光吸収材料の層の局所的加熱で発生した気泡が対流を引き起こすことで、ナノ粒子がレーザー照射点に向かって移動し、ナノ粒子が局在化することが考えられる。
【0019】
また、ナノ粒子同士が凝集して環状のナノ粒子集合体が形成される理由について以下説明する。図8に、ナノ粒子として量子ドットを使用し、本発明に係る方法を用いた場合に形成される環状のナノ粒子集合体の蛍光像を示す。図8をみると、量子ドットを引き込んだ先にはそれ以上引き込まれない領域(輪の内部)があるため、量子ドットの引き込む領域には境界があり、この境界は気液界面の存在を示すものであると考えられる。すなわち、上述の図1−1〜図1−3に示すように、液相の流れは、気泡の表面である気液界面に沿って形成される。そのため、レーザー光の照射点に向かって移動してきたナノ粒子はこの流れに沿って液相と一緒に移動して、赤外線吸収材料が塗布された基板と、気泡と堆積されるものある。
【0020】
これらの結果から、レーザーが照射される対象は赤外光を吸収するものであり、レーザー照射点に引き込まれることが可能なナノ粒子は、所定の大きさを有し、溶媒にさえ分散できればその材質などに特に制限されることはないと考えられる。
【0021】
本発明に係るナノ粒子は、平均粒子径が1〜50nmであることが好ましく、平均粒子径が5〜20nmであることがより好ましく、平均粒子径が5〜10nmであることがさらに好ましい。
【0022】
平均粒子径が1nm未満であると、リング集合体を作りにくく、平均粒子径が50nm超であると、ナノ粒子の引き込みが不安定となりリング状集合体ができない。
【0023】
上記ナノ粒子の平均粒子径を測定する方法は公知の方法であればよいが、具体的にはX線回折方法、光散乱法、TEM、SEM、EXAFS、レーザー共焦点顕微鏡、原子間力顕微鏡など挙げられ、中でもTEMが好ましく、本明細書における平均粒子径は、TEMで測定している。
【0024】
また、本発明に係るナノ粒子は、単層構造であっても、コアシェル構造といった多層構造であってもよい。より好ましくは、当該ナノ粒子は、コアシェル構造の微粒子である。さらに、本発明のナノ粒子に発光材料を使用する場合において、ナノ粒子が発する光の波長については特に制限はなく、紫外域、可視域、赤外域のいずれにおいても、本発明の効果を発揮することができる。また、本発明に係るナノ粒子は、1種のものを使用しても2種類以上を使用してもよい。
【0025】
また、本発明に係るナノ粒子がいわゆるコアシェルの2重構造になる場合において、外殻であるシェル層の厚みは、ナノ粒子の粒径の1/10〜1/2が好ましく、1/10〜1/8が特に好ましい。なぜなら、1/10未満であれば、中心ナノ粒子が不安定、1/2を超えれば、中心ナノ粒子が失われるからである。なお、シェル層の厚みを測定する方法は、TEM、X線回折方法など挙げられ、本明細書におけるナノ粒子のシェル層の厚さ測定は、TEMを使用している
本発明に係るナノ粒子は、量子ドットであることが好ましい。これにより、量子(サイズ)効果を備えたリングを、in situで容易に作製することができる。
【0026】
本発明に係るナノ粒子の大きさの分布には前記の平均粒径の範囲内である限りにおいて制限はなく、例えば、当該量子ドットおよびナノ粒子の量子効果による光吸収・発光特性を利用する場合、かかる分布を変えることで必要とする光吸収・発光波長幅を変化させることができる。なお、かかる波長幅を狭くする必要がある場合には、半導体超微粒子の粒径分布を狭くするが、通常、標準偏差として±15%以内、好ましくは±10%以内、更に好ましくは±5%以内、最も好ましくは±1%以内とする。この標準偏差の範囲を超えた粒子直径分布の場合、量子効果による光吸収・発光波長幅を狭くする目的を十分に達成することが困難となる。
【0027】
