説明

生体試料の精製及び濃縮のための装置及び方法

試料を精製、濃縮するための装置はフィルターと攪拌器を有する濾過ユニットを有し、フィルターを通して試料を吸引し、フィルターに回収された物質を逆流洗浄により洗い流す。フィルター内に回収された物質の量を圧力計測器により測定して、吸引及び逆流洗浄を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料精製の分野に関する。さらに具体的には、本発明は、微量標的細胞を、多くの他の細胞及び/又は混在物を有する液体試料から分離することができる装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中の種々の成分を効率的及び効果的に分離することは、研究及び医学の多くの領域にとって不可欠であるが、液体試料の多くは、ほとんど又は全く興味のない細胞及び/又は混在物を多く含み、さらなる評価を行う目的の細胞は非常に少量存在するに過ぎない。したがって、血液や上皮細胞などの多数の自然に発生する細胞を、微量の標的細胞から分離できることが望まれている。
【0003】
この要求に対して、当技術分野では多数の技術が利用可能である。例えば、液体試料をフィルターに通して試料のある一定の成分を精製することが知られている。特許文献1は、液体生体試料を一連のフィルターに通し、試薬で処理することにより、評価用の染色、濃縮した細胞群を提供する、自動化した方法を開示している。
【0004】
癌患者において死亡リスクが最も高いものは原発悪性腫瘍ではなく、むしろ原発巣から離れた組織や臓器での転移癌の形成であることが多く、その点で、循環腫瘍細胞(CTC)は興味深い細胞群の1つである。原発巣から遊離することができる少数の細胞は、循環系に入り、CTCとなる。そのほとんどは生き残れないが、あるものは生き残れるだけでなく、ある点で内皮壁を越えて移行し、周囲組織に新たな腫瘍を樹立する。
【0005】
CTC検出は、主として抗体による陽性選択に基づいているが、この技術は、既知の腫瘍細胞バイオマーカーに対する入手可能な抗体に限定される。この欠点に対する方法のひとつが、濾過技術である。試料から循環腫瘍細胞を分離するのに特に適しているフィルターは、例えば、特許文献2に記載されている。
【0006】
このような利用可能な技術があるにもかかわらず、液体生体試料中の成分を効率的及び効果的に精製及び濃縮する装置及び方法が、本技術分野において依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,494,809号
【特許文献2】米国特許公開第2006/0254972号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は液体生体試料の成分を効率的かつ効果的に精製、濃縮することを可能にする装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のように、現存の技術により試料を評価する場合、標的細胞の濃度の低さ、混在物の存在、非天然細胞を観察するための特別なトレーニング又は機器の必要性などの問題に直面することがある。さらに、従来の技術は、費用や時間が掛かり、苦痛を伴うと思われるリサンプリングいう欠点を有する。転移能を有するCTCを迅速かつ正確に検出することは生存率を顕著に上昇させることができるため、診断の遅れは患者の治療結果に影響を与えうる。
【0010】
患者の血流からCTCを除去することは有用ではあるが、除去した細胞を分析が十分可能な良好な状態で得られるならば、はるかに有利である。この分析は試料中における標的細胞の存在を確認できるだけでなく、病気の経過の予想を助けるなど、他の方法にも有用である場合がある。
【0011】
本発明は、標的細胞を液体試料中の多数の他細胞及び/又は混在物から分離するだけでなく、比較的天然の状態で精製、濃縮した標的細胞群を提供することにより、従来技術には欠けていた上記要求に応じるものである。
【0012】
本発明の他の利点は、診断情報をより早く提供できる可能性である。本発明により標的細胞を迅速に分離し、かつ天然の状態で提供できるので、試料採取から標的細胞分析までの時間が最小となる。本発明の効果は、費用及び時間の掛かる試料の再採取の必要性も低減できることである。
【0013】
