説明

生体活性ヒドロゲル

本発明は、ヘパリンと官能化された末端基をもつ星状分枝鎖ポリエチレングリコールとを含むハイブリッド材料としての生体活性ヒドロゲルであって、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化したカルボキシル基とポリエチレングリコールの末端アミノ基との反応により、ヘパリンをアミド結合により共有結合で直接結合させる前記生体活性ヒドロゲルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織を置換える生体材料として、移植片材料として、または広い意味で医療製品において用いることができる生体活性ヒドロゲルに関する。
【0002】
本発明において「生体材料」とは、診断または治療に応用する上で生体と接触する材料を意味する。これらの材料は生体適合性について特別な要件に適合しなければならない。「生体適合性」は、材料、医薬製品または医療システムの使用に対して、生物の臨床的に有意な反応がないことを意味する。
【0003】
この種の生体活性ヒドロゲルは、移植片または組織置換材料として特に有利に利用される。
【背景技術】
【0004】
生体活性ヒドロゲルを作製する様々な手法が、当技術分野では公知である。再生医療で使用するために、例えば血管および神経路の再生を支持するために、または皮膚置換材料として、様々な移植片または組織置換材料が研究されてきた。このために、骨格または担体材料、いわゆるスカフォールドが、生体または合成の主成分に基づいて開発されており、これらは移植後、天然の細胞外マトリックスECMの重要な機能を一時的に果たすことが意図されている。天然の組織中の細胞はこのECM内に存在する。ECMは、様々な構造タンパク質、主にコラーゲン、プロテオグリカン、糖タンパク質およびエラスチンの複雑な超分子ネットワークであり、その構造組織および機能組成は、正常な組織構造を維持するために、かつ組織特異的機能のために必須である。現状の科学レベルによれば、再生プロセスに重要な細胞に対する運搬および支持機能を主に果たしかつ機械的応力に対して保護を与える、いわゆるスカフォールドが、前記再生プロセスに用いられる。例えば、体内で十分長い期間にわたって細胞損傷性がなく分解性である合成または生体主成分による高含水量材料、いわゆるヒドロゲルの使用は、米国特許第6,306,922 A号および米国特許第6,602,975号で公知である。
【0005】
さらに複雑な多細胞プロセスを支持できるように、天然ECM成分の混合物または治療上関連あるシグナル分子の可逆的結合および放出用の材料も開発されてきた。前記機能については、合成成分と多糖系の天然ECM成分との組み合わせも開発され、これらは重要なシグナル分子、例えば成長因子に対する特別なアフィニティを利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,306,922 A号
【特許文献2】米国特許第6,602,975号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術で公知の材料の欠点は、公知のヒドロゲルの複雑な治療上の問題が、全ての点で十分効果的に解決されないことにある。さらに、これまで記載した材料のほとんどは、架橋化学の制限または天然材料だけの使用によって、その物理的特性、特に、その剛性および膨潤に関する機械的特性が狭い範囲に制限されている。
【0008】
本発明により解決すべき課題は、所要の物理的および生化学的特性の漸次的変化を持つ高含水量ゲル様材料、および前記材料を作製する方法を利用可能にすることである。材料は、長期間体内において、毒性の分解産物がなく分解性でなければならないし、また生体適合性でなければならない。さらに、材料は、モジュールとして、すなわち、お互いにほとんど独立して、天然の細胞外マトリックスの全ての重要な機能を果たす可能性を提供しなければならない。
【0009】
これから生じる詳細な課題は次の通りである:
・適用域に応じて、内部成長細胞(ingrowing cell)に対する構造、支持および保護機能を具体的に改善すること、
・細胞接着の制御を可能にすること、
・治療関連シグナル分子の可逆的結合と放出を可能にすること、および
