説明

生物兵器防衛のための免疫療法

ヒト中和抗体(全長または機能的フラグメント)は、例えば、炭疽菌、ボツリヌス菌、天然痘、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス(VEEV)、西ナイルウイルス(WNV)などの感染性因子に対する、抗毒素剤または抗感染剤として有用である。ファージディスプレイ技術および予防接種したヒトまたは回復期のヒトのリンパ細胞由来のメッセンジャーRNAを使用して、本明細書中に記載した方法に従って、感染性因子由来の抗原に結合する抗体フラグメント(Fab)のパネルを迅速に同定することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、それぞれ2002年2月11日、2002年4月29日、2002年11月25日に出願された、米国特許仮出願番号第60/356,086号、60/376,408号および60/428,807号に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
(技術分野)
本開示は、例えば、炭疽菌、ボツリヌス菌、痘瘡、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス(VEEV)、西ナイルウイルス(WNV)などの感染性病原体に関して、抗毒素または抗感染薬として有用である、ヒト中和抗体(全長または機能性フラグンメント)に関連する。
【0003】
(関連技術の背景)
米国における最近のテロ行為の活動を受けて、炭疽菌感染を防止し、および処置する我々の能力に対する懸念が高くなっている。炭疽菌のためのワクチンは存在するが、6回の間隔を開けた接種からなり、毎年の追加免疫を必要とし、ほとんどのワクチンにおいて不愉快な副作用を生じる。このことが、広く行き渡った使用を妨げ、そして、公衆に予防接種するためには、今でも大きな障害となっている。現在使用されている炭疽菌ワクチンは、Bacillus anthracisの溶解物由来の保護抗体の精製を包含するプロセスを介してBioport(Lansing、MI)により製造される。このワクチンを産生するために使用され得るLFおよびEFを欠如する他の株が存在し、ならびに使用され得る高産生組換えBacillus subtilis株も存在するが、これは、さらに、スターン生存ワクチン株のようである。おそらく、このようなさらなるワクチンを試験することおよび比較することの困難性ならびに小さな市場が、実際の試験、使用許可、製造を妨げてきた。現在のワクチンの副作用は、湾岸戦争症候群と多くの点で関係していて、大規模のワクチン接種が、テロリストの脅しに直面して現在価値があり得る可能性は、現在のワクチンにおける改良が、現在追求されることを示唆している。適当なワクチンがない限りは、曝露に対する処置は、テロリズムの活動に対する主要な応答として残っている。
【0004】
米国において、最近の、汚染された手紙由来の炭疽菌曝露は、全て抗生物質に対して感受性の炭疽菌の株が関与している。しかし、悲劇的に、多くの人々が診断の遅れのために死んでいる。このことをふまえて、疾患および死を防止し得、抗生物質治療および/または適応免疫性をさらなる時間効果的にすることを可能にする炭疽菌暴露に対する処置を有することが有用である。
【0005】
炭疽菌に由来する死の第1の原因は、細菌により生成される2つの関連した毒素に対する身体の反応である。これらは、両方とも、PA63にプロセスされるとすぐに、PA83として細胞レセプターに結合するPA63と呼ばれるプロセスされたタンパク質を含む。炭疽菌毒素に対するヒト細胞上のレセプター、ATR(炭疽菌毒素受容体(anthrax toxin receptor))は、最近同定された。Bradleyら、Nature、414巻、2001年11月8日を参照のこと。次いで、PA63は、EFタンパク質(エデマ因子)かまたはLFタンパク質(致死因子)のいずれかに結合し得る七量体を生成する。七量体化PA63ならびに結合EFおよび/またはLFのエンドソーム内在化は、細胞内へEF毒素およびLF毒素の誘導を促進する。エンドソーム小胞の酸性化は、EFおよび/またはLFが細胞質ゾルに入り得、そこでそれらの毒性効果を発揮する微細孔をPA七量体が、形成することを誘導する。3つの成分、EF、LFまたはPAのいずれもが、それ自体では、疾患を引き起こし得ない。
【0006】
いくつかの連続した証拠は、PAのレセプターへの結合の防止し得ること、またはEFおよびLFのPAとの相互作用を妨害し得ることを示している。ワクチンそれ自体は、防御的抗体を作製するために、精製PA部分のみを使用している。Littleら(Infect.Immun.65:5171〜5175(1997))は、PA抗体をモルモットに受動的に投与した。次いで、モルモットは、後の炭疽菌感染に対する防御を示した(ポリクローナル抗体では、70%の防御であり、1つのPA63モノクローナル抗体では、死が2日間遅れた)。単鎖抗体フラグメント(scFvs)は、PAによる受容体結合を阻害するために使用されてきた。Cirinoら(Infect.Immun.67:2957〜2963(1999))は、PA83に結合する未処置のヒトライブラリーから多くのscFvsを同定した。彼らは、次いで、これらを細胞に基づいたアッセイに使用し、ここで、PA32(PA63の短縮型)がEGFPに融合し、その後、PA63と類似の方法で細胞に取り入れられた。次いで、細胞の吸収におけるPA32−EGFPに対するこれらscFvsの効果をモニタリングするために、EGFPの蛍光を使用し得た。細胞によるPA32−EGFPの吸収を防止し得る1つのscFvが、同定された。Mourezら(Nature Biotech.19:958〜961(2001))は、EF/LF部位においてまたは近辺でPA63七量体に結合する炭疽菌毒素に対する多価ペプチドインヒビターを作製した。彼らは、細胞に基づいたアッセイを使用して、このインヒビターが、PA/LF毒性に対して細胞を防御し得ることを示した。彼らはまた、インヒビターをチャレンジの3〜4分間後に導入した場合、ラットを最低致死用量のPAおよびLFの10倍でチャレンジし、その後まだ防御されていることを示した。
【0007】
これらのデータは全て、炭疽菌感染の遅れた診断を受ける患者に、抗生物質を用いた組み合わせ治療のための治療用ヒト組み合わせ抗体を開発することを可能とすることを示唆している。
【0008】
ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス(VEEV)は、ウマおよびヒト宿主の両方に運ばれ得る蚊運搬アルファウイルスである。ウマおよびロバの集団の感染が、高い死亡率を生じ得るのに対して、天然のヒト感染は、通常、発熱、悪寒、倦怠感および激しい頭痛からなり、1〜4%のヒトしか重度の脳炎には進行しない。しかし、VEEVは、その低いヒト感染性用量、容易な作製およびエアゾール化し得ることのために、CDCにより、「区分B」重要生物学的病原体として分類されてきた。潜在的に、エアゾール化したVEEVは、高い感染性があるとして公知の、および嗅索による中枢神経系への直接的接近手段を容易に得ることができるVEEVの形態を使用して効果的な生物兵器として使用され得る。ウイルスの複製がCNS中で一旦生じると、脳炎は本格的なリスクになる。不幸にも、VEEV感染の処置は、対症的な治療に限定されている。
【0009】
その使用は、危険に曝された研究所就業者および軍隊に限定されているが、VEEVに対して利用可能な治験ワクチンがある。生存力を弱めたワクチン、TC−83(FDA治験新薬 #142)(Pittmanら、Vaccine 14、pp337〜343(1996))は、これら双方の環境で使用されてきた。このワクチンは、組織培養中の、伝染性の強いトリニダードロバウイルスのいくつかの継代により樹立された。TC−83ウイルスは、ほとんどのヒトおよびウマにおいて、VEEV特異的中和抗体を誘発させる(Kinneyら、Virology 170、19〜30(1989))。実験動物では、ワクチンは、伝染性の強いVEEV株を有する皮下のチャレンジまたは気中チャレンジに対する免疫性を産生し得た(Phillpotts、Vaccine 17、pp2429〜2435(1999))。しかし、ヒトワクチンの18%までは、最初のワクチン接種から防御を発現しない。さらに、ワクチンは、比較的高い比率の反応性遺伝子(reactogenicity)(25%)を有する。最近の1つの報告は、TC−83が、もはやヒト使用には利用不可能であると記載する(Phillpottsら、Vaccine 20、p1497〜1504(2002))。TC−83に関する関心事は、不活性化ワクチン、C−84の開発を促進した。しかし、C−84は、動物モデルにおけるウイルスの伝染性の強い株を用いたエアゾールチャレンジに対して防御を産生しなかった(Pittmanら、Vaccine、14、pp337〜343(1996))。結果として、C−84は、初期免疫原としては、研究所就業者には使用されないが、TC−83に対する非応答者のために引き続き行うワクチンとして、または追加免疫として、(ここで、それはリコール抗原(recall antigen)として作用する)かなり有用である。従って、抗VEEV治療(例えば、強い中和抗VEEV抗体)に対する切迫した需要がある。
【0010】
VEEVは、膜ウイルスであり、ここで、膜およびキャプシド構造は、脂質二重層により分離されていて、そして、E2糖タンパク質の膜貫通末端を介して相互作用していると考えられる。シンドビスウイルスと似て、VEEVは、E1/E2ヘテロ二量体の三量体として組織化されたビリオンタンパク質鋭利部を有する(Paredesら、J.Virology、75、ppp9532〜9537(2001);Phinneyら、J.Virology、74、pp5667〜5678(2000))。E1(gp50)およびE2(gp56)に存在し、重要な中和部位に関与し得るエピトープは、モノクローナルAbsを使用して研究されてきた(MathewsおよびRoehrig、J.Immunology、pp2763〜2767(1982))。部位E2は、E2鋭利部の先端に存在し、中和(N)エピトープになると考えられている。さらなるエピトープもまた、中和活性を示し、E2部位と近接した構造関係を有し得る。
【0011】
VEEV感染のマウスモデルは、ヒトにおける疾患の病原と類似した疾患の病原に従うと考えられる。ウイルスチャレンジ前のAb中和の受動的な移動は、これらの通常のマウスにおいて、効果的に死を防止する(RoehrigおよびMathews、Virology(1985)142、pp347〜356;Phillpottsら、Vaccine(2002)20、1497〜1504)を参照のこと)。非中和Absもまた、マウスの腹腔内または静脈内のウイルスチャレンジにおいて防御を示した(HuntおよびRoehrig、Vaccine(1995)13、pp281〜288;およびHuntら、Virology(1991)185、281〜290)。非中和Abのウイルスチャレンジからの防御機構は理解されていないが、それらは、ウイルスの複製を遅らせることにより作用し得、そしてそうすることで、宿主免疫系にウイルス感染に反応する時間およびウイルス感染を制御する時間を与えると推測される(Huntら、Virology(1991)185、281−290)。VEEVの気中浮遊曝露に対して、ヒトのための効果的な治療は、例えば、曝露の時間におけるまたは曝露の時間に近い時間でウイルスの直接的な中和のような処置の速いやり方を必要とし得る。Abを中和する性能は、VEEVの脳への拡散を防止することと特定の関係にある。この点で、気中ウイルスチャレンジ24時間後までの中和Abのマウスへの投与が、防御効果を示すことが重要である(Phillpottsら、Vaccine、20、1497〜1504(2002))。
【0012】