振動フィルターを通す一連の液体輸送工程を有する生理的過程により、標的細胞を多量の試料から効率的かつ効果的に分離し、天然の状態で提供する。さらに、本発明の利点は、試料の非標的成分も天然の状態に維持されることである。多くの場合、これらの成分も興味深いものである。したがって、これらの成分も同様に観察及び分析できる装置及び方法は、本技術分野において大きな進歩をももたらすものである。
【0014】
本発明の第一の実施形態は、試料精製及び濃縮のための装置を提供する。該装置は、第1の面と第2の面とを有し、攪拌器を有する濾過ユニットと、該濾過ユニットの第1の面に選択的流体連通している試料流入口と、該濾過ユニットの第1の面に選択的流体連通している第1の液体リザーバと、第1の吸引リザーバを有し、該濾過ユニットの第1の面に選択的流体連通している第1の吸引手段と、該濾過ユニットの第2の面に選択的流体連通している第2の液体リザーバと、該濾過ユニットの第2の面に流体連通し、流れ停止能を有する圧力計測器と、該濾過ユニットの第2の面に選択的流体連通している第2の吸引手段とを有する。
【0015】
該第2の吸引手段は第2の吸引リザーバを有することができる。第1の吸引手段と第2の吸引手段の少なくとも一方は蠕動ポンプであってよい。流れ停止能を有する圧力計測器はクランプ又は圧電膜を有することができる。
【0016】
本発明の他の実施形態は、本発明の装置に使用するためのカートリッジを提供する。該カートリッジは、第1の面と第2の面とを有し、攪拌器に接続可能なフィルターを有する濾過ユニットと、該濾過ユニットの第1の面に流体連通している試料流入口管と、該濾過ユニットの第1の面に流体連通している第1の液体リザーバ管と、該濾過ユニットの第1の面に流体連通している第1の吸引リザーバ管と、該濾過ユニットの第2の面に流体連通している第2の液体リザーバ管と、該濾過ユニットの第2の面に流体連通している第2の吸引管とを有し、該カートリッジは、圧力計測器との少なくとも1つのアクセスポイントを有する。
【0017】
本実施形態において、濾過ユニットは攪拌器を有することができる。
【0018】
本発明のさらに他の実施形態は、試料を精製する方法を提供する。該方法は、フィルターの第1の面に流体連通している試料流入口に試料を供給する工程と、所定の圧力が測定されるまでフィルターを通して試料流入口から流体をフィルターの第2の面へ吸引する工程と、フィルターの第2の面を、液体を有するリザーバと専用流体連通させる工程と、フィルターを通してリザーバから流体をフィルターの第1の面へ吸引する工程と、フィルターを通してリザーバから吸引された流体を容器に回収する工程とを有する。上記過程の少なくともかなりの部分でフィルターを揺動し、精製された試料を該容器中に回収する。
【0019】
このような方法では、水柱を用いて測定した場合の所定の圧力は約130〜150mmH2Oの範囲、好ましくは135〜145mmH2O、さらに好ましくは140mmH2Oでありうる。
【0020】
ここに記載される本発明の利点は、精製及び濃縮された標的細胞の形態分析が可能であることで大抵終わるが、この技術に関連する多くの下流応用が存在することは当業者には明らかである。例えば、転移能の評価、高リスク群のスクリーニング、疾病の診断、疾病の予測、薬剤感受性の評価を含む治療結果の予測、病態のモニタリング、治療応答のモニタリング、治療法の最適化、新規治療の開発などを挙げることができる。
【0021】
特に言及しない限り、ここで使用される技術及び科学用語は全て当業者が通常理解する意味と同じ意味を有する。言及される機器及び方法は本技術分野において公知であり、常用されているものである。
【0022】
試料は、生物など、その起源は限定されない。例えば、ぬぐい分泌物、唾液、尿、糞便試料、気管支洗浄液などの体内領域の洗浄液、臍帯血、骨髄穿刺液、腹水、体内及び末梢血が挙げられる。さらに、抗凝結剤又は安定剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
標的細胞は試料中に存在する又は存在しないかもしれない特定の種類の目的細胞であり、非標的細胞は、その分析が興味深いものであっても除去されることが好ましい細胞である。
【0024】