・必要に応じて内部成長細胞による再構築の可能性を創ること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題は、ヘパリンと官能化末端基をもつ星状分枝鎖ポリエチレングリコールとのハイブリッド材料としての生体活性ヒドロゲルであって、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化したヘパリンのカルボキシル基とポリエチレングリコールの末端アミノ基との反応により、ヘパリンをアミド結合により共有結合で直接結合させる、前記生体活性ヒドロゲルを用いて解決される。
【0011】
あるいは、この問題は、ヘパリンと官能化末端基をもつ星状分枝鎖ポリエチレングリコールとのハイブリッド材料としての生体活性ヒドロゲルであって、架橋分子としての短い酵素切断可能なペプチド配列を介してヘパリンをポリエチレングリコールと共有結合で結合させる、前記生体活性ヒドロゲルを用いて解決される。
【0012】
この際、2つの経路が可能である:
第1の経路はPEGの官能化を介して行われ、この場合、酵素切断可能なペプチド配列によるポリエチレングリコールの官能化は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化されたペプチドのC末端のカルボキシル基と、ポリエチレングリコールのアミノ基との反応により起こり、次いで本来のゲル形成が、PEGと結合したペプチドのN末端上のアミノ基と、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化されたヘパリンのカルボキシル基との反応により起こる。
【0013】
第2の経路はヘパリンの官能化を介して行われ、この場合、酵素切断可能なペプチド配列によるヘパリンの官能化は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化されたヘパリンのカルボキシル基と、ペプチドのN末端上のアミノ基との反応により起こり、次いで本来のゲル形成が、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化されたペプチドのC末端上のカルボキシル基とPEGのアミノ基との反応による、ペプチドで官能化されたヘパリンの反応によって起こる。
【0014】
本発明の補助的な実施形態は、本発明によるヒドロゲルのフィルムを提供するステップを含むものであり、このフィルムは、次のステップ:
・液状ゲル材料の規定量を、疎水化した担体表面、特にカバーグラスまたはシリコンウエーハ上に滴下しながら適用するステップ、
・疎水化したガラス担体またはシリコンウエーハの担体表面を覆った後にゲルを形成させるステップ、
・担体表面を洗浄溶液へ移すステップ、および
・ヒドロゲルの膨潤後にフィルムを取り外すステップ
により得ることができる。
【0015】
作製できるフィルムは、好ましい実施形態において、80〜2000μmの厚さを有し、数ミリメートルの厚さをもつフィルムでもこの材料から上記の方法により作製することができる。
【0016】
使用する洗浄溶液は、好ましくはPBSである。
【0017】
本発明から生じるさらなる用途として、本発明によるヒドロゲルから7cm以下の長さおよび0.1〜0.8mmの内径をもつ中空円筒形状の管状成型片を作製することが可能である。
【0018】
管状構造物は、例えば、再構成したセルロースの毛細管形状の管中に未だ液状のヒドロゲルを注入し、次いで保持器を管中に導入し、その後に生体活性ヒドロゲルを形成させ、次いで保持器を取り除くことにより得られる。
【0019】
本発明のさらなる応用は、本発明のヒドロゲルを有する細胞培養支持体であり、ヒドロゲルをMSA交互共重合体の反応性ポリマー薄層によって共有結合でカップリングさせることを特徴とし、ここでゲル形成を、無水物基を含有するポリマーでコーティングされた無機担体の存在のもとで行い、ヒドロゲルを、星状ポリエチレングリコールのアミノ基を介して無機担体と結合させる。
【0020】
本発明による生体活性ヒドロゲルを作製する方法は、次のステップを特徴とする:
a)成分ヘパリン、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、スルホ-N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(s-NHS)および星状ポリエチレングリコール(star-PEG)を別々に溶解させるステップ、次いで
b)EDCとs-NHSを、ヘパリンのカルボキシル基に対する活性化試薬として一緒に混合するステップ、および
c)EDCとs-NHSを加えることによりヘパリンを活性化し、次いで
d)star-PEGを加え、その混合物を均質化するステップ、および
