説明

生分解性の液体洗浄剤組成物

【課題】
液体中であっても化学的に安定な酸型ソホロリピッド含有の洗浄剤組成物を提供すること。
【解決手段】
生分解性の液体洗浄剤組成物は、ソホロリピッドを含む生分解性の液体洗浄剤組成物であって、該ソホロリピッドが、少なくとも90%以上のソホロリピッド(酸型)を含む。
該ソホロリピッド(酸型)が、ソホロリピッドを室温下でアルカリと混合して得られたものである。該ソホロリピッドは、実質的に100%の酸型ソホロリピッドである。組成物は、酸型ソホロリピッドを0.01から20重量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生分解性の液体洗浄剤組成物に関する。より詳細には、本発明は、界面活性剤として酸型ソホロリピッドを含み、低泡性が必要とされる洗浄工程に適した洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、界面活性剤の種類は、非常に多様であり、最終商品の使用方法によって、様々な界面活性剤が選択されている。しかし、消費者の観点からは、合成界面活性剤配合商品あるいは、石けん配合商品の二者択一でしかない。生分解性や安全性の観点で商品を選択する消費者は、合成界面活性剤よりも石けんを選択しているが、石けんは、合成界面活性剤に比べると洗浄力が低いため、一度に使う量が多く、そのため生分解性は高いものの、環境への負荷が大きいことが指摘されている。つまり、石けんと同等の生分解性・安全性、合成界面活性剤と同等の性能(洗浄力、硬水安定性など)を併せ持つ第3の界面活性剤(次世代型界面活性剤)の実用化が望まれている。
【0003】
また、洗浄剤分野において、水圧を洗浄に利用して被洗浄物の汚れを除去するジェット洗浄が新たな洗浄方式として注目され、一般家庭や業務用では自動食器用洗浄機、医療現場ではウォッシャーディスインフェクターなどに応用されている。このジェット洗浄に用いる洗浄剤として、起泡性の高い通常の界面活性剤を用いると大量に発生する泡のためにジェット水圧が低下し、満足な洗浄効果が得られないばかりか、泡が洗浄機や洗浄槽からあふれ出し洗浄工程のトラブルが発生する。そのため、ジェット洗浄には起泡力の低い、つまり低泡性の界面活性剤を用いることが必要である。
【0004】
ジェット洗浄を行うために、消泡剤(代表的にはシリコン系消泡剤)を添加する方法が検討されたが、洗浄力や消泡力の点で満足できる結果は得られなかった。
【0005】
現在では、主に、ブロックポリマー型非イオン界面活性剤を含む洗浄剤がジェット洗浄に用いられている。このブロックポリマー型非イオン界面活性剤は、その分子内に、エチレンオキサイド(EO)およびプロピレンオキサイド(PO)などを含み、起泡力が弱く、つまり低泡性である。しかし、環境中での生分解性が極めて悪いことが最大の問題である(Journal of The American Oil Chemists‘ Society,65,1669−1676(1988))。
【0006】
環境中での生分解性を向上させるために、POの重合度を変化させたブロックコポリマー、末端にアルキル修飾したブロックポリマーなどが合成されたが、問題の解決には至っていない。
【0007】
生物由来の界面活性物質であるバイオサーファクタントは、生分解性、安全性が共に高く次世代型界面活性物質として注目されている。しかし、合成界面活性剤に比べると高価であるため、付加価値の高い化粧品、医薬品などへの応用研究が散見されるにすぎない。さらに、商品自体が低価格な洗浄剤分野への研究開発は極めて少ない。
【0008】
洗浄剤として、バイオサーファクタントを使用した例は、ソホロリピッドを低泡性界面活性剤として配合し、そのソホロリピッドの組成が35%以上のソホロリピッド(ラクトン型)であり、好ましくはソホロリピッド(ラクトン型)とソホロリピッド(酸型)とを35:65〜90:10の比で含み、洗浄補助成分として、酵素、酸素系漂白剤、漂白活性化剤、アルカリ剤、水軟化剤、流動性改質剤および中性無水芒硝からなる粉末の低泡性洗浄剤組成物は、すでに知られている(特開2003−13093号公報、特許文献1)。
【0009】