本発明に係る量子ドット(いわゆるQドット)は、平均粒径によって発光色を調整できる半導体微粒子である。また、当該量子ドットは、その粒径により発光色を異にするものであり、例えば青色発光する粒径は1.0nm〜1.9nmの範囲であり、緑色発光する粒径は2.0nm〜2.4nmの範囲であり、赤色発光する粒径は4.2nm〜6.0nmの範囲である。本発明にはいずれも使用することができ、本発明に係る量子ドットとしては、半導体のナノメートルサイズの微粒子(半導体ナノ結晶)であり、量子閉じ込め効果(量子サイズ効果)を生じる材料であれば特に限定されない。具体的には、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe及びHgTeのようなII−VI族半導体化合物、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaAs、GaP、GaN、GaSb、InN、InAs、InP、InSb、TiO、TiN、TiP、TiAs及びTiSbのようなIII−V族半導体化合物、Si、Ge及びPbのようなIV族半導体等を含有する半導体結晶(WO、PbS、PbSe等)の他、CdMnTe、CdMnSe、CdMnS、InGaPのような3元素以上を含んだ半導体化合物が挙げられる。或いは、上記半導体化合物に、Eu3+、Tb3+、Ag、Cuのような希土類金属のカチオン又は遷移金属のカチオンをドープしてなる半導体結晶を用いることができる。
【0028】
また、本発明に係る量子ドットは、1種の半導体化合物からなるものであっても、2種以上の半導体化合物からなるものであってもよく、例えば上述したように、半導体化合物からなるコアと、該コアと異なる半導体化合物からなるシェルとを有するコアシェル型構造を有していてもよい。コアシェル型の量子ドットとしては、励起子が、コアに閉じ込められるように、シェルを構成する半導体化合物として、コアを形成する半導体化合物よりもバンドギャップの高い材料を用いることで、量子ドットの発光効率を高めることができる。このようなバンドギャップの大小関係を有するコアシェル構造(コア/シェル)としては、例えば、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/CdS、CdTe/CdS、InP/ZnS、GaP/ZnS、Si/ZnS、InN/GaN、InP/CdSSe、InP/ZnSeTe、GaInP/ZnSe、GaInP/ZnS、Si/AlP、InP/ZnSTe、GaInP/ZnSTe、GaInP/ZnSSe等が挙げられる。
【0029】
また、本発明に係る量子ドットは、溶媒中に分散させる目的で、表面をさらにPEGなどの高分子やコーティングしてもよい。
【0030】
本発明に係る量子ドットの平均粒子径は、1〜50nmが好ましく、5〜20nmがより好ましく、5〜10nmが特に好ましい。なお、量子ドットのサイズ分布が狭いほど、より鮮明な発光色を得ることができる。
【0031】
また、前記量子ドットの形状は特に限定されず、球状、棒状、円盤状、その他の形状であってもよい。前記量子ドットの粒径は、量子ドットが球状でない場合、同体積を有する真球状であると仮定したときの値とすることができる。
【0032】
また、前記量子ドットの粒径、形状、分散状態等の情報については、透過型電子顕微鏡(TEM)により得ることができる。また、量子ドットの結晶構造、また粒径については、X線結晶回折(XRD)により知ることができる。さらには、UV−Vis吸収スペクトルによって、量子ドットの粒径、表面に関する情報を得ることもできる。
【0033】
本発明に係る量子ドットの一例としては、例えば、CdSeからなるコアと、その周囲に設けられたZnSシェルと、必要によりZnSシェルの表面にPEG、アミノ基、またはカルボキシル基が表面修飾されたものを基本構造としたCdSe/ZnS型のコアシェル構造や、CdSeの単層構造からなるものと、必要によりそのCdSeの周囲にアミノ基、またはカルボキシル基で表面修飾したものを基本構造としたCdSe型の単層構造を好ましく例示できる。なお、本発明に係る量子ドットは市販のものを使用しても、公知の方法で合成してもよい。
【0034】
本発明に係る方法に使用できる赤外光吸収材料は、赤外光を吸収するものであれば特に制限されるものではなく、より具体的には、1000〜5000nmの赤外光を吸収できる材料であることが好ましく、1064nmの赤外光を吸収できる材料であることがより好ましい。
【0035】
