説明

生分解性モノフィラメントおよび樹木の支持具

【課題】適度な生分解速度と優れた強靱性を兼ね備え、樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具の構成素材として少なくとも一部に適用した場合には、樹木が根を張るまで十分に強度を保持し続けることができる生分解性モノフィラメントおよびそれを用いた樹木の支持具の提供。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを酸成分とし、脂肪族ジオールをグリコール成分とする共重合ポリエステルからなり、融点が190℃以上、かつカルボキシル末端基濃度が1〜60eq/10gの範囲にある生分解性モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性モノフィラメントおよび樹木の支持具に関し、さらに詳しくは、適度な生分解速度と優れた強靱性を兼ね備え、樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具の構成素材の少なくとも一部に適用した場合には、樹木が根を張るまで十分に強度を保持し続けることができる生分解性モノフィラメントおよびそれを用いた樹木の支持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具の構成素材としては、綿、麻、羊毛、絹、ジュート、藁、紙、皮革、木材などの天然繊維が使用されてきた。しかし、これらの天然繊維からなる樹木の支持具は、土中に埋設後、短期間で強度が低下し、樹木が十分に根を張らないうちに支持具が腐敗するため、樹木が傾いたり、倒壊したりするなどの問題を招き、極めて限られた状況の下でしか使用することができなかった。
【0003】
また、長期間の使用を目的とした樹木の支持具としては、ポリアミド、ポリエステルおよびポリオレフィンなどの合成樹脂からなるモノフィラメントを使用した支持具のほか、天然繊維に自己分解型樹脂であるポリエステル系ポリウレタンをコーティングした支持具(例えば、特許文献1参照)が知られているが、これらの支持具は加水分解をするものの、自然環境下では生分解されないため、半永久的に地中に残存するなどの問題があり、環境保護や自然保護の面からこれらの使用は難しいものとなりつつある。
【0004】
そこで、近年、使用後に自然界の菌類や微生物によって自然消滅する生分解性樹脂の開発が盛んに進んでいる。
【0005】
この生分解性樹脂を使用した製品としては、結晶性ポリ乳酸と、脂肪族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルからなるガラス転移温度が0℃以下の共重合ポリエステルとを主成分とした1軸延伸フィルムからなり、相対粘度が1.8以上、複屈折が0.035以下の生分解性の紐(例えば、特許文献2参照)が既に知られている。しかし、この生分解性の紐は十分な強度を持っていないため、樹木の支持具の構成素材として適用した場合には、破断しやすい支持具となり、特に樹木が暴風雨などに曝されると、樹木が傾いたり、倒壊したりするなどの問題を招いていた。
【0006】
また、本発明者らは、脂肪族ポリエステルからなる生分解性繊維を構成素材とした樹木の支持具を先に提案しているが、その後の検討によれば、この支持具は、生分解速度が速く、特に微生物が多く存在する土壌中で使用した場合には、樹木が十分に根を張らないうちに生分解し、その結果、樹木が傾いたり、倒壊したりするなど、使用する土壌環境によっては、その使用が難しいという問題を包含することが判明した。
【0007】
このように、従来の樹木の支持具は、その構成素材が十分な強度と適度な生分解速度を持たないために、樹木が十分に根を張るまで強度を維持することができず、さらには強靱性に欠けているなどの問題を抱えており、これらの改善が強く要求されていた。
【特許文献1】特許第3035661号公報
【特許文献2】特開2004−204387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、適度な生分解速度と優れた強靱性を兼ね備え、樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具の構成素材の少なくとも一部に適用した場合には、樹木が根を張るまで十分に強度を保持し続けることができる生分解性モノフィラメントおよびそれを用いた樹木の支持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】

上記目的を達成するために本発明によれば、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを酸成分とし、脂肪族ジオールをグリコール成分とする共重合ポリエステルからなり、融点が190℃以上、かつカルボキシル末端基濃度が1〜60eq/10gの範囲にあることを特徴とする生分解性モノフィラメントが提供される。
【0010】
なお、本発明の生分解性モノフィラメントにおいては、
前記共重合ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸、脂肪族カルボン酸がコハク酸またはアジピン酸、脂肪族ジオールがエチレングリコールであること、
引張強度が450MPa以上、結節強度が320MPa以上であること、および
直径または短径が0.1〜1mmの範囲にあること
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たした場合には、さらに優れた効果を取得することができる。
