説明

環状密封装置

【課題】生産性の向上、環境負荷の低減等を図ることができ、且つ信頼性の高いシール性を有する新規な環状密封装置を提供する。
【解決手段】同軸的に相対回転する2部材2a,2b間に、これらと同軸的に装着されて当該2部材2a,2b間をシールする環状密封装置3であって、前記2部材の一方の部材2aに嵌合される断面L形の第一環状保持部材4と、前記2部材の他方の部材2bに前記第環状保持部材4と向き合って断面方形の空間45を形成するよう嵌合される断面L形の第二環状保持部材5と、前記断面方形の空間45内に、該空間45の内面451,452に弾接的且つ非固着状態で収納される弾性体製の環状シール部材6とよりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する2部材、例えば、軸受の回転側部材と固定側部材との間に装着されて、軸受空間内をシールするパックシールタイプの環状密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を回転自在に支持する軸受部分には、一方が回転側、他方が固定側となる内方部材(内輪)及び外方部材(外輪)からなる2部材間に、両部材で形成される軸受空間をシールするパックシールタイプの環状密封装置が装着される(例えば、特許文献1参照)。このようなパックシールタイプの環状密封装置の一例を、図11を参照して略述する。図11は、転がり軸受ユニット120の内輪121と外輪122との間に装着されて軸受空間を密封するパックシール(環状密封装置)100を示している。図例のパックシール100は、回転側となる内輪121の外径面に嵌合される断面L形のスリンガ101と、固定側となる外輪122の内径面に嵌合される断面L形の芯金102と、該芯金102に固着一体に形成されたゴム製シールリップ部材103とより構成される。そして、該シールリップ部材103は、前記スリンガ101の軸受空間側に向く面に弾接する複数(図例では3個)のシールリップ103aを備えている。符号123は、内外輪121,122の各軌道面間に転動自在に介在される転動体(ボール)であり、この転動体123が介在される部分を含む軸受空間には、グリース等の潤滑剤が充填される。このような構成の軸受ユニット120においては、内輪121及びスリンガ101の軸回転に伴い、前記3個のシールリップ103aがスリンガ101に弾性的に相対摺接し、これによって前記軸受空間内の潤滑剤の漏出及び外部から軸受空間内への汚泥等の侵入が防止される。
【0003】
また、特許文献2には、シェル形軸受組込用芯金無しシールが開示されている。この芯金無しシールは、ゴム等の弾性体からなり、スロットルシャフトとシェル形外輪との間に圧縮状態で配置され、外輪の軸方向では、シェル形外輪の鍔部ところを保持する保持器との間に位置するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−14180号公報
【特許文献2】特開2007−71303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図11に示すようなパックシール100において、シールリップ部材103は、芯金102に固着一体とされている。この固着一体化は、事前に成型されたシールリップ部材を芯金に接着剤によって接着一体とし、或いは、ゴムによるシールリップ部材の加硫成型時に接着剤を介して芯金に加硫一体とすることによってなされる。斯かるパックシール100を生産する場合、このような固着一体化工程及び接着剤の使用が不可避であり、生産性の面で改善が望まれるところであった。また、使用済の本パックシール100を廃棄する場合、芯金102とシールリップ部材103とを分別する作業が不可乃至は煩雑であり、環境対応負荷が大きく、この面での改善も望まれるところであった。
【0006】
特許文献2に示される芯金無しシールは、芯金が存在しないから、芯金に対する固着一体化工程や接着剤の使用を要さず、また、廃棄時の分別作業も不要とされるが、シェル形ころ軸受に組み込んだ際における軸方向の位置が定まらず、スロットルシャフトの回転に伴い、シール軸方向に移動して経時的に歪み、これによってシール性が低下することが予想される。