説明

生体分子の親和性を測定する方法

本発明は、第1のテザー部分長を有する第1のテザー部分と繋がる第1の生体分子、及び第2のテザー部分長を有する第2のテザー部分と繋がる第2の生体分子の親和性を測定する方法であって、互いに隣接した第1の生体分子及び第2の生体分子の結合を決定すること、第1のテザー長及び第2のテザー長の少なくとも一方を変えること、並びに第1の生体分子及び第2の生体分子の結合を決定することを含む方法を提供する。本発明は、本発明の方法で用いるのに好適な装置も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排他的ではないが特に、生化学的経路の分析の分野、並びにタンパク質及びポリペプチド等の生体分子間の相互作用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイスループット実験技法の使用によってここ数年で生物学的情報が急増している。これらの技法は、ゲノムシーケンシング、マイクロアレイ解析、酵母2−ハイブリッドタンパク質−タンパク質相互作用測定からRNAiスクリーニング及び細胞生物学的プロセスを研究するための自動画像解析の使用にまで及ぶ。
【0003】
それぞれ「オミクス(-omic)」技法を首尾よく実施した後、一組の技法と次の技法との接点において機会及び障害が生じる。1つの重要な障害は生化学的なものである。
【0004】
タンパク質複合体から形成される分子機械は、最も多くの細胞プロセスの基礎をなす構築ブロックである。酵母2−ハイブリッド技法等の技法が、ゲノム規模でタンパク質対間の二成分相互作用を同定するのに用いられている一方で、複合体の精製及び質量分析を用いた相補的な解析によって、それぞれの分子機械を含む成分の組合せの同定が始まっている。しかし、生化学的相互作用の詳細な研究には、これらの特性がどのように生理学的に調節されるかを研究するための技法と共に、親和性結合及び速度定数を明らかにすることが必要である。
【0005】
熱量測定及び蛍光偏光測定を含む標準的な「試験管」生化学技法では、μg〜mg量の可溶性タンパク質を産生及び精製するのに多大な時間を必要とし、したがってハイスループット適用のためにスケールアップすることは考えられない。潜在的により有望な技法である表面プラズモン共鳴(Biacore(登録商標))では必要とされるタンパク質は幾らか少なく、(幾つかのフォーマットで)不純物の存在に耐えることができるが、タンパク質の測定を注意深く進め(the careful timed flow of assay protein)、その後固定化した結合パートナー上で洗浄溶液で洗浄させる必要があり、したがってハイスループット解析に安易に適応するとは考えられない。表面プラズモン共鳴及び熱量測定に関する典型的なタンパク質の必要量が以下に記載される。
【0006】
等温滴定熱量測定
基準(Measures):Kd、化学量論(n)、ΔG、ΔN
必要量:10μMの溶液1ml、20nモル、50KDaのタンパク質1mg。
【0007】
表面プラズモン共鳴(Biacore(登録商標))
基準 :Kon、Koff、Kd
必要量:100nMの溶液2ml、200pモル、50KDaのタンパク質10μg*
*典型的な一連の実験に基づく計算は、約10nM範囲の結合親和性を確立するのに必要であった。これらの測定に高レベルのタンパク質が必要なのは、「飽和」結合リガンドの濃度に対する必要量が解離定数より4〜10倍高いためである。このことによって、表1に示される典型的な要件が課せられる。
【0008】
【表1】

【0009】
これらのレベルのタンパク質では多大な時間、及び比較的高価な従来のタンパク質合成及び精製システムを必要とする。
【0010】
in vitro翻訳「プルダウン(pull-down)」実験は、翻訳抽出物中に生成された少量の放射標識タンパク質(100〜150ng生成)間の結合相互作用を明らかにするのに用いることができる。しかし、酵母2−ハイブリッド技法と同様に、この実験は非定量的であり、ピコモル〜低ナノモル範囲の親和性に対してはスクリーニングを行うが、より小さい親和性相互作用に関してはスクリーニングすることができないという欠点がある。
【0011】
定量的で感受性が高く、用いられる分析物(analyte)が少量でよく、必要とされる被分析物のモル数が少なくてよく、高(最大で中程度のマイクロモル、典型的には約1〜5pMから約10〜20μM)濃度を達成することができ、超並列解析(massively parallel analyses)に適合可能であり得る新規のハイスループット生化学的技法が要求されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、第1のテザー部分長を有する第1のテザー部分と繋がる第1の生体分子、及び第2のテザー部分長を有する第2のテザー部分と繋がる第2の生体分子の親和性を測定する方法であって、隣接した第1の生体分子及び第2の生体分子の互いの結合を決定し、第1のテザー部分長及び第2のテザー部分長の少なくとも一方を変え、第1の生体分子及び第2の生体分子の結合を決定する方法が提供される。
【0013】
本発明の方法は、生体分子量の濃度を非常に正確に制御することができ、またごくわずかな量しか生体分子を必要としない、すなわちピコリットル〜アトリットル量で平衡結合研究を行うことができるという点で利点がある。容量が少ないことで、一連の濃度依存的な生化学的測定が、非常に少ないインプット量のそれぞれの生体分子で行うことができる。例えば、本発明による方法を従来の技法と比較する理論的判定において、従来の熱量測定には、20ナノモルのタンパク質又は50KDaのタンパク質1mgが必要であり、表面プラズモン共鳴では、50KDaのタンパク質10μgに対応する200ピコモルのタンパク質が必要である。これに対し、本発明による類似の方法では、わずか10アトモル及び50KDaのタンパク質に対して50pgが必要なだけである。典型的には、ナノリットル〜ゼプトリットル、好ましくはピコリットル〜アトリットル量の第1の生体分子及び/又は第2の生体分子が用いられる。
【0014】
これに関連して、「生体分子」という用語には天然分子及び合成分子の両方が含まれる。
【0015】
第1の生体分子及び第2の生体分子は、スライドガラス又はマイクロビーズ等の固形担
体と繋がり得る。このような形態において、第1の生体分子及び第2の生体分子は同じ固形担体と別々に繋がっている。代替的には、第1の生体分子及び第2の生体分子は、「Y字型」配列で共に繋がり得る。別の実施の形態では、第1の生体分子及び第2の生体分子は、「直鎖分子」配列ではテザーで連結されるが、固形担体と繋がることができない。例えば、第1の生体分子及び第2の生体分子は共に繋がり、溶液中に存在し得る。
【0016】
生体分子が固形担体と繋がる場合、生体分子は固形担体上で無作為に配置され得る。代替的に、第1の生体分子及び第2の生体分子が、別々の部分間でギャップを埋めるように「広がる」場合にのみ相互作用するように、生体分子は、固形担体の別々の部分、又は固形担体上の決められた領域と繋がり得る。別々の部分間の距離及び/又はテザー長を制御することによって、結合生体分子と自由生体分子との割合を変えることができ、上記の親和性の決定を可能にする。結合のために部分を連続的に脱保護するのに、フォトリソグラフィ、電子リソグラフィ又はイオンビームリソグラフィを含む一連の技法を用いて、表面の別々の部分を第1の生体分子及び第2の生体分子と結合させることができる。代替的に、選択的な局所表面修飾を導入するのに、原子間力顕微鏡チップを用いた直接エッチング/修飾を用いることができる。この種のアプローチの利点は、平均距離に依存するよりもむしろ、分子間距離を直接的に制御することができることである。原則として、これによって生体分子の濃度がより正確に制御することができる。
【0017】
第1の生体分子及び第2の生体分子が固形担体と繋がる好ましい実施の形態では、この方法は、ナノスケールの反応帯で動作するように配置することができる。第1の生体分子及び第2の生体分子の少なくとも幾つかが互いに隣接するように互いの近くにテザーを固定することによって、反応帯の形成を達成することができ、それにより、各生体分子の自由端で定められた実質的に半球形の行程体積が重複することで、第1の生体分子及び第2の生体分子を互いに結合させることが可能になる。それぞれの半球形ボリュームの容積は、約2×103〜1×1012nm3であり得る。テザー部分の長さを変えることによって、生体分子の有効濃度を制御することができ、定量分析を可能にする。
【0018】
テザーの剛性は、可撓性ロッドの単一曲げ(single bending)パラメータとして剛性を特徴付ける実験的に測定されたパラメータである持続長(P)に関して考慮される(Bustamante, C, J. F.他1994. Science. 265:1599 -1600、及びMarko, J. F., and E. D. Siggia. 1995. Stretching DNA. Macromolecules. 28:8759-8770)。溶液中でDNA等のポリマーから構成されるテザーが比較的長い(P>テザーの輪郭長の約5倍以下)場合、テザーは持続長(P)で特徴付けられる蠕虫状鎖モデルで表すことができる。持続長よりもかなり長い分子(PがdsDNAに関して約50〜90nmに等しい)は、セグメント長2P及びセグメント密度のガウス分布で自由に連結した鎖のランダムコイルのように動く。
【0019】
テザーの長さを変えることに加えて、アンカー間の距離を変更して、行程体積の重複を変えることができる。繋留分子の化学量論を変更し、長い可撓性テザーを用いるという特別な場面を十分に活用するのに、この方法を用いることができる。
【0020】
自由DNA末端分布の確率を算出するのに、コンピュータシミュレーション(Monte Carlo)を用いている(例えばJian and Vologodskii (1997).著「A combined wormlike- chain and bead model for dynamic simulations of long linear DNA」 J. Comp. Physics
136 ppl68-179.を参照されたい)。
【0021】
ナノテザーに関してテザーの自由端の確率分析は、テザーの剛性、温度及びイオン条件を含む多くの因子によって決定される。持続長に比例して長いテザーを用いることによって(例えばPが5倍を超える)、アンカー間の距離が変わり、実質的に半球形の行程体積
内の有効濃度勾配を調べることができる。
【0022】
この濃度勾配において、最も低い濃度は、完全輪郭長(直線に伸ばす)のテザーによって掃引された表面に最も近くなる。したがって、この濃度は、エントロピーを考慮して平均質量中心に近い最大値まで増大する。このように、2つの繋がった生体分子が特定のアンカー間の距離で相互作用する確率は算出された確率分布に依存し、アンカー間の距離が低減するにしたがって増大する。行程体積内の可撓性テザーの確率分布を変更させるアプローチ(例えば、バルク液体流を誘導すること又は振動担体の使用)を用いて、これらの持続長を大幅に超えて、テザーの有用性を高めることができる(例えば20〜40倍のP)。
【0023】
一連の「テストケース」の生体分子相互作用(例えばGSK−3及びアキシンペプチド、ストレプトアビジン−ビオチン、抗体−抗原)の相互作用分布を測定することによって、確率分布をアンカー間の距離と関連付けること、及びこれを親和性結合定数と直接的に一致させることができる。この過程の代替的な数学モデルは、Jianの研究に基づき作製することもできる(上記)。
【0024】
テザー長及びアンカー間の距離の両方を変えることが、繋留生体分子の濃度を変える方法として提唱される。P値が高い持続長では、確率分布が親和性を算出する最も効果的な方法であり得る。直鎖分子又はY字型分子の実施の形態では、第1のテザー部分長及び第2のテザー部分長を変えて生体分子濃度を変えることができる。
【0025】
互いに分子的に近接である第1の生体分子と第2の生体分子との割合を測定する技法を、相互作用する第1の生体分子と第2の生体分子との割合を定量するのに用いることができる。例えば、互いに分子的に近接した第1の生体分子と第2の生体分子との割合は、フォスター共鳴エネルギー移動(FRET)で決定することができる。
【0026】
