説明

生体組織修復用の硬化性組成物、硬化体およびキット

【課題】硬組織(例:骨、歯牙)および硬組織周辺の軟組織などの生体組織を修復するための材料として好適で、外科および歯科などで使用可能な硬化性組成物を提供する。
【解決手段】カルシウム塩を含有する硬化性組成物であり、前記硬化性組成物を37℃で12時間硬化して得られる硬化体が、表面粗さがRa値3.6μm以上かつSm値30.0μm以上となる表面凹凸構造を有する、生体組織修復用の硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織修復用の硬化性組成物、硬化体およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
医学分野における生体組織修復用の硬化性組成物としては、現在、ポリメチルメタクリレート(PMMA)骨セメントが市販されている。市販のPMMA骨セメントとしては、例えば、液剤と粉剤とから構成され、これらを混合することでレドックス反応により重合硬化するセメントが知られている。液剤は、メチルメタクリレート、N,N−ジメチル−p−トルイジンなどからなる。粉剤は、主にメチルメタクリレートなどを重合させてなる重合体、X線不透過剤および重合開始剤(例:過酸化物)などからなる。
【0003】
骨セメントは、骨の欠損部の補填剤、骨と人工関節とを固定するための接合剤として、医療において広く使用されている。しかしながら、従来の骨セメントには、(1)重合硬化の際の発熱が周辺組織へ影響を与える、(2)重合不足により溶出する未反応の重合性単量体およびアミンなどの毒性といった問題があり、さらに(3)術後、生体内において骨セメントが線維性皮膜に覆われることで骨と人工関節との間に緩みが生じ、再度手術を必要とするという問題もある(例えば、特許文献1〜4および非特許文献1参照)。
【0004】
一方、歯学分野では、歯周病などが原因で歯槽骨の吸収が起こり、歯牙が動揺・脱落するなどの症状をきたす場合がある。このような症状の治療に臨床で現在用いられる方法としては、例えば、(1)歯肉を切開して病巣を除去した後に、自家骨や生体材料(例:ハイドロキシアパタイト、エムドゲイン)などを移植・充填する方法、(2)GTR膜と称する細密膜で歯槽骨吸収部を覆い、上部の軟組織の進入を防ぐことで正常な歯槽骨の再生を促す方法、(3)これらの方法を組み合わせた複合処置がある。また、(4)骨再生後にチタン製のネジ等(以下「インプラント」ともいう。)を挿入し、上部に補綴物を装着することで、欠損した歯牙を置換修復する方法なども頻繁に行われつつある。
【0005】
しかしながら、従来技術では、歯槽骨の再生に長時間が必要である、自家骨以外の生体材料では完全にもとの骨量まで歯槽骨が再生しない、などの問題があった。また、インプラント体と口腔内粘膜等の軟組織との接合が不充分で、細菌に再度感染し、歯槽骨の吸収や歯周軟組織の炎症などの症状をきたすなどの問題もある(例えば、特許文献5〜6、非特許文献2〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−500154号公報
【特許文献2】特開2004−201869号公報
【特許文献3】特開2007−000639号公報
【特許文献4】特開2009−101161号公報
【特許文献5】特開2010−188062号公報
【特許文献6】特開2005−024337号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本機械学会論文集(B編)64巻617号(1998-1)
【非特許文献2】日本歯科衛生学会雑誌, 4(1) : 230, 2009
【非特許文献3】日本歯周病学会誌、37(秋季特別号), 59, 1995-09-06
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みて、硬組織(例:骨、歯牙)および硬組織周辺の軟組織などの生体組織を修復するための材料として好適で、外科および歯科などで使用可能な硬化性組成物および硬化体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、下記構成を有する硬化性組成物および硬化体により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、例えば以下の[1]〜[12]である。
[1]カルシウム塩を含有する硬化性組成物であり、前記硬化性組成物を37℃で12時間硬化して得られる硬化体が、表面粗さがRa値3.6μm以上かつSm値30.0μm以上となる表面凹凸構造を有する、生体組織修復用の硬化性組成物。
[2](A)重合性基を一つ有する化合物を含む重合性単量体を10〜90重量%、(B)ラジカル重合性単量体に由来する構成単位を有する重合体を3〜70重量%、(C)カルシウム塩を4〜80重量%、および(D)ホウ素化合物を含む重合開始剤を0.1〜20重量%の範囲(ただし、成分(A)〜(D)の含有量の合計を100重量%とする。)で含有する、前記[1]に記載の硬化性組成物。
【0010】
[3]成分(C)が、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、および酸化カルシウムから選択される少なくとも1種である、前記[1]または[2]に記載の硬化性組成物。
[4]前記硬化性組成物より形成された硬化体を水中に浸漬した場合に、前記硬化体表面からカルシウムイオンが遊離するもしくはカルシウム塩が溶出する、および/または前記硬化性組成物より形成された硬化体をエネルギー分散形X線分光器により分析した場合に、硬化体表面付近にカルシウム元素が検出される、前記[1]〜[3]の何れか一項に記載の硬化性組成物。
【0011】
[5]生体の硬組織と硬組織との接合、生体の硬組織と軟組織との接合、もしくは生体の硬組織もしくは軟組織と生体埋入部材との接合に用いられる接合剤;硬組織の欠損部、硬組織と硬組織との空隙、硬組織と軟組織との空隙、もしくは軟組織と軟組織との空隙に充填するための補填剤;または生体埋入部材の表面被覆剤;である、前記[1]〜[4]の何れか一項に記載の硬化性組成物。
[6]前記[1]〜[5]の何れか一項に記載の硬化性組成物より得られた硬化体。
【0012】
[7]表面粗さがRa値3.6μm以上かつSm値30.0μm以上となる表面凹凸構造を有する、前記[6]に記載の硬化体。
[8]ブロック状、顆粒状または板状である、前記[6]または[7]に記載の硬化体。
[9]生体の硬組織と硬組織との接合、生体の硬組織と軟組織との接合、もしくは生体の硬組織もしくは軟組織と生体埋入部材との接合に用いられる接合材;硬組織の欠損部、硬組織と硬組織との空隙、硬組織と軟組織との空隙、もしくは軟組織と軟組織との空隙に挿入するための補填材;または生体埋入部材の被覆材;である、前記[6]〜[8]の何れか一項に記載の硬化体。
【0013】
[10]前記[1]〜[5]の何れか一項に記載の硬化性組成物、および/または前記[6]〜[9]の何れか一項に記載の硬化体を含む生体組織修復用のキット。
[11]さらに、酸、アルカリ、キレート剤、金属化合物、重合性単量体および水系溶媒から選択される少なくとも一種を含む前処理剤、および/または請求項6〜9の何れか一項に記載の硬化体で被覆された生体埋入部材を含む、前記[10]に記載の生体組織修復用のキット。
[12]生体の硬組織と硬組織との接合、生体の硬組織と軟組織との接合、または生体の硬組織もしくは軟組織と生体埋入部材との接合に用いられる、前記[10]または[11]に記載の生体組織修復用のキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、硬組織(例:骨、歯牙)および硬組織周辺の軟組織などの生体組織を修復するための材料として好適で、外科および歯科などで使用可能な硬化性組成物および硬化体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、特に説明がない限り、化合物名や官能基名の記載において「(メタ)アクリ…」とあるは、「アクリ…および/またはメタクリ…」の意であり(例えば、
アクリル酸およびメタクリル酸、アクリロイルおよびメタアクリロイル、アクリレートおよびメタクリレートが該当する。);好適なる数値範囲等の記載において「XX〜YY」(XX、YYはそれぞれ該当する数値)とあるは、「XX以上および/またはYY以下」の意である。
【0016】
〔硬化性組成物〕
本発明の硬化性組成物は、カルシウム塩を含有する。
本発明の硬化性組成物は、好ましくは次のような性質を有する。すなわち、前記硬化性組成物を37℃で12時間硬化して得られる硬化体が、表面粗さがRa値3.6μm以上かつSm値30.0μm以上となる表面凹凸構造を有する、という性質である。硬化条件は、より詳しくは、後述する〔試験例1〕に記載の条件である。ただし、前記硬化条件は本発明の硬化性組成物の性質の一例を挙げるために設定されたものであって、本発明の硬化性組成物を硬化して硬化体を製造する際、その硬化条件が前記硬化条件に限定されるわけではない。
【0017】
