説明

生姜を含むペーストの製造方法

【課題】製造されるペーストにおいて、生姜の機能性成分の揮発による散逸を抑制することができ、かつ、含まれる菌数を大幅に減少させることのできる、生姜ペーストの製造方法を提供する。
【解決手段】生姜粉末と酢とを混合してスラリーを得る工程と、該スラリーを200〜400MPaの圧力で加圧する工程とを含む方法によりペーストを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生姜を含むペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生姜は、ジンゲロール、ショウガオール、ジンゲロン等の各種の機能性成分を含んでおり、生姜を原料とする栄養製剤や、健康食品が開発されている。しかしながら、生姜新鮮根茎中に含まれる各種の機能性成分は、乾燥等の加工工程で、著しく変性したり、揮発散逸したりすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−257864号公報
【特許文献2】特開平4−27370号公報
【特許文献3】特開平5−284949号公報
【特許文献4】特許第4040594号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】鹿野美弘、「生姜・乾姜の化学」、現代東洋医学、1987年1月1日、Vol.8、No.1、p.51−56
【非特許文献2】吉川雅之、外5名、「遠赤外線を用いた生薬の加工調製(第2報)ショウキョウ(Zingiberis Rhizoma)の乾燥過程における成分変動」、薬学雑誌、1993年、Vol.113、No.10、p.712−717
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
栄養製剤や健康食品の材料として、生姜を含むペーストが用いられる。生姜ペーストは土壌栽培の生姜根茎を原料とするため、ペースト中に細菌等の土壌菌が混入している可能性がある。健康に有害な細菌もあるため、食品材料として用いるペーストには、このような細菌がほとんど含まれていないことが必須である。
【0006】
従来、生姜を成分とするサプリメントを製造するためには、乾燥生姜を粉砕して加熱殺菌を行った後、他の成分を添加してスラリー化したペーストをカプセルに封入する方法が用いられていた。しかしながら、生姜を加熱処理すると、生姜に含まれる各種の機能性成分が変性したり、揮発散逸したりする問題がある。
【0007】
一方、高圧力を利用した食品の殺菌方法に関して、多くの発明がなされている。特許文献1は、圧力1,000〜10,000kg/cm、温度30〜100℃、処理時間5分〜5時間の三要素による殺菌方法を開示している。
特許文献2は、油脂食品を対象として1000気圧以上の液体圧での殺菌を提案している。
特許文献3では、3×10Pa以上の圧力、50℃以下の温度の条件でショ糖脂肪酸エステルを添加する殺菌法を提案している。
特許文献4は、高圧と電気パルスとを併用した殺菌方法である。
このように、食品等の殺菌を高圧で行う技術は多く見られるが、操作要素としての温度、処理時間の操作、および添加物や他の方法の併用が主な技術的要素となっている。
【0008】
本発明の目的は、製造されるペーストにおいて、生姜の機能性成分の変性、揮発散逸を抑制することができ、かつ、含まれる菌数を大幅に減少させることのできるペーストの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生姜粉末と酢とを混合してスラリーを得る工程と、該スラリーを200〜400MPaの圧力で加圧する工程とを含むペーストの製造方法を提供する。上記製造方法によれば、製造されるペーストにおいて、生姜の機能性成分の変性、揮発散逸を抑制することができ、かつ、含まれる菌数を大幅に減少させることができる。
【0010】
また、上記酢は醸造酢であることが好ましい。醸造酢はそれ自体が機能性成分を豊富に含んでおり、サプリメントの素材としてのペーストの価値を高める。
さらに、上記醸造酢は濃縮醸造酢であることが好ましい。濃縮醸造酢は機能性成分が濃縮されており、サプリメントの素材としてのペーストの価値を高める他、ペーストをソフトカプセルに封入した場合、水分の蒸発によるソフトカプセルの変形を最小限にし、水分が少ないことから微生物によるペーストの変質を最小限にできる。
