説明

生体高分子分析装置、生体高分子の分析方法、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法

【課題】より感度の良好な生体高分子分析装置、生体高分子の分析方法、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法を提供する。
【解決手段】受光面を上方向に向けて設けられた光電変換素子20を有する撮像装置10と、撮像装置10の受光面側に固定され、内部に溶液が注入されるウェル42を形成する隔壁40と、ウェル42の底部に設けられ、ウェル42に注入される溶液内の特定の生体高分子と結合するプローブ61と、ウェル42を囲繞するように配置された複数の電磁石78R,78Lと、を備える生体高分子分析装置70である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子分析装置、生体高分子の分析方法、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生物種の遺伝子の発現解析を行うためにDNAチップや抗体チップ等の生体高分子分析チップやその読取装置が開発されている。生体高分子分析チップは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNAや抗体をスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである(例えば特許文献1参照)。例えば、DNAチップ及びその読取装置を用いた遺伝子の発現解析は次のようにして行う。
【0003】
まず、既知の塩基配列を有した複数種類のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAチップを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、標識物質で標識したものを用意する(以下、標識DNAという)。ここで、標識物質には蛍光物質や化学発光基質、あるいは化学発光基質を発光させる酵素等を用いることができる。
次に、標識DNAをDNAチップ上に添加すると、標識DNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAチップ上に固定される。
【0004】
次いで、DNAチップを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。読取装置は、DNAチップに対して二次元的に移動する集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAチップを走査する標識物質により発した光を集光レンズで集光させ、光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAチップの面内の光強度分布を計測し、これにより、DNAチップ上の光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有した標識DNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって検体で発現しているmRNAを同定することができる。
【特許文献1】特開2000−131237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の光電変換素子を二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイスの受光面にDNAや抗体等のプローブ分子をスポットした生体高分子分析チップが開発されている。このような生体高分子分析チップでは、スポットに付着した標識DNA等の生体高分子を標識する標識物質により発生する光を各光電変換素子により計測する。固体撮像デバイスの受光面にスポットが点在しており、受光面に付着された生体高分子と光電変換素子との間の距離が近いために標識物質から発した光の減衰を抑えることができるために、僅かな光量でも計測が可能であるという利点がある。
【0006】
上記のような生体高分子分析チップにおいて、標識物質として化学発光基質を発光させるための酵素を用いた場合には、化学発光基質を含む溶液をスポットに滴下し、酵素による化学反応に基づいて発生する励起された蛍光体が基底状態に戻るときに発する光を計測する。
【0007】
しかし、化学発光基質がウェル内で拡散すると、化学発光基質が酵素により反応し発生する蛍光体の量が減少する。その結果、蛍光体より放射される蛍光が減り、S/N比が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、より感度の良好な生体高分子分析装置、生体高分子の分析方法、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、受光面を上方向に向けて設けられた光電変換素子を有する撮像装置と、前記撮像装置の受光面側に固定され、内部に溶液が注入されるウェルと、前記ウェルを囲繞するように配置された複数の電磁石と、を備えることを特徴とする生体高分子分析装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、酵素に基づく化学反応によって生じる蛍光物質を電気的に引き寄せるため、前記各光電変換素子の受光面側に電極がそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の生体高分子分析装置であって、前記ウェルの底部に既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであるプローブを設けることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の生体高分子分析装置であって、前記ウェルの底部に特定の抗原と結合する抗体であるプローブを設けることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置を用いた生体高分子の分析方法であって、酵素で標識した生体高分子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、次に、前記ウェルの底部に設けられたプローブに溶液内の前記生体高分子の一部を結合させ、その後、前記酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、その後、適宜電圧を印加して前記複数の電磁石による磁界を交互