説明

環状オレフィン系付加共重合体、その製造方法およびその用途

【解決手段】本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、炭素数6のアルキル基を置換基として有する環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位(1)と、炭素数7〜12のアルキル基を置換基として有する環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位(2)とを有し、必要に応じてその他の環状オレフィン系化合物から導かれる構造単位(3)を有する。
【効果】本発明によれば、溶融成形加工性、透明性および耐熱性に優れ、吸水性および誘電率が低く、金属含有量が少なく、光学フィルムなど光学部品用途に好適に使用できる環状オレフィン系付加共重合体、ならびに該付加共重合体を、少ない触媒使用量で、高収率で製造できる環状オレフィン系付加共重合体の製造方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系付加共重合体、その製造方法およびその用途に関する。詳しくは、本発明は、アルキル置換基を有する環状オレフィン系化合物と、特定の環状オレフィン系化合物とを付加共重合することにより得られ、優れた透明性、耐熱性、溶融成形加工性、低吸水性、低誘電率などの特性を示し、光学フィルムなどの用途に好適な環状オレフィン系付加共重合体、その製造方法、ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ、バックライト、導光板および光学フィルムなどの光学材料には、優れた透明性が要求されることはもちろんであるが、その他にも耐熱性、低吸水性、低誘電率、柔軟性および強靭性などの要求が高まってきている。
【0003】
光学材料用途に用いられる透明樹脂としては、たとえば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂などが知られているが、これらの樹脂では耐熱性、吸水性および透明性などの特性が充分ではなかった。
【0004】
一方、透明性と耐熱性とに優れた樹脂として、環状オレフィン系化合物の開環重合体の水素添加物または付加重合体が数多く提案されている。これらの重合体は主鎖が脂環式炭化水素によって構成されているため、芳香族系樹脂と比較して短波長領域での吸収が小さいことからも有用である。
【0005】
環状オレフィン系開環重合体およびその水素添加物は、レンズおよび光ディスクなどを製造するための光学材料として多数提案されており(たとえば、特許文献1〜6参照)、これらに開示された環状オレフィン系開環(共)重合体およびその水素添加物は、耐熱性に優れ、吸水(湿)性が低く、透明性などの光学特性にも優れ、また射出成形などの成形性にも優れている。また、分子内に極性基を導入した環状オレフィン系単量体の開環重合体およびその水素添加物も提案されており(たとえば、特許文献7〜8参照)、耐熱性、光学特性、成形性および他素材との親和性に優れ、また接着などの後加工性にも優れたものであることが分かっている。しかしながら、環状オレフィン系開環重合体は重合反応後の主鎖に二重結合が存在するため、耐熱劣化性を向上するには水素添加工程が必要であり、工業的生産性および経済性の点で問題がある。
【0006】
一方、環状オレフィン化合物を付加重合することで、耐熱性および透明性に優れた樹脂が得られることが知られている。また重合反応後の主鎖に二重結合が存在しないため、耐熱劣化性に優れ、また、水素添加も不要であることから工業的生産性や経済性にも優れている。環状オレフィン化合物の付加重合体としては、環状オレフィン系化合物とα−オレフィンとの付加共重合体が数多く報告されている(たとえば、特許文献9〜10参照)。しかし、それらの共重合体においてはエチレンなどのα−オレフィンに由来する構造単位の連鎖が結晶化する場合があり、透明性が低下するなど、光学材料として用いるには必ずしも充分ではない。また、環状オレフィンとα−オレフィンとの重合反応性の差が大きいため共重合体の組成に分布が生じ、透明性が低下する場合がある。
【0007】
一方、環状オレフィン系化合物に由来する構造単位のみから形成される環状オレフィン系付加重合体は、チタニウム触媒、ジルコニウム触媒、コバルト触媒、ニッケル触媒およびパラジウム触媒などを用いて製造でき、非常に優れた耐熱性および透明性を示す樹脂として知られている。ここで、用いる触媒の選択により生成する重合体の立体規則性(アタ
クティック/erythro−ジシンジオタクティック/erythro−ジアイソタクティックなど)や付加重合の様式(2,3位での付加および2,7位での付加)、分子量の制御性などが異なることがこれまでに知られている。たとえば、ジルコニウム系メタロセン触媒を用いて重合されたノルボルネン重合体は不融で、一般的な溶媒に対し不溶であることが報告されている(非特許文献1参照)。また、ニッケル系触媒を用いて重合されたノルボルネンの付加重合体はシクロヘキサンなどの炭化水素溶媒に対して良好な溶解性を示すが(特許文献11参照)、機械強度に劣り、脆いことが報告されている(特許文献12参照)。
【0008】
それに対し、パラジウム化合物を含む特定の触媒を用いることで、高い重合活性を示すとともに優れた透明性、耐熱性および機械的強度を有する環状オレフィン系付加重合体を製造できることが報告されている(特許文献12〜14参照)。また、特許文献15には、加水分解性シリル基含有環状オレフィンを有し、パラジウム化合物を含む触媒を用いて得られる環状オレフィン共重合体が優れた耐熱性および寸法安定性を示すことが開示されている。しかしながら、これらに記載された付加重合体は非常に高い耐熱性を示す反面、熱溶融成形が不可能であり、成形方法は溶液流延法(キャスト法)に限定される。キャスト法は多量の溶媒を用いる上、その溶媒の除去および回収工程が必要であるため、設備が大型化し、生産性が低く高コストであるなどの工業的な問題がある。
【0009】
このため、環状オレフィン系付加重合体を溶融成形可能とすべく、ガラス転移温度を低下させる方法が検討されており、その手法として、アルキル置換基を有する環状オレフィン化合物を単量体として用いることが提案されている。たとえば、特許文献16には、5−ヘキシル−2−ノルボルネンを用いた付加型共重合体が記載されている。また、特許文献11および非特許文献2には、長鎖アルキル基を有するノルボルネンを単量体として用い、その鎖長や割合によって付加共重合体のガラス転移温度をコントロールできることが記載されている。しかしこれらの先行技術には、得られる成形体の機械強度に対する重合触媒の影響は記載されていない。また、これらの方法において用いられている重合触媒は、その活性において満足のいくものではなく、反応後に残留する未反応単量体や触媒を除去する工程を必要とする。
【0010】
さらには、長鎖アルキル基を有する環状オレフィンは、ノルボルネンと比較して重合反応性が低いため、両者の共重合の際に共重合体の組成に分布が生じるが、前記特許文献11、特許文献16および非特許文献2は、単量体の反応性の差や組成分布については言及していない。転化率が高いと、組成分布が顕著となり、得られる成形体の透明性および強度が損なわれることがあるため、高転化率および高透明性の両立が課題となる。すなわち、経済性および生産性に優れ、良好な耐熱性および溶融成形加工性を示し、高転化率および高透明性を有する環状オレフィン共重合体の製造方法が望まれている。本発明者らは、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンと炭素数5〜12の5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンとのパラジウム触媒による付加重合体を提案している(特許文献17参照)。この付加重合体は、高転化率ならびに優れた溶融成形性、透明性、低吸水性および低誘電性率を併せもつ、光学フィルムなどの用途に好適な新規な環状オレフィン系付加共重合体であるが、必ずしも伸び(柔軟性)と強度(破断エネルギー)とのバランスが充分であるとはいえなかった。
【特許文献1】特開昭63−21878号公報
【特許文献2】特開平1−138257号公報
【特許文献3】特開平1−168725号公報
【特許文献4】特開平2−102221号公報
【特許文献5】特開平2−133413号公報
【特許文献6】特開平4−170425号公報
【特許文献7】特開昭50−111200号公報
【特許文献8】特開平1−132626号公報
【特許文献9】特開昭61−292601号公報
【特許文献10】米国特許第2,883,372号明細書
【特許文献11】特表平9−508649号公報
【特許文献12】特開2006−52347号公報
【特許文献13】特開2005−162990号公報
【特許文献14】特開2005−213435号公報
【特許文献15】特開2005−48060号公報
【特許文献16】特開平8−198919
【特許文献17】特願2006−188051
【非特許文献1】Makromol. Chem. Macromol. Symp., Vol.47, 831 (1991)