しかし、ソホロリピッド(ラクトン型)を含むソホロリピッドは、生分解性、高洗浄性および低泡性を満足する非常に優れた界面活性物質であるが、ソホロリピッド以外の洗浄補助成分を配合する場合、ラクトン部分が化学的に不安定であることから、その用途が非常に限定され、石けんや合成界面活性剤に次ぐ、第3の界面活性物質として商品開発することが非常に困難であった。例えば、液体のアルカリ洗浄剤として、配合する場合、ラクトン部分は加水分解される。
【0010】
つまり、化学的に安定なソホロリピッドが安価に製造され、それが洗浄剤として実使用に耐える性能(洗浄力、起泡性、各成分との相溶性、保存安定性など)を併せもっていれば、それを配合した洗浄剤の用途が現状よりも格段に広くなり、バイオサーファクタントを配合した商品開発の展開が進む。
【特許文献1】特開2003−13093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、液体中であっても化学的に安定な酸型ソホロリピッド含有の洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、発酵で得られたソホロリピッドをアルカリ条件下で静置することによって得られたソホロリピッドの性能について鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明者らは、発酵で得られたソホロリピッドがアルカリ条件下で静置するだけで酸型ソホロリピッドになること、得られた酸型ソホロリピッドが化学的に安定で、低泡性を示し、かつ、高い洗浄力を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の生分解性の液体洗浄剤組成物は、ソホロリピッドを含む生分解性の液体洗浄剤組成物であって、該ソホロリピッドが、少なくとも90%以上のソホロリピッド(酸型)を含み、そのことにより上記目的が達成される。
【0014】
一つの実施形態では、前記ソホロリピッド(酸型)が、ソホロリピッドを室温下でアルカリと混合して得られたものである。
【0015】
一つの実施形態では、前記ソホロリピッドが、実質的に100%の酸型ソホロリピッドである。
【0016】
一つの実施形態では、酸型ソホロリピッドを0.01から20%含む。
【0017】
一つの実施形態では、洗浄剤補助成分をさらに含む。
【0018】
一つの実施形態では、前記洗浄剤補助成分が、酵素、アルカリ剤、水軟化剤(Ca補足剤)、泡調整剤、防腐剤および溶剤からなる群から選択される少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液体中であっても化学的に安定な酸型ソホロリピッドを多量に含有するので、種々の用途のバイオサーファクタントを配合した洗浄剤組成物を提供することができる。また、ジェット洗浄など、低泡性が必要とされる洗浄工程に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0021】
ソホロリピッドは、代表的には、微生物の培養によって得られる。例えば、Candida bombicola、C.apicola、C.petrophilum、C.bogoriensなどのCandida属酵母によって生産される。ソホロリピッドは、これらのCandida属酵母を、高濃度の糖と油性基質を同時に与えて培養すると培地中に多量(100〜150g/L)に蓄積する。
【0022】
代表的には、ソホロリピッドは、上記微生物の培養液から、遠心分離、デカンテーション、酢酸エチル抽出などの方法で分離され、さらにヘキサンで洗浄することにより、茶褐色、飴状物質として得られる。ソホロリピッドは水より比重が大きいため培養終了液を静置すれば容易に下層へ分離し、これを利用して得られるソホロリピッドは濃度約50%の含水物であるが、酸型SL(ソホロリピッド)を調製する際には、ヘキサンなど有機溶剤で分離・精製されるものと比較し、粘性が低いため取り扱いが容易となる。なお、本明細書で用いる「%」は、特に注記がなければ重量%を表わす。
【0023】
このようにして得られるSL(ソホロリピッド)は、ソホロースまたはヒドロキシル基が一部アセチル化されたソホロースとヒドロキシ脂肪酸とからなる基本構造を有し、ヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型ソホロリピッドと、このカルボキシル基が分子内ソホロースのヒドロキシル基とエステル結合したラクトン型ソホロリピッドとに大別される複数の分子種の混合物である。
