説明

生物学的に活性なペプチドおよび組成物ならびにこれらの使用

【課題】新規な生物学的に活性な化合物および組成物、これらの使用および誘導の提供。
【解決手段】治療および抗有糸分裂試薬としてのヘミアスターリン化合物、および出発物質として合成される、下式IVで示される、ゲオディアモリド化合物(R51はアルキル基、R52は水素原子またはアルキル基、Aはハロゲン原子)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な生物学的に活性な化合物および組成物、これらの使用および誘導に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、海綿からの新規な生物学的に活性な化合物の抽出を包含する。
【0003】
他に記すことがなければ、本明細書中において、全てのアルキル基は、8個まで、特に6個まで、最も好ましくは4個までの炭素原子を持ち、直鎖または可能であれば分岐鎖の構造を持つものであってよい。通常は、メチルが好ましいアルキル基である。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であってよい。好ましいアシル基は、アルキルカルボニル、特にアセチルである。
【0004】
他に記すことがなければ、本明細書中において、アルキル基の所望による置換基には、ハロゲン原子、例えばフッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子、ならびに、ニトロ、シアノ、アルコキシ、ヒドロキシ、アミノ、アルキルアミノ、スルフィニル、アルキルスルフィニル、スルホニル、アルキルスルホニル、アミド、アルキルアミド、アルコキシカルボニル、ハロアルコキシカルボニルおよびハロアルキル基が含まれる。好ましくは、所望により置換されたアルキル基は未置換である。
【0005】
他に記すことがなければ、本明細書中において、化合物についての記述は、これら化合物に付与された構造式の範囲内で可能な全ての可能な異性体(特に、幾何および光学異性体)を意味する。他に記すことがなければ、定義は、異性体の混合物(ラセミ混合物を含む)および個々の異性体(分割可能であるとき)を包含するものとみなすべきである。
【0006】
他に記すことがなければ、本明細書中における化合物の定義は、化合物の全ての可能な塩を包含するものとみなすべきである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な生物学的に活性な化合物および組成物、これらの使用および誘導を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る化合物は、驚くべきことに、インビボでの癌治療に有効であることがわかった。
本発明の1つの態様によれば、後記の一般式Iで示されるヘミアスターリン(hemiasterlin)化合物が提供される。
本発明の別の態様によれば、後記の一般式IVで示されるゲオディアモリド(geodiamolide)化合物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1の態様は、治療に使用する薬物を製造するための、以下の一般式で示されるヘミアスターリン(hemiasterlin)化合物の使用を提供する:
【化1】

[式中、RおよびR70は、独立して、水素原子または所望により置換されたアルキルもしくはアシル基であり;
は、水素原子または所望により置換されたアルキルもしくはアシル基であるか、または、Rが以下で説明する−CH=基であるときには存在せず;
73は、水素原子または所望による置換基であるか、または、Rが以下で説明する−CH=基またはメチレン基であるときには存在せず;
Yは、所望による置換基であり;
nは、0、1、2、3または4であり;
は、水素原子または所望により置換されたアルキル基であり;
74は、水素原子、ヒドロキシ基、または所望により置換されたアルキルもしくはアシル基であり;
は、水素原子またはアルキル基であり;
75は、所望により置換されたアルキル基であり;そして
(i)RおよびR71が、独立して、水素原子または所望により置換されたアルキルもしくはアシル基であり;そして
72が水素原子であるか;または
(ii)R71が水素原子または所望により置換されたアルキルもしくはアシル基であり、R72が水素原子であるか、または、R71およびR72のそれぞれがラジカルであってそれらが結合している炭素原子間で二重結合が形成されており;そして
がインドール部分に結合した所望により置換されたメチレン基であって、三環式部分を形成しているか;または
がインドール部分に結合した所望により置換された−CH=基であって、芳香族の三環式部分を形成している]。
【0010】
好ましくは、Rは水素原子またはアルキル基、特にメチル基である。より好ましくは、Rは水素原子である。
は水素原子またはアシル基であるのが適当である。アシル基はベンゾイル基であってもよいが、好ましくはアルキルカルボニル基である。特に好ましいアシル基はアセチル基である。好ましくは、Rは水素原子である。
Yおよび/またはR73が所望による置換基である場合、これら置換基は、ハロゲン、特にフッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子、ならびに、アルキル、アシル、−OH、−O−アルキル、−O−アシル、−NH、−NH−アルキル、−N(アルキル)、−NH−アシル、−NO、−SH、−S−アルキルおよび−S−アシル(ここで、これら置換基のアルキルおよびアシル基は所望により置換されている)から独立して選択することができる。
Yおよび/またはR73で示される所望による置換基は、アルキル基であるのが好ましい。
【0011】
好ましくは、R73は水素原子である。
好ましくは、nは0、1または2である。より好ましくは、nは0である。
はアルキル基であるのが適当である。好ましくは、RはC3−6、特にC3−4の分岐アルキル基、例えばt-ブチルまたはイソプロピルである。
74は水素原子またはメチル基、特に水素原子であるのが適当である。
はアルキル基であるのが適当であり、好ましくはメチル基である。
好ましくは、Rは水素原子または所望により置換されたアルキル基、または三環式部分を形成するようにインドール部分と結合しているメチレン基である。より好ましくは、Rはアルキル基である。
好ましくは、R71は独立して水素原子または所望により置換されたアルキルもしくはアシル基である。より好ましくは、R71はアルキル基、特にメチル基である。
好ましくは、RおよびR71は、上記(i)に記載した通りである。
【0012】
75は、以下の一般式で示される基であってよい:
【化2】

[式中、Qは、所望により置換された−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCHCH−、−CHC.C.−またはフェニレン基であり;
Xは、−OR、−SRまたは−NR10基である(ここで、R、RおよびR10は独立して水素原子または所望により置換されたアルキル基である)]。
【0013】
Qが上記の所望により置換された非環式基のいずれかであるときには、この基は1またはそれ以上のアルキル基で置換されていてもよい。フェニレン基は、1またはそれ以上の上記の置換基Yで置換されていてもよい。
Xが−OR基であるときには、適当なRは水素原子またはメチル基である。好ましくは、Rは水素原子である。
Xが−NR10基であるときには、適当なRは水素原子またはアルキル基(例えば、メチル基)であり、R10は置換されたアルキル基である。
10が置換されたアルキル基であるときには、該基は、一般式:−CHR21COOH(式中、R21は所望により置換されたアルキル基である)で示される基であるのが好ましい。好ましくは、R21は少なくとも1個の窒素原子を含有する基である。好ましくは、R21は、一般式:−(CH)NR2223(式中、xは好ましくは1〜4の範囲内の整数であり、R22およびR23は独立して水素原子または所望により置換されたアルキル、アルケニルもしくはイミン基である)で示される基である。好ましくは、R22は水素原子であり、R23はイミン基:−C(NH)NHである。
好ましくは、Xは、−OR基である(ここで、Rは水素原子である)。
【0014】
好ましくは、R75は、以下の一般式で示される基である:
【化3】

