説明

生体有益性コーティングとしてのポリ(エステルアミド)誘導体

ポリ(エステルアミド)誘導体(D−PEA)ならびにこれらから形成されるコーティングおよび医療デバイスを提供する。該コーティングおよび医療デバイスは、場合によって生体有益性材料および/または生体適合性ポリマーおよび/または生物活性剤を含むことができる。該医療デバイスは、例えばアテローム性動脈硬化、血栓症、再狭窄、出血、血管の解離もしくは穿孔、血管の動脈瘤、易損性の斑、慢性完全閉塞、跛行、静脈および人工移植片に対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞またはこれらの組合せなどの障害を治療、予防または改善するために患者に埋込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の背景]
[発明の分野]
本発明は、一般に、薬物送達ステントなどの埋込型デバイスをコーティングするのに有用なポリ(エステルアミド)誘導体組成物に関する。
【0002】
[背景の説明]
血管閉塞は、罹患血管における血流を機械的に促進することによって、例えばステントを使用することによって治療されることが多い。ステントは、通路の壁を物理的に開いた状態にし、必要に応じて拡張する働きをする、足場としての機能を果たす。通常、ステントは圧縮することができるので、カテーテル経由で小さい管腔内に挿入することができ、次いで、いったん所望の場所に留置されると、さらに大きな直径に拡張することが可能である。
【0003】
ステントは、機械的な診療行為に使用されるだけでなく、生物学的療法を施すための媒体としても使用される。生物学的療法は、ステントに薬物を添加することによって実現することができる。薬物添加ステントは、病変部位にて治療物質の局所投与を提供する。治療物質の局所送達は好ましい治療方法である。この理由は、患者に対して有害な副作用または毒性の副作用でさえも引き起こすことが多い全身投与に比べて、該物質が特定部位に集中する結果、薬物の総投与量をより少なくすることができるためである。ステントに薬物を添加する1つの方法は、ステントの表面上にコートされるポリマー担体の使用を含む。溶媒、溶媒に溶かしたポリマー、およびこの混合物に分散させた治療物質を含む組成物は、ステントを該組成物に浸すことによって、または該組成物をステント上に噴霧することによってステントに適用される。溶媒を蒸発させ、ポリマーおよび該ポリマーに含浸された治療物質のコーティングをステント表面に残してもよい。
【0004】
一般に、埋込型デバイスのためのコーティング組成物を形成するポリマーは、生物学的に良性でなければならない。該ポリマーは、生体適合性および生体吸収性であることが好ましい。かかるポリマーの1つはポリ(エステルアミド)である。ポリ(エステルアミド)(PEA)は優れた生体適合性を有する。しかし、PEAで形成されたコーティングによって、機械が故障する可能性がある。その上、PEAは、エチレンビニル(EVAL)アルコールコポリマーおよびポリフッ化ビニリデン(Solef(商標))に比べて、エベロリムスなどの薬物に透過性である。コートステントにおける薬剤の滞留時間の適切なレベルを達成するために、目標放出速度を満たすさらに厚いコーティングが必要となるであろう。
【0005】
したがって、生物活性剤の制御放出および改良された機械的性質を提供するPEAコーティング組成物が必要とされている。
【0006】
本明細書に開示される、該組成物およびこれらで形成されたコーティングは、上記の問題および必要性に対処する。
【0007】
[発明の概要]
本発明の実施形態は、ステントなどの医療デバイスをコーティングするための、またはステントなどの埋込型の医療デバイス自体を形成するための、ポリ(エステルアミド)誘導体(D−PEA)を含む生体有益性組成物を提供する。D−PEAは生体有益性部分を含む。埋込型デバイスまたはコーティングは、場合によって薬剤の制御放出のための生物活性剤を含むことができる。いくつかの例証的な生物活性剤には、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシンおよび40−O−テトラゾール−ラパマイシン、ABT−578、クロベタゾール、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、ならびにこれらの組合せが挙げられる。埋込型デバイスは、例えばアテローム性動脈硬化、血栓症、再狭窄、出血、血管の解離もしくは穿孔、血管の動脈瘤、易損性の斑、慢性完全閉塞、跛行、静脈および人工移植片に対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞またはこれらの組合せなどの障害を治療または予防するために患者に埋込むことができる。
【0008】
[詳細な説明]
本発明の一実施形態では、ステントなどの医療デバイスをコーティングするための、または埋込型の医療デバイス自体を形成するための、ポリ(エステルアミド)誘導体(D−PEA)を含み、場合によって別の生体適合性ポリマーおよび/または生体有益性材料を含む生体有益性組成物を提供する。D−PEAは、別の生体適合性ポリマーから、または生体有益性材料から得られる部分を含む。好ましくは、D−PEAは生体有益性材料から得られる部分を含む。
【0009】
埋込型デバイスまたはコーティングは、場合によって薬剤の制御放出のための生物活性剤を含むことができる。いくつかの例証的な生物活性剤には、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシンおよび40−O−テトラゾール−ラパマイシン、ABT−578、クロベタゾール、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、ならびにこれらの組合せが挙げられる。埋込型デバイスは、例えばアテローム性動脈硬化、血栓症、再狭窄、出血、血管の解離もしくは穿孔、血管の動脈瘤、易損性の斑、慢性完全閉塞、跛行、静脈および人工移植片に対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞またはこれらの組合せなどの障害を治療または予防するために患者に埋込むことができる。
【0010】
(ポリ(エステルアミド)ポリマー)
