説明

生体吸収性ポリマー

【課題】カプロラクトン、ポリオール、ジイソシアネートを含む構造単位から得られる生体吸収性ポリマー、及び生体吸収性ポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】生体吸収性ポリマーは、(a)カプロラクトン部位及びポリ(アルキレンオキシド)部位の共重合単位を含むプレポリマー、(b)カプロラクトン及び炭素数2〜6のジオールの共重合単位を含むポリカプロラクトンジオール、(c)ジイソシアネートを共に反応して得られる。そのポリマーに薬学的活性剤を担持し、ドラッグデリバリーデバイスを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプロラクトン、ポリオール、ジイソシアネートを含む構造単位から得られる生体吸収性ポリマー、及び生体吸収性ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体吸収性及び/または生分解性ポリマー(すなわち生体高分子)は天然高分子と合成高分子に分類される。天然高分子としては、例えばタンパク質、多糖類、リグニンが挙げられ、合成生体高分子としては、脂肪族ポリエステル、ポリオルトエステル、いくつかの脂肪族ポリカーボネート、ポリ酸無水物、いくつかのポリウレタン等が挙げられる。また微生物により、ポリヒドロキシアルカノエートなどの生体高分子が合成されることもある。最も重要な生分解性ポリマーの基は脂肪族ポリエステルに基づいており、その分解は主に加水分解性エステル結合に基づいている。生体吸収性ポリマーは生理的環境下で分解し、分解生成物は腎臓から排せつされるか、完全に生体吸収される。厳密に定義すれば、生分解性ポリマーは、加水分解や酸化分解のために酵素または微生物を必要とする。しかし一般的には生体内で徐々にその質量を失うポリマーを、吸収性、再吸収性、生体吸収性または生分解性ポリマーと称する。本発明では分解の形態にかかわらず、すなわち酵素的及び非酵素的な分解及び/または侵食の両方においてこの用語を用いる。
【0003】
生分解性ポリマーは、大量生産される包装材、紙塗膜、繊維、フィルム、及びその他の使い捨て物品などの用途と共に、制御型ドラッグデリバリーデバイス(controlled drug delivery devices)、インプラント及び吸収性縫合糸のような、ますます多くの生物医学的用途において使用され、また研究されている。これらの用途ではポリマー及びモノマーに特別な条件が必要になる。これらのポリマーは一般的には生分解性で非毒性であることが要求され、生物医学的用途では生体吸収性及び/または生体適合性があることが必要とされる。一方、ポリマーは化学的、力学的、熱的及び流動学的な物性が良好であることが求められる。
【0004】
この数十年間、新しい制御型ドラッグデリバリーシステムが、その潜在的な利点により注目されてきた。例えば、新しいデリバリーシステムにより投与された場合、多くの薬物の安全性及び有効性が改善できる。多くの薬物、特に治療指数が狭い薬物にとって、一定のプラズマ濃度が望ましい。生体吸収性デバイスは、薬物送達(ドラッグデリバリー)及び骨折固定及び靱帯修復におけるインプラントの使用等、整形外科的問題への対処において最先端の技術である。ドラッグデリバリーシステムとして適用される生分解性ポリマーは、通常、薬物が供給された後、外科的に取り除く必要がない。主に移植可能なロッド、微小球及びペレットが研究されてきた。
【0005】
ポリカプロラクトン(PCL)は、最も一般的でよく研究された生体吸収性ポリマーの一つである。PCLホモポリマーの繰り返し分子構造は、5つの非極性のメチレン基及び1つの比較的極性のあるエステル基から構成される。この高分子量ポリエステルは、通常環状モノマー、すなわちε−カプロラクトンの開環重合により合成される。重合を開始するために触媒が使用され、反応速度の制御及び平均分子量の調整のためにアルコール等の開始剤を用いることができる。PCLは、半結晶性(40〜50%以下)で、強固であり延性のある疎水性ポリマーであり、60℃の低融点、−60℃のガラス転移点を有する優れた力学的特性をもつポリマーである。
【0006】
ポリ(エチレングリコール)(PEG)は、生体適合性があり高水溶性(親水性)のポリマーである。ポリ(エチレングリコール)は、繰り返し単位−CH2CH2O−を含む低分子量(20000g/mol未満)のポリエチレンオキシドである。PEGは、60℃の低融点、−55〜−70℃のガラス転移点を有する高結晶性(90〜95%以下)のポリマーである。これらの二官能性化合物はヒドロキシル末端基を含む。このヒドロキシル末端基はジイソシアネートと追加的に反応し鎖延長することができるし、開環重合の開始剤として用いることもできる。PEGは架橋ポリウレタンヒドロゲル(欧州特許出願公開第0016652号(特許文献1)及び欧州特許出願公開第0016654号(特許文献2))、及び線形ポリウレタンヒドロゲル(国際公開公報第2004/029125号パンフレット(特許文献3))に組み込まれる周知の構造単位である。
【0007】
例えば、PEG−PCL共重合体等の両親媒性のブロック共重合体は、ミセル担体、ポリマー小胞及びポリマー基質として医学及び生物学の分野で注目を集めてきた。PCL−PEG−PCLのトリブロック共重合体は混合物では独特の相挙動を示し、ただ1つのブロックのみが溶解する選択的な溶媒で重合ミセル状コア-シェルナノ構造を形成することができる(J. Polym. Sci. Part A Polym. Chem., 1997, 35, 709-714; Adv. Drug Delivery Rev., 2001, 53, 95-108(非特許文献1))。
【0008】
しかし、上記ポリマーには数多くの実用上の欠点がある。分解速度及び機構は、ポリマーの化学構造等の多くの要因、及び分解培地等の周辺環境の条件に依存している。脂肪族ポリエステルの分解過程では2つの段階が確認されている。第一段階では、エステル結合の加水分解により任意的に鎖が切断されることで分解が進み、その結果分子量が低下する。第二段階では、鎖の切断に加えてかなりの質量の低下が観測される。その他、ポリカプロラクトンは、例えばポリラクトンよりかなり分解速度が遅いことが観測される。ポリカプロラクトンの分解速度が遅いことは(〜24ヶ月)は、通常医学的用途において欠点となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0016652号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0016654号
【特許文献3】国際公開公報第2004/029125号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Polym. Sci. Part A Polym. Chem., 1997, 35, 709-714; Adv. Drug Delivery Rev., 2001, 53, 95-108