[式中、RおよびRは、独立して水素原子または所望により置換されたアルキル基であり;
76およびR77は、それぞれ水素原子またはラジカル(従って、これらが結合している炭素原子間で二重結合が形成される)であり;
Xは上記の通りである]。
【0015】
一般式Iで示される化合物が、有糸分裂抑制および異常な有糸分裂紡錘体の生成を引き起こしうることを発見した。従って、本発明は、第2の態様において、抗有糸分裂化合物としての一般式Iの化合物の使用を包含する。
この化合物を、例えば、有糸分裂細胞における微小管機能のプローブおよび核型分析のための有糸分裂展開物の調製などの、有糸分裂において細胞のブロックを必要とする方法における抗有糸分裂化合物として、インビボまたはインビトロで使用することができる。
【0016】
第3の態様において、本発明は、本明細書中に記載した一般式Iで示される新規化合物を提供するものであるが、一般式IにおいてRがメチルであり、Rが水素であり、R70がメチルであり、R71がメチルであり、R73が水素であり、nが0であり、Rがt-ブチルであり、R74が水素であり、Rがメチルであり、Rがメチルであり、R72が水素であり、そして、R75が−CH(CH(CH))CH.CCH.COOHである1つの化合物は除外する。この除外した化合物はヘミアスターリンである。
【0017】
好ましくは、Rがメチル基である化合物を除外した本明細書中に記載の一般式Iの化合物が提供される。
好ましくは、Rが水素原子である化合物を除外した本明細書中に記載の一般式Iの化合物が提供される。
【0018】
好ましい新規化合物の1つの群には、一般式Iで示されるヘミアスターリン(hemiasterlin)であって、
が水素原子であり;
が水素原子、アルキル基またはアシル基であり;
が水素原子または所望により置換されたアルキル基であり;
nが0であり;
70およびR71が独立して水素原子または所望により置換されたアルキル基であり、好ましくはそれぞれがメチル基であり;
72、R73およびR74が水素原子であり;
が水素原子またはアルキル基であり;
が水素原子または所望により置換されたアルキル基であるか、またはインドール部分に結合したメチレン基であって三環式部分を形成しており;
75が上記一般式III[式中、Rは水素原子または所望により置換されたアルキル基であり;Rは水素原子またはアルキル基であり;R76およびR77は記載した通りのラジカルであり;Xは−OR基または−NR10基である(ここで、R、RおよびR10は独立して水素原子または所望により置換されたアルキル基である)]で示される基である;
ヘミアスターリンが含まれる。
【0019】
好ましい新規化合物の別の群には、一般式Iで示されるヘミアスターリンであって、
が水素原子またはアルキル基であり;
がアシル基であり;
が水素原子または所望により置換されたアルキル基であり;
nが0であり;
70およびR71が独立して水素原子または所望により置換されたアルキル基であり、好ましくはそれぞれがメチル基であり;
72、R73およびR74が水素原子であり;
が水素原子またはアルキル基であり;
が水素原子または所望により置換されたアルキル基であるか、またはインドール部分に結合したメチレン基であって三環式部分を形成しており;
75が上記一般式III[式中、Rは水素原子または所望により置換されたアルキル基であり;Rは水素原子またはアルキル基であり;R76およびR77は記載した通りのラジカルであり;Xは−OR基または−NR10基である(ここで、R、RおよびR10は独立して水素原子または所望により置換されたアルキル基である)]で示される基である;
ヘミアスターリンが含まれる。
【0020】
好ましい新規化合物の別の群には、一般式Iで示されるクリアミド(criamide)であって、
が水素原子またはアルキル基であり;
が水素原子、アルキル基またはアシル基であり;
が水素原子または所望により置換されたアルキル基であり;
nが0であり;
70およびR71が独立して水素原子または所望により置換されたアルキル基であり、好ましくはそれぞれがメチル基であり;
72、R73およびR74が水素原子であり;
が水素原子または所望により置換されたアルキル基であるか、またはインドール部分に結合したメチレン基であって三環式部分を形成しており;
75が上記一般式III[式中、Rは水素原子または所望により置換されたアルキル基であり;Rは水素原子またはアルキル基であり;R76およびR77は記載した通りのラジカルであり;Xは−NR10基である(ここで、RおよびR10は独立して水素原子または所望により置換されたアルキル基である)]で示される基である;
クリアミドが含まれる。
【0021】
上記の式IおよびIIIにおいて、波線で示した結合は、光学中心であるかまたは光学中心になりうる炭素原子からのものである。
好ましくは、一般式Iで示される化合物においては、以下の光学立体配置が多い:
【化4】

【0022】
本発明のさらに別の態様によれば、以下の一般式で示されるゲオディアモリド(geodiamolide)化合物が提供される:
【化5】

[式中、R51はアルキル基であり;
52は水素原子またはアルキル基であり;
Aはハロゲン原子である]。
好ましくは、R51はメチル基である。
52は水素原子であるのが適当であるか、または好ましくはメチル基である。
Aは塩素、臭素、または好ましくはヨウ素原子であるのが適当である。
【0023】
上記の式IVにおいて、波線で示した結合は、水素原子であるR51およびR52基を保持する場合の炭素原子を除き、光学中心である炭素原子からのものである。好ましくは、以下の光学立体配置が多い。
【化6】

【0024】
上に定義した一般式IおよびIVで示される化合物の一部は、海綿シンバステラ(Cymbastela)種[以前はシューダキシニッサ(Pseudaxinyssa)種と分類されていた]から得ることができるか、または、これから得られる化合物の誘導体化によって得ることができる。一般式Iで示される化合物の誘導体化には、抽出した化合物の通常のアシル化(所望により、通常のエステル化による)が含まれるであろう。また、一般式IおよびIVで示される化合物を、全合成経路により調製することもできる。
本発明は、治療に使用する薬物の製造のための一般式IVで示される化合物の使用を包含する。
【0025】
一般式Iで示される化合物は、以下に示すアミノ酸部分A、BおよびC:
【化7】

をカップリングさせることによって製造することができる。
このカップリング反応は、通常の方法で行ってよい。アミノ酸部分A、BおよびCは、通常の方法により、または後記実施例に記載した方法と同様の方法によって調製することができる。
【0026】
一般式Iで示される化合物の一部を製造するための一般法の1つを以下に挙げる。
75が、
【化8】

