説明

生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための加工細胞

【課題】生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための加工細胞等を提供すること。
【解決手段】生体組織から分離された状態にある細胞に、下記のいずれかの加工処理を施すことにより得られることを特徴とする加工細胞等。
<加工処理>
(1)特定アミノ酸配列を有するタンパク質又は特定塩基配列を有する遺伝子を導入する処理
(2)特定アミノ酸配列を有するタンパク質を産生させるために、特定塩基配列を有する遺伝子の発現を誘導する物質を接触させる処理

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための加工細胞等に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、例えば、脳卒中、退化性神経疾患、脊椎損傷、筋骨格疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、心筋梗塞等の心不全症、糖尿病、肝炎、肝硬変、肝癌等の肝機能不全症、慢性腎不全症等のような組織・臓器機能不全症(以下、総じて「機能不全疾」と記すこともある。)を患う者に対して、骨髄や臍帯血に存在する細胞又はそれらを培養・加工した細胞を移植することにより、組織や臓器の機能を回復させる再生医療に注目が集まっている。特に、脳は、一度損傷を受けると再生しないと言われてきたが、間葉系幹細胞を含む骨髄液を脳梗塞患者に注入したところ、脳機能が改善することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、自己の骨髄細胞から分離されたCD133陽性細胞を部分肝切除した肝癌患者に投与した結果、肝臓の体積が顕著に増加することが報告されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
このように、組織・臓器機能を改善させるような、所謂、生体組織再生能力が付与された細胞が開発され、当該細胞を「生体組織再生を促進させる薬剤」の有効成分として利用することが期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Dharmasaroja P.他、「Bone marrow-derived mesenchymal stem cells for the treatment of ischemic stroke」, Journal of Clinical Neuroscience, Vol. 22, pp. 308−321 (2008)
【非特許文献2】Esch J.他、「Portal application of autologous CD133+ bone marrow cells to the liver: A novel concept to support hepatic regeneration」, Stem Cells, Vol. 23, pp. 463−470 (2005)
【非特許文献3】Furst G. 他、「Portal vein embolization and autologous CD133+ bone marrow stem cells for liver regeneration」, Radiology, Vol. 243, pp. 171−179 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための加工細胞等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、このような状況下鋭意検討を行った結果、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.生体組織から分離された状態にある細胞に、下記のいずれかの加工処理(以下、本加工処理と記すこともある。)を施すことにより得られることを特徴とする加工細胞(以下、本発明加工細胞と記すこともある。);
<加工処理>
(1)下記のアミノ酸配列(以下、本アミノ酸配列と記すこともある。)のいずれかを有するタンパク質(以下、本タンパク質と記すこともある。)又は下記の塩基配列(以下、本塩基配列と記すこともある。)のいずれかを有する遺伝子(以下、本遺伝子と記すこともある。)を導入する処理
(2)下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質を産生させるために、下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子の発現を誘導する物質(以下、本発現誘導物質と記すこともある。)を接触させる処理
<アミノ酸配列>
a)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列がコードするアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力(以下、本再生促進能力と記すこともある。)を有するタンパク質のアミノ酸配列。
c)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
d)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
<塩基配列>
a)配列番号2又は4で示される塩基配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
c)配列番号2又は4で示される塩基配列において1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
d)配列番号2又は4で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
2.前記細胞が、哺乳動物由来の細胞であることを特徴とする前項1記載の加工細胞;
3.下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質又は下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子が、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号2又は4で示される塩基配列を有する遺伝子であることを特徴とする前項1又は2記載の加工細胞;
4.細胞に対して生体組織再生能力を付与する方法であり、
生体組織から分離された状態にある細胞に、下記のいずれかの加工処理を施す工程を含むことを特徴とする方法(以下、本発明方法と記すこともある);
<加工処理>
(1)下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質又は下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子を導入する処理
(2)下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質を産生させるために、下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子の発現を誘導する物質を接触させる処理
<アミノ酸配列>
a)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列がコードするアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
c)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
d)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
<塩基配列>
a)配列番号2又は4で示される塩基配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
c)配列番号2又は4で示される塩基配列において1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
d)配列番号2又は4で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
5.生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための、前項1乃至3記載の加工細胞の使用(以下、本発明使用と記すこともある);
6.生体組織再生を促進させる薬剤が、機能不全疾改善剤であることを特徴とする前項5記載の使用;
7.機能不全疾改善剤が、肝機能不全疾改善剤であることを特徴とする前項6記載の使用;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、新たな生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための加工細胞等を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載される発明は記載されている特定の方法論、プロトコ−ル、及び、試薬に限定されず、可変であると考えられる。また、本明細書で用いる用語は単に特定の実施形態を記載するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではないと考えられる。