【0024】
本明細書記載の低泡性洗浄剤組成物に含まれる酸型ソホロリピッドは、例えば、微生物によって生産され、分離・精製されたソホロリピッドのラクトン部分とソホロースのアセチル部分を全て加水分解した構造を有し、やはり、複数の構造類似体の混合物である。
【0025】
酸型ソホロリピッドの調製法は、特に限定されないが、アルカリ還流による調製法が一般的である。この場合、その後の精製法にもよるが、100%近い純度で酸型ソホロリピッドが得られる。その他、本明細書に記載のように室温下でのアルカリ加水分解によっても得られる。
【0026】
本発明の組成物は、ソホロリピッドのうち少なくとも90%以上のソホロリピッド(酸型)を含む。好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、特に好ましくは、ソホロリピッドが実質的に100%の酸型ソホロリピッドである。
本発明の洗浄剤組成物は、上記酸型ソホロリピッドを0.01から20%含有するのが好ましい。酸型ソホロリピッドの含有量が0.01%未満の場合、有効な界面活性が得られないため洗浄力が低く、20%を超える場合、洗浄中の過剰な泡立ちのため洗浄力が低下する。さらに好ましい酸型ソホロリピッドの含有量は0.1から5%である。
【0027】
本明細書で用いる用語「化学的な安定性」とは、pH10を越えるアルカリ洗浄剤として配合できる性質を示す。具体的には、pH13.7の水酸化ナトリウム溶液中で1ヶ月間、構造が変化しないことを言う。
【0028】
本明細書で用いる用語「低泡性」とは、低泡性が必要とされる洗浄工程に適する起泡力を示す性質である。具体的には、現在一般に行われている起泡力の評価法であるロス・マイルス(Ross Miles)法にて、流下が終わった直後の泡高が57mm以内で、かつ、5分後の泡高が30mm以内であることをいう。この泡高がそれぞれ57mmあるいは30mmを越える場合、ジェット洗浄を用いた洗浄において、起泡によるジェット水圧低下による洗浄力の低下、および泡が洗浄機からあふれるといったトラブルが発生する。
本明細書で用いる用語「優れた洗浄力」とは、低泡性が必要とされる洗浄工程に適する従来の低泡性界面活性剤と同等以上の洗浄性能を示す性質である。具体的には、現在一般に行われている洗浄力の評価法である汚染布を用いた洗浄力試験を行うことによって決定される。
【0029】
本明細書でいう用語「酵素安定性」とは、従来の酵素配合液体洗剤と同等以上の酵素安定性を示す性質である。具体的には、液体洗浄剤組成物中に配合した洗浄用酵素が、40℃、1ヶ月の保存安定性試験後、酵素活性が80%以上残存する性質である。
【0030】
本発明の低泡性洗浄剤組成物は、界面活性剤の他に洗浄補助成分を含有し得る。
洗浄補助成分については、低泡性が必要とされるジェット洗浄方式に使用される公知の洗浄剤組成物と同じでよく特に限定されない。例えば、現在、医療現場で用いられているウォッシャーディスインフェクターの専用洗剤組成物として配合されている酵素、アルカリ剤、水軟化剤(Ca捕捉剤)、防錆剤、泡調整剤及び溶剤などがこれに該当する。
【0031】
上記酵素とは、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プルラナーゼ、イソプルラナーゼ、イソアミラーゼ、カタラーゼ及びパーオキシダーゼからなる群より選ばれる1種類以上の成分である。
【0032】
アルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸、炭酸水素、珪酸、メタ珪酸およびホウ酸のアルカリ金属塩、各種エタノールアミンなどからなる群から選ばれた少なくとも一つの成分であり、pHを上げることで洗浄力を強め、酵素を配合している場合、その効果も上昇させる。
【0033】
Ca捕捉剤は有機キレート剤あるいは高分子キレート剤どちらでもよい。
有機キレート剤としては、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、ポリリン酸塩等から選ばれた少なくとも一つの成分である。
【0034】