また、本発明は、上記製造方法により製造されたペーストを提供する。本発明のペーストは、機能性成分を豊富に含み、かつ、十分に殺菌されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、製造されるペーストにおいて、生姜の機能性成分の変性、揮発散逸を抑制することができ、かつ、含まれる菌数を大幅に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、未処理区(黒酢添加)、高圧処理区(黒酢添加)、加熱処理区(黒酢添加)の各機能性成分の濃度を示すグラフである。
【図2】図2は、未処理区(黒酢無添加)、未処理区(黒酢添加)、高圧処理区(黒酢無添加)、高圧処理区(黒酢添加)の殺菌効果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の方法を説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0014】
本発明の方法は、生姜粉末と酢とを混合してスラリーを得る工程と、該スラリーを200〜400MPaの圧力で加圧する工程とを含むペーストの製造方法である。
【0015】
原料の生姜は、大生姜、中生姜、小生姜等を用いることができ、品種としては、おたふく、印度、三州生姜、黄生姜、金時生姜、谷中生姜等を用いることができる。
【0016】
生姜粉末を調製するには、原料となる生姜新鮮根茎を適宜乾燥、裁断し、乾式粉砕、湿式粉砕、凍結粉砕等の方法により粉砕して、生姜粉末とすることができる。生姜新鮮根茎を乾燥させる際、生姜に含まれる機能性成分が減少しないよう、常温で乾燥させることが好ましい。なお、常温とは、約15〜25℃である。生姜粉末の粒度は、機能性成分が変性、低減しにくいこと、及び、殺菌効果がより高くなることから、50メッシュ〜200メッシュが好ましい。
【0017】
上記生姜粉末と混合する酢としては、穀物酢や果実酢等の醸造酢や、合成酢を用いることができる。機能性成分を多く含むことから、好ましくは、酢は醸造酢である。醸造酢の中では、米酢、黒酢、ハトムギ酢等の穀物酢が好ましい。その中でも、多くの機能性成分を含んでいることから、米黒酢、香醋、及び大麦黒酢等の黒酢が好ましい。
【0018】
また、醸造酢は濃縮醸造酢であることが好ましい。濃縮醸造酢とは、醸造後、ろ過殺菌工程を経た酢を原液とし、原液を減圧蒸発等により濃縮して、体積を減じたものである。なお、原液とする酢は、酸度が約6.0%であることが好ましい。濃縮醸造酢は、原液を10〜40倍程度に濃縮したものであることが望ましく、30倍程度に濃縮することがさらに望ましい。ここで、30倍に濃縮するとは、原液の体積を30分の1に減ずることを意味する。濃縮すると機能性成分を多く含むペーストが作成できる利点があると同時に、ペーストがほぼゲル状になるのでペーストをソフトカプセルに封入した場合、水分の蒸発による変形が最小限に防げる。さらに水分量が低いので微生物によるペーストの変質も最小限に抑えられる。
【0019】
また、醸造酢の代替として、醸造残渣物を含むもろみ酢を使用できる。
【0020】
ペーストのpHは、3〜5であることが好ましい。pHがこの範囲であると、殺菌効果をより高めることができ、ペーストに含まれる菌数がより減少する。ペーストのpHは、4.1〜4.7であることがより好ましい。このpHの範囲のペーストとするために、生姜粉末と混合する酢のpHは、3.0〜4.0であることが好ましい。
【0021】
上述した生姜粉末と酢とを混合してスラリーを得て、このスラリーを200〜400MPaの圧力で加圧する。加圧方法は、200〜400MPaの高圧をかけられる方法であれば特に限定されないが、例えば、ピストン式高圧処理装置を用いることができる。該装置を用いる場合、袋等の真空容器に混合物を充填し、該真空容器を水等の圧力媒体の入った高圧容器に入れ、上から圧縮媒体をピストンで圧縮加圧することにより、真空容器に入ったスラリーを200〜400MPaの圧力で加圧することができる。スラリーを加圧する圧力としては、200〜400MPaの範囲であればよいが、好ましくは330〜370MPaであり、さらに好ましくは350MPaである。
【0022】
スラリーを加圧する際、スラリーの温度は、機能性成分が変性、揮発散逸するのを防ぐ観点から、40〜60℃とすることが好ましく、45〜55℃とすることがより好ましく、50℃とすることがさらに好ましい。
