説明

生体物質検出用基板およびそれを用いた生体物質検出装置

【課題】寸法のばらつきが大きい生体物質検出用基板を使用しても、生体物質検出用基板と検出用光学ユニットとの相対位置のばらつきを防ぐことのできる生体物質検出用基板およびそれを用いた生体物質検出装置を提供する。
【解決手段】生体物質を測定流路に移動させて前記生体物質の判別を行う生体物質検出用基板において、前記測定流路は離間部を介して同一円周上に複数個配置されており、前記同一円周上の前記離間部に貫通孔を設け、前記貫通孔を透過する光量が最大となる位置を前記測定流路の中心と定めることで、生体物質検出用基板と検出用光学ユニットとの相対位置のばらつきを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAやタンパク質などの生体物質を検出する生体物質検出用基板およびそれを用いた生体物質検出装置に関し、より詳細には、脱着可能であり且つ測定精度の高い生体物質検出用基板およびそれを用いた生体物質検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAやタンパク質などの生体物質を検出する手法として、蛍光標識を利用する蛍光検出法が採用されている。励起光源や光学フィルタや受光素子等からなる光学ユニットにより、ラジオアイソトープを使わず、安全、安価に生体物質の測定が可能であることから、蛍光検出法は酵素免疫測定、電気泳動、共焦点走査型蛍光顕微鏡法など、様々な生体物質の検出に応用されている。
【0003】
蛍光検出法は、励起光を照射することで生体物質に標識した蛍光標識からの蛍光信号を検出することで生体物質の有無や量を測定する方法である。例えばCy5は波長635nmの励起光に対して、波長670nmの蛍光を発する蛍光標識である。Cy5を標識した生体物質を検出するためには、試料へ635nmの励起光を照射し、試料からの光を670nm付近の光のみ透過する光学フィルタを介して受光素子で検出する。蛍光標識には様々なものがあり、それぞれ蛍光標識の励起波長と蛍光波長に対応した励起光源と光学フィルタを選定することで、様々な蛍光標識を標識した生体物質を検出できる。
【0004】
蛍光検出を行う場合、試料を支持する基板やセルが必要であるが、試料が微量な場合でも測定できるように、基板に微細な流路を形成したものを用いて検出を行う装置が出てきている。この装置では、流路内に蛍光標識を標識した試料と緩衝剤を充填した後、緩衝液に所定の電位勾配をかけて試料を電気泳動させ、泳動中の試料に励起光を照射して蛍光の強度分布を検出することにより、試料の泳動状態を観察することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、従来の生体物質検出用基板は、基板上の流路部分以外を光学的に不透明とし、検出部から一定距離の位置に光学的に透明な位置検出孔を形成している。図18に従来の生体物質検出用基板を示す。ガラス製の生体物質検出用基板200上に試料流路206と泳動流路207とがクロス部208で交差するように配置されている。試料流路206の両端には、それぞれ試料注入部202及び試料排出部203の液溜が設けられており、泳動流路207の両端には、それぞれ負電極部204と正電極部205との液溜が設けられている。
【0006】
まず、負電極部204に緩衝剤を注入し外部ポンプで圧力をかけることで、負電極部204から泳動流路207を通って正電極部205までと、泳動流路207と試料流路206のクロス部208より試料流路206を通って試料注入部202と試料排出部203とへの全ての流路に緩衝剤を充填する。
【0007】
次に、試料注入部202に蛍光標識で修飾された試料を注入した後、試料注入部202と試料排出部203に電圧を印加することによって、試料流路206を通って試料排出部203までの試料流路206に試料を充填する。このとき、泳動流路207上では試料流路206のクロス部のみに試料があるので、このクロス部により試料が定量される。その後、この定量された試料は、負電極部204と正電極部205とに電圧を印加することにより電気泳動を開始する。泳動中の試料に励起光を照射して試料から発せられる蛍光の強度分布を検出することにより、試料の分析を行うことができる。このとき、位置検出孔201を検出して位置検出孔201の位置を求め、そこより一定距離の位置の検出部209にて蛍光信号を検出することで測定精度の向上を図っている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特表2005−064339号公報
【特許文献2】特開2001−305050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の生体物質検出用基板の材料はガラスであり、熱による収縮が少ないため、位置検出孔と泳動流路の位置を一定に保つことが出来る。ところが、生体物質検出用基板の材料をガラスに代えて樹脂にすると、成型前後の熱ストレスのため基板が収縮するため位置検出孔と泳動流路との絶対位置がばらついてしまう。このようなばらつきを持つ生体物質検出用基板を検出用光学ユニットに装着すると、生体物質検出用基板と検出用光学ユニットとの相対位置がばらつくので、検出信号が低下するという課題を有していた。
【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、寸法のばらつきが大きい生体物質検出用基板を使用しても、生体物質検出用基板と検出用光学ユニットとの相対位置のばらつきを防ぐことのできる生体物質検出用基板およびそれを用いた生体物質検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決するために、本発明の生体物質検出用基板は、生体物質を測定流路に移動させて前記生体物質の判別を行う生体物質検出用基板において、前記測定流路は離間部を介して同一円周上に複数個配置されており、前記同一円周上の前記離間部に貫通孔を設けたことを特徴としたものである。
【0011】
さらに、本発明の生体物質検出用基板を用いた生体物質検出装置は、前記生体物質検出用基板が装着されると装着検知信号を演算手段に出力する基板装着検知手段と前記演算手段からの回転指令で前記生体物質検出用基板を回転させる回転手段と、前記生体物質検出用基板の測定流路に励起光を照射し蛍光を検出する光学ユニットと、前記演算手段からの移動指令で前記光学ユニットを初期位置から終了位置まで移動させる光学ユニット移動手段と、前記生体物質検出用基板を介して前記光学ユニットと対向する位置に設けられた光源と、前記光源の出射光量を検出して前記演算手段に出力する貫通孔光量検出手段と、前記貫通孔光量検出手段の検出値をもとに前記光学ユニットの移動位置を決定して前記光学ユニット移動手段に移動指令を出力する演算手段とを設けたことを特徴としたものである。