である一般式Iで示される化合物は、一般式:
【化9】

で示される化合物を、一般式:
【化10】

で示される化合物と反応させることによって調製することができる。
【0027】
カップリング剤、例えばN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)をこの反応に用いるのが好都合である。この反応は、カップリング剤、塩基[トリエタノールアミン(TEA)など]および有機溶媒(アセトニトリルなど)の存在下に低温で、化合物VとVIを接触させることからなるのが好都合である。一定時間の後に、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を加え、次いで温度を周囲温度まで上昇させ、トリフルオロ酢酸(TFA)を加えてよい。次いで、一般式Iで示される所望の化合物を常法により単離することができる。
【0028】
一般式VIで示される化合物は、一般式:
【化11】

[式中、BOC(t-ブトキシカルボニル)は保護基である]
で示される化合物を、例えば、式:(Ph)=CRCOで示されるイリドと反応させることによって調製することができる。この反応は、ロイド(R.Lloyd)の博士論文(ケンブリッジ大学、1994年)に記載されているように、THF/水の1:1混合液中、炭酸カリウムの存在下に行うのが好都合である。保護基BOCは、TFA中、周囲温度で約2時間の反応によって、必要なときに除去するのが好都合である。
【0029】
一般式VIIで示される化合物は、一般式:
【化12】

で示される化合物を、テトラヒドロフラン中で還元剤(例えば、水素化アルミニウムリチウム)と反応させることによって調製することができる。
【0030】
一般式VIIIで示される化合物は、文献[Synthesis 1983, 676]に記載された方法を用いて、一般式:
【化13】

で示される化合物から調製することができる。
【0031】
一般式IXで示される化合物は、文献[Can.J.Chem. 1973, 51, 1915]に記載された方法を用いて、一般式:
【化14】

で示される化合物から、THF中、水素化アルカリ金属の存在下、一般式:RIで示される化合物との反応によって調製することができる。
【0032】
一般式Vで示される化合物は、一般式:
【化15】

で示される化合物を、初めに塩基(例えば、希水酸化ナトリウム溶液)と反応させ、次いで約pH6まで酸性化することによって調製することができる。ある種の状況下では、−NR基を反応から保護するのが望ましく、これを、BOCなどの保護剤を用いて行うのが好都合である。
【0033】
一般式XIで示される化合物は、一般式:
【化16】

で示される化合物を塩基と反応させ、次いでアジド化合物で処理することによって調製することができる。次いで、この化合物XIIのアジド誘導体を還元してアミン誘導体を得る。次いで、この化合物を塩基(例えば、水素化ナトリウム)の存在下にR61および/またはR21基で処理して、式XIで示される化合物中のRN−基を生成させる。
【0034】
一般式XIIで示される化合物は、一般式:
【化17】

および
【化18】

で示される化合物を、カップリング剤(DCCなど)および塩基(TEAなど)を用い、有機溶媒(アセトニトリルなど)中、好都合には約0℃でカップリングさせることによって調製することができる。
【0035】
一般式XIIIで示される化合物は、当業者には周知の方法により、一般式:
【化19】

で示される化合物から調製することができる。
一般式XIVおよびXVで示される化合物は、当業者には周知の方法によって調製することができる。
【0036】
75が、
【化20】