好ましい方法において、アッセイの読み出しは、第1の生体分子及び第2の生体分子に付着するヘッドオリゴヌクレオチドと結合したフルオロフォア間のFRETの強度である。第1の生体分子に付着したフルオロフォアに対する励起極大に適切なレーザーを用いて、このフルオロフォアを励起する。第2の生体分子に付着したフルオロフォアからの波長極大での発光を記録し、FRETレベルを評価する。実際にFRETが起こるには、第1のフルオロフォアの励起分子が、エネルギーを移動させるために第2のフルオロフォアと分子的に近づく必要があり(10nm未満)、第2のフルオロフォアが特徴的な波長で発光する。第1の生体分子及び第2の生体分子が、第1の生体分子/第2の生体分子の複合体が形成されるために分子的にも近接である場合に、このようなことが起こる。FRET技法の好ましい変形形態では、この技法の感度が改善されているので、蛍光寿命測定(FRET/FLIM)が、FRETの時間依存性を測定するのに用いられる(「Fluorescence Lifetime Imaging: An emerging technique in Fluorescence Microscopy」 C.G. Morgan, Chromosome Research, 4(4), 261-263, 1996.)。適切な制御(例えば、第1の生体分子及び第2の生体分子単独のスポット)がシグナルレベルを正規化するのに用いられる。
【0027】
好ましい実施の形態において、FRETは、繋留生体分子のアレイを含有するスライドガラス上でレーザーを当てるのにレンズを用いて測定することができる。他の実施の形態では、他の目的に対する設計のために共焦点顕微鏡が有する制限を克服するのに、専用設備を準備する。特に、光電子増倍管及び冷却した電荷結合素子(CCD)の使用により、低レベルのFRETシグナルの検出感度を高め、潜在的に単一の第1の生体分子と第2の生体分子との繋留対の間でFRETを検出することができる(例えば、Walter他, Biopolymers (Nucleic Acid Sciences), Vol. 61, 224-241 (2002)を参照されたい)。代替的に
は、全内部反射蛍光顕微鏡(TIRF)を用いてもよい(「Surface fluorescence microscopy with evanescent illumination.」 Axelrod, D., Light Microscopy in Biology, Lacey, A. (ed), Oxford University Press, New York, 399-423 (1999))。
【0028】
代替溶液において、光を吸収するが、異なる色で光を迅速に再放出するナノ結晶であるナノスケールの球又は「量子ドット」は、単一フルオロフォアに代わって繋がり得る。蛍光分子の数が増加するために、これらの接合体でFRET効率が高くなり得る。代替的に、ナノスケールの球によって、蛍光相関分光法を高解析度の光共焦点顕微鏡を用いて行うことが可能になる。2Kb(0.6μM)より長いテザーに関して、第1の生体分子/第2の生体分子の複合体の形成は、蛍光ドット対の割合がいくつかの分離を示すものに比例するために直接記録することができる。
【0029】
直鎖分子の場合の第1のテザー及び/又は第2のテザー、又は単一テザーがヌクレオチドから形成され得る。好ましくは、テザーは二本鎖DNA(dsDNA)から生成される。代替的に、テザーは、カーボンナノチューブ(D. H. Jung他著「Covalent attachment and hybridization of DNA oligonucleotides on patterned single-walled carbon nanotube films」 Langmuir. 2004 Sep 28;20(20):8886-91.)、アミロイド線維、又は偶数(典型的に4本、6本又は8本)鎖のDNAを含み、dsDNAよりも幾らか剛性であるDNA交差複合体、例えばDXハイブリッド(J. Am. Chem. Soc. (2000), 122, 1848-1860, 「Construction, Analysis, Ligation, and Self-Assembly of DNA Triple Crossover Complexes」等の他のポリマーから生成され得る。さらに、dsDNA等のテザーの「剛性」又は持続長(P)及び静電荷が、化学的修飾、臭化エチジウム、又は典型的にはdsDNA塩基間に挿入されるのが可能な有機化合物であるか、若しくは正に帯電し重合性があり、DNAの負に帯電したリン酸骨格に対する親和性に基づきDNAとの複合体化する、他の好適な相互キレート剤等の分子との相互キレート化によって調節され得る。DNAの剛性は、テザー長に沿ってDNA結合タンパク質と複合体形成することによっても変わり得る。他のテザーの剛性は他の手段によって調節され得る。例えば、DXハイブリッドを含むテザーの剛性は、それぞれのナノチューブを形成する同心円管の数を増やすことでカーボンナノチューブを含むテザーに関して鎖の数を変えることで調節され得る。
【0030】
好ましい実施の形態において、可変長のdsDNAのテザー部分が共にライゲーションされ、テザーを形成する。例えば、テザー体部分がヘッドテザー部分及びテイルテザー部分と結合し、テザーを形成し得る。テザー体部分のヌクレオチドは、溶液中でテザーヘッド部分及びテザーテイル部分とライゲーションし得る。
【0031】
非ヌクレオチドテザーに関して、化学的な架橋方法を用いて、ヘッドオリゴヌクレオチドのリンカー及びテイルオリゴヌクレオチドのリンカーをテザーの体部分のそれぞれの末端に付着することができる。
【0032】
テザーがヌクレオチドを含む場合、上記又はそれぞれのテザー部分の長さは典型的には、約50塩基対(bp)〜50Kb、好ましくは200塩基対〜20k塩基対、又は他のテザーに対して30〜12000nm、好ましくは60〜6000nmであり得る。
【0033】
テザーは、アンカーによって表面と繋がり得る。アンカーは一本鎖アミノ修飾オリゴヌクレオチドであり得る。それから、テザー(ヘッド、体及びテイル)はアンカーオリゴヌクレオチドが固定されている固形担体にハイブリダイズすることができる。固形担体は修飾ガラス基板であり得る。標準的な技法を用い、アンカーオリゴヌクレオチドを共有結合させることができる(例えば、Chrisey, L.A., Lee, G.U., and O'Ferrall, E. (1996)著「Covalent attachment of synthetic DNA to self-assembled monolayer films」 Nucleic Acids Res. 24:3031-3039を参照されたい)。好ましい方法は、アミノ修飾アンカーオ
リゴヌクレオチドを、アミノシラン及びp−フェニレン1,4ジイソチオシアネート(PDC)等の作用物質で処理したガラス担体に結合させることを伴う。アガロース及びセファロースを含む、テザーを表面に結合させるように修飾することができる他の基板も考慮される。
【0034】
一実施の形態において、担体のフォーマットは、オリゴヌクレオチドアンカー又はテザーが、Genetixから入手可能なもの等の市販のスプリットピンアレイ装置を用いて、スポットでアレイ上にプリントされるスライドガラスである。マイクロエレクトロニクスに由来する縮小化技法に基づく、より専門的な固形担体が、分析をさらに縮小化し、読み出しシステムとより良好に統合させるように設計されたより洗練された実施態様に用いられ得る。
【0035】
代替的なフォーマットにおいて、単一ビーズとテザーとの組合せの間に特有の関連性が生じるフォーマットで結合するマイクロビーズによって担体が提供され得る。このフォーマットが、この技術をマイクロ流体システムに適応させることを可能にし、特にテザーが比較的長い、すなわち約50μmである場合、プローブ密度を高めることを可能にし、高アンカー間の距離で高い親和性相互作用に対して試験するのに用いられる。好適なマイクロビーズには、ポリスチレン、被覆第一鉄/第二鉄粒子、金粒子、セファロース、アガロース、ガラス又はカーボンが含まれ得る。
【0036】
配列スポットの実施態様では、第1の生体分子及び第2の生体分子に対するアミノ末端のオリゴヌクレオチドアンカーが修飾ガラス基板と共有結合し得る。一連の他のアプローチをテザー間の距離を変えるのに用いることができる。一実施態様において、オリゴヌクレオチドアンカー間の距離は、特定のオリゴヌクレオチド混合物に滴定される非特異的なアミノ末端のオリゴヌクレオチド(他のテザー成分と結合しないように設計される)の使用によって増大する。非特異的なオリゴヌクレオチドの割合が大きければ、結果的に特異的なオリゴヌクレオチドアンカー間に生じた距離も大きくなる。代替的には、オリゴヌクレオチド結合の前に修飾シラン分子の割合が低減し得る。アンカー間の平均距離は最大のオリゴヌクレオチドテザー能に対するテザー長より大きい距離と異なり得る。公開されたプロトコル(例えば、上記のChrisey他(1996))を用いることで可能になる最大結合密度は、1.6nmの平均アンカー間距離(spacing)に等しい1cm2当たり20ピコモルの結合DNAである(上記のChrisey, L. A.他(1996))。このアンカー間密度は、通常約5nm〜約1μmに及ぶアンカー密度の最確範囲に必要なものを大きく上回る。
【0037】
上記の実施態様において、非特異的なアミノ特異的オリゴヌクレオチドは、反応基をキャップするように機能し、また担体表面を静電的に負にし、それにより負に荷電したDNAテザーの表面との連結を最小限にする。代替的に、疎水性脂質基はガラス表面と結合し、疎水性−親水性の連結が不一致であるためにDNA表面連結が妨げられる。例えば、好適な脂質基にはホスファチジルエタノールアミンが含まれ得る。
【0038】
代替的な実施態様において、隣接したアンカーオリゴヌクレオチドに存在する配列が連続して(すなわち単一オリゴヌクレオチドとして)合成される。このことにより、第1のテザー及び第2のテザーの両方に共通したアンカーが効率的に生成され、行程体積が完全に重複することが確認される。ごく少数の(一対という少ない)生体分子の結合が研究されたということが、このアプローチの利点であり得る。この実施態様の変形形態では、第1の生体分子及び第2の生体分子が別々の固体表面と繋がらない場合、第1の生体分子及び第2の生体分子が単一テザーの各端と繋がり、溶液中で測定が為され得る。
【0039】
タンパク質生体分子を核酸テザーと連結させる好ましい方法において、タンパク質核酸接合体が、Jung, G. Y., and Stephanopoulos, G. (2004)著「A functional protein chi
p for pathway optimization and in vitro metabolic engineering」Science 304, 428-431に記載の方法に従って産生される。次にこの記載は、Roberts, R. W., and Szostak, J. W. (1997)著「RNA-peptide fusions for the in vitro selection of peptides and proteins」 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 94, 12297-12302に記載される元の方法に基づいている。要するに、この方法は、mRNA−DNA接合体の3’末端に近接なそのC末端で新生ペプチドを共有結合させるin vitro翻訳反応の使用を伴う。タンパク質生体分子を核酸テザーと連結させるさらなる種類の方法が、上記の方法と同じく優先して用いられ得る(that can be)。これらの方法は一般的に、修飾酵素に付着する対象の生体分子を含む融合タンパク質の合成を伴う(添付の図23に図示され、A種はX種と融合した)。この種のシステムは、Halo−Tag、AGTタグ及びクチナーゼの3つの異なる酵素に関して記載されている(Hodneland他(2002)著「Selective immobilization of