「フィルター」は、特定の寸法の1つ又は複数の開口又は孔を有する構造であり、その寸法より大きい粒子はフィルターを通過できないが、その寸法より小さい粒子はフィルターの反対側に通過できる。フィルターを形成する材料は限定されず、例えば、プラスチック、セラミック、シリコン、金属、ガラスなどが挙げられる。フィルターは、微細加工又は微小機械加工されてもよく、あるいはナイロン、ポリカーボネート、セルロースなどの単又は多線維フィルターなどの従来のフィルターであってもよい。フィルターにその表面特性を改変する処理、例えば、親水性を上昇させる処理を行ってもよい。
【0025】
ここで、本発明に関連して使用される成分及び物質は、明白に又は暗に使い捨てとして表現されることが多い。当業者には、この種の装置及び方法では滅菌及び汚染除去が必要であることは認識されており、使い捨て物質の方が有利な場合が多い。さらに、これらの滅菌及び記録に費やす時間と物質及び間違いを起こすリスクは、一般的に手段が有する利点を減ずるものである。しかし、望ましい、好適な再使用可能な物質の使用を排除するものでは決してない。
【0026】
以下に、本発明の様々な形態を添付の図面を参照しながら、実施例により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す概略図である。
【図3】非処理膀胱洗浄試料を示す。
【図4】本発明により処理した後の図3の試料を示す。
【図5】非処理腹水試料を示す。
【図6】本発明により処理した後の図5の試料を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上述のように、本発明は試料の精製、濃縮の装置及び方法に関する。例として図1を参照すると、本発明の装置10は、第1の面12と、第2の面13と、攪拌器(不図示)とを有する濾過ユニット11を有する。フィルターの第1及び第2の面12、13は、通常向かい合っているが、厳密に対向している必要はない。実際の濾過物質の構成及び配置により、フィルター、それらの相対位置は接近しても離れてもよい。
【0029】
濾過ユニット11は、本技術分野で公知の適当なフィルター(不図示)を有する。フィルターの孔サイズは目的の標的細胞と試料中に存在すると予測される非標的細胞及び/又は混在物の両者を考慮して選択される。例えば、本発明の装置10を使用して血液細胞を含む試料からCTCを精製、濃縮する場合、好ましいフィルターの孔サイズは10μmである。フィルターそのものの大きさは装置と目的により異なる。本発明の一実施形態においては、標準的な市販の、約15000〜20000個の細胞を濾過可能な、直径22mmのフィルターを使用する。
【0030】
濾過ユニット11に連結された攪拌器は、濾過の間、機械的振動を与え、装置10の効率及び正確さを最大化する。機械的揺動は(装置の全体の向きに対して)どのような方向でも効果的であるが、水平方向の揺動が本発明の装置10内の生体試料に対して特によく作用することが見出された。例えば、ガスのためのヘッドスペースを有する濾過ユニットの左右水平動による揺動は、円周運動の渦巻きを濾過ユニット内の流体に引き起こすかもしれない。この動きは、穏やかであると同時に、効果的であると思われる。1000〜2000Hzの範囲での揺動が好ましく、通常、この範囲は試料中の成分を損傷又は破壊するほど強くなく、フィルターの全表面積の効果的な使用を可能にする。
【0031】
本発明の装置10では、種々の成分が一連の管14を介して互いに流体連通している。本装置を広範に使用するためには、市販の管の選択が相当関係している。生体液及びその成分に対して不活性である物質を採用することが好ましい。また、管の長さと直径、特に内径は、スピードや圧力などのシステムパラメーターを決定する際に考慮しなければならない。例えば、内径2mmのシリコン管の使用が好ましい場合がある。
【0032】
ここでは、一般的な可撓性円筒形について説明したが、本発明の管14は非可撓性及び/又は非円筒形物質であってもよい。例えば、円筒又は他の形状に形成されたガラス又は金属であってもよい。管は、装置の様々な構成部分から、及び構成部分間に液体を輸送する役割を果たし、それ自体はユニット全体の選択された大きさと形状に従って非常に様々な形状で使用される。当業者には、細胞の大きさに近い直径はパルシングや他の望ましくない作用を装置内の流体の流れに与えることが知られているので、管の内径は試料中の細胞を収容するために十分に大きくなければならならないことは理解されよう。