これらおよび類似の研究に記載されたマウス抗体は、ヒトにおけるVEEV感染の防止および処置において使用される抗体であり得る。しかし、げっ歯類の抗体は、ヒトでは免疫原性が高く、従って、特に繰り返し投与が治療のために必要な場合には、それらの臨床的応用は限定される。抗体ヒト化と名づけられたプロセスは、元の抗原特異性を維持しようと努力するのに対して、げっ歯類抗体のほとんどをヒト抗体領域で置き換えることにより、げっ歯類抗体の免疫原性を減少するために使用され得る。しかし、この取り組みは、通常、時間およびコストがかかり、ヒト化Abに対する免疫原性反応の可能性を除外しない。十分ヒト化し、VEEV上の中和エピトープを標的とする抗体は、ウイルス感染の効果的な阻害の最良の機会をもたらし、および免疫原性の最小限のリスクが存在する最も所望される治療候補である。
【0013】
ボツリヌス神経毒は、公知の最も強力な細菌毒の1つであり、ヒトに対するLD50は、1ng/kgである。この毒素は、細菌Clostridium botulinumにより産生され、他の数種のClostridium種によってもまた産生され、そして、7つの毒素の抗原型(AからG)が認められている。分子レベルでは、毒素は、150kDaのタンパク質として産生され、プロテアーゼに曝露されることにより切断され、結合を残した2つの鎖:約50kDaの軽鎖および100kDaの重鎖を生成する。重鎖は、神経細胞への結合に関与するドメインを含み、それに対して軽鎖は、神経細胞質ゾルに入る亜鉛依存性エンドプロテアーゼドメインを含む。一旦内側に入ると、このエンドプロテアーゼは、シナプスタンパク質(シナプトブレビン、シンタキシンおよびSNAP−25を含む)のタンパク質分解によりその毒性効果を発揮する。これらのタンパク質の分解は、神経伝達を阻害し、そして、進行性麻痺および死を生じる。
【0014】
ボツリヌス神経毒に対する抗体は、受動的および能動的免疫モデルにおいて、防御的であることを示している。抗原型A〜EからなるPBTワクチンは、ボツリヌス神経毒に曝露される危険性がある人々に対して、現在、国防総省および疾病対策予防センターにより入手可能である。抗原型DおよびGは、天然のヒト感染においては、めったに接触しない。しかし、抗原型Fは、一般的であり、PBTワクチンが欠如している。しかし、抗原型DおよびGの生物テロリストの攻撃に使用される可能性は、見落とされるべきではない。天然の感染では、ポリクローナル抗体の調製は、免疫療法として首尾よく使用されているが、神経細胞への毒素の侵入を最小限にするために、感染の初期に与えられなければならない。いくつかのポリクローナル免疫グロブリンの調製物:ウマの三価(A、BおよびE)調製物、免疫グロブリンのFc部分がプロテイナーゼ切断により取り除かれたウマ七価調製物およびPBTワクチンを予防接種したドナーから入手したヒト免疫グロブリン調製物(hBIG)が、免疫療法として利用可能である。ウマからの調製物はいずれも処置した個体に過敏な反応を伴う困難を有した。ヒトからの調製物は、耐用性良好であり、効果的であるが、供給不足であり、7つの抗原型の5つに対してしか有用ではない。天然感染に対してさえ、ボツリヌス神経毒の全ての抗原型に対する十分なヒト中和抗体を即時に供給することは有用である。2001年の故意の炭疽菌の放出の後の生物学的テロリズムに対する私たちの無防備さへの増大する認識は、このような免疫療法の開発をさらに重要にする。
【0015】
1980年5月の天然痘根絶の宣言(Fennerら、1998)およびワクチンプログラムの休止以来、予防注射された人の免疫性は衰えてきており、そして、1980年以降に出生した人は、予防注射されていない。世界的な免疫性の欠如は、痘瘡ウイルス、生物兵器としての天然痘の原因となる薬剤の故意の放出の脅威を劇的に増加した。痘瘡ウイルスは、それを生物学的戦争に特に適したものにする特徴を有している。ウイルスは、呼吸経路によるかまたは直接の接触により、人から人へ拡散し得る。ウイルスのエアゾール放出は、エアゾール形態中でのそのかなりの安定性のために、および伝染性用量がとても小さい(Wherleら、1970)ために広く散布し得る。疾患に対する特定の処置はない。大量の感染性ウイルスがなくなり得る脅威もまたある。Alibek、ソビエト連邦の民間生物兵器プログラムの前副長官は、1980年の初めにソビエト政府が生物兵器プログラムを開始し、爆弾および弾道ミサイルに輸送するために、毎年、多量の痘瘡ウイルスを作製する方法を開発したと報告した(Alibek、1999)。財政支援の減少および1992年のソビエトの民間生物戦争プログラムの中止とともに、熟練した科学者、設備および材料が、他の国に運ばれ得た。報告されたアジアでの流行は、30%かまたはそれより高い死亡率を有した(Fennerら、1998)。現在、より感受性があり、移動も頻繁な集団が原因となり、ウイルスは、国および世界中に、非常に速くおよび広く拡散し得る。
【0016】
痘瘡ウイルスは、DNAウイルスであり、ワクシニア、サル痘ウイルスおよび血清学的に交差反応するいくつかの他の動物のポックスウイルスを含むポックスウイルス科およびオルソポックスウイルス属のファミリーの一部である(Fennerら、1988)。痘瘡ウイルスのみが、すぐにヒトからヒトへ感染し得る(BremanおよびHendersonにより総説される、2002)。DNA配列分析により、痘瘡およびワクシニアウイルスは近い関係にあることが明らかになった(Massungら、1994)。痘瘡ウイルスの感染用量は、非常に低く、たった数ビリオンであると考えられる(Wherleら、1970)。痘瘡ウイルスは、そのゲノムを転写し、および複製し、子孫ビリオンを感染細胞の細胞質内に完全に集める(Mossにより総説される、1996)。4つの型の感染性の形態が産生される:細胞内成熟ウイルス(IMV)、細胞内膜ウイルス(IEV)、細胞結合型膜ウイルス(CEV)および細胞外膜ウイルス(EEV)(Mossにより総説される、1996)。IMVは、細胞質に残る主要な形態である。EEVは、感染粒子の、より小さい画分を代表するが、インビトロおよびインビボのウイルスの長期的な蔓延および拡散の点で、生物学的に関連した形態である(Payne、1980;SmithおよびVanderplasschen、1998;LawおよびSmith、2001)。IMVではなく、EEVに対する免疫反応が、オルソポックスウイルス感染に対する防御のために必要であることが示された(Appleyardら、1971;Boulter、1969;BoulterおよびAppleyard、1973、Boulterら、1971;Ichihashiら、1971;Morgan、1976;Payne、1980;PayneおよびKristensson、1985;TurnerおよびSquires、1971)。EEVの外膜のための10個のタンパク質をコードする6個の遺伝子が報告されている(Payne、1978;Payne、1979)。それらは、A33R(gp22〜28)(Roperら、1996)、A34R(gp22〜24)(DuncanおよびSmith、1992)、A36R(p45〜50)(ParkinsonおよびSmith、1994)、A56R(gp86、かなりグリコシル化した血液凝集素)(PayneおよびNorrby、1976;Shida、1986)、B5R(gp42)(Isaacsら、1992;Englestadら、1992)およびF12LまたはF13L(p37)(Hirtら、1986;BlascoおよびMoss、1991)である。最近、A36Rタンパク質が、CEVおよびEEV粒子には、存在しないことが発見された(van Eijlら、2000)。IMVの膜タンパク質は、A27L(p14)(RodriguezおよびEsteban、1985)、D8L(p32)(Maaら、1990;NilesおよびSeto、1988)、A17L(p21)(Rodriguezら、1995)およびL1R(M25、ミリスチル化ビリオンタンパク質)(Frankeら、1990)である。A27L、A17LおよびL1Rは、IMVの融合および侵入に関係する(IchihashiおよびOie、1996)。
【0017】
ワクチンウイルスから製造された天然痘ワクチンは、これまでに製造された最初のワクチンであった。現在の備蓄は、子牛の皮膚で増殖された、生きているワクチンウイルスからなる。米国では、蓄えの供給は、限られている:6〜7百万人の人々に予防接種するために十分な量だけ存在する。他の国はどこも、発生した場合、その国の人口を網羅するために十分な量を有していない。天然痘の予防接種は、また、他の任意の型の予防接種よりも重篤な副作用と結びつき、それが、根絶後、予防接種を終らせた理由の一つである(Oberら、2002)。現在、世界保健機関および米国、疾病対策予防センターにより、疑わしい場合にのみ、使用が推奨され、大衆に対する予防接種は、推奨されていない(Smallwoodら、2002)。ワクチンウイルスを用いた予防接種は、少なくとも5年間は天然痘を予防する点で効果的であり、かなり長い期間、感染を予防し得るかまたは改変し得るが、この変動は、ヒトにより大きく異なる。
【0018】
中和抗体が、オルソポックスウイルスに対する免疫性において、特に再感染の防止および感染の蔓延の予防において、重要な役割を演じるということには、一般的な合意がある。感染を防止するかまたは痘疹予防接種由来の副作用を制御する点における痘疹免疫グロブリン(VIG)の利点は、明らかに実証された(Kempe、1960、Kempeら、1961、Hobday、1962)。組換えB5Rタンパク質に対するポリクローナル抗血清は、EEV感染を阻害した(Galmicheら、1999)。B5Rタンパク質を予防接種したマウスは、中和抗体により媒介されるようである痘疹ウイルスにより、致死性感染に対して保護された。タンパク質A34RでもA36Rでもなく、A33Rが、能動免疫および受動免疫おいて保護的であるが、保護は、抗体の力価と関連せず、抗A33R抗体は、インビトロでEEVを中和しなかった。著者らは、保護がおそらく単一の抗体結合とは異なる機構と関与していることを記載した(Galmicheら、1999、Schmaljohnら、1999)。IMVの膜に局在する痘疹ウイルスの14kDa三量体タンパク質(A27L、p14)に対するマウス中和抗体の予防的投与ならびに治療的投与は、マウスにおけるウイルスの複製を効果的に制御する(Ramirezら、2002)。L1RおよびA33R遺伝子を有するDNAワクチンは、L1RおよびA33Rに対する中和抗体を用いて、致死ウイルス感染に対してマウスを保護した(Hooperら、2000)。
【0019】
新生感染性疾患の最近の論点(Casadeval、2002)で記載されたように、生物学的薬剤に対して即時の免疫性を提供し得る唯一の利用し得る対抗手段は、抗体を有する受動免疫である。ワクチンは、保護免疫性を誘導するために、時間を要し、宿主の免疫反応を組み込む能力に依存するが、受動免疫は、宿主の免疫状態に関わらず、理論上、保護を与え得る。低細胞毒性および高特異的活性は、曝露後の処置の他の測定に対する受動免疫の利点の内の一つである。
【0020】
良好な血清中和活性およびこのようなドナーの骨髄由来のコンビナトリアル抗体ライブラリーの構築を用いた免疫ドナーの同定は、ウイルス感染に対する特異性の高い中和抗体の大きなパネルの単離のための論理的なアプローチである(Burtonら、1991;Barbasら、1992;Williamsonら、1993;Burioniら、1994;Maruyamaら、1999;Maruyamaら、2002)。中和エピトープを含む組換えエンベロープタンパク質に関するライブラリーの選択は、直接的である。マウス抗体とは違って、ヒト抗体は、非免疫原性であり、一度その効力が、感受性のある動物で十分に特徴付けられると、それらは、患者に安全に投与され得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
生物兵器で使用され得る型の感染性因子を中和する抗体を同定することが好ましい。これらの生物保護抗体が単一の抗体ライブラリーに由来し得る場合もまた、好都合である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(要旨)