【0011】
さらに、本発明の樹木の支持具は、樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具であって、その構成素材として上記の生分解性モノフィラメントを少なくとも一部に使用したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生分解性モノフィラメントは、適度な生分解速度と優れた強靱性を兼ね備えたものであるため、その生分解性モノフィラメントを、樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具の構成素材として少なくとも一部に適用した場合には、樹木が根を張るまで十分に強度を保持し続けることができ、しかも優れた強靱性を持つ樹木の支持具が得られることから、その実用性は極めて高いものであるといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0014】
本発明の生分解性モノフィラメントは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを酸成分とし、脂肪族ジオールをグリコール成分とする共重合ポリエステルからなり、融点が190℃以上、かつカルボキシル末端基濃度が1〜60eq/10gの範囲にあることを特徴とするものである。
【0015】
上記酸成分が、芳香族ジカルボン酸のみからなる場合は、加水分解性を有するものの、生分解速度が極めて遅いため、このポリエステルからなるモノフィラメントを樹木の支持具の構成素材の少なくとも一部に使用した場合には、半永久的に地中に残存することになり、環境保護や自然保護の面から好ましくない。
【0016】
逆に、上記酸成分が、脂肪族ジカルボン酸のみからなる場合は、生分解されやすいが、その生分解速度が速すぎるため、このポリエステルからなる生分解性モノフィラメントを樹木の支持具の素材の少なくとも一部に使用した場合には、樹木が十分に根を張るまで強度を維持することができず、樹木が傾いたり、倒壊したりするなどの問題を招きやすい。
【0017】
一方、上記グリコール成分についても、適度な生分解速度を発現する上で、脂肪族ジオールであることが必要である。
【0018】
したがって、樹木を支持施工する際に使用される支持具が、樹木が十分に根を張るまで強度を維持し、適度な生分解速度を有するためには、生分解性モノフィラメントの構成成分である共重合ポリエステルの酸成分が芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とからなり、グリコール成分が脂肪族ジオールからなることが必要である。
【0019】
また、本発明の生分解性モノフィラメントが、強靱性に優れたものであるためには、共重合ポリエステルの融点が190℃以上であることが必要であり、好ましくは200℃以上、さらには210℃以上であることがより好ましい。
【0020】
つまり、融点が上記範囲を下回る場合は、強靱性に欠けた生分解性モノフィラメントとなり、この生分解性モノフィラメントを樹木の支持具の構成素材の少なくとも一部として適用した場合には、施工時に破断しやすく、強靱性に欠けた支持具となりやすい。
【0021】
なお、上記共重合ポリエステルの酸成分となる芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸とのモル比は、70:30〜95:5の範囲にあることが好ましく、さらには80:20〜95:5の範囲にあることがより好ましい。つまり、芳香族ジカルボン酸のモル比が70%を下回る場合は、融点が低くなる傾向となり、逆に、芳香族ジカルボン酸のモル比が95%を上回る場合は、生分解速度が遅くなる傾向となる。
【0022】
さらに、本発明の生分解性モノフィラメントは、そのカルボキシル末端基濃度が1〜60eq/10gの範囲にあることが必要であり、さらには1〜45eq/10gの範囲にあることがより好ましい。
【0023】
つまり、カルボキシル末端基濃度が60eq/10gを上回る場合は、加水分解による強度低下が著しく、この生分解性モノフィラメントを樹木の支持具の構成素材の少なくとも一部として使用した場合には、生分解に伴って短期間で強度が低下し、樹木が根を張るまで十分に強度を保持しにくくなる傾向にある。
【0024】
以上の条件を満たすことにより、本発明の生分解性モノフィラメントは、適度な生分解速度と優れた強靱性を有するものとなり、この生分解性モノフィラメントを、樹木の支持具の構成素材の少なくとも一部として使用した場合には、樹木が根を張るまで十分に強度を保持し続けることができ、さらに優れた強靱性を持つ支持具が得られるのである。
【0025】
さらに、本発明の生分解性モノフィラメントにおいては、次の条件を満たすことにより一層優れた効果を取得することができる。
【0026】
まず、共重合ポリエステルの酸成分である芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられるが、中でもテレフタル酸の使用が好ましい。
【0027】
一方、もう一つの酸成分である脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸およびダイマー酸などが挙げられるが、中でもコハク酸およびアジピン酸の使用が好ましい。
【0028】