特に断りの無い限り、本明細書で用いる全ての技術用語、及び、化学用語は、本発明が属する技術分野の熟練者に共通に理解されているものと同じ意味を持つ。本発明を実施又は試験する上で、本明細書に記載されているものと同様又は同等の方法、及び、材料のいずれを用いてもよいが、以下、好ましい方法、装置、及び、材料を記載する。
【0008】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
本発明加工細胞は、生体組織から分離された状態にある細胞に、下記のいずれかの加工処理(即ち、本加工処理)を施すことにより得られる。
本発明における「本加工処理」としては、(1)下記のアミノ酸配列(即ち、本アミノ酸配列)のいずれかを有するタンパク質(即ち、本タンパク質)又は下記の塩基配列(即ち、本塩基配列)のいずれかを有する遺伝子(即ち、本遺伝子)を導入する処理、(2)下記のアミノ酸配列(即ち、本アミノ酸配列)のいずれかを有するタンパク質(即ち、本タンパク質)を産生させるために、下記の塩基配列(即ち、本塩基配列)のいずれかを有する遺伝子(即ち、本遺伝子)の発現を誘導する物質を接触させる処理、を挙げることができる。
好ましい「本発明加工細胞」としては、例えば、哺乳動物由来の細胞を挙げることができる。ここで「哺乳動物由来の細胞」としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター等の哺乳動物由来の細胞を挙げることができる。
【0009】
本加工処理を施す細胞は、生体組織から分離された状態にある細胞である。ここで「生体組織から分離された状態」としては、例えば、同一の機能・形態を持つ集団を形成していない細胞や、前記哺乳動物の体内から取り出され、その体外に存在する細胞等を挙げることができる。
【0010】
本発明における「本タンパク質」は、下記のアミノ酸配列(即ち、本アミノ酸配列)のいずれかを有する。
<アミノ酸配列>
a)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列がコードするアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
c)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
d)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
【0011】
前記b)にある「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)を含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
【0012】
前記c)にある「アミノ酸が欠失、置換若しくは付加」や前記d)にある「80%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質が細胞内で受けるプロセシング、該タンパク質が由来する生物の種差、個体差、器官、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異(例えば、部位特異的変異導入法や突然変異処理等によって、天然のタンパク質をコードするDNAに変異を導入し発現させることにより作出されたタンパク質が有するアミノ酸配列中に存在するアミノ酸の変異)等が含まれる。
【0013】
前記c)にある「アミノ酸が欠失、置換若しくは付加」(以下、総じて「アミノ酸の改変」と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは複数(ここで「複数」とは、2〜約10個程度である。)、又はそれ以上である。かかる改変の数は、生体組織再生を促進させる能力を見出すことができる範囲であれば良い。
また前記欠失、置換若しくは付加のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、(a)グリシン、アラニン;(b)バリン、イソロイシン、ロイシン;(c)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(d)セリン、スレオニン;(e)リジン、アルギニン;(f)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
【0014】
前記d)にある「配列同一性」とは、2つのタンパク質間の配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のタンパク質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res.,22(22):4673-4680(1994)を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYX-MACや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ddbj.nig.ac.jpにおいて、一般的に利用可能である。
【0015】
前記d)にある配列同一性は、例えば、アミノ酸配列基準の場合には80%以上であることが好ましい。もちろん上記条件を満たす限りにおいて、例えば、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列のうち、第222番から第316番までのアミノ配列における配列同一性が実質的にほぼ100%であり、第354番から第451番までのアミノ配列における配列同一性が50%以上であるような配列同一性であってもよい。
【0016】
尚、本タンパク質のうち、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質は、マウス由来のOGFRL1(Opioid Growth Factor Receptor Like 1)(GenBank Accession No. NM_001081079)として知られている。また、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質は、ヒト由来のOGFRL1(Opioid Growth Factor Receptor Like 1)(GenBank Accession No. NM_024576)として知られている。尚、両者間でのアミノ酸配列上の相同性は81%である。
因みに、本タンパク質をコードする遺伝子のORFが約1.3kbの塩基配列からなることが知られているが、その機能・生理作用等に関する知見は何ら存在していない。
【0017】
本タンパク質は、SDS-PAGEでの分子量として約4万以上約6万以下の分子量であることが好ましく、特に約4万以上約5万以下程度の分子量が適している。
本タンパク質の調製方法(本タンパク質をコードする遺伝子の調製方法を含む)について以下に説明する。
【0018】
まず、本タンパク質をコードする遺伝子(具体的には、本遺伝子)、例えば、(a)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列(具体的には、配列番号2又は4)を有するDNA;
(b)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列であり、かつ生体組織再生を促進する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA;
(c)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAであり、かつ生体組織再生を促進する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA;
(d)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAであり、かつ生体組織再生を促進する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA;
(e)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ生体組織再生を促進する能力を有する蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
等を、通常の遺伝子工学的方法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて取得する。次いで、得られた本遺伝子を用いることにより、通常の遺伝子工学的方法に準じて本タンパク質を製造・取得する。このようにして本タンパク質を調製することができる。
【0019】
具体的には、まず、ヒト、マウス又はラット等の組織、細胞やこれらに由来する培養細胞などからRNAを調製する。例えば、マウス肝細胞等を塩酸グアニジンやグアニジンチオシアネート等の強力な蛋白質変性剤を含む溶液中で粉砕し、さらに該粉砕物にフェノール、クロロホルム等を加えることによりタンパク質を変性させる。変性タンパク質を遠心分離等により除去した後、回収された上清画分から塩酸グアニジン/フェノール法、SDS−フェノール法、グアニジンチオシアネート/CsCl法等の方法により全RNAを抽出する。なお、これらの方法に基づいた市販の試薬としては、例えばISOGEN(ニッポンジーン製)、トリゾル試薬(Gibco BRL)等がある。