Ra値は、通常3.6μm以上、好ましくは3.6〜300μm、より好ましくは4.0〜250μm、更に好ましくは5.0〜200μm、特に好ましくは6.0〜150μmである。Ra値は、JIS B 0601・JIS B 0031に定義される。
【0018】
Sm値は、通常30.0μm以上、好ましくは36.0〜700μm、より好ましくは38.0〜600μm、更に好ましくは40.0〜550μm、特に好ましくは42.0〜500μmである。Sm値は、JIS B 0601・JIS B 0031に定義される。
【0019】
Ra値およびSm値が上記範囲にあると、当該硬化体は硬組織(例:骨、歯牙)および硬組織周辺の軟組織などの生体組織を修復するための材料として好適である。例えば、骨芽細胞等が硬化体に付着しやすく、生体組織の新生を促がすことが可能である。Ra値および/またはSm値が、上記下限値を下回ると得られる硬化性組成物の生体組織の修復能が低下し、前記上限値を上回ると得られる硬化性組成物の操作性が悪くなることがある。
【0020】
表面凹凸構造(Ra値、Sm値)は、硬化体表面について、例えば高精度形状測定システムKS−1100((株)キーエンス製)などの表面荒さ測定機にて計測することが推奨される。
【0021】
表面凹凸構造は、当該凹凸構造に対応する凸凹構造を有する鋳型を用いなくても、本発明では自発的に生起する。例えば、水分と接する環境下(例:空気中、高湿度環境下、水中)において本発明の硬化性組成物を硬化することにより、表面凹凸構造は容易に形成される。
【0022】
本発明の硬化性組成物は、カルシウム塩を含有する。自発的に表面凹凸構造が形成される理由は、硬化性組成物中の重合性成分が重合時(硬化時)に収縮するのに対して、カルシウム塩等は前記反応を起こさないために容積収縮が起こらず、その相違により、カルシウム塩等が存在する箇所ではその周囲と比べて相対的に容積収縮が起こらず、カルシウム塩等が存在する箇所がその周囲と比べて凸部となる為と推定される。
【0023】
表面凹凸構造の自発生起には、硬化性組成物中にカルシウム塩が含まれていることが必要である。カルシウム塩は炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、および酸化カルシウムから選択される少なくとも1種であることが好ましく、炭酸カルシウムであることがより好ましく、炭酸カルシウムは表面凹凸構造の自発生起の観点から結晶体(すなわち、結晶構造)を保持していることが特に好ましい。
【0024】
また、本発明の硬化性組成物より形成された硬化体を水中に浸漬した場合に、前記硬化体表面からカルシウムイオンが遊離するもしくはカルシウム塩が溶出する、および/または前記硬化性組成物より形成された硬化体をエネルギー分散形X線分光器により分析した場合に、硬化体表面付近にカルシウム元素が検出されることが好ましい。カルシウムイオンの遊離またはカルシウム塩の溶出が、生体組織(特に硬組織)の新生に寄与していると推定される。
【0025】
カルシウムイオンの遊離の程度は、後述する〔試験例3〕に記載の条件で調製される浸漬液中のカルシウムイオン含量で判定できる。浸漬液中のカルシウムイオン含量(φ20×1.5mmの硬化体を20mlの超純水に37℃で3日間浸漬した際の溶液中のカルシウムイオン濃度、重量基準)は、好ましくは0.001ppm以上、より好ましくは0.01ppm以上、さらに好ましくは0.015ppm以上である。上限値は特に限定されないが、1000ppm程度である。前記下限値以上にてカルシウムイオンが遊離することにより、生体組織の修復能が向上する。カルシウムイオン含量は、ICP(Inductively coupled plasma)発光分光分析装置を用いて測定することが出来る。
【0026】
カルシウム元素の検出強度は、後述する〔試験例3〕に記載の条件で調製される硬化体を用いて測定でき、好ましくは0.1atоmic%以上である。上限値は特に限定されないが、90atomic%程度である。前記下限値以上にて検出されることは、カルシウムイオンが良好に遊離することを意味し、結果として生体組織の修復能が向上する。
【0027】
硬化体表面付近(例:硬化体表面から数十μmまでの深度の範囲)でのカルシウム元素は、例えば、エネルギー分散形X線分光器(日本電子(株)製、JSM−5610LV)を用いて、加速電圧:20kV、SSM計数率モニター:10〜35%範囲内の条件で検出される。なお、カルシウム塩のサイズや重量分率による統計的ばらつきを防ぐため、サンプルに応じた測定方法や統計的手法を用いることが好ましい。例えば、測定スポットサイズ:1μm四方、測定スポット数:20ヶ所以上、スポット間隔:5μm以上の条件で測定を行い、平均する手法が挙げられる。
【0028】
以下、本発明の硬化性組成物の好ましい態様について記載する。
本発明の硬化性組成物は、(A)重合性基を一つ有する化合物を含む重合性単量体、(B)ラジカル重合性単量体に由来する構成単位を有する重合体、(C)カルシウム塩、および(D)ホウ素化合物を含む重合開始剤を含有することが好ましい。以下、前記成分をそれぞれ成分(A)〜(D)ともいう。
【0029】
〈重合性単量体(A)〉
重合性単量体(A)としては、(A1)重合性基を一つ有する化合物(単官能重合性単量体、成分(A1))、(A2)重合性基を二つ以上有する化合物(多官能重合性単量体、成分(A2))が挙げられる。重合性基としては、例えば、ビニル基、シアン化ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基が挙げられる。
【0030】
本発明では、重合性単量体(A)として、成分(A1)を主成分として用いるが、硬化速度を速くする目的や硬化体の物性を向上させる目的などで、本発明の目的を損なわない限りで、成分(A1)と成分(A2)とを組み合わせて用いてもよい。成分(A1)の使用量(重量基準)は、重合性単量体(A)100%に対して、通常50%、好ましくは66%以上、更に好ましくは75%以上である。重合性単量体(A)のうち成分(A1)の使用量が前記範囲にあると、比較的低温で硬化可能な組成物が得られる。
【0031】
成分(A1)としては、例えば、
(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のα−不飽和カルボン酸;
メチル(メタ)アクリレ−ト、エチル(メタ)アクリレ−ト、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレ−ト等のアルキル(メタ)アクリレ−ト;
2-ハイドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオール(メタ)アクリレート等のハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
4-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸およびこれらの酸無水物;
4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸、2,3-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレ−ト等のカルボキシベンゾイルオキシを有する化合物;
4-ビニル安息香酸、n−ビニルピロリドン等のビニル化合物;
11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸等の(メタ)アクリロイルオキシ基とカルボン酸基との間に直鎖炭化水素基が存在するカルボン酸化合物;
6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルナフタレン(ポリ)カルボン酸;
N-(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O-(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N-(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、O-(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等のN-および/またはO-位置換のモノ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;N-(メタ)アクリロイル-4-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノ安息香酸、2-,3-または4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-または5-(メタ)アクリロイルアミノサリチル酸等の官能性置換基を有する安息香酸の(メタ)アクリロイル化合物;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トと無水マレイン酸、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物または3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物との付加反応物等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと不飽和ポリカルボン酸無水物との付加反応物;N-フェニルグリシンまたはN-トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレ−トとの付加反応物、