前記赤外光吸収材料の具体的な例示としては、無機系赤外線吸収材料と有機系赤外線吸収材料に大別することができ、無機系赤外線吸収材料としては、従来公知のもの、例えば、酸化亜鉛、酸化錫、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、酸化インジウム、ITO(インジウムドープ酸化錫)、硫化亜鉛などの金属酸化物、または金などが挙げられ、有機系赤外線吸収材料としては、従来公知のもの、例えば、黒鉛、グラッシーカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどのカーボン材料や、油性マジックや、赤外光を吸収する染料または顔料を用いることができる。前記染料としては、アゾ染料、ニトロ染料、ニトソロ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン・ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン・インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料などを挙げることができる。また、前記顔料としては、金属酸化物や塩類などの化合物からなる無機顔料や、ニトソロ顔料、染付けレーキ顔料、アゾレーキ、不溶性アゾ、モノアゾ、ジスアゾ、縮合アゾ、ベンズイミダゾロンなどのアゾ系顔料、フタロシアニン、アントラキノン、ペリレン、キナクリドン、ジオキサジン、イソインドリノン、キノフタロン、イソインドリン、アゾメチン、ピロロピロールなどの有機顔料を挙げることができる。
【0036】
これら無機系赤外線吸収材料と有機系赤外線吸収材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明に係る基板は、赤外光吸収材料の層を支持できれば特に制限されることはなく、シリコン、石英、ガラスなど公知の材料を使用することができ、また、前記基板の形状は、平面状が好ましい。また、当該基板の厚さは特に制限されることはないが、0.001〜1000μmが好ましく、100〜500μmがより好ましい。また、本発明に係る基板自体が、赤外光吸収材料であってもよい。
【0038】
本発明に係る赤外光吸収材料の層(被膜)の厚さは、選択する赤外光吸収材料によって適宜選択されるものであり、赤外光を反射することなく赤外光を吸収できる厚さであれば特に制限されることはないが、1nm〜10cmであることが好ましい。
【0039】
特に熱伝導性の良い金を赤外光吸収材料に使用した場合は、30nm以下の厚さが好ましく、10〜20nmがより好ましい。当該層の厚さは、薄い方が赤外吸収率が高く、かつ熱伝導率が小さく、さらに熱を局所に留める効果を有する。また、30nm超になると、赤外光をほとんど吸収せず、反射するためである。10nm未満では均一な膜ができづらい。
【0040】
一方、熱伝導性の悪いグラッシーカーボン等の炭素材料の場合、厚くても良く、例えば、1cm以上であっても良い。
【0041】
また、本発明に係る赤外光吸収材料の層を基板に被覆させる方法としては、特に制限されることはなく、真空蒸着法などの一般的な被膜形成方法を採用することができる。
【0042】
上述したように、水以外にもエチレングリコール、グリセロール、赤外光を吸収しない重水でもナノ粒子が引き込まれる現象を確認しているため、本発明に係る方法において使用される溶媒は、特に制限されることなく、使用するナノ粒子の性質に合わせて、水溶液や有機溶媒を適宜選択することができる。また、後述する実施例において水系溶媒を選択する場合、前記溶媒に適宜塩を添加してもよく、pHの調整も使用するナノ粒子の性質に合わせて緩衝溶液などを用いることができる。
【0043】
本発明に係る方法に使用されるレーザーは、特に制限されることはないが、赤外レーザーを用いることが好ましく、レーザーは対象物にそのまま照射してもよいし、レンズ等を用いて対象物に集光するように照射してもよい。
【0044】
本発明に係るレーザーの波長は、1000〜5000nmが好ましく、1064nmがより好ましい。また、前記赤外レーザーとしては、YAGレーザー(Nd−YAGレーザー)、Nd:YVOレーザー、COレーザー、ルビーレーザーなどいかなるものを用いてもよく、かかる赤外レーザーを照射する装置として光ピンセットなどが好適に使用することができる。
【0045】
