説明

環状アミンの製造方法、及びこれに使用される金属触媒の製造方法

【解決課題】 アンモニウム塩を使用することなく、環状アミンを簡便な方法で、収率よく製造することができる、環状アミンの製造方法を提供する。
【解決手段】
カルボニル基のα位の少なくとも一方の炭素が3級又は4級である環状ケトンを、水素及びアンモニアでアミノ化した、環状アミンの製造方法において、アンモニウム塩が実質上存在しない雰囲気下で、白金族の塩化物を活性炭に含浸させ、次いで、これを水素還元することにより得られた、白金族金属からなる金属触媒を用いて、前記アミノ化を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状アミンの製造方法に関し、詳しくは、簡易で収率良く環状アミンを製造する方法に関する。本発明は、さらに、この方法に使用される金属触媒及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環状アミンの一種であるアミノステロイドは、抗凝血作用、抗癌作用等の薬理効果をもつことが知れている。例えば、17β−アミノステロイドは、ホルモン依存性腫瘍に対する抗癌剤、或いは、免疫調整剤、抗不整脈剤等として有用である。下記、非特許文献1には、エストロンのオキシム体をナトリウムで還元し、17β−アミノ−1,3,5(10)−エストラトリエン−3−オールを合成する方法が開示されている。また、下記非特許文献2も存在する。
【0003】
しかしながら、この方法では、エストロンを原料とした場合には、オキシム体を生成した後還元するために、反応を段階的に進めなければならず、作業に手間を要した。そこで、この課題を解決するために、本願発明者は、下記特許文献1に記載のとおりの環状アミンの製造方法を提案した。この環状アミンの製造方法は、環状アミンを簡便な方法で、収率よく製造するためのものであり、ステロイドケトン等の環状ケトンの官能基(カルボニル基)を、金属触媒を用い、水素及びアンモニアで還元的アミノ化する方法において、白金族の金属又はその化合物を含む金属触媒とアンモニウム塩とを添加することにより副反応であるケトンのヒドロキシル化を抑制し、アミノ化合物の収率を向上させることを特徴とするものである。金属触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ルテニウム−カーボン、ロジウム−カーボン、およびパラジウム−カーボンが開示されている。
【非特許文献1】Christina Lemini, Elia Cruz-Ramos et al., "A comparative structural study of the steroid epimers: 17β-amino-1,3,5(10)-estratrien-3-ol, 17α-amino-1,3,5(10)-estratriene-3-ol, and some derivatives by 1HNMR, and X-ray diffraction analysis" Steroids, Elsevier Science Inc. (米国), 1998, vol.63, 556-564
【非特許文献2】篠澤、波多江、矢田、高木、「白金族金属触媒による5α−コレスタン−3オンの選択的還元アミノ化反応」、日本化学会第81春季年会 2002年 講演予稿集I P576
【特許文献1】PCT/JP2004/013029号の国際公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の環状アミンの製造方法には、反応終了後、生成された環状アミンには不純物としてのアンモニウム塩が含まれているために、アンモニウム塩を生成物から分離しなければならない不都合がある。また、従来の環状アミンの製造方法では、生成した環状アミンはα体、β体の異性体混合物であった。この異性体の分離は困難であるために、従来の環状アミンの製造方法では、有用なβ体を選択的に得ることが十分ではなかった。
【0005】
そこで、この発明は、アミノステロイド等の環状アミンを純粋に製造できる方法を提供する事を目的とする。本発明の他の目的は、アンモニウム塩を使用することなく、環状アミンを簡便な方法で、収率よく製造することができる、環状アミンの製造方法を提供することである。本発明のさらに他の目的は、環状アミンのβ体を選択的に製造できる方法を提供することにある。本発明の更に他の目的は、前記環状アミンの製造方法に使用される金属触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、白金族の金属化合物を還元して、既述の金属触媒を製造し、これを用いて環状ケトンをアミノ化することにより、アンモニウム塩を使用することなく、環状アミンを製造できることを見出し、その結果、第1の発明に至ったものである。
【0007】
さらに、本発明者は、環状ケトンから一反応工程で環状アミンを製造するのではなく、一旦環状イミンを形成する第1反応工程を行い、次いで、第2反応工程としてこの環状イミンを、白金族金属を含む触媒を用いて還元することにより、β体の環状アミンを優先的に製造できることを見出し、その結果、第2の発明に至ったものである。
【0008】
第1の発明は、カルボニル基のα位の少なくとも一方の炭素が3級又は4級である環状ケトンを、水素及びアンモニアでアミノ化するものであって、白金族金属化合物、特にハロゲン化物を還元して得られた金属触媒を用いて、既述の特許文献1に開示されている、アンモニウム塩を使用することなく、前記環状ケトンから環状アミンを製造することを特徴とするものである。
【0009】
この金属触媒として好適な例は、担体に白金族金属を担持させたもの、特に炭素担持白金族金属である。ハロゲン化された白金族金属化合物の好適な例は、塩化物である。ハロゲン化された白金族金属化合物を還元して得られる金属触媒の好適な形態は、ハロゲン化物をカーボンと混合し、好ましくはハロゲンイオンが存在しない雰囲気下で、これを水素還元して、炭素に担持された白金族金属である。又は、ハロゲン化物をカーボンと混合し、これを塩基性にして、白金族金属の水酸化物を形成し、これを水素還元した、炭素に担持された白金族元素である。この金属触媒の製造に係る好適な形態は、白金族金属の塩化物を溶媒に溶解し、これに活性炭などのカーボンを加え、所定時間、カーボンに白金族金属塩化物を含浸させ、その後、含浸物を乾燥させ、次いで、水素還元することである。
