説明

生物学的試料の殺菌方法

本発明は、所望の生きた生物学的実体を含む、生物学的試料の殺菌方法を提供する。本方法は、生物学的試料中の生体汚染物質の量および活性を減少させるために十分な強度および時間で、電離放射線またはUV放射線を、乾燥した(例えば、凍結乾燥した)生物学的試料に照射することを含み、強度および時間は、サンプル中の所望の生物学的実体の少なくとも一部が、生きたままであるように選択される。本発明の方法は、赤血球または血小板を含む生物学的試料からの、バクテリアまたはウイルスのような汚染物質の量および活性の減少に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の分野
本発明は、生物学的試料の殺菌に関する。さらに具体的には、本発明は、生物学的試料の殺菌方法および殺菌された生物学的試料に関する。
【0002】
引用文献のリスト
以下の参照文献が、本発明の背景を理解する目的のために適切であると考えられる。
【0003】
1.US 2004/067157 生体物質を殺菌するための方法、
2.WO 2004/009138 ミルクを殺菌するための方法、
3.PCT IL2005/000125 生体物質、およびそれらの保存のための方法および溶液、
4.US 5,709,992 赤血球を殺菌するための方法、
5.US 6,482,585 赤血球および血小板を含む血液製剤の貯蔵および管理、
6.ヒューストム(Hustom)等、細菌の成長を抑制するための、濃縮血小板の従来のγ線照射についての有効性の欠如 Am J Clin Pathol. 1998; 109(6):743-7、
7.スミス(Smith)等、HIV−1のガンマ線照射 J orthop Res. 2001; 19(5): 815-9。
【0004】
発明の背景
細胞、組織、または他の生体物質を貯蔵する際に、バクテリア、ウイルス、酵母菌、カビ、菌類等からの汚染の危険が常に存在し、時として汚染物質は、生体物質中に、これを最初に収集した際に存在している。汚染物質は、保存中に生体物質に損傷を与える可能性のある、および/または生成物を用いる(例えば、輸血する、注射する、または摂取する)際に受容者に悪影響をもたらす可能性のある作用物質である。既知の汚染物質の中には、赤血球(RBC)サンプル中に通常存在している白血球(WBC)がある。輸血液中のWBCの存在は、移植片対宿主病のために問題であり、この病気では、輸血されたWBC(主に、リンパ球)は、受容者の体を攻撃する。
【0005】
多くの殺菌方法が、この技術分野において知られており、加熱およびろ過等である。しかしながら、これらのプロセスは、生体物質に損傷を与える可能性があり(例えば、それが熱に敏感である場合)、または非効率であることがわかっている(例えば、生体物質を、ある種の汚染物質と共にろ過する場合に)。殺菌のための他の方法には、電離放射線、主にガンマ放射線がある。例えば、ガンマ放射線は、新鮮な血液単位中の、WBC、主に、移植片対宿主病(GVHD)の主要因であるリンパ球の不活性化のために用いられる。これは通常、プラスチックバッグ中の、RBC、血小板、顆粒球成分、および非凍結血漿を含む血液または血液成分の液体サンプルに、血液バッグの各部分に1.5メガラド以上のガンマ放射線が行き渡るように、2.5メガラドのガンマ放射線をバッグの中心部に照射することにより行われる(AABB技術マニュアル、第14版)。濃厚血小板中のバクテリア量を減少させるための試みが為されているが(ヒューストム(Hustom)等、1998)、7.5メガラドまでのレベルのガンマ放射線への曝露は、サンプルを殺菌する効果がないと結論づけている。同様に、ガンマ放射線(1.5〜2.5メガラド)は、凍結させた骨および腱の同種移植片中のHIVタイプ1について殺ウイルス線量にならないということが見出された(スミス(Smith)等、2001)。
【0006】
さらに、ガンマ放射線は、放射線に敏感な製品に損傷を与える可能性がある。特に、ガンマ放射線は、赤血球、血小板および顆粒球に対して有害であることが示されている(US 2004/067157)。
【0007】