ポリ(エステルアミド)(PEA)は、この基幹にエステルおよびアミドの両方の官能性を有するポリマー群である。PEAは、一般に、二酸ならびにアミノおよびエステルの両方の官能基を有する別の部分で形成される。かかるPEAの1つは、例えば米国特許第6503538号明細書に記載されている。
【0011】
二酸は、C2〜C12の二酸、脂肪族、または不飽和度を有するものが好ましい。アミノ酸は、例えば、グリシン、バリン、アラニン、プロリン、グルタミン、メチオニン、ロイシン、イソロイシンまたはフェニルアラニンであることができる。任意の第2のアミノ酸を含んでよい。第2のアミノ酸は、例えば、リシン、チロシン、トリプトファン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、トレオニン、セリンまたはシステインであることができる。第2のアミノ酸は、薬理活性化合物または特性変性剤の結合を可能にするような側基を含んでよい。種々の熱的性質を有するPEAポリマーは、合成中にこれらの成分を変化させることによって容易に調製することができる。
【0012】
PEAは、特に、ジアミノサブユニットおよびジカルボン酸を利用して、縮合重合によって製造することができる(スキームI)。スキームIにおいて、ジカルボン酸は、活性なジ−p−ニトロフェニル誘導体に変換される。スキームIに示すように、ジカルボン酸およびジアミノサブユニットが化学量論的に使用される場合には、形成されるPEAは1個の末端カルボン酸基および1個の末端アミノ基を有することになる。ジカルボン酸およびジアミノサブユニットが1:1の比率で使用されない場合には、ジカルボン酸サブユニットがジアミノサブユニットよりも多く用いられるならば、こうして形成されるPEAは、カルボン酸基に優勢の末端基を有することができ、またはジアミノサブユニットがジカルボン酸サブユニットよりも多く用いられるならば、アミノ基に優勢の末端基を有することができる。したがって、PEA分子は反応性の高いカルボン酸末端基またはアミノ末端基を有することになる。
【0013】
【化1】

【0014】
(生体有益性材料)
一実施形態では、生体有益性材料を使用してPEAポリマーを誘導し、本明細書に記載されているPEA誘導体ポリマー(D−PEA)を形成することができ、D−PEAを用いてコーティングまたは埋込型デバイスを形成することができる。別の実施形態では、生体有益性材料をD−PEAと組み合わせて使用し、埋込型デバイスのコーティングを形成することができる。生体有益性材料は、ポリマー材料または非ポリマー材料であることができる。生体有益性材料は、好ましくは可撓性および生体適合性および/または生分解性(生体内分解性および生体吸収性を含む用語)であり、より好ましくは非毒性、非抗原性および非免疫原性である。生体有益性材料は、デバイスの生体適合性を高めるものであり、これは非汚損性、血液適合性、活性な非血栓形成性、前内皮細胞増殖または抗炎症性であることによるが、すべて医薬活性剤の放出に依存しない。
【0015】
一般に、生体有益性材料は、比較的低いガラス転移温度(Tg)を有し、例えば、Tgは下記の生体適合性ポリマーに比べて低いか、または極めて低い。いくつかの実施形態では、Tgはヒトの体温よりも低い。この特性によって、例えば、生体有益性材料は生体適合性ポリマーに比べて相対的に軟質性になり、生体有益性材料を含むコーティングの層は、埋込型デバイスが生体適合性ポリマーを含む層でコートされる場合に生じる可能性のある、表面のいずれの損傷もふさぐことができる。例えば、より硬質の生体適合性ポリマーは、ステントの半径を拡張している間に、亀裂が生じるか、表面が破砕する可能性がある。より軟質の生体有益性材料は、亀裂および破砕をふさぐことができる。
【0016】
生体有益性材料の別の特性は親水性である。コーティング材料の親水性は、薬物送達コーティングの薬物放出速度に影響を及ぼし、コーティング材料が生分解性である場合には、コーティング材料の分解速度に影響を及ぼすことになる。一般に、コーティング材料が生分解性である場合、コーティング材料の親水性はより高く、薬物送達コーティングの薬物放出速度はより速く、コーティングの分解速度はより速くなる。
【0017】
代表的な生体有益性材料には、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、コポリ(エーテル−エステル)(例えば、ポリ(エチレンオキシド)/ポリラクチド(PEO/PLA))などのポリエーテル;ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ホスホリルコリン、コリン、ポリ(アスピリン)などのポリアルキレンオキシド、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)アクリレート(PEGA)、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)およびn−ビニルピロリドン(VP)などのヒドロキシルを有するモノマーのポリマーおよびコポリマー、メタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレートおよび3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート(TMSPMA)などのカルボン酸を有するモノマー、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メチルメタクリレート)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、ポリ(フッ化ビニリデン)−PEG(PVDF−PEG)、PLURONIC(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキシド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性のポリ(ビニルピロリドン);フィブリン、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸のフラグメントおよび誘導体、ヘパリン、ヘパリンのフラグメントおよび誘導体、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、多糖、エラスチン、キトサン、アルギン酸塩、シリコーンなどの生体分子、ならびにこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、ポリマーは、上述のポリマーのいずれか1つを除外することができる。