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、周知の生体吸収性ポリマーの欠点を取り除くこと及び/または軽減することにある。特に、異なる分解速度を有するポリマーを提供する等、使用目的に応じて選択できる異なる分解特性を有するポリマーを提供する、確実で柔軟性のある方法を提供することにある。さらに本発明の他の目的は、1つまたはそれ以上の上記目的を満たす生体吸収性ポリウレタンポリマーを提供することにある。好ましくは、分解時に非毒性である生体吸収性ポリウレタンポリマーの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様によれば、
(a)カプロラクトン部位及びポリ(アルキレンオキシド)部位の共重合単位を含むプレポリマー、
(b)カプロラクトン及び炭素数2〜6のジオールの共重合単位を含むポリカプロラクトンジオール、及び
(c)ジイソシアネート
を共に反応して得られるポリマーが提供される。
その他、本発明は上記(a)、(b)、(c)の成分を共に結合したものに由来する部位を含むポリマーを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の出願人は、従来の生体吸収性ポリマーがカプロラクトンまたはPEGのいずれかの特性に依存していたことを見出した。ポリマー鎖を延長するジイソシアネート及びカプロラクトンジオールを使用することにより、本発明のポリマーは全ての部位の特徴を取り込むことが可能である。驚くべきことに、出願人は3つの重合技術の組み合わせにより、ポリマー構造をより良好に制御することが可能となり、その結果極めて有用な特性がもたらされることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】37℃の脱塩水中でのポリマー21及び1の生分解を示す。
【図2】37℃のリン酸緩衝液中でのポリマー11、9、15、10、8、21及び26の生分解を示す。
【図3】55℃の脱塩水中でのポリマー11及び15の生分解を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
プレポリマー(成分(a))のポリ(アルキレンオキシド)部位は、好ましくは、ポリ(C2〜C3アルキレンオキシド)またはこれらの混合物から選択される。最も好ましいのは、ポリ(C2アルキレンオキシド)(例えばポリ(C2アルキレンオキシド)ジオール由来(すなわち、ポリ(エチレンオキシド)ジオール、例えばポリエチレングリコール)。一般的また望ましくは、ポリ(アルキレンオキシド)部位は、水性環境においてポリマーの分解を促進するよう水溶性である必要がある。
【0016】
ポリエチレンオキシドの一例であるポリエチレングリコールは、エチレングリコールにエチレンオキシドを添加し、(HO(CH2CH2O)nH;nは分子量により1〜800の整数である。)の構造をもつ二官能ポリエチレングリコールを生成ことにより得ることができる。ポリエチレンオキシドは、繰り返し単位(−CH2CH2O−)を含み、通常、反応性水素原子を含む化合物にエチレンオキシドを段階的に添加することにより得られる。
【0017】
本発明で用いられるポリエチレングリコールは一般的に線状ポリオールであり、平均分子量は、約200〜約35000g/mol、特に約300〜約10000、とりわけ約400〜約8000g/mol、例えば約400、600、2000、4000または8000g/molである。
【0018】
従って、好ましくは成分(a)はカプロラクトンと、分子量が比較的低〜中程度のポリ(エチレングリコール)の共重合体を含む。
【0019】
成分(a)は、例えばカプロラクトンと、ポリ(アルキレンオキシド)部位を含むポリオールを共に重合して、本発明のポリマー製造においてプレポリマーとして用いる線状ジヒドロキシル末端カプロラクトン−ポリ(アルキレンオキシド)共重合体を製造して得ることができる。
【0020】
例えば、ε−カプロラクトンは開環重合においてポリエチレングリコールと反応させて、本発明のポリマー製造においてプレポリマーとして用いる線状ジヒドロキシル末端カプロラクトン−ポリエチレングリコール共重合体を製造することができる。
【0021】
このようなプレポリマーは、通常ABA構造(例えば(CAP)n−PEG−(CAP)n、すなわちPEG単位に隣接する連続的なカプロラクトン単位のブロックを有するもの(例えば−CAP−CAP−CAP−PEG−CAP−CAP−CAP−))を有し、ポリカプロラクトン断片の各ブロックにおけるカプロラクトンの平均連続単位数(すなわちn)は、通常約3〜40、好ましくは約4〜35、典型的には約5〜31、例えば5、9.5及び31単位から選択される。
【0022】
一般的に成分(a)の製造において重合は触媒により進行する。重合に有用な典型的な触媒はオクタン酸スズである。
【0023】
当業者は、プレポリマー(成分(a))の製造において、上記したように好ましくはポリエチレングリコール(すなわちPEG)であるポリ(アルキレンオキシド)部位が開始剤とみなされることを十分に認識している。適切な反応条件は当業者により容易に設定することができるだろう。もし製造物に弾性、分解速度や放出速度等の異なる特性が求められる場合は、開環重合において、その他の共単量体(co-monomer)、共重合体、及び触媒を用いることもできる。このようなその他の成分の選択は当業者には明らかであろう。
【0024】
一般的にプレポリマーの製造において、カプロラクトンと開始剤(例えばPEG)のモル比は約2:約1〜約124:約1であり、例えば約10:約1、約19:約1、または約62:約1である。
【0025】
ポリカプロラクトンジオール(成分(b))の炭素数2〜6のジオール成分は、プレポリマージオール成分(a)に含まれるポリ(アルキレンオキシド)部位と比較して低分子量である任意の有機ジオールであってもよい。例えば、HO−(CH2m−OHの構造をもつジオールから選択でき、mは2〜6から選択され、例えば、1,2−エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオールである。
【0026】
あるいは、炭素数2〜6のジオールは、ポリ(アルキレンオキシド)ジオールから選択される低分子量ポリマーまたはオリゴマーから選択することができる。
【0027】
好ましくは、そのようなポリ(アルキレンオキシド)ジオールは、ポリ(C2〜C3アルキレンオキシド)ジオールまたはそれらの混合物から選択される。最も好ましくは、低分子量ポリ(C2アルキレンオキシド)ジオール、すなわち低分子量ポリ(エチレンオキシド)ジオール、例えば低分子量ポリエチレングリコールである。
【0028】
典型的には、低分子量ポリエチレングリコールは次のような構造、HO−(CH2CH2O)n−Hを有する。nは2〜3、すなわち低分子量ポリエチレングリコールが好ましい。その他に好ましいジオールとしてはエチレングリコール自体がある(すなわちnは1)。
