生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法
【課題】被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する方法等を提供する。
【解決手段】被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における8種のマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体にマーカー物質を捕捉して、体液中のマーカー物質の濃度を算出する構成が推奨される。該評価方法を用いる物質のスクリーニング方法、該評価方法を簡便に行うことができるキットも提供される。
【解決手段】被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における8種のマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体にマーカー物質を捕捉して、体液中のマーカー物質の濃度を算出する構成が推奨される。該評価方法を用いる物質のスクリーニング方法、該評価方法を簡便に行うことができるキットも提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法に関し、さらに詳細には、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における特定のマーカー物質を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法、該評価方法を簡便に行うことができる生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キット、並びに、該評価方法を用いて生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングする物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスに起因する症状・疾患が増大しており、現代社会における大きな問題となっている。一般に、「ストレス」という用語は2つの意味で使われている。1つは主に生体レベルにおける意味であり、生体において誘起有害作用因子(ストレッサー)に反応する「生体内緊張状態」を指す。もう1つは主に細胞レベルにおける意味であり、作用因子そのものを指す(例:高温ストレス、酸化ストレス)。
【0003】
生体内緊張状態(生体におけるストレス)を緩和したり、その誘導を抑制したりすることが、ストレスに起因する疾患の予防や治療に有用である。そのために、生体内緊張状態を反映するバイオマーカーに注目が集まっている。すなわち、そのようなバイオマーカーを用いることにより、被験物質が生体内緊張状態を緩和したり、誘導を抑制する効果を有するか否かを容易に調べることが可能となり、食品素材等のスクリーニングに有用である。そして、そのような評価・スクリーニング系で選抜された食品素材を日常的に摂取することで、無用の生体内緊張状態を回避することが可能となる。
【0004】
生体内緊張状態を反映する血中のマーカーとしては、グルタチオンやコルチゾールが古くから知られている。ただし、これらは低分子化合物であるため代謝が早く、ストレスのない状態における血中濃度の変動が大きい。そこで、ストレスのない状態における変動がより小さいタンパク質のマーカーが探索されており、いくつかのタンパク性ストレスマーカーが見出されている(特許文献1,2)。
【特許文献1】特開平7−181180号公報
【特許文献2】特開2007−225606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生体内緊張状態を反映するバイオマーカーを新たに特定し、当該バイオマーカーを用いて被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価するための一連の技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(M1)〜(M8)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
(M1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9310のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13800のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約17700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約19600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39900のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約77000のイオンピークを生じるタンパク質。
【0007】
本発明は生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法に係るものであり、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における上記(M1)〜(M8)の8種のマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、当該被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価するものである。上記マーカー物質(M1)〜(M9)は、いずれも体液中に存在するタンパク質であり、生体内緊張状態を反映するものである。本発明によれば、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を、容易かつ高精度に評価することができる。なお、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0008】
ここで「生体内緊張状態の緩和効果」とは、緊張状態にある生体に対して緊張を緩和、軽減、抑制等する効果を指し、当該効果によって生体は緊張状態から解放される方向に向かう。また「生体内緊張状態の誘導抑制効果」とは、平静状態にある生体に対して緊張状態が誘導されることを抑制、阻止する効果を指す。当該効果によって、生体は平静状態を維持する方向に向かう。そして本発明では、被験物質が有する「生体内緊張状態の緩和効果」又は「生体内緊張状態の誘導抑制効果」を評価する。
【0009】
ここで、各マーカー物質における質量/電荷比(以下、「m/z」と略記することもある。)の「約6020」、「約17700」、「約77000」等の値は、質量分析における測定値の誤差範囲を考慮した値であり、概ね±0.2%の幅を有する。すなわち、約6020は概ね6020±0.2%、約17700は概ね17700±0.2%、約77000は概ね77000±0.2%を表す。他の質量/電荷比についても全く同様に、概ね±0.2%の幅を有する。また、これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質である。被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(M3)及び(M4)の濃度はより低値を示し、マーカー物質(M1)、(M2)、(M5)、(M6)、(M7)、及び(M8)の濃度はより高値を示す。
【0010】
請求項2に記載の発明は、下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
(1)マーカー物質(M1)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M3)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M4)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はトランスフェリン又はその修飾体である。
【0011】
血清アルブミン(Serum Albumin)、プロアポリポタンパク質A2(Pro-Apolipoprotein A2)、トランスサイレチン(Transthyretin)、トランスフェリン(Transferrin)はいずれも物理化学的性質がよく知られているので、本発明によればマーカー物質(M1)、(M2)、(M3)、(M4)、(M8)の解析が容易である。
【0012】
「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質である。「修飾」には化合物や官能基の付加(例:リン酸化)のみならず、脱離(例:脱リン酸化)も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。さらに「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0013】
同様の課題を解決するための請求項3に記載の発明は、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)プロアポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(A3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(A4)トランスフェリン又はその修飾体。
【0014】
本発明も生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法に係るものであり、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における上記(A1)〜(A4)のいずれかに属するマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、当該被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価するものである。上記(A1)〜(A4)に属するマーカー物質は、いずれも体液中に存在するタンパク質であり、生体内緊張状態を反映するものである。本発明によれば、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を、容易かつ高精度に評価することができる。特に、血清アルブミン、プロアポリポタンパク質A2、トランスサイレチン、トランスフェリンはいずれも物理化学的性質がよく知られているので、解析が容易である。なお本発明においても、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0015】
本発明においても「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質であり、「修飾」には化合物や官能基の付加のみならず、脱離も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォーム、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質、並びに、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。さらに、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0016】
前記動物は、被験物質を投与した後にストレスを与えた動物であることが好ましい(請求項4)。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記基準値は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有さない既知物質を投与すると共にストレスを与えた動物の体液中における前記マーカー物質の濃度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0018】
かかる構成により、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を、より容易かつ高精度に評価することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0020】
かかる構成により、測定試料となる体液を簡単に採取でき、より簡便かつ迅速に、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、前記被験物質は、食品素材又は医薬品素材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0022】
かかる構成により、機能性食品又は医薬品の開発を目的として、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明は、前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0024】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を使用する。そして、該担体に体液又は体液成分を接触させて、体液又は体液成分に含まれるマーカー物質を、マーカー物質に対する親和性を有する物質を介して担体上に捕捉し、捕捉されたマーカー物質の量に基づいて体液中のマーカー物質の濃度を算出する。本発明によれば、担体上に捕捉されたマーカー物質を測定対象とするので、測定試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、体液成分の例としては、体液が血液である場合の血清又は血漿が挙げられる。
【0025】
請求項9に記載の発明は、前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0026】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法では、平面部分を有する担体を用い、マーカー物質に対する親和性を有する物質は該平面部分の一部に固定化されている。かかる構成により、マーカー物質に対する親和性を有する物質を、担体上の複数箇所にスポット的に固定化することができる。その結果、1個の担体で複数の測定試料を同時処理することや、1個の担体で複数のマーカー物質の濃度を同時測定することが可能となり、作業効率がよい。さらに、各スポットの面積を小さくすることにより、微量の測定試料からでもマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、平面部分を有する担体の例としては、チップ等の基板が挙げられる。
【0027】
請求項10に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項8又は9に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0028】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質としてイオン交換体又は抗体を用い、イオン交換体又は抗体を介して測定試料中のマーカー物質を担体上に捕捉する。当該物質がイオン交換体の場合は各種のものが入手容易であり、マーカー物質を捕捉するための担体を容易に調製することができる。また、当該物質が抗体の場合は、より特異的にマーカー物質を捕捉することができる。捕捉されたマーカー物質の量を測定する方法としては、質量分析、イムノアッセイ(抗体の場合)が挙げられる。
【0029】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法によって被験物質を評価し、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法である。
【0030】
本発明は物質のスクリーニング方法にかかり、動物の体液中における上記(M1)〜(M8)の各マーカー物質および上記(A1)〜(A4)に属する各マーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするものである。上記(M1)〜(M8)の各マーカー物質および上記(A1)〜(A4)に属する各マーカー物質は、いずれも体液中に存在するタンパク質であり、生体内緊張状態を反映するものである。本発明の物質のスクリーニング方法によれば、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。例えば、被験物質が食品素材の場合は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する機能性食品の開発に有用な食品素材をスクリーニングすることができる。
【0031】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キットである。
【0032】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む。かかる構成により、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0033】
請求項13に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項12に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キットである。
【0034】
かかる構成により、マーカー物質をより確実に担体上に捕捉することができる。
【0035】
生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするために使用される構成が推奨される(請求項14)。
【発明の効果】
【0036】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法によれば、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を、容易かつ高精度に評価することができる。
【0037】
本発明の物質のスクリーニング方法によれば、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。
【0038】
本発明の生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価用キットによれば、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0040】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法は2つの様相を含む。1つの様相では、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(M1)〜(M8)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する。
