説明

環状圧粉成形体の製造方法

【課題】径の大きい圧粉成形体でも、高い真円度で製造することができる環状圧粉成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属粉末とバインダーとを混合してなる混合粉末を圧縮して環状の圧粉体2を成形する成形工程と、該圧粉体2サイジングするサイジング工程と、サイジング工程後の圧粉体3を焼成する焼成工程とを有する環状圧粉成形体の製造方法であって、サイジング工程は、圧粉体2の中に、その内周面に対向する外周面を有する冶具4を挿入し、これら圧粉体2及び冶具4を加熱することにより、冶具4の外周面によって圧粉体2の内周面を倣わせながらサイジングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末とバインダーとを混合してなる混合粉末によって環状の圧粉成形体を製造する方法に係り、モータのステータコア等の製造に用いて好適な環状圧粉成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータのステータは、ロータの回りを囲む環状に形成されるもので、ロータとの間にわずかな隙間をあけて配置される。この種のモータのうち、特にハイブリッド自動車に使用される走行用モータとしては、高出力、高効率のものが求められており、それに伴って作動周波数が高くなってきていることから、ステータコアの材料としても、電磁鋼板に代えて軟磁性材料による圧粉成形体を用いることが渦電流損の低減のために有効とされている。
【0003】
特許文献1には、このような軟磁性材料からなる粉末によってステータコアを製造する方法が開示されており、絶縁被覆された軟磁性粉末とバインダーとしての有機物とを混合した粉末を金型に充填して加圧成形し、その後、内部応力緩和のために熱処理して焼鈍するようにしている。
【特許文献1】特開2005−312103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータの高出力化、大型化に伴い、ステータとロータとの間のエアギャップの管理が厳しくなってきている。特にハイブリッド自動車の走行用モータのように大型のものであると、例えば、約280mmの直径で0.1mm〜0.2mm程度のエアギャップとされる。このため、ステータコアには、このわずかなエアギャップを維持できるだけの高い真円度が要求される。そのような場合に、粉末成形による圧粉成形体では、完全に均一な粉末充填ができないため、局部的な密度ばらつきが生じてスプリングバック現象等も不均一になるため、一般的には寸法精度に限界がある。成形体の直径が大きくなるほど、原料粉末の均一充填が難しくなり、精度の低下が顕著になってくる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、径の大きい圧粉成形体でも、高い真円度で製造することができる環状圧粉成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る環状圧粉成形体の製造方法は、金属粉末とバインダーとを混合してなる混合粉末を圧縮して環状の圧粉体を成形する成形工程と、該圧粉体をサイジングするサイジング工程と、サイジング工程後の圧粉体を焼成する焼成工程とを有する環状圧粉成形体の製造方法であって、前記サイジング工程は、前記圧粉体の中に、その内周面に対向する外周面を有する冶具を挿入し、これら圧粉体及び冶具を加熱することにより、冶具の外周面によって圧粉体の内周面を倣わせながらサイジングすることを特徴とする。
【0007】
すなわち、圧粉体を成形して焼成する前に、圧粉体に冶具を挿入して加熱し、冶具の外周面に倣わせながら圧粉体の内周面をサイジングするものである。焼成工程の後であるとバインダーが硬化しているため、無理にサイジングすると破損が生じ易いが、焼成工程の前、つまりバインダーを硬化させる前の状態でサイジングするのである。バインダーの硬化前の状態であるから、加熱によってバインダーが軟化して粉末がわずかながら流動することができる。したがって、圧粉体内の粉末は、前工程の成形によって生じた圧粉体内部の歪みを緩和する方向に流動し、そのとき、内周面に冶具の外周面が対向しているので、内周面が冶具の外周面に倣うようにサイジングされるのである。この場合、熱膨張を利用したサイジングであり、わずかな熱膨張とすることによって過度の変形を抑制することができる。
なお、このサイジング工程によって圧粉体の内部歪みが除去された状態となるので、その後の焼成工程を経た後は、歪みによる変形が生じることがなく、サイジング工程で得られた真円度をほぼ維持することができる。
【0008】
また、本発明に係る製造方法においては、前記サイジング工程において、前記冶具の外径寸法の熱膨張寸法は、前記圧粉体の内径寸法の熱膨張寸法に対して、−50μm以上100μm以下の差で大きくなるように設定されていることを特徴とする。
冶具と圧粉体との熱膨張寸法差をこの範囲に設定したのは、100μmを超えてしまうと圧粉体が破壊することになり、−50μmより小さいとサイジング効果が有効に発揮されないためである。
【0009】
また、本発明に係る製造方法において、前記冶具の熱膨張係数の方が前記圧粉体の熱膨張係数よりも大きいことを特徴とする。この熱膨張係数は、室温からサイジング温度までの範囲における熱膨張係数とし、内側の冶具の方が大きい熱膨張係数とすることにより、圧粉体の内周面のサイジング効果を確実にすることができる。