【0020】
得られた全RNAを鋳型としてオリゴdTプライマーをRNAのポリA配列にアニールさせ、逆転写酵素を作用させることにより一本鎖cDNAを合成する。次いで、該一本鎖cDNAを鋳型とし、かつ本タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号2又は4で示される塩基配列)に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す。)を行うことにより、本遺伝子を増幅し、取得することができる。
【0021】
また、上記の一本鎖cDNAを鋳型としてDNAポリメラーゼを作用させることにより二本鎖のcDNAを合成する。得られた二本鎖cDNAを、例えばプラスミドpUC118やファージλgt10などのベクターに挿入することによりcDNAライブラリーを作製する。このようにして得られるcDNAライブラリーや市販のcDNAライブラリーから、例えば、かつ本タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列)の部分塩基配列を有するDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法や、かつ本タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列)に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRにより、本遺伝子を取得することもできる。
【0022】
PCRに用いるプライマーとしては、例えば、約20bpから約50bp程度の長さでかつGまたはC塩基の割合が約40%から約60%程度の塩基配列を、上記のような本タンパク質をコードする既知の塩基配列から選択し、該塩基配列に基いてオリゴヌクレオチドを設計し、合成するとよい。具体的には、例えば、マウス由来の本遺伝子を取得するには、フォワードプライマーとして配列番号5で示される塩基配列(配列番号5:caccatgggcaacctgctcggcggg)からなるオリゴヌクレオチドを用いることができ、リバースプライマーとして配列番号6で示される塩基配列(配列番号6:accagaactggtttgtgggtttg)からなるオリゴヌクレオチドを用いることができる。また、具体的には、例えば、ヒト由来の本遺伝子を取得するには、フォワードプライマーとして配列番号5で示される塩基配列(配列番号5:caccatgggcaacctgctcggcggg)からなるオリゴヌクレオチドを用いることができ、リバースプライマーとして配列番号13で示される塩基配列(配列番号13:ctgtactagtacaacatcatggc)からなるオリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0023】
得られた本遺伝子の塩基配列は、Maxam Gilbert法 (例えば、Maxam,A.M & W.Gilbert, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 560, 1977 等に記載される)やSanger法(例えばSanger,F. & A.R.Coulson, J.Mol.Biol., 94, 441, 1975、Sanger,F, & Nicklen and A.R.Coulson., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 5463, 1977等に記載される)により確認することができる。
【0024】
本遺伝子は、例えば、J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラー クローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年等記載の遺伝子工学的方法に準じてベクターにクローニングすることができる。
【0025】
ベクターとしては、具体的には、大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えばプラスミドpUC119(宝酒造(株)製)や、ファージミドpBluescriptII(ストラタジーン社製)等をあげることができる。出芽酵母を宿主細胞とする場合には、プラスミドpACT2(Clontech社製)などをあげることができる。また、哺乳動物由来の細胞を宿主細胞とする場合には、pRC/RSV、pRC/CMV(Invitrogen社製)等のプラスミド、ウシパピローマウイルスプラスミドpBPV(アマシャムファルマシア社製)、EBウイルスプラスミドpCEP4(Invitrogen社製)等のウイルス由来の自律複製起点を含むベクター、ワクシニアウイルス等のウイルスなどをあげることができる。昆虫類動物由来の細胞(以下、昆虫細胞と記す。)を宿主細胞とする場合には、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスをあげることができる。
【0026】
本遺伝子の上流に、宿主細胞で機能可能なプロモーターを機能可能な形で結合させ、これを上述のようなベクターに組み込むことにより、本遺伝子を宿主細胞で発現させることの可能な発現ベクターを構築することができる。ここで、「機能可能な形で結合させる」とは、本遺伝子が宿主細胞に導入された際に、宿主細胞においてプロモーターの制御下に発現されるように、当該プロモーターと本遺伝子とを結合させることを意味する。宿主細胞で機能可能なプロモーターとしては、例えば、宿主細胞が大腸菌である場合には、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター(lacP)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trpP)、アルギニンオペロンのプロモーター(argP)、ガラクトースオペロンのプロモーター(galP)、tacプロモーターもしくはtrcプロモーター等の大腸菌内で機能可能な合成プロモーター、T7プロモーター、T3プロモーター、λファージのプロモーター(λ-pL、λ-pR)等をあげることができる。また、宿主細胞が動物細胞や分裂酵母である場合には、例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス(SV40)の初期もしくは後期プロモーター、マウス乳頭腫ウイルス(MMTV)プロモーター等をあげることができる。宿主細胞が出芽酵母である場合には、ADH1プロモーター(尚、ADH1プロモーターは、例えばADH1プロモーター及び同ターミネーターを保持する酵母発現ベクターpAAH5 〔Washington Research Fundation から入手可能、Ammerer ら、Method in Enzymology、101 part(p.192-201)〕から通常の遺伝子工学的方法により調製することができる。
【0027】
一般的には、宿主細胞で機能可能なプロモーターと本遺伝子とが機能可能な形で接続されてなるDNAを、宿主細胞で利用可能なベクターに組込んで、これを宿主細胞に導入する。宿主細胞において機能可能なプロモーターをあらかじめ保有するベクターを使用する場合には、ベクター保有のプロモーターと本遺伝子とが機能可能な形で結合するように、該プロモーターの下流に本遺伝子を挿入すればよい。例えば、前述のプラスミドpRC/RSV,pRC/CMV等は、動物細胞で機能可能なプロモーターの下流にクローニング部位が設けられており、当該クローニング部位に本遺伝子を挿入し動物細胞へ導入することにより、本遺伝子を発現させることができる。また、前述の酵母用プラスミドpACT2はADH1プロモーターを有しており、当該プラスミドまたはその誘導体のADH1プロモーターの下流に本遺伝子を挿入すれば、本遺伝子を例えばCG1945(Clontech社製)等の出芽酵母内で発現させることが可能な発現ベクターが構築できる。マーカー遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の抗生物質耐性付与遺伝子など)を含むベクターを用いると、本遺伝子が導入された形質転換体を当該マーカー遺伝子の表現型等を指標にして選択する際に便利である。
【0028】
さらなる高発現を導くことが必要な場合には、本タンパク質をコードする遺伝子の上流にリボゾーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボゾーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
【0029】
本遺伝子が組み込まれたベクター(以下、本ベクターと記すこともある。)を宿主細胞へ導入する方法としては、宿主細胞に応じた通常の導入方法を適用することができる。例えば、大腸菌を宿主細胞とする場合には、「モレキュラー・クローニング」(J.Sambrookら、コールド・スプリング・ハーバー、1989年)等に記載される塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法等の通常の方法を用いることにより本ベクターを宿主細胞へ導入することができる。また、哺乳動物由来の細胞または昆虫細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法またはリポフェクション法等の一般的な遺伝子導入法により前記細胞に本ベクターを導入することができる。酵母菌を宿主細胞とする場合には、例えば、リチウム法を基にしたYeast transformation kit(Clontech社製)などを用いて導入することができる。