【0033】
装置の様々な構成部分間の選択的流体連通を可能にする、複数の選択手段15が設けられている。選択手段は、手動又は自動制御により流体の通過を指示及び停止できる。例えば、二方弁を使用することができる。それにより、第1の位置に合わせて第1の構成部分をフィルターと流体連通させ、次いで第2の位置に回転させて第2の構成部分をフィルターと流体連通させる。装置10の異なる領域の選択手段15は異なっていてもよく、例えば、あるものは手動であり、あるものは自動であってもよい。
【0034】
試料流入口16、第1の液体リザーバ17、第1の吸引手段18を含む、多数の構成部分がフィルターの第1の面12と流体連通する。
【0035】
試料流入口16は、液体試料がシステムにアクセスできるような開口や他の手段であってよい。または、試験管などのホルダーや容器を有していてもよい。最も簡単な形状としては、単に試料と連通できる管14の延長であってもよく、例えば、試料を試験管の中に提供することができる。汚染や安全性に対する懸念から、試料の中身は封入されることが好ましく、例えば、試料を栓付き試験管に入れ、試料流入口を管の末端に針として形成して、その針を栓に挿入するようにしてもよい。
【0036】
第1の液体リザーバ17は装置10に設置される。使用の第一段階で、液体は第1の液体リザーバ17内に存在する。その使用については後述する実施例によりさらに説明するが、第1の液体リザーバ中の液体は少なくとも一般的な洗浄やすすぎの目的に使用され、それ自体は生理的に中性であることが好ましい。好適な流体としては、リン酸緩衝食塩水(PBS)、ハンクス緩衝生理食塩溶液、(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)緩衝液及び生理的中性pH及び約270〜330mOsm/kgのモル浸透圧濃度を有する他の緩衝液が挙げられる。
【0037】
第1の吸引手段18は、フィルターの第1の面12に対して吸引を行い、フィルターの第2の面13からフィルターの第1の面12に流体を効果的に引き入れることができる。第1の吸引手段18は、流体及び流体中に懸濁している粒子を収集することができる第1の吸引リザーバ(不図示)を有する。その最も簡単な形状としては、第1の吸引手段18はその栓を引くことによって吸引し、その内部空洞をリザーバとして使用できるシリンジであってもよい。または、第1の吸引手段18は蠕動ポンプであってもよい。
【0038】
また、第2の液体リザーバ19、圧力計測器20、第2の吸引手段21を含む、多数の構成部分がフィルターの第2の面13と流体連通している。
【0039】
第2の液体リザーバ19は、最初はその内部に流体を有して装置10に設置される。その使用についてはさらに後述するが、液体は好ましくは生理的に中性であり、したがって、第2の液体リザーバ19を形成する物質は非反応性であることが好ましい。第2の液体リザーバ19の大きさ及び/又は容量は装置10の使用目的に依存し、第2の液体リザーバ19を固定部として適合させるか、又は装置10の使用ごとに交換するかにも依存する。
【0040】
圧力計測器20は、使用者(又は自動モニタリング装置)が装置内の真空度を測定するものである。検定を介して、この測定によりフィルターが標的細胞で十分に飽和される時を決定することができる。圧力計測器20は、画像表示を有してもよい。
【0041】
また、使用者は圧力計測器20により試料を標準化することができる。システム内の圧力に因ることによって、試料中の粒状物質の濃度を検出するためには有益である、適時のプレスクリーニング工程を省くことができる。試料やその起源となる生物が異なるように、評価される試料も同様に異なる。さらに、使用者は、場合によって、試料を多数の目的に使用できるように希釈してもよく、又は精製、濃縮方法を最も効率的に機能させてもよい。
【0042】
圧力計測器20の好ましい例は、水柱である。そのような圧力計測器20を用いる場合、装置10の適切な運転範囲は130〜150mmH2Oである。好ましい範囲は135〜145mmH2Oであり、約140mmH2Oは特に効果的であろう。
【0043】
装置10を少なくとも部分的に自動化する場合、圧力計測器20を選択手段15又は他の流れ制御手段に接続し、ある所定の圧力に達するとシステムの態様を接続する、又は解放するようにしてもよい。