4-[(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3-または4-[N-メチル-N-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸等のポリカルボキシベンゾイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシとを有する化合物等のカルボキシル基および/またはそれら酸無水物を有する重合性単量体ならびにそれらの塩;
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2-または3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシドホスフェート;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-p-メトキシフェニルアシドホスフェート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基とフェニレン基などの芳香環やさらには酸素原子などのヘテロ原子を介して有するアシドホスフェート;これらの化合物におけるリン酸基をチオリン酸基に置き換えた化合物;などのリン酸基またはチオリン酸基を有する重合性単量体ならびにそれらの塩;
2-スルホエチル(メタ)アクリレート、2-または1-スルホ-1-または2-プロピル(メタ)アクリレート、1-または3-スルホ-2-ブチル(メタ)アクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;3-ブロモ-2-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシ-1-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート等の前記スルホアルキル(メタ)アクリレートのアルキル部にハロゲンまたはヘテロ原子(例:ハロゲン、酸素)を含む原子団(例:ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基)を有する化合物;1,1-ジメチル-2-スルホエチル(メタ)アクリルアミド、2-メチル-2-(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等の前記スルホアルキル(メタ)アクリレートのアクリレートをアクリルアミドに換えてなる化合物;4-スチレンスルホン酸、4-(プロプ-1-エン-2-イル)ベンゼンスルホン酸等のビニルアリールスルホン酸;などのスルホン酸基を有する重合性単量体およびそれらの塩;
2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−[テトラ]メチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールアルキルエーテルのモノ(メタ)アクリレート(R1-(-O-R2-)n-O-COC(R3)=CH2(R1:アルキル基、R2:アルキレン基、R3:水素またはメチル基);
アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;
シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;(テトラハイドロフラン-2-イル)(メタ)アクリレート等のヘテロ原子を含む環状アルキル(メタ)アクリレート;パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;3-(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物類;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、p−ビニルアニリン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート等の分子内に少なくとも1つのアミノ基およびその塩を有する(メタ)アクリレート;
アクリル酸アミド、エチレンビス(メタ)アクリル酸アミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の分子内に少なくとも1つのアミド基を有する(メタ)アクリレート;
2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1−スルホ−1または2−プロピル(メタ)アクリレート、1または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド等の分子内に少なくとも1つのスルホニル基を有する(メタ)アクリレート;
ビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物;
グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ジンクモノメタクリレート;
が挙げられる。
【0032】
成分(A1)の中でも、アルキル(メタ)アクリレ−ト、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸およびその酸無水物、(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸の塩が好ましく、メチル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸の塩がより好ましい。
【0033】
成分(A1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
成分(A2)としては、例えば、
N,O-ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N,O-ジ(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等のN-およびO-位置換のジ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;2-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン等のカルボキシル基を有する多官能重合性単量体;
ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェート、ビス[2-または3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル]アシドホスフェート等の2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するアシドホスフェートなどの芳香環やさらにはヘテロ原子(例:酸素原子)を介して有するアシドホスフェート;これらの化合物におけるリン酸基をチオリン酸基に置き換えた化合物などのリン酸基またはチオリン酸基を有する多官能重合性単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート(CH2=C(R3)CO-(-O-R2-)n-O-COC(R3)=CH2(R1:アルキル基、R2:アルキレン基、R3:水素またはメチル基);
1,6−ヘキサメチレンジメタクリレート(1,6−HX)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の脂肪族エステル;
1モルのビスフェノールAと2モルのグリシジルメタクリレートとの付加物(Bis−GMA)、1モルのビスフェノールAグリシジルエーテルの付加重合物と2モルの(メタ)アクリル酸との縮合物(VR90)、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物1モルと(メタ)アクリル酸2モルとの縮合物(エチレンオキシドの付加連鎖数m+n≧2;m+n=2.6は2.6Eと略記)等の芳香族(メタ)アクリレート;
1モルの2,2,4−(または2,4,4−)トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートと2モルの2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの付加物(UDMA)等のウレタン結合含有(メタ)アクリレート;
2−ヒドロキシ−1−アクリロイキシ−3−メタクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレートなどのハイドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート;