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、生産性の向上、環境負荷の低減等を図ることができ、且つ信頼性の高いシール性を有する新規な環状密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る環状密封装置は、同軸的に相対回転する2部材間に、これらと同軸的に装着されて当該2部材間をシールする環状密封装置であって、前記2部材の少なくとも一方の部材に嵌合される断面略L形の環状保持部材と、弾性体製の環状シール部材とを含み、該環状保持部材の前記一方の部材に対する嵌合状態では、当該環状保持部材と前記2部材の他方の部材との間に断面略方形の空間を形成するよう構成され、前記環状シール部材が、前記断面方形の空間内に、該空間の内面に弾接的且つ非固着状態で収納されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の環状密封装置において、前記環状シール部材は、その断面形状が前記空間の内面に複数箇所で弾接する弾接部を含む形状とされているものとしても良い。また、前記2部材の他方の部材に、前記一方の部材に嵌合される環状保持部材と向き合って断面方形の空間を形成するよう嵌合される断面略L形の他方の環状保持部材を更に含み、前記環状シール部材は、この2つの環状保持部材によって形成される前記断面方形の空間内に、該空間の内面に弾接的且つ非固着状態で収納されているものとしても良い。この場合、前記弾接部が、前記第一スリンガ及び第二スリンガのそれぞれに少なくとも1箇所で弾接するよう形成されていることが望ましい。そして、前記弾接部が、リップ状に形成されているものとしても良い。
【0010】
更に、本発明の環状密封装置において、前記2部材を、軸受を構成する内方部材及び外方部材とし、内方部材及び外方部材間に本発明の環状密封装置が装着されるものとすることができる。この場合、当該内方部材及び外方部材の一方が回転側部材、他方が固定側部材とされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る環状密封装置は、同軸的に相対回転する2部材間に、これらと同軸的に装着されて当該2部材間をシールするように用いられる。そして、当該2部材間での装着状態では、少なくとも一方の部材に嵌合される断面略L形の環状保持部材と、前記2部材の他方の部材との間に断面略方形の空間が形成される。この空間内には、弾性体製の環状シール部材が、該空間の内面に弾接的且つ非固着状態で収納される。従って、前記2部材が同軸的に相対回転すると、前記空間内に収納された環状シール部材は、前記空間の内面に弾性的摺接状態に保持される。その為、当該環状密封装置が装着された2部材間は、この弾性的摺接状態によってシールされる。しかも、環状シール部材は、断面略方形の空間内に保持されるから、前記2部材の軸方向に沿った移動が阻止され、信頼性の高いシール性が維持される。そして、別体で調製された環状シール部材を、前記断面方形の空間内に、該空間の内面に弾接的且つ非固着状態で収納するだけでパックシールタイプの環状密封装置が構成されるから、接着剤を用いた固着一体化工程が不要とされ、その生産性が飛躍的に向上する。また、環状シール部材が別部品とされるから、既製のOリングやXリング等をこれに充当させることができ、極めて実用的である。更に、使用済の本環状密封装置を廃棄処理する場合、その分別作業が簡易であり、環境負荷の低減化も図ることができる。
【0012】
前記環状シール部材が、その断面形状が前記空間の内面に複数箇所で弾接する弾接部を含む形状とされているものとした場合、全面で弾接する場合に比べて、前記2部材の相対回転トルクを小さくすることができる。また、前記2部材の他方の部材に、前記一方の部材に嵌合される環状保持部材と向き合って断面方形の空間を形成するよう嵌合される断面略L形の他方の環状保持部材を更に含むように構成した場合、前記環状シール部材は、この2つの環状保持部材によって形成される前記断面方形の空間内に、該空間の内面に弾接的且つ非固着状態で収納される。従って、前記2部材が同軸的に相対回転すると、2つの環状保持部材も相対回転するが、前記空間内に収納された環状シール部材は、前記空間の内面に弾性的摺接状態に保持される。その為、当該環状密封装置が装着された2部材間は、この弾性的摺接状態によってシールされる。この場合、前記弾接部が、前記2つの環状保持部材第一スリンガ及び第二スリンガのそれぞれに少なくとも1箇所で弾接するよう形成されていることが望まく、これによってシール性が確実に保証され、弾接する箇所を多くすることによって更にシール性を向上させることができる。そして、環状シール部材が別部品とされるから、シール性と回転トルクとを勘案した適正な形状的設計が可能で、その設計自由度が高められる。更に、前記弾接部が、リップ状に形成されているものとした場合、リップ形状の軟弾性によって、回転トルクを抑えてシール性を向上させることができる。
【0013】