【0029】
最も好ましいジオールはジエチレングリコール、すなわちエチレングリコールの二量体であり、その構造はHO−CH2CH2−O−CH2CH2−OHである。
【0030】
一般的また望ましくは、炭素数2〜6のジオールは、水性環境においてポリマーの分解を促進するよう水溶性である必要がある。
【0031】
ポリカプロラクトンジオール(成分(b))のカプロラクトン部位は、ε−カプロラクトン由来であることが好ましい。このように、ポリカプロラクトンジオールは、開環反応において、開始剤としてそれ自体がポリカプロラクトンに組み入れられる低分子量ジオールを用いて、ε−カプロラクトンから得られることが好ましい。例えば、そのようなポリカプロラクトンジオールは、ε−カプロラクトンとジエチレングリコールを開環反応により反応させ、線状ジヒドロキシル末端ポリ(カプロラクトン−ジエチレングリコール)共重合体(poly(co-caprolavtone-diethylene glycol))を製造することにより得ることができる。ポリカプロラクトンジオールの製造においては触媒を用いることができる。適当な触媒としては、オクタン酸スズ、アルミニウムイソプロポキシド及び/またはチタニウムn−ブトキシドが挙げられる。
【0032】
カプロラクトンと低分子量ジオール開始剤の比は、当業者がすぐに利用できる原則に従い選択することができる。通常、低分子量ジオールとして低分子量ポリ(エチレングリコール)が用いられる場合、カプロラクトンとエチレングリコールの比は、約4:約2程度であり、共重合体は一例として次のような構造;OH−CAP−CAP−EG−EG−CAP−CAP−OH(CAPは適当な配向で開環したカプロラクトン、すなわち−(CH25C(O)O−または−O(O)C(CH25−単位)を表し、EGはエチレングリコール単位を表す。)をもつ。当然のことながら、共重合体分子中のCAP単位の順序及び位置付けを変更することもできる。
【0033】
ジイソシアネート成分(c)としては、1,4−ブタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、またはL−リシンジイソシアネート等が好ましい。
【0034】
このようなジイソシアネートは、特に毒性の分解生成物を避けるべき用途、例えば生物医学的な用途に適している。好ましくは、1,4−ブタンジイソシアネートである。
【0035】
公知の生物医学の生分解性ポリウレタンは通常、芳香族、脂環式、または脂肪族ジイソシアネートを含む。これらは分解において有毒物質または有毒残留物質を産生する場合がある。ポリウレタンの分解において任意の未反応ジイソシアネート構造単位は加水分解され、それらに対応するアミンとなることが一般的に認められている。これらのほとんどのジアミンは、有毒性、発癌性及び/または変異原性になることが知られている。国際公開公報第99/064491号パンフレットでは、均一のブロック長を有する生物医学のポリウレタンの製造において、非毒性の1,4−ブタンジイソシアネート(BDI)が使用されることを示している。本発明の出願人は1,4−ブタンジイソシアネートの使用には多くの有利な点があることを認めている。なぜならその分解においてヒト細胞に存在するプトレシンとして知られる1,4−ブタンジアミンが産生されるからである(J. polym. Bull., 1997, 38, 211-218)。
【0036】
このように、本発明の少なくとも一例のさらなる利点としては、ポリウレタンの製造において、非毒性で生体適合性のあるポリマー及び分解生成物を産生する生体適合性の出発原料を用いることである。
【0037】
しかしながら、分解生成物の毒性がそれほど重要でない用途においては、ポリウレタンの製造に使用される一般的なジイソシアネート(上記したものを含む)を用いることができ、例えばジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート及びジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート等のジイソシアネートなどを用いることができる。
【0038】
本発明の生体吸収性ポリマーは、動物の生理環境において分解され、その分解生成物は腎臓から排せつされるか、完全に生体吸収される。一つの定義によれば、生分解性ポリマーは、加水分解や酸化分解のために酵素または微生物を必要とする。しかし一般的には生体内で徐々にその質量を失うポリマーを、吸収性、再吸収性、生体吸収性または生分解性ポリマーと称する。本発明では分解の形態にかかわらず、すなわち酵素的及び非酵素的な分解及び/または侵食の両方においてこの用語を用いる。
【0039】
上記で述べたように、本発明の生体吸収性ポリマーの製造における重合過程には、通常開環重合及び重付加反応が含まれ、高分子量(ポリ(ブロック−カプロラクトン−PEG−共重合体)ウレタンが得られる。従って、本発明はポリマーの製造に用いられる工程にも及ぶ。
【0040】
本発明のその他の態様によれば、
(1)(a)カプロラクトン部位及びポリ(アルキレンオキシド)部位の共重合単位を含むプレポリマー、
(b)カプロラクトン及び炭素数2〜6のジオールの共重合単位を含むポリカプロラクトンジオール、
(c)ジイソシアネート
を提供すること、及び
(2)成分(a)、(b)、(c)を共に反応することを含むポリマーの製造方法が提供される。
【0041】
本発明のポリマーの製造では、プレポリマー成分(a)を成分(b)及び(c)と反応させ最終ポリマーを得ることができる。プレポリマーはまず、成分(b)とかき混ぜるなどして混合し、その後成分(c)のジイソシアネートと反応させることが好ましい。当業者はポリマーの製造には他の操作方法も使用できることを理解するであろう。
【0042】
成分(a)のプレポリマーは、一般的にカプロラクトンとポリ(アルキレンオキシド)ジオールを共に重合して得られる。この重合反応には触媒を用いることが好ましい。この反応は乾燥窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。適当な触媒としては、オクタン酸スズ、アルミニウムイソプロポキシド及び/またはチタニウムn−ブトキシドが挙げられる。
【0043】
成分(a)(プレポリマー)、成分(b)(例えば、ポリ(co−カプロラクトン−ジエチレングリコール)、及びジイソシアネート(BDI)を異なるモル比で用いることにより、最終ポリマー製造物の相構造、分解速度、及び力学的特性が調整されうる。当業者は望ましい最終ポリマー製造物の物性が得られる成分のモル比、反応時間、反応温度、その他の反応条件を賢明に選択できるであろう。
【0044】
一般的に、成分(a)と成分(b)と成分(c)のモル比は、約0.15〜1.5:約1.0:約1.0〜2.75であり、特に約0.2〜1.0:約1.0:約1.25〜2.5である。好ましくは、約0.25〜1.0:約1.0:約2.5である。