他方で、紫外線(UV)放射線は、ガンマ放射線ほど損傷を与えないと考えられている。しかしながら、UV放射線は水により吸収されてしまうために、水含有サンプル(液体または氷)中に存在する汚染物質の除去には、実際には効果がない。従って、WO 2004/0091938 には、生体物質の残留溶媒量の低減は、水によるUVの吸収を軽減し、よって、UVを用いる生体サンプルの殺菌を可能にすることが教示されている。しかしながら、WO 2004/0091938 における生体物質の殺菌は、湿った生体物質か、または血液試料の非細胞部(すなわち、RBCまたは血小板を含まない)に制限されており、これは明らかに、「血液等の敏感な生物学的試料は、照射目的のための冷凍、続く患者への投与前の解凍を受けると、生存能力および活性が失われ得る」ためである(同文献)。
【0008】
用語解説
「生物学的試料」という語は、所望の生物学的実体を含む試料またはサンプル(天然由来の、加工された、または人工の)を示す。「所望の生物学的実体」とは、生きた無核の生物学的実体であり、真核生物の無核細胞(例えばRBC)、細胞の一部(例えば血小板)、リポソーム等の人工の若しくは半人工の材料を含む。このような生物学的試料の例は、血液、またはRBC若しくは血小板を含むその分画、血液のRBC豊富な分画、濃厚RBC、または血液の血小板豊富な分画、リポソームのサンプル等を含む。
【0009】
「生きた(viable)」生物学的試料とは、その中の所望の生物学的実体の少なくとも一部が、構造的に損なわれていないようにみえるもの、または好ましくは、生物学的実体が、少なくとも部分的に所望の生物学的活性を保っている、あるいは乾燥状態の場合は、再水和の際にその活性を取り戻すことができるものである。好ましくは、所望の生物学的実体の少なくとも10%が、望ましくは少なくとも30%が、または少なくとも50%もが、生きている。例えばRBCの場合には、生存細胞の好ましい割合は、時として、少なくとも75%であり得る。
【0010】
本発明において、「リポソーム」とは、中空の脂質小胞を意味する。これらは、リポソーム内に運ばれた物質を捕らえるために用いられるか、または重要な薬剤分子を、中空の水性の内部中に取り込む、あるいは凝集表面に静電気的に付着させるのではなく、内在する膜成分として脂質小胞中に取り込ませることができる。
【0011】
「生体汚染物質」とは、遺伝物質を含み、従って放射線に敏感である生物学的実体を意味すると解釈される。生体汚染物質は、収集する際に生物学的試料中に存在し得るし、またはその後に(例えば、その取り扱いまたは貯蔵中)生物学的試料を汚染することがあり、並びに生物学的試料若しくはその一部、受容者に損傷を与えることがあり、さもなければ、生物学的試料の使用を妨げ得る。このような生体汚染物質は、核酸配列、ウイルス、マイコプラスマ若しくはバクテリア等の原核生物、および菌類、酵母、カビ、単細胞、またはより大きな寄生微生物、またはWBC等の他の望ましくない細胞単位を含む、任意のタイプの生物学的実体であり得る。
【0012】
汚染物質の「活性」とは、生物学的試料、その受容者に損傷を与え得る、さもなければ生物学的試料の使用を妨げ得る(法律上の制約を含む)いずれもの活性を意味する。汚染物質は非常に放射線に敏感なものであるため、照射時に、数の上で減少するか、または例えば、増殖する可能性が低くなること(例えば、バクテリア、WBC、酵母菌)、または標的とする細胞に影響を及ぼす可能性が低くなること(例えばウイルス)若しくは細胞に形質移入する可能性が低くなること(例えば核酸配列)、または重大な免疫効果を示す可能性が低くなること(例えばWBC)により活性を低下させる。汚染物質の量または活性を、当該技術分野の任意の方法を用いて、直接的にまたは間接的に調べることができる。
【0013】
「電離放射線」という語は、これが通過する物質から電子を除去し、イオンを形成するに十分なエネルギを有する、任意の形態の放射線を意味する。これには、アルファ粒子およびベータ粒子、ガンマ放射線、並びにx線が含まれる。「UV放射線」という語は、100〜400nmの間の波長を有する放射線を意味する。これは3つの範囲、すなわち、UV−A(315〜400nm)、UV−B(280〜315nm)、およびUV−C(100〜280nm)を含む。
【0014】