本発明の環状密封装置が、軸受を構成する内方部材及び外方部材間に装着されるものとした場合、一方が回転側部材、他方が固定側部材とされるから、回転側部材の回転によっても、前記環状シール部材が、前記空間の内面に弾性的摺接状態に保持され、軸受空間がこれによってシールされる。そして、本発明の環状密封装置が生産性良く得られることにより、軸受の構成部品として安価に提供することができ、製品としての軸受或いは軸受ユニットの低コスト化にも寄与する
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の環状密封装置が適用される軸受ユニットの要部を示す断面図である。
【図2】同環状密封装置の変形例を示す断面図である。
【図3】同環状密封装置の変形例を示す断面図である。
【図4】同環状密封装置の変形例を示す断面図である。
【図5】同環状密封装置の変形例を示す断面図である。
【図6】同環状密封装置の変形例を示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態の環状密封装置が適用される軸受ユニットの要部を示す断面図である。
【図8】同環状密封装置の変形例を示す断面図である。
【図9】同環状密封装置の変形例を示す断面図である。
【図10】同環状密封装置の変形例を示す断面図である。
【図11】従来の環状密封装置の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は自動車等の車輪(不図示)を回転自在に支持する軸受ユニットの例を示している。図ではこの軸受ユニット(軸受)2の一部を示しており、ドライブシャフト1に嵌合一体とされた内輪(2部材の一方、内方部材、回転側部材)2aと、車体側に嵌合固定される外輪(2部材の他方、外方部材、固定側部材)2bと、内輪2a及び外輪2bのそれぞれの軌道面間に保持器2cに保持された状態で介在される転動体(ボール)2dと、内輪2a及び外輪2b間に装着されて軸受空間Sを密封する環状密封装置3とより構成される。このような構成の軸受ユニット2においては、車体側の駆動源(不図示)からの回転動力によりドライブシャフト1がその回転軸心L回りに軸回転する。また、内輪2aも回転軸心L回りに軸回転する。外輪2bは車体側に固定されているから、内外輪2a,2b間に介在される転動体2dによって、内輪2a及びドライブシャフト1の前記軸回転が円滑になされる。この内外輪2a,2bの相互回転をより円滑にする為、前記軸受空間S内には、グリース等の潤滑剤が充填され、前記環状密封装置3はこの潤滑剤の外部への漏出を防止すると共に、外部からの汚泥や塵埃等の軸受空間S内への侵入を阻止するべく機能する。ドライブシャフト1には、不図示のハブを介して車輪が取り付けられ、回転動力が車輪に伝達される。図例では、内輪2aが回転側部材とされるが、この種の軸受ユニット2では外輪2bが回転側で内輪2aが固定側とされる場合も多々あり、この場合は、外輪2bが回転側部材、内輪2aが固定側部材とされる。
【0016】
前記環状密封装置3は、内輪2aの外径面に嵌合される断面L形の第一環状保持部材4と、外輪2bの内径面に前記第一環状保持部材4と向き合って断面方形の空間45を形成するよう嵌合される断面L形の第二環状保持部材5と、前記断面方形の空間45内に、該空間45の内面451,452に弾接的且つ非固着状態で収納されるゴム製の環状シール部材6とより構成される。第一環状保持部材4及び第二環状保持部材5は、共にステンレス等の鋼材からなる。第一環状保持部材4は、スリンガに相当し、回転側となる内輪2aの外径面に同軸的に嵌合一体とされる円筒部4aと、該円筒部4aの一端部に連成された外向鍔部4bとよりなる。また、第二環状保持部材5は、外輪2bの内径面に同軸的に嵌合一体とされる円筒部5aと、該円筒部5aの一端部に連成された内向鍔部5bとよりなる。そして、第一環状保持部材4及び第二環状保持部材5は、それぞれの円筒部4a,5a及び鍔部4b,5bが互いに向き合うよう組み合わされ、これによって前記断面方形の空間45が形成される。
【0017】
前記断面方形の空間45内には、ゴムの加硫成型体からなる環状シール部材6が、該空間45の内面451,452に弾接的且つ非固着状態で収納される。図1に示す例では、該環状シール部材6は、第一環状保持部材4側の内面451及び第二環状保持部材5側の内面452にそれぞれ4箇所で弾接する弾接部6a,6bを有した断面形状とされている。更に具体的には、該環状シール部材6は、断面略X字形であって、第一環状保持部材4の円筒部4a及び鍔部4bの各2箇所に弾接する弾接部6a、第二環状保持部材5の円筒部5a及び鍔部5bの各2箇所に弾接する弾接部6bを備えている。図1において、2点鎖線部分は、この弾接部6a,6bの原形(弾性変形しない状態の形状)を示している。このような環状密封装置3は、パックシールとしてアッセンブリされ、軸受ユニット2の組立現場に持ち込まれる。