【0012】
さらに、本発明の生体物質検出用基板を用いた生体物質検出装置は、前記生体物質検出用基板が装着されると装着検知信号を演算手段に出力する基板装着検知手段と前記演算手段からの回転指令で前記生体物質検出用基板を回転させる回転手段と、前記生体物質検出用基板の測定流路に励起光を照射し蛍光を検出する光学ユニットと、前記演算手段からの移動指令で前記光学ユニットを初期位置から終了位置まで移動させる光学ユニット移動手段と、前記生体物質検出用基板を介して前記光学ユニットと対向する位置に設けられた光検知器と、前記光検知器の光量を検出して前記演算手段に出力する貫通孔光量検出手段と、前記貫通孔光量検出手段の検出値をもとに前記光学ユニットの移動位置を決定して前記光学ユニット移動手段に移動指令を出力する演算手段とを設けたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の生体物質検出用基板およびそれを用いた生体物質検出装置によれば、生体物質検出用基板の検査流路の近傍に位置合わせ用の貫通孔を設けることで、基板の収縮などによって流路位置がばらついた場合にでも検出用光学ユニットを検査流路に容易に一致させることができるので、検出信号の低下を招かず高感度で高精度な生体物質検出性能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の生体物質検出用基板およびそれを用いた生体物質検出装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1における生体物質検出用基板を流路形成面から見た図である。
【0015】
本実施の形態1における生体物質検出用基板1の外形は80mm四方の正方形で、独立した流路パターン2が8つ形成されているので同時に8個の検体のDNA判別ができる。各々の流路パターン2と流路位置検出孔42の場所とを特定するために、生体物質検出用基板1の外形の4つの角のうち1つの角の形状を他の3つの角と異ならせるとともに、回転部固定用孔3の傍に位置決め孔4を設けている。
【0016】
本実施の形態1では、生体物質検出用基板の材料はアクリル系で黒色の樹脂を使用し、厚みは2mmとした。また、流路形成面に溝を形成した後、厚さ50μmのアクリル製フィルムをこの流路形成面の上に溶着することで密閉流路を形成した。また、流路位置検出孔42は流路14と同心円上に配置されている。
【0017】
図2は、図1に示す生体物質検出用基板1に形成された流路パターン2の拡大図である。流路パターン2は、複数の貫通孔とこれらを深さ50μm、幅100〜300μmで形成された流路と幾つかの非貫通穴とからなる。試料注入部9、緩衝剤注入部7、試料チャンバー部16、試料保持部20、およびバッファ部21は深さ1.5mmの非貫通穴であり、各試料が注入できるように緩衝剤注入部7と試料注入部9とには、それぞれ緩衝剤注入口6と試料注入口8とが設けられている。また、負電極部13と正電極部12とは、試料注入面から電圧が印加できるように開口している。また、流路14と同心円上に配置されている流路位置検出孔42は、基板を貫通してアクリル製フィルムに達している。
【0018】
図3は、流路位置検出孔42付近の断面図であり、下方が流路形成面である。42は流路位置検出孔で基板40を貫通する孔で、本実施例では孔の直径を0.5mmとした。基板40は黒色などの不透明の材料を用い、流路にふたをするためのフィルム37は透明の材料を用いているため、流路位置検出孔42は光を透過することが出来る。
【0019】
次に、この生体物質検出用基板1を用いて生体物質としてDNA試料のSNPs(一塩基多型)の有無を判別するまでの具体的操作および動作の一例について図2を用いて説明する。緩衝剤としてDNAコンジュゲートをピペッター等により定量を緩衝剤注入口6から緩衝剤注入部7へ分注する。DNAコンジュゲートとは、6〜12塩基長1本鎖DNAの5末端に高分子のリニアポリマーが共有結合したものである。このリニアポリマーを付けたDNAの配列は、正常型のDNA試料に対しては相補であるが変異型のDNA試料に対しては相補ではない配列とすることにより、正常型のDNA試料に対しての結合力が強く、変異型のDNA試料に対しての結合力が弱い特性を持たせてある。また、電気泳動した場合、5末端に結合したリニアポリマーがおもりとなり泳動速度がかなり遅いという特性もある。以下の「DNAコンジュゲート」は電気泳動時の電解質の役目もするpH緩衝剤、およびMgClなどのDNA結合力制御剤を含んだものとしている。
【0020】
検体となるDNA試料をピペッター等により定量を試料注入口8より試料注入部9へ分注する。本来DNAは2本鎖の螺旋構造をしたものであるが、本実施の形態1においては、判別したいSNPs部位を含む約60塩基長の1本鎖DNAとする。抽出方法、DNAの切断、1本鎖化については本発明とは直接関係がないので詳細な説明は省略する。
【0021】
次に、重心5を軸に高速で回転させ、分注されたDNAコンジュゲートとDNA試料は、遠心力により外周方向へと移動する。本実施の形態1では回転数4000rpmで回転させている。
【0022】
まず、緩衝剤注入部7内のDNAコンジュゲートは流路10と流路11を通り正電極部12と負電極部13へ等分され正電極部12へ移動したDNAコンジュゲートはさらに流路14を通り試料定量部23まで移動する。負電極部13へ移動したDNAコンジュゲートも同様に流路14を通り試料定量部23まで移動する。正電極部12と負電極部13内に存在するDNAコンジュゲートの液面高さと試料定量部の液面高さは、重心5を中心とする同一円周上となる。
【0023】
次に、試料注入部9内のDNA試料は流路15を通りチャンバー部16さらには流路17、流路18を通り外周側に位置する試料保持部20まで達する。しかしながら、流路18は試料保持部20の外周側に接続され、かつ試料保持部20には空気抜き用の孔が存在しない。そのため試料保持部20内に残った空気は抜けることはなく加圧された状態となり、回転中のみこのような遠心力と加圧力とが平衡となった状態を維持する。