前記光ピンセットとは、レーザー光を操作して集光照射することで生じる光放射圧を利用して溶媒中の微細物を捕捉するものである。この光ピンセットは、レーザー光を水等の媒質を通して微細物に照射した場合に、媒質と微細物の屈折率の違いからレーザー光が屈折し、それに伴う光運動量変化に対する反作用によって微細物を焦点にトラップするものである。そして、微細物を捕捉した状態で、操作により微細物を含む試料ステージ側を相対移動させて微細物を移動・搬送することができる。このような光ピンセットを用いて微細物を操作・採取する技術としては、例えば、特開2001−71300号公報、特開2001−211875号公報に記載の技術がある。
【0046】
しかしながら、本発明では、光ピンセットを微細物の捕捉に使用するのではなく、上記に説明したように、レーザー光を任意の位置に動かして、溶媒中で赤外光を吸収する材料からなる層に照射することで、局所的加熱により発生するマイクロバブルを制御するものである。したがって、本発明に係る方法では、光ピンセット装置ではなく、所定の波長を有するレーザーを任意の場所に操作して集中照射することで発生するマイクロバブルを制御するものであれば特に制限されることはない。
【0047】
本発明に係る方法において、レーザー出力は、使用するレーザー赤外光吸収材料や光ピンセット装置によって適宜選択されるものであるが、例えばYAGレーザー(Nd−YAGレーザー 1064nm)の光ピンセットを使用する場合のレーザー出力は、20mW以上であることが好ましく、20mW〜100mWの範囲であることがより好ましく、50mW〜70mWであることがさらに好ましい。
【0048】
レーザーが100mw以上の場合、照射時間が長くなるため、気泡が成長しすぎて、引き込みが弱くなるが、20mW〜70mWの範囲ではそのような事が観測されていないため、レーザー照射時間内は常に引き込まれる流れが観測できる。
【0049】
本発明において赤外光吸収材料の被膜にレーザーを照射する時間は、レーザー出力によって適宜選択されるが、1〜10秒が好ましく、1〜5秒がより好ましい。
【0050】
また、本発明において赤外光吸収材料の被膜にレーザーを照射した際に、吸収した光を熱に変換して気泡が発生することで、ナノ粒子を移動させるが、この場合の引き込み範囲は、使用する赤外光吸収材料、レーザー出力などにより適宜選択されるものである。
【0051】
また、本発明に係る照射したレーザーのレーザー光集束領域に生じた気泡の大きさは、使用するレーザーやレーザー出力、レーザーを照射する対象物などによって適宜変化するものであるため特に制限されるものでない。
【0052】
本発明の第二は、ナノ粒子同士が凝集されてなる、環状のナノ粒子集合体である。
【0053】
すなわち、本発明に係る環状のナノ粒子集合体は、ナノ粒子同士が凝集してなるものであるため、量子サイズ効果だけではなく、メゾスコピック系の電子スピンを利用したデバイスに使用することができる。
【0054】
本発明に係る環状のナノ粒子集合体の外円の直径は、0.5〜10μmが好ましく、0.6〜5μmが好ましく、0.7〜2μmが好ましい。
【0055】
0.5μm未満は、局所加熱によって生成する気泡の大きさの関係上製造することができない、10μm超だと気泡の揺らぎが大きく、円形を作るのが難しい。
【0056】
本発明に係る環状のナノ粒子集合体の内円の直径は、0.4〜9μmが好ましく、0.5〜4.5μmが好ましく、0.6〜1.5μmが好ましい。
【0057】
0.4μm未満は、局所加熱によって生成する気泡の大きさの関係上製造することができず、また9μm超だと気泡の揺らぎが大きく、円形を作るのが難しい。
【0058】
本発明に係る環状のナノ粒子集合体の厚さは、10nm〜1μmが好ましく、30nm〜500nmが好ましく、50〜100nmが好ましい。
【0059】
10nm未満は、気泡による集積の関係上製造することができない、1μm超だと集積が困難である。
【0060】
本発明に係る環状のナノ粒子集合体の外円の直径、内円の直径、厚さは、本発明の環状のナノ粒子集合体の製造方法において使用するナノ粒子の平均粒子径、レーザー出力、レーザーの波長、赤外光吸収材料などで適宜調整することができる。また、後述する実施例において、レーザー出力とリングの外円の直径との関係を示す。
【0061】
また、本発明に係る環状のナノ粒子集合体は、本発明の環状のナノ粒子集合体の製造方法によって得られるものであり、当該環状のナノ粒子集合体は、赤外線吸収材料の層と密着していることが好ましい。
【実施例】
【0062】