また、前記サイジング工程における加熱温度は、バインダーの硬化温度以下であることを特徴とする。サイジング工程時に圧粉体のバインダーが硬化しないようにするためである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る環状圧粉成形体の製造方法によれば、サイジング工程時の熱によってバインダーが軟化して、成形時の歪みを緩和する方向に流動するとともに、熱膨張により冶具の外周面が圧粉体の内周面に接近して、この外周綿に内周面が倣うようにサイジングされ、もって真円度を向上させることができ、大型のモータのステータコアとしても高い真円度のものを提供することができ、モータの高出力、高効率化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る環状圧粉成形体の製造方法の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は環状圧粉成形体としてのモータのステータコアを製造する方法を工程順に示している。この環状圧粉成形体1の材料としては、金属粉末とバインダーとを混合してなる混合粉末が使用される。金属粉末としては、この実施形態では複合軟磁性粉末が使用される。
【0012】
この複合軟磁性粉末は、少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が鉄粉末の表面に形成されたMg含有酸化膜被覆鉄粉末であり、粒径が例えば200nm以下のものが好適である。(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜とは、酸化処理鉄粉末表面の酸化鉄(Fe−O)とMgが反応を伴って当該鉄粉末表面に堆積した被膜をいう。その膜厚は、圧粉成形した複合軟磁性材の高磁束密度と高比抵抗を得るために、5nm〜500nmの範囲内にあることが好ましい。
また、バインダーとしてはシリコーン樹脂が使用され、その添加量としては0.05wt%〜2wt%とされる。シリコーン樹脂の他に低融点ガラスが適用可能である。
【0013】
そして、この複合軟磁性粉末とバインダーとを混合し、その混合粉末により圧粉体2を成形する成形工程、その圧粉体2をサイジングするサイジング工程、サイジング後の圧粉体(これをサイジング体3と称す)を焼成する焼成工程とを順に経由することにより、環状圧粉成形体1が製造される。以下、この工程順に沿って説明する。
【0014】
成形工程
上記の複合軟磁性粉末とバインダーとを混合して得た混合粉末を金型(図示略)のキャビティ内に充填して圧縮成形することにより、(a)に示すように環状の圧粉体2を成形する。
【0015】
サイジング工程
次いで、その圧粉体2の内周面をサイジングする。この場合、サイジングのための冶具4として、図1の(b)の部分に示す形状のものが使用される。この冶具4は、円板上の台座5の上に、円柱状の突起部6を一体に形成してなるものであり、(c)に示すように、その突起部6を圧粉体2に挿入した状態で台座5の上に載置することにより、圧粉体2を支持する構成である。この場合、突起部6の外周面と圧粉体2の内周面との間にわずかにクリアランスCが設けられる。例えば、圧粉体2の内径Dが280mmの場合に、冶具4の突起部6の外径Dはそれよりわずかに大きく、そのクリアランスCが50μm〜100μmとされる。
【0016】
このサイジング工程は、(c)に示すように、冶具4の台座5の上に、突起部6を挿入した状態に圧粉体2を載置し、その状態で(d)に示すように熱処理炉7の中でバインダーの軟化温度以上の例えば150℃〜200℃の温度に加熱処理するものである。この温度上昇によってバインダーが軟化し、このバインダーによって結合している複合軟磁性粉末相互が流動し易くなる。この圧粉体2は、成形工程によって圧縮成形されたものであるので、そのときの歪みが内部に残留しており、加熱でバインダーが軟化したことから、複合軟磁性粉末が歪みを緩和する方向に流動することになる。
【0017】
また、この加熱により圧粉体2及び冶具4ともに熱膨張し、そのときに図2に模式化して示したように、外側の圧粉体2の熱膨張寸法Lより内側の冶具4の熱膨張寸法Lの方が大きく、その熱膨張時に、冶具4の突起部6の外周面と圧粉体2の内周面とが接近してほぼ接触状態となる。圧粉体2は前述したように加熱によってバインダーが軟化していることから流動し易い状態になっており、冶具4のわずかな接触によって、圧粉体2の内周面付近の複合軟磁性粉末が冶具4の突起部6の外周面に倣うように流動する。
圧粉体2の内径Dが280mmの場合、冶具4の突起部6の外径寸法の熱膨張寸法Lは、圧粉体2の内径寸法の熱膨張寸法Lに対して、両者の熱膨張寸法差(L−L)=−50μm〜100μm、好ましくは−20μm〜50μmとされる。そして、そのような熱膨張寸法差となる材料の熱膨張係数の差としては、−0.6×10−6/℃〜1.5×10−6/℃となる。
【0018】
これら加熱による圧粉体2自身の歪み緩和作用と、内側に設けた冶具4の熱膨張時の接触による倣い作用との両方の作用が相俟って、圧粉体2の内周面がサイジングされ、その真円度が向上させられるものである。したがって、このような作用を生じさせる冶具4の材料としては、その加熱温度(150℃〜200℃)において、複合軟磁性粉末よりも大きく熱膨張するものが選定され、例えばS10C等の炭素鋼によって形成されている。150℃〜200℃の温度に保持する時間は例えば10分〜60分とされ、30分程度が好ましい。