【0030】
本ベクターが導入された形質転換体を選抜するには、例えば、本ベクターと同時に下記のようなマーカー遺伝子を宿主細胞に導入し、導入されたマーカー遺伝子の性質に応じた方法で本ベクターが導入された宿主細胞を培養すればよい。例えば、当該マーカー遺伝子が、宿主細胞に致死活性を示す選抜薬剤に対する薬剤耐性を付与する遺伝子(薬剤耐性付与遺伝子)である場合には、該薬剤を添加した培地を用いて、本ベクターが導入された宿主細胞を培養すれば良い。薬剤耐性付与遺伝子と選抜薬剤との組み合わせとしては、例えば、ネオマイシン耐性付与遺伝子とネオマイシンとの組み合わせ、ハイグロマイシン耐性付与遺伝子とハイグロマイシンとの組み合わせ、ブラストサイジンS耐性付与遺伝子とブラストサイジンSとの組み合わせ等をあげることができる。また、当該マーカー遺伝子が宿主細胞の栄養要求性を相補する遺伝子である場合には、該栄養素を含まない最少培地を用いて、本ベクターが導入された細胞を培養すればよい。
【0031】
上述のようにして得られた本ベクターが導入された形質転換体(以下、本形質転換体と記すこともある。)を培養することにより本遺伝子にコードされる本タンパク質を産生させることができる。
【0032】
例えば、本形質転換体が微生物である場合には、形質転換体は、通常、一般微生物における培養に使用される炭素源や窒素源、有機ないし無機塩等を適宜含む各種の培地を用いて培養される。培地のpHは約6〜約8程度が一般的である。培養は、一般微生物における通常の方法に準じて行い、固体培養、液体培養(試験管振とう式培養、往復式振とう培養、ジャーファーメンター(Jar Fermenter)培養、タンク培養等)などが可能である。培養温度は、微生物が生育する範囲で適宜変更できるが、例えば、約15℃〜約40℃の培養温度で培養するのが一般的である。培養時間は、種々の培養条件によって異なるが、通常約1〜約5日間である。温度シフト型やIPTG誘導型等の誘導型の発現ベクターを用いた場合には誘導時間は1日以内が望ましく、通常数時間程度である。
【0033】
また、本形質転換体が哺乳動物や昆虫類等由来の細胞である場合には、形質転換体は、通常、一般の培養細胞における培養に使用される培地を用いて培養することができる。本形質転換体の選択に選抜薬剤を用いた場合には、当該選抜薬剤の存在下に培養するのが望ましい。哺乳動物由来の細胞の場合には、例えば、終濃度が10%となるようFBSが添加されたD−MEM培地(ニッスイ社製等)を用い、37℃、5%CO2存在下等の条件下で数日毎に新しい培養液に交換しながら培養すればよい。細胞がコンフルエントになるまで増殖したら、例えば0.25(w/v)%程度のトリプシンPBS溶液を加えて個々の細胞に分散させ、得られた細胞の懸濁液を数倍に希釈して新しいぺトリディッシュに播種し継代を続ける。昆虫類動物細胞の場合も同様に、例えば10(v/v)%FBSおよび2(w/v)%Yeastlateを含むGrace's medium等の昆虫細胞用培地を用いて約25℃〜約35℃の培養温度で培養すればよい。
【0034】
本形質転換体を培養することにより産生された本タンパク質は、蛋白質の通常の単離、精製の方法を適宜組み合わせて回収することができる。例えば、培養終了後、本形質転換体の細胞を遠心分離等で集め、必要に応じて、集められた該細胞を適宜バッファーに懸濁した後、ポリトロン、超音波処理、ダウンスホモジナイザー等で破砕する。得られた破砕液から、遠心分離、メンブレンフィルターろ過等により不溶物を除去して無細胞抽出液を調製し、これをイオン交換,疎水,ゲルろ過、アフィニティ等の各種クロマトグラフィーに供することにより、本タンパク質を精製することができる。この際、本タンパク質をコードする塩基配列を含む約20塩基から約200塩基程度の長さのオリゴヌクレオチドをプローブとしたDNA結合アッセイなどにより、本タンパク質を含む画分を見分けることもできる。また、本タンパク質を、そのN末端側やC末端側に、例えば6〜10個のヒスチジンが並んだアミノ酸配列が融合された形で発現させると、金属キレート樹脂を用いたキレートクロマトグラフィーによって1段階で精製が可能となる。
【0035】
このようにして、本タンパク質を調製することができる。
【0036】
本発明における「本遺伝子」は、下記の塩基配列(即ち、本塩基配列)のいずれかを有する。
<塩基配列>
a)配列番号2又は4で示される塩基配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
c)配列番号2又は4で示される塩基配列において1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
d)配列番号2又は4で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
【0037】
前記b)にある「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)を含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
【0038】
前記c)にある「塩基が欠失、置換若しくは付加」や前記d)にある「80%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号2又は4で示される塩基配列を有する遺伝子が細胞内で受けるプロセシング、当該遺伝子が由来する生物の種差、個体差、器官、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的な遺伝子が有するDNAの変異(例えば、部位特異的変異導入法や突然変異処理等によって、天然の遺伝子に変異を導入し発現させることにより作出された遺伝子が有する塩基配列中に存在する塩基の変異)等が含まれる。
【0039】
前記c)にある「塩基が欠失、置換若しくは付加」(以下、総じて「塩基の改変」と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号2又は4で示される塩基配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
前記で改変される塩基の数については、少なくとも1塩基、具体的には1若しくは複数(ここで「複数」とは、2〜約10個程度である。)、又はそれ以上である。かかる改変の数は、生体組織再生を促進させる能力を見出すことができる範囲であれば良い。
また前記欠失、置換若しくは付加のうち、特に塩基の置換に係る改変に基づくアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、(a)グリシン、アラニン;(b)バリン、イソロイシン、ロイシン;(c)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(d)セリン、スレオニン;(e)リジン、アルギニン;(f)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
【0040】
前記d)にある「配列同一性」とは、2つのDNA間の配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のDNAは、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res.,22(22):4673-4680(1994)を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYX-MACや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ddbj.nig.ac.jpにおいて、一般的に利用可能である。
前記d)にある配列同一性は、例えば、塩基配列基準の場合には80%以上であることが好ましい。もちろん上記条件を満たす限りにおいて、例えば、配列番号2又は4で示される塩基配列のうち、第664番から第948番までの塩基配列における配列同一性が実質的にほぼ100%であり、第1060番から第1353番までの塩基配列における配列同一性が50%以上であるような配列同一性であってもよい。
【0041】
尚、本タンパク質のうち、配列番号2で示される塩基配列からなるDNAは、マウス由来のOGFRL1遺伝子(Opioid Growth Factor Receptor Like 1)(GenBank Accession No. NM_001081079)として知られている。また、配列番号4で示される塩基配列からなるDNAは、ヒト由来のOGFRL1遺伝子(Opioid Growth Factor Receptor Like 1)(GenBank Accession No. NM_024576)として知られている。尚、両者間での塩基配列上の相同性は83%である。
【0042】
本遺伝子は、例えば、前記の「本タンパク質の調製法」に係る説明の中で述べられた方法等に準じて調製することができる。
【0043】
本発明における「生体組織再生を促進させる能力(即ち、本再生促進能力)」としては、例えば、(1)正常組織の生体組織を、自然状態での再形成速度よりも速い再形成速度により再生させる能力、(2)病変組織等の生体組織を、自然状態での再形成速度よりも速い再形成速度により再生させる能力等を挙げることができる。