である一般式Iで示される化合物は、上記の一般式Iで示される化合物を、一般式:R10NHで示されるアミンと反応させることによって調製することができる。この反応は、カップリング剤(DCCなど)および塩基(TEAなど)の存在下に、有機溶媒(アセトニトリルなど)中、低温で行うのが好都合である。ある種の状況下では、−NR基を所望ではない反応から保護することが必要になることもあり、これを、BOCなどの保護剤を用いて行うのが好都合である。
【0037】
本発明の別の態様によれば、一般式Iで示される化合物を得る方法であって、シンバステラ(Cymbastela)種から一般式Iで示される化合物を抽出することによる方法が提供される。この方法は、分離および精製工程、ならびに該化合物を所望により誘導体化して、一般式Iの別化合物を得る工程を包含する。
一般式Iで示される化合物の誘導体化には、アシル化および/またはエステル化工程が含まれるであろう。エステル化および/またはアシル化工程は、通常の条件下で行ってよい。
【0038】
本発明のさらに別の態様によれば、一般式IVで示される化合物を得る方法であって、シンバステラ種から一般式IVで示される化合物を抽出することによる方法が提供される。この方法は、分離および精製工程、ならびに該化合物を所望により誘導体化して、一般式IVの別化合物を得る工程を包含する。
【0039】
一般式IおよびIVで示される化合物は生物学的に活性である。本発明は、一般式IまたはIVで示される化合物の生物学的使用にも関する。一般式IまたはIVで示される化合物は、殺虫活性、例えば殺昆虫活性を有しているであろう。しかし、この使用は、好ましくは獣医学分野であり、最も好ましくは医薬分野である。
本明細書中に記載した化合物は、特に抗細菌および/または抗ウイルス剤として、および/またはとりわけ細胞毒性剤としての用途を有しているであろう。
さらに本発明は、哺乳動物の癌または腫瘍の治療に使用する薬物の製造のための、一般式IまたはIVで示されるいずれかの化合物の使用を提供する。
【0040】
本明細書中に記載した一般式IまたはIVで示される化合物を使用する際には、この化合物を、薬学的または獣医学的に許容しうる担体および所望による1またはそれ以上の他の生物学的に活性な成分をも含有する医薬または獣医学組成物として患者に投与するのが好ましい。このような組成物は、医薬物質を投与するために使用する任意の形態、例えば、経口、局所、腟、非経口、直腸および吸入で使用するのに適する任意の形態であってよい。これら組成物は、独立した投与単位で供してよい。担体は粒子状であってよく、組成物は、例えば錠剤、粉末または液体であり、組成物は、例えば経口シロップまたは注射用液体であるか、または吸入使用のためにガス状である。
【0041】
経口投与のためには、賦形剤および/または結合剤が存在していてもよい。その例は、スクロース、カオリン、グリセリン、デンプンデキストリン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースおよびエチルセルロースである。着色剤および/または香味剤が存在していてもよい。被覆入れ物を用いることもできる。直腸投与のためには、例えばラノリンまたはココアバターなどの油性基剤を用いることができる。注射用製剤のためには、緩衝剤、安定剤および等張剤を含有させることもできる。
【0042】
一般式IおよびIVで示される化合物の投与量は、患者の体重および身体状態、病気の重篤度および期間、ならびに、活性成分の特定形態、投与方法および使用する組成物に依存するであろう。1日あたり約0.001〜約100mg/kg体重の投与量を、1日1回または数回(6回まで)で、または連続注入によって投与するのが、最も普通に要求される有効量である。好ましい範囲は、1日あたり約0.01〜約50mg/kg体重であり、最も好ましくは1日あたり約0.1〜約30mg/kg体重である。
【0043】
化学療法における一般式IまたはIVで示される化合物の使用には、腫瘍細胞への該化合物の供給を助ける物質(例えば、モノクローナルもしくはポリクローナル抗体、タンパク質またはリポソーム)に結合させた化合物が含まれうることを理解すべきである。
【0044】
従って、本発明はさらに、担体と組合せて有効量の式IまたはIVで示される化合物を含有する医薬および獣医学組成物に関する。
【0045】
以下において、図1および図2(抗有糸分裂活性に関するグラフである)を参照しながら、例示の目的で本発明をさらに詳しく説明する。
方法1:天然化合物の単離
シンバステラ種の試料を、ニューギニアのパプア島マンダン周辺の礁において、スキュバにより手で採取した。採取した新鮮な海綿をそこで凍結し、ドライアイスを詰めてカナダのバンクーバーに輸送した。先導的な海綿分類学の専門家であるバン・セスト(R.van Soest)教授がこの海綿を同定した。証拠試料を、アムステルダム大学のインスティテュト・ボア・システマトレク・エン・ポピュラティービオロジー-ズーロギッシュ・ミューゼウム(Institut voor Systematrek en Populatiebiologie-Zoologisch Museum)に寄託した。
【0046】
解凍した海綿(260g、乾燥重量)を、CHCl/MeOH(1:1)溶液で徹底的に抽出した。真空下でこの有機抽出物を蒸発させて水性懸濁液を得た。MeOHを加えて9:1のMeOH:HO溶液(1L)を得、これをヘキサン(4×250ml)で抽出した。このヘキサン抽出物を一緒にして真空下で濃縮してオレンジ色の油を得た。水をMeOH溶液に加えて1:1のMeOH/HO溶液を得、これをCHCl(4×250ml)で抽出した。一緒にしたCHCl層を真空下に濃縮してオレンジ色の油(3.5g)を得た。MeOHで溶離するセファデックス(Sephadex)LH-20によるサイズ排除クロマトグラフィーを繰返して、多数の粗製ゲオディアモリドおよびヘミアスターリンを得た。純粋なゲオディアモリドG(下記の化合物1;2mg、0.0007%乾燥重量)を、逆相HPLC(MeOH/HO 60:40)によって得た。逆相イソクラティックHPLC(0.05%TFA:MeOH 1:1)により、ヘミアスターリンA(下記の化合物2;32mg、0.012%乾燥重量)およびヘミアスターリンB(下記の化合物3;1mg、0.0004%乾燥重量)を得た。これらの化合物は新規である。また、TFAおよびMeOHを用いる逆相イソクラティックHPLCは、既知の化合物であるヘミアスターリン(下記の化合物A;40mg、0.015%乾燥重量)を与えた。この化合物を用いて、後記の新規なアシル化およびエステル化した化合物を調製した。
【0047】
ゲオディアモリドG(化合物1):
無色ガラス状物質;
IR(そのまま):3313、2977、2933、1732、1675、1635、1505、1455、1417、1377、1285、1217、1102、1083、1052、952、827、754cm-1
NMRデータ:以下の表1;
HREIMS:M m/z 655.1760 (C28H38N3O7I ΔM 0.6mmu)
ヘミアスターリンA(化合物2):
白色固体;
[α]D=−45°(c 0.25、MeOH);
UV(MeOH):λmax (ε) 218 (23,400)、280nm (2,800);
IR(そのまま):3418、2966、1689、1680、1643cm-1
NMRデータ:以下の表2;
HRFABMS:MH m/z 513.3471 (C29H45O4N4 ΔM 3.0mmu)
【0048】
ヘミアスターリンB(化合物3):
白色固体;
CD(MeOH):(θ)226 10,800;
NMRデータ:以下の表2;
HRFABMS:MH m/z 499.3319 (C28H43O4N4 ΔM 3.4mmu)
ヘミアスターリン(化合物A):
白色固体;
[α]D=−77°(c 0.07、MeOH);
UV(MeOH):λmax (ε) 216 (15,400)、273nm (1,600);
IR(そのまま):3412、2962、1650、1635cm-1
NMRデータ:以下の表2;
HRFABMS:MH m/z 527.3594 (C30H47O4N4 ΔM -0.35mmu)
【0049】
生成物の同定(立体化学配置の帰属を含む)は、既知の化合物に対して文献に報告されている分析結果を参照しながら、一連の方法(NMR、質量スペクトルおよび旋光度測定を含む)によって行った。化合物2および3の場合には、CDおよび化学分解分析を行って立体化学の決定の助けとした。
【0050】
【化21】

化合物1
【0051】
【化22】

化合物2 R = R = R = H 、 R83 = Me
化合物3 R = R = R = R84 = H
化合物A R = R83 = Me 、 R = R84 = H
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
別の例において、シンバシエラ(Cymbasyela)種の試料を、ニューギニアのパプア島マンダンの礁において、スキュバにより手で採取した。新鮮な海綿をそこで凍結し、ドライアイスを詰めてカナダのバンクーバーに輸送した。この凍結乾燥した海綿(157g、乾燥重量)を、ヘキサン、四塩化炭素、クロロホルムおよびメタノール(3×8L)で順次抽出した。これらの抽出物を真空下に濃縮して、各溶媒に対してそれぞれ6g、0.76g、1.24gおよび1.1gを得た。メタノールを用いてセファデックスLH-20により、クロロホルム抽出物のサイズ排除クロマトグラフィーを繰返して、粗製ヘミアスターリンおよびクリアミドの混合物を得た。逆相HPLC(50:50の0.05%TFA:MeOH)により、純粋なヘミアスターリン(60mg、0.038%乾燥重量)(上記の化合物A)、ヘミアスターリンA(55mg、0.035%乾燥重量)(上記の化合物2)、ヘミアスターリンB(3mg、0.0019%乾燥重量)(上記の化合物3)、クリアミドA(2mg、0.0013%乾燥重量)(下記の化合物6)、クリアミドB(2mg、0.0013%乾燥重量)(下記の化合物7)を得た。
【0055】
【化23】

化合物6 R = Me
化合物7 R = H
【0056】
化合物6および7の生成物同定(立体化学配置の帰属を含む)は、他の試料について上記した一連の方法によって行った。NMRデータを以下の表3に示す。
【表3】