「乾燥する」、「乾燥させた」または「乾燥」という語は、乾燥前の含水量と比較して、減少した含水量を有する(含水量を減少させる)ことを意味する。乾燥させた試料は、それが得られた元の試料より10%少ない、元の試料より好ましくは60%少ないよりも少ない、または75%少ないよりも少ない、並びに望ましくは元の製剤と比べて90%少ないよりも少ない水を有し得る。乾燥は、生物学的試料が、所望の生物学的実体の生存能力を保つ限りは、空気乾燥、熱乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、または霧状化等の、当該技術分野において知られている任意の方法を用いて行うことができる。方法の例は、リポソームの空気乾燥(ヒンチャ(Hincha)等、2003; Biochemica et Biophysica ACTA. 1612(2):172-177)、胎児腎細胞株およびヒト包皮繊維芽細胞の空気乾燥(ゴー(Gau)等、2000;Nature Biotechnology. 18:168-171)等を含む。バクテリアは、空気乾燥プロセスを経ても生き残り得(デズモンド(Desmond)等、J Appl Microbiol. 2002;93(6):1003-11)、他の汚染物質も生き残り得る。
【0015】
「凍結乾燥(lyophilization)」または「フリーズドライ(freeze-drying)」は、材料を凍結させ、および乾燥させるプロセスを意味する。つまり、本発明において、生物学的試料をフリーズドライするまたは凍結乾燥する場合はいつでも、これは、少なくとも2つの工程が実行されていることを意味し得、このうちの1つは、サンプルを凍結する工程であり、もう1つは乾燥する工程である。これらの工程のそれぞれは、任意の既知の方法を用いて行うことができ、好ましくは、所望の生物学的実体に最小限の損傷を与える既知の方法を用いて行うことができる。好ましいフリーズドライの方法は、PCT IL2005/000125 に開示されており、この内容は、参照によりすべて本明細書中に組み込まれている。
【0016】
本発明の要約
本発明は、所望の無核の生物学的実体、たとえばRBCまたは血小板を含む生物学的試料に、電離放射線またはUV放射線を用いて照射し、乾燥した(例えばフリーズドライした)状態にある場合には、望ましくない生体汚染物質を死滅させ、前記生物学的実体に対して損傷を比較的少なくできるようにするという、本発明者らの驚くべき発見に基づく。「少ない損傷」とは、照射後に、所望の生物学的実体の少なくとも10%が生きている、望ましくは、上記生物学的実体の少なくとも30%または少なくとも50%が生きているということを意味するものと解釈されるべきである。本発明は、PCT出願 PCT IL2005/000125 に記載されるように、フリーズドライし、再水和させた生物学的試料に特に適しており、この内容は参照によりすべて本明細書中に組み込まれているが、これに限定されるものではない。一実施形態によれば、本発明は、電離放射線またはUV放射線を用いる、所望の無核の生物学的実体を含む生物学的試料の照射および殺菌を可能にする。
【0017】
従って、本発明は、1つの態様によれば、所望の生きた生物学的実体を含む生物学的試料の殺菌方法であって、本方法は、乾燥した生物学的試料に、電離放射線またはUV放射線を、生物学的試料中の生体汚染物質の量または活性を減少させるのに十分な強度および時間で照射することを含み、この強度および時間は、サンプル中の所望の生物学的実体の少なくとも一部が、生きたままであるように選択される。
【0018】
本発明は、RBCおよび血小板等の血液から得られる所望の生物学的実体を含む生物学的試料に特に適する。
【0019】
本発明の詳細な説明
上記したように、本発明は、所望の生きた生物学的実体を含む生物学的試料の殺菌のための方法を提供し、生物学的試料中の生体汚染物質の量または活性の低下を可能にする。場合によっては、生物学的試料中の活性な汚染物質の量を、無くなるまで減少させる。照射前に、単一の生物学的試料が1種以上の汚染物質を含む場合には、本発明の方法は、上記汚染物質のうちの少なくとも1種の量または活性の低下を可能にし得るということが意図される。さらに時として、照射前に、生物学的試料が、活性な汚染物質を含まないこともあり、この場合には、本発明は、汚染物質が存在しないことを確実にするであろうし、従って、活性な汚染物質をチェックする必要を減らすか、なくす。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、所望の生きた生物学的実体を含む生物学的試料を乾燥する工程を含む。従って、生物学的試料に照射する工程は、当該生物学的試料を乾燥させた、または部分的に乾燥させた後は、いつでも行うことができる。それどころか、照射を、生物学的試料を乾燥させる2つの工程と同時に(または部分的に同時に)、または2つの工程の間で行うことができる。