e)次いでゲル形成させるステップ、ならびに
f)ゲル形成の後、仕上がった形成ゲルを洗浄するステップ。
【0021】
本発明の有利な実施形態は、次のステップを含む:
a)成分ヘパリン、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、スルホ-N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(s-NHS)および星状ポリエチレングリコール(star-PEG)を別々に、脱イオン水に4℃にて溶解させるステップ、次いで
b)EDCとs-NHSを、ヘパリンのカルボキシル基に対する活性化試薬として2:1の比で混合するステップ、および
c)EDCとs-NHSを加えた後のヘパリンの活性化を15分間4℃にて行い、次いで
d)star-PEGを加え、その混合物を8℃にて15分間均質化するステップ、および
e)1〜14時間室温にてゲル形成させるステップ、ならびに
f)次いで、仕上がった形成ゲルを、リン酸塩緩衝化塩化ナトリウム溶液で、または酸もしくは塩基性塩溶液中およびリン酸塩緩衝化塩化ナトリウム溶液中で交互に洗浄するステップ。
【0022】
好ましくは、EDCとs-NHSの、star-PEGのアミノ基に対する比は1.75:1であり、そして星状ポリエチレングリコールのヘパリンに対する比は1:1〜6:1である。
【0023】
ヒドロゲルを作製する方法は、ステップf)の後に接着タンパク質を用いてヒドロゲルを改変するステップを補充するのが有利であり、この場合、洗浄したヒドロゲルを、1/15 Mリン酸塩バッファー(pH=5)中のEDC/s-NHS溶液で30分間4℃にて活性化し、その後、その溶液を、0.2mg/ml RGDペプチドを接着タンパク質として含有する100mMホウ酸塩バッファー(pH=8)の溶液で置換し、2時間室温にて固定化させ、その後、改変したヒドロゲルをPBSで再び漱ぐ。
【0024】
RGDペプチドとしては、シクロRGDyKを接着タンパク質として用いるのが有利である。
【0025】
本方法の有利なさらなる発展形態において、ヒドロゲルは成長因子である塩基性繊維芽細胞成長因子b-FGFおよび血管内皮成長因子VEGFを含有するものであって、この場合、ヒドロゲルをb-FGFまたはVEGFの溶液と共にPBS中で1〜5μg/mlの濃度で4〜24時間、室温にてインキュベートし、次いでPBS中で洗浄する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ヘパリンとアミノ末端を官能化した星状分枝鎖ポリエチレングリコールの合成ヒドロゲルの模式図である。
【図2】ヒドロゲルの個々の実施形態のタイプの相関関係として貯蔵弾性率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のアイデアは、ヒドロゲルの所望の特性を、生体活性成分(天然ECM成分ヘパリン)と官能末端基をもつ星状分枝鎖ポリエチレングリコール(star-PEG)からのハイブリッド材料の合成により実現することにある。これらの2つの構成成分が、骨格構造である、適切なスカフォールドを形成する。
【0028】
応用に応じて、これらの2つの主成分、すなわち、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)により直接活性化したヘパリンのカルボキシル基とstar-PEGの末端アミノ基とを、アミド結合により共有結合で結合させる。
【0029】
あるいは、類似のカップリング化学を用いて、star-PEGとヘパリンの間の架橋分子として短い酵素切断可能なペプチド配列を結合させる。この利点は、ペプチド架橋の切断を介して個々の細胞の酵素活性により局所的に分解することができる、共有結合で一緒に接続されたstar-PEGとヘパリンのネットワークの合成である。結果として、部分的再構築および合成マトリックスの細胞分泌材料との置換が可能であり、さらに、細胞がこの材料中に移動し結合して、治療上重要な構造、例えば毛細血管状血管を形成することが可能である。
【0030】
架橋のタイプ(ヘパリンとstar-PEGの間の直接のもの、または切断可能なペプチド配列を介するもののいずれか)に関係なく、スカフォールドの物理的特性を広範囲に変えることができる。材料の細胞接着は、短いペプチド配列でのヘパリンの標的化改変を介して、例えばインテグリンと結合するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列を介して制御される。