【0057】
方法2:天然化合物の誘導体化
以下の化合物4および5を、それぞれ上記の化合物Aおよび2から調製した。
【化24】

化合物4 R = R83 = R84 = Me 、 R = COCH
化合物5 R = H 、 R = COCH 、 R83 = R84 = Me
【0058】
これら化合物は、初めに化合物Aおよび2をそのメチルエステルに変換し、次いでこのエステルをアシル化することによって調製した。
化合物Aおよび2のメチルエステルを調製するために、アルドリッチ(Aldrich)のMNNG-ジアゾメタンキットを用いて1−メチル−3−ニトロ−1−ニトロソグアニジン(MNNG)から常法によりジアゾメタンを調製した。得られた黄色のジアゾメタン溶液(3mlエーテル)を、クロロホルム(3ml)に溶解したペプチドAまたは2(1mg)に加えた。この反応混合物を周囲温度で1時間放置し、次いで真空下に溶媒を除去した。
【0059】
次いで、このエステル化したペプチドをアシル化するために、それぞれのエステル化ペプチド(約1mg)を、新たに蒸留(NaOHから)したピリジンおよび無水酢酸(各1.0ml)とともにアルゴン雰囲気下で一晩撹拌した。過剰の試薬を真空下に除去して、純粋なN-アセチルペプチドエステルである化合物4および5を得た。これら化合物は以下の特性を有する。
【0060】
ヘミアスターリン、N-アセチルメチルエステル(化合物4):
【数1】

【0061】
ヘミアスターリンA、N-アセチルメチルエステル(化合物5):
【数2】

【0062】
方法3:全合成法
全合成法によって本明細書中に記載の化合物を調製する方法は、一般的に言うと、アミノ酸をカップリングさせることからなる。即ち、以下の式:
【化25】

で示される化合物の調製は、単位A、BおよびCに対応するアミノ酸をカップリングさせることからなる。上に示した化合物の末端Cにカップリングして追加部分Dを含むクリアミド化合物は、所望の部分Dに対応するアミノ酸をペプチドA-B-Cにカップリングさせることによって調製することができる。
【0063】
アミノ酸AおよびCの調製を以下に説明する。アミノ酸Bは市販品から入手可能である。
1.アミノ酸C(N-メチルホモ ビニログ バリンエチルエステル)の調製
以下に説明する方法の要約を、後記の反応式1に示す。
(a)N-Boc、N-Me-L-バリン(1)の調製
N-Boc-L-バリン(5g、23mモル)およびヨウ化メチル(1.59ml、25.3mモル)をTHF(65ml)に溶解し、この溶液をアルゴン下に0℃まで冷却した。穏やかに撹拌しながら、水素化ナトリウム分散液(2.03g、50.6mモル)を慎重に加えた。この懸濁液を室温で16時間撹拌した。次いで、酢酸エチル(30ml)を加え(過剰の水素化ナトリウムから生成した水酸化ナトリウムを消費するため)、続いて水を滴下して過剰の水素化ナトリウムを破壊した。この溶液を蒸発乾固し、油状の残留物をエーテル(25ml)と水(50ml)の間に分配した。このエーテル層を5% NaHCO水溶液(25ml)で洗浄し、一緒にした水性抽出物をクエン酸水溶液でpH3に酸性化した。この生成物を酢酸エチル(3×25ml)中に抽出し、この抽出物を水(2×25ml)、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液(2×25ml;ヨウ素を除去するため)および水(2×25ml)で洗浄し、MgSOで乾燥し、蒸発させて黄色の油を得た。この方法を繰返して全体収量を改善した。最終の収量は3.53g(70.6%)であった。
【数3】

【0064】
(b)N-Boc、N-Me-L-バリン-N-Me、N-Ome[ヴァインレプ(Weinreb)アミド](2)の調製
N-Boc、N-Me-L-バリン(3.2g、13.9mモル)、N,O-ジメチルヒドロキシルアミン・HCl(1.5g、15mモル)、およびトリエチルアミン(2.1ml、30mモル)をCHCl(30ml)に溶解し、この溶液をアルゴン下に−10℃まで冷却した。ジシクロヘキシルカルビミド(3.1g、15mモル)をCHCl(15ml)に溶解し、10分間で反応混合物に滴下した。この溶液を−10℃でさらに15分間撹拌し、次いで室温で1時間撹拌し、この時点で反応液を濾過し、過剰の溶媒を真空下に除去した。この油をEtOAc(50ml)に溶解し、5% HCl(2×25ml)、水(2×25ml)、5% NaHCO(2×25ml)および水(2×25ml)で洗浄し、MgSOで乾燥し、蒸発させて黄色の油(3.4g、85%収率)を得た。
【数4】

N-Boc基の周りの回転異性体によってピークの二重化が引き起こされた。
【0065】
(c)N-Boc、N-Me-L-バリンアルデヒド(3)の調製
ヴァインレプアミド(226mg、0.78mモル)をTHF(8ml)に溶解し、−78℃まで冷却し、次いで、−78℃のTHF中のLiAlH(35mg、0.86mモル)の分散液に滴下した。この反応液を0.5時間撹拌した時点で、NaSO・10HO(251mg、0.78mモル)によって反応停止させ、室温まで暖めた。この溶液をセライトで濾過し、過剰の溶媒を真空下に除去して無色の油を得た。通常相のシリカゲルクロマトグラフィー(1:6の酢酸エチル:ヘキサンで溶離)により、透明な油として純粋なN-Boc、N-Me-L-バリンアルデヒド(116mg、68%)を得た。
【数5】

【0066】
(d)N-Boc-MHVV-OEt(4)の調製
N-Boc、N-Me-バリンアルデヒド(120mg、0.56mモル)をTHF:HOの1:1混合物(6ml)に溶解し、(カルブエトキシエチリデン)トリフェニルホスファン(222mg、6.2mモル)を加え、この反応液を室温で4時間撹拌した。通常相のシリカゲルクロマトグラフィー(1:6の酢酸エチル:ヘキサンで溶離)により、透明な油としてN-Boc-ホモ ビニログ バリンエチルエステル(212mg、71%)を得た。
【数6】

【0067】
(e)MHVV-OEt(5)の調製
N-Boc-MHVV-OEt(200mg、67mモル)を1:1のCHCl:トリフルオロ酢酸混合液(1ml)に溶解し、アルゴン下に0.5時間撹拌した。過剰の溶媒を真空下に除去し、油状の残留物をCHCl(25ml)に2回再溶解し、そして濃縮することによって、TFAの痕跡を除去した。最終生成物は白色無定形の固体であった(207mg、99%)。
【数7】