【0018】
環状シール部材6を構成するゴム材としては、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、シリコーンゴム(VMQ)、フロロシリコーンゴム(FVMQ)、フッ素ゴム(FKM)等が採用される。
尚、環状シール部材6を弾性樹脂の成型体によって構成することも可能である。
【0019】
前記パックシールとしてアッセンブリされた環状密封装置は、図1に示すように軸受ユニット2の内輪2a及び外輪2bの前記回転軸心Lに沿った両端部(一方の端部は不図示)間に装着される。具体的には、第一環状保持部材4の円筒部4aを内輪2aの外径面に圧嵌し、第二環状保持部材5の円筒部5aを外輪2bの内径面に圧嵌することによって、この装着がなされる。このような装着状態において、ドライブシャフト1及び内輪2aが前記回転軸心L回りに軸回転すると、第一環状保持部材4も回転軸心L回りに軸回転する。第二環状保持部材5は固定側の外輪2bに嵌合一体とされているから、静止状態に維持される。
【0020】
前記環状シール部材6は、前記空間45内に、前記内面451,452に弾接的且つ非固着状態で収納されているので、前記ドライブシャフト1及び内輪2aが回転する際には次のような挙動を示す。即ち、第二環状保持部材5側の内面452と弾接部6bとの接触抵抗が、第一環状保持部材4側の内面451と弾接部6aとの接触抵抗より大きい場合は、該環状シール部材6は、第二環状保持部材5と共に静止状態とされ、弾接部6aと第一環状保持部材4側の内面451とが相対的に弾性摺接する。接触抵抗が逆の場合は、環状シール部材6は、第一環状保持部材4と共に回転し、弾接部6bと第二環状保持部材5側の内面452とが相対的に弾性摺接する。両接触抵抗に大きな差がない場合は、第一環状保持部材4につれ回りする状態と静止状態とが繰返すことになる。
【0021】
前記ドライブシャフト1及び内輪2aの回転中における前記環状シール部材6の挙動によって、第一環状保持部材4及び第二環状保持部材5との間が密封される。従って、前記軸受空間S内に充填される潤滑剤の外部への漏出や、外部からの軸受空間S内への汚泥・塵埃等の侵入が阻止される。前記空間45内における環状シール部材6との空隙部分には、グリース等の潤滑剤(不図示)を充填しておくことが望ましい。これによって、内輪2aの回転時における環状シール部材6と第一環状保持部材4及び/又は第二環状保持部材5との弾性摺接抵抗を少なくして回転トルクの低減を図ることができると共に、軸受空間S内への汚泥・塵埃等の侵入をより効果的に阻止することができる。また、弾接部6a,6bの弾性摺接による経時的な損耗を少なくすることができる。更に、環状シール部材6は前記空間45内に保持されるから、前記回転軸心L方向に沿った移動が規制され、信頼性の高いシール性が維持される。
【0022】
図2〜図6は、前記環状密封装置3の変形例を示し、具体的には、環状シール部材6の種々の形状の例を示している。図2に示す例では、環状シール部材6が、第一環状保持部材4側の内面451に弾接する複数のリップ状弾接部6aと、第二環状保持部材5側の内面452に弾接する複数のリップ状弾接部6bとを備えている。この場合、弾接部6a,6bが多い為、回転トルクが大きくなることが懸念されるが、密封性を向上させることができる。図3は、環状シール部材6として断面が楕円形のOリングを用いた例を示し、環状シール部材6が、楕円形であることから、第一環状保持部材4側の内面451に弾接する2個の弾接部6aと、第二環状保持部材5側の内面452に弾接する2個の弾接部6bとを備えることとなる。この場合、環状シール部材6として市販のOリングを用いることができるというメリットがある。
【0023】
図4は、環状シール部材6としてXリングを用いた例を示している。この例では、環状シール部材6が、第一環状保持部材4側の内面451(鍔部4b)に弾接する2個のリップ状弾接部6aと、第二環状保持部材5側の内面452(鍔部5b)に弾接する2個のリップ状弾接部6bとを備える。この場合、回転トルクが小さくなることと、図3の例と同様に環状シール部材6として市販のXリングを用いることができるメリットがある。図示では、弾接部6a、6bが、それぞれ第一スリンガ4及び第二スリンガ5の鍔部4b、5bに弾接しているが、これら各2個とも、或いは各1個を、円筒部4a,5aに弾接させるようにしても良い。