(M1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9310のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13800のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約17700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約19600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39900のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約77000のイオンピークを生じるタンパク質。
【0041】
これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質であり、生体内緊張状態を反映するものである。なお、(M3)及び(M4)の各マーカー物質(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ1」と称することがある。)は、生体が緊張状態にある場合により高値を示すものであるので、被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する場合には、当該被験物質を投与した動物においてより低値を示す。一方、(M1)、(M2)、(M5)、(M6)、(M7)、及び(M8)の各マーカー物質(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ2」と称することがある。)は、生体が緊張状態にある場合により低値を示すものであるので、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する場合には、当該被験物質を投与した動物においてより高値を示す。
【0042】
ある条件のペプチドマッピングによれば、マーカー物質(M1)は血清アルブミン、マーカー物質(M3)と(M4)はトランスサイレチン、マーカー物質(M5)はトランスフェリン、と同定され得る。また、ある条件のペプチドマッピングと分子量、等電点の情報から、マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2と同定され得る。すなわち、ある実施形態では、下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たす。
(1)マーカー物質(M1)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M3)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M4)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はトランスフェリン又はその修飾体である。
【0043】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法の他の様相では、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)プロアポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(A3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(A4)トランスフェリン又はその修飾体。
【0044】
なお、マウス由来の血清アルブミン、プロアポリポタンパク質A2、トランスサイレチン、及びトランスフェリンのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1〜4に示すとおりである。
【0045】
タンパク質の修飾の例としては、N末端αアミノ基やリジンεアミノ基のメチル化、アセチル化、アデニリル化、ミリスチル化等;セリン・スレオニン・アスパラギンへの糖又は糖鎖の付加;セリン・スレオニン・チロシン・アルギニン・ヒスチジンのリン酸化;システインのシステイニル化、ホモシステイニル化、スルホニル化等;グルタミン酸のγ−カルボキシル化;N末端グルタミン酸のピログルタミン酸への変換、等が挙げられる。また、これらの修飾の脱離(脱メチル化、糖又は糖鎖の脱離、脱リン酸化等)も「修飾」に含まれる。
【0046】
「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。アイソフォームとしては、前記した各種の修飾の他、選択的スプライシングによって生じたタンパク質が挙げられる。さらに、「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。例えば、当該タンパク質由来と認められうる長さのタンパク質断片、例えば20個以上のアミノ酸残基からなるタンパク質断片、分子量が2千以上のタンパク質断片、等が挙げられる。また、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0047】
例えば、血清アルブミン(配列番号1)のアミノ酸番号553(Ala)〜608(Ala)に相当する55アミノ酸からなるタンパク質断片(配列番号5)は「血清アルブミンの修飾体」に含まれる。
【0048】
プロアポリポタンパク質A2(配列番号2)のC末端アミノ酸残基(Lys)が欠損したタンパク質断片(配列番号6)は、「プロアポリポタンパク質A2の修飾体」に含まれる。
【0049】
トランスサイレチン(プレアルブミンとも呼ばれる)は分子量約1万4千のサブユニット4個からなる複合タンパク質である。トランスサイレチンについては、その唯一のCys残基が修飾を受けた種々の修飾トランスサイレチンが見出されている(Amareth Lim et al., J. Biol. Chem., vol. 258, No. 50, 2003)。後述の実施例4に示したように、マウス由来トランスサイレチン(配列番号3)のCys残基にスルホン酸が付加したS−スルホン化トランスサイレチンは「トランスサイレチンの修飾体」に含まれる。
【0050】
本発明の生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価方法では、(M1)〜(M8)の各マーカー物質並びに(A1)〜(A4)に属する各マーカー物質の1つだけを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。複数を用いる場合の組み合わせ方については特に限定はないが、例えば、グループ1から選択したマーカー物質(1つ又は複数)とグループ2から選択したマーカー物質(1つ又は複数)とを組み合わせることができる。
【0051】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法における好ましい実施形態では、上記基準値として、「生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有さない既知物質」(以下、「効果のない既知物質」と称する。)を投与すると共にストレスを与えた動物の体液中における上記マーカー物質の濃度を用いる。すなわち、動物に、効果のない既知物質を投与すると共にストレスを与えた場合、その体液中の上記マーカー物質の濃度は「異常値」となる。そして、被験物質を投与した上記動物における値(測定値)と当該基準値(異常値)とを比較し、測定値が基準値と有意に差がありかつ正常側である場合(正常側に維持された場合)に、当該被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。具体的には、グループ1に属するマーカー物質を指標とする場合は、測定値が当該基準値に比べて有意に低いときに、一方、グループ2に属するマーカー物質を指標とする場合は、測定値が基準値に比べて有意に高いときに、当該被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0052】
さらに、基準値は複数あってもよい。例えば、上記の異常値に加え、ストレスを与えない動物における値(正常値。陰性対照。)を基準値に加えることができる。具体的には、(1)効果のない既知物質又は被験物質を投与すると共にストレスを与えない群(正常値を示す群)、(2)効果のない既知物質を投与すると共にストレスを与える群(異常値を示す群)、及び、(3)被験物質を投与すると共にストレスを与える群、の計3群を設定し、動物を飼育する。そして、各動物の体液中の上記マーカー物質を測定し、各測定値を比較する。このとき、(1)と(2)とで有意差があり、(3)と(2)とで有意差があり、かつ(3)が(2)に比べて正常側((1)に近い側)である場合(正常側に維持された場合)に、当該被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0053】
さらに、基準値として、(4)「生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する既知物質」(効果のある既知物質)を投与すると共にストレスを与える群、における値(陽性対照)を加えることもできる。具体的には、上記(1)〜(3)に加えて、上記(4)の群を設定し、動物を飼育する。このとき、(1)と(2)とで有意差があり、(3)と(2)とで有意差があり、かつ(3)が(2)に比べて正常側((1)及び(4)に近い側)である場合に、当該被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。すなわち、このような被験物質は、(4)で採用した上記既知物質と同様の挙動を示し、同様の作用を有する物質といえる。
【0054】
ここで「生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する既知物質」(効果のある既知物質)を含む素材の例としては、ケツメイシが挙げられる。ケツメイシには血中グルタチオン濃度を増加させる効果があることが知られている(例えば、特開2004−2231号公報)。また、拘束ストレスによって血中グルタチオン濃度が減少することが知られている(道解公一ら,「拘束ストレスによる脳および血液中グルタチオンの応答性」,産業衛生学雑誌,社団法人日本産業衛生学会,2002年,第44巻,p.262)。
【0055】
本発明では「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」を用いるが、被験物質の投与とストレス付与の順番については特に限定はない。例えば、被験物質の投与後にストレスを与えてもよいし、ストレスを先に与えてから被験物質を投与してもよい。被験物質の投与と並行してストレスを与えてもよい。被験物質の投与経路としては、経口投与が代表的であるが、他の経路によって投与してもよい。
【0056】
動物に与えるストレス(作用因子)の種類としては特に限定はなく、例えば、拘束、行動制限、騒音、寒冷のような物理的ストレス、薬物投与のような化学的ストレス、炎症、感染のような生物的ストレス、不安、怒りのような心理的ストレス、を挙げることができる。
【0057】
「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」における動物の種類には特に限定はなく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ等を採用することができる。さらに、動物としてヒトを採用することもできる。この場合には、臨床試験の結果によって被験物質が有する効果を評価することになる。
【0058】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法において使用する動物の体液としては、血液が好ましく用いられる。特に、血液から調製した血清又は血漿(体液成分)を測定試料とすることが好ましい。血清又は血漿は遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0059】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法における被験物質としては、食品素材、医薬品素材などが挙げられる。例えば、食品素材を評価対象とする場合は、機能性食品の開発に役立てることができる。
【0060】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法において、マーカー物質の濃度を測定する方法は、そのマーカー物質の濃度を特異的に測定できる方法であれば、タンパク質の定量に一般に用いられている方法をそのまま用いることができる。例えば、各種のイムノアッセイ、質量分析(MS)、クロマトグラフィー、電気泳動等を用いることができる。
【0061】
イムノアッセイによれば、夾雑物質の多い試料のままでも正確にマーカー物質の濃度を測定することができる。イムノアッセイの例としては、抗原抗体結合物を直接的又は間接的に測定する沈降反応、凝集反応、溶血反応などの古典的な方法や、標識法と組み合わせて検出感度を高めたエンザイムイムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)等の方法が挙げられる。なお、これらのイムノアッセイに用いるマーカー物質に特異的な抗体は、モノクローナルでもよいし、ポリクローナルでもよい。
【0062】
質量分析によれば、各マーカー物質由来のイオンピークを特定し、そのイオンピーク強度をもって各マーカー物質の量(濃度)を測定することができる。質量分析によってマーカー物質の濃度を測定する場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time-of-flight mass spectrometer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカー物質由来のイオンピークを特定することができる。
【0063】
電気泳動によりマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、検査材料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供して目的のマーカー物質を分離し、適宜の色素や蛍光物質でゲルを染色し、目的のマーカー物質に相当するバンドの濃さや蛍光強度を測定すればよい。SDS−PAGEだけではマーカー物質の分離が不十分な場合は、等電点電気泳動(IEF)と組み合わせた2次元電気泳動を用いることもできる。さらに、ゲルから直接検出するのではなく、ウエスタンブロッティングを行って膜上のマーカー物質の量を測定することもできる。
【0064】
クロマトグラフィーによってマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)による方法を用いることができる。すなわち、試料をHPLCに供して目的のマーカー物質を分離し、そのクロマトグラムのピーク面積を測定することにより試料中のマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0065】
好ましい実施形態では、マーカー物質を担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカー物質を測定対象とする。すなわち、マーカー物質に対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカー物質を担体上に捕捉する。そして、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。本実施形態において用いることができる担体の例としては、ビーズ、金属、ガラス、樹脂等のような一般的なものの他、基板のような、平面部分を有する担体を用いることができる。基板を用いる場合は、その平面部分の一部にマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基板としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカー物質に親和性を有する物質を固定化した担体が挙げられる。なお「親和性」の例としては、イオン結合、金属キレート体とタンパク質中のヒスチジン残基等とのアフィニティ、抗原と抗体、酵素と基質、若しくはホルモンとレセプターのようなバイオアフィニティ、及び、疎水性相互作用のような化学的な相互作用、が挙げられる。
【0066】
イオン結合によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陽イオン交換体、陰イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体のいずれも用いることができるが、強陰イオン交換体と弱陽イオン交換体が好ましく用いられる。強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。
【0067】
金属キレート体を介してマーカー物質を捕捉する場合は、例えば、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Al3+、Fe3+、Ga3+等の金属キレート体を固定化した担体を用いることができる。
【0068】
抗体によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、マーカー物質に特異的な抗体を担体に固定化すればよい。
【0069】
疎水性相互作用によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0070】
本実施形態においてマーカー物質の測定方法にイムノアッセイを用いる場合は、抗体を固定化した担体を用いることが好ましい。このようにすれば、担体に固定化された抗体を1次抗体としたイムノアッセイの系を簡単に構築することができる。例えば、マーカー物質に特異的でエピトープの異なる2種類の抗体を用意し、一方を1次抗体として担体に固定化し、他方を2次抗体として酵素標識し、サンドイッチEIAの系を構築することができる。その他、結合阻止法や競合法によるイムノアッセイの系も構築可能である。さらに、担体として基板を用いる場合は、抗体チップによるイムノアッセイが可能である。抗体チップによれば、複数のマーカー物質の濃度を同時に測定でき、迅速な測定が可能である。
【0071】
一方、本実施形態において質量分析を用いる場合は、例えば、抗体の他、イオン交換体、金属キレート体又は疎水基を固定化した担体を用いることができる。なお、これらの物質による結合は抗原と抗体等のバイオアフィニティほどの特異性がないので、これらの物質を固定化した担体を用いる場合はマーカー物質以外の物質も担体上に捕捉されうるが、質量分析によれば分子量を反映した質量分析計スペクトルによって定量するので、問題はない。特に、担体として基板を用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface-enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time-of-flight mass spectrometry)(以下、「SELDI−TOF−MS」と称する)を行うことにより、マーカー物質の濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に弱陽イオン交換基板と、陰イオン交換基板、特に強陰イオン交換基板が好ましく用いられる。
【0072】