【0068】
2.アミノ酸A(N-Boc-テトラメチルトリプトファン誘導体)の調製
本明細書中に記載のアミノ酸Aおよびその誘導体を調製するための、以下に説明する方法の要約を、後記の反応式2に示す。
(a)メチルエステル(7)の調製
室温のエーテル(20ml)中のインドール-3-酢酸(6)(1.07g、6.11mモル)の撹拌懸濁液に、ジアゾメタンのエーテル溶液を滴下した。この滴下を、ジアゾメタンの黄色が反応混合物において残り、tlc分析が出発物質の完全消費を示すまで行った。過剰のジアゾメタンをアルゴン流のもとで除去し、残存する溶媒を真空下に除去した。このようにして得た粗製の油をフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の50%エーテル)により精製して、純白ではない白色の固体としてメチルエステル(7)(1.16g、100%)を得た。
【数8】

HRMS (EI) C11H11O2Nに対する計算値:189.07898 ; 実測値:189.07866
元素分析 C11H11O2Nに対する計算値:C 69.83; H 5.86; N 7.40;実測値:C 69.47; H 5.91; N 7.50
【0069】
(b)ジメチルエステル(8)の調製
アルゴン下の乾燥THF(100ml)中のカリウム ビス(トリメチルシリル)アミド(4.90g、24.6mモル)の撹拌および冷却(−78℃)懸濁液に、THF(30ml+20ml洗浄)中のメチルエステル(7)(1.57g、8.31mモル)の溶液をカニューレから加えた。この反応混合物を0℃まで暖め、2時間撹拌し、次いで−78℃まで再冷却した。新たに蒸留したヨウ化メチル(5.2ml、82.8mモル)を加え、この混合物を0℃まで暖め、3時間またはtlc分析が反応の完結を示すまで撹拌を続けた。この反応を水(100ml)により停止させ、次にエーテル(3×100ml)で抽出し、一緒にした有機抽出液を食塩水(100ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空下に濃縮した。得られた粗製の油を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の25%エーテル)で精製して、粘稠な淡黄色の油としてメチルエステル(8)(1.61g、89%)を得た。
【数9】

HRMS (EI) C13H15O2Nに対する計算値:217.11028 ; 実測値:217.11013
元素分析 C13H15O2Nに対する計算値:C 71.87; H 6.96; N 6.45;実測値:C 71.52; H 6.80; N 6.26
【0070】
(c)トリメチルエステル(9)の調製
アルゴン下の乾燥THF(60ml)中のカリウム ビス(トリメチルシリル)アミド(2.90g、14.5mモル)の撹拌および冷却(−78℃)懸濁液に、THF(30ml+20ml洗浄)中のメチルエステル(8)(1.25g、5.76mモル)の溶液をカニューレから加えた。この反応混合物を0℃まで暖め、2時間撹拌し、次いで−78℃まで再冷却した。新たに蒸留したヨウ化メチル(3.5ml、57.6mモル)を加え、この混合物を0℃まで暖め、3時間またはtlc分析が反応の完結を示すまで撹拌を続けた。この反応を水(60ml)により停止させ、次にエーテル(3×75ml)で抽出し、一緒にした有機抽出液を食塩水(75ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空下に濃縮した。得られた粗製の油を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の20%エーテル)で精製して、純白ではない白色の固体としてメチルエステル(9)(1.22g、92%)を得た。
【数10】

HRMS (EI) C14H17O2Nに対する計算値:231.12593 ; 実測値:231.12572
元素分析 C14H17O2Nに対する計算値:C 72.70; H 7.41; N 6.06;実測値:C 72.83; H 7.44; N 6.04
【0071】
(d)アルコール(10)の調製
アルゴン雰囲気下の乾燥エーテル(70ml)中のメチルエステル(9)(1.38g、5.97mモル)の撹拌および冷却(−78℃)溶液に、DIBAL(14.9ml、ヘキサン中1.0M、14.9mモル)を加えた。得られた溶液を0℃まで暖め、3時間撹拌を続けた。この反応を水(30ml)の添加によって停止させ、室温まで暖め、この時点でロシェレス(Rochelles)塩(30ml)を加えた。有機層を分離し、水層をエーテル(2×50ml)で抽出した。一緒にした有機抽出液を食塩水(50ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空下に濃縮した。この粗製の混合物を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の50%エーテル)で精製して、白色の固体としてアルコール(10)(1.14g、94%)を得た。
【数11】

HRMS (EI) C13H17ONに対する計算値:203.13101 ; 実測値:203.13052
元素分析 C13H17ONに対する計算値:C 76.81; H 8.43; N 6.89;実測値:C 76.89; H 8.43; N 6.70
【0072】
(e)アルデヒド(11)の調製
室温でアルゴン雰囲気下の乾燥ジクロロメタン(12ml)中のアルコール(10)(362mg、1.78mモル)、4-メチルモルホリン N-オキシド(375mg、3.21mモル)および4A粉末モレキュラーシーブ(400mg)の混合物に、固体TPAP(35mg、0.0996mモル)を一度に加えた。得られた黒色の混合物を同温度で3時間撹拌し、次いでセライトで濾過してモレキュラーシーブを除去し、濾液を真空下に濃縮した。黒色の油をフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の20%エーテル)で精製して、純白ではない白色の固体としてアルデヒド(11)(314mg、88%)を得た。
【数12】

HRMS (EI) C13H15ONに対する計算値:201.11537 ; 実測値:201.11473
元素分析 C13H15ONに対する計算値:C 77.58; H 7.51; N 6.96;実測値:C 77.42; H 7.58; N 6.83
【0073】
(f)エノールエーテル(12)の調製
室温(水浴)でアルゴン雰囲気下の乾燥THF(40ml)中のメトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロリド(3.03g、8.84mモル)の撹拌懸濁液に、固体のカリウムt-ブトキシド(991mg、8.82mモル)を一度に加えた。この反応混合物は直ちに濃い赤色に変化した。水浴を取り去り、室温で1.5時間撹拌を続けた。アルデヒド(11)(828mg、4.12mモル)をTHF(10ml+5ml洗浄)中でカニューレにより添加し、さらに2時間撹拌を続けた。この反応混合物を水(30ml)で希釈し、エーテル(3×40ml)で抽出した。一緒にした有機抽出液を食塩水(60ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空下に濃縮した。この粗製の油を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の5%エーテル)で精製して、シスおよびトランス異性体の40:60混合物(分離していない)として所望のエノールエーテル(12)(873mg、92%)を得た。この混合物の純度を200MHzのNMRでチェックし、さらに特性を調べることなくこの混合物を次の工程に使用した。
【数13】