【0024】
図5の例は、環状シール部材6の断面形状が倒W形状であることを示している。この例の環状シール部材6では、第一環状保持部材4側の内面451(鍔部4b)に弾接する2個のリップ状弾接部6aと、第二環状保持部材5側の内面452(鍔部5b)に弾接する3個のリップ状弾接部6bとを備える。この場合、弾接部6a,6bは、図例のように鍔部4b、5bに弾接しているものに限らず、一部が円筒部4a,5aに弾接しているものでも良い。図6の例は、環状シール部材6の断面形状が倒V形乃至はY形状であることを示している。この例の環状シール部材6では、第一環状保持部材4側の内面451(鍔部4b)に弾接する1個のリップ状弾接部6aと、第二環状保持部材5側の内面452(鍔部5b)に弾接する2個のリップ状弾接部6bとを備える。この場合、弾接部6a,6bは、図例のように鍔部4b、5bに弾接しているものに限らず、円筒部4a,5aに弾接しているものでも良い。図5及び図6の例において、環状シール部材6の断面形状を、倒W形、或いは倒V形乃至はY形としたのは成型性(分割型の型抜き性)を考慮したからであり、可能であれば、他の同様形状であっても良い。
【0025】
図2〜図6に示す環状密封装置3も、図1に示すような軸受ユニット2に適用することにより同様の機能を奏する。そして、環状シール部材6が第二環状保持部材5とは別体に調製されるから、環状密封装置3の生産性に優れ、且つ既製のOリングやXリング等も用いることができ、環状密封装置3の低廉化を図ることもできる。そして、廃棄する場合の分別が簡易で、環境負荷の低減化を図ることができる。
【0026】
図7〜図10は、本発明の環状密封装置の他の実施形態を示す。図1〜図6に示す実施形態では、内輪2a及び外輪2bのそれぞれに嵌合される2つの環状保持部材4,5によって形成される断面方形空間45内に環状シール部材6が収納されている。しかし、図7〜図10に示す実施形態では、2部材の1方に嵌合される1つの環状保持部材と他方の部材の周壁との間に断面略方形の空間が形成され、この空間内に環状弾性シール部材が収納されている。
【0027】
図7に示す環状密封装置3では、内輪2aの外径面に前記と同様に円筒部4aと鍔部4bとよりなる断面L形の環状保持部材4が嵌合され、当該環状密封装置3が装着される外輪2bの内径面(内周壁)2baが段差状に形成され、この段差状の内周壁2baと環状保持部材4とによって、断面略方形の空間40が形成されている。そして、図1に示す例と同様形状の環状シール部材6が、この断面略方形の空間40内に、該空間40の内面に弾接的且つ非固着状態で収納されている。この場合、環状シール部材6は、環状保持部材4の軸受空間S側の面に4箇所で弾接する弾接部6aと、前記外輪2bの内周壁2baに3箇所で弾接する弾接部6cとを備える。従って、この例の環状密封装置3も前記と同様の機能を奏する。
【0028】
図8に示す環状密封装置3では、外輪2bの内径面に前記と同様に円筒部5aと鍔部5bとよりなる断面L形の環状保持部材5が前記とは逆向きに嵌合され、当該環状密封装置3が装着される内輪2aの外径面(外周壁)2aaが段差状に形成され、この段差状の外周壁2aaと環状保持部材5とによって、断面略方形の空間50が形成されている。そして、図1に示す例と同様形状の環状シール部材6が、この断面略方形の空間50内に、該空間50の内面に弾接的且つ非固着状態で収納されている。この場合、環状シール部材6は、環状保持部材5の軸受空間S側の面に4箇所で弾接する弾接部6bと、前記内輪2aの内周壁2aaに3箇所で弾接する弾接部6dとを備える。従って、この例の環状密封装置3も前記と同様の機能を奏する。
【0029】
図9に示す環状密封装置3では、内輪2aの外径面に前記と同様の円筒部4a及び鍔部4bを含む断面L形の部分と、この円筒部4aの他端部に連成された外向きの鍔部4cとよりなる環状保持部材4Aが嵌合され、外輪2bのストレートな内径面と環状保持部材4Aとによって、断面略方形の空間40Aが形成されている。そして、図1に示す例と同様形状の環状シール部材6が、この断面略方形の空間40A内に、該空間40Aの内面に弾接的且つ非固着状態で収納されている。この場合、環状シール部材6は、環状保持部材4Aの内面に5箇所で弾接する弾接部6aと、前記外輪2bの内径面に2箇所で弾接する弾接部6cとを備える。従って、この例の環状密封装置3も前記と同様の機能を奏する。この例では、内輪2aの外径面に環状保持部材4Aを嵌合させた例を示しているが、これに代え、外輪2bの内径面に同形状の環状保持部材を嵌合させて同様の機能を持たせるよう構成しても良い。
【0030】