【0045】
上記したように、本発明では、通常生体吸収性ポリマーの製造において、開環重合と鎖延長反応の二段階重合法を採用する。この単純な二段階工程は、成分(a)及び(b)と最終ポリマーの構造及び物性を調整し、ポリマーを多目的な用途に使用可能にする様々な可能性を提供する。
【0046】
多くのモノマー及び低分子量ポリマーは、合成における上記の段階、成分(a)または(b)の製造段階、または最終ポリマーの製造段階のどの段階ででも投入することができる。このように、幅広いポリマー特性をもつ最終製造物は、モル組成を変えることにより上記原料を用いて得ることができる。本発明はカプロラクトン/PEG系共重合体に見られる、構造特性の変更が制限されること、分解速度及び溶解速度が遅いこと等の典型的な問題点の解決策を提供する。
【0047】
一般的に、本発明で提示されるポリウレタンの製造においては、バッチリアクター、連続撹拌反応装置(CSTR)、押出機、反応射出成形機(RIM)、チューブ反応器、パイプ反応器及び/または溶融混錬機等、従来の任意の重合反応装置を用いることができる。さらにこれらの生分解性ポリマーは、熱可塑性ポリマーに適した、射出成形、押出成形、引き抜き成形、ブロー成形、真空成形、溶媒キャスト、及びその他の成形及び鋳造技術等と同時に、分散、発泡、製膜技術等の従来の加工方法により加工することができる。
【0048】
上記したように当業者は、本発明が、数少ないモノマーとポリマーだけが調整された非毒性の生分解性ポリマーに対する要求を満たす可能性があるという発見に基づいていることを理解するだろう。共重合は分解速度を増加させることに用いることができ、カプロラクトン共重合体の分解速度は、共モノマーの構造、モル比、ポリマー分子量を変化させることにより変更することができる。分解溶媒はまた分解挙動に影響を与える場合もある。
【0049】
本発明のポリマーは、通常ドラッグデリバリーデバイスとして適用することができる。親水性と疎水性を兼ね備えた高結晶性ブロックとゴム状ブロックからなるポリマーの相挙動により、本発明のポリマーはドラックデリバリーシステムとして望ましいものとなっている。なぜなら異なる薬物を担持する個々の成分または相の浸透性は、ポリマーに担持された特定の薬物の特性に応じて大幅に変わりうるからである。さらに、本発明では、製造工程を柔軟に変更することにより、選択ポリマーの物性を所望の薬物に適合させ、どのように薬物を担持しポリマーから放出させるか調整することを可能にする。これにより選択薬物において所望の放出曲線を生み出すことができる。
【0050】
本発明の生分解性ポリマーは、幅広い分野の用途に適用でき、このような用途は本発明の範囲に含まれる。ポリマーはドラッグデリバリーシステムの基質(matrix)、例えば薬物を担持したインプラント、ミクロ粒子、ナノ粒子、ミセル、パッチ、坐剤、またはコンタクトレンズ等として使用することができる。全ての薬物が本発明の生分解性ポリマーに担持できる可能性がある。さらに、生分解性ポリマーはまた、その他の生物医学的用途、例えばインプラント、足場材(Scaffold)、網(net)、吸収性縫合糸等にも、大量生産される包装材、紙塗膜、繊維、フィルム、及びその他の使い捨て物品などの用途にも使用することができる。
【0051】
従って、本発明はまた、生分解性ポリマーと活性剤からなる放出制御組成物を提供する。活性剤としてはヒトまたは動物用の薬学的活性剤を使用できる。また、例えばアルジサイド(algicides)や肥料(fertilisers)など持続的な放出特性が要求される任意の薬物であってもよい。これらの組成物は、座剤、膣内用ペッサリー、経口投与用の口腔挿入剤(bucccal inserts)、経皮投与用パッチまたはフィルム、皮下インプラント等の固形投与用薬剤として提供される。
【0052】
本発明のポリマーは、当業者が容易に利用できる任意の技術を用いて、活性剤とともに担持することができる。担持方法の一つとしては、活性剤の溶液でポリマーを溶解させ、ダブルエマルジョン技術を用いて微小粒子を沈殿させる方法が挙げられる。その他、従来の熱可塑性ポリマーの加工技術も、本発明のポリマーに活性剤を担持する方法として適用することができる。例えば、このような技術としては、拡散担持技術及び加圧による錠剤成形技術などが挙げられる。拡散担持では例えばポリマーに接触する溶液から活性剤を取り込むことが行われる。
【0053】
特に重要な薬学的活性剤としては、例えばインターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インスリン、ヒト成長ホルモン、ロイプロリド等のタンパク質類、オキシトシンアンタゴニスト等のペプチド類、酵素及び酵素阻害剤、ミダゾラム等のベンゾジアゼピン類、トリプトファン類、エルゴタミン及びその誘導体等の抗片頭痛薬、アゾール類、細菌性膣炎またはカンジダ菌の治療等の抗感染薬、及びラタノプロストなどの眼科用薬剤が挙げられる。
【0054】
活性剤の詳細なリストには以下の薬物が含まれる:H2受容体アンタゴニスト、抗ムスカリン、プロスタグランジン類似体、プロトンポンプ阻害剤、アミノサリチル酸、副腎皮質ステロイド(corticosteroid)、キレート剤、強心配糖体(cardiac glycoside)、ホスホジエステラーゼ阻害剤(phosphodiesterase inhibitor)、チアジド(thiazide)、利尿薬(diuretic)、炭酸脱水酵素阻害剤(carbonic anhydrase inhibitor)、降圧剤(antihypertensive)、抗癌剤(anti-cancer)、抗うつ剤anti-depressant)、カルシウムチャンネル遮断薬(calcium channel blocker)、鎮痛剤(analgesic)、オピオイド拮抗薬(opioid antagonist)、抗血小板薬(antiplatelet)、抗凝血剤(anticoagulant)、線維素溶解薬(fibrinolytic)、スタチン(statin)、アドレナリン受容体作用薬(adrenoceptor agonist)、β遮断薬(beta blocker)、抗ヒスタミン剤(antihistamine)、呼吸刺激薬(respiratory stimulant)、ミクロテック(micolytic)、去痰薬(expectorant)、ベンゾジアゼピン(benzodiazepine)、バルビツール酸系催眠薬(barbiturate)、抗不安薬(anxiolytic)、抗精神病薬(antipsychotic)、三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressant)、5HT1アンタゴニスト、アヘン剤(opiate)、5HT1アゴニスト、制吐薬(antiemetic)、抗てんかん薬(antiepileptic)、ドーパミン作動薬(dopaminergic)、抗生剤(antibiotic)、抗真菌剤(antifungal)、駆虫薬(anthelmintic)、抗ウイルス剤(antiviral)、抗原虫薬(antiprotozoal)、抗糖尿病薬(antidiabetic)、インスリン(insulin)、甲状腺毒素(thyrotoxin)、雌性ホルモン(female