説明

生体組織の弾性率計測方法及び装置

本発明は、次のステップを伴う生体組織の弾性率測定法による検査に係る。生体組織(31)内で少なくとも一つの機械的な波動を励起し、この波動は主としてあるいは専らその伝達方向に直交して振動し、生体組織(31)は少なくとも第1の時点で第1の弾性特性を示し、少なくとも第2の時点で第1の弾性特性と異なる第2の弾性特性を示す。第1の時点で第1の弾性特性値として、当該波動振動の第1の偏向または変更レートが測定され、第2の時点で第2の弾性特性値として、波動振動の第2の偏向または変更レート測定される。更に、本発明は、生体組織の弾性率測定装置にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体組織の弾性率測定方法に関し、請求項1のメルクマールによる測定方法と、請求項25のメルクマールによる測定装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
生体器官の健康状態を評価するうえで、その弾力性(正確には、剪断弾性あるいは剛性率、剪断強度等など)の重要性は、数世紀に亘って既に周知のことである。例えば乳がん予防のための胸部触診は、画像処理を用いた現代の方法に頼るよりも、多くの場合に、より感度が高いことがある。同様に肝機能障害は、形態学上の明白な変化(つまりMRTで目視可能)に先立って、弾性の変化に関連している。
【0003】
近年、剪断係数の感度の高さを病理学に活用するため、弾性率計測法が開発されている。現在の弾性率計測法のあらゆる技術の基本原理は、規定されたストレス(すなわち面積当りの力)で生体組織へ接触することと、これに対する生体組織での歪み反応の度合いを画像処理することである。深部にあり、遮られているタイプの生体組織をスキャニングするために、剪断波を用いた弾性率計測法学が開発され、乳癌や肝硬変の診断用にその臨床的関連性がデモンストレーションできるようになっている。
【0004】
近年は、心臓弾性率計測法においては、鼓動を心筋変位の機械的刺激として利用し、生きた心臓での弾性パラメータとして測定すると云う試みがある。"Myocardial elastrography - a feasibility study in vivo", Konofagou EE, D' Hooge J, Ophir J Ultrasound Med Biol 2002; 28(4): 475-482や"Single Breath Hold Transient MR-Elastography of the Heart - Imaging Pulsed Shear Wave Propagation induced by Aortic Valve Closure", Sinkus R, Robert B, Gennisson J-L, Tanter M, Fink M, ISMRM. Seattle. 2006. p77においては、心臓を変形させる力を、測定された歪データを分析するために、半経験的に評価された。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、時間的に変化する弾性特性を持つ生体組織の弾性率を測定する方法と装置を作ることであり、生体組織の弾性特性の測定を改善することにある。
【0006】
この課題は、請求項1のメルクマールによる測定方法と、請求項25のメルクマールによる測定装置によって解決される。本発明の更なる実施態様は、従属する請求項において開示されている。
【0007】
従って、生体組織の弾性率測定は、次のステップを具える:
−生体組織で少なくとも一つの機械的な波動を励起し、該波動は主としてあるいは専ら、その伝達方向に直交して振動し、
−この生体組織は、少なくとも第1の時点において第1の弾性を有し、少なくとも第2の時点において、前記第1の特性とは異なる第2の特性を有し、
−第1の時点において、波動振動の第1の偏向または偏向レートが第1の弾性特性値として測定され、
−第2の時点において、波動振動の第2の偏向又は偏向レートが第2の弾性特性値として測定される。
【0008】