図10に示す環状密封装置3では、内輪2aが前記回転軸心Lに垂直なハブフランジ2aaを有するハブ輪からなり、外輪2bのストレートな内径面には、前記と同様に円筒部5aと鍔部5bとよりなる断面L形の環状保持部材5が嵌合され、ハブ輪としての内輪2aと環状保持部材5とによって、断面略方形の空間50Aが形成されている。そして、図1に示す例と同様形状の環状シール部材6が、この断面略方形の空間50A内に、該空間50Aの内面に弾接的且つ非固着状態で収納されている。この場合、環状シール部材6は、環状保持部材5の内面に4箇所で弾接する弾接部6bと、ハブフランジ2aaを含むハブ輪(内輪)2aの外周壁に3箇所で弾接する弾接部6eとを備える。従って、この例の環状密封装置3も前記と同様の機能を奏する。
【0031】
図7〜図10に示す例において、内輪2a及び外輪2bのいずれかが回転側となり、他方が固定側となることは、図1〜図6に示す例と同様である。また、図2〜図6に示す環状シール部材6も図7〜図10に示す例に適用し得ることは言うまでもない。
【0032】
尚、例示の実施形態では、本発明の環状密封装置3を図1に示すような軸受ユニット2に適用した例について述べたが、その他の、同軸的に相対回転する2部材間の要密封部位にも適用することはもとより可能である。また、環状シール部材6の断面形状は、図示のものに限定されず、断面略方形の空間内に、その内面に弾接的かつ固着状態で収納し得る形状であれば、他の形状も除外されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
2 軸受ユニット(軸受)
2a 内輪(一方の部材、内方部材、回転側部材)
2b 外輪(他方の部材、外方部材、固定側部材)
3 環状密封装置
4 第一環状保持部材(環状保持部材)
4A 環状保持部材
5 第二環状保持部材(環状保持部材)
45 断面方形の空間
40A,50A 断面略方形の空間
451,452 内面
6 環状シール部材
6a,6b,6c、6d、6e 弾接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸的に相対回転する2部材間に、これらと同軸的に装着されて当該2部材間をシールする環状密封装置であって、
前記2部材の少なくとも一方の部材に嵌合される断面略L形の環状保持部材と、弾性体製の環状シール部材とを含み、該環状保持部材の前記一方の部材に対する嵌合状態では、当該環状保持部材と前記2部材の他方の部材との間に断面略方形の空間を形成するよう構成され、前記環状シール部材が、前記断面方形の空間内に、該空間の内面に弾接的且つ非固着状態で収納されていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の環状密封装置において、
前記環状シール部材は、その断面形状が前記空間の内面に複数箇所で弾接する弾接部を含む形状とされていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の環状密封装置において、
前記2部材の他方の部材に、前記一方の部材に嵌合される環状保持部材と向き合って断面方形の空間を形成するよう嵌合される断面略L形の他方の環状保持部材を更に含み、前記環状シール部材は、この2つの環状保持部材によって形成される前記断面方形の空間内に、該空間の内面に弾接的且つ非固着状態で収納されていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項4】
請求項3に記載の環状密封装置において、
前記弾接部が、前記2つの環状保持部材のそれぞれに少なくとも1箇所で弾接するよう形成されていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の環状密封装置において、
前記弾接部が、リップ状に形成されていることを特徴とする環状密封装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の環状密封装置において、
前記2部材が軸受を構成する内方部材及び外方部材であり、当該内方部材及び外方部材の一方が回転側部材、他方が固定側部材であることを特徴とする環状密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−163412(P2011−163412A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25463(P2010−25463)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】