【0044】
特に自動化が望ましい場合に、圧力計測器20は水柱に固有の表示手段を有する必要はなく、代わりに圧力を検出する電子センサーを有してもよい。圧力計測器20により得られた情報を中央制御ユニットに転送できる。中央制御ユニットは圧力計測器20の流れ停止能を使って、装置の選択された領域での流れを停止又は開始するコマンドを送信できる。
【0045】
流れ停止能は、例えば、膜を使って達成できる。その一つの例が、圧電膜である。簡単な流れ停止はまた、接続時に可撓性の管を物理的に変形させ、それによって管による流れを停止する、クランプ又はクリンプによっても可能であると考えられる。クランプ又はクリンプを解除することによって再び流れが開始する。
【0046】
物理デバイスを使って圧力計測器20の流れ停止能を達成する場合に、物理デバイスを圧力計測器20と全く同じ場所に設置する必要は必ずしもない。
【0047】
圧力計測器20は圧力を直接測定する装置でもよく、又は圧力を算出するために使用できる情報を収集できるものであってもよい。
【0048】
圧力計測器20は濾過ユニット11を介して試料が最初に通過する際に目的を果たし、装置10を使用するその後の工程では作動しなくてもよいが、特に自動化システムでは、統計的目的及び/又はシステムの故障を場合により検出するための安全チェックとしてシステム内圧の測定を継続することもできる。
【0049】
第2の吸引手段21は、フィルターの第2の面13に対して吸引することができ、フィルターの第1の面12からフィルターの第2の面13へ流体を効果的に吸引できる。流体及び該流体中に懸濁している粒子を収集できる任意の第2の吸引リザーバ(不図示)を有していてもよい。
【0050】
第2の吸引手段21は、その栓を引くことによって吸引を行うシリンジであることができる。シリンジの内部空洞は必要であればリザーバとして使用できる。または、第2の吸引手段21は蠕動ポンプなどのポンプであってもよい。装置10の使用はさらに後述されるが、興味ある非標的細胞を保存するためには第2の吸引リザーバを有することは好都合で好ましい。
【0051】
図2は本発明の装置10の他の実施形態を示す。図中、説明の便宜上、管14の全ての部品について参照番号を付けて示しているわけではない。
【0052】
図2の実施形態は、複数の選択手段15を示す。この実施形態では、フィルターの第1の面12に流体連通している選択手段15は三方弁であり、フィルターの第2の面13に流体連通している選択手段15は二方弁である。
【0053】
図2の実施形態は、各要素が別の構成を有し、フィルターの第1の面12に接続している全ての構成部分を単一の選択手段15と管14とを介して集めている。フィルターの第2の面13に接続している構成部分もまた図1の実施形態に関する構成と異なっている。ここで、圧力計測器20は選択手段を介さずに接続され、代わりに、第2の液体リザーバ又は第2の吸引手段21の1つが常にシステムに流体連通していてもよい。
【0054】
当業者には本発明の範囲内でさらに他の構成が可能であることは明らかである。さらに、複数の装置を直列又は並列に配置することもできる。
【0055】
試料を低い作業温度で維持することが好ましい又は必須である場合、例えば、追加の分析や作業のために細胞活性を停止することが強く望まれる場合には、本発明に関する装置全体を冷蔵ユニット又は低温室に設置してもよい。他の例では、システム内で使用される液体試薬を特定の温度、例えば、約0〜4℃の範囲で供給されれば十分である場合がある。
【0056】
前述のように、本発明に関する装置のほとんど又は全ての構成部分は使い捨てであってよいと考えられる。特に、使い捨てカセット又はカートリッジを本発明に関する装置の構成部分と共に供給してもよいと考えられる。そのようなカセットは、試料の電子的処理を促進するために、バーコード又はバーコードを貼るための場所を有することが好ましい。あるいは、カセットに組み入れる又は貼り付けることができる電子識別子も可能である。
【0057】
本発明に有用なカセット又はカートリッジは濾過ユニットを有し、攪拌器を有してもよい。あるいは、濾過ユニットは単に攪拌器によって接続又は連結できるものであってもよい。複数の管が濾過ユニットの第1及び第2面のそれぞれを装置のリザーバ及び流入口に接続する。少なくとも、圧力計測器のためのアクセスポイントを備え、圧力計測器自体をカセットに含めてもよい。アクセスポイントは単にセンサーを挿入する管内の場所であることもできる。