1.実施例で使用した主要な測定機器および装置
以下、実施例で使用した主要な測定装置は以下の通りである。
【0063】
紫外・可視分光光度計(UV−vis spetrum scopy)
日立社製のU−4000 およびagilent 社製の型自記分光光度計を使用した。試料はベースラインをとった溶媒に溶解して光路長1 cmの石英セル、またはブラックセルで測定した。
【0064】
超純水製造機
セナー株式会社のエルガスタット超純水製造装置UHQ−PS(Ultra High Quality PolishingSystem)を用いた。4種類の純水化技術(有機物吸着、イオン除去、超微粒子ろ過、光酸化)を組み合わせて、18MEcmの超純水を調整して用いた。
【0065】
UV−O−クリーナー
日本レーザー電子社製のNL−UV253を使用した。本装置は、極短波長の光(約185nm)と酸素との反応によるオゾン発生と、短波長の光(254nm)のもつ化学結合解離効果とを組み合わせた光化学的酸化プロセスにより湿式洗浄では除去できない基板表面に残った有機物を取り除くと同時に、基板表面の親水処理のために利用した。30分間で約10nmの有機物を分解する。
【0066】
AFM(原子間力顕微鏡)
SHIMADZU社製のSPM−9500Jを使用した。スキャナはXY最大走査範囲30 μm、Z(高さ)方向最大走査範囲5μm。タッピングモード、位相検出モードで測定を行った。カンチレバーには、nanosensors(nano world)社製のppp−NCHR(Thickness=3μm, Meanwidth=30μm, Length =125μm, Force Constant=42N/m, Resonance Frequency=330kHz)を使用した。Digital Instruments 社製、Nano Scope IIIを使用した。コンタクトモード、タッピングモードを適宜使い分けた。
【0067】
SEM(走査型電子顕微鏡)
日本電子社製のJSM−5600LVBを使用した。試料はカーボンテープ、あるいは両面テープでステージに固定した。高真空下で測定を行い、焼き付けを最低限に抑える為、印加電圧は5kV,スポットサイズ18〜25で行った。
【0068】
光学および蛍光イメージング測定
Nikon社製の蛍光顕微鏡ECLIPSF 80iを用い、照射波長504nmで観察を行った。光学イメージはハロゲンランプによる光源を用いた。
【0069】
超音波洗浄機
ヤマト科学社製のYamato BRANSON 2510を使用した。
【0070】
ホットプレート
AS ONE社製のHOT PLATE TRIPLET TH−500を使用した。
【0071】
コンタクト型マスクアライナー
ズース・マイクロテック(Suss)社製のKarl Suss MA 6/BA6をいた。4インチSiウェハに5インチフォトマスクをハードコンタクトモードでアライメントし、1000W電圧,405nmの光源を用いて、100〜110mJ/cmの露光を行った。
【0072】
光学顕微鏡
OLYMPUS社製のMX50を使用した。
【0073】
プラズマリアクター
ヤマト科学社製のyamato PR 500を使用した。高真空下(10Pa程度)で酸素を流し、30Paの真空度で空焼きをして炉内を十分温めたうえで、基板上の不純物あるいはレジストの残りなどをアッシング除去した。
【0074】
EB(電子ビーム)蒸着装置
ULVAC社製のEBX−6Dを使用した。高真空下(5×10−4Torr)において固形金属の入ったるつぼに電子ビームをあてることにより、昇華、または液化した金属を常時回転させた基板に蒸着させる。一度に4種のるつぼが設置でき、連続して違う種類の金属を蒸着ができる。
【0075】
ダイシングソウ(基板切断装置)
Disco社製のDAD 321 AUTOMATIC DICING SAWを使用した。
【0076】
光ピンセット
中央大学理工学部物理学科 生物物理研究室(宗行研究室)の所有する自家製の装置を使用した。かかる、光ピンセット装置の光学系の模式図を図6に示す。
【0077】
2.試料の作製および測定
(1)「基板の作製」