【0024】
このように、生体物質検出用基板1を一定時間回転させてDNAコンジュゲートとDNA試料の移動が停止した状態とした後、回転を急停止させる。本実施の形態1では、4000rpmより停止までの時間は2秒とした。このとき、試料保持部20内に存在していたDNA試料は遠心力が無くなり、空気の圧力により試料保持部20から流路18へ逆流しようとする。さらに、DNA試料は試料保持部20内の空気が大気圧となるまで流路17、流路19へと移動しようとするが、この時、流路17は流路19にくらべ細く形成されているためDNA試料32は流路17よりも流路19へ多く流れる。つまり、試料保持部20内のDNA試料は空気の膨張により流路18、流路19を通り試料定量部23およびバッファ部21まで達する。特に、試料定量部23では、充填されたDNAコンジュゲート31と接することになる。
【0025】
次に、生体物質検出用基板1を中速にて数秒間もう一度回転させ、緩やかに減速して停止する。流路19に充填されていたDNA試料はチャンバー部16へと流れるが、試料定量部23にはDNA試料32が一定量残存する。
【0026】
次に、電気泳動を行なう。電気泳動は、正電極部12に正電極、負電極部13に負電極を接触させ、数百Vの電圧を印加する。すると、試料定量部23を含む流路14において電界が発生し、試料定量部23に一定量残存したDNA試料は、流路14中を正電極側へ泳動する。
【0027】
流路14中にはDNAコンジュゲートが充填されており、DNA試料はDNAコンジュゲートとの結合を繰り返しながら電気泳動する。この時、上述したようにDNA試料中の正常型DNAはDNAコンジュゲートとの結合力が強いため泳動速度が遅くなり、変異型DNAは結合力が弱いため正常型に比べ泳動速度は速くなる。つまりDNA試料中に正常型、変異型両方が存在した場合は、正常型のDNAと変異型のDNAが分離していくこととなり、SNPsの判別が行なえる。ここで、DNA試料には蛍光物質が標識されており、励起光を照射するとDNA試料の濃度に応じた蛍光を発する。電気泳動流路14中の蛍光の強度分布を測定することで、DNA試料の濃度分布を測定することが出来る。
【0028】
次に、この生体物質検出用基板を用いた生体物質検出装置について説明する。まず、この電気泳動流路14の蛍光検出を行う光学ユニットについて説明する。図4に、生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際の断面図を示す。図4において、光学ユニット60は複数の光学部品より構成され、生体物質検出用基板1へ励起光を照射し、蛍光標識された生体物質からの蛍光の検出を行う。この光学ユニット60の構成について励起光照射側、蛍光検出側の順に説明する。
【0029】
励起光発光素子72として生体物質に標識した蛍光標識Cy5の励起波長域である発振波長635nmの半導体レーザを採用した。励起光発光素子72からの光を励起光集光用レンズ71で略平行光にし、励起フィルタ70を透過させる。励起フィルタ70では励起光発光素子72に含まれる波長成分のうち生体物質に標識した蛍光標識の蛍光波長に相当する波長成分をカットし、励起波長成分のみを透過させる。モニタ用ビームスプリッタ69で、励起光のうち一定の割合で分離して励起光発光素子72制御用のモニタ光を分岐させる。モニタ光集光用レンズ73でモニタ光を集光させ、モニタ光用受光素子74で集光したモニタ光を受光して電気信号に変換する。発光量制御回路75で、検出したモニタ光の電気信号が所定値になるように励起光発光素子72の電流値を制御する。光パワーの設定は、発光量制御回路75に対してコントローラ80より行う。
【0030】
リレーレンズ68で略平行光の励起光を集光状態とし、45度の傾きで配置されたダイクロイックミラー63で反射されて90度方向を変えられる。なお、ダイクロイックミラー63では、励起波長成分を反射し、蛍光波長成分を透過させる波長特性をもつ。対物レンズ62で、集光状態となった励起光を略平行光にして生体物質検出用基板1へ励起光を照射する。このとき、リレーレンズ68による集光点を対物レンズ62の焦点位置とすることにより、対物レンズ出射光は平行光となる。
【0031】
次にDNA試料へ照射された励起光により発生した蛍光を受光素子で検出する動作を説明する。生体物質検出用基板1上のDNA試料より発生した蛍光は、対物レンズ62によって平行光にされ、ダイクロイックミラー63を透過する。蛍光フィルタ64で、蛍光波長成分のみを透過させ、励起光波長成分を遮断する。蛍光集光用レンズ65で蛍光を集光させ、スリット66で生体物質検出用基板1において発生した蛍光以外の迷光成分を遮光する。蛍光用受光素子67で受光した蛍光を電気信号に変換し、光量検出回路76で変換された蛍光の微弱な電気信号を増幅する。このように、生体物質検出用基板1上の生体物質より発生した蛍光は電気信号として検出する。コントローラ80は光量検出回路76の蛍光の電気信号の信号処理を行い、図示していないホストコンピュータへ測定データを転送する。
【0032】
次に、DNAコンジュゲートやDNA試料を充填するために遠心力を発生させる生体物質検出用基板1を回転させる構成について説明する。クランパ50で生体物質検出用基板1を保持し、モータ51でクランパ50を回転させ、保持している生体物質検出用基板1を回転させる。モータ51の回転数は、コントローラ80よりモータ制御回路83に対して設定し、モータ51の回転数の制御を行う。DNAコンジュゲートを充填するときに一定回転数で回転させたり、DNA試料を定量化するために急ブレーキをかけたり、蛍光検出時にゆっくり回転させたり、などの回転制御は全てコントローラ80からモータ制御回路88への設定によって行う。生体物質検出用基板1上の流路のパターン2の位置の特定にはインデックスセンサ84からの信号を用いる。インデックスセンサ84からの信号はクランパ50が1回転すると1個のパルスを発生し、インデックス検出回路85で2値化されコントローラ80へ信号が送られる。ここでは、流路位置検出孔42がちょうど光学ユニット60の真上に来ている状態の時に検出するようにインデックスセンサ84を配置した。
【0033】
次に、電気泳動を行う流路と蛍光検出を行う光学ユニットの位置合わせについて説明する。図6に、生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際の断面図を示す。図6は図5に示す流路位置検出孔42がちょうど光学ユニット60の真上に来ている状態を示している。