proteins to self-assembled monolayers presenting active site-directed capture ligands」 Proc Natl Acad Sci USA 99, 5048-5052、Keppler他(2004a)著「Labeling of fusion proteins of O6-alkylguanine-DNA alkyltransferase with small molecules in vivo and in vitro」 Methods 32, 437-444、Keppler他(2004b)著「Labeling of fusion proteins with synthetic fluorophores in live cells」 Proc Natl Acad Sci USA 101, 9955-9959、Temple他(2006)著「From genome to proteome: developing expression clone resources for the human genome」 Hum Mol Genet 15 Spec No 1, R31-43)。合成後に、融合酵素(X)は化学合成基質と不可逆的に共有結合する。記載のシステムでは、広範な修飾基質が生成されている。提案された実施態様では、基質種(図23、Y)を組み込むヘッドセットオリゴヌクレオチドが化学合成される。共有結合したオリゴヌクレオチドのこの合成は、一工程での結合及び標識化プロトコルを可能にするドナー又はアクセプタフルオロフォアを組み込むこともできる。
【0040】
本発明に関して上記のJung and Stephanopoulos (2004)に記載されたアプローチの使用には、3つの主な利点がある。1つ目は、タンパク質−核酸複合体をin vitro翻訳抽出タンパク質から精製し、その後固定化テザーにアニーリングして洗浄できることである。2つ目は、複数のメッセンジャーRNAを同時に翻訳し、それらの特有のコード核酸に接合することができることであり、これによりハイスループットアプローチをタンパク質産生に採ることが可能になる。3つ目は、in vitro翻訳抽出物で産生されるタンパク質(約150ng/翻訳)は、典型的には直径100μmのテザーのマイクロアレイスポットを染み込ませるのに必要な量を超えて過剰に存在することである(1×107個の分子を伴う30nmのアンカー間距離を含有するスポットにおいて50KDaのタンパク質は約8pgである)。Jung and Stephanoupoulos (2004)によって、これらのアプローチにおける「オリゴヌクレオチドアンカー」の密度は、固定化した核酸−タンパク質複合体のレベルの主な決定因子であることが示された。全体的に類似した様式では、本発明に従った方法で用いたテザーの割合によって、繋留した第1の核酸−タンパク質複合体と繋留した第2の核酸−タンパク質複合体との割合が決定される。
【0041】
タンパク質−核酸複合体を作製する代替的な方法を用いてもよく、修飾オリゴヌクレオオチドとの精製タンパク質生体分子の直接的な化学架橋が含まれる。代替方法として、テザーと結合させながら、初めにmRNA−DNA接合体を固定化したテザーにアニーリングし、メッセンジャーRNAを翻訳すること、in vitro翻訳抽出物を繋留メッセンジャーRNAに加えることによって、タンパク質−核酸複合体をin situで生成することができる。
【0042】
代替的には、メッセンジャーRNAは、対象のタンパク質生体分子と、第2のタンパク質ドメインXとの間でタンパク質融合を生じさせるように設計することができる。第2のドメインXは、テザーのヘッドオリゴヌクレオチド又はテザーのヘッド端の設計成分に対して非常に高い親和性を有するように設計することができる。例えば、Xドメインが高親
和性の特異的DNA結合タンパク質(例えばλリプレッサー)である場合、新生タンパク質がDNA結合部を介してテザーと連結することができるように、その同族DNA部位を、ヘッドオリゴヌクレオチド複合体に導入してもよい。代替的に、Xはストレプトアビジン等の分子である可能性があり、対応する結合パートナー(この場合ビオチン)はヘッドオリゴヌクレオチドと化学結合する。
【0043】
典型的なタンパク質生体分子としては、酵素、抗体及び受容体が挙げられる。さらに代替的な方法では、第1の生体分子及び/又は第2の生体分子は、タンパク質以外の生体活性分子であり得る。テザーと結合される間は、代替的な生体分子がその機能的な活性を維持することができることが唯一の必要条件である。代替的な分子としては、ペプチド、ペプチド類似体、例えば合成アミノ酸、コンビナトリアルポリマーライブラリー、低分子(すなわち、例えば1000ダルトン未満の化学合成薬剤)、多糖及び触媒活性RNA種が挙げられる。
【0044】
好ましい方法において、核酸タンパク質接合体が、第1の生体分子及び第2の生体分子のいずれかで提供され、ヘッドオリゴヌクレオチドテザー部分の相補配列に対する核酸成分の3’末端に近接している相補配列によってアニーリングされる。このことによって、核酸接合体が、in vitro翻訳で典型的なモル濃度(例えば10nM)から実験濃度に濃縮される。
【0045】
単純で十分に特徴付けられた平衡結合方程式(ミカエリスメンテン)を用いて、第1の生体分子及び第2の生体分子の濃度、並びに結合した第1の生体分子/第2の生体分子の割合に基づき、分子間相互作用パラメータを導くことができる。
【0046】
例えば、担体と繋がる第1の生体分子と第2の生体分子との間の相互作用のKdを正確に決定するのに典型的な実験において、一連のテザー長及びアンカー間距離を有する第1の生体分子及び第2の生体分子は、アンカーと第1の生体分子及び第2の生体分子に対するテザーとの適切な組合せを用いて、スポットのアレイとして配置される。このことは標準範囲の濃度を生じさせる。これらの濃度は初めに、結合した第1/第2の生体分子複合体の割合に対してプロットされ、最大半量結合に必要な第1の生体分子(又は第2の生体分子)の濃度が決定される(この濃度はKdである)。
【0047】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、第1の生体分子及び第2の生体分子の濃度範囲に対する結合した第1の生体分子及び第2の生体分子の割合を決定すること、及び第1の生体分子及び第2の生体分子の最大半量結合に必要な第1の生体分子又は第2の生体分子の濃度、いわゆるKdを決定することによって、第1の生体分子と第2の生体分子との間の相互作用のKdを決定する方法が提供される。第2の生体分子のライブラリーに対する第1の生体分子の親和性を決定することができる。生体分子のライブラリーには、トランスクリプトーム又はプロテオームの少なくともかなりの部分が含まれ得る。
【0048】
本発明による方法によって、単一生体分子Aと、分子B1、B2、B3〜Bnのライブラリーとの間の相互作用をスクリーニングする可能性が与えられる。1つのフォーマットでは、それぞれのスポットは生体分子A及びB1、又はA及びB2〜A及びBnのみで占められている。タンパク質分子に好ましい実施態様では、メッセンジャーRNA(messages)のB1、B2、B3〜Bnの3’末端由来の特有の(例えばコード)領域を認識するヘッドテザー部分が生じ、上記のようにコアテザーと結合する。Bnは、潜在的にトランスクリプトーム/プロテオームを表すタンパク質のライブラリーであり得る。代替的に、Bnは相互作用部位の規定に用いるペプチドのライブラリーであり得る。代替的に、Bnは、低分子化合物から合成ポリマーのライブラリーに及ぶ化合物の繋留ライブラリーであり得る。
【0049】
初期飽和濃度の第1の生体分子及び第2の生体分子で共に切断することができる第2の生体分子にアンカー/テザーを用いることによって、Koffを決定することが可能になる。このスキームでは、第1の生体分子/第2の生体分子の複合体のレベルの減衰速度がリアルタイムでモニタリングされ、その後第2の生体分子に対するテザーの切断が起こる。この種の分析は、Koffを決定するために表面プラズモン共鳴で用いられたものに類似している。
【0050】
繋がった第1の生体分子と第2の生体分子との間の相互作用に対する第3の繋がった又は繋がっていない生体分子の効果も研究することができる。
【0051】
本発明のさらなる態様によれば、第1の生体分子と第2の生体分子との間の相互作用に対するKoff値が、第1の生体分子及び第2の生体分子の初期飽和濃度を提供すること、第2の生体分子のテザー部分又はアンカーを切断すること、並びに結合した第1の生体分子及び第2の生体分子のレベルの任意の変化をモニタリングすることによって決定される方法が提供される。
【0052】
本発明のさらなる態様によれば、第1の生体分子と第2の生体分子との間の相互作用に対する自由エネルギー(ΔG°)値の変化を決定する方法が提供され、この方法は、第1の温度で結合した生体分子の割合を決定すること、第2の温度で結合した生体分子の割合を決定すること、及び第1の温度と第2の温度とでそれぞれ結合した生体分子の割合を比較することを含む。典型的には、生体分子の温度は、この方法を行うのに用いられる実験装置の温度を変更することによって変わり得る。
【0053】
本発明の別の態様によれば、第1の生体分子及び第2の生体分子の親和性を決定する装置が提供され、この装置は、第1のテザー長を有する第1のテザーと繋がった第1の生体分子と、第2のテザー長を有する第2のテザーと繋がった第2の生体分子と、隣接した第1の生体分子及び第2の生体分子の互いの結合を決定する手段と、第1のテザー長及び第2のテザー長の少なくとも一方を変える手段とを備える。
【0054】
第1の生体分子及び第2の生体分子の少なくとも一方が装置の表面と繋がり得る。好ましくは、第1の生体分子及び第2の生体分子の両方が表面と繋がる。生体分子は、例えばY字型配列又は直線配列で別々に又は共に表面と繋がり得る。代替的には、生体分子は共に繋がり、溶液形態で装置と結び付き得る。
【0055】
表面は固形担体によって提供され得る。好ましくは、固形担体はスライドガラスである。代替的には、固形担体はマイクロビーズであり得る。
【0056】
装置の他の態様は、上記の好ましい方法の特徴によって提供され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
1 本発明による方法の概説
図1は、アンカー14を介して第1のテザー12によって表面16と繋がった単一の第1の生体分子10を示す。第1の生体分子10は、実質的に半球形のボリューム18中のアンカー14の周りをテザー12上で自由に動く。ボリューム18の容積は、第1のテザー長19で決定される。
【0058】
図2は、固定した第1の生体分子10及び第2の生体分子20を示す。第2の生体分子20は、アンカー24を介して第2のテザー22によって繋がり、また実質的に半球形のボリューム26中を自由に動く。ボリューム26の容積は第2のテザー長27で決定され
る。半球形のボリューム18及び26は重複し、反応域28を規定する。
【0059】
図3Aは、反応域28で結合した第1の生体分子10及び第2の生体分子20を示す。図3Bで示されるように、テザーは可撓性であるので、生体分子は表面というよりボリュームを占有する。図4は繋留生体分子間でテザー間距離が変わることを示す。図4Aでは、例えば生体分子30と生体分子32とは比較的離れている。図4Bでは、例えば生体分子34と生体分子36とは共に比較的近接している。図4A及び図4Bで示されるように、第1の生体分子テザー及び第2の生体分子テザーのランダム分布の代替方法は、第1の生体分子及び第2の生体分子が、表面パッチ間のギャップを埋めるように広がる場合にのみ相互作用することができるように、基板表面上の別々の部分に対して第1の生体分子及び第2の生体分子を標的化することである。離れた部分間の距離及び/又はテザー長を制御することによって、結合生体分子と自由生体分子との割合が変わり、本明細書に記載されるような親和性の決定が可能になる。
【0060】
2 繋留生体分子のアレイの調製
本発明による方法に用いる或る形態の繋留生体分子の調製が図5〜図9で示される。これは、可変長の体テザーを3つの「アダプター」オリゴヌクレオチドに連結させることを伴う。ヘッド、体、テイル及びアンカーオリゴヌクレオチドを下記のように組合せて、固定化テザーを生成する。固定化テザーを含有し、第1のテザー長のテザーと第2のテザー長のテザーとの割合が異なるスポットのアレイが生成される。下記のように、それから核酸−タンパク質共有複合体を固定化テザーにハイブリダイズさせる。
【0061】
a)テザーヘッド部分の生成