ジビニルベンゼンなどの芳香族ジビニル化合物;
1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキレン基の両端が(メタ)アクリレートであるアルキルジ(メタ)アクリレ−ト;
グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエステルポリウレタン(メタ)アクリレート、トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレートのヒドロキシエチルアクリレートエステル、ヒドロキシエチルメタクリレートとジアリリデンペンタエリスリトールとの付加物、トリメチロールプロパンジメタクリレートとジアリリデンペンタエリスリトールとの付加物、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのアクリレートエステル、NKエステル A−9300(CAS No.40220−08−4)、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアネート、ジ(メタ)アクリル化イソシアネート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ブタジエン等のその他の多官能重合性単量体;
が挙げられる。
成分(A2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
〈重合体(B)〉
重合体(B)は、ラジカル重合性単量体(好ましくは(メタ)アクリレート化合物)に由来する構成単位を有する重合体である。硬化性組成物の粘度や重合性単量体(A)の重合を調整する上で、重合体(B)としては、重合性単量体(A)に溶解するかまたは重合性単量体(A)により軟化する重合体が好ましい。
【0035】
重合体(B)としては、例えば、(メタ)アクリレート化合物を単独重合または共重合して得られるアクリルポリマー、(メタ)アクリレート化合物および多官能重合性単量体を共重合して得られるアクリルポリマー、前記アクリルポリマーを多官能重合性単量体で架橋して得られる架橋ポリマーが挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート(例:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート)、シクロアルキル(メタ)アクリレート(例:シクロヘキシル(メタ)アクリレート)、芳香族(メタ)アクリレート(例:ベンジル(メタ)アクリレート)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(例:ヒドロキシエチル(メ)アクリレート)が挙げられる。(メタ)アクリレート化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
多官能重合性単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタジエンなどの、上記成分(A2)が挙げられる。多官能重合性単量体は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
重合体(B)としては、(メタ)アクリレート化合物の単独または共重合体であるアクリルポリマーが好ましく、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレートとヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体などがより好ましい。
【0039】
重合体(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定される平均分子量は、好ましくは3000〜400万、より好ましくは1万〜200万、更に好ましくは5万〜150万である。前記平均分子量に代えて、分子量範囲でも規定することは可能であり、重合体(B)の90重量%以上は、好ましくは1000〜500万、より好ましくは5000〜300万、更に好ましくは1万〜200万の分子量範囲内にある。前記数値範囲(平均分子量、分子量範囲)の下限値を下回ると硬化体の曲げ強さなどの物性が低下することがあり、上限値を上回ると組成物の操作性が低下することがある。
【0040】
重合体(B)としては、粉末状の重合体粒子を用いることができる。重合体粒子の粒度分布計により乾式法で測定された平均メジアン粒径は、好ましくは0.01〜300μm、より好ましくは0.1〜200μm、更に好ましくは1〜150μmである。前記平均粒径に代えて、粒径範囲でも規定することは可能であり、重合体粒子の90重量%以上が、好ましくは0.001〜800μm、より好ましくは0.1〜300μm、更に好ましくは1〜100μmの粒径範囲内にある。前記数値範囲(平均粒径、粒径範囲)の下限値を下回ると硬化時間が短くなることで操作性が低下することがあり、上限値を上回ると混合し難くなることで操作性が低下することがある。
重合体(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
〈カルシウム塩(C)〉
カルシウム塩(C)としては、例えば、脂肪酸カルシウム塩(例:酢酸カルシウム、オレイン酸カルシウム)、芳香族カルボン酸カルシウム塩(例:安息香酸カルシウム、サリチル酸カルシウム)、多糖類カルシウム塩(例:アルギン酸カルシウム)、アミノ酸カルシウム塩(例:フェニルグリシンカルシウム)、ジカルボン酸カルシウム塩(例:シュウ酸カルシウム、マロン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、グルタル酸カルシウム、アジピン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、マレイン酸カルシウム、フマル酸カルシウム)、ギ酸カルシウム、乳酸カルシウム、アコニット酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、ピロリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、スルフィン酸カルシウム、スルホン酸カルシウム、オクタカルシウムホスフェート、炭酸アパタイト、ヒドロキシアパタイト、ベータリン酸三カルシウム、アルファリン酸三カルシウム、酸化カルシウムが挙げられる。これらの中でも、生体組織修復能の効率および硬化体の硬化性の観点から、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムが好ましい。
【0042】
カルシウム塩(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
カルシウム塩(C)の粒子構造は、結晶体であることが好ましい。
カルシウム塩(C)の粒度分布計により乾式法で測定された平均メジアン粒径は、好ましくは0.001〜500μm、より好ましくは0.01〜300μm、更に好ましくは0.1〜100μmである。前記平均粒径に代えて粒径範囲でも規定することは可能であり、カルシウム塩(C)の90重量%以上が、好ましくは0.0001〜800μm、より好ましくは0.001〜700μm、更に好ましくは0.003〜600μmの粒径範囲内にある。前記数値範囲(平均粒径、粒径範囲)の下限値を下回ると硬化体表面に凹凸が出来にくくなることがあり、前記上限値を上回ると混和物の均一性を保持できないなどの操作性の低下や硬化体の曲げ強さなどの物性が低下することがある。
【0043】
〈重合開始剤(D)〉
重合開始剤(D)としては、例えば、重合開始剤であるホウ素化合物が挙げられ、更に本発明の目的を損なわない限りで、有機過酸化物、無機過酸化物、光重合開始剤、還元性化合物を挙げることもできる。
【0044】
本発明では、重合開始剤(D)として、ホウ素化合物を主成分として用いる。すなわち、重合開始剤(D)全体100%(重量基準)に対して、ホウ素化合物の含有量は、通常50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上である。
【0045】
重合開始剤であるホウ素化合物としては、例えば、
トリエチルホウ素、トリ(n−プロピル)ホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリ(n−ブチル)ホウ素、トリ(s−ブチル)ホウ素、トリイソブチルホウ素、トリペンチルホウ素、トリヘキシルホウ素、トリオクチルホウ素、トリデシルホウ素、トリドデシルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素、ブチルジシクロヘキシルボランなどのトリアルキルホウ素;
ブトキシジブチルホウ素などのアルコキシアルキルホウ素;
ジイソアミルボラン、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナンなどのジアルキルボラン類;
テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル-p-トルイジン塩、テトラフェニルホウ素ジメチルアミノ安息香酸エチルなどのアリールボレート化合物;
部分酸化トリブチルホウ素などのトリアルキルホウ素の部分酸化物;
が挙げられる。
【0046】
ホウ素化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機過酸化物としては、例えば、ジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプロルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメチルベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジニトロジベンゾイルパーオキサイドが挙げられる。
【0047】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウム、過リン酸カリウムが挙げられる。
光重合開始剤としては、可視光線を照射することによって重合性単量体の重合を開始しうる化合物が好ましく、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン類;ベンジル、4,4'−ジクロロベンジル、ジアセチル、α−シクロヘキサンジオン、d,l−カンファキノン(CQ)、カンファキノン‐10-スルホン酸、カンファキノン-10-カルボン酸などのα−ジケトン類;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、ヒドロキシベンゾフェノンなどのジフェニルモノケトン類;2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類が挙げられる。
【0048】
還元性化合物としては、例えば、
リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;
メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、トルイジン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン等の第一アミン塩;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、ジフェニルアミン、N−メチルトルイジン等の第二アミン塩;
トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジメチルトルイジン、N,N−ジエチルトルイジン、N,N−(β−ヒドロキシエチル)トルイジン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルならびにそれらの塩、N,N-ジエチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルならびにそれらの塩、N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド等の第三アミン塩;
アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩等のアンモニウム化合物の塩;
エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸、ドデカンスルフィン酸などのアルカンスルフィン酸、シクロヘキサンスルフィン酸、シクロオクタンスルフィン酸などの脂環族スルフィン酸;ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などの芳香族スルフィン酸類;
ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸マグネシウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸ストロンチウム、ベンゼンスルフィン酸バリウム、ベンゼンスルフィン酸ブチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸アニリン塩、ベンゼンスルフィン酸トルイジン塩、ベンゼンスルフィン酸フェニレンジアミン塩、ベンゼンスルフィン酸ジエチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸ジフェニルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸トリエチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸アンモニウム塩、ベンゼンスルフィン酸テトラメチルアンモニウム、ベンゼンスルフィン酸トリメチルベンジルアンモニウム、o−トルエンスルフィン酸リチウム、o−トルエンスルフィン酸ナトリウム、o−トルエンスルフィン酸カリウム、o−トルエンスルフィン酸カルシウム、o−トルエンスルフィン酸シクロヘキシルアミン塩、o−トルエンスルフィン酸アニリン塩、o−トルエンスルフィ酸アンモニウム塩、o−トルエンスルフィン酸テトラエチルアンモニウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸バリウム、p−トルエンスルフィン酸エチルアミン塩、p−トルエンスルフィン酸トルイジン塩、p−トルエンスルフィン酸N−メチルアニリン塩、p−トルエンスルフィン酸ピリジン塩、p−トルエンスルフィン酸アンモニウム塩、p−トルエンスルフィン酸テトラメチルアンモニウム、β−ナフタリンスルフィン酸ナトリウム、β−ナフタリンスルフィン酸ストロンチウム、β−ナフタリンスルフィン酸トリエチルアミン、β−ナフタリンスルフィン酸−N−メチルトルイジン、β−ナフタリンスルフィン酸アンモニウム、β−ナフタリンスルフィン酸トリメチルベンジルアンモニウム、亜硫酸ナトリウムなどの含硫黄有機酸塩類;
1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3,5-トリエチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、1−メチル−5−エチルバルビツール酸、1−メチル−5−プロピルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−メチル−1−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸などのバルビツール酸誘導体またはその塩類
が挙げられる。
重合開始剤(D)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
〈添加剤〉
本発明の硬化性組成物は、成分(A)〜(D)以外に、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、酸性水溶液に対して不溶性の金属化合物またはガラス(E)、生理活性物質(F)、カルシウム塩(C)以外の炭酸塩(G)、重合体(B)以外の高分子化合物(H)、重合開始補助剤(I)が挙げられる。以下、これらをそれぞれ成分(E)〜(I)ともいう。
【0050】
成分(E)としては、例えば、ジルコニウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛、酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末;リン酸ジルコニウム、硫酸バリウムなどの金属塩粉末;シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラス、ジルコニウムシリケートガラスなどのガラスフィラーなどの重金属化合物;が挙げられる。
【0051】
成分(E)は、成分(B)の重合体粒子と複合して、複合粒子を形成してもいてもよい。複合形態としては、成分(B)の重合体粒子中に成分(E)が散在していてもよく、成分(E)から形成された粒子の表面に、成分(B)がコーティングされた形態であってもよい。
【0052】
成分(F)としては、例えば、メナテトレノン、フィトナジオン、ファレカルシトリオールなどのビタミンK2剤;1,25−水酸化ビタミンD、コレスチラミン、カルシトリオール、エストラジオール、エストリオールなどのステロイド誘導体;パミドロ酸二ナトリウム、パミドロ酸二ナトリウム水和物などの骨吸収抑制剤;塩酸ラロキシフェン、イプリフラボンなどの選択的エストロゲン受容体モジュレーター;アレンドロネート、リセドロネート、エチドロネート、ビスホスホン酸、アレンドロン酸ナトリウム、アレンドロン酸ナトリウム水和物などのビスホスホネート剤;が挙げられる。
【0053】
カルシウム塩(C)以外の炭酸塩(G)としては、例えば、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、カリウム等から選択される元素の炭酸塩が挙げられる。