【0074】
(g)アルデヒド(13)の調製
室温でジオキサン(40ml)および水(10ml)中のエノールエーテル(12)(854mg、3.73mモル)の撹拌懸濁液に、p-トルエンスルホン酸・一水和物(100mg、0.526mモル)を加え、得られた混合物を60℃に16時間加熱した。次いで、この反応混合物を水(40ml)で希釈し、エーテル(3×50ml)で抽出した。一緒にした有機抽出液を食塩水(75ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空下に濃縮した。この粗製の油を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の20%エーテル)で精製して、純白ではない白色の固体として所望のアルデヒド(13)(696.2mg、86%)を得た。
【数14】

HRMS (EI) C14H17ONに対する計算値:215.13101 ; 実測値:215.13103
元素分析 C14H17ONに対する計算値:C 78.10; H 7.96; N 6.51;実測値:C 78.22; H 7.98; N 6.41
【0075】
(h)酸(14)の調製
室温でt-ブチルアルコール(6ml)中のアルデヒド(13)(234mg、1.09mモル)の溶液に2-メチル-2-ブテン(8.0ml、THF中2.0M、16.3mモル)を加えた。得られた溶液に、亜塩素酸ナトリウム(148mg、1.63mモル)およびリン酸水素ナトリウム(600mg、4.36mモル)の水(6ml)溶液を加えた。得られた溶液を室温で20分間撹拌し、次いで水(10ml)で希釈し、希塩酸によりpH1〜2に酸性化し、酢酸エチル(3×25ml)で抽出した。一緒にした有機抽出物を真空下に濃縮し、痕跡量の水をトルエンとの共沸蒸留によって除去した。得られた粗製の混合物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の50%エーテル+1%酢酸)で精製して、純白ではない白色の固体として酸(14)を得た。
【数15】

HRMS (EI) C14H17O2Nに対する計算値:231.12593 ; 実測値:231.12586
【0076】
(i)側鎖化合物(15)の調製
アルゴン下のTHF(20ml)中の酸(14)(269mg、1.16mモル)の撹拌および冷却(−78℃)溶液に、トリエチルアミン(243μl、1.75mモル)、続いてトリメチルアセチルクロリド(158μl、1.28mモル)を加え、得られた混合物を0℃まで暖め、1時間撹拌し、次いで−78℃まで再冷却した。第2のフラスコにおいて、ブチルリチウム(1.27ml、ヘキサン中1.53M、1.93mモル)を、アルゴン雰囲気下のTHF(8ml)中の(4S)-(−)-4-イソプロピル-2-オキサゾリジノン(250mg、1.94mモル)の撹拌および冷却(−78℃)溶液に滴下し、得られたリチオ化オキサゾリジノンをカニューレにより反応フラスコに加えた。1時間撹拌を続け、次いで水(20ml)を加え、反応混合物を室温まで暖め、この後にエーテル(3×30ml)で抽出した。一緒にした有機抽出物を食塩水(30ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空下に濃縮した。この粗製の黄色油をフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の40%エーテル)で精製して、純白ではない白色の固体として所望の化合物(15)(313mg、78%)を得た。
【数16】

【0077】
(j)アジド(16)の調製
アルゴン雰囲気下のTHF(3ml)中のオキサゾリジノン(15)(82.7mg、0.242mモル)の撹拌および冷却(−78℃)溶液に、カリウム ビス(トリメチルシリル)アミド(0.73ml、THF中0.4M、0.29mモル)を加え、得られた溶液を−78℃で1時間撹拌した。予め−78℃まで冷却したTHF(2ml)中のトリイソプロピルスルホニルアジド(97mg、0.315mモル)の溶液をカニューレから加え、1分後に氷酢酸(100ml)を加えることによって反応を停止させ、40℃(水浴)まで暖め、さらに1時間撹拌した。次いで、この反応混合物をジクロロメタン(10ml)と希食塩水(10ml)の間に分配し、層を分離した。水相をジクロロメタン(2×10ml)で抽出し、一緒にした有機抽出物を炭酸水素ナトリウム(10ml、飽和水溶液)、食塩水(10ml)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空下に濃縮した。得られた粗製の油をフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の30%エーテル)で精製して、所望の化合物(16)とトリイソプロピルスルホニルアミンの混合物(合計56.7mg、分離不能、所望の化合物45mgと概算、約50%)を得た。
【数17】

【0078】
(k)Boc-側鎖化合物(17)の調製
酢酸エチル(4ml)中のアジド(16)(58mg、半粗製、<0.152mモル)、10%パラジウム/炭素(30mg)およびジ-t-ブチルジカーボネート(66mg、0.304mモル)の混合物にアルゴン、次いで水素を通気し、水素バルーン下に室温で16時間撹拌した。パラジウムをセライト濾過によって除去し、溶媒を真空下に除去し、この粗製の混合物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の50%エーテル)で精製して、所望の化合物(17)(21.8mg、<50%)を得た。
【数18】

【0079】
(l)(17)のメチルエステルの調製
0℃でTHF(1ml)および水(0.3ml)中の(17)(13mg、0.0285mモル)の溶液に、固体の水酸化リチウム(8mg、過剰)を一度に加えた。得られた懸濁液を室温で16時間撹拌し、次いで1N塩酸で酸性化し、溶媒を真空下に除去した。得られた粗製の白色固体をエーテルに懸濁させ、ジアゾメタンのエーテル溶液を添加した。この添加を、ジアゾメタンの黄色が反応混合物において残り、tlc分析が出発物質の完全消費を示すまで行った。過剰のジアゾメタンをアルゴン流のもとで除去し、残存する溶媒を真空下に除去した。得られた粗製の油をフラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の40%エーテル)で精製して、所望の化合物である(17)のメチルエステル(7.7mg、75%)を得た。
【数19】

【0080】
(m)(17)のメチルエステルへの別経路
上記の2つの工程を逆転させても、同じ化合物を同等の収率で合成することができる。
【0081】
(n)メチル化したメチルエステルの調製
アルゴン雰囲気下の乾燥THF(0.5ml)中の水素化ナトリウム(過剰)およびヨウ化メチル(過剰)の懸濁液に、THF(1ml)中の(17)のメチルエステル(10.4mg、0.0289mモル)をカニューレから加え、得られた混合物を室温で16時間撹拌した。水を加え、この混合物をエーテルで抽出し、一緒にした有機抽出液を食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、真空下に濃縮した。この粗製の油を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の40%エーテル)で精製して、無色の油として所望のN-メチル化メチルエステル(3.1mg、約30%)を得た。
【数20】