【0021】
任意の種類の電離放射線またはUV放射線が、本発明に適しているであろうが、当業者は、照射のタイプ、強度および時間を、生物学的試料の生存能力をできるだけ保ちながら、汚染物質の量または活性をできるだけ減少させるように、最適に選択できるということを理解するであろう。
【0022】
本発明を理解し、どのように実際に行うことができるか理解するために、好ましい実施形態を、単に非限定的な例として記載する。
【0023】
実験
材料および方法
他に示さない限り、全ての材料は、シグマ社(セントルイス、ミズーリ州、米国)から購入した。
【0024】
例1 凍結乾燥したRBCの生存に対するUV露光の効果
赤血球(RBC)に対する照射およびフリーズドライの効果を、この実験において評価した。用いた凍結溶液は、PBS(Ca2+およびMg2+を含まない)中の30%(w/v)デキストランからなっていた。イスラエル血液サービスから入手した濃厚RBCを、1:1(v/v)の比で、凍結溶液と混合した。2.5mlのRBC溶液を、16mm直径のガラス試験管(Manara、イスラエル)中に入れた後、これを凍結した。凍結を、MTG凍結デバイス(IMT、イスラエル)を用いて、1000℃/分の冷却速度;(温度勾配)G=5.5℃/分、V=3mm/秒で行った。また、サンプルを56RPM(毎分の回転数)で回転させた。
【0025】
凍結後、サンプルを、凍結乾燥器(Labconco、米国)中に、3日間(コンデンサ −80℃)入れた。3日の凍結乾燥後、サンプルが元の含水量の10%以下を含有した際に、1つのサンプルをペトリ皿に入れ、1時間UV放射線に曝し、他方を、アルミニウムホイルを用いて光から保護した。1時間の照射後、サンプルを超純水を用いて、37℃で、その元の体積にまで再水和した。Pentra 60(ABX、フランス)を用いて、RBCを数え、ヘマトクリット値を調べた。
【0026】
表I 凍結乾燥したRBCに対するUV露光の効果
【表1】

【0027】
表Iにおいて見られるように、UVに曝したサンプルは、放射線に曝さなかったサンプルと比較して、わずかにより低い生存率を示した。本発明者等は、凍結溶液へのポリフェノールの添加が、凍結乾燥−解凍処理における細胞の生存率を向上させるということを見出しているため、以下の実験において、1種のそのようなポリフェノールを、生物学的サンプルに添加した。「ポリフェノール」という語は、緑茶中に天然には見出され得る、1種以上の天然のおよび/または合成のポリフェノールを示し、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、没食子酸エピカテキン(ECG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン(EC)等である。
【0028】
例2 凍結乾燥したRBCの生存に対するUV放射線の効果
この実験においては、濃厚RBCを、30%(w/v)のデキストラン40,000ダルトンと0.47mg/mlのEGCG(Cayman Chemical、米国)を含む凍結溶液と共に凍結させた。凍結溶液と濃厚RBCを、1:1(v/v)の比で混合した。2.5mlの細胞懸濁液を、16mm直径のガラス試験管(Manara、イスラエル)中に入れた。全部で4個の試験管を凍結させた。サンプルを、MTGデバイス(IMT、イスラエル)を用いて、1000℃/分の冷却速度;(温度勾配)G=5.5℃/mm、V=3mm/秒で凍結させた。また、サンプルを56RPMで回転させた。
【0029】
凍結後、サンプルを液体窒素中に置いた。種々の時間(1/2時間〜数週間)が過ぎた後に、サンプルを凍結乾燥器(Labconco、米国)、−80℃のコンデンサ温度)に72時間入れ、サンプルを、これがパウダー状の外観を有し、およびその初期の水分含有量の10%未満を有するように乾燥させた。サンプルを60mmのペトリ皿に移し、2つのサンプルをUVに1時間曝し、この1時間、他の2つのサンプルをアルミニウムホイルで覆って、光照射を防いだ。その後、全てのサンプルを、超純水を用いて37℃で、初期の体積にまで再水和し、PENTRA60カウンタ(ABX、フランス)を用いて比較した。結果を、EGCGを含む凍結溶液中の新鮮なRBCのパラメータと比較して示す。