成分(H)としては、重合性単量体(A)に溶解するかまたは重合性単量体(A)により軟化する高分子化合物(重合体(B)を除く)が好ましく、タンパク質および/または多糖類であることが更に好ましい。
【0054】
成分(H)としては、例えば、コラーゲン、アルブミン、α2HS糖タンパク、血小板由来増殖因子などの増殖因子、オステオネクチン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、フィブリリン、オステオポンチン、骨シアロプロテイン、ヒアルロン酸、フィブロモジュリン、コンドロイチン硫酸、マトリックス−gаl−タンパクやオステオカルシンなどのγ−カルボキシタンパク、PTH(パラトルモン)、BMP(骨形成因子)、カルシトニン、エルカトニン、サケカルシトニン、その他タンパク質などの骨代謝関連の生体高分子・ペプチド類;RGD配列(Arg−Gly−Asp)、DGEA配列(Asp−Gly−Glu−Ala)、EILDV配列(Glu−Ile−Leu−Asp−Val)、GPRP配列(Gly−Pro−Arg−Pro)、KQAGDV配列(Lys−Glu−Ala−Gly−Asp−Val)などのインテグリンファミリー最小結合配列を含むその他タンパク質およびペプチド;が挙げられる。
【0055】
重合開始補助剤(I)としては、例えば、遷移金属(例:銅、鉄、コバルト)の硝酸塩、塩化塩、アセチルアセト塩などの酸化還元性金属化合物が挙げられる。これらは、例えば上述のホウ素化合物、過酸化物と組み合わせて使用することができる。
【0056】
〈各成分の含有量〉
以下、本発明の硬化性組成物における成分(A)〜(D)等の含有量について記載する。ただし、成分(A)〜(D)の含有量については、成分(A)〜(D)の含有量の合計を100%とし、重量基準で記載する。
【0057】
成分(A)の含有量は、通常10〜90%、好ましくは20〜80%、さらに好ましくは35〜75%である。成分(A)の含有量を前記範囲に設定すると、比較的低温で硬化可能な組成物が得られる。
【0058】
成分(B)の含有量は、通常3〜70%、好ましくは5〜65%、さらに好ましくは7〜60%である。成分(B)の含有量を前記範囲に設定すると、使用時の操作性が良好な組成物が得られる。
【0059】
成分(C)の含有量は、通常4〜80%、好ましくは7〜70%、さらに好ましくは10〜60%である。成分(C)の含有量を前記範囲に設定すると、本発明の硬化性組成物を硬化することにより、均一で微小な凹凸構造を形成でき、骨形成を促すことができる。成分(C)の含有量が前記下限値を下回るとカルシウムイオンの遊離が困難となることがあり、前記上限値を上回ると操作性の低下や硬化体の物性が低下することがある。
【0060】
カルシウム元素の重量は、成分(A)〜(D)の含有量の合計100%に対して、通常1〜70%、好ましくは3〜60%、さらに好ましくは6〜55%である。
成分(C)として炭酸塩を用いる場合、炭酸塩の含有量は、成分(A)〜(D)の含有量の合計100%に対して、通常3〜80%、好ましくは5〜70%、さらに好ましくは10〜65%である。あるいは、炭酸イオン(CO32-)の重量は、成分(A)〜(D)の含有量の合計100%に対して、通常1〜70%、好ましくは3〜65%、さらに好ましくは5〜70%である。炭酸塩の含有量を前記範囲に設定すると、生体組織の修復能に優れた組成物が得られる。炭酸塩の含有量が前記上限値を上回ると、組成物の操作性が低下する(例:組成物の硬化速度が遅くなる)ことがある。
【0061】
成分(D)の含有量は、通常0.1〜20.0%、好ましくは0.3〜17.0%、さらに好ましくは0.5〜15.0%である。成分(D)の含有量を前記範囲に設定すると、使用時の操作性が良好な組成物が得られる。
【0062】
成分(A)〜(D)の含有量の合計S(重量基準)は、本発明の硬化性組成物100%に対して、通常50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上である。含有量Sが前記範囲にある限り、添加剤を適宜用いることができる。含有量Sが前記範囲を下回ると、本発明の効果が充分に発揮されないことがある。
【0063】
成分(H)の含有量は、成分(A)〜(D)の含有量の合計100重量部に対して、通常0.001〜10重量部、好ましくは0.002〜5重量部、さらに好ましくは0.003〜3重量部である。成分(H)の含有量が前記範囲を上回ると、硬化不良などの問題が起きる可能性がある。
【0064】
〈硬化性組成物の調製〉
本発明の硬化性組成物は、例えば、上述の重合性単量体(A)を含む液剤と、上述の重合体(B)およびカルシウム塩(C)を含む粉剤とを調製し、次いで前記液剤、前記粉剤および重合開始剤(D)を混合することにより、調製することができる。
【0065】
〈生体組織の前処理〉
本発明の硬化性組成物を生体組織(特に硬組織)に対して適用する前に、生体組織を前処理材で処理することが好ましい場合がある。前処理材の適用態様としては、生体組織に対する塗布や噴霧である。前処理材に含まれる成分としては、例えば、酸、アルカリ、キレート剤、金属化合物、重合性単量体、水系溶媒が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸、アルコルビン酸などの有機酸;リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、二リン酸、塩酸、硝酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などの無機酸が挙げられる。
【0067】
アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、アンモニア水、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウムが挙げられる。
【0068】
キレート剤としては、例えば、CyDTA(trans−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン−N,N,N’ ,N”,N”−五酢酸)、EDDA(エチレンジアミン−N,N’−二酢酸)、EDTA(エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸)、GEDTA(3,6−ジオキサ−1,8−オクタジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸)、HEDTA(N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸)、HIDA(N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N”,N”’,N”’−六酢酸)、その他アルカリ土類金属(例:カルシウム、マグネシウム)をキレート可能なキレート剤が挙げられる。
【0069】
金属化合物としては、例えば、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スカンジウム、バナジウム、イットリウム、ジルコニウム、ロジウム、パラジウム、銀、セリウム、ネオジウム、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金などの遷移金属元素を含む金属化合物が挙げられる。
【0070】
重合性単量体としては、例えば、上述の成分(A)が挙げられる。
水系溶媒としては、例えば、水、水と水に混合し得る有機溶媒との混合溶媒、生理食塩水が挙げられる。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水が挙げられる。水に混合し得る有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン等のエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミドが挙げられる。
【0071】
〔硬化体〕
本発明の硬化性組成物を予め硬化体としておくことで、例えば硬組織(例:骨、歯牙)の欠損部、硬組織と硬組織との空隙、硬組織と軟組織との空隙、および軟組織と軟組織との空隙に挿入するための補填材として、当該硬化体を使用できる。硬化体の形状としては、例えば、ブロック状、顆粒状、板状が挙げられる。
【0072】
ブロック状の硬化体は、例えば、硬組織の欠損部の型を作成し、その型に本発明の硬化性組成物を充填・硬化させることで製造できる。また、予め用意しておいた適当な大きさ・形(例:円柱状、立方体状、直方体状)の型に本発明の硬化性組成物を充填・硬化させることでも製造できる。顆粒状の硬化体は、例えば、予め調製した硬化体を粉砕するなどして製造できる。板状の硬化体は、例えば、予め用意しておいた薄い形(例:円柱状、立方体状、直方体状)の型に本発明の硬化性組成物を充填し、表面を平らな板(例:ガラス板)で挟み込んで硬化させることで製造できる。前記製造においては、例えばポリスチレン製、テフロン製、テフロン被膜を施した金属製の型を用いることができる。