【非特許文献2】Proc. Am. Chem. Soc. Div. Polym. Mater.: Sci. Eng. Vol. 75, 56 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、溶融成形加工性ならびに優れた透明性、耐熱性、溶融成形加工性、低吸水性および低誘電率などの特性を示し、伸び、特にフィルムの強さの指標である破断エネルギーが非常に大きい、光学フィルムなどの用途に好適な、環状オレフィン系付加共重合体と、該付加共重合体を高い生産性で製造する方法とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を有することを特徴とする。
【0013】
【化1】

(式(1)中、A1,A2,A3,A4のうちのいずれか1つは炭素数が6のアルキル基であり
、その他はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかである。pは0〜5の整数を示す。)
【0014】
【化2】

(式(2)中、B1,B2,B3,B4のうちいずれか1つは炭素数が7〜12のアルキル基で
あり、その他はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかである。qは0〜5の整数を示す。)。
【0015】
前記構造単位(1)と前記構造単位(2)とのモル比(構造単位(1)/構造単位(2))は、10/90〜90/10であり、構造単位(1)と構造単位(2)との合計は、全構造単位中に80〜100モル%の量であることが好ましい。
【0016】
さらに下記式(3)で表される構造単位(3)が、全構造単位中に20モル%以下の量で含まれることが好ましい。
【0017】
【化3】

(式(3)中、C1〜C4は、それぞれ独立に、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、酸無水物基、オキセタニル基および加水分解性シリル基よりなる群から選ばれる官能基;水素原子;メチル基;ならびにハロゲン原子から選ばれる原子もしくは基を表す。rは0〜5の整数を示す。)。
【0018】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体の軟化点は80〜210℃であり、数平均分子量は20,000〜200,000であることが好ましい。
本発明の環状オレフィンの製造方法は、下記式(1m)で表される単量体(1m)と、下記式(2m)で表される単量体(2m)と、必要に応じて下記式(3m)で表される単量体(3m)とを含有し、
単量体(1m)と単量体(2m)とのモル比(単量体(1m)/単量体(2m))が10/90〜90/10を満たし、かつ、
単量体(1m)と単量体(2m)との合計が、全単量体中に80〜100モル%の量である単量体組成物を、
下記(a)、(b)および(d)を用いて得られる触媒、あるいは、下記(c)および(d)を用いて得られる触媒の存在下で付加共重合することを特徴とする。
【0019】
【化4】

(式(1m)中、A1,A2,A3,A4のうちのいずれか1つは炭素数が6のアルキル基であ
り、その他はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかである。pは0〜5の整数を示す。)
【0020】
【化5】

(式(2m)中、B1,B2,B3,B4のうちいずれか1つは炭素数が7〜12のアルキル基
であり、その他はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかである。qは0〜5の整数を示す。)
【0021】
【化6】

(式(3m)中、C1〜C4は、それぞれ独立に、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、酸無水物基、オキセタニル基および加水分解性シリル基よりなる群から選ばれる官能基;水素原子;メチル基;ならびにハロゲン原子から選ばれる原子もしくは基を表す。rは0〜5の整数を表す。)、
(a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物;
(b)下記式(b)で表されるホスフィン化合物;
P(R12(R2) …(b)
(式(b)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基またはイソプロピル基から
選ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。)
(c)下記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体;
Pd[P(R12(R2)]n2 …(c)
(式(c)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基およびイソプロピル基より選
ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。Xは有機酸アニオンま
たはβ−ジケトネートアニオンである。nは1または2である。]
(d)イオン性のホウ素化合物。
【0022】
本発明の光学フィルムは、前記環状オレフィン系付加共重合体から、溶液流延法(キャスト法)により形成されることを特徴とする。
本発明の光学フィルムは、環状オレフィン系付加共重合体から、溶融成形法により形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、溶融成形加工性、透明性、耐熱性に優れ、吸水性および誘電率が低く、金属含有量が少なく、光学フィルムなど光学部品用途に好適に使用できる新規な環状オレフィン系付加共重合体を提供することができる。また、本発明によれば、このような新規な環状オレフィン系付加共重合体を、少ない触媒使用量で、高収率で製造できる環状オレフィン系付加共重合体の製造方法を提供することができる。さらに本発明によれば、新規な環状オレフィン系付加共重合体から得られ、透明性、耐熱性に優れ、吸水性および誘電率が低く、金属含有量が少なく、柔軟性および強靭性にも優れた光学フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について具体的に説明する。
〔環状オレフィン系付加共重合体〕
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、炭素数6のアルキル基を置換基として有する前記式(1)で表される構造単位(1)と、炭素数7〜12のアルキル基を置換基として有する前記式(2)で表される構造単位(2)とを有し、必要に応じて前記式(3)で表される構造単位(3)を有する。本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、構造単位(1)、構造単位(2)および必要に応じて有する構造単位(3)のみから構成されるのが好ましい。
【0025】
以下に、本発明の環状オレフィン系付加共重合体を構成する単量体について述べる。
<単量体組成物>
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、上記単量体(1m)と、単量体(2m)と、必要に応じて単量体(3m)とを含む単量体組成物を、付加共重合して得ることができる。
【0026】
構造単位(1)および単量体(1m)における好ましいアルキル置換基は、1−ヘキシル基であり、構造単位(2)および単量体(2m)における好ましいアルキル置換基としては、1−ヘプチル基、1−オクチル基、1−ノニル基、1−デシル基、1−ウンデシル基、1−ドデシル基、2−デシル基および8−メチル−1−ノニル基などの直鎖もしくは分岐アルキル基を有するものが挙げられ、なかでも1−デシル基および1−ドデシル基が好ましい。
【0027】
単量体(1m)としては、具体的には、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンおよび8−ヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3
−エンなどが挙げられる。これらの単量体(1m)としては、式(1m)中のpが0である、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンがより好ましい。
【0028】
単量体(2m)としては、具体的には、5−ヘプチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ノニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ウンデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ドデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、8−ヘプチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−オクチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ノニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−
エン、8−デシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8
−ウンデシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンおよび8
−ドデシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどの直鎖