【0058】
本発明の装置は、手動で作動させてもよい。あるいは、部分的又は全体を自動化してもよい。容易に参照できるように、図1をここで参照する。
【0059】
必要な場合には、システム及び/又はフィルターは液体の提供を受けることができる。試料は、濾過ユニット11と流体連通されている試料流入口16に提供される。あるいは、試料は本発明の方法に供される前に前処理されていてもよい。例えば、細胞がゆがんで通常の径よりも小さい孔を通過できてしまうという細胞の性質を低減するために、細胞を固定することもできる。
【0060】
血液試料を分析する場合には、0.37%ホルムアルデヒド標準液で処理した細胞から血漿を分離することができる。続いて、PBS又は他の中性液を元の試料と同じ体積まで加えることができる。論理に従うことが必要ではないが、細胞はホルムアルデヒドの添加後には固定されるか又は柔軟性を欠くと思われる。結果として、細胞は、ゆがんでフィルター孔を通過する能力というよりは、むしろその直径との密接なかかわりにより、フィルターを通過したり通過できなかったりする。
【0061】
当該選択手段15は、第2の吸引手段21が濾過ユニット11に流体連通するように形成される。このように第2の吸引手段21は、流体及び懸濁粒子を試料流入口6を介して濾過ユニット11に吸引することに関与する。
【0062】
試料の種類及び該装置の形状に従って、好適な圧力の範囲を使用することができる。圧力計測器20の使用により、濾過ユニット11がどの程度標的細胞で満たされたかをおおよそ算出することができる。適切な時点で、例えば、圧力を示すために使用された水柱が約140mmH2Oを示す場合、第2の吸引手段21は吸引を止めて、試料流入口16は濾過ユニット11との流体連通を中止する。
【0063】
この工程はフィルターの孔サイズよりも小さい非標的細胞や混在物はフィルターを通して吸引し、標的細胞は濾過ユニットの第1の面上に残す効果を有する。
【0064】
他の任意の前処理では、選択的溶菌を達成する公知物質及び方法を使用する。これにより、本発明の装置を使用してより迅速又はより効率的な濾過が可能になる。
【0065】
第1の液体リザーバ17を濾過ユニット11に流体連通し、第2の吸引手段21を再度連結し、濾過ユニット11を介して第1の液体リザーバ17から流体を吸引する。
【0066】
この工程は、残っている非標的細胞のシステムを洗浄又はすすぐ効果を有する。第1の液体リザーバ17を濾過ユニットとの流体連通から解除し、第2の液体リザーバ19をシステムと連通する。第1の吸引手段18を連結し、濾過ユニット11を介して第2の液体リザーバ19から流体を吸引する。そのように吸引された流体は第1の吸引リザーバ(不図示)に収集される。
【0067】
一部には、流体の流れ及びフィルターの振動により促進されて、フィルターの第1の面12上に残っている標的細胞は通過する流体中に懸濁され、第1の吸引リザーバに運ばれる。この位置で、標的細胞を直接観察又は分析、処理又は染色、又は他の装置又は貯蔵室へ転送してもよい。
【0068】
好ましくは、第2の吸引手段21は、濾過ユニット11を介して第1の流体リザーバ17から流体を再度吸引し、第1の吸引手段18が第2の流体リザーバ19から追加の流体を吸引する。さらに好ましくは、直前に記載した2段階の流体転送工程を2回又は3回以上繰り返す。これらの交換処置により、試料中の粒子を完全にフィルターから除去し、装置10の内部構成部分を確実にきれいにする。
【0069】
第2の吸引リザーバを有する本発明に関する装置10の実施形態により行われた分析は、試料中の少なくとも96%の細胞を第1又は第2の吸引リザーバのいずれかに捕獲されたことを示し、本装置の効率が優れていることが示された。
【実施例】
【0070】
実施例1:赤血球細胞が混在する膀胱洗浄液
生体の膀胱洗浄を行い、細胞及び混在物が懸濁されている可能性のある洗浄液を収集する。試料の染色液滴の予備的な顕微鏡的分析で、多数の赤血球細胞と少数の標的細胞の可能性のある細胞の存在を確認する。図3参照。残りの試料を本発明の装置の試料流入口に供給し、濾過する。
【0071】