また、共重合ポリエステルのグリコール成分である脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコールおよび1,4−ブチレングリコールなどが挙げられるが、中でもエチレングリコールの使用が好ましい。
【0029】
なお、このような共重合ポリエステルとして具体的には、Dupont製のBiomax−6924、4027、4044などの市販品が挙げられるが、本発明に使用する共重合ポリエステルは、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0030】
さらに、上記共重合ポリエステルには、例えば、顔料、染料、耐候剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤、可塑剤および加水分解防止剤などを、本発明の目的とする性能を阻害しない範囲で、共重合ポリエステルの重合工程や重合後、あるいは生分解性モノフィラメントを紡糸する際に添加することもできる。
【0031】
本発明の生分解性モノフィラメントは、その引張強度が450MPa以上、結節強度が320MPa以上であることが好ましく、さらに引張強度が500MPa以上、結節強度が350MPa以上であることがより好ましい。
【0032】
つまり、引張強度と結節強度が上記範囲を下回る場合は、強靱性に欠けた生分解性モノフィラメントとなりやすく、この生分解性モノフィラメントを、樹木の支持具の構成素材の少なくとも一部として使用した場合には、樹木が十分に根を張るまで強度を維持することができず、樹木が傾いたり、倒壊したりするなどの問題を招きやすい。
【0033】
また、本発明の生分解性モノフィラメントの直径または短径は、0.1〜1mmの範囲にあることが好ましく、さらには0.2〜0.7mmの範囲にあることがより好ましい。
【0034】
つまり、生分解性モノフィラメントの直径または短径が上記範囲を下回る場合は、生分解性モノフィラメントの絶対強力が低くなるばかりか、加水分解による劣化が生じやすくなるため、このポリエステルからなる生分解性モノフィラメントを、樹木の支持具の構成素材の少なくとも一部として使用した場合には、強靱性や耐久性に欠けた支持具となりやすい。
【0035】
逆に、生分解性モノフィラメントの直径または短径が上記範囲を上回る場合は、剛直性が増すため、この生分解性モノフィラメントを支持具の構成素材として使用した場合には、可撓性が損なわれて樹木根本部などへの取り付けが困難になるばかりか、支持具とする際の加工性が悪化しやすくなる。
【0036】
なお、本発明における生分解性モノフィラメントの直径および短径とは、次の通り定義したものである。つまり直径とは、円形断面糸における直径を示し、一方、短径とは、楕円断面糸、長方形断面糸、正方形断面糸、三角形断面糸、ドッグボーン型断面糸および繭型断面糸などの円形断面糸以外の場合おける最も短い長さとなる径を示し、例えば、楕円断面糸においては、楕円の中心を通り、相対する円周上の点を結んだ直線のうち、最も短い直線の長さであり、長方形断面糸および正方形断面糸においては、断面の重心を通り、相対する辺と辺を結んだ直線のうち、最も短い直線の長さであり、三角断面糸においては、三角形の重心を通り、1つの頂点から相対する辺に垂直に下ろした直線の長さであり、ドッグボーン型断面糸および繭型断面糸においては、中央の最もくびれた(細い)部分の相対する2辺を結んだ直線の長さである。
【0037】
本発明の生分解性モノフィラメントは、以下の方法により効率的に製造することができる。
【0038】
まず、使用する共重合ポリエステルは、得られる生分解性モノフィラメントのカルボキシル末端基濃度を低く保つために、溶融紡糸機に供給する前に、予め予備乾燥や固相重合して使用される。
【0039】
そして、共重合ポリエステルを溶融紡糸機に供給し、生分解性モノフィラメントを溶融紡糸機から紡出する。なお、溶融紡糸するに際しては、エクストルダー型紡糸機を使用して通常の条件で行うことができ、例えば、溶融温度200〜350℃、押出圧力1〜50MPa、口金孔径0.1〜20mmなどの条件を適宜採用することができる。
【0040】
次に、溶融紡糸機から紡出された生分解性モノフィラメントは、短い気体ゾーンを通過した後、冷却浴内で冷却固化される。なお、冷却媒体としては、共重合ポリエステルに不活性な液体が主に使用され、通常、水やポリエチレングリコールなどが使用される。また、冷却温度は、生分解性モノフィラメントの冷却浴内の蛇行を防ぐため、共重合ポリエステルのガラス転移温度よりも少し高めの温度が好ましい。
【0041】
冷却固化された生分解性モノフィラメントは、引き続き延伸工程に送られる。なお、延伸工程で使用される雰囲気(浴)としては、温水、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイルなどを加熱した熱媒体浴のほか、熱気体浴や水蒸気浴などが挙げられる。
【0042】
また、延伸工程においては1段乃至多段延伸が行われ、さらに生分解性モノフィラメントの物性発現に必要な倍率で延伸が行われる。特に、本発明の生分解性モノフィラメントを製造するに際しては、十分な強度を発現させるために、延伸倍率は通常は5倍以上、さらに5.5倍以上がより好ましい。
【0043】
さらに、延伸工程後は、必要に応じて延伸歪みを除去することなどを目的に、適度な定長および/または弛緩熱処を行うこともできる。
【0044】
なお、上記延伸工程および定長・弛緩熱処理工程における温度は、樹脂のガラス転移温度以上、かつ融点以下の温度が好ましい。
【0045】