【0019】
焼成工程
サイジング工程を経た後、サイジング体3を窒素雰囲気とした焼成炉8の中で600〜650℃に加熱して焼成する。この焼成工程により、複合軟磁性粉末の間に介在しているバインダーが分解しつつ硬化して、複合軟磁性粉末と一体化した圧粉成形体1が形成される。この600〜650℃で熱処理されると、バインダーとしてのシリコーン樹脂が分解することにより、有機分の大部分が揮発し、その残りがSiOからなる網目状の骨格となって複合軟磁性粉末の間に介在することになる。
焼成雰囲気を窒素雰囲気としたのは、この焼成工程はバインダーを結晶化させるのが目的であり、圧粉体(サイジング体3)を酸化させないようにするためである。
【0020】
このようにして製造された圧粉成形体1は、途中に設けられたサイジング工程を経たことにより、高い真円度の圧粉成形体1となるものである。
その真円度について、サイジング工程を経て製造した実施例品と、サイジング工程を経ないで製造した比較例品とを製作して測定した。
この場合、ベースとなる複合軟磁性粉末としては、純鉄粉にMgOの絶縁被覆を施したものを使用した。バインダーとしてはシリコーン樹脂を0.7wt%添加した。キャビティ面に潤滑剤を塗布した金型によって成形し、外径300mm、内径280mm、高さ19mmのリング状圧粉体を得た。この圧粉体に、S10Cの炭素鋼によって形成した冶具を挿入したところ、そのクリアランスは100μmであった。これを150℃のサイジング温度に30分間加熱した後に窒素雰囲気で焼成したものを実施例品、サイジング工程を経ず、そのまま窒素雰囲気で焼成したものを比較例Aとした。焼成温度はいずれも600℃とした。
また、バインダーの効果を確認するために、バインダーを添加しないで実施例品と同様の工程を経て製作したものを比較例Bとした。
その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
この表1の結果から明らかなように、サイジング工程を経て製造した実施例品の場合は、真円度が平均で402μm、サイジング工程を経ないで製造した比較例Aの平均808μmに比べて倍の精度に向上している。また、バインダーとしてシリコーン樹脂を使用しないものを同じようにサイジングしたとしても、真円度は平均で798μm程度でしかなく、バインダーによる真円度の改善効果も大きいことがわかる。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、バインダーとして有機物を用いたが、低融点ガラス等の無機物を用いてもよく、そのバインダーを軟化させる温度でサイジングすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る環状圧粉成形体の製造方法の一実施形態を説明するためにモデル化して示した工程図である。
【図2】図1におけるサイジング工程時の圧粉体と冶具の挙動を説明した拡大図である。
【符号の説明】
【0025】
1 環状圧粉成形体
2 圧粉体
3 サイジング体(サイジング後の圧粉体)
4 冶具
5 台座
6 突起部
7 熱処理炉
8 焼成炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末とバインダーとを混合してなる混合粉末を圧縮して環状の圧粉体を成形する成形工程と、該圧粉体をサイジングするサイジング工程と、サイジング工程後の圧粉体を焼成する焼成工程とを有する環状圧粉成形体の製造方法であって、
前記サイジング工程は、前記圧粉体の中に、その内周面に対向する外周面を有する冶具を挿入し、これら圧粉体及び冶具を加熱することにより、冶具の外周面によって圧粉体の内周面を倣わせながらサイジングすることを特徴とする環状圧粉成形体の製造方法。
【請求項2】
前記サイジング工程において、前記冶具の外径寸法の熱膨張寸法は、前記圧粉体の内径寸法の熱膨張寸法に対して、−50μm以上100μm以下の差で大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1記載の環状圧粉成形体の製造方法。
【請求項3】
前記冶具の熱膨張係数の方が前記圧粉体の熱膨張係数よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2記載の環状圧粉成形体の製造方法。
【請求項4】
前記サイジング工程における加熱温度は、バインダーの硬化温度以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の環状圧粉成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−228012(P2009−228012A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71127(P2008−71127)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(306000315)三菱マテリアルPMG株式会社 (130)
【Fターム(参考)】