に発生させる過程を経て、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の生体高分子分析装置を用いた生体高分子の分析方法であって、酵素で標識した生体高分子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、次に、前記ウェルの底部に設けられたプローブに溶液内の前記生体高分子の一部を結合させ、その後、前記酵素が触媒として機能する化学反応により電荷を帯びた励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記電極に前記蛍光物質を引き寄せるように電圧を印加する過程と、前記複数の電磁石に適宜電圧を印加して磁界を交互に発生させる過程とを経て、生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置を用いた遺伝子の発現解析方法であって、既知の塩基配列を有する一本鎖DNAを前記プローブとして前記ウェルの底部に設け、次に、任意の細胞内から抽出されたRNAを鋳型として作成された酵素標識DNAを含む溶液を前記ウェル内に注入し、次に、前記プローブに溶液内の酵素標識DNAの一部をハイブリダイズさせ、その後、酵素標識DNAを標識する酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、その後、適宜電圧を印加して前記複数の電磁石による磁界を交互に発生させる過程を経て、生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項2に記載の生体高分子分析装置を用いた遺伝子の発現解析方法であって、既知の塩基配列を有する一本鎖DNAを前記プローブとして前記ウェルの底部に設け、次に、任意の細胞内から抽出されたRNAを鋳型として作成された酵素標識DNAを含む溶液を前記ウェル内に注入し、次に、前記プローブに溶液内の酵素標識DNAの一部をハイブリダイズさせ、その後、酵素標識DNAを標識する酵素が触媒として機能する化学反応により電荷を帯びた励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記電極に前記蛍光物質を引き寄せるように電圧を印加する過程と、前記複数の電磁石に適宜電圧を印加して磁界を交互に発生させる過程とを経て、生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置を用いた抗原の検出方法であって、特定の抗原と結合する抗体を前記プローブとして前記ウェルの底部に設け、次に、任意の抗原を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに溶液内の特定の抗原とを結合させ、次いで、前記プローブに結合しなかった抗原を除去するとともに、酵素により標識されかつ前記プローブと同一の抗原の異なる抗原決定基と結合する第二の抗体を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに結合した特定の抗原に第二の抗体を結合させ、その後、第二の抗体を標識する酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、その後、適宜電圧を印加して前記複数の電磁石による磁界を交互に発生させる過程を経て、生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項2に記載の生体高分子分析装置を用いた抗原の検出方法であって、特定の抗原と結合する抗体を前記プローブとして前記ウェルの底部に設け、次に、任意の抗原を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに溶液内の特定の抗原とを結合させ、次いで、前記プローブに結合しなかった抗原を除去するとともに、酵素により標識されかつ前記プローブと同一の抗原の異なる抗原決定基と結合する第二の抗体を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに結合した特定の抗原に第二の抗体を結合させ、その後、第二の抗体を標識する酵素が触媒として機能する化学反応により電荷を帯びた励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記電極に前記蛍光物質を引き寄せるように電圧を印加する過程と、前記複数の電磁石に適宜電圧を印加して磁界を交互に発生させる過程とを経て、生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、より感度の良好な生体高分子分析装置、生体高分子の分析方法、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0021】
[第1実施形態]
〔1〕生体高分子分析チップの全体構成
図1は、本発明の実施形態に係る生体高分子分析チップ1の概略平面図であり、図2は、図1のII−II矢視断面図である。図3は図1のIII部拡大図であり、図4は図3のIV−IV矢視断面図である。この生体高分子分析チップ1は、DNAを検出するDNAチップである。
この生体高分子分析チップ1は、図1、図2に示すように、撮像装置2は、固体撮像デバイス10と、隔壁40と、スポット60とを備える。
【0022】
〔2〕固体撮像デバイス
ここで、図1〜図4を用いて固体撮像デバイス10について説明する。図2に示すように、固体撮像デバイス10は、透明基板11と、ボトムゲート絶縁膜13と、トップゲート絶縁膜21と、保護絶縁膜23と、保護絶縁膜25とを積層してなる。これらの層間に、複数のボトムゲートライン12a、ソースライン18a、ドレインライン19a、トップゲートライン22a、電極ライン24a及び、ダブルゲートトランジスタ20を形成するボトムゲート電極12、半導体膜14、チャネル保護膜15、不純物半導体膜16,17、ソース電極18、ドレイン電極19、トップゲート電極22、電極24が設けられている。
【0023】
透明基板11は、後述する蛍光体が発する蛍光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するとともに絶縁性を有し、石英ガラス等といったガラス基板又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板である。
【0024】