【0018】
ある実施形態では、生体有益性材料は可撓性のポリ(エチレングリコール)およびポリ(ブチレンテレフタレート)のブロック(PEGT/PBT)を有するブロックコポリマー(例えば、PolyActive(商標))である。PolyActive(商標)は、PEGおよびPBTのかかる部分(例えば、ポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(ブチレンテレフタレート)−block−ポリ(エチレングリコール)(PEG−PBT−PEG)を有する、AB、ABA、BABコポリマーを含むことを意味する。
【0019】
さらなる実施形態では、生体有益性材料は、ポリ(エチレングリコール)、両親媒性ペプチド、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(4−アミノ−TEMPO)などの酸化窒素保有体、NO−供与体ポリマーなどの治癒促進性ポリマー、ヒアルロン酸、カーボンナノチューブおよびフラーレンであることができる。
【0020】
(生体適合性ポリマー)
本明細書に記載されているコーティングまたは医療デバイスにおいて、本明細書に記載されているD−PEAと共に使用することができる生体適合性ポリマーは、当技術分野において知られている任意の生体適合性ポリマーであることができ、生分解性または非分解性であることができる。本発明に従って、埋込型デバイスをコートするために使用することができるポリマーの代表例には、本明細書に定義されているD−PEAではないポリ(エステルアミド)、エチレンビニルアルコールコポリマー(一般名EVOHによって、または商品名EVALによって広く知られている)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−co−バレレート)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)(PDLLAGA)、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(ブチレンテレフタレート−co−PEG−テレフタレート)、ポリウレタン、ポリホスファゼン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレンとエチレン−αオレフィンのコポリマー、アクリルのポリマーおよびコポリマー、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ビニルのポリマーおよびコポリマー、ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルエーテル;フッ化ビニリデンをベースとした、Solef(商標)またはKynar(商標)という商品名でのホームまたはコポリマー、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリ(ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF−co−HFP)およびポリ塩化ビニリデンなどのポリハロゲン化ビニリデン;ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレンなどのポリビニル芳香族化合物、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル、ビニルモノマー同士のコポリマーおよびオレフィンとのコポリマー、例えばエチレン−メチルメタクリレートコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂およびエチレン−酢酸ビニルコポリマー;ナイロン66およびポリカプロラクタムなどのポリアミド、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(セバシン酸グリセリル)、ポリ(プロピレンフマレート)、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテルおよびカルボキシメチルセルロースが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
好ましい生体適合性ポリマーは、ポリ(エステルアミド)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)とグリコール酸とのコポリマー、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(オキサエステル)、ポリ(オキサアミド)、ポリ(エチレンカーボネート)、ポリ(プロピレンカーボネート)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(チロシン誘導カーボネート)、ポリ(チロシン誘導アリーレート)、ポリ(チロシン誘導イミノカーボネート)、これらとポリ(エチレングリコール)とのコポリマー、またはこれらの組合せである。
【0022】
(ポリ(エステルアミド)ポリマーの誘導体化)
PEAは、末端のカルボキシル基またはアミノ基を用いて修飾することができる。下記の実施形態は、PEAポリマーを誘導体化する、いくつかの例証的な方法について説明する。
【0023】
(PEAポリマーのカルボン酸基を用いた誘導体化)
いくつかの実施形態では、スキーム2に示すように、PEAポリマーのカルボキシル基を用いて、該カルボキシル基と反応可能な官能基を有する生体有益性材料と、該カルボキシル基とを反応させることによって、D−PEAを形成することができる。生体有益性部分の官能基は、カルボキシル基と反応可能な任意の官能基であってよい。かかる官能基は、反応基または脱離基であることができ、これにはヒドロキシル、チオール、アミノ、カルボキシル、エステル、ケト、アルデヒド、ハロゲン化物、トシレートまたはメシレートが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
【化2】

【0025】
スキーム2では、PEA上のカルボキシルは、p−ニトロフェニル誘導体、酸ハロゲン化物またはN−ヒドロキシスクシンイミジル誘導体などの活性化カルボキシルであってもよい。
【0026】