sex hormone)、雄性ホルモン(male sex hormone)、抗エストロゲン(antioestrogen)、視床下部ホルモン(hypothalamic hormone)、下垂体ホルモン(pituitary hormone)、下垂体後葉ホルモンアンタゴニスト(posterior pituitary hormone antagonist)、抗利尿ホルモンアンタゴニスト(antidiuretic hormone antagonist)、骨吸収抑制剤(bisphosphonate)、ドーパミン受容体刺激剤(dopamine receptor stimulant)、アンドロゲン(androgen)、非ステロイド系抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory)、免疫抑制剤(immuno suppressant)、局所麻酔薬(local anaesthetic)、鎮静剤(sedative)、乾癬治療薬(antipsioriatic)、銀塩(silver salt)、局所抗菌薬(topical antibacterial)、ワクチン(vaccine)。
【0055】
本発明のポリマーは、水、水性緩衝液、生理液、土壌、堆肥、海水及び淡水等中で長期間かかって分解する。ポリマーの組成や温度により分解速度は異なるが、当業者により容易に設定できるであろう。
【0056】
一般的にポリマーは、使用中、約10〜約95℃、好ましくは約25〜45℃、特に約30〜約38℃、例えば37℃の温度にさらされる。
【0057】
ポリマーが完全に分解するまでの時間、すなわちその質量をすべて失う時間は、広範囲で変動する。例えば、通常約1〜150週(すなわち約3年)程度、好ましくは約2〜約100週、例えば約2〜約60週(4週または52週等)である。分解時間は、所望の最終用途に合わせて調整することができる。
出願人は、本明細書に記載された目的が本発明のポリマー、特にカプロラクトン−PEGポリウレタン共重合体により達成されることを実証した。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の具体例を、図1〜3を参照して実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
実施例1:ポリウレタン合成用の異なる構造及びブロック長を有する線状生体吸収性プレポリマーの製造
PEGブロック長(400、600、2000、4000、8000g/mol)及びカプロラクトンブロック長(500〜3500g/mol)を変え、目的のプレポリマーの分子量が1000〜11000g/molの間になるよう選択した。プレポリマーのバッチサイズは、約500〜600gとした。プレポリマーは下記の通り組成を変えて製造した(表1参照):
バッチA)PEG400 273.00g(15.7モル%)、カプロラクトン 418.17g(84.3モル%)及びオクタン酸スズ(II)(tin(II)octoate)、 0.528g(0.03モル%)を用い、理論分子量1013g/molを目的として製造したプレポリマーA、
バッチB)PEG400 90.05g(5.0モル%)、カプロラクトン 488.10g(94.97モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.547g(0.03モル%)を用い、理論分子量2568g/molを目的として製造したプレポリマーB、
バッチC)PEG400 29.95g(1.6モル%)、カプロラクトン 525.48g(98.37モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.569g(0.03モル%)を用い、理論分子量7418g/molを目的として製造したプレポリマーC、
バッチD)PEG600 122.25g(5.0モル%)、カプロラクトン 441.76g(94.97モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.495g(0.03モル%)を用い、理論分子量2768g/molを目的として製造したプレポリマーD、
バッチE)PEG600 46.80g、カプロラクトン 547.41g及びオクタン酸スズ(II) 0.592g(0.03モル%)を用い、理論分子量7618g/molを目的として製造したプレポリマーE、
バッチF)PEG2000 330.31g(5.0モル%)、カプロラクトン 358.09g(94.97モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.401g(0.03モル%)を用い、理論分子量4168g/molを目的として製造したプレポリマーF、
バッチG)PEG2000 152.76g(1.6モル%)、カプロラクトン 536.06g(98.37モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.580g(0.03モル%)を用い、理論分子量9018g/molを目的として製造したプレポリマーG、
バッチH)PEG4000 549.63g(10.0モル%)、カプロラクトン 139.38g(89.97 モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.165g(0.03モル%)を用い、理論分子量5077g/molを目的として製造したプレポリマーH、
バッチI)PEG4000 447.28g(5.00モル%)、カプロラクトン 139.38g(94.97モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.268g(0.03モル%)を用い、理論分子量6218g/molを目的として製造したプレポリマーI、
バッチJ)PEG4000 257.29g(1.6モル%)、カプロラクトン 451.42g(98.37モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.489g(0.03モル%)を用い、理論分子量11018g/molを目的として製造したプレポリマーJ、
バッチK)PEG8000 584.57g(10.0モル%)、カプロラクトン 75.04g(89.97 モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.089g(0.03モル%)を用い、理論分子量9027g/molを目的として製造したプレポリマーK、