この固体撮像デバイス10においては、光電変換素子としてダブルゲート型磁界効果トランジスタ(以下、ダブルゲートトランジスタという。)20が利用され、複数のダブルゲートトランジスタ20,20,…が透明基板11上において二次元アレイ状に特にマトリクス状に配列され、これらダブルゲートトランジスタ20,20,…が窒化シリコン(SiN)等の保護絶縁膜23によってまとめて被覆されている。
なお、図1では8行×8列の64個のダブルゲートトランジスタ20,20,…を備えるマトリクス状の二次元アレイを示すが、その数は任意であり、さらに多くの行及び列を有していてもよい。
【0025】
図3、図4に示すように、ダブルゲートトランジスタ20,20,…は何れも、受光部である半導体膜14と、半導体膜14上に形成されたチャネル保護膜15と、ボトムゲート絶縁膜13を挟んで半導体膜14の下に形成されたボトムゲート電極12と、トップゲート絶縁膜21を挟んで半導体膜14の上に形成されたトップゲート電極22と、半導体膜14の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜16と、半導体膜14の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜17と、不純物半導体膜16に重なったソース電極18と、不純物半導体膜17に重なったドレイン電極19と、を備え、半導体膜14において受光した光量に従ったレベルの電気信号を出力するものである。
【0026】
ボトムゲート電極12は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに透明基板11上に形成されている。また、透明基板11上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン12a,12aが形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれのボトムゲート電極12が共通のボトムゲートライン12aと一体となって形成されている。ボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12aは、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0027】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12a,12a,…はボトムゲート絶縁膜13によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜13は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜13は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0028】
ボトムゲート絶縁膜13上には、複数の半導体膜14がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜14は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立して形成されており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20においてボトムゲート電極12に対して対向配置され、ボトムゲート電極12との間にボトムゲート絶縁膜13を挟んでいる。半導体膜14は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0029】
半導体膜14上には、チャネル保護膜15が形成されている。チャネル保護膜15は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜14の中央部上に形成されている。チャネル保護膜15は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜15は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜14の界面を保護するものである。半導体膜14に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜15と半導体膜14との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜14側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜15側には電子が発生する。
【0030】
半導体膜14の一端部上には、不純物半導体膜16が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されており、半導体膜14の他端部上には、不純物半導体膜17が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜16,17は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜16,17は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる。
【0031】
不純物半導体膜16上には、ソース電極18が形成され、不純物半導体膜17上には、ドレイン電極19が形成されている。ソース電極18及びドレイン電極19はダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aがボトムゲート絶縁膜13上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極18は共通のソースライン18aと一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のドレイン電極19は共通のドレインライン19aと一体に形成されている。ソース電極18、ドレイン電極19、ソースライン18a及びドレインライン19aは、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0032】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極18及びドレイン電極19並びにソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aは、トップゲート絶縁膜21によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜21は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜21は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0033】