【0030】
表II 凍結乾燥したRBCの生存に対するUV放射線の効果
【表2】

【0031】
表IIからわかるように、50%を超えるRBCが生存しているようであるが、凍結乾燥した細胞は、新鮮な細胞に比べると生存できず、およびより低いヘマトクリット値を有した。それにも関らず、これらのパラメータは、UV放射線のわずかな影響を受けるのみである。
【0032】
例3
RBC生存に対する部分乾燥の効果
新鮮なラットの全血(Sprague-Dawley ラットから抽出)を、1回洗浄した。血漿を除去し、濃厚RBCを、0.9%(w/v)NaCl溶液中の0.945mg/mlのEGCGと20%(w/v)のデキストラン40kDから成る凍結溶液と、1:3の比(v/v)で懸濁させ、最終的なヘマトクリット値は25%であった。3つのサンプル(各2.5ml)を、以下のパラメータを用いた:速度=3mm/秒、温度勾配は5.5℃/mmで、MTGデバイス(IMT、イスラエル)を用いて、16mm直径のガラス試験管(Manara、イスラエル)中でそれぞれ凍結させ、この試験管を60rpmで回転させた。凍結後、サンプルを凍結乾燥までLN中で貯蔵した。凍結乾燥を、同時係属の PCT出願第 IL2005/000124 号の主題である、−190℃のコンデンサ温度を有する特別な凍結乾燥デバイス(IMT、イスラエル)中で行い、サンプルを、−20℃の温度に保った。サンプルをデバイス中に48時間置いた。48時間後、サンプルを取り出し、37℃の水浴中で解凍した。サンプルを部分的に乾燥させたので、1.5mlの37℃のPBS(Ca2+およびMg2+を含まない)を加えて、細胞を再水和した。PBSを、水の代わりに加えた。水を加えることが、過剰のPBSと比較して、細胞へのより大きな損傷を引き起こすと予想されるためである。
【0033】
その後、サンプルをPentra60細胞カウンタ(ABX、フランス)を用いて、完全血球算定評価について評価し、上清の遊離ヘモグロビンレベルを、ドラブキン試薬(Dravkin's reagent)を用いて、シアンメトヘモグロビン法を用いて測定した。吸光度は、照度計(Turner Biosystems、米国)を用いて、540nmの波長において読み取った。上清の遊離ヘモグロビン(Hb)のパーセンテージは、以下の式(I)を用いて計算した。
【数1】

【0034】
表III 部分的に乾燥させたRBCサンプル
【表3】

【0035】
48時間の凍結乾燥は、約60%の水損失をもたらした。この水損失は、初期のサンプルの体積を取り戻すために、溶液に加える必要があったPBSの量により値を求めた。凍結乾燥したサンプルにおいて、遊離ヘモグロビンのパーセンテージ(22.26%の遊離Hb)に見られるように、いくらかの細胞の損傷が存在した。しかしながら、顕微鏡観察は、50%を超える、通常の形態を有する細胞を示した。さらに、この遊離ヘモグロビン率は、解凍プロセスの結果の可能性がある。解凍時でPBSの添加前に、解凍された細胞は、非常に高浸透圧の環境に晒されているためであり、PBS添加後は、高浸透圧のままではあるが、より少ない程度である。
【0036】
例4 大腸菌に対する凍結およびフリーズドライの効果
大腸菌を、LB培地:1リットルの蒸留水中の10grのバクトトリプトン(Difco、米国)、5grの酵母エキス(Difco、米国)、10grのNaClに入れた。10mlの全体積を、それぞれ5mlの2つのバッチに分けた。LB培地中の大腸菌の第1のバッチに、PBS(Ca2+およびMg2+を含まない)中の30%(w/v)デキストランおよび0.47mg/mlのEGCG(Cayman Chemical、米国)から成る5mlの凍結溶液を加えた。他のバッチは、手付かずにしておいた。それぞれ2.5mlの細胞懸濁液サンプル(各バッチから2つずつ)を、全部で4つの試験管を調製するように、16mm直径のガラス試験管(Manara、イスラエル)中に入れた。