一実施形態では、生体有益性材料はカルボキシル基を有し、カルボキシル−カルボキシルカップリングによって、PEAポリマーに結合することができる。このカップリングは、例えば、(1−エチル−3−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド(EDC)などの水に可溶なカルボジイミド、またはジシクロヘキシルカルボジイミドなどの有機溶媒に可溶なカルボジイミドを介在させて、無水物の結合を得ることができる。
【0027】
生体有益性材料の末端にあるアミンは、カルボジイミド、具体的にはEDCなどの試薬を用い、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)、置換HOBTまたはN−ヒドロキシスクシンアミドなどの試薬を介在させて、カルボン酸部分に直接結合することができる。
【0028】
(ヒドラジドを用いた誘導体化)
本発明の別の態様では、基幹にカルボキシル基を有するPEAポリマーは、水などの水性溶媒中でヒドラジド反応基に結合することができる。少なくとも2つのヒドラジド反応基を有する結合剤は、カルボン酸基を有する生体有益性材料とPEAポリマーとを結合させることができる。該結合剤によって、複数のカルボン酸基を有する生体有益性材料の架橋を避けるために、該反応はジヒドラジドなどの結合剤を過剰に用いて行うことができ、官能化の程度は、EDCなどのカルボジイミドの量によって制御することができる(スキーム3)(Luo,Y.et al.,J.Contr.Release 69:169〜184(2000))。
【0029】
【化3】

【0030】
残存ジヒドラジド基を有する官能化PEAは、カルボジイミドの化学的性質を用いて、生体有益性材料上のカルボン酸残基と反応することができる。あるいは、官能化PEAを医療デバイス上にコートすることができ、次いで、カルボジイミドの化学的性質を用いて生体有益性材料をコーティング上にグラフトすることができる。
【0031】
(多官能性アジリジンを用いた誘導体化)
本発明のさらなる態様によると、多官能性アジリジン試薬を架橋剤として使用して、カルボン酸基を有する生体有益性材料とPEAポリマーとを結合させることができる。例えば、Sybron Chemicals(ニュージャージー州)からのペンタエリトリトールトリス(3−アジリジノプロピオネート)を架橋剤として使用することが可能である(例えば、Gianolino,D.A.,et al.,Crosslinked sodium hyaluronate containing labile linkages,Abstract from Society for Biomaterials 2002を参照のこと)(スキーム4)。
【0032】
【化4】

【0033】
スキームに示すPEA誘導体において、残りのいくつかのアジリジン基は、カルボキシル官能性を有する生体有益性材料とPEAとをグラフトするために、その後も表面で利用可能である。
【0034】
(多官能性カルボジイミドを用いた誘導体化)
本発明の別の態様では、多官能性カルボジイミドを使用して、カルボン酸官能性を有する生体有益性材料にPEAポリマーを結合させることができる(スキーム5を参照のこと)。多官能性カルボジイミドは、日清紡(CARBODILITE(商標))およびBayer(BAYDERM(商標)Fix CD)から入手可能である。
【0035】
【化5】

【0036】
スキーム5に従って架橋されたPEAは、未反応のカルボジイミド基を有することができるので、生体有益性材料に容易に結合することができる。
【0037】
(1級アミン官能基を有する生体有益性材料への結合による誘導体化)
本発明のさらなる態様によると、PEAポリマーを、1級アミン官能性を有する生体有益性材料に結合させることができ、これはアミン基とPEAポリマーのカルボキシルとの間のアミド形成を直接媒介するEDCを用いて行うことができる。例として、1級アミン官能性を有するモノマー、例えばN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミドHCl(Polysciencesから入手可能)、3−アミノクロトン酸エチル(Aldrichから入手可能)、3−アミノ−4,4,4−トリフルオロクロトン酸エチル(Aldrichから入手可能)またはこれらの組合せは、重合反応を受けてペンダントの1級アミン基を有するポリマーを形成することができる。1級アミン基は、スクシンイミジルポリ(エチレングリコール)(PEG)などの生体有益性部分およびカルボキシル基を有するPEAポリマーと反応して、生体有益性部分を有するD−PEAを形成することができる。
【0038】
(PEAポリマーのアミノ基を用いたPEAの誘導体化)
一実施形態では、PEAポリマー上のアミノ活性基を使用して、生体有益性材料をPEAポリマーに結合させることができる。一実施形態では、PEAポリマー上の活性アミノ基は、アミノ基のアルキル化によって生体有益性材料に結合し、4級アミンを形成することができる(スキーム6)。
【0039】
【化6】

【0040】
この反応は、脱離基を有する炭素原子が1級または2級である場合に、最も良く進行する。
【0041】
別の実施形態では、酸塩化物または他の酸ハロゲン化物とアミノ基との反応によって、アミド基を形成することを通じて、PEAポリマーを誘導体化することができる(スキーム7)。
【0042】
【化7】

【0043】
PEAポリマーを生体有益性材料に結合させるために、活性アミノ基を、生体有益性材料中のアルデヒドと共に、例えばNaCNBHおよびNaBHなどの還元剤の存在下で、還元的アミノ化することができる(スキーム8)。
【0044】
【化8】

【0045】
あるいは、PEA誘導体を形成するために、PEAポリマー上のアミノ基は、生体有益性材料上の無水物、エポキシド、イソシアネートまたはイソチオシアネートとそれぞれ反応することができる(スキーム9)。
【0046】
【化9】

【0047】
スキーム9において、Rは生体有益性材料である。
【0048】
(フラーレンを用いたPEAの誘導体化)