トップゲート絶縁膜21上には、複数のトップゲート電極22がダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。トップゲート電極22は、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜14に対して対向配置され、半導体膜14との間にトップゲート絶縁膜21及びチャネル保護膜15を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜21上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン22a,22aが形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20のトップゲート電極22が共通のトップゲートライン22aと一体に形成されている。トップゲート電極22及びトップゲートライン22aは、導電性及び光透過性を有し、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0034】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極22及びトップゲートライン22a,22aは保護絶縁膜23によってまとめて被覆され、保護絶縁膜23は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。保護絶縁膜23は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0035】
保護絶縁膜23の上面には、ダブルゲートトランジスタ20,20,…の半導体膜14の上方に電極24が設けられている。また、保護絶縁膜23の上面には、ダブルゲートトランジスタ20,20,…の側方に、縦方向に延在する複数本の電極ライン24a,24a,…が形成されており、縦方向に配列された同一の列の電極24,24が共通の電極ライン24aと一体となって形成されている。電極24及び電極ライン24aは導電性を有し、さらに、後述する蛍光体92の蛍光に対して高い透過性を示す透明電極が好ましく、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0036】
電極24及び電極ライン24aは保護絶縁膜25によってまとめて被覆される。保護絶縁膜25は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0037】
以上のように構成された固体撮像デバイス10は、保護絶縁膜25の表面を受光面としており、ダブルゲートトランジスタ20の半導体膜14において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。
【0038】
〔3〕隔壁
隔壁40は保護絶縁膜25上に密着され、固体撮像デバイス10の受光面にウェル42を形成する。隔壁40は不透明であり、ダブルゲートトランジスタ20に隣接するウェル42から光が入ることを防いでいる。
【0039】
なお、図1では2行×2列のウェル42が固体撮像デバイス10の受光面に形成されているが、その数は任意である。また、図1では1つのウェル42に4行×4列のダブルゲートトランジスタ20が配置されているが、1つのウェルに少なくとも1つのダブルゲートトランジスタ20が配置されていればよく、その数は任意である。
【0040】
〔4〕スポット
図1、図2に示すように、ウェル42内にはスポット60が形成されている。各スポット60は、プローブとなる既知の塩基配列のcDNA(プローブDNA61)や抗体等の溶液をウェル42内に滴下し、乾燥して形成される。以下ではプローブとして既知の塩基配列のcDNAを用いた場合について説明する。
【0041】
1つのスポット60では同じ塩基配列の一本鎖のプローブDNA61が多数集まった群集がウェル42内に固定化され、スポット60ごとにプローブDNA61は異なる塩基配列となっている。プローブDNA61としては、既知のmRNAの塩基配列、またはその一部と同一の、あるいは相補的な塩基配列のDNAが用いられる。具体的には、例えば、後述する酵素標識DNAで用いるのと同じ細胞検体から作成したcDNAライブラリを用いることができる。
【0042】
1つのスポット60はダブルゲートトランジスタ20上に重なるように形成されている。なお、1つのスポット60は複数のダブルゲートトランジスタ20の上に重なるように形成されていてもよい。
【0043】
〔5〕分析装置
生体高分子分析チップ1を分析装置70にセッティングして生体高分子分析チップ1を用いるので、分析装置70について図5を用いて説明する。図5は分析装置70の構成を示すブロック図である。
【0044】
分析装置70は、分析台71(図9参照)と、生体高分子分析チップ1に接続され、固体撮像デバイス10を駆動する電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75、ドレインドライバ76と、分析装置70全体を制御する制御装置80と、記憶装置82と、制御装置80から出力された信号により出力(表示又はプリント)を行う出力装置77と、電磁石78R,78Lと、注入装置79とを備える。
【0045】
分析台71には、生体高分子分析チップ1がセッティングされる。生体高分子分析チップ1が分析台71にセッティングされた場合には、固体撮像デバイス10の電極ライン24aが電極ドライバ73の端子に接続されるようになっている。同様に、トップゲートライン22a,22a,…がトップゲートドライバ74の端子に、ボトムゲートライン12a,12a,…がボトムゲートドライバ75の端子に、ドレインライン19a,19a,…がドレインドライバ76の端子に、それぞれ接続されるようになっている。また、生体高分子分析チップ1が分析台71にセッティングされた場合、固体撮像デバイス10のソースライン18a,18a,…が一定電圧源に接続され、この例ではソースライン18a,18a,…が接地されるようになっている。
なお、図5では2行×2列の4個のダブルゲートトランジスタ20,20,…のみが記載されているが、その数は任意であり、さらに多くの行及び列を有していてもよい。
【0046】
電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76は、協同して固体撮像デバイス10を駆動するものである。