試験管を、MTGデバイス(IMT、イスラエル)を用いて、1000℃/分(5〜−50℃ 3mm/秒の速度、および56RPMで凍結させた。凍結が完了した後、試験管を液体窒素中に置いた。その後、4つの試験管を、凍結乾燥器(Labcono、米国)中に72時間入れた。凍結乾燥が完了した後、各試験管からの「粉状の」細胞を、ペトリ皿にこすり落とした。2つのペトリ皿(各バッチを代表するもの)を、1時間UV放射線に曝し(ペトリ皿を、UVランプ下に、開放したまま置いた)、他の2つのペトリ皿は、放射線に曝さずにおいた(光からの保護のために、アルミニウムホイルで覆った)。1時間後、37℃の2mlの再蒸留水を、それぞれの皿に加えた。各皿から、寒天を有する3つのペトリ皿を平板培養した。以下の寒天プレートプロトコルを用いた:10grのバクトトリプトン、5grの酵母エキス、10grのNaCl、10grの寒天(BD、USA)。水を1リットルの体積にまで加え、加圧滅菌器で処理し、65℃にまで冷却して、ペトリ皿に注いだ。全部で12個のペトリ皿を、37℃で24時間培養した。翌日、コロニーを数えた。表IVは、寒天ペトリ皿で成長した数を示す。
【0037】
表IV 異なる凍結溶液で凍結され、および凍結乾燥された後の大腸菌コロニーの数
【表4】

【0038】
表IVに見られるように、大腸菌コロニーは、未照射のバクテリアの皿中でのみ観察された。凍結乾燥した細胞を平板培養した寒天であって、照射されたものでは、コロニーは観察されなかった。さらに、デキストランとEGCGの添加は、凍結乾燥後のバクテリアのより高い生存率をもたらす。
【0039】
例5 RBC試料中の大腸菌に対する凍結およびフリーズドライの効果
調製
10mlの大腸菌/LB培地を、800gで10分間、遠心分離機にかけた。得られたペレットに、PBS(Ca2+およびMg2+を含まない)中の30%(w/v)のデキストラン40,000ダルトンと0.47mg/mlのEGCG(Cayman Chemical、米国)から成る10mlの凍結溶液を加えた。その後、この溶液を、濃厚RBCと体積比1:1で混合した。2mlのRBC&大腸菌を、ペトリ皿に入れた。全部で4つの同様の皿を調製した。2つのペトリ皿を、UVに1時間曝し、他の2つは曝さなかった。1時間後、各グループからの細胞を、3つの寒天プレートに平板培養し、これを37℃のオーブン中に24時間入れた。
【0040】
残るRBC−大腸菌混合物から、それぞれ2.5mlを含有する4つの試験管を調製した。試験管を、MTGデバイス(IMT、イスラエル)を用いて、1000℃/分(5〜−50℃、3mm/秒の速度、および56RPMで凍結した後、凍結乾燥器中に72時間入れた。凍結乾燥後、各グループから1つの試験管を、UV放射線に1時間曝した。1時間後、2mlのddHOを加え、各グループから3つの寒天プレートに接種し、24時間37℃のオーブン中に24時間入れた。結果を表IVに示す。
【0041】
表V RBCを含む、凍結乾燥した、または新鮮なサンプル中の大腸菌の生存に対するUV放射線の効果
【表5】

【0042】
表Vに見られるように、液体状態における照射は、大腸菌に対して測定される効果を全く有さず、全てのプレートにおいて200を超えるコロニーが観察された。しかしながら、乾燥(凍結乾燥)状態において照射した際は、24時間の培養後には、コロニーは観察されなかった。
【0043】
例6 新鮮な濃縮血小板中の大腸菌の生存に対するUV放射線の効果
新鮮な血小板の単位を、イスラエル血液バンクから入手した。血小板を、大腸菌ペレット(2000gで10分間遠心分離した、LB培地中の大腸菌)に加えた。血小板&大腸菌溶液を、PBS(カルシウムおよびマグネシウムを含まない)中の30%(w/v)のデキストラン(40,000ダルトン;Amersham Biosciences、米国)と1.87mg/mlのEGCG(Cayman、米国)から成る凍結溶液と、1:1(v/v)の比で混合した。それぞれ2.5mlの血小板懸濁液の2つのサンプルを、60mmのペトリ皿の中に入れた。1つの皿を1時間UV放射線に曝し、もう一方を、アルミニウムホイルで覆って、手付かずのままにしておいた。1時間後、各ペトリ皿からのサンプルを、アガロース中に接種し、37℃のインキュベータ中に24時間入れた。24時間後、コロニーを数えた。
【0044】
表VI 大腸菌コロニーの数に対するUV放射線の効果