本発明の生分解性モノフィラメントの断面形状および形態については、特に限定はされず、円形、楕円形、扁平、正多角形および不定形な断面形状のほか、芯鞘型または海島型複合モノフィラメントであってもよい。なお、ここで言う扁平とは、楕円または長方形を意味するが、数学的に定義される正確な楕円や長方形のほか、概ね楕円、長方形またはこれに類似した形状も含まれ、また、正多角形とは、数学的に定義される正多角形のほか、概ねこれに類似した形状も含まれる。
【0046】
こうして得られた生分解性モノフィラメントは、樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具の構成素材の少なくとも一部として使用される。
【0047】
ここで、本発明の樹木の支持具の具体的なものとしては、例えば、生分解性モノフィラメントを長手方向に複数本引き揃えた合糸を、数本ずつZ撚りまたはS撚りに撚り合わせて縦糸とし、さらにその縦糸と横糸とを織成して得られた板ベルト状のものが一例として挙げられる。
【0048】
なお、本発明の樹木の支持具を実用するに際しては、通常その全体が土中に埋設されることになるが、その少なくとも一部が土中に埋設されており、他の部分が大気中に露出された状態で使用することも勿論可能である。
【0049】
また、本発明の樹木の支持具には、上記生分解性モノフィラメントからなる単糸以外にも、支持具を構成する基台やバックルなどにも生分解性樹脂を使用することができ、この場合は、支持具全体を生分解させることができるため、さらなる自然環境保護につながるという利点が得られる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の生分解性モノフィラメントおよび樹木の支持具を、実施例に基づいてさらに詳しく説明する。なお、実施例における生分解性モノフィラメントおよび支持具の評価は以下の方法により行った。
【0051】
[融点]
PERKIN−ELMER製DSC7を使用し、JIS 7121に準じて、昇温速度10℃/分の条件で測定し、2nd−runのピーク温度を融点とした(単位:℃)。
【0052】
[カルボキシル末端基濃度]
生分解性モノフィラメントをo−クレゾール水溶液に溶解した後、0.04NのNaOH溶液で適定し、カルボキシル末端基の量を1×10g当たりに換算して求めた(単位:eq/10g)。
【0053】
[引張強度・結節強度]
JIS L1013の規定に準じて測定した(単位:MPa)。
【0054】
[耐久性]
3本の生分解性モノフィラメントを長手方向に引き揃えた合糸を、4本ずつZ撚りに撚り合わせ、合計12本の生分解性モノフィラメント単糸からなる糸を2本準備し、さらに、この2本の糸をS撚りに撚り合わせて縦糸を作成した。
【0055】
そして、横糸に麻糸を使用し、18本の縦糸と横糸とからなる板ベルト状の支持具を作成した。
【0056】
作成した支持具を使用して、樹木を支持施工し、1年間地中に埋設した後の支持具および樹木の状態について、次の3段階で評価を行った。
◎・・・支持具に破断が見られず、樹木が傾いたり、倒壊したりすることもなかった、
○・・・支持具の一部に破断が見られたが、樹木が傾いたり、倒壊したりすることがなく、十分使用できるものであった、
×・・・支持具の至るところに破断が見られ、樹木が傾いたり、倒壊したりするなど、十分に使えるものではなかった。
【0057】
[生分解性]
JIS K−6953に準じ、58℃のコンポスト中に支持具を1ヶ月埋設処理した後、処理後の生分解性モノフィラメントの引張強度と結節強度を測定し、次の2段階で生分解性を評価した。
○・・・引張強度と結節強度がともに埋設処理前の50%以上保持されていた、
×・・・引張強度と結節強度がともに埋設処理前の50%以下に低下していた。
【0058】
[実施例1]
ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)共重合ポリエステル(Dupont製Biomax−4027、融点237℃)をエクストルダー型紡糸機に供給し、240℃の温度で溶融混練した後、孔径1.5mmの紡糸口金を通して紡出し、さらに70℃の温水中で冷却固化せしめた。
【0059】
次に、冷却固化された未延伸糸を80℃の温水延伸浴中で5.0倍に1段目延伸を行い、さらに160℃の乾熱浴中で1.52倍に2段目延伸(全延伸倍率:7.6倍)を行った後、引き続いて170℃の乾熱浴中で0.9倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.44mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0060】
得られた生分解性モノフィラメントを使用して樹木の支持具を作成し、その性能を評価した。
【0061】
[実施例2〜3]
Biomax−4027の代わりに、融点が200℃のポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)共重合ポリエステル(Dupont製 Biomax−4044)を使用したこと以外は、実施例1と同じ条件で生分解性モノフィラメントおよび樹木の支持具を作成した。なお、Biomax−4044は、溶融紡糸に供する前に湿熱エージングを行い、2種類のカルボキシル末端基濃度を有するものを使用した。
【0062】
[実施例4]
延伸倍率条件を、1段目4.5倍、2段目1.33倍(全延伸倍率:6倍)に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件で生分解性モノフィラメントおよび樹木の支持具を作成した。