【0044】
このような生体組織の再生状態を把握するには、例えば、生体から通常の方法により摘出された生体組織を、目的に応じた染色法により組織染色した後、染色された部分領域を測定することにより、生体組織の全領域に対する染色された部分領域の割合を算出すれば、その再生状態を定量的に把握することができる。
【0045】
具体的には例えば、肝臓の線維化からの再生の場合には以下のように試験すればよい。・部分切除された肝臓の一部をホルマリン固定した後、これをシリウス・レッド染色することにより、染色組織標本を作製する。作製された染色組織標本を試料として、その画像をスライドスキャナーでコンピュータ上に取り込んだ後、コンピュータ上でシリウス・レッド陽性領域を選択する。
・選択されたシリウス・レッド陽性領域を、例えば、NIH Image 1.62等の適当なソフトウエアを用いて256階調のモノクロ画像に変換することにより、全領域に対する陽性領域の割合(即ち、相対線維化面積)を算出する。
・算出された割合について、経時変化に基づく比較、対照等との比較等を行うことにより、その再生状態を定量的に把握することができる。
【0046】
また、肝臓の細胞増殖に基づく再生の場合には以下のように試験すればよい。
・部分肝切除された数日後の実験動物の腹腔内にBrdUを投与する。
・数時間後、前記実験動物から肝臓を摘出する。
・摘出された肝臓の一部をホルマリン固定した後、これを抗BrdU抗体を用いて免疫組織染色することにより、染色組織標本を作製する。作製された染色組織標本を試料として、BrdU核染色された肝細胞の数(即ち、複製中の細胞においてDNA合成中に取込まれるBrdUの量に相関関係を有する指標値)を測定する。
・測定して得られた値について、経時変化に基づく比較、対照等との比較等を行うことにより、その細胞増殖(即ち、再生状態)を定量的に把握することができる。
【0047】
上記のような方法以外の方法として、生体組織の再生状態を把握するためのバイオマーカーを利用する方法も挙げることができる。
【0048】
生体組織の再生状態を把握するためのバイオマーカーとしては、例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ(マトリックス分解酵素、MMP)ファミリーに属するタンパク質等を挙げることができる。具体的には例えば、MMP−9(MMPファミリーの一種のタンパク質、64-82 kDa の亜鉛やカルシウム依存エンドペプチダーゼ)の場合には、ある種の癌や関節炎の疾病状態把握のためのバイオマーカーとして利用すればよい。また、MMP−13(MMPファミリーの一種のタンパク質、エンドペプチダーゼ)の場合には、当該タンパク質は正常組織と病変組織との両方の再形成に関連する酵素として知られており、正常組織、病変組織の両方の再形成状態把握のためのバイオマーカーとして利用すればよい。
【0049】
本発明における「下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質又は下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子を導入する処理」としては、例えば、本発明加工細胞に係る説明の中で述べられた方法を適用することができる。尚、当該方法の内容に係る記載の詳細はここでは省略する。
【0050】
本発明における「下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質(即ち、本タンパク質)を産生させるために、下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子の発現を誘導する物質(即ち、本発現誘導物質)を接触させる処理」において、例えば、生体組織から分離された状態にある細胞と接触させる本発現誘導物質の濃度としては、各種条件によっても異なるが、基本的には、前記細胞に本タンパク質を産生させうる濃度であればよい。例えば、本発現誘導物質がG−CSFのようなものであれば、例えば、約0.1ng/ml〜約1000ng/mlの濃度を挙げることができる。好ましくは、約1ng/ml〜約100ng/mlの濃度が挙げられる。
また、前記細胞と本発現誘導物質とを接触させる時間としては、例えば、約1時間〜約72時間を挙げることができる。好ましくは約6時間〜約48時間が挙げられる。
また、前記接触系における保温温度としては、例えば、約20℃〜約40℃程度を挙げることができる。好ましくは約25℃〜約40℃程度を挙げられる。
また、前記接触系内での前記細胞の密度としては、例えば、約1×103cell/cm2〜約1×105cell/cm2程度を挙げることができる。好ましくは、約3×103cell/cm2〜約3×104cell/cm2が挙げられる。
【0051】
本発現誘導物質としては、例えば、G−CSF等を挙げることができる。
以下、G−CSFを用いた一例に基づきながら説明する。
【0052】
G−CSF等の本発現誘導物質が投与された実験動物(例えば、マウス)から肝臓を摘出する。具体的には例えば、雄6週齢のC57BL/6マウスに四塩化炭素(1ml/kg)を1回/3日で、計30回(Day1−Day87:Day1を初回の四塩化炭素投与日とする。)皮下投与する。また、最後の7日間(Day81−Day87)は、G−CSF等の本発現誘導物質(100μg/kg)又は溶媒を1回/1日皮下投与する。最終投与翌日(Day88)に、当該実験動物から肝小葉の一部を摘出する。摘出された肝小葉の一部をTRIZOLに浸漬させた後、得られた混合物をホモゲナイズする。これを遠心分離して得られた上清からRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを調製する。
【0053】
次に、ラベル化cRNAを調製する。
具体的には例えば、GeneChip(登録商標) Expression 3‘−Amplification Reagents One−Cycle cDNA Synthesis Kit(アフィメトリックス社製)、GeneChip(登録商標) Expression 3‘−Amplification for IVT Labeling(アフィメトリックス社製)、GeneChip(登録商標) Sample Cleanup Module(アフィメトリックス社製)を用い、ラベル化cRNAを調製する。調製法は製造会社の使用法に準じて行えばよい。即ち、全RNA 5μg、T7−oligo(dT)プライマー 100pmolを含む12μlの混合液を70℃、10分間加熱した後、氷上で冷却する。冷却後、5×First Strand Reaction Mix 4μl、0.1M DTT 2μl及び10 mM dNTP mix 1μlを添加し、42℃、2分間加熱する。次いで、Super Script II RT 2μl (400U)を添加し、42℃、1時間加熱した後、氷上で冷却する。冷却後、DEPC処理滅菌蒸留水 91μl、5×Second Strand Reaction Mix 30μl、10 mM dNTP mix 3μl、E.coli.DNA Ligase 1μl(10U)、E.coli.DNA Polymerase I 4μl(40U)及びE.coli.RNase H 1μl(2U)を添加し、16℃、2時間反応させる。次いで、T4 DNA Polymerase 2μl(10U)を加え、16℃、5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μlを添加する。次いで、GeneChip(登録商標) Sample Cleanup Moduleに添付されたcDNA Cleanup Spin Columnを用い、合成されたcDNAを精製する。精製法は製造会社の使用法に準じて行えばよい。次いで、溶出された12μlのcDNA溶液にDEPC処理滅菌蒸留水 8μl、10×IVT Labeling Buffer 4μl、IVT Labeling dNTP Mix 12μl及びIVT Labeling Enzyme Mix 4μlを添加し、37℃、16時間加熱する。再び、GeneChip(登録商標) Sample Cleanup Moduleに添付されたIVT cRNA Cleanup Spin Columnを用い、合成されたラベル化cRNAを精製する。精製法は製造会社の使用法に準じて行えばよい。
【0054】
次に、ラベル化cRNAのフラグメント化、プローブアレイとのハイブリダイゼーション及びプローブアレイの染色・スキャン・遺伝子発現量を数値化する。
【0055】
具体的には例えば、GeneChip(登録商標) Mouse Genome U133 Plus 2.0アレイ(アフィメトリックス社製)、GeneChip(登録商標)解析システム、GeneChip(登録商標) Expression 3‘−Amplification Reagents Hybridization Control Kit(アフィメトリックス社製)及びGeneChip(登録商標) Hybridization,Wash,and Stain Kit(アフィメトリックス社製)を用い、遺伝子の発現量を測定する。測定は製造会社の使用法に準じて行えばよい。即ち、精製されたラベル化cRNA 20μg、5xFragmentationBuffer(GeneChip(登録商標) Sample Cleanup Moduleに添付)8μlを含む反応液40μlを94℃、35分間加熱した後、氷冷することにより、フラグメント化cRNA溶液を得る。次いで、フラグメント化cRNAを、以下のようにしてプローブアレイとハイブリダイゼーションさせる。即ち、フラグメント化cRNA溶液 40μl、3nM Control Oligo B2 6.7μl、20xHybridization Controls 20μl、2xHybridization Mix 200μl、DMSO 40μl及びDEPC処理滅菌蒸留水 93.3μlを混合し、400μlのハイブリダイゼーションカクテルを得る。得られたハイブリダイゼーションカクテルを99℃、5分間加熱し、次いで45℃、5分間加熱する。加熱後、室温、14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得る。