ファージディスプレイ技術および予防接種したヒトまたは回復期のヒトのリンパ細胞由来のメッセンジャーRNAを使用して、本明細書中に記載した方法に従って、感染性因子由来の抗原に結合する抗体フラグメント(Fab)のパネルを迅速に同定することが可能である。これらのFabの抗原との相互作用の強さは、表面プラスモン共鳴を使用した結合動力学を研究することにより決定され得る。これらのヒトFabは、残存する定常領域ドメインを含む、適切な哺乳動物の発現ベクター中にサブクローニングすることにより、容易に全長IgGに受理され得る。これらのパネル由来のFabおよび抗体を、小動物モデルでのインビトロおよびインビボでウイルスまたは毒性阻害研究において試験することにより、前臨床試験および臨床試験の継続に適した中和抗体のサブセットを同定し得る。これらの抗体は、次いで、上記因子のいずれかに感染したかまたは曝露された個体の処置において、免疫治療剤として使用され得るか、または、曝露の危険が予想される個体に予防的に使用され得る。
【0023】
従って、一つの局面では、抗体またはその機能性フラグメントが、感染性因子による感染を中和するかまたは予防するために、同定され得、単離され得、多量に産生され得る抗体ライブラリーが、記載される。
【0024】
別の局面では、炭疽菌感染の処置に効果的なヘテロ二量体抗体が記載される。ヘテロ二量体抗体は、抗体ライブラリーから選択される。ライブラリーは、好ましくは、免疫したヒト供給源から生成される。ヘテロ二量体抗体は、炭疽菌感染に関与する分子(例えば、炭疽菌保護抗原またはEFタンパク質もしくはLFタンパク質)に結合し、その活性を無効にする。そして、その結果、細胞への毒素誘導に関与するプロセスを妨害することにより、毒素活性を阻害する。これらのプロセスとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:PA83のレセプターへの結合、PA83のPA63へのプロセッシング、PA63の前孔複合体形成への相互作用、EFまたはLFの前孔への結合、EFまたはLFの膜移行を可能にする前抗の立体配座の変化、またはEFもしくはLFの孔を通した移行。この妨害は、身体の細胞によるこれらのタンパク質の吸収と関連した毒性効果が遅くなるかまたは排除されるようなものである。特に有用な実施形態において、ヘテロ二量体抗体は、炭疽菌感染に関与する分子に対して少なくとも1×10−8Mの親和性を有している。別の実施形態では、これらの抗体は、診断の試薬として使用され得る。
【0025】
別の局面では、ボツリヌス菌を中和する抗体または抗体の機能性フラグメントが記載される。
【0026】
別の局面では、痘瘡ウイルス(痘瘡)/痘疹ウイルスを中和する抗体または抗体の機能性フラグメントが記載される。
【0027】
別の局面では、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス(VEEV)を中和する抗体または抗体の機能性フラグメントが記載される。
【0028】
別の局面では、西ナイルウイルス(WNV)を中和する抗体または抗体の機能性フラグメントが記載される。
【0029】
別の局面では、デング熱を中和する抗体または抗体の機能性フラグメントが記載される。
【0030】
別の局面では、感染性因子による感染を予防するために、抗体または抗体の機能性フラグメントを予防的に投与する方法が記載される。
【0031】
別の局面では、感染性因子による感染を処置するために、抗体または抗体の機能性フラグメントを投与する方法が記載される。
【0032】
(好ましい実施形態の詳細な記述)
本開示に従ってヒト抗体は、抗体全体かまたは抗体フラグメントであり得る。抗体は、ヘテロ二量体かまたは単鎖抗体であり得る。用語「ヘテロ二量体」とは、抗体または抗体フラグメントの軽鎖および重鎖が、天然に存在する抗体に見られるように、互いにジスルフィド結合により結合していることを意味する。単鎖抗体は、リンカー配列を介して結合した抗体の、軽鎖および重鎖可変領域を有する。
【0033】
本発明のヒト抗体は、抗体ライブラリーをスクリーニングすることにより同定される。抗体ライブラリーを生成し、そしてスクリーニングするための技術は、当業者の範囲内である。RaderおよびBarbas、Phage Display、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2000)Lernerらに対する米国特許第6,291,161号および同時係属する米国仮出願番号第60/323,455号および同60/323,400号を参照のこと。これらの出願の開示は、その全体が、本明細書中に参考として援用される。
【0034】
一般に、本発明の開示に従って、抗体ライブラリーを産生する第一工程は、一つ以上の感染性因子または感染性因子由来の抗原に対する抗体を産生する個体由来の細胞の回収を含む。代表的には、このような個体を、感染性因子および/または感染性因子由来の抗原に曝露する。特に有用な実施形態において、個体を、複数の感染性因子または生物兵器に関して戦略的に重要である感染性因子由来の抗原に曝露した。このような物質としては、炭疽菌、炭疽菌由来の抗原、ボツリヌス菌、ボツリヌス菌由来の抗原、天然痘、天然痘由来の抗原、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス(VEEV)、VEEV由来の抗原、デング熱、デング熱由来の抗原、腸チフス、腸チフス由来の抗原、黄熱病、黄熱病由来の抗原、肝炎、肝炎由来の抗原、西ナイルウイルス(WNV)、WNV由来の抗原からなる群から選択される因子が挙げられる。図1は、本開示の好ましい実施形態に従った抗体ライブラリーの調製に使用するために適切な個体の曝露歴を要約する表である。抗体を産生するかまたは抗体を含む組織由来の細胞を、感染または免疫化の約7日後の個体から回収する。適切な組織は、血液および骨髄を含む。
【0035】
一旦細胞を回収すると、当業者に公知の技術を使用してRNAをそこから単離し、そして、コンビナトリアル抗体ライブラリーを調製する。一般に、コンビナトリアル抗体ライブラリーを調製するための技術は、抗体またはその一部(例えば、単離した抗体のRNAを使用した軽鎖および/または重鎖)をコードする標的配列の増幅を含む。従って、例えば、もともと多様な抗体mRNAの試料を用いて開始することで、テンプレートを提供するために、第1鎖cDNAを産生し得る。次いで、ライブラリーを生成するために、従来的なPCRまたは他の増幅技術を使用し得る。
【0036】
抗体ライブラリーのスクリーニングを、例えば、所望のウイルス抗原に対してパンニングすることにより、任意の公知の技術を使用して達成し得る。RaderおよびBarbas、Phage Display、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2000)を参照のこと。特定の抗原をクローニングし、免疫原として使用するために、組換え的に産生し得る。ウイルスの細胞レセプターへの結合をブロックする、抗体の能力を決定する細胞アッセイにおいて、中和能を評価し得る。一度、インビトロで中和能を有する抗体を同定すると、それらを動物モデルでインビボで試験し得る。
【0037】
この様式で同定された抗体は、感染性因子による感染に対する効果的な処置を有利に提供する。本発明の抗体は、完全にヒト抗体であるので、それらは安全であり、容易に許容性を示す。さらに、急速な抗イディオタイプ反応をもたらすことなく、複数用量を与え得る。全長抗体を使用する場合、患者系内でより長い居留時間を提供するので、より高い親和力およびより大きなサイズ(単鎖抗体と比較して)が好ましい。
【0038】
本開示に従って、抗体ライブラリーを生成し、本開示に従って抗体を同定し、特徴づけるための、特に有用な方法は、以下のとおりである。
【0039】
(ライブラリー)
λ軽鎖またはκ軽鎖のいずれかおよびIgG重鎖フラグメント(Fd)を含む3つのFabライブラリーは、種々の感染性因子に対して免疫化した現役の軍人ドナーの2つの骨髄試料(951および1037、および1血液サンプル(MD3)図1を参照のこと)のそれぞれに由来した。
【0040】
ライブラリーに、種々の感染性因子(例えば、炭素菌、ベネズエラウマ脳脊髄炎およびボツリヌス、西ナイルウイルス、痘疹ウイルスおよびデング熱)に対して、選択およびスクリーニングを行い得る。
【0041】
(ライブラリーの生成)
製造会社の指示書に従って、Tri試薬BD(Molecular Research Center,Inc.)を使用して骨髄サンプルおよび血液サンプルから全RNAを得る。製造会社の指示書によって、Oligotex(Qiagen)スピンカラムを使用してメッセンジャーRNAを得る。抗体Fabフラグメント(IgG重鎖フラグメント(Fd)に複合化したκ軽鎖またはλ軽鎖)を発現するファージライブラリーを、米国特許出願番号第10/251,085号(この出願の開示は、その全体が、本明細書中に参考として援用される)に記載された方法を使用して、プラスミドベクター中に構築する。2つのFabライブラリーを各ドナーに対して産生し、一つはκ軽鎖を発現し、一つはλ軽鎖を発現し、そして全てがγ重鎖を利用する。
【0042】
(ライブラリーの選択)
使用した全てのライブラリー由来のFabを有するファージを、選択したウイルス抗原および毒素に対して1〜4回の富化を介してパンニングした。パンニングを、第1に、いくつかのImmulon 2 HBマイクロタイターウェル中の50μlの溶液A中で十分な量の組換え抗体(通常1〜2μg)を4℃で一晩培養することにより行う。溶液Aは、0.08%の煮沸したカゼイン溶液(BC)を含むリン酸緩衝液(PBS)、pH7.4である。BCは、0.5%カゼイン、0.01%チメロサールおよび0.005%フェノールレッドを含むPBSである。抗原溶液の除去後、ウェルを1%Tween20を含む250μlのBCで、37℃で1時間ブロックする。ファージストックを、0.025%Tween20を含むBCからなる溶液D中に希釈し、50μlを各ウェルに添加し、そして37℃で2時間インキュベートする。ウェルを、0.05%Tween20を含むPBSを用いて10回洗浄し、次いで、連続的により酸性になる一連の緩衝液:pH5.0、4.0および3.0のTris緩衝食塩水(50mM Tris−HCl、150mM NaCl)で各2分間、1度ずつ洗浄した(D’Melloら、J Immunological Meth 247:191〜203(2001))。最終溶出液は、0.1MグリシンHCl緩衝液(pH2.2)、1mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)を含む。溶離液を、2M Tris塩基を用いて中和し、対数期のER2738細胞に添加する。ヘルパーファージ(VCSM13株)を感染細菌に添加することによりファージを産生する。個々のコロニーは、ファージストックでの感受性細菌の感染およびプレーティングにより産生した。
【0043】
ファージ遺伝子IIIの一部との融合タンパク質としてFabを含む上清を用いてスクリーニングを行う。スクリーニング後、陽性候補体を配列決定し、次いで、試験の間のFabの産生の前に遺伝子IIIを除去するために、サブクローニングする。あるいは、遺伝子III融合領域を除去するために、パンニングした各ライブラリー由来のDNAをサブクローニングし、そして、インフルエンザ血球凝集素エピトープタグ(HA)からなる組み合わせエピトープタグを導入し得(Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 90:6508〜12(1993))、そして、後の検出ならびに抗HAおよびNi−NTAによる精製に使用するために、6個のヒスチジンアミノ酸(Hisタグ)を導入し得る。
【0044】
(ライブラリースクリーニング)