【0031】
生体機能成分であるヘパリンは、細胞接着の制御だけでなく、治療上関連のあるシグナル分子、例えば成長分子の結合と放出の制御にも利用される。多数の成長因子、例えばbFGFおよびVEGFに対する強い負電荷ヘパリンの公知の高アフィニティは、多くの再生プロセスにとって重要な、シグナル分子の可逆的および固有の静電気的結合と放出を可能にする。導入および放出はさらにある程度、ヒドロゲル材料のメッシュサイズおよび架橋度により特徴付けられる、ネットワーク構造の影響を受けうる。
【0032】
特別な利点は、全成分がさらに完全に生物分解性であり、かつPEGとヘパリンはヒト治療での使用が、例えば、米国医薬品規制当局である食品医薬品局(Food and Drug Administration(FDA))により認可されていることである。
【0033】
本発明の利点を総括すると次の通りである:
重要な特性、従って、現在利用しうる材料を超える決定的な利点として、本発明によるヒドロゲルは従来技術の欠点、すなわち、ECMの重要な機能の欠如を克服することができる。
【0034】
広く変化する物理的特性(例えば、剛性と水和)を持つ本発明によるヒドロゲルのスカフォールドは、内部成長細胞に対する構造、支持および保護機能を形成する。広範囲の剛性によって、本材料は、最小限の侵襲性条件で注入により、または形態と機能をもつプレハブ部品として移植可能である。物理的特性は、ヒドロゲルのネットワーク内のカップリング点の質と量を介して必要に応じて変えられる。カップリングの質は、使用するカップリング機構によっておよび/または改変された成分を介して概念的に決定されるが、カップリングの量は、その成分と活性化パラメーターの相対的比率により決定される。
【0035】
非特異的タンパク質吸着に対するPEG材料の周知の耐性は、生体分子との望ましくない、無制御の相互作用を減じるが、治療上活性のある細胞および微生物との相互作用は、細胞接着タンパク質(RGDペプチド)を用いる標的化改変により制御し、かつ調節することができる。ネットワーク中のヘパリンの十分な提示により、治療関連シグナル分子の可逆的結合と放出が可能になり、内部成長細胞が必要とする再構築の可能性を、酵素切断可能なペプチド結合による架橋によって実現する。
【0036】
他の実質的な利点はヒドロゲルのモジュール特性である。架橋度による物理的特性の広い変動だけでなく、生体官能化もモジュール方式で可能であり、例えば、RGDペプチドによる細胞接着の制御、直接架橋または酵素切断可能なペプチドによる架橋、および成長因子の導入を、お互いに独立してかつ広い範囲にわたって変えることができる。
【0037】
これらの特性は、生体活性ヒドロゲルが長期間、数週間〜数カ月間使用できることを意味する。
【0038】
特定の用途に応じて、成分の相対的比率を変えることによりおよびプロセスパラメーターを変えることにより、色々な物理的特性を意図的に色々なタイプの組織に対して作り出し、内因性細胞を十分培養して結合させるかまたは構造中に移動させることができる。これは、例えば神経または筋肉細胞に対する要件を考えれば、特に明らかである。この理由で、移植片材料が広範囲にわたって変えることができる特性を有すれば有利である。
【0039】
従来技術と比較して、内部成長細胞による分子構造を再構築する可能性と、シグナル分子、特に成長因子の生体活性成分ヘパリンとの天然の結合の組み合わせは、決定的に重要な進歩的ステップである。本発明によるヒドロゲルにおいて、この利点は、シグナル分子が可逆的に結合しているので、ECMにおける天然の機構と同様に浸潤細胞による適切な再構築の可能性が提供される点で達成される。
【0040】
本発明によるヒドロゲルのとりわけ好ましい応用分野は、再生療法における移植片材料としての使用であり、例えば、中枢および末梢神経系両方の神経路に対して注入可能なゲルを用いる血管の再生を管状構造として支持し、またフィルムを用いるときは一時的角膜置換体として支持する。
【0041】
本発明のさらなる詳細、特徴および利点は、以下の添付図面を参照した例の説明から明らかになるであろう。
【0042】
図1は、ヘパリンとアミノ末端を官能化した星状分枝鎖ポリエチレングリコールの合成ヒドロゲルの模式図である。星状分枝したアミノ末端官能化ポリエチレングリコール1は酵素切断可能なペプチド5を介して、それぞれ、ヘパリン分子2と結合してネットワークを構成する。ヘパリン分子2はさらにRGDペプチド3、すなわちインテグリンと結合するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列を有する。ヘパリン2に付加した様々なシグナル分子4も模式図に示した。