【表6】

【0045】
新鮮な濃縮血小板中の大腸菌へのUV照射は、大腸菌の生存に対する効果を有さないことがわかり、放射線に曝したサンプルにおいて269のコロニーをもたらし、およびUV放射線に曝さなかったサンプルにおいて201をもたらした。
【0046】
例7 凍結乾燥した後に成長した大腸菌コロニーの数に対するUV放射線の効果
血小板−大腸菌溶液を、例6において記載した通りに調製した。この血小板−大腸菌溶液を2つのバッチに分け、各バッチを、以下の凍結溶液:(1)PBS(カルシウムおよびマグネシウムを含まない)中の30%(w/v)のデキストラン(40KDa)および1.87mg/mlのEGCG、または(2)PBS(カルシウムおよびマグネシウムを含まない)中の30%(w/v)のデキストラン(40KDa)と、1:1(v/v)の比で混合した。血小板懸濁液の2.5mlのアリコートを、16mm直径のガラス試験管(Manara、イスラエル)中に入れた。各バッチから2つの試験管を調製し、全部で4つの試験管を調製した。試験管を、MTGデバイス中で、5.5℃/mmの温度勾配および1000℃/分の冷却速度で凍結させた(最終温度は−50℃であり、速度は3mm/秒)。
【0047】
凍結後、全ての試験管を液体窒素中で保ち、その後3日間凍結乾燥して、調製物が、初期の含水量の10%未満を含む粉末にみえるようにした。得られた乾燥粉末を、60mmのペトリ皿にこすり落とし、上記のバッチのそれぞれから2つの皿を調製するようにした。各バッチからの1つの皿を、1時間UV放射線に曝した。他の2つの皿(各バッチから1つずつ)を、アルミニウムホイルで覆って、手付かずにした。各ペトリ皿の内容物を、2mlの超純水を用いて37℃で再水和し、各皿からのサンプルを、アガロース中に接種し、37℃で24時間培養した。24時間後、コロニーを数えた。
【0048】
表VII 凍結乾燥した後に成長した大腸菌コロニーの数に対するUV放射線の効果
【表7】

【0049】
表VIIに見られるように、UV放射線は、1/10未満にまでコロニーの数を減らした。
【0050】
乾燥状態におけるUV照射時についての血小板の生存を評価するため、凍結乾燥および再水和後に取り出した血小板のサンプル(上記したEGCGとデキストランから調製)を、UV照射後に取り出したものと比較した。血小板を、Pentra60(ABX、フランス)細胞カウンタを用いて数え、凍結乾燥を生き残った80.38%の血小板は、UV処理にも生き残るということが認められた。
【0051】
例8 西ナイルウイルス(WNV)に汚染された、凍結乾燥したRBCサンプルのガンマ放射線による殺菌
例8A ガンマ放射線を用いるRBCの殺菌
イスラエル血液サービスから入手した濃厚RBCを、再蒸留水中の20%(w/v)のデキストラン40kDと0.945mg/mlのEGCGと0.9%(w/v)のNaClから成る凍結溶液と、体積比1:1で混合した。2.5mlのサンプルを、以下のウイルス濃度でWNV(イスラエル獣医協会(Israeli Veterinary Institute)から入手)で汚染した:106.8WNV/ml血液(最大と呼ぶ)、105.8WNV/ml血液(−1と呼ぶ)、および104.8WNV/ml血液(−2と呼ぶ)。非汚染の血液を、感染についての対照として用いた。
【0052】
2.5mlのサンプルを、MTG凍結デバイス(IMT、イスラエル)を用いて、上記したものと同じ条件で凍結させた。凍結が完了した後、サンプルを、凍結乾燥器(コンデンサ温度−80℃)(Labconco、米国)に72時間入れるまでは、液体窒素中で貯蔵した。
【0053】
凍結乾燥した血液を、3つの強度(1、2.5、および5メガラド)のうちの1つのガンマ放射線に曝し、一方で、照射についての対照は、照射せずにおいた。照射後、全てのサンプルを、サンプルの元の体積にまで、37℃で再蒸留水を用いて再水和した。
【0054】
ウイルスの生存を、生まれたばかりのマウスの脳への、0.03mlの血液サンプルの注射により調べた。マウスを、感染後14日間まで観察し、この間WNV症状を示した後に死んだマウスの数を記録した。結果を、表VIIIにまとめる。
【0055】
表VIII WNVに汚染された凍結乾燥RBCの注射に起因するマウスの死亡数
【表8】

【0056】