テザー体部分は、特に図6で示されるように二本鎖DNA(dsDNA)から生成される。テザー体部分50は、制限酵素ハーフサイト(half-site)X(テザーヘッド部分38又は40のハーフサイトX’に相補的である)を含む一本鎖の上部を有する。テザー体部分の下部領域には、図6で一般的にYと称される一本鎖部分が含まれる。
【0062】
b)テザー体部分の生成
テザー体部分は、特に図6で示されるように二本鎖DNA(dsDNA)から生成される。テザー体部分50は、制限酵素ハーフサイトX(テザーヘッド部分38又は40のハーフサイトX’に相補的である)を含む一本鎖の上部を有する。テザー体部分の下部領域には、図6で一般的にYと称される一本鎖部分が含まれる。
【0063】
c)テザーテイル部分の生成
テザーテイル部分は、dsDNAテザー体部分にアニーリング及びライゲーションするように、及びまた以下に記載される特異的なアンカーオリゴヌクレオチドにアニーリングするように設計される。図6で示されるテザーテイル部分52及び54それぞれが、上部(upper respective)及び下部を含む。一般的にY’と称される上部は、テザー体部分50の一本鎖部分Yに相補的である。一般的に1及び2と称される下部も一本鎖であり、下記のアンカーにアニーリングするように設計される。
【0064】
d)テザーの集合化
個々のテザー生成反応は、第1のフルオロフォア又は第2のフルオロフォアのプールを生じるように、又はテザーが異なるテザーを標識した量子ドットに対して調整される。テザーヘッド部分38、40、テザー体部分50、及びテザーテイル部分52、54は、図6で示されるような溶液中の好適な条件下の従来の条件により集合化され、テザー55及びテザー57を形成する。典型的な条件は、50mMのNaCl、HEPES緩衝液(pH7.5)(10mM)、及び室温であり得る。
【0065】
e)アンカー−オリゴヌクレオチド
集合化テザー55、57は、アンカーによって表面に固定することができる。アンカーは典型的には、一本鎖のアミノ修飾オリゴヌクレオチドである。好ましい実施形態では、固形担体はアンカーオリゴヌクレオチドと共有結合させるのに標準的技法を用いて調製した修飾ガラス基板である。例えば、Chrisey, L. A., Lee, G. U., and O'Ferrall, E. (1996)著「Covalent attachment of synthetic DNA to self-assembled monolayer films」
Nucleic Acids Res. 24:3031-3039を参照されたい。アミノ修飾アンカーオリゴヌクレオチドは、アミノシラン及びp−フェニレン1,4ジイソチオシアネート(PDC)で処理したガラスと結合する(図7)。
【0066】
以下に記載の特定の実施形態において(図13〜図15)、蛍光寿命測定(FLIM)と共にフォスター共鳴エネルギー移動(FRET)を用いて、AB複合体で分子的に近接していたAとBとの割合を決定した。FLIMは、FRETの時間依存性を利用し、AB複合体で見出されるAとBとの割合のより高感度の測定を可能にする。FRET及びFLIMの両方が示されたアッセイで用いられた。
【0067】
図8で示されるように、テザー55及び57は、それぞれ一本鎖部分を有し、一般的にそれぞれ1及び2と称され、テザーテイル部分52、54の対応部1及び2に相補的であるアンカーオリゴヌクレオチド56、58がこれまでに固定化されている固形担体60にハイブリダイズされる。
【0068】
3 テザー/生体分子接合体の生成
a)in vitro翻訳の利用
テザーにハイブリダイズすることができるタンパク質生体分子/核酸接合体は、in vitro翻訳反応によって、上記のJung, G. Y., and Stephanopoulos, G. (2004)に記載された方法に従って生成され、mRNA−DNA接合体の3’末端に近接するそのC末端によって新生ペプチドと共有結合する。それから、テザータンパク質複合体を、これらの固定化アンカーオリゴクレオチドに付着したアニーリングしたテザーのアレイにハイブリダイズさせる。
【0069】
これは、図9で図示され、一般的にプロテインAで示される第1の生体分子をテザー55のヘッド部分にハイブリダイズさせ、プロテインBで一般的に示される第2の生体分子をテザー57のヘッド部分にハイブリダイズさせる。タンパク質生体分子−核酸接合体を作製する代替的な方法を用いることができ、これには修飾オリゴヌクレオチドへの精製した第1の生体分子又は第2の生体分子の直接的な化学架橋が含まれる。
【0070】
b)in situでのタンパク質−核酸複合体の生成
代替的には、タンパク質核酸複合体は、初めにmRNA−DNA接合体を固定化されたテザーにアニーリングすること、及びin vitro翻訳抽出物を繋留メッセンジャーRNAに加えることで、テザーと結合しながらメッセンジャーRNAを翻訳することによってin situで生成され得る。
【0071】
c)タンパク質−タンパク質融合の利用
別のアプローチにおいて、メッセンジャーRNAを遺伝子操作し、対象のタンパク質生体分子と、第2のタンパク質ドメインXとの間でタンパク質融合を生じさせる。ドメインXは、テザーヘッド部分のオリゴヌクレオチドの操作成分又はテザーのヘッド端に対する親和性が非常に高くなるように設計される。例えば、Xドメインが親和性の高い特異的DNA結合タンパク質(例えばλリプレッサー)である場合、その同種DNA部位は、ヘッドオリゴヌクレオチド複合体に導入され、新生タンパク質がDNA結合部を介してテザーと結び付くのを可能にする。代替的には、Xはストレプトアビジン等の分子であり、その
結合パートナー(この場合はビオチン)が合成中にテザーヘッド部分のオリゴヌクレオチドと化学結合する。
【0072】
4 テザーへの核酸−タンパク質接合体のアニーリング
好ましい方法において、核酸生体分子タンパク質接合体は、図9で示されるように核酸成分の3’末端に近接する相補(complimentary)配列(A又はB)によって、ヘッドテザー部分において相補配列にアニーリングされる。これによって、核酸接合体が、in vitro翻訳に典型的なモル濃度(例えば10nM)から、DNA長と、個別に離れて繋がった分子に関する他のパラメータとの間で関連性を示す実験濃度(例えばテザーの重複が全くない200bpのテザーに基づく3.7μM、表2を参照されたい)まで濃縮される。
【0073】
【表2】

【0074】
上記のように、テザーはdsDNAから構成される必要はなく、DNA DXハイブリッド等の他の分子から構成されていてもよい。
【0075】
5 溶液中の親和性の測定
第1の生体分子Aと第2の生体分子Bとの間の親和性の測定は溶液中で行うこともでき、図12Aで示される単純なスキームを用いて、繋留原理の根底となる基本原理の研究が可能になる。この方法では、A及びBは単一の可撓性テザーの反対端で付着し、両方の分子がテザー長の三次関数として変わる共有の半球形のボリュームを掃引する。単一テザーの長さが低減されると、A及びBで掃引されるボリュームが低減され、ボリューム内のA及びBの有効濃度がテザー長の三次関数として上昇する。このスキームは、A及びBが、A及びBで掃引されるボリュームが正確に重複するように、連結テザーの長さのちょうど半分の表面に固定されると考えることができるという点で、上記のテザー生体分子の表面固定と形態的に類似している。
【0076】
以下に記載される特定の実施例において、蛍光寿命測定(FLIM)と共にフォスター共鳴エネルギー移動(FRET)を用いて、AB複合体で分子的に近接したAとBとの割合を決定した。FLIMは、FRETの時間依存性を利用し、AB複合体で見出されるAとBとの割合のより高感度の測定を可能にする。FRET及びFLIMの両方を示された測定に用いた(Backsai他(2003) J Biomed Opt. 2003 Jul;8(3):368-75、Forster T (1965)著「Delocalized excitation and excitation transfer」 In Modern Quantum Chemistry, part III. O. Sinanoslu, editor. Academic Press, New York. 93-137. Stryer L and Haugland RP, (1967) Proceedings of the National Academy of Science USA. 58: 719-730.)。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
a)オリゴヌクレオチド標識化及び「ヘッドセット」の調製
試験システムの詳細が図13で示される。親和性が測定された生体分子は、2つの11塩基対の重複が可逆反応で互いを認識するDNAハイブリッドの相補鎖であった。11塩基対の相互作用領域は、太字で示された塩基に組み込まれたフルオロフォアA(アクセプ
タ)及びフルオロフォアD(ドナー)を含有する長い二本鎖DNA分子の一本鎖DNA伸長部である(図13A)。示されたデータでは、ドナーとして用いられたフルオロフォアはAlexa Fluor488であり、アクセプタとして用いられたフルオロフォアはAlexa Fluor555であり、両方ともMolecular Probes製である。両方のフルオロフォアがオリゴヌクレオチド合成中に組み込まれ、続いて標識化オリゴヌクレオチドをアニーリングして、図6Aで示された構造を形成した。フルオロフォア標識した二本鎖オリゴヌクレオチドは、ドナー又はアクセプタ「ヘッドセット」と称され、アニーリングした11bpの親和性領域及び蛍光染料の存在の両方を示す。
【0078】
b)直鎖DNAテザーの調製
図13Bで示され、図12A及び図12Bで図示されたより長く繋がった分子を作製するために、標準的な手順によって、ドナー及びアクセプタヘッドセットのオリゴヌクレオチドを可変長の二本鎖標準DNA領域にライゲーションした。要するに、「ヘッドセット」オリゴヌクレオチドをBstX1制限酵素で切断し、それぞれが自由BstX1及びXba1部位を含有した可変長の「テザー体」DNAにライゲーションした。BstX1−BstX1及びXba−Xbaのライゲーションを用いて、図5Bで示されるような分子を生成した。これらは、分析の前にゲル精製した。ドナー及びアクセプタヘッド群の両方を組み込む直鎖分子の全長は515bp及び710bpであった。
【0079】
c)サンプル調製、FRET及びFLIMの検出
ヘッドセット又は二重標識した直鎖DNA分子を、70mMのNaCl、10mMのトリス(pH8.0)の最終濃度で示された濃度に希釈した。それぞれの溶液6μlを、22×50mmのカバースリップ(Menzel-Glaser, Germany)と共に、多室(multi-chambered)カバースリップ(Stratech Scientific, UK)を用いて作られた50ウェルスライドのウェルの1つに入れた。
【0080】
ドナーフルオロフォアの吸収バンドにおける波長(約470nm)によって、76Mhzの繰り返し率で短光パルス(100fs幅)を与える周波数が倍増したTi:Saレーザーを用いてサンプルを分析した。励起光をサンプルに弱く当てて、均一な照射及び1mmのウェル深度での回収を可能にし、カバースリップの蛍光バックグラウンドにわたるシグナル寄与を最大にした。非線形性及び光損傷を避けるために、励起強度を低く維持した(直径0.4mmのスポットで0.05〜10mW)。顕微鏡の対物レンズから集めた蛍光を、分光計を用いてスペクトル的に分析し、時間積分FRETスペクトルに関しては冷却CCDカメラで検出した。時間分解型FLIMに関して、ドナーフルオロフォアの発光極大の周辺(520±5nm)の蛍光を分光計で除去し(filtered)、時間相関単一光子計数モジュールと接続した単一チャンネルの高速(fast)光電子増倍管(200ps時間分解型)で検出した。バックグラウンド寄与は、同じ励起条件及び検出条件でフルオロフォアが存在しない緩衝溶液から測定され、適切に差し引いてデータとした。
【0081】
d)Y字型分子の調製
Y字型分子におけるそれぞれの生体分子に対する第1のテザー部分及び第2のテザー部分は、テザーが図12Bで示される直鎖分子について拡散して遊離するように、一本鎖DNAに固定される。単一分子のものに比べて、この形態の繋留の主な利点は、第1のテザー部分及び第2のテザー部分が、介在テザーの長さに関係なく自由に相互作用することである。これに対して、直鎖分子は、約90〜120bpの持続長(P)より短い長さでは、分子自体の上に折り畳むことはできない。
【0082】