スクリーニングでは、ELISAアッセイで結合し得る能力により、選択した抗原に反応するFab構築物を同定した。溶液A中の100〜250ng/ウェルの組換え抗原をImmulonマイクロタイターディッシュ中で一晩インキュベートし、その後、上に記載したようにブロックする。スクリーニングを、Q−pix機器を使用して1150コロニーを選択することにより、高処理能力で行い得、そして、Tecanロボットを使用してELISAを行い得る。個々のコロニーを一晩、Hi−Gro高速インキュベーターシェーカー中の、ディープウェルのマイクロタイターディッシュ中で培養する。アリコートを取り除き、15%グリセロールかまたは10%DMSOでストックとして保存した。ディープウェルディッシュの遠心後、これらのストック由来のFabを含む上清を、特定の抗原で被覆されたウェル中でインキュベートし、別に、コントロール抗原(例えば、カゼインまたは卵白アルブミン)で被覆されたウェル中でインキュベートする。ヤギ抗ヒトF(ab’)抗体(Pierce)で標識したアルカリホスファターゼを、抗原に結合したFabを検出するために使用する。陽性候補由来のMiniprep DNA(Qiagen)を、これらのベクターに対するストックプライマーを使用して、軽鎖から重鎖にわたる96ウェルフォーマット中で、自動化色素終止配列決定機(Retrogen、San Diego)により配列決定する。固有の候補を同定し、分類するために、配列を、DNAstarソフトを使用して分析する。これらのデータから、使用した各組換え抗原に対する固有の改変体結合物のパネルを決定し、密接に関連した配列の群に分類する。
【0045】
(パネル由来のFabの産生および精製)
(Fabの精製)
可溶性Fabの発現および精製のために、遺伝子III領域を固有の陽性候補体からサブクローニングにより除去する。この点では、抗HAおよび/またはNi−NTAを検出し、精製するために、インフルエンザウイルス血球凝集素(HA)タグ(Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 90:6508〜12(1993))および6個のヒスチジン残基(Hisタグ)からなる組み合わせエピトープタグをコードするオリゴヌクレオチドを挿入することも可能である。
【0046】
ELISAに基づいたアッセイおよびより処理能力の高い形式でのインビトロ中和試験のために十分なFabを精製するために、ニッケル−NTAカラムクロマトグラフィー(Qiagen)を使用する。この場合、His標識を含むようにサブクローニングした(スクリーニングの前か後かのいずれかで)FabをOD600が0.8になるまで、1リッターのSB中で培養し、30℃で3〜4時間、1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて、最適量のFabの生成を誘導する。周辺質の空間からFabを単離するために、細胞ペレットを冷却した、Complete Mini(Roche)プロテアーゼインヒビターを添加した1×PBSに再懸濁し、Sonics Vibra−cell VC750を使用して超音波処理する。次いで、細胞の破片をペレット化し、上清をQiagen Ni−NTAカラムに適用した。16個のこれらのカラムを使用することにより、最初の試験で、候補体あたり75μgのFabを得た。一つの96ウェル形式で、Fabあたり12個のカラムの列を使用することにより、8個のFabを精製し得、最初のPRNTおよびELISAアッセイのために十分な材料を提供する。エピトープ特異性試験は、標識されていないFabもまた必要とする。これらのFabは、上記のように96ウェル形式中にあるタンパク質Gまたはタンパク質A(Pharmacia)に結合したヤギ抗ヒトF(ab’)(Pierce)からなるカラムにより精製される。より大きい体積の任意の所望のFabを、抗ヒトF(ab’)カラムかまたはニッケルカラムかのいずれかを用いた高速液体クロマトグラフィー(FPLC)(Pharmacia)により精製し得る。この方法は、一般に約150〜1000μgの精製したFab/lを産生するが、これは、Fabにより異なる。
【0047】
(精製したFabの特徴付け)
(抗原に対する滴定)
配列決定により確立した関連群中で、Fabの抗原結合の特徴を比較するために、精製したFabをELISAアッセイにおける抗原に対して滴定する。
【0048】
(エピトープ特異性を決定するためのアッセイ)
エピトープ特異性を、ELISAサンドイッチアッセイかまたは競合アッセイにより決定し得る。遺伝子III(ファージの結合を有するかまたは有さない融合Fab)またはタグに融合したFabと遺伝子IIIを欠く精製されたFabまたはタグとの間の競合を行い、エピトープ特異性を評価し得る。PBS中で4μg/mlの抗原50μlをマイクロタイターウェル中で、4℃で一晩インキュベートする。PBSによる洗浄後、ウェルを、室温で30分間、PBS中に1%のTween20を含むBCを使用してブロックする。一つの精製されたFabの希釈液を含む50μlのPBSをウェルをブロックするために、添加し、37℃で1時間インキュベートした。これに、第2のFabを融合物として含む50μlの上清を添加し、さらに1時間、37℃でインキュベーションを継続する。第2のFabを、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合型抗M13抗体(Pharmacia)を用いて検出する。リン酸クエン酸緩衝液pH5.0中の2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)錠剤を使用して、Sigma由来のHRP基質緩衝液を含むウェルを作成する。このアッセイのHA/Hisタグを有するFabを使用するために、上記検出に使用した抗M13抗体を、PNPPアッセイで検出された、アルカリホスファターゼ標識した抗HAかまたは抗His抗体のいずれかにより置き換える。
【0049】
(中和として同定されたFab由来のIgGの産生および精製)
Fabを、当業者に公知の技術を使用して、個々の疾患を中和する能力について試験する。
【0050】
(Fabの全長IgGへの変換および安定な細胞株の産生)
Fabを2段階プロセスにより、哺乳動物発現ベクターにサブクローニングし、全長のIgG1重鎖を作成する。このベクターは、グルタミンのない培地においてトランスフェクトした細胞の増殖を可能にするグルタミンシンテターゼ遺伝子を選択マーカーとして使用する(Bebbingtonら、Biotechnology 10:69〜75、1992)。ベクターをエレクトロポレーションにより、標準的な方法を使用してNS0マウス骨髄腫細胞株にトランスフェクトする。安定な細胞株をグルタミンのない培地で選択し、限界希釈により単離する。安定した細胞株を選択する前に、少量のIgGを試験するために、NSO細胞またはCHO−K1細胞中のこのベクターに、プールしたトランスフェクトも行い得る。首尾よくベクターに挿入した免疫グロブリンを決定するために、各クローン株から調製したDNAを、制限酵素切断により解析した。全長IgGの産生を評価するために、各クローン株由来の培地のウエスタンブロット解析を使用し、そして、軽鎖を捕らえ、そして、適切な抗体で重鎖を検出することにより、定量的ELISA集合アッセイを行う。
【0051】
IgGの精製のために、一時的に感染した細胞またはIgGの候補体を発現する安定な細胞株を、miniPerm bioreactors(Vivascience)かまたは中空の線維生物反応器中で増殖させる。上清をタンパク質Gまたはタンパク質Aカラムを使用したFPLCにより精製する。疎水性相互作用カラムを使用して、さらなる精製を成し遂げ得る。
【0052】
(IgGのインビトロ試験およびインビボ試験)
Fabに由来するIgGを、以下に記載するように個々の疾患に特異的なインビトロおよびインビボのアッセイにおいて試験し得る。
【0053】
炭疽菌およびVEEVの場合に、上記の技術を首尾よく使用した。同じライブラリーおよび/またはさらなるヒトドナーから作成されたライブラリーを、デング熱ウイルス、WNVおよび痘疹ウイルスに対してパンニングし得る。同じ技術を、Fabを全IgGおよびIgG精製物に変換するために使用し得る。
【0054】
本発明の抗体または抗体フラグメントを、例えば、ヒトモノクローナル抗体かまたはヒト化したモノクローナルなどの他の抗体(または、その一部)と結合してかまたは、付着して使用し得る。これらの他の抗体は、触媒抗体であり得、そして/または抗体が関与するか、あるいは異なった特異性を有し得る疾患に特徴的な他のマーカー(エピトープ)と反応性であり得る。別々に投与される組成物としてか、または、従来的な化学的な方法かもしくは分子生物学的な方法により結合した二つの薬剤とともに一つの組成物として、抗体(または、その一部)を、このような抗体(または、その一部)とともに投与し得る。検出可能なシグナル(インビトロかまたはインビボのいずれかで)を産生する標識か、または、治療的特性を有する標識を用いて、抗体を標識することにより、さらに、抗体の、診断上および治療的な有用性を議論し得る。
【0055】
本発明の抗体または本明細書中の抗体フラグメントは、代表的には、薬学的キャリアを含む組成物で患者に投与され得る。薬学的キャリアは、患者へモノクローナル抗体の送達に適した任意の適合性の非毒性物質であり得る。滅菌水、アルコール、脂肪、ワックスおよび不活性固体が、キャリア中に含まれ得る。薬学的に受容されるアジュバント(緩衝剤、分散剤)もまた、薬学的組成物に組み込まれ得る。組成物は、完全な抗体および抗体フラグメントの両方を含み得ることを理解すべきである。
【0056】
抗体および/またはフラグメント組成物を、種々の方法にて患者に投与し得る。好ましくは、薬学的組成物を、非経口的に、例えば、皮下に、筋肉内に、硬膜外に、または静脈内に投与し得る。従って、非経口的に投与するための組成物は、抗体、抗体フラグメントの溶液、または受容可能なキャリア、好ましくは水性キャリアに溶解したそれらの反応混液を含み得る。種々の水性キャリア、例えば、水、緩衝化した水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシンなどを使用し得る。これらの溶液は、無菌であり、一般的に、粒子物質を含まない。これらの組成物を、従来的な周知の滅菌技術により、滅菌し得る。これらの組成物は、例えば、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤などの適切な生理学的条件のために必要な薬学的に受容可能な補助的な物質(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなど)を含み得る。これらの処方物中の抗体または抗体フラグメントの濃度は、広く変動し得、例えば、約0.5重量%未満から15重量%または20重量%であり、通常は、約1重量%かまたは少なくとも約1重量%であり、選択した特定の投与法に従って、主に、液体の体積、粘度などに基づいて選択される。
【0057】
非経口的に投与し得る組成物を調製する実際の方法および被験体への投与に必要な調整は、当業者には公知であるかまたは明白であり、より詳細には、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science 第17版、Mack Publishing Company、Easton、Pa(1985)に記載され、本明細書に参考として援用される。
【実施例】
【0058】
(実施例1−炭疽菌)
炭疽菌に対して予防接種を受けた現役の軍人ドナーの血液および骨髄から単離したメッセンジャーRNAから、ファージライブラリーを作成した。回収の1週間前に、AVA炭疽菌ワクチン追加免疫を受けた軍の医師有志ドナーから、血液サンプルを回収した。さらに、市販の供給源が、現役の軍人個人由来の適合した血清とともにコードした骨髄およびいくつかの免疫記録を供給した。数人の骨髄ドナーおよび全ての血液ドナーは、炭疽菌抗原PA83に対する力価を有していた(図2)。PA83(951)に対する最高の力価を有する骨髄ドナーは、血液回収の3週間前に炭疽菌に対して免疫化されていた。
【0059】
