説明

生分解性樹脂含浸紙

【課題】層間剥離強度を向上させた生分解性樹脂エマルジョン含浸紙を提供する。
【解決手段】パルプを主体とした原紙に対し、生分解性樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対して炭酸ジルコニウムアンモニウムが0.05重量部以上添加された生分解性樹脂エマルジョンを原紙に含浸する。また、パルプ100重量部に対して湿潤紙力剤を1重量部以上添加された原紙を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂エマルジョンを含浸した紙に関する。更に詳しくは紙の層間剥離強度を向上させた生分解性樹脂含浸紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙に樹脂エマルジョンを含浸して得られる含浸紙は紙の各種物性を向上させる手段として広く用いられている。このうち向上させたい強度物性としては乾湿抗張力、破裂度、層間剥離強度、耐折度、耐磨耗性等があるが、層間剥離強度はとりわけ重要な物性である。そして、樹脂エマルジョンを含浸してこの物性を向上させた各種用途の含浸紙が生産されている。
【0003】
含浸用樹脂の素材としては、(メタ)アクリル酸エステル系重合体及びそれとスチレン、アクリロニトリル、あるいは酢酸ビニルとの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、SBR,MBR,NBR、並びにポリウレタン系等がある。しかしながら、これらの樹脂エマルジョンは非生分解性であるため、使用後廃棄されても分解しない。
【0004】
近年、微生物により生分解する生分解性熱可塑性樹脂の開発が進み、フィルム、繊維あるいは成型品として各種用途に用いられてきている。また、エマルジョンも開発されいくつかの用途が検討されている。そして、これを用いた含浸紙も検討されている。しかしながら、生分解樹脂エマルジョンだけを含浸しても同含浸率の非生分解性樹脂エマルジョン含浸紙よりも強度が低く、このため含浸率を高くする必要があり実用性に乏しいものであった。
【0005】
含浸紙の強度向上方法のひとつとして生分解性樹脂エマルジョンに脂肪族ポリイソシアネート化合物を配合する方法が提案されており、含浸紙への応用が記載されている(特許文献1)。しかしながら、物性として耐折度及び乾湿裂断長の向上が示されているが層間剥離強度についてはなんら記載されていない。
【特許文献1】特開2002−371259号公報
【0006】
含浸紙の層間剥離強度の向上方法として、本発明者はカチオン性の湿潤紙力剤を高率添加した原紙に生分解性樹脂エマルジョンを含浸する方法を提案し、特許出願している(特許文献2)。この方法は含浸紙の層間剥離強度向上法のひとつである。
【特許文献2】特開2007−100268号公報
【0007】
炭酸ジルコニウムアンモニウムは紙塗工用のバインダーとして使用される高分子物質に含まれているカルボキシル基や水酸基と反応しこれらを不溶化することで塗工層に耐水性を付与する耐水化剤として、一般に用いられている。
そして、炭酸ジルコニウムアンモニウム等からなる架橋剤を生分解性樹脂水分散体に適用することにより、生分解性樹脂被膜の耐水性、破断強度、及び破断伸びを向上させる方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、含浸紙についてはなんら記載されていない。
【特許文献3】特開2004−204038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は生分解性樹脂エマルジョンを用いて層間剥離強度を向上させた含浸紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭酸ジルコニウムアンモニウムが添加された生分解性樹脂エマルジョンを原紙に含浸することにより課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第一は、パルプを主体とした原紙に対し、生分解性樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対して炭酸ジルコニウムアンモニウムが0.05重量部以上添加された生分解性樹脂エマルジョンが含浸された生分解性樹脂含浸紙、である。
【0011】
本発明の第二は、パルプ100重量部に対してカチオン性の湿潤紙力剤が1重量部以上添加された原紙を用いた、請求項1に記載された生分解性樹脂含浸紙、である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、炭酸ジルコニウムアンモニウムが添加された生分解性樹脂エマルジョンを原紙に含浸することにより含浸紙の層間剥離強度が向上するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる生分解性樹脂エマルジョンとしては、生分解性脂肪族ポリエステルのエマルジョンがあり、具体的にはポリブチレンサクシネート系、ポリカプロラクトン系、ポリ乳酸系等のエマルジョンがある。
【0014】
本発明に用いられる含浸剤として、生分解性樹脂エマルジョン以外に、生分解性の可塑剤エマルジョン、その外の生分解性エマルジョン及び水溶性物質、並びに少量のサイズ剤や染料顔料等を含んでもよい。
【0015】
本発明において、含浸率とは含浸後の紙の重量に対する含浸剤固形分重量の割合を言う。通常、一定面積の原紙の重量を測定しておき、その原紙に含浸し、乾燥した後の重量を測定して含浸率を算出する。
【0016】
本発明において、含浸率は特に限定されるものではなく要求される物性に応じて、決めればよいが、通常5〜50%である。含浸率が5%未満では含浸紙としての物性が得られない。また、エマルジョン含浸では含浸率が50%を越える含浸紙は実質的に殆ど作製できない。