アルキル基を有するもの;2−(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン−5−イル)デセン、8−メチル−1−(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン−5−イル)ノナンなどの分岐アルキル基を有するものが挙げられる。これらの単量体(2m)としては、式(2m)中のqが0である、炭素数7〜12の5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンがより好ましい。なかでも5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンおよび5−ドデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンは原料を工業的に入手しやすいため、特に好ましい。単量体(2m)として、炭素数が7以上のアルキル基を用いると、優れた溶融成形加工性を有し、高すぎない温度での成形加工が可能となるため、成形加工時の温度が高温であることに起因する成形体の劣化や着色を防止することができる。一方、炭素数が12を超えるアルキル基を用いると、5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの沸点が高くなりすぎるため、工業生産時の精製が困難となる場合がある。
【0029】
単量体(3m)は、式(3m)中のC1〜C4が、それぞれ独立に、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、酸無水物基、オキセタニル基および加水分解性シリル基よりなる群から選ばれる官能基、あるいは、水素原子、メチル基およびハロゲン原子から選ばれる原子もしくは基である。単量体(3m)が上記官能基を有する場合には、単量体(3m)を含む単量体組成物を付加共重合する際、架橋基を導入しやすくなる。また、付加共重合体から得られる成形体に接着性を付与できる。このため、単量体(3m)としては、架橋基導入や成形体への接着性付与などの目的で、式(3m)中のC1〜C4のうち少なくとも一つが、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、酸無水物基、オキセタニル基および加水分解性シリル基よりなる群から選ばれる官能基を有していることが好ましい。
【0030】
官能基を有する単量体(3m)としては、具体例には、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル、2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル、2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸t−ブチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸t−ブチル、酢酸(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イル)、酢酸(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−メチル−2−イル)、酢酸(テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−イル)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2、3−無水カルボン酸、5−[(3−エチル−3−オキタセニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−[(3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸(3−エチル−3−オキセタニル)メチル、5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンおよび5−トリエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンなどが挙げられる。
【0031】
これらの単量体(3m)としては、式(3m)中のrが0であるものがより好ましい。
本発明で用いる単量体組成物は、上記単量体(1m)および単量体(2m)を必須成分としており、必要に応じて単量体(3m)を含んでいてもよい。単量体(2m)の割合が増加すると、環状オレフィン系付加共重合体をから形成されるフィルムおよびシートなどの成形体の柔軟性が増し、軟化点が低下する傾向がある。また、単量体(3m)の割合が増加すると、環状オレフィン系付加共重合体から形成されるフィルムおよびシートなどの成形体の弾性率が向上する反面、柔軟性(伸び)が低下する傾向にある。このため、その使用量には制限がある。また、官能基を有する単量体(3m)の割合が高いと、重合活性が低下し、生産性が悪化する場合がある。
【0032】
このため、単量体組成物中において、単量体(1m)と単量体(2m)とのモル比(単量体(1m)/単量体(2m))は、通常10/90〜90/10、好ましくは20/80〜90/10、より好ましくは40/60〜90/10である。単量体(1m)および単量体(2m)の合計に対する単量体(1m)の割合が10mol%を下回ると、得られる付加共重合体の軟化点が低くなりすぎ、耐熱性が不十分となる場合がある。一方、単量体(1m)と単量体(2m)の合計に対する単量体(1m)の割合が90mol%を超えると、軟化点が高くなりすぎ、成形加工性が悪化するなどの問題が生じる場合がある。
【0033】
また、本発明で用いる単量体組成物では、単量体(1m)と単量体(2m)の合計が、全単量体中に80〜100モル%であることが好ましい。単量体組成物中に、単量体(1m)および単量体(2m)以外の単量体が20モル%以上含まれる場合には、得られる共重合体の成形加工性が悪化したり、共重合体から得られる成形体の強度が低下したりする場合がある。このため、本発明で用いる単量体組成物が単量体(3m)を含む場合、単量体(3m)の量は、単量体組成物中に20モル%以下の割合で含まれるのが望ましい。
【0034】
本発明で用いる単量体組成物は、特に限定されるものではないが、単量体(1m)、単量体(2m)および必要に応じて単量体(3m)から構成され、それ以外の単量体を含まないことが好ましい。単量体(1m)、単量体(2m)および単量体(3m)は、それぞれ、1種単独で用いられてもよく、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0035】
<環状オレフィン系付加共重合体>
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、炭素数6のアルキル基を置換基として有する上記式(1)で表される構造単位(1)と、炭素数7〜12のアルキル基、より好ましくは炭素数8〜12のアルキル基、特に好ましくは炭素数10〜12のアルキル基を置換基として有する上記式(2)で表される構造単位(2)とを有し、必要に応じて上記式(3)で表される構造単位(3)を有する。
【0036】
ここで、通常、構造単位(1)は、上記式(1m)で表される単量体(1m)に由来し、構造単位(2)は、上記式(2m)で表される単量体(2m)に由来し、必要に応じて含まれる構造単位(3)は、上記式(3m)で表される構造単位(3m)に由来する。
【0037】
上述したように、通常、構造単位(1)は、前記式(1m)で表される単量体(1m)に由来し、構造単位(2)は、前記式(2m)で表される単量体(2m)に由来し、必要に応じて含まれる構造単位(3)は、前記式(3m)で表される構造単位(3m)に由来する。
【0038】
構造単位(1)が有するアルキル置換基としては1−ヘキシル基が好ましい。また、構造単位(2)が有するアルキル置換基としては1−ヘプチル基、1−オクチル基、1−ノニル基、1−デシル基、1−ウンデシル基、1−ドデシル基、2−デシル基、8−メチル−1−ノニル基などの直鎖もしくは分岐アルキル基を有するものが挙げられ、なかでも1−デシル基、1−ドデシル基が好ましい。
【0039】
構造単位(3)は、構造単位(1)および構造単位(2)以外の環状オレフィン系構造単位であり、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、酸無水物基、オキセタニル基および加水分解性シリル基よりなる群から選ばれる官能基を有していてもよく、また有していなくてもよいが、これらの特定の官能基を有する場合には、付加共重合体が架橋性を有したり、また、付加共重合体から得られるフィルムなどの成形体が密着性および接着性に優れるものとなるため、本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、そのような特性を要する用途に用いる場合には、前記特定の官
能基を1つ以上有する構造単位(3)を含むことが好ましい。
【0040】
また、官能基を有していない構造単位(3)を有することにより、付加共重合体の弾性率を向上させることができる。特に、本溶融成形の目的には官能基を有していない構造単位(3)を有することが好ましい。構造単位(3)は、付加共重合体中において全構造単位中に20モル%以下の量で含有されることが好ましい。
【0041】
本発明において、構造単位(1)、(2)および(3)は、それぞれ1種単独であってもよく、2種以上組み合わされて用いられてもよい。