【0010】
好適な炭素担持白金族金属は、ルテニウム−カーボン、又は白金−カーボンである。白金族金属の二種以上金属からなる金属触媒でも良い。炭素担持白金族金属触媒中の白金族金属の含有量は、3−5重量%が好ましい。特に4%又はその付近が好ましい。この範囲内であることによって、環状ケトンを転換(環状アミンと環状アルコールへの転換)する際の転換率が高くなり、特に、4%及びその付近では、環状アミンの割合が環状アルコールに対して、特に大きくなる。
【0011】
炭素担持触媒を作る際の、白金族金属化合物を活性炭に含浸させる際の雰囲気温度は、80−85℃であることが好ましい。含浸時間としては、必要最低限の時間以上で60分以内が好ましい。これにより、炭素担持白金族金属触媒の活性(既述の転換率)を高くすることができる。炭素担持白金族金属化合物を製造する際の乾燥時間は、適宜選択される。乾燥時間を適宜決定することよって、触媒の活性が増加する。
【0012】
次に、第2の発明は、カルボニル基のα位の少なくとも一方の炭素が3級又は4級である環状ケトンを、水素及びアンモニアでアミノ化するものであって、第1の工程において、環状ケトンを前記アンモニア及びアンモニウム塩と反応させて環状イミンにし、次いで、第2の工程において、この環状イミンを白金族の金属又はその化合物を含む金属触媒の存在下、水素で還元させて、環状アミンにすることを特徴とするものである。金属触媒を第2の工程ではなく、第1の工程において添加することを妨げるものではない。
【0013】
第2の発明の他の形態は、カルボニル基のα位の少なくとも一方の炭素が3級又は4級である環状ケトンを、第1の発明に係る金属触媒存在下にアンモニアと反応させて環状イミンを生成し、次いで、この環状イミンを、水素を用いて環状アミンに還元するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、アミノステロイド等の環状アミンを純粋に製造することができる。さらに、アンモニウム塩を使用することなく、環状アミンを簡便な方法で、収率よく製造することができる。さらに、環状アミンのβ体を選択的に製造することができる。さららに、前記環状アミンの製造方法に好適な金属触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
白金族の金属とは、周期表8〜10族に属する元素のうち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及び白金(Pt)の6元素をいう。また、前記白金族の金属化合物としては、当該白金族の金属の塩酸塩、臭素酸塩、沃素酸塩等のハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられる。
【0016】
前記金属触媒は、前記白金族の金属又はその化合物を、例えば炭素、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ等の担体、特に炭素に担持した触媒であることが好ましい。これにより、出発物質の転化率を向上させることができ、また、最終的に得られるアミノ化合物の収率を向上させることができる。
【0017】
前記金属触媒は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ルテニウム−カーボン(Ru−C)、ロジウム−カーボン(Rh−C)、又はパラジウム−カーボン(Pd−C)のいずれかであることが好ましく、さらにはロジウム、パラジウム、ロジウム−カーボン、又はパラジウム−カーボンのいずれかであることが好ましく、特にパラジウム又はパラジウム−カーボンであることが好ましい。このような金属触媒を用いると、環状アミンの収率がより高くなる傾向にある。また、炭素に担持した金属触媒を用いた場合には、出発原料の転化率が向上する傾向にあるので好ましい。また、β体の選択率が高くなる、すなわち、β体の収率が高くなるという観点からは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金及びパラジウム−カーボンが好ましく、さらにはパラジウム、白金及びパラジウム−カーボンが好ましく、特に白金が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法は、ステロイドケトンのアミノ化によるアミノステロイドの製造に好適に用いられ、特に、C−17位がカルボニル基(ケトン基)であるステロイドケトン、具体的には例えばエストロンのアミノ化に好適に用いられる。
【0019】
前記金属触媒の添加量が、添加される白金族の金属又はその化合物の量が前記環状ケトンに対して5重量%以上、好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは15〜20重量%となるよう定められる量であることが望ましい。
【0020】
例えば、前記金属触媒が白金族の金属又はその化合物を炭素等の担体に5%担持した触媒である場合には、当該金属触媒の添加量は、前記環状ケトンに対して100重量%以上、好ましくは100〜400重量%、さらに好ましくは300〜400重量%となる。
【0021】
金属触媒の添加量が上記下限値を下回ると、反応速度が遅延する傾向にある。また、上記上限値を超えても、触媒による効果は変わらないので、コスト的観点から上記範囲内にあることが望ましい。 前記アンモニウム塩の添加量が、前記環状ケトンに対して30重量%以上であることが好ましい。
【0022】
反応温度は、例えば30〜100℃、好ましくは50〜70℃、特に好ましくは60〜70℃である。 また、反応を2〜8MPa、特に4〜6MPaの圧力下で行うことが好ましい。