【0073】
硬化体の製造時には、内容物が不均一になることを防ぐために、型ごと振とうや攪拌することなども可能である。この際に、本発明の硬化性組成物を塗布後に表面に水蒸気などを噴霧することで、本発明の硬化性組成物が水分と反応して硬化が促されることや、水分存在下で硬化させることで表面に凹凸が形成されやすくなる。硬化体表面を研磨することで凹凸をつけることも可能である。このように形成される表面の凹凸は、生体との適合性を向上させることが期待できる。
【0074】
本発明の硬化体は、表面粗さがRa値3.6μm以上かつSm値30.0μm以上となる表面凹凸構造を有する。Ra値は、通常3.6μm以上、好ましくは3.6〜300μm、より好ましくは4.0〜250μm、更に好ましくは5.0〜200μm、特に好ましくは6.0〜150μmである。Sm値は、通常30.0μm以上、好ましくは36.0〜700μm、より好ましくは38.0〜600μm、更に好ましくは40.0〜550μm、特に好ましくは42.0〜500μmである。
【0075】
本発明の硬化体は、上述の硬化性組成物を硬化して得られる。硬化温度は、通常0〜80℃、好ましくは5〜70℃、より好ましくは10〜60℃である。硬化時間は、通常0.015〜72時間、好ましくは0.05〜48時間、より好ましくは0.1〜24時間である。硬化は、水分と接する環境下(例:空気中、高湿度環境下、水中)で行うことが好ましい。
【0076】
本発明の硬化体は、上述の表面粗さ(Ra値、Sm値)の表面凹凸構造を有する。また、本発明の硬化体を水中に浸漬した場合、硬化体表面からカルシウムイオンが遊離するもしくはカルシウム塩が溶出する。また、エネルギー分散形X線分光器により本発明の硬化体を分析した場合、硬化体表面付近にカルシウム元素が検出される。
【0077】
硬化体の浸漬液中のカルシウムイオン含量(φ20×1.5mmの硬化体を20mlの超純水に37℃で3日間浸漬した際の溶液中のカルシウムイオン濃度、重量基準)は、好ましくは0.001ppm以上、より好ましくは0.01ppm以上、さらに好ましくは0.015ppm以上である。上限値は特に限定されないが、1000ppm程度である。カルシウムイオン含量は、ICP(Inductively coupled plasma)発光分光分析装置を用いて測定することが出来る。
【0078】
硬化体におけるカルシウム元素の検出強度は、好ましくは0.1atоmic%以上である。上限値は特に限定されないが、90atomic%程度である。硬化体表面付近でのカルシウム元素は、例えば、エネルギー分散形X線分光器(日本電子(株)製、JSM−5610LV)を用いて、加速電圧:20kV、SSM計数率モニター:10〜35%範囲内の条件で検出される。なお、カルシウム塩のサイズや重量分率による統計的ばらつきを防ぐため、サンプルに応じた測定方法や統計的手法を用いることが好ましい。例えば、測定スポットサイズ:1μm四方、測定スポット数:20ヶ所以上、スポット間隔:5μm以上の条件で測定を行い、平均する手法が挙げられる。
【0079】
〔硬化性組成物および硬化体の用途〕
本発明の硬化性組成物および硬化体の用途は、歯科および口腔外科に留まらず、歯科および口腔外科以外の外科の分野に亘る。本発明の硬化性組成物および硬化体は、具体的には、生体組織の新生を促がすことが可能であり、硬組織(例:骨、歯牙)および硬組織周辺の軟組織などの生体組織を修復するための材料として好適に用いられる。
【0080】
本発明の硬化性組成物および本発明の硬化性組成物から得られる硬化体は、例えば、(1)生体の硬組織と硬組織との接合、(2)生体の硬組織と軟組織との接合、(3)生体の硬組織または軟組織と生体埋入部材との接合に、すなわちこれらの接合剤(硬化性組成物の場合)、接合材(硬化体の場合)として好適に用いることができ、また(4)硬組織の欠損部、硬組織と硬組織との空隙、硬組織と軟組織との空隙、または軟組織と軟組織との空隙に充填および挿入するための補填剤(硬化性組成物の場合)、補填材(硬化体の場合)として好適に用いることができる。
【0081】
本発明の硬化性組成物および硬化体は、生体埋入部材の表面を被覆するための被覆剤(表面被覆剤、硬化性組成物の場合)、被覆材(硬化体の場合)として好適に用いることもできる。前記組成物で生体埋入部材の表面を被覆することで、生体埋入部材と硬組織(例:骨、歯牙)との接合を促すことができ、また硬組織の新生を促がすことが可能である。
【0082】
例えば、生体埋入部材の表面に本発明の硬化性組成物を塗布し、硬化させることで生体埋入部材の表面を被覆することが出来る。この際に、本発明の硬化性組成物を塗布後に表面に水蒸気などを噴霧することで、本発明の硬化性組成物が水分と反応して硬化が促されることや、水分存在下で硬化させることで表面に凹凸が形成されやすくなる。硬化体表面を研磨することで凹凸をつけることも可能である。このように形成される表面の凹凸は、生体との適合性を向上させることが期待できる。
【0083】
生体埋入部材としては、例えば、金属製、セラミックス製または樹脂製の部材が挙げられ、具体的には金属製または樹脂製の人工関節、骨折時などに用いられる金属プレート、スクリュー、ネジが挙げられる。また、生体埋入部材は、表面が本発明の硬化体により被覆されていてもよい。
【0084】
〔生体組織修復用のキット〕
本発明の生体組織修復用のキットは、上述の硬化性組成物および/または硬化体を含む。キットの構成要素である硬化性組成物は、上述の重合性単量体(A)を含む液剤と、上述の重合体(B)およびカルシウム塩(C)を含む粉剤と、上述の重合開始剤(D)等とから構成される。添加剤は、種類に応じて前記各構成成分(例:粉剤、液剤、重合開始剤(D))に適宜配合することができる。液剤、粉剤および重合開始剤(D)の構成割合は、これらの混合時に各成分(例:成分(A)〜(D))の含有割合が上述の範囲内になるように設定される。
【0085】
本発明の生体組織修復用のキットは、上述の硬化性組成物および硬化体を含むこと、すなわち上記液剤と上記粉剤と上記重合開始剤(D)とに加えて上記硬化体とから構成されることが好ましい。このように構成されたキットを用いることにより、大きな硬組織欠損部位の埋入手術を容易に行えるだけでなく、手術時に術者や患者に重合性単量体(A)の蒸気の曝露を少なくすることも可能となる。
【0086】
本発明の生体組織修復用のキットは、さらに前処理剤を含むことが好ましい。すなわち前記キットは、上記液剤と上記粉剤と上記重合開始剤(D)(さらに好ましくは上記硬化体)とに加えて前処理剤とから構成されることが好ましい。前処理剤としては、〈生体組織の前処理〉で例示した前処理剤が挙げられる。
【0087】
本発明の生体組織修復用のキットは、さらに上述の硬化体で被覆された生体埋入部材を含んでいてもよい。また、前記キットは、液剤、粉剤および重合開始剤(D)等を混合する際に必要な器材、硬化性組成物を充填する際に用いる器材(例:注射器類似の器材)などを含んでいてもよい。
【0088】
本発明の生体組織修復用のキットの用途は以下のとおりである。例えば、予め硬化性組成物から得られた硬化体を用意し、さらに使用直前に液剤、粉剤および重合開始剤(D)等を混合して硬化性組成物を調製し、次いで前記組成物を上述の〔硬化性組成物および硬化体の用途〕に記載した用途に従って使用することができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により更に詳述するが、本発明は実施例に限定されない。
[実施例1]
9.5gのメチルメタクリレートに0.5gの4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物を溶解させ、混合し、液剤Aを得た。3.0gのポリメチルメタクリレート粉末(90重量%以上が分子量30万〜50万)と7.0gの炭酸カルシウム(90重量%以上が粒径約5〜20μm)とを混合し、粉剤Bを得た。
【0090】
900mgの液剤Aと、800mgの粉剤Bと、トリブチルボランの部分酸化物(サンメディカル(株)製、酸素付加量はトリブチルボラン1モルに対して0.5モルである。)60mgを混合し、実施例1の硬化性組成物を得た。
【0091】
[実施例2]
9.5gのメチルメタクリレートに0.5gの4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物を溶解させ、混合し、液剤Aを得た。9.0gのポリメチルメタクリレート粉末(90重量%以上が分子量30万〜50万)と1.0gの炭酸カルシウム(90重量%以上が粒径約5〜20μm)とを混合し、粉剤Cを得た。
900mgの液剤Aと、800mgの粉剤Cと、60mgの上記トリブチルボランの部分酸化物とを筆で混合し、実施例2の硬化性組成物を得た。
【0092】
[比較例1]
9.5gのメチルメタクリレートに0.5gの4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物を溶解させ、混合し、液剤Aを得た。
【0093】
900mgの液剤Aと、800mgの上記ポリメチルメタクリレート粉末からなる粉剤と、60mgの上記トリブチルボランの部分酸化物とを混合し、比較例1の硬化性組成物を得た。