構造単位(1)と構造単位(2)との合計に対する構造単位(1)の割合は10〜90モル%、より好ましくは20〜90モル%、特に好ましくは40〜90モル%である。また、全構造単位(構造単位(1)、構造単位(2)および構造単位(3)の合計)に対する構造単位(3)の割合は0〜20モル%、より好ましくは10〜20モル%である。すなわち、本発明の環状オレフィン系付加共重合体では、構造単位(1)と構造単位(2)のモル比(構造単位(1)/構造単位(2))が、通常10/90〜90/10、より好ましくは20/80〜90/10、特に好ましくは40/60〜90/10であるのが望ましい。また、構造単位(1)と構造単位(2)との合計が、全構造単位中に80〜100mol%の量であることが好ましい。
【0042】
構造単位(1)と構造単位(2)の合計に対する構造単位(2)の割合が、90モル%を超えると軟化点が低下し、耐熱性が劣るため好ましくなく、10モル%を未満では得られるフィルムおよびシートなどの柔軟性が不足したり、成形加工性が劣るため好ましくない。一方、全構造単位中における構造単位(3)の割合が20モル%を超えるとフィルムおよびシートなどの柔軟性が不足し、脆くなるため好ましくない。
【0043】
このような本発明の環状オレフィン系付加共重合体では、構造単位(2)の割合の増加にしたがい、該共重合体を用いて得られるフィルムやシートなどの成形体の柔軟性が増し、軟化点が低下する傾向がある。また、構造単位(3)の割合が増加するにしたがい、該共重合体を用いて得られるフィルムやシートなどの成形体の機械的特性および靭性が向上する傾向がある。
【0044】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、軟化点が、TMA法で測定される温度−熱膨張量曲線の変曲点温度から求められ、80〜210℃、より好ましくは100〜200℃である。この軟化点が80℃未満の場合は、耐熱性が要求される用途に適さなくなる。一方、軟化点が210℃を超えると、溶融成形が困難となる。
【0045】
本発明の環状オレフィン系系付加共重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が20,000〜200,000、より好ましくは30,000〜100,000である。数平均分子量が20,000未満では、成形したフィルムまたはシートの機械的強度が低下し、割れ易くなる場合がある。一方、数平均分子量が200,000を超えると、溶融粘度が高くなりすぎるため成形が困難になる、あるいは成形体の平坦性が損なわれることが多い。環状オレフィン系付加共重合体の分子量は、適切な分子量調節剤の存在下で重合を行うことによって調節することができる。
【0046】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、透明性に優れ、膜厚100μmのフィルムで測定される分光光線透過率が波長400nmでの透過率が通常85%以上、より好ましくは88%以上であり、ヘイズ値は通常2.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。
【0047】
<添加剤>
本発明の環状オレフィン系付加共重合体には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。たとえば、酸化安定性を向上させ、着色および劣化を防ぐため、フェノール系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤およびイオウ系酸化防止剤などの酸化防止剤を配合することができる。これらの酸化防止剤は、環状オレフィン系付加共重合体100重量部当たり0.001〜5重量部の割合で配合することができる。酸化防止剤としては、
1)2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−t−
ブチル−3−メチル−フェニル)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキ
サン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアレート、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノンおよびペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネートなどのフェノール系酸化防止剤またはヒドロキノン系酸化防止剤、
2)ビス (2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホス
ファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)4,4'−ビフェニレンジホスホナイト、3
,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート−ジエチルエステル、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイトおよびトリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどのリン系2次酸化防止剤、ならびに
3)ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネートおよび2−メルカプトベンズイミダゾールなどの硫黄系2次酸化防止剤などを挙げることができる。
【0048】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体には、難燃剤を配合することもできる。難燃剤としては公知のものを使用することができ、たとえば、ハロゲン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤および金属水酸化物などを挙げることができる。これらの中でも少量を配合するだけで効果を示し、吸水性、低誘電性および透明性の悪化を最小限にできるリン酸エステル系難燃剤が好ましく、1,3−ビス(フェニルホスホリル)ベンゼン、1,3−ビス(ジフェニルホスホリル)ベンゼン、1,3−ビス[ジ(アルキルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’,6'−ジメチルフェニル)
ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’,6’−ジエチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’,6’−ジイソプロピルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’,6’−ジブチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’−t−ブチルフェニル)ホスフホリル]ベンゼン、1,3−ビス[ジ(2’−イソプロピルフェニル)ホスホリル]ベンゼン1,3−ビス[ジ(2’−メチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’,6’−ジメチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’,6’−ジエチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’,6’−ジイソプロピルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’−t−ブチルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’−イソプロピルフェニル)ホスホリル]ベンゼン、1,4−ビス[ジ(2’−メチルフェニル)ホスホリル]ベンゼンおよび4,4’−ビス[ジ(2”,6”−ジメチルフェニル)ホスホリルフェニル]ジメチルメタンなどの縮合型リン酸エステル系難燃剤がより好ましい。配合量は難燃剤の種類および要求される難燃性の程度によって異なるが、環状オレフィン共重合体100重量部に対し、難燃剤を0.5〜40重量部の量で配合することが好ましく、より好ましくは2〜30重量部、特に好ましくは4〜20重量部の量で配合することが好ましい。難燃剤の配合量が0.5重量部より少ない場合は、難燃性の効果が不充分である。一方、難燃剤の配合量が40重量部を超えると、透明性の低下、誘電率などの電気特性の悪化、吸水率の増大、耐熱性の悪化が起こる場合がある。
【0049】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体には、さらに必要に応じて公知の滑剤、紫外線吸収剤など、レベリング剤および染料などを配合することもできる。
〔環状オレフィン系付加共重合体の製造方法〕
<付加共重合反応>
本発明において、付加共重合反応は、バッチ式で行ってもよく、また、たとえば適切な単量体の供給口を装備した管型連続反応器を使用して行ってもよい。付加共重合反応は、必要に応じて、窒素またはアルゴン雰囲気下で行われるが、空気中で行ってもよい。反応温度は0〜150℃、より好ましくは10〜100℃、特に好ましくは20〜80℃の温度で行なわれる。用いられる溶媒は特に限定されないが、シクロヘキサン、シクロペンタンおよびメチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼンおよびメシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼンおよびジクロロべンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒を1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも脂環式炭化水素溶媒および芳香族炭化水素溶媒がより好ましい。これらの溶媒は、全単量体100重量部に対し、通常、0〜2,000重量部の範囲で用いられる。