e)データ解析
最大結合%を決定するために、初めに本発明者等は、以下の手順を用いて、異なるドナー及びアクセプタ濃度で結合したドナーと結合していないドナーとの割合(R)を決定し
た。異なるアクセプタ濃度で結合した減衰スペクトルと結合していない減衰スペクトルとの間の比を経時的に決定し、自由に標識したヘッドセットオリゴヌクレオチドを用いて図14で示されるようにプロットした(示された3つの曲線は、1. 50nMのアクセプタ:50nMのドナー、2. 200nMのアクセプタ:50nMのドナー、3. 600nM:50nMのドナーを表す)。
【0083】
それぞれの曲線に関して、減衰曲線(R(t)=U(1+R exp(−t/τ))(式中、Rは結合したドナーと結合していないドナーとの間の比であり、tは時間であり、UはN(非結合)/N(ここで、Nはアクセプタ非存在下でのドナーの濃度である)であり、τは減衰定数であり、R、U及びτは実験データの数値適合から直接決定された)に対する数値適合(点線)を行った。
【0084】
結合したドナーの割合(R/(1+R))を、図15で示されるように、アクセプタ濃度に対してプロットした(%は、4000nMを超えるアクセプタ濃度で見られた最大効果に対して正規化された)。図15では、自由ドナー及びアクセプタヘッドセットの実験曲線を、一連のアクセプタヘッドセット及び単一(50nM)のドナーヘッドセットの濃度に対して決定した。これによって、11bpの重複ヘッドセットの結合親和性が136nMと決定された。これは、同じ配列に対する176nMの理論値(theoretical determination)に密接に適合する。図16では、2つの11bpの重複直鎖分子由来の予備データ(一端ではドナー、もう一端ではアクセプタ、白丸)は同じ縮尺で示される。
【0085】
f)DNA結合親和性の理論値決定
結合分子ADを形成するための分子Aと分子Dとの間で化学反応が、
A+D⇔AD (1)であり、且つ可逆反応であり、この系が平衡状態であると仮定した場合、本発明者等は解離定数を
d=[A][D]/[AD] (2)
と定義することができる。
【0086】
基本的なテキスト(例えばJohn SantaLucia, Jr. and Donald Hicks. (2004) Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 33, 415-40を参照されたい)に従って、本発明者等(people)は、平衡定数keq=1/kd(kd=1/keq=exp(ΔG/RT)(3)(式中、kd[mol/l]は解離定数であり、ΔG[cal/mol]は反応による自由エネルギーの変化であり、Rは、1.987[cal/(Kmol)]であり、T[K]は絶対温度である)も用いることに留意されたい。kdを算出するために、本発明者等はΔGを算出する必要がある。本明細書では、本発明者等は塩基対の重複が異なるDNAヘッドセットを有する。
【0087】
上記のProf. SantaLucia及び共同研究者(John SantaLucia, Jr. and Donald Hicks. (2004), Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 33, 415-40)によって開発された方法及びソフトウェアでこれを行うことができる。
【0088】
DNA分子に対するΔGを適切に推測するために、本発明者等はフォールディング及びハイブリダイゼーションの予測を考慮する必要がある(M. Zuker. Nucleic Acids Res. 31 (13), 3406-15, (2003))。
【0089】
最終的な結果は以下の表で与えられる。以下の参考文献に記載された方法を用いて、理論的な親和性が算出された:上記のJohn SantaLucia, Jr. and Donald Hicks. (2004)、上記のM. Zuker, (2003)、及びA V Fotin他, Nucleic Acids Res. 26 (1998) p.l515。
【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

【0092】
フォールディングのために補正された11塩基対に対して表3及び表4で与えられた結果は、サンタルチア又はフォチンのいずれかで用いられた計算のための方法によって変わる。その差は1桁である。9塩基対に関しては、2つの方法の間の一致はより良好である。
【0093】
結果
a)自由オリゴヌクレオチドを用いた11bpの重複の結合親和性の決定
これらの研究の最も重要な最初の目標は、後で本発明のナノテザー方法論を用いた結果と比較することができるように、11bpの親和性の正確な値を決定することであった。図13Aで示されたオリゴヌクレオチドに対する解離定数(Kd)を同定するのに、標準的な滴定反応を行った。本質的に、これは固定濃度の蛍光標識したドナーヘッドセットオリゴヌクレオチド(D 50nM)で、及び可変濃度の蛍光標識したアクセプタヘッドセットオリゴヌクレオチド(A 0nM〜5000nM)で複数のサンプルを作製することを伴う。
【0094】
D:Aハイブリッドの量を決定するために、上記のように時間依存性のFRET−FLIMに関して分析した。この分析由来の代表的なプロットが図14に示される。蛍光シグナルの減衰速度は、増大レベルの蛍光標識したアクセプタヘッドセットの存在下で増大し、これはFRETの時間依存性の特徴であるアクセプタフルオロフォアの存在下でドナーフルオロフォアの減衰速度の増大を示す。重要なことは、一本鎖オーバーハングを含有しない標識ヘッドセットは、FRET/FLIMがないことを示し(データ図示せず)、観察された減衰は2つのヘッドセットの分子間ハイブリダイゼーションによるものであったと主張した。
【0095】
図14で示された種のFRET−FLIM分析由来の特徴的な減衰曲線は、上記の方法に従って相対的なFLIM値に変換され、アクセプタヘッドセットオリゴヌクレオチドの濃度に対してプロットされた(図15)。特にこの図では、11bpの重複ドナーヘッドセットのFLIMの最大%(y軸)がアクセプタヘッドセット濃度に対してプロットされた。この曲線は、アクセプタヘッドセットの最大半量結合(Kd)の濃度が136nMと算出(FIT)された古典的な飽和応答を示した。線形回帰分析を用いて、70mMのNaCl中で11bpの重複の解離定数に対して136nMの値が推測された。この値は、最近隣法の熱力学的予測による配列に対して算出された170nMという理論値に非常に近かった(上記を参照されたい)。このことは、FRET−FLIM法によって結合フルオロフォアの割合を正確に決定することができたということを示している。
【0096】
b)直鎖分子におけるFLIMのテザー長依存性
予測に従ってテザーの長さが低減した場合、結合形態で見出された直鎖テザー分子の割合が増大した(図12A、図12B)。これを試験するために、一端に11bpの重複のドナーヘッドセット及び他端にアクセプタヘッドセットを有する直鎖分子を上記のように作製した。得られたデータは以下の表で表される。直鎖分子におけるFRET/FLIMの予備データは、図16における白丸及び表5で表される(より多くのDNA長に対するより完全なデータセットが図22に示される)。予備データ点は、それぞれ11bpの重複を有する515bp及び710bpの直鎖DNAに対するものである。各分子の末端は一端をAlexa Fluor488で、及び他端をAlexa Fluor555で標識した。各分子は、球面半径がテザー長になるボリュームを有すると仮定することによって決定されるとき、各分子の正確な濃度は5nMであり、各分子の公称繋留濃度は778nM及び2000nMであった。グラフから分かるように、FRET測定値は、絶対分子濃度(5nM)に基づき予測された値より非常に高く、長分子(710bp)よりも短分子(515bp)でより高かった。このデータは、テザーの長さに反比例して、自由端の濃度を高めるテザーと一致している。加えてこのデータは、テザーの長さが変わることによって濃度を変えることができるという特許請求の範囲と一致している。
【0097】
【表5】

【0098】
最大FLIMの%が図16で公称繋留濃度に対してプロットされ、FRET/FLIM及びしたがってその結合がより短いテザー長で増大したことを示した。図16では、11bpの重複のドナーヘッドセットに対する最大FLIMの%は、(図15で参照のための増加が示されるように)アクセプターヘッドセット濃度に対してプロットされた。このデ
ータによって、それぞれのテザーの長さに対して測定されたFLIMの%が、図15で示されたものと同じリガンドを遊離濃度で用いることで得られた%に匹敵することが示され、テザーが可撓性直鎖分子によって作られたものと同様のボリューム内にその末端を維持することが指示される。
【0099】
[実施例2]
実験の詳細:
示されたデータの生成は、フルオロフォア標識直鎖DNA分子の調製及び時間分解型FRETの測定を伴った。
【0100】
1.試薬の調製
a)ヘッドセットの設定
親和性が測定された生体分子が図19に示される。要点は、時間分解型FRETを用いた自由分子及び結合分子の測定に必要な共有結合フルオロフォアと共に、測定される生物学的親和性を構成する2対のオリゴヌクレオチド間の11bpの重複である。これらの分子は、一本鎖DNA重複で重なる同じ11bpを含有する上記の実施例1(図13A)で示されるものと本質的に同じである。これらの配列と本実施例の配列との間の主な違いは、テザー体DNAへのライゲーションを可能にするBstX1ハーフサイトの存在である(図19C、図19D)。
【0101】
重複するオリゴヌクレオチド対は「ヘッドセット」と呼ばれ、付着するフルオロフォアとは区別される。ドナーフルオロフォア(Alexafluor488)及びアクセプタ(ATTO550)フルオロフォアは、商業的供給業者(Eurogentec)によって、合成中にオリゴヌクレオチドに付着し、示された塩基に付着する。
【0102】
対照として、一本鎖重複を有しない(0bpの重複、図19B)類似のフルオロフォアで標識したヘッドセットの平滑末端のオリゴヌクレオチドを合成した。
【0103】
b)テザー体へのアニーリング及びライゲーション
ドナーヘッドセット又はアクセプタヘッドセットに対する2つの構成オリゴヌクレオチド(最終濃度25μM)は、アニーリング緩衝液(70mMの NaCl、10mMのトリス(pH7.4))中でサーマルサイクラー中で1時間かけて90℃から室温まで冷却することによってアニーリングした。
【0104】
アニーリングの後に、ドナー及びアクセプタのヘッド(Heat)セットそれぞれの25μM溶液1.5μl(約5倍のモル過剰)が様々な長さの「テザー体」DNAにライゲーションされ、標準的な手順((Sambrook他, 1989)、図19C、図19D)に従って末端にドナー及びアクセプタのヘッドセットを有する直鎖分子を生成した。ライゲーションの反応物質及び生成物のゲル分析例は図20に示される(標準的な手順(Sambrook他, 1989)に従って、臭化エチジウムで染色した1%アガロースゲル)。これは、ドナーヘッドセット及びアクセプタヘッドセットのライゲーションの後に、直鎖テザー体の大きさが増大したことを示している。
【0105】
FRET(図20)によって分析されたDNAの長さは、ヘッドセット添加後で498bp、692bp、1052bp及び1752bpであった。それぞれのテザー体が1つのドナーヘッドセット及び1つのアクセプタヘッドセットに付着したことを確認するために、配列が異なるように、及びパリンドロームとならないように、ライゲーション重複配列を設計した(アクセプタヘッドセット 5’TCAC、ドナーヘッドセット 5’CACA)。DNAのテザー体領域に隣接した2つのBstX1部位を含有していたプラスミド由来のテザー体DNAのBstX1消化によって、これが達成された。
【0106】
ライゲーション後に、直鎖分子をゲル精製し、既知のDNA標準と比較することによって定量化した。FRET分析のために、サンプルを指示濃度まで希釈し、5μlを複数のウェルの多室カバースリップ(Grace Bio-labs、CWCS50R−1.0)のウェルに加えた。ウェルを標準的なガラス製のカバースリップで封をした。
【0107】
2.時間分解型FRET分析
a)データ獲得