本発明で用いられる環状ケトンとしては、例えば、カルボニル基のα位の少なくとも一の水素が置換された環状ケトン、すなわち、カルボニル基の少なくとも一方の隣接炭素(α位の炭素)が3級又は4級炭素である環状ケトンが挙げられる。より具体的にはカルボニル基のα位の少なくとも一の水素が置換されたステロイド骨格を有する脂環式ケトン(ステロイドケトン)が挙げられる。ここで、ステロイド骨格とは、ペルヒドロシクロペンタフェナントレン骨格をいう。また、α位の水素を置換する置換基としては、特に限定するものではないが、例えば、アルキル基(例:メチル基)が挙げられる。なお、ステロイド骨格中のA〜D環は不飽和結合を有していてもよい。本発明の製造方法は、特にC−17位がカルボニル基(ケトン基)であるステロイドケトン、具体的には、例えば下記式(I)で表されるエストロンに好適に用いられる。
【0023】
【化1】

【0024】
担体に担持された金属触媒において、金属触媒中の金属又は金属化合物の含有量は、0.1〜10%、特に3−5重量%が望ましい。具体的には、5%ルテニウム−カーボン(5%Ru−C)、5%ロジウム−カーボン(5%Rh−C)、及び5%パラジウム−カーボン(5%Pd−C)が好ましい。さらに好ましくは、4%であり、4%Ru−C、又は4%Pt−Cである。
【0025】
本発明に用いられるアンモニウム塩としては、例えば、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、酢酸アンモニウム、及び硫酸アンモニウム等が挙げられる。このような中でも、ハロゲン化アンモニウムが好ましく、特に、塩化アンモニウムが好ましい。
【0026】
また、アンモニウム塩の添加量は、環状ケトンに対して、30重量%以上であることが好ましい。アンモニウム塩の添加量が、上記範囲にあると、アミノ化反応が効率よく促進される傾向にある。
【0027】
本発明においては、アミノ化反応にアンモニアが用いられるが、アンモニアの使用量は、原料の環状ケトン(例:ステロイドケトン)1モルに対して、1モル以上、好ましくは10モル以上、更に好ましくは50モル以上であることが望ましい。
【0028】
また、還元的アミノ化時の反応温度は、30〜100℃、さらに50〜70℃、特に60〜70℃であることが好ましい。反応温度が、上記範囲にあると、副反応が起こらず環状アミン(ステロイドアミン)の収率が高くなる傾向にある。
【0029】
また、水素圧としては、2〜8MPa、特に4〜6MPaで行うことが好ましい。反応圧力が、上記範囲にあると、副反応が起こらず、環状アミン(ステロイドアミン)の収率が高くなる傾向にある。
【0030】
本発明で用いられる反応溶媒としては、特に限定するものではないが、アンモニア、環状ケトン、及びアンモニウム塩をよく溶解する溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの極性溶媒が好適に用いられる。溶媒の量は、特に限定するものではないが、通常、環状ケトンの量の1〜1000倍、好ましくは10〜500倍である。
【0031】
アンモニウム塩の添加順序は特に限定されず、環状ケトンが含まれている反応系に対し、金属触媒とほぼ同時に添加してもよい。また、金属触媒を添加する前に予めアンモニウム塩を添加し、その後に金属触媒を添加してもよい。
【0032】
次に、本発明の予想されるメカニズムについて説明する。なお、本発明はかかる説明に限定されるものではない。 金属触媒と水素とアンモニアを用いたケトンのアミノ化反応では、一般に以下のSchemeにより反応が進むと考えられている。
【0033】
【化2】