本発明の物質のスクリーニング方法は、本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法によって被験物質を評価し、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするものである。本発明の物質のスクリーニング方法においても、上記した本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法の実施形態と全く同様の実施形態をとることができる。
【0073】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法を簡便に行なうために、必要な試薬類をまとめて評価用キットを構築することができる。当該評価用キットとしては、例えば、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むものが挙げられる。特に、担体として、CM等の弱陽イオン交換体、あるいはQAやQAE等の強陰イオン交換体を固定化した基板を含めた評価用キットによれば、SELDI−TOF−MS等を簡便に行なうことができる。本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、前処理用の各種緩衝液等を含めてもよい。なお本キットは、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするためのキットとしても使用できる。本発明のキットの構成例を以下に挙げる。
【0074】
〔キットの構成例〕
(1)弱陽イオン交換基板:1枚
(2)強陰イオン交換基板:1枚
(3)基板洗浄用バッファーA(pH3.0):適量
(4)基板洗浄用バッファーB(pH9.0):適量
(5)各マーカー物質の標準品:各適量
【0075】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
1.動物の飼育と体液試料の調製
予備飼育を終えたC57BL/6マウス(雄、6週齢)を、与える飲水の種類と拘束ストレス付加の有無の組み合わせが異なる以下の4群に分けた。各群の個体数は8以上とした。
【0077】
第1群:通常飲水(1週間)+拘束ストレス負荷なし(17時間)
第2群:通常飲水(1週間)+拘束ストレス負荷あり(17時間)
第3群:ケツメイシ抽出物飲水(1週間)+拘束ストレス負荷あり(17時間)
第4群:ケツメイシ抽出物飲水(1週間)+拘束ストレス負荷なし(17時間)
すなわち、第1群はストレスに起因する症状が発症しない群、第2群はストレスに起因する症状が発症する群、第3群はストレスに起因する症状が抑制される群、に相当する。第4群はケツメイシの作用検証用の群である。
【0078】
各群について通常飲水(第1群、第2群)又はケツメイシ抽出物飲水(第3群、第4群)を1週間与え、その後17時間は絶飲絶食すると共に第2群と第3群にのみ拘束ストレス負荷を与えた。第3群と第4群のケツメイシ摂取量は1日1匹あたり2mg(0.1g/kg/日)となるようにした。17時間の拘束ストレス付与又は非付与の後、第1群と第4群について各8匹、第2群と第3群について各9匹のマウスを屠殺した。各マウスから血液を採取し、血漿サンプルを調製した。
【0079】
2.プロテインチップによる解析とイオンピークの選抜
採取した各血漿サンプル20μLに、変性バッファー(9M 尿素、2% CHAPS、50mM Tris−HCl(pH9.0))30μLを加えて前処理を行い、タンパク質を変性させた。次に、前処理した各体液試料を強陰イオン交換樹脂カラム(Q-Sepharose、GEヘルスケア社)にアプライした。次いで、pH9.0の緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、0.1%(w/v)1−o−N−オクチル−β−D−グルコピラノシド(以下、「OGP」と称する。))、pH5.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH3.0の緩衝液(50mM クエン酸ナトリウム(pH3.0)、0.1%(w/v)OGP)、及び有機溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸、50.0%アセトニトリルからなる混合液)各200μLで順に溶出させ、画分1(pH9.0で溶出、素通り)、画分2(pH5.0で溶出)、画分3(pH3.0で溶出)、画分4(有機溶媒で溶出)の4つの粗分画画分を得た。
【0080】
得られた各画分10μLをpH3.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM クエン酸ナトリウム)で10倍希釈した後、弱陽イオン交換チップCM10(バイオラッド社)に添加した。同様に、得られた各画分10μLをpH9.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0))で10倍希釈した後、強陰イオン交換チップQ10(バイオラッド社)に添加した。各チップを各結合バッファーで3回洗浄した後に脱イオン水で1回洗浄し、乾燥させた。次に、エネルギー吸収分子であるシナピン酸(SPA−H、SPA−L)又はα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を添加し、プロテインチップリーダーModel PBS IIc(バイオラッド社)を用いて、SELDI−TOF−MSを行なった。なお、測定分子量範囲(m/z)は、3000〜200000の範囲で行なった。また、測定は2連で行い、m/zの平均値を算出した。データ解析は、Protein Chip Software、CiphergenExpress Data Manager、及びBiomarker Patterns Software(いずれもバイオラッド社)を用いて行なった。具体的には、ベースライン補正、分子量校正、スペクトルの正規化処理を行なった後、シングルマーカー解析及び数本のマーカーを組み合わせたマルチフロー解析を行なった。その結果、粗分画画分の種類、プロテインチップの種類、チップの洗浄条件等の組み合わせによって多数のピークが検出された。各ピークについて、p値(Mann−Whitney検定法)、ROC面積、及びイオンピーク強度を算出し、さらに、以下の(1)〜(3)の条件を指標として8個の候補ピークを選抜した。
【0081】
(1)候補ピーク探索(基本)
第1群と第2群との間でイオン強度に有意差がある(p<0.05)。
(2)ケツメイシ効果検証
第2群と第3群との間でイオン強度に有意差があり(p<0.05又は0.1)、かつ第3群の値の方が第2群の値よりも第1群の値に近い(第3群の値が第1群側に復帰している)。
(3)増減パターン解析
第2群のみが高値または低値を示し、第1群、第3群および第4群の間ではあまり差がない。なお、第3群と第4群との間に差があっても、第4群の値の方が第3群の値よりも第2群から離れている場合には本条件を満たすものとして取り扱う。
【0082】
3.マーカー物質(M1)の特定
画分3(pH3.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が6020(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図1に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。図中、髭の上端と下端はそれぞれ最大値と最小値、箱の上辺と下辺はそれぞれ第3四分位(75パーセンタイル)と第1四分位(25パーセンタイル)、箱の中の線は中央値である(図2以降も同じ)。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0083】
ROC面積(第1群vs第2群):0.712
p値(第1群vs第2群):0.0324
ROC面積(第2群vs第3群):0.744
p値(第2群vs第3群):0.0086
【0084】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6020のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M1))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M1)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約6020のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0085】
4.マーカー物質(M2)の特定
画分1(pH9.0)を強陰イオン交換チップQ10に接触させ、pH9.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が9312(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図2に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0086】
ROC面積(第1群vs第2群):0.771
p値(第1群vs第2群):0.0058
ROC面積(第2群vs第3群):0.701
p値(第2群vs第3群):0.0462
【0087】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約9310のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M2))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M2)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約9310のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0088】
5.マーカー物質(M3)の特定
画分2(pH5.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が13664(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で低値を示し、第2群で高値を示した。図3に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0089】
ROC面積(第1群vs第2群):0.819
p値(第1群vs第2群):0.0013
ROC面積(第2群vs第3群):0.744
p値(第2群vs第3群):0.0072
【0090】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約13700のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M3))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M3)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約13700のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0091】
6.マーカー物質(M4)の特定
画分2(pH5.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が13762(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で低値を示し、第2群で高値を示した。図4に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0092】
ROC面積(第1群vs第2群):0.778
p値(第1群vs第2群):0.0058
ROC面積(第2群vs第3群):0.701
p値(第2群vs第3群):0.0290
【0093】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約13800のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M4))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M4)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約13800のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0094】
7.マーカー物質(M5)の特定
画分3(pH3.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が17724(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図5に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0095】
ROC面積(第1群vs第2群):0.792
p値(第1群vs第2群):0.0052
ROC面積(第2群vs第3群):0.701
p値(第2群vs第3群):0.0268
【0096】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約17700のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M5))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M5)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約17700のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0097】
8.マーカー物質(M6)の特定
画分4(有機溶媒)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が19632(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図6に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0098】
ROC面積(第1群vs第2群):0.753
p値(第1群vs第2群):0.0071
ROC面積(第2群vs第3群):0.701
p値(第2群vs第3群):0.0290
【0099】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約19600のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M6))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M6)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約19600のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0100】
9.マーカー物質(M7)の特定
画分2(pH5.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が39922(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図7に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0101】
ROC面積(第1群vs第2群):0.736
p値(第1群vs第2群):0.0228
ROC面積(第2群vs第3群):0.667
p値(第2群vs第3群):0.0619
【0102】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約39900のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M7))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M7)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約39900のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0103】
10.マーカー物質(M8)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が76959(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図8に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0104】
ROC面積(第1群vs第2群):0.795
p値(第1群vs第2群):0.0034
ROC面積(第2群vs第3群):0.657
p値(第2群vs第3群):0.0665
【0105】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約77000のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M8))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M8)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約77000のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0106】
なお、ヒトの体液中にもマーカー物質(M1)〜(M8)と同等のタンパク質が存在する場合には、ヒトの体液中における当該タンパク質の濃度を指標として、生体における緊張状態を診断できる可能性も示唆された。
【実施例2】
【0107】
マーカー物質(M1)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q-Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。ICRマウスヘパリン血漿(清水実験材料社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて変性処理した後、平衡化した前記カラムに添加した。2.5カラム体積(CV)の50mM Tris−HCl(pH9.0)、5CVの100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、及び5CVの50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)で順に洗浄した後、5CVの33.3% イソプロパノール/16.7 アセトニトリル/0.1% TFAで溶出した。回収した溶出画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0108】
弱陽イオン交換カラムHiTrap CM FF 1mL(GEヘルスケア社)を50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)にて平衡化し、前記溶出画分を添加した。5CVの50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)でカラムを洗浄した後、5CVの50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)/100mM NaClで溶出し、ピーク画分を分取した。分取した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0109】