工程所要時間は約10分である。フィルターを介しての試料の第1の吸引では、装置内の圧力は最高140mmH2Oに到達する。第1の吸引リザーバに捕獲された物質をスライド上に置き、染色する。顕微鏡での検査により、精製、濃縮された標的細胞が自然の状態で簡単に可視化される。図4参照。
【0072】
対照目的で、第2の吸入リザーバを使用する。第2の吸入リザーバに捕獲された物質をスライド上に置き、染色する。顕微鏡での検査により、多数の赤血球細胞と上皮細胞が認められる。捕獲された標的及び非標的細胞の分析により、標的細胞の回収率は95%以上と算出される。
【0073】
実施例2:上皮細胞が混在する腹水
腹水試料を得る。腹水を染色し、水滴を顕微鏡で検査すると、非常に多くの上皮細胞と少数の標的細胞の可能性のある細胞が観察される。図5参照。残りの試料の10mLを200mLの試料流入口容器に入れ、本発明の装置を介して濾過した。
【0074】
工程は約10分で完了した。フィルターを介しての試料の第1の吸引では、圧力は最高140mmH2Oに到達した。第1の吸引リザーバに捕獲された物質をスライド上に置き、染色した。顕微鏡での検査により、精製、濃縮された標的細胞が自然の状態で簡単に可視化された。図6参照。
【0075】
実施例3:2段階精製、濃縮
末梢血液細胞を含む細胞含有試料を用意する。細胞を公知方法により化学的に溶解する。細胞内容物を本発明に関する装置の試料流入口容器に入れる。
【0076】
ほとんどの細胞成分は通過できるが、最大の細胞成分である細胞核は通過できない大きさの孔サイズを有するフィルターを使用して、第1の工程を行う。このシステムの稼働後、核は後の使用のために取って置き、第2の吸引リザーバに集められた残りの成分を除去する。システムを再び使用できるように準備し、第2の吸引リザーバに最初に集められた成分を試料流入口に投入する。
【0077】
この分画のほとんどの細胞成分は通過できるが、最大の細胞成分であるミトコンドリアは通過できない大きさの孔サイズを有するフィルターを使用して、第2の工程を行う。この工程に続いて、核、ミトコンドリア及び第2の吸引リザーバに集められた残りの成分をそれぞれ分析する。この分析により、本発明の装置を多段階分離法に使用し、迅速かつ効率的に液体試料の大きさの異なる成分、この場合、溶解細胞の細胞成分、を取得できることが確認される。このように分離された成分は天然の状態であり、ほとんど元のままで、要望通り更なる分析が可能であった。
【0078】
上記の記載及び実施例は単に本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明の精神及び本質を包含する上述の実施形態の改変は、当業者には明らかであり、本発明は、添付の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内での様々な変更を含むものと広く解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の精製及び濃縮のための装置であって、
第1の面と第2の面とを有し、攪拌器を有する濾過ユニットと、
前記濾過ユニットの前記第1の面に選択的流体連通している試料流入口と、
前記濾過ユニットの前記第1の面に選択的流体連通している前記第1の液体リザーバと、
前記濾過ユニットの前記第2の面に選択的流体連通している第2の液体リザーバと、
前記濾過ユニットの前記第2の面に選択的流体連通している第2の吸引手段と、を有し、
第1の吸引リザーバを有し、前記濾過ユニットの前記第1の面に選択的流体連通している第1の吸引手段と、
前記濾過ユニットの前記第2の面に流体連通し、流れ停止能を有する圧力計測器と、を有することを特徴とする、試料の精製及び濃縮のための装置。
【請求項2】
前記第2の吸引手段は第2の吸引リザーバを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の吸引手段と前記第2の吸引手段の少なくとも一方は蠕動ポンプである、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記圧力計測器は、前記装置の少なくとも1カ所において流れを停止又は開始させることができるクランプ又は圧電膜の少なくとも一方を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記攪拌器は水平方向の機械的振動を与えるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