フラーレンは、純粋な炭素原子で形成される化合物であり、この分子構造の特徴は、炭素−炭素二重結合が交互に並び、相互に連結し縮合した芳香環を形成し、閉じた構造を形成していることである。かかるフラーレンの1つがC60であり、俗に「バッキーボール」と呼ばれている。フラーレンを誘導体化および官能化することができることは十分に立証されている。例えば、Fullerenes:Chemistry,Physics,and Technology,Karl M.Kadish(編集者),Rodney S.Ruoff(編集者)を参照のこと。例えば、フラーレンを官能化し、ハロゲン化物、カルボキシル基、ケト、アミノ、エステル、ヒドロキシルおよび他の官能基などの官能基を分子に結合させることができる。例えば、アミノ酸をフラーレンに結合させることについては、Yang,et al.,“Design and synthesis of fullerene−based amino acids,”Abstract,228th ACS National Conference,Philadelphia,August 22〜26,2004を、アセチレン、シラン、エステルおよびヒドロキシル基でフラーレンを官能化することについては、Diederich,F.,Pure&Appl.Chem.,69:395〜400(1997)を参照のこと。接触水和、還元、酸化、ハロゲン化物を用いた誘導体化および/または加水分解などの標準的な有機化学の方法論によって、これらの官能基がフラーレンのさらなる誘導体化または官能化を可能にすることに留意されたい。例えば、Fullerenes:Chemistry,Physics,and Technology,Karl M.Kadish(編集者),Rodney S.Ruoff(編集者)を参照のこと。
【0049】
官能化フラーレンを、上記方法によってPEAポリマーに結合することができる。
【0050】
(生物活性剤)
本明細書に記載されているD−PEAポリマーは、コーティング、または1種もしくは複数種の生物活性剤を有するステントなどの医療デバイスを形成することができる。これらの生物活性剤は、治療薬、予防薬または診断薬である任意の薬剤であってよい。これらの薬剤は、抗増殖性もしくは抗炎症性の特性を有する可能性があるか、または細胞増殖抑制剤の特性ばかりでなく、抗腫瘍剤、抗血小板剤、抗凝血剤、抗フィブリン剤、抗トロンビン剤、抗有糸分裂剤、抗生物質、抗アレルギー剤、抗酸化剤などの他の特性を有する可能性がある。好適な治療薬および予防薬の例には、治療、予防または診断の活性を有する、合成の無機および有機化合物、タンパク質およびペプチド、多糖および他の糖、脂質ならびにDNAおよびRNAの核酸配列が含まれる。核酸配列には、遺伝子、相補的なDNAに結合して転写を阻害するアンチセンス分子、およびリボザイムが含まれる。他の生物活性剤の他のいくつかの例には、抗体、受容体リガンド、酵素、粘着性ペプチド;血液凝固因子、血液凝固阻害剤または血栓溶解薬、例えばストレプトキナーゼおよび組織プラスミノーゲン活性化因子など;免疫用抗原、ホルモンおよび成長因子;遺伝子療法に使用するための、オリゴヌクレオチド、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムならびにレトロウイルスベクターが含まれる。抗増殖剤の例には、ラパマイシンおよびこの官能性誘導体または構造的誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)およびこの官能性誘導体または構造的誘導体、パクリタキセルおよびこの官能性誘導体または構造的誘導体が含まれる。ラパマイシン誘導体の例には、メチルラパマイシン(ABT−578)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシンおよび40−O−テトラゾール−ラパマイシンが含まれる。パクリタキセル誘導体の例には、ドセタキセルが含まれる。抗腫瘍剤および/または抗有糸分裂剤には、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、塩酸ドキソルビシン(例えば、ニュージャージー州ピーパックのPharmacia&UpjohnからのAdriamycin(登録商標))およびマイトマイシン(例えば、コネティカット州スタンフォードのBristol−Myers Squibb Co.からのMutamycin(登録商標))が含まれる。かかる抗血小板剤、抗凝血剤、抗フィブリン剤および抗トロンビン剤の例には、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリン類似物質、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗トロンビン剤)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体拮抗薬抗体、組換えヒルジン、Angiomax a(Biogen,Inc.、マサチューセッツ州ケンブリッジ)などのトロンビン阻害剤、カルシウムチャンネル遮断薬(例えば、ニフェジピン)、コルヒチン、線維芽細胞増殖因子(FGF)拮抗薬、魚油(ω3−脂肪酸)、ヒスタミン拮抗薬、ロバスタチン(HMG−CoA還元酵素の阻害剤、ニュージャージー州ホワイトハウスステーションのMerck&Co.,Inc.からの商標名Mevacor(登録商標)というコレステロール低下剤)、モノクローナル抗体(例えば、血小板由来成長因子(PDGF)受容体に対して特異的な抗体など)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGF拮抗薬)、酸化窒素または酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗癌剤、種々のビタミンなどの栄養補助食品、ならびにこれらの組合せが含まれる。ステロイド系および非ステロイド系の抗炎症薬を含めた抗炎症薬の例には、タクロリムス、デキサメタゾン、クロベタゾールおよびこれらの組合せが含まれる。かかる細胞増殖抑制物質の例には、アンギオペプチン、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、例えば、カプトプリル(例として、コネティカット州スタンフォードのBristol−Myers Squibb Co.からの、Capoten(登録商標)およびCapozide(登録商標))、シラザプリルまたはリシノプリル(例えば、ニュージャージー州ホワイトハウスステーションのMerck&Co.,Inc.からのPrinivil(登録商標)およびPrinzide(登録商標))が含まれる。抗アレルギー剤の例は、ペミロラストカリウムである。適切である可能性のある他の治療物質または治療薬には、α−インターフェロン、生物活性RGD、および遺伝子操作を施した上皮細胞が含まれる。前述の物質を、これらのプロドラッグまたはコドラッグの形で使用することも可能である。前述の物質は、例として掲載されるものであり、限定されるつもりはない。現在入手できるか、または今後開発される可能性のある他の活性剤は、同様に適用できる。