【0043】
生体活性ヒドロゲルを作製する基本的な方法は、次の通り記載することができる:
成分ヘパリン、EDC、s-NHSおよびstar-PEGを別々に氷上で4℃にて脱イオン水に溶解させる。ヘパリンのカルボキシル基に対する活性化試薬の比はEDC対s-NHSが2:1である。溶解後、EDC/s-NHSをヘパリンに加えて、ヘパリンのカルボキシル基を15分間4℃にて活性化させる。次いでstar-PEGを加え、その混合物を8℃にて15分間均質化させる(900回転/分にて、Thermomixer Comfort、Eppendorf、Hamburg、Germany)。次に、1〜14時間室温にてさらなるゲル形成をさせて、次いで複数回(少なくとも5回、1時間)PBS中での洗浄を行う。あるいは、調製したゲルを酸または塩基性塩溶液中およびPBS中で交互に漱ぐ。
【0044】
あるいは、酵素切断可能なペプチドで官能化したstar-PEGまたはヘパリンを用いて架橋する;その技術的手順は前記方法に類似する。
【0045】
ヒドロゲルの特に所要の特性を作製するために、今や各事例において具体的な条件下で前記の基本的手順を改変することができる。
【0046】
(A)ヒドロゲルを、EDC(Sigma-Aldrich、Munich、Germany)/s-NHS(Sigma-Aldrich、Munich、Germany)で活性化したヘパリン(MW 14,000、Calbiochem(Merck)、Darmstadt、Germany)のカルボキシル基とstar-PEG(MW 10,000、Polymer Source、Inc.、Dorval、Canada)のアミノ基との直接反応による基本的方法によって合成する。star-PEGのアミノ基と比較して、EDC/s-NHSはEDC 1.75:1アミノ基の比で使用する。ヘパリンのstar-PEGに対する比は、得られるゲル材料の架橋度、それ故にその物理的特性を決定する。このために、star-PEGのヘパリンに対するモル比は、1:1〜6:1を用いる。タイプ1〜タイプ6という図2のゲルの呼称は、これらのモル比に由来する。比の変化から生じる物理的特性は、図2の表示から明らかである。
【0047】
(B)本発明の他の実施形態によれば、使用するヘパリンが(A)の実施形態と異なる基本的方法によって、ヒドロゲルを作製する。ヘパリン14,000 MWの代わりに、もっと短い4,000 MWの鎖長のヘパリン(Sigma-Aldrich、Munich、Germany)を使用する。
【0048】
(C)本発明のこの実施形態においては、また、使用するヘパリンが(A)の実施形態と異なる基本的方法によって、ヒドロゲルを作製する。未改変のヘパリン14,000 MWの代わりに、酵素切断可能なペプチド配列によって改変したヘパリンを使用する。酵素切断可能なペプチド配列は、一文字コード:GPQG↓IAGQまたはGPQG↓IWGQにより特徴付けられ、固相ペプチド合成により作製される。
【0049】
(D)本発明のこの実施形態においては、さらにまた、使用するヘパリンが(A)の実施形態と異なる基本的方法によって、ヒドロゲルを作製する。未改変のヘパリン14,000 MWの代わりに、接着タンパク質(配列:シクロRGDyK、Peptides International、Louisville、KY、USA)によって改変されたヘパリンを使用する。
【0050】
(E)さらにまた、実施形態(A〜D)とは使用するstar-PEGが異なる基本的方法によって、ヒドロゲルを作製する。この事例では、star-PEG 10,000 MWの代わりに、分子量19,000 MWのstar-PEG(Polymer Source、Inc.、Dorval、Canada)を使用する。
【0051】
この実施形態の変法では、未改変のPEG 10,000 MW/19,000 MWの代わりに、酵素切断可能なペプチド配列で改変したstar-PEGを用いる。酵素切断可能なペプチド配列は、一文字コード:GPQG↓IAGQまたはGPQG↓IWGQにより特徴づけられ、固相ペプチド合成により作製される。
【0052】
(F)他の実施形態によれば、ヒドロゲルを(A、B、CおよびE)に記載の通り作製し、洗浄ステップの後に、次いで接着タンパク質(一般にRGDペプチド、例えばシクロRGDyK)を用いて改変する。このために、洗浄したゲル材料を、1/15 Mリン酸塩バッファー(pH=5)中のEDC/s-NHS溶液を用いて30分間4℃にて活性化する。次に、その溶液を、0.2mg/ml (シクロRGDyK)を含有する100mMホウ酸塩バッファー(pH=8)の溶液で置換し、2時間室温にて固定する。最終ステップとして、材料を再び数回PBSを用いて漱ぐ。