【0056】
一方、Pre−Hybridization Mixで満たしたGeneChip(登録商標) Human Genome U133 Plus 2.0アレイを、ハイブリダイゼーションオーブン内で、45℃、60rpm、10分間回転させた後、Pre−Hybridization Mixを除去する。その後、プローブアレイにハイブリダイゼーションカクテル上清200μlを添加し、ハイブリダイゼーションオーブン内で45℃、60rpm、16時間回転させ、ハイブリダイゼーション済みプローブアレイを得る。プローブアレイからハイブリダイゼーションカクテルを除去し、Wash Buffer Aで満たす。GeneChip(登録商標) Fluidics Station 450の所定の位置に前記プローブアレイを装着し、プロトコールに従って前記プローブアレイを洗浄した後、Stain Cocktail 1及び2を用いてプローブアレイを染色する。染色後、アレイをArray Holding Bufferで満たす。次いで、プローブアレイをGeneChip(登録商標) Scanner 3000に供し、シグナルを570nmの蛍光輝度を測定することにより読み取る。得られた結果をGeneChip(登録商標) Operating Softwareにより解析し、遺伝子発現量データを得る。
【0057】
このようにして、四塩化炭素とG−CSF等の本発現誘導物質との両者が投与された実験動物(例えば、マウス)由来の肝臓と、G−CSF等の本発現誘導物質が投与されていないこと以外は同様な処理が施された実験動物(例えば、マウス)由来の肝臓との両組織について、上述のように、GeneChip(登録商標) Operating Softwareを用いて本タンパク質をコードする遺伝子の発現量を比較する。当該比較の結果に基づき、例えば、前記本発現誘導物質が投与された実験動物(例えば、マウス)由来の肝臓において、本タンパク質をコードする遺伝子の発現が有意に上昇している場合、前記本発現誘導物質は「生体組織再生を促進させる能力」を有することが確認できる。
【0058】
尚、このような方法おいて、前記本発現誘導物質の代わりに、各種の試験物質を用いれば、新規な本発現誘導物質を容易に探索することも可能である。
【0059】
本発明方法は、細胞に対して生体組織再生能力を付与する方法であり、生体組織から分離された状態にある細胞に本加工処理を施す工程を含む。尚、本発明方法に係る説明は、本発明加工細胞に係る説明の中で述べられた内容と重複する内容を含むため、当該内容に係る記載の詳細はここでは省略する。
【0060】
本発明方法により、生体組織再生能力が付与された細胞(例えば、本発明加工細胞)を、例えば、対象がヒトの場合、臓器移植等の組織移植が困難であるような機能不全患者に対して、その機能不全状態にある臓器等の組織に、慣用のマイクロインジェクション法や凝集法等に従って注入・混入することにより、前記のような障害・症状を効率的に改善させることが可能となる。
このような本発明加工細胞の投与に際して、本発明加工細胞をそのまま使用してもよいが、例えば、点滴液、生理食塩水、リンゲル液等の溶媒に分散させてなる細胞懸濁液等の状態に加工して得られる薬剤としての形態で使用してもよい。
また、このような本発明加工細胞は、骨髄や臍帯血等に含まれる造血幹細胞や間葉系幹細胞、胚性幹細胞、体細胞に数種類の遺伝子を導入して分化万能性を持たせた人工多能性幹細胞等の細胞をしてもよく、特に、本発明加工細胞を機能不全患者の組織に注入・混入させる場合には、機能不全患者自身の細胞を用いて作製することが好ましい。
本発明加工細胞の投与量は、投与される患者の年令、性別、体重、疾患の程度、本発明加工細胞の細胞種、投与形態等によって異なるが、例えば、本発明加工細胞の数量として、約1x107個〜約1x108個を投与すればよい。また、前記の1日の投与量を1回または数回に分けて投与することができる。
【0061】
本発明使用は、生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための、本発明加工細胞の使用である。本発明加工細胞は、上述のように利用することができることから、生体組織再生を促進させる薬剤の有効成分として使用できる。当該薬剤の適当な投与剤型は許容される通常の担体、賦型剤、結合剤、安定剤、希釈剤等に本発明加工細胞を配合することにより製造することができる。また注射剤型で用いる場合には、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を適宜添加してもよい。
【0062】
本発明使用において、好ましい「生体組織再生を促進させる薬剤」としては、例えば、機能不全疾改善剤を挙げることができる。ここで「機能不全疾改善剤」としては、例えば、脳卒中、退化性神経疾患、脊椎損傷、筋骨格疾患、高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、心筋梗塞等の心不全症、糖尿病、肝炎、肝硬変、肝癌等の肝機能不全症、慢性腎不全症等のような組織・臓器機能不全症(以下、総じて「機能不全疾」と記すこともある。)に基づく生体組織の機能不全状態を改善させるための薬剤等を挙げることができる。好ましい「機能不全疾改善剤」としては、例えば、肝機能不全疾改善剤を挙げることができる。
【0063】
ここで「肝機能不全疾改善剤」としては、例えば、肝炎、肝硬変、肝癌等の肝機能不全症に基づく生体組織の機能不全状態を改善させるための薬剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0064】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0065】
実施例1(本発明加工細胞の調製、及び、本発明加工細胞による肝再生促進作用)
(1)OGFRL1 レンチウイルス発現プラスミドの調製
マウス神経細胞株N2aから、RNeasy Mini Kitを用いて全RNAを調製した。得られた全RNAを、Super Script II RTキット(Invitrogen社製)を用いてoligo dTで逆転写反応した。得られたcDNA溶液 1μlに、配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(10pmol/μl)1μlと配列番号6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(10pmol/μl)1μlとを加えた。得られた混合物と、DNAポリメラーゼ KOD−plus−キット(TOYOBO社製)とを用いてPCRを行った。
【0066】
次いで、上記反応後に得られたPCRの反応液2μlに、TOPO vector(Invitrogen社製)を添加してライゲーション反応をおこなった後、大腸菌DH5α(日本ジーン社製)を加えて前記大腸菌をトランスフォームした。トランスフォームされた大腸菌を、50μg/ml 硫酸カナマイシンを含むLBプレートに播き、これを37℃、一昼夜放置した。出現したシングルコロニーを分離し、これを培養することにより、プラスミドDNA(マウスOGFRL1 エントリープラスミド)を調製した。
調製されたマウスOGFRL1エントリープラスミド溶液 7μlに、pLenti6.3/V5−DESTベクター 1μl及びLR ClonaseII 2μl(共に、Invitrogen社製)を添加することにより、混合物を得た。得られた混合物を25℃で1時間保温した。に、proteinase K 1μlを加えた後、更に37℃で10分間保温した。保温後の混合物3μlを用いて、One Shot Stbl3 大腸菌(Invitrogen社製)を形質転換した。出現したシングルコロニーを培養し、培養された大腸菌から、プラスミドDNA(OGFRL1 レンチウイルス発現プラスミド)を調製した。
【0067】
(2)OGFRL1組み換えレンチウイルスと本発明加工細胞との調製
OGFRL1 レンチウイルス発現プラスミドとViraPowerPackaging Mix(Invitrogen社製)とを混和した。得られた混合物とLipofectamine 2000とを用いて293FT細胞に対して遺伝子導入を行った。37℃で一晩培養した後、培養液を交換した。更に2〜3日間培養した。
次に、得られた培養物を全量回収した後、ポアサイズ0.45μmのフィルターを用いてろ過処理することにより、上清を得た。得られた上清を凍結保存した。