バッチL)PEG8000 170.77g(5.0モル%)、カプロラクトン 46.28g(94.97モル%)及びオクタン酸スズ(II) 0.052g(0.03モル%)を用い、理論分子量10168g/molを目的として製造したプレポリマーL。
【0060】
【表1】

【0061】
多様なプレポリマーの分子量(Mn及びMw)及び分子量分布(MWD)を、3角度光散乱(triple light scattering)を組み合わせたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)システムにより測定した。プレポリマーのガラス転移温度(Tg1〜Tg3)、融点(Tm1〜Tm
3)及び結晶化度の測定には示差走査熱量測定法(DSC)を使用した(表2参照)。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例2:線状生体吸収性ヒドロゲルプレポリマー及びポリマー(プレポリマーM及びポリマー1)
700mlの撹拌槽型反応器に、319.00g(10モル%)の乾燥PEG4000(分子量4050g/mol)、80.90g(89.97モル%)のε−カプロラクトン及び0.096g(0.03モル%)のオクタン酸スズ(II)をこの順番で供給した。反応器には乾燥窒素を連続的にパージした。反応器は油浴を用いて100rpmの混合速度で160℃に予熱した。PEG4000を反応器に加える前にロータリーエバポレーター中で乾燥し溶融した。その後ε−カプロラクトンを加え、最後にオクタン酸スズ(II)触媒を加えた。PEG−PCLプレポリマーの予備重合(prepolymerization)時間は4時間であった。プレポリマーの理論分子量は5077g/molであった。
【0064】
ポリマーを製造するため、400.08gの低分子量ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール(分子量530g/mol)(PCLDI)を反応器に供給し上記のプレポリマーと混合した。PEG−PCLプレポリマーとポリカプロラクトンジオールのモル比は0.7:1であった。混合は窒素下で100rpmの混合速度及び160℃の混合温度で30分間行った。プレポリマーとPCLDIの混合物は必要になるまで冷蔵庫で保管した。
【0065】
47.245gのPEG−PCLプレポリマーとPCLDIの混合物を100mlの反応器に投入し、窒素下、110℃で30分間溶融した。混合は60rpmで行い、3.139mlの1,4−ブタンジイソシアネート(BDI)を、PEG−PCLプレポリマー:PCLDI:BDIのモル比0.7:1.0:1.7で反応器に供給した。重合時間は17分であった。ポリマーをアルミニウム皿に流し入れ、さらなる実験に備えてデシケーターに保存した(ポリマー1)。
【0066】
実施例3:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
プレポリマーH(実施例1の表1)とポリカプロラクトンジオール(分子量530g/mol以下)を、予熱(110℃)した反応器に供給し少なくとも1時間以上前に70℃の真空において混合、乾燥及び溶融した。1,4−ブタンジイソシアネートを反応器に供給する前に反応混合物を窒素下で30分間混合(60rpm)した。プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は0.25:1.0:1.25であった。反応時間は150分であった(ポリマー2及びポリマー3)。
【0067】
DSC(分析示差走査熱量測定)分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm
)はそれぞれ−48.7℃及び38.9℃であった。FTIR(フーリエ変換赤外分光分析)を用いて分析したところ、、ウレタン(N−H,3341cm-1)及びエステルボンド(C=O,1731cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0068】
実施例4:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーHを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2であった。反応時間は120分であった(ポリマー4)。
【0069】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−51.8℃及び44.2℃であった。FTIRを用いて分析したところ、ウレタン(N−H,3354cm-1)及びエステルボンド(C=O,1728cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0070】
実施例5:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーJを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2であった。反応時間は20分であった(ポリマー5)。
【0071】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−58.9℃、17.1℃及び44.7℃であった。FTIRを用いて分析したところ、ウレタン(N−H,3384cm-1)及びエステルボンド(C=O,1721cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0072】
実施例6:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーJを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2.5であった。反応時間は120分であった(ポリマー6)。
【0073】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−58.7℃、16.3℃及び43.6℃であった。FTIRを用いて分析したところ、ウレタン(N−H,3381cm-1)及びエステルボンド(C=O,1739cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0074】
実施例7:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーBを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2.1であった。反応時間は2分であった(ポリマー7)。
【0075】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−54.1℃及び36.1℃であった。FTIRを用いて分析したところ、ウレタン(N−H,3379cm-1)及びエステルボンド(C=O,1721cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0076】