Tri−reagent BD(Molecular Research Center,Inc.)を製造会社の指示書に従って使用して、骨髄サンプル951および1037ならびに血液サンプルMD3から全RNAを得た。Oligotex(Qiagen)スピンカラムを製造会社の指示書に従って使用して、メッセンジャーRNAを得た。抗体Fabフラグメント(重鎖の可変領域および第1定常領域に複合化したκまたはλ軽鎖)を発現するファージライブラリーを米国特許仮出願番号第60/287,355号および同60/323,455号(これらの開示は、その全体が、本明細書中に参考として援用される)に記載される独自に開発した方法により、プラスミドpAX243hベクター中に構築した。2つのFabライブラリーを各ドナーに対して作成し、一つはκ軽鎖を発現し、一つはλ軽鎖を発現し、そして全てがγ重鎖を活用した。6個のライブラリー由来のFabを有するファージは、PA83に対して4回の濃縮を介してパンニングした。951ライブラリーもまた、精製PA63(Millerらによって記載される(Millerら、1999)ように、PA83から産生した)に対して4回の濃縮を介して別々にパンニングした。PA83と共有するPA63部位に結合するファージを取り除くために、可溶性PA83を最初に37℃で1時間、20μg/mlでファージに結合させ、その後に混合物を、マイクロタイタープレートウェルに結合したPA63とともにインキュベートした。
【0060】
PA83抗原に対して最も高い力価を有する、軍隊由来の炭疽菌予防注射した個体を同定するために、組換えPA83抗原を、Fort DetrickにあるUSAMRIIDから入手し、ELISAアッセイに使用した。それらの個体の骨髄または血液からRNAを単離し、その後、このRNAから組み合わせFabライブラリーを得るために、制限酵素消化/入れ子にしたオリゴヌクレオチド伸張反応/単一プライマー増幅(RED/NOER/SPA)を使用した。図2を参照のこと。
【0061】
増幅のRED/NOER/SPA法を使用して、ライブラリーを構築するために、3人の最高の力価の個体由来のRNAを使用した。2つのライブラリー、951および1037は、Poietics(Menlo Park、CA)から受けた骨髄ドナーに由来した。第3のライブラリー、MD3は、予防接種した有志の血液に由来した。ライブラリー連結反応の有効性を以下の表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
全てのライブラリーをPA83に対してパンニングし、および951ライブラリーをPA63に対してパンニングした。PA83については、提示したFabフラグメントを有するファージを添加する前に、抗原がウェルに結合し、ブロックした。PA63については、PA83およびPA63の両方により共有された抗原に反応するファージの回収を減少するために、ウェルに結合したPA63抗原と反応させる前に、提示ファージを最初にPA83と混合した。PA63を、Millerら(1999)に記載される方法に従って、PA83から産生し、精製した。ライブラリーの2つのパンニングの結果およびPA63に対するパンニングの結果を以下の表に示す。
【0064】
最初にPA83に対して951ライブラリーおよびMD3ライブラリーを用いてパンニングを行い、そして、PA63に対して951ライブラリーを用いてパンニングを行った。最初のXL1−Blueへのライブラリー形質転換とは別に、ER2738細胞を使用した。入力、出力および両方のパンニングラウンドについての最初のELISAの結果のいくつかを以下の表に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
PA83でパンニングした全てのライブラリーに対して、富化は、明らかである。PA63に対してパンニングしたライブラリーは、PA83に非常に弱く反応するいくつかの候補体を示した。これらの候補体は、PA63に対して試験した場合、陽性であった。陽性応答するもののVH領域およびVK領域またはVL領域の配列決定解析を図3〜5に示す。特定の配列が、優勢であるが、多様性を示し得る。PA83の前吸着とともにPA63に対してパンニングしたFabは、PA83に対してパンニングしたFabとは違って、顕著に異なる配列群を含むようである。
【0067】
パンニング後、4つのPA−83でパンニングしたライブラリーの種々のパンニング回由来の個々の候補体を、ELISAによりPA83に対する反応性についてスクリーニングした。Fabフラグメントに結合するPA63を同定するために、PA63に対してパンニングした951κライブラリーファージおよび951λライブラリーファージをまず、PA83への結合についてスクリーニングし、最初にスクリーニングからPA83結合物を取り除いた。しかし、PA83に良好に結合する候補体はみつからなかった。このことは、最初に可溶性PA83とともにファージをインキュベートすることにより与えられた競合が効果的であったことを示している。両方の抗PA63ライブラリーの4回のパンニングにおいて、少ない割合のクローンが、基質内での数時間のインキュベート後、非常に弱いELISA反応性を示した。これらのクローンをPA63に対してスクリーニングすると、多量のより強いシグナルを生じた。PA83に対する弱い反応性は、PA83との交差反応性のためか、または、精製または保存の間にフリンプロテアーゼ感受性部位でのPA83のプロテアーゼ切断(Klimpelら、1992)から生じ得たPA83調製物における少量のPA63を反映し得るためであり得る。
【0068】
6つの異なるパンニングライブラリーから選択した、強いPA83結合活性または強いPA63結合活性を有する144より多い個々の候補体を、配列決定し、全ての改変体候補のパネルを同定した。これは、31個の独特のPA83結合物および6個の独特のPA63結合物を含む。25個の独特のPA83結合物は、全て可変重鎖(VH)遺伝子座3−30/3−30.5.に由来した。PA63結合物の重鎖の内、2つの関連する配列が、優勢であると考えられた。これらは、PA83配列とは異なっていた。単一突然変異は、抗体の親和性を劇的に変え得るので、他の候補体と比較して、候補体が、それらの重鎖または軽鎖のいずれかにおいて一つのアミノ酸の差異を有する場合、候補体は独特であると考えた。
【0069】
炭疽菌タンパク質PA83およびPA63に対するさらなる抗体配列を、図6〜8Cに示す。図6に示したヒトκ軽鎖可変配列では、XbaI(TCTAGA)部位に由来する最初の2つのアミノ酸、S(セリン)およびR(アルギニン)をクローニングに使用した。図のアミノ酸番号3は、Kabat番号付与系におけるヒトκ軽鎖に対するアミノ酸番号1に一致する(Sequences of Proteins of Immunological Interest、Kabatら、1991)。最後の4つのアミノ酸(RTVA)は、ほとんどの配列で、Kabat番号付与系では108から111と番号を付けられるヒトκ軽鎖定常領域の最初の4つのアミノ酸に一致する。示した2つの配列は、定常領域の始めの方に全く伸張しない。可変領域が、長さの多型を含むので、各配列の実際のアミノ酸の数は、113より大きくても小さくてもよい(2つの最初のアミノ酸+111)。図7に示したヒトλ軽鎖可変配列では、最初の2つのアミノ酸、S(セリン)およびR(アルギニン)は、クローニングに使用したXbaI(TCTAGA)部位に由来する。図中のアミノ酸番号3は、Kabat番号付与系におけるヒトλ軽鎖についてのアミノ酸番号1に対応する。各配列に示した最後のアミノ酸は、Kabat番号付与系におけるヒトλ軽鎖定常領域のアミノ酸155に対応する。可変領域は、長さの多型を含むので、各配列の実際のアミノ酸の数は、157より大きくもあり得るか、または小さくもあり得る。図8A〜Cに示したヒトγ重鎖可変配列では、最初の2つのアミノ酸、L(ロイシン)およびE(グルタミン酸)は、クローニングに使用したXhoI(CTCGAG)部位に由来する。図中のアミノ酸番号3は、Kabat番号付与系におけるヒトγ重鎖に対するアミノ酸番号1に対応する。各配列について示した最後のアミノ酸は、Kabat番号付与系におけるヒトγ重鎖定常領域のアミノ酸118に一致する。この可変領域は、長さの多型を含むので、各配列の実際のアミノ酸の数は、120より大きくあり得る。
【0070】
EFおよびLF(軍人を免疫するために使用したAVAワクチンにもまた、少量存在する)に対するパンニングを、本発明のライブラリーを用いて行う。他のライブラリーを使用して、PA63に対するさらなるパンニングを行い得る。異なる抗体の親和性を評価するために、バイオコアアッセイを行う。同一エピトープ結合特性を共有する抗体の群を同定するために、競合実験を行う。細胞アッセイにおいて、EFかまたはLFかのいずれかのレセプターとのPAの結合をブロックする性能について、候補を評価する。次いで、最良の候補体の、動物モデルにおけるインビボの毒性をブロックする性能を、PA、EFおよびLFまたは実際の炭疽菌感染のいずれかを使用して試験する。1つ以上のこれらの試験において、必要に応じて、候補体を全長ヒト抗体に変換する。
【0071】
さらなる試験のための精製したFabを産生するために、このパネル由来の候補体は、Fabフラグメントの重鎖部分からの遺伝子IIIを取り除くために、サブクローニング工程を受けた。次いで、ヤギ抗ヒトFabカラムを使用した高速液体クロマトグラフィー(FPLC)により、2〜4リットルの培養物からFabを精製した。Littleらの方法(Littleら、1990)の後、マウスマクロファージ細胞株、J774A.1を使用して、この精製したFabを使用する中和アッセイを行った。毒性作用に対する反応の細胞死によって放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)をアッセイするために、Cytotox96検出キット(Promega)を使用する条件を確立した。J774A.1細胞を96ウェルディッシュ中に14,000細胞/ウェルで、一晩プレート培養した。4〜8ウェルを各点でアッセイした。Fabを50nMで使用した。毒素を以下のように産生した:PA83を400ng/ml(4.6nM)で、40ng/mlのLFとともに添加した。37℃で4時間のインキュベート後、ウェルを顕微鏡で調べ、次いで培地を取り除き、遠心して、結合していない細胞をペレット化した。
【0072】
多くの中和アッセイの結果を図9に要約した。理解され得るように、試験した17個の抗PA Fab(サンプルe〜u)の内、14個が、炭疽菌毒素の効果を中和し得、80%の生存度を得た。5個のFabは、この時間枠内で、この濃度で、十分に中和する。サンプル(a)および(b)は、毒素を添加しない2つのFabである:これらは、精製したサンプル中のエンドトキシンによって、この時間内で、細胞死が引き起こされないことを示している。サンプル(c)は、毒素のみの効果を示す。サンプル(d)は、炭疽菌の毒素の作用から細胞を有意には防御しない、不適切なFabを含む。
【0073】
インビトロにおける50%防御値を決定するために、選択したFabを滴定した(図10)。Fabを連続的に希釈し、アリコートを、毒素を含む培地に添加した。これらの実験では、PAを最終濃度400ng/mlとし、そして、LFを最終濃度80ng/mlとした。次いで、これらのアリコートを4連とした細胞に添加し、37℃で4時間インキュベートした。細胞毒性を視覚的に評価し、そして記載されるようにCytotox96アッセイを用いて定量的に測定した。本明細書に示した抗PA−83Fabは、全て、このアッセイで使用したPA83の濃度と等モルに近い、50%の中和値を有している。しかし、抗PA63 Fab951L631Dは、これらより約1/5〜1/7の、50%の中和値を有している;すなわち、951L631Dの1分子は、PA83の多数の分子を中和する。PA83は、この実験では、J774A.1細胞により、切断され、七量体孔に変換される。PA83の不足当量を中和する951L631Dの性能に関する最も可能性のある説明は、それが七量体孔のレベルで作用し、一度に7個までのPA83分子を効果的に中和するということである。