【0047】
電磁石78R,78Lは制御装置80により制御され、後述するようにウェル42内の磁場を変動させる。
【0048】
制御装置80は、電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に制御信号を出力することによって、電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に固体撮像デバイス10の駆動動作を行わせる機能を有する。また、制御装置80は入力した二次元の画像データに従った画像を出力装置77に出力させる機能を有する。出力装置77は、例えばプロッタ、プリンタ又はディスプレイである。
【0049】
また、制御装置80は注入装置79を駆動し、分析装置70にセットされた生体高分子分析チップ1の各ウェル42に、後述する化学発光基質91を固定した磁性粒子90を含む溶液を滴下する。
【0050】
また、制御装置80は、記憶装置82に記憶された攪拌回数Mc、攪拌回数のカウント数M、1サイクル当たりの通電時間Te及び通電時間のカウント数T等のデータを読み出し、後述するように電磁石78R,78Lを駆動する電圧を出力する。また、制御装置80は、一定時間毎にカウント数Tを1ずつ減らす減算タイマー機能を有する。
【0051】
また、制御装置80はドレインドライバ76から入力した電気信号をA/D変換することで、固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして記憶装置82に取得する機能を有する。
【0052】
記憶装置82には、記憶装置82に記憶された攪拌回数Mc、攪拌回数のカウント数M、通電時間Te及び通電時間のカウント数T等のデータが記憶される。また、記憶装置82には、ドレインドライバ76から制御装置80に入力され、A/D変換された固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布が二次元の画像データとして記憶される。
【0053】
〔6〕酵素標識DNA
上記生体高分子分析チップ1で分析する試料としては、DNAを用いることができる。試料となるDNAとしては、任意の細胞検体内で発現しているmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて得られたcDNAを用いることができる。cDNAは例えばアルカリホスファターゼやペルオキシダーゼ等、後述する化学発光基質の反応の触媒として機能する酵素で標識する。
【0054】
cDNAを酵素で標識するには、例えば、酵素で標識されたオリゴdTプライマや、標識されたdNTPミックスを用いてRT−PCR反応を実施すればよい。以下では、この標識されたcDNAを酵素標識DNAという。
【0055】
〔7〕化学発光基質
酵素標識DNAを検出するのに用いる化学発光基質について説明する。化学発光基質としては、酵素標識DNAの標識に用いられた酵素を触媒として利用した化学反応により励起状態の蛍光物質を生成するものを用いることができる。
具体的には、例えばアルカリホスファターゼの基質となるジオキセタン系の誘導体や、ペルオキシダーゼの基質となるルミノール系の化合物を用いることができる。
【0056】
ジオキセタン系の誘導体として、化学式1に示すアダマンチルジオキセタン塩素化誘導体(C18H19Cl2O7PNa2)を例に挙げて説明する。アダマンチルジオキセタン塩素化誘導体はリン酸基を有し、アルカリホスファターゼの基質となる。
【化1】

【0057】
アルカリホスファターゼはアダマンチルジオキセタン塩素化誘導体のリン酸基を加水分解し、化学式2に示す不安定な中間体を形成する。
【化2】

【0058】
中間体は自然開裂し、化学式3に示すアダマンタノンと蛍光体とに分解される。この蛍光体は励起状態であり、蛍光体が基底状態に遷移するときのエネルギーが光として放出される。
【化3】

【0059】
なお、アルカリホスファターゼの基質となる化学発光基質はリン酸基を有しており、水溶液中で負に帯電している。また、化学発光基質の加水分解により生成する蛍光体も、水溶液中で負に帯電している。このため、化学発光基質及び蛍光体は、水溶液中で正電荷側へ移動する。
【0060】
本実施の形態では、図6に示すように、磁性粒子90の表面に化学発光基質91を固定させたものを用いる。
磁性粒子の材料としては、例えばニッケル粒子や鉄粒子、Fe3O4、γ-Fe2O3、Co-γ-Fe2O3、(NiCuZn)O・(CuZn)O・Fe2O3、(MnZn)O・Fe2O3、(NiZn)O・Fe2O3、SrO・6Fe2O3、BaO・6Fe2O3等の各種磁性体を用いることができ、これと高分子材料(例えばナイロン、ポリアクリルアミド、ポリスチレン等)とを組み合わせて粒子状に形成してもよい。
【0061】
磁性粒子90に化学発光基質91を固定させる方法は任意であり、例えば磁性粒子90の表面をSiO2でコーティングすることで、SiO2の吸着力により化学発光基質91を磁性粒子90の表面に固定することができる。
【0062】
〔8〕ハイブリダイゼーション
以下、酵素標識DNA62をプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法について図7、図8を用いて説明する。
まず、作業者が、酵素標識DNA62を含有した溶液(以下、酵素標識DNA溶液という)を各ウェル42内に注入する。酵素標識DNA溶液を注入する前に各ウェル42内に酵素標識DNA62が泳動するためのバッファー溶液が入れられていてもよく、酵素標識DNA溶液自体が泳動用のバッファー溶液を兼ねていてもよい。なお、酵素標識DNA溶液を各ウェル42内のスポット60,60,…に順次又は同時に滴下してもよい。このとき、酵素標識DNA62が一本鎖となるように酵素標識DNA溶液は加熱されている。
【0063】
次いで、プローブDNA61と酵素標識DNA62とがハイブリダイゼーションを引き起こすように、生体高分子分析チップ1の各ウェル42を所定の温度に冷却する。すると、図8に示すように、各ウェル42内に注入された酵素標識DNA溶液内の酵素標識DNA62のうち、当該ウェル内のスポット60のプローブDNA61と相補的なものは、プローブDNA61とハイブリダイズする。一方、プローブDNA61と相補的ではないものは、そのスポット60には結合しない。
その後、ウェル42内の酵素標識DNA溶液を洗浄用バッファー溶液で洗い流し、酵素標識DNAのうちプローブDNA61とハイブリダイズしなかったものをウェル42内から除去する。