実施例8:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーCを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2.1であった。反応時間は60分であった(ポリマー8)。
【0077】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−61.4℃及び49.5℃であった。ウレタン(N−H,3387cm-1)及びエステルボンド(C=O,1728cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0078】
実施例9:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーDを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2であった。反応時間は60分であった(ポリマー9)。
【0079】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−55.7℃及び31.7℃であった。ウレタン(N−H,3378cm-1)及びエステルボンド(C=O,1728cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0080】
実施例10:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーDを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2.2であった。反応時間は90分であった(ポリマー10)。
【0081】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−56.1℃及び32.7℃であった。ウレタン(N−H,3338cm-1)及びエステルボンド(C=O,1721cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0082】
実施例11:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーEを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2であった。反応時間は60分であった(ポリマー11)。
【0083】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−61.1℃及び49.1℃であった。ウレタン(N−H,3386cm-1)及びエステルボンド(C=O,1728cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0084】
実施例12:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーFを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2.2であった。反応時間は120分であった(ポリマー12)。
【0085】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−55.4℃及び22.2℃であった。ウレタン(N−H,3381cm-1)及びエステルボンド(C=O,1732cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0086】
実施例13:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーGを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2であった。反応時間は120分であった(ポリマー13)。
【0087】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−63.4℃及び44.1℃であった。ウレタン(N−H,3384cm-1)及びエステルボンド(C=O,1721cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0088】
実施例14:異なる構造の線状生体吸収性ポリマーの製造
鎖延長重合を実施例3と同様に行った。ただしプレポリマーとして実施例1、表1のプレポリマーKを用い、プレポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)ジオール、BDIのモル比は1:1:2であった。反応時間は120分であった(ポリマー14)。
【0089】
DSC分析によると、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)はそれぞれ−51.5℃及び52.1℃であった。ウレタン(N−H,3357cm-1)及びエステルボンド(C=O,1732cm-1)の特性ピークが生体吸収性ポリマーに確認された。
【0090】
【表3】

【0091】
実施例15:選択された数種の生体吸収性ポリマーの分子量を決定した。結果を表4に示す。ポリマーの分子量はその力学的特性を決定し分解性に影響を与えるため、分子量の値を決定することの重要さは明白である。
【0092】
これらのタイプのポリマーは最良の場合で100,000(Mn)の分子量をもつことが予測される。適正な力学的特性を得るため、もしくはその化合物をポリマーと認めるためのMnの最低値は30,000である。本発明においてMnの分子量は予想を超え、ほとんどの場合100,000をはるかに超える値が得られた。
【0093】
【表4】

【0094】
実施例16:溶媒沈殿による生体吸収性ポリマーの精製
実施例2及び3のポリマーを重合後、非溶媒へ沈殿させて精製した。最初にポリマーをジクロロメタン(DCM)、クロロホルムまたはテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いて溶解し、ジエチルエーテルを沈殿溶媒として用いた。沈殿したポリマーを真空乾燥し、さらなる実験に備えてデシケーターに保存した。
【0095】
実施例17:加熱圧搾機及び溶媒キャストによる熱可塑性ポリマーの加工(フィルム製造)
実施例3の生体吸収性ポリマーを、加熱圧搾機を用いて加工する前に、真空下で一晩乾燥した。上部板及び下部板の温度を130℃に設定した。型と熱板の間に2枚のテフロン(登録商標)シートを配置した。2分間溶融した後、〜170barの加圧下に30秒間保持した。正確な量のポリマーを型に満たし、室温まで冷却した後、試料(30mm×10mm×1mm)を機械的に型抜きし、さらなる分析のため冷凍庫に保存した。
【0096】
溶媒キャストフィルム:表3の数種のポリマーをDCMで溶解し、アルミニウム皿に注入後、排気装置付き実験室で一晩溶媒を蒸発させた。