第1の面と第2の面とを有し、攪拌器に接続可能なフィルターを有する濾過ユニットと、
前記濾過ユニットの前記第1の面に流体連通している試料流入口管と、
前記濾過ユニットの前記第1の面に流体連通している第1の液体リザーバ管と、
前記濾過ユニットの前記第1の面に流体連通している第1の吸引リザーバ管と、
前記濾過ユニットの前記第2の面に流体連通している第2の液体リザーバ管と、
前記濾過ユニットの前記第2の面に流体連通している第2の吸引管と、を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置に使用されるカートリッジであって、
圧力計測器との少なくとも1つのアクセスポイントを有するカートリッジ。
【請求項7】
前記濾過ユニットは攪拌器を有する、請求項6に記載のカートリッジ。
【請求項8】
前記攪拌器は、水平方向の機械的振動を与えるものである、請求項7に記載のカートリッジ。
【請求項9】
試料を精製する方法であって、
フィルターの第1の面に流体連通している試料流入口に試料を供給する工程と、
所定の圧力が測定されるまで前記フィルターを通して前記試料流入口から流体をフィルターの第2の面へ吸引する工程と、
前記フィルターの前記第2の面を、液体を有するリザーバと専用流体連通させる工程と、
前記フィルターを通して前記リザーバから流体を前記フィルターの前記第1の面へ吸引する工程と、
前記フィルターを通して前記リザーバから吸引された前記流体を容器に回収する工程と、を有し、
上記過程の少なくともかなりの部分で前記フィルターを揺動し、
精製された試料を前記容器中に回収する、試料を精製する方法。
【請求項10】
前記所定の圧力は、水柱を用いて測定した場合、約130〜150mmH2Oの範囲、好ましくは135〜145mmH2Oである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記所定の圧力は、水柱を用いて測定した場合、約140mmH2Oである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記動揺は、水平方向の機械的振動を与えるものである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法であって、前記回収工程は少なくとも1回の2段階の流体移送後に行われ、前記2段階の流体移送は、
前記フィルターの前記第1の面を、液体を有する第1の流体リザーバと専用流体連通させる工程と、
前記フィルターを通して前記第1の流体リザーバからの流体をフィルターの前記第2の面に吸引する工程と、
前記フィルターの前記第2の面を、液体を有する第2のリザーバと専用流体連通させる工程と、
前記フィルターを通して第2のリザーバからの流体をフィルターの第1の面に吸引する工程と、
前記フィルターを通して第2のリザーバから吸引された前記流体を容器に回収する工程と、を有する流体移送方法。
【請求項14】
前記試料は生体試料である、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記試料は循環腫瘍細胞を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記試料は所定の圧力により標準化される、請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法により精製された試料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−514806(P2013−514806A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545908(P2012−545908)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051473
【国際公開番号】WO2011/078784
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(512164665)
【Fターム(参考)】