高分子キレート剤は、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、α―ヒドロキシアクリル酸、イタコン酸の重合体、または、それらの共重合体およびこれらの塩等から選ばれた少なくともひとつの成分である。ただし、酵素安定性の面からその選択には注意を要する。
【0035】
溶剤は、酵素の安定化等のために用いる。エタノール、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール及びポリエチレングリコール等から選ばれる。
【0036】
防錆剤は、洗浄機や被洗浄物の腐食を防止する目的で配合される。リン酸塩、クロム酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、モリブデン酸塩、ベンゾトリアゾールおよびオクタデシルアミンなどから選ばれる。
【0037】
洗浄補助成分の含有量および種類は、意図される洗浄剤組成物の形態および用途によって、当業者により適宜選択され得る。
【0038】
低泡性洗浄剤組成物を調製する場合、洗浄補助成分の含有量は、該成分の種類により異なるが、低泡性洗浄剤組成物の99.99%以下となるように選択される。好ましくは30〜50%である。
【実施例】
【0039】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明の例示であり、本発明を制限するものではない。
【0040】
以下の実施例で行った評価項目および試験方法は以下の通りである。
1.エステル分解率評価系の確立
SLのエステル結合がどの程度加水分解されたかを知るために、油脂類の分析に用いられるエステル価を指標にした。エステル価は試料1gに含まれるエステルを完全けん化(加水分解)するのに必要なKOHのmg数で表され、試料を中和してからKOHエタノール溶液中で加熱してけん化し、消費されたKOH量を中和当量の減少分から求める。したがって、このとき最初の中和当量を滴定により求めれば、試料の酸価(試料1gを中和するのに必要なKOHのmg数)およびけん化価を同時に知ることができる。
【0041】
エステル分解率(%)=(アルカリ処理前のエステル価−アルカリ処理後のエステル価)/アルカリ処理前のエステル価×100 (式1)
エステル分解率を正確に求めるには、アルカリ処理する前のSLのエステル結合が完全に加水分解されたときのエステル価を知る必要があるため、反応が完全に進行するのに要する加熱時間を検討した。
【0042】
試料として含水SL試作品およびジャー培養液からの精製標品を使用した。各試料の製造および保存環境、規格値等は以下の表1および2の通りである。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

エステル価の測定は、日本油化学会編 基準油脂分析法2.3.3-1996エステル価に従った。煮沸還流時間を0.5、1および2時間としてエステル価の変化を調べた。以下に操作手順を示す。
(1)含水SL〜2.5g(乾燥残分として〜1.5g)を中性エタノール50mlに溶解
(2)フェノールフタレインを指示薬とし、0.1 M KOHで中和滴定(→酸価)
(3)0.5 NKOH/EtOH 25 mlを正確に添加
(4)煮沸還流(0.5,1,2h)・冷却
(5)フェノールフタレインを指示薬とし、0.5N HClで中和滴定
2.アルカリ混合による室温下での酸型ソホロリピッド調製法
実施例1で求めたけん化価(表7)より、NaOH必要量はそれぞれ
SL−8M:239.3/1000×40.00/56.11=0.170g・g-1 (式4−a)
SL−2M:248.4/1000×40.00/56.11=0.177g・g-1 (式4−b)
となる。
【0045】
エステル分解反応を終点近くまで進めるには過剰量のアルカリが必要と考えられるので、混合するNaOH量は必要量の2倍以上とした。
【0046】
試料として2種類の含水SL(SL−8MおよびSL−2M)を用いた。それぞれの含水SLに対し分解必要量の2倍または4倍のNaOHを含むNaOH水溶液を等重量混合し、室温放置した。30分〜2日経過後、SLアルカリ溶液〜5g(SL乾燥残分として〜1.5g)を分取し、重量測定後フェノールフタレインを指示薬として約2NHClで中和した。以下、試験法1と同じ方法でエステル価を測定した。煮沸還流時間は2時間とした。
3.ソホロリピッドの安定性