【0064】
上記処理を行った生体高分子分析チップ1を分析装置70にセッティングし、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76を制御装置80に接続し、制御装置80を起動する。
【0065】
〔9〕サンプルの検出
酵素標識DNA62の検出方法について図9〜図14を用いて説明する。
【0066】
スポット60のプローブDNA61に酵素標識DNA62がハイブリダイズしたウェル42に化学発光基質91を固定した磁性粒子90を含む溶液を注入すると、酵素標識DNA62を標識する酵素63により化学発光基質91が加水分解され、不安定な中間体を経て励起状態の蛍光体92が生成される(図9)。蛍光体92は水溶液中で負に帯電しているため、水溶液中で正電荷側へ移動する。
【0067】
本実施の形態では、以下に説明するように、化学発光基質91を固定した磁性粒子90及び電磁石78R,78Lを用いてウェル42内の攪拌動作を行う。以下、制御装置80によるウェル42内の攪拌動作について説明する。
【0068】
図10は制御装置80によるウェル42内の攪拌動作を示すフローチャートであり、図11は制御装置80による電極ライン24a及び電磁石78R,78Lに適宜電圧を印加して磁界を交互に発生させるための電圧を示すタイミングチャートである。
まず、制御装置80は、注入装置79を駆動し、分析装置70にセットされた生体高分子分析チップ1の各ウェル42に、化学発光基質91を固定した磁性粒子90を含む溶液を注入する(図12)。
【0069】
化学発光基質91を固定した磁性粒子90を含む溶液を、全てのウェル42に注入したら(ステップS1→Yes)、制御装置80は電極ドライバ73を駆動して電極ライン24aに正電圧を印加し、電極24を正に帯電させる(ステップS2)。
【0070】
次に、制御装置80は、記憶装置82に記憶される攪拌回数のカウント数Mをあらかじめ設定された攪拌回数Mcにセットする(ステップS3)。
【0071】
次に、制御装置80は、記憶装置82に記憶される通電時間のカウント数Tをあらかじめ設定された1サイクル当たりの通電時間Teにセットする(ステップS4)。
次に、制御装置80は、右側の電磁石78Rに通電を開始する(ステップS5)。その後、制御装置80は、記憶装置82に記憶されたカウント数Tを一定時間毎に1減じた値に書き換える(ステップS6)。これをT=0となるまで繰り返す(ステップS7→No)。
T=0となったら(ステップS7→Yes)、制御装置80は、右側の電磁石78Rへの通電を停止する(ステップS8)。
【0072】
次に、制御装置80は、記憶装置82に記憶される通電時間のカウント数Tを再びTeにセットする(ステップS9)。
次に、制御装置80は、左側の電磁石78Lに通電を開始する(ステップS10)。その後、制御装置80は、記憶装置82に記憶されたカウント数Tを一定時間毎に1減じた値に書き換える(ステップS11)。これをT=0となるまで繰り返す(ステップS12→No)。
T=0となったら(ステップS12→Yes)、制御装置80は、左側の電磁石78Lへの通電を停止する(ステップS13)。
【0073】
左右両方の電磁石78R,78Lへの通電が終了したら、カウント数Mを1減じた後(ステップS14)、M=0となるまで(ステップS15→No)ステップS4〜S14の動作を繰り返す。
M=0となったら(ステップS15→Yes)、制御装置80は電極ドライバ73を駆動して電極ライン24aに正電圧を印加するのを停止し(ステップS16)、攪拌動作を終了する。
【0074】
ステップS5〜S8までの間、右側の電磁石78Rのみに通電が行われているので、化学発光基質91を固定した磁性粒子90は、電磁石78Rの磁力により右側へ移動する(図13)。一方、ステップS10〜S13までの間、左側の電磁石78Lのみに通電が行われているので、化学発光基質91を固定した磁性粒子90は、電磁石78Lの磁力により左側へ移動する(図14)。このため、ステップS4〜S15を繰り返すことで、化学発光基質91を固定した磁性粒子90がウェル42内で左右に繰り返し移動し、酵素63により化学発光基質91が加水分解される機会が増大し、蛍光体92がより多く生成される。
【0075】
生成した励起状態の蛍光体92が基底状態に遷移するときに蛍光(主に可視光波長域)が放出され、蛍光を発するスポット60に対応するダブルゲートトランジスタ20に蛍光が入射して電子−正孔対が発生する。
【0076】
ここで、ステップS2〜S16の間では、電極24が正に帯電しているため、生成した蛍光体92は電極24に引き寄せられる。このため、電極24の近傍では、蛍光体92の濃度が高くなり、より多くの蛍光が対応するダブルゲートトランジスタ20に入射して電子−正孔対を発生させることができる。
【0077】
なお、化学発光基質91が負に帯電している場合でも、本実施の形態においては、化学発光基質91が磁性粒子90の表面に固定されているため、化学発光基質91が電極24の近傍に引き寄せられることがなく、化学発光基質91の酵素63による加水分解が妨げられることがない。
【0078】
攪拌動作の終了後、制御装置80は各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれ出力をA/D変換することで、固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして記憶装置82に記憶する。
【0079】
作業者は、記憶装置82に記憶された各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの光量データを出力装置77により出力することで得られた画像データより、各スポット60,60,…におけるハイブリダイゼーションの有無を確認することができる。ハイブリダイゼーションが起きていれば、そのスポット60のプローブDNA61と相補的な塩基配列のmRNAが細胞検体内で発現していることがわかる。
【0080】
<変形例>
図15は本実施形態の変形例に係る分析装置170の構成を示すブロック図である。なお、第1実施形態における分析装置70と同様の構成については、下2桁に同符号を付して説明を割愛する。
本変形例においては、固体撮像デバイス110の左右に電磁石178R,178Lが設けられているほか、前側に電磁石178Fが、後側に電磁石178Bが設けられている。
【0081】
第1実施形態においては、電磁石78R,78Lに交互に通電することによって磁性粒子90を左右に移動させていたが、本変形例においては、電磁石178R,178L,178F,178Bのそれぞれに電圧を印加することで、磁性粒子90を前後左右に移動させることができる。