【0023】
スラリーを加圧する時間は、混合物中の菌が十分に殺菌される時間であればよいが、殺菌効果を高め、揮発逸散を防ぐために、5〜20分であることが好ましい。
【0024】
圧力をかけて十分に殺菌した後、圧力開放を行い、加圧を終了する。そして、容器から取り出すことで、殺菌されたペーストが得られる。該ペーストにおいては、生姜の機能性成分の変性、揮発散逸が抑制されており、かつ、ペースト中に含まれる菌数が大幅に減少している。
【実施例】
【0025】
(実施例1.機能性成分への影響)
(試料の調製)
非加熱の金時生姜粉末と30倍濃縮黒酢(pH3.8)と蒸留水とを、生姜粉末:黒酢:蒸留水=1:1:1(w/w)の割合で混合し、ペーストを作成した。
未処理区(黒酢添加)は上記ペーストを未処理のまま分析した。
加熱処理区(黒酢添加)は上記ペーストを、125℃、0.15MPa、10分間の条件で、オートクレーブ(ALP/CLS−40L)にて加熱処理し、分析に供した。
高圧処理区(黒酢添加)は上記ペーストを、50℃、350MPa、10分間の条件で、高圧処理し、分析に供した。
【0026】
(分析方法)
上記3区の試料1gを100mL容メスフラスコに精密に量り採った。メスフラスコに、メタノール約80mLを添加して試料を溶解し、30分間超音波処理し、液量が100mLになるようメタノールを追加した。この溶液を、0.45μmのメンブランフィルタでろ過し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC;Agilent Technologies/Agilent 1120 Compact LC)で分析をした。
【0027】
(HPLC条件)
HPLC条件は、以下の通りである。
カラム:ODS−3、サイズ250mm×4.6mm、粒子径5μm(GLサイエンス)
カラム温度 :40℃
移動相:A液:0.1%リン酸、B液:アセトニトリル
溶出:B液が50%(0分)、80%(20分)、85%(20.1分)、85%(25分)、50%(25.01分)、50%(35分)のグラジエント溶出
流量:1.0mL/分
注入量:10μL
検出:280nmUV
【0028】
(機能性成分)
測定する機能性成分は、[6]−ジンゲロール([6]−Gingerol)、[6]−ショウガオール([6]−Shogaol)、ジンゲロン(Zingerone)、[8]‐ジンゲロール([8]−Gingerol)、[10]−ジンゲロール([10]−Gingerol)の5種とした。
これらの標品として、Zingerone(和光純薬)約100ppmメタノール溶液、[6]−Gingerol(和光純薬)約100ppmメタノール溶液、[8]−Gingerol(ChromaDex)約100ppmメタノール溶液、[6]−Shogaol(和光純薬)約100ppmメタノール溶液、[10]−Gingerol(ChromaDex)約100ppmメタノール溶液、をそれぞれ用いた。
【0029】
(濃度の定量)
以下の式により、試料中の機能性成分の濃度を求めた。
濃度(mg/g)=標品濃度(ppm)×(試料面積/標品面積)×(液量(mL)/試料量(g))/1000
各機能性成分の濃度を図1、表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
図1、表1より、未処理区では機能性成分の合計が12.79mg/gであったのに対し、高圧処理区の機能性成分の合計は12.04mg/gであり、歩留まりは94.1%となる。しかし、加熱処理区の機能性成分の合計は7.29mg/gであり、歩留まりは56.9%となった。
【0032】
また、機能性成分の比率を比べると、未処理区と高圧処理区はほぼ同様の組成比であるが、加熱処理区は著しく異なっていた。つまり、加熱処理区では、[6]−ショウガオールの量が未処理区と比較して顕著に増加しており、[6]−ジンゲロール、[8]−ジンゲロール、[10]−ジンゲロールは減少している。[6]−ジンゲロールが減少して[6]−ショウガオールが増加する現象は、[6]−ジンゲロールが熱変性をして[6]−ショウガオールに変わったものと考えられる。また、一部の[6]−ジンゲロールと、[8]−ジンゲロール及び[10]−ジンゲロールが減少する現象は、加熱により成分が揮発散逸したためと考えられる。