上記、2のように調製(2日間反応)した酸型ソホロリピッドを50℃で1ヶ月間保存し、反応直後と保存後のHPLCチャートを比較することで安定性を調べた。
4.HPLC分析
それぞれの方法で得られたSLのラクトン含有率はHPLC分析により決定した。条件は、ナーゲル社(ドイツ)のヌクレオシル5SB充填カラム(4.6mm×250mm)を用い、0.2%(w/v)過塩素酸ナトリウム/メタノール溶液を移動相として、カラム温度35℃、流速1ml/minで205nmの吸光度あるいは示差屈折率計で検出を行った。
5.緩衝液の調製
5−1.Menzelの緩衝液
M/50の炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを作製し、4.0:6.0の割合で混合することによりpH8.94(18℃)の緩衝液を得た。
5−2.硬水の調製(AOAC法Synthetic Hard Water (AOAC official method of analysis(1995).Chapter6, p9)
1液1mlを60ml以上の蒸留水で希釈し、2液4ml加え100mlにメスアップした(硬度は約1000ppm)。これを上記の緩衝液で希釈し目的とするpHおよび硬度の硬水を得た。
1液:67.71gの塩化マグネシウム六水和物、73.99gの塩化カルシウムを蒸留水で溶解し1Lにメスアップした。
2液:56.03gの炭酸水素ナトリウムを蒸留水で溶解し1Lにメスアップした。
6.起泡性試験
6−1.ロス・マイルス法
JIS K 3362に基づいて、ロス・マイルス(RossMiles)法を用い、起泡力と泡の安定度を測定した。この方法では、上記5.緩衝液の調製 で作製した硬水に被験物質である界面活性剤を目的となる濃度に溶解し試験溶液とした。
それぞれの試験溶液200mlを所定の温度条件で(本試験では40℃とした)900mmの高さから30秒間で液面上に落下させ、その直後の泡の高さを起泡力とし、また、5分後の高さを泡の安定度とした。
6−2.食洗機を用いた方法
様々な家庭用食器洗い乾燥機を用いた。各洗浄剤を所定の濃度(試作品WA, WA2, M-700L;0.5%, M-251L;1.0%)となるよう食洗機にいれ、洗浄開始から3、5および10分後の泡立ち(フタを開いた直後;0秒後)および生成した泡の消泡の速さ(フタを開いた5秒後)について目視観察を行い、表3の泡立ち評価に基づいて判定した。
【0047】
【表3】

7.洗浄力試験
7−1.ターゴトメーターを用いた洗浄力試験
ターゴトメーターは、栄科学精機製作所製、型式TM-4を使用した。試験カップに蒸留水または所定の硬度の人工硬水990 mLを入れ、30℃で保温した。各カップに表4の各試験液10 gをいれ、湿式人工汚染布(5cm×5 cm)(財団法人 洗濯科学協会)4枚を投入して120 rpmで20分間洗浄した。洗浄終了後、汚染布をピンセットで取り出し、1 Lの蒸留水で2回すすぎ、自然乾燥させた。洗浄率は、洗浄前後の反射率を色彩色差計(ミノルタ社製CR-300)により測定し、式4から洗浄率を算出した。
(式4) 洗浄率(%)=(洗浄後の反射率−洗浄前の反射率)/(未汚染布の反射率−洗浄前の反射率)×100
7−2.食洗機を用いた洗浄力試験
食洗機を用い、5分間洗浄を行った。被洗浄物として、ステンレステストピースにレバー汚染液(牛生レバーに半重量の蒸留水を加えホモジナイズを行ったもの)を筆にて塗布し一晩乾燥させたものを用いた。洗浄開始時の温度は40℃±1.5℃、洗浄終了時の温度は50℃±1.5℃と設定した。洗浄力の評価は表に従い行った。
【0048】
【表4】

8.酸型ソホロリピッド配合液体洗浄剤組成物の調製
8−1.酸型ソホロリピッド配合アルカリ洗浄剤
洗浄機用のアルカリ洗剤として、表1に示す試作品を作製し、食洗機を用いた泡立ち試験および振盪洗浄力試験に供した。比較として、他社製品(M-700LおよびM-251L(いずれもシャープ製))を用い、同様に試験した。
【0049】
試作品は全てスターラーで攪拌して作製した。任意の方法で調整した酸型SL溶液に苛性カリ液、1Kケイ酸カリの順に加えて混合し、純石鹸配合の場合はここに添加し、最後に蒸留水を加えた。混合は、目視で完全に混合したことを確認後、次の原料を加えた。
【0050】
【表5】

8−2.酸型ソホロリピッド配合中性酵素洗剤