【0094】
以上の実施例および比較例の硬化性組成物を用いて以下の試験例1〜4を行った。なお、実施例1および2、比較例1の各硬化性組成物は、下記試験例を実施する直前に調製した。
【0095】
〔試験例1〕
ガラス板の上にセロハンフィルムを置き、更に前記フィルムの上にφ35×2mmの穴の空いた50×50×2mmのテフロンモールドを置いた。前記穴に実施例1の硬化性組成物と比較例1の硬化性組成物をそれぞれ充填し、上部開放状態にて前記組成物を湿潤環境下37℃で一晩(12時間)硬化させ、各硬化体を調製した。硬化体の表面粗さ(Ra値、Sm値)を、高精度形状測定システムKS−1100((株)キーエンス製)を用いて測定した。結果を以下に示す。
実施例1の硬化性組成物から得られた硬化体:
Ra=9.7±0.9μm、Sm=43.3±12.6μm
比較例1の硬化性組成物から得られた硬化体:
Ra=2.9±0.3μm、Sm=34.8±2.3μm
【0096】
〔試験例2〕
0.485gのイーグルMEM培地(粉末)(日本製薬(株)製)と50mlの超純水とを混合し、得られた混合物に炭酸水素ナトリウムを添加してpH7.5に調整した後、濾過滅菌した。濾過滅菌後の混合物に、“2gの寒天と50mlの超純水とを混合し、120℃で20分間の条件でオートクレーブ滅菌して得られた滅菌物”を添加・混合し、得られた滅菌混合物を15ml培養チューブに10ml添加して、固化するまで室温で放置し、寒天培地を得た。
【0097】
上記の実施例1と比較例1の各硬化性組成物を各々シリンジに充填し、シリンジ先端を上記固化後の寒天培地内に挿入して、前記硬化性組成物を培地内に注入した。寒天培地内で前記組成物を37℃で1週間硬化させた後、得られた各々の硬化体を水洗・乾燥して、適度な大きさに切断し、白金蒸着を施した。
【0098】
白金蒸着後の硬化体表面をSEMで観察した。その結果、実施例1の硬化性組成物から形成された硬化体表面には、直径5〜20μm程度の均一な球状、および一辺が3〜10μm程度の立方体状の構造物からなる凹凸が確認された。比較例1の硬化性組成物から形成された硬化体では、このような構造物はほとんど確認できなかった。
【0099】
〔試験例3〕
ガラス板の上にセロハンフィルムを置き、更に前記フィルムの上にφ20×1.5mmの穴の空いた50×50×1.5mmのテフロンモールドを置いた。前記穴に実施例1および2、比較例1の各硬化性組成物を充填し、上部開放状態にて前記組成物を37℃で一晩(12時間)硬化させ、各硬化体を調製した。
【0100】
上記硬化体を20mlの超純水中に浸漬し、37℃で3日間放置した。前記放置後の浸漬液中のカルシウムイオン含量を、ICP発光分光分析装置(セイコー電子工業社製、SPS7700)を用いて測定した。その結果、カルシウムイオンの標準溶液から換算したカルシウムイオン含量は以下のとおりであった。
実施例1の硬化性組成物から得られた硬化体: 7.5ppm、
実施例2の硬化性組成物から得られた硬化体:0.02ppm
比較例1の硬化性組成物から得られた硬化体: 0ppm
【0101】
上記硬化体表面の構成元素を、エネルギー分散形X線分光器(日本電子(株)製、JSM−5610LV)を用いて、加速電圧:20kV、SSM計数率モニター:15〜35%、測定スポットサイズ:約1μm四方、測定スポット数:30ヶ所、スポット間隔:約5μmの条件で分析した。カルシウムの検出量は以下のとおりであった。
実施例1の硬化性組成物から得られた硬化体:38.53atоmic%、
実施例2の硬化性組成物から得られた硬化体: 0.94atоmic%
比較例1の硬化性組成物から得られた硬化体: 0atоmic%
【0102】
〔試験例4〕
実施例1および比較例1の各硬化性組成物をφ1mm×5mmの円柱状チューブに充填および硬化し、表面を#220の耐水研磨紙で研磨して、埋入用の硬化体試料を調製した。
【0103】
11週齢のWistar系雄性ラットに対して、ジエチルエーテルおよびペントバルビタール(ネンブタール、大日本住友製薬(株)製)を用いて全身麻酔を施し、大腿骨に骨髄穿孔した。前記孔に上記の実施例1と比較例1の硬化体試料を埋入し、上部に比較例1の硬化性組成物を塗布して固定した後、皮弁を復位縫合した。
【0104】
2週、4週、8週間の観察期間終了後に、埋入した硬化体試料およびその周辺組織を採取して、10%中性緩衝ホルマリン溶液にて浸漬固定を行った。さらに、10%EDTAで脱解後、通法通りパラフィン包埋して、厚さ6μmの薄切標本を作製した。薄切標本をヘマトキシリン−エオジンにて染色し、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0105】
その結果、2週目から、実施例1の硬化性組成物および比較例1の硬化性組成物から形成された硬化体試料ともにその周囲に新生骨が出現した。8週目には、硬化体試料の周囲一層を新生骨が取り囲んだ。8週目に硬化体試料と新生骨との界面を観察したところ、実施例1の硬化性組成物より得られた硬化体試料の場合は硬化体試料と新生骨とが直接接合している像が確認されたが、比較例1の硬化性組成物より得られた硬化体試料の場合は硬化体試料と新生骨との間に軟組織と思われる細胞層が観察され、硬化体試料と新生骨とが直接接合した面積が少ない結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム塩を含有する硬化性組成物であり、前記硬化性組成物を37℃で12時間硬化して得られる硬化体が、表面粗さがRa値3.6μm以上かつSm値30.0μm以上となる表面凹凸構造を有する、生体組織修復用の硬化性組成物。
【請求項2】
(A)重合性基を一つ有する化合物を含む重合性単量体を10〜90重量%、
(B)ラジカル重合性単量体に由来する構成単位を有する重合体を3〜70重量%、
(C)カルシウム塩を4〜80重量%、および
(D)ホウ素化合物を含む重合開始剤を0.1〜20重量%
の範囲(ただし、成分(A)〜(D)の含有量の合計を100重量%とする。)で含有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
成分(C)が、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、および酸化カルシウムから選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記硬化性組成物より形成された硬化体を水中に浸漬した場合に、前記硬化体表面からカルシウムイオンが遊離するもしくはカルシウム塩が溶出する、および/または前記硬化性組成物より形成された硬化体をエネルギー分散形X線分光器により分析した場合に、硬化体表面付近にカルシウム元素が検出される、請求項1〜3の何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
生体の硬組織と硬組織との接合、
生体の硬組織と軟組織との接合、もしくは
生体の硬組織もしくは軟組織と生体埋入部材との接合に用いられる接合剤;
硬組織の欠損部、
硬組織と硬組織との空隙、
硬組織と軟組織との空隙、もしくは
軟組織と軟組織との空隙に充填するための補填剤;または
生体埋入部材の表面被覆剤;
である、請求項1〜4の何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の硬化性組成物より得られた硬化体。
【請求項7】
表面粗さがRa値3.6μm以上かつSm値30.0μm以上となる表面凹凸構造を有する、請求項6に記載の硬化体。
【請求項8】
ブロック状、顆粒状または板状である、請求項6または7に記載の硬化体。
【請求項9】
生体の硬組織と硬組織との接合、
生体の硬組織と軟組織との接合、もしくは
生体の硬組織もしくは軟組織と生体埋入部材との接合に用いられる接合材;
硬組織の欠損部、
硬組織と硬組織との空隙、
硬組織と軟組織との空隙、もしくは
軟組織と軟組織との空隙に挿入するための補填材;または
生体埋入部材の被覆材;
である、請求項6〜8の何れか一項に記載の硬化体。
【請求項10】
請求項1〜5の何れか一項に記載の硬化性組成物、および/または
請求項6〜9の何れか一項に記載の硬化体
を含む生体組織修復用のキット。
【請求項11】
さらに、酸、アルカリ、キレート剤、金属化合物、重合性単量体および水系溶媒から選択される少なくとも一種を含む前処理剤、および/または請求項6〜9の何れか一項に記載の硬化体で被覆された生体埋入部材を含む、請求項10に記載の生体組織修復用のキット。
【請求項12】
生体の硬組織と硬組織との接合、
生体の硬組織と軟組織との接合、または
生体の硬組織もしくは軟組織と生体埋入部材との接合
に用いられる、請求項10または11に記載の生体組織修復用のキット。

【公開番号】特開2012−85857(P2012−85857A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235625(P2010−235625)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】