【0050】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体の製造方法においては、付加共重合反応を分子量調節剤の存在下で行うことで、得られる共重合体の分子量を任意に制御することができ、その結果、溶融成形における流動特性などを制御することができる。分子量調節剤としては、たとえば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、トリメチルビニルシランおよびトリメトキシビニルシランなどのα−オレフィン化合物もしくは置換α−オレフィン化合物、シクロペンテンなどの単環モノオレフィン化合物、または、スチレンもしくはα−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物などが用いられる。これらの分子量調節剤の中でも、α−オレフィン化合物または単環モノオレフィン化合物を用いることがより好ましく、なかでもエチレンが特に好ましい。分子量調節剤の使用量は、環状オレフィン系付加共重合体の目標とする分子量、触媒成分の種類、重合温度条件などによって変わるため一概にはいえないが、全単量体に対し、モル比で0.001〜0.5倍の量であることが好ましい。また、これらの分子量調節剤は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本発明の環状オレフィン系付加共重合の製造方法で用いられるパラジウム系重合触媒は、非常に高活性であるため、少量用いるだけで転化率を96%以上、より好ましくは99%以上とすることができる。そのため、残留する単量体や金属成分の除去工程が必ずしも必要でない。必要に応じて、単量体や金属成分の除去を行う場合は公知の方法を適宜用いればよく、たとえば、重合反応溶液を乳酸、グリコール酸、オキシプロピオン酸およびオキシ酪酸などのオキシカルボン酸、トリエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミンおよびエチレンジアミンテトラ酢酸塩などの水溶液、あるいは、メタノール溶液またはエタノール溶液を用いて抽出および分離処理するか、珪藻土、シリカ、アルミナ、活性炭およびセライトなどの吸着剤を用いて吸着およびフィルターでろ過することにより、金属成分を除去することができる。または、重合反応溶液を、メタノール、エタノールおよびプロパノールなどのアルコール類、あるいは、アセトンおよびメチルエチルケトンなどのケトンを用いて凝固することもできる。本発明の環状オレフィン系付加共重合体に含まれる金属成分は、Pd原子として、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下である。
【0052】
重合反応溶液からさらに脱溶工程を経て、環状オレフィン系付加共重合体が得られる。
その際、必要に応じて添加剤を配合してもよい。脱溶方法は特には限定されないが、たとえば、溶液を減圧下で加熱濃縮したり、スチームを導入するなどしてもよく、押出機などを用いて乾燥およびペレット化してもよい。重合反応溶液をそのままキャストしてフィルムに成形してもよい。
【0053】
<重合触媒>
本発明の環状オレフィン系付加共重合体の製造方法においては、上述した単量体組成物を、下記(a)、(b)および(d)を用いて得られる触媒、あるいは、下記(c)および(d)を用いて得られる触媒の存在下で付加共重合する。
【0054】
(a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物;
(b)下記式(b)で表されるホスフィン化合物;
P(R12(R2) …(b)
(式(b)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基およびイソプロピル基から
選ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。)
(c)下記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体;
Pd[P(R12(R2)]n2 …(c)
(式(c)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基およびイソプロピル基から選
ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。Xは有機酸アニオンま
たはβ−ジケトネートアニオンである。nは1または2を表す。)
(d)イオン性のホウ素化合物。
【0055】
本発明では、上記触媒成分から得られるパラジウム系触媒を用いることにより、機械的強度に優れた成形体を得ることができる。さらに、非常に高い重合活性を示すため、極端に少量のパラジウム化合物を用いるだけで95%を超える高い転化率で付加共重合体を製造することができるとともに、得られる付加共重合体中に残留する単量体や金属成分を充分に低く抑えることができる。
【0056】
以下、上記各触媒成分について説明する。
(a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物とは、たとえば2価パラジウムのカルボン酸塩、スルホン酸塩、β−ジケトネート化合物であり、
1)酢酸パラジウム、クロロ酢酸パラジウム、フルオロ酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸パラジウム、酪酸パラジウム、3−メチル酪酸パラジウム、ペンタン酸パラジウム、ヘキサン酸パラジウム、2−エチルヘキサン酸パラジウム、オクタン酸パラジウム、ドデカン酸パラジウム、2−メチルプロペン酸パラジウム、オクタデカ−9−エン酸パラジウム、シクロヘキサンカルボン酸パラジウム、安息香酸パラジウム、2−メチル安息香酸パラジウム、4−メチル安息香酸パラジウムおよびナフタレンカルボン酸パラジウムなどの炭素数1〜15の有機モノカルボン酸塩;
2)メタンスルホン酸パラジウム、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム、p−トルエンスルホン酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム、ナフタレンスルホン酸パラジウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸パラジウムなどの炭素数1〜20の有機スルホン酸塩;
3)パラジウムの2,4−ペンタジオン(アセチルアセトネート)、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルおよびヘキサフルオロアセチルアセトンなどの炭素数5〜15のβ−ジケトネート化合物
が好ましく挙げられる。これらの中でも酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、2−エチルヘキサン酸パラジウム、パラジウムビス(アセチルアセトネート)がより好ましく、酢酸パラジウムが特に好ましく挙げられる。
【0057】
(b)前記式(b)で表されるホスフィン化合物としては、トリシクロペンチルホスフィン、ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロペンチル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロペンチル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロペンチル(s−ブチル)ホスフィン、ジシクロペンチル(t−ブチル)ホスフィン、ジシクロペンチル(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリイソプロピルホスフィンなどが好ましく挙げられる。これらの中でもトリシクロペンチルホスフィンおよびトリシクロヘキシルホスフィンがより好ましく用いられる。
【0058】
(c)前記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体は、触媒成分(a)で挙げたパラジウム化合物と比較して、炭化水素系溶媒への溶解性が良好であるため、溶液重合プロセスにおいて有利である。また、活性種の生成効率が高く、誘導期間がほとんどみられない点でも有利である。
【0059】
式(c)で表されるパラジウムのホスフィン錯体としては、たとえば、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、
〔ビス(トリシクロペンチルホスフィン)〕パラジウムジ(アセテート)、
〔ジシクロペンチル(t−ブチル)ホスフィン〕パラジウムジ(アセテート)、
〔ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン〕パラジウムジ(アセテート)、
〔ジシクロペンチル(2−メチルフェニル)ホスフィン〕パラジウムジ(アセテート)、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