各洗浄剤は、酸型ソホロリピッドに残りの原料を添加し調製した。このとき、完全に溶解したことを確認してから次の原料を添加した。
【0051】
【表6】

9.プロテアーゼ活性の測定
カゼインを基質に用いたFolin-Lowry反応による測定を行った。
〔基質の調製〕
2%カゼイン溶液:2gのカゼイン(Hammerstein法で調製したもの)に0.1 N NaOH 20mlを加え、加温しながら溶かす。室温まで冷却し、0.2MTris(hydroxymethyl) aminomethaneを10ml加え、 HClで所定のpHに合わせ、水を加えて全量を100mlとする。
〔発色試薬〕
・ストック溶液A:1%CuSO4・5HO,ストック溶液B:2%酒石酸カリウム, ストック溶液C:2%無水炭酸ナトリウム
・0.4M トリクロロ酢酸
0.4M NaCO
2 mg/ml チロシン溶液
〔活性測定〕
基質溶液0.5mlを30℃に加温し、あらかじめ30℃に保っておいた酵素液(洗浄剤組成物)0.5mlを加え、30℃で10分間インキュベーションした。氷冷した5% TCAを1ml加え、氷中で約10分間放置した後、遠心(15,000rpm、10 min、4℃)処理した。遠心上清に反応試薬(ストック溶液A,BおよびCを1:1:100で混合したもの)1.0mlを加え、よく攪拌した後、室温で10分間放置した。これにフェノール試薬を0.1mlを加え、よく攪拌し、40℃で10分間放置後、直ちに氷冷した。分光光度計を用い660nmの波長で試料の吸光度を測定した。プロテアーゼ活性は、以下のように求めた。
プロテアーゼ活性=(各試料の吸光度)―(各試料のブランクの吸光度)
(実施例1)エステル分解率評価系の確立
1.エステル分解率評価系の確立に従い、発酵で得られたソホロリピッドの加水分解を行った。図1に加熱還流時間と反応(けん化)(エステル分解)に必要としたKOH(mg/g試料乾燥残分)の関係を、表7に各試料の酸価、2時間の反応に必要としたKOH(mg/g試料乾燥残分)およびけん化価を示す。
【0052】
【表7】

2時間の反応に必要としたKOH(mg/g試料乾燥残分)は試料により異なり、加熱時間に関わらず常にSL−2MよりSL−8Mで大きかったが、0.5時間の加熱で急激に上昇し、以降は緩やかな増加に留まるという傾向は同じであった。以後の実験では煮沸還流を2時間とし、このときの値をエステル価とした(エステル分解率100%)。
(実施例2)アルカリ混合による室温下での酸型ソホロリピッド調製法
2.アルカリ混合による室温下での酸型ソホロリピッド調製法に従い、発酵で得られたソホロリピッドを室温下で加水分解を行った。表7に実験に使用した試料の乾燥残分当たりのエステル価(アルカリ処理前後)およびエステル分解率を、図2にアルカリ処理中のエステル分解率の経時変化をそれぞれ示した。
【0053】
【表8】

各含水SLに計算より求めた分解必要量の2倍のNaOHを添加し、約2時間以上静置することで90%以上のエステル結合が分解された(図2)。また、放置時間を延ばしたり、NaOH添加量をさらに増やしてもエステル分解率は上昇しなかった(図2および表8)。これらの結果は含水SLの種類によらず同じであり、アルカリ処理後のエステル価も同程度であった(表8)。さらに、2時間の煮沸還流を行った試料と室温アルカリ処理した試料を、同条件でHPLCに供したところ、90%以上が酸型SLであることが示された。以上から、短時間に比較的簡単な方法で大部分が酸型SLからなるSL組成物を水溶液として得られることが分かった。
(実施例3)酸型ソホロリピッドの起泡力
上記6−1.ロスマイルス法に従って、CaCO 0から300ppm、pH8.94(18℃)の条件下で所定の濃度の酸型ソホロリピッドの起泡力を調べた(図3)。その結果、酸型ソホロリピッド1%濃度では、硬度40〜300ppmまで、0.1%濃度では8〜200ppmまで、0.01%では0ppmであっても低泡性を示すことが判った。
(実施例5)酸型ソホロリピッドの洗浄力
7−1.ターゴトメーターを用いた洗浄力試験に従い、CaCO 0から300ppm、pH8.94(18℃)の条件下で1%濃度の酸型ソホロリピッドの洗浄力を調べた。図4から酸型ソホロリピッドは、水の硬度に関わらず、高い洗浄力を示すことが分かった。
(実施例7)酸型ソホロリピッドの安定性