【0051】
良好な治療効果を生じるのに必要な、生物活性剤の用量または濃度は、生物活性剤が毒性作用を生じる濃度未満であり、治療結果が得られない濃度を超えなければならない。必要とされる生物活性剤の用量または濃度は、以下の因子によって決まる可能性がある。かかる因子には、例えば、患者の個々の事情;送達される組織の性質;所望される療法の性質;投与される成分が血管部位に留置される期間;ならびに他の活性剤が使用される場合には、この物質またはこれらの物質の組合せの性質および種類などが挙げられる。治療上の効果的な用量は、例えば、好適な動物モデル系からの血管に注入し、該剤およびこの効果を検出するための、免疫組織化学法、蛍光法もしくは電子顕微鏡法を用いることによって、または好適なin vitro研究を行うことによって、経験に基づいて決定することができる。用量を決定するための標準的な薬理試験の手法は、当業者によって理解される。
【0052】
(コーティング構築物)
本発明の別の態様では、D−PEAを使用して薬物の制御放出を提供するコーティングを形成することができる。D−PEAは、単独でまたは生体適合性で非生体吸収性の上記ポリマーと組み合わせて、または生体適合性で生体吸収性の上記ポリマーと組み合わせて使用して、薬物と共に制御放出マトリックスを形成することができる。このマトリックスをステントなどの医療デバイス上にコートして、コーティングの薬物レザバー層を形成することができる。一実施形態では、D−PEAを、場合によって生体有益性材料および/または生体適合性ポリマーと共に薬物レザバー層上に上塗りして、薬物の制御放出を提供することもできる。
【0053】
いくつかの実施形態では、制御された薬物放出コーティングの構築物には、生体吸収性であり得る薬物マトリックスを含むコーティング層が含まれる。上記D−PEAを含むコーティング層を、場合によって生体有益性材料(例えば、PolyActive(商標))および/または生体適合性ポリマーと共に、薬物マトリックス層の下部および/または上部にコートして、薬物の制御放出を提供することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、制御された薬物放出コーティングの構築物には、薬物と生体吸収性ポリマーとを含む薬物マトリックス、該薬物マトリックスの下部にコートされるD−PEAではない生体吸収性ポリマー層、および薬物マトリックスの上部にコートされるD−PEA層が含まれており、薬物の制御放出を提供する。
【0055】
いくつかの他の実施形態では、薬物マトリックスは非分解性ポリマーと薬物とを含むことができる。D−PEAまたはD−PEAの混合物の層を薬物マトリックスの上部にコートして、薬物の制御放出を提供することができる。非分解性で生体適合性の任意のポリマーを使用して、このコーティング構築物を形成することができる。一実施形態では、非分解性で生体適合性のポリマーは、上記Solef(商標)ポリマーである。D−PEAは任意のPEA誘導体であってよく、その1つの例がPEA−PEGである。
【0056】
いくつかのさらなる実施形態では、D−PEAを使用して、PolyActive(商標)コーティングの薬物放出速度を変えることができる。例えば、D−PEAをPolyActive(商標)と一緒に、場合によって薬物と一緒に医療デバイス上にコートすることができる。次いで、純粋なPolyActive(商標)の層を、場合によって薬物を含むD−PEA/PolyActive(商標)層の上部にコートすることができる。
【0057】
(埋込型デバイスの例)
本明細書において使用されるように、埋込型デバイスは、ヒトまたは動物の患者に埋込むことができる好適な任意の医療用基材であってよい。かかる埋込型デバイスの例には、自己拡張可能なステント、バルーン拡張可能なステント、ステント移植片、移植片(例えば、大動脈移植片)、人工心臓弁、脳脊髄液シャント、ペースメーカーの電極および心内膜リード(例えば、カリフォルニア州サンタクララのGuidant Corporationから入手可能な、FINELINEおよびENDOTAK)が含まれる。該デバイスの基底構造は、実質的にはいかなる設計のものでもよく、例えば、チャネル、細孔、穿孔またはデポーを有する金属ステントなどである。該デバイスは、以下の金属材料または合金で作製することができるが、これらに限定されるものではない。すなわち、コバルトクロム合金(ELGILOY)、ステンレス鋼(316L)、高窒素ステンレス鋼、例えば、BIODUR108、コバルトクロム合金L−605、「MP35N」、「MP20N」、ELASTINITE(Nitinol)、タンタル、ニッケル−チタン合金、白金−イリジウム合金、金、マグネシウム、またはこれらの組合せが挙げられる。「MP35N」および「MP20N」は、ペンシルベニア州ジェンキンタウンのStandard Press Steel Co.から入手可能な、コバルト、ニッケル、クロムおよびモリブデンの合金の商品名である。「MP35N」は、コバルト35%、ニッケル35%、クロム20%およびモリブデン10%からなる。「MP20N」は、コバルト50%、ニッケル20%、クロム20%およびモリブデン10%からなる。生体吸収性または生体安定性のポリマーから作製されるデバイスも本発明の実施形態と共に使用することができる。
【0058】
(使用方法)
本発明の実施形態によると、記載された種々の実施形態のコーティングを、埋込型デバイスまたは人工器官、例えばステント上に形成することができる。1種または複数種の活性剤を含むコーティングに関しては、該剤はデバイスの送達および拡張中、ステントなどの医療デバイス上に保持され、埋込部位で所定の期間および所望の速度で放出される。好ましくは、該医療デバイスはステントである。上記のコーティングを有するステントは、例として、胆管、食道、気管/気管支および他の生物学的通路における腫瘍によって引き起こされる閉塞の治療を含めた、種々の医療処置に有用である。上記のコーティングを有するステントは、アテローム性動脈硬化、平滑筋細胞の、異常または不適切な遊走および増殖、血栓症ならびに再狭窄によって引き起こされる血管閉塞部位を治療するのに特に有用である。ステントは、動脈および静脈両方の多様な血管中に留置される可能性がある。部位の代表例には、腸骨動脈、腎動脈、頚動脈および冠動脈が含まれる。