4インチ石英ウェハにヘキサメチルジシラザン(HMDS)を4000rpmで5秒間スピンコートした後、次いで、ポリメチルグルタルイミドSF−3(PMGI SF−3)を500rpm、5秒、3000rpm、30秒の条件でスピンコートした。その後、基板をホットプレート上で180℃、5分間ベイクし放冷した。TSMR−V90−7cpを500rpm、5秒、2000rpm、30秒でスピンコートし、100℃で90秒ベイクした。フォトマスクにHAGA−ver2を用い、光照射エネルギーが55、60、65mJ/cmになるようにそれぞれ露光した。以降の工程は既知の作製法で行い、金薄膜1(電極)(金電極の厚みが10nmのもの)を用いた(図7)。
【0078】
(2)「溶液セルの作製」
上記の方法で作製した石英基板と、スペーサーと、カバーガラスとを使ってサンドイッチ構造を作ることにより、図7で示すような、上面に表面が金薄膜1で被覆された石英基板2、下面にカバーガラス5とした溶液セル10を作製した。スペーサー3には両面テープ、ルミラー、パラフィルムを用いた。両面テープを用いた場合、テープの粘着性により石英基板とカバーガラスとを固定した。ルミラーの場合、グリスを塗ることで基板とガラスとの密着性を上げ、セルを作製した。パラフィルムを用いた場合、サンドイッチ構造を作った後、60℃に設定したホットプレートでベイクし密着させた。
【0079】
また、図7では、金薄膜1が蒸着された(石英)基板2を、溶液セル10の上面に設置させた。この理由は重力によって沈殿してくる粒子等が基板に付着し、基板が汚れる事を避けるためである。そのため溶液セルの厚みは出来る限り薄い方が光ピンセットの捕捉力が強くなり、実験系に適している。そこで厚みの薄いスペーサーを探索した。
【0080】
両面テープをスペーサーに用いた場合ではセルの厚みが数100μm程度であり、セルの上面である石英基板付近ではレーザーによるビーズをトラップする力が弱くなり、実験系に不適と判断した。
【0081】
ルミラーを用いた場合のセルの厚みは100μm程度であった。ルミラー自身の厚みは20μmのものを用いたが、グリスを使用してガラス基板と密着させるため、実際のセルの厚みは大きくなった。ポリスチレンビーズの操作を評価すると、上面でのトラップ力は両面テープの時よりも向上したが、トラップ力の低下が見られた。薄さに限界があるためスペーサーにルミラーを用いるのは不適であると判断した。
【0082】
パラフィルムをスペーサー3に用いると実験系に適した溶液セルを作製できた。パラフィルムはそのまま使用するとミリメートルオーダーの厚みであるが、延伸(または伸張とも称する)すると数十マイクロメートルの薄膜になった。さらにパラフィルムを(石英)基板2とカバーガラス5で挟んだ後、ホットプレートでベイクすると密着性が上がり、約40μmの厚みの理想的な溶液セルが作成できた。上面でのポリスチレンビーズの操作は滞り無く行えたため、本研究において溶液セルのスペーサーには伸張したパラフィルムを用いることにした。
【0083】
(3)リング作製について
(3−1)上記の溶液セルを作製した(図7参照)後、レーザーピンセット4が導入されている蛍光顕微鏡に溶液セルをセットし、濃度80nMのQdot分散水溶液(invitrogen社のQdot(登録商標) 605 ITKTM Carboxyl Quantum Dotsを超純水中に分散した溶液)を溶液セルに入れた後、赤外光吸収材料の被覆層である金層表面にレーザーを20mWの出力で照射すると、気泡が発生し、リング状の環状のナノ粒子集合体が形成された(図5)。また、20〜30mWの出力でリング径が最小になり、その外円の直径は約770nmであった。照射時間は約1秒。レーザーの照射位置は機械制御で行い、リング間の距離は5μmに設定した(図5)。
【0084】
(3−2)カルボン酸基、アミノ基の官能基が修飾してあるCdSe 量子ドット(平均粒径7nm)を1:1の比で混合し、その混合溶液を溶液セルに流し、金薄膜表面で量子ドットを引き込んだ。その後AFMで表面観察を行った(図8)。
【0085】
(3−3)また、溶液セル内に濃度80nMのQdot分散水溶液(invitrogen社のQdot(登録商標) 605 ITKTM Carboxyl Quantum Dotsを超純水中に分散させた溶液)を入れ、金表面に出力80mWのレーザーを照射し直径約8μmのリングを作製した。その後、超純水で溶液交換を行い、濃度80nMのQdot分散水溶液(invitrogen社のQdot(登録商標) 525 ITKTM Carboxyl Quantum Dotsを超純水中に分散させた溶液)を入れ、金表面に出力50mWのレーザーをリングの中心に照射し、直径約2.5μmのリングを作製し、図9に示すような2重リングを作製した。