【0034】
上記Schemeに示されるように、水素と金属触媒とアンモニアを用いた還元アミノ化反応では、ケトンのアルコール化とイミノ化の競争反応が起きる。既述の特許文献1に記載の製法よれば、アンモニウム塩を添加することにより、反応中間体であるイミンの形成が容易となり、イミンの形成が促進される。また、その後のイミンのアミノ化反応は迅速に進むので、副生成物であるアルコール(IV)の発生が抑えられ、これにより、主生成物であるアミン(III)の発生が促進されるものと考えられる。
【0035】
しかしながら、これでは、反応生成物からアンモニウム塩を除く必要がある。既述の第1の発明に係る金属触媒を用いることによってアンモニウム塩を用いることなく、出発物質であるケトンから目的物質であるアミンを得ることができる。
【0036】
第2の発明では、非還元下、例えば窒素ガス雰囲気下で、アンモニア及びアンモニウム塩をケトンと反応させて一旦イミンを形成する(第1反応工程)。次いで、イミンに金属触媒を加え、イミンを水素ガスで還元すると(第2反応工程)、β体のアミンがα体のアミンに対して優位に、或いはβ対のアミンがα体のアミンに対して選択的に生成される。金属触媒は第1反応の反応系に加えることもできるが、α体のアミンが生成し易くなる。前記第1発明に係る金属触媒を第1の反応系に加えることができ、その場合にはアンモニウム塩を使用することなく、第1反応を進めることができる。
【0037】
実施例1
第1の発明に係る金属触媒の製造について説明する。
(1)触媒例1
Ru 4 [ 5%Ru/C]
塩化ルテニウム(RuCl3)102 mg(Ru含有量=50 mg)を蒸留水140 mlに溶解させる。溶解後、活性炭(Norit"SX Plus")950 mgを加え、2時間室温で活性炭に塩化ルテニウムを含浸し攪拌する。次に、この水溶液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固して、その後110℃の乾燥器で一昼夜乾燥する。最後に乾燥した粉末の約1 gを、スキタ・パール中圧還元装置を用いて、蒸留水50 ml中で2時間水素還元する。
【0038】
【化3】

【0039】
(2) 触媒例2
Ru 5 [5%Ru/C]
塩化ルテニウム(RuCl3)102 mg(Ru含有量=50 mg)を蒸留水140 mlに溶解させる。溶解後、活性炭950 mgを加え、2時間室温で活性炭に塩化ルテニウムを含浸し攪拌する。次に、80-85℃の湯浴上で水溶液を加熱する。温度を80-85℃に保ち、マグネチックスターラーで攪拌しながら10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH7.5-8.0にすると水酸化ルテニウムが活性炭上に沈着する。この懸濁溶液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固して、その後110℃の乾燥機で一昼夜乾燥する。最後に乾燥した粉末の約1 gをスキタ・パール中圧還元装置を用いて、蒸留水50 ml中で2時間水素還元する。
【0040】
【化4】

【0041】
(3)触媒例3
Ru 6 [5%Ru/C]
塩化ルテニウム(RuCl3)102 mg(Ru含有量=50 mg)を蒸留水140 mlに溶解し、マグネチックスターラーで攪拌しながら10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH7.5-8.0にすると水酸化ルテニウムの沈殿が得られる。このまま一昼夜室温で放置する。次に活性炭950 mgを加え、2時間室温で攪拌する。この懸濁溶液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固して、その後110℃の乾燥器で一昼夜乾燥する。最後に乾燥した粉末の約1 gをスキタ・パール中圧還元装置を用いて、蒸留水50 ml中で2時間水素還元する。
【0042】
【化5】