上の表VIIIにおいて見られるように、ガンマ放射線による凍結乾燥RBCの照射は、全ての実験した放射線のレベルにおいて、WNVの活性を有意に減少させた。1メガラドの強度においてさえ、放射線は、−1および−2の低めの濃度にあるWNVの活性を、検出できるレベル以下にまで減少させた。この放射線のレベル(1メガラド)は、血液サンプルのWBC不活性化のために一般的に用いられるものをはるかに下回る。
【0057】
当業者は、種々の改変および変形を、上記した本発明の実施形態に、添付した特許請求の範囲およびその均等物において、およびこれらによって定義されるその範囲から逸脱することなく適用することができるということを、容易に理解するであろう。また、本明細書で用いた語法および専門用語は、記載の目的であり、限定するものとみなされるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の生きた生物学的実体を含む生物学的試料の殺菌方法であって、本方法は、乾燥した生物学的試料に、前記生物学的試料中の生体汚染物質の量および活性を減じさせるために十分な強度および時間で、電離放射線またはUV放射線を照射することを含み、前記強度および時間は、サンプル中の前記所望の生物学的実体の少なくとも一部が生きたままであるように選択される殺菌方法。
【請求項2】
前記生物学的試料が、血液またはその一部を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所望の生物学的実体が、赤血球(RBC)または血小板から選択される請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記生体汚染物質が、バクテリアおよびウイルスから選択される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記生体汚染物質の量または活性を、無くなるまで減少させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥した生きた生物学的試料が、凍結乾燥した生物学的試料である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記放射線が、UV放射線である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記UV放射線を、1時間以下の時間照射する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記電離放射線が、ガンマ放射線である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガンマ放射線が、2.5メガラド以下である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ガンマ放射線が、1メガラド以下である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記乾燥した生物学的試料が、元の試料より60%少ないよりも少ない水を含有する請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記乾燥した生物学的試料が、前記元の製剤より90%少ないよりも少ない水を含有する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法により得られる生きた生物学的試料。

【公表番号】特表2008−501359(P2008−501359A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526690(P2007−526690)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【国際出願番号】PCT/IL2005/000600
【国際公開番号】WO2005/120591
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506262807)アイ.エム.ティー.・インターフェース・マルティグラッド・テクノロジー・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】