【0086】
(4)実験「金薄膜の赤外吸収の測定」
赤外光吸収材料として金薄膜を使用した場合の金薄膜の赤外吸収能を調べるため実験を行った。まず真空蒸着により石英基板に金10、20、30、40、および50nmを蒸着したサンプルを作製し、そのなかでも石英基板に金を10、および20nm蒸着したサンプルの写真を図10に示す。金10nmの薄膜はバルクの金色とは違い、薄い青色をしており、量子サイズ効果が表れていた。金薄膜20nmは金色に近い色をしていた。両サンプルを紫外・可視分光光度計で測定し、光学物性を調べた(図11参照)。レーザー光の波長である1064nmに注目し、光の散乱を無視した時の透過率、反射率、吸収率を算出した結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(5)実験「AFMによる環状のナノ粒子集合体の厚さの測定」
本発明に係る環状のナノ粒子集合体の製造方法は、レーザーによる局所加熱により、気泡が生成することから、その気液界面では蒸発が起きていると考えられる。横毛管現象により、ポリスチレン粒子をパッキングして基板表面に並べる研究(K.Nagayamaet al.Nature,1992,361,26、K.Nagayama et al.Langmuir,1996,12,1303)では、蒸発による溶媒の流れが粒子を集積させる効果を及ぼしている(図12−1(a))。また、ガラス基板上に液滴を置き、その液滴が自然蒸発する際の気体液体固体界面を観察した研究例(X.Xu,J.Luo.Appl.Phys.Lett.2007,91,124102−1)では、気液界面の基板表面付近では2種類の流れがあると報告されている(図12−1(b))。
【0089】
そのため、気泡による引き込みにおいて、この2種類の流れのうち、蒸発による流れがナノ粒子のリング状の集積に影響を及ぼしていると推測し(図12−2)、そのリングの高さから蒸発による表面流れの厚みを評価できないだろうかと考え、上記(3−2)で作製した環状のナノ粒子集合体のAFM測定を行った。測定したAFM像の一つを図13に示す。AFM測定よりリングの高さ分布をとると、62.07nm±7.2nmとなった。このことから、蒸発による表面流れの厚みは約62nmであると判断した。
(6)実験「対流への表面張力の影響に関する評価」
0〜1%のTriton X−100を含むTE緩衝溶液を調整し、表面未修飾の金基板に対する接触角をそれぞれの濃度で3回測定し、その接触角の平均値を濃度に対してプロットし、CMCを見積もった(図14(a))。
【0090】
蒸発の効果を見積もるのが困難であったため、対流への表面張力の影響を調べた。溶液に界面活性剤を含む場合と含まない場合、それぞれの流速の変化をポリスチレンビーズをトレーサーにして解析した。まず、界面活性剤を多く含ませると粘性が高くなってしまうことや、沸点の変化など純粋に表面張力の効果が比較できないため、それらが無視できる界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)を接触角測定により求めた。測定結果を図14(a)に示す。図14(a)より、界面活性剤の濃度が0.1%以上になると接触角がほぼ一定になることがわかる。この測定からCMCは0.05%〜0.1%の間にあると判断し、以降の実験では0.05%(500ppm)のTriton X−100を含むTE緩衝溶液で行った。すなわち、TE緩衝溶液と界面活性剤であるTriton X−100 を500ppm含むTE緩衝溶液の2種類の溶媒を用いたときの1μmポリスチレンビーズの引き込み速度を解析し、比較することで界面活性剤の影響を調べた。当該界面活性剤無しと当該界面活性剤ありのそれぞれの溶媒で流速を測定すると図3のような結果を得た。レーザー光の照射点とポリスチレンビーズとの距離Rとし(図14(b)を参照)、この距離Rの位置におけるポリスチレンの移動速度を比較すると界面活性剤を含む場合の方が速度の低下が見られた。また、界面活性剤を含まない場合、急激な引き込みが始まる距離Rは15μmであるのに対し、界面活性剤を含む場合は7μmであった。