【0043】
(4)触媒例4
Ru 7 [5%Ru/C]
塩化ルテニウム(RuCl3)102 mg(Ru含有量=50 mg)を0.1Nの塩酸34 mlに溶解させる。この水溶液を、0.1Nの塩酸95 mlにあらかじめ含浸した活性炭950 mgに加えて、室温で1昼夜放置する。次に蒸留水で濾過洗浄し、洗浄液がpH約5.0になるまで洗い、真空乾燥する。最後に乾燥した粉末の約1 gをスキタ・パール中圧還元装置を用いて、蒸留水50 ml中で2時間水素還元する。
【0044】
【化6】

【0045】
(5)触媒例5
Pt 4 [4%Pt/C]
塩化白金(PtCl2)102 mg(Pt含有量=40 mg)を蒸留水140 mlに懸濁させた後、活性炭960 mgを加え、2時間室温で含浸し、攪拌する。次に、この懸濁溶液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固して、その後110℃の乾燥器で一昼夜乾燥する。最後に乾燥した粉末の約1 gをスキタ・パール中圧還元装置を用いて、蒸留水50 ml中で2時間水素還元する。
【0046】
【化7】

【0047】
実施例2
実施例1によって製造された金属触媒を用いて、還元アミノ化の製造を行った。この製造の内容は、次のとおりである。
【0048】
アンモニア約1.0g(6.0×10-2mol)を溶かし込んだエタノール20ml、エストロン(I)(和光純薬(株)社製)0.054g(2.0×10-4mol)、例1−5の金属触媒10mg(9.9×10-5mol)を電磁回転式オートクレーブ(日東高圧社製、Start200 Quick)に装入し、水素ガス圧6.0MPa、反応温度70℃で5時間反応を行った。得られた粗生成物を、ガスクロマトグラフィー(以下、GCともいう)で測定した。
【0049】
この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム:メタノール=5:4:1)により精製して標的物質等の収率を求めた。化合物(III)の確認は、1H−NMR 270MHz(C66−DMSO、標準物質 TMS)及び融点により行った。下記反応において、標的化合物(III)の融点は228〜230℃であった。反応の結果得られた化合物のα体とβ体とをそれぞれ区別して確認した。
【0050】
【化8】

【0051】
結果
触媒例1−5について、環状アミンを製造した結果を表示1に纏めた。表において、反応の結果物を次のように定義する。
1:標的物質である環状アミンIII(但し、β-NH2
2:標的物質である環状アミンIII(但し、α-NH2
3:副生物である環状アルコールIV(但し、β-OH )
4:副生物質である環状アルコールIV(但し、α-OH )
5:Imine(II):イミン
6:Others:上記以外のもの
表中の数値は、各化合物の重量%である。転嫁率は(1+2+3+4)を合計した値である。選択率は、(1+2/3+4)に相当する値である。転換率は、出発化合物(I)が、アミン及びアルコールに転換された割合を示し、選択率は転換体に対するアミンの割合を示す。
表中の「Additive:NH4Cl」はNH4Clを添加したことを示している。
【0052】
【表1】