分取した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A2Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図9)。図9中、レーン1〜3はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約6.0kDaのバンド(図9の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図10の矢印)。
【0110】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約6.0kDaのバンドを切り出し、還元アルキル化処理した後、0.01μg/μLのトリプシン溶液(50mM 炭酸水素アンモニウム(pH8.0)に溶解)を作用させてゲル内で消化した。消化したサンプル1μLを金属プレート上に滴下し、飽和CHCA溶液0.4μLをさらに滴下して乾燥させた後、質量分析計Proteomics Analyzer 4700(アプライドバイオシステムズ社)で測定したところ、少なくとも2個のピークが検出され、それらの精密質量は、「1850.84」及び「1981.99」と算出された。これらのデータを元にMascotデータベース(マトリックスサイエンス社)によって既知タンパク質を検索し、ペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号8,9で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「血清アルブミン」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第1表に示す。既報の血清アルブミンのアミノ酸配列を配列番号1に示す。さらに、血清アルブミン(配列番号1)のN末端側55アミノ酸に相当するタンパク質断片(配列番号5)の予想される等電点が5.65、分子量が6019であり、これらの値がマーカー物質(M1)の物性とよく一致した。これにより、マーカー物質(M1)は血清アルブミンの断片(配列番号5)と最終的に同定された。
【0111】
【表1】
【実施例3】
【0112】
マーカー物質(M2)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q-Ceramic Hyper DF(日本ポール社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。マウス標準血漿(Pel-Freez社)300μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を450μL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。素通り画分を回収した。回収した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M2)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0113】
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、2次元電気泳動(1次元目:Immobiline DryStrip pH6-11, 7cm(GEヘルスケア社)、2次元目:ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A2T(DRC社))を行った(図11)。矢印で示したスポット(質量:約9.3kDa、等電点:約5.8)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M2)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図12の矢印)。
【0114】
あらためて同様の2次元電気泳動を行って同様のスポットを切り出し、実施例2と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも3個のピークが検出され、それらの精密質量は「1193.66」、「1657.79」、及び「1831.97」と算出された。これらのデータを元に実施例2と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号10〜12で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質A2」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第2表に示す。既報のアポリポタンパク質A2のアミノ酸配列を配列番号7に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
成熟型のアポリポタンパク質A2(配列番号7、分子量:8736、等電点:4.94)は、プロアポリポタンパク質A2(配列番号2)のN末端側5アミノ酸からなるプロペプチド(ALVKR)が切断されて生成される。また、プロアポリポタンパク質A2のC末端のLysは切断され得ることが知られている(Yamagishi et al., Nucleic Acids Research, vol. 14, No. 14, 1986)。プロアポリポタンパク質A2のC末端のLysが脱落したタンパク質断片(配列番号6;プロアポリポタンパク質A2の修飾体)の予想される等電点が5.76、分子量が9304であり、これらの値がマーカー物質(M2)の物性とよく一致した。これにより、マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2の断片(配列番号6)と最終的に同定された。
【実施例4】
【0117】
マーカー物質(M3)と(M4)の精製と同定
強陰イオン交換カラムHiTrap Q HP 1mL(GEヘルスケア社)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。マウス標準血漿(Pel-Freez社)1mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を1.5mL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)、50mM Tris−HCl(pH7.0)で順に洗浄した後、50mM Tris−HCl(pH7.0)/50mM NaClで溶出した。溶出画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M3)、(M4)と同等の質量/電荷比を示す各ピークを確認した。
【0118】
分取した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図13)。図13中、レーン1〜6はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約13.8kDaのバンド(図13の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M3)と同等の質量/電荷比を示すピーク(図14の矢印a)並びにマーカー物質(M4)と同等の質量/電荷比を示すピーク(図14の矢印b)を確認した。
【0119】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約13.8kDaのバンドを切り出し、実施例2と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも8個のピークが検出され、それらの精密質量は「1510.75」、「1382.65」、「1587.79」、「2438.25」、「869.46」、「1554.85」、「2517.28」、及び「2597.38」と算出された。これらのデータを元に実施例2と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号13〜20で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「トランスサイレチン」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第3表に示す。既報のトランスサイレチンのアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
上述したように、トランスサイレチンについては、その唯一のCys残基が修飾を受けた種々の修飾トランスサイレチンが見出されている。その電荷/質量比から、マーカー物質(M3)は非修飾トランスサイレチン、マーカー物質(M4)はS−スルホン化トランスサイレチンであると考えられた。
【実施例5】
【0122】
マーカー物質(M8)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q-Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(80μL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。マウス標準血漿(Pel-Freez社)40μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を60μL加えて変性処理した後、平衡化した前記カラムに添加した。素通り画分を回収した。回収した溶出画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M8)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0123】
溶出画分の一部をアセトン沈殿処理した後、7.5%ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEを行った(図15)。図15中、レーン1,2はいずれも溶出画分、Mは分子量マーカーである。分離された約77kDaのバンド(図15の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図16の矢印)。
【0124】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約77kDaのバンドを切り出し、実施例2と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも8個のピークが検出され、それらの精密質量は「878.48」、「951.53」、「1171.58」、「1419.79」、「1579.72」、「1639.78」、「2008.00」、及び「2741.22」と算出された。これらのデータを元に実施例2と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号21〜28で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「トランスフェリン」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第4表に示す。既報のトランスサイレチンのアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0125】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】質量/電荷比が6020(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図2】質量/電荷比が9312(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図3】質量/電荷比が13664(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図4】質量/電荷比が13762(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図5】質量/電荷比が17724(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図6】質量/電荷比が19632(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図7】質量/電荷比が39922(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図8】質量/電荷比が76959(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図9】実施例2で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図10】実施例2で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図11】実施例3で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図12】実施例3で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図13】実施例4で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図14】実施例4で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図15】実施例5で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図16】実施例6で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法及び評価用キット、並びに、物質のスクリーニング方法に関し、さらに詳細には、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における特定のマーカー物質を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法、該評価方法を簡便に行うことができる生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キット、並びに、該評価方法を用いて生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングする物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスに起因する症状・疾患が増大しており、現代社会における大きな問題となっている。一般に、「ストレス」という用語は2つの意味で使われている。1つは主に生体レベルにおける意味であり、生体において誘起有害作用因子(ストレッサー)に反応する「生体内緊張状態」を指す。もう1つは主に細胞レベルにおける意味であり、作用因子そのものを指す(例:高温ストレス、酸化ストレス)。
【0003】
生体内緊張状態(生体におけるストレス)を緩和したり、その誘導を抑制したりすることが、ストレスに起因する疾患の予防や治療に有用である。そのために、生体内緊張状態を反映するバイオマーカーに注目が集まっている。すなわち、そのようなバイオマーカーを用いることにより、被験物質が生体内緊張状態を緩和したり、誘導を抑制する効果を有するか否かを容易に調べることが可能となり、食品素材等のスクリーニングに有用である。そして、そのような評価・スクリーニング系で選抜された食品素材を日常的に摂取することで、無用の生体内緊張状態を回避することが可能となる。
【0004】
生体内緊張状態を反映する血中のマーカーとしては、グルタチオンやコルチゾールが古くから知られている。ただし、これらは低分子化合物であるため代謝が早く、ストレスのない状態における血中濃度の変動が大きい。そこで、ストレスのない状態における変動がより小さいタンパク質のマーカーが探索されており、いくつかのタンパク性ストレスマーカーが見出されている(特許文献1,2)。
【特許文献1】特開平7−181180号公報
【特許文献2】特開2007−225606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生体内緊張状態を反映するバイオマーカーを新たに特定し、当該バイオマーカーを用いて被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価するための一連の技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(M1)〜(M8)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
(M1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9310のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13800のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約17700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約19600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39900のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約77000のイオンピークを生じるタンパク質。
【0007】
本発明は生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法に係るものであり、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における上記(M1)〜(M8)の8種のマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、当該被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価するものである。上記マーカー物質(M1)〜(M9)は、いずれも体液中に存在するタンパク質であり、生体内緊張状態を反映するものである。本発明によれば、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を、容易かつ高精度に評価することができる。なお、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0008】
ここで「生体内緊張状態の緩和効果」とは、緊張状態にある生体に対して緊張を緩和、軽減、抑制等する効果を指し、当該効果によって生体は緊張状態から解放される方向に向かう。また「生体内緊張状態の誘導抑制効果」とは、平静状態にある生体に対して緊張状態が誘導されることを抑制、阻止する効果を指す。当該効果によって、生体は平静状態を維持する方向に向かう。そして本発明では、被験物質が有する「生体内緊張状態の緩和効果」又は「生体内緊張状態の誘導抑制効果」を評価する。