【0053】
(G)実施形態(A〜F)の全ヒドロゲルは、次いで、他の有利な実施形態によって、成長因子(b-FGFまたはVEGF)を導入される。このために、b-FGFまたはVEGF(1〜5μg/ml)と共に溶解したゲル材料を、PBS中で4〜24時間室温にてインキュベートした。次いでこの材料をPBS中で洗浄した。
【0054】
(H)架橋度が低いので、タイプ1、2、3および4のヒドロゲルは、ゲージサイズ27の市販シリンジを用いて注射することができる。
【0055】
(I)剛性の故に、例(A〜G)によるタイプ5および6のヒドロゲルはまた、成型片の作製に好適である。長さ7cm以下で内径0.3〜0.8mmの管状構造物を作製することができる。
【0056】
(J)他の実施形態においては管状構造物を、管と例(A〜G)によるタイプ1〜6のゲル材料とのハイブリッド系の形態で作製する。このために、0.3〜0.8mmの範囲の内径をもつ毛細管形状の管(例えば、再構成セルロースで作ったもの)を、混合済みの未だ液状のゲル材料の注入により満たし、次いで保持器、例えば、0.2〜0.5mmの範囲の外径をもつガラス棒を挿入する。ゲル形成の後、このハイブリッド系を膨潤させ、内部の保持器を取り外す。こうして、内側にヒドロゲルを有する管状担体材料のハイブリッド管を得る。このハイブリッド系の利点は、内側に、全てのゲルタイプ(低い貯蔵弾性率および/または低い剛性をもつゲルタイプでも)を使用できる可能性があることである。
【0057】
(K)ヒドロゲルの他の代わりの用途は、厚さ約80〜2,000μmのフィルム用である。直径15〜25mmは、例(A〜G)のタイプ5または6のゲルから、規定量の液状ゲル材料を疎水化したカバーグラスまたはシリコンウエーハ上へ滴下しながら適用し、次いで再び疎水化したガラス担体/シリコンウエーハでカバーすることにより作製される。ゲル形成の後、ガラス担体をPBSに移すと、膨潤により容易に取り外すことができる。
【0058】
(L)例(A〜G)のタイプ1〜6のゲル材料を、2D細胞培養支持体用の反応性ポリマー(MSA交互共重合体)の薄層によって共有結合でカップリングさせた。このために、無水物基を含有するポリマーをコーティングした無機担体の存在のもとでゲル形成を実施し、従ってゲル材料はstar-PEGのアミノ基を介して無機担体と結合した。
【実施例】
【0059】
開示した実施形態の利点と効果を実験的に実証した。
【0060】
本発明の様々な実施形態によって得た材料は、化学結合の性質によって、広範囲にわたる物理的特性の漸次変化を可能にする。材料の剛性と材料の膨潤の程度を記載する重要なパラメーターとしての貯蔵弾性率は、架橋度に依存し、個々のパラメーターを変えることにより広範囲にわたって変化しうる。図2は、ヒドロゲルの個々の実施形態のタイプの相関関係として貯蔵弾性率を示す。
【0061】
貯蔵弾性率を、PBS中の膨潤ゲルについて、ARES社(ARES LN2、TA Instruments、Eschborn、Germany)の回転レオメーターで振動測定により決定した。使用した幾何的配置はプレート/プレート配置であった(プレート直径25mm、プレート間のギャップは1.2〜1.5mmの範囲であった)。測定は、25℃にて10+2〜10-1 rad×s-1の周波数範囲で行った。変形の振幅は3%にセットした。貯蔵弾性率は、せん断周波数の関数として測定した。100〜101 rad×s-1の間の周波数範囲における貯蔵弾性率の平均値を、少なくとも3回の独立測定値から決定した。
【符号の説明】
【0062】
参照記号のリスト
1 星状ポリエチレングリコール、(PEG)、star-PEG
2 ヘパリン
3 インテグリン-結合アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列
4 シグナル分子
5 酵素切断可能なペプチド配列
明細書中の略語
ECM 細胞外マトリックス
EDC 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
s-NHS スルホ-N-ヒドロキシスルホスクシンイミド
bFGF 塩基性繊維芽細胞成長因子
VEGF 血管内皮成長因子
PBS リン酸塩緩衝化塩化ナトリウム水溶液