【0053】
一般に、カルボニル化合物とアミノ化合物との脱水縮合反応で生成するイミン化合物の生成速度は、水素イオン濃度に関係し、反応基質によるが水素イオン濃度(pH)が3‐4で容易に進行するといわれている。特許文献1に記載の方法では、NH4Clの添加が、ケトンとアンモニアの脱水縮合反応を促進し、中間体イミンの形成を容易にすることで第一級アミンが生成しやすくなったことを、本願発明者は明らかにした。さらに、本願発明者は、NH4Clの他にも酢酸アンモニウム等について検討した。しかしその効果はNH4Clよりも小さいことから、微量の塩化物(ハロゲン化物)が環状アミンを製造する際の選択性に関与しているのではないかと考えた。
そこで、塩化物が微量残存している、触媒例1(Ru4)、Ru4よりもさらに残存塩化物の量が増大する触媒例4(Ru7)、Ru4やRu7と比較するために塩化物を完全に除去する目的で調製した触媒例2,3(Ru5, Ru6)をそれぞれ作成した。
これらのRu/Cはいずれも最後にろ液が中性になるまでよく洗浄し、デシケーター中で乾燥させたものをエストロンの還元アミノ化反応に用い、その反応性を比較した。すると、同一成分から成るRu/Cでも、調製条件によりRu/Cの触媒活性や生成物の選択性は全く違っていた。これらRu/Cの残存クロライドの量について関係を整理すると、図1に示すような曲線が得られた。Ru5やRu6のように残存する塩化物を極力除去するような調製法ではアミン/アルコール選択性は低くなるが、しかしRu7のように残存塩化物の量が増大しすぎると、中間体イミン生成を促進するまでは良いが水素化は阻害されてしまう。
ゆえに、触媒表面に残存する塩化物の量的バランスがアミン選択性の向上において重要なファクターである。またRu4でアミン選択性が向上したのは、残存する塩化物と反応系中のアンモニアとによって、触媒表面で微量の塩化アンモニウムが形成されたことに関係すると考えられる(図2参照)。このように、独自に調製した触媒上でのエストロンの還元アミノ化反応では、市販品の5%Ru/C(表1のRun1)にNH4Clを添加した反応系の場合(表1のRun2)よりもアルコールの生成が抑えられ、第一級アミン生成への選択性を高めることができた(表1のRun3)。
それぞれ調製した触媒上でのアミンとアルコールの合計生成量を比較すると、最も触媒の活性が高かったのは水酸化物より調製した触媒(Ru5, 6)の97%で、次に、塩化物より調製した触媒(Ru4)の52%、続いて塩酸水溶液中で調製した触媒(Ru7)の2%だった。このことから、触媒の活性は、含浸溶液中の塩化物(塩素イオン)の濃度が関係していると考えられる。すなわち塩基性溶液中で含浸させると、金属の吸着力が強く、活性炭に対して金属粒子の分散が良好であると考えられる。

実施例3:耐久試験
次に、一度反応に使用した触媒を繰り返し反応に使用しても選択性が維持されるかどうか触媒例1(Ru4)で検討した。不均一系触媒では触媒の寿命も重要であり、一度使用しただけで選択性が激減するようでは工業的見地から触媒調製が成功したとは言い難い。そこで反応に用いた触媒を繰り返し使用して、触媒の活性および選択性が維持されるかどうかをRu4で調製した触媒上で検討した。すると、回数を重ねるたびに触媒活性は少しずつ低下する傾向が見られたが、選択性が大きく変化するということは見受けられなかった(表2)。従って、選択性支配成分が系中に溶け出しているとは考えにくく、触媒表面上で選択性をコントロールしていると考えられる。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例4:含浸過程における変化
Ru4の調製方法で、金属塩化物を活性炭に含浸させる際の温度について検討した。含浸温度を室温から80−85℃に高くすると選択性が変化せずに触媒活性を上げることができた(表3のRun2, 3)。これは、塩化ルテニウムの分散が良くなり、活性炭の穴の奥まで塩化ルテニウム均等に高分散できたことによると思われる。
【0056】
次に、含浸時間を変化させた場合、時間が延びるにつれ触媒活性が低下していき、水素化が起こりにくくなっていった。60分含浸を行った場合第一級アミンとアルコールは72%得られたが、240分含浸を行った場合ではわずか13%しか得られなかった。しかしアミン/アルコール生成の選択性は、3.0−3.8で含浸時間による大きな変化は見受けられなかった(表3)。
【0057】
含浸時間と触媒活性、および選択性との関係は、炭素担持触媒中への水分の含有量の増加が関係していると考えられる。触媒中への水の含有量によって、イミンからアミンへの水素化が抑制されると共に、イミンから原料ケトンへの逆の反応が促進され、触媒活性が低下した原因となったと思われる。これらの結果から、活性炭に対する水の吸着は触媒の吸着よりも容易に起こっているものと考えられる。さらに、調製した触媒の乾燥が、反応性や選択性に大きな要因となっている。
【0058】
【表3】