【0059】
ステントの埋込みに関しては、ステント療法の適切な位置を決定するために、血管造影を最初に行う。血管造影は、X線を照射する際に、動脈または静脈中に挿入されたカテーテルを通じてX線造影剤を注入することによって、通常達成される。次いでガイドワイヤーを、病変または提案された治療部位を通過して進行させる。ガイドワイヤーの上に送達カテーテルを通すことによって、折り畳まれた状態にあるステントを通路の中に挿入することができる。送達カテーテルを経皮的にまたは外科的に、大腿動脈、上腕動脈、大腿静脈または上腕静脈に挿入し、透視下でカテーテルを血管系に向けて誘導することによって、適切な血管内に進行させる。次いで、上記のコーティングを有するステントを所望の治療領域で拡張してよい。適切な位置決めを確認するために、挿入後の血管造影も利用される可能性がある。
【実施例】
【0060】
本発明の実施形態は、以下に説明される実施例によって例証される。パラメータおよびデータはすべて、本発明の実施形態の範囲を不当に限定するものと解釈されるべきではない。
【0061】
(実施例1.PEA誘導体トップコートを有するポリ(エステルアミド)誘導体/エベロリムスレザバー)
12mmの小型Vision(商標)ステント(Guidant Corporationから入手可能)に、D−PEA/エベロリムス混合物550μgを薬物/ポリマー比率1/4(W/W)でコートした。D−PEAは、4−アミノ−TEMPOで誘導体化されたPEAである。200プルーフエタノール中2%(w/w)D−PEAおよび0.5%エベロリムス溶液を、噴霧によって該ステントに塗布し、50℃にて1時間加熱乾燥して溶媒を除去した。純粋なD−PEAのトップコートを、エタノール中2%(w/w)溶液として噴霧によって塗布し、290μgの乾燥ポリマー固形物がステント上に残るまで、続いて50℃にて1時間加熱乾燥した。アルゴン雰囲気中25KGyの線量にて電子線照射により該ステントを滅菌処理した。
【0062】
(実施例2.PEA放出速度制限トップコートおよびD−PEA生体有益性コートを有するPEA/エベロリムスレザバー)
12mmの小型Vision(商標)ステント(Guidant Corporationから入手可能)に、ポリ(エステルアミド)/エベロリムス混合物430μgを薬物/ポリマー比率3(W/W)でコートした。200プルーフエタノール中2%(w/w)ポリ(エステルアミド)および0.67%エベロリムス溶液を、噴霧によって該ステントに塗布し、50℃にて1時間加熱乾燥して溶媒を除去した。純粋なポリ(エステルアミド)のトップコートを、エタノール中2%(w/w)溶液として噴霧によって塗布し、310μgの乾燥ポリマー固形物がステント上に残るまで、続いて50℃にて1時間加熱乾燥した。4−アミノ−TEMPOで誘導体化されたPEAの生体有益性コートを、200プルーフエタノール中2%溶液からコートした。100μgの乾燥固形物を噴霧によって塗布し、50℃にて1時間加熱乾燥した。アルゴン雰囲気中25KGyの線量にて電子線照射により該ステントを滅菌処理した。
【0063】
(実施例3.PEA誘導体トップコートを有するポリ(エステルアミド)誘導体/エベロリムスレザバー)
アセトン/シクロヘキサノン50/50(w/w)の混合溶媒中、ポリ(n−ブチルメタクリレート)の2%(w/w)溶液を、18mmの小型Vision(商標)ステント(Guidant Corporationから入手可能)に、噴霧によって塗布した。80μgのポリマーを蓄積させた後、ステントを80℃にて30分間加熱乾燥した。アセトン/シクロヘキサノン70/30(w/w)の混合溶媒中、812μgのエベロリムス/ポリ(フッ化ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロピレン)(Solef21508)D/P1/3.115(w/w)を噴霧することによって、薬物/ポリマーレザバー層を形成した。コーティングをステント上に塗布した後、50℃にて1時間加熱乾燥した。生体有益性トップコートとして機能させるために、この上に4−アミノ−TEMPOで誘導体化されたPEA90μgを塗布した。これは、エタノール/DMAC90/10の混合溶媒中2%固溶体(w/w)から噴霧によって塗布し、50℃にて1時間加熱乾燥した。
【0064】
実施例1〜3において形成されたコーティングについて、ステントをアセトニトリルで抽出し、続いて抽出物をHPLCで分析することによって全薬物含量を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
ステント上のエベロリムスの純度を、HPLC法によって測定した。このHPLC法は、少量の分解ピークを定量するために、定組成法に対してグラジエント法であり、移動時間がさらに長く、注入した薬物濃度がさらに高いという点で、全含量についてのHPLC法とは異なる。表2は、3種類の系のピーク純度の分析結果を示している。
【0067】
【表2】

【0068】
ステントをブタ血清中37℃にて24時間インキュベートすることによって、ブタ血清におけるin−vitro放出速度を測定し、次いでステント上に残存した薬物量を分析した(図1)。1%triton x−100の溶液中37℃でのこれらの系のin vitro放出を図2に示す。これらのデータにより、PEA誘導体レザバー上に上塗りされたPEA誘導体、PEAレザバー上に上塗りされたD−PEA、またはPVDF−HFP薬物レザバー上に上塗りされたD−PEAからなる系は、2つのin−vitroモデルにおいて、エベロリムスの放出を制御できることが実証される。25KGyでの電子線滅菌は、薬物放出速度をわずかに遅延させ、薬物含量が少量しか損失しない結果となる。
【0069】
本発明の詳しい実施形態が示され記載されているが、本発明のより広範の態様において、本発明から逸脱することなく変更および改変がなされ得るということは当業者には明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真意および範囲内にあるような変更および改変のすべてを、本発明の範囲内に包含するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ポリ(エステルアミド)誘導体ポリマーを含むDESコーティングのin vitro放出を示す図である。