溶液の粘性の違いや、沸点の違いが無視できることから、引き込みを起こす対流は表面張力に依存しており、マランゴニ対流であると判断した。液滴が蒸発する際の研究で、液滴が蒸発するときの溶液の流れのみの効果と表面張力の効果を分けて考察した報告では表面張力のみの効果のほうが、流速に大きく影響を及ぼしている結果を得ている。このことからも、引き込み現象には主にマランゴニ効果が表れていると判断した。さらに、TE緩衝溶液と界面活性剤であるTriton X−100 を500ppm含むTE緩衝溶液の2種類の溶媒に、量子ドット(CdSe/ZnS/PEG invitrogen社のQdot(登録商標) 605 ITKTM Carboxyl Quantum Dots)を添加し、上記(2)の溶液セルに入れた後、赤外光吸収材料の被覆層である金層表面にレーザーを50mWの出力で照射すると、気泡が発生し、界面活性剤を添加しない電極にはリング状の環状のナノ粒子集合体が形成されたが、界面活性剤を添加した場合は、リングを形成できなかったことを蛍光顕微鏡で確認した。その様子を、図4に示す。これらの結果から界面活性剤がナノ粒子同士の凝集を阻害しており、当該ナノ粒子の凝集は横毛細管力による凝集であると考えられる(図12−2)。
(7)実験「リングの耐久性評価」
上記(3)で作成した表面に環状のナノ粒子集合体が形成された金薄膜を有する石英板を、超純水に浸漬させた後、2時間超音波洗浄を行って蛍光顕微鏡で評価した。洗浄する前と洗浄した後の蛍光顕微鏡像を図15(a)、(b)に示す。図15をみると、ほとんど環状のナノ粒子集合体が破壊されていないことが確認できる。したがって、ナノ粒子相互の凝集力、および環状のナノ粒子集合体と金層との相互間の密着力は強固なものであると考えられる。
(8)実験「レーザー出力と環状のナノ粒子集合体の外円の直径との関係」
溶液セルに濃度80nMのQdot分散水溶液(invitrogen社のQdot(登録商標)605 ITKTM Carboxyl Quantum Dots)を入れ、出力を、40、50、60、70mWの出力のレーザーを金の表面にあて、リングを作製したのち、蛍光画像から直径を見積もった。その結果を図16に示す。
【符号の説明】
【0091】
1 金薄膜(電極)
2 金薄膜が被覆された石英基板
3 スペーサー
4 レーザーピンセット
5 カバーガラス
10 溶液セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子が分散した溶媒中に赤外線吸収材料が塗布された基板を浸し当該赤外線吸収材料の表面にレーザー光を照射し、
レーザー光の照射点近傍で生じる対流によって前記ナノ粒子を当該照射点に向けて移動させ、
移動したナノ粒子同士を凝集させて環状のナノ粒子集合体を形成する、
環状のナノ粒子集合体の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子は、量子ドットである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記基板に塗布された赤外光吸収材料の層の厚さは、1nm〜10cmである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ナノ粒子同士が凝集されてなる、環状のナノ粒子集合体。
【請求項5】
前記ナノ粒子は、量子ドットである、請求項4に記載の環状のナノ粒子集合体。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図6】
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【図12−1】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−2】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−62607(P2011−62607A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213578(P2009−213578)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】