【0034】
位置検出用発光素子61は、ここでは蛍光波長成分を含む光を発光するLEDを用い、その光量は位置検出用発光素子ドライブ回路79で電流制御によって設定する。流路位置検出孔42を通った位置検出用発光素子61の光は、対物レンズ62によって平行光にされ、ダイクロイックミラー63と蛍光フィルタ64を透過し、蛍光集光用レンズ65で集光され、スリット66を通り、蛍光用受光素子67で電気信号に変換され、光量検出回路76で増幅されて位置検出信号87となりコントローラ80で信号処理される。ここまでの一連の信号の流れは生体物質の蛍光信号の検出と同様である。この蛍光信号の検出と同様とするために位置検出用発光素子ドライブ回路79で流路位置検出孔42を通った位置検出用発光素子61の光が、ほぼ生体物質の蛍光と同等な光量となるように設定している。
【0035】
光学ユニット60の移動は、コントローラ80からの送り制御信号90により生体物質検出用基板1の中心あるいは外周方向へ、送りモータ78と送りモータドライブ回路77とを用いて行う。まず、生体物質検出用基板1が装着されたことを図示していない基板装着検出手段からの基板装着検知信号86によってコントローラ80は認識する。基板装着検出手段には、例えば、生体物質検出用基板1に反射ラベルを貼りその反射光を反射型フォトセンサ検出する方法、生体物質検出用基板1は不透明なのでフォトインタラプタで検出する方法、或いは、モータ51を一定トルクで回転させて生体物質検出用基板1の有無による回転加速度の違いを検出する方法等、既存の方法を用いればよいので詳細な説明は省略する。
【0036】
本実施例では、基板装着検知信号86を認識するとコントローラ80は光学ユニット60を初期位置である最内周に移動させる。次に、モータ51により生体物質検出用基板1を1回転させて位置検出信号87を得る。その後、コントローラ80は光学ユニット60を本実施例での終了位置である最外周方向に向けて一定距離だけ移動させ、モータ51により生体物質検出用基板1を1回転させて位置検出信号87を得る。この一定距離は、光学ユニット60の位置調整精度で決めれば良い。例えば、±0.1mmの精度で調整するならば0.1mmステップで送ればよい。以上の様に、光学ユニット60を初期位置より終了位置の最外周まで順次移動させながら位置検出信号87を得ていく。なお、この間、光学ユニット60の移動には関係なくモータ51は連続回転したままとし位置検出信号87を生体物質検出用基板1の1回転分だけ取得してもよい。また、光学ユニット60の初期位置と終了位置は、本実施例の通りにする必要は無く、必要に応じて適宜、選択すれば良い。
【0037】
図5に示すような流路位置検出孔42とした場合に、生体物質検出用基板1を回転スキャンさせて流路位置検出孔42を通過した際に位置検出信号87として図8に示すような位置検出信号波形を得ることが出来る。101の波形は流路位置検出孔42の中心と光学ユニット60の光軸との位置ズレが無い場合の位置検出信号波形で、102の波形は位置ズレが有る場合の位置検出信号波形である。位置ズレが有る位置検出信号波形102はピーク値が低く、位置ズレの無い位置検出信号波形101が最もピーク値が高くなる。つまり、位置検出信号波形のピークが最も大きくなるようにコントローラ80で送りモータドライブ回路77を制御して流路位置検出孔42の中心と光学ユニット60の光軸中心を合わせる。流路位置検出孔42が電気泳動を行う流路14の中心位置の同心円周上になるように生体物質検出用基板1を形成しているため、生体物質検出用基板1が全体として熱収縮したとしても、同心円周上のまま相対位置関係は変化しない。このように流路位置検出孔42の中心と光学ユニット60の光軸との位置を一致させることにより、電気泳動を行う流路14の中心位置に光学ユニット60を位置合わせすることが出来る。
【0038】
図7にコントローラ80内部の光学ユニット位置制御部のブロック図を示す。図7を用いてコントローラ80の位置合わせ機能について説明する。基板装着検知信号86が入力されると、送り位置設定部91に初期位置が設定され、送り信号生成部92によって送り制御信号90が生成されて図7では図示していない光学ユニット60を初期位置の最内周へ移動させる。位置ずれ量演算部93より回転制御部94へ一回転させる回転指令が出され、回転制御部94は一回転検出信号88をモニタしながら回転制御信号89を生成して図7では図示していないモータ51を回転させて生体物質検出用基板1を回転させる。その間、位置ずれ量演算部93では位置検出信号87をモニタしてその最大値を求める。送り位置と位置ずれ量記憶部95では、位置ずれ量演算部93からの最大値と位置設定部91からの送り位置とを関連付けて記憶する。一回転検出信号88により生体物質検出用基板1の一回転毎に位置設定部91の値を順次外周位置へ向けて更新し、送り信号生成部92によって送り制御信号90が生成されて光学ユニット60を順次外周方向へ移動させる。送り位置と位置ずれ量記憶部95は位置設定部91からの送り位置が最外周に至ると記憶した位置ずれ信号のうち最も大きい値となる送り位置を位置設定部91へ設定し、位置合わせ動作を完了する。
【0039】
ここで、流路位置検出孔42の位置精度と孔径とについて、さらに詳しく説明する。光学ユニット60が位置ズレを生じると生体物質からの信号レベルが低下する。本実施の形態1において、この信号レベルの低下許容値を20%低下となる信号レベル80%とし、このとき、位置ズレ許容値は±0.3mmであった。位置ズレ要因として、流路位置検出孔42の流路中心に対する位置精度、位置制御残差、流路14の偏芯量があり、それぞれを±0.1mm以内に抑えることで最悪でも位置ズレ許容値±0.3mm以内に収めることが出来る。そこで流路位置検出孔42の流路中心に対する位置精度は±0.1mm以内とした。流路位置検出孔42も流路14も金型で成型するので金型精度に依存し、位置精度は±0.1mm以内は十分実現可能な値である。また、流路14の偏芯も金型精度に依存し、±0.1mm以内は十分実現可能である。次に孔径については、孔径が小さいほど位置ズレに対する位置検出信号波形ピークの低下量が大きいので、孔径が小さいほうが望ましい。しかし、基板40の厚みが2mmもあるため、孔径0.2mm以下の小さい孔とするのは成型上難しい。逆に孔径を大きくすると位置検出信号波形ピークの低下量が小さくなるため位置ズレ検出感度が悪くなり、位置制御残差が大きくなる問題がある。孔径が0.5mmの場合に位置ズレ量±0.1mmの時の位置検出信号波形ピークの低下量が4%であった。4%の低下があれば十分制御可能であり、位置制御残差±0.1mm以内を実現することが出来る。位置制御残差±0.1mm以内を実現するためには位置検出信号波形ピークの低下量を少なくとも1%は確保する必要があり、孔径は4倍の2mmまでが限界である。