【0009】
ここで、各マーカー物質における質量/電荷比(以下、「m/z」と略記することもある。)の「約6020」、「約17700」、「約77000」等の値は、質量分析における測定値の誤差範囲を考慮した値であり、概ね±0.2%の幅を有する。すなわち、約6020は概ね6020±0.2%、約17700は概ね17700±0.2%、約77000は概ね77000±0.2%を表す。他の質量/電荷比についても全く同様に、概ね±0.2%の幅を有する。また、これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質である。被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する場合、動物の体液中のマーカー物質(M3)及び(M4)の濃度はより低値を示し、マーカー物質(M1)、(M2)、(M5)、(M6)、(M7)、及び(M8)の濃度はより高値を示す。
【0010】
請求項2に記載の発明は、下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
(1)マーカー物質(M1)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M3)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M4)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はトランスフェリン又はその修飾体である。
【0011】
血清アルブミン(Serum Albumin)、プロアポリポタンパク質A2(Pro-Apolipoprotein A2)、トランスサイレチン(Transthyretin)、トランスフェリン(Transferrin)はいずれも物理化学的性質がよく知られているので、本発明によればマーカー物質(M1)、(M2)、(M3)、(M4)、(M8)の解析が容易である。
【0012】
「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質である。「修飾」には化合物や官能基の付加(例:リン酸化)のみならず、脱離(例:脱リン酸化)も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。さらに「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0013】
同様の課題を解決するための請求項3に記載の発明は、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)プロアポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(A3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(A4)トランスフェリン又はその修飾体。
【0014】
本発明も生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法に係るものであり、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における上記(A1)〜(A4)のいずれかに属するマーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、当該被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価するものである。上記(A1)〜(A4)に属するマーカー物質は、いずれも体液中に存在するタンパク質であり、生体内緊張状態を反映するものである。本発明によれば、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を、容易かつ高精度に評価することができる。特に、血清アルブミン、プロアポリポタンパク質A2、トランスサイレチン、トランスフェリンはいずれも物理化学的性質がよく知られているので、解析が容易である。なお本発明においても、「動物」には、マウス等の飼育可能な動物の他、ヒトも含むものとする。
【0015】
本発明においても「タンパク質の修飾体」の代表例は、当該タンパク質を構成するアミノ酸残基の少なくとも1つが修飾されたタンパク質であり、「修飾」には化合物や官能基の付加のみならず、脱離も含まれる。また「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォーム、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質、並びに、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。さらに、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0016】
前記動物は、被験物質を投与した後にストレスを与えた動物であることが好ましい(請求項4)。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記基準値は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有さない既知物質を投与すると共にストレスを与えた動物の体液中における前記マーカー物質の濃度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0018】
かかる構成により、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を、より容易かつ高精度に評価することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0020】
かかる構成により、測定試料となる体液を簡単に採取でき、より簡便かつ迅速に、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、前記被験物質は、食品素材又は医薬品素材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0022】
かかる構成により、機能性食品又は医薬品の開発を目的として、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明は、前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0024】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を使用する。そして、該担体に体液又は体液成分を接触させて、体液又は体液成分に含まれるマーカー物質を、マーカー物質に対する親和性を有する物質を介して担体上に捕捉し、捕捉されたマーカー物質の量に基づいて体液中のマーカー物質の濃度を算出する。本発明によれば、担体上に捕捉されたマーカー物質を測定対象とするので、測定試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、体液成分の例としては、体液が血液である場合の血清又は血漿が挙げられる。
【0025】
請求項9に記載の発明は、前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0026】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法では、平面部分を有する担体を用い、マーカー物質に対する親和性を有する物質は該平面部分の一部に固定化されている。かかる構成により、マーカー物質に対する親和性を有する物質を、担体上の複数箇所にスポット的に固定化することができる。その結果、1個の担体で複数の測定試料を同時処理することや、1個の担体で複数のマーカー物質の濃度を同時測定することが可能となり、作業効率がよい。さらに、各スポットの面積を小さくすることにより、微量の測定試料からでもマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、平面部分を有する担体の例としては、チップ等の基板が挙げられる。
【0027】
請求項10に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項8又は9に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法である。
【0028】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質としてイオン交換体又は抗体を用い、イオン交換体又は抗体を介して測定試料中のマーカー物質を担体上に捕捉する。当該物質がイオン交換体の場合は各種のものが入手容易であり、マーカー物質を捕捉するための担体を容易に調製することができる。また、当該物質が抗体の場合は、より特異的にマーカー物質を捕捉することができる。捕捉されたマーカー物質の量を測定する方法としては、質量分析、イムノアッセイ(抗体の場合)が挙げられる。
【0029】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法によって被験物質を評価し、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法である。
【0030】
本発明は物質のスクリーニング方法にかかり、動物の体液中における上記(M1)〜(M8)の各マーカー物質および上記(A1)〜(A4)に属する各マーカー物質の少なくとも1つの濃度を基準値と比較し、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするものである。上記(M1)〜(M8)の各マーカー物質および上記(A1)〜(A4)に属する各マーカー物質は、いずれも体液中に存在するタンパク質であり、生体内緊張状態を反映するものである。本発明の物質のスクリーニング方法によれば、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。例えば、被験物質が食品素材の場合は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する機能性食品の開発に有用な食品素材をスクリーニングすることができる。
【0031】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キットである。
【0032】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む。かかる構成により、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0033】
請求項13に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項12に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キットである。
【0034】
かかる構成により、マーカー物質をより確実に担体上に捕捉することができる。
【0035】
生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするために使用される構成が推奨される(請求項14)。
【発明の効果】
【0036】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法によれば、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を、容易かつ高精度に評価することができる。
【0037】
本発明の物質のスクリーニング方法によれば、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質を、容易かつ高精度にスクリーニングすることができる。
【0038】
本発明の生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価用キットによれば、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0040】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法は2つの様相を含む。1つの様相では、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(M1)〜(M8)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する。
(M1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9310のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13800のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約17700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約19600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39900のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約77000のイオンピークを生じるタンパク質。
【0041】
これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質であり、生体内緊張状態を反映するものである。なお、(M3)及び(M4)の各マーカー物質(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ1」と称することがある。)は、生体が緊張状態にある場合により高値を示すものであるので、被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する場合には、当該被験物質を投与した動物においてより低値を示す。一方、(M1)、(M2)、(M5)、(M6)、(M7)、及び(M8)の各マーカー物質(以下、これらのマーカー物質からなるグループを「グループ2」と称することがある。)は、生体が緊張状態にある場合により低値を示すものであるので、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する場合には、当該被験物質を投与した動物においてより高値を示す。
【0042】
ある条件のペプチドマッピングによれば、マーカー物質(M1)は血清アルブミン、マーカー物質(M3)と(M4)はトランスサイレチン、マーカー物質(M5)はトランスフェリン、と同定され得る。また、ある条件のペプチドマッピングと分子量、等電点の情報から、マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2と同定され得る。すなわち、ある実施形態では、下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たす。
(1)マーカー物質(M1)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M3)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M4)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はトランスフェリン又はその修飾体である。
【0043】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法の他の様相では、被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価する。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)プロアポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(A3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(A4)トランスフェリン又はその修飾体。
【0044】
なお、マウス由来の血清アルブミン、プロアポリポタンパク質A2、トランスサイレチン、及びトランスフェリンのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1〜4に示すとおりである。
【0045】
タンパク質の修飾の例としては、N末端αアミノ基やリジンεアミノ基のメチル化、アセチル化、アデニリル化、ミリスチル化等;セリン・スレオニン・アスパラギンへの糖又は糖鎖の付加;セリン・スレオニン・チロシン・アルギニン・ヒスチジンのリン酸化;システインのシステイニル化、ホモシステイニル化、スルホニル化等;グルタミン酸のγ−カルボキシル化;N末端グルタミン酸のピログルタミン酸への変換、等が挙げられる。また、これらの修飾の脱離(脱メチル化、糖又は糖鎖の脱離、脱リン酸化等)も「修飾」に含まれる。
【0046】
「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質のアイソフォームが含まれる。アイソフォームとしては、前記した各種の修飾の他、選択的スプライシングによって生じたタンパク質が挙げられる。さらに、「タンパク質又はその修飾体」には、当該タンパク質の1次構造において数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたような実質的に同一のタンパク質が含まれる。またさらに、「タンパク質又はその修飾体」には、プロテアーゼによる切断を受けた当該タンパク質由来のタンパク質断片が含まれる。例えば、当該タンパク質由来と認められうる長さのタンパク質断片、例えば20個以上のアミノ酸残基からなるタンパク質断片、分子量が2千以上のタンパク質断片、等が挙げられる。また、複合体タンパク質の場合には「タンパク質又はその修飾体」にはそのサブユニットも含まれるものとする。
【0047】
例えば、血清アルブミン(配列番号1)のアミノ酸番号553(Ala)〜608(Ala)に相当する55アミノ酸からなるタンパク質断片(配列番号5)は「血清アルブミンの修飾体」に含まれる。
【0048】
プロアポリポタンパク質A2(配列番号2)のC末端アミノ酸残基(Lys)が欠損したタンパク質断片(配列番号6)は、「プロアポリポタンパク質A2の修飾体」に含まれる。
【0049】
トランスサイレチン(プレアルブミンとも呼ばれる)は分子量約1万4千のサブユニット4個からなる複合タンパク質である。トランスサイレチンについては、その唯一のCys残基が修飾を受けた種々の修飾トランスサイレチンが見出されている(Amareth Lim et al., J. Biol. Chem., vol. 258, No. 50, 2003)。後述の実施例4に示したように、マウス由来トランスサイレチン(配列番号3)のCys残基にスルホン酸が付加したS−スルホン化トランスサイレチンは「トランスサイレチンの修飾体」に含まれる。
【0050】