【0017】
本発明において、含浸される原紙の繊維素材はセルロースパルプを主体としてこれに生分解性の化学繊維(レーヨン)や合成繊維(ポリ乳酸繊維やPVA繊維等)を含んでもよい。セルロースパルプは離解のみでも叩解して用いてもよい。更に、原紙には填料顔料等が含まれてもよい。また、水系での含浸では通常、パルプのカチオン性の湿潤紙力剤が添加される。
【0018】
本発明において用いられるカチオン性湿潤紙力剤としてはポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン、キトサン、ポリビニルアミン等がある。
【0019】
本発明において用いられる炭酸ジルコニウムアンモニウムには日本軽金属社製のベイコート20、サンノプコ社製のAZコート、第一稀元素化学工業社製のジルコゾールAC等がある。
【0020】
本発明において、生分解性樹脂エマルジョンに添加される炭酸ジルコニウムアンモニウムは生分解性樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対して0.05重量部以上である。添加される炭酸ジルコニウムアンモニウムが0.05重量部未満では効果が不十分である。また添加量が多くなるとレベルオフしてしまい、またコストアップになるので2重量部以下が好ましい。
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、本発明の実施例における物性は以下の方法で評価した。
【0022】
層間剥離強度:15mm幅×適当長さの試験片の端部の層間を少し剥がして、この剥がした両端を引張試験機の上下のつかみに固定し、低速度で剥がしていく。この時に未剥離部は引張方向と直角になるように保持する。この剥離強度を記録計に記録し、この平均値を幅で除した値を層間剥離強度とした。
【0023】
実施例1
パルプ配合をLBKP/NBKP=7/3として500mlCSFに叩解したパルプに湿潤紙力剤(住化ケムテック社製SR-6615)を対パルプ100重量部当たり0.3重量部添加して坪量100g/m2の手漉紙を得た。ポリ乳酸エマルジョン(第一工業製薬社製プラセマL110A)の固形分100重量部に対し、炭酸ジルコニウムアンモニウム(日本軽金属社製ベイコート20)を0.05重量部添加して得た水分散体を上記手漉き紙に含浸率が30%となるように含浸して乾燥し、更に熱処理を150℃×3分行った。この含浸紙の層間剥離強度は172N/mであった。
【0024】
実施例2
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウムを0.1重量部とした以外は同じ方法で手漉き及び含浸を行ない、含浸紙を得た。この含浸紙の層間剥離強度は208N/mであった。
【0025】
実施例3
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウムを0.5重量部とした以外は同じ方法で手漉き及び含浸を行ない、含浸紙を得た。この含浸紙の層間剥離強度は242N/mであった。
【0026】
実施例4
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウムを1重量部とした以外は同じ方法で手漉き及び含浸を行ない、含浸紙を得た。この含浸紙の層間剥離強度は253N/mであった。
【0027】
比較例1
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウムを添加しない以外は同じ方法で手漉き及び含浸を行ない、含浸紙を得た。この含浸紙の層間剥離強度は152N/mであった。
【0028】
実施例5
パルプ配合をLBKP/NBKP=7/3として500mlCSFに叩解したパルプに湿潤紙力剤(住化ケムテック社製SR-6615)を対パルプ100重量部当たり1重量部添加して坪量100g/m2の手漉紙を得た。ポリ乳酸エマルジョン(第一工業製薬社製プラセマL110A)の固形分100重量部に対し、炭酸ジルコニウムアンモニウム(日本軽金属社製ベイコート20)を1重量部添加して得た水分散体を上記手漉き紙に含浸率が35%となるように含浸して乾燥し、更に熱処理を150℃×3分行った。この含浸紙の層間剥離強度は287N/mであった。
【0029】
比較例2
実施例5において、炭酸ジルコニウムアンモニウムを添加しない以外は同じ方法で手漉き及び含浸を行ない、含浸紙を得た。この含浸紙の層間剥離強度は250N/mであった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明してきたように、本発明の生分解性樹脂含浸紙は層間剥離強度が向上されているので、これまで非生分解性樹脂エマルジョンを用いて含浸してきた各種含浸紙への応用が期待できる。
























【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主体とした原紙に対し、生分解性樹脂エマルジョンの固形分100重量部に対して炭酸ジルコニウムアンモニウムが0.05重量部以上添加された生分解性樹脂エマルジョンが含浸された生分解性樹脂含浸紙。
【請求項2】
パルプ100重量部に対してカチオン性の湿潤紙力剤が1重量部以上添加された原紙を用いた、請求項1に記載された生分解性樹脂含浸紙。





























【公開番号】特開2010−95804(P2010−95804A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264731(P2008−264731)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(305021960)有限会社 葵テクノ (9)
【Fターム(参考)】