PEG ポリエチレングリコール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリンと官能化された末端基をもつ星状分枝鎖ポリエチレングリコールとのハイブリッド材料としての生体活性ヒドロゲルであって、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化したカルボキシル基とポリエチレングリコールの末端アミノ基との反応により、ヘパリンをアミド結合により共有結合で直接結合させる、前記生体活性ヒドロゲル。
【請求項2】
ヘパリンと官能化された末端基をもつ星状分枝鎖ポリエチレングリコールとのハイブリッド材料としての生体活性ヒドロゲルであって、架橋分子としての短い酵素切断可能なペプチド配列を介して、ヘパリンをポリエチレングリコールと共有結合で結合させる、前記生体活性ヒドロゲル。
【請求項3】
酵素切断可能なペプチド配列によるポリエチレングリコールの官能化が1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化されたペプチドのC-末端のカルボキシル基とポリエチレングリコールのアミノ基との反応により起こり、次いでゲルが、PEGに結合したペプチドのN-末端のアミノ基と1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化されたヘパリンのカルボキシル基との反応により形成される、請求項2に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項4】
酵素切断可能なペプチド配列によるヘパリンの官能化が1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化されたヘパリンのカルボキシル基とペプチドのN-末端のアミノ基との反応により起こり、次いでゲルが、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/s-NHS)で活性化されたペプチドのC-末端のカルボキシル基をPEGのアミノ基と反応させることによる、ペプチドで官能化されたヘパリンの反応によって形成される、請求項2に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項5】
インテグリンと結合するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸を短いペプチド配列として用いる、請求項2〜4のいずれか1項に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項6】
シグナル分子を可逆的、静電気的にヘパリンとカップリングさせる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項7】
成長因子をシグナル分子として可逆的、静電気的にヘパリンとカップリングさせる、請求項6に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項8】
bFGFまたはVEGFを成長因子として可逆的、静電気的にヘパリンとカップリングさせる、請求項7に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項9】
4,000〜14,000 MWの鎖長をもつヘパリンを用いる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項10】
10,000〜19,000 MWの分子量をもつstar-PEGを用いる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項11】
ヘパリンとしてGPQG↓IAGQまたはGPQG↓IWGQの形態の酵素切断可能なペプチド配列で改変されたヘパリンを用いる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項12】
ヘパリンとしてシクロRGDyKの配列の接着タンパク質で改変されたヘパリンを用いる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の生体活性ヒドロゲル。
【請求項13】
・規定量の液状ゲル材料を疎水化担体表面上に滴下しながら適用するステップ、
・疎水化カバー表面で担体表面を覆った後にゲル形成させるステップ、
・担体表面を洗浄溶液へ移すステップ、および
・担体表面のヒドロゲルの膨潤後にフィルムを除去するステップ