【0059】
実施例5:乾燥過程における変化
Ru4の調製法で表3のRun2の条件を基準にして、触媒調製時の乾燥過程について条件を検討した。含浸後、110℃の乾燥器内で乾燥時間を1日から3日に延ばすと転化率が53%から88%へ向上し触媒の活性が高くなり、またそれと同時に第一級アミン/アルコール選択性は大きく向上した(表4のRun1の約3倍)。これは、触媒中に混有する水分の除去に反応性が関係するものと考えられる。蒸発により細孔内の含浸液量が減少すると毛管現象により内部の液が蒸発界面の方へ移動する。蒸発は活性炭の外層部の大きい細孔から優先して起こるので、そこでは活性成分の濃度が増加し過飽和状態となり、ついには活性成分の析出が起こる。その際、乾燥過程で活性成分が担体表面を拡散して再分散したものと考えられる(図3)。
しかし、乾燥時間を5日、9日とさらに延ばすと触媒の活性は若干低下の傾向が見られ、アミン/アルコール生成の選択性は表4のRun1の結果と同じになった。おそらく、触媒中に微量存在する塩化物イオンが塩酸として触媒から脱離したことと関係すると考えられ、触媒中の塩化物がこの操作で制限されたと思われる。また、一般に、含浸過程において触媒活性成分化合物が担体に全く吸着しないか、あるいは吸着が弱い場合、担体上の活性成分の分布は乾燥時に大きく変化する。Ru4触媒の場合、アミン/アルコール生成の選択性に関して、含浸過程ではあまり変化が見られず、乾燥過程で大きく変化した。このことから、Ru4触媒は活性炭に対するRu金属の吸着は弱いと考えられる。
【0060】
【表4】

【0061】
実施例6:担体に対する金属量との関係
Ru4の調製法で表4のRun2の調製条件を基準にして、担体(活性炭)に対する金属ルテニウムの量について検討した。活性炭担体に対する金属量を5%、10%と増やしていくと触媒活性も選択性も低下していった(表6)。触媒活性の低下は金属の凝集が起こったために、金属の表面積が減少したことによるものと考えられる。また、選択性の低下は塩化ルテニウムに含まれる塩化物の量が金属の%により微量変化したことによるものではないかと考えられる。
以上から選択性を支配する因子は、触媒中に残存する水分の量と塩化物イオンの量との関係、またそれらの量的バランスである。また、Ru/Cの中で第一級アミンを生成するのに最も有効だったのは、Ru4の調製法で調製した表5のRun3の時で88%だった。この触媒は、同一成分から成る市販のRu/Cよりも圧倒的に第一級アミンを生成し、塩化アンモニウムを添加しなくとも市販のPd/Cに匹敵する結果が得られた。
【0062】
【表5】

【0063】
実施例7:Pt/Cの調製
特許文献1に記載のように、5%Ru/C, 5%Rh/C, 5%Pd/C触媒上ではNH4Clの添加により第一級アミンへの選択性が向上したが、5%Pt/C触媒上ではNH4Clの添加効果が見受けられなかった。そこで、第一級アミンへの選択性が最も向上した表5のRun3で使用した4%Ru/Cの調製条件に従って、4%Pt/C(Pt4)を新たに調製した。これまで塩化アンモニウムを添加しても、第一級アミンへの選択性に全く変化が見られなかった市販の5%Pt/C触媒上でも、第一級アミンへの選択性が約20倍、向上することを見出した(表6)。
【0064】
【表6】

【0065】
次に本願の第2の発明に係る実施例について説明する。
【0066】
実施例8
アンモニア約1.0g(6.0×10-2mol)を溶かし込んだエタノール20ml、エストロン(I)(和光純薬(株)社製)0.054g(2.0×10-4mol)及び塩化アンモニウム(NH4Cl)0.20g(3.7×10-3mol)を窒素ガス雰囲気(7Mpa)中電磁回転式オートクレーブ(日東高圧社製、Start200 Quick)に装入し、反応温度70℃で5時間反応を行った。冷却後、窒素ガスをオートクレーブより除き、オートクレーブの蓋を開け、白金単体(ブラック)触媒を9.9×10-5molを入れ、水素(7MPa)をオートクレーブに供給する。得られた粗生成物を、ガスクロマトグラフィー(以下、GCともいう)で測定した。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム:メタノール=5:4:1)により精製したところ標的物質である環状アミンIIIの確認は、1H−NMR 270MHz(C66−DMSO、標準物質 TMS)により行った。さらに、Pd触媒、Pt−C触媒についても同様な反応を行った。
測定結果を表7に示す。表7において、step1が窒素ガス雰囲気下で行われる第1の反応工程であり、step2が水素ガス雰囲気下で行われる第2の反応工程である。
【0067】
【表7】

【0068】
表7に示されるように、いずれの場合にも、高い転換率が得られたばかりでなく、βアミンの生成に高い選択性があることが確認された。全部の工程を一つのステップで行った場合、触媒が白金単体であると転換率が70%になるものの、β−NH2体が36%生成されたのに対して、β−OH体が34%生成されたものであった。触媒がパラジウムであると、β−NH2体が選択的に形成されたが、転換率が23%と低い値であった。