【0040】
次に本実施例での位置合わせを行うシーケンスを説明する。位置合わせ動作は試料の充填動作に先立って行い、コントローラ80からの回転数設定値を60rpmとし、モータ51と生体物質検出用基板1を60rpmで回転させながら位置検出信号波形をコントローラ80にて取得する。流路14の半径は35mmとなるように設計されているが、基板成型条件や熱を加えてフィルムを貼る時の熱収縮によって、±1mmばらつく。そこで、光学ユニット60の可動範囲は余裕を見て±2mmとし33〜37mmの範囲で移動させることができるようになっている。
【0041】
図9に、図5に示すような流路位置検出孔形状の場合の光学ユニット位置合わせフローチャートを示す。まず、最初に光学ユニット60を最内周へ移動させる。次に、光量検出回路76の信号をモニタしてその最大値を計測する。その間、生体物質検出用基板1の一回転を、時間計測、もしくはインデックス検出回路85の信号を用いて検出し、一回転経過すると、その時の光学ユニット60の位置と光量検出回路76の信号のピーク値をコントローラ80内のメモリに保存する。その後、光学ユニット60移動の最小ステップである0.1mmだけ外周に移動させ、光量検出回路76の信号をモニタしてそのピーク値の計測を繰り返す。光学ユニット60が最外周まで移動してピーク値の計測が完了すると、保存したメモリ中のピーク値データより、最大となる光学ユニット60の位置を求めて光学ユニット60をその位置まで移動させて調整完了となる。ここで、光学ユニット60の初期位置を最内周としたが、最外周から内周へ向けて調整を行っても良い。
【0042】
また、この位置合わせシーケンスの応用として粗調整と精調整との2段階で行うこともできる。まず粗調整として、33mmの位置から0.5mmステップで9箇所の位置検出信号波形を取得し、それぞれのピーク値を求める。次に精調整は、粗調整でのピーク値の高い順に3ポイントを抽出し、その3点の間を0.1mmステップで9ポイント位置検出信号波形を取得し、それぞれのピーク値を求める。最もピーク値の高い位置を最終調整位置とし、その位置に光学ユニット60を移動させる。例えば、粗調整でピーク値の高い順に34.5mm、35.0mm、34.0mmの3箇所が抽出されたとすると、精調整では34.1mm、34.2mm、と0.1mmステップ毎に34.9mmの位置の位置検出信号波形を取得し、最もピーク値の高い位置が34.7mmとすると、34.7mmの位置へ光学ユニット60を位置合わせする。このように粗調整、精調整とも位置検出信号波形の取得数が固定であるため、どんな生体物質検出用基板1であっても調整完了までの時間を一定とすることが出来る。
【0043】
図10は図5に示す流路14の円弧部分40を電気泳動中にDNA試料をスキャンしたグラフである。DNAの検出は、蛍光標識Cy5を修飾したDNAを635nmの光で励起し、670nm付近の光検出により行なった。横軸が円弧部分41の位置を表しDNAは左から右へ泳動する。つまり左側が試料定量部23で右側が正電極部12側である。縦軸は蛍光強度で、上からt1、t2、t3、t4と経時変化した波形103、104、105、106を表す。徐々に2つの山が分離していく様子がわかる。グラフ右側の山の方が、より泳動速度が速いので変異型のDNA試料の分布107、左側が遅く泳動しているので正常型のDNA試料の分布108を示している。
【0044】
以上のように、本実施の形態1によれば、生体物質検出用基板1において電気泳動を行う流路14の中心位置の同心円周上に流路位置検出孔42を形成し、生体物質検出用基板1に対して光学ユニット60と相対する位置に位置検出用発光素子61を設置することによって、光学ユニット60を流路14の中心位置に位置合わせすることが出来る。これによって、細胞や血液等から特定のDNAを取り出したDNA試料を本生体物質検出用基板において測定する際に、高感度で極めて精度の良い検出結果を得ることが可能となる。
【0045】
なお、ここでは流路位置検出孔42は断面形状が円としているが、三角形でも四角形でも多角形でもかまわない。孔の形状は色々なバリエーションが考えられる。また、孔の数は1個で記載しているが、各流路毎に配置してもかまわないし、2流路に1つや、4流路に2つなど、複数でもかまわない。流路位置検出孔42が複数ある場合には、位置検出信号波形は複数得られるが、それぞれの流路位置検出孔に対する位置検出信号波形のピークレベルの平均値を位置検出信号とし、その値が最も高くなるように調整すればよい。蛍光信号の測定を行うパターン2の位置が特定されている場合は測定を行うパターン2に最も近い流路位置検出孔からの信号を選択して採用しても良い。
【0046】
(実施の形態2)
本発明の他の実施の形態として、図11に示すような流路位置検出孔43の例を示す。流路位置検出孔の構成以外は、実施の形態1と同一であるが、流路位置検出孔が異なるので、位置検出信号波形が異なる。
【0047】
例えば、図11に示すような流路位置検出孔43とした場合には、図12に示すような位置検出信号波形を得ることが出来る。109の波形は位置ズレが無い場合の位置検出信号波形で、110の波形は位置ズレが有る場合の位置検出信号波形である。位置ズレが有る位置検出信号波形110はフラットな領域のレベルが低く、フラットの部分以外の領域でピークが有る。位置ズレの無い位置検出信号波形109ではフラットな領域で最もレベルが高くなる。つまり、位置検出信号波形のフラットな領域のレベルが高く、広くなるようにコントローラ80でモータドライブ回路77を制御することによって、流路位置検出孔43の中心と光学ユニット60の光軸との位置ズレが無い状態にする。前述の流路位置検出孔42の場合は一つの位置検出信号波形だけでは位置ズレ量がわからないのに対して、この流路位置検出孔43とした場合、位置検出信号波形のフラットな領域のレベルとフラットの部分以外の領域でピークのレベルとピークの位置より、フラットとピークのレベル差が大きく、ピークがフラットに対して離れているほど位置ズレが大きいことがわかる。
【0048】