ドナーフルオロフォアの吸収バンドにおける波長(約470nm)によって、76Mhzの繰り返し率で、短光パルス(100fs幅)を与える周波数が倍増したTi:Saレーザーを用いてサンプルを分析した。励起光をサンプルに弱く当てて、均一な照射及び1mmのウェル深度での回収を可能にし、カバースリップの蛍光バックグラウンドにわたるシグナル寄与を最小限にした。非線形性及び光損傷を避けるために、励起強度を低く維持した(直径0.4mmのスポットで0.05〜10mW)。顕微鏡の対物レンズから集めた蛍光を、分光計を用いてスペクトル的に分析し、時間積分FRETスペクトルに関しては冷却CCDカメラで検出した。時間分解型FRETに関して、ドナーフルオロフォアの発光極大の周辺(520±5nm)の蛍光を分光計で選別し、時間相関単一光子計数モジュールと接続した単一チャンネルの高速(fast)光電子増倍管(200ps時間分解型)で検出した。バックグラウンド寄与は、同じ励起条件及び検出条件でフルオロフォアが存在しない緩衝溶液から測定され、適切に差し引いてデータとした。
【0108】
b)データ解析
FRETの時間依存性は、図21で示されるドナー及びアクセプタの動態(dynamics:ダイナミクス)で見ることができる。それぞれのトレースの最大蛍光強度は1に正規化される。予想通り、ドナーフルオロフォアがアクセプタフルオロフォアに近接している(11bpの重複配列の結合のため)ことによって、ライゲーションしていないドナーヘッドセットオリゴヌクレオチドに比べて、ドナー蛍光が迅速に低減された(図21A、実線の曲線)。アクセプタフルオロフォアの動態の対応する増強が、ライゲーションしていないアクセプタヘッドセットとの比較によって観察された。重要なことは、重複が0bpの直鎖分子を伴う類似の実験ではエネルギー移動が観察されなかったことであり(図21B)、11bpの重複が蛍光動態の変化に必要であったことを示していた。
【0109】
結合した(環状構造の)分子と全分子数との割合[Dbound/Dtot]は、分子が環状構造である確率に比例し、上記のように算出された。
【0110】
DNAの長さに伴う結合分子の割合の変化が図22に示される。結合分子の割合は、Rippe他(Rippe, 2001)に従って算出されるようにDNA最終濃度のモデル(JM因子)から予測された理論値に厳密に適合していた(記号xを参照されたい)。理論曲線が、持続長のDNAに近い最大の局所最終濃度(JM因子)を示すことに留意することが重要である。同様のピークは、実験データで観察される。最大の実用的基礎は、或る特定の長さ(持続長)未満では、DNA末端は、そのDNAの剛性のために折り畳んで互いに結合させることができない。これに対して、一度DNAが自身での折畳みに必要な長さを超えた場合、最大レベルの結合が観察される。長さのさらなる増大によって、自由端が互いに遭遇する確率が低くなる。結合におけるこれらの特徴変化は、本発明の方法が未知の結合パートナーの結合親和力を決定するのに用いられるという特性である。
【0111】
留意するべき2番目の主な点は、結合分子の割合が10倍希釈(10nMから1nM、図22)では顕著な影響を受けなかったことである。これは、図15で示されるように、濃度依存性が強い自由分子と対照的である。この事実は、ナノテザーの親和性測定が高感度であるはずであるという本発明者等の主張に一致している。理論的には、本発明による
方法を用いた測定感度は、単一対の分子の複数回の測定のみを必要とする。しかし、方法の幾つかの実施態様に際して、多くの分子対(100000超)が同時に精査され、シグナル出力を最大にする。
【0112】
考察
この結果によって、直鎖DNAテザーのそれぞれの末端と繋がった生体分子が有効容積を占め、これらの輪郭長、d(4/3.pi.(d/2)3)の行程体積に基づいて予測されたものに近いことが示される。このデータは、テザーの長さを変えることによって末端の有効濃度が変わることを示している。
【0113】
これらの結果によって、テザーの自由端で生体分子の濃度を制御する直接的な方法としてテザー長を利用することができること、及び高「濃度」の繋留生体分子は、テザーの末端で生体分子対間の分子内相互作用を介して得ることができることが示される。
【0114】
これらの結果によって、FRET/FLIM分析がテザーの末端で付着した結合生体分子の割合を評価する実践的な方法であることが示される。相互作用する分子の%はテザーの長さに依存し、テザーの濃度に依存しないので、単一の繋留分子で複数のFRET/FLIMを読み出すことによって繋留分子対の親和性を測定することが原則として可能になる。しかし、現行の蛍光技法の感度では、本発明者等は、読み出しが、1000個の結合した分子対の少なくとも10%でなされる必要があるので、FRET/FLIM分析には、平衡結合定数を推測するのに必要な少なくとも10000個の繋留分子対が要求されると考えている。それにもかかわらず、この分子の数はアトモル範囲であり、技法が上記のように高感度である必要があると主張する。
【0115】
生体分子を繋げる好ましい方法は分子を固体表面に付着させることであるが、繋留生体分子濃度の一次制御はテザー長を変えることによって達成されるので、単一の可撓性テザーを介する2つの生体分子の結合は、記載の直鎖テザーシステムの本質的に小さい実践的修飾である。しかし、表面と繋げる方法は、アンカー間距離を変えることによって、行程体積間の重複を詳細に制御することができる(図1〜図4を参照されたい)。
【0116】
それにもかかわらず、本発明者等は、直鎖分子、及びY字型分子等のナノテザー生化学アプローチ(図17)の他の実施態様には、検出分子を2つの生体分子の親和性を変えることができる因子を備える容器に入れるセッティングとは異なる利点があり得ることに留意している。例えば、直鎖又はY字型の分子を含有する小胞調製物を用いて、第2の生体分子に対する第1の分子の親和性を変え、小胞に自由に拡散する代謝産物の濃度をモニタリングすることができる。潜在的な容器としては、試験管、マイクロウェルプレート、代謝産物を拡散させるが、直鎖状の分子、細胞(例えば分子のマイクロインジェクション)及び生物体(例えばゼブラフィッシュ胚)を保持する膜結合容器が挙げられる。
【0117】
6 本発明の方法/装置のためのフォーマット
a)スライドガラスのフォーマット
一実施形態において、担体のフォーマットは、オリゴヌクレオチドがスプリットピン配列機を用いてスポットでアレイ上にプリントしているスライドガラスである。
【0118】
b)マイクロビーズのフォーマット
代替的なフォーマットにおいて、担体は、単一ビーズとテザーの組合せとの間に特有の関連性を生じるフォーマットで結合するマイクロビーズによって与えられる。このフォーマットによって、マイクロ流体システムにこの技法を適用させることができる。
【0119】
c)アンカー間距離の制御
上記の6のa)項で言及した好ましいアレイスポットの実施態様を利用して、第1の生体分子及び第2の生体分子に対するアミノ末端のオリゴヌクレオチドアンカーが修飾ガラス基板と共有結合する。非特異的なアミノ末端のオリゴヌクレオチド(テザー成分を結合しないように設計した)をアンカーオリゴヌクレオチド結合混合物に滴定し、必要に応じてアンカー間の結合距離を変える。アンカー間の平均距離は、テザー長よりも大きい長さから最大のオリゴヌクレオチドテザーの能力(最大の能力は、1.6nmの平均アンカー間距離に等しい1cm2当たり20ピコモルの結合DNAである、Chrisey, L. A.他(1996))まで変わる。このアンカー間密度は、(例えば互いの平均30nm内に200bp(60nm)のテザーを運ぶのに30nmの平均距離を必要とする(requires))典型的な範囲のアンカー密度で要求されたものを大きく上回る。
【0120】
非特異的なオリゴヌクレオチドは、反応基をキャップし、また表面を負に帯電させ、それにより負に帯電したDNAテザーの表面との関連性を最小限にする機能がある。代替的には、疎水性脂質基はガラス表面と結合し、疎水性−親水性結合の不和合性のためにDNA−表面の結合が妨げられ得る。
【0121】
代替的な実施態様において、アンカーオリゴヌクレオチドに存在する配列(図8のアンカー56及びアンカー58の配列1及び配列2)は連続して合成される(すなわち単一オリゴヌクレオチドとしての5’−配列1 − 配列2−3’)。これによって、テザーA及びテザーBの両方に共通のアンカーが効率的に生じ、行程体積全体が重複していることが確認される。この技法のさらなる開発の一部として、非常にわずかな数の(わずか1対の)生体分子を研究した場合、このアプローチには利点があり得る。
【0122】
7 アッセイの読み出し
a)スライドマウントシステム
本発明の一実施形態において、アッセイの読み出しは、テザーヘッド部分38及び40、又は図10に示されるようなテザーの核酸部分の他の場所に結合した異なるフルオロフォア42、43間のフォスター共鳴エネルギー移動(FRET)の強度である。フルオロフォアに対する励起極大(λ1)に適切なレーザーを用いて、このフルオロフォアを励起させる。フルオロフォア43からの波長極大(λ2)での発光を記録し、FRETのレベルを評価する(図10)。代替的には、フルオロフォア43は、フルオロフォア42からFRETを通って蛍光を消失させるように選択され得る。実際にFRETが起こるには、エネルギーを移動させるために、1つのフルオロフォアの励起分子が、他のフルオロフォアと分子的に近接である必要があり(10nm未満)、他のフルオロフォアが特有の波長で発光する。第1の生体分子及び第2の生体分子も、第1の生体分子と第2の生体分子との間で複合体を形成するために分子的に近接である場合、本発明の方法ではこれが起こる。したがって、繋留生体分子のスポット内に存在する第1の生体分子と第2の生体分子との割合は、FRETの強度で定量化される。適切な制御(例えばフルオロフォア42及びフルオロフォア43単独のスポット)がシグナルレベルを正規化するのに用いられる。
【0123】
FRETは、繋留生体分子のアレイを含有するスライドガラスで共焦点顕微鏡を用いて測定される。
【0124】
b)ナノスケールの球又は量子ドットの使用
代替的な溶液において、球又は「量子ドット」(Doty, R. C.他Cell Mol. Life Sci. 61 (15) 1843-9)等のナノスケール固体は、単一のフルオロフォアの代わりに繋がれる。これらの接合体は、蛍光分子の数が増えるために、FRET効率が高くなり得る。代替的に、ナノスケール固体によって、蛍光相関分光法が高解像度の光共焦点顕微鏡を用いて行われる。2Kb(0.6μm)より長いテザーに関して、第1の生体分子と第2の生体分子との複合体の形成は、蛍光ドット対の割合が幾つかの分離を示すものに比例するため、
直接的に記録することができる。
【0125】
8 データ解析
十分に特徴付けられた簡単な平衡結合方程式(ミカエリスメンテン)を用いて、第1の生体分子及び第2の生体分子の濃度、並びに結合しているこれらの生体分子の割合に基づき、分子相互作用のパラメータを導く。
【0126】
9 用途
本発明の方法のさらなる用途、全てのフォーマット(直鎖、Y字型及び付着)におけるナノテザー生化学的技法としては以下のものが挙げられる。
【0127】
a)Kdの決定
例えば、相互作用のKdを正確に決定する典型的な実験では、一連のテザー長及びアンカー間距離は、第1の生体分子及び第2の生体分子に関するアンカー及びテザーの適切な組合せを用いて、アレイのスポットとして配置される。これによって、標準的な範囲の濃度が生成される。これらの濃度が、結合した第1の生体分子と第2の生体分子との複合体の割合に対してプロットされ、最大半量結合で必要な第1の生体分子(又は第2の生体分子)の濃度が決定される(この濃度はKdである)。
【0128】
b)ライブラリースクリーニング
本発明の方法によって、単一分子Aと、分子B1、B2、B3〜Bnのライブラリーとの間の相互作用がスクリーニングされる。このフォーマットでは、それぞれのスポットがA及びB1だけ、又はA及びB2〜A及びBnで占められている。タンパク質分子に好ましい実施態様では、メッセンジャーRNA(messages)のB1、B2、B3〜Bnの3’末端から特有の(例えばコード)領域を認識するヘッドテザーが生成され、上記に記載のようにコアテザーと結合する。Bnはトランスクリプトーム/プロテオームを潜在的に表すタンパク質のライブラリーであり得る。代替的に、Bnは、相互作用部位、又は低分子化合物から合成ポリマーのライブラリーまでに及ぶ化合物の繋留ライブラリーを規定するのに用いられるペプチドのライブラリーであり得る。