この方法においては、剪断波すなわち主としてあるいは専らその伝達方向に対して直交して振動する波動が、被検対象の生体組織へ伝達される。生体組織の弾性特性(例えば剪断係数)についての推論を引出すために、偏向及び/又は偏向レート(例えば、波動の伝達方向に対して直交して)は、伝達されている波動のために、振動する生体組織の部分が少なくとも二つの時点で測定される。これは、生体組織の同一部位においてそれぞれ二つの時点で有効であり、または、例えば異なる部位でも、これらの部位は比較可能な弾性特性と、比較可能な弾性特性のタイム・プロフィールを有しており、有効である。
【0009】
もちろん、例えば、被検対象の生体組織内で重なった、複数の剪断波が伝達され得ることは言うまでもない。剪断波の生成は、生体組織外に配置した励起ユニットを用いて行われる。すなわち、生体組織そのものにテンションを掛けたり緩めたりすることによって波動が生成されるわけではない。
【0010】
生体組織としては、生物学的(とりわけ人間もしくは動物の)組織が対象である。生体組織は、とりわけ、鼓動によって弾性特性が時間的に変化する心臓組織(心筋組織)が対象であり、例えば、心臓収縮時の第1の弾性特性と心臓拡張時の第2の弾性特性がある。
【0011】
生体組織剪断波の偏向もしくは偏向レートの測定は、第1の時点と第2の時点のみならず、それに加えてその他の時点でも行なわれる。例えば、生体組織が第1の弾性特性もしくは第2の弾性特性を有する間のタイムインターバルを測定することが可能である。生体組織の弾性特性が周期的に変わると、それに加えて、(最初の及び/又は次の)偏向もしくは偏向レートが繰り返して測定可能であり、繰り返された測定は、弾性特性が変わる期間について有効である。多数の(第1の及び/又は第2の)値はそれぞれ平均化して、第1の及び/又は第2の平均した偏向もしくは偏向レートを得る。
【0012】
本発明の一つの変形例では、励起された波動の第1及び/又は第2の偏向もしくは偏向レートが、超音波及び/又は磁気共鳴トモグラフィによって測定される。とりわけ磁気共鳴撮像によると、波動の振動成分すなわち偏向もしくは偏向レートを、異なる空間的方向で別々に捉えることが可能になる。しかしながら、本発明による方法は、振動で得られた結果を直接測定すると云う変形例も包含している。とりわけ、偏向もしくは偏向レートの成分のみを測定することも可能である。とりわけ、クロス相関法あるいはドップラー法を超音波の変形として適用することが可能である。
【0013】
本発明の他の実施態様にあっては、少なくとも一つ生体組織の更なる部位において、生体組織が第1の弾性特性を示す時点で、更なる第1の偏向もしくは偏向レートが測定され、そして生体組織が第2の弾性特性を示す時点で、更に第2の偏向もしくは偏向レートが測定される。言い換えると、この測定は時間解析のみならず空間解析についても行われる。この更なる第1および第2の偏向もしくは偏向レートの測定は、第1もしくは第2の偏向もしくは偏向レートの測定と同時に行なうことができる。別の変形例においては、更なる第1および第2偏向もしくは偏向レートの測定が、第1もしくは第2偏向もしくは偏向レートの測定に対して、時間をずらして行なわれる。
【0014】
本発明による方法のこれ以外の実施態様においては、第1と第2の偏向が、振動の偏向あるいは振動の偏向レートの第1及び第2の振幅の形で測定される。とりわけ、偏向および偏向レートの時間プロファイルは、それぞれ、調和関数であり得ると共に、偏向および偏向レートは互いに対して位相シフトされていてもよい。
【0015】
生体組織の少なくとも第1及び第2の弾性パラメータは、例えば第1及び第2の振幅の形で、測定された第1と第2の偏向に基づいて決定することが可能である。測定された第1と第2の振幅に基づいて(剪断係数の)弾性パラメータを測定することの可能性は、以下の考察から得られる。(1)弾性変形における、動的エネルギーと歪みエネルギー(弾性エネルギー)で構成される全エネルギーバランスが設定され、(2)単位時間当りに単位表面を通るエネルギー束が導き出され、(3)時間で調和する弾性波動を偏向関数と仮定して、その波動は異なる弾性で二つの別の時点で媒質を通り抜け、そして、(4)弾性値が異なる時点1および時点2における波動振幅の比率が、一定のエネルギー束と見なして導き出される。
【0016】
媒質中の弾性波動の伝達は、エネルギーの伝達と関連がある。体積Vで囲まれている変形した弾性体における総エネルギーEの変化は、運動エネルギーと位置エネルギー(歪エネルギー)の時間プロファイルによって決まる。すなわち(アインシュタインの“総和規約”を適用して)次式で表わされる:

【0017】
ここで、xは位置であり、uは変位のベクトル場であり、cijklは弾性テンソルであり、ρは密度であり、心筋1kg/lであると仮定する。総エネルギーの変化は次式で表わされる。

【0018】
ここで式2の右辺は、法線nを持つ面を通るエネルギー束である。方程式2の弾性エネルギー条件に積法則を与え、ガウスの法則を適用すると、次式になる。

【0019】
これは、重力を除いた力の平衡状態において、変形された物質をそのままに保つ。エネルギー密度束ベクトルFの方向と大きさは、エネルギー束の方向と、法線ベクトルnを持つ単位表面を通って単位時間当りに流れるエネルギーの大きさを規定する。等方性弾性物質には、ラメの変数λとμを用いて、以下の式でベクトルFを保つ。

【0020】
平面弾性波動の伝達は、三つの固有モードMによって測定される。これは法線ベクトルnに対して、縦モード(L)と、横モード(T)として、位相速度cで伝達する。

【0021】
等方性物質の場合には、二つの横モードが変性する。法線ベクトルnに対する偏光方向は、対応する固有ベクトルUによって決まり、これは、nが弾性基準座標系軸にあれば、デカルトの単位ベクトルeと一致する。時間調和型弾性率計測におけるエネルギー束を評価するために、振幅Aと角振動周波数ωを持った平面波モードが仮定される。

【0022】
調和型波動用にエネルギー束は群速度δc/δnで伝達する無限連続パルスに相当する、と云うことを参照する。式6を式4に代入すると、ベクトル成分FおよびFが得られ、それは垂直波動ベクトルに平行もしくは垂直なエネルギー密度流を構成する。

【0023】
従って、時空間で伝達する調和型の平面波で励起されたときの|F|は一定である。二つの波動振幅A1MおよびA2Mが心位相間の二つの時点で観察されると、相互の比率は、心筋における弾性変化に基づいた波動速度の相対的な変化に相当する。

【0024】
剪断波動に基づく弾性率計測法では、生物学上の柔組織の非圧縮性に関する前提が確立されている。この制約を受けて、λは無限であり、Rは1に等しい、すなわち圧縮波動を受けた結果、波動振幅は変化しない。これに対して、収束性の剛性率μによると、振幅の4乗に変化する。

【0025】
本発明の別の変形例では、生体組織は、第1の時点で剪断係数μを示し、第2の時点でμを示す。これらの相互比率は、第1の時点で測定された最初の振幅Aと第2の時点で測定された第2振幅Aに基づいて、上述の式(9)によって決まる。これは当然に心筋だけに限られるものではなく、例えば他の筋組織など、時間と共に変化する弾性特性を示す生体組織全般に適用可能であることが指摘される。
【0026】
本発明の更なる変形例では、波動の第1の振幅および第2の振幅はそれぞれ、フーリエ変換、または調和振動子関数による偏向もしくは偏向レートの相関によって決まる。例えば、調和振動子関数は、生体組織の中で励起される波動の周波数に相当する振動周波数を有する。この相関関係を形成することによって、励起された波動の偏向信号は、生体組織の固有運動(例えば、心筋など筋肉の収縮および拡張)から分離され、それによってこの振動の振幅(偏向もしくは他の偏向レート)がフィルタリングされて決まる。
【0027】
以下においては、磁気共鳴によって生体組織内で波動が励起された場所が検出された場合に、相関関係が形成されたものと考えられる。生体組織に波動を励起することと磁気共鳴を用いて波動を検出することは、核磁気共鳴弾性率計測法(MRE)と呼ばれる。この例においては、波動に特徴的な時間依存性の位相信号Φ(t)が測定され、波動振動の偏向レート

は、この時間

に対する位相信号の導関数から算出される。それに対して、偏向レート

は、同一周波数を持つ複合調和関数と相関しており、そこから以下の波動振幅の時間プロフィールが得られる。

【0028】
積分の増分Δtは、例えば、偏向振幅A(t)がN回の完全な波動周期を超えて測定される、すなわち、A(t)はN倍の振動周期のサンプリングポイント数で短縮された改善された時間分解能を持つことになる。偏向レート