本発明の生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価方法では、(M1)〜(M8)の各マーカー物質並びに(A1)〜(A4)に属する各マーカー物質の1つだけを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。複数を用いる場合の組み合わせ方については特に限定はないが、例えば、グループ1から選択したマーカー物質(1つ又は複数)とグループ2から選択したマーカー物質(1つ又は複数)とを組み合わせることができる。
【0051】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法における好ましい実施形態では、上記基準値として、「生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有さない既知物質」(以下、「効果のない既知物質」と称する。)を投与すると共にストレスを与えた動物の体液中における上記マーカー物質の濃度を用いる。すなわち、動物に、効果のない既知物質を投与すると共にストレスを与えた場合、その体液中の上記マーカー物質の濃度は「異常値」となる。そして、被験物質を投与した上記動物における値(測定値)と当該基準値(異常値)とを比較し、測定値が基準値と有意に差がありかつ正常側である場合(正常側に維持された場合)に、当該被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。具体的には、グループ1に属するマーカー物質を指標とする場合は、測定値が当該基準値に比べて有意に低いときに、一方、グループ2に属するマーカー物質を指標とする場合は、測定値が基準値に比べて有意に高いときに、当該被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0052】
さらに、基準値は複数あってもよい。例えば、上記の異常値に加え、ストレスを与えない動物における値(正常値。陰性対照。)を基準値に加えることができる。具体的には、(1)効果のない既知物質又は被験物質を投与すると共にストレスを与えない群(正常値を示す群)、(2)効果のない既知物質を投与すると共にストレスを与える群(異常値を示す群)、及び、(3)被験物質を投与すると共にストレスを与える群、の計3群を設定し、動物を飼育する。そして、各動物の体液中の上記マーカー物質を測定し、各測定値を比較する。このとき、(1)と(2)とで有意差があり、(3)と(2)とで有意差があり、かつ(3)が(2)に比べて正常側((1)に近い側)である場合(正常側に維持された場合)に、当該被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0053】
さらに、基準値として、(4)「生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する既知物質」(効果のある既知物質)を投与すると共にストレスを与える群、における値(陽性対照)を加えることもできる。具体的には、上記(1)〜(3)に加えて、上記(4)の群を設定し、動物を飼育する。このとき、(1)と(2)とで有意差があり、(3)と(2)とで有意差があり、かつ(3)が(2)に比べて正常側((1)及び(4)に近い側)である場合に、当該被験物質が生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。すなわち、このような被験物質は、(4)で採用した上記既知物質と同様の挙動を示し、同様の作用を有する物質といえる。
【0054】
ここで「生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する既知物質」(効果のある既知物質)を含む素材の例としては、ケツメイシが挙げられる。ケツメイシには血中グルタチオン濃度を増加させる効果があることが知られている(例えば、特開2004−2231号公報)。また、拘束ストレスによって血中グルタチオン濃度が減少することが知られている(道解公一ら,「拘束ストレスによる脳および血液中グルタチオンの応答性」,産業衛生学雑誌,社団法人日本産業衛生学会,2002年,第44巻,p.262)。
【0055】
本発明では「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」を用いるが、被験物質の投与とストレス付与の順番については特に限定はない。例えば、被験物質の投与後にストレスを与えてもよいし、ストレスを先に与えてから被験物質を投与してもよい。被験物質の投与と並行してストレスを与えてもよい。被験物質の投与経路としては、経口投与が代表的であるが、他の経路によって投与してもよい。
【0056】
動物に与えるストレス(作用因子)の種類としては特に限定はなく、例えば、拘束、行動制限、騒音、寒冷のような物理的ストレス、薬物投与のような化学的ストレス、炎症、感染のような生物的ストレス、不安、怒りのような心理的ストレス、を挙げることができる。
【0057】
「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」における動物の種類には特に限定はなく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ等を採用することができる。さらに、動物としてヒトを採用することもできる。この場合には、臨床試験の結果によって被験物質が有する効果を評価することになる。
【0058】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法において使用する動物の体液としては、血液が好ましく用いられる。特に、血液から調製した血清又は血漿(体液成分)を測定試料とすることが好ましい。血清又は血漿は遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0059】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法における被験物質としては、食品素材、医薬品素材などが挙げられる。例えば、食品素材を評価対象とする場合は、機能性食品の開発に役立てることができる。
【0060】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法において、マーカー物質の濃度を測定する方法は、そのマーカー物質の濃度を特異的に測定できる方法であれば、タンパク質の定量に一般に用いられている方法をそのまま用いることができる。例えば、各種のイムノアッセイ、質量分析(MS)、クロマトグラフィー、電気泳動等を用いることができる。
【0061】
イムノアッセイによれば、夾雑物質の多い試料のままでも正確にマーカー物質の濃度を測定することができる。イムノアッセイの例としては、抗原抗体結合物を直接的又は間接的に測定する沈降反応、凝集反応、溶血反応などの古典的な方法や、標識法と組み合わせて検出感度を高めたエンザイムイムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)等の方法が挙げられる。なお、これらのイムノアッセイに用いるマーカー物質に特異的な抗体は、モノクローナルでもよいし、ポリクローナルでもよい。
【0062】
質量分析によれば、各マーカー物質由来のイオンピークを特定し、そのイオンピーク強度をもって各マーカー物質の量(濃度)を測定することができる。質量分析によってマーカー物質の濃度を測定する場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time-of-flight mass spectrometer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカー物質由来のイオンピークを特定することができる。
【0063】
電気泳動によりマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、検査材料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供して目的のマーカー物質を分離し、適宜の色素や蛍光物質でゲルを染色し、目的のマーカー物質に相当するバンドの濃さや蛍光強度を測定すればよい。SDS−PAGEだけではマーカー物質の分離が不十分な場合は、等電点電気泳動(IEF)と組み合わせた2次元電気泳動を用いることもできる。さらに、ゲルから直接検出するのではなく、ウエスタンブロッティングを行って膜上のマーカー物質の量を測定することもできる。
【0064】
クロマトグラフィーによってマーカー物質の濃度を測定する場合は、例えば、液体高速クロマトグラフィー(HPLC)による方法を用いることができる。すなわち、試料をHPLCに供して目的のマーカー物質を分離し、そのクロマトグラムのピーク面積を測定することにより試料中のマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0065】
好ましい実施形態では、マーカー物質を担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカー物質を測定対象とする。すなわち、マーカー物質に対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカー物質を担体上に捕捉する。そして、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。本実施形態において用いることができる担体の例としては、ビーズ、金属、ガラス、樹脂等のような一般的なものの他、基板のような、平面部分を有する担体を用いることができる。基板を用いる場合は、その平面部分の一部にマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基板としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカー物質に親和性を有する物質を固定化した担体が挙げられる。なお「親和性」の例としては、イオン結合、金属キレート体とタンパク質中のヒスチジン残基等とのアフィニティ、抗原と抗体、酵素と基質、若しくはホルモンとレセプターのようなバイオアフィニティ、及び、疎水性相互作用のような化学的な相互作用、が挙げられる。
【0066】
イオン結合によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陽イオン交換体、陰イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体のいずれも用いることができるが、強陰イオン交換体と弱陽イオン交換体が好ましく用いられる。強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。
【0067】
金属キレート体を介してマーカー物質を捕捉する場合は、例えば、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Al3+、Fe3+、Ga3+等の金属キレート体を固定化した担体を用いることができる。
【0068】
抗体によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、マーカー物質に特異的な抗体を担体に固定化すればよい。
【0069】
疎水性相互作用によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0070】
本実施形態においてマーカー物質の測定方法にイムノアッセイを用いる場合は、抗体を固定化した担体を用いることが好ましい。このようにすれば、担体に固定化された抗体を1次抗体としたイムノアッセイの系を簡単に構築することができる。例えば、マーカー物質に特異的でエピトープの異なる2種類の抗体を用意し、一方を1次抗体として担体に固定化し、他方を2次抗体として酵素標識し、サンドイッチEIAの系を構築することができる。その他、結合阻止法や競合法によるイムノアッセイの系も構築可能である。さらに、担体として基板を用いる場合は、抗体チップによるイムノアッセイが可能である。抗体チップによれば、複数のマーカー物質の濃度を同時に測定でき、迅速な測定が可能である。
【0071】
一方、本実施形態において質量分析を用いる場合は、例えば、抗体の他、イオン交換体、金属キレート体又は疎水基を固定化した担体を用いることができる。なお、これらの物質による結合は抗原と抗体等のバイオアフィニティほどの特異性がないので、これらの物質を固定化した担体を用いる場合はマーカー物質以外の物質も担体上に捕捉されうるが、質量分析によれば分子量を反映した質量分析計スペクトルによって定量するので、問題はない。特に、担体として基板を用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface-enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time-of-flight mass spectrometry)(以下、「SELDI−TOF−MS」と称する)を行うことにより、マーカー物質の濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に弱陽イオン交換基板と、陰イオン交換基板、特に強陰イオン交換基板が好ましく用いられる。
【0072】
本発明の物質のスクリーニング方法は、本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法によって被験物質を評価し、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするものである。本発明の物質のスクリーニング方法においても、上記した本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法の実施形態と全く同様の実施形態をとることができる。
【0073】
本発明の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法を簡便に行なうために、必要な試薬類をまとめて評価用キットを構築することができる。当該評価用キットとしては、例えば、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むものが挙げられる。特に、担体として、CM等の弱陽イオン交換体、あるいはQAやQAE等の強陰イオン交換体を固定化した基板を含めた評価用キットによれば、SELDI−TOF−MS等を簡便に行なうことができる。本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、前処理用の各種緩衝液等を含めてもよい。なお本キットは、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするためのキットとしても使用できる。本発明のキットの構成例を以下に挙げる。
【0074】
〔キットの構成例〕
(1)弱陽イオン交換基板:1枚
(2)強陰イオン交換基板:1枚
(3)基板洗浄用バッファーA(pH3.0):適量
(4)基板洗浄用バッファーB(pH9.0):適量
(5)各マーカー物質の標準品:各適量
【0075】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
1.動物の飼育と体液試料の調製
予備飼育を終えたC57BL/6マウス(雄、6週齢)を、与える飲水の種類と拘束ストレス付加の有無の組み合わせが異なる以下の4群に分けた。各群の個体数は8以上とした。
【0077】
第1群:通常飲水(1週間)+拘束ストレス負荷なし(17時間)
第2群:通常飲水(1週間)+拘束ストレス負荷あり(17時間)
第3群:ケツメイシ抽出物飲水(1週間)+拘束ストレス負荷あり(17時間)
第4群:ケツメイシ抽出物飲水(1週間)+拘束ストレス負荷なし(17時間)
すなわち、第1群はストレスに起因する症状が発症しない群、第2群はストレスに起因する症状が発症する群、第3群はストレスに起因する症状が抑制される群、に相当する。第4群はケツメイシの作用検証用の群である。
【0078】
各群について通常飲水(第1群、第2群)又はケツメイシ抽出物飲水(第3群、第4群)を1週間与え、その後17時間は絶飲絶食すると共に第2群と第3群にのみ拘束ストレス負荷を与えた。第3群と第4群のケツメイシ摂取量は1日1匹あたり2mg(0.1g/kg/日)となるようにした。17時間の拘束ストレス付与又は非付与の後、第1群と第4群について各8匹、第2群と第3群について各9匹のマウスを屠殺した。各マウスから血液を採取し、血漿サンプルを調製した。
【0079】
2.プロテインチップによる解析とイオンピークの選抜
採取した各血漿サンプル20μLに、変性バッファー(9M 尿素、2% CHAPS、50mM Tris−HCl(pH9.0))30μLを加えて前処理を行い、タンパク質を変性させた。次に、前処理した各体液試料を強陰イオン交換樹脂カラム(Q-Sepharose、GEヘルスケア社)にアプライした。次いで、pH9.0の緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、0.1%(w/v)1−o−N−オクチル−β−D−グルコピラノシド(以下、「OGP」と称する。))、pH5.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH3.0の緩衝液(50mM クエン酸ナトリウム(pH3.0)、0.1%(w/v)OGP)、及び有機溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸、50.0%アセトニトリルからなる混合液)各200μLで順に溶出させ、画分1(pH9.0で溶出、素通り)、画分2(pH5.0で溶出)、画分3(pH3.0で溶出)、画分4(有機溶媒で溶出)の4つの粗分画画分を得た。
【0080】
得られた各画分10μLをpH3.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM クエン酸ナトリウム)で10倍希釈した後、弱陽イオン交換チップCM10(バイオラッド社)に添加した。同様に、得られた各画分10μLをpH9.0のプロテインチップ結合バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0))で10倍希釈した後、強陰イオン交換チップQ10(バイオラッド社)に添加した。各チップを各結合バッファーで3回洗浄した後に脱イオン水で1回洗浄し、乾燥させた。次に、エネルギー吸収分子であるシナピン酸(SPA−H、SPA−L)又はα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を添加し、プロテインチップリーダーModel PBS IIc(バイオラッド社)を用いて、SELDI−TOF−MSを行なった。なお、測定分子量範囲(m/z)は、3000〜200000の範囲で行なった。また、測定は2連で行い、m/zの平均値を算出した。データ解析は、Protein Chip Software、CiphergenExpress Data Manager、及びBiomarker Patterns Software(いずれもバイオラッド社)を用いて行なった。具体的には、ベースライン補正、分子量校正、スペクトルの正規化処理を行なった後、シングルマーカー解析及び数本のマーカーを組み合わせたマルチフロー解析を行なった。その結果、粗分画画分の種類、プロテインチップの種類、チップの洗浄条件等の組み合わせによって多数のピークが検出された。各ピークについて、p値(Mann−Whitney検定法)、ROC面積、及びイオンピーク強度を算出し、さらに、以下の(1)〜(3)の条件を指標として8個の候補ピークを選抜した。