〔ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン〕パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
〔ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン〕パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、
〔ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)〕パラジウムジ(アセテート)、
〔ジシクロヘキシル(t−ブチル)ホスフィン〕パラジウムジ(アセテート)、
〔ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン〕パラジウムジ(アセテート)、
〔ジシクロヘキシル(2−メチルフェニル)ホスフィン〕パラジウムジ(アセテート)、(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
〔ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン〕パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
〔ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン〕パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、などが挙げられる。これらの中でも、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロアセテート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(プロピオネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、
(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)、
がより好ましく、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)、(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)、(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムビス(アセチルアセトネート)が特に好ましく挙げられる。
【0060】
これらのホスフィン錯体(c)の合成には、公知の方法を適宜用いればよく、合成後、精製または単離してから用いてもよいし、単離することなく用いてもよい。たとえば、適当なパラジウム化合物と、上記触媒成分(b)に例示されるホスフィン化合物とを、芳香族炭化水素溶媒またはハロゲン化炭化水素溶媒中で0〜70℃の温度で反応させることにより合成してもよい。
【0061】
(d)イオン性のホウ素化合物としては、たとえば、下記式(d)で表される化合物が用いられる。
〔R3+〔M(R44- …(d)
(式(c)中、R3はカルベニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカ
チオンまたはアニリニウムカチオンから選ばれる炭素数4〜25の有機カチオンを表す。Mはホウ素原子またはアルミニウム原子を表す。R4はフッ素原子またはフッ化アルキル
で置換されたフェニル基を表す。)
式(d)で表される化合物としては、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリ(p−トリル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ボレート、
トリ(p−トリル)カルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
などが挙げられる。これらの中でも、カチオンがカルベニウムカチオンであり、アニオンがテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンまたはテトラキス(パーフルオロアルキルフェニル)ボレートアニオンであるイオン性ホウ素化合物がより好ましく、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートおよびトリフェニルカルベニウムテトラキス〔3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ボレートが特に好ましく挙げられる。
【0062】
(a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物、あるいは(c)2価パラジウムのホスフィン錯体は、単量体1モル当たり、パラジウム原子として0.0005〜0.02ミリモル、より好ましくは0.001〜0.01ミリモル、特に好ましくは0.001〜0.005ミリモルの範囲で用いる場合に、高い転化率を獲得できるため、高い経済性および生産性を示す。また、付加共重合体中に残留する金属成分を低く抑えられるため、着色が少なく、透明性に優れた成形体を得ることが可能であり、脱灰工程が省略できる場合もある。
【0063】
(b)ホスフィン化合物に関しては、触媒成分(a)に含まれるパラジウム原子1モルに対して、0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜2モルの範囲で使用すると、重合活性が高くなる。
【0064】
上記触媒成分(c)イオン性のホウ素化合物に関しては、触媒成分(a)に含まれるパラジウム原子1モルに対して、0.5〜10モル、より好ましくは0.7〜5.0モル、特に好ましくは1.0〜2.0モルの範囲で用いられる。
【0065】
上記(a)〜(d)の各触媒成分に関し、本発明においては添加順序などの調製法や使用法に特に制限はなく、重合反応に供される単量体と溶媒との混合物へ同時に、または逐次的に添加してもよい。
【0066】
〔成形体〕
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、熱溶融成形に適した軟化点を示し、射出成形法、押出成形法および圧縮成形法などの方法で成形することができる。また、適当な溶媒に溶解し、キャストすることでフィルムおよびシートなどの形状に成形することもできる。熱溶融成形は特に、溶媒を必要とせず、経済性および生産性の点で有利であるため好ましい。
【0067】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、透明性などの光学特性、耐薬品性、耐熱性、耐水性および耐湿性などに優れ、かつ、溶融成形に好適な軟化点を有するため、溶融成形による光学フィルムの製造に好適に用いられる。得られた光学フィルムは、透明性などの光学特性、耐薬品性、耐熱性、耐水性および耐湿性などにバランスよく優れる。
【0068】
また、本発明の環状オレフィン系付加共重合体の成形体には、必要に応じてITO、ポリチオフェン、ポリアニリンなどの導電性膜、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウムなどのバリアー膜、その他公知のハードコート層、反射防止層、防汚層、赤外線フィルター層、紫外線フィルター層、粘着剤層などを形成してもよい。これらの形成の手段としては塗布、貼合による方法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法など挙げられる。
【0069】
〔用途〕
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は、透明性および耐熱性に優れ、また、吸水性および誘電率に低いため、光学材料、電気・電子部品および医療用器材などに好適に用いられる。
【0070】
光学材料としては、液晶表示素子、有機EL素子、プラズマディスプレイ、電子ペーパー、ディスプレイ用カラーフィルター基板、ナノインプリント基板、および、ITOまたは導電性樹脂層を積層した透明導電フィルムおよび透明導電膜、タッチパネル、導光板、保護フィルム、偏向フィルム、位相差フィルム、近赤外線カットフィルム、光拡散フィルム、反射防止フィルム、高反射フィルム、半透過半反射フィルム、NDフィルター、ダイクロイックフィルター、電磁波シールドフィルム、ビームスプリッター、光通信用フィルター、カメラレンズ、ピックアップレンズおよびF−θレンズなどの光学レンズおよびプリズム類、ならびに、MD、CDおよびDVDなどの光学記録基板などに用いることができる。
【0071】
電子・電気部品としては、容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーションフィルム、絶縁フィルムおよびプリント基板用材料などに用いられる。
医療用器材としては、薬品用パッケージ材料、滅菌容器、シリンジ、パイプ、チューブおよびアンプルなどに用いられる。
【0072】
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、環状オレフィン系付加共重合体の分子量、軟化点、フィルムの透明性および強度などの各種性状は、下記の方法で求めた。
【0073】
(1)分子量
ゲルパーミエーションクロマトフィー(GPC)(Shodex GPC−101;昭和電工(株)製)を用い、移動相にテトラヒドロフラン(THF)を用いて、標準ポリスチレン換算により分子量を求めた。