【0074】
最近、951L631DおよびMK7Cを、インビボで試験した。PBSの全量200μ中の40μgのPA83および8μgのLFを受けた2匹のラットは、60分および71分で死亡した。同量の毒素および310μgの951L631Dを受けた2匹のラットは、これらのラットが屠殺されるまでの25時間生存した。約3〜5時間で、これらのラットは、疾患の症状をいくつか(例えば、不活発状態およびかすかな浅速呼吸)を示したが、16時間では、これは一匹のラットでは消失し、もう一匹のラットでは、嗜眠状態となったが、正常な呼吸をしていた。25時間までは、ラットは両方とも、PBSを注射したコントロールラットと比較して正常に見えた。従って、951L631Dは、ラットをインビボでの炭疽菌感染に対して防御し得るようである。MK7Cを1匹のラットにおいて、毒素とともに、300μgで試験した。このラットは、いずれの症状も示すことなく、生存した。
【0075】
9K2H,9L6R2,MK7C,9K7H、ML8Eおよび951L631Dから産生したFabを、直鎖状エピトープと反応するそれらの能力について試験した。PA83およびPA63を、変性条件下(しかし還元条件でない)でSDS−PAGEゲルで電気泳動し、ウエスタンブロッティングによりニトロセルロースフィルターに移した。PA63かまたはPA83のいずれかを含むブロットから切り出したストリップを、これらの精製した抗体のそれぞれと、同濃度で一晩ハイブリダイズした。結合した抗体を、ヤギ抗ヒトF(ab’)(Pierce)を接合したアルカリホスファターゼと反応させた。そして、その結果を図11に示す。
【0076】
試験した5つの抗PA83Fabの全ては、PA83上の直鎖状エピトープに結合するようである(図12)。抗PA63抗体は、対照的に、変性させたPA63には結合せず、PA83に対する、僅かな、おそらく非特異的な結合に見えるものを示す。9K2Hおよび9K7Hは、変性させたPA63には結合を示さず、他方、MK7CおよびML8Eは強く結合し、9L6R2は弱い結合を示す。
【0077】
いくつかのこれらのFabのPA83およびPA63に対して結合する能力を、さらに、ELISA形式で抗原に対するFab滴定を行うことにより定量的に分析した。PA83およびPA63を、List Laboratoriesから購入し、指示書に従って、水または50%グリセロール中にそれぞれ再懸濁した。以下のグラフは、PA83またはPA63に対する、4つのFabフラグメントの滴定を示す。塗りつぶした記号は、PA83に対する反応性を示し、白抜きの記号は、PA63に対する反応性を示す。PA83に対して産生した3つの抗体は、全て、予想通りPA83に対して強い反応性を示す。しかし、MK7Cのみが、PA63に対して等しく良好に反応し、このことは、PA63に対するPA83の切断が、951L6R2およびML8Eに観察されるエピトープを変換するかまたは取り除くことを示している。951L631Dは、PA83とは反応しないが、PA63と反応するMK7Cで見られるよりも非常に低い飽和レベルで、PA63と反応する。これらのアッセイを、同時間に同プレートで二連で行った。このことは、プレートに存在するPA63の一部分のみが、951L631Dへの結合に対する適切なエピトープを示すことを示唆し、これは、951L63−1Dが、七量体孔構造中にのみ見出されるエピトープと反応すると予想され、それにより、プレート上で実際以下に評価され得る。
【0078】
図13において、FML8Eのhisタグ化バージョンを生成し、他のタグ化していないFabと競合して、エピトープ特異性を評価するために使用した。FabであるF9K2H、F9K7HおよびFML8Fは、FML8Eとの自己競合に類似して、競合する。このことは、これらのFabが同じエピトープまたはFML8Eに観察されるエピトープと近いエピトープを認識することを示唆している。しかし、F951L6R2は、異なり、競合する。このことは、競合を引き起こすのに十分近くあり得るけれども、このエピトープが同じではないことを示唆している。FMK7Cは、競合にあまり効果がなく、このことは、おそらく離れた部位に結合することを示している。興味深いことに、上記のウエスタンブロットは、下の図が示すようにPA63に対する切断によって、F9K2HおよびF9K7Hによる結合が消滅し、他方、ウエスタンブロットにおける結合は、なおも、FML8EおよびF951L6R2に対して明白なものであり、そして、いくつかの反応性は、上記のELISA滴定において高濃度で見出される。このことは、エピトープが、F9K2H/F9K7Hの結合に関して、FML8E/FML8F、F951L6R2またはFMK7Cの結合とは、同じではないことを示唆している。示したFabを、連続的に1:4に希釈し、200ngのPA83で一晩被覆したマイクロタイターウェルに37℃で1時間結合した。次いで、Hisタグ化したFML8Eを、洗浄なしで、5μg/mlで添加し、2時間反応させ、その後、プレートを洗浄し、PNPPアッセイのために抗Hisと結合体化したアルカリホスファターゼと反応させた。FML8EおよびFML8Fは、類似の重鎖を有するが、異なる軽鎖を有することを注意すべきである。F9K2HおよびF9K7Hは互いに関連し、同じ重鎖生殖細胞系列遺伝子座をFML8Eとして使用するが、ML8Eとは全く異なるCDR領域を有する。F951L631DおよびFMK7Cは重鎖生殖細胞遺伝子座とは異なる。
【0079】
本開示は、AVA免疫化したドナーから単離され得る、インビトロで高い親和性を有し、そして、強力に中和するヒト抗炭疽菌毒素抗体を、初めて示す。Littleら(1990)は、炭疽菌毒素致死因子に対するネズミモノクローナル抗体のパネルを同定した。インビボの防御の評価に対してインビトロの防御の評価は、インビトロにおける防御の程度が、稀な場合を除いて、インビボにおける防御と相関し得ることを示唆している。試験した19個から15個の中和抗体を同定し、その内のいくつかが低濃度で十分に中和した。従って、これらの抗体のいくつかが、インビボで防御的であることが予想される。データは、さらに、AVAワクチンが、炭疽菌曝露に対するヒトの防御に効果的であることを示唆する。
【0080】
抗PA83活性および抗PA63活性の両方の組み合わせが、インビボの治療目的では強力である。抗PA83は、細胞レセプターに結合するPA83分子の数を制限する。次いで、それらの、破壊されず、七量体孔を形成するPA83分子は、炭疽菌感染の致死効果に対する強力な防御を提供する抗PA63活性により中和される。この2個の抗体の組み合わせは、感染の開始時かまたは感染の過程の間のいずれかで新規の機能性孔構造の形成に対して即時の防御を提供し得る。
【0081】
これら2個の抗体の使用は、疑わしい炭疽菌放出に曝露され得た、予防接種したかまたは予防接種していない人員にさらなる受動的防御を提供し得る。疾患に直面して防御し得る治療の利用可能性は、炭疽菌についての一般の不安を軽減するのに役立つ。さらに、このような治療薬剤は、生物テロの作用としての炭疽菌の故意の放出をあまり成功させなくし得、従って、このような攻撃の可能性を減少し得る。
【0082】
(実施例2−ベネズエラウマ脳炎ウイルス)
(ヒト抗VEEV抗体)
実施例1と関連して上に記載したドナー血清を、標準的ELISAアッセイを使用してTC−83抗原に対して試験した(図14)。ドナー1037、811および951は、TC−83に対して、顕著な血清反応性を有した。このことは、対応するドナーの骨髄から作成された抗体ライブラリーから、抗VEEV Fabを獲得した可能性が高いことを示した。1037および951の両方に対するIgG−κライブラリーおよびIgG−λライブラリー(合計4個のライブラリー)を、上に記載した炭疽菌の実施例であらかじめ構築した。次いで、これらのファージディスプレイ抗体ライブラリーを、TC−83抗原を4回介してパンニングした。この実験由来の結果を以下に示す:
【0083】
【化1】

【0084】
高い処理能力の形式のTecanロボットプラットフォームを使用して、ELISAにより、固定したTC−83に結合するFabクローンのパネルを、4個全てのライブラリー(951K、951L、1037Kおよび1037L)から3回および4回のパンニングによりスクリーニングした。図15A〜Dに見られるように、TC−83に顕著に結合したFab(アルカリホスファターゼが結合した抗ヒトFabを使用して検出した)を、4個全てのライブラリーから入手した。ポジティブコントロールHy4−26A(3B4C−4のヒト化改変体)およびネガティブコントロール抗破傷風類毒素Fab(図15中の各グラフ上のそれぞれ最後の隣および最後のサンプルである)と比較して、Fabクローンを、スクリーニングした。4個のライブラリーのそれぞれ由来の、最も高いELISAシグナルを有する3個のFabを、さらなる分析のために選択した。各クローンについてのDNAを調製し、次いで、配列決定分析に供した。その配列の結果は、3個全ての951Kクローンが同一であることを示した。さらに、12個のクローンの内10個が、同じ可変重鎖領域(VH)を有するが、それらのFabの多数は、異なる軽鎖配列を有した。全体で、3個の別の重鎖(HC)分類に、10個の独特のクローンが存在する。
【0085】
さらなる分析のために、4個のヒトFabクローンを選択した。選択したFabは、全て同定された3個の異なるHC類を代表した。
【0086】
【化2】

【0087】
全てのFabを、FPLC上で抗ヒトF(ab’)カラムを使用して、細菌の周辺質の調製物から精製した。P3H6 Fabは非常に収率が低いので、さらに続行しなかった。
【0088】
図16は、TC−83に対する滴定ELISAアッセイにおいて、3つのヒト抗VEEV Fabの結合活性を示す。精製した抗VEEV Fabも競合ELISA実験において、mHy4 Fabを競争相手として使用して、試験した。この実験の結果を図17に示し、そして、この実験の結果は、3つのVEEV Fabが、同じエピトープ(E2)に対して、mHy4 Fabと競合しないことを示している。
【0089】
ヒトFabは、E2エピトープとは、競合的ではなかったが、それらは、VEEV上で他の中和エピトープと結合し得る。このことを試験するために、各精製したVEEV Fabのアリコートを、細胞に基づいたVEEV中和アッセイにおいて使用するために、CDCで共同研究者に送った。2つの別の実験の結果は、ポジティブコントロール3B4C−4で観察された中和能と類似して、P3F5が非常に良い中和能を有することを示した。P3G1もまた、顕著な中和を示したが、それに対して、P3F2 Fabは、中和試験において明白な効果を有さなかった。
【0090】
【表3】

【0091】
表3は、VEEVに対するインビトロの中和アッセイの結果を報告する。AbまたはFabの滴定は、ベロ細胞でのVEEウイルスプラークの70%の減少を与えることを必要とすることが報告されている。ネズミのAb 3B4C−4(全IgGとして)をポジティブコントロールとして使用した。以前に、二価抗体が、ウイルスをより効果的に中和することが示されていて、従って、抗Fab架橋結合したAbを各ウェルに添加した(非最適濃度で)。非結合ネガティブコントロールFabは、試験したいずれの濃度でも中和を示さなかった。サンプルP3F5は、ネズミ3B4C−4の活性に近い活性を示した。
【0092】
これらの予備的な結果は、十分なヒト中和抗VEEV抗体を単離したことを示す。図18Aおよび18Bは、VEEVを中和する本開示に従って産生した、全長ヒトFabの配列を示す。これらの従来のヒト抗VEEV Fabを、上に記載したように、全IgGに変換し得、そしてさらなる特性決定のために精製した。
【0093】
(VEEVに対する抗体のエピトープ特異性試験)(Roehrigら、Virology(1982)118、pp269〜278;およびRoehrigおよびMathews、Virology(1985)142、pp347〜356)。
【0094】