【0063】
[比較例1]
ポリ−L−乳酸(三井化学性レイシア製 H400、融点170℃)をエクストルダー型紡糸機に供給し、240℃の温度で溶融混練した後、孔径1.5mmの紡糸口金を通して紡出し、さらに20℃の温水中で冷却固化せしめた。
【0064】
次に、冷却固化された未延伸糸を80℃の温水延伸浴中で4.5倍に1段目延伸を行い、さらに130℃の乾熱浴中で1.64倍に2段目延伸(全延伸倍率:7.4倍)を行った後、引き続いて140℃の乾熱浴中で0.9倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.44mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0065】
得られた生分解性モノフィラメントを使用して樹木の支持具を作成し、その性能を評価した。
【0066】
[比較例2]
ポリブチレンサクシネート(昭和高分子製 ビオノーレ#1001、融点114℃)をエクストルダー型紡糸機に供給し、230℃の温度で溶融混練した後、孔径1.5mmの紡糸口金を通して紡出し、さらに20℃の温水中で冷却固化せしめた。
【0067】
次に、冷却固化された未延伸糸を80℃の温水延伸浴中で3.7倍に1段目延伸を行い、さらに95℃の乾熱浴中で1.95倍に2段目延伸(全延伸倍率:7.2倍)を行った後、引き続いて80℃の乾熱浴中で0.9倍の弛緩熱処理を施すことにより、直径0.44mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0068】
得られた生分解性モノフィラメントを使用して樹木の支持具を作成し、その性能を評価した。
【0069】
[比較例3]
得られる生分解性モノフィラメントのカルボキシル末端基濃度を60eq/10g以上となるように、湿熱エージングを強化したBiomax−4044を使用しこと以外は、実施例1と同じ条件で生分解性モノフィラメントおよび樹木の支持具を作成した。
【0070】
以上、各実施例および比較例で得られた生分解性モノフィラメントおよび樹木の支持具の評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の結果から明らかなように、本発明の生分解性モノフィラメント(実施例1〜4)は、適度な生分解速度と優れた強靱性を兼ね備えたものであるため、樹木の支持具の構成素材として使用した場合には、樹木が根を張るまで十分に強度を保持し続けることができ、耐久性にも優れた支持具が得られる。
【0073】
一方、融点およびカルボキシル末端基濃度が本発明の条件を満たさない生分解モノフィラメント(比較例1〜3)は、適度な生分解速度と優れた強靱性を兼ね備えたものではないため、樹木の支持具の構成素材として使用した場合には、例えば、比較例1の支持具は、生分解性速度が速いために耐久性に欠け、比較例2の支持具は、融点が低いために強靱性に欠け、さらに比較例3の支持具は、カルボキシル末端基濃度が高いために加水分解による劣化が生じやすいことが分かる。
【0074】
また、引張強度や結節強度を高くし、いかに強靱な生分解性モノフィラメントを作成しても、本発明の条件を満たさない場合は、樹木の支持具として使用できるレベルにはならない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の生分解性モノフィラメントは、適度な生分解速度と優れた強靱性を兼ね備えたものであるため、その生分解性モノフィラメントを、樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具の構成素材として少なくとも1部に適用した場合には、樹木が根を張るまで十分に強度を保持し続けることができ、さらに優れた強靱性を持つ支持具が得られることから、その実用性は極めて高いものであるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを酸成分とし、脂肪族ジオールをグリコール成分とする共重合ポリエステルからなり、融点が190℃以上、かつカルボキシル末端基濃度が1〜60eq/10gの範囲にあることを特徴とする生分解性モノフィラメント。
【請求項2】
前記共重合ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸、脂肪族カルボン酸がコハク酸またはアジピン酸、脂肪族ジオールがエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項3】
引張強度が450MPa以上、結節強度が320MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項4】
直径または短径が0.1〜1mmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項5】
樹木を土中に支持施工する際に使用される支持具であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性モノフィラメントを構成素材の少なくとも1部に使用したことを特徴とする樹木の支持具。

【公開番号】特開2006−257569(P2006−257569A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74703(P2005−74703)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】