【0074】
(2)軟化点
TMA/SS6100装置(Seiko Instruments社製)を用い、
フィルムサイズ 4mm×18mm、
チャック間距離 10mm、
引張荷重 10g重、
昇温速度 10℃/分
の条件で測定した、温度―熱膨張量曲線の変曲点前後の曲線に接線を引き、この接線の交点より軟化点を求めた。
【0075】
(3)共重合体組成
重合反応溶液の一部を採取し、過剰のイソプロパノールで重合体を凝固した上澄みをガスクロマトグラム装置(GC−14B;島津製作所製)、キャピラリーカラム(膜厚1μm;内径0.25mm;長さ60m)にて分析し、残留する単量体を定量することで、組成を算出した。
(4)分光光線透過率およびヘイズ
膜厚100μmのフィルムについて、可視・紫外分光光度計(U−2010 Spectro Photo Meter;日立製作所製)により、波長400nmでの光線透過率を測定した。
【0076】
ヘイズについては、JIS K7105に準じて、Haze−Gard plus(B
YK−Gardner製)を用いて測定した。
(5)破断強度、伸びおよび破断エネルギー
JIS K7113に準じて、試験片を、引っ張り速度3mm/分で測定した。
(6)吸水率
23℃の水中にフィルムを24時間浸漬し、浸漬前後の重量変化より吸水率を求めた。
【実施例1】
【0077】
1.4Lのステンレス製反応器に窒素雰囲気下でトルエン600g、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン67g(0.38mol)および5−デシルビシク
ロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを133g(0.57mol)を仕込み、撹拌しなが
らエチレンを0.010MPaとなるまで導入した。容器内を30℃に昇温し、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)のトルエン溶液を3.78×10-3mmolおよびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレ
ートのトルエン溶液を3.78×10-3mmol加えて重合を開始した。重合を計12時
間行った結果、未反応の単量体の定量から転化率は99%、共重合体中の5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン含量は60モル%と計算された。トルエンで希釈した反応溶液を2Lのイソプロピルアルコールで凝固し、次いで真空下で加熱乾燥し、198gの共重合体Aを得た。共重合体AのMnは75,000、Mwは287,000であった。共重合体Aの1 H−NMRスペクトルを図1に示す。
【0078】
この共重合体A 100重量部に、ペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.5重量部を混合し、続いて240℃で真
空プレス機を用いて100μm厚のフィルムAを作製した。フィルムAの軟化点は145℃であり、表1に示すように、耐熱性、透明性および低吸水性に優れ、フィルムの柔軟性の指標である破断伸びと、強靭性の指標である破断エネルギーとが非常に大きく、溶融成形性に優れた共重合体であることが分かった。
【実施例2】
【0079】
実施例1において、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを151g(0.84mol)、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを49g(0.21mol)、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)のトルエン溶液を4.22×10-3mmolおよびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタ
フルオロフェニル)ボレートのトルエン溶液を4.22×10-3mmolとした以外は実
施例1と同様に重合を行った。
【0080】
未反応の単量体の定量から転化率は99%、共重合体中の5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン含量は20モル%と計算された。トルエンで希釈した反応溶液を2Lのイソプロピルアルコールで凝固し、次いで真空下で加熱乾燥し、198gの共重合体Bを得た。共重合体BのMnは72,000、Mwは279,000であった。共重合体Bの1 H−NMRスペクトルを図2に示す。
【0081】
この共重合体B 100重量部に、ペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.5重量部を混合し、続いて280℃で真
空プレス機を用いて100μm厚のフィルムBを作製した。フィルムBの軟化点は185℃であり、表1に示すように、耐熱性、透明性および低吸水性に優れ、フィルムの柔軟性の指標である破断伸びと、強靭性の指標である破断エネルギーとが非常に大きく、溶融成形性に優れた共重合体であることが分かった。
【実施例3】
【0082】
1.4Lのステンレス製反応器に窒素雰囲気下でトルエン589g、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン122g(0.68mol)、5−デシルビシクロ
[2.2.1]ヘプタ−2−エン59g(0.25mol)、および、75重量%のトル
エン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン26g(0.20mol)を仕
込み、撹拌しながらエチレンを0.013MPaとなるまで導入した。容器内を40℃に昇温し、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)のトルエン溶液を4.56×10-3mmolおよびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオ
ロフェニル)ボレートのトルエン溶液を4.56×10-3mmol加えて重合を開始した
。重合を計10時間行った結果、未反応の単量体の定量から転化率は99%、共重合体中の5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン含量は60モル%、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン含量は22モル%、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン含量は18モル%と計算された。トルエンで希釈した反応溶液を2Lのイソプロピルアルコールで凝固し、次いで真空下で加熱乾燥し198gの共重合体Cを得た。共重合体CのMnは69,000、Mwは264,000であった。共重合体Cの1 H−NMRスペクトルを図3に示す。
【0083】
この共重合体C 100重量部に、ペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.5重量部を混合し、続いて280℃で真
空プレス機を用いて100μm厚のフィルムCを作製した。フィルムCの軟化点は195℃であり、表1に示すように、耐熱性、透明性および低吸水性に優れ、フィルムの柔軟性の指標である破断伸びと、強靭性の指標である破断エネルギーとが非常に大きく、溶融成形性に優れた共重合体であることが分かった。
【0084】
[比較例1]
1.4Lのステンレス製反応器に窒素雰囲気下でトルエン565g、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン112g(0.63mol)および75重量%のト
ルエン溶液としたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン118g(0.94mol)
を仕込み、撹拌しながらエチレンを0.015MPaとなるまで導入した。容器内を50℃に昇温し、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)のトルエン溶液を3.92×10-3mmolおよびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフ
ルオロフェニル)ボレートのトルエン溶液を3.92×10-3mmol加えて重合を開始
した。重合を計10時間行った結果、未反応の単量体の定量から転化率は99%、共重合体中の5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン含量は40モル%と計算された。トルエンで希釈した反応溶液を2Lのイソプロピルアルコールで凝固し、次いで真空下で加熱乾燥し198gの共重合体Dを得た。共重合体DのMnは58,000、Mwは220,000であった。
【0085】
この共重合体D 100重量部に、ペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.5重量部を混合し、続いて300℃で真
空プレス機を用いてフィルム作製を試みたが、フィルムは得られなかった。
【0086】
次に、この共重合体D 100重量部に、ペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.5重量部を混合した後、トルエン