【0129】
c)Koff測定
図11で図示されるように、第1の生体分子及び第2の生体分子の初期飽和濃度で共に切断することができる第2の生体分子にアンカー/テザーを用いることによって、Koffを決定することが可能になる。この配置では、第1の生体分子及び第2の生体分子の複合体のレベルの減衰速度は、第2の生体分子に対するテザーの切断後にリアルタイムでモニタリングされる。この種の分析は、Koffを決定するのに表面プラズモン共鳴で用いられるものに類似している。
【0130】
これは、2つの方法で達成することができる。緩やかなKoff速度を伴う状況のために、アンカー/テザーの制限酵素消化によって、第2の生体分子が放出され、第1の生体分子から拡散される。Koff速度がより速いと、光切断部を含有する修飾オリゴヌクレオチドが、アンカーの一本鎖領域に組み込まれる。FRET分析に用いられたものとは異なる波長の光を用いて、光切断が開始される。Koff及びKdが分かると、式Kd=Koff/Konに基づき、Konを算出することができる。
【0131】
d)生物システムの調節因子に対するスクリーニング
dに近似である第1の生体分子と第2の生体分子との間の結合定数を確立することによって、Kdに近似である第1の生体分子及び第2の生体分子の濃度で結合反応を設定することが可能になり、このようにしてこれらの相互作用の可溶性調節因子に対するスクリーニングに特に高感度になる。これらの調節分子は、集合的に「C」と呼ばれる。Cの例
としては、精製した相互作用タンパク質、A及びBを修飾するタンパク質(例えばキナーゼ)、薬剤分子又はその候補物、AB複合体形成を変える1つ又は複数の成分を含有するタンパク質の複合体混合物(例えば細胞抽出物、血清、他の生体液)が挙げられる。Cは、単一分子の溶液又は化合物の複合混合物(例えば生体抽出物又は生体液)であり得る。C自体は、第3のテザーと繋がり得るか、又は代替的に例えば用途に応じた溶液中で繋がり得ない。Cの存在は、図18に関して以下で示されるような多くのフォーマットで試験することができる。
【0132】
フォーマット1. 異なる第1の繋留生体分子と第2の繋留生体分子との対のアレイがCで処理され、Cが影響を及ぼす結合反応の範囲を決定する。A及びBの有効濃度がAB複合体のKdと近似になるように、A及びBのテザー長を調節することができる。この濃度では、ABの50%が複合体に存在し、相互作用が、AB相互作用の強度を変える因子に対して最も高感度になる。因子「C」は、A及びBのいずれか又は両方と相互作用するか、又はそれらを修飾することによってAのBに対する親和性を増大又は低減し得る。
【0133】
フォーマット2. 第1の生体分子及び第2の生体分子の同じ繋留対は、異なる反応ウェル(例えばマイクロウェルプレート)で第1の生体分子及び第2の生体分子を繋げることによって、異なるC化合物で処理される。
【0134】
フォーマット3. 連続流。カラムフォーマット又はマイクロビーズのアレイに、又はマイクロ流体システムに配置された第1の生体分子及び第2の生体分子の同じ繋留対がCの流れで処理される。この場合Cは、その後の一連の試験溶液又は分離からの分画(例えばコンビナトリアル化学システムにおけるクロマトグラフィカラム溶出液又は細胞抽出物からのタンパク質分画)であり得る。
【0135】
フォーマット4. 既知の「C」の濃度測定。A、B又はAB複合体に対する因子「C」の親和性が知られている場合、因子Cの濃度を測定することができる。例えば、血清等の臨床サンプルにおける生体分子の割合を決定するのに、これを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
本発明による方法及び装置が、例として、さらに添付の図1〜図22を参照して記載される。
【図1】本発明の方法に用いる繋留生体分子を示す図である。
【図2】本発明の方法に用いる2つの繋留生体分子を示す図である。
【図3A】結合した図2の生体分子を示す図である。
【図3B】結合した図3Aの生体分子及び可撓性テザーを示す図である。
【図4A】異なるテザー間距離で、本発明の方法に用いる繋留生体分子のアレイを示す図である。
【図4B】異なるテザー間距離で、本発明の方法に用いる繋留生体分子のアレイを示す図である。
【図5】本発明に従ってテザーに用いるヘッドテザー部分を示す図である。
【図6】本発明に従ってテザーに用いる修飾オリゴヌクレオチドを示す図である。
【図7】本発明によるテザーの形成を示す図である。
【図8】本発明によるテザーの形成におけるさらなる工程を示す図である。
【図9】生体分子とテザーとの接合体の生成を示す図である。
【図10】本発明による方法を示す図である。
【図11】Koffを測定するための本発明による方法の使用を示す図である。
【図12】図12Aは、本発明による生体分子の直鎖分子配列の操作を示すスキームである。短い可撓性テザー及び長い可撓性テザーの自由端で掃引される球の図である。図12Bは、本発明による生体分子の直鎖分子配列の操作を示すスキームである。生体分子Aと生体分子Bとの間の分子間相互作用を表す直鎖分子の自由変異型及び結合変異型の可能性のある構造の図である。図12Cは、本発明による生体分子の直鎖分子配列の操作を示すスキームである。AとBとの間の分子間相互作用を受ける自由変異型及び結合変異型の図である。
【図13】図13は、テザーを形成するのに用いられる「ヘッドセット」オリゴヌクレオチドを示す図である。Aは、図12Cで示した形態の個々の分子を示す。Bは、アクセプタ及びドナーヘッドセットが付着した直鎖分子を示す。この分子は図12Bで示した形態をとる。
【図14】FRETによるドナー蛍光の時間依存性の消失を示す図である。
【図15】アクセプタヘッドセット滴定を示すグラフである。
【図16】a.一連の長さ、及びb.一連の濃度に対する直鎖分子の親和性の実験測定を示す図である。
【図17】本発明によるY字型分子を示す図である。
【図18】下記の本発明による方法を用いる因子「C」の決定を示す図である。
【図19A】オリゴヌクレオチドによって形成される生体分子の設計を示す図である。
【図19B】オリゴヌクレオチドによって形成される生体分子の設計を示す図である。
【図19C】オリゴヌクレオチドによって形成される生体分子の設計を示す図である。
【図19D】オリゴヌクレオチドによって形成される生体分子の設計を示す図である。
【図20】様々な長さのテザー部分を有する生体分子のゲル分析の写真である。
【図21A】図19のオリゴヌクレオチドを用いたFRET実験の結果を示す図である。
【図21B】図19のオリゴヌクレオチドを用いたFRET実験の結果を示す図である。
【図22】DNAテザーの長さによる、結合分子の割合の変化を示すグラフである。
【図23】図23

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のテザー部分長を有する第1のテザー部分と繋がる第1の生体分子、及び第2のテザー部分長を有する第2のテザー部分と繋がる第2の生体分子の親和性を測定する方法であって、互いに近接した第1の生体分子及び第2の生体分子の結合を決定し、該第1のテザー部分長及び該第2のテザー部分長の少なくとも一方を変え、該第1の生体分子及び該第2の生体分子の結合を決定する、方法。
【請求項2】
前記第1の生体分子及び/又は前記第2の生体分子が表面と繋がる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子の両方が表面と繋がる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子が一緒に繋がり、前記表面と繋がる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記表面が固形担体で与えられる、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記固形担体がスライドガラスである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記固形担体がマイクロビーズである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記固形担体がアガロース又はセファロースである、請求項5又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のテザー部分及び前記第2のテザー部分が単一のテザーで与えられる、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
それぞれの生体分子の動きによって規定される実質的に半球形の行程体積が重複し、第1の生体分子及び第2の生体分子が互いに結合することができるように、該第1の生体分子及び該第2の生体分子が互いに密接している、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のテザー部分長及び前記第2のテザー部分長を変えることによって、前記第1の生体分子及び/又は前記第2の生体分子の有効濃度を変えることができる、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
第3の生体分子が影響を及ぼす結合反応の範囲が、前記第1の生体分子と前記第2の生体分子との結合を決定することによって決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記テザー又は前記テザー部分長が約30〜12000nmである、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記テザー部分の長さが60〜6000nmである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記テザー部分の長さが60〜2000nmである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つのテザー部分が細長いテザー体部分を含む、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのテザー部分が生体分子結合テザーヘッド部分を含む、前記いずれか1
項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのテザー部分が表面結合部分を含む、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つのテザー部分がヌクレオチドを含む、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記テザー部分又はそれぞれのテザー部分が二本鎖DNAを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記テザー長が50塩基対〜50kbである、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記テザー長が200kb〜20k塩基対である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記テザー部分又はそれぞれのテザー部分の少なくとも一部がmRNA配列の翻訳によって産生される、請求項20〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記テザー又はそれぞれのテザーが、カーボンナノチューブ、アミロイドフィブリル又はポリマーを含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリマーが、DXハイブリッド等のDNA交差複合体である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つのテザー部分の弾性が、化学修飾又は物理的結合によって調節される、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
テザー部分がdsDNAを含み、前記テザーの弾性が化学修飾又は相互キレート化(interchelation)によって調節される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記dsDNAが臭化エチジウムで相互キレート化される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