なお、電磁石178R,178L,178F,178Bに1つずつ順番に電圧を印加してもよいし、2つずつ交互に電圧を印加してもよい。
【0082】
[第2実施形態]
第1実施形態においては、生体高分子分析チップ1で分析する試料として、検体内で発現しているmRNAから逆転写酵素により合成されたDNAを用いたが、検体内で発現している特定のタンパク質または糖鎖等を抗原と結合する抗体(以下、プローブ抗体という)をプローブとして用いてもよい。
【0083】
具体的には、図16に示すように、生体高分子分析チップ1の各ウェル42にプローブ抗体64を含む溶液を滴下し、乾燥してスポット60を形成する。なお、各ウェル42に滴下されるプローブ抗体64はそれぞれ異なる抗原決定基を認識し、同じスポット60を形成するプローブ抗体64は同一の抗原決定基を認識する。このようなプローブ抗体64として、モノクローナル抗体を用いることができる。
【0084】
次に、サンプルとなる抗原65を含む溶液(以下、サンプル溶液という)を各ウェル42内に注入する。
プローブ抗体64にサンプル溶液中の抗原65が結合するのに充分な時間が経過した後、ウェル42内のサンプル溶液をバッファー溶液で洗い流し、サンプル溶液中の抗原65のうちプローブ抗体64と結合しなかったものをウェル42内から除去する。
【0085】
次に、各ウェル42に、プローブ抗体64が認識するのと同じ抗原65の異なる抗原決定基を認識する抗体を酵素67で標識したもの(以下、酵素標識抗体66という)の溶液(以下、酵素標識抗体溶液という)を注入する。
【0086】
プローブ抗体64に結合した抗原65と酵素標識抗体66とが結合するのに充分な時間が経過した後、ウェル42内の酵素標識抗体溶液をバッファー溶液で洗い流し、酵素標識抗体溶液中の抗原65のうちプローブ抗体64と結合しなかったものをウェル42内から除去する。
【0087】
なお、予め抗原65に酵素標識抗体66を結合させたものをウェル42内に注入し、酵素標識抗体66が結合した抗原65をプローブ抗体64に結合させてもよい。
以後、第1実施形態の〔10〕と同様にして、各ウェル42に化学発光基質を含む溶液を注入し、分析装置70による光量データの計測動作を行う。
【0088】
プローブ抗体64に抗原65が結合し、抗原65に酵素標識抗体66が結合したウェル42では、酵素67により化学発光基質91が加水分解され、中間体を経て励起状態の蛍光体92が生成される。蛍光体92から放出される蛍光は、ダブルゲートトランジスタ20により検出される。
【0089】
作業者は、記憶装置82に記憶された各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの光量データを出力装置77により出力することで得られた画像データより、各スポット60,60,…における抗原65の有無を確認することができる。このため、ウェル42内の抗体の種類により、検体内でどのような抗原が発現しているかを直接確認することができる。
【0090】
なお、第1実施形態の変形例と同様に、生体高分子分析チップ1の前後左右に電磁石178R,178L,178F,178Bを設けた分析装置170を用いてもよい。
【0091】
本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
例えば、上記実施の形態では、プローブとして既知の塩基配列の一本鎖DNAや抗体を用いたが、その他の既知の生体高分子や低分子等を用いてもよい。例えば、抗原となるペプチドやタンパク、糖鎖、低分子リガンド、既知の細胞等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施形態に係る生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】は図1のIII部拡大図である。
【図4】図3のIV−IV矢視断面図である。
【図5】分析装置70の構成を示すブロック図である。
【図6】磁性粒子90の表面に化学発光基質91を固定させたものを示す模式図である。
【図7】酵素標識DNA62をプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法の説明図である。
【図8】酵素標識DNA62をプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法の説明図である。
【図9】酵素標識DNA62の検出方法を示す説明図である。
【図10】制御装置80によるウェル42内の攪拌動作を示すフローチャートである。
【図11】制御装置80による電極ライン24a及び電磁石78R,78Lに印加する電圧を示すタイミングチャートである。
【図12】磁性粒子90を含む溶液をウェル42内に注入した状態を示す説明図である。
【図13】磁性粒子90のウェル42内の動きを示す説明図である。
【図14】磁性粒子90のウェル42内の動きを示す説明図である。
【図15】分析装置170の構成を示すブロック図である。
【図16】抗原65の検出方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0093】
10,110 固体撮像デバイス(撮像装置)
20 ダブルゲートトランジスタ(光電変換素子)
40 隔壁
42 ウェル
60 スポット
61 プローブDNA(プローブ)
62 酵素標識DNA
63,67 酵素
64 プローブ抗体(プローブ)
65 抗原
66 酵素標識抗体
70,170 分析装置(生体高分子分析装置)
78R,78L,178R,178L,178F,178B 電磁石
90 磁性粒子
91 化学発光基質
92 蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面を上方向に向けて設けられた光電変換素子を有する撮像装置と、
前記撮像装置の受光面側に固定され、内部に溶液が注入されるウェルと、
前記ウェルを囲繞するように配置された複数の電磁石と、を備えることを特徴とする生体高分子分析装置。
【請求項2】
酵素に基づく化学反応によって生じる蛍光物質を電気的に引き寄せるため、前記各光電変換素子の受光面側に電極がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析装置。
【請求項3】
前記ウェルの底部に既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであるプローブを設けることを特徴とする請求項1または2に記載の生体高分子分析装置。