このように、高圧処理を行うと機能性成分の歩留まりが良く、成分の組成変化が小さい処理が可能となる。
【0033】
(実施例2.殺菌効果の比較)
処理方法の違いによる殺菌効果への影響を検証するため、以下の実験を行った。
まず、未処理区(黒酢無添加)、高圧処理区(黒酢無添加)、未処理区(黒酢添加)、及び高圧処理区(黒酢添加)の4つの実験区を設定し、殺菌効果を検証した。
【0034】
(試料の調製)
黒酢添加処理として、非加熱の金時生姜粉末と30倍濃縮黒酢(pH3.8)と蒸留水とを生姜粉末:黒酢:蒸留水=1:1:1(w/w)の割合で混合し、ペーストを作成した。
未処理区(黒酢無添加)の試料として、非加熱の金時生姜粉末をそのまま分析した。
未処理区(黒酢添加)の試料として、黒酢添加処理して作成したペーストをそのまま分析した。
高圧処理区(黒酢無添加)の試料として、非加熱の金時生姜粉末と蒸留水とを生姜粉末:蒸留水=1:2(w/w)の割合で混合して作成したペーストを、50℃、350MPa、10分間の条件で、高圧処理し、分析に供した。
高圧処理区(黒酢添加)の試料として、黒酢添加処理して作成したペーストを、50℃、350MPa、10分間の条件で、高圧処理し、分析に供した。
上記4区の試料中に含まれる細菌数を、表2に示す検査項目の細菌について分析した。分析は、財団法人食品分析開発センターSUNATECに依頼した。表2中の数値は、試料1gあたりに含まれる菌数を示している。
【0035】
【表2】

【0036】
分析方法は、食品衛生検査指針(微生物編)による。分析に使用した培地は以下の通りである。
一般細菌数…標準寒天培地
大腸菌群…デゾキシコレート寒天培地
黄色ブドウ球菌…マンニット食塩寒天培地
サルモネラ属菌…増菌培養法
好気性芽胞形成菌…標準寒天培地
カビ数…ポテトデキストロース寒天培地
嫌気性芽胞形成菌…クロストリジア測定用培地
【0037】
表2より、一般細菌数、大腸菌群、カビ数の値に関しては、未処理区(黒酢添加)、高圧処理区(黒酢無添加)、高圧処理区(黒酢添加)ともに殺菌効果を示している。このうち、大腸菌群、カビ数では、前記3区とも陰性であり3区間の差異は明らかではないが、一般細菌数に関しては、高圧処理区(黒酢添加)が最も強い効果を示している。
【0038】
さらに、図2に、試料の調製に用いた生姜1gあたりの一般細菌数を示す。すなわち、未処理区(黒酢添加)、高圧処理区(黒酢無添加)、高圧処理区(黒酢添加)の試料は、生姜粉末が蒸留水や黒酢で3分の1倍に希釈されているので、3倍に補正した値を示した。
【0039】
サプリメントの材料である添加物の場合、食品規正法の対象にはなってないが、業界では自主規制値として、3000CFU/g以下の基準を持っていることが多い。
図2に示したように、一般細菌数においては、未処理区(黒酢添加)で11700CFU/g、高圧処理区(黒酢無添加)で3300CFU/gとなり、3000CFU/gを下回ることはなかったが、高圧処理区(黒酢添加)のみ2010CFU/gとなり、添加物業界で最も一般に採用されている自主規制値3000CFU/gを下回った。すなわち、黒酢添加処理単独や、高圧処理単独では達成できない殺菌効果が、高圧処理と黒酢添加処理の相乗作用により達成できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生姜粉末と酢とを混合してスラリーを得る工程と、該スラリーを200〜400MPaの圧力で加圧する工程とを含むペーストの製造方法。
【請求項2】
前記酢が醸造酢である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記醸造酢が濃縮醸造酢である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法により製造されたペースト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−70676(P2013−70676A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212927(P2011−212927)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(504036279)バイオジェニック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】