の代わりに、位相信号から測定される偏向u(t)を調和関数に関連付けて、振幅を決定することもできる。
【0029】
更に、本発明は次のとおり構成される生体組織の弾性測定装置に関する。
−生体組織(31)において励起された主にあるいは専ら伝達方向に対して直交して振動する機械的波動の偏向及び/又は偏向レートを測定する偏向測定手段(4)を具え、
−生体組織(31)は、第1の時点で第1弾性特性を、第2の時点で第1の弾性特性と異なる第2の弾性特性を示し、
−偏向測定手段(4)が、第1の時点で第1の偏向もしくは偏向レートを、第2の時点で第2の偏向もしくは偏向レートを測定するように構成されている。
【0030】
偏向測定手段は、原理的には、例えば超音波あるいは磁気共鳴に基づくなど、任意に構成することができる。とりわけ偏向測定手段は、制御および評価ソフトウェアを具えるプログラミング可能なユニットを具え、これらによって例えば、上述した偏向信号あるいは偏向レート信号を相関させる方法、または一般的な偏向信号あるいは偏向レート信号を測定するためのプロセス、すなわち偏向もしくは偏向レートの信号特性の検出と評価が実現される。
【0031】
更に、この装置は、生体組織中に少なくとも一の機械的波動を励起するための波動励起手段を備えている。このような波動励起手段の例はドイツ特許出願第102006037160.7号に記載されている。これは、偏向測定手段を波動励起手段とは別に形成し得る旨や、例えば別の波動励起手段と相互作用するように設けることができる旨が指摘されている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
以下に本発明を、実施例に基づいて、図面を参照して詳細に説明する。
【図1】図1は、MRE装置の一変形例を示す。
【図2】図2a乃至図2dは、被験者の心筋および胸部でのMRE実験の評価を示す。
【図3】図3a乃至図3bは、被験者6人の心筋での更なるMRE実験の評価を示す。
【0033】
図1は、本発明による方法の実施に適用可能なMRE装置を示す。この装置は波動励起手段5を具えており、これは、スピーカ振動膜51によって機械的な振動を発生させる。スピーカ振動膜51で発生された振動は、棒状の伝導エレメント2を介して被験者3に伝達され、被験者3の検査すべき生体組織31に接続される。これによって生体組織31で励起される機械的波動は、MRTスキャナ4の形の偏向測定手段によって検出、励起された波動の偏向もしくは偏向レートが測定される。
【0034】
別の実施例においては、伝導エレメントが横臥装置もしくは着座装置に連結されており、計測中に被験者がその上に位置し、振動が横臥装置もしくは着座装置に伝達される。振動を与えられた横臥装置もしくは着座装置を経て、結果として被験者の検査すべき生体組織が励起される。一の変形例では、スピーカ振動膜が横臥装置もしくは着座装置に一体化されて、横臥装置もしくは着座装置を振動させているため、伝導エレメントが不要である。
【0035】
図2a乃至図2dは、本発明による被験者の心筋および胸部のMRE計測の評価に関するものである。心筋組織もしくは被験者の胸部に機械的波動が送られ、磁気共鳴によって検出される。図2aでは、心筋(曲線P)と胸部(曲線B)についての、時間(横座標)に対するこの波動振動の偏向に特性を示す、磁気共鳴計測の位相信号(縦座標)が、プロットされている。比較のために、それぞれの、生体組織が機械的な励起を受けないときの測定曲線P’とB’も記録されている。おおよそ二つの心臓の位相について計測を行った。
【0036】
図2aでは、機械的な波動励起を行った心筋測定の位相信号Φの振幅が明らかに時間的に変化しているが、胸郭に励起した波動の位相信号の振幅は基本的に一定であることが分かる。
【0037】
図2bは、図2aの心筋測定に関連して、純粋な位相信号Φではなく、その時間導関数