【0081】
(1)候補ピーク探索(基本)
第1群と第2群との間でイオン強度に有意差がある(p<0.05)。
(2)ケツメイシ効果検証
第2群と第3群との間でイオン強度に有意差があり(p<0.05又は0.1)、かつ第3群の値の方が第2群の値よりも第1群の値に近い(第3群の値が第1群側に復帰している)。
(3)増減パターン解析
第2群のみが高値または低値を示し、第1群、第3群および第4群の間ではあまり差がない。なお、第3群と第4群との間に差があっても、第4群の値の方が第3群の値よりも第2群から離れている場合には本条件を満たすものとして取り扱う。
【0082】
3.マーカー物質(M1)の特定
画分3(pH3.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が6020(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図1に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。図中、髭の上端と下端はそれぞれ最大値と最小値、箱の上辺と下辺はそれぞれ第3四分位(75パーセンタイル)と第1四分位(25パーセンタイル)、箱の中の線は中央値である(図2以降も同じ)。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0083】
ROC面積(第1群vs第2群):0.712
p値(第1群vs第2群):0.0324
ROC面積(第2群vs第3群):0.744
p値(第2群vs第3群):0.0086
【0084】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6020のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M1))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M1)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約6020のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0085】
4.マーカー物質(M2)の特定
画分1(pH9.0)を強陰イオン交換チップQ10に接触させ、pH9.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−L)を行なった場合に、質量/電荷比が9312(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図2に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0086】
ROC面積(第1群vs第2群):0.771
p値(第1群vs第2群):0.0058
ROC面積(第2群vs第3群):0.701
p値(第2群vs第3群):0.0462
【0087】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約9310のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M2))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M2)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約9310のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0088】
5.マーカー物質(M3)の特定
画分2(pH5.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が13664(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で低値を示し、第2群で高値を示した。図3に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0089】
ROC面積(第1群vs第2群):0.819
p値(第1群vs第2群):0.0013
ROC面積(第2群vs第3群):0.744
p値(第2群vs第3群):0.0072
【0090】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約13700のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M3))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M3)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約13700のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0091】
6.マーカー物質(M4)の特定
画分2(pH5.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:CHCA)を行なった場合に、質量/電荷比が13762(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で低値を示し、第2群で高値を示した。図4に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0092】
ROC面積(第1群vs第2群):0.778
p値(第1群vs第2群):0.0058
ROC面積(第2群vs第3群):0.701
p値(第2群vs第3群):0.0290
【0093】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約13800のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M4))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M4)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約13800のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0094】
7.マーカー物質(M5)の特定
画分3(pH3.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が17724(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図5に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0095】
ROC面積(第1群vs第2群):0.792
p値(第1群vs第2群):0.0052
ROC面積(第2群vs第3群):0.701
p値(第2群vs第3群):0.0268
【0096】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約17700のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M5))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M5)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約17700のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0097】
8.マーカー物質(M6)の特定
画分4(有機溶媒)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が19632(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図6に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0098】
ROC面積(第1群vs第2群):0.753
p値(第1群vs第2群):0.0071
ROC面積(第2群vs第3群):0.701
p値(第2群vs第3群):0.0290
【0099】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約19600のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M6))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M6)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約19600のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0100】
9.マーカー物質(M7)の特定
画分2(pH5.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が39922(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図7に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0101】
ROC面積(第1群vs第2群):0.736
p値(第1群vs第2群):0.0228
ROC面積(第2群vs第3群):0.667
p値(第2群vs第3群):0.0619
【0102】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約39900のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M7))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M7)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約39900のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0103】
10.マーカー物質(M8)の特定
画分1(pH9.0)を弱陽イオン交換チップCM10に接触させ、pH3.0のプロテインチップ結合バッファーで洗浄してSELDI−TOF−MS(EAM:SPA−H)を行なった場合に、質量/電荷比が76959(平均値)のイオンピークが検出された。増減パターン解析の結果、本ピークは第1群、第3群および第4群で高値を示し、第2群で低値を示した。図8に、各群に分けて本ピークのピーク強度をプロットした場合の箱髭図を示す。各ROC面積と各p値は以下のとおりとなった。
【0104】
ROC面積(第1群vs第2群):0.795
p値(第1群vs第2群):0.0034
ROC面積(第2群vs第3群):0.657
p値(第2群vs第3群):0.0665
【0105】
以上より、SELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約77000のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(M8))が、生体内緊張状態を反映するマーカーとなり得ることがわかった。これにより、「被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物」の体液中におけるマーカー物質(M8)の濃度を指標として、被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果の評価、並びに、当該効果を有する物質のスクリーニングが行なえることが示された。例えば、所望の被験物質を使用して同様の動物実験を行なって体液試料を調製し、同様の手順でSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が約77000のピークを生じるタンパク質の濃度が正常値に維持されたとき、該被験物質は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有すると評価することができる。
【0106】
なお、ヒトの体液中にもマーカー物質(M1)〜(M8)と同等のタンパク質が存在する場合には、ヒトの体液中における当該タンパク質の濃度を指標として、生体における緊張状態を診断できる可能性も示唆された。
【実施例2】
【0107】
マーカー物質(M1)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q-Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。ICRマウスヘパリン血漿(清水実験材料社)500μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を750μL加えて変性処理した後、平衡化した前記カラムに添加した。2.5カラム体積(CV)の50mM Tris−HCl(pH9.0)、5CVの100mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)、及び5CVの50mM クエン酸ナトリウムバッファー(pH3.0)で順に洗浄した後、5CVの33.3% イソプロパノール/16.7 アセトニトリル/0.1% TFAで溶出した。回収した溶出画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0108】
弱陽イオン交換カラムHiTrap CM FF 1mL(GEヘルスケア社)を50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)にて平衡化し、前記溶出画分を添加した。5CVの50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)でカラムを洗浄した後、5CVの50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)/100mM NaClで溶出し、ピーク画分を分取した。分取した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0109】
分取した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A2Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図9)。図9中、レーン1〜3はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約6.0kDaのバンド(図9の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図10の矢印)。
【0110】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約6.0kDaのバンドを切り出し、還元アルキル化処理した後、0.01μg/μLのトリプシン溶液(50mM 炭酸水素アンモニウム(pH8.0)に溶解)を作用させてゲル内で消化した。消化したサンプル1μLを金属プレート上に滴下し、飽和CHCA溶液0.4μLをさらに滴下して乾燥させた後、質量分析計Proteomics Analyzer 4700(アプライドバイオシステムズ社)で測定したところ、少なくとも2個のピークが検出され、それらの精密質量は、「1850.84」及び「1981.99」と算出された。これらのデータを元にMascotデータベース(マトリックスサイエンス社)によって既知タンパク質を検索し、ペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号8,9で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「血清アルブミン」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第1表に示す。既報の血清アルブミンのアミノ酸配列を配列番号1に示す。さらに、血清アルブミン(配列番号1)のN末端側55アミノ酸に相当するタンパク質断片(配列番号5)の予想される等電点が5.65、分子量が6019であり、これらの値がマーカー物質(M1)の物性とよく一致した。これにより、マーカー物質(M1)は血清アルブミンの断片(配列番号5)と最終的に同定された。
【0111】
【表1】
【実施例3】
【0112】
マーカー物質(M2)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q-Ceramic Hyper DF(日本ポール社)を充填したスピンカラム(1mL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。マウス標準血漿(Pel-Freez社)300μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を450μL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。素通り画分を回収した。回収した画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M2)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0113】
回収した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、2次元電気泳動(1次元目:Immobiline DryStrip pH6-11, 7cm(GEヘルスケア社)、2次元目:ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A2T(DRC社))を行った(図11)。矢印で示したスポット(質量:約9.3kDa、等電点:約5.8)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M2)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図12の矢印)。
【0114】
あらためて同様の2次元電気泳動を行って同様のスポットを切り出し、実施例2と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも3個のピークが検出され、それらの精密質量は「1193.66」、「1657.79」、及び「1831.97」と算出された。これらのデータを元に実施例2と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号10〜12で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「アポリポタンパク質A2」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第2表に示す。既報のアポリポタンパク質A2のアミノ酸配列を配列番号7に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