図7に示すコントローラ80の位置合わせ機能のうち、位置ずれ量演算部93の演算動作が異なり、他は実施の形態1と同様である。ここでの位置ずれ量演算部93は、生体物質検出用基板1が一回転している間、位置検出信号87をモニタし、連続してほぼ同じ値となる部分を検出し、そのうちの最大値を求める。他のブロックは実施の形態1と同様であり、最終的に送り位置と位置ずれ量記憶部95に記憶した位置ずれ信号のうち最も大きい値となる送り位置を位置設定部91へ設定し、位置合わせ動作を完了する。
【0049】
図13に、図11に示すような流路位置検出孔形状の場合の光学ユニット位置合わせフローチャートを示す。これらの演算処理はコントローラ80にて行う。流路位置検出孔43のうち、先に検出する前側の流路位置検出孔をインデックス検出回路85の信号を用いて検出し、光量検出回路76の信号レベルを信号sとして取得する。生体物質検出用基板1は一定回転で回転しているため、先に検出する前側の流路位置検出孔からあとに検出する後側の流路位置検出孔までの経過時間も一定である。そこで、流路位置検出孔43の中央部に来るまで待ってから光量検出回路76の信号レベルを信号tとして取得する。さらに、後側の流路位置検出孔に来るまで待ってから光量検出回路76の信号レベルを信号uとして取得する。前述したフラットな領域の信号レベルが信号tであり、信号tが低い場合には粗調整として光学ユニット60の送り量を0.5mmとし、信号tが高い場合には精調整として光学ユニット60の送り量を0.1mmとする。信号sと信号tとの差xを求め、その符号により光学ユニット60がずれている方向がわかるので、光学ユニット60の送り方向を内周方向か外周方向か決定する。これら送り量と送り方向とを用いて送りモータドライブ回路77により送りモータ78を動かして光学ユニット60の位置調整を行う。このとき、信号sと信号tが略同レベルとなり、差xが小さくなった時点で調整完了とする。このようにして、位置ズレが大きい場合は送りモータ78の送り量を大きくして迅速に位置ズレを修正し、位置ズレが小さい場合は送りモータ78の送り量を小さくして精密に位置ズレを修正することができる。
【0050】
(実施の形態3)
本発明の他の実施の形態として、2つの流路位置検出孔を用いて図14に示すような流路位置検出孔44とする例を示す。流路位置検出孔の構成以外は、実施の形態1と同一であるが、流路位置検出孔が異なるので、位置検出信号波形が異なる。
【0051】
図14に示すような流路位置検出孔44とした場合には、図15に示すような位置検出信号波形を得ることが出来る。111の波形は位置ズレが無い場合の位置検出信号波形で、112の波形は位置ズレが有る場合の位置検出信号波形である。位置ズレが有る位置検出信号波形112は2本のピーク値がアンバランスになっており、位置ズレの無い位置検出信号波形111では2本のピーク値が揃っている。つまり、位置検出信号波形の2本のピーク値を比較して等しくなるようにコントローラ80でモータドライブ回路77を制御することによって、流路位置検出孔44の中心と光学ユニット60の光軸との位置ズレが無い状態にする。この流路位置検出孔44とした場合、位置検出信号波形の2本のピーク値より、ピーク値の差が大きいほど位置ズレが大きいことがわかる。
【0052】
図7に示すコントローラ80の位置合わせ機能のうち、位置ずれ量演算部93の演算動作と送り位置と位置ずれ量記憶部95からの抽出する送り位置が異なり、他は実施の形態1と同様である。ここでの位置ずれ量演算部93は、生体物質検出用基板1が一回転している間、位置検出信号87をモニタし、増加して減少するピークとなる部分を検出し、そのうちの最大値と次に大きい値とを求め、その差を演算する。他のブロックは実施の形態1と同様であり、最終的に送り位置と位置ずれ量記憶部95に記憶した位置ずれ信号のうち最も小さい値となる送り位置を位置設定部91へ設定し、位置合わせ動作を完了する。
【0053】
図16に、図14に示すような流路位置検出孔形状の場合の光学ユニット位置合わせフローチャートを示す。これらの演算処理はコントローラ80にて行う。
【0054】
流路位置検出孔44のうち、先に検出する前側の流路位置検出孔をインデックス検出回路85の信号を用いて検出し、光量検出回路76の信号レベルを信号vとして取得する。生体物質検出用基板1は一定回転で回転しているため、先に検出する前側の流路位置検出孔からあとに検出する後側の流路位置検出孔までの経過時間も一定である。そこで、後側の流路位置検出孔に来るまで待ってから光量検出回路76の信号レベルを信号wとして取得する。信号vと信号wとの差yを求め、その差yの絶対値が大きい場合は粗調整として光学ユニット60の送り量を0.5mmとし、その差yの絶対値が小さい場合には精調整として光学ユニット60の送り量を0.1mmとする。また、その符号により光学ユニット60がずれている方向がわかるので、光学ユニット60の送り方向を内周方向か外周方向か決定する。これら送り量と送り方向とを用いて送りモータドライブ回路77により送りモータ78を動かして光学ユニット60の位置調整を行う。このとき、信号vと信号wが略同レベルとなり、差yが小さくなった時点で調整完了とする。このようにして、位置ズレが大きい場合は送りモータ78の送り量を大きくして迅速に位置ズレを修正し、位置ズレが小さい場合は送りモータ78の送り量を小さくして精密に位置ズレを修正することができる。
【0055】
(実施の形態4)
図17は、本発明の実施の形態4の生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際の断面図を示す。図17では図5に示す流路位置検出孔42がちょうど光学ユニット60の真上に来ている状態を示している。図17において、実施の形態1の構成と異なるところは、位置検出用発光素子61の代わりに位置検出用受光素子81、位置検出用発光素子ドライブ回路79の代わりに位置検出回路82を設けた点である。実施の形態1と同様な所は説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0056】
対物レンズ62より照射された励起光の一部は流路位置検出孔42を通過して位置検出用受光素子81し、受光した励起光量を電気信号に変換する。位置検出用受光素子81からの電気信号を位置検出回路82で増幅されて位置検出信号87となりコントローラ80で位置情報の信号処理を行う。
【0057】