により得られる、請求項1〜12のいずれか1項に記載のヒドロゲル由来のフィルム。
【請求項14】
ヒドロゲルをMSA交互共重合体の反応性ポリマーの薄層によって共有結合でカップリングさせる請求項1〜12のいずれか1項に記載のヒドロゲルを用いる細胞培養支持体であって、ゲル形成を、無水物基を含有するポリマーでコーティングされた無機担体の存在のもとで行い、ヒドロゲルを、star-PEGのアミノ基を介して無機担体と結合させる、前記細胞培養支持体。
【請求項15】
a)成分ヘパリン、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドEDC、スルホ-N-ヒドロキシスルホスクシンイミドs-NHSおよび星状ポリエチレングリコールstar-PEGを別々に溶解させるステップ、その後、
b)EDCとs-NHSを、ヘパリンのカルボキシル基に対する活性化試薬として一緒に混合するステップ、および
c)ヘパリンを、EDCとs-NHSを加えることにより活性化するステップ、および次いで
d)star-PEGを加えかつその混合物を均質化するステップ、および
e)次いでゲル形成させるステップ、および
f)その後、仕上がった形成ゲルを洗浄するステップ
を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の生体活性ヒドロゲルを作製する方法。
【請求項16】
a)ヘパリン、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドEDC、
スルホ-N-ヒドロキシスルホスクシンイミドs-NHSおよび星状ポリエチレングリコールstar-PEGを別々に、脱イオン水に4℃にて溶解させるステップ、その後、
b)EDCとs-NHSをヘパリンのカルボキシル基に対する活性化試薬として2:1の比で一緒に混合するステップ、および
c)EDCとs-NHSを15分間4℃にて加えることによりヘパリンを活性化するステップ、および次いで
d)star-PEGを加えかつ混合物を8℃にて15分間均質化するステップ、および
e)次いで1〜14時間に室温にてゲル形成させるステップ、および
f)次いで、仕上がった形成ゲルを、リン酸緩衝化塩化ナトリウム溶液でまたは酸もしくは塩基性塩溶液中およびリン酸緩衝化塩化ナトリウム溶液中で交互に洗浄するステップ
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
EDCとs-NHSのstar-PEGのアミノ基に対する比が1.75:1であり、かつstar-PEGのヘパリンに対する比が1:1〜6:1である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
ステップf)の後にヒドロゲルを接着タンパク質シクロRGDyKで改変する請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法であって、洗浄したヒドロゲルを、1/15 Mリン酸塩バッファー中のEDC/s-NHS溶液でpH=5にて30分間4℃にて活性化し、その後、その溶液を、0.2mg/mlシクロRGDyKを含有するpH=8の100mMホウ酸塩バッファーの溶液で置換し、2時間室温にて固定化させ、その後改変されたヒドロゲルをPBSで再び漱ぐ前記方法。
【請求項19】
ヒドロゲルに成長因子b-FGFまたはVEGFを導入する請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法であって、ヒドロゲルをPBS中で1〜5μg/mlの濃度を有するb-FGFまたはVEGFの溶液と4〜24時間、室温にてインキュベートし、次いでPBSで洗浄する前記方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−509913(P2012−509913A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537855(P2011−537855)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066484
【国際公開番号】WO2010/060485
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511128239)ゼタサイエンス ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】