【請求項4】
前記ウェルの底部に特定の抗原と結合する抗体であるプローブを設けることを特徴とする請求項1または2に記載の生体高分子分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の生体高分子分析装置を用いた生体高分子の分析方法であって、
酵素で標識した生体高分子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
次に、前記ウェルの底部に設けられたプローブに溶液内の前記生体高分子の一部を結合させ、
その後、前記酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
その後、適宜電圧を印加して前記複数の電磁石による磁界を交互に発生させる過程を経て、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする生体高分子の分析方法。
【請求項6】
請求項2に記載の生体高分子分析装置を用いた生体高分子の分析方法であって、
酵素で標識した生体高分子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
次に、前記ウェルの底部に設けられたプローブに溶液内の前記生体高分子の一部を結合させ、
その後、前記酵素が触媒として機能する化学反応により電荷を帯びた励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
前記電極に前記蛍光物質を引き寄せるように電圧を印加する過程と、
前記複数の電磁石に適宜電圧を印加して磁界を交互に発生させる過程とを経て、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする生体高分子の分析方法。
【請求項7】
請求項1に記載の生体高分子分析装置を用いた遺伝子の発現解析方法であって、
既知の塩基配列を有する一本鎖DNAを前記プローブとして前記ウェルの底部に設け、
次に、任意の細胞内から抽出されたRNAを鋳型として作成された酵素標識DNAを含む溶液を前記ウェル内に注入し、
次に、前記プローブに溶液内の酵素標識DNAの一部をハイブリダイズさせ、
その後、酵素標識DNAを標識する酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
その後、適宜電圧を印加して前記複数の電磁石による磁界を交互に発生させる過程を経て、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする遺伝子の発現解析方法。
【請求項8】
請求項2に記載の生体高分子分析装置を用いた遺伝子の発現解析方法であって、
既知の塩基配列を有する一本鎖DNAを前記プローブとして前記ウェルの底部に設け、
次に、任意の細胞内から抽出されたRNAを鋳型として作成された酵素標識DNAを含む溶液を前記ウェル内に注入し、
次に、前記プローブに溶液内の酵素標識DNAの一部をハイブリダイズさせ、
その後、酵素標識DNAを標識する酵素が触媒として機能する化学反応により電荷を帯びた励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
前記電極に前記蛍光物質を引き寄せるように電圧を印加する過程と、
前記複数の電磁石に適宜電圧を印加して磁界を交互に発生させる過程とを経て、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする遺伝子の発現解析方法。
【請求項9】
請求項1に記載の生体高分子分析装置を用いた抗原の検出方法であって、
特定の抗原と結合する抗体を前記プローブとして前記ウェルの底部に設け、
次に、任意の抗原を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに溶液内の特定の抗原とを結合させ、
次いで、前記プローブに結合しなかった抗原を除去するとともに、酵素により標識されかつ前記プローブと同一の抗原の異なる抗原決定基と結合する第二の抗体を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに結合した特定の抗原に第二の抗体を結合させ、
その後、第二の抗体を標識する酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
その後、適宜電圧を印加して前記複数の電磁石による磁界を交互に発生させる過程を経て、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする抗原の検出方法。
【請求項10】
請求項2に記載の生体高分子分析装置を用いた抗原の検出方法であって、
特定の抗原と結合する抗体を前記プローブとして前記ウェルの底部に設け、
次に、任意の抗原を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに溶液内の特定の抗原とを結合させ、
次いで、前記プローブに結合しなかった抗原を除去するとともに、酵素により標識されかつ前記プローブと同一の抗原の異なる抗原決定基と結合する第二の抗体を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに結合した特定の抗原に第二の抗体を結合させ、
その後、第二の抗体を標識する酵素が触媒として機能する化学反応により電荷を帯びた励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質が固定された磁性粒子を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
前記電極に前記蛍光物質を引き寄せるように電圧を印加する過程と、
前記複数の電磁石に適宜電圧を印加して磁界を交互に発生させる過程とを経て、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される蛍光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする抗原の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−232798(P2008−232798A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72265(P2007−72265)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】