ここで、実施の形態1と同様に、図5に示すような流路位置検出孔42とした場合に、生体物質検出用基板1を回転スキャンさせて流路位置検出孔42を通過した際には図8に示すような位置検出信号波形を得ることが出来る。位置検出信号波形、流路位置検出孔42の位置精度、孔径、コントローラ80の位置合わせ機能、調整のシーケンス、生体物質のスキャンについても実施の形態1と同様である。
【0058】
ただし、蛍光は数十pW〜数百nW程度の微弱光であるのに対して励起光は500μW程度と桁違いに大きいため位置検出回路82のゲインを低くでき、それに伴って帯域を広くすることが出来る。このため、生体物質検出用基板1を高速に回転させて高速な位置検出信号波形を取得することが出来るので、光学ユニット60の位置合わせを高速に行い、早く完了させることが出来る。例えば、実施の形態1での位置合わせ動作時にはモータ51を60rpmにて回転させていたが、その10倍の600rpmで回転させても十分に位置検出信号波形を取得することができ、1/10の時間で位置合わせを完了させることができる。
【0059】
以上のように、本実施の形態4によれば、生体物質検出用基板1において電気泳動を行う流路14の中心位置の同心円周上に流路位置検出孔42を形成し、生体物質検出用基板1に対して光学ユニット60と相対する位置に位置検出用受光素子81を設置することによって、光学ユニット60を流路14の中心位置に位置合わせすることが出来る。これによって、細胞や血液等から特定のDNAを取り出したDNA試料を本生体物質検出用基板において測定する際に、高感度で極めて精度の良い検出結果を得ることが可能となる。
【0060】
なお、ここでは流路位置検出孔42は断面形状が円としているが、三角形でも四角形でも多角形でもかまわない。実施の形態1と同様に孔の形状は色々なバリエーションが考えられる。また、孔の数は1個で記載しているが、各流路毎に配置してもかまわないし、2流路に1つや、4流路に2つなど、複数でもかまわない。また、実施の形態2、3に記載した流路位置検出孔43、44のような場合にでも同様な制御方法にて位置合わせができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明にかかる生体物質検出用基板およびそれを用いた生体物質検出装置は、基板上に位置検出孔を形成し光学ユニットと対向して発光素子または受光素子を設けて位置合わせを行うことによって高感度で高精度な生体物質検出性能を有し、光学的に信号検出を行う装置において検出する部位に位置ばらつきがあるために、その補正が必要な用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板のパターン形成面を示す図
【図2】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板に形成されるパターンを示す図
【図3】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板の流路位置検出孔部の断面図
【図4】本発明の実施の形態1における生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際の断面図
【図5】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板の流路位置検出孔とDNAスキャンを行なう部分を示した図
【図6】本発明の実施の形態1における生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際、流路位置検出孔がちょうど光学ユニットの真上に来ている状態を示した断面図
【図7】本発明の実施の形態1におけるコントローラ80内部の光学ユニット位置制御部の構成を示す図
【図8】本発明の実施の形態1における図5に示すような流路位置検出孔形状の場合の位置検出信号波形を示すグラフ
【図9】本発明の実施の形態1における図5に示すような流路位置検出孔形状の場合の光学ユニット位置合わせフローチャート
【図10】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板に形成された試料定量部にDNA試料が充填されて、該DNA試料が第1の流路に充填された分離用DNAコンジュゲート中を移動していく様子を示す図
【図11】本発明の実施の形態2における生体物質検出用基板の流路位置検出孔が流路中心線に対して点対称な場合を示した図
【図12】本発明の実施の形態2における図11に示すような流路位置検出孔形状の場合の位置検出信号波形を示すグラフ
【図13】本発明の実施の形態2における図11に示すような流路位置検出孔形状の場合の光学ユニット位置合わせフローチャート
【図14】本発明の実施の形態3における生体物質検出用基板の流路位置検出孔が流路中心線に対して点対称な位置に2つある場合を示した図
【図15】本発明の実施の形態3における図14に示すような流路位置検出孔形状の場合の位置検出信号波形を示すグラフ
【図16】本発明の実施の形態3における図14に示すような流路位置検出孔形状の場合の光学ユニット位置合わせフローチャート
【図17】本発明の実施の形態4における生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際、流路位置検出孔がちょうど光学ユニットの真上に来ている状態を示した断面図
【図18】従来の生体物質検出用基板の図
【符号の説明】
【0063】
1 生体物質検出用基板
2 流路パターン
3 回転部固定用孔
4 位置決め孔
5 プレート重心
6 緩衝剤注入口
7 緩衝剤注入部
8 試料注入口
9 試料注入部
10 第1の流路
11 第2の流路
12 正電極部
13 負電極部
14 第3の流路
15 流路
16 チャンバー部
17 流路
18 流路
19 流路
20 試料保持部
21 バッファ部
22 流路
23 試料定量部
37 フィルム
40 基板
41 円弧部分
42 流路位置検出孔
43 流路位置検出孔
44 流路位置検出孔
50 クランパ
51 モータ
60 光学ユニット
61 位置検出用発光素子
62 対物レンズ
63 ダイクロイックミラー
64 蛍光フィルタ
65 蛍光集光用レンズ
66 スリット
67 蛍光用受光素子
68 リレーレンズ
69 モニタ用ビームスプリッタ
70 励起フィルタ
71 励起光集光用レンズ
72 励起光発光素子
73 モニタ光集光用レンズ
74 モニタ光用受光素子
75 発光量制御回路
76 光量検出回路
77 送りモータドライブ回路
78 送りモータ
79 位置検出用発光素子ドライブ回路
80 コントローラ