3.酸型ソホロリピッドの安定性に準じて試験を行った(図5)。その結果、保存前後でHPLCチャートに変化はなく、酸型ソホロリピッドは優れた安定性を有していることが確認された。
(実施例6)酸型ソホロリピッド配合アルカリ洗浄剤の起泡性および洗浄力
表2の試作品について、6−2.食洗機を用いた方法に従い起泡性試験を行った(表9)。試験濃度は1.0%である。その結果、泡調整剤を配合しない場合、酸型ソホロリピッドは20%配合で運転異常が生じたが、泡調整剤を配合することで、20%配合が可能であった。
【0054】
【表9】

次に、試作品A1およびA2について、7−1.ターゴトメーターを用いた洗浄力試験を行った。結果を図6に示した。洗剤なしおよび他社商品M-251Lは比較対照である。この結果、酸型ソホロリピッド配合の2種の試作品は、いずれも洗浄率が80%前後で、対照として用いたM-251Lと同程度の優れた洗浄力を有していた。
(実施例7)酸型SL配合+洗浄補助成分+酵素配合洗浄剤の洗浄力
試作品N1〜N8について、7−2.食洗機を用いた洗浄力試験を行った(図7)。その結果、酸型SL未配合のN1および酸型SLを25%配合したN8の洗浄力は低く(ランクの平均が高い)、優れた洗浄力を示した配合はN2〜N7(0.01〜20%配合)であった。
(実施例8)酸型SL配合+洗浄補助成分+酵素配合洗浄剤の酵素保存安定性
試作品N2〜N6を40℃のインキュベーター内に静置することで酵素安定性試験を行った。1週間毎にサンプリングを行い、8.プロテアーゼ活性の測定に従い測定し、保存前の酵素活性を100%として酵素安定性を求めた(図8)。その結果、全ての試作品の酵素残存活性が80%以上であり、酸型ソホロリピッド配合の洗浄剤が優れた酵素安定性を有していることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】加熱還流時間と反応(けん化)に必要としたKOH(mg/g試料乾燥残分)の関係を示す図。
【図2】アルカリ処理中のエステル分解率の経時変化をそれぞれ示す図。
【図3】水の硬度が酸型ソホロリピッドの起泡性に与える影響(上:起泡力、下:泡の安定性)を示す図。
【図4】水の硬度が酸型ソホロリピッドの洗浄力に与える影響を示す図。
【図5】酸型ソホロリピッドの保存安定性試験を示す図。
【図6】試作品WA2,WAと他社製品の洗浄力の比較を示す図。
【図7】食洗機を用いた洗浄力試験を行った図。
【図8】プロテアーゼ活性の測定に従い測定し、保存前の酵素活性を100%として酵素安定性を求めた図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソホロリピッドを含む生分解性の液体洗浄剤組成物であって、該ソホロリピッドが、少なくとも90%以上のソホロリピッド(酸型)を含む組成物。
【請求項2】
前記ソホロリピッド(酸型)が、ソホロリピッドを室温下でアルカリと混合して得られたものである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ソホロリピッドが、実質的に100%の酸型ソホロリピッドである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
酸型ソホロリピッドを0.01から20%含む請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
洗浄剤補助成分をさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記洗浄剤補助成分が、酵素、アルカリ剤、水軟化剤(Ca補足剤)、泡調整剤、防腐剤および溶剤からなる群から選択される少なくとも一種である請求項5に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−70231(P2006−70231A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258930(P2004−258930)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000106106)サラヤ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】