【0097】
実施例18:37℃の水中での1ヶ月分解調査
合成したポリマーの生体吸収性を実証するために、いくつかのポリマーを選択し、生分解試験を行った(実施例18〜20)。
分解実験用のポリマー試料(大きさ30mm×10mm×1mm)は、生物分解可能ポリマーを加熱圧搾したフィルムから型抜きして作成した。
【0098】
分解実験として2つの異なる方法を行った。一方はpH7.4、37℃のリン酸緩衝食塩水で6〜16ヶ月間(実施例19)行い、もう一方は水で1ヶ月間(実施例18)、また55℃の脱塩水で3ヶ月間の加速試験(実施例20)を行った。最初は毎週試料を採取し、1ヵ月後以降は月に1度かそれ以下の頻度で採取した。37℃の水及びリン酸緩衝液についての分解結果をそれぞれ図1及び2に示す。加速分解試験の結果を図3に示す。
【0099】
理論に縛られるものではないが、バルク分解/侵食ポリマーにおける分解のメカニズムは、多くのポリエステル系ポリマーに典型的なものであるが、2つの主な段階からなる。第1段階では、ポリマーの分子量が低下し始め水の吸い上げもしくは膨張率(%)が上昇する。第2段階では、ポリマーの分子量が15000g/molより減少すると、重量または質量が失われ始める(Biomaterials, 1981, 2, 215-220)。重量損失が起こる限界はポリマーの特性及び周囲媒質の溶解度による。親水性及び疎水性ブロックにより分解メカニズムが変わることがある。例えば、極めて加水分解に不安定な結合をもつ疎水性の高いポリマーはポリマーの表面侵食を生じるが、一方でポリエステル内の親水性構造ユニットは酸性分解生成物の自己触媒効果を失わせ、空殻の影響がない「真の」バルク分解を生み出すことがある。
【0100】
実施例19:37℃の緩衝生理食塩溶液での15ヶ月分解調査
実施例18と同様に生分解実験用ペッサリーを製造した。分解はポリマーの変更により容易に調整可能であろう。ポリマーは分解に適するよう調整して作成した。
【0101】
実施例20:55℃の脱塩水での6ヶ月分解調査
実施例18と同様に生分解実験用ペッサリーを製造した。温度を高くすることにより分解速度が上昇した。
【0102】
したがって本願の出願人は、少なくとも1つの実施例において、カプロラクトン及びPEGから得られる生体吸収性ポリマーを提供し、それは組成、特性、製法、分解速度及び用途において従来のポリマーとは異なるものである。
【0103】
本願の出願人は、従来の生体吸収性ポリマーがカプロラクトンまたはPEGのいずれかの特性に依存していたことを見出した。ポリマー鎖を延長するジイソシアネート及びカプロラクトンジオールを使用することで、本発明のポリマーは全ての部位の特徴を取り込むことが可能である。驚くべきことに、出願人は3つの重合技術の組み合わせにより、ポリマー構造をより良好に制御することが可能となり、その結果極めて有用な特性がもたらされることを見出した。
【0104】
ここに記載されている発明は、上記の特定の実施例に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カプロラクトン部位及びポリアルキレンオキシド部位の共重合単位を含むプレポリマー、
(b)カプロラクトン及び炭素数2〜6のジオールの共重合単位を含むポリカプロラクトンジオール、及び
(c)ジイソシアネート
を共に反応して得られることを特徴とするポリマー。
【請求項2】
(a)プレポリマーのポリアルキレンオキシドが、ポリ(C2〜C3アルキレンオキシド)、またはそれらの混合物である請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
ポリアルキレンオキシドが、ポリエチレングリコールである請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
ポリエチレングリコールが、HO(CH2CH2n)H(nは1〜800の整数である。)の構造をもつ請求項3に記載のポリマー。
【請求項5】
ポリエチレングリコールの平均分子量が、300〜10,000g/molである請求項3または4に記載のポリマー。
【請求項6】
ポリエチレングリコールの平均分子量が、400〜10,000g/molである請求項5に記載のポリマー。
【請求項7】
(a)プレポリマーが、(CAP)n−PEG(CAP)n(CAPはカプロラクトン、PEGはポリエチレングリコール、各CAPブロックのnは3〜40である。)の構造をもつブロック共重合体である先行するいずれかの請求項に記載のポリマー。
【請求項8】
nが5〜31である請求項7に記載のポリマー。
【請求項9】
カプロラクトンとポリエチレングリコール(PEG)のモル比が、2:1〜124:1である請求項3〜8のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項10】
重合触媒がオクタン酸スズである先行するいずれかの請求項に記載のポリマー。
【請求項11】
(b)成分の炭素数2〜6のジオールが、HO−(CH2m−OH(mは2〜6である。)の構造をもつ先行するいずれかの請求項に記載のポリマー。
【請求項12】
(b)成分の炭素数2〜6のジオールが、ポリエチレンオキシドである先行するいずれかの請求項に記載のポリマー。
【請求項13】
カプロラクトンとエチレングリコールの比が、4:2である請求項12に記載のポリマー。
【請求項14】
(c)ジイソシアネートが、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートまたはL−リシンジイソシアネートである先行するいずれかの請求項に記載のポリマー。
【請求項15】
(c)ジイソシアネートが、1,4−ブタンジイソシアネートである先行するいずれかの請求項に記載のポリマー。
【請求項16】
活性剤を担持した先行するいずれかの請求項に記載のポリマーを含むデリバリーデバイス(delivery device)。
【請求項17】
薬学的活性剤を担持した請求項16に記載の薬剤デリバリーデバイス。
【請求項18】
成分(a)、(b)、(c)を共に反応することを含む請求項1のポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−506991(P2010−506991A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532888(P2009−532888)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003936
【国際公開番号】WO2008/047100
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(307022402)コントロールド・セラピューティクス(スコットランド)・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】