【0082】
(o)(18)の調製
工程(l)の方法に従ったが、ジアゾメタンによるエステル化は削除した。
【0083】
(p)(19)の調製
N-Boc-アミン酸(18)(10mモル)およびヨウ化メチル(5ml、80mモル)をTHF(30ml)に溶解し、この溶液をアルゴン下に0℃まで冷却した。水素化ナトリウム分散液(1.32g、30mモル)を穏やかに撹拌しながら慎重に添加した。この懸濁液を室温で16時間撹拌した。次いで、酢酸エチル(50ml)を加え(過剰の水素化ナトリウムから生成した水酸化ナトリウムを消費するため)、続いて水を滴下して過剰の水素化ナトリウムを破壊した。この溶液を蒸発乾固し、油状の残留物をエーテル(30ml)と水(100ml)の間に分配した。このエーテル層を5% NaHCO水溶液(50ml)で洗浄し、一緒にした水性抽出物をクエン酸水溶液でpH3に酸性化した。この生成物を酢酸エチル(3×25ml)中に抽出し、この抽出物を水(2×25ml)、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液(2×25ml;ヨウ素を除去するため)および水(2×25ml)で洗浄し、MgSOで乾燥し、蒸発させて淡黄色油の(19)を得た。
【0084】
3.アミノ酸のカップリング
N-Bocアミノ酸(19)(1mモル)、部分Bのアミノ酸メチルエステル(1.1mモル)およびカップリング剤py-BOP(1.1mモル)をアルゴン下にCHCl(10ml)に溶解した。TIEA(3mモル)を加え、この反応液を室温で1時間撹拌した。過剰の溶媒を真空下に除去し、黄色の油状残留物を得た。この残留物をEtOAc(50ml)に再溶解した。このEtOAc溶液を10%クエン酸(2×25ml)、水(25ml)、5% NaHCO(2×25ml)、水(25ml)で洗浄し、次いで無水MgSOで乾燥し、通常相のシリカゲルクロマトグラフィーで処理して、白色の無定形固体として保護されたペプチドA-Bを得た。
Cのアミノ酸部分(5)へのペプチドA-Bのカップリングを同様の方法で行った。
【0085】
【化26】

【0086】
【化27】

【化28】

【0087】
化合物の試験
1.本明細書中に記載した化合物の細胞毒性を文献[J.Immunol.Methods, 65, 55-63, 1983]のように試験し、結果を以下の表4に示した。表中、P388はネズミ白血病P388に対するインビトロ試験を意味し、U373はヒトグリア芽腫/星細胞腫U373に対するインビトロ試験を意味し、HEYはヒト卵巣癌HEYに対するインビトロ試験を意味し、MCF7はヒト胸癌MCF7に対するインビトロ試験を意味する。
【0088】
2.NIH刊行物No.84-2635、「インビボ癌モデル」[Developmental Therapeutic Program, Division of Cancer Treatment, National Cancer Institute, Bethesda, Maryland]に記載されているインビボ試験において、ヘミアスターリンは細胞毒性であることがわかった。1×106個のP388白血病細胞を注射したマウスにおいて、ヘミアスターリンは、移植の24時間後に開始した0.45μgの5日間の毎日投与の後に223の%TCの結果を与えた。この実験中に数匹の長期生存動物が存在した。
【0089】
【表4】

【表5】

【0090】
3.本明細書中に記載した化合物について、ヒト乳癌MCF7細胞に対する抗有糸分裂活性を比較して試験した。
15%ウシ胎児血清および抗生物質を追加したRPMI中、湿度調節した10%CO下に37℃で、MCF7細胞を単層として増殖させた。全ての化合物をジメチルスルホキシドに溶解したが、ビンブラスチン(既知の薬物)については生理食塩水中の1mg/ml溶液とした。指数増殖しているMCF7細胞を異なる薬物濃度で20時間処理し、染色体展開物(スプレッド)を調製し、有糸分裂細胞の割合(%)を蛍光顕微鏡で測定した。これらの結果を図1および図2に示す。ヘミアスターリン、ヘミアスターリンAおよび修飾した化合物は、極めて強力な抗有糸分裂剤であり、それぞれ0.3nMおよび3nMのIC50値を有していた。ヘミアスターリンおよびヘミアスターリンAは、タキソール(Taxol)、ビンブラスチン(Vinblastine)およびノコダゾール(Nocodazole)(全て既知の薬物である)よりも強力であった。
【0091】
有糸分裂紡錘体の形態に対するヘミアスターリンおよびヘミアスターリンAの効果を、蛍光DNA染料ビスベンズイミドを用いる染色体分布およびβ-チューブリンに対するモノクローナル抗体を用いる間接免疫蛍光によって調べた。ヘミアスターリンAが2nMで存在すると、完全に正常な紡錘体は観察されなかった。一部の細胞は比較的小さな異常を示し、双極紡錘体は存在したが、星状体微小管は正常のものよりかなり長く、染色体は中期板に完全に拘束されなかった。大部分の細胞は複数の星状体を持ち、染色体が球状体中に分配された。タキソール、ビンブラスチンおよびノコダゾールの半-最大濃度が、ヘミアスターリンAと同じ種類の異常紡錘体を生じた。MCF7細胞において最大の有糸分裂抑制を引き起こす最低濃度である10nMのヘミアスターリンAは、有糸分裂細胞において微小管の解重合を引き起こした。また、これは高濃度のビンブラスチンおよびノコダゾールのときにもそのようであった。高濃度のタキソールは全く違った効果を持ち、有糸分裂細胞における極めて濃密な複数星状体および間期細胞における細胞質微小管の束化を引き起こした。
【0092】
これらの結果は、ヘミアスターリンが有糸分裂抑制を引き起こし、異常な有糸分裂紡錘体を生じることを示すものである。これらを、有糸分裂において細胞のブロックを必要とする方法において、例えば、核型分析のための有糸分裂展開物の調製において、他の抗有糸分裂薬物の代わりに用いることができる。また、これらを、有糸分裂細胞における微小管の機能を探るために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】ヘミアスターリンと既知の抗有糸分裂剤の抗有糸分裂活性を比較するグラフである。
【図2】化学修飾したヘミアスターリンの抗有糸分裂活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式IVで示されるゲオディアモリド化合物:
【化1】

[式中、R51はアルキル基であり;
52は水素原子またはアルキル基であり;
Aはハロゲン原子である]。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−31441(P2007−31441A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221150(P2006−221150)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【分割の表示】特願平8−531564の分割
【原出願日】平成8年4月22日(1996.4.22)
【出願人】(506277199)ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF BRITISH COLUMBIA
【Fターム(参考)】