成熟型のアポリポタンパク質A2(配列番号7、分子量:8736、等電点:4.94)は、プロアポリポタンパク質A2(配列番号2)のN末端側5アミノ酸からなるプロペプチド(ALVKR)が切断されて生成される。また、プロアポリポタンパク質A2のC末端のLysは切断され得ることが知られている(Yamagishi et al., Nucleic Acids Research, vol. 14, No. 14, 1986)。プロアポリポタンパク質A2のC末端のLysが脱落したタンパク質断片(配列番号6;プロアポリポタンパク質A2の修飾体)の予想される等電点が5.76、分子量が9304であり、これらの値がマーカー物質(M2)の物性とよく一致した。これにより、マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2の断片(配列番号6)と最終的に同定された。
【実施例4】
【0117】
マーカー物質(M3)と(M4)の精製と同定
強陰イオン交換カラムHiTrap Q HP 1mL(GEヘルスケア社)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。マウス標準血漿(Pel-Freez社)1mLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を1.5mL加えて変性処理し、平衡化した前記カラムに添加した。50mM Tris−HCl(pH9.0)、50mM Tris−HCl(pH7.0)で順に洗浄した後、50mM Tris−HCl(pH7.0)/50mM NaClで溶出した。溶出画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M3)、(M4)と同等の質量/電荷比を示す各ピークを確認した。
【0118】
分取した画分の一部をアセトン沈殿処理した後、ポリペプチド分離用ゲル(15−20%)NTH−5A0Tゲル(DRC社)を用いてSDS−PAGEを行った(図13)。図13中、レーン1〜6はいずれも回収画分、Mは分子量マーカーである。分離された約13.8kDaのバンド(図13の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M3)と同等の質量/電荷比を示すピーク(図14の矢印a)並びにマーカー物質(M4)と同等の質量/電荷比を示すピーク(図14の矢印b)を確認した。
【0119】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約13.8kDaのバンドを切り出し、実施例2と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも8個のピークが検出され、それらの精密質量は「1510.75」、「1382.65」、「1587.79」、「2438.25」、「869.46」、「1554.85」、「2517.28」、及び「2597.38」と算出された。これらのデータを元に実施例2と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号13〜20で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「トランスサイレチン」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第3表に示す。既報のトランスサイレチンのアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
上述したように、トランスサイレチンについては、その唯一のCys残基が修飾を受けた種々の修飾トランスサイレチンが見出されている。その電荷/質量比から、マーカー物質(M3)は非修飾トランスサイレチン、マーカー物質(M4)はS−スルホン化トランスサイレチンであると考えられた。
【実施例5】
【0122】
マーカー物質(M8)の精製と同定
強陰イオン交換樹脂Q-Sepharose HP(GEヘルスケア社)を充填したカラム(80μL)を平衡化バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),1M 尿素,0.22% CHAPS)にて平衡化した。マウス標準血漿(Pel-Freez社)40μLに対して変性バッファー(50mM Tris−HCl(pH9.0),9M 尿素,2% CHAPS)を60μL加えて変性処理した後、平衡化した前記カラムに添加した。素通り画分を回収した。回収した溶出画分に対してSELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M8)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した。
【0123】
溶出画分の一部をアセトン沈殿処理した後、7.5%ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEを行った(図15)。図15中、レーン1,2はいずれも溶出画分、Mは分子量マーカーである。分離された約77kDaのバンド(図15の矢印)を切り出してタンパク質を抽出し、SELDI−TOF−MS分析を行い、マーカー物質(M1)と同等の質量/電荷比を示すピークを確認した(図16の矢印)。
【0124】
あらためて同様のSDS−PAGEを行って約77kDaのバンドを切り出し、実施例2と同様にしてゲル内消化及び質量分析を行ったところ、少なくとも8個のピークが検出され、それらの精密質量は「878.48」、「951.53」、「1171.58」、「1419.79」、「1579.72」、「1639.78」、「2008.00」、及び「2741.22」と算出された。これらのデータを元に実施例2と同様にしてペプチドマスフィンガープリンティングを行ったところ、これらのペプチドはそれぞれ配列番号21〜28で表わされるアミノ酸配列のペプチドと一致し、目的のタンパク質は99%以上の確率で「トランスフェリン」と同定された。各ペプチドの精密質量、アミノ酸配列、及び配列番号の対応関係を第4表に示す。既報のトランスサイレチンのアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0125】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】質量/電荷比が6020(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図2】質量/電荷比が9312(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図3】質量/電荷比が13664(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図4】質量/電荷比が13762(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図5】質量/電荷比が17724(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図6】質量/電荷比が19632(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図7】質量/電荷比が39922(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図8】質量/電荷比が76959(平均値)のイオンピークについての箱髭図である。
【図9】実施例2で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図10】実施例2で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図11】実施例3で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図12】実施例3で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図13】実施例4で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図14】実施例4で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【図15】実施例5で行ったSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図16】実施例6で行ったSELDI−TOF−MS分析の結果を示すイオンピーク図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(M1)〜(M8)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
(M1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9310のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13800のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約17700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約19600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39900のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約77000のイオンピークを生じるタンパク質。
【請求項2】
下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
(1)マーカー物質(M1)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M3)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M4)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はトランスフェリン又はその修飾体である。
【請求項3】
被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)プロアポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(A3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(A4)トランスフェリン又はその修飾体。
【請求項4】
前記動物は、被験物質を投与した後にストレスを与えた動物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項5】
前記基準値は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有さない既知物質を投与すると共にストレスを与えた動物の体液中における前記マーカー物質の濃度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項6】
前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項7】
前記被験物質は、食品素材又は医薬品素材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項8】
前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項9】
前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項10】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項8又は9に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法によって被験物質を評価し、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キット。
【請求項13】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項12に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キット。
【請求項14】
生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするために使用されることを特徴とする請求項12又は13に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キット。
【請求項1】
被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(M1)〜(M8)の少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
(M1)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6020のイオンピークを生じるタンパク質、
(M2)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9310のイオンピークを生じるタンパク質、
(M3)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M4)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約13800のイオンピークを生じるタンパク質、
(M5)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約17700のイオンピークを生じるタンパク質、
(M6)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約19600のイオンピークを生じるタンパク質、
(M7)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39900のイオンピークを生じるタンパク質、
(M8)pH3.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約77000のイオンピークを生じるタンパク質。
【請求項2】
下記(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
(1)マーカー物質(M1)は血清アルブミン又はその修飾体である、
(2)マーカー物質(M2)はプロアポリポタンパク質A2又はその修飾体である、
(3)マーカー物質(M3)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(4)マーカー物質(M4)はトランスサイレチン又はその修飾体である、
(5)マーカー物質(M8)はトランスフェリン又はその修飾体である。
【請求項3】
被験物質を投与すると共にストレスを与えた動物から採取した体液における下記マーカー物質(A1)〜(A4)のいずれかに属する少なくとも1つの濃度を基準値と比較することにより、前記被験物質が有する生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を評価することを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
(A1)血清アルブミン又はその修飾体、
(A2)プロアポリポタンパク質A2又はその修飾体、
(A3)トランスサイレチン又はその修飾体、
(A4)トランスフェリン又はその修飾体。
【請求項4】
前記動物は、被験物質を投与した後にストレスを与えた動物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項5】
前記基準値は、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有さない既知物質を投与すると共にストレスを与えた動物の体液中における前記マーカー物質の濃度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項6】
前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項7】
前記被験物質は、食品素材又は医薬品素材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項8】
前記体液又は体液成分を、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、体液中の前記マーカー物質を担体上に捕捉し、捕捉された前記マーカー物質の量に基づいて体液中の前記マーカー物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項9】
前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項10】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は抗体であることを特徴とする請求項8又は9に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法によって被験物質を評価し、生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングすることを特徴とする物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キット。
【請求項13】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体であることを特徴とする請求項12に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キット。
【請求項14】
生体内緊張状態の緩和効果又は誘導抑制効果を有する物質をスクリーニングするために使用されることを特徴とする請求項12又は13に記載の生体内緊張状態の緩和・誘導抑制効果の評価用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図16】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図16】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【公開番号】特開2010−54245(P2010−54245A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217204(P2008−217204)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【出願人】(596156174)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【出願人】(596156174)
【Fターム(参考)】
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