81 位置検出用受光素子
82 位置検出回路
83 モータ制御回路
84 インデックスセンサ
85 インデックス検出回路
86 基板装着検知信号
87 位置検出信号
88 一回転検出信号
89 回転制御信号
90 送り制御信号
91 送り位置設定部
92 送り信号生成部
93 位置ずれ量演算部
94 回転制御部
95 送り位置と位置ずれ量記憶部
101 位置ズレが無い場合の位置検出信号波形
102 位置ズレが有る場合の位置検出信号波形
103 t1経過後の蛍光信号波形
104 t2経過後の蛍光信号波形
105 t3経過後の蛍光信号波形
106 t4経過後の蛍光信号波形
107 変異型DNAの分布
108 正常型DNAの分布
109 位置ズレが無い場合の位置検出信号波形
110 位置ズレが有る場合の位置検出信号波形
111 位置ズレが無い場合の位置検出信号波形
112 位置ズレが有る場合の位置検出信号波形
200 生体物質検出用基板
201 位置検出孔
202 試料注入部
203 試料排出部
204 負電極部
205 正電極部
206 試料流路
207 泳動流路
208 クロス部
209 検出部
A 泳動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質を測定流路に移動させて前記生体物質の判別を行う生体物質検出用基板において、
前記測定流路は離間部を介して同一円周上に複数個配置されており、
前記同一円周上の前記離間部に貫通孔を設けたことを特徴とする生体物質検出用基板。
【請求項2】
前記貫通孔が互いに略平行な第1の孔と第2の孔と前記第1と第2の孔の端部を接続する第3の孔から成り、前記第3の孔の略中心を前記同一円周上に配置した請求項1に記載の生体物質検出用基板。
【請求項3】
生体物質を測定流路に移動させて前記生体物質の判別を行う生体物質検出用基板において、
前記測定流路は離間部を介して同一円周上に複数個配置されており、
前記同一円周上の前記離間部に互いに略平行な第1の貫通孔と第2の貫通孔とを互いに重なるように設け、前記重なる部分の略中心を前記同一円周上に配置した生体物質検出用基板。
【請求項4】
請求項1から3に記載の生体物質検出用基板と、
生体物質検出装置に前記生体物質検出用基板が装着されると装着検知信号を演算手段に出力する基板装着検知手段と
前記演算手段からの回転指令で前記生体物質検出用基板を回転させる回転手段と、
前記生体物質検出用基板の測定流路に励起光を照射し蛍光を検出する光学ユニットと、
前記演算手段からの移動指令で前記光学ユニットを初期位置から終了位置まで移動させる光学ユニット移動手段と、
前記生体物質検出用基板を介して前記光学ユニットと対向する位置に設けられた光源と、
前記光源の出射光量を検出して前記演算手段に出力する貫通孔光量検出手段と、
前記貫通孔光量検出手段の検出値をもとに前記光学ユニットの移動位置を決定して前記光学ユニット移動手段に移動指令を出力する演算手段とを設けた生体物質検出装置。
【請求項5】
請求項1から3に記載の生体物質検出用基板と、
生体物質検出装置に前記生体物質検出用基板が装着されると装着検知信号を演算手段に出力する基板装着検知手段と
前記演算手段からの回転指令で前記生体物質検出用基板を回転させる回転手段と、
前記生体物質検出用基板の測定流路に励起光を照射し蛍光を検出する光学ユニットと、
前記演算手段からの移動指令で前記光学ユニットを初期位置から終了位置まで移動させる光学ユニット移動手段と、
前記生体物質検出用基板を介して前記光学ユニットと対向する位置に設けられた光検知器と、
前記光検知器の光量を検出して前記演算手段に出力する貫通孔光量検出手段と、
前記貫通孔光量検出手段の検出値をもとに前記光学ユニットの移動位置を決定して前記光学ユニット移動手段に移動指令を出力する演算手段とを設けた生体物質検出装置。
【請求項6】
前記演算手段は、
前記装着検知手段からの検知信号が入力されると前記光学ユニットを初期位置に移動する移動指令を前記光学ユニット移動手段に出力した後に順次前記初期位置から前記終了位置まで予め定めた移動位置に移動させる移動指令を出力する光学ユニット移動指示手段と、
その移動距離に応じた貫通孔光量検出手段からの出力信号の最大値を第1の情報とする貫通光最大値検出手段と、
前記第1の情報と前記光学ユニットの移動位置である第2の情報とを一組にして格納する補正位置記憶手段と、
前記補正位置記憶手段に格納された組における第1の情報が最大となる組の第2の情報を前記光学ユニットの移動位置とする光学ユニット補正指示部を持ち、
前記第2の情報を前記光学ユニット移動手段に出力する請求項4及び5に記載の生体物質検出装置。
【請求項7】
前記貫通光最大値検出手段は、前記回転手段に一回転させる回転指令を行い、回転時に所定の時間間隔で前記貫通孔光量検出手段からの出力信号を複数回計測し、その複数個の出力信号のうちの最大の値を第1の情報とする請求項6に記載の生体物質検出装置。
【請求項8】
請求項2に記載の生体物質検出用基板を用いる場合には、
前記貫通光最大値検出手段は、前記回転手段に一回転させる回転指令を行い、回転時に所定の時間間隔で前記貫通孔光量検出手段からの出力信号を複数回計測し、その複数個の出力信号のうちの連続して同じ値があれば、その値の内の最大値を第1の情報とする請求項6に記載の生体物質検出装置。
【請求項9】
請求項3に記載の生体物質検出用基板を用いる場合には、
前記貫通光最大値検出手段は、前記回転手段に一回転させる回転指令を行い、回転時に所定の時間間隔で前記貫通孔光量検出手段からの出力信号を複数回計測し、その複数個の出力信号のうちの最大の値である第1の値と前記最大の値の次に大きい第2の値を抽出し、第1の値と第2の値との差分値を第1の情報とする請求項6に記載の生体物質検出装置。
【請求項10】
請求項3に記載の生体物質検出用基板を用いる場合には、
前記光学ユニット補正指示部は、前記補正位置記憶手段に格納された組における第1の情報が最小となる組の第2の情報を前記光学ユニットの移動位置とする請求項6に記載の生体物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−25272(P2009−25272A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191719(P2007−191719)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】