を加え固形分濃度20重量%の溶液とし、PETフィルム上にキャスト後、100℃で1時間乾燥してPETフィルムから剥離し、剥離したフィルムをSUS板上に移して150℃で1時間乾燥した後、さらに180℃で2時間乾燥して100μm厚のフィルムDを得た。フィルムDの軟化点は240℃であり、表1に示すように、耐熱性、透明性および低吸水性に優れ、破断強度も大きいが、伸びが小さく、特にフィルムの強靭性の指標である破断エネルギーが小さいためフィルムが脆く、かつ溶融成形性困難な共重合体であった。
【0087】
[比較例2]
1.4Lのステンレス製反応器に窒素雰囲気下でトルエン600g、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン60g(0.40mol)、5−デシルビシクロ[2
.2.1]ヘプタ−2−エン140g(0.60mol)を仕込み、撹拌しながらエチレ
ンを0.010MPaとなるまで導入した。容器内を30℃に昇温し、(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(アセテート)のトルエン溶液を3.99×10-3mmo
lおよびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートのトルエン溶液を3.99×10-3mmol加えて重合を開始した。重合を計12時間行った
結果、未反応の単量体の定量から転化率は99%、共重合体中の5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン含量は60モル%と計算された。トルエンで希釈した反応溶液を2Lのイソプロピルアルコールで凝固し、次いで真空下で加熱乾燥し198gの共重合体Eを得た。共重合体EのMnは73,000、Mwは285,000であった。
【0088】
この共重合体E 100重量部に、ペンタエリスリチルテトキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.5重量部を混合し、続いて250℃で真
空プレス機を用いて100μm厚のフィルムEを得た。フィルムEの軟化点は150℃であり、表1に示すように、実施例1のフィルムAより僅かに軟化点が高いが、破断伸び、破断エネルギーともに劣るものであった。
【0089】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の環状オレフィン系付加共重合体は光学材料、電気・電子部品および医療用器材などに好適に使用することができる。
光学材料としては、液晶表示素子、有機EL素子、プラズマディスプレイ、電子ペーパー、ディスプレイ用カラーフィルター基板、ナノインプリント基板、および、ITOまたは導電性樹脂層を積層した透明導電フィルムおよび透明導電膜、タッチパネル、導光板、保護フィルム、偏向フィルム、位相差フィルム、近赤外線カットフィルム、光拡散フィル
ム、反射防止フィルム、高反射フィルム、半透過半反射フィルム、NDフィルター、ダイクロイックフィルター、電磁波シールドフィルム、ビームスプリッター、光通信用フィルター、カメラレンズ、ピックアップレンズ、F−θレンズなどの光学レンズおよびプリズム類、ならびに、MD、CDおよびDVDなどの光学記録基板などに用いることができる。
【0091】
電子・電気部品としては、容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーションフィルム、OA機器の絶縁材料およびフレキシブルプリント基板の絶縁層材料などに用いることができる。
【0092】
医療用器材としては、薬品用パッケージ材料、滅菌容器、シリンジ、パイプ、チューブおよびアンプルなどに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、実施例1で得た共重合体Aの1H−NMRスペクトルを示す。
【図2】図2は、実施例2で得た共重合体Bの1H−NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、実施例3で得た共重合体Cの1H−NMRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位(1)および下記式(2)で表される構造単位(2)を有することを特徴とする環状オレフィン系付加共重合体;
【化1】

(式(1)中、A1,A2,A3,A4のうちのいずれか1つは炭素数が6のアルキル基であり
、その他はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかである。pは0〜5の整数を示す。)
【化2】

(式(2)中、B1,B2,B3,B4のうちいずれか1つは炭素数が7〜12のアルキル基で
あり、その他はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかである。qは0〜5の整数を示す。)。
【請求項2】
構造単位(1)と構造単位(2)とのモル比(構造単位(1)/構造単位(2))が、10/90〜90/10であり、構造単位(1)と構造単位(2)との合計が、全構造単位中に80〜100モル%の量であることを特徴とする請求項1に記載の環状オレフィン系付加共重合体。
【請求項3】
下記式(3)で表される構造単位(3)が、全構造単位中に20モル%以下の量で含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の環状オレフィン系付加共重合体;
【化3】

(式(3)中、C1〜C4は、それぞれ独立に、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、酸無水物基、オキセタニル基および加水
分解性シリル基よりなる群から選ばれる官能基;水素原子;メチル基;ならびにハロゲン原子から選ばれる原子もしくは基を表す。rは0〜5の整数を示す。)。
【請求項4】
軟化点が80〜210℃であり、数平均分子量が20,000〜200,000であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状オレフィン系付加共重合体。
【請求項5】
下記式(1m)で表される単量体(1m)と、下記式(2m)で表される単量体(2m)と、必要に応じて下記式(3m)で表される単量体(3m)とを含有し、
単量体(1m)と単量体(2m)とのモル比(単量体(1m)/単量体(2m))が10/90〜90/10を満たし、かつ、
単量体(1m)と単量体(2m)との合計が、全単量体中に80〜100モル%の量である単量体組成物を、
下記(a)、(b)および(d)を用いて得られる触媒、あるいは、下記(c)および(d)を用いて得られる触媒の存在下で付加共重合することを特徴とする環状オレフィン系付加共重合体の製造方法;
【化4】

(式(1m)中、A1,A2,A3,A4のうちのいずれか1つは炭素数が6のアルキル基であ
り、その他はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかである。pは0〜5の整数を示す。)
【化5】

(式(2m)中、B1,B2,B3,B4のうちいずれか1つは炭素数が7〜12のアルキル基
であり、その他はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかである。qは0〜5の整数を示す。)
【化6】

(式(3m)中、C1〜C4は、それぞれ独立に、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、酸無水物基、オキセタニル基および加水分解性シリル基よりなる群から選ばれる官能基;水素原子;メチル基;ならびにハロゲン原子から選ばれる原子もしくは基を表す。rは0〜5の整数を表す。)、
(a)パラジウムの有機酸塩またはパラジウムのβ−ジケトネート化合物;
(b)下記式(b)で表されるホスフィン化合物;
P(R12(R2) …(b)
(式(b)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基またはイソプロピル基から
選ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。)
(c)下記式(c)で表される2価パラジウムのホスフィン錯体;
Pd[P(R12(R2)]n2 …(c)
(式(c)中、R1はシクロペンチル基、シクロヘキシル基およびイソプロピル基より選
ばれる置換基であり、R2は炭素数3〜10の炭化水素基を表す。Xは有機酸アニオンま
たはβ−ジケトネートアニオンである。nは1または2である。]
(d)イオン性のホウ素化合物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系付加共重合体から、溶液流延法(キャスト法)により形成されることを特徴とする光学フィルム。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系付加共重合体から、溶融成形法により形成されることを特徴とする光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−231361(P2008−231361A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76740(P2007−76740)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】