どのTC−83ウイルスタンパク質がFabにより認識されるか調べるために、ウエスタンブロットを行う。直線的エピトープが認識されるよりは、むしろ、高次構造が認識されるために、ウエスタンブロットでは反応しないFabのために、天然のE1およびE2膜糖タンパク質を、前述のように、ELISAアッセイまたは放射標識した免疫沈降アッセイによりウイルス溶解物から精製し得る。
【0095】
以下の表2に列挙したように、各結合基に対する代表的なモノクローナル抗体を用いた競合ELISAを使用して、ウイルスタンパク質上の反応性エピトープの同定を、位置付け得る。全ウイルスで被覆したマイクロタイターウェルを、最大約80%の結合を与える量の代表的なAbとともにインキュベートする。ウェルはまた、試験Fabの増量を含む。抗マウスIgG Fc特異的アルカリホスファターゼ結合物を使用して、代表的なAbのウイルスに対する結合をモニタリングする。結合の喪失を、エピトープ特異性または空間的配置を示す、ヒトFabを試験することによる競合的結合と判断する。
【0096】
【表4】

【0097】
代表的Ab(CDC、Ft.Collins、ColoradoにあるJohn Roehrig由来)を、50%硫酸アンモニウム沈殿およびタンパク質Gカラムを通したクロマトグラフィーを受けた腹水液から入手し得る。あるいは、Abを、Igを含まない培地で増殖したそれらのハイブリドーマ細胞株の調整培地から精製し得る。
【0098】
(試験ウイルス株交差反応性)(Roehrigら、J.Clin.Microbiology(1997)35、pp1887〜1890:およびRoehrigら、Virology(1982)118、pp269〜278)
VEEVは、6個のサブタイプ(1〜6)から構成され、サブタイプ1は5個の改変体(1AB、1C、1D、1Eおよび1F)を有する。各サブタイプ由来のウイルス株を、以前記載されたように、ELISAアッセイまたは間接的な蛍光抗体アッセイ(IFA)により、各Fab候補体との反応性を試験する。これらの分析に有用なプロトタイプウイルスを、以下の表5に列挙する。
【0099】
【表5】

【0100】
Division of Vector Borne Viral Diseases、Centers for Disease Control、Fort Collins、 Coloradoで維持されたストック由来のウイルスを、BHK21細胞中で増殖し得る。
【0101】
(全IgGを用いたインビトロ中和試験の実施)
ベロ細胞中の50〜100PFU/試験を使用して、以前記載されたように70%終末点を記録して中和試験を行う(Roehrigら、1982)。
【0102】
(ウイルス感染からマウスを防御するAbの試験性能)
PBS中に希釈した精製したIgGの公知の量を、若齢のマウス(例えば、3週齢のNIHスイスマウス)に尾の静脈から静脈内接種する。24時間後、マウスに、細胞培養培地で希釈したVEEVを腹腔内感染する。コントロールは、PBSを静脈内に受け、ウイルスかまたはウイルス希釈液のいずれかを受けた。さらなるコントロール群としては、以前防御の供給を示した、ネズミAb 1A4A−1または3B4C−4が挙げられる。マウスを2週間観察した。接種したマウス由来のヘパリン処理した血漿試料を、眼球の網膜細胞の静脈叢(reto−ocular venous plexus)から出血することにより入手した。
【0103】
(さらなる抗VEEV Fabの単離)
TC−83抗原に対して導いた、ヒトFabの拡張したパネルを産生する。既にTC−83においてパンニングをされた、1037および951ライブラリー由来の1000より大きい個体FabクローンのさらなるELISAスクリーニングを行う。これは、それらのパンニングしたライブラリー由来の190のFabクローンの元のスクリーニングを補充する。さらに、新規のファージディスプレイ抗体ライブラリーを、TC−83に対する力価を有することが以前に示されているドナー(811)のRNAから構築する。新しく構築した811ライブラリーを、固定したT−83についてパンニングする。独特のFabを、インビボで中和を提供し、動物モデルで致死ウイルス感染に対して防御を提供する能力について、上記のように特徴づけする。
【0104】
(実施例3−ボツリヌス菌)
上記のライブラリー作製およびパンニング技術を適用することにより、異なるボツリヌス菌毒素血清型の多くに結合する抗体を単離し、大量に産生する。炭疽菌およびVEEVに関して上に記載した中和抗体と同様に、ボツリヌス神経毒に対するこれらの十分なヒト抗体は、免疫学的予防のために、または免疫療法として適している。
【0105】
(実施例4−デング熱ウイルス)
ヒト全長中和抗体は、他の治療目的のために、安全であり、十分耐容性であることが既に証明されているので、道理にかなっている天然の抗毒性または抗感染性であるとして特に有用である。動物に予防接種することにより引き起こされるか、または、種々の動物宿主に受動的に投与された中和抗体は、いくつかの例で、デング熱に対する防御を提供することが示されている。しかし、ヒトにおけるデング熱の感染が、予防接種により増強されるという徴候があり、および、特異的デング熱抗原に対する抗体が、凝固およびインテグリン/付着因子タンパク質に関する一般的エピトープとの交差反応を介して、これら自身に出血を引き起こし得るという報告がある(Falconar、1997)。
【0106】
異なる血清型のデング熱ウイルスに感染したかまたはそれらを予防接種した8人のヒトドナーの血液サンプルまたは骨髄サンプルからの16の抗体ライブラリーを作成した。2つのライブラリーを各ドナーから産生し、1個はκ軽鎖を使用し、もう1個はλ軽鎖を使用した。8個のドナーは、4個の血清型のデング熱のそれぞれを1個ずつ感染したか予防接種した4個のドナー、複数のデング熱血清型で感染した個体由来の2個のライブラリーおよび4価のデング熱ワクチンを受けた個体由来の2個のライブラリーを含む。生きた細胞、生きたウイルスおよびウイルス溶解物ならびに4個のデング熱血清型由来の外皮およびNS1タンパク質を含む組換えデング熱抗原に対する選択のために、16個の抗体ライブラリーを使用する。
【0107】
同定したFab抗体を、他のFabおよび抗体との特異性、親和性および競合性の特徴づけに使用するために精製する。
【0108】
中和について特徴付けた重要なデング熱抗体フラグメントを、コード領域を組織内の哺乳動物発現ベクター中にサブクローニングすることにより、全長ヒトIgG1に変換する。全長IgGコード配列を哺乳動物細胞中に含むプラスミドのトランスフェクトにより、特徴づけおよび受動的免疫治療に使用するためのIgGの大量生産が可能になる。
【0109】
(実施例5−西ナイルウイルス)
上記のライブラリー作製およびパンニング技術を適用することにより、多くの異なる西ナイルウイルス株に結合する抗体が単離され、大量に産生される。炭疽菌およびVEEVに関して上に記載した中和抗体と同様に、西ナイルウイルスに対するこれらの完全なヒト抗体は、免疫学的予防のために、または免疫療法として適している。
【0110】
(実施例6−痘瘡/痘疹ウイルス)
痘疹の中和に関与する公知の個別の抗原に対して、前述の免疫化ヒトライブラリーをスクリーニングすることにより、抗原に結合する抗体の類似したパネルを入手し、そして、インビトロおよびインビボでウイルスの侵入および拡散を中和し得る抗体を同定する。さらに、本明細書に記載した技術により、類似の重鎖対/軽鎖対の多くの改変体を同定し、試験および開発のために最も好ましい特徴を有する候補を選択するための種々の親和性を提供する。例えば、感染細胞、溶解物、またはビリオンの選択のための、より複雑な抗原の混合物の使用もまた、代替アプローチとして企図される。この方法に従って誘導した高親和性候補を、他のいくつかのアプローチが必要とし得る親和性の成熟を必要とすることなく、免疫学的予防のために単独で使用し得る。あるいは、所望の場合、特異的抗原に対する抗体のカクテルを使用し得る。例えば、Hooperら(2000)は、ワクチンの遺伝子L1RおよびA33Rを使用したDNA予防接種が、それぞれ単独のものより効果的であることを発見した。このことは、これら2つの抗原に対して、両方に対して惹起された抗体が、1個に対する抗体よりも良い保護を与えることを示している。Nowakowskiら(Nowakowskiら、2002)は、ファージディスプレイに由来する重複しないエピトープに対する3つの抗体の混合物が、各抗体のみではほとんど効果を示さなかった、ボツリヌス菌神経毒の強力な中和を生成したことを発見した。
【0111】
以下の参考文献は、その全体が、本明細書中に参考として援用される:
【0112】
【化3】

【0113】
本明細書に開示された実施形態に対して種々の改変がなされ得ることは理解されるべきである。例えば、当業者は、抗体または抗体フラグメントの機能性に必ずしも不利に影響させることなく、本明細書に記載した特定の配列をわずかに変化させ得ることを、理解する。例えば、抗体またはフラグメントの機能性を破壊することなく、抗体配列中の1個または複数のアミノ酸の置換が、頻繁になされ得る。従って、本明細書に記載された特定の抗体に、70%より高い程度の相同性を有する抗体は、本開示の範囲内であることは理解されるべきである。特定の有用な実施形態において、本明細書に記載された特定の抗体に対して約80%より高い相同性を有する抗体が、企図される。他の有用な実施形態において、本明細書に記載される特定の抗体に対して約90%より高い相同性を有する抗体が、企図される。従って、上述の説明は、限定として解釈されるべきではなく、単に好ましい実施形態の例示である。当業者は、本発明の開示の範囲および精神内の他の改変を想定する。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、本開示の好ましい実施形態に従うライブラリー生成のための組織供給源として適切な個体の曝露歴を要約する表である。
【図2A】図2は、炭疽菌のPA83抗原に対する骨髄ドナーおよび血液ドナーの力価を示す。
【図2B】図2は、炭疽菌のPA83抗原に対する骨髄ドナーおよび血液ドナーの力価を示す。
【図3】図3は、PA63およびPA83に対するVH陽性反応性の配列分析を示す。
【図4】図4は、PA63およびPA83に対するVK陽性反応性の配列分析を示す。
【図5】図5は、PA63およびPA83に対するVL陽性反応性の配列分析を示す。
【図6】図6は、炭疽菌タンパク質PA83およびPA63に対する抗体の改変体ヒトκ軽鎖の配列を示す。
【図7】図7は、炭疽菌タンパク質PA83およびPA63に対する抗体の改変体ヒトλ軽鎖の配列を示す。
【図8A】図8Aは、炭疽菌タンパク質PA83およびPA63に対する抗体の改変体ヒトκ重鎖の配列を示す。
【図8B】図8Bは、炭疽菌タンパク質PA83およびPA63に対する抗体の改変体ヒトκ重鎖の配列を示す。
【図8C】図8Cは、炭疽菌タンパク質PA83およびPA63に対する抗体の改変体ヒトκ重鎖の配列を示す。
【図9】図9は、精製したFabによる炭疽菌毒素活性の中和を示す。
【図10】図10は、7つの連続的に希釈したFabの%保護(毒素単独と比較して)を示す。
【図11】図11は、本明細書に記載された方法に従って産生されたFabの、PA63および/またはPA83に対する直線的エピトープと反応する能力を実証するウエスタンブロットを示す。抗PA63抗体が、対照的に、変性したPA63に結合しないのに対して、試験した5つの抗PA83Fabは、全てPA83に対する直線的エピトープに結合するようであり、そして、PA63に対する弱い、おそらく非特異的な結合に見えるものを示す。
【図12】図12は、PA83およびPA63に対する選択されたFabのELISA力価を示す。PA63への切断は、FML8EおよびF9L6R2の結合を劇的に変えるが、FMK7Cは、両方の形態に等しく良く結合する。F951L631Dは、PA63にのみ結合する。観察された最大値の結合は、FMK7Cのそれの1/4であり、このことは、PA63物質の一部のみが、F951L631Dが相互作用し得る形態中にあることを示唆している。