を用いて位相信号にフィルタがかかっており、この結果、心臓の位相に生じる振幅変調が一段と明確に記載されている。
【0038】
磁気共鳴の位相信号は、上記のとおり、位相信号を生体組織中で励起された振動と同じ周波数の調和関数と関連させることによって、波動振幅に変換することが可能である。このような相関関係付けを行なった後、心筋で励起された波動の振動振幅が持つ時間依存性についての曲線プロファイルが図2cに記載されている。ここではMRT測定の三つの空間成分(スライスグラジエント、読取グラジエント、及び位相コード方向、曲線K、K、K)の振幅、ならびに振動の結果としての値Aが記載されている。曲線Kは、連結された波動の伝達方向に平行な方向に記録された。しかしその横軸の性質に起因して、この波動はこの方向には、比較的小さな振動成分をごく僅か持つか、あるいは全く持っておらず、従って、この方向の振幅は、基本的に相応の時間的依存性を持たない。
【0039】
その他の空間方向(曲線K、K)の波動振幅のプロフィールは、位相信号の振幅プロフィールと対応している(図2a、2b)。波動振幅は、心臓位相に亘って変化し、心筋が緊張から解放されたとき、緊張しているときよりもすなわち心筋の固さの状態が低いときに、より高い振幅となる。より正確には、波動振幅は心収縮の初期(t=1−1.1秒)の領域において、心拡張期に比べて約半分の値に低下していることを図2cが示しており、これは、心拍のこの位相中での心筋の弾性はおよそ16倍に増加している、との結論となる。
【0040】
図2aから図2cに示す測定の場合には、生体組織で励起された機械的波動のサイクル毎に6枚の撮影がなされて、それぞれ360枚のMRT画像が撮影された。このケースでは、相関関係付けを行う際の積分増分値Δtは、波動振幅が機械的波動の完全なサイクル、すなわち振動期間に亘って測定されるように選択される。これが、(図2cにおける振幅の)相関信号の時間分解能が位相信号に比べて小さくなる理由である。
【0041】
図2dは、胸郭測定の位相信号の評価を表わしており、図2cに類似している。結果として得られた振幅信号は、基本的に、時間依存性をなんら示していない。
【0042】
図3aおよび図3bは、6人の被験者について行われた心筋の計測に関する。図3aは、それぞれ被験者の心筋で励起された機械的振動の平均振幅(縦座標)と時間(横座標)をプロットしたものである。更に、左心室の直径LVが(破線で)描かれており、これによって振幅Aの時間プロフィールと心臓の形態(心臓容量)上の時間プロフィールとを比較することができる。エラー・バーは個人間の標準偏差に相当する。
【0043】
振幅信号Aは、心収縮期に明らかに下がっていることが分かる。より正確には、波動振幅の降下は、心室容量の低下に先行(約60ms)する。これによって、心筋の緊張は直接的はにRインパルスの出現(心拡張期の終了時)で開始することができ、ここで心臓容量は、心筋の収縮開始後、時間Vに亘って一定を保つ(等容性収縮フェーズ)、との結論が得られる。
【0044】
図3bは、図3aの振幅の評価を示しており、剪断係数の時間プロフィールが、心拡張期中の心筋の剪断係数との関連で記載される(縦座標)。心収縮期中の弾性係数μは−振幅と違って−増えており、これは、心臓位相間の心臓収縮に拠るものである。
【符号の説明】
【0045】
2 伝導エレメント
3 被験者
31 生体組織
4 MRTスキャナ
5 波動励起手段
51 スピーカ振動膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織の弾性率測定方法において:
生体組織(31)において少なくとも一つの機械的な波動を励起するステップであって、当該は動が主としてあるいは専らその伝達方向に直交して振動する波動であるステップを具え、
前記生体組織(31)が、少なくとも第1の時点において第1の特性を示し、少なくとも第2の時点において、前記第1の特性とは異なる第2の特性を示し、
前記第1の時点において、前記波動振動の第1の偏向もしくは偏向レートが第1の弾性特性値として測定され、そして、
前記第2の時点において、前記波動振動の第2の偏向もしくは偏向レートが、第2の弾性特性値として測定される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記第1および第2の偏向もしくは偏向レートの測定が超音波及び/又は磁気共鳴トモグラフィを用いて行われることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の方法において、前記波動が励起される生体組織(31)が、鼓動に応じて時間的に変化する弾性特性を有する心筋組織であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法において、前記生体組織(31)内での波動の励起(5)が、生体組織(31)外の励起ユニットによってなされることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法において、前記第1および第2の偏向が、前記振動偏向の第1または第2の振幅の形で測定されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法において、前記第1および第2の偏向レートは、前記振動偏向の第1または第2の振幅の形で測定されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法において、前記第1および第2の偏向もしくは偏向レートはそれぞれ、前記波動の伝達方向を横切る振動成分について測定されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法において、前記第1および第2の偏向もしくは偏向レートはそれぞれ、全ての振動成分について測定されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法において、前記第1および第2の偏向もしくは偏向レートはそれぞれ、振動の合成という形で測定されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法において、前記第1および第2の偏向もしくは偏向レートの測定は、生体組織(31)の同一部位で行われることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、少なくとも前記生体組織(31)の別の部位において、生体組織(31)が第1の弾性特性を示す時点で、更なる第1の偏向もしくは偏向レートが測定され、前記生体組織(31)が第2の弾性特性を示す時点で、更なる第2の偏向もしくは偏向レートが測定されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法において、前記測定された第1および第2の偏向もしくは偏向レートに基づいて、それぞれ、前記生体組織(31)の少なくとも一の弾性変数を測定することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項5に記載の方法において、前記生体組織(31)は、第1の時点で剪断係数μを持ち、第2の時点で剪断係数μを持ち、それら相互関係が、第1の時点で測定された第1の振幅Aと第2の時点で測定された第2の振幅Aに基づいて、次式に従って測定されることを特徴とする方法:

【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法において、前記波動の偏向もしくは偏向レートを複数の時点で測定して、前記偏向もしくは偏向レートの時間プロフィールを決定することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項5、6または14に記載の方法において、前記振動の偏向もしくは偏向レートの第1及び第2の振幅は、偏向もしくは偏向レートの時間プロファイルと調和振動子関数との相関によって測定されることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記調和振動子関数が、生体組織(31)内で励起された波動の周波数に相当する振動周波数を持つことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項2に記載の方法において、前記励起された波動の第1および第2の偏向もしくは偏向レートが、磁気共鳴トモグラフィによって測定され、前記偏向もしくは偏向レートに依存する位相信号が測定されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記位相信号が複数の時点で測定されて、そこから生体組織(31)内で励起された波動の偏向もしくは偏向レートの時間プロフィールが得られる、位相信号の時間プロフィールを決定することができることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記偏向もしくは偏向レートの時間プロフィールが調和振動子関数と相関しており、当該調和振動子関数が生体組織(31)内で励起された波動の周波数に相当する振動周波数を持つことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18または19に記載の方法において、前記位相信号の時間プロフィールから、前記偏向の振幅のタイム・プロフィール及び/又は偏向レートの振幅のタイム・プロフィールが測定されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、生体組織(31)内で周波数ωで励起された波動の振幅Aは、振動の偏向レート

から、時間tにおいて、次式のとおり測定されることを特徴とする方法:

【請求項22】
請求項20または21に記載の方法において、生体組織(31)内で周波数ωで励起された波動の振幅Aは、振動の偏向uから、時間tにおいて、次式のとおり測定されることを特徴とする:

【請求項23】
請求項5乃至22のいずれか1項に記載の方法において、当該方法のステップが、プログラミング可能なユニットを用いて実行できるプログラムコードとして定式化されていることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項1乃至23のいずれか1項に記載の方法において、生体組織(31)内で励起された前記波動の周波数が100Hz未満であり、とりわけ40Hz未満であることを特徴とする方法。
【請求項25】
生体組織の弾性率測定装置において、
生体組織(31)において励起され、主にあるいは専らその伝達方向に対して直交して振動する機械的な波動による偏向及び/又は偏向レートを測定する偏向測定手段(4)と、
前記生体組織(31)が、第1の時点で第1の弾性特性を有し、第2の時点で前記第1の弾性特性とは異なる第2の弾性特性を示し、
偏向測定手段(4)が、前記第1の時点で第1の偏向もしくは偏向レートを測定し、第2の時点で第2の偏向もしくは偏向レートを測定するように、構成されていることを特徴とする装置。
【請求項26】
請求項25に記載の装置において、前記偏向測定手段(4)が、超音波ユニット及び/又は磁気共鳴トモグラフィ・ユニットを具えることを特徴とする装置。
【請求項27】
請求項25または26に記載の装置において、前記偏向測定手段(4)が、請求項5乃至22に記載の方法を実行できるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項28】
請求項27に記載の装置において、偏向測定手段(4)は、請求項5乃至22に記載の方法の一つを実行できるプログラムコードを具える、プログラミング可能なユニットを具えていることを特徴とする装置。
【請求項29】
請求項25乃至28のいずれか1項に記載の装置において、前記生体組織内で少なくとも一つの機械的な波動を励起する波動励起手段(5)を具えることを特徴とする装置。
【請求項30】
請求項29に記載の装置において、前記振動励起手段(5)が、振動が加えられた着座装置または横臥装置によって被験対象組織内で機械的な波動が励起されるように、被検対象者を収容する着座装置または横臥装置を振動させるように構成されていることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−525906(P2010−525906A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506927(P2010−506927)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055617
【国際公開番号】WO2008/135588
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(509305088)シャリテ−ウニベルジテーツメディツィン ベルリン (1)
【Fターム(参考)】