【図2】ポリ(エステルアミド)ポリマー(In−Vitro Triton X−100)を含むコーティングからin−vitro放出されたエベロリムスの累積百分率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(エステルアミド)誘導体(D−PEA)を含む層を含む医療デバイス上のコーティング。
【請求項2】
D−PEAが生体有益性部分を含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
生体有益性部分が、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(アルキレンオキシド)、ホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(スチレンスルホネート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、アルコキシメタクリレート、酸化窒素保有体、両親媒性ペプチド、治癒促進性ポリマー、NO−供与体ポリマー、ヒアルロン酸、フィブリン、アルブミン、エラスチン、デキストラン、デキストリン、多糖、ヘパリン、フラーレンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
生体有益性材料および場合によって生体適合性ポリマーをさらに含む、請求項2に記載のコーティング。
【請求項5】
生物活性剤をさらに含む、請求項2に記載のコーティング。
【請求項6】
生物活性剤が、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシンおよび40−O−テトラゾール−ラパマイシン、ABT−578、クロベタゾール、抗体を捕捉する前駆細胞、治癒促進薬、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項4に記載のコーティング。
【請求項7】
D−PEA層が薬物マトリックスの上部にコートされる、請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
薬物マトリックスが、生体適合性で生分解性のポリマーを含む、請求項7に記載のコーティング。
【請求項9】
薬物マトリックスが、生体適合性で非分解性のポリマーを含む、請求項7に記載のコーティング。
【請求項10】
薬物マトリックスがD−PEAを含む、請求項7に記載のコーティング。
【請求項11】
生体有益性材料がPolyActive(商標)である、請求項4に記載のコーティング。
【請求項12】
トップコートとしてコートされるPolyActive(商標)層をさらに含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項13】
生体適合性ポリマーが、ポリ(エステルアミド)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)とグリコール酸とのコポリマー、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(オキサエステル)、ポリ(オキサアミド)、ポリ(エチレンカーボネート)、ポリ(プロピレンカーボネート)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(チロシン誘導カーボネート)、ポリ(チロシン誘導アリーレート)、ポリ(チロシン誘導イミノカーボネート)、これらとポリ(エチレングリコール)とのコポリマーおよびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載のコーティング。
【請求項14】
医療デバイスがステントである、請求項1に記載のコーティング。
【請求項15】
医療デバイスがステントである、請求項7に記載のコーティング。
【請求項16】
医療デバイスが、チャネル、細孔、穿孔および/またはデポーを有する金属ステントである、請求項7に記載のコーティング。
【請求項17】
医療デバイスが、マグネシウム、ステンレス鋼、コバルト−クロム合金またはニチノールを含む材料で形成される金属ステントである、請求項7に記載のコーティング。
【請求項18】
ポリ(エステルアミド)誘導体(D−PEA)を含む材料で形成される医療デバイス。
【請求項19】
D−PEAがデバイスのためのコーティング層に含まれる、請求項18に記載の医療デバイス。
【請求項20】
D−PEAが生体有益性材料から得られる部分を含む、請求項18に記載の医療デバイス。
【請求項21】
生物活性剤をさらに含む、請求項18に記載の医療デバイス。
【請求項22】
ステントである、請求項18に記載の医療デバイス。
【請求項23】
請求項1に記載のコーティングを含む埋込型デバイスを患者に埋込むことを含む、患者における障害を治療する方法であって、前記障害が、アテローム性動脈硬化、血栓症、再狭窄、出血、血管の解離または穿孔、血管の動脈瘤、易損性の斑、慢性完全閉塞、跛行、静脈および人工移植片に対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞ならびにこれらの組合せからなる群から選択される方法。
【請求項24】
請求項18に記載の埋込型デバイスを患者に埋込むことを含む、患者における障害を治療する方法であって、前記障害が、アテローム性動脈硬化、血栓症、再狭窄、出血、血管の解離または穿孔、血管の動脈瘤、易損性の斑、慢性完全閉塞、跛行、静脈および人工移植片に対する吻合部増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞ならびにこれらの組合せからなる群から選択される方法。
【請求項25】
請求項1に記載のコーティングを含むステント。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−521495(P2008−521495A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543469(P2007−543469)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/042541
【国際公開番号】WO2006/058122
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】