【図13】図13は、エピトープ特異性を評価するために、Fab FML8Eのそのタグ化されたバージョンを、他のタグ化されていないFabと競合して使用した試験の結果を示す。
【図14】図14は、VEEVの固定されたTC−83抗原に対する血清反応性を示す。
【図15A】図15A〜図15Dは、VEEVの固定されたTC−83への結合に関して、4つのライブラリー(951K、951L、1037Kおよび1037L)由来のFabクローンのスクリーニングの結果を示す。
【図15B】図15A〜図15Dは、VEEVの固定されたTC−83への結合に関して、4つのライブラリー(951K、951L、1037Kおよび1037L)由来のFabクローンのスクリーニングの結果を示す。
【図15C】図15A〜図15Dは、VEEVの固定されたTC−83への結合に関して、4つのライブラリー(951K、951L、1037Kおよび1037L)由来のFabクローンのスクリーニングの結果を示す。
【図15D】図15A〜図15Dは、VEEVの固定されたTC−83への結合に関して、4つのライブラリー(951K、951L、1037Kおよび1037L)由来のFabクローンのスクリーニングの結果を示す。
【図16】図16は、VEEVの固定されたTC−83抗原に対する精製されたヒトFabの直接滴定を示す。
【図17】図17は、VEEVまたはBSAの固定されたTC−83抗原への結合に関して、マウスFab mHy4(3B4C−4)に対するヒトFabの競合を示す。
【図18A】図18Aおよび図18Bは、VEEVを中和する本開示に従って産生された完全ヒトFab配列を示す。
【図18B】図18Aおよび図18Bは、VEEVを中和する本開示に従って産生された完全ヒトFab配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトヘテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、炭疽菌の保護抗原に対して少なくとも1×10−8Mの結合親和性を有し、かつ細胞レセプター、浮腫因子および致死性因子からなる群の一つ以上のメンバーに対する保護抗原の結合をブロックする能力を有する、ヒトヘテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項2】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、炭疽菌感染に関与する分子に対して少なくとも1×10−8Mの結合親和性を有し、かつ細胞レセプター、PA63、PA63七量体、PA83、浮腫因子および致死性因子からなる群の一つ以上のメンバーに対する、炭疽菌感染に関与する該分子の結合をブロックする能力を有する、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項3】
請求項1に記載のヒトヘテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、PA63が七量体を形成するのを防ぐ、ヒトヘテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項4】
請求項1に記載のヒトヘテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、PA63が、EFまたはLFへ結合するのを防ぐ、ヒトヘテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項5】
請求項1に記載のヒトヘテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、EFおよび/またはLFが、PA63七量体へ結合するのを防ぐ、ヒトヘテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項6】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、配列番号1〜18からなる群から選択される配列を有する重鎖可変領域を含む、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項7】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、配列番号19〜26からなる群から選択される配列を有する軽鎖κ領域を含む、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項8】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、配列番号27〜38からなる群から選択される配列を有する軽鎖λ領域を含む、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項9】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、配列番号39〜61からなる群から選択される配列を有する軽鎖κ領域を含む、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項10】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、配列番号62〜77からなる群から選択される配列を有する軽鎖λ領域を含む、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項11】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、配列番号78〜112からなる群から選択された配列を有する重鎖可変領域を含む、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項12】
抗体をスクリーニングする方法であって、
炭疽菌感染に関与する一つ以上の分子に対して抗体を産生するヒト被験体から得た細胞から単離されたRNAを使用して、コンビナトリアルライブラリーを調製する工程;ならびに
炭疽菌感染に関与する分子に対して少なくとも1×10−8Mの結合親和性を有し、かつ細胞レセプター、PA63、PA63七量体、PA83、浮腫因子および致死性因子からなる群の一つ以上のメンバーに対する、炭疽菌感染に関与する該分子の結合をブロックする能力を有する抗体について、該コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングする工程、
を包含する、方法。
【請求項13】
方法であって、以下:
複数の感染性因子に対して予防接種されたかまたは複数の感染性因子に暴露された、ヒト被験体から得た細胞から単離されたRNAを使用して、コンビナトリアルライブラリーを調製する工程;および
少なくとも一つの感染性因子による感染に関与する分子に対して結合親和性を各々有する複数の抗体について、該組み合わせライブラリーをスクリーニングする工程、
を包含する、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記スクリーニングの工程で同定された複数の抗体のうちの一つが、炭疽菌感染に関与する分子に対して少なくとも1×10−8Mの結合親和性を有し、かつ細胞レセプター、PA63、PA63七量体、PA83、浮腫因子および致死性因子からなる群の一つ以上のメンバーに対する炭疽菌感染に関与する該分子の結合をブロックする能力を有する抗体である、方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記スクリーニングの工程で同定された複数の抗体のうちの一つが、抗ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス抗体である、方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記スクリーニングの工程で同定された複数の抗体のうちの一つが、抗ボツリヌス菌抗体である、方法。
【請求項17】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記スクリーニングの工程で同定された複数の抗体のうちの一つが、抗西ナイルウイルス抗体である、方法。
【請求項18】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記スクリーニングの工程で同定された複数の抗体のうちの一つが、抗オルソポックス抗体である、方法。
【請求項19】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記スクリーニングの工程で同定された複数の抗体のうちの一つが、抗デング熱抗体である、方法。
【請求項20】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記コンビナトリアルライブラリーを調製する工程が、炭疽菌、ボツリヌス菌、天然痘、デング熱、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルスおよび西ナイルウイルスからなる群から選択される一つ以上の感染性因子に対して予防接種されたかまたは暴露された、ヒト被験体から得た細胞から単離されたRNAの使用を含む、方法。
【請求項21】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記コンビナトリアルライブラリーを調製する工程が、炭疽菌、ボツリヌス菌、天然痘、デング熱、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルスおよび西ナイルウイルスからなる群から選択される二つ以上の感染性因子に対して予防接種されたかまたは暴露された、ヒト被験体から得た細胞から単離されたRNAの使用を含む、方法。
【請求項22】
請求項13に記載の方法であって、ここで、前記スクリーニングの工程において同定された複数の抗体のうちの一つが、抗痘瘡抗体、抗サル痘ウイルス抗体および抗ワクシニアウイルス抗体からなる群から選択される、方法。
【請求項23】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス感染に関与する分子に対する結合親和性およびベネズエラウマ脳脊髄炎ウイルスを中和する能力を有する、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項24】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、配列番号116〜118からなる群から選択される配列を含む重鎖を含む、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。
【請求項25】
ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメントであって、配列番号113〜115からなる群から選択された配列を含む軽鎖を含む、ヒトへテロ二量体抗体または抗体フラグメント。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【公表番号】特表2006−503547(P2006−503547A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−574775(P2003−574775)
【出願日】平成15年2月11日(2003.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/004206
【国際公開番号】WO2003/076568
【国際公開日】平成15年9月18日(2003.9.18)
【出願人】(503102674)アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (51)
【Fターム(参考)】