テザーが、溶液中でテザーヘッド部分及びテザーテイル部分にテザー体部分をライゲーションさせることによって形成される、請求項18〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
テザーが、テザーヘッド部分及びテザーテイル部分を、テザー体部分のそれぞれの末端に化学的に架橋することによって形成される、請求項16〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
少なくとも1つのテザー部分がアンカーによって前記固形担体と繋がる、請求項2〜8又は9〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記アンカーがオリゴヌクレオチドである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記オリゴヌクレオチドが一本鎖アミノ修飾オリゴヌクレオチドである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記第1のテザー及び前記第2のテザーに対するアンカーオリゴヌクレオチドが連続して合成される、請求項32又は33に記載の方法。
【請求項35】
第1のテザー部分又は第2のテザー部分が、アンカーオリゴヌクレオチドが固定されている固形担体にハイブリダイズされる、請求項32〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記固形担体が修飾ガラス基板である、請求項31〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記アミノ修飾アンカーオリゴヌクレオチドが、カップリング剤で処理したガラス担体に固定される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記カップリング剤がアミノシラン又はp−フェニレン1,4ジイソチオシアネート(PDC)である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記半球形の行程体積がそれぞれ、約2×103〜1×1012nm3である、請求項10〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
ナノリットル〜ゼプトリットル量の前記第1の生体分子及び/又は前記第2の生体分子が用いられる、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
ピコリットル〜アトリットル量の前記第1の生体分子及び/又は前記第2の生体分子が用いられる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
互いに分子的に近接である前記第1の生体分子と前記第2の生体分子との割合が、相互作用する第1の生体分子と第2の生体分子との割合を示す、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
結合する第1の生体分子と第2の生体分子との割合が、該第1の生体分子及び該第2の生体分子それぞれに付着するか、又は一体化した第1のフルオロフォアと第2のフルオロフォアとの間のフォスター共鳴エネルギー移動(FRET)の強度によって決定される、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記第1のフルオロフォアが前記第2のフルオロフォアから10nm未満である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
オリゴヌクレオチドアンカー又はテザーが、前記スライドガラスの表面上にアレイ状にプリントされる、請求項6又は9〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子に対するアミノ末端のオリゴヌクレオチドアンカー又はテザーが前記スライドガラスと共有結合する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記表面が、特異的に繋がった第1の生体分子と第2の生体分子との組合せと結合するマイクロビーズによって与えられる、請求項7〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
一対の第1の生体分子及び第2の生体分子が用いられる、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子の少なくとも一方が、mRNA−DNA接合体の3’末端近く、又は3’末端においてそのC末端で新生ペプチドを共有結合させるin vitro翻訳反応によって第1の核酸テザーと連結されたタンパク質又はポリペプチド生体分子である、請求項19〜48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子の少なくとも一方が、テザー部分と化学的に架橋するタンパク質又はポリペプチドである、請求項19〜48のいずれか1項に記載
の方法。
【請求項51】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子の少なくとも一方が、mRNA−DNA接合体を固定化テザーにアニーリングし、そして、抽出物を繋留メッセンジャーRNAに翻訳することによって、in situで生成するタンパク質又はポリペプチド/核酸複合体である、請求項19〜48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
第1の生体分子又は第2の生体分子と、第2のタンパク質ドメインとの間でタンパク質融合が起こる、請求項17〜50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記第2のタンパク質ドメインが前記ヘッドテザー部分に対し高い親和性を有する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
第1の生体分子及び/又は前記第2の生体分子は、酵素、抗体、受容体等のタンパク質又はペプチド、ペプチド類似体、低分子、多糖、触媒作用的に活性のあるRNA種、またはそれらの一部である、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
繋がった第1の生体分子及び第2の生体分子のアレイを含有するスライドガラス上で、共焦点顕微鏡、光電子増倍管又はTIRF顕微鏡/光電子増倍管の組合せを用いてFRETが測定される、請求項43又は44に記載の方法。
【請求項56】
隣接した第1の生体分子と第2の生体分子との割合が、前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子の少なくとも一方に付着するか又は一体化するナノスケールの球又は量子ドットで示される、請求項42に記載の方法。
【請求項57】
第1の生体分子と第2の生体分子との間の相互作用のKdが、或る濃度範囲の該第1の生体分子及び該第2の生体分子に対して結合した第1の生体分子と第2の生体分子との割合を決定すること、並びに該第1の生体分子及び該第2の生体分子の最大半量結合に必要な該第1の生体分子又は該第2の生体分子の濃度(Kd)を決定することによって決定される、前記いずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
第2の生体分子のライブラリーに対する第1の生体分子の親和性が決定される、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
生体分子の前記ライブラリーが、トランスクリプトーム又はプロテオームの少なくともかなりの部分を含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
生体分子の前記ライブラリーがトランスクリプトームの少なくとも10%を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記第1の生体分子と前記第2の生体分子との間の相互作用に対するKoff値が、該第1の生体分子及び該第2の生体分子の初期飽和濃度を提供すること、第2のテザー部分又はアンカーを切断すること、並びに結合した第1の生体分子及び第2の生体分子のレベルの任意の変化をモニタリングすることによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項62】
前記第2のテザー部分又はアンカー部分が酵素的に切断される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記第2のテザー部分又はアンカー部分に組み込まれた光切断部が、該テザー部分を切断するように光切断される、請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記第1の生体分子と前記第2の生体分子との間の相互作用の調節因子の効果を決定するときの該第1の生体分子と該第2の生体分子との間の相互作用のKd付近に該第1の生体分子及び該第2の生体分子の濃度を設定することを含む、請求項1〜56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記調節因子が、タンパク質、薬剤分子、若しくは候補薬剤分子、又はタンパク質の混合物である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記いずれか1項に記載の方法によって第1の生体分子及び第2の生体分子の親和性を決定する装置であって、第1のテザー部分長を有する第1のテザー部分と繋がる第1の生体分子と、第2のテザー部分長を有する第2のテザー部分と繋がる第2の生体分子と、隣接した第1の生体分子及び第2の生体分子の互いの結合を決定する手段と、第1のテザー部分長及び第2のテザー部分長の少なくとも一方を変える手段とを備える装置。
【請求項67】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子の両方が表面と繋がる、請求項66に記載の装置。
【請求項68】
前記表面が固形担体で与えられる、請求項67に記載の装置。
【請求項69】
前記固形担体がスライドガラスである、請求項68に記載の装置。
【請求項70】
前記固形担体がマイクロビーズである、請求項68に記載の装置。
【請求項71】
前記第1のテザー部分及び前記第2のテザー部分が単一のテザーで与えられる、請求項66〜70のいずれか1項に記載の装置。
【請求項72】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子が溶液中にある、請求項66または71に記載の装置。
【請求項73】
前記第1の生体分子及び前記第2の生体分子が、前記固形担体の表面の別々の部分に配置される、請求項68〜71のいずれか1項に記載の装置。
【請求項74】
前記第1の生体分子及び/又は前記第2の生体分子が、前記表面上にアレイ状にプリントされる、請求項73に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19A】
image rotate

【図19B】
image rotate

【図19C】
image rotate

【図19D】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21A】
image rotate

【図21B】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公表番号】特表2009−515543(P2009−515543A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540677(P2008−540677)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004208
【国際公開番号】WO2007/057644
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(504043462)ユニバーシティ カレッジ カーディフ コンサルタンツ リミテッド (12)
【Fターム(参考)】