実施例9
触媒をstep1に入れた以外は、実施例8と同様に行った。結果を表8に示す。
【0069】
【表8】

【0070】
一段階目のイミンを生成する段階で、先にPt触媒または5%Pt-C触媒を入れて反応させ、その後、窒素ガスを水素ガスに変えて反応させると、5%Pt-C触媒では、ガスクロの検出条件によっては、α一アミンの生成は見られなかったが、ガスクロの条件を変えると、約10%のα一アミンの生成が見られた。また、Pt単体(ブラック)触媒では、反応が複雑で生成物の種類が多く、反応が複雑になった。結局のところ、イミンを先に生成させ、その後Pt触媒を入れて、水素化すると高選択的に高収率でβ-アミンが得られ。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】触媒表面に残存する塩化物量と選択性との特性図。
【図2】ルテニウム触媒の表面モデル図。
【図3】活性炭細孔構造のモデル図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル基のα位の少なくとも一方の炭素が3級又は4級である環状ケトンを、水素及びアンモニアでアミノ化した、環状アミンの製造方法において、
アンモニウム塩が実質上存在しない雰囲気下で、
白金族の金属化合物を還元することにより得られた、白金族金属からなる金属触媒を用いて、
前記アミノ化を行うようにした環状アミンの製造方法。
【請求項2】
前記白金族の金属化合物がハロゲン化物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属触媒が担体に担持した白金族金属である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記金属触媒が、白金族金属のハロゲン化物を担体に担持させる第1工程と、当該担体に担持された白金族金属のハロゲン化物を水素還元する、第2工程と、により得られる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記金属触媒の製造が、ハロゲンイオンが実質上存在しない雰囲気で行なわれる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記還元は水素によって行われる請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記担体がカーボンである請求項3記載の方法。
【請求項8】
前記金属触媒が、炭素担持ルテニウム又は炭素担持白金である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記白金族金属の金属化合物から、当該白金族金属の塩基性塩を生成し、この塩基性塩を還元することにより、前記金属触媒を生成するようにした、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記白金族金属化合物を溶媒に溶解し、これにカーボンを加え、所定時間当該カーボンに前記白金族金属化合部を含浸させ、次いでこれを所定温度で所定時間乾燥させ、水素還元することにより、前記金属触媒を生成するようにした、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記金属触媒中の白金族金属の含有量が、3−5重量%、特に約4重量%である、請求項3記載の方法。
【請求項12】
前記白金族金属化合物をカーボンに含浸させる際の雰囲気温度が、80−85℃である請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記白金族金属化合物をカーボンに含浸することは60分以内で行われる、請求項10又は12記載の方法。
【請求項14】
ハロゲンイオンが実質上存在しない雰囲気で、白金族金属のハロゲン化物を、カーボンに担持させ、次いで、還元してなる、炭素担持白金族金属触媒の製造方法。
【請求項15】
塩素イオンが実質上存在しない雰囲気で、白金族金属の塩化物を、カーボンに担持させ、次いで、これを水素還元してなる、炭素担持白金族金属触媒の製造方法。
【請求項16】
白金族金属のハロゲン化物を、カーボンに担持させた後、塩基性雰囲気下前記白金族金属の水酸化塩を生成させ、次いで、これを還元するようにした、炭素担持白金族金属触媒の製造方法。
【請求項17】
カルボニル基のα位の少なくとも一方の炭素が3級又は4級である環状ケトンを、水素及びアンモニアでアミノ化する環状アミンの製造方法であって、前記環状ケトンを非還元雰囲気下で前記アンモニア及びアンモニウム塩と反応させて環状イミンを形成させる第1工程と、次いで、この環状イミンを白金族の金属又はその化合物を含む金属触媒の存在下前記水素で環状アミンに還元する第2工程と、を備える環状アミンの製造方法。
【請求項18】
前記金属触媒を前記第2工程ではなく、前記第1工程に用いてなる請求項17記載の方法。
【請求項19】
カルボニル基のα位の少なくとも一方の炭素が3級又は4級である環状ケトンを、水素及びアンモニアでアミノ化する環状アミンの製造方法であって、
前記環状ケトンを、非還元雰囲気下で前記アンモニア及び請求項1乃至14の何れか1項記載の金属触媒と反応させて環状イミンを形成させ、次いで、この環状イミンを前記水素で還元するようにした環状アミンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−31360(P2007−31360A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217692(P2005−217692)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】