ヒト間葉系幹細胞(LONZA社製)とOGFRL1組み換えレンチウイルス溶液とを、ヒト間葉系幹細胞1x106個あたりOGFRL1組み換えレンチウイルス溶液2mlの割合で混合した。得られた混合物を24時間培養した。培養後、培養液を除去することにより得られた細胞をPBS(−)で洗浄した。更に、洗浄液を新鮮な培地に置換した後、更に3日間培養した。培養後、得られた細胞をPBS(−)で洗浄した。次いで、洗浄液をトリプシン−EDTA溶液に置換することにより、細胞を剥した。得られた細胞を3×107細胞/mlになるように培養液で希釈することにより、本発明加工細胞(細胞懸濁液)を得た。
【0068】
(3)本発明加工細胞の投与
ヌードマウスに、四塩化炭素(0.25ml/kg)を1回/3日で、計23回皮下投与した後、上記(2)で得られた本発明加工細胞(6x106細胞/マウス)を1回脾内投与した。次いで、前記ヌードマウスに、同じ頻度で四塩化炭素を6回投与した。このようにして肝臓にダメージが与えられたヌードマウスから、肝臓の2/3を部分切除した。そして、このようにして得られた肝臓は、線維化抑制作用を評価するために用いられた。
一方、上記のヌードマウスに、四塩化炭素を更に2回投与した。このようにして肝臓に再ダメージが与えられたヌードマウスから、残りの肝臓(1/3)を摘出した。そして、このようにして得られた肝臓は、肝再生促進作用を評価するために用いられた。
【0069】
(4)本発明加工細胞の線維化抑制作用
上記で得られた肝臓の一部から、RNeasy Mini Kitを用いて全RNAを調製した。得られた全RNA100ngを、SuperScript III(Invitrogen社製)を用いて逆転写反応した。得られたcDNA溶液5μl、配列番号7、8及び9で示される塩基配列(配列番号7:gaatcatagaggaagcccattacag、配列番号8:tttgacgtccagagaagaagaaaa 及び配列番号9:ccccttccttactgcccgcacg)からなるオリゴヌクレオチド(MMP−9遺伝子定量用)又は配列番号10、11及び12で示される塩基配列(配列番号10:accttgtgtttgcagagcactactt、配列番号11:ttctcggagcctgtcaactgt 及び配列番号12:ccatcctgcgactcttgcgggaat)からなるオリゴヌクレオチド(MMP−13遺伝子定量用) 各1μl、蒸留水 2μl及びTaqMan Fast Universal PCR Master Mix(AppliedBiosystems社製) 10μlを混和した後、7900HT Fast Real−Time PCR System(AppliedBiosystems社製)を用いてPCRを行った。
尚、全RNA500ngから順次2倍希釈した6系列を標準として用いた。また、各遺伝子定量用オリゴヌクレオチドの代わりに、GAPDH遺伝子定量用オリゴヌクレオチド(Applied Biosystems社製)を加えて同一条件でPCRを行った。
GAPDHに対する各遺伝子の相対値を算出した。その結果、コントロール細胞が投与されたマウスの肝臓に比べて、本発明加工細胞が投与されたマウスの肝臓では、MMP−9遺伝子量が2.5倍、MMP−13遺伝子量が3.2倍に上昇した。
因みに、「MMP−9」とは、マトリックスメタロプロテアーゼ(マトリックス分解酵素、MMP)ファミリーの一種のタンパク質を意味する。64-82 kDa の亜鉛やカルシウム依存エンドペプチダーゼであり、ある種の癌や関節炎の疾病状態把握のためのバイオマーカーとして利用されている。
また「MMP−13」とは、マトリックスメタロプロテアーゼ(マトリックス分解酵素、MMP)ファミリーの一種のタンパク質を意味する。エンドペプチダーゼであり、正常組織、病変組織の両方の再形成に関連する酵素として知られている。このため、正常組織、病変組織の両方の再形成状態把握のためのバイオマーカーとして利用されている。
上記(3)で部分切除された肝臓の一部をホルマリン固定した後、これを常法に従いシリウス・レッド染色した。得られた標本を試料として、その画像をスライドスキャナー(ニコン社製)でコンピュータ上に取り込み、シリウス・レッド陽性領域を選択した後、NIH Image 1.62ソフトウエアを用いて256階調のモノクロ画像に変換することにより、全領域に対する相対線維化面積を算出した。その結果、コントロール細胞が投与されたマウスの肝臓に比べて、本発明加工細胞が投与されたマウスの肝臓では、線維化面積が約1/2に減少していた。
【0070】
(5)本発明加工細胞の肝再生促進作用
上記(3)で2/3部分肝切除された8日後のヌードマウスの腹腔内に、BrdUを投与した。2時間後、前記ヌードマウスを開腹して再生肝を摘出した。摘出された肝臓の一部をホルマリン固定した後、これを、抗BrdU抗体を用いて免疫組織染色することにより、染色組織標本を調製した。
調製された標本を同一倍率で撮影し、BrdU核染色された肝細胞の数を測定した結果、コントロール細胞が投与されたマウスの肝臓に比べて、本発明加工細胞が投与されたマウスの肝臓では、BrdU核染色された肝細胞の数が3.6倍に増加していた。
因みに、上記の肝再生促進作用を確認するために用いられた測定方法は、複製(増殖)中の細胞においてDNA合成中に取込まれるBrdUの量に相関関係を有する指標値を測定することにより、細胞増殖を定量するものである。
【0071】
実施例2(本発現誘導物質を用いる本発明加工細胞の調製)
G−CSFが投与されたマウスから肝臓を摘出した。具体的には、雄6週齢のC57BL/6マウスに四塩化炭素(1ml/kg)を1回/3日で、計30回(Day1−Day87:Day1を初回の四塩化炭素投与日とする。)皮下投与した。また、最後の7日間(Day81−Day87)は、G−CSF等の本発現誘導物質(100μg/kg)又は溶媒を1回/1日皮下投与した。最終投与翌日(Day88)に、当該マウスから肝小葉の一部を摘出した。摘出された肝小葉の一部をTRIZOLに浸漬させた後、得られた混合物をホモゲナイズした。これを遠心分離して得られた上清からRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを調製した。
【0072】
次に、ラベル化cRNAを調製した。
具体的には、GeneChip(登録商標) Expression 3‘−Amplification Reagents One−Cycle cDNA Synthesis Kit(アフィメトリックス社製)、GeneChip(登録商標) Expression 3‘−Amplification for IVT Labeling(アフィメトリックス社製)、GeneChip(登録商標) Sample Cleanup Module(アフィメトリックス社製)を用い、ラベル化cRNAを調製した。調製法は製造会社の使用法に準じて行った。即ち、全RNA 5μg、T7−oligo(dT)プライマー 100pmolを含む12μlの混合液を70℃、10分間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、5×First Strand Reaction Mix 4μl、0.1M DTT 2μl及び10 mM dNTP mix 1μlを添加し、42℃、2分間加熱した。次いで、Super Script II RT 2μl (400U)を添加し、42℃、1時間加熱した後、氷上で冷却する。冷却後、DEPC処理滅菌蒸留水 91μl、5×Second Strand Reaction Mix 30μl、10 mM dNTP mix 3μl、E.coli.DNA Ligase 1μl(10U)、E.coli.DNA Polymerase I 4μl(40U)及びE.coli.RNase H 1μl(2U)を添加し、16℃、2時間反応させた。次いで、T4 DNA Polymerase 2μl(10U)を加え、16℃、5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μlを添加した。次いで、GeneChip(登録商標) Sample Cleanup Moduleに添付されたcDNA Cleanup Spin Columnを用い、合成されたcDNAを精製した。精製法は製造会社の使用法に準じて行った。次いで、溶出された12μlのcDNA溶液にDEPC処理滅菌蒸留水 8μl、10×IVT Labeling Buffer 4μl、IVT Labeling dNTP Mix 12μl及びIVT Labeling Enzyme Mix 4μlを添加し、37℃、16時間加熱した。再び、GeneChip(登録商標) Sample Cleanup Moduleに添付されたIVT cRNA Cleanup Spin Columnを用い、合成されたラベル化cRNAを精製した。精製法は製造会社の使用法に準じて行った。
次に、ラベル化cRNAのフラグメント化、プローブアレイとのハイブリダイゼーション及びプローブアレイの染色・スキャン・遺伝子発現量を数値化した。
具体的には、GeneChip(登録商標) Mouse Genome U133 Plus 2.0アレイ(アフィメトリックス社製)、GeneChip(登録商標)解析システム、GeneChip(登録商標) Expression 3‘−Amplification Reagents Hybridization Control Kit(アフィメトリックス社製)及びGeneChip(登録商標) Hybridization,Wash,and Stain Kit(アフィメトリックス社製)を用い、遺伝子の発現量を測定した。測定は製造会社の使用法に準じて行った。即ち、精製されたラベル化cRNA 20μg、5xFragmentationBuffer(GeneChip(登録商標) Sample Cleanup Moduleに添付)8μlを含む反応液40μlを94℃、35分間加熱した後、氷冷することにより、フラグメント化cRNA溶液を得た。次いで、フラグメント化cRNAを、以下のようにしてプローブアレイとハイブリダイゼーションさせた。即ち、フラグメント化cRNA溶液 40μl、3nM Control Oligo B2 6.7μl、20xHybridization Controls 20μl、2xHybridization Mix 200μl、DMSO 40μl及びDEPC処理滅菌蒸留水 93.3μlを混合し、400μlのハイブリダイゼーションカクテルを得た。得られたハイブリダイゼーションカクテルを99℃、5分間加熱し、次いで45℃、5分間加熱した。加熱後、室温、14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。
一方、Pre−Hybridization Mixで満たしたGeneChip(登録商標) Human Genome U133 Plus 2.0アレイを、ハイブリダイゼーションオーブン内で、45℃、60rpm、10分間回転させた後、Pre−Hybridization Mixを除去した。その後、プローブアレイにハイブリダイゼーションカクテル上清200μlを添加し、ハイブリダイゼーションオーブン内で45℃、60rpm、16時間回転させ、ハイブリダイゼーション済みプローブアレイを得る。プローブアレイからハイブリダイゼーションカクテルを除去し、Wash Buffer Aで満たす。GeneChip(登録商標) Fluidics Station 450の所定の位置に前記プローブアレイを装着し、プロトコールに従って前記プローブアレイを洗浄した後、Stain Cocktail 1及び2を用いてプローブアレイを染色した。染色後、アレイをArray Holding Bufferで満たした。次いで、プローブアレイをGeneChip(登録商標) Scanner 3000に供し、シグナルを570nmの蛍光輝度を測定することにより読み取った。得られた結果をGeneChip(登録商標) Operating Softwareにより解析し、遺伝子発現量データを得た。
このようにして、四塩化炭素とG−CSFとの両者が投与されたマウス由来の肝臓と、G−CSFが投与されていないこと以外は同様な処理が施されたマウス由来の肝臓との両組織について、上述のように、GeneChip(登録商標) Operating Softwareを用いて、配列番号2で示される塩基配列を有する遺伝子(即ち、OGFRL1遺伝子)の発現量を比較した。当該比較の結果、G−CSFが投与されたマウス由来の肝臓において、前記遺伝子の発現が有意に上昇していること(約2.3倍)が確認された。従って、G−CSFには「生体組織再生を促進させる能力」が存在することが、本発明加工細胞を用いた試験により確認できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により、新たな生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための加工細胞等を提供することが可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0074】
配列番号5
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号6
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号7
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号8
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号9
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号10
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号11
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号12
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号13
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織から分離された状態にある細胞に、下記のいずれかの加工処理を施すことにより得られることを特徴とする加工細胞。
<加工処理>
(1)下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質又は下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子を導入する処理
(2)下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質を産生させるために、下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子の発現を誘導する物質を接触させる処理
<アミノ酸配列>
a)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列がコードするアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
c)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
d)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
<塩基配列>
a)配列番号2又は4で示される塩基配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
c)配列番号2又は4で示される塩基配列において1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
d)配列番号2又は4で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
【請求項2】
前記細胞が、哺乳動物由来の細胞であることを特徴とする請求項1記載の加工細胞。
【請求項3】
下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質又は下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子が、配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号2又は4で示される塩基配列を有する遺伝子であることを特徴とする請求項1又は2記載の加工細胞。
【請求項4】
細胞に対して生体組織再生能力を付与する方法であり、
生体組織から分離された状態にある細胞に、下記のいずれかの加工処理を施す工程を含むことを特徴とする方法。
<加工処理>
(1)下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質又は下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子を導入する処理
(2)下記のアミノ酸配列のいずれかを有するタンパク質を産生させるために、下記の塩基配列のいずれかを有する遺伝子の発現を誘導する物質を接触させる処理
<アミノ酸配列>
a)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列がコードするアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
c)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
d)配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列。
<塩基配列>
a)配列番号2又は4で示される塩基配列。
b)配列番号2又は4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
c)配列番号2又は4で示される塩基配列において1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
d)配列番号2又は4で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、生体組織再生を促進させる能力を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列。
【請求項5】
生体組織再生を促進させる薬剤を製造するための、請求項1乃至3記載の加工細胞の使用。
【請求項6】
生体組織再生を促進させる薬剤が、機能不全疾改善剤であることを特徴とする請求項5記載の使用。
【請求項7】
機能不全疾改善剤が、肝機能不全疾改善剤であることを特徴とする請求項6記載の使用。

【公開番号】特開2011−244760(P2011−244760A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122501(P2010−122501)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】